1人の風俗嬢との出会いが俺の人生を変えた話。
フェイクありのノンフィクションです。若さ故の葛藤を自分なりに書き綴って見ました。
あれはまだ少し肌寒い7月始めの時のことだった。
その頃の俺は何をやっても上手く行かず、時には自暴自棄に陥り酒に浸る生活を送っていた。
「人生生きてるだけで丸儲け」
そんな言葉誰が言ったのだろう。
ネガティブ、無関心、嫌悪。
そんな言葉が似合っていた。
気がつくと俺は夜の街に染め上げられ、女性とお酒や会話を嗜む仕事をしていた。
落ちる所まで落ちてやろうじゃないか。
まだ若い20歳の俺はそう思った。
そんな事を考えてただひたすらと働いていた。
そして、気がつくと半年、1年と時は流れていった。
闇に引き込まれていた俺は、ただ漠然と金を稼ぎ、機械のように時間を浪費した。
更に稼いだ金は暇を潰す為にギャンブルに使った。古典的なダメ人間である。
時には酒に溺れ、女の身体を求め
我侭に人間らしく赤子の如く泣き叫び
自分自身の存在意義、価値を求め、ただひたすらと夜の街を歩き回った。
酔いもそこそこに回り始めた午前4時過ぎ。
立ってるのもやっとなほどの立ちくらみ、吐き気に襲われた俺は道に座り込みただ、泣いていた。
「どうしてこうなった?」
うわ言の様に
搾り出す様に
俺はその言葉を繰り返していた。
そんな時だった。
ふわっと優しい香水の香りが辺りに広がった。
そう脳が感じ取る前に
「大丈夫ですか?」
と、優しい甘い声が聞こえた。
それが彼女との一番冷たくて暖かい出会いだった。
そこからの記憶は曖昧だった。
目が覚めると俺は見知らぬベッドで寝ていた。
ピンクを主体とした、いかにも女の子らしいパステルカラーの部屋。
「おはようございます、頭ぶつけてましたけど大丈夫ですか?」
彼女は心配そうに俺の顔をのぞき込む。
吸い込まれそうな黒い目に長い黒髪。
引き裂いてやりたい程、美しいと思った。
昨日は何があったんだ。
そう俺は彼女に問いただす。
「昨日、潰れていたんですよ。家もわからないの一点張りだったので私の家に連れて来ちゃいました。」
「それでもなんで見知らぬ酔っぱらいを連れてきたんだよ。危ないじゃないか。」
俺はつくづく呆れていた。
見知らぬ人間、ましてや酔っぱらいだ。
まず自分が危ないと思わないのかこの女は。
すると彼女はふふっと笑って
「だって、そんな人に見えなかったんです。悲しそうに、泣いていた。」
「でも…」
俺が口を挟もうとすると彼女は更にまくし立てる様に口を開く。
「あ、自己紹介がまだでしたね。私、茉莉って言います。これも何かの縁だと思いますけどね私は。」
はぁ、とため息を吐き
俺も口を開く
「俺は○○。まぁ、よろしく。」
そんな心配される程の状態じゃないし、もう帰るよ。
迷惑かけたね、ごめん。
そう言い残し俺は踵を返し
部屋を後にしようとする。
「待って!今ご飯作ったんで食べていって下さい!自信作なので!」
彼女は明るい笑顔で俺の腕を掴む。
そんな顔で言われたら断れないじゃないか。
結局俺は、おかわりしてしまった。
食事中は、どこに住んでるか、など他愛もない話をしていた。
「仕事は何をやっているの?」
彼女のその一言に俺の箸が止まる。
夜の仕事をしています。
そんな事、言えるわけないだろう。
「うーん、なんだろうね。」
笑いながら俺は、はぐらかす。
なにそれー、と彼女は拗ねた顔をする。
会話が止まる。
何故か俺は焦っていた。
まずい、話を変えなければ。
そう思い俺も同じ質問を彼女に問いた。
彼女は表情1つ変えずに口を開いた。
「私は夜のお仕事なんです。結構偏見持たれるんですけどね。」
そうなんだ、としか言えなかった。
どうして彼女はそんな事をサラッと言えるんだ?
俺がおかしいのか?
わからない。
どうして俺はこんなに「夜」と言う言葉に嫌悪感を持っているんだ。
社会的地位?
世間体?
小さなプライド?
どれも違う。
結局、自分自身の劣等感だろう。
誰からも求められず孤独な、
そんな自分への劣等感。
あぁ、やっぱり
俺はつくづく屑な人間だ。
「帰ります。色々ありがとうございました。」
「あ!外雨降って…」
彼女の言葉も聞かず、
俺は鞄を掴みそのまま部屋を飛び出した。
外に飛び出すと雨が降り出していた。
あわよくば全て洗い流して欲しい。
俺の存在、そのものを。
雨は、続いていた。
どうかこのまま、続いてくれ。
昼間の歓楽街に佇み
傘もささずに俺はただ願っていた。
それから数ヶ月が経った。
相変わらず俺は仕事を続けていた。
そんな中、俺は普段通りに卒なく業務を終了し
夜の華やかな歓楽街を歩いていた。
どこか面白い所は無いかと歩いていた俺の元に、客引きの兄ちゃんが声をかけてきた。
風俗店の客引きのようだ。
興味もなかった。
金を払ってまでどうして女と身体を重ねなければならないのだ。
だが、割り切った関係と言うのは魅力を持てた。
後腐れも無く、ただ業務的なセックス。
腐れきった人生に丁度良い刺激になるだろう。
そう思った俺は、言われるがままに兄ちゃんについて行った。
質素な受付で金を払い
煙草を吸いながら待合室で待機していた。
業務的に、事さえ進めば
誰だって良いと思っていた。
そして、俺の番号が呼ばれた。
注意事項を淡々と読み上げられ
カーテンが開かれた。
ハッと
俺は目を見開いた。
鼻腔に優しく甘い香りが広がる。
そこにはロングヘアーに黒髪、
数ヶ月前と何も変わらない、彼女がいた。
彼女は俺を見たあと一瞬目を伏せたが、特に何も言わなかった。
そのまま、俺はプレイルームへと案内された。
お互いに口を開かずに
シャワーを浴び、ベットに倒れ込み。
ただひたすらと腰を振るだけの動物的かつ、極めて業務的なセックスをした。
行為が終わり、煙草を吸う。
意外と俺の心は平常を保っていた。
「結局、何も残らないね。」
彼女がボソッと言葉を漏らした。
「人ってそんなもんさ。」
俺はそう返した。
「誰かを幸せにするため生きていくんだ、私。」
あぁ、そういう事か。
どうりで、自信を持って
自分の役目を誇れるわけだ。
そんな考え方もあるのか。
「少なくとも、俺は幸せだと思ったよ。」
ふぅん。
そう彼女は震えた声で相槌を打つ。
もうこいつとは会う事は無いだろう。
ただ曖昧に、そう思った俺は最後にこんな言葉をぶつけた。
「俺も、夜の仕事なんだ。」
きっと永遠のコンプレックス。
だけどまたもや彼女は、一つも表情を変えなかった。
「知ってた。」
優しく、微笑みかけるように。
そう、笑った。
「結局、俺はこういう人間だった。」
「私も、そういう人間。」
「今から言う事、信じてくれるかい?」
「しょうがないから信じてあげる。」
「俺は君を殺したい。」
「私も、俺くんを殺したい。」
「茉莉を、愛してた。」
「貴方がそう言うなら、私もそうなんだろうね。」
「またいつか、どこかで会おう。」
「いつかまた、ね。」
それから、
俺は彼女とは会っていない。
ただ、この数ヶ月で一つだけわかった事があった。
俺も結局
誰かを幸せにする為に生きていくんだ
その言葉にすがりつき、生きていくしかないんだ。
あぁ、生きるって
こんなに瑞々しいんだ。
やっぱり君は憎い。
最後にこんなに難しい証明を俺に残したのだから。
俺に生きる意味を与えてくれた君に
教えてくれた君に
俺は心からお礼を言うよ。
「愛してるよ。殺したいほどに。」
相変わらず振り続ける雨空に
灰色の薄汚い歓楽街の空に
そう、叫んだ。
おしまい。
自殺やだめ人間をテーマにしたSSを投稿している者です。
なんだか悲しくて、切なくて。でも、とてもいいSSだと思います(^_^ゞ
これからも、頑張ってください!