提督「嫌な夢と役得」
妄想夢日記が妙に形を持ち始めたので勢いで書いた初SSです。
描写の拙さや展開、設定の無理矢理さや不自然さが目立ちますが、どうか最後までご覧頂ければ幸いです。
時は10月某日マルキューサンマル。
二月前まで猛威を振るった暑さはすっかりなりを潜め、過ごし易い陽気が続く秋の候。
今日も今日とて綺麗な晴れ空。
此処の所はそんな日が続いており、朝の目覚めも至極上々…のはずだったのだが。
事実として、ここ数日俺は爽やかな目覚めを享受していた。
しかして、今日に限ってはそうもいかなかった。
というのも、単に夢見が悪かった、それだけの話ではあるのだが。
現在地、執務室。
前任のじーさんが残していった俺と秘書艦の為の机と、作業道具がある以外は殆ど何も置かれていない、
質素極まりない部屋。カーテン等の装飾品も例に漏れず。酷くシンプルだ。
これにはまぁ前任がそういう人であっただとか、予算の問題であるだとか、単に面倒であったりだとか。
それなりの理由があるのだが、まぁそれはどうでもいいだろう。
朝の通過儀礼とも言える諸作業を終え、マルキューマルマルあたりからだろうか、
こうして書類と格闘を始めたわけなのだが。
どうも作業がはかどらない。
モヤモヤする。今日見たあの夢はなんだったのだろうか。
あぁ、こうして思考を巡らせる間にも訳がわからなくなってくる。
今まで見た夢の中でも、一、二を争うほど強烈な夢だったように思うが、どうもはっきり覚えてない。
印象深い夢ならばその内容は忘れないものだが…
そう、例えば昼食に好物である所の焼き鳥が出たあの日、
急な案件が発生した為に食べ損じてしまった事があった。
その夜、苦悶の表情を浮かべた化け物みたいなでかい鳥がハンドボール大のつくねをえげつない速度で吐き散らしながら
全速力で追い回してくる夢を見た。
得も言えぬ恐怖と共に刻み込まれたあの夢は未だ色あせることなく脳裏に焼きついており、
三月ほど過ぎた今ですら昨日のように思い出される
いや実際何のギャグだよと小一時間問い詰めたい。誰にだ。
「…あの、提督?」
しょうもない脳内回想から一人漫才に発展しかけたところで、
右手の事務机にて黙々と仕事ををこなしていた榛名から声がかかる。
戦艦、榛名。金剛型高速戦艦の3番艦にして、当基地の第一艦隊旗艦。早い話が秘書艦である。
数ヶ月前に姉である金剛と共に配属されて以降、その従順かつ勤勉な人柄と頭一つ抜けた能力で
あっと言う間に秘書艦の座に着いた天才優良児。児って言い方はおかしいな。
もっと砕けた言い方をすれば頭良くて性格良くて綺麗。
決して楽ではない面倒な仕事も喜んで引き受けてくれる。
労えば本気で嬉しそうにするし、色々とたまらん。
ちなみに金剛は戦闘能力は非常に高いものの事務処理がからっきしだった為
前線組である第二艦隊の旗艦を勤めている。彼女が未だに中破した姿を見たことが無い。
閑話休題。
さておき、怪訝そうとも心配そうとも取れるような表情をしていらっしゃる彼女を見て、
己の手が完全に止まってしまっている事に漸く気づいた。
提督「あぁ、すまん。ちょっと考え事しちまってた。悪いな、すぐ取り掛かる」
榛名「あ、いえ、それは大丈夫なんですが」
どうやら事実上仕事をさぼってしまっていたのを咎めようとしての事ではないようだ。
そうでなくて、と彼女は続けた。
榛名「何か、お悩みでしょうか?もしそうなら、遠慮なく相談して下さいね」
あぁ、やっぱ天使だこの子。注意どころか心配してくれたよ。
提督「お気使い痛み入るよ。良い部下を持てて俺は幸せです」
榛名「当然の事ですよ。榛名は提督の秘書官なんですから!」
それだけで一晩で法隆寺立てられちゃうくらいの素晴らしい笑顔で彼女はそう言ってくれた。
思わず目頭が熱くなった。
いやほんと、糾弾の一つでも飛んでくれば幾分か気も楽だったが、
こうも真面目に心配されてしまうとどうも申し訳ない。
その悩みの内容が至極どうでもいいことである事実がそれを助長する。
ほんと、なんでこんな良い娘に育っちゃったのかしら。
親の顔が見てみたいものだわ。
…きめぇ、自分で言っておいて自己嫌悪が凄まじい。
鎧袖一触の元に葬り去られたい気分だ。加賀さん、出番です。
榛名「…また、一人で考え込んでる」
人は同じ過ちを繰り返す生き物だと故人は言うが、全く持ってその通りだと思う。
現に今やらかした。
輝く太陽のような、もはや神々しいまであった先ほどまでの笑顔とは一転、
不機嫌、というよりは書いて字の如くふくれっ面な表情を浮かべた榛名が不満を漏らした。
しかしまぁそんな表情ですら絵になるのだからたまらない。
この前憲兵にしょっぴかれていった同僚が最後まで「かわいいは正義」だのなんだの叫び散らしていたが、
今ばかりは奴の言う事が理解できそうだ。
…あいつの所、確か駆逐艦ばかり在籍してたよな。一体何をしでかしたんだ。
…やめよう。数少ない同僚が幼性愛者かどうかなんて考えたくも無い。
無益な思考を巡らせてないでいい加減仕事しろ俺。
そう締めくくって思考を終了させ、視線を前に向けると。
榛名「…」
女神がどアップ。
…ごほん、あまりにも唐突な出来事に推敲を完全に放棄した感想が漏れてしまった。
ありのままの状況を書き表すと、
いつのまにか席を立ち俺の目の前まで移動していた榛名が
腰に手を当て身を乗り出すような姿勢でこちらを見ている。
その距離およそ5センチ未満。そのままその麗しい唇を奪う事すら可能な程の距離。
漂ってくる仄かな香りが煩悩が加速させる。
…此処まで接近されても気づかないなんて、やべぇな俺の索敵能力。
いや敵じゃないか。味方だ。寧ろ嫁だ。だから反応しなくても仕方ないな。うん。
榛名「提督」
何とも冷ややかな声で呼びかけられる。
榛名「先程榛名は何と申し上げましたか」
提督「遠慮なく相談しろと仰られたように記憶しております、はい」
榛名「わかってるじゃないですか」
その回答が聞くが否や、彼女は満足げな笑顔を浮かべた。表情だけだ。
まずい、数少ない彼女の難点、地獄榛名が発動した。
これが漫画の世界であれば、きっとゴゴゴゴゴゴゴなどと言った擬音が鳴り響いていることだろう。
彼女の背後に修羅が見える。言え、と言外に伝えてくる。
おかしいな、君の背中はそんな危険極まりないものではなくて艤装を背負うものだと記憶していたのだが。
提督「い、いやですね、ちょっと今朝見た夢が変でして。どうも頭から離れないんです、はい」
榛名「それで一人百面相しながら物思いに耽っていたんですか」
提督「いや、一人百面相って確かに顔に出やすいと昔からいわれていたけど「茶化さないでください」ごめんなさい!」
何この子怖い。終始笑顔なのがより一層それを際立てる。強者は大抵笑顔であるとはこのことか。
提督「いやてかまてよなんだこの構図。必死に遅刻の言い訳をにする新入社員みたいになってんじゃねぇか。
立場逆だよね?俺間違ってないよね?立場的に俺は上官でそれなりに偉くて君は バァン!!!! ヒィエッ!!?」
何この子机叩き出した怖い!!
提督「それ俺の机だからぁ!!思わず間抜けな悲鳴をあげちまったじゃんかよ!
いやまた俺が物思いに耽り始めたのを悟っての事だろうけどさ!?」
…タイミング的に上下関係について言及しかけた辺りだけどただの偶然だよね?
提督「取敢えずその握り締めた拳を解こう!?何か命の危険を
榛名「どんな夢を見られたんですか?」
提督「」
無論というべきか、その拳を緩める事は無いまま話の続きを強制される。
提督「いや、実際の所内容は殆ど覚えてないんだ、申し訳ない事に」
榛名「どんな夢かわからずに悩んでいる…という事ですか?」
提督「…それも何か違うんだよなぁ。はっきりしなくて悪いんだけどさ」
そこで区切り、一拍置く。言葉を捜して足りない語彙を漁りながら、ふと彼女を見やると、
先程までの様相はどこへやら、体勢を戻し、真剣な表情でこちらを見据えていた。
提督「…少なくとも、とても嫌な夢であった事だけは確かだ。それも、内容は覚えてない癖に、とんでもなく印象的で」
正体もわからない一抹の不安に、憂いを吐き出した。
提督「考えすぎだとは自分でも思うけど、解離性健忘なんてもんがあるくらいだしな。いや、見た瞬間忘れるとかどんだけ嫌な夢なんだよって話なんだけどな」
提督「それでも、やっぱ不安に思っちまうんだよなぁ。どんな夢かはわからなくても。」
いつかのどこか、凄惨な光景が一瞬、脳裏を過ぎった。
提督「その嫌がどんな嫌なのかが、わかっちまってるとさ」
提督「あれは、あの痛みは」
「大切な人を失う痛みだ」
榛名「…それは、貴方の過去が関係している…?」
提督「否定できる要素は無いな」
それが全てとは言わないが、と付け加え、一度話を区切る。
隠す理由も無い。いずれは知られる事だし、履歴書を読み上げるようなものだ。
提督「まだ、俺の過去について面と向かって話した事は無かったな。先程の様子から見てある程度人から聞いては居るみたいだが」
榛名「はい、先輩方から、おおまかには。前任の提督に拾われたと…」
提督「大方そんな感じだな。9年前、まだ俺が14のガキの頃だったか。大前提として、俺は軍学校すらでていない。端的に言うと俺は元傭兵だった。
少年兵って奴だな」
長いようで短い話を終えた。別段描写するような事でもないから割愛した。
何、ちょいと不幸で、随分と早い時期に世間の荒波どころか津波に揉まれた男の話をしただけだ。
提督「要はさ、ちっとばかしの余計な経験が不安を掻き立てるんだよな。
繋がる喜びも、喪う悲しみも、どん底の地獄も、空の上も。知るには早すぎる事を、知らなくても良い事を、知りすぎてる。」
そこまで話した所で、一呼吸を置いた。自分の過去を頭の中で整理しながら言葉にするのは、以外にも難しい。
提督「話は変わるけれど、榛名が着任した時、俺が言った事を覚えてるかな?」
榛名「はい、しっかりと。当基地が一体どういう場所であるのか、ですよね」
提督「それそれ。実際殆どじーさんの受け売りだったりするんだが…」
榛名「何を持って敗北とするか。そしてそれを踏まえての、我らが艦隊の勝率の意味」
榛名「所属艦娘が轟沈した時点で敗北とする。我が艦隊の勝率は8割である。5人中1人。100人中20人。2000人中400人。」
他が背を向けた相手にすら何度も打ち勝ち、世から無敵艦隊と持て囃される我々ですら、それだけの犠牲を払っている」
提督「当基地に配属された時点で君はかなりのやり手なのだろう。しかして慢心だけはして欲しくない。
これ以上、目の前で沈む者など見たくは無い。」
提督・榛名「「今日を持って我々は家族同然だ。何も遠慮する事は無い。共に戦おう。そして生き残ろう。」」
我ながらくっさい台詞を吐いたもんだと思う。それでも、後悔はない。
榛名「…ふふっ、あの時は思わず鳥肌が立ってしまいました」
提督「おいおい…嫌な表現をしてくれるな。それは良い意味でと解釈していいのか…?」
榛名「勿論です。思わず泣きそうになってしまったんですよ?」
提督「そりゃ一大事だな」
榛名「責任、取って貰いますからね」
提督「ばっちこい。指輪も書類もとっくに用意できてる」
榛名「提督」
提督「ん?」
名を呼ばれ彼女の顔を―拝む事は叶わなかった。
彼女に頭ごと抱きすくめられたから。
榛名「大丈夫です。皆の事だって私が護って見せます。大切な、家族ですから」
榛名「大丈夫です。貴方を置いていなくなったりしません。大切な人ですから」
榛名「私だって、離れたくありませんから」
提督「そうか…それは、なんとも、頼もしいな。とても、とても頼もしい」
榛名「はい、榛名は大丈夫です!」
傍から見れば何とも情けない構図なのだろう。
恥も外聞もあったものではない。
でも、それでも今だけはこうしていたかった。
この温もりに全てを委ねたかった。手放したくなかった。
少しの間だけで良い、もう少し、もう少しだk
金剛「HEY!提督ゥー!」バターン!!
榛名「!?」
提督「!!?!!?!!?!?!??」
金剛「戦果Resultがあがっ‥た…ヨ‥‥って……」
ナァニシテルデェエエェエエェェス!!!!!!!!!!!!
おしまい…?
後 半 に な る に つ れ 少 な く な る 情 景 描 写
まずはこのような未熟者の妄想日記に最後まで御付き合い頂き本当に有難うございます。
実は最初のプロットでは提督の過去が全て書かれていたのですが、
酷く冗長で非現実的な上に、そもそも需要なくね?と想いカット致しました。
反響次第で提督の過去だけのSS投稿するかも(露骨)
このSSへのコメント