2016-10-15 18:06:51 更新

ふつりと視界が歪む。世界が減速したみたいだ。私が歴史を刻んできたとき、私の歴史はそこで終わろうとしていた。それは瞬く間に過ぎなかったが、私にとって歴史をもう一周するようなものにも感じられた。これが走馬灯というものか。しかし残念である。と、思うともに呪縛から逃れたような心地もした。少し後の意識は既に沈んでいた。

それからどれくらい進んだのだろうか。時間の概念を失った私には到底理解し得ない。ただあるのはきらめく星々だけで、惜しくもその星すら明瞭には見えない。私はそこで初めて表裏を理解した。理解したつもりだった。

再び意識が吸い込まれていく。ふわふわした感じに体を包まれながら。

また起きるとそこは天国だった。そこで出会った生と死と魂とを司るものが言っていたのだから間違いないだろう。しかしながら私の知りうるものとは似つかない。そもそも私は何を知っていたのだろうか。子らの心情も読めぬくせに。自責しつつ、奥へ誘われた。体は違和感なく不自然に動いている。奥の、ガラス質の床に現世が写っていた。彼は私に、貴女が望めばそれが見える、と教えてくれた。何を望めばいいか分からなかったが、私は浮かんだことを望んでみた。浮かぶのは動物のような妖怪のようなもののことばかりだった。青、緑、白、赤などがふやけて見える。そして彼は私に、何か不都合がないかと聞いてきた。私は彼に視界のぼやねを伝えた。そうすると彼は私にしばらく目を瞑るよう促した。怪しがりつつも不思議と逆らう気にはならなかった。私は目を閉じた。彼からの合図が来るのを待った。欠片では済まないだろうと思ったが、それはただの主観であった。ゆっくりと目を開けた時には鮮明な世界が広がっていた。周りに視線を向けるがそれは醜いものでもないようだ。幸いな事に苦しみは受けなくても良いらしい。私はそちら側のようだ。彼は私が元に戻ったのを認めると、私に二択を迫ってきた。見ずにか?見てからか?たとえ見たとしても時が過ぎればお前のことなんてみんな覚えてなんかいないよ、さあ、どっちを選ぶのか?、と。わたしは後者を選ばなければいけない衝動に駆られた。それが私の本能かもしれない。私が答えを告げると、彼はまばゆい光を放ち、風のように消えてしまった。代わりに私は定められた道に沿うように現世を見ている。青、緑、白、赤。たしかに私が望んだものだ。だが話そうにも声は届かない。しかし彼女らの声は聞こえる。その中に私はあっただろうか?ぼぅっとした頭では聞き流すことしかできなかった。段々と鮮明になりゆくその声がだんだん近づいてくるように思える。体の感覚が戻る。とても痛い。これは痛いなと、思ったら、目が覚めるような心地がして私は現世へと戻った。そこには数人の生徒と、透明な涙を流す教師の姿が映っていた。そしてしばし、抱き合う姿も写っている。空には既に、綺麗な月が輝いていた。


後書き

ライトにね


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