Zeroに至らない物語 『Fate/plus I』
「マスターアルトリア」次元の同人誌を描くにあたって、「どうすれば4次で衛宮切嗣は家族と生存できるか」を考えていたら生まれたシナリオです。
誰が生き残り誰が死ぬかは書く前に確定しています。色々原作に沿ってないけど許してね。
セイバーはあの…アレとは別の時空からの召喚のため、例のあの人物に会っていない設定です。
これは、Zeroに至らない物語。
何かを殺し、取り戻す物語。
一面の銀世界にたたずむ古城、アインツベルン城。
一人の男が地面との境界の薄れた白銀の空を見上げ呟く。
「僕は、君を裏切る羽目になる。」
「その子を抱く資格なんて、ありはしない」
諦めではない。世界を救うための事実だ。
「そんなことは無いわ」と、優しく声をかけてくれる最愛の人。
その腕に抱かれすやすやと寝息を立てている、愛しい我が子。
―――この子を守るためならば、世界を滅ぼしてしまったって構わない。
そんな考えが過る。自分らしくもない。
多数を生かし、自身と個人を捨ててきた彼らしい考えではない。
でも、この子は…これから夥しい数の調整を経て、地獄に赴くのだろうと思うと。
故に、何かがささやく。
耳元で、ただ淡々と。
『あんたは、この少女に自分と同じ道を歩ませるのか?』
聴きなれたような、なれないような声がどこからか、
頭の中で反響する。
その声が嫌にこびりついて、だから言ってしまったのだ。
いつもの自分なら絶対に言わないことを、口走ってしまったのだ。
まだ迷いが残っているのに。自分にそれができると、確信もないのに。
口をついて、出てしまったのだ。
「君は僕がここで、すべてを裏切って逃げ出したら」
…自分の望みが。
「その子を連れて、ついてきて…くれるかい」
アインツベルン城内、大聖堂。
男―――衛宮切嗣は、妻・アイリスフィールと共に、英霊の召喚を試みていた。
「――――告げる。」
低く落ち着いた声が木霊する中、アイリは固唾をのんで夫の背中を見つめる。
不安はない。この人についていくと、私の考えはこの人を愛した時から変わらない。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
―――いえ、でも。
ひとつ、不安なことを上げるならば。
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
あの時私に打ち明けた彼の願いが、
酷く、純粋で、もろく砕け散ってしまいそうな願いだったこと…かしら。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
瞬間、稲妻が走るような閃光と、神秘的な光の輪が目の前で輝く。
やがて光の中から、一つの影が現れた。
「…問おう。貴方が僕のマスターか。」
業務的なセリフと反対に、優しく語りかけるような声が大聖堂に響く。
召喚に応じたのは、
輝く稲穂のような祝福に満ちた金色の髪、透き通った青空と同じ色をした双眸を持ち。
深い青の外套と、白銀の甲冑を纏った
「僕のクラスは、見てのとおりセイバーだ。…貴方は魔術に富んだマスターのようだね。
ならば、真名を告げよう。」
騎士王と名高き、
「―――アーサー・ペンドラゴンという。」
かの有名な、アーサー王…その人だった。
「…君が、あのアーサー王か。」
「ああ。少し若輩者に見えると思うが、それは…」
「承知しているさ。それも君の能力の一部分だろう。」
焦りが出たのか、切嗣は思わず目の前にいる英霊の言葉を遮ってしまう。
早く部屋に戻り、すぐにでも計画を熟考したい。彼には…余裕がなかった。
そんな主となった男の様子を見、すぐに何かを察したのか、セイバーは「わかった」と短く切り返し、
今度はその後ろに居たアイリに向き直った。
「なら、僕の詳しい自己紹介は、まず彼女に言ってしまっても?」
「ああ、構わない。アイリ、あとで僕に伝えてくれ。」
言うが早いか、アイリに声をかけ、セイバーに目も向けず聖堂を立ち去る切嗣。
アイリはそんな夫を気にかけつつ、「ごめんなさいね」とセイバーに謝った。
「普段はあんなに失礼な人では無いのよ?ええと…今、気持ちに余裕がなくて…」
「ああ、わかっているさ。彼は貴女の言う通り、普段は思慮深く…残酷なほどに冷静な男だろうね。
立ち振る舞いを見ていれば、初対面でも感じ取れる。」
アイリは少し驚いたような顔をしてしまった。何せ夫は…切嗣は誤解されやすい。本心を身内以外に打ち明けない故に、
彼を理解しえる人間を初対面で選定してしまう。そんな彼の人となりを、目の前の英雄は今の短いやりとりの中で見分けたのだ。
「さすが王様…と言うべきなのかしら。人を選び抜く才能が、やはり備わっているものなのね」
アイリは感心したように目を細め、目の前の人物をまじまじと見た。これがブリテンの伝説に名高き騎士王なのか、と。
そんな無邪気な麗人の視線に痺れを切らし、セイバーが口を開く。
「ええと…ミセス?自己紹介をしてしまって構わないかな?」
「あ、アイリで良いわ。呼びづらいでしょう?これから共に戦うのだし、簡潔な方が良いと思うの。」
そう言って笑いかける自身のマスターの伴侶を見ると、セイバーはわかったよ、と少しフランクになった口調で、自分のことを語り始めた。
「…僕は、マスターを守るための盾であり、悪を打ち砕かんとする一振りの剣だ。セイバーとは元来そういうクラスだし、僕の性分もそう。そして僕の触媒、いわゆる聖遺物は…これだね。」
そう言うとセイバーは、祭壇に置き放されていた聖剣の鞘…アヴァロンに指先で触れ、懐かしそうになぞった。
「これは、これ自体が不思議な力を有する鞘だ。この鞘さえあれば、英霊召喚などせずとも聖剣の加護が受けられるほどのね。
でも…実は厳密にいうと、これだけでは僕は呼べない。いや、『僕は召喚に応じない』と言った方がわかりやすいかな?」
「…それはおかしいわ。だって貴方は…現にこうして召喚されているもの。」
アイリが少し顔をしかめた。確かにそうなんだけど、とセイバーが苦笑する。
「とても可笑しなことだと思うけど、僕を召喚するには少し特殊な条件付きでね。それも僕の独断の。
その条件を満たした人物の召喚にのみ、僕は応じることに決めてるんだ。そうでなければ…僕の宝具なんてとても託せない。」
少し、セイバーの表情が曇る。
宝具とはイコールその英霊の「切り札としての真価」であり、封じられれば危険が伴うもの。
マスターの令呪によって瞬間的な強化も可能になる。当然…英霊自身の命運にもかかわってくる。そういう代物だ。
ならば…満たすことが出来ればセイバーに「宝具を託せる」と思わせるほどの条件とは?
アイリが少し俯き、難しい顔をするのを見て、セイバーが困ったように笑う。
「そんなに小難しい話じゃないよ、とても単純なことさ。でも、そうだなぁ…魔術師をやっていて条件に合う人間はなかなかいないかも。」
「ああもう、難しいわ!降参するから教えてくれないかしら…」
アイリがなぞなぞに答えられず拗ねる小さな少女の様に声を上げるのを見て、またセイバーは笑う。
しかしまた表情を曇らせ、「ごめんね、簡単には言えないんだ。」と呟いた。
「…そうよね。ごめんなさい、大事な条件なのに、無理に聞き出そうとしてしまって。」
「いや、僕のほうこそ。少し意地悪をしてしまった。」
そして、セイバーはふと、少し考えるような素振りを見せて。
「でも、そうだな…もしこの先、僕のマスターが何か…迷うことがあって、それを乗り越えられれば。
―――その時に、答え合わせをしよう。」
まだまだ完成には程遠いですが、頑張って完結させようと思います。
よろしくお願いします。
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