2017-03-31 17:21:58 更新



のん「ちりはもっと自信持つべきだよ!」


ちり「はわわ、そう言われましても…」


豪勢な月川邸の一室で、一つの生け花を中心に二人は対峙していた。花器からは細い枝が自信なさそうに伸びていた。


のん「プリパラでのちりみたいになれとは言わないけど、もう少し自信もってもいいと思うよ」


ちり「でも、一体どうすれば…」


ちりは両手を膝の上に乗せて子犬のように縮こまる。眉尻は下がり八の字になっていた。


のんは一瞬後ろを振り向くと、笑顔と一緒に何か大きなものを取り出してきた。


のん「ちりをもっと自信つかせる方法考えてきたんだよ。それがこれ!」


ちり「それって…私の…?」


ちりは咄嗟に自分の髪の毛を触った。なぜなら、のんが持っていたのは緑色のウィッグと紫を基調とした馴染み深い衣装だったからだ。


のん「本物じゃないよ! もう、ちりの髪の毛取ったりしないでしょ普通」


ちり「はわわ、びっくりしましたぁ…でもそれはどうしたのですか?」


のん「私が作ったんだよ! 見た目だけでもプリパラのちりにしたら少しは自信がつくと思って」


ちり「すごい…」


ちりはその完成度に素直に驚いていた。ウィッグは既存のものの髪型を変えるなり切るなりすればすぐできるだろうが、衣装に関してはそうはいかないはずだ。一体どのくらいの時間がかかったのか、ちりには想像もできなかった。


のん「すごいでしょ! ってそうじゃなくて、ほら、着てみてよ。せっかく作っても着てもらわないと意味ないでしょ?」


のんの無邪気な笑顔からは大変さが全く伝わらなかった。意外とすぐにできるものなのだろうか、ちりはそう思い込んだ。


ちり「い、いますぐ着るんですか?」


のん「そうに決まってるでしょ! ほら早く着替えて」


のんはちりに少し乱暴に押し付けた。本当に早く着てほしいようだ。


ちり「わ、わかりましたぁ。では、着替えてくるので少し待っていてください」


作ってきてくれたのなら、わざわざ拒む理由はない。ちりはウィッグと衣装を受け取って立ち上がると、部屋を出ていこうとする。


のん「ちり、どこいくの?」


ちり「へ? 部屋ですよぉ」


のん「大丈夫だよわざわざ移動しなくても。ここで着替えなよ。私は気にしないから」


ちり「ふぇ!? わ、私は気にするんです!」


ちりは顔を薄ら紅く染めた。のんはきょとんとする。


のん「女の子同士なんだから気にしないでしょ?」


ちり「気にする人は気にしますよ!」


衣装とウィッグで顔を半分隠しながら反抗するちりをみて、のんの中のサディスティックな心が揺さぶられた。


のん「ふーん、私たちはやっとまとまってきて、やっと仲間になってきたと思ったのに、ちりは私の前で着替えられないんだ。まだ距離空けるんだー」


ジトっとした目でいじわるに言う。


ちり「ど、どうしてのんの前で着替えないといけない感じになってるんですか! 関係ないですよぉ!」


のん「関係大あり! 私たちは全てをさらけ出し合ってもっと仲良くなって、最高のチームにならなきゃいけないんだから! お互いの信頼感を高めるためだよ!」


ちり「で、でも…!」


のん「でもはなし!」


ちり「ふえぇん…」


ちりはその場に座り込み、今にも大声で泣きだしそうだった。


そんなちりを見て、のんはさすがにやりすぎたと思ったらしい


のん「わ、私は後ろ向いてるからだ、大丈夫!」


慌ててちりの助けに入った。それでもこの場で着替えさせることには変わりなかったが。


ちり「そ、それなら…まあ…大丈夫です…後ろ向いててください」


のん「うん」


のんはちりに背を向けて正座した。


ちり「ふ、振り向かないでくださいよ…?」


のん「どうしよっかなあ」


ちり「! やっぱり別のところで着替えます!」


のん「うそうそ! 振り向かないから! 大丈夫だから!」


のんは背筋をわざとらしく真っ直ぐと伸ばした。


ちり「・・・はあ、わかりました」


ちりは訝しんでいたが、ゆっくりと着ている制服を脱ぎ始めた。


遠くから聞こえる鳥の鳴き声や車のエンジン音などの雑音に混じって、服が肌を擦れる音がのんの耳に入り込む。


のん「ち、ちりはどうしてそんなに自信ないの?」


のんは振り返りたい衝動を掻き消すように話しかけた。


ちり「ふぇ? …わ、わからないですよ…こういう性格なんです…」


のん「ええー、こんなにかわいいのに」


ちり「か、かわ!? か、からかわないでください! かわいくなんかないです…」


のん「かわいいよ!」


ちり「そ、そんなことないですよぉ!」


のん「かわいい!」


ちり「かわいくないです…!」


のん「かわいい!!」


言い合いになったところで、のんは勢い余って思わず振り返ってしまった。


のんの目に映ったのは、スカートを履こうとして足に通している途中の下着姿のちりだった。涙目のまま、キャミソールに包まれた白く小さな身体を震わせている。


ちり「どうして振り返ってるんですかぁ!!」


ちりは服を抱きかかえて、あられもない姿のまま蹲った。


のん「わわわ! ごめんごめん!」


ちり「うそつきさんなんか嫌いです!」


のん「そんなつもりじゃなかったの!」


ちり「もう知りません!!」


今度はちりがのんに背を向けた。見られたくなかった姿を見られたことだけについて怒ったわけではない。もちろんそれもあるが、信頼していた一人の友人が、あれだけ言ったのに約束を守らなかったことに対してより怒っていた。


のんはさすがにまずいことをしたと自分のしたことを後悔し、正座したまま下を向いた。


のん「ごめんね。悪気はなかったの」


のんは謝るが、ちりは応えてくれなかった。


少しの沈黙が続いた後、ちりはスカートを履くと、気になって横目でのんを見る。膝の上に握り締めた両手を揃え、申し訳なさそうに縮こまるのんの姿。よく見ると、手でギュッと何かを握っていた。


ちり「手に持ってるそれは何ですか?」


のん「これ? 衣装作った時に、似合うかなーと思って髪飾りも作ってきたの…」


手を開いて、孔雀の鮮やかな羽を模したそれをちりに見せる。


ちり「はわわ、綺麗です」


ちりはしばらくそれを見ていると、のんの手先に絆創膏が貼られていることに気づいた。


ちり「のん、怪我してます…」


のん「裁縫は久々だったから…」


ここでちりは自分の勘違いを嘆いた。これだけの衣装、作るのが難しいのは当たり前だし、事実怪我をしている。それをわざわざ作ってくるなんてそれだけで感謝すべきことなのに、のんがあまりにもあっさりとしているからそんな当たり前のことを忘れていた。


ちり「のん、怪我までしてわざわざ作ってきてくれて…それに飾りまで…」


ちりはのんの前に歩み寄ると、座って向かい合った。キャミソール姿のままだが、もう気にしていないようだ。


ちり「のん、ありがとうございます」


そう言ってギュッと抱擁した。


のん「ちり…許してくれるの?」


ちり「当たり前です。そもそも怒ってないです」


のん「ちり大好き!」


のんもちりに抱きついた。


ちり「はわわ、は、恥ずかしいですぅ」


二人とも笑っていた。


のん「それじゃあ上も着て! 早く見たいな」


ちり「はい。でも、もう自信はつきました。のんがあんなにかわいいかわいい言ってくれたので」


のん「ほんと!? 良かった! でも、この衣装はちりのために作ったからちゃんと着てみせてよね!」


ちり「わかってます」


ちりは着替え、のんの助けを借りながらウィッグもつけた。そして、最後に孔雀の羽の髪飾りも着ける。


ちり「ど、どうですか?」


のんは驚いていた。プリパラのちりをイメージして作ったせいで少し大きくなってはいたが、見た目は完全にプリパラのちりだ。しかし、それなのにツンツンしていることはなく、上目遣いで弱弱しく見つめてくる。普段あんなに上から目線だった子が突然デレデレになるとここまで攻撃力が高くなるのか、そんな錯覚に陥った。


ちり「の、のん、どうしました?」


のんはちりのかわいさにすっかり心が揺さぶられ、言葉を失っていた。


ちり「あ、あの…」


のん「ちり!」


思わず抱きしめたい衝動に駆られたのんがちりに飛びついた。


ちり「はわわわ、な、何なんですかー!!??」


のん「ちりがかわいすぎるのがいけないの!」


ちり「ど、どういうことですかー!!」


のんがあまりにも勢いよく抱きついたせいで孔雀の羽の髪飾りが頭から離れると、それはふわふわと宙を舞った。そして、花器の中に綺麗に収まると、生け花を鮮やかに彩った。


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