2018-08-23 19:43:50 更新

概要

深海棲艦との戦の後に一人の男が浮かんできた
それは過去より舞い戻った帝国海軍軍人だった

「我・・・艦娘と共にいざゆかん!」 第二章 覚醒 

第八幕【 2-8 我等ノ企ミ 】 更新


前書き

前章 我・・・艦娘と共にいざゆかん! 第一章 出現
http://sstokosokuho.com/work/edit/13504

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本作品には実在した人物と同姓同名、全く同じ年表で同じ役職で登場いたしますが
あくまでもオリキャラです
その人物を卑下したり批評するつもりは毛頭ございません
その実在した方の人物像についても一切存じませんので悪しからず

また、こちらでの投稿は初となりますので
修正等多々あると思いますのでご了承下さいませ


【 2-1 我ハ解ヲ知ラント欲ッス 】



窓から朝日が差し込み目を覚ますと見慣れぬ天井と点滴が目に入った、その点滴の管を目で追うと自分の右腕に伸びており、その向こうには昨日から看病していてくれたのか?  銀髪の少女が椅子に座り静かな寝息をたてていた


(この娘はたしか・・・  そうだ駆逐艦の叢雲だと名乗っていたな この娘が駆逐艦? 何の事やら理解出来ん それにこの右胸の上で左掌の下に潜り込むように寝ている小人が妖精だと? 昨日朧気ながらこいつ等が動いているのを見ていなければ人形としか思えんとこだな )


妖精を起こさないようにほんの少しだけ指を動かし存在を確かめようとした


(ん! 何だこれは)

自分が動かしたつもりの後に、少し遅れてその指がピクリとだけ動く

(変だ、 まだ意識と感覚が狂っているのか?)

2度3度と繰り返すが同じ事が起こる


この変な感覚を確かめる為に、今度は握る動作を何度か繰り返してみると、 今度は柔らかくそしてそして湿り気のあるような感触が伝わってきた


「いや~~~ん」  (えっ!)


声のした左へ顔を向けると、そこには寝ぼけ眼の少女が俺に抱きついており、その手は少女の肩から生えていた


「もう~ 漣はご主人様の物ですから構いませんけど、  その~ 時と場所を選ぶって言うか、 寝てる時に突然女の子の部分を触るのは止めて下さい♡」ポッ


慌てて起き上がろうとしたが力が入らないのか?それとも少女にしては抱きしめる力が強かったのか?身動ぎする程度しか動けない、 それに何故か足も重く感じられ、こちらも動かす事が・・・・


(あれ?)

「あっ おはようございます」時計をチラ見

「でも起床時間にはまだありますよ菅艦長」


(あぁっ? この足下で丸まって寝ていた振り分けお下げの娘は誰だ?)


「よいしょっと  起きられたのなら点滴を替えますね」

ベッドから降り奥の方へ移動する娘の後ろ姿を見て


(あの娘もそうだが、ここの連中はなんてハレンチな格好してんだ・・・眼福だけど・・)


話し声に目を覚ました叢雲は大きく伸びをしながら

「ふわぁ~~  あら、あなた起きてたのね、  なら白湯を持ってきてあげるわ」


椅子から立上りざまにこちらを指さし

「それと漣、 抱きついてないでいい加減ベッドから降りなさい」

「い~~~だっ そんな事言って本当は叢雲も抱きつきたいんでしょ! この場所は譲れねぇ~です」

と更に強く抱きしめる漣を見て  やれやれ、と言った仕草のあとヤカンを持ち医務室を出る叢雲だった


「いやいやちょっと待ってくれ、 君は漣と言ったな」

「はいご主人様 ♡」ギュッ

「君には、いや他の者にも聞きたい事が山ほどあるんだが、 まずご主人様とは何の事かね?それと君は何で俺に抱きついてくるんだ? いくら小さい子とはいえ婦女子が軽々しくする行為では無いと思うのだが」

「漣は子供じゃありません!」プンスカ


「それにこれはお礼と言うか、お返しですぞ」と顔を近づける

「おっ、お返しぃ?」

「はい、 だってご主人様はあの最後の時に漣がくらった魚雷で弾薬庫が誘爆した後、みんなを艦橋から退去させてから戻ってきてくれて、羅針盤にギュ~~~~って抱きついて漣と一緒に逝ってくれたじゃないですか、 そのお礼です」ポッ ホホソメ

「え~~~っ なななな何でそんな事を知ってるんだ!」


やや仰け反りながらも、漣の顔をマジマジと見つめる菅


「漣だからです、 あたしが綾波型駆逐艦の漣だからなんです、  大事な事だから二度言いました」

指を二本立てながら、満面の笑みで答える漣だった


混乱した頭を振っていると先程の娘が戻ってきて点滴を差し替えながら

「あら そんな事があったんですか、 漣さんがうらやましいわ」

「ふっふーん、いいっしょいいっしょ」

得意げな顔を菅の左胸にスリスリさせる漣


「いやいや良くないから、離れてくれないか、 それと君は・・・誰っ  かな?」

その娘はあからさまに不機嫌な顔をし

「昨日も自己紹介しましたよ、  天津風ですよ、ア・マ・ツ・カ・ゼ! 三度目を言いましょうか?」

「あ~すまんすまん、 まだあまり意識と記憶がハッキリしてなくてな、  ところでアマツカゼって俺が乗る予定だった天津風・・・なの?」


くるりと体を半回転させ、腰に手を当て自慢げに

「そうよ、次世代型駆逐艦のプロトタイプ、あたしが天津風  艦長これから宜しくお願いしますね」ペコリ

まるで映画スターのお披露目であるかのような見事なお辞儀を披露する天津風


「駄目~~~っ、ご主人様は漣のなの! シッシッ」

手を前後に振りあっちいけをする漣


そこへ叢雲が湯飲みを持って帰ってきた

「あら、随分と賑やかね、 起床時間まで30分はあるのよ、それに菅さんはまだ体調が良くないんだから少しは静かにしたらどうなの?    さぁ漣は少し離れなさい、 それじゃ起きられないし右腕に点滴が刺さってるんだから飲めないでしょ」

しぶしぶ離れるが菅が湯飲みを受け取るとまた直ぐに抱きつく漣、たじろぐ菅


「もういい加減にしなさい!」キッと睨む

「だって提督と大淀さんが目を離すなって言ってたじゃないっすか」頬を膨らます漣

「目を離すなって言うのは色々と嫌疑が掛けられてるからで監視しろって事でしょ、抱きつく必要なんて・・・ 提督?あんた何時からあいつの事を提督って呼ぶようになったの?」

「だってあたしのご主人様はこの人しか居ないんだも~~~ん」オカオスリスリ

「まぁ・・・  あきれたもんね」


密着している漣の胸部装甲に影響が出ないようそっと左手を挙げ

「あの~  嫌疑って言うのは? ひょっとして艦を沈めながらも無様におめおめと生きて帰った臆病者だから・・・」


「「「それは違うわ(ますよ)(ますぞ)」」」


「菅艦長は立派に戦って名誉の戦死を遂げられたんです、  もし臆病者なんて言う奴が居たら・・ あたし達が海の藻屑にしてあげるわ!」

握り閉めた拳を振るわせながら掲げる天津風


「えっ?戦死?」


(名誉の戦死って、  あれ?そう言えばさっき漣が一緒に行ってとか・・・逝って?   ここはあの世?・・・  えっ、何?何なの?俺は今どうなってんの?  分からない事だらけだ! 頼む、誰か教えてくれ~~~~)ムンクノサケビー


世の中が暗転したかのように思われたその時



[ オイラが教えてやろっか? ]


「えっ?」眼前の3人を見直す菅


[ オイラが教えてやるってんだよ ]


「誰? 今の誰?」


「酷~~~い! さっき天津風って三回も言ったじゃないですか」プンスカ

立てた3本の指を顔に突きつけんばかりに迫る天津風


「ごめんごめん、 そうじゃなくて今誰かが教えてくれるって [ オイラだよ~  ほらこっち見ろや ]グイッ」


耳を引っ張られ、顔を向た右肩の上には、ウインクしながらサムズアップしている妖精が居た








[ お前さんはオイラの言葉が理解出来てんだろ? ]





【 2-2 我ヲ導キシ者 】



ベッドの上で車座になって話し込んでいる妖精達と菅


「菅艦長がお話しされているのは何処の言葉で、妖精さん達と何を話してるんですかね?」

「さぁ? ご主人様って確か満州の奉天出身だから中国語?」

「あたしは満州国皇帝だった溥儀さんが来日する時、比叡さん達と送迎したから多少は知ってるんだけど、 これは中国語では無い感じがするわね」

菅と妖精達が話しているのをただ見ているしか出来ない3人だった



[ まあお前さんの置かれている現状とか、コイツ等の事とか鎮守府が何なのかって説明はざっとこんなとこだが・・・  ところでお前さん、気が付いてるか? ]

[ えっ、何を? ]

[ あのよ~、 お前さんは今まで一度でもあの戦争はどうなった~?とか、 他の乗組員の安否を誰かに尋ねたかい?   それって帝国軍人として、また艦長としても有り得ねぇ事だとは思わねぇか ]

[ えっ、 だってそんな事は・・・     (あれ?自分の置かれた状況すら分からなかったのに何で知ってるんだ?) ]

首を傾げる菅


[ だろ~っ、 いいかい、お前さんはオイラ達が今までくだくだと説明した事なんざ本当は全て知ってんだよ、 ただ記憶を少し弄られて必要の無い、そして知ってちゃ今後の行動に影響が出る部分だけを一時的に消されてるって寸法さ ]

[ それってどういう・・・ ]

 

他の妖精が話していた妖精の袖を引っ張り何やら耳打ちをしている

そして両掌を急に前に突きだした妖精


[ おっと、こっから先の事はオイラにも言えねぇっ  てか分からねぇ事もあるんでな  まあお前さんが困ったらオイラ達が何時でも相談に乗るし、大概の事なら教えてやら~な   それとな、もう一丁あんだよ ]

顎で周りを差す妖精


[ ほれ、  この三人がさっきからボケ面さらしてオイラ達を見てやがんだろ、  しかもてめぇの事が話題に上ってもそ知らん顔して話しに入るどころか肯きすらしやしねぇ ]

三人を見る菅

[ あぁ  そう言えばそうだったな・・・ ]


[ それは今オイラ達が話してんのは日本語どころか人間の言葉ですらねぇから、聞いててもからっきし分っかんねぇからさ ]


[ えっ  じゃあ今話してる言葉っていったい? ] 


[ まあ、ひらったく言えば妖精語、  とでも思っててくれれば良いやな、 そしてお前さんが妖精語で会話出来る理由、こいつも今は言えねぇ、 ただオイラ達が妖精語で話し掛けた時は、お前さんが人間の言葉で喋ろうと意識しない限り妖精語になっている、 有り体に言えば日本語で話し掛けられりゃ日本語で返す、英語で話し掛けられりゃ英語で返すってのと同じこったな、 とりあえず今はそうとだけ理解してりゃあ良いんじゃねぇかな・・・ ] チラッ

周りの妖精達が首を縦に振っている


(う~~~ん、     何か分かったような分からないような、 それにこいつ等は俺に何を隠してるんだ? この先俺に何をさせようとしているんだ? 誰の差し金なんだ?)

俯き悩んでいた顔を上げ、妖精達を睨む菅


[ 大の男が何時までもゴチャゴチャと悩んでんじゃねぇよ ] ケリッ

「痛っ!」

何時の間にか左肩に乗っていた妖精に蹴られた


[ 言っとくがな、 お前さんが頭の中で思ってる事なんざ、こちとら全てお見通しなんだぜぃ ]

肩の上で腕組みをしている妖精を凝視する菅


[ 尤も、心の中まで聞こえんなぁ、こうしてお前さんと接触してる時だけだがな ]


「ちょっと! 何でご主人様を蹴るんですか、妖精さんといえども調子に乗ると、ぶっとばしますよ!」

妖精を掴もうとする漣、 ひらっと避ける妖精


「失礼致しました、 足が滑って顔に当たってしまっただけです、   菅艦長、ご無礼大変申し訳ありませんでした~~~」ドゲザー

「あれ? 言葉使い・・・」

「あぁ、その事はどうぞお気になさらず」

にっこり笑う妖精達


「あんた達、 足が滑ろうが手が勝手に動こうが、 次やったらあたしが許さないわよ」

凄む叢雲に頷く漣と天津風

座っていた妖精が全員立上り、直立不動の姿勢で敬礼をし 

「ヨーソロ!」ピシッ


「ところであんた、 今話してたのは何処の言葉?何を話していたの?」

「えっ・・・」

何と説明したものか悩む菅


「あ~、あれは満州語です、私達も満州出身の者が多いので、菅艦長が満州出身と知ってつい懐かしくって」

「そう? 溥儀さんの時に憶えた言葉と随分違うようだけど?」

「それは端的に言うなら上流階級語なんですよ、 今私達が話していたのは言わば平民語、しかも満州地方独特の言語なんです」

「へ~~、 中国語って言っても全然違うのね」

「そりゃそうですよ、 あれだけ広い国土で更に他民族国家ですから」


よくもまああれだけ嘘八百を蕩々と語れるもんだな、と感心していると肩の上に乗っていた妖精が

[ おい、 お前さんは声に出さずに頭の中で考えるだけにしろよ、  あいつが時間稼ぎをしてる間に重要なとこをもう少し説明しといてやる ]


「そもそも北京語って・・・ 平民語は・・・」 「「「へ~ そうなんだ、それでそれで・・・」」」


[ オイラ達はお前さんの事を操り人形にするつもりねぇ、 これから少しずつ経験を重ねて行けば色んな事を勝手に思い出すはずだ、 そうすりゃお前さんのゆく道は自ずと見えてくる、(コクリ) バカ!肯くんじゃねぇ  頭の中だけにしろと言っただろうが! (すまん) こっちを向くな~! 向こうの話しを聞いてるフリをしとけってんだこの唐変木 !]


「西安に孔子廟・・・ 石碑が・・・ 漢文・・・」 「妖精さんって凄い博識なんですね~~」


[ ここは肯いとけや! ]

(無茶言うなよ、お前の話聞きながら向こうになんて合わせらんだろうが!)

[ しゃ~ない、こっちの話しの途中でもオイラが耳を引っ張ったら肯いとけ!]

(分かった)

[ でな、軍人の本分に戻って日本を守る為に深海棲艦との戦いにお前さんも一枚噛んでもらう事になると思う ]

(また軍艦に乗る事になるのか?)

[ 違っ・・いやっ、そうとも言えるかな? ]

(どっちなんだ!)

[ 微妙・・・ まあその辺りは実際に見てもらってからの話しだな・・・  事が上手く運ぶようにこっちでも動いておくから、まあ心配すんな・・・ それとな・・・ ゴニョゴニョ… ……… と言う事だ、この先の話は次にお前さんが必要になったんじゃねぇかと思う頃にしてやんよ]


肩の上の妖精が耳から離れたのに気が付いた、講義らしきものをしていた妖精が話しを締めくくりに掛かったようだ


「・・・と言う事なんですが、 もうそろそろ起床時間なんで、今日はこの辺りでまた今度にしましょう」ペコリ

「凄い勉強になったわ、妖精さんありがとう    ところで中国の言葉や歴史については分かったけど、菅艦長とは何を話されていたんですか?」

小首を傾げる天津風


「あぁ、 皆さんの事とか鎮守府の事とかこれから困らないよう、色々とご説明を差し上げていたのです、 ねっ艦長」


と先程までとは打って変わり可愛らしい態度でウインクするする妖精だが、 ドスの効いた声が耳元からも聞こえてきた

[ お前さんは余計な事ぁ喋んじゃねぇぞ ] 


「あっぁ~~ まあそういう事だな  うん、そう だな・・・色々と丁寧に教えて貰ってたんだよ」

良く出来ましたと言わんばかりに妖精に耳の後ろを撫でられる


「ふ~~~ん、丁寧にね  でも足が滑ったと?」

先程の事を思い出した叢雲の片眉だけがピクリと動く

「まあ色々面白い話しも聞けたし、今回だけはそういう事にしといてあげるわ」


そんな時に静寂だった営内にあの独特の調べが聞こえてきた

パッパ パッパ パッパ パッパ パッパ パッパパー♪ オキロヤオキロ ミナオキロー

「おっ 総員起しか なんか懐かしい気もするな~」

目を細め感慨深げな菅

「しかし5分前は無かったような・・・」


「漣では当直が掛ける号令だけでしたもんね~、 それとこの鎮守府では5分と15分前は無いんですよ   そうだ!ご主人様ぁ、体調は如何ですか? 昨日から点滴だけで何も食べてないじゃないですか、 何か持って来ましょうか? それとも食堂へ行かれますか? ここの鎮守府は( ゚д゚)メシウマーなんでwktkものですぞっ」


(メシウマー・・・  wktkって何?)[ ソレハナ…ゴニョゴニョ… ]


ふと何かに思い当たりポケットを触る叢雲

「間宮券もあるわよ」

「あっ、あたしもです、みんなで一緒に行きましょうよ」

「キタコレ!」


(マミヤケン?  支那そばとか?)[ マ・ミ・ヤ デツカエルケンダヨ ]


「間宮さんの所が開くまでまだ時間もあるし、後であいつの机からもう二枚ギンバイしてきてやるわ、  それにあなたアイスクリームが大好きだったわよね」

まるで母親であるかのような微笑を見せながら菅の膝に手を置く叢雲であった


「アイスクリーム?  えっ! マミヤってあの間宮の事か?」

「「「そうよ(です)」」」


「そうか~~  間宮か~~ アイスクリームか~~~ 」

心の奥からほわっとした暖かさがこみ上げ、笑みのこぼれる菅であった


が!


(あれっ?  凄くカレーが食べたい気がするのは何でだ?)




[ オイ!オイラタチモギンバイニイクセゾ    オォーーーー ]






【 2-3 我ガ進ムベキ航路 】



ベッドから降り屈伸運動など、体の状態を確かめる菅

「うん、 幾分ふらつくような感じはするが歩くのには特段問題無いようだ」


何時でも支えられるように構えていた漣だったが、菅の腰へ手を回し

「何かあっても漣が支えますから大丈夫ですよ」ニコッ

「じゃあ反対側はあたしね」と叢雲


「えっ じゃっ じゃああたしは えっと・・・」

「あんたは後ろから付いてきなさい」


「アタシダッテスガカンチョウノ…」

「何か言ったかしら?」


(なあ、艦の性能とか種別と艦娘の上下関係は一致してないのか? ・・・ おい! ・・・・ あれ?妖精居ないの? )


「ぼ~っとされて、どうかされましたか菅艦長? ご気分でも悪くなられたとか?」

心配そうに見つめる三人


「いやいや、ちょっと考え事をな、 食事に行くのは良いんだが、その前にここの司令にちゃんとご挨拶をした方が良いんじゃないかと思ってな」

「あ~ それなら無用よ、 今日は日曜日だからあいつは自宅に戻ってるはずだし、 当番の娘達が即時待機してるのと、あとは哨戒組が出るだけで、今日の鎮守府は基本的にお休みよ」


「えっ? お休み? 鎮守府が機能停止させるなんて大丈夫なのか?」


「司令官の意向よ」

「それであたし達三人がご主人様の看護全般を任されてるって訳です」

また抱きつこうとする漣

「監視もでしょ」

と言いながら漣を離れさせる叢雲と、抱きつくのを止めた天津風であった


「ところで部屋から出るのは良いとして、俺の上衣と帽子は無かったのか?」

辺りを見渡す菅

「えっ、 帽子はありませんけど、菅艦長の服ならそこに掛けてありますよ」

ベッド脇の衝立に掛かった服を差し示す天津風


「違うよ~ 俺は少佐だから、 それは他の誰かの物じゃないのか?」

俯き加減で首を横に振る叢雲

「ここで軍服を着てるのはあいつだけ、そして階級は少将よ」


「えっ! あれで将官なの? あんな若造が?  あっ、いやすまんすまん、 意識がハッキリして無かったから若く見え『い~え、若造で合ってるわ、まだ24歳よ、 世が世なら中尉になってるかも怪しいわね』」

「えっ、   じゃあ・・・叩き上げの凄い歴戦の勇士で英雄って事なのか?」


「「「歴戦の勇士で英雄?」」」


爆発したかのような三人の笑いが室内に轟いた

「やめっ・・・ 苦しっ・・・ 死んじゃうから・・・ 」

漣などは床を転げまわってヒィーヒィー言っている


(えっ 違うの? じゃあ何で将官にまでなれたんだ?  あとで妖精に聞いてみよう)


暫くすると笑いの発作が治まり、零れる涙拭きながら

「あんたの戦歴と比べたら月とすっぽん、 いや、狼とアリンコ以下ね、英雄なんてもんじゃなくて寧ろ逆、臆病者よ、 弾の飛び交う戦場に出るた事なんか一度も無いわ  ただ・・・」

少し真顔に戻った叢雲


「そう、 ただ優しいし私達艦娘の事をもの凄く大事にしてくれるのよ」

笑みを浮かべる三人


「この鎮守府にあいつが来てから沈んだ娘は一人も居ないわ、 余程の事が無い限り中破進撃すらしないし、危険な任務は全て拒否してるの」

「戦い方だって「牛刀をもって鶏を割く」ってやつです、 アメ公のやり方を増々にした感じ、と言った方がご主人様には分かり易いですかね?」


「会合なんかで付いて行くと、同期の提督達は聞こえよがしに張り子の虎だの臆病者だのって言ってるのを耳にするんです、 司令官は「それぐらいでうちの鎮守府は丁度良いんだよ」と笑っておられるのを見て、こっちが歯がゆいぐらいなんです、司令官を馬鹿にされるのが悔しいんです!  菅艦長、この鎮守府に、うちの司令官にお力を貸して戴けないでしょうか?」

「あたしからもお願いするわ」

「ご主人様~~」


突然の懇願に困惑する菅

「いや、俺の処遇もまだどうなるのか分からん状況なんだろ? それに俺はしがない水雷屋だ、巡洋艦までなら経験はあるが、戦艦や空母、航空隊の運用法なんて知らんぞ」

「「「はい」」」

意気消沈する三人


( おい、さっき戦いに一枚噛んでもらう、とか言ったよな)


「だがこれは先程妖精達に言われた事なんだが・・・」

(これは言って良いのか?  おーーい!  あっ、居ないんだった・・・)


「「「それで妖精さんは何と?」」」


「日本を守る為に深海棲艦との戦いがどうとか、軍人の本分がどうとか言っておった・・・ ような・・・     まあ何れにせよ帝国軍人として日本を守る戦いを拒絶するつもりは無いんでな、 どのような形になるか分からんが、この鎮守府に居る事になるなら力の限り尽くす事を約束しよう」


ぱっと花が咲いたような笑顔になった三人が抱きついてきた

「「「ありがとう(ございます)」」」


グゥ~~~~~


「あっ 菅艦長のお腹が警報を鳴らしてますよ」

「本当ね」

「腹が減っては戦が出来ませんぞ! さあご主人様、ご命令を!」


「よし、分かった   出っ・・・」


ふと己が姿を思い出した菅


「この格好で食堂へ行っても大丈夫かな? 中佐の階級章が付いてる服を着るわけにもいかんし」

「階級詐称ってやつ? この鎮守府ではそんな軍法関係無いわよ、 それにあなたは死後だけど正式に中佐に任命されてるし、公示だってされたのよ  でも・・・」


菅から離れて頭の天辺からつま先までを確認する三人から出た言葉は

「「「良い」」」


「だってあなたは駆逐艦の艦長なのだから、むしろその方が似合ってるわ、 靴だって乾いてないからサンダル履きでしょ、上衣着てる方が変よ、  それに暑い盛りだし、いっその事防暑衣みたいに裾を捲ってみたらどう?」

「あははは、 なんかその格好を想像すると田中艦長を思い出します」

「ねえご主人様、 小西司令なんか夜はFU一丁で艦橋を見回る事もあったじゃないですか、 それにこれからはこの鎮守府がご主人様の家になるんでしょ、 その格好の方が艦の頃を思い出せて、その~ 安心しますし格好良いです・・・」 ポッ

漣の言葉に微笑みながら肯く二人であった


(そうか、ここが我が艦、我が家になるのか・・・)


(色々と戸惑う事やこの先の分からない事もあるが、踏ん切りがついたような気がするな   よし!)

両手を後ろで結び、胸を張る菅


「宜しい、では諸君、  食堂へ向けて出航!」


「「「はい! 艦長!」」」 ピシッ

「うむっ」 ピシッ

三人の見事な挙手の敬礼に答礼する菅、そして食堂へ歩き出す四人だった











「ところであんた、 少佐になってまで猫招き型の敬礼してたの?」ジロッ

「えっ だって帽子被ってなかったし・・・」

「言い訳はしない! 全く何時まで経ってもしょうがない子ね、 誰の教育が悪かったのかしら?」 ブツブツ


(あれ? 30半ばになってるのにガキ扱いされてねえか俺・・・)






※文中で「艦の性能とか種別と艦娘の上下関係」と言う行がありますが、性能的に叢雲が天津風に大きく見劣りする事はありませんが、一等駆逐艦の中でも旧式艦の艦長は少佐、新型艦の艦長は中佐と格の上下があり、朝潮型以降では中佐、もしくは昇進前の少佐が艦長になり、中には乗艦中に大佐に昇進した艦長も居られました。


※敬礼にはきちんとした型以外にも「はるかな型」や「猫招き型」と言われている物があります。 「はるかな型」は遠くを眺める時に手で庇を作るように指を直角ぐらいに曲げる感じ、 「猫招き型」は気軽に挨拶する時に「よぉ!」って手を挙げる事がありますが、その湾曲させた指の形のままで眉の横ぐらいに当てる感じで、正式な場面や階級の高い者にする事は勿論、下級兵同士でも相手と場面を考えてやらないと2~3発ビンタを張られるか、後で罰直が待っている敬礼です。




【 2-4 我ヲ狙フ者 】



「あ~~~ ご主人様だけ良いな~~~」

「あの~ 何で俺だけメニューが違うんですか?」

「えっ、 違うのですか?   だって妖精さん達が来られて、艦長さんが来たらカレーを出すように!ってしつこく念を押されたんですけど 」

(まさかあの子達ったら、 自分達が食べたかったから艦長さんをだしに使ったんじゃ・・・)

戸惑う鳳翔


(そう言えばカレーが食べたいって思った時に妖精が肩の上に居たっけ)


「何よあんた、 初っ端から別メニュー出させるなんて、既に我が物顔に振る舞ってるじゃない、 まあ良いけど」

「さすが菅艦長さん凄いですね、 もう妖精さん達に使いが頼める程仲良くなってるんですね~」

瞳にハートマークが浮かびそうな天津風であった


「あ~いや、 これは違うんだ、何か知らんが凄くカレーが食べたいと思っただけで、別に頼んだわけじゃないんだ」

((あ~~ アレか・・・)) 

「作戦行動中の駆逐艦じゃカレーなんて殆ど食べられませんからね、無理もありません」と天津風


「何れにせよあんたが頼んだも同然じゃない、食べたいって思いを妖精さんがくみ取って伝えてくれただけの事でしょ、むしろ感謝しなさい」

(あぁ、 そう言われると反論の余地は無いな、 妖精が心を読めるのは知ってた訳だし、口にしたのと同じ事か・・・今後は色々と気を付んとイカンな   でも、何でこんなにカレーが食べたいんだろう?)


「お~い ご主人様こっちこっち~~」

窓際の席を確保した漣が大きく手を振っていた

「あそこはこの食堂で一番眺めが良い席よ、 それに都合も良わね」

「都合が良い?」

「とにかく行くわよ」

漣の元へ行く三人


「いただきます!」 モグモグ マクマク ムシャムシャ


「おい、その味噌汁の具は冬瓜か?」

「はいそうです、 あまり味のあるお野菜じゃありませんけど、凄く日持ちするから昔はありがたかったですね」

「そうか? 出汁のしみた煮物なんか俺は好きだったけどな~」

「艦じゃ生の野菜は貴重だったもの、あの頃は野菜ってだけでありがたがってたわね、 あんたは戻ってきたばかりだから缶詰の筍ですら喜ぶんでしょうけど、 あたしはもう見るのも嫌だわ」

「海が荒れてカブりっぱなすと乾パンと缶詰が続きましたからね、 ご主人様は士官ですし駆逐艦で北方に行ってないから恵まれてた方なんですぞ」

「あぁ すまんな・・・」


「ところで、 こんなに広い食堂なのに他に二人しか見えないんだが、この鎮守府って何人ぐらい居るんだ?」

「100人を少し越えたぐらいです菅艦『108人よ』 うっ  そっ、それと普段だとこの時間は満席に近くなるんですけど、今日は日曜日だから皆さんもっと遅めに来るんです」

「ほう、そんなに居るのか、  ところであの二人に挨拶をしてこようと思うんだが、紹介してくれんか?」

「はい、ご主『無駄よ!』」


「食事中に話し掛けても無駄なのよ、特にあの二人はね」

「あ~、そうでしたそうでした」テヘペロ

(話し掛けても無駄って、食事以外に何か理由があるのか?)


「それよりあんた、 挨拶なんかしてる間があるなら早く食べた方が良いわよ、 面倒な事にならないうちにね」

「面倒な事って?」

「え、 この後何かありましたっけ?」

「赤いのと青いのがご主人様のカレーを狙ってくるとか?」

呆れ顔の叢雲


「も~、 あなた達来る途中で気付いてなかったの?」

「「何に?」」

「駆逐寮の前を通る時、初めは2~3人だったけど、最後に振り返った時には略全員がこっちを見てたわ、 しかも揃いも揃ってさっきのあんた達と一緒、 目がキラキラしてたし、顔が赤くなってる娘も居たわよ、 アホ毛姉妹なんか窓から落ちそうなぐらい身を乗り出してたわ、 あの様子だと此処で大騒ぎが始まるわね」

「それは非常にマズイですぜ姉御 急いで食べないと!」

漣を睨み付ける叢雲


「あんたこの人に鈴谷の二の舞させる気なの?」

「あっ」

「えっ? 鈴谷さんがどうかしたんですか」

「あ~ 天津風は居なかったわね、 鈴谷の事はもういいから今は食べる事に専念なさい、  但しよく噛んでね」


先程までと違い、もくもくと食べる四人

あと少しで食べ終わろうかと思われた頃、叢雲の頭のユニットがピクリと動いた、窓の外を確認すると急いで食事の残りをかき込む

モグモグモグモグモグ、 ゴクン

「アホ毛姉妹の他にも10人ぐらいは来たようよ、 あたしが食堂の扉を締めて時間稼ぎをするから、漣はこの人を裏口から連れ出してとりあえず工廠へ行って、今日なら誰も居ないはずだし、間宮さんとこにも近いから丁度良いわ、 但し走っちゃ駄目よ!  天津風はここを綺麗に始末してから漣を追って、 あたしは執務室へ行ってギンバってから合流するから向こうで待っててちょうだい」

「「はい」」


扉へ駆け出す叢雲の前に鳳翔が出て来た

「話しは聞いていました、私がやりますから叢雲さんはそのまま出ていって下さって結構です、 艦長さんはまだ体調も戻られてないご様子ですし、あのパワフルな娘達に囲まれたら大変ですからね フフッ」

「ありがとう鳳翔さん、恩にきるわ」


平静を装いながら歩き出す叢雲の背後では カチャリ と鍵の閉まる音が聞こえた


ドドドドド ドドドドド

「あら、おはよう」

「叢雲さんおはヨウゴザイマー…   イッチバー」ゴン 「イッター!」

ガチャガチャガチャ

「カギガシマッテルッポイ…アカナイッポーイ…」

「ソレ! ドーーーーン!」

「マローン…」


「ふふっ、 ま、せいぜい頑張りなさい」

心の中で鳳翔にありがとうと言いながら走り出す叢雲だった




一方漣達は無事食堂を抜け出し、建物の陰を伝い工廠へと向かっていた

抱きつかれこそしなかったが、どうやら二人共握った手を離すつもりは無いらしい


「さあ着きましたよ、 ご主人様は憶えてないでしょうけど、此処が工廠です」


その建物は頑丈な壁の造りになっており、工廠と言うよりはまるで弾薬庫にように見え、危険物が沢山ある事を彷彿させる景観の為か? 妙な胸騒ぎを憶える菅だった


中に入り後を付けられていないか確認したあと扉を閉める

「取り敢えずご主人様はそこの台の上にでも座ってて下さい」

「あっ、 台が少し汚いですね、これを使って下さい、 はい、どうぞ」

と天津風がハンカチを菅に差し出すも


「台って何処? 何も見えないんだが・・・」



その時工廠の奥から話し掛けてくる者が

「そりゃゲートも全部閉まってるし、この暗さじゃ人間には見えませんよ」 ヨイショット

「飛んで火に入る夏の虫って感じだね」ムクッ

「ちょっと~、 それ言葉選びが悪すぎよ~」


「今点けますね」 カチッ

暗闇から突然光の世界へ戻され、目が慣れてくると、そこには先程まで寝ていたであろう茣蓙の上に座っている女性と、壁際には起用に指先でハンマーを回しながら立っている娘が見えた




「丁度良いところへ来てくれました、 菅さんには是非お願いしたい事があるんですよ」












(ん! 背後で気配を感じたような・・・)


「ドモ…」



【 2-5 我ヲ守リ給フハ神カ鬼カ 】



二枚並べられた茣蓙の上で車座になっている四人

(この女性は何故こんなに短い袴をはいているんだ?しかも胡座かよ・・・ それに短い上衣にあの脇あき、下に何も身につけていないように見えるのだが・・・     いかんいかん!目のやり場が・・・)

「…ット キイテマスカ? スガサン?…   菅さん!」


はっと我に返ると明石が顔を覗き込んできていた

「すまんすまん、まだ体調が完全でなくてな、 それに目もこの明るさに慣れていないようだ」

目の辺りを手で擦り誤魔化す菅だった


「それで菅さんの体をもう一度調べたいんですよ、どうやら人間とは違うようなんでね」

急に顔色を変え、烈火の如く怒る漣

「そんな、 ご主人様を疑ってるんですか! 漣の目は節穴じゃありません、ご主人様はご主人様なんです、深海棲艦とは関係ありません!」バン

「そうです、妖精さん達とだって直ぐに仲良くなってましたし、深海棲艦と関係があるんなら、そんなはず絶対に無いじゃないですか!」バン

身を乗り出して床を叩く二人だった


(フムフム、ナルホド…)カキカキ


「勘違いさせちゃってごめんね、  人間と違うって言ったのは、そこまで疑ってはいないのよ、深海棲艦と関係が薄いのは昨日のデータを色々と照合した結果で大凡分かってて、基本的には人間である事は間違いないけど違う所が幾つもあって、 その部分が艦娘と同じなんだけど若干違う所もあったのよ、 それが急遽作った機械の誤差なのか?本当はもっと違うのかが知りたいの」


「その事が気になって仕方無かったから、提督に許可を貰って明石と作ってて、さっき出来上がったのがこの機械ってわけ」

夕張が台車に幾つもの機器を載せて奥の部屋から出てきた

「取り敢えず一服しましょう、 殆ど寝てないから目覚ましのコーヒー入れてきたんだけど、お茶も用意してありますよ、菅さんはどっちが良いですか? あなた達も好きな方を選んでね」




「ふぅ やっぱりお茶の香りは落ち着くな」

「漣は甘々にしたコーヒーの方が好きです、 天津風はブラック派なんだね」

「違うわ、 この後間宮さんに行くから甘い物は少し控えようと思ってるだけよ」


(ダイエットチュウ ット…)カキカキ


「そう言えば叢雲さんは一緒じゃなかったんですか?」

「用足しを終えてからこちらに来る事になってるので、そろそろ来る頃だと思いますよ」


噂をすればなんとやらで、工廠の中へ入ってきた叢雲は、何も言わず皆のところへ歩み寄り、当然と言わんばかりに天津風を横に動かせ、菅の隣へ座った

「も~~」

何故か叢雲のやる事には逆らえない天津風であった


(キャラノコサノチガイ ット…)カキカキ


「あたしにはお茶を頼むわ、  そ・れ・と、   そこの蝙蝠女! そんな所にぶら下がってないで降りて来なさい、そしてカメラのフィルムをこちらへ渡すのよ」

「「「「「えっ!」」」」」


天井の梁からひらりと舞い降り

「どーも恐縮です! 流石叢雲さんですね、青葉、潜入取材させてもらってました、   写真はまだ撮ってないので後で1枚お願いしま~す!」

悪びれる様子もなく、にこやかな笑顔を見せる青葉だった


近づいてくる青葉を待ち構え、手を突き出す叢雲

「ちょっと、そのカメラをこっちによこしないさい」

「本当に撮ってませんってば、 その~、蓋は開けないで下さいね、フィルムが駄目になってしまうので」

まだカメラを胸の前に抱えて隠すようにしている青葉


「分かったわ、 蓋は開けないと約束するからよこしないさい」

「本当ですか~  絶対に止めて下さいよ・・・」

躊躇しながらもカメラを渡す青葉


受け取った叢雲はカメラを確認しながら

「ここに数字があるけど、この0になっているのがそうなの?」

「はい! まだ撮ってないから0なんです、 1枚撮るごとにその数字の書いてある円盤が回って、何枚撮ったか分かるようになってるんですよ」

少し安堵の表情を浮かべる青葉だった


「で、 このカメラは何枚撮れるの?」

「はい、20枚です」

「ふ~~~ん」

カメラを構えてファインダーを覗いてみる叢雲


「ぼやけててよく見えないけど、これでちゃんとした写真が撮れるものなの?」

「これは旧式の機械なんでここでピントを合わせないと駄目なんです、1枚撮った後はこのレバーを動かしてフィルムを巻くと次の写真が撮れるんですよ」

叢雲へ懇切丁寧に説明する青葉だった


「そう、  そうやって使うのね」

そう言いながら、青葉と少しずつ距離を取り始めるや


パシャッ パシャッ パシャッ パシャッ パシャッ パシャッ パシャッ

突然襲い掛かるストロボの明るさに目を防御しながら体をくねらせ避ける青葉

パシャッ パシャッ パシャッ パシャッ パシャッ パシャッ パシャッ

「あぁ~~~ なんで青葉を撮るんですか、止めて下さい! 青葉のカメラ返してよぉ~~~」

パシャッ パシャッ パシャッ パシャッ パシャッ パシャッ カチッ


「あら、本当に20枚なのね、  ほら、約束通り蓋は開けなかったわよ」

青葉にカメラを差し出す叢雲だが


「それと、 予備のフィルムがあるなら先に出しなさい、 さもないと」

青葉の上着の中に手を差し込み、胸部装甲カバーの紐を引きちぎって毟り取り指先で回し始め

「あんたを裸にひん剥いてからグラビア撮影会始めるわよ」

その口は笑みを浮かべているが、その目は不知火ですら裸足で逃げ出すかと思われる程で、夜叉を連想させた


叢雲のあまりの素早さとそのパワー、そしてその眼光に恐怖し、死の予感すら感じた青葉は、胸元を抱えて崩れ落ち、 震える手で残りのフィルムを差し出すのであった



(うわっ 叢雲さん怖っ!)(て言うか容赦なさ過ぎ・・・)

「ネェ、コノアトダイジョウブダトオモウ?」「テイトクノイルトキノホウガイイカモネ」「ジャァ、キョウハヤメトク?」「バレナイウチニカエッテモラオウカ…」

強張る表情をしながらひそひそ話をする二人


そして菅と天津風の間に戻り、夕張の煎れたお茶を美味しそうに飲む叢雲だった


「ふぅ やっぱりお茶の香りは落ち着くわ」



(アマツカゼサンガ、ムラクモサンニサカラエナカッタリユウ……)カキカキ

倒れて後止まぬ、青葉の取材者魂を折る事は叢雲でも出来ないのであった














「と・こ・ろ・で、  其処に置いてある機械、 あれは何のつもり、説明してもらえるかしら?」

((バレたーーーーっ))






【 2-6 我ニ秘メラレシ力トハ 】



「ふ~ん、ちょっと気にならなくはないけど、この人はまだ体調が戻っているわけじゃないのよ、 調べるって体に負担は掛からないんでしょうね」ジロッ

と睨む叢雲

「えぇ、 昨日叢雲達が手伝ってくれた時の機器、あれの中身を現代のパーツで組み替えたのと、艦娘用の計測機器を追加しているだけだから、その点は大丈夫よ」


少し怯えた目をしながら夕張の後を続ける明石

「あと~、 ですね、   その結果によっては艤装のテストをしてみたいな~ なんて思っちゃってるんですけど・・・」ハハハッ

二人を睨む叢雲


「艤装のテストですって? この人に艤装を着けさせて何をさせようとしてるの? 少しでも危険があるのなら絶対に認めないわよ」

「ご主人様に艦娘としての適正があるって事なんですか? ひょっとしてまた一緒に戦え『駄目よ! この人にそんな危険な事は絶対にさせない!』」

考える方向性が真逆な二人であった


(折角戻ってきてくれたこの子を絶対に失うわけには行かないのよ!)

(ご主人様と一緒なら何でも出来る 絶対に!)

「あの~ 違うんですけど、    ねえお二人共聞いてますか?」


黙って見ていた菅であったが

「ちょっと待ってくれ、 その適正とやらが俺にあったとして、俺は武器を持って戦った事なんか無いんだが、出来るもんなのかね?」

菅を睨む叢雲と期待の目で見つめる漣と天津風


「イヤダカラ チガイマスッテバ…」


「あたしは絶対に認めないわ! そんな機械壊してやる」

言うが早いか、叢雲がその機械に飛びつこうとしたその時、それより更に素早い動きで漣が叢雲の動きを制する


「ちょっと放しなさい! なんで止めるのよ! あんたはこの人がまた死んでも良いの? あたしは絶対にそんな事にはさせない」

「良いわけないでしょ! ご主人様は必ず漣が守ってみせる」

両腕を掴み、叢雲を機械から遠ざけようとする漣


「ちょっと、 放しなさい!放しな・・・ うっ、押されてる・・・」

必死にもがくも漣の力に及ばない事に驚く叢雲


「ねえ、何で叢雲さんの動きを漣さんが制する事が出来てるの?」

「それもそうだけど、明石はさっきの二人の動き見た  あたしはよく見えなかったんだけど・・・」

「あたしも止めに入れない程の速さでした」

為す術もなく、ただ見ている事しか出来ない三人であった


「もう二人共いい加減にしとけ、 俺が戦場に出るとか出ないとかここで決める事では無かろう、 それにお前等が動いた時に霞が通り過ぎたようにしか見えなかった俺が、同等に戦えるとはとても思えんのだが」

二人に歩み寄り肩に手を掛ける菅、そして徐々に力が抜けていく叢雲だった


その場に座り込んだ叢雲が言葉を漏らす

「あんた、いつの間にそんなに力を付けたの、 軽巡を相手にしてるのかと思ったぐらいよ」

「これが、漣の本気なのです!」

得意満面の漣


「いやちょっと待って下さい、 漣さんの力がどの程度なのかは、同じ馬力の叢雲さんを押し負かした事で想像するしかありませんけど、 叢雲さんの動きも尋常じゃなかったですよ、 何がどうなってるんですか」

「寝不足で目が疲れていたにしても、もの凄く速く見えたんだけど、何時からなの?」

驚愕の目を向ける明石と夕張


「「えっ?」」

「普通よね?」「そうだね」

さも当然だったように思う二人だったが


「でもあんたのその力は何なの? 凄かったじゃ・・・    そう言えば・・・   ねえ漣、身体能力もそうかもしれないけど、感性とか感覚が研ぎ澄まされているような気がしない?  ほら、さっきの青葉だって普段のあたしなら絶対に気が付けなかったと思うのだけど」

「そうですね・・・ 周りの動きがよく見えるって言うか、感じる気がしますね」


「天津風、 あんたはどうなの?」

「えっ、 あたしはそこまで感じないですけど・・・ 言われてみれば少しだけ何時もと違うような気はします」


考え込んでいた叢雲はふと思い付き

「ちょっと天津風、こっち来なさい、 あたしと漣と力比べをするわよ」

代わる代わる二人と力比べをした天津風であったが


「全然無理です、 鈴谷さん相手の方がまだなんとかなりますよ、  これは一体何なんですか、二人共何があったんですか」

訳けが分からず困惑する天津風


(とすると、接触時間は関係無いようね、  この人が現れてからこの力が覚醒されたのだとしたら、関係の深さの問題かしら・・・)


ふと工廠の角にあったドラム缶が目に止まった叢雲は、歩み寄りその一つを持ち上げようとした

「むんっ  あっ・・・」

鈴谷並の力だと思っており、楽に持てるつもりだったが為に手が滑り、勢いがあまりって尻餅をつく叢雲

「痛たたたたっ」

何をやっているのか分からずただ見ていた一同ともう一人


「ア~ セッカクノシャッターチャンスガ……」

耳に入りイラっとする叢雲であった


今度は慎重に持ち上げてみる

(ふんっ 何時もよりはかなりマシだけど、さっきの力と比べると全然って事ね    あらっ?)

体の向きを変えた時に少し違和感を憶えた叢雲は、少し考えた後に皆の方へと歩きだした


(やはり軽くなる・・・  どんどん軽くなっていく・・・ とするとあの人との距離?)

皆の元へ来た時には片手でも持てるような気がする叢雲だったが、ふとある記憶が蘇った

(あれ? そう言えば・・・距離の問題だけじゃ説明がつかない・・・)

ドラム缶を持ったまま考え込んでいた叢雲だったが



「漣、あんたこのドラム缶を元在った所へ戻してきてちょうだい、急いでね」

少し不機嫌になった漣

「え~~~ 何で漣が叢雲の後始末をしなきゃならないんですか、そんな面倒な事は嫌で『つべこべ言わずにやれ! さっきの馬鹿力を使えば簡単でしょ』」

不機嫌を通り越した漣は

「はぁ 馬鹿力? それなら叢雲だっ『いい加減にしろ』」

止めに入った菅は立上りながら


「おい叢雲それは少し言い方が悪くないか?   もう俺が運んでやるよ」

叢雲の言動にイラつきながらも

「ご主人様はいいです、漣が運びます」

菅を制してドラム缶を叢雲から取り上げようとした漣だが


「うわっ、 軽っ  って、しかもこれ中身入ってる!」タップンタップン

頭上まで軽々と持ち上げ揺すってみせる


その様を驚愕の目で見つめる一同ともう二人

「「「「凄い・・・」」」」

(ふん、 でしょうね) 

(あぁぁ スクープが・・・)


「早く元あった所へ持って行きなさい」

「ほいさっさ~」

突然の事に怒りを忘れ、軽快な足取りで運ぶ漣だったが


「あれっ ちょっ  ダメっ」 グォ~~ン ドン ゴロゴロゴロ

鈍い音と共に漣の頭上にドラム缶が落下、その場に横たわるのであった



「キャ~~~~ 大変」「おい、大丈夫か!」

助けに駆け寄る他の者と見ているもう二人


(馬鹿は間違いじゃなかったようね・・・)


(力が強くなっても頭は弱いっと)カキカキ







頭を押さえて座り込む漣の廻りで立ち話をしている一同

「叢雲さんの考えでは、 菅さんが乗艦した事がある艦娘だけが能力を発揮出来て、菅さんとの距離で発現する力が増減するって事ですか?」

「さっき天津風がドラム缶を元に戻してる所を見た感じだと、乗艦だけじゃなく関係性があったかどうかでも発揮しそうね」

「言われてみれば何時もよりも少し軽く思ったし、転がしていくと、どんどん重くなったように感じたわ」

その答えに肯く叢雲、そして続ける


「あと能力を発現させた要因がもう二つあるはずよ、 ねえ天津風、もしこんな力が食堂に居た時に発現してたらどうなってたと思う?」

「あっ! そうですね、それにここに来るまで漣さんとあたしは菅艦長と手を繋いで来たんですけど、その力を意識してなかったら漣さんは菅艦長の手を握り潰しちゃってますよ」


腕組みをしていた叢雲が片方の手を挙げ、指を二本立てながらこう言った


「あらとても良い答えね、 あたしはこの人の直ぐ側に居たのに、お茶碗も湯飲みも握り潰さなかったわ、 それが二つの要因と繋がるのよ」







【 2-7 我ガ力覚醒セル為ニハ 】



考えていた明石がポツリと呟いた

「お茶碗は食堂・・・  湯飲みはここでの事・・・」

「そうよ」

明石の呟きに反応する叢雲


「一つは先程の叢雲さんの言動から考えると感情ですよね、  とすると、もう一つの要因がここにあるんだから艤装ですかね?」

「そう、それで多分正解だと思うわ」

漣の前にしゃがみ込んだ叢雲は、漣の頭を撫でながら


「さっきはごめんなさいね」

「いえ、理由が分かったし大丈夫」

ニッコリ笑ってみせる漣


「食堂に無くてここに在る物、 そして」

茣蓙の上にあるカップや湯飲みを指さし

「それにはヒビすら入ってないわ、 そしてドラム缶の事だけど、あたしが運んでくる時は近づくにつれ徐々に軽くなったけど、 漣みたいに頭上に持ち上げて振る程の力は感じ無かった、  それと漣、 あなたがドラム缶を落とした時って急激に力が抜けたんじゃない?」

「そうそう、 あれ?っと思って一端降ろそうとした時にはもう頭の上に落ちてきたんですよ」

若干の困惑顔の漣と、その答えに二度三度と肯く叢雲


「あと青葉の胸部装甲カバーの事だけど、 実はあれにはあたしも少し驚いたのよ、 本当は脅すだけのつもりで掴んで揺さぶる程度にしたはずなのに、あの有様でしょ」

と床に落ちている残骸を差す


「あ~ そうですよ、青葉のカバーどうしてくれるんですか!」

「あとであいつに理由を話してなんとかして貰うわよ、 もしくは夕張、 あんた作ってあげたら?」

「あはははっ、 また叢雲に引きちぎられないように装甲鋼板で作ってあげよっか?」

にやりとする夕張


「そんな~~ それなら武蔵さんみたいサラシの方がマシです!  叢雲さん本当に頼みますよ~」

両手で拝む青葉に対して叢雲は素っ気ない態度で


「分かったわよ、  で、話しを戻すけど、 青葉のカバーを毟り取った後にあんたが煎れてくれたお茶をあたしは飲んだわよね」

チラリと夕張の方へ目を向ける


「あっ!  つまり持続性が無いって事なの?」

「要因の1つが欠けてから1分と経たずに力が元に戻ったって事になるわね、 漣の時からすると30~40秒程度かしら?」


少し考えていた夕張だったが

「ねえ叢雲、 その~  やっぱり菅さんを調べるのはダメ?」


目を閉じた叢雲は

「認めるわ、 これだけの事が起こったのだし、やらないとこの人自身も納得がいかないでしょ、  でもこの人との距離と持続性の問題があるのだから、戦場に出るのは身を挺してでも止めるからね、その事だけは憶えておきなさい」

菅の腕を取り寄り添う叢雲


「さっきの動きの速さもそうだが、中身の入ったドラム缶を軽々と持ち上げている所を見ると、やはり俺には無理だと思えるな」

菅を見つめ、嬉しそうに肯く叢雲


「でも菅艦長、普通の状態では中身の入ったドラム缶なんか持ち上げられませんけど、 艤装を装着したら全ての能力が増幅さるので、さっきの漣さん以上の事をあたしにも出来るんですよ」

天津風をキッと睨む叢雲


「それはあたし達が艦の艤装とシンクロ出来るからであって、 そのあたし達ですら他の娘の艤装なんか上手く使えないでしょ、 菅さんは人間なのよ、シンクロ出来る艤装なんてあるはずが無いじゃない」


「叢雲さんちょっと待って下さい、 あたしと夕張だってシンクロの事は十分理解しています、 菅さんが艦娘と同じように戦えるなんて初めから考えてなかったですよ、 ただ艦娘との差異を確認する為に艤装を使おうと思ってただけなんですけど・・・」

少しの間考える明石

「先程の叢雲さんと漣さん、 あれをどう説明するんですか? 菅さんがお二人とシンクロした、 とは考えられませんかね? それなら先程の速さと力も納得がいきませんか?」

何も言えなくなる叢雲


(思い当たり過ぎて反論が出来ない・・・)


「菅さんを調べる事は叢雲も納得したわよね? 艤装の事はまず置いといて、検査データを見た上でまた考えてくれないかしら」


「・・・分かったわ、 それで、その検査とやらで何が分かるの?」

少し安堵の色浮かべる明石と夕張


「まず、これはあなた達には非常に言い難いんだけど・・・ 深海棲艦と本当に関係が無いか調べないといけないの、これは提督からの指示でもあるのよ、 次に人間と違うところの特定、その違うところが前回では艦娘と同じ反応を示していたように思えたけど、実際にどの程度同じでどう違うのかを調べたいの、 ここまでは良いかな?」

肯く叢雲、そして他の四人ともう一人


(オット、コレハイッタイナニガチガウノデショウカ? アオバキニナリマス)カキカキ


「そこで、艦娘と同じ能力がどの程度あって、逆に何が違うのか、 そして実際に発揮出来る力を調べる為に、艤装の主機を使おうと思ったの、   普通の人間に主機を繋いでも、シンクロ率は0%だから人間本来の0.25馬力程度しか出ない、 でも菅さんが艦娘とどの程度同じかによってはシンクロ率と馬力が上がるはずでしょ、 それを調べようと思って夕張のと鹵獲した深海棲艦の主機を用意していたのだけれども・・・  先程からの事で『ちょっと待ちなさい!』 えっ 」


「何で深海棲艦のまで調べる必要があるのよ あなた達はまだこの人の事を疑ってるの?」

冷徹な目で睨む叢雲、慌てて否定する明石と夕張

「「違いますよ(わよ)」」


「逆です、 菅さんが深海棲艦と関係無いのを証明する為にも必要な事なんです、 大本営からのデータや私達も実験をして分かった事なんですけど、 私や夕張が深海棲艦の主機を装着してもシンクロ率は0%だったんです」

明石の話を夕張が継ぐ


「あなた達駆逐艦が戦艦や巡洋艦の艤装を着けても使えないわよね、 でも駆逐艦同士なら、そして艦型が同じ、もしくは近ければ近い程シンクロ率は上がるから全く使えないわけではない」

肯く三人

「これは大本営のデータなんだけど、 吹雪型の娘が綾波型や暁型のを着けた場合のシンクロ率は35~40%、陽炎型だと20~25%に下がるの じゃあ戦艦や巡洋艦だと0%かと言うと、実は戦艦で1~2%、巡洋艦だと5~10%はあるのよ、  まあこれじゃ戦艦は立っていることすら覚束ない、 巡洋艦は歩く事が精一杯で、砲撃なんか絶対に無理だけどね」


「つまり、この人が深海棲艦と関係無ければ0%、あたし達の仲間であれば何%かは出るって事なの?」

我が意を得たりとばかりに大きく肯き、笑みが零れる明石と夕張


「そこなのよ、 今の状態だと提督やあたし達が何を言っても大本営がどんな判断をするか分からないでしょ、一歩間違ったら一生幽閉されるかもしれない、 本当はあたし達が深海棲艦の主機を着けると0.00何%かの数値が出るから厳密には0%では無いんだけど、その程度なら10馬力が良いところだから、何か想定外の事があったとしても危険性は無いに等しいわ、 その危険性を否定出来るだけのデータと、味方なんだって両方の証拠を揃えた上で大本営に話しを持って行けば、 少なくとも菅さんの自由はある程度確保出来るだろうし、 上手く行けばこの鎮守府に預けてもらえるかもしれない  「それが漣や叢雲達の望みなんだろうから頑張ってくれないか」 って本当は提督があたし達に頭を下げて頼んできたのよ」


(あいつったら・・・)

(やっぱりご主人様って呼んであげても良いかも・・・)

(司令官・・・お優しい方・・・)

少し目頭が熱くなる三人であった


(スコシウルットキチャイマシタ…)カキカキ


何時の間にか艤装が並べられている所へ移動していた明石は

「そこで話しを戻すわね、 ここに昨日メンテで預かった叢雲さん達の艤装が在るわ、 そして叢雲さん達にさっき起こった事から考えると、夕張の艤装よりも数字はもっと上がるんじゃないかしら?」ポンポン

叢雲と天津風の艤装を叩きながら話しを続ける明石


「叢雲さんは50.000馬力、天津風さんは52.000馬力と少し差があるけど、 先程の二人の力の差がシンクロ率や馬力にも現れてくれたら、 叢雲さんが居るこの鎮守府だからこそ、菅さんが預けられる可能性が高くなるとは思わない?」


そこで漣が勢いよく手を挙げ

「はい! あたしの主機も50.000馬力です」

「漣さんは昨日出撃予定だったでしょ、 だから主機と武装が繋がった状態なので、連動を解除しないとこのテストには使えないから、少し時間が掛かるんですよ」

「漣との力の差がもしあの時の感覚と同程度で現れるのなら天龍の少し上、 最大で65.000~70.000馬力ってとこね、  それと、あたしと漣の力の差は武装の有無にもあったんじゃないの?とすると必要なデータを取るだけなら、あたしのを調べるだけで事足りるわ」

「え~~~、でも・・・  ご主人様の愛情が数値に出るのが見たくてwktkなんですが」

「愛情じゃないでしょ、  で、どうするの?」


「だからさっきから言ってる通り、まずは検査からよ、 菅さん、シャツを脱いでズボンの裾を膝上まで捲ってここに寝て下さい」ポンポンッ


何時の間にか作業台の上に茣蓙を敷き、機器の準備を始めていた夕張だった


(ヒャ~~ イイカラダシテマスネ~ サッソク…アッ…フィルムガ……)ガックシ





検査機器をセットされていき若干の不安を覚えた菅は

「なあ、 ここに妖精は居ないのか?」

忙しく準備をしていた明石


「今日は日曜日だから、みんな何処かに遊びに行ってると思いますよ、  あ~ あっちの部屋にここの幹部の妖精さん達が居ますけど、朝方まで飲んでたんで、全員白河夜船ですよ」

「何時も通りなら夕方頃に起き出してきて、迎え酒ってやつですね~」

と夕張


(ったく! 肝心な時に使えない奴等だ・・・)

そう思った矢先、グイっと耳を引っ張られた


[ おいこら、使えねぇたぁ随分と言ってくれんじゃねぇかよ ] 


(あっ出た・・・)


[ おぅおぅ、 こちとら幽霊でもお化けでもねぇんだぜ、初対面で出たって言い方はねぇだろうが、 漣んちの妖精に頼まれてたから、重い頭抱ぇて出て来てやったってのによぉ、 気に要らねぇってんなら戻って二度寝させてもらうぜぃ ] ヒック

準備をしながら妖精に気がついた明石


「あれ、工廠長、 どうしたんですか? お水でも欲しいんですか?」

「いや、少し騒がしかったんで目を覚ましたら、何か面白そうな事をやってるんで、 ちょっと覗きに来たんだよ」

「あ~ すいません」

「どうせトイレに起きる頃合いだったから気にしなく良いよ」

妖精は夕張が操作している検査機器の方に行き、丹念に調べたあと菅の所へ戻ってきた


[ おぅ、機械は問題ねぇようだぜ、ただあれだとちぃっとばかし面白れぇ事になりそうだな ] ヘヘヘッ

[ えっ、 面白いって・・・ ]

[ 心配ぇする事ぁねえよ、お前さんがどうこうなるって訳じゃねぇからよ、 まあ精々まな板の上の鯉でも演じて見せな、 あばよ~ ]


[ あっ 待って・・・ ]


菅の呼び掛けを無視して奥の部屋へ飛び去り、またコッソリと出て来たかと思えば、梁の上で迎え酒を始める工廠長であった













[ オヤっさん ぉぁよ~~っす ] [ うぃーす ] [ひっく]

[ 何だ、てめえ等は寝てて良かったんだぞ ]

[ ってやんですか、 独り占めにしようなんてどうゆう了見ですかぃ、 そいつをオイラ達にも寄越せってんですよ ]

工廠長の持ってる酒瓶を奪い取る主任妖精達


ングッ ングッ プハァ~~~

オイ コッチニモマワシテクンナ アイヨ   グビグビグビ ゲェ~~ップ

[ で、あちらさんはどんな案配ぇなんすか? ]

[ まあ見てなって、今に面白れ~~~ぇもんが見られんからよ、  高みの見物とシャレ込もうぜぃ ] ヒック






【 2-8 我等ノ企ミ 】



検査が終わりお茶を飲み談笑している四人、その向こうでは明石と夕張が解析作業を進めており、それを覗き込んでいる者達が居た

と、  一人の妖精が梁の上に戻ってきた


[ へへっ オヤっさんの言った通りのようですぜぃ、 機関の頭ぁもう少し見たいとこがあるって残ってやす ]

[ 大概ぇにしとかねぇと余計な手伝いさせられんぜ、 それじゃ上手くねぇからよ、戻るように合図を送ってくんな ]

[ へい ]



「も~ 邪魔! どうせ提督の許可無しに書いたら駄目な事だし、このデータ見たって青葉には分からないでしょ、 向こうに行っててよ~」

「だって妖精さんだって見てるじゃないですか」

夕張の肩の上で覗き込んでいた妖精だったが、自分の事を言われたのと、工廠長からの合図も耳に入ってたようで


「あ~ 私はそろそろお暇しようと思ってた所なんで、 それじゃ夕張さん明石さん、頑張って下さいね~」

手を振りながらそそくさと去る妖精に対し

「あっ 主任ちょっと待って下さい、 この後手伝って欲しい事があるんですよ」

慌てて止めようとする明石に対し、クルっと向き直り


「いや~ ちょっと今日はね、 コレがコレなもんで」

手で胃袋の辺りを示した後に、口元から前に出すジャスチャーをする妖精

「おっと 危ない・・・」

トイレの方へ飛び去るフリをして、後ろを確認した後コソっと梁の上へ


[ おぅ機関の、どうだった ]

[ やはりオヤっさんが言った通りになりそうですが、念のため夕張にネジを巻いておきやした ] ニヤリ

[ おい、悪い顔してんな 何か企みやがったな ]

[ 細工は隆々仕上げをご覧じろってやつでさぁ、  おい水雷の、鉄砲の、ちぃいっとばかし手ぇ貸してくんねぇか、 あいつ等より先に艤装に細工をしときてぇんだが、オイラんとこの若い連中は使い物になりそうもねぇからよ ]

奥の部屋を示す機関主任


[ おぅ、 構わねえが、コイツぁ貸しにしとくぜぃ  おい、機関に手ぇ貸してやんから、お前等も着いてこい ] ヘイッ

[ オイラは清酒一本で手ぇ打ってやらぁ ]

[ おい高けぇよ ゴンゴニマケ…… ]

叢雲と天津風の艤装の方へ飛び去る妖精達




検査結果の紙を確認していた明石と夕張

「大体予想通りの結果ね」

「こっちのデータだと予想よりも期待が持てそうな感じですよ」

「まあやってみてからのお楽しみって事で、 それとさっき機関主任に言われたんだけど、 先に叢雲と天津風でどの程度馬力が出るか調べてみない?」

「艦娘のデータと菅さんへの期待値を先に取るって事ですか?」

相手の方へ向き直る二人


「そうじゃなくて、 メンテで試験運転しかしていない艤装を、いきなり菅さんに着けて何かあったら大変な事になるじゃない・・・」

叢雲をチラ見する二人

「だからまず何時も通り、本来の艤装の娘が最高出力運転までやってからの方が安全じゃないか? って主任は言うのよ」

「なるほど~、言われてみればそうですね、 菅さんがそんなに馬力を出せるとは思ってませんでしたが、この検査結果的に私達が考えてた以上に出す可能性が出てきたわけですし、  それに極マレですが、今までにも過走回転や異常加熱する事はありましたっけね・・・」

叢雲っを横目でチラッ


「・・・ 分かりました、菅さんの安全を最優先に進めて行きましょう、  それに叢雲さんや天津風さんに対する、菅さんの影響力も測定できますから、一石二鳥かもしれませんね」

「機醸と暖機暖管はまだ掛かるから、ちょっと休憩しない? お腹減ってきちゃったし」

「あれ? でも結構いい音してますよ」

艤装の方を見ると妖精達が動いているのが見えた


「機関主任ったら、 あんな風に言いながらも手伝ってくれてますよ」

「ほんとね やっぱり頼りになるわ」

艤装の方へ歩いていく二人


「「機関主任お手伝いありがとうございます」」

頭を下げる二人

「いえいえ、コイツの音を聞くとじっとしいてられない質ですから」

ちらりと天津風の艤装の方を見ると

「あれ? あっちをやってるのは砲熕主任と水雷主任じゃないですか」

名前を呼ばれた事に気が付いた妖精は


「いや~ 機関の若い連中が酔い潰れてますんで、手伝いを頼まれたんですよ」

「酔い覚ましには丁度良いぐらいですよ、 酔い覚ましにはね」

と意味あり気に明石と夕張を見る水雷主任


「あはははっ、 分かりまたよ~、 ちょっと小腹が空いてきたんで、酒保へ買物に行くつもりなんですけど」

「コレっ でいいかしら?」

と指で輪を作り口元で傾ける明石と夕張

にやりとしながら肯く水雷主任


「じゃあ後はお願いしますね~」




菅達を誘い、連れ立って工廠を出て行く後ろ姿を見送った妖精達



[ 知らぬが仏ってなぁこのこったな ]


[[[ わはははははははは ]]]


妖精達の笑い声が工廠内に広がっていった










[ よう機関の、俺ぁ専門じゃねぇから分からねぇが、本当にこれで良いのか? 深海のと天津風のはそっちとは大分違ぇようだが ]

最終調整も済み、腕組みをしてエンジン音を聞いていた機関主任は

[ あ~上等だ、上手ぇ事細工出来てるみてぇじゃねぇか、この方がオヤっさん達の思惑通り事が進むってもんよ ]







後書き

俺はやはり普通の人間とは少し違うようだ
今はまだ分からないが少しずつ解明されていくだろう
口は悪いが妖精達も頼りになる・・・のかな?
まあ半舷上陸の時はみんなあんなもんだったな
俺も人の事は言えないしな


次 第二章「覚醒」 第九幕【 2-9 我等ハ戦友ナリ 】

なんもいえねぇ~…

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先の大戦時には艦と共に逝った沢山の男達が居ました
中でも駆逐艦は海の狼とも言われ独特の心意気がありました
しかし主役になる事は殆ど無く
「あ~~ 何だその命令は! 分かったよ 死にゃ~良いんだろ死にゃ~」
と悪態をつきたくなる事が山ほどありながらも
豪放磊落
「駆逐艦乗りは3日やったら止められね~のさ」
といった生き様を織り交ぜて書いていけたらと思っております

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菅 明次様  経歴

奉天中卒業  海兵56期
4年8月23日 少尉候補生に任官
4年11月30日 少尉に昇進
5年 駆逐艦「榧」
6年12月1日 中尉に昇進
  (この間の公式資料見当たらず)
11年12月2日 潜水艦「呂63」
12年10月以前  駆逐艦「叢雲」
14年12月又は15年1月 二等巡洋艦「鈴谷」水雷長兼分隊長
          (鈴谷乗艦時に少佐へ昇進、後航海長へ就任と思われる)
16年4月10日 水雷艇「友鶴」艇長 [ 艦長 ]
17年6月3日 第十戦隊 水雷参謀  旗艦 二等巡洋艦「長良」 
17年7月20日 駆逐艦「漣」艦長
19年1月1日 駆逐艦「天津風」艦長に任命
19年1月14日 天津風へ着任前「漣」と共に逝く

19年4月20日発令 19年1月14日をもって海軍中佐に任ずる 辞令公報第1433号

心よりご冥福をお祈り致しております


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1: SS好きの名無しさん 2018-07-18 20:16:26 ID: sNMQwe5_

これ、提督無視して話が進んでない?

大丈夫なの?

勝手にやってるなら叢雲達、解体処分もあり得るよね?

2: イシュタル 2018-07-18 22:14:00 ID: M4p8JcVr

ネタバレしない範囲で言うなら
叢雲達は自分の意思のみ
但し、介護、警護、監視については全権委任

菅艦長は妖精より全面サポートの約束がある
ってとこでしょうか

3: SS好きの名無しさん 2018-07-18 22:27:46 ID: sNMQwe5_

嫌疑がある人間を監視付きとはいえ、
食堂なり、鎮守府内を歩かせるのはどうなのかと思いますが?

4: イシュタル 2018-07-18 22:34:29 ID: M4p8JcVr

【 2-3 我ガ進ムベキ航路 】の中に

「それであたし達三人がご主人様の看護全般を任されてるって訳です」
また抱きつこうとする漣
「監視もでしょ」
と言いながら漣を離れさせる叢雲と、抱きつくのを止めた天津風であった

「この鎮守府に居る事になるなら力の限り尽くす事を約束しよう」
----------------------------------------------
と言う台詞があります

また、現在2-7までの途中まで執筆は進んでいますが
この先の展開で2-5、2-6を修正する可能性を含んでいますので
これ以上は申せません

5: イシュタル 2018-07-18 22:37:44 ID: M4p8JcVr

嫌疑の内容については2-5で出て来ます
(現在の執筆内容通り公開するなら、ですが)


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