2016-12-30 20:33:37 更新

概要

ある島に派遣された提督。そこから一から鎮守府を作っていくことに。だが、提督にはある秘密が……。
その秘密とは。そして、深海棲艦との戦いはいかに。


前書き

オリジナル設定を多数含みます。苦手な方はブラウザバック推奨です。
また、登場する艦娘のキャラクターは私の考えるキャラクター像ですので食い違いがあるかもしれませんがご了承ください。更新頻度は低めになると思われます。
また、作品内容的にネタバレに通じるため、初期数話以降にでてくる艦娘については登場キャラクターはつけておりません。ですので、それ以外の艦も出てくることもあるためご了承ください。


プロローグ




常夏の島。そこに一隻の船がやってきて一人をおろしてすぐまた戻っていった。


提督「急に辞令がきたと思ったら……鎮守府を一から作っていけか。全く無茶言ってくれる」

??「あなたが、司令官かな?」

提督「そうだが……お前は」

??「私は響。司令官と一緒にここで生活するように言われたんだ。よろしく」

提督「響か、よろしく。響はすでにここに着任していたんだな」

響 「ああ、そうさ。すでに鎮守府のマップは頭に入ってる。案内しよう」

提督「わかった。頼む」


響に連れ添われ鎮守府に向かう。鎮守府はお世辞にも立派とは言えないがそれなりのものだった。


響 「ここが司令官の部屋だ」

提督「あぁ、ありがとう。うっ、全くいきなり資料だらけじゃないか」

響 「そういうものさ。なに、私も手伝う。悲観することは無いさ」

提督「ありがとう。ところで、響以外の艦娘はいないのか?」

響 「聞いていないのかい?ここは私と司令官しかいないんだよ?」

提督「なっ、そんな無茶苦茶な」

響 「ふふっ、冗談さ。もうすぐここに来るはずさ」

提督「驚かさないでくれよ」

響 「ごめんね、司令官。さっ、座って待っててくれ」

提督「ああ。そうするよ」


資料の山をもう一度見てからため息をつき座る提督。その直後ひかえめなノックの音が響く。


響 「ちょうど来たみたいだね。入ってきてくれ」

??「失礼するよ」

??「し、失礼します」

??「失礼します」

提督「三人……響を入れて四人か。名前を教えてもらえるか?」

??「ボクは時雨。響と一緒に入ってきた。よろしく頼むよ」

??「私は吹雪といいます!よ、よろしくお願いします、司令官」

??「五月雨といいます。よろしくお願いします」

響 「全員駆逐艦だ。吹雪は特型駆逐艦の1番艦、ネームシップだ。時雨は白露型の2番艦、五月雨も同じく白露型で6番艦だ。ちなみに私は特型駆逐艦22番艦、暁型2番艦だ」

提督「なるほど、キミたちがそうなんだな……」

時雨「提督、ボクたちに提督の事を教えてくれるかな?」

響 「そういえば、私も司令官の名前を聞いてなかったね」

提督「そ、そうだったな。俺はここに派遣された波野(なみの)……だ」

五月雨「波野……なんですか?」

提督「波野、い……」

響 「司令官?」

提督「依織(いおり)だ!波野依織」

吹雪「こ、これは……女性の方でしたか!俺とおっしゃってますし、司令官ってだけで男性だと思ってました!」

提督改め依織「思ってていいんだ!俺は男だ!」

吹雪「ひっ」

響 「落ち着いて、司令官。ほらっ、吹雪も落ち着いて。別に司令官も怒ってるわけじゃないんだから。そうだよね、司令官」

依織「あ、あぁ。悪かった。とにかく、俺は男だ」

時雨「ふふっ、わかったよ。依織提督、よろしく」

提督「波野といえ」

時雨「いいじゃないか。依織提督でも。そう思わないかい?五月雨」

五月雨「はいっ。可愛くて素敵だと思いますっ」

依織「そう思われるのが嫌なんだ……」

響 「時雨、これ以上からかうのはやめた方がいい」

時雨「ふふっ、ついね。でも、響も依織提督でもいいと思わないかい?」

響 「……私も、そう思うよ」

依織「響!?」


依織が声を上げるが結局響たちにより依織と呼ばれることになったのだった。



初めての戦闘



響 「どうだい?調子の方は、依織司令官」

依織「おかえり、響。もう少しで資料整理が終わるところだ」


依織がやってきて、数日。響を秘書官とし大量の資料を処理してようやくめどがたとうとしていた。


依織「それにしても悪いな。お前たちは本来なら戦闘がしたいだろうに」

響 「気にしなくていい。それに、もう少しなんだろ?」

依織「ああ。というより、すでに命令が下されている。響、悪いがみんなを呼んできてくれないか?」

響 「突然だな。了解した、司令官。行ってくる」


響は頷き提督室を退出する。館内放送も本来ならあるのだがまだ整備ができていなかった。数分後、吹雪、時雨、五月雨を連れ響が帰ってくる。


響 「司令官、全員そろったよ」

依織「ありがとう。さて、今回くだった命令をいう。まあ、俺も気になっていたことだからちょうどいい内容だった。明日、マルナナマルマル、鎮守府正面海域に出動。そこにいる深海棲艦をたたき警備を強化する」

響、吹雪、時雨、五月雨「はい!」

依織「旗艦は響。随伴艦に吹雪、時雨、五月雨、全員でたたく」

時雨「全員で?ここの警備はどうするんだい?」

依織「そのことだが、新たな艦娘が建造された。そいつに任せる。入ってきてくれ」

??「失礼するで」

依織「紹介しよう。陽炎型3番艦、黒潮だ」

黒潮「黒潮や、よろしゅうたのむで」

響 「司令官、聞いてないぞ?」

依織「お前らが演習している最中に建造したからな」

響 「……今後は私を通してほしい」

依織「わかったわかった。緊急だったんだ許してくれ」

響 「別に責めてるわけじゃないさ。とにかく、黒潮よろしく頼む」

黒潮「おお、任せとき。なんや、ここの警備しといたらいいんやろ?」

響 「あぁ。よし、案内しよう。五月雨、吹雪。案内してやってくれ」

五月雨「はいっ。黒潮ちゃん、行きましょう」

吹雪「よろしくお願いします、黒潮ちゃん」

黒潮「うん、頼むで」


黒潮を連れ去る2人。提督室には響、時雨、依織がのこる。


依織「……いったか。よし、響、時雨。お前たちに別途で頼みたいことがある」

響 「なんだい?」

時雨 「なにかな?」

依織「響は秘書艦兼旗艦として、時雨はうちのエースとして話す。五月雨と吹雪には時が来るまで秘密だ。いいな?」

響・時雨「はい」

依織「実はだな———」


依織が話す内容。それにこのふたりは驚愕せざるえなかった。




時がたち出撃予定時刻10分前。海上には響と五月雨がいた。


五月雨「初めての実戦ですね」

響 「そうだな。難易度は決して高くない。油断しなければ勝てるさ」

五月雨「だといいんですけど……」

時雨「おーい、2人とも。見回り終わったよ」

吹雪「異常はなかったよ」

響 「2人ともお疲れ様。よし、準備は整ったね」

五月雨「それじゃあ、もういきますか?」

響 「いや、もうそろそろ来ると思う。待っててくれ」

吹雪「来るって、黒潮ちゃんのこと?」

五月雨「あれ?でも、警護といっても、海上に出る必要性は無いですよね?」

時雨「すぐわかるさ。って、来たみたいだね」

依織「すでにみんな来ていたか。早いな」

五月雨「えっ、ええええ!?なんで提督がいるんですか!?」

吹雪「ど、どういうことですか!?」


慌てる2人。海上に浮く原理は既に艦娘の解析などにより水上歩行ブーツとして軍事利用がされていることは2人とも知っているらしく依織が浮いていることには疑問がなかったようだ。だが、だからといって依織がやってくる必要性など無いはず。黒潮とともに鎮守府にいるはずでは、と疑問が駆け巡る。


依織「今回の任務は俺も付き添う。少し、訳ありでな」

五月雨「訳って……あ、危ないですよ!」

吹雪「そうですよ!」

依織「わかってる。だけど、それも使命なんだ。とにかく、行くぞ」

響 「2人とも、驚く気持ちはわかるがここは我慢してくれ。それより、出撃の時間が迫っている。行こう」


響に促され12時の方向に進む面々。敵出現地に到着するまでの間に、五月雨たちは依織にあれこれ尋ねるがのらりくらりと質問がかわされる。


依織「この辺りだな……」

吹雪「何も聞けて無いのに……。依織司令官。後できちんと説明してくださいね」

依織「分かっている。それより、来るぞ」

吹雪「えっ?」


依織の声とともに奥地から深海棲艦が現れる。


響 「駆逐二体、旗艦に軽巡か。単縦陣だ。さて、やりますか」

時雨「ここは譲れない」

吹雪「当たってー!!」

五月雨「たぁー!!」



響の声とともに動く面々。依織は一歩引いて彼女達を眺める。

敵の砲撃をかわし出撃前に身につけた艤装で砲撃を返す。初めての戦闘にしては十二分に動けており日頃の練習の成果がよく現れていた。


五月雨「もうっ!…なんでぇ?」

響 「五月雨!時雨、リカバリー頼む」

時雨「うん」


砲撃を受け中破した五月雨を守る時雨。


吹雪「いっけぇ!」


吹雪の砲撃が敵軽巡艦にあたり大破にまで追い込む。続けて時雨、響もまた砲撃を当てを一体を大破、残り一体を中破する。


吹雪「よし、あともう少し」

響 「このぐらいでいいかな。みんな砲撃を止めるんだ」

吹雪「えっ、どうして!?」

五月雨「わ、私なら大丈夫ですよ」

響 「違う、そうじゃないんだ。依織提督。任せるよ」

依織「よくやってくれた。後は俺の仕事だ」


依織は水上スキーで彼女らを抜き去り深海棲艦の前にでた。


吹雪「な、なにしてるんですか!?」

五月雨「危ないですよ!」

時雨「いいから。見ておきなよ。ボクもどうなるかはわかんないけどね」


慌てる2人を宥め時雨は依織たちをみる。敵駆逐艦は依織に砲撃を定めようとしている。だが、その時。依織の瞳が青く光り波紋があらわれる。


五月雨「これは……」


驚く五月雨。吹雪は状況が付いてこれないらしくポカンとしている。響と時雨もまた初めて見る神秘的光景に驚いているようだった。


依織「君の想いはなんだ?どうして、戦いを止めない?」


依織は語りかける。決して和解など出来ないはずの、深海棲艦に。


??「届ケル……行カナキャ」


声が全員の脳内に響く。その声の正体は状況的に考えても、消去法でも分かる。間違いなく、深海棲艦の声だった。


依織「それではわからない。君はどう思っているんだ?」

??「イカナキャ。右舷、魚雷……イタイ。潜水艦。サセボへ……死ナセナイ」


ガチリと砲撃を依織に向ける深海棲艦。響達に焦りが見えたが依織が手を横にあげ響達を制した。


依織「佐世保、潜水艦、右舷。そして軽巡……そうか、キミは長良だな?」

吹雪「司令官、なにいってるんですか……?」

依織「軽巡洋艦、長良型1番艦、長良!君がいる戦いは終わっている!俺たちは知らせに来たんだ!終わりを」

??「オワッタ……?ウソ、砲撃……受ケタ!」

依織「ウソならどうして、砲撃を止めた?どうしてキミに話しかける?終わったんだ、長良。俺たちはキミを解放しに来たんだ。もう、佐世保に向かう必要性は無いんだ」

??「終わった……、戦わなくて、いい?」

依織「ああ。そうだ。軽巡洋艦長良!想いは受け取った!今こそ、羽衣を捨て俺たちの元に来るんだ!」

??「オワ……リ」


プシュンと音を鳴らし深海棲艦の体から青い光りが現れる。そして、駆逐二体は消え去り、旗艦を務めていた軽巡一体が女の子へと姿を変えて依織によりかかった。眠っているようで、目はとじていた。


五月雨「今のは……」

依織「俺の能力、浄化だ」

吹雪「浄化……?」

依織「ああ。帰りながら話そう」


依織は女の子を背負い鎮守府へと踵を返した。

そこで話される依織と、そして深海棲艦の真実。

深海棲艦は過去の戦争で活躍していた実際の軍艦の想いが具現化したものだ。そして深海棲艦はその想いのまま、本能のまま終わらない戦いに身をとうじているのだ。そして、それを発見したのが依織である。


依織「俺は幼い頃に深海棲艦に襲われたことがあるんだ。その時、顔の半分をやられた」

時雨「大丈夫だったのかい?」

依織「大丈夫じゃないさ。大怪我だ。だが、なんとか一命をとりとめた。それ以降、この力に目覚めたんだ。物の気持ちが聞こえる、そんな力に」


日本でいう九十九神のようなものだと付け加える依織。物にやどった想いを確認する力に目覚めた依織はその後、深海棲艦に対してこの力が多く働くのを見つけ出し、そしてとうとう捕らえる事に成功していた深海棲艦との対話を行いこの事実に気づけたのだという。そして、想いを浄化できた深海棲艦は艦娘へと変貌したのだというのだ。因みに、旗艦がその軍艦の想いの本体であり、随伴艦は想いの欠片で旗艦によって操られている存在である。


響 「それじゃあ今背中いるのは」

依織「ああ。長良だ。ただし、深海棲艦として戦ってきていた記憶はないがな」

吹雪「うぅ。なんだか、訳がわからなくなってきた……つまり?」

依織「深海棲艦は沈んだ軍艦の想い。そして俺はその想いと対話できる唯一の存在。そう認識しておけ」

吹雪「はい」

五月雨「あれ?ということは、私たちって?」

依織「艦娘については謎な事がおおい。最初に発見された艦娘は海上に浮いていたらしい。そこから様々な研究も重ねられ建造も出来るようになったんだと。お前らは建造産だ」

五月雨「へー、そうなんですか」

響 「司令官、一つ質問いいかな?」

依織「なんだ?」

響 「どうして、わざわざ浄化するんだい?危険をおかしてまでする必要性はないんじゃないのかい?」

依織「……それだと意味がないんだ」

響 「どういうことだい?」

依織「深海棲艦との戦いによりどんどん敵を撃破していってる。しかし、深海棲艦は減るどころかどんどん増えていくばかりだ。その理由は復活するからなんだよ」

響 「なんだって?」

依織「言っただろ?深海棲艦の正体は想いだと。想いが消えない限り、どれだけ撃破してもいずれ新たな羽衣を身につけた復活するんだ。俺たちが見るあの姿は仮の姿に過ぎないんだよ」

響 「なるほど……。つまりは根元を解決しない限りダメだというわけか」

依織「ああ。まあ、復活までに時間がかかるから時間稼ぎにはなるがな」

五月雨「ところで、提督。どうして時雨お姉さんと響ちゃんには教えていたのに私達には教えてくれてなかったんですか?」

吹雪「あっ、そうです!どうしてですか!?」

依織「あ……あぁ。いや、事情が事情だろ?どうだ、俺の命令だとしてもお前らは俺が戦いに行くと前日から知っていたらどうしてた?」

五月雨「それは……」

吹雪「止めてたと思います……」

依織「だろ?だからだ。と、到着。五月雨は入渠してこい。ほか3名は長良を頼む。その後は自由にしてくれ」

依織は指示を出して初めててそれに返事をする面々。初めての戦いはこうして幕を閉じたのだった。



つながり



長良「改めまして、軽巡、長良です。よろしくお願いします!」

執務室で敬礼をする長良。依織の隣では秘書官である響が、そして長良の隣には黒潮が控えていた。

依織「ああ、よろしく長良。それと、黒潮もだが響から聞いてるか?俺の能力について」

黒潮「おお、きいてんで。なんやすごいところに建造されたなって思ってるわ」

長良「はい……聞いてます」

依織「どうした?長良?」

長良「響ちゃんから聞いたんですけど、私皆さんを攻撃してたとか」

依織「ああ、仕方ないことだ。深海棲艦だったんだからな」

長良「ですが……!」

依織「……ふう。やっぱりそうなったか。響の言うとおりだな」

響 「当たり前だよ。まだ少ししか話してないけど長良さんは責任感が強そうだったからね」

依織「そのようだな。長良」

長良「は、はい!」

依織「俺たちは誰も気にしてない。だけど、それでも長良が気にするというのなら……彼女に謝れ」


ひょっこりと依織が座する提督の机の裏から五月雨が顔を出す。いままでずっとそこに隠れていたようで長良は非常に驚いていた。


依織「聞いてるだろ?実質お前が傷つけのは五月雨だけだ。五月雨が許せばそれ以上怒る権利は誰にもないんだ。長良……」

長良「はい。五月雨ちゃん……ごめんなさい!」

五月雨「あっ、えっ、えっと。べ、別に気にしてませんよ!それに私達だって長良さんに攻撃していたわけですし……お互い様です」

長良「五月雨ちゃん……」

五月雨「あっ、そうだ。それじゃあ、今度お休みの日に一緒にお出かけしませんか?それでチャラということで!」

長良「お出かけ……そんなのでいいの?」

五月雨「もちろんです!」

黒潮「なんや、面白そうな話やな。ウチも仲間に入ったらアカンか?」

五月雨「そんなことないですよ。そうだ、響ちゃんも一緒にどうですか?」

響 「私は……そうだな。それならみんなで行こう。ね?依織司令官」

依織「そうだな。それじゃあ明日お前たちに休暇を与える。ちょうど明日物資輸送の船が来るから行きはそれに乗るといい。帰りは自力になるが……まあ、大した距離じゃない。30分もすればつく距離だ」

五月雨「なに言ってるんですか、依織提督?」

依織「は?」

響 「そうだね。私はみんなでといったんだよ」

依織「だからお前たちで……って、もしかして俺も!?」

五月雨「当たり前じゃないですか」

依織「し、しかしだな」

長良「ダメ……でしょうか?」

依織「あっ、うっ

黒潮「あ~あ。指令はん、泣かせたな」

依織「くっ……わかったよ!行くよ」

五月雨「やったー」


こうして出かけることとなった依織たち。時雨たちもこの報告に喜びを示した。楽しみにしている時間というのは意外と早くすぎるもので例の物資輸送船が午前7時に現れそれに乗り込む。依織は帰りのこともあるので水上歩行ブーツも持っていた。


五月雨「わー、すごいすごい!」

依織「危ないぞ、そんなに身を乗り出したら」

五月雨「大丈夫ですっ……キャッ!?」

依織「さっそく転ぶか。大丈夫か?」

五月雨「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

依織「というか、お前ら毎日海の上にいるだろ?」

五月雨「でも、自分で歩行するのとは全然違うんです!ね、時雨お姉さん」

時雨「そうだね。といっても、五月雨ははしゃぎすぎだと思うけど」

五月雨「あうっ」

響 「長良さん、どうだい?」

長良「うんっ、楽しみ。早く着かないかな」

黒潮「長良はんも元気やなー。ちらっと見えたんやけど、長良はん朝走ってなかったか?」

長良「え、うん。なんだか走りたくなって」

吹雪「健康的ですね。素敵です」

依織「そうだな。足の筋肉とかも程よくついてるみたいだしな」

長良「足のって、キャッ!?」

響 「……依織司令官?」

依織「な、なんだよ?そんな怖い声だして」

響 「今のはセクハラだよ?」

依織「セクハラって……これぐらいで。別にお尻の筋肉がーとか言ってないんだしいいだろ?」

時雨「そんなふうに言うってことは長良さんのお尻を見ていたということだね」

長良「あうっ」

響 「…………」

吹雪「司令官さん」

黒潮「うわぁ」

依織「お、お前らな!」

五月雨「提督さん……短いお世話でした。憲兵さん追問頑張ってください。119と」

依織「待て待て!謝るから!というか119番だと救急だ!」


何とかなだめる依織。そんなドタバタ騒ぎをしている間に陸地につき、結局全員に昼食を奢ることで決着がついた。


依織「全く……なんでこうなるんだ」

響 「自業自得という言葉をしってるかい?」

依織「はいはい。俺が悪かったよ」

響 「反省しているのかい?」

依織「ああ、してるとも」

時雨「ふふっ。それぐらいにしといてあげなよ。依織提督も困ってるみたいだし」

依織「というか、とどめをさしたのは時雨の発言だよな」

時雨「元をたどれば依織提督のセクハラだろ?」

依織「くっ……」

五月雨「提督ー、響ちゃーん、時雨お姉さーん。早く行きましょう」

依織「五月雨は元気だな」

響 「一番楽しみにしてたからね。さぁ、行こうか」

依織「おう」


先行する五月雨たちに追いつく三人。その後巨大なショッピングモールへと辿りつき店を回る面々。そんなことをしていたらすぐに昼の時間になる。


依織「うぅ……、疲れた」


机に突っ伏す依織。長良の希望でイタリアンレストアンへと入ってすぐ出された水を一気に飲みこうなった。


時雨「意外と体力ないんだね」

依織「お前らが元気すぎるだけだよ」

響 「司令官は今後、長良さんと一緒に走ったらどうだい?」

依織「ああ……それも、いいかもな。お前らの作戦には俺も必ずついていくわけだしな」

長良「でしたら、一緒に走りましょ」

依織「そうだな。ちなみに今日はどれぐらい走ったんだ?」

長良「今日は初日だったんで5キロほどです」

依織「ごめん、パス」

長良「えぇ!?そんな」

依織「5キロてお前……」

時雨「あれ~、提督。発言を覆すのかい?」

黒潮「男らしくないなぁ」

依織「しかたねえだろ!こんなの聞いてねえよ」

吹雪「でもでも、嘘はよくないと思います」

五月雨「嘘はよくないですよね」

依織「ひ、響~」

響 「セクハラ発言の罰と合わせて一週間付き合ってみたらいいんじゃないかな」

依織「そんなぁ」

ガクッと頭を垂れる依織。その様子に艦娘たちは笑い声をあげた。楽しい休日だなと響は心で思いながらこれからの予定に思いをはせるのだった。




次ぐ想い




依織「任務を再確認する。南西諸島沖に接近する敵前衛艦隊を捕捉、迎撃せよ。旗艦を響とし、以下時雨、黒潮、五月雨、長良、そして俺で海域に出撃する」


依織は海の上で今回の任務について語る。艦娘たちは返事をして応える。居残り組の吹雪は今回は鎮守府中心の警護に当たる予定だ。



依織「よし、それではいこうか」

響 「みんな行くよ」



響が動き出す。それを依織たちは後を追うように走り出す。



黒潮「それにしても、司令はんも一緒に出撃なんて変な話やな~」

依織「これがこの鎮守府では普通になるんだ。慣れろ」

時雨「慣れでどうにかなるものでもなさそうだけどね。そもそも依織提督がいることで戦闘にも気をつけなくちゃならないわけだし」

依織「……前から思っていたが、時雨は意外と毒舌家だよな」

時雨「そんなことないさ。事実を言ってるだけだよ。事実を認識できなきゃ死、あるのみだからね」

依織「……時雨?」

時雨「ふふっ、なんでもないさ。それより長良さん。初めての出撃だけどどうだい?」

長良「えっと、とりあえず頑張ります。それに黒潮ちゃんも初めてだよね」

黒潮「そうやね。まあ、長良はんより演習は多くしていたけど」

五月雨「私より的に多くあててますよね」

黒潮「それは五月雨がよう外してるだけやけどね」

五月雨「うぅ……」

時雨「というより五月雨は誰かとぶつからないように気を付けるべきだね」

五月雨「時雨お姉さんまでぇ……」

響 「……みんな喋りすぎだよ。それより」

依織「ああ。来たな。ここに浄化すべき艦はいない。全員随伴艦だ。叩け!」

響「単縦陣で行くよ!」

黒潮「ほな! 砲雷撃戦、開始や!」

長良「長良の足についてこれる?」



攻撃を開始する面々。敵は軽巡1に駆逐2。

敵の砲撃や魚雷をかわしつつ返しの砲撃を行う。依織はその戦闘を少し離れて見守る。



依織「今回は軽巡洋艦か」



依織は呟く。すでに司令本部からの情報により今回浄化すべき深海棲艦が軽巡ヘ級であることを伝えられていた。依織は考えを巡らせる。今回の軽巡はどのような過去を持つのかを。


依織「戦ってみなくちゃだな」

響 「依織司令、終わったよ!」

依織「ああ。ご苦労様。長良も黒潮も初の実戦のわりによかったじゃないか」

黒潮「ありがとな」

長良「はい、頑張りました」

響 「とりあえず、一戦目だが。司令官、敵主力部隊はどこにいるんだい?」

依織「もうそろそろ現れるはずだ。行こう」

時雨「了解。いこう、みんな」



時雨の声掛けに頷き走り出す。依織の発言通り敵主力部隊は走ること10分で現れた。



依織「敵旗艦、軽重ヘ級を大破まで追い込み、、随伴艦である雷巡一体、、駆逐三体を中破以上に追い込め! 」

響 「命中重視で行くよ。複縦陣だ」



響の命令に返事を返す。



依織「この時間が一番嫌だな」



呟く依織。戦闘能力を持たない依織にとってすればこの時はただ祈るばかりだ。もし砲撃を受け轟沈してしまえば……。

だが、戦う彼女たちの姿を見て考えるのは愚問だと頭を振った。


時雨「当たった…っ?」

黒潮「うわっ」

響 「……小破か。大丈夫かい?」

時雨「うん、大丈夫だよ。それより、あともう少し!」

長良「これで、決める!」



長良の砲撃によりとうとう軽巡ヘ級が大破し動きが鈍くなる。それを見てすぐ依織が出てくる。



依織「よくやった!後は任せろ……」

長良「……これが」

黒潮「司令はんの能力っちゅうわけか」



始めてみる長良と黒潮は驚きながらこの神秘的情景を眺める。

だが、それと同時に五月雨が急に頭を押さえた。



五月雨「えっ……。うんっ」

時雨「五月雨?どうしたんだい?」

五月雨「なんだか、変な気持に」

響 「依織司令?」

依織「俺にもわからん。とりあえず、浄化を開始する。五月雨の身に異変が起きたのなら時雨、長良でともに一度帰港しろ。よし……お前の正体は、なんだ?」

??「グゥゥ……」

依織「想いは、願いは?いったいなんなんだ?」

??「イカナキャ……連レテイッテ」

依織「連れて行く?だれに?」

??「……魚雷、受ケタ。曳航……。サミ、ダレ」

五月雨「えっ……?うっ。これ、は?」

時雨「五月雨?どうしたんだい、五月雨?」

依織「まさか……共鳴?」

響 「なんだい、それは?」

依織「……説明は、後だ。五月雨を連れてきてくれ」

時雨「提督!今、五月雨を出すのは」

依織「俺を信じろ!」

時雨「……わかったよ。五月雨、いくよ」

五月雨「うん……」

依織「……おい。お前の正体は、夕張、だな」

五月雨「夕張、さん?……っ!この感覚」

依織「ああ。五月雨、キミが戦争時代曳航し、途中で沈んでしまった軽巡だな。夕張は」

??「沈ミ、タク……ナイ」

依織「……五月雨。感じるだろ?気持ちが」

五月雨「はい」

依織「それは、相手、夕張にとっても同じだ。会話をして浄化してやてくれ」

五月雨「ど、どうやって」

依織「今の想いを伝えるんだ。俺たちが敵じゃないと、助けに来たと」

五月雨「……はい。あの、」

??「ぐぅぅ」

五月雨「……あの!私達は、貴方たちを終わらない戦いから解放すべく来ました。貴方の想い、願いは感じます」

??「……」

五月雨「夕張さん、ですよね。なんとなく、懐かしい感じをうけます。私、夕張さんともっとお話ししたいです!」

??「……アエ、タ……。マタ」



そう深海棲艦がつぶやくと体から青い光を発し、消えていく。



黒潮「これが、浄化か」

依織「あぁ……よっと。彼女が俺が連れて帰る」

時雨「……提督、それより説明を早くしてくれるかな?」

依織「あ、ああ。というか、怒ってるのか?」

時雨「別に。早く説明をしてほしいだけさ」

依織「わ、わかったわかった」

響 「時雨、落ち着いて。司令官、それで共鳴って?」

依織「共鳴というのは、戦時中艦どおしでかかわりがあったものが俺の力を使った際近くにいたときに起きる現象だ。今回で言えば、五月雨とコイツ、夕張には関係があった」



そして関係があったもの通し強い絆が産まれることがあると付け加える。

それにより、より強い想いが言の葉として影響する。だからこそ浄化がしやすいのだと。



時雨「ふ~ん。そうなんだ。というか、それぐらいならさっきのところでも十分説明できたと思うけど」

五月雨「ま、まあまあ。時雨お姉ちゃん。結局うまくいったんだしね」

響 「そうだよ」

時雨「それも、そうだね」

依織「それにしても、時雨は意外に妹想いなんだな」

時雨「そんなことないさ。誰かが沈む姿を見たくないだけさ」

五月雨「だけど、時雨お姉さんはいつも優しいんですよ!」

時雨「さ、五月雨!」

長良「それに、なんだかんだで司令官さんのこと褒めてますもんね」

依織「そうなのか?」

時雨「ちがっ……。もう、好きにいなよ」

響 「全く、時雨は素直じゃないよね」


鎮守府の休日



依織「夕張もずいぶんここになれたようだな」


執務室から窓の外を眺める依織。そこには五月雨、吹雪とともに遊ぶ夕張の姿があった。夕張がこの常夏の鎮守府にやってきた一週間がたっていた。そして今日は久々の休暇を全員に与えていた。むしろ今までが忙しすぎたわけなのだが。


依織「俺もゆっくりしようかな」


依織は執務室を離れ太陽の元に急ぐ。歩くと少し汗が出てくる。


長良「あっ、依織司令官」

依織「おう。というか、今日は休みを言い渡していたはずだが……」

長良「?休んでますよ。そうだ、司令官も一緒に走りませんか?」

依織「い、いや、遠慮しておく」

長良「そうですか?それでは」


たったったと軽快な音をたてて走り去る長良。依織はつい昨日まで例の約束を守らされ一緒に長良とともに走らされていた。そのことを思い出し苦笑いをしながら歩くと島の桟橋のようになっているところに時雨がいた。


依織「なにしてんだー、時雨?」

時雨「なにって、見て分からない?釣りだよ。こんな何もない島だったらこれぐらいしかやることがないからね」


振り向きもせずに答える時雨。桟橋を歩く音で依織が来ていることに気づいたらしい。


依織「いや、それはわかるが……。というか釣れるもんか?」

時雨「まあね……よっと」

依織「おぉ。本当だ。これは……」

時雨「アジだね。なかなかのサイズだ」

依織「てか、俺さばけねえぞ」

時雨「ボクがさばけるから安心してよ。これぐらいのサイズだったらお刺身もできそうだ。提督も食べれるよね、お刺身?」

依織「ああ。食えるぞ」

時雨「そっか。五月雨と響、黒潮、長良さんも大丈夫あったはずだから……依織提督」

依織「ん?」

時雨「よかったら夕張さんにもお刺身とか魚料理が嫌いじゃないか聞いてくれるかい?」

依織「上司にパシらせるわけか?」

時雨「よかったら、だよ。まあ、提督が意地悪で女々しい男じゃないなら行ってくれると信じているのが艦むすだけどね。女々しくない、とね」


意地悪気に微笑む時雨。女と思われることを嫌う依織にとって女々しいと思われることが嫌だとわかっての犯行だろう。

依織「……お前な。はあ、わかったよ」

時雨「ふふっ、よろしくね」

依織「タクッ」


悪態をついて桟橋から撤退する依織。日を重ねるごとに時雨を負かすことはできないと納得させられながら執務室から眺めた際に見つけた砂浜にいる夕張達の元へ行く。


依織「よっ、お前ら」

夕張「提督さん、こんにちは」

五月雨「こんにちはです!」

吹雪「こんにちは」

依織「なにしてたんだ?」

夕張「ただの砂遊びですよ」

依織「……そうか」


夕張の後ろにある彫刻レベルの砂のお城に若干引く依織。夕張はこの鎮守府に来てからずっと、艤装の手入れやその他機械仕掛けのものの整備もしていたがこういったものにまで才能があるとは驚きだった。


五月雨「すごいんですよ、夕張さん!」

吹雪「本当に!これもあっという間に作ってしまったんです!」

依織「いや、言われなくてもすごいのはわかるよ」

夕張「いやー、なんか照れますね」

依織「ほこれるレベルだよ、これは。それより、夕張に質問だが刺身は食えるか?特に光物……アジなんだが?」

夕張「お刺身ですか?食べれますけ」

依織「なら、よかった。実はさっき時雨にあってたんだが、そこで釣りをしててな。そこで釣った魚食えるか気にしてたみたいでな」

夕張「そうだったんですか。私は大丈夫ですよ」

依織「みたいだな」

五月雨「時雨お姉さん、もしかして一人で、ですか?」

依織「ん?あぁ、そうだが」

五月雨「時雨お姉さん一人が好きなのかな。よく一人でいるんですよ」

吹雪「もともと時雨ちゃんは一人が、というよりみんな一緒に遊ぶって感じのそこまで好きじゃないもんね」

依織「言われたらそうだな……。まあ、嫌いというわけではないんだろ?」

五月雨「はいっ」

依織「なら気にすることもない。そういう優しさは時にウザったく思われるものだ」

五月雨「ウザ……」

夕張「提督、少し言葉を選んでください」

吹雪「そうですよ」

依織「えっ、あ、あぁ……。わ、悪い」


慌てて謝る依織。どうも自分は知らず知らずのうちに地雷を踏んでしまうらしい。ともかく刺身の有無を調べたところで時雨の元に引き返そうと歩いていると。


黒潮「司令はんは女の気持ちっつうもんがわかってないんやなー」

依織「うくっ。黒潮か。ほっとけ」

黒潮「ほっとかれへんなー。他の鎮守府は知らんけど、ここの鎮守府に限っては司令はんとウチらのコミュニケーションは必須やしなぁ」

依織「航海にあたって迷惑をかけてるつもりはないんだが」

黒潮「今はな。いややでぇー。戦闘中にウチらと指令はんがギスギスしたままなんか」

依織「分かってるわかってる。お前は姑か」

黒潮「子どもも産んどらんわ」

依織「はいはい。それより時雨のところに行こうとしてたんだが」

黒潮「話はきいてたで。代わりにウチが行って来るわ。どんなん釣ってんのかも気になるからな」

依織「そうか、頼んだぞ」

黒潮「おう。頼まれたでー」


後の事を黒潮に任せると特にすることも無くなった。どうしようかと思ったが少し歩いた際にかいた汗を流す意味でも風呂にでも入ろうと鎮守府内に入る。女の子ばかりのこの鎮守府ではそう長く風呂に入ることもできなかったので久しぶりにゆっくりしようと考えた結果だ。自分の部屋から下着の着替えとタオルを持って風呂場へと向かう依織。


依織「艦娘風に言うなら入渠か」

響 「えっ?」

長良「え?」

依織「……えっ?」


硬直する三人。響は上半身を脱ごうとしている姿で、長良はタオル以外何も身に着けていない姿で依織をみつめ、依織はそんな二人を茫然と見つめる。硬直の時間はおよそ3秒。だが、やたらと長いものに感じさせた。


長良「きゃっ―――」

響 「長良さん!静かに。司令官もいつまで見てるつもり?」

依織「あっ、わ、悪い」


依織は慌てて扉を閉める。


長良「響ちゃん」

響 「ごめんね。ただ、司令官の威厳を保たせるのも秘書官の役割だから」

長良「気にしてないよ私も取り乱しちゃったし。だけど……」

依織「悪い悪い。まさか先客がいてたとは思わなくて」


扉越しに会話する。声音だけで判断するしかないが怒っている様子はなさそうだった。


響 「ところで、依織司令?」

依織「なんだ?」

響 「あすから一か月長良さんにつきそってジョギングね」

依織「ちょっ!?」

響 「文句でもあるのかい?」

依織「……ないよ」


ため息を吐いて今日以上に汗をかく日が多くなりそうだと感じる依織だった。



提督と時雨の想い



依織「どういうことですか!?元帥殿!」

元帥「先ほどの命令どおりだ」

依織「無茶です!その任務を受けるわけにはいきません!」

元帥「受けられない受けれるじゃない。やるんだ。報告は以上だ」

依織「元帥!げん……くそっ!」


依織は机をたたく。今や持ってない家庭も珍しくない固定電話の受話器を置き悪態を吐く。


響 「司令官。なにか大きな音が聞こえたけどどうしたんだい?」

依織「響か……少しやっかいなことになってな」

響 「厄介なこと?それはなんだい?」

依織「……東部オリョールは知っているな。そこから少し外れた所にレイテ航海線というものがあるんだ。そこは深海棲艦があまりいない場所なんだが……どうやら何かに引き寄せられるように想いを宿している艦が合計6体いるらしい。そいつらの浄化を任されいてる」

響 「ばらけさせることはできないのかい?」

依織「不可能だ。既にほかの鎮守府が行ってなんどか轟沈させたらしいがすぐに復活するらしい。まるで不死身だ。俺たちが行かない限り、制圧するのは無理だろう」

響 「それでもいつかいかなければならないんだろう?なら行くしかないさ。」

依織「そうだな」

響 「それじゃあ、編成を考えるよ。いつも通り、私を旗艦として……火力がほしいから長良さんと夕張さん……司令官もいるからあと二人。経験でいうならば吹雪と時雨かな」

依織「待った。時雨を抜いて五月雨か黒潮のどちらかだ」

響 「……それは賛同できないかな。自分で言うのもなんだけど時雨は私より活躍している。どうしても五月雨、黒潮をいれたいのであるならば私が抜ける」

依織「ダメなんだ。今回は時雨を連れていくわけにはいかない」

響 「なにか訳がありそうだね」

依織「…………」

響 「私にも話せないことなのかい?」

依織 「……いや、お前を信じて話そう。実はだ……」


依織は語る。今回の任務がどのようなものなのかを。どうして時雨を連れていけないのかを。


響 「……わかった。でも、それがそんなにダメなことなのかい?以前はプラスに働いたように思うけど」

依織「想いというのは、強い方に傾くんだ。今回の場合、どちらが強いかは、明白じゃないか?」

響 「特に時雨はそうかもね」

依織「どういうことだ?」

響 「なんでもない。気にしないで。それより、みんなを読んでくる。時雨の変りは五月雨に勤めさせよう」


響は全員の部屋を周り召集をかける。唐突の招集にやや戸惑いを見せるも大人しくついてくる艦娘たち。全員が執務室に入る。


依織「緊急の任務がはいった。キミたちには急遽明朝に出撃してもらわなければならない。出撃メンバーは旗艦響、随伴艦に長良、夕張、吹雪、五月雨でいく。黒潮、時雨は警備に当たってくれ」

時雨「待って、提督!今回の任務は緊急……つまりはそれなりの難易度なんだろ?戦果で考えるならボクを入れたほうがいいんじゃないのかい?」

依織「いや、五月雨で大丈夫だ」

時雨「慢心しているつもりはないけど、それでもボクと五月雨だったらボクの方がいいんじゃないのかい?」

五月雨「そう、ですよ。私、ついていっても迷惑をかけるだけなきがしますし。なにより、時雨お姉さんの火力や命中率は私より上です」

依織「五月雨は前回の任務……夕張の件で役に立つことは証明済みだ。そして私はそんな五月雨で十二分に活躍できると判断した」

時雨「あの時も提督は、なにも話さずに五月雨にいかせたよね?今回は急遽といえども明日の朝まで時間はある。理由を聞く時間はあるよ」

依織「理由はいったはずだ。五月雨で十分だと判断した。それだけだ」

時雨「だったら……どうして場所を教えてくれない!いつも提督はどこに出撃するかを伝えたうえで作戦内容を言ってたよね?なにか隠し事があるんじゃないのかい?そんな隠し事をしている提督に五月雨を任せるわけにはいかないよ」

依織「…………」

時雨「なにかいったらどうだい!」

黒潮「司令はん。ウチは司令はんを信じるで」

時雨「なっ、黒潮!」

黒潮「このまま時雨はんを無理やり行かしても司令はんとギクシャクして戦闘の支障をきたすやろうしなぁ。前、司令はんとも話してんけど、そんなんはいややでぇ」

長良「時雨ちゃん。司令官になにか考えがあるのは確かだよ。落ち着いて」

夕張「えっと……私は入ったばかりだからよくわかんないけど、提督さんを信じてみるってのもいいかなって……あはは」

時雨「……くっ」

響 「これで決まりだね。黒潮と時雨は戻って。残りのメンバーで詳しい打ち合わせをしよう」

黒潮「ほな、いきまひょうか」

時雨「待って。せめて聞かして。今回、どこに行くんだい?」

依織「……レイテ航海線だ」

時雨「……わかった。敵の数は?」

依織「そういったことは出撃メンバーで話す。お前たちに教えることはできない」

時雨「わかったよ。じゃあ、1つ宣告しとくよ。もし五月雨に、みんなに何かあったら、ボクは提督を許さないから。そんなことにならないようにボクなりにも頑張るよ」


時雨は射抜くように依織を睨むと執務室を出て行った。後には黒潮も続く。


依織「全く、上官に向ける目ではないな」


息を吐くと依織は全員に今回の作戦内容を説明した。

説明を終え時間が過ぎ深夜。鎮守府出撃用出入り口にて。


??「大丈夫そう、だね」

響 「なにが大丈夫そうなんだい?」

??「っ!」

響 「どこに行くきだい?時雨」

時雨「……響にはかなわないね」


そっと明かりをつけ響と時雨が対面する。


響 「それでどこにいくつもりなんだい?」

時雨「言ったじゃないか。ボクなりにも頑張るよって」

響 「まさかとは思ったけど、なにかしらつかんでいるようだね」

時雨「響こそ。前から薄々感づいていたけど、ボクと同類みたいだね」

響 「私達に鎮守府に暁や雷、電がいないのはよかったことなのか、ダメだったことなのか」

時雨「やっぱり、覚えているんだね」

響 「五月雨たちは艦隊だったころの記憶は奥底に沈んでいるみたいだけどね」

時雨「ともかく、響はわかるはずだ。行かしてほしい。これは、ボクが行かなきゃダメだ!」

響 「……時雨」

??「はあ、響に言われ待ち伏せていたがそういうことだったのか」

時雨「いつまでそこで隠れているのかと思ってたんだけどね。依織提督」

依織「流石に聡いな」

時雨「提督も、止めるつもりかい?」

依織「当たり前だ。お前に行かせるわけにはいかなかったからな。今回の浄化するのは明らかにコイツらだからな。山城、扶桑、山雲、満潮、朝雲、最上だろうからな。お前が所属していた西村艦隊だ」

時雨「レイテの段階で読めていたよ。それにボクを執拗にさけようとしていたからね」

依織「上官として俺はお前を連れていくわけにはいかないが……」

時雨「提督!」

依織「……五月雨には後から時雨が謝れよ。俺はしらねえから」

時雨「……うんっ。ありがとう。どうしてもつけたかったんだよ、ケジメを」

響 「全く……振り回されただけだね、私は」

依織「あはは……そうだな」


想いの戦い



レイテ航海線鎮圧任務、作戦決行日。マルヨンマルマル。天気は何かを暗示するかのような雨だった。


時雨「よくない雨だ」


空を睨む時雨。雨を好む彼女でも今日ばかりは晴れを望んでいた。


依織「時雨、約束は覚えているな?」

時雨「無理はしない。共鳴を感じ、飲まれそうになったらすぐに引く。これでいいだろう?」

依織あぁ。正直言えば今でもお前は連れて行きたくないんだがな」

時雨「戦闘においての足手まといさんには言われたくないな」


お互いに毒を吐き合う。


響 「ふわっ」

長良「あれ?響ちゃん、朝弱かったっけ?」

響 「そんなことはないさ。ただ、昨日は素直じゃない、意地っ張りな似た者同士の話し合いに巻き込まれてね。眠れなかったんだ」

吹雪「えっと……」

依織「こっちをみるな」

時雨「こっちを見ないで」

依織・時雨「吹雪!」

夕張「なんだかんだで仲良いわよね」

響 「はぁ。ともかく、行くよ。司令官は一番後ろにいてね」

依織「ああ」


響に促され足を進める。これではどちらが司令官かわかったものではない。

目的地は元々深海淒艦がいない地域。中途半端に敵に出会うこともなく、また、敵地近くに赴いても、思いの欠片が元になったものには復活に時間がいるらしく、出くわさない。その順調さが、逆に恐怖に近いものを与える。


響 「敵艦……発見」


群れをなす、6隻の艦。西村艦隊所属山城、扶桑、山雲、満潮、朝雲、最上。航空巡洋艦の一隻は最上で確定だろう。だが、戦艦2隻、駆逐3隻はどれがどれかはわからない。


響 「夕張さん。敵は轟沈させないように中破から大破を狙ってね。それじゃあ、単縦陣。いくよ!」


響の掛け声ととも敵の前に躍り出る。

吹雪、時雨の開幕の魚雷、計6。内2発が駆逐艦Aに、一発が戦艦Aに当たる。だが、中破にもいかない。


夕張「どーぉ、この攻撃はっ!」


間髪入れずに夕張の砲撃。響、長良も後を続く。

だが、深海淒艦側も砲撃を開始する。


時雨「くっ」


紙一重の攻防。砲撃し、される。

だが、一つの砲撃が吹雪に向かい放たれる。当の吹雪は砲撃を放ったばかり、動けない。


時雨「くっ、させない!」


ドンッ。


吹雪「きゃっ。し、時雨ちゃん!?」

時雨「大丈夫、さ」


明らかに大丈夫じゃない声音で告げる。

その隙を敵がミスミス逃すはずがない。戦艦は砲撃を、駆逐艦は魚雷を向ける。


夕張「やらせないんだから!」

長良「絶対、守って見せるんだから!」


航空巡洋艦が放つ爆撃機を迎撃していた夕張、長良がいち早く動く。砲撃は2人のより早い砲撃に邪魔され軌道がずれる。


響 「2人とも!」


響は2人を引き連れ魚雷の射線上から離れる。

ドンッと魚雷が爆破し水柱が立つ。もし、響の救出が遅れていたら、吹雪はともかく時雨は沈んでいたかもしれない。艦娘にとって、ダメージを受けるというのは痛みを伴わない。精神に傷がつき、それが限界を超えると渡航不可能となり、海の藻屑となる。その後の運命はわからない。抹消してしまうのか、それとも何かに生まれ変わるのか。


依織「だが、時雨は」


もう、1人での撤退は不可能だろう。そうなれ時雨の身に何かあった際には別の艦を随伴艦とし、連れて行ってもらう必要が出てくる。

砲撃が続く。互いに譲らない戦い。だが、条件が違う。相手はこちらを沈める必殺の動きなのに対し、こちらは沈めてはいけないという縛りがあるのだり


長良「きゃっ!」

吹雪「わわっ!」


相次ぐ被弾。依織は歯を噛み締め、そして決断する。


依織「もういい!後は私がやる!」

響 「司令官、だけど!」

依織「このままじゃ同じだ……一か八かやってやる!」


敵の状況は、戦艦一隻と駆逐一隻を除き中破以上まで押し込むことができていた。不可能ではないとふむ。

能力を発揮する。


依織「聞け!お前ら!」


依織の声は響く。


依織「戦い半ば……時雨を残し敵艦にやられたことはよくわかる。だが、その戦いはもう終わっているんだ」


説得の声。それに反応するのは深海棲艦だけではない。


時雨「う、うぅぅ。これが……」


共鳴し頭を押さえる。それが意味することは、想いが流れ込んでいるということ。しかし、今回は浄化相手が多い。うまくいくかどうかは依織にもわからない。


依織「時雨……。キミたちが戦う理由はなんだ?どうして、もう一度ここに集まった?」

??「たり……ない。会えない……」


一隻の戦艦が語りかける。それの意味することは。


響 「時雨!しっかりするんだ!」


響の声に驚き振り返る依織。


時雨「大丈夫、だよ。負けない。連れて……行かれない

響 「司令官!」

依織「わかってる。時雨はこちらにいる!俺はキミたちから時雨を取り上げたいんじゃない。キミたちを救い出す。だからこそ、俺たちの元に来てくれ!」

??「ゆる……さない」


その言葉に反応するのは時雨。


時雨「ちがっ。扶桑、違うんだ。やめろ!」

響 「あっ」

依織「なっ」


響の手から離れてあわてたように依織を突き飛ばす。

煙が彼らを包む。放たれたのは時雨が山城と叫んだ戦艦からの弾。それは時雨の体に直撃していた。


依織「くそっ、おい!しっかりしろ」


依織の腕の中で倒れる時雨は薄く目を開けて依織に微笑みかけ、そして深海棲艦を見る。


時雨「こっちは、幸せだ。あのときと違って、戦いはともに辛い時もあるが……幸せな戦いだよ。山城、扶桑、山雲、満潮、朝雲、最上。おいでよ」


その言葉は強い想いが込められていた。時雨の心からの言葉。言の葉は一つひとつが蒼い光を浴びて美しく輝く。その光を浴びた深海棲艦はその衣がはがれ少女たちに変わる。


時雨「僕はここまでなのかな。…… 提督、……みんな。さよ、なら」


微笑んだ時雨は小さく笑う。

依織「おい!」

響 「時雨!」

長良「時雨ちゃん!しっかりして!」

夕張「そんな、ダメ!」

吹雪「時雨ちゃん、ダメだよ!!」

依織「時雨!時雨ぇぇ!!」


全員の叫びは海に海面に反射しこだましていく。依織からの連絡を受けて黒潮、五月雨が来たのはそこから少ししてからだった。涙をこらえる五月雨と共に彼女らを背負い鎮守府へと帰る。


依織「お前たちはダメージが多いものから順に入渠してくれ。それ以外のものたちは山城たちが起きたときの事情説明もかねて起きていてくれ。俺は時雨の治療をしておく」

五月雨「提督!私も……私も一緒に、お姉ちゃんと一緒にいさせてください」

依織「……わかった。五月雨はついてきていい」

響 「……了解した。時雨は頼むよ」

依織「ああ」


響たちと別れ鎮守府の奥の部屋にまで行く。

五月雨「ここは?」

依織「俺の力が一番だし使える場所だ」

五月雨「提督の……?」


そこにあるのは、依織の私物達。まるで物置のように積み上げられているおもちゃやアルバム。中には艦娘たちととった写真もあった。


依織「俺の力は、いわば精神をどう使うかが大切なわけだ。それを扱うには思い出の品ってのは大切なんだ」

五月雨「でも、提督の力って深海棲艦との対話じゃ……?」

依織「見ておけ。というか、本当は五月雨にも見せたくなかったんだけどな」


そう一瞬だけ笑って引き締める。依織は手に蒼い光をまとうとそれをし時雨の胸にあてる。


依織「お前を死なせない。生きろ……お前が助けた奴らを……時雨の助けた奴らを見守るんだ!」


それは神々しくて、神秘的で。依織の髪は蒼く逆立ち時雨を包み込む。


五月雨「これ、は……」


茫然と呟く五月雨。


時雨「うっ……がはっ。ごほっごほっ」

五月雨「時雨お姉さん!」

依織「触るな!!まだ、ダメだ」


胸に押し当てる手にさらに力を込めて依織はすべての精神を使う。


依織「時雨、戻ってこい」

時雨「提、督……」


時雨の薄く開けた目はまた閉ざされる。


五月雨「て、提督?」

依織「大丈夫だ。眠っただけだ。峠はこえた……。悪い、五月雨。後は時雨を入渠させてくれ」

五月雨「依織提督!」

時雨に覆いかぶさるように倒れこむ提督。寝息が聞こえ泥のように眠りこけていた。




秘密





ぼんやりとした意識の中、伊織は覚醒する。記憶を手繰る。


依織(たしか、時雨の精神を……)

響 「司令官?お目覚めかい?」

依織「うわっ。っ、響か」

響 「ああ、司令官の秘書艦だ」

依織「俺の看病をずっと?」

響 「私だけじゃない。五月雨や黒潮。時雨もね」

依織「そうだ!時雨は?というか、今日は?」

響 「司令官はまる2日眠っていた。時雨は、昨日目覚めていた。ピンピンしているよ」

依織「そうか」

響 「さて。質問する側を交代しよう。司令官」


少し声音を変える響。


響 「時雨になにをしたんだい?五月雨が気にしていたよ?」

依織「……言えない」

響 「その理由は?」

依織「機密だからだ」

響 「でも、五月雨には見せたじゃないか?本当に機密なのかい?」

依織「ああ」

響 「本当は機密なんかじゃない。ただ、知られたくないんだろ?私たちに」

依織「……」

響 「意地でも言わないか。どうする?時雨」

依織「っ!?」


ぼんやりとした頭の中で寝転がったまま会話を続けていた依織は時雨を認めるのが遅れた。気配を探ると確かに彼女は部屋の隅で息を殺していた。


時雨「おはよう、提督」

依織「あぁ、おはよう」

時雨「提督。ボクとしては感謝している。あの時、本当に沈んだと思った。でも、ボクはここにいる。その理由を教えてくれないのかい?」

依織「お前たちは知る必要もないことなんだよ」

時雨「知る必要がないなら選べばいい。提督も必要のないことを知ろうともするだろ?」

依織「……わかった。きちんと、答える」


根負けしたように告げる。


依織「ただ、その前に色々整理させてくれ。腹も減ってるし……新人にも挨拶するべきだろうしな」

響 「みんなを呼んでくる。ついでに長良さんあたりにでもなにか作ってくれるようたのんでくるよ。司令官は病み上がりなんだからそのまま眠ってて」

時雨「…………」

響 「時雨、いくよ」

時雨「うん」


なにか言いたげに依織を見ていた時雨だが諦めたように響についていく。しばらくの間ぼんやりとしていたがふと思い立ち、依織はその間に服をただし汗を気にするように匂いを嗅ぐ。嫌な臭いはせず体を拭いた跡が残っていた。


依織(誰が、拭いて……。響、か?)

響 「司令官、入るよ」

依織「あっ、あぁ」

響 「お待たせ。ひとまず用事をと思って新規の艦娘だけつれてきた。時雨は長良さんのお手伝いを頼んでる。じゃあ、入ってくれ」

扶桑「扶桑型超弩級戦艦、姉の扶桑です」

山城「扶桑型戦艦姉妹、妹のほう、山城です」

最上「ボクは最上さ。よろしく頼むよ」

満潮「満潮よ」

朝雲「朝潮型駆逐艦、朝雲」

朝潮「朝潮型駆逐艦、六番艦、山雲です~」

依織「あぁ、みんなよろしく。俺が眠っている間は、響が色々説明してくれたのか?」

響 「夕張さん、長良さんも説明に協力してくれたよ。他のメンバーとの挨拶も終わってる」

依織「そうか……。ともかく、扶桑以下、メンバー。こんなところからで悪いがよろしく頼む。しばらくは出撃の予定もないから響の指示を聞いて英気を養ってくれ」

扶桑「わかりました」

山城「なんだか、不思議なところ……。お姉さまと一緒だからいいけど」

最上「みんなには迷惑をかけちゃったみたいだし、がんばらないとね」

満潮「言われなくてもやるわよ」

朝雲「ええ、わかったわ」

山雲「はい~。がんばります~」


騒がしい挨拶とともに全員が去っていく。その数秒後、時雨と長良がやってくる。


長良「司令官!おかゆ作ってきました!」

依織「ありがとう。いただくよ」


白い湯気が立っているお粥をもらい口に運んでいく。


時雨「それで、提督?」

長良「私も、司令官さんに救われた身です。近くで時雨ちゃんの事も見ていました。それが一日も立たずに元気になるなんて……。なにが教えてください」

依織「長良もか……。わかったよ。」


少し迷うが一人にばれるなら連鎖的にばれていく可能性を考えると二度手間になるだけかとあきらめの息をつく。


依織「五月雨もでてこい。そこにいるんだろ?」

五月雨「あ、あはは。バレちゃいました?」

依織「その青い髪はお前ぐらいしかいないもんな」

五月雨「あはは……」

依織「さて、なにから話すべきか。まず、お前たち艦娘は砲撃を受けるとダメージを受けるが……そのダメージは物理的な痛みではないことは実感しているだろ?」

響 「そうだね。たしか痛みを感じるプロセスは物理ダメージを受ける精神に傷がつく、それが痛覚として知覚する、だよね」

依織「あぁ。だから入渠としてゆっくり精神治療を行える特殊なお湯に浸かれば物理ダメージも回復していく。いうなれば精神が回復不可能になれば渡航不可能となり轟沈となる。さて、そこで問題だ。俺の能力は?」

時雨「浄化……だよね?」

依織「その真にあるのは精神同調だ。正しくは俺の能力は精神を同調させ物の声を聴くというものだ」

響 「それが、どうつながるんだい?」

長良「なんとなく、わかってきたけど」

依織「あぁ。時雨との精神を強く同調させた。そして、俺の精神を喰わせた」

時雨「喰わせ……!?」

依織「正しくは精神力だがな。自分の精神を喰わせ相手の精神を汚染する能力だ」

長良「でも、時雨ちゃんになんの様子も」

依織「そりゃな。汚染しようとしなければ問題ない。一番の問題は、人間は精神か肉体か。どちらかが朽ちれば死ぬという点だ」

五月雨「まさかっ!」

依織「その通りだ。人間も精神は徐々に回復するが艦娘よりは回復力も疎い。下手をすれば精神が死んでいたかもな」

時雨「提督!なに、飄々と……。かけるチップを間違えている!」


大声で叱責する時雨。


依織「……こうなるから言いたくなかったんだ」

時雨「ボクが仮に轟沈しても鎮守府的にも、世界的にもダメージがすくない。提督が死んだら?そんなの考えるまでもない!」

響 「私も……一人の軍機を司る艦娘としては時雨の意見に賛成だ。そもそも、なぜ私達にもしらせなかった」

依織「俺は、もう誰かが悲しむ姿を見るのが嫌なだけだ」

五月雨「提督?」

長良「みんな、落ちつこ。司令官。司令官なりの考えがあったんだよね?それに、響ちゃんも。艦娘を抜いたらどうなの?」

響 「その通りだ。時雨が生きていて嬉しい。もちろん、司令官もね」

時雨「だけどっ」

依織「かなりダメージを負っていたが俺が死ぬのは下手をしたらだ。5%以下の可能性とみていた」

響 「このことは、私達の秘密にしておく。時雨も、気持ちを落ち着けよう」

時雨「……わかった。ゴメン、提督。勝算があったのもわかった。でも、ボクを捨てる選択もあったことを忘れないでほしい。本当にボクが不味くなったら、捨てるのはボクであってほしい。誰かが死ぬ姿を見たくないのは……ボクも一緒なんだからね」


時雨はそう告げると外へと逃げるようにさっていった。それに続くように、食べ終えた茶碗も片づけ長良、五月雨もさっていく。


響 「司令官の隠し事は、本当に多いね。まだ、あるんだろ?」

依織「響、お前」

響 「いつか、司令官の口から聞けることを待っておく。これは軍機ともなにも関係ないことだから。じゃあね、依織、司令官」


あえて依織を強調させ、響は去って行った。





秘書官として




元帥「先日の一件、貴行の活躍はこちらに入った通りだ。しかし、駆逐艦時雨に精神を喰わせたことに関しては上層部では強い批判が出ている。勝手な真似をしないように。以上だ」

依織「……了解、いたしました」

元帥「期待をしているぞ?なんせ、お前は――――」

依織「仕事が立て込んでおりますので、このへんで失礼させていただきます」



依織は一拍おいて応えると乱暴に受話器を置く。依織自身、軍人としては分かっているが、心というものは別だと考えているがゆえに、このような扱いには了承ができない。



響 「司令官。予算が決まっているんだ。電話を壊さないでくれるかな?」

依織「わかっているよ。くそ上官が」

響 「やれやれ。曙みたいな言い回しだね」

依織「曙?あぁ、綾波型駆逐艦8番艦の名前か。知り合いなのか?」

響 「この鎮守府に来る前に知り合ってね。それより、司令官。書類がたまっているんだ、片づけてくれ」

依織「うぅ……。俺は他の提督と違い前線に出てるんだから多少は遠慮てくれよ。というより、これのほとんどが始末書って」



響の抱える始末書を見て顔を顰める。その始末書は先ほど元帥から直接叱責を受けた時雨の件もある。その他の書類も、響らができるものは彼女たちが手伝ってくれたりもするが、最終的な権限は依織がやる必要性がある。



響 「ところで、依織司令官。少し気になっていることがあるんだけど」

依織「ん?なんだ?」

響 「なに。単純なことだ。なぜいつまでも私を秘書官にしているんだい?」

依織「ん、ん?どういうことだ?」

響 「初期のころの面子的には確かに私が秘書官を務めるのが有効だったと思う。だけど、現在は扶桑さん、山城さん、最上さんも入ったし、入ったばかりというのであれば夕張さんだっているし。駆逐艦である私にこだわる意味はないんじゃないかと思ってね」

依織「長良はそこに含まないんだな」

響 「長良さんは、ランニングの時間が大切かなと思ってね」

依織「なるほどな……。まぁ、うん。別に深い意味があるわけじゃないよ。秘書官を変えるタイミングがなかったという所もあるが、もしや響は秘書官が嫌なのか?」

響 「そうじゃないさ。ただ、私よりふさわしい人物がいるんじゃないかなと思ってね」

依織「……響が嫌なら変えてもいいかと思ったが、それならこれが一番いいだろう。今までやってきたことを変える必要もないし、エースの時雨、頭脳の響というものをウチで確立したんだったらいましばらくこうしていこう」


戦艦がやってきた今、駆逐艦である時雨がいつまでもエースを張れるか、また身体的にも成長しているので頭脳面においてもトップを立ち続けるかは微妙なところだ。しかし、響自身褒められたこと自体は嫌ではないので素直におけとめておく。



響 「おっ。最上さん演習でも調子いいみたいだよ。この調子な改装もできるんじゃないかな、すぐに」

依織「航空巡洋艦というのはなかなか重宝できるだろうしな。しかし、面白いものだ、深海棲艦として戦った時は航空巡洋艦だったのに、改装前の重巡洋艦となっていた。どういう原理なんだか」

響 「依織司令官が分からないなら誰にもわからないと思うよ」



肩をすくめて響が告げる。それもそうだと頷いた後響の方を今一度見る。



依織「なにも、聞かないんだな」

響 「私の中で自己完結できていることだからね。そういう司令官は気になっていることだろうから先に伝えておくと、最初に体を拭いたのは私。そしてその後も自然な流れとして私の仕事としたよ」

依織「演習には誰が出ているんだ?」

響 「西村艦隊のみんなが出ているよ。他のメンバーは羽を伸ばしていると思う」

依織「それなら、響には話しておくべきか。私の事を」



依織は帽子を外して投げる。ゆったりと髪が風に波打ち響の前に立つ。小学生と見間違うその体系の響と並ぶとまるで親子や歳の離れたきょうだいのようだ。



依織「私は波野依織。その名前に間違いはない。本来は偽名を使いたいところだったが流石に軍機に触れるらしくてな。だから私の事を書類などで調べられたら一発で終わりだった」

響 「司令官の資料は一応目を通したつもりだったけど、言われてみれば書いてない項目もいくつかあったな……。気のも留めなかったよ。写真がなかったことと合わせて」

依織「あれは、私が特別に作って送ったものだからな。私の本当の資料はこっちだ。見るか?」

響 「後でねまずは司令官。貴方の口から直接聞きたい」

依織「私は男ではない。女だ」

響 「やれやれ。吹雪が可哀そうだね。始めてあった時、女性と勘違いしたと発言して叱責を受けて」

依織「あの時は、まだ慣れていなかったこともあったしな」



依織は、“彼女”は苦い顔で言い訳をする。響もそのことについては冗談の一環だったしくこれ以上詰め込むことはせずに話を変える。



響 「だから時折、自分の事を私と言っていたのか。てっきり、重要な場面だから示しをつけるために私と告げているんだと思ったよ」

依織「無理して俺を使っているわけでもないし、男として生きるときはいつも俺といってるから違和感もないんだが、焦ると一番使い慣れている一人称を使ってしまうからな。響が言っていた通り示しをつけるときは私を使っているという面もある」

響 「それで、どうして男のふりを?ということを聞いてもいいのかな?」

依織「響が聞きたかったのはそこだろ?話すと決めたらそこから話すつもりだ。それに難しい話じゃない。私が軍に入ったのは、先にも話した通りこの力を認められたから。つまりは特別待遇で、初期訓練を終えた後はいきなり少佐。そして現階級は大佐。あり得なさすぎるゆえに人からは疎まれることもあると判断した」

響 「エリートじゃないか。この調子だと、40代半ばで元帥までいけそうだ」

依織「こんな始末書の束を持つ元帥は箔がつかないな。さて、約束された階級があることを知っていたから、女のくせにという視線を受けることは同時に予測できた。今時そんな男女差別は少ないけど多少なりとも存在するのは事実だし、軍事系統は未だに男尊女卑的な流れも存在しているようだよ。まぁ、女性の地位が上昇したのに君たち、艦娘の存在がある点で言えば同性の私からも感謝したいところだけど」

響 「私達に性別というものがあるのかは分からないけどね。現に生殖器はあって、排せつ行為はできても、生殖行為はできないしね。まぁ、体の構造、及び性格系統は女性寄りになっているのは確かだけども」

依織「な、生々しいな」

響 「そんなものだよ。さてと私はこのことを胸の内に沈めておいた方がいいかい?」

依織「いつかは伝えるとは思うが、しばらくはそうさせてもらった方が嬉しい。特に、時雨を怒らせたくない」

響 「もしみんなに伝えるときは先に私には話しておいてよ?胃薬を用意しておくから」

依織「それは私にくれる分か?」

響 「私の分さ」



響はかるぐちを叩くともう一度演習の様子を見る。時雨は久々の仲間たちに出会えたことに喜びを感じているかのようにイキイキと標的を打っていた。




改造と妖精




依織「さて、響、時雨、長良、最上。キミたちの蓮度はとても素晴らしいものだと俺は考えている。特に最上は入ったばかりだというのに演習では素晴らしい成果を上げている」

最上「あはは、ボクとしては早く一人前になりたいという想いがあるだけなんだけどねぇ。それに、依織提督の力ってのもこの眼で見てみたいし」

依織「いいとは思うが……なぜ全員がすでに依織と呼んでいるのか不思議でたまらないな」

時雨「それは五月雨と吹雪の仕業だね。二人が依織司令官と呼んでくださいと言ってたし」

依織「あいつら」

長良「あはは。そういや、私も吹雪ちゃんたちに聞いたなぁ」


唯一依織の本当の性別を知っている響だけがそのことについて詳しくふれることも無く、沈黙を守って続きを待った。


依織「さてと、そんなキミたちを改造、長良は改、最上は改となるに従い航空巡洋艦に、時雨は改二へ、響も同等改二へなるとともに、Верный、以下ヴェルへの改修を行おうと思う」

響 「私、時雨、吹雪、五月雨は元の鎮守府にいたころに既に改へといたっていたから……、この鎮守府で改造を行うのは初めてだね」

依織「まぁ、俺も訓練は受けているが改造に従う整備などは難しく俺一人ではやりきれないところもあるからできないという面もあったしな。普通なら艦娘の発見と同じくして現れた妖精がいるはずだが、なぜか配備されていなかったし」

長良「そういえば、何でいないんですか?」

依織「ミスだそうだ。それに人員――――妖精に人員という言葉が当てはまるかは分からないけども、ともかく人員が足りていなかったからな。妖精は改造や改修を行うと自然に発生するらしいから今回の改造には妖精を手に入れるという面も含まれている」

最上「だとしたら、今妖精はいないんだよね?提督が一人でこれだけの改造を行うの?」

依織「いや、それも含めて彼女に手伝ってもらう。入ってくれ」

夕張「こんにちは~。元から機械いじりが好きだからね。任せてよ」

依織「と、いうわけで彼女にも協力を仰ぎ四隻の改造を行う。妖精が増えれば改造なども行いやすくなるだろうしな。とりあえず、時雨、響、長良、最上の順で改造を行っていく。準備ができ次第館内放送で呼び出すからそれまでは自由にしててくれ。時雨、夕張。いくぞ」



2人を連れ添って工廠に向かう。



夕張「そういや、響ちゃんからじゃないんだね。順番」

依織「あぁ。駆逐を始め、艦が大きくなるにしたがって難しくなるから、まずは駆逐から始めて妖精を増やしていくことによって難しい艦を手伝ってもらおうと思ってな。響からじゃないのは、ヴェルになるとロシア艦となるし」

夕張「艦としては日本の形そのままだけども……艦娘の特異性かなって」

時雨「そもそも、過去にそこまで至ってない、構想段階の物へも改造が行える時点で色々違うしね。さて、提督、夕張さん。よろしく頼むよ」



時雨はそう告げると、専用のドッグへと入って瞳を閉じる。特殊な液に浸かった彼女はゆっくりと眠るように意識を手放す。あまり長い時間この液体にいると自我が壊れてしまう可能性もあるが、それは1000時間、訳40日という間放置した話なので気にしなくてよいだろう。

夕張「じゃあ、私が全体の指示をいるから提督は―――」



夕張主導で行われる指示は的確ですぐにすべての行程が終えていく。



夕張「後は安定性を保つため1時間ほど寝かせてあげてから出してあげよっか」

依織「やっぱり、改二へと至ると変わるものだな」

夕張「ふふっ、そうね」



髪型も少し変わって、装甲も上がり、心なしか身長、バストも成長したような気がする。



依織「さてと、続いて響の改装だが……早速だが、頑張ってもらえるか?」



依織が話しかけたのは、時雨の改装によって産まれた小さな妖精。妖精はピキッと敬礼をすると、どこから取り出したのか小さな専用の工具を持ち出す。その後響、長良、最上の順で呼び出しそのたびに妖精が現れ進行スピードも増していく。



依織「ふぅ、とりあえず終了だな。ありがとな、夕張」

夕張「ううん。私もいっぱい整備とかできて楽しかったよ」

依織「できれば明石とかもいたほうがいいのかなと思ったよ」

夕張「あー、明石さんかー。工作艦明石。いつか来たらいいわね」

依織「だな。というか、自分で言うのもなんだが、なんでオレがこんな場所に派遣されたのか、分かんねえよ」

夕張「あはは、確かに。じゃあ、新しくなった皆、特にヴェルちゃんは大きく変わったわけだから楽しみだね」



夕張はヴェールヌイの姿を見てクスクスと笑った。




旗艦の仕事



依織「さて、全員集まったな。改めて、本日の目標、及び編成を告げる」



鎮守府から遠く離れた海上にて、依織は辺りを見渡しながら今回の任務を告げる。



依織「今回の場所はここ、マニラ沖。浄化すべき艦隊は軽巡洋艦1隻、駆逐艦2隻だ。深海棲艦としての規模は小規模~中規模程度。編成はヴェールヌイ、黒潮、最上、扶桑、俺。そして旗艦として長良だ」



長良「は、はい!」



始めて旗艦として指名された彼女はピンと敬礼をして、返事をする。



依織「彼女は初めて旗艦としての仕事をすることとなる。もしもの時は任意に旗艦権限を譲位するように。また、彼女の補佐としてヴェル、頼むぞ」

ヴェールヌイ(以下ヴェル)「постижение……了解した、司令官」

長良「よ、よろしくね、ヴェルちゃん」

黒潮「にしても、今までレギュラーやった時雨が抜けて最上はんたちが入る編成か~。にしても、編成に司令はんがはいっとる時点でおかしいことやもんなぁ」

最上「ボクたちは初めてだもんね。まじまじと見させてもらうよ」

扶桑「よろしくおねがいしますね」



各々の返事をしたり雑談をしたり、だが、それでも今回の任務にポジティブな意見を交わしながら次へと進む。しばらくの間、何事もなく公開を続けている中……。



最上「索敵機より伝令。11時の方向に駆逐艦3、軽巡2、重巡1編成の艦隊発見」



最上は自ら飛ばした索敵機からの連絡を受けて全員に告げる。少し迷ったように長良が考えた後少し後ろを振り返りながら告げる。



長良「司令官?」

依織「この編成には浄化すべき艦はいない」

長良「うん。じゃあ、単縦陣で一気に決めちゃおう」



長良を始めとして一気にしとめる形で、まずは最上の水上爆撃機による先制攻撃が全体を攻撃して敵艦隊に不意打ちを食らわせる。ダメージを受けたのは駆逐艦2隻。その一撃で中破程度まで追い込まれている。同航戦での戦闘は、駆逐、軽巡の早さ、航空巡洋艦による爆撃、戦艦の火力によりたちまちに敵を倒していく。多少の傷を負ったものはいても渡航に至っては何の問題もない。



長良「よし、そのまま抜けていこう」



長良の指示で前に進んでいく。その後も似たような編成の深海棲艦とも当たるが、何無事に突破していく。



依織「どうだ?長良は?」

ヴェル「うん、いいと思うよ。私よりいいんじゃないかな」

依織「長良は軽巡の中では最古だからな」

最上「皆さん!9時の方向、敵艦隊発見。軽巡1隻、駆逐2隻、重巡1隻、軽母2隻です!」

依織「こいつらだ!軽巡、駆逐の方は大破以下で頼む」

長良「了解!!軽母2隻が気になるから対空警戒!輪形陣で!」



長良の指示後、全員で一斉攻撃を図る。敵艦隊も索敵をしていたのか、不意打ちを取ることができずにさらにはT時不利を取ってしまっている。



依織(轟沈させてしまうということはなさそうだけど、面倒そうだ。しかし、はやりすぎてはこの前の時雨のようになってしまう可能性というのもある)



依織の能力は精神同調。だが、無傷の状態でやろうとすると精神力が削りきれず、精神を喰われたり、同調中に攻撃を喰らったりする可能性もある。



最上「甘い甘い!」

扶桑「主砲、副砲、撃てぇ!」



初任務にもかかわらず二人の動きはいい。特に最上は改造をしていることもあってか、航空巡洋艦としての力を発揮している。結果、軽母轟沈、重巡、駆逐大破、軽巡中破まで追い込める。


依織「よし、後は私がやる」

長良「みんな少し下がって司令官を護衛」

依織「君の、想いはなんだ?」



依織は辺りに神聖な青い光を輝かせながら敵艦を見る。



??「ミンナ……オレが……残ル。米、空母メ」



深海棲艦から聞こえる声はその艦の想い。何が起こったのかを伝える声。一つひとつ整理をしていく中、思い当たるは一つの船。



依織「木曾、か?」

??「木曾……名前」

依織「なるほどっ。だとしたら、後残りは」



米空母機動部隊艦載機により大破着底したのは木曾、初春、曙、沖波、秋霜。これらの艦の内、どの艦が浄化すべき艦なのか。精神同調率を駆逐に向ける。



依織「君の名は?」

??(駆逐1)「燃料、引火。熱い、熱い」

??(駆逐2)「直接弾……。一撃、10数発……」

依織「……どっちだ。恐らく。初春、曙か。よし、ゆっくり聞け。戦いは終わった。お前らは残念ながら米空母により大破着床した。その後もいくつかの戦いをのせて、戦争は終わった。お前たちの勇士はいずれも語り継がれている」




トクントクンと胸に語られていく言葉。精神同調率を一気に引き上げていき彼女たちに近づく。拒絶する心。自分はまだ戦い続ける。その心は、大破着底というギリギリの状態でなお、戦争の終わり際まで除籍されずに残った艦隊たちの強さを感じる。後は、精神をどこまで同調させるか。想いの強さで上回ることができるか。




しばらくの間じれったい、時が流れていき、そして。



依織「こっちにこい!お前らの戦い、勇士を今一度私たちの前に見せてくれ!」



依織の叫びに反応して深海棲艦のすごみが消え、浄化される。プシュッと小さな細かい音が鋭く響いて3隻の艦娘が新たに生れ落ちる。



依織「最上、山城。彼女たちを」



依織は木曾を、最上は初春を、山城は曙を背負う。



依織「お疲れ様。長良も初旗艦とてもよかったよ。さて、近くに輸送船も待ってもらっている。帰りはそっちの方が早いだろう。入渠こそできないが、彼女たちもゆっくりできるはずだ。そちらまで行こう」



長良「はい。じゃあ、最後までいこっか!」



長良の、ようやく見せたホッとした声にマニラ沖での戦いは終着した。






箸休め~響としてのВерный~



ヴェル「доброе утро。おはよう司令官」

依織「あぁ、おはよう」


私が声をかけると書類から目を離さずに挨拶を返す依織司令官。こうして改めて観察してみると彼女が女性であることがよくわかる。そもそも線が細い体に高い声。むしろなぜ男性だと思っていたのかが不思議だ。今思えば男臭さというのが皆無であったようにも感じる。私も男と言えばここに来る前に出会った以前の司令官ぐらいだけども、それでも確実に違う部分というのが存在する。



依織「ヴェル?どうしたんだ?」

ヴェル「ううん。なんというか女心が分かっていないということを、黒潮とかから言われてたけど、男心が分かっていないからこそなのかなと思っただけだよ」

依織「な、何を急に?」

ヴェル「どうしても同性として扱ってしまう所があるからね。司令官の立場にとってみれば、同性なのに男性として女性に接しなければならないからね」

依織「……そうかもな」



ちょっとショックを受けた様子を見せながらも頷く。少し言い過ぎたかもしれない。отражение。反省だ。



ヴェル「それでどう?何か仕事は?」

依織「木曾、以下メンバーには説明はしたんだよな?」

ヴェル「あぁ。信じられないと言った様子だったけどもね」

依織「そうか。なら、今は特にないな。妖精も色々手伝ってくれるようになったし。仕事ができたらまた連絡する」

ヴェル「そう。じゃあ、適当に散歩でもしておくよ」



私は司令官に敬礼をして執務室を出る。そのまま言葉の通りに岬の方へと歩いていく。ここはよく時雨が訪れていた場所だけども最近はみない。山城さんたちとも話しているというのがあるけど、どこか明るくなったように思う。

空を睨みあげる。飛行機が横断している。私は兵装をつけているつもりでその飛行機を撃ってみる。



ヴェル「ばーん……」



もちろん飛行機が落ちるということはないし、あれはただの旅客機。もしそんなことをすれば軍法会議というレベルを超えて国際問題に発展していることだろう。その時私は日本の艦娘として罰せられるのだろうか、ロシアの軍艦として罰せられるのであろうか。まぁ、Верныйも、Декабристもソ連時代の出来事なんだけど。



??「水上機?…要らないねぇそんなモノは」



後ろからかかった言葉に伸ばしたままの右手を支えながら振り向く。



ヴェル「木曾さん」

木曾「よ。地形の把握をしてたらたまたま後姿を見つけたな」

ヴェル「そっか……」



木曾さんはそのまま私の近くまでやってきて草原の上に寝転がり空を睨む。



木曾「1945年、8月15日、早朝。アメリカ軍機との戦闘で25ミリ機銃を発射、帝国海軍最後の射撃を吹雪型、特型駆逐艦22番艦、Ⅲ型、暁型2番艦、響が行った、らしいな」

ヴェル「木曾さん……、詳しいね」

木曾「俺は1944年11月にマニラ沖で大破着床していたが……解体されたのは1955年から1956年にかけてだからな。それまでの間空を睨み続けていた。曙も同様だけど、すっかり忘れているみたいだしな」

ヴェル「忘れているって……木曽さんはまさか」

木曾「時雨から話は聞いている。残念ながらというべきか、深海棲艦として戦っている間の記憶はない。でも船の記憶は残っている。ヴェルもそうらしいな」

ヴェル「Правильный ответ。その通り、それゆえの辛さもひとしおなんだけどね」

木曾「はぁ。俺も姉さんたちに逢わせる顔ねえしな。ヴェルもそうだろ?」

ヴェル「……竣工は同型艦の中でも一番最後だし、考え方次第では私も木曽さんと同じ一番年下なのかな?ともかく、私もそうだね。忘れないよ、1994年、5月3日。目の前で電が沈んでいったのを」



ゴロンと私も寝転がる。木曽さんは私の方に顔を向けて尋ねてくる。



木曾「不沈艦。不死鳥。戦争を生きのびる運命の艦。それに対して幸運艦、不滅艦『時雨』。戦後まで生き残ったのは響であるはずなのにおかしな話だな」

ヴェル「孤軍奮闘艦というわけではなかったからね。私は悪運が強かっただけさ。今も私の前世はカラムジナ島岸にその形のまま沈んでるけどいまだにダイバーが訪れるらしいし、孤独なふりをした甘えん坊さ」

木曾「……なぁ。ヴェルは、シブツ海峡、行きたいか?」

ヴェル「命令とあらばどこにだっていくさ。でも、本音を言えばシブツ海峡、ソロモン海域、グアム島西に行きたいところかな」

木曾「はは。俺もソロモンは行きたいかな。多摩姉さんが眠っていることだろう」

ヴェル「ソロモンは多くの命、多くの船が眠っているからね」



私は立ち上がって服に着いた草を払う。



ヴェル「さてと、もう少し散歩を続けることにするよ」

木曾「引き止めて悪かったな」

ヴェル「そんなことないさ。一緒に話せて楽しかったよ。じゃあね、木曾さん」

木曾「あぁ、よろしくなВерный秘書官」

ヴェル「依織司令官の気持ちが、少しだけわかったよ」



苦笑をしながら私は常夏の島を海岸沿いにゆっくりと歩き出した。


後書き

注:『想いの戦い』での時雨のセリフは本来の轟沈台詞とはあえて変えております。誤字などではございません。

少し悩みましたがここではコメント返しをしようと思います。

≫1 SKさん
ありがとうございます。提督自身には武力的な強さはありませんがそれ以外のメンタル的な強さを依織は持っていますね。今後ともよろしくお願いします。

≫2
ふらふらしていてすみません。リアルや一次創作等で忙しく手が回っておりませんでした。ご了承くださいませ。

≫3 matuさん
ありがとうございます!久々に更新できております。余裕を見つけしだい更新していきたいと考えております。


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matuさんから
2015-12-29 20:17:47

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2015-09-14 21:39:14

SKさんから
2015-06-21 22:47:24

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2015-04-07 02:19:42

このSSへのコメント

3件コメントされています

1: SK 2015-06-21 22:48:18 ID: FLz4APCT

いいですね!

やっぱ提督は強くないと!笑

2: SS好きの名無しさん 2015-10-14 17:28:58 ID: 3SiJA5yN

続きまだ?

3: matu 2015-12-29 20:19:17 ID: zniatXku

続きが早くみたいです


更新ガンバッテ


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