2017-12-23 15:55:27 更新

概要

上海アリス幻楽団様原作『東方project』と神堂潤先生原作『redeyes』のクロスオーバー作品となります。
前書きの注意に必ず目を通してください。


前書き

二次創作SSの上、原作キャラの崩壊や二次設定、オリジナル主人公や機体等の要素が満載されています。
両作品の雰囲気や世界観を大事にされている方は『絶対』に閲覧しないでください。ブラウザバックを強く『推奨』します。
『問題ない』という方は、そのまま本編へお進みください。


影を追え 地底編


―地底への連絡班 不動・伊吹―


にとりの工房で再びバルディッシュを受領した不動はスキマによる移動で地底への入り口に来ていた。

左腕に貼られた連絡用の通信符に向かって神社にいる八雲紫に声をかける。


「入り口を確認した」

『ええ、明さん準備はよろしくて?』

「問題ない。これより任務を遂行する」

『ここからは私が明をサポートするよ』

「伊吹、頼んだ」

『任されたよ。陰陽玉の後を付いて来てね』

「了解」


自分の先に浮かんだ陰陽玉を追尾する形で俺は地底へと足を踏み入れる事となった。

地下世界の都市、通称『旧都』へ向かう途中にあった細かな分かれ道や巨大な蜘蛛の糸で塞がれた道などが少しあったがそこは伊吹のサポートで切り抜けていく。


『明、もうすぐ橋が見えてこないかな?』

「橋・・・確認した。およそ、200m前方に見える」

『そこを抜ければ旧都までもうすぐになるね。厄介なのがいるけど、無視しておくれ』

「?、了解」


何か危険な妖怪でも潜んでいる可能性があるためSAAを加速させながら橋を通り抜けていく。

一瞬、集音センサーが『ねたま・・はや!?』という女性らしき声を拾ったが無視して通り過ぎる。そして、目的の都市が見えてきた。


「あれか」

『地霊殿は見える?』

「特徴と合致する建造物を確認した。市街を抜けて向かう」

『了~解!』


伊吹の楽しげな声を聞きつつ再度移動姿勢を取ろうとすると前方に人影が見えた。

道は一つしかないため自然と相対する形となる。


「おや・・・へえ、人間。しかも、鎧武者とは久方ぶりにみるねぇ」

「・・・」

「ふふ、最近の鎧ってのは随分仰々しいものになったもんだ」


こちらを見ながら薄く笑う女性。気のせいかその目は楽しそうなものから好戦的な色に徐々に染まっているのが見て取れる。


「伊吹、トラブルが発生した」

『ん~、どうしたの?』

「額に角がある女性と遭遇した。人間・・・ではないようだ」

『あー・・・もしかして、その角に星みたいなのあるかな?』

「あるな」

『だったら私に任せておくれ』


そう言うと陰陽玉がその女性の傍に向かっていく。近づいてきた陰陽玉をその女性をはしげしげと眺めている。


「うん?こりゃあの時の・・・」

『勇儀聞こえてる?私だよ、伊吹萃香だよ』

「萃香?なんだい、また地下に用でもあるのかい?」

『そうだよ。で、今私が案内してるのが不動明っていう外来人で地霊殿に用があるんだよ』

「私はてっきり鬼退治に来た武者かと想って一発やろうかと考えてた所だったよ」

『あのねぇ・・・今時そんな人間一部例外を除いているわけないよ。頼むからやめておくれよ』

「あっはっは!確かにね!わかったよ、他ならぬ萃香の頼みだ。おーい、そこの明だっけ?」

「ああ」

「私は星熊勇儀、この通り鬼さ。話は聞いたよ、地霊殿まで案内しよう」

「いいのか?」

「いいさ。丁度暇を持て余していた所でね、道すがら外の話でも聞かせてくれ」


快活に笑う鬼の女性、星熊勇儀と共に俺は目的の人物が待つ地霊殿へと向かった。


旧都の市街へとたどり着いた俺達は街の大通りを歩きながら地霊殿を目指していた。

地底に妖怪達が作った都市と聞いていたのでもっと陰惨な空気の場所と想像していたが、的外れだった様だ。

市街は活気に満ちており、様々な商店が軒を連ねている。


「地上がそんな事になってたとはね。しかし、まあよく一人で来る気になったね?」

「俺は任務を遂行しているだけだ。それに頼もしいオペレーターもいる」

「おぺ・・・なんだって?」

「伊吹の事だ。彼女は信頼できる」


これは神社の修復時に思った事だ。修復の際の彼女の手際のよさや指揮の的確さは実に鮮やかだった。

霊夢の勘を聞いて自身を分身させ素早く終わらせようとするあたり判断力もある。

的確な判断力と指示力を兼ね備えている彼女なら自分の背中を預けれると俺は考えていた。


「ほお、人間が鬼の私らを信頼か・・・随分と買われてるみたいじゃないか?」

『嬉しい事を言ってくれるね、明』

「事実だからな」

「さて、話し込んでるうちについちまったね。ここが地霊殿さ」


目前の建物を星熊が指差す。先程の市街の活気とは対照的に不気味な静寂に包まれている。


「誘導感謝する」

「なんてことはないさ。おもしろい話も聞けたからね、所でここの主については知ってるかい?」

「名前は『古明地さとり』と聞いている。地底を取りまとめている人物だという話のはずだ」

「それ以外は?」

「特には聞いてないが、どうかしたのか?」


そう聞き返すと、星熊は悩むような仕草を見せ『あのスキマ、教えなかったのか・・』と小声で呟いているのをセンサーが捉えた。


「・・・・はあ、ちょっと萃香」

『・・・』

「聞いてるのかい?」

『・・・ぐー』

「・・・酔いつぶれてる。大丈夫なのかい、これ?」

「近くに八雲女史もいる。大丈夫だ、問題ない」

「ま・・・初めてあったら面喰らうかもしれないが、地底に一人でくる胆力があれば大丈夫か。しっかりね」

「ああ。ではな」


玄関前で星熊と別れ俺は扉を開け中に踏み入った。館内は静まり返っており、誰かが出てくる様子も無い。

わずかに小さな気配が動くのみだが、人影も無いのにそこかしこから視線を浴びているかのようだ。

そのまま玄関ホールの中央まで歩んでいくと階段の先に人影が見えた。


「・・・」


帽子を被った少女がこちらを見下ろしている。

期せずして俺達は対峙する様な格好となったがこのままでは埒が明かないので問いかけた。


「君はこの館の関係者か?」

「貴方私の姿が見えるの?」

「・・・?ああ、紹介が遅れた。自分は八雲女史の使いで来た不動明という者だ」

「スキマ妖怪の使い・・・?あの紅白巫女じゃなくて?」

「霊夢は別件で出ている。話が逸れたな、君が古明地さとりか?」

「ううん。私は古明地こいし、妹だよ。さとりお姉ちゃんに用があるの?」

「そうだ。在宅だろうか?」

「いるよ。お姉ちゃんは地霊殿から滅多にでないし、部屋まで案内しよっか?」

「助かる」


こいしと名乗った少女の後を付いていく。

薄暗い廊下を俺達は無言で歩いていくが、時折こちらをちらちらと窺われていた。


「これが珍しい・・・だろうな」

「え、うん。まあその鎧も珍しいけど、貴方も大概ね」

「俺か?」

「そうだよ。なんでかなぁ・・・って思って」

「???」


首を傾げる俺を他所に彼女は立ち止まると、正面の扉を指差した。


「はい、到着。ここが、お姉ちゃんの部屋」

「案内に感謝する」

「いいよ。じゃあね」


手を振って彼女が扉の前から離れていく姿を見送ると、俺は扉をノックした。


「・・・どうぞ」

「失礼する」


ややあって若いというより幼い少女の声で入室を促された。その事に多少の疑問を持ちつつ俺は部屋の中に入る。

部屋の中央にいたのは少女だった。先程あったこいしという少女とさほど年齢が離れていないように見える。


「こちらへ」


ソファーへ座るように促された俺はSAAを脱いだ後に着席する。

お茶を持ってきた彼女は自分と彼女の分を置くと対面に腰掛けた。


「急な訪問で申し訳ない。自分は不動明、八雲女史の使いとしてきた」

「・・・・・私は古明地さとり、この地霊殿の主を務めています。ご用件は?」

「地上の異変についてだ。内容についてはこれを確認してもらいたい」

「拝見します」


差し出した親書を彼女は開封するとそれを眺めていく。しばらくして、読み終わったのか彼女は顔を上げた。


「内容は理解したと、お伝えください。それなりの対策も講じるとも」

「了解した。それとは別件で一つ頼みたい事があるのだが、いいだろうか?」

「なんでしょうか?」

「旧都には鉱物を扱う店などはないか?」

「鉱物ですか?あるにはありますが、何かお求めなんですか?」

「ああ。口ぞえを頼めるならありがたい」

「わかりました。私の方からの紹介状をだしてみますが・・・」

「?」


彼女の語尾が切れる。しばらく俺の顔を遠慮がちに見たあと彼女は躊躇うように口を開いた。


「交換条件というわけではないのですが、折り入ってご相談があります。よろしいですか?」

「言ってくれ」

「私のペットに怨霊を操る者がいるのですが、どうも最近地底の怨霊が一部消えたりしていると報告を受けています」

「消える?」

「ええ。それと見慣れない妖怪の目撃情報もあります、紅い目をした妖怪ということらしいのです」

「それを調査してもらいたいと?」

「はい。不躾なお願いとは思うのですが、何分私はここから出れない事情があって・・」


言いにくそうにいう彼女の表情は苦渋に満ちていた。なにか相応の事情があるのだろうと察し俺は地上に連絡を取る事にした。


「伊吹、応答してくれ。伊吹!」

『・・・は!?あ、ごめんごめん。寝てたよ、地霊殿には着いた?』

「もう話も済んだ所だ。八雲女史に代われるか?」

『紫?あー・・・駄目だね。なんか作業してる。何かあったの?』

「地底でも何かしらの異変があるようだ。偵察の許可をくれ」

『う~ん・・・いいよ。紫にはこっちから言っておくけど、無茶はしないようにね』

「了解。許可が下りたが、自分は地底には詳しくない。誰かに誘導を頼みたい」

「それでしたら、お燐いるわね?」

「は~い!話は聞いてましたよ、そこの人を案内すればいいんですか?」


部屋の中の柱の影から急に少女が出てきた。部屋の中に猫がいたが、人はいなかったように思えた。

黒い服に赤毛、そして頭に耳を生やした少女がこちらを見ている。周囲に浮かぶ青白い物は何かの特殊効果なのかと疑問に思う。


「名前はながったらしいからお燐でいいよ、お兄さん」

「わかった。案内を頼む、お燐」

「はいよ。じゃあ、さとり様行ってきます」

「頼むわね。不動さんもお気をつけて」

「ああ」

「・・・やっぱり、読めない。どうして?」

「何か言ったか?」

「い、いえ。なんでもありません」

「そうか。では」


若干挙動不審な古明地の見送りを受けてSAAを装着して玄関から連れ立って出て行くと、出口の所で杯を片手に星熊が待っていた。


「お?話は終わった?」

「ああ。だが、これから偵察に行く所だ」

「偵察?それにお燐まで同行ってことは何か厄介ごと?」

「そうなるかもしれん」

「へえ、そいつはおもしろそうだ。私にも一枚かませておくれよ」

「勇儀の姐さんが来てくれれば心強いね。お兄さん、同行してもらおうよ?」

「最悪交戦もありえる・・・それでもか?」


一瞬虚を突かれた様に呆気に取られた彼女だが、次の瞬間には口角を吊り上げ獰猛な笑みを見せた。


「あっはっは!上等、上等!丁度暴れたいと思ってたところだから願ったり叶ったりだね」

『明、勇儀は強いから大丈夫だよ。ついてってもらうと良いよ』

「そうか。ならば、星熊。偵察への協力を願いたい」

「任せておきな。鬼の力をみせてやるよ」


星熊と合流した俺達は件の目撃情報があった場所に向かう事となった。旧都市街へと出た俺達はお燐の案内のもと進んでいく。


「この辺のはずなんだけど・・・」

「周辺は異常なし。今の所何の反応もないな」

「その眼のところ動いてるけど何を見てるんだい?」

「周辺の熱源を探っている。近くに人や熱源を持つものがあれば視界に映る仕組みだ」

「へえ、最近のカラクリはこってるね」

『アアアアア・・・!!』

『!?』


突如悲鳴のような叫び声が響き渡る。俺は2人に顔を向けて無言の了解を得ると二人を伴ってその場所に向かった。


「あれは・・・」

「人魂?ちょっと話を聞いてみますか」


横のお燐が呼びかけるような仕草をすると空中に浮かんでいた青白い球体が彼女の横によってきた。

しばらくあって、その球体はその場から逃げ去るように飛んでいく。


「何かあったのかい?」

「それが、紅い目の妖怪に同じ怨霊が喰われたみたいです。で、今のはそれから逃げてきたと」

「喰われたぁ?」

「はい。で、お兄さんと似た鎧をつけてるみたい」

「・・・お燐に星熊、自分が先行する。警戒を怠らず、ついて来てくれ」


先頭に立ってなるべく音がしないように進んでいく。

息を殺した移動をする事数分、悲鳴が聞こえた場所にもう少しで到達するという所でセンサーが音を捉えた。


「・・・」


後方にいる2人に掌を向けて停止を促す。センサーを頼りに音の聞こえる方向と人数を探る。


(10時方向、数は・・・3人。遠ざかっているな)


潜んでいる岩陰から顔を僅かに出して様子を伺うと、後姿のSAA3機が視界に入ってきた。


(あれは・・・連合ロシアの『バルメ』何故ここに?)


バルメは連合ロシアの主力量産機であり、北海道戦線や一部九州戦線にも投入されていた機体だ。

バリエーションの多い機体でもあり確認されているのは通常型、狙撃型、拠点防衛用重装甲型、特殊部隊型などがある。

SAAとしては機動性が今ひとつ悪くその装甲形状とあいまって『ドンガメ』とも呼ばれている。


だが、決して基礎性能が悪いわけでもなく良好な生産性と稼働率を誇り戦場へと大量投入されており最近ではその後継機で量産型とは思えない性能を発揮する『ゼブラ』と呼ばれる機体も投入されている。

3機の内、2機は通常装備型のバルメ。残りの一機は強襲仕様なのかバックパックの左側にランチャーを備えているのが見て取れた。


(仕掛けるか・・・?)


だが、先程お燐が言っていた事がどうにも気がかりだ。そんな真似を人間が出来るわけがない。ならば、考えられるのはなんらかの外部勢力が彼らと帯同していると考えるべきだ。

迂闊には行動せず、敵の足取りを追ったほうが賢明だと判断を下しその事を2人に伝えようとする。


「おい!そこの3匹どこに行くんだ!」

「な・・!?」

『!?』


いつの間にか岩陰から出ていた星熊が堂々とその3機に呼びかけた。遠ざかろうとしていた奴等が一斉にこちらを振り向く。


「星熊!」

「わ!?何をす・・」


彼女を横から抱きかかえるように飛び退る。ほぼ同じくして不気味な風きり音と銃声が木霊する。

そのまま適当な物陰に避難するが、こちらにむけてさらに発砲が繰り返され銃弾が隠れた岩を削り取る鈍い音が一帯に響き渡った。


「おーおー最近の鉄砲は凄いね。あんなに連射できるとはね」

「何を暢気な事を・・!」


岩陰から半身を出すと反撃にうつる。68式突撃銃を撃つが銃撃は装甲で虚しく弾かれていく。

そしてこちらの反撃にも一切怯まず敵は攻撃の手を緩めず少しずつこちらに前進してきていた。

撃ち合いでは手詰まりになると判断し、近接戦に移行しようと接近の機会を窺っていると、背後で何かを砕く音が聞こえた。


「!?」

「さって、やられっぱなしというのも癪だからね。ここらで反撃さてもらうよ!」


振り向くと先端の尖った岩を片手に握った星熊がそこにいた。

握られた岩の部分は彼女の握力でひび割れを起している。何をするのか悟った俺は岩陰から飛び出し奴らの注意をこちらに引く。


「・・・!」


岩陰から飛び出た俺に注意が引かれると、見計らったように星熊が近くの岩を踏み台にして空中に躍り出ると右手に持った岩を投擲した。

ロケットもかくやという速度で投げられた岩の塊が一機のバルメに直撃。

文字どおり吹き飛ばされた敵機は飛ばされた先にあった岩に背面をぶつけ推進剤が引火したのかそのまま爆発した。


「た~まやーってね!さあさあどんどんいくよ!」


地上に降りた彼女はそのまま残敵に向けて猛然と突進していく。

彼女を援護するため残った2機のバルメが持っているアサルトライフルに照準をつける。


一機のライフルを手からはじく事に成功するが、もう一機はそれを回避するとこちらに向かって発砲しながら接近してくる。

応戦しながら彼女の様子を見ると、武器を無くした方の機体が今まさに殴りかからんとしていた。彼女はよける風でもなく、泰然と構えている。


「回避しろ!」

「必要ないさ」


顔面に向けて繰り出された鋼鉄の拳を素手で彼女は止めてみせた。

人間の首を容易く吹き飛ばすSAAの拳打を素手で止めるという常識外であまりの事態に俺は目を丸くした。


「へえ、中々の力だね?だが、相手が悪かったね!!」


敵機をそのまま吊り上げた彼女は紙切れのようにSAAを投げ飛ばした。

進路上に存在する細い石柱を粉砕しながら岩壁に激突したバルメも先程の一機と同様の末路を辿った。

目の前で次々起こる常識外の事態を意識の片隅に置いて、眼前の敵に集中する。回避をしつつ敵機に接近する。


(奴らの目的が何かを聞きださねば・・・)


相手を生かして捉える必要があると考え敵を無力化することを念頭に置きつつ突撃する。

ブレードを抜き放ち、敵機のリロードの瞬間を狙って踏み込んだ。上段から切り下げるように様に一閃。

アサルトライフルの先端から半分ほどを切り落とすと、そのまま相手の装甲の隙間を縫って左わき腹を刺突した。


(手応えがない!?)


まるで中身が入っていないかのようだ。そして、突き刺した部分から黒い霧の様な物が漏れ出していた。

敵は使いものにならなくなったライフルを放り捨てるとそのままこちらを殴りつけてくる。

咄嗟に左腕でガードをするが巻き込む様な敵の攻撃に俺は弾き飛ばされた。


「ぐ・・っ!?」


追撃阻止のためすぐさま起き上がって相手を視界に捕らえると肩部に

装備されたランチャーの発射姿勢に入っており、その姿勢を見て俺は驚愕した。


「馬鹿な・・・!!?2人ともこの場から離れろ!!」


俺の怒声とロケットの発射はほぼ同時だった。敵機が照準したのはこちらではなく、天井だったのだ。

着弾したロケットが天井で大爆発を起こし、砕かれた岩が周辺一帯に降り注いできた。


「にゃああああ!?ほ、崩落だああああーー!」

「滅茶苦茶しやがる!何てやつだよ!?」


退避中に岩の雨の隙間から敵機を覗き見ると奴の姿が地面へと沈み込むように消えていく。

その現象に俺は思わず足を止めてしまう。


「あれは・・」

「お兄さん!ぼさっとしてないで早く!」


お燐の声に我に帰った俺は2人と共に降り注ぐ岩の雨を回避しながらその場を離脱した。

しばらくして崩落が収まり避難した先で俺達は一息ついた後、改めて崩落が起こった場所を探索したが敵機の影は見当たらなかった。



「逃げられたかな、こりゃ?」

「・・・ああ」

「何かまだ嫌な気配が漂よってるし、早く戻ろうよ姐さんにお兄さん」

「残敵を警戒しつつ、地霊殿に撤退。二人とも遅れるな」

「へいへい、ちょっと暴れたりなかったね」


先程見たあの不可解な現象とあの手応えにどうにも嫌な予感を感じつつ、俺は地霊殿への帰還の途に着く事となった。


人里襲撃


―地底への入り口―


地霊殿で先程の偵察の結果を報告した俺は地上へと戻ってきていた。

地底においても今後奴等が出てくる可能性を考慮し、地上との連絡をつけるため陰陽玉は古明地に託している。

そのため、星熊が一緒に同行することになった。


「ほい、荷物はここでいいか?」

「助かった。案内に運搬までしてもらうことになったな」

「なーに、乗りかかった船さ。それに、久し振りの退屈しのぎもできたしね」


にとりに頼まれていた鉱石が積まれた台車から荷物を地面に降ろすと星熊が離れる。

疲れも微塵に感じさせず笑顔でこちらに歩いてくる。


「で、これからどうするんだい?」

「神社に連絡を取ろう。こちら不動、ゆかりん応答願う」

「ぶ!?ゆ、ゆかりん?」

『こちらゆかりんですわ』

「地上へと帰還した。報告は受けていると思われるが、今後の動きは?」

『そうですわね・・・では、人里に行って頂けますか?』


一端神社への帰還を要請されると踏んでいたが、彼女の意図を理解した俺は即座に返答する。


「了解。上白沢に状況説明を行う」

『お願いしますわ。荷物の方は私のスキマで河童の工房に送っておきます』

「頼んだ」

『明さんの話と霊夢達からの報告を鑑みると敵がどこにいてもおかしくないと考えられます。十分留意してくださいな』

「了解。通信終わり」


置いていた荷物がスキマに吸い込まれていく。それを見届け改めて星熊に礼を述べて俺は人里へと向かった。

この時去っていく不動を上空から見つめる物がいた。文や椛の前に現れたのとは別の黒い妖精が無感情な瞳を向けていた。

その妖精はしばらく移動する彼を見たままだったが、急に弾かれるように彼を空中からそのまま追跡していく。その事に気付かぬまま不動は人里へと急いだ。



―人里・寺子屋前―


人里へとやってきた俺は彼女の職場である寺子屋前にやってきていた。中の様子を伺うとまだ授業中のようで児童の活発な声が聞こえてくる。

緊急の用件でないわけではないが、授業が終わるまで入り口の前で待つことにした。


「・・・」

「・・・あ」

「藤原か」


俺の正面には竹林であった藤原が口を開いて止まっている。

寺子屋に用事でもあるのかと考えているとつかつかとこちらに歩み寄ってきた。


「藤原か・・・って、なんか他にいうことがあるんじゃないの!」

「何をだ?」

「う・・・だあああ!?この前の事忘れたってわけ!?」

「忘れてはいない。だからどうした?」

「こ、この・・・!」


顔面を紅潮させて不動に詰め寄る妹紅と気にした風もなく携帯端末を弄くる不動。

その横を授業が終わったのか寺子屋から出てきた子供達が通り過ぎていく。


「妹紅お姉ちゃん、このおじさんだれー?」

「あー!もしかして、彼氏?」

「な!?そんなわけないでしょ!は、はやくかえりなさい!」

「わー!お姉ちゃんが怒ったー!」

「逃げろ―!」


笑い声を上げながら子供達が走っていく平和な光景がそこにあった。

顔を真っ赤にして否定の言葉を子供達に投げていた彼女がこちらを振り向く。


「なによ・・・?」

「いや、慕われているな」

「・・・はあ」


頭を掻いて大げさに溜息をついた彼女は先程とは少し落ち着いた様子でこちらに改めて向き直った。


「ふん。で、ここに何しにきたわけ?」

「上白沢に報告する事がある」

「報告?」

「まだ誰かいるのか?おや、妹紅に不動殿じゃないか?」

「慧音、なんかこいつが話があるってさ」

「こら、妹紅。初対面の不動殿に失礼だぞ?」

「ふん!こいつなんてこいつで十分だよ」

「・・・」

「2人は初対面ではないのか・・・?」


顔を背ける彼女と無言の俺を上白沢が見比べる。

俺達の微妙に険悪な雰囲気を察してか、少し困った表情になって彼女は口を開いた。


「あ―・・・立ち話もなんだ、2人とも寺子屋の中に入って話をしよう」

「了解した」

「へーい」


寺子屋の一室に案内された俺は早速事の次第と今までの経緯について話した。

一通り話しを終えると対面に藤原と共に座る彼女は真剣な面持ちでこちらを見返した。


「話は理解した。早速、里長や皆に知らせて注意するように促そう」

「助かる。」

「ふ~ん。風見幽香が襲われたって話は聞いてたけど・・・異変ねぇ。ま、あたしには直接は関係ないか」

「ただの異変ではないぞ、妹紅。見境なく相手を襲う連中のようだ、他人事ではないぞ?」

「そうはいっても・・・」


丁度その時鐘の鳴る音が響いてきた。何事かと首を傾げる俺達を他所に連続的に鳴らされる鐘の音に上白沢が立ち上がる。


「これは・・!!」

「どうした?」

「何か起こったらしい。門の所に向かわねば」

「俺も行こう」「行くよ」

「すまん。何かあれば2人とも頼む」


寺子屋を出た俺達は里の入り口にある詰め所へと向かった。そこでは里の自警団に所属する者達が慌しく動いていた。


「何があった!?」

「こりゃ先生!ともかく、物見櫓にのぼってあっちをみてくだせえ!」

「わかった」


自警団の初老の男性に促された上白沢が櫓に登っていく。

上った先で彼女が見ている方向に俺も機体のカメラを向けてみると黒一色の服装をして羽を生やした集団が見えた。


「おい、何か見えてるのか?」

「少し先の丘のほうに羽を生やした集団が見える。数は30程度」

「羽?ああ、そりゃ妖精だ。だけど、なんだってこんな里の近くに集団で・・・」


カメラ越しにその集団の一匹に焦点を合わせてみる。俯き加減でなんの感情も見せていないが、視線のみが里の方向に向いている。

一列に並んで動かずにこちらを見ている様子は不気味の一言だった。


「・・・ゆかりん、応答してくれ」

『こちら、ゆかりん。何かありまして?』

「現在人里周辺に妖精が押し寄せてきている。数は30程度、黒一色の集団だ」

『・・・!?明さん、その妖精には注意してください』

「何かあったのか?」

『先程、湖にむかった班から連絡がありました。黒一色の妖精とSAAが一緒にいたと。そして交戦もしています』

「何だと?文と犬走は無事なのか?」

『その点は大丈夫ですわ。明さん、どうにかして一匹その妖精を捕まえてくださいな』

「了解したが、捕獲が難しい場合は?」

『撃退してください。人里は幻想郷にとっては無くてはならない場所。人里の安全を優先にお願いしますわ』

「任務了解。妖精の捕獲及び撃退を行う」

「ちょっと!?何勝手に話を進めてるのよ!慧音の意見も聞かなきゃ駄目でしょうが!?」

「ああ。それは当然だ」


状況を見終わったのか上白沢が櫓から降りてきて俺達のそばに寄ってくる。

俺は神社としたやりとりを彼女に伝えた。


「ふむ、そうするしかないだろうな。あのまま居座られたら里の者達も不安なままだ」

「私が追っ払ってやるよ。慧音は里を守ってくれ」

「ああ、不動殿も申し訳ないが頼めるか?」

「元よりそのつもりだ。任務を遂行する」

「これは何の騒ぎ?」

「八意に鈴仙、人里に来ていたのか?」

「ええ。うどんげと一緒に往診に来ていたのよ、それでどういう状況なの?」

「実はだな・・」


上白沢が彼女達に事情を説明する。その間俺は装備の点検を行いつつ、件の妖精達の動向を注視していた。


「なら私達も手伝うわ。うどんげ、私と一緒に里の防備につくわよ?」

「は、はい!師匠!」

「それじゃ、攻め手と守り手も決まった所で早速やりますか・・・足を引っ張るんじゃないよ?」

「ああ」

「頼んだぞ、二人とも」


人里から俺と藤原は外に出て行く。真っ直ぐに歩いていく俺達に気付いているのか気付いていないのかわからないが、その集団は微動だにしない。


「気味が悪いね。何考えてんだこいつら・・・」

「・・・」


互いの距離が100m前後といった所で俺達は停止した。

生暖かい風が草原を吹きぬけ草を揺らし、不意に忍び笑いのような声がその集団から聞こえてきた。


「な、なに・・・?」

「構えろ藤原」

「は?」

「来るぞ」

『みーいつけたああああああ!!』


眼前に展開された分厚い黒い『弾幕』が唐突に俺達に向かって放たれる。俺は右にブーストして回避。

藤原はその場から上空に飛びのいてそれを避けた。分散した俺達目掛けて妖精の集団が弾幕を撃ちながら襲い掛かってくる。


「は!妖精風情がなめてるんじゃないよ!!」


自分に襲い掛かってくる妖精目掛けて藤原が弾幕を展開する。

撃ちだされた弾幕が妖精達に直撃するが、それにも構わず妖精達は上空へと向かった藤原に執拗に襲い掛かっていく。


残りの半分は俺を標的と定めたのか弾幕を撃ちながらこちらに接近。移動しつつ反撃を試みる。

少なくは無い弾幕を左右に細かく機動し、妖精達の数を頼みにした弾幕を避けながら相手を分析していく。


(手数は多いが、弾幕にフラン程の鋭さは無い。動きも直線的だな)


彼女も弾幕自体はストレートな攻撃が多かったが、こちらとの位置取りや間合いを計って攻撃を行っていた。

対照的に、今こちらを攻撃している妖精達はただ自分を追跡し弾幕のみで押しつぶさんとしていて部隊としての統制や戦術的な色合いが全く無い。


(そして、今回の戦闘場所は平原。なら、別の応じようもある)


細かい機動から幾分スピードを上げて妖精達の群れを引き離すと、急停止。小銃を構えて追ってきていた群れの先頭に照準を合わせ発砲。


不動の小銃から放たれた弾丸が狙い違わず正面から迫っていた2匹の妖精の胸に風穴を開ける。

倒れ臥し消えていく妖精達の後ろからの攻撃を見越してすぐさま位置を転換すべく草原を縦横無尽に疾駆する。

側面や上方から回り込もうとする妖精達に対して決して背後や側面へ分散されないように位置を細かく転換しながら足を止めての射撃を繰り返す不動。


対フラン戦の時は室内での弾幕戦ということで回避スペースの無さから足を止めた射撃は制限されていた。

しかし、今回は平原での戦闘でありその制限は無い。手持ちの弾薬消費を抑える関係と捕獲を期するため彼は停止と射撃を繰り返す攻撃方法を取っていた。


草原に銃声と弾幕の音が響き渡っておよそ20分、妖精達は妹紅と不動からの攻撃を前にその数はすでに一桁まで減少していた。


「これで最後だ!」


上空から藤原の雄叫びが響いてくる。カメラを向けると彼女の放った弾幕が妖精に直撃し吹き飛ばした所だった。

そして、こちらも残りは2匹。様子を伺いつつ、最後の弾倉を銃に装填する。

数が減少すると一定の距離を保ってこちらを睨みつけていた妖精二匹は踵を返し丘の向こうへと撤退していく。


「ふん。しつこい割には大した歯応えもない奴らね。ま、所詮は妖精か」


空中から地上に降りた彼女は憤然と息を吐くと隣にやってきた。

挟撃される恐れが無くなった以上、ゆかりんからの指示を考えると追撃に打って出るべきだ。


「・・・これは」

「ん?」


センサーがある音を捉える。先程まで草原にはなかった音であり、俺にはよく聞き覚えのある音だった。

大地を抉るような鈍い音と、聞きなれた『ブースト』移動に伴うSAAの移動音。


「・・・!」

「ちょっと!?何処に行くのよ!」


藤原の声を無視して丘の上に出てみるとそこには大地を疾駆する一台の戦車が視界に入った。随伴のSAA4機の姿と先程逃げた妖精も見える。


戦車は日防軍の64式戦車、SAAは2機が『バルメ』に2機は『烈火』だった。

64式戦車は現在MBT(主力戦車)の座を引き、2線級の戦線か後方部隊の警備任務につくのが主な戦車である。


SAA『烈火』は第三次熊本防衛線において投入され主として学生機装兵に配備された機体であり、今でも改良を施され学兵を中心に配備され続けている機体だ。


「なにあれ?鉄の箱が走って・・・って、この方向は里じゃない!」


戦車を先頭に隊列を組んだその一団つまり機甲分隊の進路は俺達の後ろの里に向けられていた。

少数とはいえ突破を許せば里の被害は甚大な物となるのは明白だった。


「食い止めるぞ、藤原」

「当たり前よ」


あちらもこちらに気付いたのか銃と砲の照準がこちらに向けられた。

戦車は射撃のため停止、SAAは妖精を伴ってこちらを囲むように分かれた。


「散開」

「言われなくても・・・!!」


その場を離れると同時に発砲音。草原の空気を震わせるような主砲の発射音と共に着弾した榴弾が大爆発をおこした。


闇に沈む紅眼


―人里・正門前―


不動と妹紅が妖精達の撃退に出て数十分。正門前では慧音や永淋、鈴仙に里の自警団が丘の上に消えた二人を待っていた。

時折聞こえてくる銃声や色とりどりの弾幕が空に見えていたが、しばらくして音が止んだ


「終わったんでしょうか?」

「わからないわ。でも、あの2人がそうそう遅れを取るとは到底思えないけどね」

「師匠、私様子を見てきま・・・」


そこで鈴仙の言葉は中断させられた。

大気を震わす砲声が木霊し彼女が竦みあがってしまったためだ。隣にいた永淋と慧音は思わず身構える。


「な、何事だ!?」

「・・・どうやら不味い事態になりそうね。うどんげ、私達も加勢しに行くわよ」

「え・・・へ?」

「しっかりしなさい!ほら、行くわよ!」

「は、はい!」


呆けていた彼女に気合を入れなおし、永淋は改めて慧音の方を振り返る。


「私達は援護に行くわ。貴女は・・・」

「心得ている。気をつけてくれ」

「ええ」


正門前から飛び出した永淋と鈴仙は不動達が戦闘を行っている場所へと向かう。

丘を越えた先では機甲部隊の攻撃に苦戦する2人の姿があった。


妹紅は空中から地上へ弾幕で攻撃を行っていたが、地上を高速で移動するSAAを中々捉えきれず有効打を与えかねていた。

大技を使おうにもそれを邪魔するかのような牽制射撃の前に攻撃をたびたび中断させられている。


一方の不動は妖精2匹とSAA2機による攻撃を紙一重でかわし続けていた。

迫る敵SAAの背後から弾幕を放つ妖精へと攻撃を加えようにも、それを阻むように攻撃が行われ直撃を出せないでいた。

そして、装備している小銃ではSAAの装甲を貫けないためどうにか近接攻撃の射程範囲内に敵を捉えるべく戦闘機動を行っている。


「押されてるようね。合図を出したら弾幕を放って二人を援護・・うどんげ?」

「ひ・・は・・・はあはあ・・」


顔面を蒼白にした鈴仙は呼吸を荒くして眼前で行われている戦闘を見ていた。

絶え間なく響く銃声と砲声。弾幕ごっことは比べ物にならない位にこの場を包んでいる圧倒的な『死』の気配が彼女から平静を奪う。

その視線の先で停止している戦車の砲塔が不動へと向けられ再び砲撃が行われる。


今度は一定の間隔で3連射された榴弾が草原に爆発を撒き散らした。吹き飛ばされる土砂と舞い上がる土煙。

彼を追って攻撃を加えていた敵機を巻き込むように放たれた砲弾による爆風の中から、それを裂く様に難を逃れた不動が飛び出てくる。

彼は砲撃に巻き込まれ転倒した敵SAAを尻目に妹紅へ攻撃を加えている残りのSAAの方向へと向かった。


「はあはあはあ・・・!!」

「しっかりしなさい、うどんげ!私達も戦うわよ!!」

「出来ません!私・・・私・・・!!」


とうとう彼女はその場にうずくまってしまう。

かつて、戦争を恐れて地上に逃れた彼女が最も目にしたくない光景が眼前で展開され恐怖で体が動かなくなってしまった。


「私は2人の援護に行くわ。うどんげ、貴女はここにいなさい。いいわね?」

「・・・は、はい」


動く事のできない彼女を置いて永淋は不動達を援護すべく戦闘地点へと向かった。


「この・・・ちょこまか動いて!!」


唇を噛み締めながら苛立ちげに散発的な弾幕を地上へと放つ妹紅。

それを素早く避けた敵機は分散。空中にいる彼女を囲むように展開し、銃撃を行う。


「ち・・・っ!」


空気を切り裂く不気味な音を聞きながら回避する。何度か周囲をまとめて吹き飛ばしてやろうかと考えた。

しかし、周辺を包み込むような弾幕を放てば巻き上げた土煙で相手を見失いかねない。

迂闊な攻撃ができない上に、敵はこちらの大技を使わせないように牽制をしてくる。その繰り返しに流石の彼女も精神的な疲労を隠せないでいた。


「あ?」


素っ頓狂な声が思わず出てしまう。いつの間にかこちらに来ていた不動が彼女に向かって攻撃を加えていた敵の一体を横一文字に両断する光景が飛び込んできたためだ。


「藤原!」

「・・・っ!わかってるわよ!!」


自分を銃撃していたもう一体が不動の方に攻撃の矛先を変え、足を止めた瞬間を彼女は見逃さず弾幕を放って敵機をその場に釘付けにした。

同時に地上の不動が突撃、舞い上がった土煙の中に躊躇なく飛び込んでいった。


藤原の弾幕で出来た土煙の中に突入、アイカメラに敵機の熱源を捕らえたまま背後を取り最高速で接近していく。


(このまま仕留める)


ブレードのスイッチを入れ射程圏内に踏み込もうとした瞬間、急に敵機が方向を変えた。

カメラには相手が銃を構えた格好が映し出される。


「・・!?」


アサルトライフルの発射音。そして自分の装甲を撃つ鈍い衝撃を感じながらブレードを振り下ろした。

敵機を袈裟切りにした感触を感じながらそのまま煙の中から飛び出て側面を警戒するため首を振った。


「止まるな!!突っ切れえええ!!」

「!?」


藤原の怒声を聞き僅かに左に向けた視線の先には砲塔をこちらに向けた戦車が映る。

まるで、自分の進行方向を完全に見切られた上での攻撃が行われようとしていた。


「くすくす・・」

「なに!?」


背後から響く笑い声。いつの間にかバックパック上部に黒い妖精が取り付いていた。そして進行方向から銃撃を受ける。


「ぐ・・っ!?」


先程の敵の砲撃に巻き込まれ倒れていた敵機は態勢を立て直しこちらへ攻撃してきていた。

頭部装甲への直撃で動きが一瞬止まってしまう。動きを止められている間に背中にいた妖精が飛び去っていく。


(不味い・・・!)


そう思った一瞬後、何かの爆発音と砲声が響き渡った。

同時に、自分の至近を砲弾が通り過ぎ横からの爆発による衝撃波による転倒を必死に押し止める。


「援護するわ!!!」


声のした上空に弓を携えた八意の姿を捉える。どうやら先程戦車への牽制を行ったのは彼女のようだ。


「了解!」


断続して響く空気を切り裂く弾幕の音は前方、つまりは先程こちらを銃撃してきていたSAAに向けられていた。

相手の動きを的確に封じる射撃の前に敵機は反撃すらままならなずその場に足止めされていた。


「おお・・!!!」


こちらの接近に気付いて敵機がこちらを振り向くが、その頭部に八意の放った弾幕が直撃する。

態勢を崩した敵機の胴を払って両断、続けざまにもう一機に突撃する。

敵機も小太刀型のブレードを抜きこちらへ突撃してきた。刀と刀が交叉して火花を散らす。


「・・・!!」

「・・・」


至近距離での交叉の最中、敵機の肩に青いラインが引かれているのが目に入る。

青のラインが示すのは乗っているのが学兵ということだ。だが、地底での戦闘と先程斬り飛ばした敵機の感触がある事実を俺に告げていた。

それでも、一縷の望みをかけて敵機に向けて大声で怒鳴った。


「もう止めろ!何故ここで戦いを起す!?」

『・・・ロス』

「何!?」

『スベテ・・コロス!!』


鍔迫り合いから弾き飛ばされ、さらなる追撃がかけられる。薙ぎ払うように振るわれたブレードがこちらを斬り飛ばそうと迫る。

姿勢が後方に倒れるのに身を任せ紙一重の所で敵機の一撃を回避。胸部装甲をブレードが掠め装甲を浅く削り取る。


「ブースト!!」


地面すれすれでブーストを点火、その反動で体が起き上がるのと風圧で僅かに敵機の態勢が崩れたのを見逃さず敵機の胸部を刺突した。


『ヲヲヲ・・・!!』


胸を刺されたにも関わらず上段に構えた敵機を見て、俺の疑念は確信に変わった。

フランと戦った時のように剣に意識を集中させた。


「はあ!!!」

『ギャアアアアアアア!?』


この世の物とは思えない絶叫が響く。その一瞬後、まるで操り糸の切れた人形のようにSAAは力なく後方に倒れた。


<リブートプロセス 機体強制冷却開始>


バルディッシュも度重なる戦闘機動がたたり強制停止してしまう。

首だけ振ると藤原と八意が敵戦車にむかって弾幕をみまって足止めをしていた。


(おそらく、あの戦車も・・・)


今しがた倒した敵機を改めて見るが搭乗者がいない。つまり、今まで交戦した敵機全ては人が乗っていなかったという事になる。

普通に考えればありえない事だ。だが、ここは幻想郷。伊吹や文と話した際に以前に幻想郷であった異変の話を聞かされた中に『亡霊』や『怨霊』という言葉があった。


死んでも成仏できず現世を彷徨う存在、中には実体を持つものもいるらしい。

間違いなくそういう存在がSAAや戦車を操っているのだろうが実際見ても実感がわかないのは否めない。


(しかし、事実だ。その上であの戦車を撃破しなければ・・)


戦車は車載機銃や同軸機銃で2人に応戦していたようだが、ついに弾切れを起したようだ。

そして、2人に構っていられないとばかりに人里の方へと向けて旋回を行っていく。

2人も有効打が与えられずこちらへと戻ってきた。


「不動!!あいつの弱点はわからないの!?」

「固すぎるわ。弾幕も周りの黒い霧みたいなもので減衰されてしまうし・・」

「聞いてくれ、二人とも。手短に今から作戦を話す」


俺は敵の特性と手持ちの攻撃手段を検討し今出来るであろう最善の攻撃手段を2人に話した。


「本気?一歩間違えれば、あんた死ぬわよ?」

「だが、手立てはこれしかない」

「タイミングが重要ね。時間も無いわ、一気にいきましょう」

「ああ・・・」


動き出した戦車を囲むように俺達は分散し、戦車を破壊するための作戦を実行に移す。


移動する戦車の左側面を飛ぶ永淋は飛びながら握った長弓の狙いを戦車へと向ける。

通常弓の鏃が当る部分に彼女の力が集束されていく。


「こういうのはなれないんだけど・・・!」


先端に集まった力が解放されビームの様に光の奔流が戦車に向かう。戦車のキャタピラ部分に直撃しその動きを鈍らせる。

同時に砲塔が彼女の方向を向いた。


それを見計らったように戦車の全面に先回りしていた不動が正面から斬りこんで行く。

永淋は不動の方に注意が向かないように連続して集束した弾幕を撃って牽制する。


隙の出来た戦車にブーストを利用して不動が砲塔上部に取り付く。

彼はブレードのスイッチを『弱』から『強』に切り替えるとハッチ付近に突き刺し、回転するように装甲を切裂いた。


くり貫いた装甲を車内に蹴り落とし上空の妹紅に合図を出そうとするが、敵戦車は彼を振り落とさんと砲塔が左右に激しく回転し

車体が急停止と急発進を繰り返す。振り落とされないように彼は必死にしがみつく。それを上空で攻撃に備えて見ていた妹紅は躊躇ってしまう。


「藤原!!かまわん!!やれ――――!!」

「く・・・!どうなっても知らないわよ!!」


彼女の右腕に炎が逆巻くとそれを真上から垂直に落とし戦車の直情から炎の竜巻が襲いかかった。

迫ってくる火炎を避けるため、直撃の直前転がるように車上から不動が脱出。


そして、くり貫いた穴から侵入した業火が車内を焼き尽くしていく。内部で火災が一挙に広がり更に残っていた砲弾や燃料に誘爆。

草原に大音響が響き渡る。燃え盛る炎の中で戦車はようやく動きを止め黒煙を噴出しながらその場に攪座した。


草原に転がり落ちた俺は態勢を立て直し起き上がる。藤原と八意もこちらの少し手前で飛行を解除すると歩いてこちらにやってきた。

炎を吹き上げる戦車を3人並んで見やるとようやく全員の緊張が解けていくのを感じた。


「はあ・・はあ・・・やったな?」

「そうね。はあ~・・・疲れたわ」

「なんとかなったわね・・・」

「ああ・・・はあ・・はあ・・」

「師匠――!」

「うどんげ?」


彼ら3人がいる場所に鈴仙が飛んできて、その手前で降り立つと駆け寄ってくる。

視界がぶれるのを感じながら俺はこちらにやってくる彼女を見ていた。


「す、凄い爆発の音が聞こえて・・・それで飛んできたんですけど、もう・・?」

「ええ。終わったわ、一先ずはね」

「あんた、近くにいたならなんでこなかったのよ?」

「そ、それは・・・・」

「それより、里に戻りましょう。明さ・・・」


隣で立っていた彼が急に倒れたため、そこで永淋の言葉が途切れる。なんの前触れも無く倒れた彼の腹部付近から地面に赤い染みが広がっていく。


「ふ、不動さん!!しっかりしてください!?」

「ちょっと!?まさか、やられてたわけ!?」

「落ち着きなさい2人とも!!」


騒ぐ二人を押しのけると倒れた彼のわき腹をみると装甲の隙間にある防弾繊維部分に裂かれた様な穴が空いていた。


「銃創ね。それにこれは・・・」


風見幽香を診察した時に僅かに見えた黒い霧、この場合は瘴気とでも言うべき物が大量に傷口周辺に渦巻いていた。


「うどんげ、止血をしなさい!触れる時は瘴気に注意!対処法はわかってるわね!?」

「は、はい!!」


腰のポーチに入れていた包帯を出した彼女は不動の腹部にそれを当て圧迫止血を行う。

横でその様子を見守っていた妹紅に永淋が振り向く。


「貴女は明さんの腕にある通信用の札で神社のスキマに連絡!処置が済み次第神社にスキマ経由で搬送すると伝えて!」

「ええ!?」

「いいから急いで!!私は里から応急医療パックを持ってくるから!!」


必要な事は伝えたとばかりに彼女はその場から里の方向に飛び去った。


「ああ・・もう!わかったわよ!ちょっと、八雲紫!!聞こえてるなら返事しなさい!」

「不動さん、絶対助かりますから!死なないで!!!」


周囲に響く彼女達の声が遠くに聞こえる。自分の体を誰かが触っているようだが、感覚が妙に遠く意識が朦朧としていた。


(血を流しすぎた・・か)


煙の中にいたバルメを撃破する際に銃弾が自分のわき腹を抉ったのは認識していた。だが、人里への進行を阻止するためには戦闘を止めるわけにはいかなかった。

頭部への銃弾の衝撃で流れ出た血がぼんやりとした視界を紅く染めていく。幻想郷の蒼い空は徐々に雲に覆われ俺達の世界のように変わって行くかのようだ。


(まるで、あの時の・・・D中隊が壊滅したあの時の・・・)


そこで彼の意識は深い闇の底に飲み込まれるように途切れ、空を覆った暗雲はここでの戦闘の終わりを告げるように雨をもたらす。

そして、雨の中戦車が吹き上げる黒煙は更なる戦いを予感させる狼煙のように空へと昇っていた。


閑話―D中隊壊滅の日―


―2067年 熊本 山鹿防衛線 ―


(・・・・う・・・ここは?)


知らず知らずの内に目を瞑っていたようだ。瞼を開くとバイザー越しの映像が目に投影される。

首を振ると隣でクラスメートの数人が小銃を土嚢に据えて前方を睨みつけていた。


『・・第5中隊との通信途絶・・・玉名陣地は劣勢・・空爆支援・・』

『敵は第1戦区への圧力を強めつつあり、機装303、304を急行・・・』

『植木陣地より砲撃支援、制圧範囲にいる各部隊は各個に退避せよ』


平文で交わされる切迫したやりとりと衛星を介して齎される戦況が俺の焦燥感を煽る。

第2戦区守備の兵力として投入された学兵支隊の一つであり俺達の所属するD中隊は戦闘開始後から幾重にも張り巡らされた塹壕に立て篭もっていた。


「・・・」


遠くに響く砲声が段々近づいて来ているように錯覚する程の重苦しさが周囲にずっと漂っていた。

何故なら今回の熊本侵攻に大陸連合軍は過去類を見ない規模で兵力を投入してくるという噂があったからだ。


ここにやってくるまでそんなのは只の噂に過ぎない。俺達学兵は精々後方支援程度だろうと高を括っていた部分が自分を含めて皆の見解だった。

だが、配置されたのは最前線で過去の決戦において何度も激戦となった場所だった。

その事と周囲の雰囲気を考えると支給されたSAA『烈火』は頼もしさよりもまとわり憑く様な重さになったような気がした。


「不動?」

「・・・どうした、桂木?」

「そんなに握りこんでると、潰れるぞ?」

「・・・ああ、すまない」


自分でも気付かない内に小銃を強く握りすぎていた様だった。

クラス委員長でもありD中隊のSAA小隊を率いる小隊長でもある友人の指摘を受けてそれを解く。


「不動でも緊張するんだな?」

「お前は、変わらないな?」


落ち着いた声で呼び掛けてくる友人に若干上ずったような声で問い返した。


「・・・皆の手前、落ち着いているように振舞っているだけだよ。俺だって・・」

『第2戦区各隊に通達、玉名防衛陣地が突破された。総員、対機甲防御準備』

「!!?」

「玉名が・・・落ちた?」


塹壕のあちらこちらからどよめきが起こる。ざわつく学兵とは裏腹に日防軍の人達が慌しく陣地内を動き回る。


『こちら立花、桂木学兵長応答せよ』

「桂木学兵長です。立花大尉どうぞ」


俺達の塹壕陣地の指揮官である大尉と桂木が何事かをやり取りしている。

しばらくの後、別の塹壕にいた同級生のSAA小隊と日防軍の古参SAA分隊が俺達の壕へとやってきた。



「皆聞いてくれ。俺達はこれから玉名から後退してくる友軍の後退支援に向かう」

「なん・・・だって?嘘だろ!?」

「無茶だ!機動戦闘なんて俺ら碌に訓練してないじゃないか!?」

「小銃と携帯ロケット数本で機甲部隊とやりあえだって?冗談だよな!?」


同級生達が口々に不満の声を上げる。俺達学生機装兵が主として訓練したのは陣地防御に関するものばかりだった。

対機甲戦やSAA戦は訓練課程でもほとんどしておらず、その時間も無かった。


「命令なんだ。一応、古参の人達が先鋒で俺らがバックアップにつく形で後退支援に当る形になる。俺の隊が左翼、新谷の隊は右翼を担当してくれ」

「マジかよ・・・」

『学兵!何をやっている、位置につけ!!』

「・・・行こう」

「了解」


塹壕から出て行く俺達を不安そうにクラスメート達が見ている。視線を一身に集めた俺達は友軍の後退支援のため出撃して行った。


『ザザ・・・こちら機装521!敵に囲まれた!!支援をうわああああ・・!!?』

『2中隊との通信途絶!各中隊から救援要請が!!』

『山鹿防衛線各所が孤立!寸断されつつあり!!』

『植木陣地へ砲撃支援を要請しろ!構わん、陣地ごと吹き飛ばせ!!』

『SAAを随伴した敵機甲部隊北西より出現!なお増加中!!』


飛び交う無線を聞きながら俺達は友軍の後退支援をしていた・・・はずだった。だが、守るべく友軍は既に壊滅。

錯綜する戦場のど真ん中に取り残された俺達は破壊された街の一角で攪座した戦車や建物を盾にして雲霞の如く迫り来る敵兵と交戦していた。


「畜生!!来るな!来るな!連合のくそったれども―!!!」

「吉田!無駄弾を撃つな!!」


小隊の分隊支援火器を担当している吉田が前方に向けて62式軽機関銃で猛射を掛けている。

隣のクラスメートの声も聞こえていないのか半ば狂乱したようにひたすら銃撃を続けていた。


「どうすんだよ、桂木!!日防の人達はどこにいったんだよ!?」

「通信途絶したままだ!くそ、このままじゃ・・・」

「うわあああー!殺してやる!!殺してやる!!」

「吉田、藤川!狙われている、そこから離れろ!!」


俺達の手前で交戦していた級友達の所へ対戦車ロケットが数本直撃。装甲車の残骸ごと2人が爆発に呑まれるのが視界に入った。


「吉田!藤川!!?」

『ぐあああ!?いてぇ・・・いてぇよ!!俺の足がああああ!!』

『助・・けて、不動・・・たす・・けてくれぇ・・!』


無線越しに2人の絶叫が響く。その間にも激しい銃撃がこちらを襲ってきて下手に動けない状況だったが、級友を見捨てるわけにはいかない。

潜んでいた物陰から飛び出ようとすると腕を掴まれた。


「行くな、不動!!お前までやられるぞ!?」

「だが・・!!」

「命令だ!!堪えてくれ不動!!」

「く・・っ!」


まだ無線越しに2人の悲痛な声が聞こえてくる。だがそれも銃弾と着弾するロケットの音に掻き消されていく。


「桂木指示を出してくれ!どうすりゃいいんだ!?」


手持ちの弾薬も残り少なく、ここで交戦を続けてもいずれ全滅する事は誰の目にも明らかだった。

玉砕か、それとも危険を冒して戦場を突破し陣地へ帰還するか。小隊長である桂木の言葉を全員が待っていた。


『誰か応答してくれ!こちらD中隊!!敵の猛攻に晒されてる!支援を!!』

『!!?』

「おい・・・今の?」

「俺達の陣地がやばいぞ!!戻ろう!!」

「桂木、ここでの交戦はこれ以上無理だ。後退して態勢を立て直そう」

「・・・わかった。不動と山内は屋上に上がって脱出ルートを検索。他は敵の突破を阻止!」

『了解!!』


交戦地点から少し下がった建物の屋上に上がった俺達は脱出ルートを必死に探す。各所で黒煙があがる大地を見ながら最良のルートを模索する。


「・・・見つけた!!不動、データリンク!!」

「ああ!確認した!」

「なんだ・・?」


屋上の角にいた山内が空を見上げる。何かが迫ってくる音が聞こえた一瞬後、周囲が爆発に呑まれた。


「ぐほ・・・ごほ・・・」


ノイズの走る視界を呆然と眺めていると今度は全身を襲う鈍い痛みで意識が強制的に回復する。

屋上の入り口の壁にめり込んだ体を起こしよろよろと立ち上がると、そこへ桂木の切迫した声が無線で入ってきた。


『くそ!歩兵が後退したのはこのせいか!!皆、行くぞ!!』

「了解・・・山内俺達も行くぞ。・・・山内?」


屋上に大穴が開いていた。濛々と立ち込める煙とバイザーに映る『04 データリンク途絶』の文字がある事実を物語っている。


「・・・!」


屋上から飛び降りた俺は後退してきていた皆と合流する。合流した俺を見て桂木が声をかけて来る。


「不動!山内はどうした?」

「・・・」


力なく首を振る俺を見て桂木は唇を噛み締める。だが、直に顔を上げると指示を出して戦列を組みなおし廃墟となった町から俺達を率いていく。

最初に戦っていた地点が次々と砲弾の雨に襲われ爆発と建物の倒壊音が連続して響いてくる。そんな中、振り返る事も嘆く事もできず砲撃の中をただ逃げる事しか出来なかった。


日も暮れる頃ようやく陣地に帰還した俺と桂木を待っていたのは蹂躙された塹壕陣地だった。

むせ返るような熱さを放つ炎と何もかもが混ざったような壮絶な匂い。そこら中に倒れた同級生達の亡骸を前に俺はただ呆然とする以外になかった。


「そんな・・・」

「げほ!ごほ・・・全滅・・か・・・」

「桂木・・・喋るな。手当てを」

「いい・・・よ・・もう・・・もた・・ない」

「諦めるな・・!!」


後退の最中、敵戦車の放った榴弾により谷口は木っ端微塵に吹き飛ばされ白石が行方不明。

同じ学校の別クラスで同級生だった2人も敵か味方のかも判別のつかない砲撃の嵐に呑まれて途中ではぐれ、俺達は完全に孤立していた。


どうにか敵部隊に見つからず俺を庇って負傷した桂木と共にここまで運よく戻ってこれたが、結果は所属部隊の全滅。

右も左も級友達と敵兵の亡骸で埋め尽くされた陣地で最早どうしていいか分からなくなった俺はただそこに立ち竦む他なかった。


「ごほ!?ふ、不動・・・た、頼みが・・・ある」

「頼みなら味方陣地で聞く。いいから喋るな」

「―――でくれ。――ことを」

「・・・なに?」

「生き・・・ろ・・ふ・・どう・・」

「桂木?」


力なく俺の肩からずり落ちていく桂木。支える暇も無く地面に横たわった友人に慌てて縋る。


「桂木しっかりしろ!!桂木!!!!」


空を覆った黒い雲から雨が降り出し、横たわる友人の体から染み出した血が雨のせいでどんどん血溜りを大きく広げていく。

そこで視界が歪みだして全てが反転し前後左右がわからなくなる。意識がないまぜになり深いどこかへ落ちていくような感覚に襲われた。





― 人里襲撃から2日後 博霊神社の客間 ―


「桂木・・・!!うぐ・・・!!ぐうう・・・っ!?」

「ふ、不動さん!!」


僅かに目を開けた不動はそこにいる彼女ではなく、別の誰かを見ているような雰囲気で虚ろな視線を彼女の方に向けると声を荒げた。


「か、桂木・・・死ぬな!死ぬんじゃない!?」

「え・・・!?」

「落ち着きなさい、うどんげ。意識が戻りかけてるんだわ」


永淋は手元に用意してあった注射を掴むと布団から何かを必死に掴むように伸ばされた手をとり鎮静剤を打った。


「ぐ・・・はあ・・はあ・・」

「うどんげ」

「あ、はい・・・脈拍・・・段々安定してきてます」

「峠は越したみたいね、居間にいる皆に伝えてきて頂戴」

「はい!」


襖を開け鈴仙が居間の方向に向かっていく。遠ざかる足音と、降りしきる雨音を聞きながら彼女はカルテに彼の容態を書き込んでいく。


「肉体的な損傷は薬で完治、意識不明の状態も脱しつつある・・か」


一昨日の戦闘後、失血死を防ぐための処置が終わる頃に神社へと運ばれた彼が次に施されたのは禍祓いだった。

傷口周辺に渦巻く瘴気の様な黒い霧はどうやら精神を激しく蝕む類の物である事が霊夢の霊視でわかった。

しかし、当の霊夢はそういった類の術に長けておらず、守矢神社の風祝である東風谷早苗を呼んで祓う事となった。


御祓いが済んで瘴気を取り除く事には成功するものの、本人が意識を取り戻すかは五分五分だった。

まるで死んだように眠る事2日、ようやく今日の昼頃から呻き声を上げるようになり先程の様にはっきり声を出した事で危機的な状況から脱出した事が見て取れた。


「後は完全な覚醒待ち・・か」


彼から視線を外し耳を澄ますと襖の外からは相変わらず激しく降る雨と雷鳴が混ざるように響いてくる。


「何時になったら雨が上がって青空が見えるのかしら・・・」


誰に対して呟いたかも分からない言葉は虚しく中に消える。そして、それを黙って聞いているように不動は眠り続けていた。


兵士の『過去』と『現在』


永淋がそう呟いている頃、不動が危機から脱した事が伝えられた居間では緊張が解けてやや弛緩した空気が漂っていた。


「はあ~一時はどうなる事かとおもったぜ」

「なに、魔理沙。明の事そんなに心配してたの?」

「そりゃするだろ。一応知り合いなんだぜ?そういうお前はどうなんだよ?」

「してないわよ。明の事だからこんな事で死にはしないでしょうし」

「どうでもいいんだか、信頼してるんだかわけがわからないぜ・・・」


何をくだらない事をいっているのだと言わんばかりにお茶を啜る霊夢に、彼女はやれやれと肩をすくめた。

鈴仙は永淋を手伝うといってまた客間へと戻っていった。


「それで、明さんは目覚めてから詳しく話を聞くんですか?」

「まあ、そうなりますわね。その前に今まで集めた情報と分かった事を整理しておきましょう」


八雲紫が首を向けると控えていた藍がこれまでに得た情報が纏められた報告書を集まっている全員に手渡した。


「なになに・・・敵は人にあらず、怨霊や亡霊の類である?」

「出現場所やその仕方から相手は霊脈を利用した移動を行っている可能性があるねぇ・・」

「黒い妖精は相手の力に染められた可能性があり、今後も増加する見込み大・・・ですか」


一通り全員が見終わった事を確認すると、もう一度要点の再確認と補足を行うべく彼女は話しかける。


「今読み上げて貰ったとおり、敵はこの幻想郷にある霊脈を利用している。現に藍がつけた追跡用の符が無縁塚から脈にそって移動してある場所で反応を見せなくなったわ」

「どこでですか?」

「妖怪の山の西にある平原よ。調査したけど、霊脈とは別の力・・・不自然な淀みみたいな物があったわ」

「そこがそいつらの本拠地ってわけ?」

「可能性は十分高いわ。合わせて周辺の霊的要素が低下している。これは力を蓄えているんで・・・」


彼女が喋っている最中急に地面が揺れだした。神社の各所から揺れに伴う嫌な音が響き渡り合わせるように雷鳴が轟く。


「全く何度目だよ?また天子が何かしてんのか?」


魔理沙がぼやくように言う。断続的な雷の響きと外に降る雨の勢いが若干激しさを増して逆に室内は静まり返った。そんな中改めて八雲紫は口を開く。


「違うわ。恐らく敵は撃って出て来るつもりよ」

「撃って出るね。これはその予兆ってわけ紫?」


手にしていた報告書をちゃぶ台に放り捨てた霊夢が彼女に視線を向けるとそれを肯定するように首肯した。


「紫はどこが狙われるって考えてるんだい?」

「・・・順当に行けば人里でしょうね」

「何故そう考えるのですか?」


萃香の質問を引き継ぐように取材メモを片手に文が問いかける。彼女の問いに紫は考え込む風でもなく素早く返答する。


「人里は幻想郷の要所よ。力の流れが集まりやすい場所でもあるし、何より奴らの性質を考えれば妥当でしょう?」

「守矢のお2人が言ってた事ですか?」

「そうよ」


そこで紫は庭へと視線を向ける。降りしきる雨の中、庭先の一角にお札が貼られ周りをしめ縄で囲んで厳重に結界が施された小さな小屋の中に先日捕獲されたSAAが鎮座していた。

早苗を呼んだ関係でついてきた2人は捕獲されて装甲の至る所にお札が貼られたSAAを見るなり厳重に封印するよう提案してきた。


「すごい穢れの残滓を感じるっていってたわね。」

「諏訪子さんは『誰か蟲毒でもつくろうとしたのこれ?』って顔をしかめてましたね」

「守矢の2柱の話と霊夢達からの報告を考えると敵は生者に対する強烈な執着をもっているのは間違いないわ」

「となると、憎悪や怨嗟の向かう所は生きとし生ける者全てへの復讐ってわけかな?」

「そうなるんでしょうね。そして、先日の一件で人里の場所は知られた。これはもう確実にくるわ」

「で、どうすんの紫?」


萃香が軽い感じで彼女に問いかける。幻想郷の管理者である彼女にとって取るべき選択は一つしかなかった。


「当然迎え撃って撃退します。藍、幻想郷各所への親書は出来てる?」

「既に用意しています、紫様」

「結構。」


そこで手に握っていた扇子を閉じると居並ぶ面々を改めて見回しながら彼女は珍しく固い口調で声を発した。


「集めれる力を結集して総力戦を挑みますわ。いいかしら、みんな?」

「良いも何もやるだけよ。いつもと同じで変わらないわ」

「余裕だな、霊夢。ま、私のマスタースパークで吹っ飛ばしてやるぜ!」


今まで様々な異変を解決してきた2人は対照的に答える。霊夢は淡々と魔理沙は意気揚々と声を上げた。


「威勢がいいねぇ。ま、今回ばかりは私も一肌脱ぐかな」

「これは凄いですね。いつもはてんでばらばらの皆さんが一致団結して異変解決に乗り出すとは超スクープの予感ですよ!」

「・・・仇は必ず取ります」


萃香は酒を飲み干すと好戦的な目つきを浮かべ腕を鳴らす。

文はいつもと違う異変に興味津々という感じをみせ、一方の椛は胸の前で手を合わせると静かに瞑目した。

そこで、居間に鈴仙が飛び込んできた。


「入ります!」

「なんだよ、そんなに慌てて?」

「不動さんが目を覚ましました!」


居間で不動の意識の回復が伝えられた頃、客間では布団から身を起こした彼は永淋から診察を受けつつ現在の状況を聞いていた。


「そうか、あれから2日経過しているのか・・・」

「ええ。本当に危なかったのよ、貴方に多少なりとも霊的な耐性が無ければおそらく・・」

「死んでいたか。何にせよ、治療感謝する」

「その言葉は私よりもあの子・・・うどんげに言ってあげて頂戴」

「八意が応急手当てをしたのではないのか?」

「止血と縫合にその他諸々ほとんどうどんげがしたわ。ふふ、明さんの前で言うのは不謹慎かもしれないけど嬉しかったわ」


人里から応急医療パックを取ってきた八意から半ば毟り取るようにそれを受け取ると、素早く処置をしたそうだ。

直前まで行われていた戦闘に竦み上がっていた人物とはとても思えないほどの鮮やかさだったと幾分嬉しそうに彼女は語った。


「その後もずっと貴方の看病をしていたわ。色々と想う事があったんでしょうね」

「・・・それは彼女が元兵士だった事に関係しているのか?」

「その辺りは直接うどんげから聞いてあげて」

「俺が?」

「ええ。きっと兵士である貴方なら・・・あの子に私達では言えない事も言えるかもしれないから。御免なさいね、なんだか押し付けるような形になるけど」

「わかった」


不動ははだけた衣服を直すとおもむろに立ち上がる。その様子を見て彼が何をするか悟った彼女は溜息をついた。


「まだ病人なのよ?」

「だが、報告するべき事がある。今惜しまれるのは時間だ」

「はあ・・・本当に軍人さんは医者泣かせだわ。まあ、皆心配してたし顔を見せに行ってきなさいな」

「ああ」


短く答え彼は客間から居間へと向かった。

その頃居間では先程までの緊張した空気は薄れて若干騒がしくなっていた。


「明も目を覚ましたことだし、今日は快気祝いってことでぱーっと酒を飲もうよ?」

「萃香、あんたねぇ・・・明にかこつけて自分が飲みたいだけでしょうが」

「まーまー大戦の前の景気づけと想って・・・」

「んで、明は今どうしてるんだ?」

「お師匠様が診察と今までの経過を話してます。」


その時襖が開かれる。そこには顔色が若干悪いが、不動明が立っていた。居間にいる全員を見渡し八雲紫をみつけると口を開いた。


「状況は八意から聞いた。俺からも報告が・・ッ!?何だ、霊夢?」


無言で彼の背中に回った霊夢は彼の背中を思いっ切り叩いた。部屋に景気のいい音が響き渡る。


「あたた・・!叩いた方の手が痛いとか・・・それより、そんな事言う前に先に言う事あるんじゃないの、明?」

「・・・?」


霊夢の憤然とした顔を見て、再度全員を見渡していると先程の八意の言葉が甦る。改まって述べるのに若干の気恥ずかしさがあるのは否めないが俺は頭を下げた。


「・・・心配をかけたようだ。すまなかった」

「そんなに畏まらなくてもいいぜ、明」

「そうだよ。どうせ、霊夢もこの前の尻叩きの件の仕返しで叩いただけだろうからね?」

「な!?そんなわけないでしょ!?」

「え?尻叩きってなんですか?是非教えてください!」

「うわ・・・ちょっと、萃香!あんたのせいで余計な奴が食いついてきたじゃない!!」


部屋が喧騒に満ちる。色々と状況が切迫しているにも関わらず、なんというか賑やかな雰囲気だ。

ふとそこにこの幻想郷に生きるものの『強さ』の様な物を俺は感じた。

まだ揉めている女性陣の横をすり抜け、俺はゆかりんの前に座る。


「明さん、取りあえずこれをよんでくださいな」

「不動殿、これを」

「ああ、すまない」


藍から渡された報告書に目を通す。書かれている事に一部分からない事があったが、それはその都度解説を頼み明確にしていく。


「敵の素性は理解した。その上でもう一つ報告がある」

「なにかしら?」

「戦闘中に感じた事だが、やつらは何らかの方法で視覚を共有もしくは互いの位置を把握している節がある」


前回の戦闘で敵機の背後を完全に取っていたにもかかわらずそれを見切られた事。

さらに煙の中から出た所を完全に待ち伏せされた上で攻撃された事について状況を簡潔に説明する。


「・・・何かまだ裏がありそうね。留意しますわ」

「ああ、所で『バルディッシュ』はにとりの所か?」

「ええ。私達では明さんの鎧を外す事ができなかったので彼女を呼んだついでに引き取ってもらいましたわ」

「あの子お見舞いにも来ないでなにしてるんだか・・・」


犬走が若干不満を滲ませながら頬を膨らませる。だが、本当は犬走自身もわかっているのだろう。にとりは彼女が成すべき事を成しているだけだと。


「紫、今日の所はこれで解散?」

「そうね。何かあればまた連絡するわ。後、不用意な外出は避けるように」

「こんな雨じゃしようにもできないぜ。霊夢、今日は泊まっていいか?」

「帰りなさいよ、家はそんなに食わせてやれるほど裕福じゃないの」


にべもなく言い放つ霊夢に、魔理沙はふて腐れたように頬を膨らませる。俺から霊夢に頼もうかとした所で意外な所から助け舟が出た。


「ちぇ、また雨に濡れるのかよ」

「希望者がいればスキマ経由で送るわよ?」

「あ、じゃあ私と椛は希望します。一端戻って天魔様に報告しないといけないので」

「なんか気前いいのが不気味だけど・・・私も希望するぜ」

「鈴仙、あんた達はどうすんの?」

「え・・・っと、『私は帰るわ。うどんげは置いていきます』師匠!?」


襖を開くと同時に八意がこちらに声をかけてくる。畳に座るとゆかりんと霊夢の方を向いて話し始める。


「明さんはまだ病人だから医療に詳しい誰かがいた方がいいわ。そう考えてうどんげを置いていくのだけど、いいかしら?」

「ふ~ん、明の世話をしてくれるならいいか」

「うどんげ、頼むわね?」

「あ、はい!任せてください、師匠!」

「じゃあ、決まった所で解散。各々、十分に警戒するように」


彼女の解散の言葉を受け各々が動き出す。俺はまだ体力が回復しきっていないため安静にするようにと言われ客間に引っ込み床に着くこととなった。


「何かあったら呼んでください」

「ああ、すまないな」


寝る前の簡単な診察を受け終わり服を正す。布団を被り横になると彼女は正座したままこちらを見つめている。


「どうした?」

「あ・・・いえ、なんでもないです。それじゃあ」


俺の視線を受けてか彼女はそそくさと部屋から出て行った。俺もそれ以上は考える事を止めて静かに目を閉じた。



(・・・・・ん?)


誰かが自分の手を持っている感触に意識が覚醒する。目を開けると灯篭の明かりが部屋をぼんやり照らしているのがわかった。

視線をずらし左手の方向を見ると鈴仙が俺の手を置き、カルテに何かを書き込んでいる所だった。


「・・・異常なし、と」

「鈴仙?」

「あ・・・起こしちゃいました?」

「いや、いい。今は・・・」

「もう夜です。これ、霊夢さんが作ってくれたんですけど食欲はありますか?」

「ああ、いただこう」


身を起こして用意されたお粥を食べる。冷めていたが、味は十分だった。食べ終えると渡された内服薬を飲んで一息つく。


「気分が悪かったりはしませんか?」

「いや。すこぶるいい、君や八意のおかげだ。ありがとう」

「私は別に大した事はしてないです・・」

「救命処置を行ってくれたのは君だと八意から聞いた。おかげで、俺は命を拾った。感謝してもしきれない」

「でも・・・私は・・・」


そこで彼女は俯いてしまう。肩を震わせ、何かをじっと耐えているかのようだ。2日前の経緯については八意から聞いている。

何と声をかけていいか思案したが結局単刀直入に言う事にした。


「鈴仙、君は元兵士だったな?」

「・・・・はい」

「敢えて話す必要はないかもしれないが、よければ何故君が軍を辞めることになったか聞かせてくれ」

「どうして・・・ですか?」

「俺には君が何かを思いつめているように見える。身内には話せない事でも、他人の俺なら聞く事もできる。同じ兵士としてな」

「・・・・そう、ですね。でも、何の面白みもない話ですよ?」

「言ってくれ。俺は聞く」

「・・・・はい」


そこから彼女はぽつりぽつりと語りだした。自分が月の軍の兵士であったこと、そして月と人類との戦争が起こりかけた(実際には違っていたらしい)こと。

それを恐れて地上に逃げて幻想郷にやってきたそうだ。その後、永遠亭に拾われ八意に師事をして医療に携わるようになったと語った。


「つまらない話ですよね。私は臆病風に吹かれた、ただの脱走兵なんですよ・・・」

「・・・」

「2日前の戦闘だって、私は立ち竦むだけで何も出来なかった・・・あの時から何も変わってなかったんです。ここに来て少しは何か変わったんじゃないかと思ってたのに・・・」


膝に置いた両手をきつく握り締める彼女。そこには仲間を裏切った事に対する後悔や苦悩がありありと見て取れた。

だからこそ、俺は極めて簡潔に述べる事にした。


「結論だけ言おう」

「え?あ、はい・・・」

「君は兵士に向いていなかった。ただ、それだけだ」


どんな訓練を積んでも本人の性格や根本的な所で向かない事は多々ある。彼女の場合も偶々それが当てはまっただけだろう。

それ故に最悪なケースとして『脱走』という方法に走ってしまったのだと俺は考えた。


「向いてなかった・・・」


一瞬ポカンとした後、呆然と呟いた彼女は俯いて肩を震わせる。そこで俺は極めて淡々と次の言葉を重ねた。


「だが、それだけの事だ。兵士である事にどれほどの意味がある」

「へ・・・?」


俺の口からついて出てきた言葉に彼女が唖然とするが、実際そうなのだ。『兵士』という肩書きは俺にとっては別に大した物ではない。


「君は誰かの命を救うことが出来る術を持っている。少なくとも、兵士であるだけの俺には出来ない事だ」

「それは、もしかして桂木さん・・・あ!?」


しまった。と言わんばかりに彼女が両手で自分の口を塞ぐが、俺には彼女がはっきりと俺の亡き友人の名を出した事が聞こえていた。


「どうして、桂木の事を?」

「御免なさい、不動さんがうわ言でその人の名前を・・・」

「不可抗力だ。君が謝る事じゃない、そしてその事も含めて話そう」


俺は第三次熊本防衛戦で起こった全てを彼女に話した。次々と倒れていく友人達、全滅した自分の部隊、救えなかった仲間達の事を。

一通り話し終えると近くにあった湯呑みの水を飲んで喉を潤し、再び彼女に視線を向ける。


「俺達には『戦う』しか選択肢がなかった。だが、逃げ出せるなら逃げ出してしまいたかったという気持ちがあったのは確かだ。」

「それでも不動さんは、ずっと戦っているじゃないですか?それは、何故ですか?」

「・・・前に言ったな、『忘れた』と。だが、同時にずっと肝心な事を捜していたのかもしれない」

「肝心な事・・・?」

「ああ」


断片的であるが夢の内容は覚えている。だが、あの日あの場所で桂木に言われたあの言葉が思い出せなかった。

ただ、彼が末期に言った言葉だけは覚えていた。いや、この場合は夢で見てはっきりと思い出したというべきか。


「桂木は最後にこう言った『生きろ』と」


砲撃から俺を庇い負傷した桂木。自分の命が燃え尽きるその時でも俺に『生きろ』と言った友人の思いが

今まで俺を生かし守り続けていたのかもしれない。


「だからこそ、俺はこう思う・・・誰かの命を救い守る事、それは立ち向かおうとする者にしか出来ない事だ」

「・・・」

「脱走兵である事実は変わらないかもしれない・・・だが、少なくともそれが出来る君は臆病者でもないし変わっていないとも思えない。あの時からずっと止まったままの俺とは違ってな」

「・・でも、簡単には割り切れないです」


そうだろうなとは思う。俺に言われた位で彼女の悔恨が取り除かれるとは思ってはいないが、彼女の仲間は俺と違い生きている。

いつの日か、幻想郷で医療に従事する日々から自信を得て向き合える日がくるのではないかと思い発言した。


「けど・・・」


そこで言葉を切った彼女は静かに目を閉じた。俺も次の言葉を待つためじっと彼女の方を見つめた。

ややあって、ゆっくりと瞳を開いた彼女が口を開く。


「今の自分に出来る事をしようって、そう思いました」


先程までの思いつめた感じが和らぎ、すっきりした口調で彼女は言い切った。

不安に揺れていた瞳にも力強さの様な物が宿っている。


「今の自分か、そう・・・そうだな」

「ええ」


格好を崩した彼女が口元に微笑を浮かべると若干照れたような笑顔をこちらに向けてきた。


「それにはっきり『向いてない』って言われたらもう開き直るしかないですから」

「すまん」

「いいですよ。なんだか気が楽になりました。あ、話し込んで中断しましたけど診察の途中でした。体温計を・・きゃ!?」


傍に置かれた体温計を座っていた場所から身を乗り出すように差し出そうとした彼女は布団に片手をついた。

だが、長い間話こんでいたせいか体制を崩しこちらに倒れこんできた。


「大丈夫か?」

「すいません・・・」


彼女が身を起こそうとした瞬間今度は横の襖が倒れてきた。そして、何かが折り重なるように倒れる音がする。


「あたたた!ちょっと、早くどきなさいよ!?」

「す、すいません・・・文先輩早くどいてくださいよ」

「シャッターチャーンス!お2人とももっと近くによってください!」

「やれやれ、元気だねぇ。やっほ~明?気分はどうだい?」


上から順番に文、犬走、霊夢、伊吹が倒れた襖に積み重なるようになっていた。

呆気に取られた俺と鈴仙だったが、いち早く回復した彼女が叫んだ。


「な、な、な!?何をしているんですか、貴女達は!?」

「いや~ちょっと明の様子でも見ておこうかなとおもったらなんか重い話をしてるから」

「出るに出れなくなりまして・・・」

「お2人の様子を見守ろうかとおもったんですよ。あと、ついでに取材を」

「私は食器を下げに来ただけよ。で、いいからはやくどきなさいよ!」


倒れたまま騒ぐ女性陣。先程まで部屋の中にあったしんみりとした空気は雲散し、活気が満ちた。

その様子に俺は思わず忍び笑いをしてしまった。事態は深刻化しているにも拘らず、当人達は至って普段通りでそのギャップに笑いを抑えれなくなったからだ。


「え・・・?今、明笑った?」

「ん?ああ、すまない。お前達の様子が面白くてな」

「面白いって、この状態が面白いわけないでしょ!?ふん!!」

「わ!?」「きゃあ!?」


無理やり起き上がった霊夢が文と犬走を弾き飛ばすように起き上がる。溜息をつくと布団の横に置かれたお盆を手に取って出て行こうとする。


「霊夢」

「なに?」


出口の手前で呼びかけた俺の声に首だけこちらをむける霊夢。色々と掛けたい言葉があったが一言だけにした。


「ごちそうさま」

「お粗末様。ほら、あんた達も早く寝なさい。明、おやすみ」

「はいはいっと、椛行きますよ。明さんごゆっくり」

「お騒がせしました、お休みなさい不動さん」

「はあ・・・じゃあ、私も休みます。おやすみなさい」

「ああ。お休み」


お盆を持った霊夢を先頭に4人が部屋から出て行く。だが、倒れた襖の上で酒を飲んでいた伊吹はまだ部屋に残っている。


「伊吹、部屋にもどらないのか?」

「ん~?私は別に決まった部屋があるわけじゃないからね、今夜はここで寝させてもらおうかな?」

「構わないが、その前にそれを片付けよう」

「え~?別にこのままでもいいよ?」

「そういうわけにもいかん。伊吹、持ち上げるぞ?」

「お?あはは!これは楽ちんだね~」


寝そべる伊吹を抱えてどかすと改めて襖をたてつける。動きにぎこちなさが無いか確認をして襖をしめて床につきなおした。


「でもさっきは驚いたよ」

「何がだ?」


布団の横に寝そべった彼女は酒を飲みながらこちらに話しかけてくる。視線を合わせると彼女はうっすらと微笑んで返答した。


「明が笑った事にさ。はじめて見たよ」

「自分でも驚いている」


俺の答えを受け取ると彼女は手に持った瓢箪を一口あおり、またこちらに向き直った。

気のせいか少し寂しげな雰囲気を纏ったまま彼女は口を開いた。


「正直な話、初めて明とあった時は何かが欠落しているように見えてたんだ。さっきの話を聞いてようやく合点がいったよ」

「そうか。伊吹にはそう俺が見えていたのか」

「そ、だからあの時あんな風に聞いたわけ」

「・・・」

「わからないでもないよ?誰だって一緒にいた奴らがいなくなるのは寂しいものだからね・・・。それが人であれ妖怪であれね」


彼女自身にも思い当たる事があるのかどうか分からないが、俺だけでなく自身にも言い聞かせているようにも見えた。


「でも、それに囚われてはいけないのさ。過去は過去、変え様の無い物はどうにもなりはしないからね。」

「・・・だからこそ、今を生きろか?」

「まあね。私の場合は今を楽しむだけどね?酒であろうが戦であろうがね」


彼女は幻想郷で古参の部類に入る妖怪だと聞いている。

その長い生の中で様々な生と死を見てきたであろう彼女の言葉はとても重く聞こえた。

そこで言葉を切り畳みの上に彼女は寝転ぶとそのまま言葉を発した。


「ま、これ以上は説教臭くなるからやめるよ。明も気付いたみたいだし」

「・・・ありがとう、伊吹」

「どういたしまして・・・かな?じゃあ、お休み。明」

「お休み、伊吹」


それ以上は互いに何も言わず俺は目を閉じた。相変わらず雨の音はするが室内は静寂に満ちていた。


(今を生きる・・・か)


思い出された友人の言葉。鈴仙との話、伊吹からかけられた言葉。そこから導き出される事こそ俺が探していた物かもしれない。

そんな事を考えながらゆっくりと眠りに落ちていった。


新たなる力


―翌朝・博霊神社の居間―


朝食後、俺や霊夢を含めた全員は居間に集まっていた。相変わらず天気は悪くドス黒い雲が幻想郷の空を覆っている。

雨こそ無いものの風が強く、時折微弱な揺れが断続的に続いている状況だった。


「・・・ふう、ただ待つっていうのも結構退屈ね」

「まあ、ね。でも、紫が来ないと話にならないからね」

「戦力を集める、という話でしたけどどのくらい来るでしょうか?」

「少なくとも妖怪の山は私達の報告を受けて既に物見位はだしてると考えられますね」

「偵察は危険ではないか?」

「敵の特質とかは詳細を伝えてますから無理はしないはずです。我々としてもこれ以上の犠牲を出すのは本意ではありませんから」


文の言葉に納得し俺はちゃぶ台の上から湯呑みを取り一息つく。

中身がなくなったので急須を取ろうと立ち上がった時、部屋に『スキマ』が数個現れた。


「てぇ!?あいたた、いきなりなんなんだぜ・・・ここは神社か」

「ここに来るのも久し振りかしらね、妖夢?」

「はい。前回の宴会から少し間があいてますから」

「・・・全く急にスキマ送りなんて、相変わらず非常識ね」


居間に突如4人の女性が現れる。2人は見知った人物で両方とも魔法使い、魔理沙と紅魔館のパチュリー。

残りの2人、一人は桃色の髪をしたおっとりした雰囲気を持つ女性と白髪の小柄な少女だった。


「あら?なに、あんた達も呼ばれたの?」

「そうよ~。紫がきて先に神社にいってくれっていうものだから。所で、何か食べる物ないかしら?」

「幽々子様、来て早々それは・・・」

「お茶でも飲んでなさいよ。茶菓子はないわ」

「え~そんな~・・・」「すいません、すいません」

「・・・・はあ」

「明、お茶入れるのか?」

「ああ。全員分入れるから少し待て」

「わかったぜ。ほらほら、取りあえず適当に腰掛けてまとうぜ」


台所に行って増えた人数分の湯呑みとポットを持って居間に帰る。急須から注いだ茶を犬走がいそいそと配っていた。


「椛、なんかすっかり板についてますね?」

「明と一緒の時期から居候してるからね。家事が大分楽になったわよ」


霊夢と文の他愛の無い話を聞きながら俺は最後に残った2つの湯呑みを先程現れた2人の人物に配る。


「初めましてかしら。私は西行寺幽々子、白玉楼の主をしているわ」

「魂魄妖夢と申します。幽々子様の剣術指南と庭師をしています」

「日防軍の不動明だ。2人ともよろしく頼む」

「貴方の事は紫からよく話を聞いてるわ。だから・・・」

「?」

「私の事は『ゆゆ』って呼んでね。あ、『ゆっこ』でもいいわよ?」

「・・・わかった、ゆっこと呼ばせてもらう」

「嬉しいわ。紫だけ『ゆかりん』って呼ばれるのも不公平だもの」

「はあ・・・すいません。あの、私の事は妖夢とおよびください。」


簡単な自己紹介を済ませていると、魔理沙の隣に座っていたパチュリーが手招きをした。

2人に断りを入れて彼女の横に移動する。


「パチュリーも協力要請に応じたのか?」

「そう言いたい所だけど、紅魔館・・・レミィはスキマの要請に応じる気は無いみたいね」

「何よ、高みの見物ってわけ?」


胡乱な視線を霊夢が彼女に向ける。パチュリーは肩を竦めると疲れたような態度で返事を返した。


「レミィが言われたからって素直に応じると思う?」

「・・・無いわね。まあ、どうでもいいけど」


紅魔館への関心を失ったのか霊夢はそれ以上追求せずにお茶を啜り始めた。パチュリーもこちらに向き直る。


「話の腰が折れたけど、私が来たのは別件よ」

「SAAと本の件か?」

「ええ。察しが早くて助かるわ、どういう成果が生まれたのか確認したいのよ」

「交換条件で協力に応じたって事かパチュリー?」

「そうなるわね。魔女に頼みごとをするならそれ相応の対価が必要になるものよ?」

「あら?それは実際に見て確かめてもらうしかないわね」


部屋に聞き覚えのある声が響く。新しくスキマが出来るとそこからゆかりんが出てきた。

幾分疲れたかのような彼女に、伊吹が声をかけていた。


「やっとご登場かい?重役出勤だね、ゆかり?」

「そう言わないでよ。結構忙しいのよ」

「紫、あんた一人だけなの?」

「藍と橙には作業を命じているわ。色々行く所があるから今後の流れをざっと説明しておくわね」


ゆかりんから今後の流れが説明される。彼女が戦力集めをしてる間神社に残った者は各々装備の確認や準備。

集結後は作戦の立案や任務分担を行い準備完了を待って敵を強襲するということだった。


「八雲紫、その前に取引の条件を確認しておきたいわ」

「ええ。明さん、大丈夫かしら?」

「問題ない」

「じゃあ、時間も無いから早速」


またスキマが開かれ俺とパチュリーの2人はにとりの工房へと向かった。

スキマから出ると丁度そこは工房の扉の前だった。


「へえ、ここが河童の工房ね・・・」

「おかしいな」

「どうしたの?」

「静か過ぎる。彼女がいるなら作業音がするはずだが・・・」


静まり返った通路、そして防音仕様とはいえ全く音が聞こえてこない扉の先の工房。

ホルスターに収めた拳銃を引き抜いた俺は扉に近づいた。


「踏み込むぞ」

「・・・ええ」


ゆっくりと扉を開き中に踏み込む。部屋の中は照明で照らされているようだ、徐々に視界が開けていき工房の中央部が見えた。


「・・・!?」

「あれは・・?」


真中に置かれたSAAの傍ににとりが仰向けで倒れていた。

他に人影が無い事を確認すると俺は慌てて駆け寄り彼女を抱えあげる。


「しっかりしろ!にとり!」

「・・・・う、うん?あれ、明?」

「何があった、襲撃されたのか?」

「・・・へ?ど、どういうこと?」


抱き抱えた彼女は目を白黒させて俺と隣に立つパチュリーを見比べる。

パチュリーは落ち着き払った声でにとりに尋ねた。


「貴女そこに倒れてたのよ。一体何があったの?」

「え・・えーと、たぶん整備が終わった所まで覚えてるんだけどそこから記憶が・・・」

「・・・疲労か。何にせよ、無事ならそれでいい」

「う、うん。心配かけたね」

「それで、これが完成した物なの?」


パチュリーが視線を向けるそこには俺が彼女に託した『神武』があった。元の武装はそのままのようだ。

だが、装甲の色がグレーからダークグレーになっている。横には追加武装なのか数種類の武器が置かれていた。


「そうなるね。ここからは明に装着してもらって霊子発生機関の調整かな」

「了解した。早速取り掛かろう」


彼女に変更点の簡単なレクチャーを受けた後、SAAのロック解除を行い装着する。

ここまでは普段通りでどこにも変化は無いように思える。


「明、そこにおいてある刀を取って前みたいに集中してみてくれるかな?」

「了解」


追加武装として渡された改良型のTCVブレードを握り集中する。するとブレードだけでなく、全身が淡い青色の光に包まれる。


「うん・・・うん!いい調子だよ、霊子発生機関の出力も問題なし。機体への電力供給も確認。ええっと、出力リミッターの設定を・・・」


にとりが慌しく調整を行うパソコンに数値を入力していく。

機体の横に立っていたパチュリーが前回紅魔館でしたようにホログラフの様な幾何学模様を当ててきた。


「へえ・・・この後ろの部分で霊力を増幅させて、各所に配置してある水晶を伝達して全体に霊力を纏わせてるのね」

「後は装甲に触媒として特殊合金をコーティングしてるんだ。これで多少の弾幕なら防いでくれるし物理攻撃に対する防御も上がってるよ。機体の色が変わってるのはそのせいだね」

「なるほどね。でも、この盾はどうして何もついてないのかしら?」


パチュリーが指差した先には預けた時のままの盾が置かれていた。

指摘を受けたにとりは困った顔になった。


「それが、機体の改修で手一杯で盾には時間が割けなかったんだよ・・・ごめんね、明」

「謝ることなど何一つない。ありがとう、にとり。これで、俺はまた戦える」

「けど・・・」

「この機体をコーティングした合金の材料は何?」

「えっと・・・」


にとりから合金の材料を教えられた彼女はしばらく盾を眺めながら何か考えを巡らしていた。考えがまとまったのかこちらにやってきた。


「チョークはあるかしら?」

「それはいいけど、何をするつもりなの?」

「中々興味深い物をみせてもらったお礼よ。不動、盾を仰向けにして頂戴」

「了解」


置かれた盾に彼女はチョークで何かしらの文字や図形を書き込む。それが終わると今度は盾を円で囲むように線を引くとまた様々な文字や数字を床に書き込んでいった。

それが完了すると今度は両腕を円陣にかざして聞いた事もない言葉を発し始めた。


「Defensio magicum quadratum effectus scutum・・・・」

「一体何をやっているんだ?」

「た、たぶん呪文だと思うけど・・・あわわ、線から光が」


円と線が発光する。それを確認した彼女は俺を手招きして盾の置かれた場所に俺を導いた。


「不動、鎧を縫いで盾の横に置いて。そして、指先を切って血を一滴盾に描いた魔法陣にたらして掌をつけるように」

「わかった」


SAA脱着後、渡されたナイフで親指を切って血を言われた通り魔法陣とやらに落とした。

そのままの態勢でここに残るように指示され彼女は円陣から出て行くと再度手をかざした。


「!?」


一瞬視界が光で閉ざされた。少しずつ眼を開けると床の発光は収まっていた。視線を円陣の外にいる彼女に向ける。


「終わったのか?」

「ええ、手を離していいわよ」

「所で何をしたんだ?」

「盾に貴方の霊力を少しばかり封じ込めたのよ。少し、だるくないかしら?」

「言われてみれば・・・」

「安心なさい、半日もあれば戻るわ。これで触媒なしでも盾へ機体から霊力が伝わるようになったの」

「何か違いがあるのか?」

「細かい魔術的な説明は省いて簡単に説明するわね」


彼女の説明によれば機体を覆うように出ている霊力は弱い弾幕程度なら打消せるが、一定以上の力を伴った攻撃には効果が薄いそうだ。

そういった攻撃に対しては障壁を用いて弾き飛ばすのが有効らしい。盾に描かれた魔法陣は機体から流れる霊力に呼応してその障壁を出す物だそうだ。


「防御結界の応用なのだけれど、使い捨てに近いわ。受ける力にもよるけどあまり多様はできない事を覚えておきなさい」

「使用に際しての発動条件は?」

「ただ念じればいいわ。『ふせげ』とか『まもれ』とかね」

「了解した。ありがとう、パチュリー」

「いいわよ。個人的な知的欲求も満たせたし、不動には妹様の件があるから」

「フランはどうしている?」

「色々と考え込んでいるみたいだけれど、情緒は安定しているわ。いい傾向よ・・・そう考えればレミィの戯れもいい方向にむかったのかしら」


戯れでけしかけられた割にはいささか度が過ぎていた感は否めないが、自分が『幻想郷』という物をあまり理解していなかった点もあるため、その事を口に出すのは憚られた。


「とにもかくにも、私の用事はこれで終わりね。所で貸し出していた本は?」

「ちょっと待ってて」


にとりが道具などを保管しているロッカーからトランクケースを持ってきてそれを彼女に渡す。

中身を改めた彼女はそれを閉じた。


「確かに。それじゃあ、一端神社に帰るということでいいのかしら?」

「ああ、連絡を取ってみよう」

「私も行くよ。調整とかあるから」


連絡用の札を通してゆかりんに連絡を取るとスキマが開かれ、そこを通して俺達は神社へと帰還した。


決戦前夜


神社へと帰還した俺はにとりが台車に乗せた装備と整備用品一式を自分で運ぶことにした。

玄関の所で2人と別れて居間のある中庭の方へと向かう。


集合している居間の付近に戻ると軒先に魔理沙と先程別れた2人がいた。

部屋の中では霊夢が退屈そうにちゃぶ台に顎を乗せており、横で伊吹が酒を飲んでいた。

その傍で犬走と妖夢が将棋を指しているのをゆっこが眺めている。


「お?帰ってきたな、なんか色々持って来てるけど見てもいいか?」

「にとり?」

「見るのはいいけど壊さないでおくれよ」

「わかってるんだぜ」

「明は機体をそこに駐機してもらえるかな?」

「了解」


中庭にSAAを駐機すると俺は軒先に腰掛けた。前方では魔理沙が荷台の中身を興味津々といった感じで眺めている。

にとりは機体に取り付いて整備道具を片手に各所の点検を行っていた。


その光景を見つつ俺は懐から煙草を取り出すと火をつけた。煙を吸い込みながら、これから起こるであろう戦いに思いを巡らせた。

敵戦力は不明。しかも、相手は人間ではないしこちらには重火器の支援や航空支援も一切望めない。勝算はあるのだろうか?と。

そこで疑問に思う。いつも自分は任務前に何か思いを巡らせる等と言う事をしていたのだろうか?


答えは『否』だ。


全てを失ったあの日から戦場に赴く前に何か考え事をするなど無かった。与えられた兵士としての役割、任務を遂行する。

ただそれだけで、勝敗の行方など気にはしていなかった。何故なら自分自身が何故生きているのか分からなかったからだ。


だが生きている限り、自分が兵士である限り戦わねばならなかった。

国でも誰のためでもなく、まして自分自身のためでもなかった。


敵も味方も必死に生きようとしている中で俺は目を背けていたのだ。

仲間の死、両親の死から、戻る事のない過去とその先にあった未来という現在、つまり現実に。

その事に忘れ去られた物が流れ着く『幻想郷』で気付くというのは大層な皮肉のように感じた。


だが、そんな俺の事情など幻想郷に住まう人々やゆかりん達には一切の関係がない。

まして、今ここに危機を及ぼしているのは俺達の世界に起因するものだ。だからこそ、俺が『今』出来る事は一つしかない。


「どうしたんですか、なんか難しい顔してますよ?」

「文か、いや少しな・・・」

「明さん、これから決戦が始まるわけですけど意気込みなどはありますか?」

「意気込みか。何も無いとは言えないが、どうにも言葉にしがたい。ただ・・・」

「なんですか?」


文の問いかけに今までの俺なら『任務を遂行するだけだ』と答えただろう。

だが、それだけでは片付けられない何かがあった。だから彼女の問いかけにこう答えることにした。


「全力を尽くす、それだけだ」


自分の口から出た声色が思っていたよりも上ずっていた。自分自身でも気づいたこと故に当然それを聞いていた彼女は少し驚いた表情を浮かべた。

だがそれも一瞬で、こちらに若干顔を近づけると柔和な表情を俺に向けてきた。


「そんなに気負う必要はないですよ。別に明さん一人の問題じゃありませんし」

「文はどんな想いでこの戦いに望むんだ?」

「私ですか?うーん・・・私は記者ですから、この幻想郷で起こる初めての大規模な戦いを見届けようという思いもありますし、弔い合戦ということもあります。それに・・」

「?」

「あはは。こういうのは私の柄じゃないのかもしれませんが、なんだかんだといっても私は今の幻想郷が好きなんです。それが壊されるなんて嫌じゃないですか?だからですかね」

「・・・そうか、そうだな」

「今言った事は秘密にして置いてくださいね?私そういうキャラじゃないですし」


照れた様な笑顔を浮かべた彼女は『他の人にも聞いてくるので』と言って居間の方へと向かった。

その後、遅めの昼食などをとりながら戦力の集結を待っていると時刻は3時を過ぎていた。そして、最終的に集まった人員の前でゆかりんが口を開いた。


「では、作戦会議を始めたいと思います。まずは現況の把握からということで、お願いしますわ」

「わかったわ」


パチュリーが持ち込んでいた水晶に何事かを唱えると平原の映像が映し出された。

平原の大地には特に何も変化が無いが、問題なのは空の方だった。


「うげ・・・妖精が大量に沸いてるじゃない」

「例の黒い妖精か、わんさかいるぜ」


平原の空を埋め尽くすとまではいかないにしても相当数の妖精が空中に漂っている映像が飛び込んできた。


「様子を見る限りまだ妖精だけのようね。妖怪の山の物見からも同じ報告が来てるけど、数は時間を追うごとに増加しているらしいわ」

「既に明の世界の兵器はだしつくしたとか?」

「それはないね、萃香。私らが地底で取り逃がした奴らもいるから」


星熊が横の伊吹にそういった時、計ったように地面が揺れだし今までに無い規模で揺れはじめた。


「これは・・・!?」

「お出ましって訳ね」


数分続いた揺れが収まり、再度水晶を覗き込んでいたゆかりんや霊夢が声を上げる。

映像の中には俺のよく見知ったものが出てきていた。


「明さん、敵はどのくらいの戦力とおもわれます?」

「パチュリー映像を少し引く事はできるか?」

「・・・待ちなさい」


引かれた映像から敵戦力を観察する。SAAは元より、戦車やAFV(装甲戦闘車両)の姿も見られる。

種類も多様で日防軍の物も連合軍の物もあるが、現在配備されている物と過去にあったものがごちゃまぜになっていた。


「映像を見る限り、SAAは2個機装中隊とほぼ同規模だが車両群が多いのが厄介だ」

「どういうことです?」

「撃破する手段が限られる。手持ちの武装で上手くやったとしてもせいぜい戦車を3輌潰せればいい所だろう」


随伴する車両群については戦車が確認できるもので2小隊規模、装甲車両もほぼ同程度の所を見るに典型的な機甲部隊編制だ。

違うといえば、機械化された歩兵がいない所だ。


幸いだったのは敵の車両群に自走砲や対地ロケットの類が無い事だった。

今のところは遠距離から人里を攻撃できる手段が無い事がわかった事を伝える。


「映像を見る限り今すぐ動く様子もないようだし・・・でしたら、しばらく時間が稼げますわね」

「どういうことだ?」

「今、藍には周辺を結界で封鎖する作業を行ってもらっています。感知式ですので、奴らが動き始めれば分かるようにしています」

「なら私はお役御免かしらね?」

「冗談を。貴女には引き続き監視をお願いしたいわ。紅魔館としては動かないのでしょうけど、貴女個人に頼むのは別にかまわないでしょ?」

「・・・そうね。けど、あくまで私は紅魔館の一員よ?それを忘れないでもらいたいわ」

「結構よ。じゃあ、お帰りはこちら」


スキマが開かれ立ち上がったパチュリーはその中に去っていった。その姿が完全に消えるとゆかりんは全員に向き直る。

その中から八意と伊吹、そして俺を指名した。


「3人には部隊編制を行ってもらいます。月の頭脳を中心に、萃香と明さんで立ててもらうわ。その他は自分の用意を万全にしておいて」

「貴女はどうするの八雲紫?」

「私にはまだ別にするべき事がありますわ。だからこそ、貴女に任せます。私が準備した手札や情報はこの資料に記してあるわ」

「わかったわ」

「では、今を持って今回の一連の騒動を正式に『異変』とみなします。幻想郷で起こる争いにちなんで以降『幻争異変』と呼称するわ。皆、解決に尽力して頂戴」

「大仰ね、まあ異変なら解決するだけよ」「だな、まかせとけって!」


霊夢は淡々と答え、魔理沙は快活に彼女に答えた。対照的な受け答えだったが緊張に包まれていたその場に安堵感の様な物が漂う。

ゆかりんは満足そうに頷くとこちらに視線を向けた。


「明さんもよろしく頼みますわ」

「了解した」


投げかけられた視線に彼女の並々ならぬ決意の様な物を感じた俺はそれにしっかりと頷くことで応じた。


「以上解散、私も行くわ」


解散の言葉と同時に彼女はスキマに消え各々が散っていく。別室に移動した俺達は集結した人員の戦力と敵対勢力の特質を考慮した上での部隊編制をすべく会議を行うこととなった。


―無縁塚―


幻想郷で最も寂しく誰も近づかない場所である無縁塚。そこへ一つのスキマが現れ一人の女性が荒涼とした大地に現れた。


「橙、作業は順調かしら?」

「あ!?紫様、はい大丈夫です。8割は終わってます」

「順調ね。探知術式に何か変化は?」

「さっきの揺れの時に反応がありました。でも、すぐに無くなってしまいました」

「常時開いているといわけではないのね。意志によるものか、それとも・・・」

「あの・・・紫様、作業が完了したら私はどうすれば?」

「そうね。橙はここでの作業が終了次第、藍を手伝って上げなさい」

「わかりました!」

「ふふ、橙は元気ね」

「?」

「なんでもないわ、終わったら連絡なさい。藍のもとにスキマで送るわ」

「はい!」


笑顔で答える自分の部下に背を向けると彼女は能力で作り出したスキマを潜り次の場所を目指す。


(こちらが攻めてくるのを待っている?何らかの思考や目的があるというのかしら?)


相手は今まで集めた情報や状況から怨霊や亡霊の類であることはほぼ間違いない。

そうした物は一部の例外を除いて、生前の執着で行動を起こす。それ故に、敵が姿を現した時点で人里への侵攻が開始されると彼女は踏んでいた。


(読み切れないわね。でも、これで策に割ける時間が増える。そして、私のやるべき事は変わらない)


彼女の目的はただ一つ。どのような手段を用いても『幻想郷』を守る事、ただそれだけだった。


「幻想郷は全てを受け入れる。でも、貴方達は別。ここに仇成す者は悉く滅ぼしつくして差し上げますわ」


藍が作業している場所の空中に出現した彼女は眼前に展開する異形の群れに冷徹な視線を向けた。


一方、神社の一室で話し合っていた不動達の会議は大方終了していた。元より、幻想郷で『強者』と目される人員は限られている。

その上、今回八雲紫の呼びかけに応えて集まった者達はほぼその『強者』ばかりだったため本人の特性と作戦を考慮すればよかっ

たのでそこまで大した時間は必要なかった。


「現状で話し合うべき事はこのくらいかしら。細かい所は、後で詰めましょう」

「そうだね。紫も急に用意したにしては中々備えてたし、私達が話し合うべき事はここくらいまでだろうね」

「元々、外の世界から攻め入られた場合を考慮してたんでしょうね。流石に異世界からの侵攻までは想定外だったでしょうけど」

「明からは他に何かある?」

「無いな」

「うん。じゃあ、居間に戻ろうか」

「ええ」


出て行く二人を見送りながら先程の部隊編制について俺は考えた。

俺達は主に3種類の部隊に分けられる事になっている。まず、空中の妖精に対する部隊、地上の敵を迎撃する部隊。そして、指揮と遊撃を行う部隊。


まず空中の部隊構成は、霊夢と魔理沙に妖夢。補佐に文と椛が配置された。

妥当な配置だろうと考察する。霊夢や魔理沙は弾幕戦における名手だということだし、天狗である文や犬走は空中戦に関しては言わずもがなだ。

妖夢の実力はわからないが、携えた刀や身のこなしから素早さを力点に置いた戦い方をしているように推察される。


地上部隊の構成は、萃香と星熊そして俺。補佐として藍と藤原が配置された。敵地上部隊がSAAや戦闘車輌群で構成されている割に人員が少ないように感じるが八意は『鬼』である彼女達2人を『特記戦力』として位置づけた。


地下での戦闘で見た人智を超えたパワーとスピード、さらに彼女達2人は鬼の中でも別格の存在ということを考慮すれば物理的に敵車輛等を確実に排除できる公算が大きくなるという判断からだ。


指揮や遊撃に関しては残ったメンバーが担当することになる。総指揮はゆかりんこと八雲紫。参報に八意、補佐としてゆっこの配置となる。

この場にはいないが守矢神社から3名が増援として合流する手はずになっているそうだ。


「後は実際に当たってみるしかない」


そう言葉に出しながら俺は部屋の外に出た。現状で考えられる事は考え、そして手札も用意した。残りはそれを実行するだけである。

作戦の事を考えつつ居間の方へ向かう途中、中庭の方から声を掛けられた。


「明!いい所に来てくれたよ、ちょっと調整したい所があるんだ」

「調整か。了解した」


装着を終えて、にとりと共に各種の動作確認を行っていく。

作業は順調で機体の動きが完全に自分に馴染んでいることに満足しつつ、彼女の仕事の丁寧さに感心していた。


「どうかな、明?」

「問題ない。むしろ、以前より機体が馴染んだ様な感じを受ける」

「それは嬉しいね。技術者冥利に尽きるよ。でも・・・」

「にとり?」


言葉じりがすぼんだ彼女を訝しんだ俺は声を掛ける。にとりは作業用の端末の画面を見たまま話しだした。


「でもね、明・・・私、機械をいじるのが怖いと思ったのはこれが初めてなんだ」

「どういうことだ?」

「私が整備したSAAに明が乗って戦う。けど、けどね・・・こんな事言うのはあれなんだけど、もし明が帰って来なかったらって考えたら怖くなったんだ」


まさかそんな心配をされるとは思ってもみなかった。

所詮、俺達兵士というものは軍という巨大な装置を動かす歯車の一つに過ぎず、SAAもまたその部品。

つまりは、消耗品だからだ。つい最近まで自身はもとよりSAA自体にも大した思い入れは無かった。


だが、今思えば基地の整備棟で未帰還機のケージ前で項垂れる整備兵達を何度か目にしたことがあった。

彼等の心境は今の彼女と同じだったのかもしれない。

ただの兵器にしか過ぎない『SAA』だが、この機体には確かに彼女の想いが宿っている。


「俺は信じている」

「え・・・?」

「君が精魂込めて仕上げてくれたこの機体ならば任務を遂行できる。だから、俺の腕を信じてほしい」


だから、必ず帰投する。とは軽々しく口には出せなかった。

だが、彼女の想いが託されたこの機体が負けるとは俺には考えられなかった。


「・・・うん、そうだね。明と『明王』ならやれるよ」

「ああ。明王?」

「あ!?えっと・・・そのー明、ちょっと集中してくれる?」

「了解」


言われた通りにすると彼女は手鏡をこちらにむけた。鏡の中にはSAAを装着した俺が写る。

その両肩装甲部分には先程までなかった『明』と『王』の文字が青白く浮かんでいた。


「ご、ごめんね。明の姓が『不動』だから、その・・余剰素材で霊力に反応する様にペイントをしちゃったんだ」

「何故ペイントを?」

「えっと、これでお不動様の加護が宿ればなーって思って」


お不動様、つまり不動明王の事を彼女は言っているのだろう。家の墓のある寺が祀っているのも不動明王だったから多少の知識はある。

たしか、仏法の守護者にして魔を打ち払う存在のはずだ。これから相対する敵に対しては正にふさわしい名前とも言えた。


「所謂、ゲン担ぎというやつか?」

「担げるものはこの際なんでも担ぎたいから。だめかな?」

「そんな事はない。ありがとう、にとり」

「うん!じゃ、また調整していくね」

「ああ」


こうして俺達は夕食に呼ばれるまで最後の調整に没頭していくことになった。

夕食後は各自解散となり、それぞれ神社の思い思いの場所に散っていった。

妖夢と共に夕食の片付けに当たっていた俺はそれを片付け終えると、彼女と共に彼女たちが滞在している居室に大量の茶菓子を運んでいた。


「ゆっこは大食漢のようだな」

「す、すいません。手伝わせてしまって」

「ところで妖夢、少し聞きたいことがる」

「なんでしょうか?」

「俺の勘違いなら謝罪するが彼女は普通の人間ではない・・・違うか?」

「はい。幽々子様は亡霊です。ついでに言うなら、私は半人半霊ですね」

「・・・そうか。なら、少し彼女と話がしたい。いいだろうか?」

「大丈夫だと思います。幽々子様、お菓子お持ちしましたよ」

「は~い!待ってたわよ、もうお腹ぺこぺこ~」

「何がペコペコなんですか!?夕飯もあれだけ平らげて・・・持ち込みの食料がなかったら、巫女に追い出されてましたよ?」

「霊夢はけちんぼよねー。って、あら明さんじゃない」

「夜分にすまんが少し話を聞きたい」


彼女の対面に座った俺はまっすぐに彼女を見つめる。俺の視線を受けても彼女は柔らかな微笑みを浮かべたまま微動だにしない。


「ゆっこは亡霊だと聞いた。だからこそ、君に聞きたい。今回の相手は何故死んだ後でも憎しみを募らせるのだろうか?」

「そうね、この世に未練を残す霊や亡霊というのは生前の執着が強いから残っちゃうという話は知ってる?」

「聞いている」

「未練といってもそれはそれぞれ理由が違うわよね。誰かに対する恨みであったり、思慕であったりやり残したことに対する後悔であったりとね。明さんは何度か戦った事があるはずよね?」

「ああ」

「何か言ってなかった?」

「『全て殺す』そう言っていた。つまり、復讐ということか?」

「・・・恨みである事は間違いなさそうだけど、絞りきれないわね。第一彼等は貴方と同じ世界の所からここにきているはずだし。妖夢はどう思うかしら?」


そう言って彼女は隣に座る妖夢に視線を向けた。居住まいを正して、軽く咳払いをした彼女は口を開く。


「斬ってみればわかることです」

「妖夢に聞いた私が馬鹿だったわ~」

「話を向けておいてそれはないじゃないですかー!?」


憤慨する彼女に対してゆっこは扇子で口元を隠して笑っている。だが、その言葉に俺は妙に感心していた。


「存外それは的を得ているかもしれん」

『え!?』

「今までのような偶発的なものではなく、向かい合っての戦闘ならば相手の目的・・・いや、執着の原因がわかるかもしれん」

「そうね。正面からぶつかりあえば分かることもあるかもしれないわ。でも、知らなくてもいいことかもしれないわよ?」

「ああ。だが、俺は知るべきなんだと思う。例えそれがなんであろうとも」

「ふふ、聞いてた話だと明さんってもっと無機質な人だと思ってたけど違ったのね」

「?」

「紫の式、藍の最初の印象は機械みたいな無機質な感じを貴方から受けていたそうよ」

「伊吹にも言われた。俺には何かが欠落していたと」

「けど、貴方は今幻想郷に来て変化している。でも、貴方の根本は変わっていないように見えるわ」


そこで彼女は一旦言葉を切り目を閉じた。しばしの瞑目の後、見開かれたその瞳には

先程までの穏やかな視線と違い、何かを伝えようとする意志が宿っていた。


「時代や人は流れて変わっていくものだけれど、その流れの中でも決して変わらないものがあるわ」

「どこにだ?」

「ここよ」


そう言うと彼女は自分の胸の中心を指した。

それが意味する所をわかった俺は自嘲気味に切り出した。


「それを俺はどこかに置いてきたような気がしている。今持ってわからないな」

「そんなものよ。私だって随分生きてるけど、ちゃんとわかってはいないわ。でも、自分が自分である事の根元はそこに必ずあるわ」

「そうだな」

「あら?でも、生きてるのっていうのは変ね。私亡霊だったわ」


そう言って彼女はころころと笑った。横で妖夢が目頭を抑えて溜息をついていると

少し真顔に戻った彼女はこちらに視線を向ける。


「あまり考えすぎないことよ。貴方は貴方の出来ることを成せばいいの、貴方は『生きている』のだから」

「ああ」


聞きたかった事も聞けた。あまり長居をするのも気が引けたので辞去を告げ、SAAが駐機されている中庭へ足を向けた。

中庭へと向かっていると廊下で霊夢を筆頭に魔理沙や伊吹、星熊が酒盛りをしていた。


「お?明話は終わったのか?」

「ああ」

「なら一杯のみなよ?明日の戦の景気づけといこうじゃないか!」

「いただこう」

「明、飲むならこっちになさい。鬼の酒なんて飲んだら明日起きれなくなるわよ」

「了解した」


霊夢に差し出された酒を受け取った杯に注ぐ。つまみを食べながら、彼女達の談笑に耳を傾ける。


「しかし、久しぶりの大戦には血が騒ぐね」

「ああ、地下でののんびりとした生活もいいけど・・・やっぱり私らは鬼だしね」

「バトルマニアはこれだから・・・」

「ま、この二人が大暴れしてくれた方がこっちも楽ができるってもんだぜ。な、明?」

「だといいが。いずれにせよ、油断はできない相手だ」

「骨のある相手ならいいけどね。拍子抜けするほど弱いとつまらないさ」

「変に強いよりあっさり方がつくほうがいいわ。面倒くさくないもの」

「相手は怨霊だからね、霊夢には巫女としての力を期待してるよ」

「あーほんとやだわ」


そんな風にしばらく談笑して頃合をみて俺は辞去を告げた。他の面子はもう少し飲むという事で

縁側で他愛のない話をする彼女達の声を背にして部屋へと戻った。


幻争異変 前編


明けて翌朝、今日も天気は薄雲が広がりどんよりとしていた。

朝食後、広間で待機している俺達の元にゆかりんが戻ってきた。


先日決めた班と彼女が考えた作戦を合わせて最終的な打ち合わせを行う事となる。

案がまとまった所で改めて作戦の詳細について説明が行われた。


「・・・以上となるわね。質問はあるかしら?ないようなら早速現地に向かうわ」

「待ってくれ!敵の迎撃を行う場所の一つが人里に近すぎないか!?」


人里の代表として説明を聞きに来た上白沢が声を荒げる。彼女の危惧する所は

最もだろう。


「先程もいったけど、それも作戦の一環よ。そうなるまえに殲滅できる可能性も十分ありますわ」

「だが、万一の事があっては・・・」

「その時は貴女の能力に期待しているわ。勿論そうならないようにするつもりよ?」

「む・・・しかし・・・」

「慧音、心配しなくても私が蹴散らしてやるからさ」

「妹紅・・・わかった。くれぐれもよろしく頼む」

「ええ」


一応の納得がいったのか、彼女はそれ以上の追求はしなかった。

そして俺達はスキマを潜って作戦予定地点へと向かった。



現場についた俺達はそれぞれ最後の用意を済ませる事となった。俺もSAAを装着してにとりと共に

最後のチェックを行う。


全ての準備が整い集合した俺達を前にゆかりんが檄を飛ばす。


「ここまでは予定通りですわ。でもここから先はわからない、各々全力を尽くして頂戴。作戦開始」


幾分硬い声の彼女の声を受けてまずは制空を担当する空中班がその場を飛び立っていく。

俺達地上班も空を行く彼女達の背中を追いかけるように現場へと向かった。


「・・・」

「珍しいわね、そんなに緊張して?」

「幽々子・・・そりゃ、ね」

「月に妖怪の軍勢を嗾けた時でもそこまでじゃなかったんじゃないかしら?」

「あの時と今回は全くの別物よ。何せこちらは負ければ後がないんだもの」

「珍しく弱気ね。でも、そんなの紫らしくないわ。いつも通り胡散臭く余裕ぶってなさいな」

「なによそれ・・・あ」

「はじまったみたいね」


霊夢や不動達が向かった先の空中で色とりどりの弾幕が空を彩りだし、地上からは銃撃の音が聞こえ出していた。


「始まったか」

「みたいだね。一番槍は霊夢達か~」

「こっちも負けてられないよ!やっこさん達がおいでなすった!」

「所定の作戦通りだ。伊吹、星熊は車両群を優先的に狙ってくれ。SAAは俺が始末する」

「ほいほいっと!それじゃ盛大に戦と洒落込むかね!」

「いくよー!!」


地上すれすれを飛ぶ二人が散開していく。補佐としてついてきていた藍や藤原もそれぞれを援護するように

展開していった。


こちらの動きに合わせるように今まで沈黙を保っていた敵が動きを見せる。戦車や装甲車を前面に押し立てて

SAA部隊がそれに追従する形で突進してきた。


正面からの敵機甲小隊の突撃。セオリー通りならば、機動力で持って戦車や装甲車の重火力の攻撃範囲から逃れ

側面から撹乱が最も有効だが、あえてそのまま正面から突撃する。


躊躇なく正面から単独で突撃してくる俺に敵の照準が集まる。左右に分かれた彼女達には目もくれず

こちらに砲火を集中させるようだ。


「そうだ。俺を狙え!」


手始めに敵装甲車から機関銃の猛射がかけられる。周囲に着弾しまるで地面を耕すようなくぐもった音が響き渡り

不気味な空気を切り裂く飛来音が木霊する。


盾を構え小刻みに機動し、回避に徹しながら敵との距離をつめていく。視界に捉えていた戦車が足を止めこちらに

砲塔を向けるのを捉える。


「ブースト!!」


戦車の射線に完全に入る前に地上から飛び上がる。同時にレールカノンの照準を向け発砲。

砲塔のすぐそばを貫通し、内部を食い破った砲弾が戦車を爆散させる。


着地と同時にショルダーブーストで方向転換、一気に敵の火力圏から離脱を試みる。

それに釣られるように敵SAAが車両群の影から飛び出してきた。


敵の意識が完全にこちらに向いた所で、こちらの『本命』が初手から強烈な一撃を見舞った。

猛烈な打撃音が響き渡ったかとおもったら、複合装甲に覆われた装甲車が横転しながら戦車に衝突した。


「おーお、結構硬いけどおもったより軽いねぇ」

「いただきだよ!」


星熊に続き伊吹の声が聞こえたとおもったら、どこから持ってきたのか岩石を動きが取れなくなった

装甲車の底に投げつける。大音量の破砕音と共に底面の薄い装甲を食い破った岩が装甲車を破壊。

残骸で身動きが取れなくなった戦車のハッチ付近に星熊が軽々ととりつく。


「えーっと、明が言ってた蓋はこれだね!!そら!!」


軽々とハッチの蓋をもぎ取り、それを投げ捨てた彼女は上空に控えていた藤原に合図を送る。

間髪いれずに藤原が炎を見舞って焼き尽くすと大爆発と共に砲塔が斜め上に吹き飛んだ。


通常ならこうして車両群が敵のSAA等に近接戦を挑まれたならば、護衛のSAAはそれを

排除に向かうが、俺に向かってきた敵は彼女達を半ば無視するようにこちらへ銃撃を浴びせてくる。

盾と機動で防御しつつ、ブレードを抜き放って攻撃の機を窺う。


「不動殿、援護します!!」

「頼む」


上空から弾幕を見舞って敵SAA群を牽制してくれる彼女の援護を受け、防御から一転して

攻勢に移る。俺か彼女かどちらを優先的に排除するか逡巡する敵の薄くなった攻撃を抜けて

接近戦の距離に踏み込む。


「はああ!!」


銃撃を盾で防御しながらそのまま先頭の敵に体当たりをして吹き飛ばすと、すぐ後ろにいた

敵を斬りとばす。回転を利用しつつ方向転換しこちらに照準を向けようとしていた敵機の頭部を突き刺す。


『グオオオオオオ!!?』


霊気を帯びたブレードをさされた事で敵が苦悶の声を上げながら崩れ落ちる。吹き飛ばした敵機がのそりと

起き上がる気配を感じ、盾を構えながらそちらをむくと破砕音と敵機が何かに吹き飛ばされるように横へきえていき

爆発音が響き渡る。


「ストラーイク!どんなもんだい、明!」


どうやらまた岩を投げつけたようだ。Vサインする彼女に応え正面を向くと残敵が牽制射撃をしながら

後退して行く姿が写った。


「なんだい、あいつらさがっていくよ。根性ないね」

「こんな程度で諦めるとは思えないけどね」

「ちょっと!あれ!!」

「む・・・これは・・・」


藤原が指した方向を見ると相変わらず空中で色とりどりの弾幕が飛び交い、爆発している。

その中から黒い何かの塊がこちらへむかってきていた。


「あれは・・・妖精か」

「霊夢達の撃ち漏らしかい?」

「撃ち漏らしって数じゃないけどね」

「囲まれると厄介だな。不動殿どうする?」

「迎撃するが、正直対空戦は不得手だ。手持ちの対空装備を発射後、補給のために一時後退する。その間、頼めるか?」

「任せときな!その間に終わらせてやるよ!」

「河童の新兵器ってやつかい?どんなもんかね」

「敵地上部隊の動きに注意してくれ。では、行くぞ・・・!!」


その場を離れ有効射程内に敵を捉えるために、移動する。途中こちらに向かってくる黒い妖精の集団の

注意を引くべく新武装の一つ、霊気の弾丸を放つ河城壱式に武器を切り替える。


攻撃地点についた俺はアンカーで脚部を固定、照準をつける。

先日の先頭で鹵獲した56式小銃を改造したにとり謹製の小銃を構える。

集団で向かってくる妖精に向けて3点バーストで発砲する。


(試射のときも思ったが、反動が全くない)


普通の小銃を撃てば当然発砲に伴う反動が射手に伝わるが、この小銃はそれがない。

カートリッジの部分は弾の代わりに機体を伝わって流れてきた霊力を一時的にためる事ができるそうだ。


下から発砲してくるこちらを忌々しく思ったのか、その集団がどんどんこちらに

迫ってくる。


「目標補足、発射」


有効射程内に敵集団が入った事を確認した俺は新装備として付けられたショルダーランチャーから

ロケットを集団の進路に向けて全弾発射する。こちらは推進に燃料を使っているので反動が来る事から念のため脚部を固定していた。


空中の敵に対してロケット攻撃というのは特殊な場合を除いてまずする事はない。しかし、彼女の作った

ロケットは特殊だった。集団との距離がある程度迫るとロケットが爆発を起こし、空中に何かがばら撒かれた。

チャフのようにひらひら舞う紙切れ。


そんなものは関係ないとばかりに妖精の集団はその中に突っ込む。その紙切れ、札に妖精が次々と触れていくと

空中が一瞬で爆発に呑まれた。妖精が触れていない札も連鎖的に爆発して、次から次に紅蓮の爆発が生まれる。

戦果を見届けると、アンカー固定を解除し後方に控えていた星熊達の方に移動する。


「補給を受けてくる」

「了解、後は私らで受け持つよ」

「河童の発明も侮れないもんだね」


すれ違いざまに声を掛け合いながら俺は陣地へと後退する。爆炎を抜けて大分数を減らした妖精の集団向けて

彼女達は空中戦を仕掛けるべく飛び立っていった。


彼女達の更に奥で敵の空中戦力の主力集団と交戦を続ける霊夢達の方に視線を向けると相も変らず

激しい戦闘が行われているようだ。


(無理はするな)


不動の心配を他所に、大量に飛んでくる黒い弾幕を回避しながらお返しとばかりに弾幕を放つ彼女達。

直撃に晒された妖精達が瞬く間に撃墜されていく。


「大丈夫よ!!」

「ん!?どうしたんだよ、霊夢!!っと!!」

「なんか余計な心配されたような気がしたのよ!あーもう、数が多いわね!!」

「ぼやいていてもしかたありませんよ!」

「向かってくるなら全て斬り捨てるまでです!!」


一方の黒い妖精集団は人数比で彼女達を圧倒的に上回っているのにも関わらず、その多くがなんの有効打も与えれずに撃墜されたせいか、散発的に襲ってくるもののまるで様子を見るように集団の本隊は動きを見せなくなっていた。


「追撃しますか?」

「相手の動きが妙なのが気になるぜ」

「まだかなりの数がいますし、明さんの言う『制空権』を確保するためにもさらに削るべきでは?」

「骨が折れそうですね」

「どっちみち全部倒す事に変わりは無いわよ。一気に決めて・・・」

「どうしたんだぜ?」

「霊夢さん?」

「何か・・・来る!?」


黒い妖精の集団の真下、敵の地上部隊が集結している地点に巨大な黒い淀みが現れた。

そして、激しい地響きが幻想郷の大地を揺らした。


「うわ!?わわわ、な、なに!?」

「地震だと?」


陣地に一旦戻った俺はにとりの手を借りて補給作業をしていたが、突如起こった地震に

手を止める。


「明さん」

「ゆかりん、何が起こった?」

「空を」

「空?なんだ、これは?」


見上げた空は不気味な紅一色となっていた。血の色のような空が広がる様は、まるで世界が一変して

しまったかのような錯覚を受ける。


「信じられない事だけど、敵の中心から一種の結界のような物が展開されているわ」

「結界?」

「ええ。それで・・・今、連絡が来たわ。敵の首魁が現れたみたいね」


敵の主力。これまで現れていた機甲部隊の増援が出現したのかと考えた。

対策を練るため彼女に問い返す。


「相手の数は?」

「・・・一よ」

「一機?敵の増援は一機なのか?」

「ええ、でも・・・これが何なのか私達では要領を得ないわ」

「直接確認する必要があるわけだな?了解した」


補給作業を終えた俺はすぐさま先程の交戦地点へと向かう。到着する少し手前で

霊夢達や伊吹達の姿を捉える。

そして、彼女達の視線の先にとあるものを発見した。


「明、あれは何?」

「・・・地上戦艦だと」

「戦艦?」


地上戦艦、そう呼称されているがつまりはSAAや兵員、車両を運ぶ事のできる巨大兵器

の事だ。連合軍は熊本阿蘇に配備されているレールガンによる圧倒的な制空権下のもとでは

前線へ満足な空輸ができなかったため、苦肉の策としてこうした兵器を投入してきたのだった。


「とんでもない大きさですね」

「・・・あれでも3種類確認されているものの中では最小なのだがな」

「あれでですか!?」


犬走の驚きは最もだろう。自分も最初相対した時はその大きさに少なからず驚いたものだ。


「で、あれを壊す手段はあるの?」

「・・・現状では不可能だ。それに不可解な点がある」

「不可解?」

「熱源反応が無い。あれの機関は停止している」

「はあ?動かないってこと?」

「ああ」


霊夢の質問に答えながら、再度サーモビジョンで船体の各部を見てみたがどこにも熱源が感知できない。

とりあえずあれは動けないものと判断して、他の場所を見ていく。


「とんだこけおどしだぜ。何のために出てきたんだありゃ?」

「こちらへの威嚇目的ですかね?」

「じれったいねぇ。あっちがこないならこっちから攻め込もうか?」

「だね。私もまだまだ暴れたりないよ」


伊吹達の言う事は最もだ。あれが動かないとしてもまだ周囲の脅威は排除されていない。

再度船体を確認した所、武装として機能しそうな場所も一門の主砲や一部の副砲だけで他は損壊しているようだ。

その事について皆へ注意を促して攻撃準備に移る。


「さて、第二ラウンドだぜ!!」

「さっさと終わらせてやるわ」


魔理沙や霊夢が飛び立とうとした瞬間。それまでそこに佇んでいた船体を急に黒いもやが包んでいった。


『グワアアアアアアアアアアア!!!』


平原に響き渡る絶叫。同時に黒いもやの一部が船体上部で歪な人形のような形を取った。

一瞬呆気に取られる俺達だが、次の瞬間正気に戻った。


「おい!明、あれ動いてるぞ!?」

「馬鹿な・・・熱源は感知できない。何故動ける?」

「周囲の奴らも動き出したよ!」

「ゆかりん、聞こえていたか?」

『ええ』

「周囲の残敵掃討にうつる。だが・・・」

『わかっています、明さん達は可能な限り足止めを。あれの対処についてはこちらに任せてくださいな』

「了解、全員聞こえていたな?」

「わかってるわよ!あんなの人里に近づけさせてたまるもんですか!」


そういった藤原が我先にと敵へと向けて吶喊する。それに促されるように俺達も追従して

敵の主力へと突入していった。


不動達が前線で再び交戦し始めた頃、後方の八雲紫達の下へ東風谷早苗と

守矢の2柱が増援としてやってきていた。


「以上が現在の状況ですわ。お三方にはこちらが仕掛けている結界の強化と補助をお願いします」

「わかったわ。やってみましょうか」

「いいでしょう・・・あれ、早苗はどこ?」

「わああー!?これがSAAですか、にとりさん!!」

「ちょ、ちょっと!?無闇にさわらないで!?これは大事な予備機体なんだから!」

「凄い!未来の世界にはこんなロボットみたいなのがあるんですね!」

「話を聞いておくれよ!?」


いつの間にか姿を消していた早苗はにとりが持ってきていたバルディッシュを興奮した面持ちで撫で回していた。

あれやこれやといじりまくる彼女に四苦八苦するにとり。


「・・・くれぐれも頼みますね?」

「あーうん、なんかごめんね?」

「やる時はやる子だから大丈夫よ・・・たぶん」


なんとも頼りない二人の返事に一抹の不安を感じながら彼女は前線へと目を向ける。

遠めに見える地上戦艦と呼ばれる兵器の周辺では色とりどりの弾幕が空中で炸裂し、地上からは幾筋もの黒煙が上がっている。

緒戦の頃よりも更に激しい戦闘が行われているのは明白だった。


一方の不動達はゆっくりとした動きで移動を開始した地上戦艦。それに追従する機甲部隊と黒い妖精達へ果敢に攻撃を行っていた。

敵は守りを固めているらしく戦艦の周囲の一定範囲から決して離れず密集隊形をとって、ぶ厚い弾幕を形成してこちらを懐に入れないようにしていた。


「くっ・・!」

「あーもう!埒が明かないね!!」

「妖精ばっかり嗾けてきて鬱陶しい!!」


霊夢達もよく頑張ってくれているが、空中の妖精の一部が地上の俺達に対して先程と比べて格段に攻撃の圧を強めてきている。

加えて防御を固めるSAAと戦闘車両群による濃密な火線、さらに周囲を戦艦に搭載されているグレネードランチャーと機関砲の

弾幕が襲い碌に接近がままならない状況だ。


敵の攻撃を回避しつつ戦艦を注視していると上部の砲塔が動き出しているのを確認した。

今の今まで主砲による攻撃を行っていなかったが、とうとう使用するようだ。

だが、その攻撃がこちらに向けて行われるにしては砲身の仰角があがり過ぎている。


「まさか・・・不味い!!」

「何が不味いんだ、明!」


隣にいた星熊の叫びと同時に一際大きい砲声が幻想郷の空に響き渡った。

そして、程なくして着弾音。


「あの方向は人里じゃない!?」

「紫様!?」

『今のは大丈夫よ。人里からだいぶ外れている、けど不味いわね』

「奴はまだ正確に人里の位置を把握していない、なんとかして砲塔を破壊しなければ」

『ええ。敵はまもなく仕掛けていた結界内に入ります、動きが鈍った所で攻撃を』

「了解」

『藍、現場での制御は任せるわ』

「はっ!!」


突入態勢に移る俺達。そして、間をおかず平原の地面を何本もの光が走っていく。

敵の周囲をぐるりと回るように取り囲んだそれが発光する。


『グルオオオオ!?』


船の上の人型が戸惑いを含んだ悲鳴を上げる。地上、空中の敵も急に動きが乱れ

中には武器や弾幕を狂ったように撃ち始めるものもではじめた。

唐突な変化に空中組みも地上へ一旦降りて合流する。


「妖怪は結界内に入らないでくれ!影響を受けてしまうぞ!」

「はあ!?あんな滅茶苦茶な所に霊夢達や明だけ突っ込ませるつもりかい!?」

「他のものは周囲から敵を削ってくれ!藤原殿は不動殿の直掩を!」

「しょうがないわね!不動、行くよ!!」

「ああ」

「その前に露払いをしてあげようかしら?」

「え?」


俺達の後方から声がかけられる。そこには日傘をくるくると弄ぶ様に回転させた

風見が立っていた。


「風見、何故ここに?」

「何故ってつれないわね?まあ、強いて言うなら不愉快だからよ」

「不愉快ってなんだぜ?」

「私の領域の近くでこんな大騒ぎよ?しかも、私に手傷を負わせた異形共がわんさかいるなんて・・・ねえ?」

「だったら、要請に最初から応じてればいいでしょうが」

「ふふふ、あれが私に頭を下げたなら最初から来てたわよ?」

「ひねくれてるねぇ・・・」

「時間が惜しい。風見、突破口を開けるか?」

「ええ。あの時は見せれなかったけど、とっておきを見せてあげるわ」


そういうと日傘を水平にした風見。傘の先に青白い光が集まるように収束するとその直後

極太のまるでアニメかなにかで見るレーザーのような光線が敵に向かって一直線に放たれた。


「!?」

「うわ・・・」

『グギャアアアアアアアア!!!?』


進路上にいた敵を巻き込んでそのレーザーのような光線が地上戦艦に直撃する。

先程の結界の時とは違って明確にダメージを与えたようで、巨大な人型がもだえ苦しむようにその身を捩った。


「あら?結構硬いわね」

「道が開けた。風見、感謝する」

「行くわよ!!」


俺と霊夢が先陣を切るように飛び出す。他の皆もそれぞれ地上と空中に分かれるように

散開した。


「霊夢、魔理沙」

「わかってるわ。私等は化け物の親玉を叩く」

「頼んだ」

「魔理沙!」

「おう!空の道は私が切り開いてやるんだぜ!『恋符』マスタースパーク!!」


先程風見が放った攻撃のように魔理沙が握った何かの先から極太の光線が空中の妖精集団に向けて

放たれる。動きの鈍った敵は回避行動もとれず、なす術も無く撃墜される。


「下は任せたぜ、明!!」

「任された」


更に速度を上げて空中に舞い上がった二人を追うようにこちらも増速し、風見の開いてくれた

突破口から敵の防衛圏に侵入する。


『ガアアア!!コロコロコロスゥ!!!?』


奇声を上げながら攻撃してくる敵SAA。混乱しながらもこちらに銃撃してくるが

照準が全く定まっていない。すれ違いざまにブレードで一閃して切り伏せる。

進路上の敵を極力回避しながら、戦艦の主砲を狙える位置へと移動する。


(ブーストを使用するにしても高さが足りない。何かないか?)


周囲に目をめぐらすと戦艦のすぐそばに動きを止めた戦車がいた。砲塔は右往左往しているが

踏み台に一瞬するくらいなら問題なさそうだ。


「ふっ!!」


側面から近寄り砲塔上面に着地。間髪いれずにそのままブーストで飛び上がると

レールガンを構える。残弾は一発、外すわけにはいかない。

照準が定まった瞬間、即座に発砲した。


下から斜め上に突き上げるように砲塔側面に砲弾が貫通。一拍遅れて砲塔部分が吹き飛んだ

のを見届けて地面に着地する。


「明!!気をつけろ!!」

「何!?」


視界に入ってきたのは巨大な黒い手だった。押しつぶすように迫ってきたそれを間一髪で回避する。

地面が砕かれ土砂を巻き上げた。さらに、煙を裂くように黒い筋がこちらに向けて槍のように飛び出てくる。


「『防げ!!』」


回避不能と判断。盾を突き出し、パチュリーに教えられた通り防御を念じる。

盾の前に幾何学模様の何かが描かれ、迫ってきていた黒い槍のような攻撃を弾き飛ばした。

だが反動までは殺す事ができず、地面を滑るように後退してしまう。


「ぐ・・・!?」

「この・・!!」


人型による攻撃を牽制するために藤原が弾幕を放つ。紅蓮に染まる弾幕が怒涛の如く人形に向かって

注がれさらに大きな火球が空中で大爆発を起した。


『グルガアアアアア!!?』

「もう一度お見舞いしてやるわ!」


再度攻撃を見舞おうとした彼女。だが次の瞬間その体が吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられる。


「藤原!!?」

「かは・・・げほ・・・ごほ!?ど、どこから・・・」


右の腹を押さえながら体を起した彼女のすぐそばの地面が抉れる。周囲の敵は混乱していて

こちらへ攻撃を行っていないため考えられる事は一つだ。


「掴まれ。離脱するぞ」

「ちょ、ちょっと・・・」


抱え起してその場から後退しようとしていると、視界にまたしても人形がその巨大な手を振り上げようとしている

姿を捉える。


だが、その時空中から巨大な青白い光球が一直線に敵へと向かった。それに気づいたのか

こちらを攻撃しようとしていた手ともう片方の手を迫ってくる球体へ差し向けた。


『グルオオオオオオ!!!?』

「あれは・・・」

「明!今のうちよ、さっさと退きなさい!」

「すまん!」

「お前の相手は私らだぜ!!」


霊夢、魔理沙の援護もあって敵の攻撃範囲内から急速離脱する。しかし、敵の狙撃は継続しており

こちらの不規則な機動を追うように着弾が周囲で次々起こる。


「藤原」

「げほ、げほ・・・傷の治りが遅い。な、何よ?」

「周囲に敵の妖精がいないか?」

「妖精・・・?」


担がれた状態で首だけを動かす彼女。ややあって、こちらに声をかけてきた。


「何でかしらないけど、一匹だけ後ろからこっちをつけてきてる奴がいるわ」

「やはりか。始末するぞ」

「は?ってきゃああああ!?」


急旋回して後方を視認。空中に浮かぶ妖精に素早く照準を向けて発砲。

虚をつくことができたようであっさりと撃墜した。


「犬走、応答してくれ」

『はい!?なんでしょうか?』

「ちょっと、やるならやるって一言くらい言いなさいよ!驚いたでしょ!?」

「君の力が必要だ。後方へ一緒にきてくれ」

「聞いてるの!?」

『わ、わかりました。あの・・・騒がしいですが、大丈夫なんですか?』

「問題ない」「大アリよ!!この無愛想!唐変木!!」

「喋るな、傷に触るぞ」

「誰のせいよ、誰の!?げほげほげほ・・!!?」


後方陣地へと帰還した俺は連絡を受けて待機していた八意と鈴仙に藤原を預けて

にとりの元へと向かった。


「にとり、鹵獲していた狙撃銃を出してくれ」

「わかったよ!」


にとりが霊夢達が無縁塚で拾った狙撃銃を持ってくる。70式対SAA狙撃銃を受け取り

パイポットを広げて地面に置いて狙撃姿勢をとる。


「明、一応メンテナンスして弾丸も磨いておいたよ」

「助かる」


彼女の細やかな心配りに感謝しつつ弾倉を受け取って差し込み、槓桿を引いて

薬質に初弾を装填する。


「あの・・・私は何をすれば?」

「犬走、俺の言う方向を能力で探ってみてくれないか」

「わかりました・・・いた!」

「確認する」


彼女から詳しく位置を聞きながら、銃口の向きを調整する。

そして、スコープ越しに敵を捉えた。


「犬走、観測手を頼む」

「観測手?」

「もみじ、明は弾丸がどの位置に飛んだか教えて欲しいんじゃない?」

「そうだ」


射撃の腕に自信はあるが、それはあくまで有視界戦でのことだ。狙撃に関しては

門外漢もいい所でまともにあたるかどうかも怪しい。


「わかりました、やってみます」

「狙撃を開始する」


返事を待って第一射を放つ。弾丸は外れたようでスコープ越しの敵は攻撃された事に

感づいたのか銃口を左右に振っている。


「・・・弾丸は右に逸れたみたいです。たぶん、60cmほど」

「了解」


次弾を装填しスコープを調整、照準の中央に改めて標的を据えて再度攻撃した。

今度はスコープの範囲内ギリギリに着弾したようで端に写っていた土が舞った。


「今のは20~30位です」

「発見されたな、二人とも離れろ」

「わ、わかった」


左右に振られていた銃口がこちらに向いたため、二人に離れるように言ったが犬走は

俺の左横で伏せた。


「私は貴方の目です」

「了解」


それ以上は言わず第三射を撃つ。今度は直撃、左肩の装甲が吹き飛んだ。

だが、人が乗っていない以上有効打にはならない。


「当たりましたよ!」

「ああ。だが、あれでは駄目だ。犬走、敵は『撃ってきましたよ!』・・・!!」


彼女の声と同時にスコープ越しにマズルフラッシュを捉える。時を置かずして、周囲に着弾。

なおも敵は発砲を繰り返す。牽制の意味合いもあるのだろうが、段々と狙いが定まってきているようだ。


「右胸に直撃です!」

「次で決める」


狙うはライフルの本体。僅かに左に照準をそらして発砲。

同時に敵もこちらに反撃。


「つ・・・!?」

「不動さん!?」


こちらの攻撃は敵のライフルに直撃。スコープの先に写った敵は反動で仰け反り後ろに倒れたが、

俺も頭部の装甲版を一部弾かれてしまった。


「大丈夫ですか!?」

「際どかったが、問題ない」


視界に写る敵は態勢を立て直すと使い物にならなくなったライフルを放棄して、

霊夢達が戦っている方向へと向かっていった。


「明!?」

「大丈夫だ。狙撃の脅威は無くなったとみていい、俺達も主戦場へ向かおう」

「わかりました。にとり、それじゃ」

「うん、二人とも無事で!」

「ああ」「ええ」


犬走を伴って現場へと急行する。ほどなくして交戦地点へと戻ってきたが

先程よりも距離が縮まっている。


「戦況は一進一退か」

「不動さん、私は上空援護に向かいます」

「ああ、気をつけろ」

「不動さんも」


戦場へ戻ってきた俺を見つけた藍がこちらへとやってくる。

敵の動きを注視しつつ、彼女の傍による。


「不動殿、間もなく結界が破られる」

「対処は?」

「結界の崩壊は折込積みだ。それに乗じて奴と奴の力の出所との繋がりを絶つ」

「そんな事が可能なのか?」

「ああ。そこは紫様の能力でできる、今は奴がどこを起点にして力を得ているのか橙に探ってもらっている所だ」


橙というのが誰かわからないが、おそらく八雲女史に関わりのある人物なのだろう。

俺達の視線の先では地上戦艦の上部に出た巨大な人形が、霊夢達の攻撃をなんらかの障壁を展開して

防御しているようだ。


結界の弱体化に伴って、周囲の敵も混乱から立ち直りつつあるようだ。地上と空中で敵からの

反撃が始まっている。


「奴の妖力が増大している。力技で結界を壊すつもりのようだ」

「それが狙いか」

「ああ、奴は十中八九失った力を霊脈を通して取り込むはずだ。それを断つ」


そう彼女が言った所で人形が草原に響き渡る絶叫を上げる。

戦艦の周囲で黒い霧のような物が広がるのがみてとれた。


ー無縁塚ー


「これは!?」


術式を展開して周囲を警戒していた橙は、探査術式の一つに巨大な反応が出た事に

気づく。慌ててその場から離れ反応があった場所に急行する。


「ここね・・・う!?」


そこにあったのは空中に空いた黒い穴だった。その場所からまるでコールタールのような

液体が地面にできた黒い池のような円に流れ込んでいる。

余りの禍々しさに彼女は息を呑んだ。


「蘭様!発見しました!!」

『橙!今すぐ紫様に正確な場所を!』

「はい!!」


無縁塚からの急報を受けた彼女は、その場の指揮を幽々子に任せて無縁塚へと向かった。

到着した彼女はそれを見る。


「これが、世界と世界を繋ぐ門というわけね」

「紫様、早く閉じてしまいましょう!」

「ええ、一旦封印して力の供給を断ち切るわ」


彼女の能力によって強制的にそれが閉じられる。その頃、平原では広がっていた

黒いもやが人形にまとわりつき、歪だった形が整えられはっきりと人の上半身の様な

形をとる。


『グオオオ!!!』


響き渡る咆哮、紅く光る眼窩がこちらを睨み付けてくる。

一方で周囲にいたSAAや戦車等が急に力を失ったように動作を止めた。


「敵機が止まっただと?」

「不動殿、力の供給は断ったと紫様から連絡が来た」

「なら、たたみこもうじゃないか?」

「ん~そう簡単にいくかな?」

「周りの小うるさいのは止まったんでしょ?好機じゃないの?」

「伊吹、何か懸念があるのか?」

「どうにも嫌な予感がしてね。勘だけどさ」

「だが、これ以上、人里に近寄らせるわけにはいかん」

「そうだね。ここでまごまごしていても駄目だね、攻めよう。動かなくなった奴らを破壊しよう」

「おっしゃあ!さあ、行こうか!」


星熊、伊吹と風見がふわりと舞い上がり敵に突撃していく。

彼女達と共に動きを止めた敵機や戦車の破壊に向かう事にした。


「鬼の連中に幽香の奴が突っ込んでくぜ?」

「下の敵は動きを止めたようですね」

「こっちは雑魚には構わず親玉を狙うわ」

「まだ妖精が結構いますけど、いいんですか?」

「陣地の奴らに任せればいいわ。なんとかするでしょ」

「そんないい加減な・・・あ、ちょっと!?」


妖夢の静止も聞かず、霊夢と魔理沙の二人が敵に向かっていく。

仕方ないという風に天狗の二名も追従し、それを追う形で彼女も慌てて向かった。


突撃していく彼女達に向けて、人形が両腕を前に突き出すと黒い弾幕が夥しく浮かび上がり

放たれる。


「この程度でこの霧雨魔理沙様を止められると思うなよだぜ!!」

「数だけは多いわね!うっとおしい!!」


回避しながら反撃を試みる彼女達。敵は少なくない直撃弾を貰っているにも関わらず

ものともしない。


「後ろががら空きだよ!!」

「くらいな!!」


地上で動きを止めた敵機の掃討をしていた伊吹と星熊の両名が拳に妖気を纏わせて

巨大な人形の背後から殴りかかる。

正面の霊夢達を相手にしていた敵からは完全に死角だ。


「なっ!?」

「くうっ!?」

「なんだと?」


敵の背中から黒色の閃光が幾筋も飛び出した。それを紙一重で両名は回避したが、動きが止まってしまう。

そして、それまで正面を向いていた敵が体を捻り野球のバットをフルスイングするかの様に腕を振った。


「がっ!!?」

「ぐっ!!?」

「伊吹!星熊!?」


壮絶な打撃音と共に彼女達が吹き飛び、地面を滑るように吹き飛ばされていく。

援護すべくそちらに急行した。


「二人とも無事か!?」

「くうう・・・」

「げほ!?げほ!!」


かなりの痛手を受けたらしく直には立ち上がれなさそうだと判断。追撃を防ぐため

敵に牽制をかけるべく銃を向けた俺の視線の先には巨大な黒い閃光が迫っていた。


「不動!?」

「『防げ』」


盾を突き出しそう念じると青白いシールドが展開され、向かってきていた

敵の手と接触する。


「ぐうう・・!?」


鍔競り合う敵と自分のエネルギーが眼前で火花のように散る。拮抗しているように見えるが

徐々に押されており、さらにシールドの一部が綻び始めていた。


「いかん、このままでは・・・」

「く、回復が遅い。この瘴気のせいか」

「こんな時に・・・!?」


風見に救援を求めようとするが、あちらはあちらで多数の妖精に取り囲まれどうにかできる

状況ではなく、霊夢達も同様のようだ。


「万事休すか・・・」

「明ーーー!!」

「!?」


上空から自分を呼ぶ声がしたと思ったら、紅い閃光が黒い閃光を断ち切った。

空に浮かんでいたのは紅魔館で出会った吸血鬼の少女、フランドール・スカーレットだった。


「フラン、君なのか?」

「うん!助けに来たよ、明!!」

「吸血鬼姉妹の片割れがなんでここに?まあ、助かったけど」

「あちち、ようやく体が動くようになったね」


時間稼ぎが功を奏したようで、二人が態勢を整える。追撃を避けるため、一旦やつと距離をとった。

だが、このままではじりじりと押され戦線を突破されるのは時間の問題だろう。


「フラン、君の能力を使えないか?」

「私の?うん、やってみる・・・・え?なにこれ?」

「どうした?」

「あの大きい奴・・・嘘、こんな・・一つなのに一つじゃない」

「怨霊の集合体ってのは間違いないだろうけど、どこかに核があるはずだよ。わからない?」

「そんなこと言われても、どれがどれだがわからないよ」


上空での霊夢達の善戦も虚しく、前進を続けていた敵が動きを止めた。


『見つけた・・・ミツケタぞおおお!!ニクイ・・・ニクイ!!ニクイーーー!!』


草原に轟くおぞましい絶叫。次の瞬間奴の顔の正面にどす黒い球体が生まれた。

そして、次の瞬間黒い極太のビームのようなものが人里に向けて発射された。

一直線に人里に向かうその攻撃が空中で何かに衝突し散らされていく。


「紫様と守矢の3柱の結界か!?いかん、持たないぞ!?」


藍の切迫した声が響くと同時に展開されていた結界が弾ける。敵の攻撃もその余波のせいか

一条だったものが幾重にも別れて、拡散するように飛んでいく。着弾の音が幾重にも重なって響いた。


『皆、聞いて頂戴。今のは辛うじて直撃はさけれたけど、次は無いわ』


全員に配られていた通信用の札から八雲女史の声が聞こえてくる。

事態は風雲急を告げていた。


「ちまちま攻撃してても埒が明かないね。奴の核を叩かないと」

「でもどうやってだい?敵の中心はわからないままだよ?」

「・・・霊夢、聞こえているか?」

『何よこの忙しい時に!?』

「勘でいい。奴の中心、どこにあると思うか聞かせてくれ」

『・・・左胸の近くが怪しいわ』

「了解した。外部兵装、強制排除」


神武に搭載されていたオプション武装を全て取り外す。残ったのは霊子発生器を備えた

高周波ブレードと盾のみだ。


「ちょっと、どうするきだい?」

「奴のいる上部甲板に突入し、直接攻撃を敢行する」

「ええ!?明一人でかい?」

「ああ。手短に作戦を話す、聞いてくれ」


全員に作戦を伝え態勢を整える。突入の援護を行うため、急遽割り振った援護班の

皆がもてるかぎりの弾幕で奴を攻撃し始めた。


「準備はいい、明」

「ああ」


突入役の俺は伊吹と星熊に体を預けていた。まるで発射台に乗せられたミサイルの如く

地面に顔を向けて斜めの姿勢とっている。


「そっちもいいかい?」

『ええ、いつでも』

『いいんだぜ!』


突入支援の要となる二人からの返事を確認し、俺は二人に合図を出した。


「突入開始」

「いっくよー、せえええの!!」

「いっけえええ!!」


二人が鬼の腕力をフルに使って俺を奴めがけて投擲する。

同時に風見と魔理沙が後方から『マスタースパーク』と呼ばれる極大攻撃を行った。


敵は背後から迫る攻撃に対して黒い障壁を展開した。

光の奔流が障壁に食い込むが、流石に二人の同時攻撃には耐えられずそれを突き破った。

直撃を受けて敵が背を仰け反らせるのが目に入る。


普通なら背後の攻撃に気を取られ正面は警戒が疎かになるはずだが、敵はそれを

把握していたかのように、飛んでくる俺めがけて攻撃を飛ばしてきた。


念じながら盾を正面に構える。青白い力場を出した盾は飛来する敵の弾幕を防ぐが、段々と減衰してきてた。

限界を悟った俺は着地直前に盾を捨て、転がるように甲板に降り立った。


刀を構えながら改めて敵と相対する。高さ10mはあろうかという巨大な人形は、甲板に降り立った

こちらに対してその赤黒く光る両目をぎょろりと向けた。


「何故憎む。ここにお前の憎むべき存在は無い」

『関係なああああい!!生きてるものがニクイ憎い憎いーーー!!!死ねえええええ!!!』


叩きつけられる純粋な殺意。大気をびりびりと振るわせる雄叫びと共に、俺を押しつぶさんと

両手が振るわれた。


「はああ!!」


上から迫る攻撃を前進して回避する。こちらの狙いはただ一つ、奴の左胸付近だ。

決して広くない甲板をブーストを使って疾駆し、距離を一気につめる。


懐に切り込んでくる俺に対して、奴の体から黒い閃光が複数飛び出してくる。

後退する余地などないため、それらを紙一重でかわしながら跳躍する地点をひたすら目指し、ついに

攻撃発起地点へたどり着いた。


「ブーストフルパワー!!!」


残った推力の全てを使い切るように斜め上へと上昇する。一旦空中に飛び上がれば

空を自在に飛べる彼女らと違い、一直線に相手に向かうしかできないこの時こそが

最も無防備になる瞬間だ。


敵も空中へと飛び上がった俺を横薙ぎにしようと腕を構えた。だが、その瞬間

彼女達の弾幕が四方八方から集中する。


全方位からの攻撃のため自身にも被弾する。しかし、それを承知の上で作戦を決めていた。

まるで、夜空に上がる打ち上げ花火の真ん中にいるような閃光と爆発の中をただひたすらに刀を構えて

突撃する。


「おおおおおお!!!!」

『!?』


眩い光の渦を抜けきった時にはもうすでに敵は目と鼻の先立った。

俺を見失っていた敵は気づくのが一瞬遅れており、攻撃が来る前にこちらの攻撃が奴に届いた。


『ギャアアアアアア!!?』


なんともいえない感触を突き破って奴の体に刀をくい込ませ、全力でそれを切り下げた。

傷口から黒い瘴気のような物が噴出し、その奥にまるで心臓のように鼓動しながら明滅する

塊が見えた。


「今だ!!ここに全力で攻撃を!!!何!!?」

『ヤメロオオオ!!』

「バルメイエーガー!?」


敵の体からまるで生えて来たかのように現れた先程の敵機。握りこまれた拳を認識した瞬間

拳打が俺の胸部装甲に見舞われた。


「があ!?」


あまりの衝撃に空中に吹き飛ばされる。そして、視界の端に黒い腕がしなりながら

こちらに向かってきた。

さらに衝撃が俺を襲う。視界がぐるっと回り奇妙な浮遊感があった。


「明!!!?」


誰のものかもわからない悲鳴。そして、視界には大きな口を開き黒い淀みを

放とうとする奴の姿。全てがスローモーションのような光景の中、空中に浮かんでいる

俺の横を通り過ぎていく閃光があった。


「・・・勝ったぞ」


確信のような一言を口に出した後、網膜を光の奔流が埋め尽くした。


死にたくなかった 生きていたかった

戦いたくない。怖い 怖い 嫌だ どうして 何故

生きたい 生きたかった 死ぬのは嫌だ


(これは・・・)


頭の中に響く様々な声。その全てが悲しみに彩られていた。

生への渇望、免れぬ死に対する絶望が生々しく俺の中に流れ込んでくる。


(・・・ああ、そうだな。生きたいと願う事、当たり前の事だったのに)


長く続く戦いの中で忘れ去った命の尊さ。人の命が路傍の石のように軽く扱われる

事の愚かさを何故俺は、いや敵も味方も忘れてしまったのだろう。


(余りにも悲しくて虚しい。そんな戦いを俺はこれからも続けるのか?)


仲間達を失ったあの時に既に俺の戦争は終わっていたんじゃないかという思いがよぎる。

戦う理由、それは死に場所を求めての事だったのかもしれない。


(このまま終わるのも悪くないか・・・もう、俺の戦いは戦争は・・・)


全身の力を抜き流れに身をませようとした瞬間、何かが開くような感覚を覚えた。


『忘れないでくれ 俺達の事を』


聞こえてきた友の言葉。あの夢の中で思い出せなかったあいつの末期の言葉。

それを今はっきりと思い出した。


(桂木、皆・・・父さん、母さん・・・俺は!!)


流れに身を任せようとした己の意思を捻じ曲げる。生きたいと強く願う。

おぼろげだった意識がはっきりして、それまで真っ白だった視界が色を取り戻した。


「・・・うおおおおおお!!!」


命を燃やすように叫ぶ。意識を取り戻した俺の言葉に反応して

背中のバーニアが吹き上がった。どうやら仰向けのような形で吹き飛ばされていたようで

視線の先には星空が見える。


姿勢を起して、ブーストによる減速をかけても速度が中々落ちない。このまま地面に激突すれば

命は無いだろう。そこへ空中から誰かが俺に近寄りしがみついた。


「フラン!?」

「明!!助けるよ!!?うううううー!!!このおおおお!!?」

「無茶だ!!?」


正面から抱きついてきた彼女を引き剥がそうとする。

その時後方から逼迫した声が飛んできた。


「明!!そのままこっちにきな!!」

「勇儀一発勝負だよ!」

「わかってるさ!!」


一連の彼女達のやり取りで何をしようとしているのかわかった俺は、全てを託す事にした。

数瞬もあるかないか、ブーストをカットしたと同時に背中に衝撃。


「はああああ!」

「くうううう!!?」


地面を削る音とややあって地面に転がる感触。背中にかなりの衝撃を受けたが

意識を失う事はなかった。


「フラン、大丈夫か?」

「うん。ちょっと、明の鎧が痛いけど大丈夫だよ」


彼女を抱いたまま身を起すと、伊吹と星熊も丁度身を起こした所のようだった。


「助かった、二人とも」

「なーに、いいってことさ」

「よくやったね、明」

「ああ、所であれは?」


視界にはまるで天に上るように光の柱が立っていた。夜に眩く光るその先端から

小さな光が無数に舞っていた。


「今霊夢や亡霊姫が鎮魂の儀式をやってる」

「鎮魂・・・」

「行き場をなくした魂達を冥界に送ってるんだよ」

「綺麗だね、明」

「・・・ああ」


先程までの激戦が嘘のようにただ穏やかな光景がそこにあった。

夜空に舞う蛍のような光の一つ一つに命があった、それはあまりにも多くの未来が失われた事の証拠だった。


「明?泣いてるの?」

「そうか、俺は今泣いているのか・・・」


とっくに枯れ尽くしたと思っていた涙、とめどなく流れる熱いものが頬を伝っていく。

滲む視界の中で、自分の中に決然と一つの思いが生まれた。


「見つかったぞ」

「え?」

「俺は戦う理由を見つけた」


こうして幻想郷で起きた一連の事件は幕を閉じた。それから1週間は戦いによって起こった事への

後始末を手伝い、世話になった人物達への御礼などをしてまわった。

そして、迎えた8日目の朝に俺達は無縁塚のある場所に集合していた。


「これが俺の世界に通じる門か」

「ええ。正確には最初開いていた穴を解析して、私が能力で繋げたスキマですね」


正面には人が一人通れる扉のような形をした黒い穴がある。先は見えないが、この先に

俺の世界があるという事だ。


「あまり長く開けている訳にはいきませんので、明さんが通った後は速やかに閉じるつもりですわ」

「それがいいだろうな。ゆかりん、皆に改めて挨拶をしたい、時間は取れるか?」

「ええ」


了承を得たので俺を見送るために来てくれた皆へと別れの挨拶をする。

まずはここに来て一番最初に世話になった永遠亭の面子へと話しかける。


「八意、鈴仙。度重なる治療で本当に世話になったな」

「本当にね。貴方は戻って軍に復帰するらしいけど、命は一つしかない。よく覚えていなさいね?」

「ああ、よく胸に刻んでおく」

「不動さん、貴方と出会えた事で自分のなすべきことがわかった気がします」

「そうか・・・」

「私がこんな事を言うのも不相応かもしれませんが・・・どうか、ご武運を」

「ありがとう、輝夜やてゐにもよろしく伝えてくれ」


握手を交わし挨拶を終える。次は犬走と文、にとりの元へと向かった。


「世話になったな。文の新聞が見れなくなるのは残念だ」

「本当ですか!?うーん、貴重な読者が減ってしまうのが残念です」

「文先輩、こんな時にまで何言ってるんですか!?」

「あはは!普段は取材する側なので慣れませんね?」

「互いにな」

「今回の件、そして不動さんを取材できてよかったです。どうか、お達者で」

「ありがとう。君もジャーナリストとしての活動を頑張ってくれ」

「ええ、あ!じゃあ、握手する所を写真で。椛、お願いしますね」

「ええ!?もう・・・」


握手した所をカメラに収められる。呆れ顔の犬走がカメラを文に渡してこちらにやってきた。


「犬走、君もどうか元気で」

「はい。貴方と共に戦う事で学ぶ事が多々ありました。それをこれからの任務に生かしていこうと思います」

「そうか、貴官の健闘を祈る」

「はい!・・・って、先輩!?シャッターが五月蝿すぎです!!」

「兵士同士が敬礼を交し合う、まるで映画のようなシーンなんですよ!?ここで撮らなければどこで撮るのよ!?」


騒ぎあう彼女達から離れた所にいたにとりがこちらにやってきた。

瞳には涙を溜めており、もう泣きそうだ。


「にとり、世話になった。君のおかげで俺は戦い抜く事ができた」

「明・・・うん、そう言ってもらえると嬉しいね。でも、神武壊れちゃったね。ちゃんと、直す約束だったのに」

「いや、神武はあれでよかった。任務を果たせたんだ、本望だっただろう」

「うん・・・私ね今回の事で決めたんだ。もう、武器とかの発明とかは止めようって」

「それがいい。君の知識や技術は別のものに生かすべきだと思う」

「ありがとう、明。元気でね?無茶は駄目だよ?」

「ああ」


彼女の献身的な整備によって生き抜くことができた事への感謝を込めながら、固く握手をする。

次に向かったのは紅魔館の面々の所だ。フラン、パチュリーと日傘を携えたメイドの十六夜の所へと

歩み寄る。


「色々と世話になったな、パチュリー。特に、あの盾への細工は本当に役立った」

「そう言ってもらえると嬉しいわね。貴方には諸々含めて感謝してるわ」

「感謝でいいのか?問題を拗らせたような形で気が引けるが・・・」


あの戦いの最中、救援に駆けつけてくれたフランは彼女の姉の制止を実力行使で振り切って

こちらに来たそうだ。その時、姉妹の間でどんなやり取りが交わされたのか詳細はわからないが

妹の変節を促したのが俺だという風にレミリア嬢に思われているらしく、相当お冠らしい。


「いいのよ。それを含めての感謝だから、貴方は気にしなくていいわ」

「・・・そうか。司書のコアさんにもよろしく伝えてくれ」

「ええ、あなたも元気でね」


握手の後、彼女に促されるように日傘をさされながらおずおずとフランが歩み出てきた。


「明・・・お別れだね」

「ああ」

「その・・・これ、あげるね」


差し出された紅いリボン。華奢な手から渡されたそれを俺は無くさぬ様に胸ポケットにしまい込んだ。

餞別をもらうとは思わなかったので、何かないかと考えてあるものが思い当たった。


「ありがとう、フラン。俺からはこれを」

「これは?」

「俺の認識票の片割れだ、君に託す」

「いいの?」

「持っていてくれ、俺がここにいた証に」

「・・・うん!!忘れないよ、明。私絶対に忘れないから!!」

「俺もだ。お姉さんと仲良くな」

「う、うん・・・今はちょっと難しいけど頑張るね。ばいばい、明」

「ああ」


次に向かったのは伊吹、魔理沙と森近の所だ。瓢箪を片手に今日も

相変わらず飲んでいる。


「や、明。いよいよ、お別れだね」

「ああ。今日まで世話になった、壮健でな」

「あはは、ありがと。勇儀からもよろしくってさ」

「そうか・・・伊吹、共に戦えた事を誇りに思う。ありがとう、戦友」

「戦友か。なんだかこそばゆいけど、いい響きだよ。武運を祈るよ、明」

「ありがとう」


拳を差し出されたので軽くぶつけあう。力強い彼女からその強さを分けて貰える様な

別れの挨拶だった。


「湿っぽいのは嫌だからさ、一言。じゃーな明!楽しかったんだぜ!」

「魔理沙、もうちょっと言い方があるだろうに・・・」

「いや、いい。二人とも、ありがとう。元気でな」

「君こそ、どうか無事で」

「ああ」


短めの挨拶を交わして、今度は藤原と上白沢、そして風見の所に向かう。

こちらが近づくと藤原が顔を背けた。


「こら、妹紅。そっぽをむいてどうするんだ?」

「ふ、ふん!改まっていう事も無いじゃない」

「はあ・・・すまん、不動殿」

「来てくれただけでも、ありがたいものだ。最初の出会いが最悪だったからな」

「それにしてもだな・・・ごほん!何はともあれ、人里の防衛や復興に関しても改めて感謝を」

「元はといえば俺の世界の事が原因だ、むしろ迷惑をかけたな」

「それこそ不動殿が気に病むことではないだろう?あまり背負いすぎない事だ」

「心に留めて置く。二人とも、達者でな」

「ああ、不動殿もどうかお元気で」「・・・ん、じゃーね」


風見に向かい合うと、唐突に小さな子袋を押し付けられた。

視線を向けると日傘をくるくる回しながら、微笑んでいる。


「これは?」

「私特製のハーブティよ。帰って飲んでみて」

「ありがとう、風見。帰還したら、是非堪能させてもらう」

「感想が聞けないのが残念だわ。それじゃあ、元気でね」

「ああ、風見も」


挨拶を終えて最後に足を向けたのは門の近くで待機していた霊夢とゆかりんの所だ。

ゆっこや妖夢は事後処理がまだ終わっておらずこれなかったそうだ。


「霊夢、今日まで色々世話になったな。ありがとう」

「そうね。ま、本殿の穴も塞がったし他のぼろぼろだった場所も修繕とか掃除できたし、世話を焼いてよかったわ」

「ああ、だが最後の一日だけしかできなかったのが心残りだがな」

「別にいいわよ、気にしなくて。で、はいこれ」

「御守りか?」

「餞別よ、餞別。それとお手伝いの報酬よ」

「ありがとう、ご利益がありそうだな」

「霊験あらたかな博霊神社の御守よ。ありがたく思いなさい」

「ああ。それと、大変だと思うが巫女の役目しっかりな?」

「明こそしっかりやんなさいよ?変なドジを踏んで、また飛ばされるような事がないようにね」

「そうだな、気をつける」

「こ、こ、こらああ!なんで撫でるのよ!?」

「なんとなくだ。ではな、霊夢」

「もう!いってきなさい、明」

「行ってくる」


俺達のやり取りを愉快そうに見守っていたゆかりんへと歩み寄る。

門の傍らに佇む彼女と相対した。


「心残りはなくなったかしら?」

「ああ、手間をかけた」

「お別れですわね、明さん。ここを潜った後の事は任せてくださいな」

「頼む。ゆっこ達にもよろしく伝えてくれ。それと、ゆかりん」

「何かしら?」

「幻想郷は忘れ去られたものが、流れ着く場所だという話だったな」

「そうですわ」

「俺はここに来て今までの戦いを通してこう思った。忘れ去られた物、それは本当に忘れていいものだったのかと」

「・・・」


人間は忘却する生き物だ。だが、それが当たり前だとしても本当は必要で大事な事まで忘れて

見失ってしまうのは駄目なのだと。


「ここには俺達の世界が忘れた物が沢山あった。だから、君や皆が織り成すこの世界が永く続く事を願ってやまない」

「そう言われる事は望外の喜びですわ」

「ここにこれた事、皆と出会えた事で俺は自分のなすべき事がはっきりとした」

「貴方の世界の事少しばかり見させてもらいましわ、それでもなお戦うのですね?」

「ああ。それが俺のできる事であり、取れる手段だからだ」

「茨の道ですわね?徒労に終わるかもしれないし、憎しみの渦が更に拡がるだけかもしれない」

「かもしれん。だが、君もそうじゃないか?」

「ええ、でもいいですわ。それが私の望む事ですから」

「そうだな、俺もそうだ」

「似たもの同士ですわね」


互いに微笑む。右手を差し出すと彼女はそれをしっかりと握る。

万感の思いを込めて別れを告げる。


「幻想郷にこれてよかった、そして・・・さようなら、八雲紫」

「さようなら、不動明。貴方の世界に平穏が訪れる事を願っています」

「感謝する」


頷いた俺は後ろを振り向く。集合した皆へ敬礼を送り、そのまま振り返らず門の中に

入った所で意識が途切れた。


ー2077年6月29日 阿蘇基地内軍病院ー


気が付いた時俺は病室にいた。意識を取り戻した俺に気が付いた看護士が医者を呼び

様々な検査を受け、ここに至るまでの経緯を聞いたが俄かには信じられないような話だった。


「隊長が意識を取り戻して本当によかったです」

「ああ・・・」


部屋に詰め掛けた中隊の面々が頷く。医者や彼らの言からすれば俺は学兵の救援を頼んだ後

に敵の攻撃を受け負傷。迎えに来た彼らに救護され、そのまま野戦病院送りになったそうだ。


「神武はどうなった?」

「隊長の機体はスクラップになりました。運がよかったですよね、学兵をかばって榴弾に吹き飛ばされたのに、助かったんですから」

「・・・」


俺は戦車の砲撃を受けて負傷した事になっているらしい。学兵もそのように証言しており

連日のように俺を見舞っていたそうだ。だが、あの時飛んできたのは砲弾ではなくミサイルだ。

俺と周りで認識の齟齬があるらしい、これが彼女の言う後始末の成果なのだろうか。


「隊長?」

「・・・なんでもない、所で・・」


別のことを聞こうと思った瞬間、病室の扉が開かれ野戦服に身を包んだ男性が入室してきた。

ベットの周辺で集まっていた部下達が一斉に気をつけの姿勢を取る。


「不動、意識が戻ったか」

「堂本連隊長」

「そのまま、他の者も楽にしろ」


身を起そうとした俺を制して、連隊長がベッドの脇にあった椅子に陣取る。

第一機装連隊を率いる猛者はにやりと笑う。


「お前が負傷したと聞いたときは、流石に肝を冷やしたぞ。らしくない行動だったな?」

「は・・・申し訳ありません」

「はははは!冗談だ、このまま骨休めさせておきたい所だが・・・不動、総攻撃の日取りは覚えているな?」

「は、勿論です」

「戦線復帰を命じる。なまった体を当日までに戻しておけ、いけるな?」

「了解です」

『えええええ!!?』


周囲がどよめく。喧騒を他所に用事を終えたといわんばかりに、連隊長はさっと病室を

出て行った。


「いいんですか、大尉?」

「良いも悪いも命令だ。お前達もよく準備しておいてくれ」


隊の事に関するやりとりを行って、部下達を病室から追い出した後

のそりとベットから起き上がり、着替えが収納されているロッカーを開けてみた。


「・・・あるな、やはり夢ではなかったな」


何故かそこにあった野戦服のポケットから取り出した紅いリボンと表に『博霊』と刺繍された

御守。棚には風見にもらった小さな茶色の袋が置かれており、それらの品が俺があの場所にいた事の何よりの証拠だった。

気づけばもう夕方で、窓から西日が差し込んできている。


「成すべき事をなすだけだ」


誰に言ったでもなく、自分に言い聞かせるように呟き沈み行く夕日を見やる。

この世界で見るそれはまだ血のように滲んで見えた。


ー2077年7月7日 PM14:48 鹿児島市内 ―


そこかしこから煙があがり、むせ返るような硝煙の匂いが充満する市内の一角に

俺と部下達はいた。


早朝より始まった第三軍を主力とした総攻撃は順調に進み、所属する第一機装連隊

も市内へと突入して死兵となった連合軍の残党と激戦を繰り広げた。


俺の中隊は市庁舎の制圧を他の部隊と担当、庁舎を占拠する敵部隊を

共同で排除していた。


庁舎の玄関前を制圧し内部に突入した部隊を見送ってしばらく経った後、屋上から爆発音と戦闘音が木霊し

玄関前にSAAが降ってきた。



「ち!連合のくそどもめ、死んだ後まで俺達の目を汚しやがる」


誰かが空から降ってきた連合SAAの残骸を見て侮蔑を顕にして吐き捨てる。


「中隊各員、上方警戒も怠るな」

『了解』


部会に注意を促しつつ、自身も屋上を注視する。

すると、そこに出てきたのは味方で何かを持っている。広げられたのは国旗と連邦旗であり、庁舎の

掃討が完了したことを意味していた。


そして、無線を通じて全部隊に作戦本部から作戦完了の報が齎された。

歓声が上がり、中には空に向けて発砲するものまででた。


「やりましたよ、隊長!勝ったんです、俺達勝ったんですよ!!」

「ああ・・・」


興奮する部下を他所に俺はもう一度庁舎を見上げる。屋上の淵に集まった

味方達が翻す旗と青空に浮かぶ黒い煙、以前の俺なら何も思わなかったことだろう。

だが、今はその光景がとても物悲しく思えた。


「蒼天は遥かに遠い・・・か」


戦いの集結はまだまだ先になりそうだと感じた。事実、九州完全奪還後から年が明けて

翌2078年、環太平洋連邦は大陸への逆侵攻を決定した。


エピローグ  蒼天の果て


ー一年後 幻想郷 博霊神社ー


梅雨の明けた幻想郷では夏真っ盛りの日が続いていた。

けたたましく鳴く蝉の声とうだるような暑さの昼間、庭先の縁側に腰掛けた

この神社の巫女である霊夢は団扇を片手にぼんやりしていた。


「あ~暑い。本当に暑いわ・・・」

「ほんとだぜ。まいるよな~」

「魔理沙、麦茶のおかわりとってきて」

「無理だ~とけるんだぜ・・・」


少しでも冷たい場所を求めるように彼女は縁側をごろごろする。

転がる彼女に一瞥をくれると、霊夢はまた境内をぼんやり見つめた。


「そういやさ・・・」

「・・・なに?」

「明の奴どうしてんだろうな?」

「・・・ってるわ」

「あん?」


蝉時雨に混じるようにボソッと呟いた彼女の声はかき消されてしまう。

どこか遠い目をした霊夢は今度ははっきり言った。


「戦ってるわよ、きっと」

「そうか・・・戦いかぁ」


そういって二人はぬけるような青空を見上げた。

雲ひとつ無い幻想郷の空はただひたすらに青かった。


ー2082年 9月19日 中央アジアー


後の歴史の教科書で第三次世界大戦が終結したこの日、中央アジアにあった

連合軍要塞に対する環太平洋連邦の総攻撃は最終段階にあった。


未明から始まった全面攻勢により、要塞守備隊はそのほとんどが壊滅。

突入した連邦特務SAA部隊による制圧戦が行われ、内部制圧も時間の問題かと

思われていた頃、突如要塞各所で爆発が起こった。


「しっかりしろ、少しでも高い所に出るぞ」

「げほげほ!」


爆発に巻き込まれ負傷した連邦軍所属の兵士に肩を貸しながら、俺は勝手のわからない

要塞の中を歩く。


「それにしてもあれだな!連合のくそったれどもは最悪だ!大人しく降伏すればいいんだよ!」

「・・・」

「打ち上げ花火がしたいなら、勝手に吹き飛べ!それを人様を巻き添えにして自爆しやがって・・げほげほげほ!」

「喋るな、傷に響く」


悪態をつくチームの同僚を引っ張りながら階段を上り、その扉を開いた。

なんとかヘリポートと思しき場所に出たようだ。


「・・・」

「け!どこもかしこもバーベキューパーティだ!!炎と煙以外見えやしないぜ!!ファッキン、ジーザス!!」


やけくそになって叫ぶ同僚を置いて、俺はランチャーに信号弾を装填し空に打ち上げて

さらに無線による交信で救援を再度要請する。


「あーあ、このくそったれな戦争が終わったら俺様の活躍を自伝にして出版。そんでもって、アメリカンドリームだったのによ!」

「救援を願う、こちらの座標は・・・・だ。繰り返す、救援を願う・・・」

「こんな地の果てで隣にいるのはむさくるしい野郎だしよ!ファック、ファック!!」

「・・・助かるぞ?」

「ああん!?キリストが降臨でもしたか!?」

「救援がくるぞ」

「ちょ、おいなにすんだ!?」


彼のSAAを強制排除して機体から引きずり出す。あれやこれやと言われる文句を聞き流し

ヘリポート部分に緑色のスモークを炊いた。


『ランサー5、こちらイーグルアイ。スモークを確認』

「了解」


煙と炎を裂くようにヘリポートに味方の偵察用ヘリがやってくる。


「急いでくれ!!こう乱気流があっては俺達も危ない!!」

「わかっている」

「うわあああ!?人を抱えたままブーストするなあああああ!!?」


距離を一気につめ、ヘリの手前までやってきた俺は抱えていた同僚を

押し込むように詰めた。


「SAAを装着したままでは乗れないぞ!」

「ああ」


重量の関係からSAAを着たままでは乗れないので解除しようとしたが、俺達の周辺に

突如銃弾が撃ちこまれた。


見ると俺達が出てきた扉から数名の敵SAAが現れていた。

無線かスモークか、どちらか判然としないがここに俺達がいるのが露見していたようだ。

俺はヘリに背を向けてブレードを抜き放って、突撃姿勢をとった。


「お、おい!?お前!!?」

「本を出版してくれ」

「はあ!?」

「兵士達が何を考えてどう戦ったのかを後世に伝えてくれ。行け、ここは引き受けた」

「離脱する!しっかり掴まれ!」

「待て!まだアイツが・・・!?」


遠ざかるヘリのローター音を背に、銃撃の嵐の中に俺は身を躍らせた。

残敵を掃討し終えて、ふと空を見上げると猛烈な風が起こった。

煙で塞がっていた視界が開け、俺の視界に空がうつる。


「見えたぞ、蒼天が」


彼の同僚を乗せたヘリが安全圏に離脱した数分後、連合軍要塞は一際大きい爆発を起して灰燼に帰した。

時を同じくして、全世界の主要都市で一斉反戦デモが起き、事態の収拾がつけられなくなった

連合軍及び連邦軍は停戦に合意。


熱狂が覚めるかのように戦争継続の熱は薄れて、同年12月連合軍諸国の降伏をもって

終戦が成され、第三次世界大戦に幕が下ろされた。


ー幻想郷ー


だらけながら昼食を軽く取った二人は、少しでも涼を得るために脚を桶につけて、

縁側で座り込んでいた。


「は!!?」

「なんだよ、霊夢?」

「お賽銭よ!?いま賽銭箱にお金の音が!?」

「ええ?とうとう暑さで頭が・・・って、早!?」


すさまじい速さで本殿に向かった霊夢と追いかける魔理沙

賽銭箱の所までやってきたが、参拝客の姿はどこにも見えなかった。


「いない・・・?」

「ほら、やっぱり聞き間違いなんだぜ」

「そんなわけは・・・あ、あった!?」

「へ?賽銭あったのか?」

「あったけど、何この硬貨?」

「見たこと無いのだな。もしかして、いたずらか?」

「あーもう!急いできて損した・・・暑いし、最悪だわ」

「あはは!」


肩を落として元の場所に戻ろうとする霊夢の耳に一瞬

誰かの声が聞こえた。


『幻想郷の空は相変わらずだな』


「え・・・?」

「どうしたんだぜ?」

「魔理沙、あんた何か言った?」

「はあ?」

「あー気のせいね。戻りましょ」

「お、おお・・・」


縁側に戻る彼女達。ぬける様な青空から燦燦と降り注ぐ神社から先に見える田園風景。

その風景に一瞬だけ写った人影のようなものが溶けて消えていく。

幻想郷の夏はまだ始まったばかりだった。


後書き

主人公機体設定等

機体設定

ASP-71J―FH 『神武』

八神重工業が日防軍からの要請にこたえて製作したエース専用機。
既存の機体を遥かに凌駕する反応速度を可能とするOSと小型大出力化されたバックパック。
必要に応じた武装を装備できる拡張性を兼ね備えたエースに相応しい機体となるはずだった。

しかしながら、並外れた機体制御を操縦者に強いるため先行量産型20機が実戦配備されるも、前述の問題点が浮き彫りとなり配備が停止される。
その後ほとんどの機体がテスト機になった。
一般には欠陥機扱いまたはウィドウメーカー扱いの機体だが、不動明はこの機体を扱える稀な操縦者の一人として大きな戦果を挙げていった。


基本武装   20mm徹甲重機関銃 内蔵TCVブレード 複合装甲シールド
連続稼働時間 8.5時間 戦闘稼動時間 3時間
最高出力   470kw
最高速度   92km/h(平地及び装備なしの場合)
本体重量   360㎏(野戦重装備時はオプションにより重量は増減する)
野戦重装備  6連対戦車ロケット 対SAA小型ミサイル 対戦車鉄鋼榴弾
        反応装甲 ハンドレールガン 使い捨て外部予備バッテリー及び推進剤
        煙幕 フレア等を任務に応じて任意で選択し装備可能。
        

なお、オプション装備のハンドレールガンは盾の裏にマウントされている。
装弾数は6発。至近距離なら戦車の側面・後部・上部装甲を貫通可能。
外部予備バッテリー使用中ならば再起動せずに2発の連続発射を可能としている。

APF-175nc 『バルディッシュ・にとりカスタム』

幻想郷に流れ着いた『バルディッシュ』に河童の河城にとりが霊子発生装置を取り付けた機体。
右腕に装備された霊子発生装置は同じく漂着した日防軍のSAA『風神・改』が装備していた日本刀型のブレードに触媒をつけることで刀身に霊力を纏わせることができ、霊的な攻撃を行う事ができる。
弾幕等も切り裂ける上、従来の物理切断も健在。

また機体の足回りを互換性があった風神・改の物と交換、あわせてにとりが駆動系のライトカスタムを行ったため機動性が従来の物より高性能化している。
基本性能はそのままであり、今作ではヨーロッパ連合の主力量産機となっている。

ASP-71Jnsc 『明王』

八神重工業製『神武』をにとりが幻想郷仕様にカスタマイズした機体。操縦者である不動の姓と盾に描かれた梵字から不動明王をイメージした彼女が肩に『明王』とペイントして名づけられた。

赤鉄鉱と鉛に黒瑪瑙を合わせた特殊合金に術式を施し装甲にコーティングすることで搭乗者の霊力に反応して、対霊・魔性を発揮する。これにより機体色はやや黒みをおびた。
バックパックに霊子発生機関を備える事で操縦者の霊力を物理エネルギーに変換し推進及び霊力を使った兵装へエネルギーを提供する。
機体の本体動力には元々あったバッテリーと霊子発生機関で霊力を霊子に変換する過程で発生する電力を機体に同時供給するハイブリット方式を採用。
機体への安定した電力供給と機体制御の効率化により稼働時間増加を実現。大幅な継戦能力を確保することに成功している。(にとり談)

武装に関しては従来の20mm徹甲重機関銃やレールガンや盾はそのまま残している。追加近・中距離武装として霊力を圧縮して発射する小銃『河城壱式』と破魔札を弾頭に詰め込んだ『拡散お札ロケット』(6連装)。

近接武器としてTCVブレードを改良し霊子増幅装置を組み込んだ『三鈷剣』を装備する。この剣は熱伝振動による物理切断と機体から提供された霊子を刀身に纏わせる事で霊的なダメージを同時に与える。

基本武装   20mm徹甲重機関銃 複合装甲シールド 
連続稼働時間 8.5~??時間 戦闘稼動時間 3~?時間
最高出力   470~???kw
最高速度   92~??km/h
本体重量   360~???㎏
追加装備   霊銃『河城壱式』噴進破魔弾『拡散お札ロケット』降魔剣『三鈷剣』

ただし、これらほぼ全ては操縦者の霊力に依存しているという極めて重大な欠陥を持っている上に従来からピーキーだった機体はさらに扱いにくくなった。

用語解説

第3統合戦略軍

日本に3つある陸・海・空軍の指揮系統を統一した軍団の呼称。第1から第3までの統合軍があり、第1軍は本州、第2軍は北海道、そして第3軍が九州を防衛している。
第3軍司令部は熊本の阿蘇。

第1機装連隊

第3軍隷下のSAA連隊の一つ。第1次熊本防衛戦に投入された特殊機甲教導隊がその母体となり発足され主人公が所属する連隊。
以後熊本防衛戦の最前線に立ち続け、連合軍に恐れられる精強さを持つSAA部隊となった。


主人公略歴

不動明 年齢27歳 

日防軍第3統合戦略軍第1機装連隊103機装中隊 中隊長 階級大尉

年少徴兵組一期として九州防衛戦の決戦のひとつである第3次熊本防衛戦に参戦。
同防衛戦において臨時編制された学兵支隊の中にあったD中隊に学生機装兵として配属される。
しかしながら、D中隊は壊滅。同中隊ただ一人の生き残りとなる。
その後は帰還した味方陣地で再編成中だった301機装小隊に編入され、1週間に及んだ決戦を戦い抜く事となった。
この際、敵SAA32機(単独撃破10)、装甲車両4輌、歩兵122名を撃破して学兵としては異例の戦果を挙げ3級戦功勲章を授与される。
その後、臨時で所属していた301小隊の隊長に推挙され第1機装連隊403機装中隊に配属される。
精強といわれ激戦に必ず投入される第1機装連隊の一員として福岡空挺降下作戦や佐賀奪還戦等の激戦を潜り抜け戦歴を重ねる。
74年からは同連隊で遊撃任務を主とする103機装中隊の隊長に就任。戦場の火消し役として九州各戦線で活躍することとなった。

しかし、中隊を率いるとは言っても実質2名の小隊長に隊員の指揮を委ね本人は単独行動で敵を撃破して回っている。
問題が出ないのは一応作戦の一環として中隊長が囮となり敵を引き寄せ小隊で叩くという戦法をとっているためであるが、それを問題視する声も少なくない。
本人の性格は冷静沈着。所属連隊の誰も彼が笑った所や怒った所も見た事がないというほど感情が動かないもしくは顔に出ない。


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