2017-11-29 01:24:57 更新

概要

ロリっ娘とファンタジー世界と旅しませんか?魔法の杖ですが。


前書き

内容修正


序章



昔、そのまた昔。

一人の女魔導士は、時の神に与えられた「悠久の杖」を使い、世界に平和をもたらした。

彼女の死後、その杖は「時の神殿」に奉納され、次に訪れる世界の脅威を妨げる為に長い…長い長い眠りについたのでした…。


…。

…。

…。


2000年後


BBA「しゃあああああああああああ!!」


群衆「おおおおおおおおおおおおお!!」


BBA「野郎共!!こっからおっ始めんのは「対魔王最強魔術師決定戦」じゃ!!」


群衆「あああああああああああああああ!!」


BBA「悠久の杖に選ばれたマブいメスっ子が次の勇者じゃあああ!!」


群衆「うっす!!!」


BBA「磨きやがれ!!女子力!!」


群衆「うらああああああああああああああ!!!」


…。

…。

…。


(…)


(この2000年の間に…何が起こったのだろうか…)


(女子力(物理)を付けた重量級女子ばっかりになってしまった…)


(…なんと言うか…さ)


(…強いだけじゃなくて…)


(こっちにも、選ぶ権利があるって事を忘れないで欲しいんだけど…)


…。

俺は杖。

悠久の杖。

…なんか「ジキル」とか言う時間の神様が作った杖だ。

で、2000年間もクッソじめじめして、キモイ虫の湧く神殿に放置された挙句、また魔王が復活するとかで勇者…もとい「魔導士選抜」で使う女の子を選んでるそうな。


…。

やだよ。ガチムチなメスゴリラ共と戦うとかさ…。

俺はやっぱり…可愛い女の子と冒険したい!!!


BBA「YO!!YO!!YO!!」


BBA「おらっ!!掲げろ!!杖!!今!!光れ!!」


女A「うぬっふうぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!」


やだよ。

光ったら一緒に冒険する羽目になる。…絶対光ってやらねぇ…。

つーか、魔法よりも物理属性が強そうな女だらけなんですがそれは。


BBA「光れ!!そーれ!!一気!!一気!!」


女B「うおらあああああああああああああああああああ!!」


コールされても光らない。

絶対やだ。


BBA「そーっれ!!横綱!白鳳!朝青龍!!」


女C「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」


何回聞いても不思議なコールだ。ちょっと光りたくなる。

…おっ!


女魔導士A「…次は私の番だな」


BBA「ああん!?舐めてんのか!?んな女子力でよぉ!?」


絶対にこれだけは言える。

2000年前の女子力は、この子みたいな「可愛い」を求めた女子力だった。


BBA「掲げろぉ!!」


女魔導士A「はぁああああああああ!!!」


うんうん。可愛いんだよなー。この子。

一生懸命神様を信仰して、魔王を倒すって気概に燃えてるし、何よりおっぱい大きいし、可愛いし。


女魔導士A「はぁああああああああ!!!ああああああああ!!!」


…。

…え?いや、光らないよ?

前にこの子で光った事あるもん。


…説明しよう!

俺は、魔法「タイムリープ」を使用すると、この「決定戦」の時間まで巻き戻る事ってしまうのだ!!

つまり、あんな女の子やこんな女の子とイチャイチャ二人旅を何回もしてるのさ!!

だから、毎回司会を務めるBBAも20回ぐらいは見た事あるし、楽しい旅から一転してその顔を見た瞬間に訪れる驚きは新鮮な物となる。


…だから。


女魔導士A「…くっ!?な、何故光らない!?」


BBA「ひゃっはあああああああああ!!女子力が足りねぇんだよ!!女子力が!!」


今回は光らない。

ただ、彼女は女子力足りてるからな?

俺(杖)に話しかけたり、ぎゅーってしながら寝たり…。

意外とメルヘンチックな事も好きだって知ってるよ。


女魔導士A「…くそっ…!」


…。

その代わり、彼女の最後は悲惨そのものだ。魔王の弱攻撃で足をやられ、最後には心臓を握りつぶされてしまう。…彼女の苦痛に歪む顔、そして糸がプツンと切れたかのような光の無い表情は…もう見たくない。

…また今度旅しようね。また…いつかさ。


BBA「次だ!!次のマブいメスを用意しろ!!」


群衆「おあああああああああああああ!!」


…。

中略。

ここから先およそ三日間は、俺好みの可愛い女の子が登場しないので。


…。

…。

…。


BBA「ひゃっはああああああああ!!さあ四日目を開始するぞ女子共!!」


群衆「おおおおおおおおおおおおおおお!!」


女子(笑)。


BBA「…ちっ。もう残ってんのは筋肉力の無い出来損ないばっかりか!!」


それで良いんだよ女子は。

他の奴らが鍛えすぎなんだよ。


BBA「うらあああ!!上がって来やがれ!!!」


女魔導士B「は、はい…」


お!可愛いのがやってきたー!もう彼女とは三回も一緒に旅をしたよ!

ん…?なんでそんなに旅したかって?それは…。


BBA「掲げろ!!」


女魔導士B「ひゃっ…!はい!!」


女魔導士B「ふっ…///んっ…!!」


女魔導士B「ひゃぁ…///はっ…んっ…///」


女魔導士B「やあぁぁぁぁぁ…///」


BBA「…///」ぽっ


これですよ。これこれ。

何回聞いても素敵なお言葉だ。おかげでついつい光っちゃうんですよ。

魔王に負ける時だって、あんまり痛手を負わない…って言うか、痛いのに顔を真っ赤に喜んじゃう娘だったので選びたくなっちゃうんだよね。

…え?いや、負けるよ?女魔導士Aもこの子も。俺が本気出さないから…って言うか、本気を出させる魔法力を持ってないのが原因だ。簡単に言えば、「MPが足りない!」状態。…もしも可愛い娘全員が負けるようだったら流石に倒せる魔力の女子(物理)にでも使ってもらう他ないけど…。


女魔導士B「ふっ…んっ…///」


BBA「はんっ!!メス豚みてぇな声を上げやがって!!それでも女かぁ!?」


むしろ、今の時代の性事情について知りたくなった。

男が押し倒されるような世界線の可能性が高すぎる。


BBA「次ぃ!!!」


女子(物理)「おうぅぅぅ!!」


割愛。


…。

…。

…。


BBA「クズしかいねぇのか!!この世界は!!次ぃぃぃいい!!」


リーナ「は、はい!!」


おっと…。新顔登場。


リーナ「えっと…えっと…」


およそ12才ぐらいの女の子だろうか。黄緑色の髪と目が麗しく、その幼さ故に守りたくなる…。


BBA「なっ…!?」


うんうん。俺好みの顔でおろおろされたらムクムクと…。


リーナ「ひゃっ!?」


あ…。


BBA「杖が…!悠久の杖様が光ったぞ!!!」


リーナ「ええ…?えええええ!?」


…やべぇ!やばいと思ったが抑えきれなかった!!


BBA「ついに…!ついに…!」


BBA「ついに私が選ばれ…!」


ちげぇよ!!!断じてちげぇよ!!!


リーナ「お、おめでとうございます…」しゅん…


BBA「おお!!私が…!私が…!」


BBA「あれまぁ!?光が消え去ってまるでこの世の終わりを暗示するかのような暗闇色になってしまったぁ!?」


たりめーだ。萎えるわ。


BBA「…」チラッ


リーナ「…?」


BBA「…ちょ、ちょっと持ってみんか」


リーナ「は、はい…?」


…しょうがないにゃあ…。


ピカアァァァァァァァァ!!!


BBA「やはり私が!!」


BBA「ああ!また光が消えた!!」


リーナ「えええ!?」


次言ったら一切本気出さずに魔王の前まで引きずり出すぞババア。


BBA「…チィッ」


リーナ「…」


ようやく理解してくれたか。


BBA「…ここに宣言しよう。この度の「どきっ!?女だらけの対魔王最強魔術師決定戦」…選ばれし者は…」


そんなタイトルだっけ?


リーナ「…!?え、えええ!?」


BBA「リーナ!!貴様じゃあああああああああああああああああああああああああああちくしょう!!!」


畜生っつった!!このババア畜生つった!!


リーナ「ふぇええええええ…!?」


かわいい。


…。

…。

…。


数日後、彼女は魔術学校で魔法使い認定に(クッソ大目に見てもらって)合格した。

使えるのは火と水と雷の魔法…だけ!!他の呪いだとか、攻撃回復だとかは全然覚えてないらしい…。

だが、控えめな農民用の服に、(ムッキムキの)親に編んでもらった長めのマフラーを携え、彼女は旅に出る決断をしたのであった。


そう、なんだか懐かしい。

…2000年前と同じく、俺を背中にしょい込んで…。この子は…旅に出るんだ。



序章 完



悠久の杖は喋らない


リーナ「ひーん!!!」


…。

馬のような、そして弱弱しい泣き声を上げながら全力ダッシュで逃げているのは、双方とも不本意ながら俺の主人となってしまった「リーナ」ちゃん(11歳)。

俺のあそこ(魔力玉)が反応して光ってしまったが故に、魔王を倒すための魔法使いに選出されてしまったのだ。

ちなみに、今はスライムに追っかけられて逃げている。


リーナ「やだ!来ないで!!」


スライム「」うねうね


…そもそもは農民の娘だったそうな。だが、今回の杖争奪戦は、国中の女が集められたそうで、本当に本当に…。なんかごめん。


リーナ「あぁぁ…!もう帰りたいー!!!」


スライム「」うねうね


リーナ「来ないでったらー!!」


べしッ!!


いてっ。


スライム「きゅぅ…」


リーナ「あ…!!」


あの、俺さ、物理属性じゃないから。神様に作られたけど、ただの木だから物理で殴らないで。


スライム「…」


リーナ「ご、ごめんね…!ごめんね!!だ、大丈夫…?」


…。

何この子、可愛い。


スライム「」うね…


リーナ「あ!」


スライム「…」うねうね


リーナ「あ、あの…。ごめんなさい…」


スライム「…」うねうね


スライム は おずおず と 森の中 へと 消えて 行った…。


リーナ「…行っちゃった…」


リーナ「…うぅ…。ぐすっ…」


リーナ「…帰りたいよぉ…」


…うっ。


リーナ「なんでリーナなのぉ…。もっと強い人いっぱいいるのに…」


リーナ「うえぇぇぇぇ…」ポロポロ


…。

凄まじい罪悪感が俺の心に流れ込んできた…。そりゃそうだ…。本当は戦いなんかとは無縁の生活を送るだけであろう彼女が今、戦いの最前線に立たされている。

昨日まであった両親や暖かい食事、そしてベッドは…。草原を見渡す限り、いや、この先に点在する村や町以外には無い。ましてや、両親の代わりになる者なんて…。


リーナ「やだよぉ…!戦いたくないよぉ…!」


…。

ちょっと挑戦してみる。


「…おい」


リーナ「…!?だ、誰…!?」


「…おい、こっちだ」


リーナ「誰!?こ、来ないで!!」


「違う違う。俺だ」


リーナ「えっ…!?」


「…俺だ」


リーナ「…つ、杖…さん?」


…。

基本、俺は喋れる。2000年前から。

でも…ほら、なんか強くなって強くなって…なんかこう…杖と思いを通わせられた!みたいなタイミングで喋りたいと思ってる。

だから、他の娘と旅した時だって…魔王城近くになってから喋ったし、おやすみとか挨拶もするようになった。

決してそれは、女湯の中に杖が持ち込まれなくなくなる悲しみだとか卑しさがあるわけじゃない。決して(小声)。


「…お前、今帰りたいと言ったか?」ギロッ…


リーナ「ひっ…!」


杖の先端にある魔法玉を動かし睨みを利かせる。


「…帰りたいか?」


リーナ「…帰り…たいです…」


「…ならば今すぐ村に戻れ。あのババアに話をつけるのだ」


リーナ「そ、そんなの…!…こ、怖いよぉ…!」


「では、強くなるしかない」


リーナ「…やだ…」


「強くなれば、俺を使って「時空回帰魔法」を唱える事が出来るだろう」


リーナ「…」


「今、帰って叱られるか…。それとも、魔王に立ち向かえる程の強さを持って、今までを無に帰すか…。貴様が出来るのは二つに一つだ」


リーナ「…うぅ…!ぐす…」


「…今のうちに泣くが良い。旅が続けば泣くことは出来なくなる。まぁ…村に帰れば、永遠に泣き続けられるがな」


リーナ「そ…んな…。ひど…いこと…ぐすっ」


「えっ…!?ちょ、っとま…な、泣く…泣くなよ…?おいおい…!?」


…。

村に帰らせようとして言葉をミスった。いや、ほら…。なんて言うの。こんな幼い子を危険な旅に出させるのはいかがなものかと思ってさ…。

終盤になればなるほど、敵を倒すのに涙が出なくもなるし…。ほ、ほら…感情が無くなっていくって言う恐怖を見せつけようとしたんだけど…。

…あかん。幼すぎて、あのババアの方がもっと怖いみたいだ。村へと帰らせる為には、もうちょい…こう、ソフトな表現って言うか、まあ…。駄目だ。語彙力が無いから無理だ。


リーナ「ぐすっ…ふぇぇ…」


「…」


あ、なら先にモンスターが来るって教えれば帰るんじゃね?まだ出発して3時間くらいだし。


「…じきに夜が来る。夜になればモンスター共も活発に動き出すだろう。…それまでに考えるのだな。だが…これだけは言っておこう」


「今の貴様には、俺を使う資格は無い…とな」


よしよし。これで村に帰るだろう。

そうすれば、もっと可愛い女性と旅が出来るってもんだ…。


リーナ「ならなんで選んだのよぉ!!!私…!こんな旅したくなかった!!!」


…。

…あ、あの…。ごめんなさい…。そう言われると…あの…。

性欲で反応しちゃった…とか…。いや、本当にごめんなさい…。


「…押し付けてすまなかったな。ならば別の者に俺を渡すが良い」


リーナ「…ぐすっ…ぐすっ…」


「…よく考えろ。俺であれば村に引き返すがな…」


…。

…。

…。


2時間後。


「よく考えろとは言ったが、もう夜になるぞ!?」


リーナ「…分かってる」


「いや、本当に危ない時間…なんかの鳴き声した!」


リーナ「…怖いよぉ…!」


「なら村に引き返せ!!まだ間に合う!!」


リーナ「…でも、私が村に帰ったら…。また、誰かが怖い思いをするんだよね…?」


「…いや!?大人びた考えとかしなくて良いから!!?本能の赴くままに生きろよ!?」


グルルル…!


リーナ「…!!」


「やっべぇ!!この気配はビーバヌスが来やがった!!俺材木にされる!!ダムにされる!!」


リーナ「わ、私は!?」


「特に何もされない!!」


リーナ「…びっくりして損しちゃった…」


「うおおおぉぉい!?俺が材木にされても良いのか!?この世界が魔王にボコられるぞ!?」


リーナ「…!」


「俺が折られてみろ!!お前の母さんも父さんも!!全員死ぬんだぞ!!」


リーナ「…やだ…!そんなの…!絶対やだ!!」


「なら!!今すぐ町にもどっ…!ふぁっ!?」ガシッ!!


リーナ「…戦う…!私!!戦ってみせる…!」


「…リーナ…!」


ドシン…!ドシン…!ドシン…!

グルルルルルルル…!


メキメキメキ…!


ドズン…!


「…リーナ…」


「ちげぇんだよ!!俺が求めてるのそう言うカッコいい展開じゃねぇんだよ!?」


リーナ「そうだよね…!カッコよく…!あのモンスターを倒すんだよね!!」


「ちげぇよ!?怖えぇんだろ!?なら今すぐ町に戻ってあったかいミルクでも飲んでろっつってんだよ!?」


リーナ「怖いけど…!分かってるよ…!恐怖心を捨てなきゃ勝てないって、杖さん教えてくれてるんだよね!!」


「何そのポジティブシンキング!?戦いの中で成長してる…!みたいな感じにしないでくれない!?」


リーナ「闘いの中で成長…?」


「あ、分かった!!お前怖すぎてちょっとおかしくなったろ!?」


リーナ「うん!ちょっとだけ漏らした!」


「なるほどな!汚ねぇな畜生!!」


ドズン…!ドズン…!


ビーバ「グルルルルルル…」


「…ちっ…!来やがった…。後悔するなよ…!!」


リーナ「今、すっごく後悔してる!」


「するなっつってんの!!」


ビーバ「ゲシャァ…!」


リーナ「…!」


「あ!なんか杖の先っぽが生暖ったけぇ!?また漏らしたな!?」


リーナ「どどどどどど…!どうすれば良いの!?」


「…畜生め!!リーナ!!戦うんだな!!お前が選んだ道だぞ!!」


リーナ「うん…!戦ってみせる!!」


「よし!!なら「ファイア」っつってみろ!!」


ビーバ「ギェシャアアアアアアアアア!!!!」


リーナ「ふぁ!!ふぁいあーーーーーーーーー!!!」


…。

その瞬間。彼女の小さく華奢な手から魔力が注ぎ込まれ…。あれ?魔力全然入ってなくね!?うっわ…!?え!?ろうそく灯すぐらいの魔力しか来てないんだけど!?

…ちっくしょう!!しょうがねぇな!!神が作ったの杖の実力…!見せてやるよ!!


キランっ…。


リーナ「え…?」


「リーナ。反動に注意しろよ」


シュアン…!シュアン…!


リーナ「え!?え!?」


「俺がなんでこの世で最強の杖なのか教えてやる…!」


シュアンシュアンシュアン…!


「俺は「魔力増幅器」だ!!魔法の効果を何百倍にも何千倍にも出来るな!!ただ、MP1とかふざけた事されるとめっちゃ疲れるから次は全力を出せよ!!」


リーナ「わあぁ!?」


ギュララララララララララ!!!


「いくぞ!!ファイア!!!発動!!!」


ビーバ「グル…?」


一瞬の静寂。

小さく風が吹いて、雲の隙間から月明かりが差す。

様々な者達が寝静まろうとするその瞬間。


全てを蹴散らすかのように、轟音と、光と熱が奪い去った。


…。

…。

…。


リーナ「あわ…あわわわ…」へた…


「…もう漏らす分の水すら溜まってねぇか」


リーナ「…つ、杖…さん…」


「んだよ」


リーナ「…こ、怖かった…」


「…そうか」


リーナ「怖かった…!」じわぁ…!


「…」


リーナ「わああああぁぁぁぁぁぁぁん!!!あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!」


リーナ「怖かったよおおぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「…頑張ったな」


…周囲、およそ50メートル程の木が消し炭と化した。

だが、ビーバにその攻撃は当たらなかったようで、アイテムも肉片も落ちていなかった。きっと恐れをなして逃げ出したのだろう。

また、この周囲の森からも、モンスターの気配が消えた。

今日は安心して野宿が出来るだろう。


リーナ「杖さああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんん!!!」ボロボロ


「…分かった。泣け。泣け。…気が済むまで泣け!!冒険しだすと泣けなくなるからな!!泣いてる暇も無いからな!!」


リーナ「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」ボロボロ


…。

俺も、彼女も不本意だったろう旅。

でも、これから先、彼女が泣くことは…。えっと、控えめに言って、少ししかなかった。…んだけど!!

一度始まってしまっては、引き返すことなんてできない。それが、この世界の人間達が決めた事。だからこそ俺は、納得のいってない部分はあれど、彼女を成長させなくちゃならない。それは、神と人間と、俺が決めた事だから。


悠久の杖の冒険は、今、始まった。


第一章 完



第二章:封印軍と解放軍



すやすやとたき火の横で眠るリーナ。その両腕にがっしりと抱かれながら俺も就寝している。

今夜は月が綺麗だ…。おかげで星が見えにくいほどに。

そんな静けさの中、リーナは寝言を言う。


リーナ「杖さん…杖さん…」


リーナ「…帰りたいよぉ…」


…。

この言葉を聞くたびに心が強く痛む。まるで俺の作り手から「いい加減にしろ」と怒鳴られているかのように。

だからこそ、今出来る事は、彼女を慰めながらも歩き続ける事だけなのだろう。

…だが、その未来が気になって仕方がない。もしも…もしも彼女が魔王を倒せるほどの力を持った時…。俺はまた、二千年間の虚しさを得るのだろうか。それとも、彼女は成長した自分を捨てて、また今の時間にまで戻る事を望むのだろうか。

…彼女の何百倍もの時間を過ごした俺は、今よりも未来の事を考えてしまう。それこそ、過去には目もくれず。


…そうやってぐるぐると脳内を巡らせていると、白く霞む山の向こうから暖かな光が差して来た。


…。

…。

…。


「リーナ。杖の下の方は痛いから引きずらないで」


リーナ「だって大きいんだもん!!」


「いや…そら女性向けに作られてるから幼女相手じゃなぁ…」


リーナ「じゃあ我慢して!」


「いだ!いだだだだだだだ!!」ガリガリ


…。

今、歩き続けているのは隣町までの「平穏の街道」だ。

遠くを見渡すと商人の馬車が三つは見えるほどに栄えていて、スライムすら湧くことの無い平和そのもののルートだ。

何回かここを通った事があるようで、昨日までとは打って変わってぐんぐん進むリーナ。だが、俺は密かに不安を覚えていた。


リーナ「そーうげんのみちーを♪ゆっくーりあるくー♪」


「…なあ、リーナ」


リーナ「うん?なあに?」


「…お前、隣町はどこの関所を通って入ってる?」


リーナ「西側!」


「ああ…じゃあ東側から入ろうぜ」


リーナ「え!?なんで!?」


「うーんと…。なんかさ、俺がめっちゃ嫌われてるから」


リーナ「ふーん…」


「あ、信じてねぇな?ま、行ってみりゃ分かるけどさ」


リーナ「???」


ピンときてないようだ。…泣かなきゃ良いけど。


…。

…。

…。


悠久の街-西関所-


リーナ「ここ!来た事ある!」


「そっか」


リーナ「いっつもね!関所のおじさんが優しいんだ!」


「…」


リーナ「前におつかいで来た事あるの!」


「うん、さっき聞いた聞いた」


リーナ「あ!おじさんいた!!」


タッタッタッタ…


「…俺は黙ってるからな」


リーナ「分かった!おーい!おじさーん!!」


おじさん「ん…?おぉ、リーナちゃん…だっけかな?」


リーナ「こんにちわー!」


おじさん「…ああ、こんにちわ」


リーナ「ねえおじさん!街に入っても良い?」


おじさん「…今日は…。まあ、おつかいじゃないよね…」


リーナ「うん!!」


おじさん「…リーナちゃん。風の噂で聞いたよ。悠久の杖に選ばれたんだってね…」


リーナ「そうなの!!」


おじさん「…じゃあ…。本当にごめんね。ここを通す事は出来ないんだ…」


リーナ「…え?」


おじさん「もし、街に入りたいなら東側へと行ってくれないか?きっとこの時間なら馬車も多く通るだろうし…」


リーナ「なんで?なんでおじさん今日はだめなの…?」


おじさん「…その、「二つ目の模様」が原因さ」


リーナ「つ、杖さんの事…?」


二つ目の模様。それは俺の先端で光る魔法玉周辺にあしらわれた装飾…。いや、これのおかげで魔力の増幅が出来るんだけども…。魔法玉を中心にまるで目のような輪郭が二つ重なっていて、それは十字架のようにクロスしている。言いたい事は分かるだろうか?もっと簡単に言うなら、怒った時の四つ角をそのまま繋いで、中心に玉を配置し目のように見せている…と言ったところだろう。

この模様が俺の祀られていた神殿にも描かれているのだが、これは悠久の街の西側では「悪魔の印」として嫌われている。

以前にここを訪れた時から、この西側の門をくぐった事が無い。


おじさん「…ごめんねリーナちゃん」


リーナ「おじさん…」しょんぼり


「…リーナ。行こう」


…。

…。

…。


俺たちは付近を通りかかった馬車のおっさんに頼み込んで、東側の門まで乗せて行ってくれることとなった。


「あー…めんどくせぇ。これだけで3時間ぐらい潰れたな」


リーナ「なんで…?杖さん、なんで嫌われてるの?」


「俺も知らないんだ。…ここが俺の生まれ故郷なのにな」


リーナ「ええ!?そうなの!?」


「ん。俺を作ったジキルって神様が2000年前に住んでたんだよ。んで、俺が作られた…。んだけどさ、そん時からやたら嫌われてたな、俺」


リーナ「あ!ジキル様!知ってる知ってる!」


「未だに神話は健在か」


リーナ「え…?でも、なんでジキル様の杖さんなのに嫌われてるんだろ…?だって、神様の生まれ故郷なんだよ!?」


「さーな。結局、お前の住んでた村の近くに俺の神殿があったろ。なんやかんやあって、この街から離れた場所に造られる位にゃ目の上のこぶだ」


リーナ「ふーん…。でも、杖さんは一回世界を救ったんでしょ?」


「まあね」


リーナ「…うーん…じゃあ、何か悪い事したのかな?」


「分からん。つうか、お前、金持ってる?」


リーナ「え?うん。100Gあるよ!」


「…ギリギリ宿に泊まれるかな…」


リーナ「だめだよ!!薬草とかそう言うの買わないと!!」


「回復魔法覚えれば買う必要ねぇよ。虫の息からでも俺を使えばプロテインパワーになるぜ」


リーナ「ぷ…ぷろていん?」


「とりあえず、MP1でも残ってりゃ全回復してやるよ」


リーナ「頼もしい!」


「とりあえず寝とけ。今日の夜は寝れなくなるかも知れねぇぞ」


リーナ「え?なんで?」


「もしも100Gで泊まれなかったら…察せ」


リーナ「???」


…。

…。

…。


悠久の街-東関所-


ざわ…!ざわ…!


リーナ「な、なんかすごい見られてる…!」


「こっちじゃ俺たちは歓迎される側だかんな」


町人「あれは…!ゆ、悠久の杖か…!?」


町人「おい…!もしかして魔導士様か…!?」


リーナ「…えへへ///」


「えへへじゃねぇよ。MPと胸が0の癖に」


リーナ「0じゃないよ!?52もあるもん!!」


「平均以下じゃねぇか。しっかり食えよ」


ざわ!!


老人「あの…旅の方…」


リーナ「え?」


「やっべ…!」


老人「…もしや、2000年の時を経て選抜された…!悠久の杖を使いし魔導士様ではなかろうか…?」


リーナ「そ、そうです!!」


老人「…やはり…!」


「リーナ。逃げろ。とんでもない事になるぞ」ヒソヒソ…


リーナ「え…?」


老人「おおおおおおおおおい!!皆の衆うううううううう!!!魔導士様が訪れたぞおおおおおおおお!!」


リーナ「!?」


「…さっさと宿を見つければ良かったのにな…。ここの連中はな…」


町人「魔導士様!?」


町人「祀り上げろ!!」


町人「今日は祭りだ!!!」


「…前に来た時、酒だなんだで俺たちの事寝かしてくれなかったんだよ」


リーナ「えええええ!?」


…。

…。

…。


リーナ「普通に早く終わったね!」


「酒飲めない歳だったから良かったな」


テンポよく祭りは終わった。

ついでに宿屋も無料で宿泊できた。

なにこの嬉しい展開。


リーナ「わー♪ベッドがふっかふかだよ!!」


「俺も寝かせて!俺も!」


リーナ「はい!杖さん!」


「ありが…投げるな投げるな!!」ボフン!!


リーナ「はぁ…でも、今日も疲れちゃった…」


「距離的には意外と歩いたからな。でも、これからサポート魔法覚え出したらサクサク進めるぞ」


リーナ「ふーん…」


「…?どうした?」


リーナ「ねぇ、杖さん。杖さんって前にも冒険したことあるの?」


「…っ」


今更思い出した。なんで俺は軽々しく話してしまったのだろうか。

合計…20回、30回くらい…だろうか?選抜戦にまで時間を戻し、様々な女の子と冒険を繰り返して来た。だが…その多くは俺が性欲に忠実だからと言う理由だけではなく、この世界で最も大きな問題が一つ含まれていたのだ。それは…。

魔王を倒せる魔法使いが居なかった事。

…俺を覚醒させる…。その魔法の名前は「ループ」。だが、その魔法を使う為の魔力が足りなければ、この世界全ての時間が巻き戻るのだ。

今回は会ってからすぐに話し出した為か…それとも、ただの世話焼きな心がうずいた為なのか…。…話してしまった。未来の事を。この世界の事を。


「…まあな」


リーナ「…ねぇ、杖さんはいつ旅をしたの?」


「…2000年前…だな」


リーナ「へー!」


…俺が生まれてからすぐの冒険…。

その話にすり替えて騙しきれるだろうか。


「2000年前からあそこの連中は変わってない。封印軍と解放軍って二つに分かれてずっと喧嘩してる」


リーナ「ふーん…。なんで仲良くできないの?」


「理由は知らん。だが、俺の旅が終わって…それからかな」


リーナ「…ねえ!杖さん!この先、どんなモンスターが出てくるか分かるの!?」


「ん。ああ、知ってるぞ。例えば俺の天敵ビーバヌスが群生してる滝がある」


リーナ「ビーバヌスって…昨日の?」


「そう。俺をダムの材料にしようとする厄介者だ」


リーナ「…うーん」


「あんまり怖くないか?でも、奴らのせいで近くの村の木々は枯れ果て、大地は割れ、空は荒れ…」


リーナ「そんなに怖いの!?」


「半分は冗談だ。でも、やっかいな連中に変わりはない」


リーナ「へー!」


「…そうだな…。なあ、リーナ。今回の旅、昨日も言ってたけど…不安ばっかりか?」


リーナ「うーん…」


「おっと…そこで悩むんだな。意外だったよ」


リーナ「だって、杖さんが居るもん!」


「…」


リーナ「昨日も、杖さんがふぁいあ!って言えー!って言ってくれたから助かったんだし、多分今日だって街に入れなくて泣いてたもん!」


「…それは間違いないな」


リーナ「でしょ!だから、杖さんの事!信じればきっと助けてくれるんだ!って思うの!」


「…!」


…純粋な瞳が突き刺さる。

自分の奥底にある邪悪な心が、小さく悲鳴を上げた。


「…」


リーナ「私思うんだ!きっと皆は魔王のせいでちょっと変わっちゃったんだ!って!おじさんはいっつも優しいけど、魔王と選ばれた私のせいで、すっごく残念に思ってたはずだよ!だって、いっつもはお菓子をくれるし、一緒におつかいするお店まで来てくれたりもしてたよ!」


「…」


リーナ「だから!杖さんに選ばれた私は、魔王を倒さなきゃいけないんだ!って思ったの!だって!杖さんが私を信じて選んでくれたんだよ!」


「…二回も選んだって言うな。分かったから」


…。

どうしよう。まだこの子と二日間しか一緒に居ないのに、罪悪感でいっぱいだ。

…よし。


「…リーナ」


リーナ「なに?」


「…明日、酒場へ行こう」


リーナ「飲めないよ!?」


「知ってるよ!そうじゃなくて…。一緒に冒険する仲間を作ろうと思ってさ」


リーナ「仲間!?」


「最強魔導士パーティだな」


リーナ「最強魔導士パーティ!?」


「世界を救う者達を集うんだ!」


リーナ「世界を救う者達を集う!?」


「…今ならたったの25G!」


リーナ「25G!?」


「お前、なんでも繰り返すんだな」


リーナ「えへへ…なんとなく…♪」


「…ま、とりあえず…。ほら、俺だけでお前を守りきる事が出来るのか?って思ったらさ、すごい不安にもなるんだ」


リーナ「なんで?」


「…だって俺、杖だもん」


リーナ「あ、そっか」


「もしもリーナの手を離れて悪用されたら…それこそ世界の皆が困っちゃうだろ?」


リーナ「うん!うん!」


「だから、俺だけじゃなくて、お前を守り切れるだろう仲間を作りたい」


リーナ「え!じゃあ自己紹介カード作らなきゃ!!」


「なにそれ!?」


リーナ「えへへ♪学校で、隣の席の子とお話する時に、名前とか色々書くんだー!」


「…あ、そう」


リーナ「あ!じゃあまずは杖さんの分から書かなきゃ!」


「…い、いや。俺は大丈夫…なんだけど」


リーナ「はい!杖さん!名前を教えて!」


「杖さんで良いじゃん」


リーナ「なんだっけ…?ゆ、ゆーきゅーの…」


「なんでそこが出てこないんだよ。悠久の杖だ」


リーナ「悠久の杖!」


「で、年齢は2000歳…」


リーナ「2000歳…」


リーナ「…本当は?」


「いやいやいや…俺封印されてたから。本当に2000歳だって」


リーナ「分かった!じゃあ、好きな女の子のタイプ!」


「拒否する」


リーナ「拒否するタイプ…」


「ちげぇよ!!言いたくないだけだよ!!」


リーナ「え…!?あ…!も、もしかしてリーナの事…!」


「ちげぇってば!?昨日も聞いたけどシンキング方面がぶっ飛びすぎなんだよお前!?」


リーナ「じゃあ…。おっぱい大きな人にしとく…」


否定できない。


リーナ「じゃあ、好きな食べ物!!」


「食えるか!!魔力ぐらいしかここ2000年食ってねぇわ!!」


リーナ「変わった杖さんですね…」


「杖の世界じゃ当たり前じゃ!!」


リーナ「…よし!杖さんの自己紹介カード書けたよ!!」


「ちょっと見えるように…違うよ、俺の目は上の方…そうそう、魔法玉あたり…」


「…まあ良いか。どうせ喋らんし」


リーナ「え?喋るよ?杖さん」


「お前の前以外じゃ喋らないって事」


リーナ「えーーーーーーーーーーーー!?」


「うるさい」


リーナ「なんで!?」


「いや、喋るとボロが出るって言うか…不都合があると言うか…」


女湯に連れて行ってもらえなくなるとか。


リーナ「え!喋ろうよ!」


「やだよ」


リーナ「だって!仲間になるんだよ?他の人と」


「…」


リーナ「仲間の中では秘密は禁止ー!!」


「…」


リーナ「まず、嘘はついちゃだめ!それに、貰った物は皆で分け合う!」


「共産主義か」


リーナ「きょうさん…?」


「…だって考えてみろよ。杖が喋るって不気味じゃないか?」


リーナ「え?でも杖さん。すっごく有名な杖なんだよ?」


「さっきその杖の名前が出てこなかったくせに」


リーナ「ほほう!やっぱり有名な杖さんなだけはある!しゃべるのかー!…みたいな!」


「あーはいはい。そうなると良いな」


リーナ「なるよ!リーナを信じて!」


…。

輝かしい目でこちらを見つめてくる。…俺の目は上の方だって言ったのに、持ち手辺りを眺めるあたりが子供っぽさを残している。

…うーむ。悩みどころだ。そもそも今回雇おうとしてる奴は少し面倒な性格だからなぁ…。

前回は喋るって分かった後から、すんごい大変だった…。


「…」


リーナ「ね。杖さん。ね?」


…。

とりあえず、俺の主になった奴のご意向だ。たまには譲歩してやるか。


「分かった。仲間の前では喋ってやろう」


リーナ「やったー!!」


「…はぁ。今日は寝よう。ほら、お子様は夜9時を過ぎて起きてるとレイピスがやってくる…って聞かせられるだろ?」


リーナ「あ!ほんと!早く寝なきゃ!」


「はい、じゃあおやすみ」


リーナ「杖さん!おやすみ!…あ、明日は7時に起こしてね!」


「目覚まし時計扱いすんな」


リーナ「だってリーナ!起きられないんだもん!!」


「分かった分かった。はよ寝ろ」


リーナ「うん!ありがとう!」


…。

…。

…。


ふと思う。俺は何故神様に作られたのだろうか。と…。

杖になって立つ場所も無いと言うのに、未だに性欲だけは残されている。

…あの時、少し大人びて見えた彼女に、一瞬だけ俺は欲情した…。でも、こうやって隣でランプの灯を弱める彼女を見ても、何も感じない。むしろ、子守りを押し付けられたかのような、微妙な不愉快な感覚が走るだけだ。

…俺は、魔王を倒すために作られた。だが、魔王を倒しきれないのならば、倒せるまでやり直すループの中にいる。そして…。

…いつもそうだ。俺の本気を出しきれないのは、その娘たちの力不足が原因…。

…。

昨日までスライムに怯えきっていた彼女。それが魔王を倒せるのだろうか?

俺は…また、ループを繰り返すだけなんじゃないか?

…。

今日も星がきれいだ。きっと明日も晴れるだろう。

…おやすみ。


第二章 完



第三章:笑顔の絶えない仲間



今日も朝日が綺麗だった。そもそも人間からかき消す事のできない「性欲」「睡眠欲」「食欲」のうち、性欲だけを残された俺は寝る事すらないから。

…そしてすやすやと眠る超絶素直な幼女…リーナ。

こうやって横で眺めて思う…。なんだかこの娘は、俺にやさしさだとか色んなものを与えてくれている気がすると…。

…そんなの、少し曲がった杖の先から鳥肌が立つ思いだ。

…俺にはそんなの必要ない。俺はただ…。こうやって誰かと旅を続けて生きれば良いんだ。

あんな牢獄みたいな場所に囚われ続けるのは…もう嫌だ。


…2000年もずっと意識を保って過ごす絶望。

…「ハイド」と…離れ離れになった絶望…。


…。

…。

…。


悠久の街-東ギルド-



リーナ「おぉ…!こ、ここが酒場!!」


「酒場と医療所と役所と教会と図書館が併設されてるからクッソ広い」


リーナ「なるほど!!」


「おかげで傷ついた魔族由来の血を持つ奴らは、治しに来るだけでも反吐が出るらしいぜ」


リーナ「教会じゃしょうがないね…」


この酒場の広さ。地平線まで壁が見えない…みたいな言い方をすれば良いだろうか?ろうそくの火が小さすぎる訳でもなく、とにかくでかいのだ。

五方向に枝分かれしている中心にあるのは総合案内所「セントラル」。そしてその先には皆それぞれの目的がある。

俺たちは右から二本目の通路を歩きだす。吊るされた木の看板には、酒と剣のマークが浮き彫りに描かれていた。


この先は…。この世界でも屈指の超巨大ギルドがある。


ざわざわ…ざわざわ…


「さて、仲間を見つけよう」


リーナ「ひろーーーーい!!あ!声が反響する!!」


「他の奴に迷惑だからやめーや」


リーナ「なんか!すぐに仲間が見つかりそうだね!!」


「おっと!そこは俺に任せろ。俺が厳選してお前に着かせてやるよ」


リーナ「どうやって?」


「…長年の勘って事で」


実は、以前に仲間となって旅した女が居る。そいつをアレに来た。

…まぁ、めっちゃ面倒な奴なんだけど…。


リーナ「なんだか頼りなーい!」


「おまっ…!こっちは2000年生きてんだぞ。普通に考えて優れた何かが…!」


ドシン…!!ドシン…!!


巨人族「おっと…。悠久の魔導士じゃねぇか」


リーナ「!?」


「!?」


巨人族「悪いがそこを通してくれ。俺たちのテーブルは端っこにしかないんでな」


「…」


(リーナ、どいてやれ)


リーナ「う…うん」てくてく…


巨人族「ありがとうな。もしも仲間を探してんなら俺だって構わねぇ。冒険がしたくてうずうずしてんだ…。いつでも声を掛けてくれ」


ドシン…!ドシン…!


リーナ「あ、ありがとー!!」


「…巨人族の連中、ひっさびさに見た」


リーナ「ねぇ!あの人強そうだよ!?」


「巨人族はやめとけ。食費だけで散財するぞ」


リーナ「でも強そう!!」


「あと…あんまり役には立たないぞ?」


リーナ「えー!?なんで!?」


「本当は巨人族の連中、魔王の城近くに住んでたんだよ。でも、巨人殺しの剣ってのを魔王が創り出したせいで、一番遠いここまで追いやられた。中盤までは心強いが、魔王には勝てない」


リーナ「…なんだか可哀想」


「だよな。だから…それよりももっと強い魔法使いを…」


リーナ「あ!!あの人は!?大きな剣で強そう!!」


「あれはダメだ。終盤の敵は戦い始めてすぐに物理結界を張りやがる。どんなに強い剣でも、文字通り太刀打ち出来ない」


リーナ「ぶー…」


「だから…ここは…」ギュルンギュルン!


リーナ「怖いよ!?魔法玉すごい回ってる!?」


「…おっいたいた…。リーナ、あの連中だ」


リーナ「…へみゅれぇへ族!!」


「いや、知らないなら無理して言わなくて良いから。しかも人間だし」


リーナ「…普通だった」


「だが、奴らこそ2000年前からこの地に住み、俺の事を崇拝している「解放軍」の連中だ!!」


リーナ「へー!!でも、よく分かったね!こんなに人が居るのに…」


「見てみろ。あの戦闘服の背中、二つ目の模様が描いてあるだろ?」


リーナ「あ!ほんとだ!」


「あれが俺を神として崇めてる証拠だ」


リーナ「多分、ジキル様を信仰してるんだよね?」


「急に大人びたマジレスしないでくれない?とりあえず話しかけてみろ」


リーナ「うん!!」


とてとてとて…


リーナ「こんにちは!!」


解放軍人「あ?だれだおまっておおおおお!?悠久の魔導士だぞ!?」


解放軍人「あ!!マジだ!!?え!?な、何故こんなところにいらっしゃるのですか!?」


ざわざわざわざわ!


リーナ「じ、実は仲間を探してて…」


解放軍人「…くく…ククク…!」


リーナ(こわい)


解放軍人「…魔導士様。何か忘れちゃいませんかな…?俺たちは!!誇り高き悠久の都、解放軍!!魔導士様から一声掛けられりゃ、いつだってお供しますぜ!!!」


解放軍人「「おおーーーー!!!」」


リーナ「すごーい!!!」


解放軍人「…と言っても、西側の奴らと戦う人員も要る。全員が着いていくのは難しい話でしてね。3人…ぐらいまででしたら、きっとお上からも許可が下りる」


リーナ「え!じゃあ3人も選べるの!?」


解放軍人「ああ!選んでください!!」わくわく


リーナ「じゃあ…!えー!?皆強そうだし…!」


解放軍人「いえいえ…そんなもんじゃ…///」てれてれ


「…」


(リーナ。選ぶのは1人で良い)ヒソヒソ…


リーナ(え?なんで…?)ヒソヒソ…


(雇う金は必要なくっても、食費がかかる。まぁ…不食魔法を使える奴を雇うつもりだが、一部の装備やらMP回復のアイテムが必須だからな。100G…残り97Gだっけか。しばらくはそれで生活しよう。つうか、この街出たら宿費用だけで90Gぐらいはかかるぞ)


リーナ(えー…)


(とりあえず、俺が選んでやるよ。あの右の方に移動してくれ)


リーナ(こっち?)てくてく…


解放軍人「どうぞ、お選びください」


リーナ(…え?この人でいいの?)


(ええよ)


解放軍人「誰でも構いません。誰でも貴方の役に立てるでしょう!!」


リーナ「え…じゃ、じゃあ…。この人で!!」


解放軍人「あ、その人は止めた方がいい」


リーナ「言ってる事が逆!?」


解放軍人「…いや、こいつはね…。ちょっと虚構癖がありまして。おかしい奴なんですよ」


リーナ「お…おかしい…」


リーナが指さした女…。ぱっと見ビキニアーマーを着用しつつフードを被ると言う、もう既に突っ込みどころ満載な外見だった。

だが、俺は知っている。この女を選ぶべき理由が2つもある事を。

1つ、この女は序盤からやたらと強い魔法を使える。何故なら、この女の虚構は全て真実だからだ。

そして2つ目。最強最大の理由。


おっぱいが大きい。


シイラ「…私をおかしいと言わないでくれない?私、本当の事しか言ってないわよ?」


解放軍人「…って言うがな。コイツ「終焉の街」にまで冒険した事があるとか言ってるんですよ」


終焉の街…。それは魔王城から最も近く、そして魔王の被害を最も受けた街だ。

住んでいた人間は全員、生ける屍と化し、毒の霧が朝晩の限り無く覆いつくしており、近づくだけでも難易度は最高レベルの…文字通り終焉の街なのだ。

だが、このシイラと言う女は、昔の仲間がその地に住んでいた事を思い出し、一人きりで旅をし続けたそうな。…最も、その霧の影響で、顔の一部が爛れ…。言動も情緒不安定さが目に余る。


シイラ「本当よ!!私は行ったのよ!!あの地獄に!!」


解放軍人「分かった。はいはい分かった。落ち着け!!」


シイラ「私は行ったのよ…本当に行ったのよ…」ブツブツ


リーナ「…ちょ、ちょっと怖い…」


(怖いだろうが、コイツで良い。びっくりするぐらい強いから。…あ、俺の勘が言ってる)


って事にしておいて。


リーナ(…わ、分かった。杖さんが言うなら…)


リーナ「わ、私!この人の事信じるよ!!」


解放軍人「魔導士様!?お考え直し下さい!!」


シイラ「アンタたち!!見苦しいわよ!!?ほうら…私は実力を持って選ばれたのよ…?あんた達とは格が違うのよ!!」


解放軍人「ぐっ…!」


いや、最初はおっぱいで選んだんだけど…。

まあ、実力もあるから認めてやろう。


シイラ「行きましょクソチビ」


リーナ「クソチビ!?」ガーン!!!


(こいつ、口は悪いが後々デレてくれるから怖がるな)


リーナ「…超こわい…」


(だろうな。…リーナ、街を出る前に雑貨屋に寄らせろ)


リーナ「…分かった」


(落ち込むな…。どうせ旅が始まったら俺が一番被害を受けるだろうから…)


リーナ「…?」


…。

…。

…。


シイラ「で、ちびっこ魔導士はどこに私を連れて行きたいのよ。元巨人族の村?それとも終焉の街?…まさか、隣町までのお守だなんて言わないわよね?」


リーナ「…」涙目


(お、この店この店)


リーナ「…さきに…ここ」


シイラ「…っ!…わ、分かったわ」


リーナ「…?」


「カリュー商店」と言う小さな店へと立ち入る。

古ぼけ濃い色の扉をきぃ…と開いた先には…。ヤモリの黒焼きだとか、魔勢ニンニクだとか、変なアイテムばかりが点在していた。


シイラ「…ここを選んだだけでも、アンタの目は確かよ。…よく大通りにある偽物だらけの店を避けたわね」


リーナ「???」


(シイラは魔法薬学の調合にめっちゃ詳しいんだ。んで、この店をよく使ってる)


リーナ(なるほど!!)


(お前の功績だって褒められてるぞ?)


リーナ「え!?ほ、褒めてくれたの!?」


シイラ「…勘違いしないでくれない?一流の魔法使いなら当然この店を選ぶってだけ。まだレベル0だからって天狗にならな…え?レベル…?…は?レベル0…?」


リーナ「うん!レベルは0だよ!」


シイラ「…天才か何かかしら。それともアホの子か…。それとも…」


…彼女は俺の目をしっかりと睨み付けた。


シイラ「…その杖が強いのかしら…ね」


リーナ「うん!そうだよ!」


シイラ「…そこはちょっと否定するべきところよ」


なんともデコボコな感じが否めない。

ととと…目当ての物が見つかった。


(リーナ、店主に「あの後ろの瓶に入ってる甘芋焼を一つ!」って言ってみな)


リーナ(分かった!)


リーナ「ねえ!おじさん!」


店主「なんだい…!っておっと…。これは可愛らしい魔法使いさんだ」


リーナ「ね!ね!あの…えっと、後ろのー…?瓶に入ってる!あ、あまいもやき…?を1つ下さい!」


(あ、やっぱり2つで)


リーナ「あ!やっぱり2つ!」


店主「ああいいとも。…それにしても、よくこの瓶に入ってるって分かったね…。実はちょっとした秘密の瓶だったのに」


リーナ「??」


(簡単に説明するが、ここの法律じゃ基本的に、薬売ってる奴らはお菓子を売っちゃいけないんだ。毒草とかめっちゃ扱ってるから、衛生的な面で違法なんだよ)


リーナ(え!?大丈夫なの!?)


(勿論。食っても美味いだけだ。ただ、大通りとかで宣伝したら注意と罰金刑になるけどな)


店主「はい。2つね。4Gだよ」


リーナ「安い!?」


店主「去年からジャガイモが豊作だったからね。こっそり皆も作ってるよ」


リーナ「あ!すごい!美味しそう!!」


店主「魔法で絶対に腐らないし、いつまでもホクホクのまま食べれるんだよ」


健康に悪そうな言い方するな。


リーナ「ありがとうねー!」


店主「もういいのかい?ありがとうね」


…ん。シイラは先に店の外に出たか。


(リーナ、シイラに1つ分けてやれ)


リーナ「勿論!」


きぃ…。と、扉の音。

そして店主の軽やかな挨拶が聞こえた。


彼女は、店の窓に寄りかかっていた。退屈そうにブツブツと何かをつぶやき、非常に虚ろな瞳で空を眺めている。

…彼女の内情を知らなければ、誰も近づきたくない女筆頭だ。


リーナ「あ!シイラさん!」


シイラ「あら、ちびっ子。…何買ったのよ…?使えない魔道具なんか買ってないわよね」


リーナ「これ!シイラさんに!」


シイラ「は?なにこれ?」


(お近づきの印に!って)


リーナ「お、お近づきの印に…!って!」


(っては言わなくていい)


シイラ「はぁ…。何?ワイロか何かのつもり?残念だけど、私そういうので心動かされたりしな…」


シイラ「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっあ!!」ビクンビクン!!


リーナ「!?!?」


シイラ「なんで!?なんで私の大好物知ってるの!?ちがっ!それより!!なんでこの店で甘芋焼が売ってるって知ってたのよ!?」


リーナ「え…ええと…」


シイラ「はあぁぁぁぁぁぁ…!こ、この匂い…!もう、本当っに後悔の念しか浮かばなくなっちゃうの…!なんでこの世に甘芋焼なんてお菓子があるのだろう?って…!なんで私はこれをあるだけしか食べられないのだろうって…!なんで…!なんで食べると無くなっちゃうの!?って…!!!」


リーナ「そ、そうですか…」


(ドン引きするな!!!)


リーナ(ちょ、ちょっとこれは…)


シイラ「ああぁ!!もう我慢できない!!はむっ…!ああぁあ…!ほんと…!ほんと!!この店のが一番!!!どこの街に行って買っても絶望ばかり!!この店の味は後悔しかしないわ!!!もうこの幸福を味わえなくなるなんて…って…!」


リーナ「…わ、私も食べてみよ…」


シイラ「外はサックサク…!それはもう薄いクッキーのようなサックサク!!でも!!しっとりさは忘れてない…!まるで…!そう!!タルトのように!!ほろほろとも蕩ける食感!!!はむっ!!はふはふ!!!」


リーナ「わっ…!美味しい!!」


(お前はたった一言で感想が終わったな)


シイラ「そして…!そう!ホックホク…!もはやこの世界で最も楽園に近い…!甘さを醸し出すジャガイモ…。でも!!それだけじゃない…!この店の芋は、今まで薬学にしか使われてこなかった伝説の紫色の皮をしたラグビーボール型の芋を使ってるの!!それのおかげで…!ほら…!こんなにも素敵な金色…!」


リーナ「もぐ…!美味しいね!はふはふ…!」


シイラ「ああああああああああああああ!!もう食べ終わっちゃう!!名残惜しいなんてもんじゃないわ!!!もう半分も食べた時点で先に待ちかまえている深淵こと、私の指が見えちゃうの!!!もう…!もう終わっちゃう!!この至福が終わっちゃうんだ!!って!!」


リーナ「ごちそうさま!!」


(おい、シイラをスルーするな)


リーナ「ごめんなさい…ちょっと…。この間の闘いよりも怖いかも…」


(否定はしない)


シイラ「ああああああああああああああああ!!無くなっちゃった!!まだまだ口の中で唾液が求めてるの!!あの…黄金色の…快楽を…」


シイラ「…ごめんね…。私は…でも…旅立たなきゃ…ぐすん…」


リーナ(ねえ、杖さんはいつ話すの?)


(街を出てから。とりあえず、そのポージング決めだしたら手を引っ張って街の外まで連れてけ)


リーナ(出来れば一緒にされたくない…かも)


(同感だが、これが仲間を集めるイベント的な奴だ。イメージが180度変わっただろ?)


リーナ(一周して怖いままだよぉ…)ぞわわっ


(…否定はしない)


…。

…。

…。


こうしてシイラを半ば引きずりながら街の外までやってきた。

この時点でリーナは肩で息をするほど疲れ切っている。


リーナ「あー…!疲れたぁ!!」


シイラ「…ちょっとなんか…意識が飛んでたわ。ごめんなさいね」


リーナ「「ちょっと」だけ!?」


シイラ「…でも、ありがと。…確かに出発する前に甘芋焼は食べたかったのよ」


リーナ「どういたしまして!とっても安かったし!」


シイラ「…それにしても。よく分かったわね。私の大好物だって」


リーナ「あ…それは…。あの…。さ、先に聞きたいんだけど…。も、もしも!もしもだよ!!?」


シイラ「なによ」


リーナ「も、もしも…。自分の杖…が…。しゃ、喋ったりしたら…。…ど、どう思う…かな…?」


…ついにこの時が来てしまったか…。


シイラ「…それは私に見せない方が良いかもね。私の心の奥深くに隠されてる感情が目覚めるかも知れないから」ざわっ…!


…。

風が強く吹き荒れた。それと同時、焼けただれた方の目がちらりと見える。その奥に隠された闇色の光を見て…。


リーナ「…!」ぶるっ…!


…。

また、杖の先の方が生暖かさを覚えたのであった。


(…てめぇ。また漏らしたな)


リーナ(ち、ちびっただけ…!)


(同じだよ!!!)


シイラ「…もしかして…。その杖…。喋るって言いたいの…?」


リーナ「!!!」


シイラ「…どうなのよ…」ゴゴゴゴゴ


リーナ「こわい」


シイラ「…」


リーナ「…」


…。

俺も覚悟決めた。よし、喋ってやるか。


「…」ぶるっ


リーナ「…つ、杖…さん…?」


一瞬、俺が身震いしたのが悟られてしまったようだ。

つうか、杖で筋繊維とかないのに身震いとかどうするんだろうな。


「…」


「---力が欲しいか?」


リーナ「杖さん!?」


シイラ「!?」


「---我の問いかけに答えよ。力が…」


「欲しいか」


リーナ「つ…!杖さんが…!」


リーナ「壊れちゃった…!」


シイラ「…」ニヤリ


彼女のその笑みは…。これから先の旅を予感させるかのような物だった…。



第3章:笑顔の絶えない仲間 完



第4章:激萌え



俺が話した途端、シイラの顔はみるみるゆがみ始めた。

風はさらに力を増し、辺りに雲が掛ったのを悟らせる。


シイラ「…喋るのね。その杖…。喋るのね」


リーナ「…!」ゾゾゾゾゾ


(漏らすなよ…!)


リーナ(無理!!)


シイラ「…杖よ。私に今、なんて問うた?」


「…お前は力を求めるのか…と」


シイラ「…ええ、力は求めるわ。それで?くれるの?」


「…」


シイラ「ククク…!その続きの言葉は…こうでしょう?「力が欲しくば、我の下僕へと成り下がれ」…違うかしら?」


「…理解が早いようだ…」


リーナ「え!?え!?ど、どう言う意味!?杖さん!?」


シイラ「そして…私はなんて答えると思うかしら…?」


「…こう答えるだろう…」


「「マジで!?チョー嬉しいんですけど!?」…と」


リーナ「杖さんんんん!?」


シイラ「そ…!その言葉…!…フフフ…!あんたも物好きねぇ…?」


「…お前こそな…!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!


リーナ「…こわい」


「安心しろ、リーナ」


シイラ「へぇ。リーナって言うのあんた…。ねえ、リーナどいて。そいつ殺せない」


リーナ「なんですって!?」


「リーナ…。俺、この戦いが終わったら…。魔王、倒すんだ…」


リーナ「なんだか2人とも死んじゃいそうだよ!?」


シイラ「あら…?ちなみに私はジキル×ジークよ…?」


「残念だったな…。俺はジキル×ハイドだ…!」


リーナ「へ!?へ!?」


その瞬間、まるで鬼の眼光のようなシイラが駆けだす。

俺はとっさにリーナを守る事しか出来ない。


「リーナ!!お前は横に逃げろ!!」


リーナ「杖さん!」


「俺は大丈夫だ!!さっさと横に飛びのけ!!」


リーナ「…!え、ええい!!」


それと同時…。シイラは俺の腕…いや、杖の枝分かれしている部分に手を当てた。

その握力と言ったら、木がメッシャア!!ってなるんじゃないか…と言うほどだ。


「ぐっ…!」


シイラ「あんたは何も分かってない!!」


「お前こそ何が分かるって言うんだ!!!」


リーナ「杖さん!!シイラさん!!喧嘩はやめて!!!」


シイラ「部外者は引っ込んでなさいよ!!ましてや18歳以下の幼女は!!」


「リーナ!!来るんじゃない!!」


リーナ「なんなの!?何があったの!!!?」


メシメシ…と、軋む音がし出す。これ以上はヤバいかも知れない。


「…リーナ…!これは俺たちにとって避けられない戦いなんだ!!」


リーナ「だから!!何が原因なの!?」


シイラ「…ハイドよ…!」


リーナ「は…ハイド…?」


涙目になりながら、シイラは大声で叫んだ。


シイラ「魔法少女ジキル☆ハイドの事よ!!!」


リーナ「は?」


「こいつは何も分かっちゃいない!!ジキルはハイドが好きなんだよ!!それで良いだろ!?」


シイラ「はあぁああぁぁああ!?ジキルはジークに寝取られる運命だって知らないのかしら!?はい!馬鹿決定!!QED!!」


「公式設定から目を背けてんじゃねぇよ!!ハイドはジキルの大きさに目を奪われてハート目してただろうが!!」


シイラ「ざけんな!!ジークのケ○穴はジキル専用なんだよ!!公式でもそう発言してただろうが!!」


「幼女の前で○ツ穴って叫ぶんじゃねぇよクソが!!俺だってボカシて言ってただろうが!!しかも公式ったって番外編じゃろが!!」


リーナ「ふ、2人とも落ち着いてよ!!」


シイラ「はあぁ!?これが落ち着けるわけ無いでしょう!?コイツは悪魔の使いか何かよ!!むしろ変態よ変態!!!」


「お前みたいなオッスオッス犇めく世界の住人にんな事言われたくもないわ!!」


リーナ「…」


リーナ「割とどうでもよかった!!」


シイラ「よくねぇよ!!」


「よくないわよ!!」


リーナ「逆!絶対にセリフ逆!!」


リーナ「そして私はジキル×メロディしか認めないから!!!」


杖・シイラ「はあああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?」


…。

どんな低レベルな事で争っていたか大体は察してもらえただろう。

なんか、この世界の住人ってのは微妙に頭がおかしいらしく、2000年前の神様を可愛い女の子だとか美男子だとかとして漫画にしてしまったのだ。

そこからカップリング…つまりは誰が誰と付き合うか?なんてのが色々と話され、いつの間にか対立を生んでしまった。

…ちなみに、俺が言ったのはメインヒロイン「ハイド」とのカプ。このクソメスが言ったのは、最後に仲間になった癖に世界を裏切った「ジーク」との雄々しぃカプ。最後にリーナが言ったのは、2番目に仲間になったサブヒロインの「メロディ」だ。

そして俺のセリフ「力が欲しいか…」と言うのは、番外編も含めた話の始まりに杖が発する言葉。次の「チョー」とか馬鹿げた奴は、23番目の番外編に出て来たセリフだ。


そして、こんなクソ話をしていたら夕暮れが近づいてきてしまった。


シイラ「マジあり得ない…本当にカスプラスプラスだわ…!」


「これだからお前はクッソ面倒くさいんだ…!」


リーナ「ねえ、もしかしてだけど普段からブツブツ呟いてたのって…」


シイラ「は?「じ、ジ-ク…。お前の魔法玉に溜まった聖水を俺に分けてくれないか?」とかに決まってるじゃない」


「番外編は全部R-18だ。リーナに話すなボケ」


シイラ「そもそも公式であーゆー事やられると本当に腹が立つのよ…」


「それは同感だ。全員分のルートが開拓されてるとか、対立を生み出すのが目に見えてる」


リーナ「でも!メロディはいっつもジキルの事を思ってたんだよ!?」


シイラ「すぐに死んだけどな!!!」ゲス顔


リーナ「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」ボロ泣き


「泣かせるな。子供には夢を与えてやれ」


シイラ「…チッ。リーナ、聞きなさい」


リーナ「ぐすん…!ぐすん…!」


シイラ「私ね…。メロディにお礼を言いたいの…」


リーナ「お礼…?」


シイラ「さっさと死んでくれてありがとうってな!!!」ゲス顔


リーナ「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!?!?!?」


「バカじゃないの!?マジで馬鹿じゃないの!?」


シイラ「他カプは死すべき。むしろ殺してやるわ」


リーナ「杖さんの馬鹿!!」


「なんで俺!?」


リーナ「なんでこんな人を仲間にしたのよ!!」


「むしろお前がジキル☆ハイド知ってた事の方が驚きだわ!!!」


シイラ「再編成されて今じゃどの学校にも「分かりやすいジキル神話」として置かれてるわ」


「マジかよ狂ったな世界。つうか、それで女子力(物理)ばっかりが増えた理由が分からん」


シイラ「後書きの「魔力こそパワー!!」って言葉に触発されたアホばっかりって事よ」


「アホだな」


リーナ「もう冒険やだ!!杖さんもヤダ!!!変態だもん!!」


「なんで!?」


シイラ「知らないの?ジキル×ハイド派は変態って学校で教わるのよ!!!」


「絶対学校に置くべき物じゃねぇな!!!しかも神様馬鹿にしすぎだろ!!!なんだその学校!!」


シイラ「私の脳内の学校よ!!」


「一周廻ってバカだなお前!!」


シイラ「自分だけ変態の敷居から逃げようとしないでくれない!?そう言うアンタも番外編網羅してる癖に!」


「普通の漫画として見るとクッソ面白いんだアレ」


リーナ「ところでなんであんた話せるのよ。杖の癖に生意気だわ」


「は?俺があの漫画にあるジキル様だからだよ」


リーナ・シイラ「は?」


「俺が本当はハイドに背負われて旅してたんだけど、漫画じゃジキル本人が旅したって事になってる。しかも、最初以外は俺が喋るって設定はオミットされてやがるし」


リーナ「え?じゃあ2000年前から喋って旅して女湯とか覗いてたの!?」


「なんでソコが反映されてんだよクソが!!!それは誰にも話してねぇぞ!!!」


シイラ「は?マジで激萌えなんですけど!?もうそのまま「俺の杖が…!」ってなるじゃない!!?」


「もうそろそろ下ネタやめような!!ならねぇから!!!」


リーナ「メロディ死んじゃうの!?」


「死んだよ!!」


リーナ「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!?!?!?」


シイラ「は!?じゃあ番外編もアンタ…!」


「番外編っつってんだろ!?本編以外は全く知らんわ!!!」


リーナ「ねえ、今更だけどここどこ…?」


「草原だよ」


シイラ「そう言えば草原プレイってのが」


「ねぇよ!!!」


リーナ「本当にここどこ!?」


…。

言われてから回りを見渡すと…。

そこは整備された道から大きく離れた未開の草原だった。

奥には不気味な森、その奥の山にはゆっくりと夕日が沈もうとしていた。


「…ちっ…。街道から外れたか」


シイラ「…この先はあの森ね…」


「知ってるのか?」


シイラ「…恐怖の森。あそこが開けてるでしょ…?あそこから入るんだけど、だれもそこから出て来た者はいないって言われてるの…」


リーナ「やめよ!?絶対やめよ!?」


「…なんで誰も出てこないんだ…?」


シイラ「…それは…」


リーナ「…怪物…!?」


「…いや、入り組んで迷わされる…とかか?」


シイラ「何故ならそこは、入口だからよ」


「…」


シイラ「…」


リーナ「…」


「あ、出口があるってこと?」


リーナ「あ、なるほど」


シイラ「説明しないでくれる?恥ずかしくなってくるから」


リーナ「でも、なんか怖くなくなっちゃったね」


「普通にこの辺で野宿の準備でもしよう。森の中に入るとしても、道に戻るとしても…どっちにしろ時間が掛かる」


シイラ「異議はないわ」


リーナ「そうだね…」


風は…強く吹き荒れたままだった。



…。

…。

…。


リロリロリロリロ…。と、よく夜に聞くが名前や姿かたちを見た事の無い虫が鳴いている。

どっぷりと日は沈み、三日月だけが自分達を照らしていた。

小さなたき火にくべるのは小さく割った魔石炭。シイラが持っている分を見る限り…。明日、いや、明後日には無くなってしまうだろう。


シイラ「で、どのルートを通って終焉の街まで行く気?」


リーナ「杖さん!オススメを!」


「ねぇよ」


シイラ「って言ってもねぇ…。途中のワープゲートはいくつか開けてあるけど私」


そう言いながら、彼女は小さな包みを開ける。中には…甘芋焼が10個以上入っていた。

どう考えても、悠久の街で食う必要は無かっただろう。


「お前、レベル0の奴を初っ端から斬鉄竜と戦わせる訳にもいかないだろ」


シイラ「確かにね」


リーナ「ざん…てつりゅう?」


「レベル20ぐらいで挑むダンジョンだよ」


リーナ「私の20倍!!」


シイラ「0はいくつ掛けても0のままよ。甘芋焼美味しい」


「リーナにも分けてやれ」


シイラ「草でも食ってろ」


「おまっ…」


リーナ「いいもん!私、ちゃんとママが持たせてくれたパンがあるし!!」


「おととい食わなかったか?」


リーナ「…」


「ってな訳で分けてやれ」


シイラ「節食呪文」


「酷な奴だ」


リーナ「おお!なんだかお腹空かない!!」


「それでも良いけど、点滴みたいなもんだ。栄養バランス偏るぞ」


シイラ「杖に健康管理されるジークとかムネアツ」


「ねぇよ」


リーナ「…ねえ。杖さん」


「んー?」


…リーナは横になりながら、少し不安げな表情をする。


リーナ「…冒険って…。もっともっと怖いのかな…?」


「そりゃな。腐食竜やなんかと戦えば、ゾンビみたいな奴と連戦もありえる」


シイラ「…場合によっちゃ、メロディのゾンビも出てくるかもね」


リーナ「…!」ゾゾゾ…!


「あんまり脅かすな。子供相手に」


シイラ「子供だからよ。今のうちからどれだけ怖いもんが襲い掛かって来るか知らしめるの」


「…」


リーナ「…怖い」


シイラ「…でしょうね。でもリーナ、私から見れば、まだまだアンタは旅を楽観視してる。…私が終焉の街で見た光景…。あれに今のアンタは耐えきれない」


リーナ「…」


シイラ「…心を強く…なんてのはアンタの周りの大人が言ったでしょうけど、そういう身勝手な連中の話は聞かなくていいわ。体験した者こそが、噂以上の物を心の奥底に抱えるだけなんだから」


リーナ「…こわいな…」


「…リーナ。もうそろそろ寝ろ」


リーナ「まだ7時だよ?」


「明日は早くに出発する。あと、節食呪文が切れたら空腹に襲われるぞ」


リーナ「…分かった」


「ん…」


リーナ「…シイラさんは寝ないの?」


シイラ「寝ないわよ。誰かさんを守る役目を杖に任されたんだから」


リーナ「…シイラさん、優しいね」


シイラ「冗談じゃない。…こっちは尊敬するクソ杖様から言われてるから嫌々やってんのよ」


「クソ杖言うな」


リーナ「…ねえ!シイラさん!」


シイラ「はぁ…。今度は何?」


リーナ「…やっぱり!シイラさんを仲間にして良かった!…かも!って!」


シイラ「…」


リーナ「…この旅がどれだけ苦痛な物なのか、シイラさんは知ってる…。でも、着いてきてくれた!!そして…私を守ってくれる…」


シイラ「…はん。その言い方だと、私を利用してるだけになるわよ?」


リーナ「そ、そんなつもりじゃないんだよ!!…そうじゃなくて…。…こうやって…安心できる人が居るってだけで…。…なんだか、怖くなくなるんだ…」


シイラ「…」


「リーナ。さぁ…」


リーナ「うん!おやすみ!杖さん!」


「はいはい。おやすみ」


リーナ「シイラさんも!おやすみなさい!…先に寝ちゃって…本当にごめんなさい」


シイラ「はいはい気にしない気にしない。早く寝なきゃレイピスが来るわよ」


リーナ「ありがとう!」


…。

…。

…。


リーナが小さな寝息を立て始めた頃…。月が真上から俺たちを覗いていた。

たき火のパチパチと弾ける音だけが響き、風も…そして虫の声もどこかに消え去った。


シイラ「…なんか…大人びてるわね。この子」


「…うーん…。漏らす癖も治らなきゃ、知らない言葉も多いけどな」


シイラ「すぐ怖いって言うしね」


「…でも、本当にたまに…。面影が映る」


シイラ「なんの?」


「…遠い昔のさ」


シイラ「ふぅん…。なに、私はアンタのセンチメンタルジャーニーにつき合わされなきゃいけないの?」


「別に付き合わなくていいよ」


シイラ「…。思ったんだけどアンタ…。いや、絶対アンタよね?私を選んだの」


「ああ、そうだ」


シイラ「…なんで私の事知ってたのよ」


「…はぁ…。その辺も話さなきゃならんか?」


シイラ「少なくともリーナは私の事信用して寝てるんだけど?んで、アンタは私の事を知り尽くしてるとか、不公平じゃない?」


「普通にリーナは眠かっただけだろ…。…はぁ…」


シイラ「何よ、なんか随分ともったいぶるわね」


「…リーナは寝てるか?」


シイラ「ええ。ぐっすり。魔法で確かめる?」


「いらね」


シイラ「…じゃ、ちょっと話を聞きましょうか」


…。

ザァ…と、辺りが暗くなる。月に厚い雲が掛った。


「…勝てない」


シイラ「…何が」


「…きっとリーナは…。魔王に勝てない」


シイラ「…何よ急に」


「…俺の最強呪文「ループ」。その効果は魔王を打ち滅ぼす程のパワーを秘めている。だが、その魔法を発動させるのに必要なMPは…」


「…およそ10万MPだ」


シイラ「はぁ…!?」


「人が生涯を掛けて瞑想した先に溜められるのが1万MPと言われてる中…。どう思う」


シイラ「無理でしょ。え?魔力増幅系の魔法アリ?」


「無しで10万MP必要なんだよ」


シイラ「…いや、それマジで神様クラスしか使えないじゃん」


「…この魔法はハイドが作ったんだ」


シイラ「!!!」


「…アイツは人の数百倍のMPを持ってた。俺が封印された時…。次の魔王に備えて…と、俺に託した魔法だ」


シイラ「…本当に神格だった訳ね」


「…そして…この魔法を失敗するとどうなると思う?」


シイラ「…死んだり…な訳ないわよね?」


「…魔王討伐の為、あの街で開かれた杖の選抜大会にまで時間が戻る」


シイラ「…なるほど。なんとなく合点がいったわ」


「前の時も納得が早くて助かったよ」


シイラ「つまり…。アンタとご主人様。そして私と…何回も旅をしてるって事でしょ?」


「ああ、そうだ」


シイラ「…ふーん…。それで甘芋焼を買って寄越した理由が分かったわ」


「あれは2回目の旅…の時かな、お前にどこで買うのが一番美味いかを聞いたんだ」


シイラ「…なんだか変な気分。私そんな心開くタイプじゃないわよ」


「ああ。確かにそうだった…。だが、今回は違う」


シイラ「何がよ」


「…俺が、旅を始めてすぐに喋り出した事だ」


シイラ「…確かに。それで激萌えしたのは事実だわ」


「それは空想の話だから。…とにかく、お前には助けて欲しい」


シイラ「…」


「お前の強さを見込んで…だ。…リーナを守ってやってくれないか」


シイラ「…正直嫌よ」


「…って言うとは思った」


シイラ「子守りなんてクソ食らえだし、違うカプ信仰してる奴と旅なんかしたくないわ」


「カプ信仰はマジで俺も予想外だった」


シイラ「甘芋焼の事だって、あの子が天才なのかも?って少し惹かれた部分があったからこそここに居るの。アンタが仕組んでたって聞いて、不愉快の思っていいのかどうなのか、整理もついてないわ」


「…悪かった」


シイラ「…で、一番の問題はこの子よ。…ねえ、アンタ、なんでこの子を選んだのよ」


「…」


シイラ「全く旅なんか出来る子じゃないでしょ?たまたま選抜大会に居たからって、こうやって話せる意思があるなら、別の子を選べた訳でしょ?」


「…鋭いな」


シイラ「全く納得はしてないけど、何度もループしてるんなら何か隠してるって分かるわよ。さ、言ってちょうだい。言わなきゃ今から帰るわよ」


「…」


「…実は…な」


シイラ「…」


「俺、性欲で選んでんだ」


シイラ「帰る」


「待って待って待って!!最後まで話を聞いて!!」


シイラ「マジ無いわ。あ、でもそうやってジークが選ばれた可能性に賭ける」


「それはハズレだ」


シイラ「帰る」


「だから待てって!!!」


シイラ「…なに?何を基準に選んでるのよ。胸…は、この子は無いわね。壁よ壁。…じゃあ何?こんな小さな子でも食えるってのアンタ?ホモの癖に」


「だから二次創作を混ぜ込まないでくれない!?ホモでもなければロリコンでもない」


シイラ「…じゃあ基準は?」


「…実は…。いや、これマジでリーナにも言うなよ…」


シイラ「絶対言わない約束する」


「…いや、目に言うって書いてあるんだけど」


シイラ「言わない言わない」


「…信用するぞ!?お前も俺を信用しろよ!?」


シイラ「分かったわ」


「…実は…」


「…好きだった奴に似てる子を…無意識に選んじまってるんだ…」


シイラ「…」


シイラ「ぷくくく…wwwぷはっwww」


「…もう寝ろ。俺が見張ってるから」


シイラ「マジwwwマジで面白いソレwww大草原なんだけどwww」


「草に草生やすな。野宿だから大草原なの当たり前だろ」


シイラ「もういいやwww笑ったwww。アンタの事ちょっと信用してやるわwww」


「うるせぇな」


シイラ「…もしかして…!」


「ジークじゃねぇよ」


シイラ「あそ。はい、じゃあおやすみ」


「…はいはい、おやすみ…」


…。

前に一度…コイツに過去話をした事がある。

その時もこうやって笑って納得して…。俺の事を信用してくれた。

乙女心なのか、それとも俺の内情を知ったからなのか…。とにかく、彼女のツボに入った事は間違いないだろう。

…今日も夜は更けていく。俺の頬は真っ赤に染まったまま…。


…。

…。

…。


月が斜めに傾き出した。明日は雨になるだろう。2000年間見続けた空だから分かる。

こうやって一人で哲学的な事を考えていると、楽しい事もあれば悲しい事も…。

…。

気配がする。


「…モンスター…か」


…シイラが寝静まってから…既に5時間は経っただろうか。

この気配を感じても起きないとは…。中々図太い神経をしているようだ。


「…ん、1…2、3…待て待て待て」


森の方角から音もなく何かの大群が近づいてくるのが分かる。

…正直、ビーバヌスだったら本当に死ぬ。


シイラ「…敵?」


「おお、起きてくれたか」


シイラ「流石に気づくわよ。魔導士なのに気づかない奴が居る訳…」


リーナ「zzz…」


「フラグ回収早いな」


シイラ「…なにこの気配」


「分からん…。が、スライムか何かだろう。魔力が小さすぎる」


シイラ「にしても多いわね。なんだろ?」


「…確かこの時期にスライムの大移動がある…ってのは聞いたことはあるが…」


シイラ「何それ」


「都心のスライム学校を目指して田舎の奴らが集まって来るんだよ」


シイラ「…よく分かんないけど、この辺のスライムが消え去らない理由は分かったわ」


「…倒すか?」


シイラ「別に?私達が目的じゃないなら必要ないでしょ。しかもスライム相手だし」


「いや、スライムだろうがなんだろうが、モンスターの考える事は分からん。それに多勢に無勢…。前に小人族500人ぐらいに襲われたけど死ぬかと思った」


シイラ「アイツら程の知性は無いわよ」


「…とりあえず、リーナを起こそう」


…およそ二度寝の後にリーナは起きた。

あと一分…と言って再度眠りにつくリーナを見て、「そんな一分で変わるもんか?」と思う。


リーナ「ねむいぃぃぃ…」


「早く起きなきゃ永遠に眠る事になるぞ」


リーナ「なってもいいよぉ…」


「何言ってんのお前!?」


リーナ「ばーむくーへん…」


「夢で食ってたのかよ。起きろ」


シイラ「むしろバームクーヘンの穴に杖をぶち込むって言う妄想が…!」


「レベル高すぎだろ」


シイラ「ドーナツなら?」


「通常レベル」


リーナ「ねー…なんで起こしたのぉ…」


「忘れてた。モンスターが居んだよ」


リーナ「え!怖い…!!」


もう一度、周囲のモンスター状況を確認してみる…。

するとゆっくりとにじり寄ってくるかのように、それらは確実に近づいてきていた…。


「やっぱ多いな!?」


シイラ「確かに…。気配が壁みたいに来てるわ」


リーナ「分からない!」


「これを感じられるぐらいには育っててほしかった」


シイラ「魔力がほぼ0の農民を選んだアンタが悪いわ」


「…シイラ。迎撃するなら何使う?」


シイラ「んー…」


シイラ「まずは業炎魔法で周囲一帯焼き払ったりってのが一番楽よね。とりあえず、火、水、雷とか、基本の最大火力を打ち出せばレベル帯も考慮すれば良いでしょ」


「同感だが、やるなら水か雷だな。流石に草原を砂漠化させたら苦情が入る。つーか、リーナが割と怒ってる」


リーナ「自然は大事に!」ぷんすか!


「焼き畑農業と言うのがあってだな」


リーナ「ダメ!絶対!」


シイラ「確かに。そうやって自然を失っていくと、やがて温暖化で雪山の氷が溶けていくのよね…」


リーナ「そうなったら…氷の妖精さんや、雪だるま魔人さん達も住めなくなっちゃう」


シイラ「私達がやるべき事は…リーナ。教えてあげてちょうだい」


リーナ「うん!まず!不要なゴミは出さない!」


シイラ「ちゃんとリサイクルしなきゃね!」


リーナ「あと!環境にやさしい製品を買わなきゃ!」


シイラ「私達に出来る事は沢山あるわ。皆も環境に優しい毎日を過ごしましょう」


こうして俺たちの冒険は一つの終着点へと達した。

そうだ、自分達のエゴで生きちゃいけない。この世に生を受けた人間の全ては、全て大自然の恩恵を受けているのだから。


「…素晴らしい話をありがとうなに言ってんの」


シイラ「遊んでる場合じゃなさそうね。割とマジで」


「じゃあ…水で行くか。あと200メートルぐらいで到達するぞ奴ら」


シイラ「はいはい。じゃあ悠久の杖さんの実力を見せてもらいましょうか」


「チッ…しょうがねぇな」


リーナ「杖さんかっこいー!!」


「お前がやるんだよ!!?」


リーナ「分かった!!」


リーナは意気揚々と俺を掲げる。シイラが居る事が心強いのか、おとといまでのおっかなびっくり感は消え去っていた。…もしくは寝ぼけているだけか。


リーナ「…ムムム!魔力が溜まってきたよ…!」


「…え?」


シイラ「え?」


リーナ「え?」


「…あ!マジだ!1MP溜まってる!」


シイラ「はあ!?1MP!?」


リーナ「溜まってるのー!!まだだって!レベル0だもん!!」


「…え、水系って1MPからあったっけ?」


シイラ「あるわよ。流石に魔法学校卒業するのに必要でしょ」


「あ、そらそうか」


リーナ「でも、この間は指の先からおしっこするぐらいしか出なかったんだ…」


シイラ「随分とおしっこと縁があるのね」


リーナ「なくていいよー!!?」


「はいはい、じゃあスプラッシュって唱えろ」


シイラ「違う違う、それLV5で習得出来る奴。最初はスクイズよ」


「そうでした」


リーナ「スクイズー!!」


「いくぜ!!」


小さな手から、蚊ほどの魔力が杖に注がれる。それは血流のように魔法玉へと入り込んだ。

そして…。内部で何億回とも思われる乱反射を繰り返し、やがては魔法玉全体が回転を始める。水系の魔法を使うからだろうか?僅かな霧がオーラのように俺の体全体を包みこんで、そして玉へと集約されていく。それと同時…。


「…スクイズ発動」


増幅され、超火力へと変貌を遂げた水の魔法は放たれる。


ドゴゴゴゴゴゴゴゴ…!


シイラ「うっわ…マジ?」


「シイラ。モーゼ張って」


シイラ「分かった。防御魔法「モーゼ」発動」


モーゼ。あの海を割ったと言う伝説の名。

それは海の中だろうが、およそ半径1メートルの球状に水を捌けさせる魔法だ。

上位魔法に分類されており、LV50を超えた頃に覚える。

…って、前にシイラから聞いた。


「シイラ…んー。強めに張っておいた方が良いかも知れないぞ?」


シイラ「じゃあ、5メートル級にしておくわ」


シイラはLV80。同じ魔法であっても、効力を数倍にまで上昇させる力を持っている。なんとも頼もしい限りだ。


リーナ「すごーい!!!」


シイラ「でしょ?」


「…それよりも…」


ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


シイラ「あんた、あの水壁…。どう考えても近くの村とかまで影響あるでしょ」


「ここまで強くなるもんだったか…」


迫る水。それは悠久の街の酒場すら悠に飲み込める程の壁となって迫ってきた。

どこから放たれたのかは分からないが、辺り一帯に未曾有の洪水となって被害を与える事は確定的である。


シイラ「あ、飲み込まれた」


リーナ「もしもモーゼが無かったら…ひえっ…!」


「…普通の魔法使いならこの辺は普通に制御するんだけどな」


ザザザザザザザザザザザ!!!


リーナ「わ、私のせい!?」


「そう言う事にしておこう」


リーナ「しないで!?」


シイラ「あ。やっぱりスライムだったみたいね」


水の中に沈み、月の光さえぱったりと消えうせた頃に、リーナの近くでチョリンチョリンなんて間抜けな音が何度も鳴った。


リーナ「え!?え!?ナニコレ!?」


シイラ「経験値が入ってる音よ」


リーナ「音までするの!?」


「数百匹居たからLV8…ぐらいまでは上がるかな。シイラ、そうしたら火属性のLV2教えてやってくれ。この辺りを乾燥させたい」


シイラ「はいはい」


…。

…。

…。


朝。緑に囲まれた草原は砂漠となった。

リーナは土下座にも似た体制で打ちのめされている。


リーナ「ごべんだざいいぃぃぃぃぃ…!」号泣


「…魔力制御はやっぱりできないのな」


シイラ「なんと言う事でしょう。あの一面、緑豊かだった草原は一切の面影を残す事を知らず、黄色い大地へと様変わり致しました」


リーナ「だっで…!だっでえぇぇぇ…!」


「植物が枯れ果てる程の力で誰が撃てと言った」


リーナ「シイラさんが言った!!」


シイラ「はぁ!?このクソ杖だから!?言ったの!!」


「ちげぇよ!!俺は撃つときの心構えは「全てを燃やし尽くせ」って教えただけだろ!?」


シイラ「それがこの有様じゃない!?見て!砂漠!」


「ここまでしろなんて言ってねぇよ!!」


リーナ「木が泣いてるよおぉぉぉぉぉぉ…!」


シイラ「泣く木も無く…ぷっ…くくっ…」


「おい、ホモ外道。黙れ」


シイラ「誰がホモ外道よ。時代はBLよBL。ホモと一緒にしないでくれない?」


「いや、ホモだから」


リーナ「木が泣いて…!木が…!木さんがあぁぁぁ…!」


「…シイラ。一面を緑にしてやれ」


シイラ「はぁ…。後でポーション奢りなさいよ」


「リーナ。ほら、シイラお姉ちゃんがなんとかしてくれるってよ」


リーナ「ほ、本当…!?」


シイラ「…あんたも魔法使いならさっさとレベルを上げなさいよ。今回だけだから。こういう尻拭いすんのは。「グリーングリーンズ」」


リーナ「やった…!やったあ!!これで木が戻るんだね!?」


「実際戻るのは何年か先だ。種を撒くぐらいしか出来んからな」


リーナ「ううん!それでも良い!」


シイラ「…範囲は…。まあ、このくらいかしらね?」


「肥料魔法も頼む」


シイラ「どんだけMP食うと思ってんのよカス」


シイラが持つ杖にゆっくりと魔力が流れ込んでくるのが見える。そしてそれは…。小さな小さな種となって、雨のようにばら撒かれた。

飛んで行く先は、昨日まで森だった場所。山岳にも少し、そして見渡す限りの砂漠を命溢れる場所へと変えるだろう。


シイラ「…」


リーナ「ありがとう!!シイラさん!本当にありがとー!!」


シイラ「…はぁ。いいわよ礼なんか。礼より甘芋焼かポーションか金を寄越しなさい」


リーナ「仲間っぽくない!!」


「お前…幼女にたかるとか、恥ずかしくないのか…?」


シイラ「はぁ?ジキル×ハイド派とか、生きてて恥ずかしくないの?」


「やかましいわ」


リーナ「はっ…!」


シイラ「何よ」


リーナ「もしかしてシイラさん、ジキル×ジーク派だから強いの…?」


「毒か腐食の状態異常掛かってんぞ」


シイラ「…」


シイラ「その通りよ!!」くわっ


「おい、ホモスキー黙れ」


シイラ「ロシーア族っぽい名前にしないでくれない?それよりもリーナ…」


リーナ「ひゃ!はい!」


シイラ「次の街まではじっくりと時間があるわ…。一緒に強くなる秘訣を語りながら向かいましょう」キラキラ


「俗に言う洗脳術じゃねえのか?」


シイラ「まさかまさか。アマチュアの描いたジキル×ジークの本がほら、こんなにどっさり」


「魔法のバックパックをそんな使い方してんじゃねぇよ」


シイラ「さあ、向かいましょう」


…。

…。

…。


そんなこんなで…。俺たちはスライムまみれで殺される運命を避ける事が出来た。

ただ、そこで払った代償は、少なからずスライム以外の者達にも影響が出るだろう。

クレームが出る前に…。

クレーム…。いちゃもん…。文句…。


…。

…。

…。


「ふざけんじゃねぇよ!!なんで俺がここに閉じ込められなくちゃならねぇんだよ!!」


暗く、ジメジメとした空間に小さな穴。そこへ差し込まれるかのように、俺は立っている。

祭壇とは都合の良い言い方だ。だが、実際はどうだろうか…。

ここは…。「棺桶」だ。

何重にも張られた結界は、まるで俺を埋める土のようで…。


…。

何故、俺は杖なのだろうか。

何故、俺はこんな場所に閉じ込められなくちゃならないのだろうか。


俺は…。魔王を倒した最強の杖だ…。

ハイドが俺を背負って旅してくれて…。そして、その旅は幸せな終わりを迎えるはずだったのに…。


ハイド…。ハイド…。

…会いたい…。


…。

…。

…。


リーナ「杖さん?」


「…!んっ?ああ、どうした?」


シイラ「急に黙り込んだから、他カプの終焉かと喜んだのに…」


「それはねぇよ」


リーナ「杖さん…」


「んー。だからどうした?」


リーナ「元気?」


「…」


小首を傾げて聞いてくるリーナ…。その姿は…。確かに似ていた。

…2000年前から続く…終わりを迎えたはずの旅。

その先に居たこの小さな少女は…。いや、何度も旅をしてきた女の子たちは…。


「…ああ。元気だ。さあ、次の街へ向かおう!」


俺の大好きな人に、やはりよく似ていた。



第四章 完



第五章:タルパスの村



ようやく砂漠を抜け、草原を進める。

リーナは意気揚々と歌を歌いながら、シイラは小さな本を眺めてブツブツ呟いて。

この先にあるのはタルパスの村。2000年前から脳筋ばかりの男どもが暮らす場所だ。


リーナ「すーべーてを!統べてー♪魔法の時をすごーす♪」


シイラ「するとジークは彼の厚い胸板へと手を伸ばす。…ああダメ。これ一回考えた…」


「…」


リーナ「ねー!ねー!杖さん!」


「んー?」


リーナ「天気いいねー♪」


「んー。雨かと思ったんだけどな」


シイラ「誰かが雲まで干上がらせたからじゃない?」


リーナ「あああぁぁぁぁぁぁ…!」


「言葉で刺すな」


そう、雨が降る雲だった。だが、気が付けば晴天…。

代わりに遠くの方が黒雲に包まれている。俺知ーらね。


リーナ「あ!そうそう!杖さん!」


「うん」


リーナ「リーナ達、どこに向かってるの?」


「良い質問だな。答えてやろう」


シイラ「結局、元の道に戻ったから進んでる先にあるのはタルパスの村よ。ちなみにタルパスは300人のガチムチな男達が、ラーマって国の兵群を撃退したのが有名な話ね」


「と言う訳だ。質問はあるか?」


リーナ「シイラさんが答えたのはなんで?」


「その質問は却下する」


シイラ「そしてタルパスは、この通称「薄い本」のモデルデッサンをする為に、画家達が集まる有名な村よ。ほんと、ムラムラくるわね」


「黙れ」


シイラ「さらに、それを描くために集まった女の子たちのほとんどは、彼らと一夜を共にして結婚するって流れまでが基本中の基本よ」


リーナ「私、帰っても良い?」


シイラ「駄目よ。私がデッサンしに行きたいもの。そうしろ、と語りかけるのよ。私の妄想が」


「リーナ。毒は無視して話を続けるが、そんな屈強な男どもが住んでるっぽく思えるタルパスは、色々と面倒な事態に陥ってる」


リーナ「そうなの?」


「詳しくは…。まあ、あと10分程度歩けば分かる」


俺たちは荒野のような山道へと足を踏み入れた。

この先の渓谷にタルパスはある。


だが…。ふと不安がよぎった。

前回、旅を始めてから10時間程で到達できたこの場所…。たった3日程度では変わらないとは思うが、もしもクエスト内容に変化があればどうしよう?

本来、急いで向かわなければいけないお使いイベントであっても、それは間に合うのだろうか?


そんな抱えた心の隙間とは対照的に晴れ渡った空の下、俺たちはタルパスへとたどり着く。


…。

…。

…。


タルパス


「ここがタルパスだ」


シイラ「何度見ても…。ふぅ…」


「いきなりオープンスケベになりやがって」


リーナ「わぁ…!すごい!なんか…ムッキムキ!」


「基本的に住んでる連中はミノタウロスと人間との系譜の先に生まれた新種族だからな。生まれた時から筋肉隆々よ」


シイラ「筋肉ショタはないわ」


「同感」


リーナ「でも、ここは通るだけなの?」


「何言ってる。レベル上げをするのに、この村は重宝するぞー?」


リーナ「レベル上げ…?」


「よし、まずはクエストボードを見てみようか」


シイラ「先に説明しとくけど、クエストを達成すると経験値が「何故か」溜まるのよ。敵を倒す事でしか経験値は入らないはずなのに、クッソ不思議よね」


「それ以上いけない」


リーナ「つまり!敵を倒さないで、お使いをするんだね!」


「まぁ序盤だし、そんな感じの流れでいいよ。面倒なクエストはそうそう無いだろうし」


…。

…。

…。


そう考えていた時期が私にもありました。


リーナ「あ…!ああ…!」


クエスト1「裏切り者を抹殺せよ」→「うちの村から魔王軍に寝返ったクズが居る。今すぐに目玉をくり抜いて殺せ」


クエスト2「列車強盗」→「タルパス近くを通る現金輸送車にゃ見張りが少ねぇんだ。まさか奴らも、こんな場所で襲われるとは思うまい…」


クエスト3「復讐日和」→「復讐とは、人を殺せるほどの勢いで食べ物を吐き出す給餌器から得られる甘美なものだ。ついでに言うと食べ物にも毒が盛ってある」


「…なんだこのクエスト板…」


シイラ「何よ。面白そうなクエストばかりじゃない」


「いやいや、こんなに世界が荒んでてたまるか」


リーナ「…こ、これを受注しなきゃだめなの…?」涙目


「無茶言うな。流石にアカンやろ」


シイラ「私だったら列車強盗でも選ぼうかしらね」


リーナ「ええええええ!?」


「…」


(…シイラ、聞こえるか?)


シイラ(!?)


(今、お前の脳内に直接語りかけている)


シイラ「なにそれ怖いわ」


リーナ「それ、私のセリフ!!列車強盗なんて駄目だよ!!シイラさんは優しい人だもん!!そんな事しないよ!!」


(シイラ、前に来た時は、こんなクエストは無かったんだ)


シイラ(なに?どういうこと?)


(俺たちが2、3日だらだら過ごしてた間に、そのクエストが無くなった可能性がある)


シイラ「大体アンタのせいじゃない!!」


リーナ「なんで!?私のせいで気が狂っちゃったの!?頑張って!正気に戻ってよ!!」


(つまり…は。何か適当なクエストを、もう少し先の村で受注するか、雑魚敵を狩りまくるしかレベリングの方法は無いって訳だ)


シイラ「何それ、面倒」


リーナ「!!!」唖然


リーナ「…そんな…シイラさん…!」


(まあ、レッドスライムとかなら大量に湧いてるだろう。水系の呪文制御も覚えさせたいし、早速村を出よう。あと…なんかリーナが世界の終わりみたいな顔してる)


シイラ「は?」


リーナ「…!…!」涙目


シイラ「…」


「シイラ、よく分からんけど、謝って」


シイラ「まともなクエストは死んだわ!!」


リーナ「えええええええええええええ!?」


「おい」


シイラ「メロディも死んだわ!!!」


リーナ「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!?」


「バカじゃないの!?よく分からないからって追い打ちかけないであげて!?」


シイラ「ついでに業炎魔法で木も死んだわ!!!」


リーナ「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁあああん!!!!」号泣


「…お前、マジで外道だな」


シイラ「このくらいの精神攻撃、終焉の街近くの敵はぽこじゃかやってくるわよ」


「リーナ。とりあえず村の外でレッドスライムでも狩ろう。じゃないと流石にシイラが外道すぎる」


リーナ「うん…ぐすっ…」


…シイラの外道が先日よりも加速してきた気がする。

だが、大丈夫だ…。きっとこれから先、まともな人間に育ってくれる予感がする…。


シイラ「スライムってなんかエロいわよね?」


「ダメだ、まともとかけ離れてる」


リーナ「杖さん…。私…どこ行けばいいの?」


「山の入口近くだ」


リーナ「うん…」


…。

…。

…。


シイラ「って訳で、道中まで戻されたわね」


「リーナ。この辺りのレッドスライムを狩るぞ」


リーナ「か…狩るの…?」


「ああ。狩る」


リーナ「だめだよ…。だって、スライムさんたち可哀想…」


シイラ「はぁ?スライムが可哀想?」


リーナ「そうだよ!だって…。この世界の生けとし生けるもの…全部、せっかくこの世に生まれて来たんだよ…?」


「リーナ。気持ちは分かる。だが…ほら、あそこのレッドスライムを見てみろ」


レッスラ「~♪」


リーナ「鼻歌まで歌って…。きっと今、気分が良いんだよ…」


「だろうな。しかもあいつら、言葉を話す」


リーナ「なら…!なおさら駄目だよ!私、お肉だってあんまり食べないし…」


シイラ「…そんなに言うなら、あいつらの話を聞いてみなさいよ」


リーナ「え…?」


…俺たちはコソコソと枯れた木の陰に隠れた。

すると、レッドスライムAはレッドスライムBと話している姿が確認できた。


レッスラA「おー。Bちゃんこんちゃーす」


レッスラB「おっほ。Aちゃんこんちゃ」


リーナ(ほら…。あんなに知能だって高いんだし…。きっと死ぬ事が怖いんだよ…)


レッスラA「そういや、こないだタルパスのおっさんに踏みつぶされちゃってさー」


レッスラB「マジか。セーブポイントから復活したん?」


レッスラA「そーそー」


リーナ「…」


(な?)


リーナ(で、でも!ほら…殺す事はできないよ…。絶対良い人たちだもん…)


レッスラA「あ、そういや城で捕えた女騎士、どうよ?」


レッスラB「いや、マジおっぱいが超大きいのよ。んで、少し触れば俺ら以上にぬるぬる…www」


リーナ「…あ?」


シイラ(リーナがグレたわね)


(刺激の強い話だからな)


リーナ(まだだ…!まだ殺すと決まった訳じゃ…!)


レッスラA「あー…マジ、最近の農家ってクズだよな。不味い野菜ばっかの癖に雷魔法でバリケード作ってやがる」


レッスラB「分かるわー。マジで人参とか、俺吐いたもん」


(…リーナ…)


「ひえっ!?」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!


シイラ「うわっ…」


レッスラA「えっ?」


レッスラB「えっ?」


リーナ「「混沌すら静寂とする紅の尾を持つ神の教えを請うた幻よ、体現させしは深紅に燃え上がる我らの仇よ」」


レッスラA「あっ」


レッスラB「オワタ」


「あの、この辺りの枯れ木すら砂塵に帰しますが。あの…?」


リーナ「うちの村の畑から人参やら野菜やらが減るわ減るわ。猪ならばと罰を募らせて諦め果てていたと言うのに、こんな場所で仇敵と会えるとは思ってなかったよ…」


ドゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!


「あの…」


リーナ「「燃やし尽くせ。完全なる火の要塞。始まりの刻を刻んだあの日を思い返させるかの如き力の元に」…」


リーナは完全に…プッツンしていた…。

そうだ…。農家は確かに、そう言う所にうるさい…。

とは言っても…。


リーナ「あ?誰の野菜が不味いだ?誰の野菜を勝手に取っただ?…私達の村は色んな所に払う金で貧相なんだよ。それを物ともしない奴ぁ…万死に値する」


…ちなみに、彼女が唱えているのはレベル50になってようやく取得できる爆炎魔法「フェニクラス」…。こんな場所で、しかも俺を使って撃とうもんなら、確実にタルパスの街まで滅ぶほどの力だ…。まあ、だが、レベルが足りてない。きっと撃てないはず…。


リーナ「「フェニクラス」。灰塵と化せ」


「…!?」


シイラ「うっそでしょ!?」


ギャルギャルギャルギャルギャル!!!


「待って待って!タンマタンマタンマ!!」


シイラ「ちょ、ちょっと!!うっわ!「水壁の陣」!!クソ杖!!どうすんのよ!?不死鳥なんか呼び出したら私でも倒せないわよ!?」


「俺は杖だよ!?魔法中断なんか出来る訳ないじゃない!?」


シイラ「マジで使えないわね!この杖!」


「俺のせいじゃねぇよ!!」


リーナ「発動」


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


シイラ「きゃああああああああああああ!?」


…。

もうダメだ。タルパスの村、場合によっては悠久の街に住む、およそ10万人の人々が大迷惑に陥る…!誰もがそう思った!その瞬間!


…。


ぽんっ!


「…は?」


リーナ「…ぷぅ…」


…。


不死鳥「ぺけー!!」


シイラ「…は?」


「…なにこれちっちゃい」


レッスラA「…あれ?」


レッスラB「なんだ…」


…。

レベルやMPが全く足りてない状態で召喚なんぞしたから…だろうか?カラスとハトの中間程度の大きさの炎の不死鳥が爆誕した。

そして、リーナの肩に止まる。


リーナ「…」


不死鳥「ぺけぺー!」


シイラ「鳴き方がダサいんだけど?」


「俺に言うな」


リーナ「…」


不死鳥「ぺけぺけ!ぺけぺーぺけー!」


リーナ「…ふぅ」


「んだよ…」


リーナ「ぺけー!ぺーけぺーけ!ぺけー!!」


「何コイツ!?不死鳥と意思疎通してんの!?」


シイラ「無理無理無理!!伝説上の生き物よ!?」


「おい、俺も伝説の杖だ。俺も俺も」


シイラ「はいはいワロスワロス」


「おい」


リーナ「ぺけー!!!ぺけぺーけ!!」


不死鳥「かしこまりました」


「不死鳥さん!?!?!?」


シイラ「何!?不死鳥側が意思疎通に合わせたの!?」


リーナ「…ヤれ」


不死鳥「…ぺけー!!」


…。なんとも気の抜ける声を発しながら、不死鳥は天高く舞い上がる。それは雲にも届きそう…と言うか、途中に飛んでたトンビが可哀想な事になっていた。だがまさに、光の速さでそれは飛燕する。

そして…。


「…!!!シイラ!守れ!!」


シイラ「水壁!私を守って!!」


キイィィィィィィッ…!


…。

風切り音は裏響き、ひぃ…ふぅ!と…奏でられた。

それと同時…。その場に居たはずのスライム達は…。


レッスラA「あ゛…?」


レッスラB「…?」


…。

顔の中心に開いた大きな風穴に気が付くことも無く、ただただ…その場に飛び散った。


シイラ「…あら…」


「…マジかよ」


リーナ「…不死鳥よ、戻って来て」


不死鳥「ぺけぺーけけぺー!!!」


キイィィィィィィッ!!


リーナ「…礼を言うわ」


不死鳥「何てことはありません」


シイラ「…」


「…どう思う?」


シイラ「いや、どうもこうも…。レベル8の幼女が腹いせに呼び出した不死鳥を完全にコントロールできてる様しか見えてないわ」


「…デスヨネー」


シイラ「…」


リーナ「…ぺけ」


不死鳥「けぺ」


…俺たちは、世にも奇妙な現象にぶち当たった…。

だが、このタルパスの街で起こった理解を超越した出来事は、さらにもっと勢いを増して、これから先に待ちかまえているなんて…。誰が考えた事だろうか…。


…。

…。

…。


リーナ「だから、私達は旅をしてるんだー!」


不死鳥「それは何とも頼もしいお方ぺけ」


「…」ドン引き


シイラ「…」ドン引き


リーナ「…もー!シイラさんたち、おっそーい!!」


不死鳥「まったくぺけ。リーナ氏ですら時速3kmほどだと言うのに!」


リーナ「…馬鹿にしてる?」


シイラ「…いや、マジで突っ込みどころを解消させてほしいんだけど」


「右に同じだ」


リーナ「なにが?」


シイラ「その方に止まってる不死鳥くずれ…いや、不死鳥の事よ」


不死鳥「私ですかぺけ?」


「その語尾がクッソ気になる」


リーナ「よろしい!お答えしましょー!」


不死鳥「リーナ氏は、レベルや経験共に、まだまだ本物の不死鳥を呼び起す事が出来る力には到達しておりませんでした。ですが、彼女の魔力だけはLV50なんて遥かに通り越し、不死鳥界の者達に声を届ける事が出来たのです。ただ、歴の長い不死鳥の長達は、そこで召喚されてしまっては不死鳥としての面子が立たないのでは?と、自身らの長い長い道のりの前に置かれた小石を邪険に扱おうと致しました。ですが、私は不死鳥としての本質とは、術者自身が助けを求め、対価として差し出した魔力の為に働くべきであると考えております。だからこそ、私がこの場に召喚されたのです」


不死鳥「…ぺけ」


リーナ「と…言う訳…?です!何か質問は!」


「ぺけって付けなきゃだめなの?」


不死鳥「これは不死鳥界隈のパリピに流行ってる言葉ぺけ」


「マジかよ。神話の連中はパーティしてんのか」


シイラ「つうか、あんたはどのぐらい強いのよ?」


不死鳥「残念ながら、間もなく寿命が尽き果てようとしております。それ故、あまり力はありません」


「生き返る為にMP溜める時期だったか」


不死鳥「その通り…ぺけ!」


「一回ぺけ忘れてたぞ」


不死鳥「ぺけぺけ!」


「あ!二回言いやがった!!」


シイラ「…って言うか、本当によく呼び出せたわよね…」


リーナ「えっへん!」


不死鳥「それにしても…。この辺りは随分と変わってしまいましたな」


シイラ「やっぱりそうなの?」


不死鳥「ええ…。数週間前に世界を見下ろしましたが、不穏な空気が渦巻いております」


リーナ「そう言えば、タルパスの人たちが困ってるって言ってたけど、なんでなの?」


「ああ、伝え忘れてたな…。まず、魔王の復活が一番の原因だ」


シイラ「あら。この地域なら魔王の城から100kmは離れてるわよ?別に問題ないでしょ?」


「いや、世界の各地に配置された四天王達が影響を及ぼしてる…」


リーナ「四天王…!」


「東エリア「バルドレイア山脈」に巣食うのは、7つの腕と7つの足と7つの頭を合わせ持つ、通称「ラッキーマン」こと、大蜘蛛の「ショルフ」。…こいつは変態だ」


シイラ「なんか縁起良さそうね」


リーナ「へ…変態…!」


「北エリア「永久ケルビンの海」に巣食うのは、エリアの属性とは全く合ってない可哀想な火属性の大イカ、「クラーケン」。こいつも変態だ」


不死鳥「なんだか嫌がらせのような配置ですな」


シイラ「状態的に常にダメージ負ってそうね」


リーナ「変態…!パート2…!」


「そして、俺たちの生まれ故郷。西エリアを根城にしているのは、超巨大な空飛ぶ虎。…っぽく見えるライオン。通称「タイガーマスク」こと、「ライガー」。…変態だ」


シイラ「あ、会った事あるわ」


リーナ「なんで!?変態しかいないの!?四天王ってなんの四天王なの!?」


「南エリア…は飛ばしまして。以上が四天王だ」


シイラ「なんで飛ばすのよ!?」


不死鳥「四天王なのに疎外感が否めないですな」


「とにかく、こいつらを一匹づつ倒していかないと、魔王城への入口を開くことは出来ない。そしてクッソ面倒な事に、こいつらが各地域の村へと微妙に嫌がらせのレベルな被害を及ぼしてるんだ」


リーナ「い、井戸に毒とか…?」


シイラ「あんた外道ね」


リーナ「シイラさんに言われたくないよ!?」


「いや、井戸にプロテインだとか、粉状のスポーツドリンクだとかを投入しやがった」


リーナ「全然外道じゃなかった!!」


「これの影響で、タルパスの奴らは肩幅がデカすぎて、自分の家に入れなくなったんだ…!」


シイラ「やっぱり外道ね」


不死鳥「本当に嫌がらせの類ですな。失敗する事もあったでしょうに」


「とにかく。俺たちが協力し合って四天王に挑まなきゃ勝つことは出来ない!タルパスの村のクエストが外道ばっかりになってるのも、全部四天王の影響だ!」


リーナ「が、学校のテストの点数が悪かったのも…!」


シイラ「私が昔飼ってたザリガニが死んだのも…」


「ああ。全部四天王の影響…。待て、それは関係ない」


シイラ「はぁ…。でも、結局四天王全部倒すって事は、この世界の至る所を回るって事よね?」


「そうだぞ」


シイラ「あたしパス」


「はぁ!?」


リーナ「えええええええ!?」


不死鳥「外道め!」


「…」


シイラは急に髪をなびかせ、真面目な顔をし始める。

…前回もあった。だが、こんな序盤から対立されてしまうと、リーナや俺とで言いくるめる事は非常に厳しい。

何故なら、そこには彼女の目的が隠されていたからだ。


シイラ「私、魔王を倒すってのには賛同してパーティ組んだけど、そんな長旅になるなんて聞いてないわよ」


「終焉の街から一直線に目指す事なんて出来ねーよ」


シイラ「知ってるわよ。…だから…。だからこの顔の傷があるのよ…」


リーナ「…シイラさん…」


シイラ「…終焉の街。あそこに住んでた友達は…。…それこそ、不死の病に侵されたわ…。…永遠に…。体が朽ちても…!生き続ける…!そして…!!」


シイラ「…ゾンビの一族となって…。私を襲って来たわ…」


リーナ「…」


シイラ「…私が魔王城に用事があるのはソレよ。魔王を倒せば、あの街を侵食している毒の霧は全て洗い流される!!そうすれば!!彼女だって助けられるのよ!!…四天王だとかなんだとか、そういうのがあるって知ってる上で、こんな場所でスピードアップの魔法も使わずに悠々と歩いてられる気が知れないのよ!!私は!!一刻も早く魔王を倒したいの!!悠久の魔導士だとか、魔王を倒せる唯一の存在だとか!!そんなのは分かってる!!でも…!!」


シイラ「…こんな…。魔導士ごっこをしてるようなレベルの子と…!正直旅なんてしたくないわ!!」


リーナ「…!」


「おい」


シイラ「なによ!!」


「…!」


…彼女は…目に、涙を浮かべていた…。

そうだ…。以前は四天王全員を倒すのに、1週間と掛からなかった…。だからこそシイラは協力してくれた上、最後まで一緒に戦ってくれた。

…。

彼女が抱えている闇。その底を、何度も繰り返すうちに、自分自身が勝手に決めてしまっていたのかも知れない。

リーナでは…きっと一カ月以上掛かる。でも、シイラならば…と、心の内では高をくくった。


シイラ「…どうする気よ…!終焉の街に…!行かなきゃいけないの…!」


…。

日差しに雲が掛ったか…。大きな影が、自分達を覆いつくす。

まるで…この旅の先を暗示するかのように…。


「…」


不死鳥「…!」


そうやって感傷的になった瞬間を、モンスター達は見逃さない。


不死鳥「皆さん!!避けて!!これは雲じゃない!!」


「!!」


シイラ「!!」


リーナ「シイラさん!」


シイラ「くっ…!」


空は晴天。雲なんて一つとして千切れ飛ぶ素振りもない青一色。


シイラ「防御呪文!」


空から、「落ちて」きていたのだ。


リーナ「杖さん!!」


そう。モンスターは見逃さない。よもや…。


「リーナ!逃げろ!!あれは…!!」


四天王の一人であれば。


「ライガーだ!!!」


…何一つ。心さえ準備の無いこのタイミングでソレは現れた。


第五章 完



第六章:四天王との邂逅


今まで、幾度となく地割れ魔法を使った事がある。ボス戦とは言え、悠久の魔導士が俺を使って放てば、1km先にまで巨大な渓谷が出来てしまう魔法だ。

辺り一帯の村々が飛び起きる轟音…。それに匹敵する衝撃波を轟かせながら、奴は着地したのだ。


「リーナ!!今すぐ逃げろ!!シイラも!」


シイラ「「ハーフバリア」!!発動!」


不死鳥「四天王の一人…!」


今のレベルは8…。レッドスライムは楽に勝てても、ビーバヌス(アンデッドウイルス状態)には苦戦を強いられる。まともに四天王と戦える訳がない!!


リーナ「シイラさん!!」


「っ!てめぇ!何してんだ!早く逃げろ!!」


シイラは…!奴の目の前でバリアを張っただけ…!一歩として動きもしない。

ましてや…俺たちの声すら届いていないのかも知れない。

その瞬間。咆哮。

少ない木々の太い枝が揺れて折れる。俺の体にも、ミシミシと痛みが走った。


リーナ「うう…!う…!」


「くっ…!漏らすなよ…!奴はお前がたどり着く中間点の1つなんだからな!!!」


不死鳥「リーナ氏…!戦う時は声を掛けて下さい。すぐにでも体当たりを仕掛けましょう」


リーナ「わ、分かった…!」


ライガー「グラルルルルル…。誰かと思えば…。貴様か」


シイラ「久しぶりね…ライガー。いい加減、虎なのかライオンなのかはっきりしてくれないかしら?」


ライガー「ふんっ…!あの時ボロ雑巾になるまで負けておいて、吠えるのは口だけか?」


シイラ「…黙りなさい!」


リーナ「シイラさん!!逃げよう!」


シイラ「ガキは黙ってろ!!」


ライガー「うんん?こいつは…!悠久の魔導士か!!」


「ちっ…!」


ライガー「はぁっはぁっはぁっはぁっ!笑いが止まらんな。2000年もの時を経て、遂にその二つ目は節穴になってしまったか!!」


奴は…リーナの見た目を馬鹿にした。

だが、その油断を逃す程、シイラは甘くない。


シイラ「…詠唱破棄。「グラドスリット」!発動!!」


ライガー「…っ!」


地割れ魔法。杖を高く振り下ろし…ライガーの脳天に直撃させる!


シイラ「食らえ!!!」


ガスン!!


ライガー「…」


ライガー「ククク…!はぁっはぁっはぁっはぁっ!」


シイラ「嘘…!!」


…シイラの攻撃は、見まごう事なく直撃していたはずだった。

ライガーの頭頂部にも、バリアや結界の類は見られない…と言うのに。


ライガー「…「バインド」」


シイラ「なっ…!」


ライガーの逆立つ髪が…シイラの手足を縛る。


ライガー「おい!悠久の魔導士!!」


リーナ「!!」


ライガー「こんな雑魚を連れて魔王討伐とは、まさか魔王様の腹の足しにでもなろうと思っているのか?」


シイラ「くっ…!」


ライガー「詠唱破棄の攻撃で俺を倒せると思ったか!!このアホが!!」


ガシッ!!


シイラ「きゃっ…!」


「シイラ!!」


ライガー「ククク…!良い事を思いついた…!ちょうど新薬のサンプルが不足していてな…」


シイラ「誰が…!実験台なんかになるか…!」


ライガー「なるさ。この程度の拘束も外せぬ雑魚だ。どれほど苦しんで死ぬか見せて貰おう…。っ!?貴様っ!!」


リーナ「杖さん!?」


(「急落せし英知よ、回帰する輪を抜け出した世の果てを見定める」…)


リーナの周囲に突如現れた魔法陣…。良かった…レベル8にまでなってくれて…。これで少しは俺も魔法を使えるってもんだ。


(…リーナ。お前の魔力を少しもらうぞ)


リーナ「少しって20MPしかないよ!?」


(…リーナ、お前の魔力、半分もらうぞ)


リーナ「不死鳥さん呼び出したから10MPしかないよ!?」


(お前の魔力、全部もらうぞ!畜生!!)


(「唐突に迎えられし終焉の時を刻み、全てを0へと還元せよ」)


「「ニューロトランスドロップアウト」発動」


ギャルギャルギャルギャルギャル!!


ライガー「貴様!!」


リーナ「く、食らえーーー!!!」


ッドゥン!!!

豪快なエフェクトを展開させながら、技は発動した。薄紫色の魔力弾が、ライガーへと一直線に飛んで行く!


ライガー「効かぬわ!!!」


ライガー「わっぷ」


ライガーは…俺の魔法を強靭な腕で弾き返そうとした。…のだが、状態異常系の魔法を跳ね返すためには、それこそ特殊な魔法結界が必要だ。

って言うか、元からライガーを倒すのに最適なのはステータス状態異常なんだよな。毒とか麻痺とか。


ライガー「くっ…!貴様…!」


リーナ「な、何したの?」


ライガー「…これは…!まさか!!」


「リーナ!業炎魔法でもなんでも良いから詠唱しろ!!」


リーナ「え!?え!?」


ライガー「こ、この場は一旦退散しようではないか…!だがシイラ!!貴様は連れて帰らせてもらおう!!」


シイラ「離しなさいよ!!このクソったれ!!」


「リーナ!!早くしろ!俺の魔法じゃ決定打にゃできない!!持ち主が使ってようやく増幅されんだ!!」


リーナ「す、スクイ…!」


ライガー「があああああああああああああああああああああああああああ!!!」


リーナ「きゃああ!?」


「畜生!!」


ライガーは、その背中に生えた白い翼を強く羽ばたかせ、空中へと飛び立つ。

風圧でリーナは俺の事を手放した。


「今しか奴に攻撃は当たらない!!今すぐなんとかしろ!!俺の魔法…!」


俺の放った魔法。それは…。


「バカ化魔法が有効な内に!!」


リーナ「何それ!?」


バカ化魔法。知能低下魔法…など、色々な呼び方をされるが、ニューロトランスドロップアウトとはそれ以外に説明不要な状態異常魔法だ。

残念ながら、俺自身が放った魔法は魔力増幅をされないから、奴のステータスマイナス値は10~20…。とどのつまり、LV1程度の威力しか出せない。

だが、リーナやシイラ…そしてライガー自身が気づかなくとも、既に奴は決定的なミスを犯しているのだ。


「あいつの腹にある紋章!!あれが弱点だ!!今は倒せなくても、ハイドだけは助けるんだ!!」


リーナ「つ、杖さん…!」


ギリギリ届かない…。リーナは吹き飛ばされたせいで、体を強く打ってしまったようだ。

こうしている間にも、奴は天高く上昇していく。


「…!天…!高く…!」


ほうき星を彷彿とさせるような尾を引いて、空に赤色の一筋の光。

それがなんであるか、リーナもすぐに気づいた。


リーナ「…っ!ふ、不死鳥さん!!」


不死鳥「ぺけーーーーーーーーーーーー!!!」


俺たちがこうも決定打を決められぬ間に、不死鳥は技を出す体制に入っていたのだ!

不死鳥さんカッコいい!!


ザグ!!!


ライガー「がああぁぁ!!」


シイラ「きゃっ!?」


不死鳥「…防御結界も張らず、そして特殊風圧すら出す事なく空へと躍り出れば私の天下だ…。もっとも…」


シイラ「…ぼ、ボックスエア…!発動…!」


シイラは空気の固まりを発射する技を発動した。あれ程の上空からのダイブであっても、シイラのレベルを考えれば…。


ボフン!!


リーナ「シイラさん!!」


シイラ「ふぅ…。私は…大丈夫」


そう、上手くいくものだ。北海の氷山に、数キロも続くクレバスへと足を滑らしたとしても、彼女は何回も生還出来ていた。


シイラ「…アバラが一本確実に折れてるわ…。それ以外は擦り傷と打撲…。…そんな事よりも…」


不死鳥「…もっとも、私とて生まれ変わる寸前。四天王に驚かす事で精一杯…」ボロ…ボロ…


リーナが腹いせに呼び出した不死鳥の体が小さな炎となって崩れ始めるのが見えた。


リーナ「不死鳥さん!!」


不死鳥「リーナ氏。貴方の期待通りの役目は果たせただろうか?もしもまた会えるのであれば、四天王の一人や二人、私の力だけで葬り去れる事を祈っている」


不死鳥「…ぜひとも、またお呼び下さい」


リーナ「不死鳥さん…!」


…最後に…。ぽんっ。と炎は燃え上がり…。

不死鳥は元の世界へと戻ったのだろう…。その姿は火と同じく、何も残さずに消えていった。


リーナ「…!」


「リーナ!!臨戦態勢だ!!俺を早く掴め!!」


リーナ「わ…!分かった…!」


ガシッ!!


リーナ「よし!」


シイラ「ライガー!!分かったでしょ!!こんなんでも悠久の魔導士よ!甘く見てるとケガするわよ!!」


ライガー「…チッ」


ビュオン…。と白い翼を大きくはためかせると、ライガーの周囲には白い風の流れが生まれた。

…もしもこの風に不死鳥が突っ込んでいれば…。きっとシイラすら救う事は出来なかっただろう。先ほどの状態異常は、これを回避するために撃ったのだ。

そして…。


ライガー「…ふんっ!!」


…ライガーは青い空の彼方へと飛び去った。


…。

…。

…。


巨星堕つ。…いや、その確かな戦歴に傷を付けただけ。

代償の果てに、ライガーを打ち払った。


あの後、俺たちはタルパスの村近くの草原で野宿の準備を整え、安息の夜を迎える。

…ただ、空に輝く大小の星々を眺めながら、リーナは密かに落ち込んでいた。

パチパチとたき火の燃える音、この場所もまた、小さく何もない星のような気分。


シイラ「…ほら、魚焼けたわよ」


リーナ「…いらない」


シイラ「…そ。杖は食べるの?」


「食えるか」


シイラ「あ、そ」


…心当たりはいくつもある。

出会ってからの時間は僅かであっても、不死鳥という仲間を失い…。

シイラは自分の旅から抜けてしまうと言い放ち…。

さらには、風圧だけで跳ね飛ばされてしまう程の四天王との実力差を目の当たりにし…。

今日一日だけで、彼女は身も心もボロボロになってしまったのだ。


「…」


俺は掛ける言葉を見失っている。以前の旅ではこれだけ不幸な連続イベントは発生しなかった。農家でこんな旅とは疎遠だったはずの彼女が受けた衝撃は計り知れない。

そしてそれを励ます事の出来る力が…俺にはないのだ。魔力を何百倍にも増幅させる力がこれ程の頼りなさを見せたのはきっと、2000年間生きてきて初めての経験だった。


シイラ「…」もぐもぐ


「…」


リーナ「…」


シイラ「アンタ、食べないと強くなれないわよ」


リーナ「…うん」


興味なさそうにリーナは答えた。


シイラ「…ねえ杖。ちょっと良いかしら」


「ん?」


シイラ「今からアタシ、この子をクッソ外道だと思うレベルの地獄に引きずり込むけど文句言わないでくれない?」


「無茶な注文しないでくれない?」


シイラ「…」ワシワシ


シイラは面倒くさそうに視線を背け頭を掻いた。

だが、その行為には見覚えがある。


「…!…。シイラ、分かった。文句言わないよ」


それは彼女の照れ隠し。かつ、バツが悪い時に行う「癖」なのだ。大抵、それは仲間が壁にぶち当たった時にアドバイスをしようと彼女なりにもがいて、小さな応えが出た証拠。

今までの旅の中で、何度その表情と共に仲間たちとの絆が深まったのか。…その前のセリフの真意も、俺は一瞬で理解できた。


シイラ「…ねぇリーナ。ちょっと良い?」


リーナ「うん…」


シイラ「アンタの考えてる事当ててあげる」


リーナ「やだ…」


シイラ「なんで?」


リーナ「当たるもん…」


シイラ「じゃあ言うわ。敵が怖い。不死鳥が死んじゃった、家に帰りたい、本当は望んでない、全部やせ我慢だ。…そして、私がパーティから抜けちゃう。不安、恐怖、慄き、絶望。…そんなとこでしょ?」


リーナ「…うん」


リーナは小さくか細い声で答え俯いた。きっと…その頬には跡が残っているであろう。


シイラ「…はい、そこで空を見上げてみなさい。はい、見ないと甘芋焼を鼻に突っ込むわよ」


リーナ「それは…ちょっとやだ。見るね…」


シイラ「…ど?星が綺麗でしょ?」


リーナ「うん…そうだね」


シイラ「…「ある者は自身が魔王と戦い朽ちたその証を残すために、ある者は自身の生活が魔王に奪われた苦しみの証を残す為に、ある者はいずれ救われるであろう世界を見届ける為に。星へと変わった」。…聞いたことある?」


リーナ「ううん…?」


シイラ「これ、親友の名言。メモっときなさい」


リーナ「…」


シイラ「…個人的に気に入ってるだけなんだけどね。ほら、ひと際大きい星。月。それが…魔王と戦い世界を救ったハイド様。杖は生きてるから星にはなってないけど、その功績は今も空に勲章として輝いてる」


リーナ「…それで…?」


シイラ「まあ、最後まで聞いてよ。次に、小さな星々は村人。ただ住んでた人達。2000年前にはこの世界に星なんてなかった。魔王が現れたからこそ、勲章輝いている。そして、墓標としても。…ま、勿論そんなの嘘っぱちなんだけどさ。…二つ目の古参達は今も、ジキル神話のやたら長いページの中のこの一文を信仰してるのよ。親友はそれを流用しただけ」


リーナ「…」


シイラ「…そして、その親友は…。終焉の街でゾンビになった…」


リーナ「…!」


シイラ「流用してカッコつけて…。…その後、私になんて言ったと思う?」


リーナ「…分からない」


シイラ「…私はずっと、シイラを空から見てるからね…って。まあ、きっとゾンビになったとしても生きててくれればまた…人間に戻せる。…そんな魔法を、ハイド様が作った」


リーナ「…」


シイラ「だからさ、今、半分死んでて空にいるアイツに「元気だ」「ずっと強い」「頑張ってる」とか、色々と気を強く見せて旅してんのよ。…カッコいいでしょ?」どやっ


リーナ「…そ、だね」


シイラ「…でも、結果は見ての通り。アンタよりレベルもあれば魔法も沢山知ってる。それでも…ライガーには敵わなかった。…ちびったわよ。あん時…。…アンタと同じで」


リーナ「わ、私…。ちびってないし…」


シイラ「そ?怖ションの癖は抜けたの?」


リーナ「…それは…まだ」


シイラ「あ、そ。…ま、つまり何が言いたいのかって言うと…。まず、第一に私はやっぱり無力だって分かったのよ。今日ので」


リーナ「そんなこと…ないよ…。シイラさん…」


シイラ「強いし…って言ったら張り倒すわよ?恥の上塗りだから。…で、そのまま終焉の街に向かったらどうなるか…。…今度はもう一つの目がつぶれるんじゃないかって思ったのよ」


シイラ「私は弱い。確かに、初めてライガーと会った時…。あれは終焉の街から逃げかえった時だからレベル30ぐらいの時ね。…ボッコボコにされて…。今回も同じ」


シイラ「…はぁ…。ちょっと杖。アンタは耳ふさいでて」


「…無茶な」


シイラ「じゃ、聞いてないふりしててよね」


…。

シイラは立ち上がった。空を強い瞳で眺めながら。


シイラ「…ねぇ!デュアー!!!聞こえるーーー!?私!無理だわーー!!このまんまじゃ敵討ちも出来ないわー!ほんと無理!!だけど!!絶対!!絶対!!」


シイラ「…アタシ!!絶対アンタを助けるから!!ゾンビのまま死んだりしないでよねーーー!!?」


シイラ「だから…。だから…!」


…。

昼と同じように、彼女は瞳に涙を浮かべた。

でも、今度は1人の…年相応の言いぐさ、年相応の顔をして…。


シイラ「…ごめんね…!…アタシ…!」


シイラ「…アンタのとこ行く前に…。…ちょっと、寄り道しなきゃ…。…強くならなきゃ…」


シイラ「…ごめんね…。それでも…。すぐ、行くから…」


リーナ「…シイラ…さん…?」


シイラ「…デュアってのが、アタシの親友よ…。…リーナ、聞きなさい」


リーナ「はい…!」


シイラ「アタシ、正直怖がりだし、アンタ以上に不安を積もらせる事だってある。…今のアンタが抱えてる物を、期待以外全てアタシも抱えた」


シイラ「…不安だとか、なんだとか、そんなのは捨てなさい…!こんな…!惨めな思いをしたくなかったらね…!それで!!強くなりなさい!!」


シイラ「今はカス程の力も無いアンタでも!!そこに伝説の杖が居る!!なんだって出来るようになるわ!!だから、今は面倒見てやるわ!四天王なんか簡単に倒せるまで、面倒見てあげる!!パーティからは抜けない!!」


シイラ「…だから…。だから…」


シイラ「…その杖から唯一学べた力で…。魔王を倒して…。デュアを救う為に…。…力を貸してくれない…?」


リーナ「…!」


リーナ「…うん!!」


シイラ「…うん…!」


シイラは涙を拭い、その場にポスンと座った。

そして…。


シイラ「…あ、それとね…。不死鳥ってのはそもそも死なないからそこを不安に持っててもアホなだけよ」


いつもの気の強く、全てを面倒くさそうに見る目へと戻った。


シイラ「どうせまた、ぺけーとか言って現れるわ。アンタがLV50超えてからならなおさら」


リーナ「…うん…」


シイラ「また会えるんだから、そん時は見返してやりなさい。フェニクラスの古参共を」


リーナ「…分かった…!」


シイラ「最後、アンタが抱えてた不安。…あれ?もう無いっけ?」


リーナ「うん!」


シイラ「うんうんうんうん…鬱陶しいわね。ま、無いならいいわ。さっきの久々に見せたアレもそうだけど、そもそも甘芋焼の分のお守をしてやんなきゃね」


リーナ「…え!?最初の甘芋焼!?」


シイラ「そうよ。アレ一個で私なんでもするわ。列車強盗だって喜んで」


リーナ「安い人だ!?」


シイラ「アンタ、ちょっとひっぱたくから頬貸しなさい」


リーナ「ごめんなさい!!あっ!ちょ…!やっ…!」


…。

空を見上げれば、美しい月が俺を眺めていた。


…。

…。

…。


リーナ「すぅ…すぅ…」


シイラ「…」


「…なぁ、シイラ」


シイラ「何よクソ杖」


「…お前があんな感情的なの見せたの、今までで初めてだったぞ」


シイラ「あ?聞くなっつったでしょハゲ」


「ハゲてねーし。…ま、なんていうかな…」


シイラ「ってか、あんなの演技に決まってるでしょ」


「はああああぁぁぁぁ!?」


シイラ「このガキが頑張らなきゃ親友が救えないって言うなら、協力するしかないでしょ。あんな奥の手使ってでも、まずはちょっとでも元気にさせる必要もあるし」


シイラ「全部演技だよ。このハゲ」


「…なんて外道な…!…あっ…」


…。

最後に彼女は目線を逸らして…。

髪をくしゃくしゃと掻いたのだった…。


…。

…。

…。


2000年続く物語。

2000年続く魔法。

2000年以上、廻った世界。


今日はこの辺りで幕を閉じよう。



後書き

パート2、もう少しで投稿予定。


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2017-08-04 06:41:48

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2017-07-03 19:42:04

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2017-07-03 19:41:56

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