~如月~
初めまして!ご覧いただきありがとうございます!
アニメ艦これ第3話を見て衝動的に書きなぐりました。まだアニメを見ていない提督の皆様は是非アニメをご視聴の後にお読みください!
アニメの感想は一言
どうしてああなった…………
われわれはどこから来たのか
われわれは何者か
われわれはどこへ向かうのか
いくつかの戦いをくぐり抜けた私は、いつしかそんなことを思うようになっていた。
「艦娘」「戦艦(いくさぶね)の御霊を宿す少女」
私たちはそういわれていた。
鎮守府に着任したてだった頃の私は、その事に何の違和感を持たず、ただ単純に、自分の中に存在したとある軍艦の記憶を受け入れ、ひたむきに艦娘であろうとしていた。
数回の海戦を経験し、敵である異形の存在、深海棲艦を撃退しているうちに、私は自分が何者であるのかが分からなくなっていった。
私は艦娘。では艦娘とは?
「戦艦(いくさぶね)の御霊を宿す少女」。では私という存在はその戦艦(いくさぶね)であるのか?
それは違う。なぜならそれらは人では無い。
人ではないのなら、なぜその記憶があるのか?
その記憶とは、当時の艦を動かしていた人々の残留思念ではないのか?
ではその記憶を宿す、私という存在は?
私という存在はあらゆる思念によって形成されるのではないか。
ではそこに私の意識は介在するのか?
そもそも私の意識というもの自体、すでに記憶の副産物ではないのか。
悶々とした、そして堂々巡りの考えに、私はしばらく悩まされた。
しかしこんな悩みを他の艦娘たちには話せない。
彼女たちはこんな物騒な世界でも、明るく、そして希望を持って生きているように見えた。そんな彼女たちを見ていると、私個人の鬱積とした迷い事を話す気になどなれなかった。まして、それを気取られることすらも、私にははばかられた。
私は努めて明るく振る舞った。
笑顔の彼女たちには笑顔で接し、訓練、演習にも精力的に取り組んでいた。
その一方で、私の心の中には常に暗い霧が立ち込めているような気がしていた。
ある日海上へ出た時のことだ。
私の耳に、それまで聞いたことのないような声が聞こえた。
その声は私の心の中の暗い霧に呼び掛けるように胸に響いた。
低く、暗い声。まるで怒りや悲しみ、怨みなどの負の感情がそのまま声となって表れたかのようだった。
怖くなった私は隣を航行していた仲間に尋ねた。何か聞こえてこないか? と。
そんなことはない。聞き間違いではないか? 風の音じゃない?
そんな答えが返ってきた。
しかしその間にも、声はどんどん大きくなっていった。まるで深海に引きずりこまれるかのような錯覚に陥った。
間違いなく声は聞こえていた。そしてその声は私にしか聞こえていないのだ。
演習は体調不良を言い訳に引き上げさせてもらった。
陸にあがっても、声は余韻となって私の耳に残っていた。
その日、私は聞こえてきた声に怯えて一睡もできなかった。
それからしばらくたった。
相変わらず私の心はモヤモヤとしていた。
あの日から何度か海へ出たが、声はあれから聞こえてこなくなった。
その日の任務は敵の迎撃だった。
そしてその日、まだ実戦経験が少ない艦娘が、私と同じ艦隊となった。
「よろしくね!」
その子は私に宿った記憶によると同型艦、いわゆる姉妹艦であるらしい。そしてどうやら姉にあたるようだ。ただ姉にあたるとはいったものの、小柄な見た目と幼い顔つきからして妹のような感覚を私は覚えた。
その子は明るく私に挨拶したものの、その身体は震えていた。無理もない。私も実戦となると怖いし、逃げたくなる気持ちが消えずに残っている。それは実戦経験が少ないならなおさら強く残っているだろう。
だから私は笑顔で返した。一緒に頑張りましょうね、と。
その子は笑ってくれた。なぜだが心が暖かくなった気がした。
戦いは呆気なく終わった。
巡洋艦クラスの艦娘によってほとんど一方的に敵を殲滅することができた。
しかし、そんか勝ち戦な雰囲気とは裏腹に、あの子は泣いていた。
どうやら敵の流れ弾に当たって小破してしまったようだ。
損傷を受けることは別に恥じることではない。戦いであるのだからいつ誰が怪我をしてもおかしくはないのだ。
私はその子に近づいた。
その子は私に気づいて、涙で潤んだ瞳を私に向けた。
多分この子は自分の無力を嘆いているのかもしれない、何もできなかったのに怪我をして、艦隊の足を引っ張っていると、そう思ってるのかもしれない。
そう思った私は自然にその子の手を握っていた。
ほうってはおけない。そんな気持ちが心の奥底から湧いてきた。
大丈夫よ。あなたは弱くなんかない。あなたのことを信じているわ。だから泣かないで。
そんな言葉が無意識に出てきた。
その子は笑ってくれた。
眩しい笑顔だった。
その日から私はなぜだかその子を追いかけていた。
入渠するときも、外にご飯を食べに行く時も、いつも私は彼女の側にいた。
迷惑かもしれないとは思ったが、幸いにもその子は私を受け入れてくれた。
涙を流したあの日の戦い以降、その子は落ち込む日が多かったが、私はそんな時に何とかその子を励まそうと努力した。そのせいなのだろうか、その子はよく笑うようになってくれた。明るくなってくれた。
私の心境にも変化が見えてきた。
今までは自分が何者かであることかを悩むあまり、他人に対して然したる興味を持てなかった。
それが変わった。
今の私は何とかその子を笑わせようと、元気にさせようと、そんなことばかり考えていた。
そしてそのことが私の心の中の霧を晴らしていってくれているようだった。
私は気づいたのかもしれない。
私の記憶や存在は、艦の御霊、残留思念の塊なのかもしれない。
けれど、私がその子を思う気持ちは違う。
姉妹艦だからという理由もあるのかもしれない。しかしそうであるならば他の姉妹艦にも同じような気持ちを持っただろう。だが私はその子のことしか考えられないのだ。
この感情、私がその子を思うこの気持ち、それは私という存在そのものがこの世に存在しているということを証明しているに違いない。
この感情は愛なのだから。
今この瞬間、その子を考え、心配し、いとおしく思っている私は他の誰でもない私自身なのだ。
その答えに辿り着かせてくれたその子を、私は心の底から愛していた。
願わくば、彼女の笑顔や明るさがいつまでも消えることがないように。できれば彼女の側に私という存在がいれることを……。
しばらくして艦隊再編成が行われた。
私は第四艦隊に、彼女は第三艦隊に配属された。がっかりした。少し前に願いを込めた神様を少し恨んだ。
第三艦隊には新人が入ってくるようで、その子はとても楽しみにしていた。
「仲良くなれるといいなあ」
あなたならきっとなれるよ。
彼女の艦隊に配属された新人は、本当に文字通り新人だった。
しかしひたむきに頑張る新人を彼女は応援していた。私もそんな新人には好感が持てた。直接話したことはまだないが私も応援してみようと思った。
こんな風に他人を応援できるようになったのも彼女のお陰なのだろう。
心の中の霧はほとんど消えていた。
ただし気にくわないことが一つ。
彼女がその新人を構うあまり、私といる時間が少し減ったのだ。
彼女は私を見かけるといつも声をかけてくれるのだが、その彼女の横にはいつも新人がいた。
多分嫉妬していたのかもしれない。
第四艦隊に配属されてから、甘味処間宮で食べる甘味の量が少し増えた。体重が増えなければいいのだが……。
そして久しぶりに彼女と共闘できる日がやってきた。
作戦の名前はW島攻略戦。
なぜだか胸がざわついた。
彼女たち所属の第三艦隊が夜戦でW島付近に展開する敵水雷戦隊に奇襲をかけ、その後転進。私たち第四艦隊が、彼女たち第三艦隊を追撃してきた敵を待ち伏せ、第三艦隊と共同して撃滅する作戦だ。
彼女と共に戦えることがこの上なく嬉しいはずなのに、胸のざわつきが止まらなかった。
なにか嫌な感じを覚えたのだ。
作戦開始までの間、私はそんな気持ちを気取られないよう自然に振る舞った。
不安が拭えないまま出撃の時を迎えた。
周りのみんなが意気揚々としている様を笑顔で眺めていると、彼女が話しかけてきた。
なあに?
私は彼女に近づいた。
「あのね……」
彼女は頬を染め恥ずかしそうに言った。
「この作戦が終わったら……話したいことがあるんだ!」
ドキッとした。けれど私は平静を保ったが、
あら、愛の告白かしら?
やはり動揺したのかとんでもない冗談をいってしまった。
「違うよ!」
実際まんざらでもなかったのだが否定されてしまった。それでも彼女の顔は真っ赤だったので、少し嬉しかった。
照れながら彼女はまだ何か言いたそうにしていた。
「って、あんまり……ないけど……でも、……あの、」
彼女が何か言おうしていることは事実なのだ。
しかし出撃前。
彼女にはここで精神的にも無理をしてほしくなかった。
分かったわ。じゃあ……約束、ね?
帰ってきてからゆっくり聞こう。
その方が彼女も落ち着いて色々話してくれるだろう。
そんなことを思いながら私は笑顔で言った。
「う、うん!」
彼女も笑ってくれた。頬を紅潮させて。
作戦前に彼女の笑顔が見れて私は幸せだった。あとは作戦終了後、彼女とゆっくり話せればそれでいい。無事に作戦が終わってくれることを願った。
その報告が胸のざわつきの正体だったのか。
奇襲を失敗した第三艦隊が敵艦隊の追撃と、新たに出現した空母クラスの敵の攻撃を受けているとの報告が入った。
彼女の身がとにかく心配だった。
何はともあれ早く彼女の救援に向かいたかった。
しかし、私たち第四艦隊に与えられた役目は、第三艦隊を追撃してくる水雷戦隊の迎撃。
彼女の側に行くことは叶わなかった。
私はとにかく彼女が無事であることを願った。
私はどうなっても構わない。
だから彼女だけはどうか。
少しでも早く彼女の下に駆けつけたい衝動を抑え、私は自らの役目をこなす。
どうか無事で。
幸いにも祈りが通じたのか、第二艦隊の救援によって戦闘は終結した。
どうやら第三艦隊も無事なようだ。
敵の残存艦隊が退却していく様子を見ながら私はホッと一息ついた。
よかった、これでもう大丈夫ね。
しかし彼女が怪我をしていないかが気がかりだった。そのため、一刻も早く彼女の姿が見たかった。
不意に、耳に聞き覚えのある声が届いた。
その瞬間、忘れていた感覚が私を襲った。
しばらく聞こえなかった、あの深海から込み上げてくるような低い声だ。
胸がざわつき、動悸がする。
心を消えていたと思った霧が再び覆っていく。
「…………チヘ…………コッ…………イ」
以前よりもはっきりと声が聞こえる。
その声から私は逃げることができなかった。
「……コッ…ヘ…イ…………チ……コイ」
徐々に声が近づく。
それに起因して私の心も激しくざわついた。
「……コッチヘ…………コッチヘ…………」
まるで亡者のように私の名を呼びながら声が近づいてくる。
身体の震えが止まらなかった。
そして耳元でよりはっきりとした声が聞こえた。
「……コッチヘコイ」
その瞬間私は絶叫した。
ふと我に帰ると、声は聞こえなくなっていた。胸のざわつきも、動悸すらもなくなっていた。
幻覚を見たのか。
そう思うほど穏やかな心境だった。
しかし私は全身に冷や汗をかいていた。
一体何だったのか。
その答えはまるで出なかった。
不意に風が髪をかきあげた。
やだ、髪が痛んじゃう…。
私の髪の毛を、彼女は綺麗だと言ってくれた。だから私も自分の髪が好きだった。少しでも綺麗な髪でいたいと、そう思っていた。
とにかく今は彼女に会いたかった。
彼女の無事を確かめたい。
帰ったら彼女との約束を果たしたい。
そして、これからも彼女と楽しい日常を送りたい。
希望に胸を膨らませ、私は空を仰いだ。
そんな私の目に飛び込んできたのは黒い塊。
それが何かを理解する前に、
私の身体は激しい爆風によって吹き飛ばされていた。
薄れゆく意識の中で、私は目の前の光に手を伸ばした。
その光は海面に降り注ぐ太陽の光か。
私の身体はゆっくりと水底に沈んでいく。
私にはその光が彼女の笑顔に見えた。
私自身が、自分の存在を認めることができたのは全てあなたのお蔭だった。
あなたと出会わなければ、私はどんな人生を送っていたか。
ありがとう、睦月。
本当はもっとあなたと過ごしたかった。
あなたと笑っていたかった。
あなたの笑顔を、隣で見ていたかった。
睦月、幸せな時間を、ありがとう。
私はもう消えてしまうのかもしれない。
けれど、あなたが無事でいてくれればそれでいい。
徐々に意識が遠くなっていくのが分かった。
身体の感覚が薄れていく。
そんな中、私の心に残っていたのは、彼女の笑顔だった。
もし、消えゆく前に私の最期の願いが叶うのなら、
睦月、あなたの心の片隅でもいい。
あなたの負担にならない程度でいい。
少しでもいい。
どうか………
「……如月のこと………忘れないでね…………」
そして私は………………
この小説はPixvに掲載しました小説の移植になります。
掲載元[http://touch.pixiv.net/novel/member.php?id=9145298]
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