~艦これ~西南の第十二戦隊、サバニ泊地奮闘記 ①
西方の地、サバニ泊地に招集された古鷹、加古、鬼怒、卯月、朝潮、潮の第十二戦隊は提督より全くの未開の地であると告げられる。
六人は結託し、泊地建設に勤しむがーー。
「旗艦、古鷹以下第十二戦隊派遣隊六名、三〇五号発令により本日一二〇〇到着しました!」
ここはリンガ泊地よりも更に西方、インドネシア諸島の一角、サバ二島。
昨今の深海棲艦の南方海域における大規模展開に対して、先手を打つ形で派遣された臨時招集の部隊である。旗艦には重巡古鷹、同姉妹の加古、軽巡鬼怒、駆逐艦は卯月、朝潮、潮とベテラン揃いの巡洋型を核心とした高速力が売りの戦隊だ。
彼女達は見渡す限りの青空、反り返り、あらゆる波をも弾き返す崖の上で戦列し、着隊行事が行われる。
「敬礼!」
新編成された第十二戦隊派遣隊の六名と多数の妖精さん、それと、派遣提督による相互の敬礼の交換により此処に部隊は編成完結した。
「着隊ご苦労様。いや~堅苦しい事は抜きにして、よく来てくれたホント。いや~淋しかったんだから」
派遣提督の肩書を持った、未だ青年の面影を残す妙齢の男は白手を着けた手を叩いて、彼女達の着隊を労うべくそれぞれに握手を求める。
「重巡、古鷹です! これから頑張ります!」
「加古ってんだ、ヨロシクな~」
「やっと到着しました~鬼怒です!
正直、遠くて疲れたよぉ」
「卯月だぴょん! こんな素敵な提督で嬉しいぴょん!」
「朝潮型一番艦朝潮です。提督、以後お見知りおきを!」
「特型駆逐艦、潮です・・・。あの、もう下がってもよろしいでしょうか」
初対面の提督を前にして、近くに寄ってきたところで、旗艦を務める古鷹は些か緊張するが、ふと気が付いた点があった。
一つ、白手を叩いて舞う埃。
一つ、提督の白衣に付着した汚れの数々。
派遣提督について知っている事はこれ迄に提督としての役職には就いた事が無い、リンガ泊地の提督とは知り合いであり、其処では参謀として補佐に当たっていたと聞いている。
「提督、宜しいでしょうか?」
古鷹は控え目な態度で質問をする。
「ん? 何でしょう?」
話し掛けられるのが嬉しそうな表情である。聞きたい事は幾つかあるが優先順序を付けて消化していこうと思う。
「何故、あのような場所に居られたのですか?」
そう、彼女達は島に着いてから、一切の出迎え無く音沙汰なく、よもや上陸地点を間違えたと地図を見直そうとした所、程なくして崖の上から手を振り叫ぶ白衣姿の人物を目撃して集まった次第である。そのまま場の流れで着隊行事に移行した。
「いやぁ、此処しか適当な場所が無かったんだよ」
「しれぃかぁ~ん! うーちゃん長旅で疲れたっぴょん! はやくお休みしたいぴょん」
ぴょんぴょんと跳ねて寄ってくる卯月。彼女は提督の太腿にしがみつき、衣服を引っ張って呼び掛ける。
「そうか~疲れたよな~。休んでいいさ、見渡す限り好きな場所で休んでいいぞ~」
頭を撫でながら、提督はニッコリと答える。
「えっ?」
この言葉と表情に、古鷹並びに朝潮は反応する。それは上陸した時点から脳裏に過ったある種最悪の想定である。
卯月は言葉にある棘を知ったか知らないフリでか、『やったぁ~』と喜びの表情と共に手荷物を下ろしだしている。
「ふぁぁあ、あたしら三時間以上海を渡ってきた訳よ。艤装と資材を置いて廠舎で寝たいからさ、さっさと案内しておくれよ~」
「ちょっと加古! そんな言い方ないでしょ」
だらけた口調で、気だるそうに話す加古と、それを正そうとする古鷹、姉妹艦と言えども性格は大きく異なる。
「はいはい、小言は後で聞くからさ」
加古は欠伸をしながら、とにかく睡眠を要求してくる。
お世辞にも誉められた態度とは言えず、場合によっては折檻されても文句は言えないが、この提督は微笑を崩さないまま、すんなりと寛容する。
「ンなモンは無い。でも、好きな場所に置いていいぞ」
提督は両手を広げて、ここから見渡せる光景、即ち山と森と崖を示す。
「あの、提督・・・もしかして・・・ここはーーー」
何かを予感した古鷹が、島に上陸してからずっと気になっていた疑問を口にしようとした。その時。
「うわあぁぁぁああ!!」
突然の絶叫と共に膝から崩れ落ちて、頭を抱え出す。
「て、提督!?」
突拍子も無く取り乱し、震えだした提督に、どう対応すればいいか分からない古鷹以下六名はとりあえず見守る事にする。
「実は俺も三日前に来たばかりでさ、下船して直ぐに違和感を覚えた訳よ。でもさ、上陸したが最後、急速反転、行きの三倍の速度で帰りやがって、おもわず『見捨てないで』って叫んじゃったよ。いや、ホント君達が来てくれて良かった。森は獣が居るし、曜日の感覚も若干忘れかけてたし、お兄さん、自分の管轄区域でSOSなんて描いちゃったよ、ハハハ」
変に上擦っていて、投げやり気味だった提督の態度の理由が漸く分かった。
聞く所によれば艦娘の人事資料の他、二日分の食事と水を背嚢に詰めただけで、後は全くの手ぶらだったらしい。
到着すれば唯一人で、どう島を見渡しても基地の存在は無く、然るべき場所に足を踏み入れれば獣の唸り声で引き返され、星空を眺めては涙を堪え、ただ只二日後の艦娘着隊という命令に一縷の希望を掛け、すがるしかなかったと言う。
「もしかして、此処にはまだ何の施設や設備も出来てないのですか?」
朝潮が尋ねる。
「ご名答。完全なる未開の地だよ。制海権どころの騒ぎじゃない、先ずは島の攻略だ。森には獣が居るし、他にも何が出てくるか、対地火器なんて物は無いし」
提督は地べたをズリズリと這いくつ張って潮の足下まで寄り、『怖かったよぅ』等と呟きながら、怯える彼女から頭を撫でて貰っていた。
「そんな!? 私達艦娘は、陸上戦の教育なんて受けてません。餅は餅屋と言います、陸の部隊に任せましょう」
「残念ながら、これ以上の戦力増強は望めない」
ガバッと顔を上げて、提督はキッパリと真顔で答える。
その提督の不可思議な一挙一行動に潮は怯える。
「それについては御達しが出ているからね・・・」
これが事実であると諦めのついた一言。
「うーちゃん、換気が出来て、室温調整も完璧な部屋で寝たいぴょん! 野晒しで寝るなんて絶対ムリぴょん」
卯月が泣きじゃくる様な形で、提督に寄り添い、提督は『すまない』と言いながら背中を擦っている。
全くの青空から始まるだなんて想定は流石にしていなかった。
最低限、基地に必要な物はーーーどれぐらいの日数が掛かるかーーーそもそも、資材や資源は何処から調達するのかーーー。
では、どうするかと考えた時に膨大な量の、度重なる問題が容易に想像が出来て、古鷹自身にも第十二戦隊の行く末にも、前途多難な現実と共に早くも翳りが見えそうになった時。
「でもまぁ、何にも無いなら一から作るしかないよねぇ~ジッサイ。戦隊も一からスタート、島も一からスタート、初心に帰ってはりきって行こう! ってね」
「あたしも良く分かんないけどさぁ、結局はやるっきゃないんだから、あれこれ考えずに出来る所からやっていこーよ」
鬼怒が持ち前の明るさで、加古は前向きの姿勢で、戦隊の沈みかけた雰囲気を持ち上げ直した。
「潮に・・・出来る事があれば、頑張ります」
口々に決心を伝え、自然と泥だらけの提督の周囲に艦娘が集まり出し、引っ付いている卯月は鬼怒が引き剥がした。
「そうですね。私達は第十二戦隊で、ここはサバニ島、提督が居て私達が守る島なんだから、全員で造り上げましょう、サバニ泊地を!!」
「提督、朝潮は提督を守る為なら如何なる困難であろうとも乗り越えて見せます。提督を守るサバニ泊地の為なら何でもご命じ下さい!」
既にボロボロだった提督も、毅然として立ちあがり、裾や白手などの衣服の埃や汚れを落として、一歩下がる。
集まった輪は、艦娘と提督が揃って七人の円となり、中では妖精さん達も円陣を作っている。
熱くなった目頭を何度か押さえながら、眼を震わせながら、口調と態度は堂々としたままで提督は言う。
「皆・・・嬉しいよ。そうだ、皆が居れば文殊の知恵だ! ここはサバニ泊地、西方の最前線、災いを祓い、悪を懲らしめる白虎の砦だ! 第十二戦隊、ファァァァァアアィィ!!!!」
『オー!!!!!』
ここにサバニ泊地、第十二戦隊の一日目が幕を開けた。
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