不機嫌提督と漣の奮闘日記
不器用な提督と漣+その他の艦娘たちのちょっぴりアホでのんびりとした日常を描いていこうかと思います。
大体コメディなので気楽に読んでくださいな。
SS初投稿というやつです。SSとはこんな風な書き方で良いのだろうかとあたふたしながら書き進めています。
仕方ないからアドバイスしてやんよという優しい人がいてくださるなら、ぜひとも助言をお願いします。
[不機嫌提督の憂鬱]
【鎮守府前にて】
提督「あぁ、不安だ……」
提督「冷静に考えたらこれからはたくさんの艦娘、よーするに女の子ばかりに囲まれて過ごすことになるわけで」
提督「その辺を全く考えていなかった」
提督「……」
提督(女性とは直接目を見て話すこともできなければ、少し触れられただけでも顔が赤くなってしまう。そんなコミュ障気味の俺に提督なんて務まるのか?)
提督「……」
提督「今更だな。悩んでいたって始まらん、出たとこ勝負で何とかするしかないだろう」
提督「よし、行くか」
[漣とのご対面]
【執務室にて】
提督「……まずいな、腹痛が収まらん」
提督「緊張が腹にくるこの体質は何とかならんのか。もうじき初期艦の子が来るというのにトイレのことしか頭に浮かんでこないとは」
提督「これじゃあ文字通りのクソ提督だな。あぁくそ、変な汗が出てきた。やっぱり一度トイレに……」
コンコン
提督「」ピクッ
提督(このタイミングかぁ! さっさとトイレに行っておくべきだったか)
提督「はい、どうぞ」
漣「失礼します! 貴方が漣のご主人様ですねっ。はじめまして、綾波型駆逐艦の漣です!」
提督「あぁ、こちらこそよろしく……」ゴゴゴゴゴ
漣「」ビクッ
漣(いや、こわぁ! え、どしたのこの人。顔色悪いしめっちゃ不機嫌そうだし、漣何か失礼なことしちゃったかな?)
提督(人当たりの良さそうな明るい子だな、少し安心した。仲良くやっていけると良いんだが……あ、やばい。腹痛の波がっ)
漣「えっと、漣のことは気軽に漣ちゃんって呼んでくれても構いませんよ? はい、試しに呼んでみてくださいっ」
提督「……さ、漣ちゃん……」ピキピキ
漣(ますます不機嫌そうになってる! これは地雷踏んだくさいぜ、はにゃ~っ!)
漣「いえす、ナイス漣ちゃんいただきましたー! でも、呼びづらかったら呼び捨てとかでも大丈夫ですよご主人様っ」
提督「……そうか、なら漣。これからよろしくな」ゴゴゴ
漣(うっくぅ~、先行きが不安すぎて何も言えねぇ~……)
提督(あ、波が収まってきた。今のうちにトイレに行こう)
[そしてその日の午後]
漣「さーて、まずは建造でもやってみましょうか」
漣(一人だと漣の胃がもたなそうだかんね)
提督「建造か、新しい艦娘を迎え入れるということだな」ムスッ
漣「はい、資材はどうしますか?」
提督「最初だから、まずは最低限の分量にしておこう」
漣「かしこまりっ。それじゃ、ちょちょいっと」
ーー数十分後
潮「……」ビクビク
提督「……」ゴゴゴゴゴ
漣「」
漣(しおっちに会えたのは嬉しいけど、これはあかんやつだー! 漣は上手くいかない方に賭けるぜ!)
潮「綾波型の潮です。あの提督、もう下がっててもよろしいでしょうか?」ビクビク
提督(繊細そうな子だな。怖がらせないように笑顔で、よし)
提督「潮か、はじめまして。これからよろしくな」ピキピキ
漣・潮「!?」
漣(何が気に障ったんすかご主人様ー! そんな顔したらしおっちが……)
潮「う……」フルフル
提督「?」ピキピキ
潮「す、すいませんでしたぁ~! うわあぁ~」ピュー
漣「あ、しおっちー! あーあ、行っちゃったかぁ~」
提督「……」ポカーン
提督「……何でだ?」ムスッ
漣「いや当たり前でしょうが、何やってんですかご主人様!」
提督「えっ」ガビーン
[日記 一ページ目]
今日、新しい鎮守府に初期艦としてやってきたわけだけど、漣はそのポジションを変わってくれと言われたらタダでも喜んで変わるぜっ。そんくらいヤバい。何がヤバいって提督がヤバい。
だって、終始不機嫌そうな顔してるんだもんな~。この漣ちゃんが勇気を振り絞って渾身のギャグぶちかましても、火に油を注いでる感じしかしなかったよね。てへぺろ。
まぁ、しおっちが来てくれたのは素直に嬉しかった。提督としおっちが上手くやっていけるビジョンが見当たらないのはこの際置いとこう。何とか楽しくやっていけたら良いんだけどな~。
そんなこんなで目標を一つ決めた。あの不機嫌提督をあの手この手を使って、多少強引でも良いから笑わせる。もう絶対お腹抱えて笑わせてやる。不機嫌提督の腹がよじれるまで、漣はボケるのを止めないっっ!
とりあえず誰かフォロー力の高い娘プリーズですよ神様。何でもしますから。しおっちが。
[一週間後、提督のお悩み]
【執務室にて】
提督(鎮守府着任より一週間)
提督(あれから艦娘も何人か増えていよいよ活動を開始しているわけだが、一つの大きな問題に直面してしまった)
提督「なぁ、漣」ムスッ
漣「どしたんですかご主人様」
提督「俺、めちゃくちゃみんなから避けられている気がするんだが……」ムスッ
漣「おおう……」
提督「率直に言ってくれ、何が原因だと思う?」
漣「ストレートに言っても良いんですか?」
提督「あぁ、ドンとこい」
漣「そんじゃドンといきますよ! 良いですかご主人様、貴方にはまずコミュ力が足りない、積極性が足りない、そして何よりーー笑顔が足りないっ!」ドーン
提督「!?」
漣「というかご主人様はいつも不機嫌そーな顔してるから近寄りづらいんですヨ」
提督「何だと……」ガーン
漣「おっと、意外な反応」
漣「ご主人様、もしかして自分で気付いてなかったんですか?」
提督「いや、まったく……」
漣「でも、実際結構な頻度で不機嫌だったりはしますよね」
提督「ん?」
漣「え?」
ーーーー
漣「話をまとめると、ご主人様は緊張してると勝手に怒ってるみたいな表情になっちゃうってことですか?」
提督「おう」
漣「でも、ホントは緊張してるだけで全然怒ってはいないと」
提督「おう」
漣「ご主人様が大体いつもめっちゃ怒ってる不機嫌提督だと思ってたのは漣たちの勘違いだったと」
提督「そうなるな」
漣「……」
提督「漣?」
漣「このなんちゃって不機嫌提督ー!」ペシッ
提督「いてっ」
漣「なんですか、漣がどんだけ色々気を揉んだと思ってんですか!」
提督「ご、ごめんなさい?」
漣「てっきりご主人様から引くほど嫌われているとばかり思ってちょっと萎えてたのがバカみたいですヨ、全くもう……」
漣「改めてお聞きしますけど、ご主人様は漣のこと嫌いじゃないんですね?」
提督「あぁ、むしろ面白いし明るいし、すごく良い子だなって思ってるよ」
漣「いやぁ、それほどでもありますよ~」テレテレ
提督「そういうところもわりと好きだぞ」
漣「そうですか、まぁ漣はかわいいのでご主人様がメロメロになっちゃうのも分かりますけどおさわりはダメですヨ」
提督「それはないかな」
漣「ご主人様この野郎」
提督「ハハハッ、悪かった悪かった」ニカッ
漣「!」
漣(何だ、ご主人様もこんな表情できるんじゃん。今のを見ればみんなの誤解も解けるだろうにな~)
漣「……仕方ない、この漣ちゃんが一肌脱いであげるとしますか」
提督「ん?」
漣「ダメダメなご主人様の好感度の問題、漣がバッチリ解決してあげますよ!」
提督「漣……。お前が初期艦で本当に良かったよ。ありがとな」ニコッ
漣「ふっふっふ~、ご褒美はスペシャル間宮券で構いませんよご主人様っ」ニパッ
提督「ん、了解」
[漣に良い考えがあります]
【鎮守府内にて】
漣「うーん、どうしよっかな~」
漣(ご主人様は別にみんなのこと嫌いじゃないらしいよーと言って回るのは簡単だ。それでも誤解は解けるとは思う)
漣(でもそれだとな~。多分印象までは変わらないからね、やっぱりあの笑顔をみんなにも見てもらうのが一番効果的な感じかな)
漣(ただ、あの不機嫌提督は漣以外の艦娘相手だと緊張しちゃってすっごいしかめっ面になると。なるほど詰んでるじゃないですかやだー)
漣「というか何で漣は大丈夫なのかと問いつめたい、小一時間くらい問いつめたい。何だよご主人様漣のこと大好きかよー」
青葉「その笑顔いただきですっ」パシャ
漣「あっ、青葉さん。ほほう、勝手に撮ってくれちゃってるが漣ちゃんのプライベート写真はお高いぜっ、おうおう」
青葉「えへへっ、つい。誰にも見せないのでどうかご容赦を漣さまー」ペコリ
漣「ダメだ許さーん!」
青葉「ぎゃー!」
漣「とまあ茶番は置いといて。実は今ちょっと悩みごとがありまして」
青葉「そうだったんですか? 青葉で良ければ力になりますよ!」グッ
漣「うーん……」
漣(青葉さん……隠し撮り……青葉新聞……なるほどひらめいた)
漣「それじゃちょっと相談に乗ってもらっても良いですか?」
青葉「はい、悩みごとも青葉にお任せ!」
ーーーー
青葉「なるほど、事情は分かりました。でも二十四時間不機嫌そうなあの提督が笑顔になるとは……。ちょっと想像できないです」
青葉「ふふふ、何だか俄然やる気が出てきましたね。隠し撮りから提督の記事に至るまで、青葉が余すところなく提督の素顔を暴き出してみせますよ!」
漣「流石青葉さん、漣たちにはできないことを平然とやってのけるっ。そこに痺れるっ、憧れるっ」
青葉「うっ、それは喜んで良いんですか?」
漣「もちのろんです、漣流の誉め言葉です!」
青葉「えへへっ、ありがとうございます。よーし、頑張るぞー!」
漣(うん、まずはこんな感じかな。これで大体の娘とは関係も改善するはず)
漣(問題は、しおっちだ。しおっちは一番ご主人様のこと苦手そうにしてるからね)
漣「ーーここはご主人様にも甲斐性みせてもらうとしますかっ」
[不機嫌提督と潮]
【執務室にて】
提督「ーーマジですか」ムスッ
漣「マジです」
提督「でも、潮も嫌がってるんじゃ……」
漣「しおっちは漣がすでに説得しておきました」
提督「つまり、退路はないと」
漣「いえす」
提督「ゆあ」
漣「ハイネス。言ってる場合じゃないでしょうがっ」ペシッ
提督「はい、すいませんでした」ペコリ
漣「とにかく、ご主人様にはしおっちと一緒に二人きりで間宮に行ってもらいます。そこできちんと話をして、仲良くなってくること」
提督「……」
提督「ちなみに、漣は大丈夫だと思うか?」ゴゴゴゴゴ
漣「ちょっ、またとんでもない顔になってますから! ん゛んっ、それはさておき、漣は上手くいくと信じてますよ」
漣「だって、漣にはきちんと話せているじゃないですか。緊張しながらでも頑張って本気で伝えようとさえすれば伝わりますよ。それに、しおっちはちゃんとそういうの分かってくれる子ですから」
提督「……漣ってカッコいいよな」
漣「漣としてはかわいいって言ってもらえる方が嬉しいんだけどな~」チラチラ
提督「よーし、覚悟決めて行ってくるか!」
漣「っておい、無視かよっ! 全くこれだからあのご主人様はもてないんだと漣は断言するね」ハァー
ーーーー
【食事処 間宮にて】
潮「……」
潮(うぅ、緊張する)
潮(漣ちゃんは大丈夫だって言ってたけど、本当かなぁ。色々なことを聞いて、誤解だっていうのは分かったけど、でもやっぱり……)
潮(ちょっぴり、ううんかなり怖いな)
提督「えっと、潮?」ムスッ
潮「ひ、ひゃい!」ガタッ
提督「ご、ごめんな。そんなに驚かせるつもりはなかったんだけど」オロオロ
潮「あ、いえっ、私こそごめんなさいっ」
潮(うぅっ、やっぱり怖い顔してる……)
潮(でも、あれ? 何だろう、ちょっと慌ててる? それにすごく動きがぎこちないような……)
提督(くあぁ、お腹がっ! ヤバイヤバイ、こんな状態でアイスなんて自殺行為だろうどうしよう)
潮「あの、提督、大丈夫ですか?」
提督「あぁ、大丈夫だ。心配してくれてありがとな」ムスッ
潮(お礼、言われた。怖い顔はしてるけど、漣ちゃんが言ってた通り怒ってるわけじゃないのかも)
提督「潮は間宮には来たことあるのか?」
潮「あ、はい。漣ちゃんと一緒に何度か……」
提督「そっか。えっと、好きなもの何でも頼んで良いぞ」
潮「は、はい。ありがとうございます。……その、提督は召し上がらないんですか?」
提督「う、いや、実はその」ワタワタ
潮(あ、また慌ててる)
潮「甘いもの、嫌いなんですか?」
提督「むしろ大好物だな。ただちょっとコンディションがよろしくないというか……」ムスッ
潮「?」
提督「いや、食べよう。せっかく美味しいものを食べるなら、誰かと一緒においしく食べられる方が嬉しいもんな」
潮「! はい、私もそう思います」ニコッ
提督(あっ、笑ってくれた。そっか、こんな風に笑うんだな。初めて見たから知らなかった)
提督(うん、今なら言えそうだ)
提督「その、何だか色々怖がらせちゃってるみたいでごめんな」
潮「え?」
提督「本当は潮に怖い思いをさせてしまわないように、笑顔でいようと思ってるんだけどなかなか上手くいかなくてな。結局、怒ってるみたいな顔になっちゃってるみたいだ」ムスッ
提督「でも、それは全然潮が嫌いとかではなくて。さっき見せてくれた笑顔なんかはものすごくかわいかったと思うし」
潮「!?///」
提督「潮がもっとさっきみたいな笑顔を見せてくれたら嬉しいなと思ってるし、俺も潮に対してもっと笑顔でいられたらと思ってて」
提督「えっと、だから、ええっと……」ワタワタ
潮「……」
潮「ーーふふっ」
提督「潮?」ムスッ
潮「あ、ご、ごめんなさい、つい!」ワタワタ
提督「い、いや、別に怒ってないから良いよ」ワタワタ
潮「……」
提督「……何だか、二人して慌てちゃってるな」
潮「ふふっ、そうですね。ーー提督今までごめんなさい。私、提督のことすごく誤解していたみたいです」
提督「ん、そうなのか?」
潮「はい。気難しい人だと思っていた以上に、きっと私たちのことが嫌いなんだって思いこんでました」
潮「でも、それは勘違いだったみたいです。ただ不器用なだけで、私たちのことちゃんと考えてくださってるんだなってことが伝わってきました」
提督「そっか」ホッ
潮「はい。あの、提督」
提督「うん」
潮「私、ちゃんと言えていなかったと思うので。その、これからよろしくお願いします!」ペコリ
提督「!」
提督「うん、ありがとう。こちらこそ、よろしく」ニコッ
潮「!///」
提督「潮?」
潮「い、いえ、何でもありません! あっ、そろそろアイスが来たみたいですよ」アセアセ
提督「あ……」チーン
ーーーー
青葉「……上手くいったみたいですね。良かったです!」
漣「あとは青葉さんの新聞しだいかにゃ~」
青葉「はい、写真も撮りましたしバッチリです! これは青葉新聞史上きってのスクープですよ!」グッ
漣「しかし、まさかしおっちを落としにかかるとは。ご主人様マジぱねぇわ」
青葉「ですねぇー。その辺も含めて記事にしちゃいましょうか」
漣「しちゃいましょうか」
[後日談]
【執務室にて】
提督「なぁ、漣」ムスッ
漣「なんですかご主人様、そんな顔して」
提督「いや、みんなとの距離が縮まったのはすごく感謝してるんだけどな」
漣「ふっふっふ~、もっと感謝してくれて良いてすよ!」
提督「おう、ありがとう。だけどな、何かロリコン疑惑が浮上してるとかしてないとかって噂を聞いたんだが」
漣「……漣には何の話だかわっかんないな~」
提督「……」ジトー
潮「大丈夫ですよ、提督。私はそんな人じゃないって分かってますから」グッ
提督「うん、ありがとな。潮は本当に良い子だな」
潮「いえ、そんなことは……」テレテレ
漣「……あながち間違ってないんじゃないかなー」
[日記 二ページ目]
漣の類まれなる才覚によってご主人様と艦娘の不和は見事に解消され、鎮守府内の雰囲気はすっかり良くなりましたとさ。ちゃんちゃん。
で、終わりにできたら良かったんだけどな~。どうもしおっちが提督になつき過ぎてるような気がするというか、ラブコメの波動を感じるっ。最近は毎日のようにしおっちが執務室に足を運んでるしね。いや、良いことなんだけども。
とりあえずご主人様にロリコンの気あり、っと。しおっちの淡い恋心を後押しするのは全然良いけど、ご主人様がしおっちに手を出したら通報まったなしですね。
というか、ご主人様はもう少し漣のことを女の子として意識するべきだと思うわけで。漣のこと絶対信頼できるパートナー(ただし色気は皆無)くらいにしか思ってない気がする。明日辺り、漣のあふれでるキュート力でご主人様をドキドキさせるとここに宣言する!
[幕間 漣との日常]
【執務室にて】
漣「ご主人様、お茶が入りましたよ」
提督「……急にどうした? メイド服なんか着て。そんなもの一体どこに……」
漣「こまけーことは良いんですよ。かわいいっしょ」
提督「確かにかわいいな。すごく似合ってる」
漣「お、おう。いや嬉しいんですけど、ご主人様ってそういうことすっごい真面目な顔で言いますよね」テレッ
提督「漣でもそんな風に照れることあるんだな……」
漣「どういう意味だ」
提督「すいませんでした」
漣「まったく、漣だって女の子なんですよ? ピュアで思春期真っ盛りの乙女だってことを忘れてもらっちゃ困るぜご主人様」
提督「うん、そうだな……」
漣(なんだその微妙な表情。絶対納得してないわこれ)
漣(何かないかな~。ご主人様をドギマギさせられる一撃必殺みたいな)
漣「……」
提督「漣?」
漣「おりゃー!」ダキッ
提督「!?///」カアッ
漣(お、赤くなった。ふっふっふ~、やっと少しは仕返しできたかな)
提督「さ、漣、お前なにして……」ワタワタ
漣「なんですかいやなんですか、この贅沢もの」ギュッ
提督「嫌とかではないけど、そういうことじゃなくてだな。分かるだろ?」ゴゴゴゴゴ
漣「いやぁ、分かんないな~。あとご主人様また顔がすんごいことになってますヨ」
提督「そりゃすんごいことにもなるに決まって……」ゴゴゴゴゴ
ガチャ
潮「……」ポカーン
提督・漣「あ」
潮「……お、お邪魔しましたぁ~!!」ピュー
提督「ちょっとま、って早っ! なんで潮はこういうとき足早くなるんだ!?」
漣「あちゃー、こりゃやっちまいましたねー」
提督「漣がとんでもない気まぐれを起こすから……」
漣「それはご主人様が悪いんですー」ムスッ
提督「…………」
漣「ご主人様?」
提督「いや、その、なんだ。漣はかわいい女の子だって思うぞ。笑顔がものすごくかわいい、そんな女の子だと思う」
漣「……は、はあっ!?///急になに言ってるんですかっ///」カアッ
提督「何というか、ちゃんと言わなきゃダメな気がしたというか」ムスッ
漣「ぐっ、こ、この……」
漣「ロリコン提督ー、覚えてろよー!」ダッ
提督「おま、何てことを! そんな捨てセリフ吐いて逃げんなー!」
[朧と何となくの距離]
【執務室にて】
提督(提督になってから一ヶ月、この鎮守府にもそこそこ人が増えてきた)
提督(最初はあんまり上手く話せなかった娘とも、今では食堂で一緒にご飯を食べたりもしている)
提督(その中で一人、ちょっとだけ気になる子がいる)
提督「んー……」ムスッ
漣「ご主人様のあの不機嫌顔はアレだね、また考えごとかな~」
潮「うん。誰かのこと心配してるときの顔だと思う」
漣「そんで、ご主人様は誰のこと考えてたんですか?」
提督「うん、実は朧のことがちょっと気になっててな」
漣「え、恋わずらいですか。それはちょっと引きますよご主人様っ」ニコッ
提督「いや違う。そもそも俺は年上のお姉さんがタイプだし」
潮「そ、そうだったんですか?」
提督「まぁ、いざ面と向かって話そうと思うとテンパって上手く話せないわけなんだけども」
潮「ふふっ、何だか提督らしいです」
漣(年上が好み……ほほう。だから年下の漣たちとはあんまり緊張せず普通に話せるのか、異性として意識してないから。何だそれちょっとムカつく)
漣「ご主人様のスカポンタン!」
提督「えぇ、急に何だよ」
漣「いえ、内なる乙女の漣ちゃんが荒ぶりました。てへぺろっ」
提督「おう……」
提督「話を戻すけど、少し前に朧がこの鎮守府に来ただろ? それから何度か話もしたりはしてるし、特別仲が悪いってわけでもないんだけど……何だろ」
漣「ふむ、何か引っかかるものがあると」
提督「引っかかる、そうだな。何となく壁があるというか、本当の意味での会話ができていないような感じというか」ムスッ
漣「ははぁ、なるほどにゃ~」
潮「提督はやっぱり私たちのこと良く見てくれていますよね。私は提督のそういうところ、とても素敵だと思います」ニコッ
提督「そうか? ありがとう、潮」テレッ
漣「漣も提督のそういうところ素敵だと思いますよ!」キラリンッ
提督「はいはい、ありがとなー」
漣「この適当な返しよ」
提督「ダメだったか?」
漣「ダメダメです」
提督「ダメかー」
潮(二人とも仲良しだなー。ちょっとうらやましいかも)
提督「……うん、やっぱりそうだよな。漣とこういうやりとりができるのは、相手のことを信じてて心を許してるからなんだよ」
漣「……急に言われると、ちょっと困るんですけど」テレッ
提督「今みたいなやりとりを朧との間でもできる気が全然しないんだ。どこか距離を感じるんだよ」
漣「まぁ、ご主人様の直感は正しいと思いますよ。ぼーろはそういうところあるかんね。多分意識的に距離を保ってるんじゃないかな~」
提督「やっぱりそうか……」ムスッ
潮「提督はもっと朧ちゃんと仲良くなりたいんですか?」
提督「仲良くってのもそうだけど、お互いにもっと信頼し合える仲になれたらすごく良いなって。そう思っているってこと、伝えられたらって考えてるかな」
潮・漣「…………」カオミアワセ
潮「提督らしいよね」フフッ
漣「ねー。ホントにこのご主人様は」ニパッ
提督「むっ、変だったか?」ムスッ
漣「良いご主人様に巡り会えて漣たちは幸せだなーって話ですよ」
潮「ですっ」
提督「……おう、ありがとう」テレッ
漣「ま、そういうことなら漣たちも力を貸しますよ! ぼーろと仲良くなろう大作戦の始まりじゃい!」グッ
潮「おー!」
提督(何となく不安なのは何でなんだろうか)
漣「ご主人様にも、久しぶりに格好良いところをみせてもらいますよ」
提督「おう、頑張るよ」
漣「良い返事です! それじゃ張り切っていきましょーか」
[朧と仲良くなろう大作戦!]
【執務室にて】
漣「とは言うものの、正直ご主人様しだいなんですよねー」
漣「漣にできることがあるとしたらアドバイスくらいかな。良いですか、耳の穴かっぽじって聞く準備はできてるか!」
提督「おう」ムスッ
漣「よし、オッケーですね。まず、ぼーろにはあんまりグイグイ行き過ぎないこと。アタックをかけすぎるとかえって距離を取られちゃうので要注意です」
漣「だからといって待ってるだけでもアウトです。ぼーろの方から来てくれる可能性はかなり低いです。よってぼーろに引かれないくらいのソフトなアタックを、そうだなー、ちょこんとそばに寄り添うくらいが良いでしょう」
提督「難しそうだけど分かった。他には何かあるか?」
漣「うーん、あと、ぼーろは何でもかんでも話してくれるような子ではないです。大切だけど他人には知られたくないことなんかは、絶対口にはしないし突っ込まれたくないとも思ってます」
漣「なので、ご主人様が何とかして気持ちを察してあげるしかないです。その上で不用意に口に出したりはせずに、無理に踏み込むことなく、ぼーろが心を開いても良いかもと思える何かをご主人様が見せてあげてください。そしたらぼーろもきっと信じても良いかもって思ってくれますよ」
提督「なるほど」
提督「…………」
提督「ーー本当にすごいな」
漣「ん? 何がですか?」キョトン
提督「いや、何でもない。ありがとな、頑張ってみるよ」
漣「ん、頑張ってください!」ニパッ
潮「でも、具体的にはどうするの?」
漣「それなー。どーしよ」
提督「そもそも、朧って普段はなにしてるんだろう」
潮「うーん……」
提督(朧と仲良くなりたいなら、まず朧のことを知る努力をしなくちゃならない)
提督(でも、どうやって? そう、何かきっかけのようなものが欲しい。朧と触れ合うことができるきっかけが)
提督(具体案が何も浮かばないのは、多分情報が足りていなさすぎるんだな。この二人以外で、朧の情報を色々と持っていそうな娘……)
提督「……うん、アイツしかいないな。すまん二人とも、ちょっと行ってくる」
漣「おっ、何か浮かんだっぽいじゃん。いってら~」
潮「何か手伝って欲しいことがあったらいつでも仰ってくださいね!」グッ
提督「うん、ありがとな」
ーーーー
提督「ーーという訳なんだ。青葉は何かこれっていうものを知ってたりしないか?」
青葉「うーん、朧ちゃんについてですか」ウーン
提督(難しい顔をしているな。やはりこれといった情報はないのだろうか)
青葉「あ、そういえば一つだけ。役に立つかは良く分からないんですけど」
提督「大丈夫だ、教えてくれ」
青葉「はーい。実はですね、朧ちゃんは毎朝シャワーを浴びる習慣があるみたいなんですよ」
青葉「それで、お風呂場に入る姿を見たっていう娘たちから聞いた話によると、どうも毎回ジャージを着ているみたいでして」
青葉「これはあくまで青葉の推測なんですが、朧ちゃんは毎朝どこかでトレーニングか何かをしているんじゃないかと」
提督「そうか。そんなことを……」
提督(これは、きっかけになりうるな)
提督「青葉、ありがとう。青葉を頼ってみて良かったよ」
青葉「えへへっ、そんなことないよ~。でもお役に立てたみたいで、青葉嬉しいですっ」ニコッ
提督(さて、どうなるかは分からないけど、腹をくくって行ってみようか)
[朧と秘密の特訓]
【鎮守府近辺にて】
朧「んっ、しょっと。ストレッチはこれくらいで良いかな」
朧(まだ日の出からそう時間は経っていない早朝。大陽が海から顔を出して、辺りがどんどんと明るくなっていく。いつも見ている気色)
朧(みんなには秘密で行っている特訓。といっても走ったり筋トレをしたりするだけではあるけれど。アタシが強くなるための、そして自分を信じられるようになるための大切な日課だ)
朧「……うん。今日も頑張ろう」
提督「……朧?」
朧「えっ?」バッ
朧(提督がこんなところに、しかもこんな時間から? いつもは見かけないのになんで……)
提督「おはよう」
朧「……おはようございます。提督はこんなところで何を?」
提督「えっと、うーん、そうだな……。散歩をしていたら朧の姿を見かけたから、こんな時間からどこに行くんだろうって気になって」
朧(なるほど、偶然が重なったってことかな。こんな朝早くに出歩いている艦娘がいたらそれは不思議に思われるよね)
朧「心配をおかけしてしまったようで申し訳ありません。実は日課で毎朝ランニングや筋トレをしていまして」ペコリ
提督「そっか。それはこの鎮守府に来てからずっと?」
朧「はい」
提督「……頑張り屋さんなんだな」ニコッ
朧「いえっ、そんなことは」
朧(何だろう、普段より雰囲気が柔らかい? もう少し刺々した雰囲気の方だと思ってたけど、そうでもないのかな)
提督「何というかその、ごめんな」ペコリ
朧「えっ、き、急にどうなさったんですか?」
提督「いや、呑気について来てしまったけど、朧の迷惑になっちゃったかなと。もし朧が秘密にしていたかったのなら、無粋なことをしてしまったなって」
朧「提督……。本当にお気になさらないでください。朧も気にしていませんから」
提督「……ありがとう」
朧「いえ……」
提督「…………」
提督「朧、一つお願いがあるんだけど良いかな」ムスッ
朧「お願い、ですか?」
提督「うん。もし朧が嫌でなければなんだけど、俺も一緒にランニングをしても良いかな?」
朧「て、提督がですか?」
朧(急にどうなさったんだろう。朧と一緒にこんなことをするなんて、提督にはそうしなきゃいけない理由はないはずなのに)
朧「その、どうして朧と一緒に?」
提督「……朧が毎朝こうして一人で頑張っていたってのを聞いて、何だかすごく嬉しかったんだ」
提督「この子は今までもこうして、誰に言われたからでもなく努力を重ねてきたんだなって。それがすごく、あぁすごいな、素敵だなって」
提督「だから、一緒に走ってみたくなったんだと思う」ムスッ
朧「…………」
朧(少し、ビックリした。提督がアタシをこんなに誉めてくれたってこともそうだけど)
朧(提督はこんな風に一所懸命に話す人で、見るからに緊張している怖い顔をしながら、それでも本音を伝えてくれるような人だとは知らなかったから)
朧「……良いですよ」
提督「……! 良いのか?」
朧「はい。提督はきっと……」
提督「きっと?」
朧「あ、いえ。なんでもありません」アセアセ
提督「ん、分かった。それじゃ、秘密の特訓開始だな。よろしくお願いします」ペコリ
朧「いえ、こちらこそお願いします」ペコリ
朧「それじゃ、早速始めましょう」タッタッ
提督「了解」タッタッ
朧(提督と朧だけが知っている特訓か。ーーうん、悪くないかも)
[朧と海辺の語らい]
【鎮守府近辺にて】
朧(提督と一緒に特訓をするようになってから一週間が経った)
朧(別に何かを話すわけではない。やっている特訓の内容が変わったわけでもない。ただ、隣で特訓をする人が一人増えただけ)
朧(でもそうやって一緒に走ったりしているだけの時間は嫌いじゃない。朧は何だか良いと思う)
朧「ーーはあ、はあ」
提督「お疲れ様。はい」スッ
朧「あっ、ありがとうございます」
朧「ーー」ゴクゴク
朧「ふぅ……」
朧(……良い景色だな)
朧「…………」
提督「…………」
朧「……提督、提督は不安になることってありますか?」
提督「……どういうことだ?」
朧「いえ、例えば朧たちの指揮を採るとき、もし自分の能力が足りなくてみんなを危険な目にあわせてしまったら、とか」
朧「例えば、自分の言ったことが原因で友だちをかえって悩ませてしまったりしないか、とか」
朧「……そんな不安です」
提督「…………」
朧「…………」
提督「……あるよ。これまでにも、今も。たくさん」ムスッ
朧「はい……」
提督「自分の未熟さが悪い結果を招いてしまうのではないか、自分の浅慮さが不幸を導いてしまうのではないか、とか。うん、考えるな」
提督「でもそれ自体はきっと悪いことじゃないんだ。自分の不安ときちんと向き合えている証拠だから」
朧(自分の不安と向き合えている証拠ーー)
提督「そこから、その不安を乗りこえるために何をするか。向き合うことから目をそらさない人なら、きっとそれを考える」
提督「そして、考えたそれを行動に移す。そうやって色々間違えたり上手くいったりしながら不安を乗りこえていくんだと思う」
提督「上手く言えないんだけど、そうなんだ。何一つ間違っていない、すごくまっすぐで正しい悩みだと思う。……俺はすごく良いと思う」
朧「提督……。ありがとう、ございます」
提督「うん」ムスッ
朧(……もしかして、この人は気付いてたのかな。何となくくらいのものだろうけど、だから一緒に……)
朧「……ふふっ」
提督「朧?」
朧「いえ、実はこの一週間、漣や潮から提督のことを色々聞いていたんです。たくさん面白い話をしてくれたんですけど、本当だったんだなと思って」
提督「……ちなみにどんなことを」
朧「漣曰く、提督は死ぬほど不器用で世話のやける人だけど、他人の本気には本気で応えてくれるような人だって。ヘタレのくせして本音をまっすぐぶつけてくる、そんな信頼できる一所懸命な不器用だって言ってました」
朧「潮は、怖い顔をよくしているけど実はとっても優しい人だって。いつも周りのことを見てくれていて、その人たちのために何ができるかをずっと考えてくれている、そばにいてホッとできる人だって言ってましたよ」
提督「……っ///」カアアッ
朧(わっ、顔真っ赤になってる。あっ、うずくまった。本当に嘘がつけないんだな)
朧「アタシがこんなこと言ったっていうのは、二人には内緒でお願いします」
提督「……うん、大丈夫。言わないよ」
朧「……提督」
提督「?」
朧(…………)
朧「明日からも、特訓に付き合ってもらえますか?」
提督「うん、もちろん」
朧「ふふっ、ですよね。ありがとうございます! 朧をこれからもよろしくお願いします」ニコッ
[後日談]
【執務室にて】
漣「ーーご主人様は一体どんな魔法を使ったんですか」ジトー
提督「いや、そんな大層なことは……」
漣「うそおっしゃい! いくらなんでもぼーろと仲良くなりすぎでしょうがっ」クワッ
提督「うん、仲良くはなれた気がするな」
提督「でも、俺は本当に何もしてないぞ。朧が少しだけ大切なことを話してくれて、だからだよ。すごいのは朧だ」
漣「……まぁ、大体想像はつきますけどね」
漣「ご主人様のそういう一所懸命なところ、漣は好きですよー」
提督「俺も何だかんだ優しい、それでいて適度にテキトーな漣が好きだぞ」
漣「……ご主人様はよく卑怯だとかずるいとか言われませんか?」
提督「漣にはよく言われるよ」
漣「でしょうねっ、この天然たらし不機嫌提督!」ペシッ
提督「ちょっ、何でだよ」ワタワタ
[日記 三ページ目]
ご主人様には色々驚かされる。しおっちと仲良くなったときも大概だと思ったけど、今回も大概だ。あの人は素でこっ恥ずかしいことをストレートに言ったり伝えてきたりするからタチが悪い。だからこそ信頼できるんだけども。
ふと思ったけど、ようやくしおっちとぼーろが来てくれたわけで。あとはぼのぼのさえ来てくれれば第七駆逐隊が勢揃いじゃん、キタコレ!
でも、ご主人様とぼのぼのって絶対勘違いしまくるよね。誤解が誤解を生んでもう誤解のバーゲンセールやぁ! ってなりそう。めんどくさー。多分一回打ち解けたらすごい仲良くなるんだろうけどね。
……書くかどうか悩んだけど、一応書いとく。最近、ご主人様のことがちょこっとだけ気になる。何となく目で追っちゃうんだけど漣ちゃんこんな乙女だったっけ。ぐわあぁ~、アイデンティティーが崩壊するぅ! それもこれもあのご主人様ってやつが悪いんや!
明日はからかい散らかしてやろー。ふっふっふ~、明日が楽しみだぜ!
[幕間 潮との日常]
【七駆の私室にて】
潮(私は今、とても悩んでいます)
潮(というのも提督に関係していることで。提督はいつも潮に優しくしてくださいます。私と一緒にご飯を食べながら、のんびりとお話をしてくださったり)
潮(でも、私からももっと話しかけてみたりしたいなって。それこそ、お食事に誘ってみたりとか。は、恥ずかしいけど……)
潮「ーーて、提督と一緒にご飯を食べたいんだけど、どうしたら良いかな?」
漣・朧「……」
漣「ご主人様なら、ご飯食べにいこーって気軽に言えば頷いてくれるぜ、しおっち」
朧「アタシもよほど忙しくない限りは断られないと思うよ」
潮「で、でも、迷惑だったりしないかな? 私なんかとご飯を一緒にだなんて、気を遣わせちゃうだけかもしれないし……」
漣「ふっ、ないないナッシングですよ。ご主人様は間違いなく喜ぶね、潮が自分からこんなこと言ってきてくれたぜワッショイって。それでその話を漣が聞かされるとこまでがテンプレ、間違いない」キリッ
朧「普段は執務室によく顔を出してるのに、一緒にご飯を食べたいですって誘うのはダメなの?」
潮「ぜ、全然違うよ! だって、ご飯だよ? 自分から誘うんだよ? うぅ、想像するだけでも緊張して……お邪魔にならないかな……」アセアセ
朧「気持ちは分かる気もするけど、あの人ならそんな心配しなくても大丈夫だよ」
漣「うんうん、何なら執務室の前までついてって応援するのも吝かではないぜ」
潮「漣ちゃん、朧ちゃん……。ありがとう」ニコッ
潮「うん、私、勇気出してみる! て、提督と一緒にお昼ご飯を食べてみせます!」グッ
漣「おー、良いねっ。今のしおっちはすごく輝いてますぞっ」
朧「……漣、面白がってない?」ボソッ
漣「……何のことかにゃ~」フイッ
潮「潮、まいります!」
ーーーー
【執務室にて】
潮「……あ、あの、提督!」カチコチ
提督「うん。えっと、どうした?」
漣(緊張でカチンコチンになっておられる……)ソーッ
朧(提督も潮の様子がおかしいのに気付いてちょっと困惑してるね)ソーッ
潮「じ、実はお願いがありまして」アセアセ
提督「うん」
潮「そ、その、潮と、お……」
潮「お、おひ、る……」プルプル
提督「お昼?」
潮「ーーっ、やっぱり何でもありません、執務のお邪魔をして申し訳ありませんでした~!」ピュー
提督「えっ」ガビーン
漣(しおっちいぃぃぃぃぃぃぃ!! あかんかったか、プレッシャーに耐えられへんかったんかっ……)ガクッ
朧(いや誰なのそれ)
ーーーー
潮「うぅ、逃げて来ちゃった……」ズーン
漣「うん、まぁ漣も悪ノリが過ぎたというか、正直すまんかった」
朧「…………」
朧「……ねぇ、潮。提督をお食事に誘うんじゃなきゃダメなの?」
潮「え?」
朧「潮が自分からも積極的に行動しようとしているのはすごく良いと朧は思う。でも、無理をしすぎなくて良いとも思う」
朧「いきなりお食事に誘うのが難しいなら、もう少し自分のなかでこれならできるかもって思えることから始めてみるのも良いんじゃないかなって、多分」
潮「これならできるかもって思えることから……」
潮「……うん、ありがとう朧ちゃん!」
朧「あ、うん。力になれたなら嬉しいかな」ポリポリ
潮(今の私にもできること。何なら私にもできるかな……)
ーーーー
【執務室にて】
潮「……」ジーッ
提督「……」カキカキ
提督(めちゃくちゃ見られてるな……。何か気になることでもあるのだろうか。でも下手に声をかけてまた逃げられてもアレだし)
潮「……」ジーッ
提督「……」カキカキ
提督「……ん」コキッ
潮「……!」ピーン
潮「て、提督!」
提督「う、うん。どうした?」
潮「そ、その、もし潮でもよろしければ、肩を……」アセアセ
提督「肩たたき、してくれるのか?」
潮「は、はいっ」コクコク
提督「……ふふっ。うん、それじゃ頼もうかな」
潮「あ、ありがとうございます! 潮、頑張りますっ。……提督、もし痛かったりしたら、すぐに言ってくださいね」
提督「ん、分かった」
ーーーー
潮「……」モミモミ
提督「……」
潮(すごくリラックスした表情してる。ちゃんと上手くできてるみたいで良かった)
潮「……気持ち良いですか?」モミモミ
提督「……うん、すごく上手だと思う」コクッ
潮「……ふふっ、良かったです」モミモミ
潮「…………」モミモミ
潮(今なら、言えそうな気がする。うん、少し怖いけど、伝えてみよう)
潮「あ、あの、提督」
提督「うん」
潮「もし、よろしければなんですけど、その、今日のお昼ご飯を……」
潮「ーーっ、う、潮と一緒に食べてくれませんか!」
提督「……」
潮「……」プルプル
提督「……この前はそれを言おうとしてくれてたんだな」ポンッ
潮「え、あ、はいっ///」
提督「ありがとう、すごく嬉しい。もうすぐ昼食の時間だし、少ししたら食堂に行こっか」ニコッ
潮「は、はい!」
潮(や、やった! すごく緊張したけど、頑張って良かったな)
潮「……えへへっ」
ーーーー
提督「ーーということがあってな」
漣「うん、知ってる。漣ちゃん超知ってる。だって昨日もしおっちからめっちゃ聞いたもん」
提督「そうなのか? まぁもう一回聞いてくれ漣ちゃん」
漣「ちくしょー、離せー! どうしても話したいなら漣ともご飯を一緒に食べること、そしたら許してやんよ!」ビシッ
提督「じゃあそうするか。それで昨日の話なんだが……」
漣「何か納得いかねー!」
[不機嫌提督の悪戦苦闘]
【執務室にて】
漣(とうとうこの時がやってきたか~)
漣(毎日のように建造やら出撃やらを繰り返して数ヵ月、来る日も来る日も汗水たらして頑張り)
漣(時には大破したりと大変なこともありましたが……)
漣「第七駆逐隊勢揃いじゃーい! まったく遅いぜぼのぼの~!」ギュッ
曙「ちょっ、引っ付くな! そんなに喜ぶことでもないでしょ」ツーン
漣「なに言ってんのぼのぼの、めっちゃ嬉しいに決まってるじゃん!」ニパッ
曙「そ、そう。まぁ、悪い気はしないけどね。あたしも漣たちに会えて、一応は嬉しいし……」ボソッ
漣「ぼのぼのは相変わらず素直じゃないな~」
曙「う、うっさい! アンタこそ相変わらずおちゃらけてるわね」
漣「いやぁ、それほどでも」テレッ
曙「ほめてないわよ」ジトー
提督「あー、曙」
曙「……」ピクッ
提督「その、これからよろしくな?」ムスッ
曙「ふんっ。あたしは特型駆逐艦の曙よ。っていうかこっち見んな、このクソ提督!」キッ
提督「うっ」ガーン
曙「用がそれだけならあたしはもう行くわよ。失礼するわ」
ガチャ バタン
提督「…………」ゴゴゴゴゴ
漣「あー、ご主人様? そんなにショックを受けなくても、ぼのぼのはいつも大体あんな感じだから、ね?」
提督「……おう。大丈夫だ」ゴゴゴゴゴ
漣(どう見ても大丈夫じゃないんですがそれは)
提督「漣の言う通り、ちょっと難しい子みたいだな。想像以上でビックリしたよ」ムスッ
漣「そういう子なんですよ、尖ったナイフみたいにツンツンした子ですが嫌わないでやってください! なにどぞ!」
提督「うん、大丈夫だよ。時間はかかるかもしれないけどその内仲良くなれるだろうさ」
漣「ご主人様、フラグ立てていきますね~」
提督「不吉なこと言うなよ……」ムスッ
ーーーー
漣「ーーご主人様はある意味期待を裏切らないよね、さすがっ」
提督「全然嬉しくないな」ズーン
漣「しおっちともぼーろともすぐに仲良くなれたご主人様がまさかここまで苦戦するとは」
漣(相性が悪いのか、タイミングが悪いのか。もう数週間は経つにもかかわらずご主人様とぼのぼのは少しも仲良くなれていない)
漣(ぼのぼのに厳しい反応されてそのたびに落ち込んでいるご主人様がちょこっとだけかわいくて、ついついそれを何もせず見てしまっていたのはナイショにしとこう)
漣「ご主人様も頑張ってたもんね」
漣「困っていることがあったらいつでも言ってくれと言えば、きもっ、の一言で返され」
提督「うっ」グサッ
漣「一緒にご飯を食べないかと誘えば、は? の一言で返され」
提督「ぐっ」グサッ
漣「あれだけひどい返しをされても果敢に攻めるなんて、ご主人様はそういう気質なのかとさえ思ったよね」
提督「そんなことは……」チーン
漣「よしよし、よく頑張ったよご主人様は」ナデナデ
提督「……さすがに恥ずかしいんだが」ムスッ
漣「まぁ、たまにはね?」ナデナデ
提督「うん、よくわからん」
提督「…………」
提督(曙、難しい子だ。ある意味素直なくらいの反応をしてくれているから、何を思っているかが全く分からないわけではない)
提督(一番の問題はこっちの考えていることをなかなか伝えられないことだ。個人的な話ならそれでダメージを受けるのは俺だけだから構わないんだが……)
漣「……何か心配ごとですか?」
提督「うん。杞憂ってことにできれば良いんだけどな」ムスッ
漣「ぼのぼの関係?」
提督「うん」
提督「……曙の戦闘に対する姿勢なんだが、はっきりいってかなり危険だ」
提督「良く言えば強気なんだが、悪く言えば少し無鉄砲なんだ。それに加えて自分の考えにばかり意識が向いているからこそ、状況判断に偏りがある。視野が狭いって言えば良いかな」
提督「特に危ないのは、快勝が続いたときだ。あの子らしいと言えばらしい気もするんだが、深入りする傾向が顔を出すようになる。感情に強く影響されるんだよ」
漣「……つまり、ぼのぼのが大ケガをするんじゃないかと」
提督「うん。可能性はかなり高いと思う」
提督(…………)
提督「漣、折り入って頼みがある。漣にしか頼めないんだ」ムスッ
漣「……仕方ないなぁ。ご主人様にそうまで真剣な顔されちゃ、漣ちゃんも頑張るしかないじゃん」
提督「ん、ありがとな」ニコッ
提督「さっきのこと、曙に上手く伝えられるように努力はしてみる。でも、もしそれがダメだったそのときはーー漣がフォローしてあげてくれ」
漣「かしこまりっ。漣ちゃん、任されました!」ピシッ
提督「任した!」ピシッ
[曙とほんの少しの本音]
【出撃前 執務室にて】
提督「曙、前に言ったこと、心に留めておいてくれ」ムスッ
曙「だから、そう何回も言われなくっても分かったっての! うざいっ!」キッ
曙(このクソ提督はここ数日、何回もあたしの戦い方に口を出してくる)
曙(戦い方が危なっかしいだの、もうちょっと周りにも目を向けてみてほしいだの、鬱陶しいっての。別に勝ててるんだからそれで良いでしょ)
曙(それに、いっつも怒ったような顔してるこんなクソ提督の言うことなんて信用できない。漣とか潮、朧は色々言ってきたけどあたしは騙されたりしない)
曙(どうせこんな風にあれこれ口を出してくるのも、ただ単にあたしが気に入らないだけなんでしょ。そうじゃなきゃ、あんな不機嫌な顔して話さないだろうしね)
曙「もうすぐ出撃の時間だから、失礼します!」
ガチャ バッターン
提督「……信頼してもらうことができなかった、それが俺の失態だな」ムスッ
提督「それは個人的に反省するとしてーー頼んだぞ、漣」
ーーーー
曙「ふんっ、弱すぎよ!」ドンッ
曙(よし、良い感じね。ふんっ、やっぱり大丈夫じゃない。クソ提督の言うことなんか当てにならないわね)
曙「この調子で次もガンガン……」
イ級「グギャアアァァァァァァァッ!!」ザバァ
曙「……ふんっ」
曙(見えてるわよ。そんな奇襲が通じると思って……)
曙「……っ!?」
ザバァ ザバァ
曙(包囲されてる!? うそ、そんな気配はなかったのに。目の前の敵に目を奪われ過ぎて気づかなかった……)
曙(イ級のflagshipが一体に、eliteが三体。流石にまずいかも)
イ級「アアァァァァァァッ!」ドンッ
曙「ぐっ……」大破
曙(まっずい、まともに食らった! こんなミスするなんて……)
曙(ああもう腹立つ、これじゃあのクソ提督の言ってたことが正しいみたいじゃない!)
曙「……あたしはまだやれ……」
漣「はい、ドーン! 漣もたまには真面目にお仕事お仕事~っと」ドドンッ
イ級「グウアァァァァァッッ!?」ドッカーン
曙「漣!? アンタいつの間に……」
曙(というか、flagshipとeliteを同時に撃破って……)
漣「こいつは逃げるしかないね! ほらぼのぼの、漣の肩につかまったつかまった!」グイッ
曙「あっ、うん」
漣「よーし、それじゃほいさっさ~」シャーッ
ーーーー
曙「…………」シャーッ
漣「…………」シャーッ
曙「……漣、ありがと。アンタがいなかったら、多分あたしはやられてたわ」
漣「うーん、そのありがとうはご主人様に言ってあげてくれると嬉しいかなー」
曙「はぁっ!? 何でそうなんのよ!」キッ
漣「だって漣がぼのぼのを助けに行けたのは、ご主人様からそう頼まれてたからだかんね」
曙「なっ……」
曙(どういうことよ、クソ提督が漣に? ああもう、頭の中がこんがらがってよく分かんなくなってきた!)
漣「…………」
漣「……ぼのぼの」
曙「……なによ」
漣「ご主人様はね、大切なことを伝えようとするときは大体不機嫌そーな顔するんだよ」
曙「それ、前も言ってたわね」
漣「出撃前に、かなり不機嫌そーな顔したご主人様に何か言われなかった?」
曙「それは……」
曙(言われたけど、でも、そんなの分からないじゃない)
曙「…………」
漣「ご主人様はぼのぼののことすごく心配してたよ。あと、もっと仲良くなれたらなーとかも言ってたかな」
漣「ほんのちょっとで良いから、ご主人様の話に付き合ってあげてよ」
曙「……分かったわよ」フイッ
漣「ん。そんじゃさっさと鎮守府に帰ろ~」
ーーーー
曙「……何よ」ボロッ
提督「……とりあえず、入渠だな。それが終わったら、一度執務室に来てくれ」
曙「……分かったわ」
曙(まぁ、そりゃそうよね。今回のことは、はっきりいってあたしが悪いし。怒られるのも当然か……)
ーーーー
【執務室にて】
曙「……曙です、失礼します」ガチャ
提督「おかえり。ミルクティー淹れてみたんだけど飲むか?」
曙「は?」
提督「いや、体があったまるかなと思って……」アセアセ
曙「……まぁ、せっかくだしもらうわ」
曙「……」コクッ
曙(あ、結構おいしい)
提督「……」
曙「……話があるんじゃないの?」
提督「うん。……その、ごめんな」ムスッ
曙「……は? ち、ちょっと待ちなさいよ、何でアンタがあやまんのよ!」
提督「俺は、きっと近いうちにこうなるだろうなと分かっていた。そうならないために曙にきちんと伝えなきゃいけなかったのに、それができなかったから。……本当にすまなかった」ペコリ
曙「……っ」ピキッ
曙「な、何よそれ、意味わかんないわよ! クソ提督はあたしにちゃんと伝えようとしてたでしょ!? あたしが聞いてなかっただけで、聞こうとしなかっただけで……そうよ、何であたしを責めないのよ!」
提督「……もし、曙が反省も後悔もしていなかったら、俺は本気で怒ってたよ」ムスッ
曙「……っ」
提督「曙が嫌いだからじゃなくて、やっぱり傷ついて欲しくないから。いなくなって欲しくないから、だから本気で怒る。そうできなきゃいけないとも思う」
提督「でも、もう曙はものすごく反省してるし後悔もしてるから。帰投したときにそういう顔をしてたから、本音を言うと少し安心したんだ」
曙「安心……?」
提督「うん。きっとこんな風に傷ついた曙をもう見ずに済むって。これからは、少しずつになるかもしれないけど、一緒に力を合わせられるようになっていけるかなって」
提督「だからホッとしたんだ」
曙「……何よ、それ。わかんないわよそんなの」グスッ
提督「うん、ごめんな」
曙(……何よこれ、こんな情けないところみせちゃうなんて、こんなつもりじゃなかったのに……)
曙「…………」ゴシゴシ
提督「……そう言えば、ちゃんと言えてなかったな」
曙「……何よ」ムスッ
提督「……曙が無事で良かった」ニコッ
曙「っ……あ、アンタ絶対おかしいわ。そもそもあたしのことなんて嫌いなんじゃなかったの!?」キッ
提督「嫌い?」
曙「そうよ、だってクソ提督はあたしと話すときいっつも怒ったような顔してたじゃない! だからあたしはてっきり、クソ提督はあたしのことなんか嫌いなんだって、そう思ってたわよ。違うの!?」
提督「そっか、そんな風に思ってたんだな。……俺は曙のことが好きだよ、全然少しも嫌いじゃない」ムスッ
曙「は、はあぁっ!?///」カアッ
提督「確かに色々ときつい反応をされたりしてちょっと落ち込んだりもしたけど。でも、曙はツンツンしてるから分かりにくいだけですごく優しい子なんだって、そう思ってる」
曙「よ、余計なお世話よ、うるさいわね!」キッ
提督「ご、ごめん」アセアセ
曙「…………」
曙(結局、漣たちの言う通りだったってことね。あたしは全然このクソ提督のこと分かってなかったのかもしんない)
曙「……ねえ、クソ提督」
提督「うん」
曙「何というか、その。これからはクソ提督の言うことも、少しは聞くようにするわ」
提督「そっか。ありがとう」ニコッ
曙「お、お礼なんていいから! そ、それと!」
曙「……し、心配かけてごめんなさい」ペコリ
提督「…………」キョトン
曙「……ちょっと、そんな顔しなくても良いでしょ!?/// 人がせっかく素直にあやまってんのに!」バシバシ
提督「ご、ごめん、ついっ」ワタワタ
曙「……プッ」フフッ
曙「全くもう、本当にアンタなんてクソ提督よ、このクソ提督っ」フイッ
[後日談]
【食堂にて】
曙「ふーん、クソ提督はカツ丼が好きなの?」
提督「うん。もしかしたらあらゆる食べ物の中で一番好きかもしれないな」パクパク
提督「曙は何が好きなんだ?」
曙「そうね、あたしは和食なら基本的に何でも好きかな。最近のお気に入りは今食べてる焼き鮭定食よ。塩加減が絶妙なのよ」
提督「へー。今度頼んでみるよ」
曙「ふふん、そうしなさい。きっとあまりの美味しさにびっくりするわよ」ニカッ
漣「……二人とも仲良くなったみたいで良かった良かった。一時はどうなることかと思ったけど」ボソッ
潮「……うん。今では二人でもお話てきるくらいだもんね」ボソッ
朧「……朧は提督なら何の心配もいらないと思ってたけど、やっぱり心配いらなかったね」ボソッ
曙「ちょっと、聞こえてるわよ」キッ
漣「何だよぼのぼのー、せっかく二人の時間を邪魔しちゃいけないと思って気をつかってたのに~」ブーブー
曙「へ、変なこと言うな! ふ、二人の時間って何よ!」
提督「……ふふっ」
曙「……何笑ってんのよクソ提督」ジトー
提督「いや、楽しいなと思って」ニコッ
曙「……そ。ま、まぁあたしもクソ提督と一緒にいるのは嫌いではないけどね」テレッ
漣「照れんなよぼのぼの~」
曙「アンタ今過去最高にうざいわよ、漣」イラッ
漣「正直すまんかった、めんごめんご」
曙「コイツ……っ」
[日記 四ページ目]
ぼのぼのもご主人様と仲良くなって、一件落着ってとこかな。今回はちょっと大変だったけど、これからは楽しくやっていけそうで良かったでござる。
さーて、ここで一つ大事なお話があります。前のページにも一応書いたは書いたんだけど、改めて。
どうも漣はわりと本気でご主人様のことが好きになりつつあるらしい。
とはいっても別にこれといったきっかけがあったわけでもなく。一緒にいる内に色んなところが見えるようになってきて、少しずつご主人様を好きになっていった感じだ。
ご主人様と一緒にいるとすっごく楽しい。バカなこと言ってるだけでも何だか幸せだし、たまに優しく笑いかけられるとむず痒くなって、でもやっぱり嬉しい。これが恋ってやつなのだろう。胸の辺りがすごく忙しい。
あー、すっごいらしくないこと書いてるのは自分でも分かってるんだけどな~。くまったくまった。よもや漣がこんな風に誰かを好きになろうとは。ご主人様には責任を取ってもらいたいもんですよ。
これからもご主人様と一緒に居られたらいいなー、なんてことを考えてる今日この頃の漣でした。
[幕間 不機嫌提督とある日の風景]
【鎮守府内 庭園にて】
提督「…………」ボーッ
漣「……ご主人様、こんなところでどしたの? ひなたぼっこ?」
提督「漣。うん、今日は暇があったからちょっとな。天気も良いし何となく」
漣「ふーん。ちょいとお隣失礼しますよっと」ストン
提督「ん。どうぞ」
漣「そんで、ご主人様はよくここに来るの?」
提督「そうだな。考えごとがあるときとかちょっとのんびりしたいときなんかに来るかな」
提督「雰囲気も良いし、ほどよく静かだからすごく落ち着くんだよ」
漣「……もしかして、漣ちゃん今、邪魔しちゃったりしますかね」
提督「邪魔?」キョトン
提督「……あぁ、なるほど。ごめんごめん、そんなことないよ。空母とか戦艦の人だったらちょっと困ってたかもしれないけどさ」ニコッ
漣「漣ちゃん今、スーパー複雑ですよ」
提督「えっ」
漣(相変わらずその辺はちょっとにぶいなー。恋愛とかには疎い感じだもんなー)
漣(そういや恋愛経験とかってあるのかな。うわっ、めちゃくちゃ気になる! 聞いたら教えてくれるかなー)
提督「そういえば、漣はどうしてここに?」
漣「ご主人様の姿が見えなかったんで、どこに行ったのかなーと。そこら辺をほっつき歩いて探してたら、こんなところにいたわけですよ」
提督「……もしかして、何か緊急連絡とかがあるのか?」
漣「へ? いや、ないけど……」
提督「…………」
漣(何でこんな驚いた顔してるんだろ。漣何か変なこと言ったっけ?)
提督「……ふふっ。そっかー」ニコニコ
漣(おおう、びっくりするくらい笑顔だ。ここまで嬉しそうなご主人様は珍しいな)
提督「漣、ありがとな」ニコッ
漣「え、それは何のお礼ですか」
提督「いいからいいから。何かすごく嬉しかったんだよ」
提督「……うん。やっぱり俺は漣と一緒にいるときが一番楽しいし、一番嬉しいな。あとすごくホッとする」
漣「……っ///」カアッ
漣(このご主人様はほんっとうにもう! 何でこう、こんな恥ずかしいことを言えちゃうかな。くあぁっ、心臓バクバクする~……)
漣「……いきなりどしたのご主人様」
提督「んー、伝えたくなったからかな」
漣「そっかー。まぁ、漣もそう言われて悪い気はしないけどね」
提督「ん、なら良かった」
漣(…………)
漣「ご主人様ー」
提督「んー」
漣「またここに来るときは、漣も誘ってよ。たまには一緒にのんびりしたいし、ね?」
提督「……うん、分かった」フイッ
漣(ここはちょっと恥ずかしそうにするのね。よくわかんない人だなー、もう)
漣(……そんなところも好きだと感じちゃうあたり、漣も大概だな~)
[幕間2 朧と真心のプレゼント]
【鎮守府近辺にて】
朧(提督が朝の特訓に付き合ってくれるようになってからもう随分長くなる)
朧(少し前までに比べると仕事量もどんどんと多くなってきているみたいで、提督も毎日は来られないようになってしまった)
朧(それでも何とかして時間を作ってくれているみたいで、週に一度は必ず顔を出してくれている)
提督「ふぅ。うん、良い汗かいた」
朧「提督、今日もお付きあいいただいてありがとうございました」ペコリ
提督「ん。俺も運動不足が解消できてちょうど良いから」ニコッ
朧(提督はいつもこう言って微笑んでくれるけど、本当は気にかけてくれているんだと思う)
朧(……そういえば、朧の方から何かをしたことってあったかな? いつも貰ってばかりいる気がする)
朧(朧からも何かを返せたら、それはすごく素敵かもしれない)
朧(……少し考えてみようかな)
ーーーー
【七駆の私室にて】
朧「ーー提督に何か、日頃の感謝も込めてプレゼントをしたいんだけど、提督って何が好きなのか知ってる?」
朧(七駆のみんなにそう聞いてみると、曙が真っ先に手を上げた。ちょっと意外かな)
曙「あたしはカツ丼でも作ってあげれば大喜びすると思うわ」
漣「ぼのぼの雑ぅー! 乙女のプレゼントにそれはあかんですよ!」
朧(アタシも流石に手作りのカツ丼をプレゼントにする勇気はないかな。それでも喜んでくれるような気はするけど)
朧「潮はどうかな。何かある?」
潮「うーん……。あ、そういえば提督は甘いものが大好きだって言ってたよ!」
朧「そうなの?」
潮「うん。普段も間宮に行って、時々アイスを食べてたりするんだって」
朧「へぇー、何だか提督らしいかも」
朧(手作りのお菓子をプレゼントにするーーうん、良いな。きっと提督はすごく喜んでくれる。多分)
朧「甘いものか。手作りにするとしたら、何が良いかな」
漣「甘いものの定番といえばやっぱりチョコじゃないでしょーか!」ビシッ
曙「バレンタインでもないのにチョコ渡すの?」
漣「たかがチョコでしょうがっ! 渡したいときに渡したいだけ渡せばええんやでぼのぼの!」グッ
曙「何であたしに言うのよ! っていうかどう考えてもその発想はおかしいでしょ!」
潮「もう、二人とも! 真面目に考えなきゃダメだよ!」プンプン
漣・曙「ごめんなさい」
潮「もぉ……。えっと、甘いものを手作りで渡すんだよね? だったらクッキーとかが良いんじゃないかな」
朧「なるほど、クッキーか。うん、良いね! うまく作れるかは、ちょっと不安、でもないけど……」
潮「大丈夫だよ、私たちも協力するから! ね?」
曙「え、あ、うんそうね。あたしの手にかかればクッキーくらいなら一日もあれば余裕よ、任せなさい!」
漣「まぁ、面白そうだし漣も手を貸してやりますよ! ぼーろのためだかんね」
朧(頼りになるような、ならないような。でもみんなが力を貸してくれるのは素直に嬉しいな)
朧「ありがとう、みんな。アタシ、みんなの気持ちを無駄にしないようにがんばる!」
潮「うんっ!」
朧(よーし、頑張ろう! 絶対に成功させてみせる!)
ーーーー
【執務室前にて】
朧(みんなに相談して、その二日後)
朧(曙がちょっとコゲコゲのクッキーを作ったり、漣がやる気さえ出せば、意外と器用にお菓子作りができると判明したりと、色々なことがあり)
朧(みんなの力を借りて、やっと手作りのクッキーを完成させることができた)
朧(後は、渡すだけ。大丈夫、やれるだけのことはやったはず。多分……)
潮「大丈夫だよ朧ちゃん、あれだけ頑張ったんだもん」
曙「そうよ、これで文句を言うようならあたしがクソ提督をぶっ飛ばしてあげるから」
漣「ご主人様の好みもバッチリおさえてあるし問題ナッシング、ぼーろなら行ける!」グッ
朧「あはは、ありがとう。ーーうん、行ってくる」
朧(深呼吸をして、よし)
朧「提督、お時間よろしいでしょうか!」コンコン
提督「ん、どうぞ」
朧「はい、失礼します!」ガチャ
朧(う、すごく緊張してきた。落ち着けアタシ、予行演習は頭のなかで何度もしてきたはず)
提督「えっと、どうしたんだ?」
朧「はい。その、ですね。提督は甘いものがお好きなんですよね?」
提督「ん? うん、そうだな」
朧「それで、その。……これを作ってみたのですが、も、もしよかったら!」バッ
提督「あ、ありがとう。これは、クッキー?」
朧「は、はい! バニラクッキーとチョコクッキーの二種類が入ってます」アセアセ
提督「これを手作りで……」
朧「その、提督にはたくさんお世話になっているので。何かお返しがしたくて、それで……」
朧(ま、まともに提督のお顔を見ることができない。今どんなお顔をしてるんだろう)
提督「……朧」ポン
朧「あ……」
提督「ありがとう、すごく嬉しい」ニコッ
朧「は、はい!///」
朧(顔が熱い。でも、頑張った甲斐があったな)
朧「……提督」
提督「うん」
朧「頑張るので、これからも朧のことをよろしくお願いします!」
提督「ん、もちろん」ニコッ
[不機嫌提督と恋の噂]
【執務室にて】
青葉(青葉、気づいちゃいました!)
青葉(最近、鎮守府内で司令官に関する恋バナがとっても多くなってるって。もしここで司令官の想い人の名前なんかを聞き出せちゃったら、きっとスクープ間違いなし!)
青葉(というわけで、早速インタビューです!)
青葉「司令官は想いを寄せておられる方とかはいないの?」
提督「……好きな人、か」ムスッ
青葉「お、意味深な反応。その感じだといらっしゃるんですね? 教えて下さい、ぜひぜひっ」
提督「んー、そうだな。どんな感じの人か、なら」ポリポリ
青葉「おぉー、お願いします! わくわく」
提督「まず、明るい子かな。それで、少し話し方に特徴があって、でも何だか愛嬌があるんだよ。あと、話しててすごく楽しい子かな。何時間でものんびりと話していられるような、そんな子なんだ。それと、笑顔がものすごくかわいい子だよ。うん、そんな感じかな」
青葉「…………」
青葉(お、思っていた以上に本気、というかベタ惚れだ! しかもこの内容、やっぱり司令官の想い人って……)
提督「青葉?」
青葉「あ、いえ! 司令官はその誰かのことがとっても大事なんだなーって思って」
提督「大事、そうだな。すごく大切だよ」
青葉(き、聞いているこっちが恥ずかしくなるよ~! ひとまず戦略的撤退です!)
青葉「青葉、大事な用事があるので失礼します!」シュビッ
提督「ん」ヒラヒラ
ーーーー
【後日 廊下にて】
漣「ご主人様の想い人……」
漣(廊下に張り出されていた青葉新聞の見出しが目に入ってきた途端、思わず呟いてしまった)
漣(あくまで、ただの噂だけど。そっかー、ご主人様にも好きな人とかいたのか)
漣(そりゃそうだよね。綺麗な人とかたくさんいるし。当たり前のことではあるんだけど、でも、思った以上にダメージあるなぁ……)
潮「……漣ちゃん?」
漣「へ?」
漣(いつの間にかしおっちが隣にいて、漣の方を心配そうにのぞきこんでいた)
潮「えっと、大丈夫? 声をかけても全然返事がなかったから……」
漣「あー、うん。へーきへーき、ちょっと徹夜明けなだけだから」タハハ
潮「そうなの?」
漣「そーです。明日あたりには元通りになってるから気にしないでくれい、しおっち」
潮「う、うん。分かった……」
漣(ちっとも納得してない感じでしおっちが頷く。まいったなー、そんなに顔に出ちゃってるのかな)
漣「そんじゃ、漣ちゃんは失礼しますぞー」
漣(しおっちにじっと見つめられていると心の中が見透かされてしまいそうで、慌ててその場から逃げ出してしまった)
漣(漣らしくないったらありゃしない。くまったくまった)
漣(……はぁ。ホント、まいったなー)
ーーーー
【執務室にて】
漣「ご主人様、すっごい噂になってますよ。ご主人様に好きな人がいるたらなんたらって」
提督「……みたいだな」
漣「まったく、だから青葉さんには気を付けた方が良いって言ったのにー」
提督「いや、つい……」ポリポリ
漣(後ろ頭をかくご主人様を見つめる。軽口を叩きながらも、頭はグルグルと色んなことを考え続けていた。……ご主人様の好きな人、か)
漣(…………)
漣「……ご主人様の好きな人って、やっぱり空母とか戦艦の人なんですか?」
提督「ん? いや、違うよ」
漣(あれ、てっきりそうだとばかり思ってたのに違うのか。でもそうなると、本当に誰なのか分かんないな)
提督「…………」ジーッ
漣「……」ウーン
提督「……俺の好きな人、というか一番大切に思っている人は」
提督「今までもずっと一番近くにいてくれて、今も一番近くにいる人だよ」ムスッ
漣「……へ?」
漣(考えごとをしてたせいで聞き逃しかけたけど、今のってもしかして……)
漣「あの、ご主人様。それって……」
提督「……今は、ここまで。どういう意味かは漣に任すよ」ムスッ
漣「あー、ずるい!」
漣(口では文句を言いながらも、体の中はドクンドクンといううるさい音で満たされていた。うぁ、体が熱い、ぬあー!)
漣(……本当に、自惚れでなければだけど。ご主人様の好きな人っていうのは、もしかすると……)
漣(だとしたら、漣の気持ちは? 先のことだとばかり思ってあんまり真剣に考えてこなかったけど……)
漣(うん。一回、きちんと考えてみよう。そしたら多分、色々と覚悟を決められるような気がする)
[漣とたゆたう恋心]
【夜 七駆の私室にて】
漣(……もし、ご主人様の想い人っていうのが漣のことだったなら)
漣(漣はどうしたいだろう。やっぱり恋人になりたいのかな)
漣(でも、漣は何というか、ただご主人様のそばにいたいだけというか。キスがしたいかとか聞かれると、正直よくわからない)
漣(よくわからないけど、想像すると心臓がバクバクして張り裂けそうになる。ドキドキが止まらなくなる)
漣(ほかにも、ご主人様の手を握ってる自分を想像したり、ギュッっと抱きしめられてる自分を想像してみたり)
漣(そういうこと全部、恋人がすることだっていうなら。そして恋人じゃない人はできないことだっていうのなら、漣はご主人様にとっての特別になりたい)
漣(ーーそっか、好きなんだな。うん、自分に嘘が吐けなくなるくらい、どうしようもなく好きになっちゃったってことなんだろう)
漣(もし、ご主人様の好きな人が漣でなかったとしても。多分、今のこの気持ちはきちんと伝えるべきだ)
漣(ものすごく不安で逃げ出したいような気持ちもあるけど、そうしたらきっと後でものすごく後悔する)
漣(よし、決めた! 近いうちに必ず、ご主人様に伝えよう)
漣(ーーあなたのことが大好きですって)
[日記 五ページ目]
今のこの気持ちは、きっとものすごく大切なものだと思うから。だから、ここにきちんと書いておく。
漣はご主人様のことが大好きだ。すっごく大切に思ってる。何でって聞かれると困るけど。何でだろうなー。最初の印象なんかは最悪だったはずなのに。
でも、ご主人様は意外と朗らかな顔で笑う人だって知って。そのあとも、不器用なくせして不機嫌そーな顔で一所懸命に話すご主人様が何だか良いなって思って。何でもない会話が何でかすごく楽しくて。
ずっと近くで見てる内に、大切な人になっていた。きっと、あの人がたくさんのものをくれたからだ。
漣らしさがどうのこうのなんて、バカバカしい。そんなことよりもっと大切なものだもんね、この気持ちは。恥ずかしくって全然漣らしくなんかなくって、でもそれで良い。
ご主人様がいつもそうしてくれたみたいに、今回くらいは漣も一所懸命に伝えよう。だからまぁ、ちゃんと聞いてよね、ご主人様。
[漣と大切な気持ち]
【七駆の私室にて】
漣(ご主人様が大好きだってこと。整理がついたこの気持ちを七駆のみんなにはきちんと伝えておくべきだろう)
漣(特に、しおっちには心配もかけちゃったみたいだし。ちゃんと話しておかなきゃ)
漣「ーーあー、その。みんなに聞いてもらいたい大切なお話があるんだけど」
漣(そう切り出すと、なぜかみんな少しホッとした表情になってから、三人で顔を見合わせて笑った。うわ、嫌な予感がする)
曙「ふーん、そう。やっと気持ちの整理がついたわけね」
漣「え」
曙「いっとくけど、あたしたち全員アンタがクソ提督のことを好きなことくらい気付いてるわよ。っていうか、よっぽど鈍くない限り分かるし」
漣「何だと……っ」ガーン
漣(ぼのぼのに言われるとは、ぐぬぬ。そんなに分かりやすかったのか……)
潮「最近の漣ちゃんは暗い顔してたから。でも、今はすごく明るい顔してる」ニコッ
漣「あー、その。何というか、心配かけてたみたいですいませんでした」ペコリ
曙「まったくよ。あんまりらしくない顔しないでよね」
朧「……それで、どうするの?」
漣「細かいことは決めてないけど、近いうちに伝えようとだけは」
みんな「「「おー!」」」
曙「何というか、アンタ本当にクソ提督のことが好きなのね」
漣「よしぼのぼの、その話はそこで終わりにしよう」
潮「それで、漣ちゃんは提督のどんなところを好きになったの?」キラキラ
漣「うわー、やめろー!///」カアッ
ーーーー
【廊下にて】
漣(結局、みんなに根掘り葉掘り色々な話をさせられてしまった)
漣「うぅ、ひどい目にあった……」
潮「ご、ごめんね。つい気になって……」アセアセ
漣「いや、まぁ良いよー」
漣(…………)
漣「ねぇしおっち。さっきは聞けなかったんだけどさ」
潮「え、うん」
漣「その、しおっちはご主人様のことをどういう風に思ってるのかなーと」
潮「それは……」
潮「ーーうん。漣ちゃんほどではないけど、好きだと思う」
漣「……」
潮「でも、無理してるわけじゃないよ? もし提督を好きな気持ちが、漣ちゃんに負けないくらい強くなることがあったらーーそのときは負けないもん」
漣「……そっか。そんときは、漣も負けないよ」ニッ
潮「うんっ」ニコッ
ーーーー
【執務室にて】
提督「んー……」ムスッ
漣(あー、また何か考え込んでるなー)
漣「ご主人様ー」ヒョコッ
提督「あ、漣」
漣「それで、今度は何を悩んでたんですか?」
提督「……そんなに分かりやすいか?」
漣「漣だってずっと近くでご主人様を見てきたかんね。それくらいはね」ニカッ
提督「……かなわないな」ポリポリ
提督「でも、悩み事ってほどでもないんだ。ただ、それをするタイミングってものがよくわからないっていうかさ」ムスッ
漣「うん、何言ってるのかサッパリです」
提督「……よし、決めた。漣、明日一日、俺に付き合ってくれないか?」
漣「良いけど、何するんですか? デートのお誘いなら漣も吝かでもないけど」
提督「えっと、前に言ってくれただろ? 庭園に行くときはまた誘ってくれって。久しぶりにあそこで漣とのんびりしたいんだ」
漣「ほほう、仕方ないなー。付き合ってあげますよ」
提督「ん。ありがと」
ーーーー
【鎮守府内 庭園にて】
漣「相変わらず静かですねー」ボーッ
提督「そうだなー」ボーッ
提督「…………」
漣「……」ジーッ
提督「……よし。漣、実は一つ大切な話があってな」ムスッ
漣「うん」
提督「大本営の方から、すごく大切な指令がきてるんだよ。どうするべきかって悩ませるようなやつが」
漣「指令?」
提督「うん。説明が難しいから簡単に言うと……これを渡す相手を決めろって」スッ
漣「これは、指輪?」
提督「うん」
漣「あー、なるほど。ケッコンカッコカリってやつですか」
提督「そうなんだ。少し前に文書と一緒に送られてきてな」
漣「ははぁ、この指輪を誰に渡すかで悩んでいたと」
提督「……いや、誰に渡すかは最初から決まってたんだ」
提督「ただ、いつ渡すべきかが分からなくて……覚悟が決まらなくてな。今日まで先伸ばしにしてしまった」
漣「……ふふっ、そうですか。ちょっとご主人様らしくないですねー」
提督「多分、いつもは一番に相談する誰かに相談できなかったからだな」フフッ
提督「……えっと、漣」
漣「うん」
提督「俺は漣のことがものすごく大切で、大好きだ。恋愛感情がどうのとかはよくわからないけど、漣と一緒にいられる時間が一番大切で、一番好きなんだ」
提督「俺はこの指輪を、これからも一緒にいてほしいって一番強くそう思える相手にしか渡すつもりはない。ーーだから、これを漣に受け取ってほしい」
漣「……」
漣「漣も、ご主人様に大切な話があるんだけど、聞いてくれる?」
提督「うん」
漣「ん、ありがと。えっと、そうだなー。少し前に提督の好きな人がうんちゃらって噂になったことがあったじゃん?」
漣「あのとき、それがすごいショックでさ。ご主人様に好きな人がいるのかー、じゃあ漣はもうご主人様のそばにはいられなくなるなーって」
提督「……うん」
漣「それでやっと、色々と気持ちに整理がついたっていうかさ。一晩中アホみたいにあれこれ考えて、あぁ、こんなにご主人様のことが好きなんだなーって」
漣「ーーご主人様はそりゃもう不器用だけど、でも漣は、不器用なりに一所懸命に気持ちを伝えてくれるご主人様のことが大好きです! 超好きです!」
提督「……っ///」カアッ
漣「へへっ、やっと言えたー! 漣もずっとこれが伝えたかったんですよ」テレッ
提督「えっと、そうなのか?」
漣「うんっ、えへへっ」
漣「……さっきの指輪、受け取っても良いですか?」
提督「うん」スッ
漣「……あ。でも漣、まだ練度が最大にまでいってないから……」
提督「と思って、ほら」ジャラ
漣「あ、もしかして、だからネックレスみたいにしてあったと」
提督「うん」
提督「……よし、着け終わったぞ」
漣「おー。えへへっ、今はまだ首に下げておくけど、練度が最大になったらそのときはご主人様がつけ直してね!」ニカッ
提督「ん、分かった」ニコッ
漣「……おりゃー!」ダキッ
提督「わ、っと」ギュッ
漣「えへへっ、あったかー」ギューッ
提督「……そっか」テレッ
漣「これからも末長く漣のことよろしくお願いしますね、ご主人様!」ニカッ
提督「ん。こちらこそよろしくな」ニコッ
[日記 六ページ目]
ーーというわけで、漣の告白は無事上手くいきましたとさ!
あー、何だかもう心の中が色々とまぜこぜになっててよくわからない。ご主人様に大好きだって言われてからずっと心がふわふわしてるというか。すごい変な感じ。
ただすっごく幸せだ。これからはずっとご主人様と一緒にいられるんだなーって。ものすごくあったかい気持ちがする。変な笑いも止まらないし、今の漣は絶対変な顔してるだろうなー。
さてっと。この日記とも今日でお別れかもしんないなー。そろそろ残りのページも少なくなってきたし。
もしこの日記にタイトルをつけるとしたらどんなのが良いだろ。結局ご主人様のことばっかり書いちゃったような気もするしーーうん、こんなもんかな! これでこの日記はひとまず終わりっと!
[おまけ 後日談]
【七駆の私室にて】
漣「ーーとまあそんな感じで、ご主人様と無事にいい感じな関係になってきました!」
潮「うわー、おめでとー!」
朧「良かったね、漣」
曙「まぁ、皮肉とかじゃなくて素直にお似合いの二人だと思うわよ」
漣「へへっ、ありがとー!」テレッ
潮「でも、そっかー。漣ちゃんと提督はもう恋人なんだよね」
漣「そうはっきり言われると恥ずかしいけど、まぁ、うん」
潮「それじゃ、そのうちキスとかもしちゃったり……」
漣「ぶっ、いや、それは……っ///」カアッ
朧「というか、朧はてっきりキスくらいは済ませてくるものかとばっかり思ってたけど」
漣「う、別に焦る必要もないし、まぁいいっしょ?」アセアセ
曙「……ピュアかっ!」
[epilogue]
漣「うわー、なつかしー」ペラペラ
提督「それは?」
漣「んー、ふっふっふ~。知りたい?」
提督「うん」
漣「そっかー。まぁ、ざっくり言うと……」
漣「漣がまだ、指輪をここにつけてなかったときの日記かな!」キラッ
少し駆け足になってしまった感もあるけど、この物語はこれでひとまず終わりです。
こんなシーンがあっても面白いかなというものも頭の中にはいくつかあるのですが、もしかしたらおまけとして書き足すかもしれません。
コメントをしてくださった方、ありがとうございます。その一つ一つにとっても感謝してます。評価や応援をくださった方にもすごく感謝です。
思っていたよりも多くの方に読んでいただけてとても嬉しかったです! もしよろしければ、また次の物語でお会いしましょう。
乙
名作になりそう
続き待ってます
これはかなりの期待作だな
漣の良さと潮ちゃんの可愛さが伝わってきますね。
提督よ!
君が一番可愛いよ。
ハッピーエンドの条件は
不器用でも誠実であり続ける事さ
第七駆逐、可愛い……あっ、憲兵さん、誤解しないでください。
提督と漣のやり取り、面白かったです!
読んでて癒されましたわぁ……
続きを期待せざるを得ない状況……次も楽しみにしています。
頑張ってください。
名作…
めっちゃええわ....