2018-07-06 10:40:47 更新

概要

chirutan.txt_4の続きです。10万字があまりにも遠い。


前書き

ちるたん「ヒロインはわたしなのよー」
ゆいゆい「主人公はわたしです」


239-1

マスター「じゃあれーちゃん、行ってくるわ。店をよろしく」

れーちゃん「はい、楽しい旅を」

ルイ「じゃあご案内しましょう」

マスター「はは、お言葉に甘えて」


239-2

マスター「ここが空港かぁ。随分遠くまできたもんや」

ルイ「ここから更に遠くまで行くんだよ」

マスター「飛行機は移動手段やしな」

ルイ「夜に飛んで昼に着く。そして夜まで寝る。なんと素敵なことでしょう」

マスター「るーちゃん、気遣いありがとう」

ルイ「最初はなかなか慣れないものだからね。徐々に光を浴びていこう」

マスター「ゆーてあれやな。時間感覚的にはいつもと逆になるんか」

ルイ「時差だね。慣れない内は昼に目が覚めるかも」

マスター「自分の思うように過ごせないなら、祖国でも何でもないわ」

ルイ「わたしも日本に来た時は起きるの遅かったよ」

マスター「るーちゃん、寝なかったんちゃうん」

ルイ「そんな日もあったね。あっ、そろそろ並ばなきゃ」

マスター「誰も並んどらんのに、流石るーちゃん、行動が早いわ」

ルイ「先んずるはなんとやらだよ。まあ指定席だけどね」

マスター「遅れるよりは早い方がええしな」


240-1

霞「あら、先輩じゃないですか、こんにちは」

ちる「こんにちは、お仕事…ですか」

霞「お仕事体験、本物のナースです。今日は何でしょう、診察ですか」

ちる「はい、また悪化したみたい、です」

霞「内科ですか。はい、二階へどうぞ」

ちる「はい、いってきます」


240-2

ポルトナ「玄那、暇していますか」

玄那「今、忙しい。ポルたんは一人か」

ポルトナ「はい、ちるは病院に行きました。読書は楽しいですが、玄那とも遊びたいです」

玄那「ふーっ、終わったぁ。よしよし、何か探してみよう」

ポルトナ「玄那、この束は何です?」

玄那「百人一首だ。二人でやってもつまんないだろう」

ポルトナ「これやこの」

玄那「坊主ですか」

ポルトナ「成程、色んな歌があるものですね」

玄那「カラオケで歌ってくるか」

ポルトナ「玄那は屹度ノリノリで歌います」

玄那「ノリノリで歌えるもんか、おお、これはこれは」

ポルトナ「ジェンガですね」

玄那「よし、わたしの端っこ取りを思い知れ」

ポルトナ「いきなり下がグラグラです」

玄那「できるだけ多く乗せるには、駄目だ崩れそう」

ポルトナ「玄那、崩れる前にやめるのです」

玄那「本当だ、これは駄目だ」

ガッシャーン

玄那「いたストがあるな。オリキャラ作って放置してあるやつか。まあいいや」

ポルトナ「待ってください、気になります」

玄那「DS何処行ったかな。本体がなきゃ遊べない」

ポルトナ「見つからないなら仕方ないです」

玄那「あれは神だった」

ポルトナ「今度遊んでみたいです」

玄那「出てきたら貸そう。何百時間やったことだろう」

ポルトナ「やり込みですか」

玄那「個人的には大はまりだった。ヨーヨーが出てきたyo」

ポルトナ「これはどう遊ぶのですか?」

玄那「こう指に嵌めて、振り回すんだろう?球の部分を転がす犬の散歩とかできない」

ポルトナ「成程、こうやるのですか」

玄那「すごいな、けん玉とかも出来そうだ」

ポルトナ「適当にやってたら、それらしくなりますね」

玄那「椎木先輩はやらんよな。これは才能だ」


241

八城「こたつぬくぬく」

ゆい「冬も終わりですね」

八城「雪降ってたけどね」

ゆい「名残惜しいですね。寒いの嫌いですけど」

八城「あったか春は良いよね」

ゆい「寒い中よりは暖かい中で死にたいですね」

八城「春は眠くなるだけだよ」

ゆい「春眠暁を覚えず、ですね。春麗らかに、新たな生命が産声を上げるのです」

八城「お花畑でお昼寝したいな」

ゆい「秘密の花園とやらは……高砂さんなら知っているでしょう」

八城「いつも上から見ているもんね」

ゆい「よく見えることでしょう、この町も。いえ、この町も豆粒かもしれません」

八城「どんだけ飛んじゃってるのさ」

ゆい「陸地を大きく外して海に落ちるのが高砂さんですからね」

八城「ドジっこだね」

ゆい「寝不足ですね。居眠り飛行ですね」

八城「箒って大変なんだね、あはは」

ゆい「………」

八城「ふぁぁ、何だか眠くなってきたよ」

ゆい「構いませんよ。熱いので足気を付けてくださいね」

八城「ふぁっきゅー」

ゆい「兄さんの子どもも時間の問題です」

八城「ゆいちゃん、おっぱい出るの?」

ゆい「何を夢のようなことを。わたしも寝ますね」

八城「お昼なのに電気点けてたんだ」

ゆい「そういった小さな心掛けは必要ですよね…いつのまに隣に!?」

八城「にゅふふぅ、良いではないか良いではないか」

ゆい「そこは純粋が良いのです」

八城「こうしたら温かいよとかそんな台本はないよ?」

ゆい「あれぇ、いつからそんな」

八城「こたつは元々温かいからね。ゆいちゃんの温もりも魅力的だね」

ゆい「いつになく棒読みですねぇ」

八城「あはは、冗談だよ」

ゆい「調子狂いますね」

八城「やっぱり普通のゆいちゃんが一番だね」

ゆい「ちょっと頭冷やしてきます」

八城「じゃああたしは寝とくね。おやすみー」

ガララッ

高砂「温かしょーな部屋だなー」

ゆい「高砂さんも入ります?今ならわたしの扱いに慣れてきた彼女がついてきますよ」

高砂「ははは、しゃちょー。ゆーじんならとーぜんだろー」

ゆい「八城ちゃんも長い付き合いですからね。昔とまるで変わらない」

高砂「でもゆーじんか。良いものだな、羨ましー」

ゆい「高砂さん、他人を信用しなさそうですからね」

高砂「他人のしんよー以前にけんきゅーは一人でやるもんだ。ざいりょーもさいしゅーする」

ゆい「みんな自前ですか」

高砂「自前とゆーより自然の力がしゅごい。しゃちょーなら分かる筈だ」

ゆい「私見としましては、自然ありきですね。自然崇拝は人間として当然なすべきです。母なる大地に感謝することです」

高砂「自然の力をりよーすることでけんきゅーができる。そこから作っていく」

ゆい「気が合いますよ、私達」

高砂「気が合わなきゃ話したりしないな」

ゆい「ああやっぱり寒いです。冷えた部位をすぐ温めるのは気持ちいいです。食べる時も同じですね。冷やして焼きます」

高砂「実はしゃちょー、りょーり出来るんじゃ?」

ゆい「美味しいものを不味くは出来ますが、味覚なんて人それぞれですよね」」

高砂「不味いものは不味いままか」

ゆい「革命的な味を作れば、まさに一流でしょう」

高砂「しょのままでも食えることは食える。同じ肉だ」

ゆい「肉がある中に食べてあげないと勿体ないのです」

高砂「しょれは実験にもいえる。どーいだ」

ゆい「腐っては食べられないし、使えないのです。そんな時に冷凍保存、木乃伊化が役立つのでしょう。彼らは死して猶生前の美を追求するのです。生と死、何れを美しきものと捉えるか、それは人によるものですが、腐食した肉体こそが天界へ旅立ったことを示す生前では決して体験できないものがあります。これが死後の美を表すのでしょう。それでも生を追求する肉体はありますが、その抗いも生命の奪還には及びません。腐食した肉体は時間的にも長いものではなく、何時かは砕け散ります。これは腐る以前の問題ですね。人間の肉体なんて脆いものです。高い所から飛び降りれば砕け散りますし、線路に飛び出せば肉片が飛散します。我々としてはなるべく原型を留めているものが欲しいわけですね。こう考えれば、普通に切り刻んでもらう方が良いわけです。例外として傷を付けない死に方もあるわけですが。まあ此方が一般的な自殺でしょうねぇ」

高砂「この神社でもおーいのか?」

ゆい「多くもないですね。年に何度か見るくらいです。ですから見つかった時なんかはお祭り騒ぎですよ」

高砂「はは、しゃちょーらしーな」

ゆい「手段はいくらでもあるのですから」

高砂「しゃちょー、大分しゃえてきたよーだ」

ゆい「まあどこから聞いていたんです?」

高砂「冬はほにゅーびんだろー」

ゆい「ははは、その程度で満足するものじゃないのです」

高砂「脱いだらしゅごい」

ゆい「それは高砂さんでしょう?」

高砂「たかしゃごは不健康だ」

ゆい「わたしから見たらずっと健康的です」

高砂「しゃちょーは美味いもの食っているだろー」

ゆい「はは、美味いものですか。確かに」

高砂「不味いものも食ってるだろー」

ゆい「高砂さんにとっては不味いものでしょうが、わたしにとっては美味いものです」

高砂「しゃちょーは変人だからな」

ゆい「人の振り見て我が振り直せ、ですよ。高砂さん」

高砂「しゃちょー程ではない」

ゆい「本当にどの口が言っているのでしょう」

高砂「しゃちょー、お菓子が欲しー」

ゆい「ハロウィンに来てくださいね。わたしは居ませんけど」

高砂「また魔族を呼ぶのか?」

ゆい「その時になったらまたお話しましょう」

高砂「りょーかい」

ゆい「ところでどうです、お茶でも飲んでいきませんか?」

高砂「おやつの時間だから帰らないと」

ゆい「そうですね、うちにはありませんね」

ガララッ

八城「あっ、魔女さん。上がってかない?」

高砂「何かくーものはあるのか。しゃちょー、相変わらず難しー本を読んでる」

八城「それあたしのだよ」

高砂「なっ……意外」

ゆい「八城ちゃん、もうわたしの分からない範囲に手を出していますね」

八城「前に読んでた本でお勧めされてたの。大学の図書館まで行ってきちゃった」

ゆい「あぁ確かにあそこは物が揃っていますからね。質なら並の本屋さんに負けませんね」

高砂「まー分からんなりにも読むことはいーことだ。そーそー、魔術にゅーもんはどーだ。為になったか?」

八城「炎って出すの大変なんだね」

高砂「ほのーとかこーりとか出す以前に魔力を生み出すことが、一般人には難しー」

ゆい「普通生み出せませんよね」

高砂「では特別に。魔力を秘めたすいしょーを持ってきた。感じるだろーか、魔力というものを」

八城「何かの力が動いているのが見えるよ」

高砂「そんなよーなものだ。ではこのすいしょーを持ってほしー。落として割らないよーに」

八城「うにゃ、重いよ」

高砂「こーすれば軽い?」

八城「うわぁ、浮いた。ふわーって浮いたよ」

高砂「よーするに触ってほしー」

八城「うん、思ったよりパチパチしないね」

高砂「魔力がすいしょーの中にあるからだ。触ってもすいしょーの冷たさしか分からないだろー」

八城「うん」

高砂「割ったら割ったで魔力が出ていく。どーなるかは分からない」

ゆい「はぁそれは何が起こるか分からない、ということですか」

高砂「そのとーりだ、しゃちょー。自然としゃよーして、大変なことになるおしょれがある。まーこのすいしょーには大したりょーは入ってないのでだいじょーぶだ」

ゆい「公害とかではないですからね」

高砂「やろーと思えばしぇっかやこーりづけが出来る」

ゆい「世界の災厄ですよ」

八城「魔女さん、兵器だね」

高砂「へーきだ。たかしゃごはどー思われよーと」

ゆい「高砂さん、何か商売やってみません?薬を使うなりしまして」

高砂「たかしゃごの作品を世の為に?」

ゆい「一部の人間で構いませんよ。研究費にあてがってください」

高砂「けんきゅーひを出してくる所は沢山いる。心配ない」

ゆい「盲信的ですね、彼らは」

高砂「彼らは彼らでいそがしーな。おわっ、すいしょーに罅が。年季ものってやつか」

八城「昔から使ってるの?」

高砂「そーとー古い。替えはあるし問題ない。一つやろーか?」

八城「え、くれるの!?占い師ごっこができるよ」

高砂「また機会があれば持ってこよー」


242-1

磨夢「………」

蕨「?」

八城「ただーにゃ」

蕨「!」

八城「らびぃだぁ」

蕨(ギュッ)

八城「にゃあ」

磨夢「八城が一番」

八城「そうなの?らびぃ」

蕨(ニコッ)

八城「かーあいい」

磨夢「………」

八城「何処行くの?」

磨夢「一寸散歩」

八城「いってらっひゃい」

蕨(手を振る)

磨夢「ん」


242-2

磨夢「………」

川井「あのマスターが休暇だなんて、珍しいわ」

磨夢「確かに」


242-3

霞「おーおー先生ではありませんか。どうしました、振られちゃいましたか。思うようにいかないことだってありますよ。そこにですね、漫画喫茶が出来たんですよ。ご存知ですか、わたしは日常から解放される為、そこに向かいます。良かったら先生もどうでしょう。良いものですよ、読み放題、遊び放題、いつもと変わんないなんて言わないでくださいね。いくら寛容なわたしと言え、傷付くことはありますからね」

磨夢「霞の顔を見れただけで嬉しく思います」

霞「何も褒賞は差し上げていません。わたしの家は強大勢力に囲まれ、滅亡の危機にあります。それなのに浪人を迎え入れて知行地もございませんよ」

磨夢「やはり進軍あるのみ」

霞「流石先生、その通りです。先生は積極的ですから心配ご無用です」

磨夢「ん」

霞「んっふっふ、ソフトクリーム食べ放題です」

磨夢「一人?」

霞「クロちゃんは忙しいんで一人ですねぇ。あっ、もしかして先生、空いてたりします?今なら割引利きますよ」

磨夢「三時間?」

霞「えぇ、ちゃっかり三時間です。オールナイトじゃないんですよ。帰る家がありますからね。何より、三時間パックが今安いんですよ」

磨夢「また今度」

霞「にゃぁぁぁぁぁ、先生ぇぇぇぇ。機会があったらまたよろしくです」

磨夢「ん、幸運を祈る」


243

ちる「あ、おかえりなさい。クロちゃん」

玄那「こんばんは、先輩」

ちる「クロちゃんは、働き者、です」

玄那「一日単位はそんなに働かないけど、長いことやってきたんですよ」

ちる「か、皆勤賞、ですか?」

玄那「そんなのは最初だけです。だんだん気が抜けて、それでも八割くらいは出てると思います」

ちる「良い、ですね。わたしにとって、模範的、存在、です」

玄那「いえいえ、とんでもない。先輩とわたしとでは性格が違いますよ」

ちる「クロちゃんは、活発的、ですからね」

玄那「仕事の時だけはそうですね」

ちる「後は、かすむんと、話している時、生き生き、して、います」

玄那「そりゃあ趣味の話が出来る数少ない存在だからです。はっはっは」

ちる「す、素敵な、お友達、ですね」

玄那「わたしの友達はかすむんと趣味と仕事です」

ちる「わ、わたしは、何、ですか」

玄那「先輩は、先輩ですかね。先生が先生みたいなものです」

ちる「では、わたしから、すれば、クロちゃんは、後輩、ですね」

玄那「みんな信頼関係ですからね。縁のある内が幸せですね」

ちる「クロちゃんが、言う、と、説得力が、あります」

玄那「コホン、ところでポルたんはどうしてますか?」

ポルトナ「ズットウシロニイマス」

玄那「ひぃっ、わたしの後ろかと思えば先輩の後ろか驚かさないでくれ」

ポルトナ「はっは、玄那は怖がりです」

ちる「クロちゃんは、みんなで、ホラー映画を、観ている時に、一人だけ、部屋から、逃亡、しました」

ポルトナ「あはは、やはり怖がりです」

玄那「怖いのは嫌いだから仕方ない。むしろ先輩達が精神的に強いんです」

ちる「わたしは、怖いの、好き、です。他の人は、まぁ……慣れと、いうもの、でしょう」

玄那「かすむんは大胆不敵なんでしょう。何も気に留めない様ですね」

ちる「例えば、幽霊を、信じるか、です。見える人は、実際いるみたい、です」

ポルトナ「わたしの知り合いに和風の人形が居ます。彼女は他人の押し入れに入るのが趣味だそうです」

玄那「それは迷惑だ。わたしの所には来ないように宜しく頼む」

ポルトナ「誰も玄那の家に行くなんて言ってないです」

玄那「何か不安になってきた。今日はもう寝る。おやすみなさい」

ちる「おやすみなさい、クロちゃん」

ポルトナ「ふふふ、おやすみです」


244-1

ゆい「こんにちは、今日もご苦労様です」

男「殺す気はなかったんです。少し遊んでいただけです」

ゆい「人体は脆いのですから、すぐに壊れちゃうのです」

男「はい、壊れてしまいまして。あの、見ますか」

ゆい「ここで出すのはまずいと思いますよ。そのまま受け取りましょう。ところで、過去にこういったことされたことあります?」

男「今回が初めてです。だから緊張してしまいまして、まだ正常である内にお渡ししておこうと思いました」

ゆい「これで全部ですか?」

男「はい、そうです。事件を隠蔽してくだされば、それで構いません」

ゆい「未解決事件って、良い響きですよねぇ」

男「逃げ続けるってすごいですよね」

ゆい「指名手配したところで、いくらでも整形できますよ」

男「ああ、そうですね」

ゆい「わたしのやれることは、これくらいなので、後は頑張って逃げ延びてください」

男「逃げる必要もないですね。今まで通り生きましょう」

ゆい「それで平気だというなら、そうすればいいでしょう」

男「では、ここでお別れです」

ゆい「また期待していますよ」

男「もう殺人は懲り懲りですよ」


244-2

ゆい「とまぁ、こういうのが一例であるわけですよ」

磨夢「自らの手は汚さない、それがゆい」

ゆい「組織の一人が情報を受信するのです。わたしはそれを間接的に受け取ります」

磨夢「ホシが精神的に危険な状態にある場合は?」

ゆい「その時は会わない手筈になっております。今までの経験にないですが、もし出くわしたら、応援お願いしますね」

磨夢「ん、任せて」

ゆい「殺すのは駄目ですよ?」

磨夢「拷問が好き?」

ゆい「その辺は委任します」

磨夢「ん」

ゆい「腕は確かですね?」

磨夢「………」

ゆい「そこは嘘でもはい、と言ってもらいたかったです」

磨夢「ゆい、わたしが死んだら……」

ゆい「肉体の損失は苦じゃないですよ。既にあなたじゃないのですから」

磨夢「この身体、大事にする」

ゆい「無理な時は逃げてください。代役に町ごと焼き払ってもらいますから」

磨夢「神主としてあるまじき発言」

ゆい「やる本人は部外者ですからね。わたしの意思などまるっきり反映されていません」

磨夢「………」

ゆい「謂わば加減を知らないといいますか、防衛意識を通り越して、攻撃的になるのです。些細な命令が大惨事を招くわけです」

磨夢「なら、そんな強大な力に頼るべきではない」

ゆい「はは、素直に死を選択しますか。辱めを受け、苦しみながら死んでいくのです。そんなこと神が許しませんけどね」

磨夢「ゆいは弱い」

ゆい「わたしは所詮口先の人間ですから、弱いのも当然です。仮に今述べたことが起こっても、為す術もなく死ぬだけでしょう。彼は何も知らないのです。わたしの損失から得るものはないということを。世界が歪み、混沌の地となるでしょう。大飢饉が起こり、嘗ての名君は失墜し、盗賊共が蔓延るでしょう。一人の殺意が一国の崩壊を招くのです」

磨夢「自分が特別な存在とでも?」

ゆい「磨夢さんが一番分かっているでしょうに。神は偉大なる存在です。羽衣家というのは代々神に仕える由緒正しき家系です。ご先祖様の中には呪術めいたものを扱う方も居られます。わたしは霊視が出来る程度ですが、神に仕える存在にあるということは誇りに思っています。神との交渉が町の命運を握っているといっても過言ではないでしょう。信心深くあれば、それを理解するでしょう」

磨夢「………」

ゆい「他人を信じないものを信じるのです。それが超人への第一歩といえましょう。疑り深い人は人間から脱却することは出来ないのです」

磨夢「つまり変態であるということ」

ゆい「見えないものを見ようとするのですから当然です。透かして見る、どうですか、見えますか。わたしが屈めば胸元が見えます。磨夢さんはわたしを赤く染めるでしょう」

磨夢「ゆいはエロい」

ゆい「エロくないわたしを想像するのが難しいのでしょう。皆さんからすれば」

磨夢「エロを取れば何も残らない」

ゆい「今まで話していたのはわたしの抜け殻だったんですか」

磨夢「成程、わたしはゆいの肉体と話していた」

ゆい「命令機能が無い肉体と話すなんて訳が分かりません」

磨夢「ゆいは二元論に毒されている」

ゆい「脳が肉体か、精神か、能ですか?実際難しい話です。脳は頭部の内にあるものです。脳自体は固形物、つまりあるものです。しかし命令は脳が指示することで、これは精神的なものです。確かにドーパミンがどうかと言われますが、その作用を受けて脳が命令するのです。医学はあまり明るくないのです」

磨夢「あまり関わりがないから」

ゆい「脳を改造されますからね、恐ろしい連中です」

磨夢「………」

ゆい「ほ、方向が違っても、尊敬すべき存在です」

磨夢「あの魔女」

ゆい「魔女さんの実験なんて可愛いものですよ。ただ試作品である薬を飲ませるだけですから」

磨夢「直接身体を弄るわけではない?」

ゆい「えぇ、実際どこまでやっているのか、わたしも知りませんが、やって、鍋にぶち込むくらいですよ」

磨夢「成程、魔女と医者は違う」

ゆい「その間にある科学者でしょうね。魔女は魔法を用いるので、また違う方法になります」

磨夢「ゆい、項見せて」

ゆい「そうですね、昔やられましたね」

磨夢「あった、刻印」

ゆい「その魔女の仕業です。効果としましては、中世の魔女のようにエロくなるとか」

磨夢「やっぱりエロい」

ゆい「どうです、魔女らしいエロさはありますか」

磨夢「さあ」

ゆい「それに達するのは難しいことですね」

磨夢「とりあえず、うちの地下に行こう」

ゆい「何する気ですか、止めてください」

磨夢「悪くはしない」

ゆい「そういうのは遊びでやるものです」

磨夢「そう」

ゆい「こうして犠牲者が増えるわけですね」

磨夢「ん」


245-1

マスター「あっ、バス止まってもうたで、るーちゃん……寝てる」

ルイ「んんぅー?あ、ホントだ。これは大変だねぇ」

マスター「地盤が悪いし、前にフラミンゴ居るし」

ルイ「運転手さん、ハンドルを左に」

マスター「いや、日本語でゆーても分からんて」

ルイ「降りるみたいだね」

マスター「これは仕方ないわな」


245-2

ルイ「良い景色だね。何というか、野生だね」

マスター「そりゃあ野生やろうな。後空気が美味い」

ルイ「これが、自然の味だよ」

マスター「ここに引っ越そうかなぁ。いや、ここに家建てられんか。やったら、車で行ける距離にせなあかんな」

ルイ「寧ろお店から歩いてこれる距離で良いんじゃない?」

マスター「徒歩で通える秘境かぁ。悪ぅないな」

ルイ「おにぎりとサンドイッチを持ってね、ピクニックするんだ」

マスター「あの池を眺めて食べたらさぞかし美味しいやろぅなぁ」

ルイ「じゃあこっちに引っ越そうか。お店ごとね。動物さん達がお客さんだよ」

マスター「商売になるやろうか。材料持ってきてもらって料理するとか?」

ルイ「うさぎさんなら人参、水鳥のみんなは魚とかだね」

マスター「名付けて密林のレストラン。あぁ勿論、本業も忘れてへんで。観光客の皆さんには、いつも通り営業するわ」

ルイ「それじゃあいつもと変わんないね。いっそアスレチックでも作ったらいいのに」

マスター「お金が無いわお金が」

ルイ「あっ、バスのタイヤ直ったみたいだよ」

マスター「おお乗ろ乗ろ。いつまでもこうしてられんわ」

ルイ「うわ、揺れう揺れう」

マスター「ここで急旋回、湖に突っ込むでぇ。普通に浸水しとるわ」

ルイ「あはは、でも進んでるよ、トレビアン」

マスター「ええええええ」

ルイ「あ、ネッシーにぶつかる」

ネッシー「………?」

マスター「ここで止まっちゃうんかぁ」


245-3

ルイ「せっかくだから泳いでいこうよ」

マスター「バスん中で泳ごうか」

ルイ「うぃー、バスの中で泳ぎながら湖に出るんだね」

マスター「ネッシーに乗せてってもらいたいわ。ふりだしに戻りたい」

ルイ「寧ろ向こう岸まで行こう。このバスが進む先までね」

マスター「ネッシーがそない都合よく進んでくれるとも限らんわな」

ルイ「マスターは厳しいなぁ」


246-1

磨夢「………」

基茂「まぁた、朝っぱらから堂々と居間でよくそんなビデオを観ているもんだ」

磨夢「音がアウト」

基茂「完璧すぎるな」

八城「お兄ちゃん、お散歩しよ」

基茂「朝はしんでーんだ、パス」

磨夢「朝風呂してきたらいい」

基茂「うい、そうするわ」

八城「まみーはどう?」

磨夢「ん、行こう」

八城「やたー、流石まみー」


246-2

ガララッ

基茂「そのまま部屋で寝てりゃーいいものを」

ゆい「人間、眠れない時もあるでしょう。疲れたらお風呂です」

基茂「まぁ、好きにすりゃーいい」

ゆい「兄さんの身体をじっくり眺めていましょう」

基茂「オレの身体なんて見所無いぞ。最近筋トレしてねーしな」

ゆい「それでも構わないのです。兄さんの肉体こそわたしの求めていた理想の肉体なのですから」

基茂「オレもだよ、ゆいゆい。ゆいゆいの身体こそ美しい」

ゆい「わたしのような貧相な身体が好きとは……まぁそれだけ愛を語ったわけですから、癖になるのも仕方がないのでしょう」

基茂「見れば見る度エロスを感じる」

ゆい「愛人に求めるものじゃないですよ。本妻に求めるのです」

基茂「ちるはなぁ、ガードが堅くて、見たこともないぞ。教えてくれないか?」

ゆい「ちるさんは目立った体つきはしていませんが、まぁ丸みを帯びた体つきとでもいっておきましょう。わたしとは対極の関係ですね」

基茂「ほぅ、参考にしておこう」

ゆい「ですから、わたしの身体では全く参考にならないのです」

基茂「ゆいゆいはエロすぎっからな」

ゆい「兄さんの事を思うと夜も寝られないのです」

基茂「それは病気だ」

ゆい「兄さんも他人の事言えませんよ」

基茂「もはやゆいゆいにしか欲情できまい」

ゆい「いつかは別れないといけないのですよ、兄さん」

基茂「さて、別れる日は来るものか」

ゆい「美人は薄命です。頑張ってくださいね」

基茂「渡る世間はBBAばかり」

ゆい「そんな時代もあるでしょう。その時には美的感覚が変わっています」

基茂「その時代の人間は可哀想だな」

ゆい「可哀想なのは現代人かもしれませんけどね」

基茂「さてと、ゆいゆい、ちょっと立ち上がれ」

ゆい「兄さんのは既に勃ち上がっています」

基茂「喧し」

ゆい「さぁ兄さん、わたしの膝にお座りください」

基茂「逆だ逆。意図的な自殺行為は止し給へ」

ゆい「兄さんはわたしを子供だと思っています、ぷんぷん」

基茂「子供か……子供なのか?」

ゆい「さぁどうでしょう」

基茂「んなもん外見だけで判断してヨカローニ」

ゆい「では兄さん、わたしが六百年生きているとします。興奮しますね」

基茂「はい」

ゆい「兄さんは正直者です。これから六百年わたしを愛してください」

基茂「あの世から五百年見送るな」

ゆい「人間は二百年生きることができます。あぁでもすぐに老化しますね」

基茂「不老不死を前提とするんじゃねーぞ。普通はそうだ」

ゆい「つまり、わたしが兄さんに抱いてもらえるのも、今の間だけですか。お爺ちゃんの兄さんにも甘えたいです」

基茂「年齢差的に孫として甘えてくれ」

ゆい「どの層を狙っているのか、と言わんばかりですね」

基茂「大丈夫だ、多分オレは長生きしない」

ゆい「兄さんは美男子ですからね」

基茂「どこを見て言ってんだ」

ゆい「まあ、この体勢だとそこしか見えませんよ」

基茂「じゃあ向かい合わせになるか?」

ゆい「いいえ、兄さん。後ろから抱き締めてください」

基茂「そ、それは風呂上がってからな」

ゆい「兄さんは変なところでうぶです」

基茂「バッキャロ、そろそろ上がっからな」

ゆい「ではわたしは先に天に召します」

基茂「待て待て、先に逝くな」


246-3

ゆい「誰もいないですね」

基茂「散歩にでも行ったんじゃないか」

ゆい「そうですか、二人きりですか」

基茂「あぁ」

ゆい「そうですか、二回戦ですか」

基茂「オレはそんなにタフじゃねーよ」

ゆい「でも兄さんのここ、元気ですよ」

基茂「まだ物足りないのか、こいつは」

ゆい「ちょっと絞れば出そうです」

基茂「はいはい、そこまでな」

ゆい「兄さん、最近冷たいですね」

基茂「温かくした覚えもないな」

ゆい「わたしはいくらでも温かくしますからね(ギュッ」

基茂「ゆいゆい……冷たいな」

ゆい「兄さんはわたしの温もりを知っているでしょうに」

基茂「あぁ、今朝体験した」

ゆい「じゃあ兄さん、誓いのキスを」

基茂「やめろ、お婿に行けなくなる」

ゆい「なら、わたしの気持ちです」

基茂「もがっ」

ゆい「ん、んんぅ……」

基茂「まめも、まめ……」


246-4

磨夢「!」

八城「どしたの、まみー?」

磨夢「朝はどっかで食べていこう」

八城「本当?」

磨夢「朝のティータイムと洒落込もう」

八城「わぁい、しゃれこむぅ」


246-5

基茂「磨夢とやしろん、帰ってこないな」

ゆい「磨夢さんの事です。我々の行いに気付いたのでしょう。屹度外で食べています」

基茂「そいつは残念だ」

ゆい「兄さん、そちらの樽を開けてください。わたしの食料が入っています」

基茂「やだよ、自分で開けろ。そして見せんでねぇ」

ゆい「恐れては何も成し遂げられないのです。先ずは踏み出す勇気、これが大事ですね。さぁ手を伸ばしてください、未来の栄光を掴む為の幕を開けるのです」

基茂「そうして巧みに仲間を増やそうとするのやめれ」

ゆい「まぁ普通の人は騙されませんよね。兄さんなら怪しい宗教勧誘に引っかかることもありません」

基茂「既にはまってるんだ。だから大丈夫だ」

ゆい「兄さん、過度の信用は破滅を招きますよ」

基茂「オレはゆいゆいを信用しているぞ。だから、こうして二人でいられる」

ゆい「信用しているから好きでいられるのですよ。兄さん♪」

基茂「はは、ゆいゆいは可愛いなぁ。いや、可愛いのか?」

ゆい「疑問を抱くところですか、そこ」

基茂「可愛いのは可愛いが、うん、可愛いな」

ゆい「うふふ、わたし興奮してきました」

基茂「今日はゆいゆいが離れそうにないなぁ」

ゆい「わたしは常に兄さんと繋がっていたいです」

基茂「うわぁ……」


246-6

八城「ただいにゃあ」

磨夢「静か」

八城「ん?」

磨夢「基茂」

基茂「あぁ、帰ってきたのか。おかえり」

八城「ただいま、お兄ちゃん」

基茂「おかえり、やしろん」

磨夢「基茂、お疲れ様」

基茂「もう動きたくねーわ」

八城「まだ今日は始まったところだよ!?」

磨夢「何か食べた?」

基茂「いや、まだ食ってないぞ」

磨夢「昨日の残りがある筈だから、それ食べて」

基茂「そーいや、おかわりしてなかったな」

八城「お兄ちゃん、大食いなのにね」

基茂「それほどでもない」

磨夢「八城の方がよっぽど大食い」

八城「おっきくなりたいの」

磨夢「これは抜かれる」

基茂「悲しいな」


247-1

マスター「ただいまぁ」

ルイ「真っ暗だね」

マスター「れーちゃん、寝るの早いなぁ」

ルイ「お土産は此処に置いとくね」

マスター「おおきに、るーちゃん。さてと、今から開けよか」

ルイ「急に開けてもお客さん来るかなぁ」

マスター「それが来はるんですわ。いらっしゃい、ムー」

カランコロンカラン

磨夢「何故分かったし」

マスター「ムーなら一番乗りすると思ったわ。るーちゃん、準備しよ」

ルイ「荷物置いといていい?」

マスター「かまへん、かまへん。何ならうちに泊まってってくれたらええし」

ルイ「うぃー、じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」

磨夢「………」

マスター「ほい、産地直送。美味しいで」

磨夢「ん」

ルイ「赤いなぁ」

磨夢「少し血腥いけど、これはいける」

マスター「ムーなら分かってくれると思ったわ。血の流れが良くなるし健康的な飲み物です」

ルイ「マスターが気に入ったものだよ。わたしは飲まなかったの」

マスター「ムー、意外と気が合うかもなぁ。あれやろ、ドクペとか好きやろ」

磨夢「ん」

マスター「やっぱり、うちが思った通りや。るーちゃんはスポーツドリンクばっか飲んでるわ」

ルイ「汗かく仕事だから、当然だよ。飲んでいる内に好きになっちゃった」

マスター「まぁうちもそんな感じやな。外見が如何にあれでも、実際飲んでみな分からんもんやで」

ルイ「新しい味の発見だね」

マスター「色んな飲み物飲んでな、自分の感想はともかく、新商品に繋がるかを考えるんや」

ルイ「へぇ、わたしも何か考えとこ」

磨夢「じゃあ何か新しいものを」

ルイ「ミルフィーユ……だったかな。あれ作るね」

磨夢「苺味で」

ルイ「アンタンデュ」

マスター「しかしムーも察しがええわ。閉めとった時に一回来た?あれには特にいつまでというのは書いてなかったわけやけど」

磨夢「ん。なんとなく今日来た」

ルイ「磨夢、寒かったでしょ?温かい紅茶も添えるね」

磨夢「ん……ありがとう」

マスター「あ、そやそや。看板下ろしてこよ。長らく閉めてたわけやし、心機一転やっていこうやないの」

磨夢「………」

ルイ「磨夢?」

磨夢「誘ってる」

ルイ「?」

磨夢「………」

ルイ「紅茶、先に飲む?」

磨夢「ん」

マスター「ああ、久しぶりに仕事したわ。ムー、何か飲んでるん?」

磨夢「ルイが淹れてくれた紅茶」

マスター「そっか。るーちゃん言ってたな。じゃあうちは次のお客さん来るまで待ってよっかな」

磨夢「暇そう」

マスター「何か頼んでくれたら作るで。ムー、お腹の調子はどうや?」

磨夢「そんなに入らない」

マスター「るーちゃんの方で頼んでることやしなぁ。暇やし、適当に作って食っとこ」

磨夢「………」

ルイ「お待たせしました、苺のミルフィーユでございます。あれ、マスター、美味しそうなの作ってる」

マスター「焼きそばや。るーちゃんも腹減っとらん?追加で作るけど」

ルイ「うーん、わたしはいいかな。帰りも寝てたし。減るものじゃなかったよ」

マスター「あいよ、了解」

ルイ「磨夢、美味しい?」

磨夢「ん、美味しい」

ルイ「それは良かった」


247-2

霞「あまりこういうのだとつまらないですよね。盛り上がりに欠けると思いませんか」

玄那「先生は元々そういった性格じゃないだろう」

霞「先生はあっち行ったりこっち行ったり大変ですよね」

玄那「かすむんというものがありながらな」

霞「先生は可愛いものに目がないんですよ。わたしは幼い女の子には敵いませんね」

玄那「でも訊いてみれば、かすむんだ。かすむんは何というか、独自の魅力があるじゃないか」

霞「みんな胸ばかり見ますね。先生はそれで選んだのでしょう。本当に下心しかありませんね」

玄那「かすむんはロリ巨乳で貴重だ。そして我々の敵だ。皆その山を越えんとする。しかし難しいものだ」

霞「クロちゃんも揉めば大きくなります」

玄那「うるさいやい!僻んでなどおらぬわ」

霞「早く良い殿方が見つかるといいですね。あ、既にいらっしゃるんでしたか。これは失敬」

玄那「あの執事は保険でしかないからな。わたしは孤独にあり続けるよ」

霞「ああ先生、どうして白馬の王子様でなかったのでしょう。そうだ、いっそ性転換して差し上げましょう。クロちゃんのようにね」

玄那「は、わたしは改造されていたのか!?そんな馬鹿げたことがあるまーに」

霞「でもクロちゃんは元々男ですしね。よくお嬢様学校に通えたことです」

玄那「容姿、身振りを女の子らしくすれば、お嬢様学校に入学しても気付かれまい。って何だ、エロゲじゃあるまいし。わたしは女だし」

霞「クロちゃん、ズボンを履いてたら本当に分からないです」

玄那「まるでわたしの女要素が制服にしかないような言いようだ」

霞「それでは時にクロちゃん、乙ゲーはやりますか」

玄那「ゲーセンで音ゲーならやる」

霞「わたしもそちらをやりますね。格ゲー程やりませんけど」

玄那「ちょっと前まで音ゲーをおんげーと読んでた」

霞「オンゲよりネトゲやブラゲと言いますからね。それ程問題にゃあなりませんとも」

玄那「音ゲーもオンゲと言うのもあながち間違いでもないな。全国ランキングとかあるし」

霞「確かに、しかしネトゲ以上に表に出ます。格ゲーも一緒ですけどね。大会というのは大変ですね」

玄那「対人戦なんて町のゲーセンでお腹一杯だ」

霞「ずーっとネット対戦してたいですね。家で大会を繰り広げるんです」

玄那「それは同感。でもゲーセンも好きだ。ふっ」

霞「ふっ、じゃないでしょうに。この照れ屋さん」

玄那「どぅへへへ。だからずっと画面見てらぁ。集中力があるからな、わたしは」

霞「クロちゃんはSTG好きですからね。集中力に加えて記憶力にも自信があるでしょう」

玄那「音ゲーも記憶力だよな。高難易度だと、訳が分からなくなるが、それでもやり遂げる人は凄い」

霞「つまり、音ゲーも死に覚えゲーって訳ですね。回復地帯を得ることが肝要です」

玄那「わたしはゴリラになりたい」

霞「はは、応援していますよ」

玄那「先生にやらせたら屹度マウンテン級だ」

霞「あれは絶対過去に何かやっていましたよ」

玄那「ヤク厨の末路か」

霞「そうですね、先生はヤクルトをやってますよ」

玄那「通りで健康的な訳だ。ああ見えて意外だ」

霞「先生は過度な妄想くらいでねーとへこたれんですよ」

玄那「相変わらずアツアツだな」

霞「ほんっとうに先生は……わたしを見るだけで鼻血出してます」

玄那「貧血で倒れることは多々あるようだ」

霞「まぁ社会に迷惑を掛けない程度ならそれでいいんですよ。わたしは一向に構いません」

玄那「その関係は、わたしと執事、伊崎先輩と椎木先輩は一切及ばないのであった」


247-3

磨夢「うぅー……イッヒ」

八城「呑んできたの?」

磨夢「ん、いちごオレにやられた」

八城「騙されてるよ、まみー」

磨夢「ん、んんぅ……」

八城「うにゃっ!?まみー、重たい」

磨夢「わたしの顔、赤い?」

八城「そうでも、ないかも。寧ろ白いかな」

磨夢「そう、わたしは素面」

八城「お酒臭くもないよ」

磨夢「わたしは、呑まないから」

八城「そーなんだ」

磨夢「とにかく動けない」

八城「あたしの力じゃ運べないよ?そうだ、お兄ちゃんを呼ぼう」

磨夢「ん、よろしく……」


247-4

基茂「やれやれ、やれやれがやれやれ」

八城「お兄ちゃんは相変わらずやれやれやれやれ」

基茂「そうだな、何か思うにつけ、やれやれやれやれ」

磨夢「やれやれやれやれ、うるさい」

基茂「寝てろっての。やれやれやれやれやれ」

磨夢「ん……」

八城「お兄ちゃんはどうしてやれやれやれやれ?」

基茂「それはやれやれでやれやれだからだ。仕方ないな、やれやれやれやれ」

磨夢「………」


247-5

八城「お兄ちゃんはあんなにもやれやれでやれやれなの?」

ゆい「そうですね、相当な犯れ犯れです。つまり犯罪者のような存在です」

八城「お兄ちゃん、捕まっちゃうの!?」

ゆい「兄さんを監視する程、警察も暇じゃないですよ」

八城「お巡りさんは毎日忙しいもんね」

ゆい「そうです、だから証拠が明白でないものは放置します。そして、事件は迷宮入りしてしまうのです。全く愉快な話ですね」

八城「ふぇぇ」

ゆい「それにより、我々の腹が満たされる訳です。皆さんは上手く監視の目を潜り抜けてきている訳ですね」

八城「悪いんだ」

ゆい「彼らは確信犯です。計画は流れ作業のように進み、一つの目標を達成するのです。彼らは割り振られた役目を果たしているだけです」

八城「難しいよぉ」

ゆい「磨夢さんが料理を作り、わたしたちがそれを食べる。簡単に言えば、こういうものでしょう」

八城「ゆいちゃんがお料理できないから、食べにきているってことだね」

ゆい「認めたくありませんが、そういうことですね。磨夢さんはお料理が得意です」

八城「うん、まみーのご飯は美味しいね」

ゆい「そんなこと言ってたらお腹空いてきちゃいましたね」

八城「ゆいちゃんは、いつだって腹ペコだね」

ゆい「食欲は生物最大の欲求ですからね。腹が減っては事は為せないのです」

八城「お菓子とかないの?」

ゆい「ありますよ、茶菓子。少し待っていてください」

八城「うん」

高砂「しゃちょー、たかしゃごの分も頼む」

ゆい「そんなの、ありませんよ」

八城「魔女さん、こんにちは」

高砂「しゃちょーがいつもおしぇわになっています。たかしゃごです」

八城「魔女さん、何か新しい魔法覚えたの?」

高砂「ししゃしょしぇーだ。死者をゾンビとして蘇しゃしぇる」

ゆい「ゾンビは美味かないのでパスです」

八城「ゾンビの行進だぁ」

高砂「しかし実験体が見つからない」

ゆい「取引先を教えますよ。彼らはそれを望んでいますから」

高砂「上手くいった暁には二人にごちそーしよー」

八城「わぁい、ごちそーごちそー」

ゆい「それは嬉しいです。期待していますね」

高砂「待った、しゃちょーには振る舞えない」

ゆい「構いませんよ。食べ方を変更すればいいだけでの話ですから」

高砂「しゃちょー、とーりまだ」

八城「怖いよぅ」

ゆい「武器は持ちませんよ。大体、魂なんてそう簡単に吸えるものじゃありませんし」

高砂「けーやくか」

ゆい「はい、一人一人に干渉するのは難しいですから」

高砂「そんなのたかしゃごの力を使えば、よゆーだぞ」

ゆい「では、そうさせてもらいましょう。お礼は例のもので宜しいですね」

高砂「ああ。しゃちょーには助けてもらってばっかだ」

ゆい「いえいえ、とんでもないです、魔法使いさん」

八城「あれ?」


248-1

ポルトナ「ちる、お風呂ですか?」

ちる「はい、お風呂……です」

ポルトナ「ポルがお供します」

ちる「助かり、ます」


248-2

井筒「二名様かね」

ちる「この子は、人形、です」

ポルトナ「そうです。ポルは人形です。主人とは、ここでお別れします」

井筒「お利口さんだねぇ」

ポルトナ「ポルは褒められると嬉しいです」

ちる「では、よろしく、お願い、します」

井筒「一名様、どうぞ」

ポルトナ「ポルに何か手伝えますか」

井筒「折角なので、二人で受付しようか」

ポルトナ「はいです」

玄那「おっ、ポルたんじゃないか。バイトかな」

ポルトナ「これがバイトというものですか」

井筒「お金はやらんが、アメちゃんをあげよう」

ポルトナ「はい、頑張ります」

玄那「子供扱いされてぇら」

井筒「お客様は一人じゃな」

玄那「一人暮らしだから一人さ」

井筒「彼女とか居るんかえ?」

玄那「いや、わたしは女だ」

ポルトナ「玄那は言われなきゃ分からないですね」

井筒「ほんっと、分かりにくいねぇ」

玄那「番台さんだろ?なあ!あんた番台さんだろ?」

井筒「そうだよ。あたしゃ番台よ。呵々」

ポルトナ「あんたが番台さんですか」

井筒「この道云千年。日本の歴史は長い」

玄那「山姥か何かかな」

井筒「妖怪じゃないぇ。みんな同じ呪いに掛かっているのさ」

玄那「そういう設定はいいから、早く通しておくれ」

井筒「一名様、どうぞ」

ポルトナ「すんなり通しましたね」

井筒「あたしゃあ満足よ」


248-3

玄那「椎木先輩」

ちる「クロちゃん、こんにちは」

玄那「表でポルたんと会いまして、番台さんにからかわられました」

ちる「小さいから、ですね」

玄那「先輩みたいに女らしさを出したいです」

ちる「わたしは、ただの、無個性、ですよ」

玄那「成程、女として無個性であることですか。そして儚げにあれ、と」

ちる「わたしの、姉は、押しが、強い、女性、です」

玄那「その辺りは人それぞれですね。性格はあまり左右しない、と」

ちる「後、単純に、美貌を、持つ方、だとか」

玄那「あるいは可愛い方だったり?」

ちる「はい、わたしは、どうなのか」

玄那「先輩は愛らしくて、非常に魅力的な女性です」

ちる「そうですか、クロちゃんも、可愛い、です」

玄那「それは嬉しいです。ところで、サウナ行きませんか」

ちる「良い、ですね、そうしましょう」


249

ゆい「井筒さんですか、今頃何処で何をしているやら」

高砂「意外と身近なしょんざいかも」

ゆい「ファミレスの店長さんだったりするんですか」

高砂「しょーならたかしゃごは気付いている。あの年ふそーおーな喋り方だし」

ゆい「じゃあ、此方側の人間になりますか」

高砂「そーかもしんないな」

ゆい「はぁ、しかし心当たりはありませんねぇ」

高砂「しゃちょーは外に出ないからな」

ゆい「他人の事言えますか?」

高砂「しょ、しょらからにゃらよくにゃがめちぇるひ」

ゆい「サ行だけじゃなくなってますよ、高砂さん」

高砂「しゃちょーもきびしーなー」

ゆい「………」

井筒「ここかね、羽衣神社ってのは」

ゆい「そうですよ、井筒さん」

高砂「うわしゃをしゅれば、とーじょーだ」

井筒「二人とも、ご無沙汰だったのぅ」

ゆい「井筒さんも年をとりましたね。貫禄です」

井筒「ロモちゃんも本来はこうあるべきよ。年は隠すもんじゃないさ」

ゆい「井筒さん、もはや開き直っています」

井筒「いんや、現実を直に見つめるの」

高砂「きみょーなものだ」

井筒「シャゴちゃんは変わっとらんね」

高砂「とーぜんだ。しょもしょもしゃちょーのしょれも、たかしゃごの実験せーかだし」

ゆい「よく大きな声で言えたものですね。この魔女さんは」

高砂「どうだ、ばーや。たかしゃごの実力を思い知ったか」

井筒「シャゴちゃんは相変わらず凄いよ。目に見えるくらい進化し続けておる」

ゆい「高砂さん、わたしの研究にも役立ててくださいね」

高砂「しゃちょーは、けんきゅーしていない」

ゆい「高砂さんみたいに専門職じゃ御座いませんから。まぁ趣味みたいなもんですね」

井筒「二人とも熱心だねぇ」

ゆい「あはは、娯楽程度ですよ」

高砂「しゃちょー、やっぱけんきゅーしてない馬鹿だな」

ゆい「ところで井筒さん、あなたはこの町に住んでいるんですか」

井筒「あぁ、最近越してきてねぇ。向こうに銭湯あるじゃろ。そこの番台やっとる」

ゆい「わたしは何遍か行ってますが、井筒さんの姿は見なかったですね」

井筒「受付を他の人に任せてることも多いしね。最近なってからあたしはよく出てるよ」

高砂「なら、しゃちょーと同じだ。全く仕事をしていない」

ゆい「社長はもはや名誉職でありますが、巫女としては偶に応援を呼ぶぐらいしかしておりませんよ」

高砂「しょのししぇーをやめるんだ。しゃちょーは自分が偉いと思ってる」

ゆい「は、は、は、何を仰いますやら。わたしは万民を尊敬しています。誰がどの分野で秀でているかだなんて判別できません。故に誰が偉大かなんて言えたものでは御座いませんよ」

高砂「じゃあ皆びょーどーに馬鹿ってことかー」

ゆい「あながち間違ってないですね」

井筒「単純だねぇ」

ゆい「あっ、そうだ。高砂さんの裸が見たいです」

高砂「たかしゃごはちっちゃいぞ。何もかもがちっちゃい。だから実験する側なんだ」

ゆい「まだ八城ちゃんの方が大きいですね」

井筒「八城ちゃん?ロモちゃんの友達かな」

ゆい「そうです、この町で唯一の友達らしい友達ですよ」

高砂「しゃちょーのゆーじんはとってもいーやつだ」

井筒「ほぅ、それは会ってみたいねぇ。大きい子か」

ゆい「今度そっち行きましょう、高砂さんを連れて」

高砂「たかしゃごはかんけーないだろー」

井筒「シャゴちゃんもいらっしゃい。当店は掘って出た天然の温泉だよ」

高砂「しゃちょぉ」

ゆい「分かってますよ、優しくしますから」

高砂「しゃちょーの非力」

ゆい「筋力なんて箒を握れる握力くらいで十分です」

高砂「そのほーきを飛べるようにしてやろー」

ゆい「わたしまで記憶喪失になったら、わたしの名誉に関わります」

高砂「その時はたかしゃごがしゃちょーになるから安心すればいー」

ゆい「高砂さんは経費を横領するので駄目です」

井筒「シャゴちゃんは悪い子だねぇ」

高砂「たかしゃごは、そんなことしないぞ。予め貰っている額しか使わない」

ゆい「貯蓄、ですか」

高砂「会社の為だよ、たかしゃごを信じるんだ」

ゆい「………まぁ、考えておきます。社員にしても、高砂さんなら問題ありませんからね」

高砂「記憶をしょーしゃしゅれば、どーとでもなるな」

ゆい「わたしが復帰する頃にはみんな忘れてそうですねぇ」

井筒「微笑ましいねぇ」

ゆい「高砂さんは無邪気ですからね。何をしても許されるのです」

高砂「じゃあしゃちょー、近い中に右腕よーいしてくれ」

ゆい「その程度なら数日で用意できますね」

井筒「ロモちゃんの本棚は相変わらず難しい本が並んでいるねぇ」

ゆい「そちらは高砂さんが貸してくれた魔術書ですよ。一般人が読んでも何も身に付きません。内容は面白いです」

井筒「確かに、どこか引き込まれる感じはするねぇ」

高砂「ユクシルドしぇんしぇーは初心者にも分かりやすいので、おしゅしゅめ」

井筒「この雷魔法というのは?」

高砂「雨雲を呼び出して落雷しゃしぇる。どーじにに雨を降らしぇることもかのーだ」

ゆい「地水火風の四つは自然と連動していて素敵です」

高砂「しゃちょーは分かっている。自然が関わっているだけあって美しーし、何より闇や光より簡単だ」

ゆい「高砂さんに光属性は似合いませんね」

井筒「シャゴちゃんは闇が似合いすすぎるね」

高砂「しょーかな」

ゆい「神を信じない者は総じて悪です」

井筒「それは言い過ぎじゃないかねぇ」

ゆい「では言い直しましょう。神を信じない者には聖なる力は備わりません」

高砂「しゃちょーは神を信じる悪魔。強いに決まっている」

ゆい「天か地かその選択肢に迷うだけですよ」

井筒「しゃちょー、かっけー」

ゆい「井筒さん、便乗しないでください」

井筒「じゃあそろそろ銭湯の準備してくるね。是非いらしてね」

ゆい「はい、是非是非」

高砂「ばんとー、頑張れー」

井筒「シャゴちゃんには期待してるよー」

ゆい「よく覚えていましたね、高砂さん。井筒さん一回しか言っていませんよ」

高砂「ふふふ、たかしゃごにふかのーはなーい!」

ゆい「では、こちらもお開きにしますよ」

高砂「そーだな、しゃちょー、死ぬんじゃないぞ」

ゆい「わたしを誰だと思っているんですか。事故にでも巻き込まれない限り死にませんよ」

高砂「せめてこーど百メートルから落ちて死なないてーどじゃないと」

ゆい「ドーピングには敵いませんねぇ」

高砂「何ならしゃちょー、そのけいとーのくしゅり打ってやろーか?こーつーじこなんて屁でもなくなるぞ」

ゆい「先程も言いましたが、筋力などは求めていないのです」

高砂「ちじょーは死と隣合わしぇなのに暢気だなー」

ゆい「大抵結界張れば済みますし、お気楽主義ですよ」

高砂「逆に張らなきゃ死ぬんだから、大変だ」

ゆい「まぁ人間死ぬ時は死ぬんですから。そう、人間であれば、なんですけどね」

高砂「だいじょーぶ、何とかなる。じゃーしゃらばだ、しゃちょー。また来る日まで」

ゆい「はいはい、お元気で」


250-1

八城「じゃーん、怪物パーカー」

磨夢「まるで生きているよう」

八城「うん、生きている。偶に噛まれるよ」

磨夢「やっぱり」

八城「だから仲良くなるの。あたし達仲良し」

磨夢「………」

八城「どしたのさ」

磨夢「八城が食べられる未来しかない」

八城「にゃはは、平気だよ。その内優しくなるよ」

磨夢「そう」

八城「ね、フード」

フード「グルルル」

磨夢「お腹空いている」

八城「少し待っててね。すぐ用意するからね」

フード「ガブッ」

八城「せ、せっかち、だなぁ……相変わらず……(ガクリ」

磨夢「………」

基茂「おはよう。おい、やしろん、大丈夫か!?」

八城「お、おにい、ちゃ……」

基茂「まだ息があるぞ、磨夢、救急車呼んでこい」

磨夢「ん、霞といちゃついてくる」

基茂「包帯、包帯はどこだ。あった、これか。やしろん、頑張れ。絶対助けてやる」

八城「おにい、ちゃ……」


250-2

ゆい「八城ちゃん」

八城「んん……ゆいちゃん?」

ゆい「倒れたと聞いたので駆けつけました」

八城「うん」

ゆい「怪物パーカーですか、魔界の土産ですね。高砂さんは八城ちゃんに恨みでもあるんでしょうか」

八城「魔界、魔女さん?」

ゆい「人魔の戦いなんて遥か昔の話ですけどね、魔族は対人間用兵器を開発したものです。その圧倒的技術力に人間は一時期滅亡しかけたこともありました。歴史の遺物とでもいえましょうね、これは。高砂さんはですね、それん土産を貰ってきたんですよ」

八城「へぇ、魔女さんは魔族と仲良しなの」

ゆい「はい、その高砂さんという火薬庫を恐れる輩がいますが、本人に至っては戦争に何ら関心は抱いておりません。何にしろ、今の魔王様は融和的ですからね。人間側はその姿勢さえ拒んでいるのです。何か罠があるんじゃないかと。疑り深い人間ばかりが育ってきたのは悪い因習が所以です」

八城「何かごめんね、忙しいのに」

ゆい「いえいえ、わたしと八城ちゃんの仲じゃありませんか。仕事などとは比較の対象になりませんよ」

八城「ゆいちゃん、手、握って」

ゆい「妊娠でもしたんですかねぇ、はい」

八城「相変わらず冷たいや」

ゆい「外は少し風がありましたからね」

八城「温かくはなってきてるんだよね」

ゆい「はい、春らしくなってきましたから。中庭の桜が綺麗です」

八城「うん、また花見したいなぁ」

ゆい「はは、また来年になりそうですね」

八城「ところでフードは?」

ゆい「居ますよ、そこに。弱体化されて眠っています」

八城「また起きるのかな」

ゆい「起きるでしょうねぇ、生き物なんですから」

八城「今度は仲良くしてもらえるかな」

ゆい「どうでしょうね。大分反省しているようですが」

八城「魔女さんにお願いできる?優しく噛んでもらえるようにって」

ゆい「高砂さんの弱体化魔法は効果的ですよ。このように噛むことは当分無いでしょう」

八城「二度と、じゃないの?」

ゆい「実は高砂さん、実践的でないといって、この手の魔法は十分に修得していません。ですから、効果が持続される時間も決して長いともいえないのです。まあ、再度掛け直せばいいというだけの話ですけどね」

八城「好い加減だなぁ」

ゆい「その期間で仲良くなれると思いますよ。わたしともすぐ友達になれたでしょう?」

八城「そか、あたし、頑張ってみるね」

ゆい「はい、頑張ってください」


250-3

高砂「魔界の物品?見事の物だよ、まおーが言ってたぞ。文化は人間に劣らないだの」

ゆい「八城ちゃんに渡したのはやはりそれですか」

高砂「うん。たましーが籠もってるのは大体取り扱いちゅーいだ。何をしでかすか分からん」

ゆい「そうですか」

高砂「何かあったのか」

ゆい「えぇ、八城ちゃんが何も知らずに着用して、頭を噛みつかれました」

高砂「あぁ、それは」

ゆい「高砂さん、八城ちゃんに伝えてなかったんですよね」

高砂「しょれは悪かった。許してくれ、このとーり」

ゆい「忘れていませんよね、あの約束」

高砂「ま、ましゃか」


250-4

井筒「うちはそういった商売はしとらんねぇ」

ゆい「残念です。高砂さんが覚悟の上で来たのに」

高砂「しょーぷってなんだ?」

ゆい「お風呂のようなものです。全身にオイルを塗りましてですね、そうしてお客様にご奉仕するんだとか。わたしは兄さんにしかやりたくないです」

高砂「しょれをしゃちょーにやったらいーのか?」

ゆい「あぁ、それは名案です。高砂さん、全てを賭けてわたしに向かってきてください」

高砂「望むところだ」

井筒「普通に入ってね」

ゆい「仕方ないです。小人二枚で」

井筒「あいよ」

ゆい「井筒さんも入りませんか」

井筒「店も閉めたし、監視するためにもご一緒させてもらおうかな」

ゆい「何もしませんからね」

井筒「益々怪しい」


250-5

井筒「そういえば八城ちゃんとやらは誘ってないのかね」

ゆい「えぇ、不慮の事故でお亡くなりに」

井筒「まだ若いのにねぇ。残念だ」

高砂「にゅーいんしているらしーぞ」

井筒「幽霊病院かい?」

ゆい「はい、当病院では、一般的な病院で預かりきれなくなった患者様の受け入れを行っております」

井筒「死後に入院出来るんか」

ゆい「そうですね、一度退院という形を取った方がいいでしょう。そして、もう一度入院し直すわけですね」

井筒「霊視ができる人がお医者さんにならないかんね」

高砂「しゃちょー独自ののーりょくだ。わたしには見えない。しょーじきうらやましー」

ゆい「見えても良いことなんてありませんよ。そもそも魂なんざ彼方此方に浮遊しているわけですから。正直言いまして、生身の人間より多く見ていると思います。もう嫌んなります」

高砂「このせんとーには見えるか?」

ゆい「居ますね。同じ浴槽に浸かっている方が一名。壁の方にも一名居ます」

井筒「ロモちゃん、ちょっくら徴収してもらえんか?」

ゆい「だそうですよ、幽霊さん」

高砂「しゃっしょく話し掛けてる」

井筒「うちはロハじゃないんだよ」

ゆい「よく見るとこの人男です」

高砂「へんたいだー」

井筒「つまみ出しておくれ」

高砂「杖はこーいしつに置いてきた。しゃちょー頼む」

ゆい「高砂さん、燃やす気満々ですね。でもその必要もありません。この方、涙を流しながら成仏しました」

高砂「嬉しかったのか」

井筒「ロモちゃんが気付くまで堪能していただろうしね。満足したろう」

ゆい「壁の方は後でいいですよね。女ですし」

井筒「タダ風呂がそもそもいけないんだけどねぇ。まぁ後でいいよ」

高砂「たかしゃごが風呂上がりに燃やすっ」

ゆい「任せましたよ、高砂さん」

高砂「任せろぃ」

井筒「他には居るかね」

ゆい「視野範囲内には居ませんね。男風呂は知りませんけど」

井筒「男風呂には女の幽霊が居そうだねぇ」

ゆい「物好きですよねぇ、ほんと」

高砂「しゃちょー、男風呂見てる」

ゆい「今行っても誰も居ないでしょう。誰も居なけりゃ期待値ゼロですよ」

井筒「男が居れば、覗くというのかね」

ゆい「いいえ、わたしは兄さんの裸だけで充分です。更に言うと、兄さんの」

井筒「それ以上はいいわ」

高砂「しゃちょーは昔からこんなだった?」

井筒「いいや、男が出来てから腐っちまったのさ。何でこんなのが巫女やっとるんだ」

ゆい「巫女としてのわたしは神聖で穢れなきわたしです。兄さんの愛人であるわたしとは違うのです」

井筒「ロモちゃん、サウナ行こうか」

高砂「サウナって何だ?」

ゆい「蒸し風呂です。息が詰まりますよ」

高砂「マゾかな」


250-6

ゆい「この映像は、何です?」

井筒「進化論」

高砂「人間はこんなにちっぽけなものだったのか」

ゆい「今とあまり変わらないですね」

井筒「ちゃんと成長しとるだろうに」

高砂「違うビデオない?」

井筒「シャゴちゃんは、どんなのが好きかえ?」

ゆい「これとかどうです?」

高砂「いーな、これは為になる」

ゆい「セット」

高砂「始まる、始まるぅぅ」

ゆい「OP始まる前にうだりそうです」

井筒「魔法少女か、こんなもの置いてたっけ」

ゆい「誰かの忘れ物じゃないでしょうか」

高砂「ちょっときつい」

ゆい「上がりますか」

井筒「まぁ長居はできないさね」

井筒「おっ、二人共おかえりー」

ゆい「高砂さんの力で無事供養してきましたよ」

高砂「やりしゅぎて、かしゃいほーちきなった」

井筒「相変わらず加減を知らんのね。とりあえず、ご苦労様でした。アイスでも食べるかい」

高砂「ちょーど、ちゅめひゃいもにょがたべらかっら」

ゆい「食べる前から舌麻痺してどーすんですか。いただきます」

井筒「へい、お待ち。そうだ、夜も遅いし、泊まっていくかい」

ゆい「良いですね、泊まっていきましょう、高砂さん」

高砂「う、うん」


250-7

高砂「部屋はしぇまいのか」

井筒「布団三つも敷くとこんなものさ。どう寝ようか。ロモちゃん、真ん中だね」

ゆい「それで構いませんよ、おやすみなさい」

高砂「しゃちょー、ひっついて寝ていい?」

ゆい「ご自由にどうぞ」

高砂「仕方ないな、しゃちょー」

ゆい「それはわたしの台詞です」

井筒「二人は仲良いねぇ」

高砂「ばんとーも来たらどうだ。しゃちょーは暖かい」

ゆい「人で暖をとらないでください」

井筒「あたしゃ良いよ。二人で楽しんどき」

高砂「わはは、しゃちょーを独り占めだっはっは」

ゆい「ちょっとお花摘んできますね」

高砂「お鼻を摘まんでくる?変な趣味だな。こきゅーをやめるのか」

ゆい「トイレをお上品に言ったのですわ、おほほ」

高砂「下品にゆーと?」

ゆい「乙女には恥があるのです。お下品な言葉なんて吐けないのです」

井筒「良いからはよ行きや」

ゆい「はい」

ガララッ

高砂「出てった」

ガララッ

ゆい「高砂さん、一緒に来てくれません?一度幽霊を意識すると流石に気味が悪いです」

高砂「しゃちょーは怖がりさんだなー。仕方ないな、ばんとー、行ってくる」

井筒「うん」

ガララッ

高砂「そんなに居るのか」

ゆい「居ますよ、丁度高砂さんを囲っています」

高砂「焼きちゅくしゅ」

ゆい「待ってください。今度は本当に火事になりますよ」

高砂「仕方ないなー。じゃー外で待ってるよん」

ゆい「ありがとうございます。すぐに済ませますからね」

高砂「おっけー」


250-8

ゆい「お待たせしました」

高砂「……ん、待ちわびたぞ」

ゆい「すみません、こればかりは仕様がなくて」

高砂「まー何だっていーや。さー戻って寝よー」

ゆい「はい、高砂さん」


251

基茂「じゃあ行ってくるな」

ゆい「兄さん、いってらっしゃいのキスです」

基茂「全く届かん」

ゆい「兄さんが合わせてください」

基茂「すげぇ面倒臭い」

ゆい「ん、じゅる……」

基茂「………」

ゆい「んん、れろれろ」

磨夢「………」

基茂「………」

ドサッ

ゆい「ん、んんぅ、ちゅぱちゅぱ」

基茂「………」

磨夢「玄姦?」

基茂「いいや、ここまでにしておこう」

ゆい「兄さん、押し倒して服めくっておいて、それはないと思います」

基茂「このまま続けたら確実に遅刻する」

磨夢「わたしも行かないと」

ゆい「もう、兄さんったら」


252

純治「うぃーす」

基茂「おひさ」

純治「おっ、姉ちゃんからメールだ」

基茂「おっ、生き別れの妹からメールだ」

純治「メアド知らねーっしょ」

基茂「確かに。後最近はレーンが流行ってるぞ」

純治「あんなのは俺達に関係ないもんだよ」

基茂「ダチの数なんざ十に満たんぞ」

純治「連絡相手が少なきゃ、メールで十分なんだよなぁ」

基茂「ネトゲのチャットで十分だな」

純治「なら先生は貰おう」

基茂「先生を取られちゃあ死を覚悟するぞ」

磨夢「今日から佐竹家に仕える」

基茂「せめてお裾分けだけはしてくれ。俺達だけじゃどうしようもない」

磨夢「本当にどうしようもない」

純治「伊崎、簡単な料理ぐらい作れるようになっておくべきだぜ。オレだって生きてこれたわけだから」

基茂「料理する時間なんざよく取れるな」

純治「まぁ一人分で質素で使い回しだから時間掛かってないだけだぜ」

磨夢「同じ料理は飽きる」

純治「確かに、先生の言う通りです。オレは料理本の順番に作ってるんで」

磨夢「そう」

鋼田「早いですね、延原先生」

磨夢「鋼田先生、おはようございます」

基茂「いっつも待機してるんか」

磨夢「ん」

鋼田「さあ伊崎君、席に着いてください。HRを始めます」

基茂「うぃす」


253

磨夢「ん、そこ」

霞「痒いですか、優しくしてあげますね」

磨夢「ん……」

霞「先生って色っぽいですね。これが大人の女性である証左ですか」

磨夢「霞、責めるの、得意…んっ!!」

霞「単なる耳掻きですよ。そういった類のものじゃないです。先生も子供の頃、お母さんにやってもらったでしょう?」

磨夢「お母さん……霞」

霞「その結び付けは如何なものかと」

磨夢「お母さん、何もかもが懐かしい」

霞「おお、近頃流行りの生き別れですか!伊崎先輩の妹さんと違ってわたしの生き別れの妹は実在しますよ」

磨夢「ん、それと近い形にありたい。というのも、わたしは昔から奉公生活だったから。家族とあまり関わっていない」

霞「先生はわたしに口割りすぎですよね」

磨夢「将来を考えれば、伝えておくべきかと」

霞「もう少し聞かせてください」

磨夢「当時のわたしは滅私奉公を理念としていた。不器用な同僚を庇うと、主人の怒りを買う。時には八つ当たりも受けた。わたしは身も心もボロボロだった。それを見ていた同僚が遂に主人を殺めてしまった。彼女は他の同僚に責められ、山中で自殺した。彼女を庇っていたわたしは当然その場にいられない。次の奉公先へ向かった。そこは、とあるお屋敷。この頃が一番良かった。わたしは気に入られた。主に年老いた主人に仕えた。彼が亡くなったことより、次に身を移した。三つ目が今住んでいる家。つまり、基茂が来る前の主人。仲の良さげな家族。いつも笑いの絶えない、そんな家庭。わたしは自分の仕事だけに集中した。ゆいと会ったのは、その頃。彼らは居なくなった」

霞「ゆいちゃんはいけないです、とてもいけない子です。大体分かりました、先生の事」

磨夢「分かってもらって嬉しい」

霞「ぶっちゃけ適当でしたよね」

磨夢「そう」

霞「先生の事が以前より信じられなくなりました。ただでさえ不思議な方とは思っていたんですけど」

磨夢「そう」

霞「先生は自由ですよね、誰よりも自由です。そんなところが好きですよ。はい、終わりました」

磨夢「ありがとう」

霞「狩れていますか」

磨夢「ん、ばっちり。霞も参戦して」

霞「膝枕を解除してくだされば、参戦しますよ」

磨夢「……名残惜しい」

霞「押し入れに眠ってそうですね。なかなか古いタイトルなんで。それは2ですが、もう5は出ていますよ」

磨夢「基茂は持っているものが古い」

霞「先輩はCSゲーには熱中していませんか。これだからゲーム業界が廃れていくんですね」

磨夢「ところで霞、最近inしてる?」

霞「してますよ。こうしている時間はなかなか珍しいのです。一人の時は大抵潜っていますから」

磨夢「通りで霞を見ないわけ」

霞「素材がまた売れるんですよね。弱武器から強武器まで幅広く使用されるわけですから、需要は尽きないようです」

磨夢「初心者でも稼ぎやすいのは良い」

霞「お金の用途はある程度ありますからね。昔のようにスキル強化から武器強化までなんてものでもありません」

磨夢「運営は少しずつ改善してきている」

霞「ユーザーが離れて、これを取り返せるか。今真価が問われる時ですね」

磨夢「ん」

霞「遂に出てきました。ゲーム本体も無事です。昔は黙々一人でやっていたものです。それをクロちゃんに話したら共感されましたね。そもそもクロちゃんが昔からゲーマーだったか謎ですが」

磨夢「友達が居ないなら大体読書やゲームにハマると思う」

霞「クロちゃんが本読んでいたとは思えませんし、やはりゲーマーだったんでしょうねぇ。いやでも、お嬢様でしたし、優雅な趣味をお持ちだったのしれません。俗に染まれない日々なんて退屈だったでしょうね。通りで下ってきたわけですよ」

磨夢「マンネリは恐ろしい」

霞「そんな日常をやはりクロちゃんは耐えられなかったんでしょうねぇ。名家から抜け出してきたわけです。家こそ援助金を出してもらっていても、それから無一文なんですから、バイトせざるを得ないわけですよ。わたしだったら、土下座してでも実家に戻りますよ」

磨夢「死ぬよりはマシ」

霞「それだけクロちゃんの決意は強かったわけですよ。と、他人の話ばっかりしていますね。わたしについて訊きたいことはありますか?」

磨夢「霞、また胸大きくなった」

霞「気のせいですよ。奇乳にゃあなりたくないです。寧ろ先生に分けてあげたいくらいです」

磨夢「むぅ」

霞「せーんせっ♪」

磨夢「かーすむ」

霞「もっと感情を籠めてくださいよ」

磨夢「いくら霞でも無理なものは無理」

霞「先生、腋とか弱いですか?」

磨夢「びくってなる」

霞「こしょこしょ」

磨夢「………ん!」

霞「そういうつもりはないですよ。笑ってほしいです」

磨夢「にこっ」

霞「表情はやっぱり変わらないですね」

磨夢「わたしの過去を話した筈」

霞「その前は笑っていたんですか?」

磨夢「覚えてないけど、多分そう」

霞「笑うという感情は頭の片隅にはあるんですかぁ。引き出すのが難しそうです」

磨夢「フッ」

霞「まだ甘いですよ」

磨夢「これが精一杯」

霞「先生は無表情かエロい表情しかできないんですか」

磨夢「ん、霞のエロい顔も見たい」

霞「せ、先生には刺激が強すぎるので、いけませんよぅ」

磨夢「考えるだけで鼻血が」

霞「また先生とお風呂に行きたいです」

磨夢「泊まりにきてもいい」

霞「皆さんの都合がよろしければ、またお泊まり会したいですね。一緒にお風呂も寝るのもできて、まさに一石二鳥です」

磨夢「霞、好き」

霞「ふふ、わたしもですよ。せーんせ」


254

キーンコーンカーンコーン

磨夢「基茂、ちょっと来て」

基茂「何だ先生、また補習のお知らせか」

磨夢「それもあるけど、この写真」

基茂「これはまた素晴らしいものを。ばらまくのか?」

磨夢「業者に高く売る」

基茂「お主も悪よのぅ」

磨夢「いえいえ、お代官様程では」

基茂「業者に回ってどうなるんだ」

磨夢「良い働き口を見つけてもらえる」

基茂「ひっでぇ話だなぁ」

磨夢「今だから美味しい」

基茂「まるですぐBBAになるような言いようだ。あ、先生は合法ロリだから許される」

磨夢「………基茂の馬鹿。補習増やしちゃう」

基茂「ありがとうございます、ありがとうございます」

剣「先生先生、ここが分からないです」

磨夢「ここ、話すと長い」

基茂「ではオレはここで」

磨夢「ん、分かった」

純治「何の話してたんだ」

基茂「やっぱりみんなロリが好きだねって話だな」

純治「先生とロリトークか、悪くないな」

基茂「なぁ佐竹、先生はロリか?今思えばちっちゃいだけな気がしてきた」

純治「ちっちゃくて顔が幼けりゃロリ、と言いたいところだが、やはり決定づけるものは年齢だぜぃ」

基茂「訊いたら殺されるので推測しよう。26」

純治「駄目だな、BBAだ」

基茂「そいつぁ厳しいな」

純治「でも、院出てたらそんなもんか。いや、でも待てよ。先生が飛び級している可能性もあるぞ。14」

基茂「気持ちは分からんでもない。だが免許持ってるし、オレは19で行く」

純治「ロリを卒業仕立てだろう常識的に考えて」

基茂「どうなんだろうなぁ」

磨夢「何の話?」

基茂「ま、まな板の話だ」

純治「包丁を研げるまな板なんてのが最近出たらしいし、それを買ってみようかと」

磨夢「そう」

スタスタスタ

純治「気にしてんだな、本人は」

基茂「シッ、声がでかいぞ」


255-1

ガララッ

高砂「これでよしっと、げひひひ」

磨夢「いつかの魔女」

高砂「しぇんしぇー、か。こんなところで会うとは」

磨夢「ここはよく来るから」

高砂「しゃぼりか?」

磨夢「仕事は全うしている。お蔭で頭が痛い」

高砂「だったら、このくしゅり」

磨夢「注射?」

高砂「しょーだ、右腕を」

磨夢「ん」

高砂「しゅこし痛む」

磨夢「構わない」

高砂「じゃー、行くぞー」

ズブッ

ドサリ

高砂「しゅこし寝ておけば必ずよくなる」


255-2

ちる「先生、おはよう、ございます」

磨夢「寝てた?」

ちる「はい、ぐっすり、でした」

磨夢「思ったより強力」

ちる「睡眠、薬、ですか?」

磨夢「ん、似たようなもの。すっきり」

ちる「よく眠れて、よかった、ですね」

磨夢「そういうことにしておく」


256-1

高砂「うひひ、これを使えば、やちゅの命もびょー読みだ」

ゆい「相変わらず危険なにおいがプンプンします」

高砂「こどーを止めるだけじゃなく、しょんざいをけしぇる」

ゆい「不死なる者にも効果的ですね」

高砂「しょーしょー、ちょーどしゃちょーみたいなやちゅだ」

ゆい「しかし高砂さんが、そこまでしてやりたい相手がいるなんて」

高砂「たかしゃごにも憎むべき相手がいるからなー。今回は依頼」

ゆい「依頼なら仕方ないですね」

高砂「それでしゃちょー、一寸試しに受けてほしい」

ゆい「嫌ですよ、わたしまだ消えたくないです」

高砂「別にしょれを使うとは言っていない」

ゆい「薬、ですか」

高砂「これを飲んだらたかしゃごに惚れる」

ゆい「高砂さん、将来も安泰ですね。良かったです」

高砂「どーしぇならどーぎょーしゃがいー」

ゆい「売れ残りの男性はみんな魔法使いになりますよ」

高砂「しょれなら安心だ」

ゆい「高砂さんは単純です。誘拐されてしまいますよ」

高砂「危なきゅなりゃー、車ごと爆発しゃしぇてやる」

ゆい「杖を奪われたらどうします?」

高砂「杖がなくてもちょうのーりょくが使える。首をねじ伏しぇてやる」

ゆい「ああ、なんて怖い子なんでしょう」

高砂「ぞーきがあれば、肉体は要らない。しゃちょーにやろー」

ゆい「それはどうも」

高砂「人のぞーきとゆーのはくしゅりのいーざいりょーになるからな。じよーこーかがある」

ゆい「良薬口に苦しと言いますしね。そういった部位が使われるべきです」

高砂「しょーだよ、不味くてとーぜんだ。美味い薬なんてないぞ」

ゆい「あまりにも不味いというのでしたら塗るなり他に手段がありますよね」

高砂「ちゅーしゃだ。体内にちょくしぇつ送りこめる。しぇんしぇーのずつーもふっとんだ」

ゆい「素晴らしい効用ですが、副作用とか大丈夫ですか?」

高砂「毒が回って若干はきゅ」

ゆい「磨夢さん、今頃吐いてるんでしょうねぇ」

高砂「まーしょこは仕方にゃい」

磨夢「はぁはぁ……」

八城「どしたの、まみー。顔青いよ?」

磨夢「ん、大丈夫……」

基茂「全然大丈夫そうにないんだが……もう寝ていいぞ」

磨夢「そう、する……(フラフラ)」

基茂「たく、仕方ねぇ」

八城「まみー、酔っ払いさん?」

磨夢「うう、うぇっ」

基茂「待て待て、ここで吐くんじゃねぇ。やしろん、トイレに連れてってくれ。落ち着いたら寝かしてやれ」

八城「あいあいさー」

磨夢「あの魔女、何混ぜて……」


256-2

基茂「そういえばやしろん、怪我は治ったのか?」

八城「みんながお見舞いに来てくれたから、すっかりよくなったよ」

基茂「そいつぁ良かっただ。やしろんって丈夫だよな」

八城「お医者さんもそう言ってたよ。回復が早いって」

基茂「医者としては死なれちゃあ困るしな。やしろんが居なくなったらオレも大泣きする」

八城「お兄ちゃん、泣くの?」

基茂「あたりめぇよ。仮にも家族じゃねぇか。絆というものがある」

八城「あー、運命の赤い糸だね」

基茂「まさかやしろんと結ばれているとはな」

八城「あたしでもゆいちゃんでもないよ。ちるお姉ちゃんと結ばれなきゃ駄目なんだよ」

基茂「それは難しい注文だ」

八城「お兄ちゃんの鈍感ーっ!」

基茂「会う機会が少ねぇんだよ」

八城「お兄ちゃんは気配り屋さん」

基茂「所構わず喋っている男女は皆万死に値する」

八城「お兄ちゃんが喋っていいのは、あたしみたいなのだよ」

基茂「結局やしろんぐらいに落ち着くんだよ。周りは気難しい奴ばかりだ」

八城「にゃはは、お兄ちゃん。人間は考えるやしろんだよ」

基茂「この世界、やしろんだらけじゃねぇか」

八城「この世界を変えるのはあたしダーッ」

基茂「この町だけでも変えてもらえないか

八城「難しい注文だなぁ」

基茂「両性の同意は年齢の壁も関係なくしてもらいたい」

八城「ふぇぇ、そんなのいけないよぉ」

基茂「へへ、良いだろう。減るもんじゃなし」

八城「いやぁぁ、誰か助けてぇぇ」

基茂「まぁやしろんに手を出す気はないが」

八城「お兄ちゃんはゆいちゃん一筋だもんね」

基茂「ゆいゆいはエロすぎっからなぁ」

八城「お風呂入りたいなぁ」

基茂「その前に飯……磨夢の奴倒れてんだったな。じゃあ先に風呂だ」

八城「わぁい、おっふろ、おっふろー♪」


256-3

コンコン

基茂「入っています」

八城「ゆいちゃん?」

ゆい「二人仲良くお風呂ですか。ではわたしも」

ガララッ

基茂「湯煙が凄くて何も見えん」

ゆい「恥ずかしがらなくていいのですよ。わたしは我が身を誇示します」

基茂「うぅ、頭痛が」

八城「お兄ちゃん、照れ屋さんなの」

基茂「こう面として向かうのは、どうもな」

ゆい「いいですいいです、背中を向けますから」

八城「背中洗うときは言ってね」

ゆい「はい、八城ちゃんにお願いしますね」

基茂「………」

八城「お兄ちゃん?」

基茂「やしろんは可愛いなぁ」

八城「にゃはは、お兄ちゃんだぁいすきぃ」

ゆい「ところで磨夢さんはどうされました?」

八城「まみーはもう寝ているよ」

ゆい「今日はお疲れ様なんですね」

基茂「なんか知らんがすっげーしんどそうだったな。ゲロ吐いてた」

ゆい「何かにあたったんですかね」

基茂「普通ならそうだろうなぁ」

八城「何か拾って食べたのかな?」

ゆい「磨夢さんはそこまで食い意地ないと思いますよ」

八城「あっ、背中洗おっか?」

ゆい「はい、お願いします」

八城「あんまり強く擦ると折れるね」

ゆい「最近鍛えているから平気ですよ」

基茂「何処をどう鍛えているってんだ」

ゆい「いやぁ、兄さんったら。分かっている癖に」

基茂「家に乗馬マシンでもあるのか?」

ゆい「我が家にそんなはいてくなものなんてありませんよ。下半身の増強にはもっと適したものがございまして……」

基茂「やめだやめだ、やしろんがいるだろ」

ゆい「何を仰います。兄さんが振ってきたのに」

八城「流すよ」

ゆい「はい、お願いします」

八城「あはは、骨見えてぇら」

ゆい「八城ちゃんが黒いです」

基茂「そんな子に調教した覚えはないぞ」

八城「ちょーきょー?あたし何かされたの」

ゆい「兄さんは八城ちゃんを自分の好みに教育したと仰るのです」

八城「あたしが、お兄ちゃん好み?」

基茂「エロくなく、頭がおかしくなく、肉付きもよいという三本セットだ」

ゆい「わたしを全否定して何が楽しいというのですか」

基茂「まぁいうなら、ゆいゆいにない可能性があるというわけだ」

八城「ゆいちゃんにない可能性かぁ。何かわくわくするね」

ゆい「わたしは悲しいですよ。これも神が与えし一つの試練なのでしょうか」

八城「お兄ちゃんお兄ちゃん」

基茂「ん、何だね、オレのよ……ぐはっ」

八城「やはは、引っかかったぁー」

基茂「おのれやしろん、やりよる。お返しだっ」

八城「うわぁ、やられたぁ」

ゆい「よいしょっと」

八城「ゆいちゃんはいつも特等席だね」

ゆい「はい、指定席なので、これだけは譲れないです」

八城「指定席なら仕方ないや」

基茂「ちょっと熱くなってきたな」

ゆい「ふふ、兄さんこんなに硬くして、もしかして照れています?」

基茂「違ーよ。長く浸かりすぎただけだ。興奮すっから触んなし。やしろんも上がるか?」

八城「ゆいちゃん居るし、もう少し居るよん」

基茂「そか、あんま無理すんなよ」

ガララッ

ゆい「あらあら二人っきりになっちゃいました。仕方ないです、八城ちゃん少しえっちします?」

八城「お風呂で触り合うの?」

ゆい「流石分かっています。まずはこういった感じです」

八城「にゃう!?近いよ、ゆいちゃん」

ゆい「吐息の触れ合う体勢です。八城ちゃん、本当に美味しそうです。少し首元を噛ませてもらっていいですか?」

八城「良いよ、ゆいちゃん、血が足りてないの?」

ゆい「血よりは肉目当てなんですけどね。安心してください、痛いのは一瞬だけですよ。では失礼して……はむ」

八城「……っ!でもちょっと痛いくらいだ」

ゆい「これぐらいは舐めて治してあげます。れろれろ」

八城「あはは、こそばゆいや」

ゆい「こちらから行っておいてなんですが、大丈夫でした」

八城「へーきへーき。パーカー君に比べたら大したことないよ」

ゆい「そちらの快感に目覚めちゃいましたか。多分、身体が保ちませんよ」

八城「程々が一番だね」

ゆい「わたしより先に死んじゃ許しませんよ?」

八城「そうだ、植物になったゆいちゃんのお見舞いに行かないと」

ゆい「八城ちゃんの事は最期まで覚えていますよ」

八城「うん、約束するよ。はい」

ゆい「中指でなく、小指です」

八城「あぁ、うっかり」

ゆい「ではいきますよ。嘘吐いたら針千本飲ーます」

八城「指切った!そろそろ上がらないと」

ゆい「八城ちゃん、わたしたちの友情は永久に不滅です」

八城「勿論だよ」


256-4

八城「良い湯だったぁ」

基茂「アイスうめぇ。冷凍室にあんぞ」

八城「ありがとうお兄ちゃん」

ゆい「これはまた新しいですね、監禁系ですか」

基茂「某事件で実際に収録された本物らしい」

ゆい「押収物じゃないですか、それ」

基茂「過激表現が多いぞ。やしろんはお戻りなさい」

八城「うぅー、訴えてやう!」

ピンポーン

ゆい「はい、羽衣です」

基茂「ゆいゆいが出ちゃ駄目だろう。どうせ変なセールスだ。適当に追い返せ」

ちる「あの、椎木です。その……先生が倒れたと、聞いたので、おかずの、お裾分けを」

ゆい「兄さん、ちるさんです」

基茂「神がいらっしゃったぞ。すぐに開けろっ」

八城「ちるお姉ちゃあああああん」

ちる「こんばんは、八城ちゃん」

八城「ちるお姉ちゃん、寒くない?」

ちる「ちょっぴり、寒い、です。料理、置いておきます、ね」

八城「わぁぁぁい、ちるお姉ちゃんの手作り料理だああああああっ」

ゆい「折角なので、お風呂入っていきません?わたしたちはもう入りましたけど」

ちる「あっ、良いんですか。では、お言葉に、甘えて、お邪魔します」

基茂「風呂イベか。丁度こっちも風呂だ」

ゆい「たわしは痛そうですねぇ。しかも力任せに」

基茂「ゆいゆいは、こういうプレイしたいか?」

ゆい「痛いのは嫌です」

八城「痛みなんて一瞬だよ」

ゆい「死んだことにすら気付かなそうですね」

基茂「死んだ魚の目してるよな。再生時間はまだある」

ゆい「あまり痛めつけては良質な肉にならないのです」

基茂「いや全くの素人だよ、こいつらは」

ゆい「彼らもこれから上手くなっていくのですね」

基茂「こいつらは捕まってっからなぁ……いや、社会復帰はしているか」

ゆい「彼らの何れかは料理人の道を歩むのです。もしくは牧人となるでしょう」

基茂「家畜同然ですな」

八城「そろそろご飯ー」

基茂「あい分かった」


256-5

ちる「お風呂、お借り、しました」

ゆい「お料理、頂きました。とても美味しかったです」

ちる「それは、嬉しいです」

八城「お風呂上がりのちるお姉ちゃんは益々美人だね」

ちる「はは、ありがとう、ございます、八城ちゃん。では、わたしは、ここで」

基茂「送ってってやんよ」

ゆい「あら、兄さん珍しい」

基茂「まぁそこだしな。オレの体力でも大丈夫だ」

ちる「わたしよりは、ずっと、体力あります」

基茂「おぶってってやんよ」

ちる「恥ずかしい、です。大丈夫、です」

ゆい「わたしがおぶってってもらいたいです」

基茂「肩車だろ?」

ゆい「兄さん、余裕ですね」

八城「あたしも肩車されたい」

基茂「よし、じゃあやしろんを肩車しよう。ゆいゆいはちるにおぶってもらえ」

八城「わぁい。お兄ちゃんの肩車ぁ」

ゆい「何か違いますよ、それ」

ちる「ゆいちゃんなら、いけます、よ」

ゆい「何だか張り切っていますね。では、ちるさんに任せます」

ちる「やっぱり、軽い、ですね」

基茂「ゆいゆいに体重なんてねーからな」

ゆい「わたしは霊体じゃないですよ」

基茂「じゃあ歩く人体模型」

ちる「ゆ、ゆいちゃん、お、お友達に、なりましょう」

ゆい「わたしは人間ですからね!?」

基茂「悪魔じゃなかったのか?」

ゆい「悪魔として見られるのと人体模型として見られるのとでは違うと思います」

八城「人体模型さんだって生きてるんだよ」

ちる「はい、人体模型さんは、生きています、よ。あんなに、元気良く、走ります、から」

ゆい「ちなみにわたしは走れませんよ」

八城「ゆいちゃん、今度ジム行こう」

ゆい「プレスで即死するんで、やめておきます」

八城「なーんに、つまんなーだ」

ちる「さてと、わたしの家は、ここ、です」

基茂「おつー」

八城「ちるお姉ちゃん、おやすみー」

ゆい「ありがとうございます」

ちる「はい、おやすみなさい」

ゆい「わたしは、どうやって帰れば」

基茂「どーせ、結界やら貼ってんだろ」

ゆい「そうですね、わたしが捕食される側になるわけにはなりませんからね。ある程度の防御機能は備えております」

基茂「帰れっか?」

ゆい「近くで蛆湧いてる死体があったらわたしですよ」

八城「ゆいちゃん、可哀想」

ゆい「ということで、送ってってもらえますか」

基茂「素直にそう言えよ」

ゆい「兄さんはわたしを苛めるので、素直に言っても無駄かと」

基茂「ひどい奴だな、兄さん」

八城「お兄ちゃん、ゆいちゃんを苛めちゃ駄目だよ」

基茂「ゆいゆいはマゾだから構わん」

八城「あっ、そだった。なら問題ないね」

ゆい「周りがそんなのばかりですからねぇ、受け身になるのも仕方ないのです」

基茂「成程、可哀想だ」

ゆい「そういえば、先程から八城ちゃんの肩に白い手が乗っています」

八城「えっ?」

ゆい「危険性はあまりないですね。寂しがり屋の幽霊です」

八城「どこかに連れて行かれるかなぁ」

ゆい「住む場所が無い地縛霊です。心配ありませんよ。気が済んだら消えます」

八城「困ったちゃんだね」


256-6

ゆい「さてと、お見送りありがとうございます。また明日です」

基茂「ここでいいのか?」

ゆい「えぇ、ここから先は他人を殺すことはなく、自らを殺す場所になっていますからね。個人的にはバラバラ殺人が起きてもらいたいものですが、大抵は外注ですよ」

基茂「よし、帰るか。やしろん」

八城「うん。ゆいちゃん、おやすみ」

ゆい「おやすみなさい八城ちゃん。兄さんは永遠の眠りにつくがいいです」

基茂「うっせぇ、おやすみ」

ゆい「明日は覚悟しておいてくださいね」

基茂「精力溶かす気か」

ゆい「楽しみにしていてくださいね」

基茂「じゃあな」


256-7

磨夢「んんぅー……朝」

ペタペタ

磨夢「誰もいない」


256-8

八城「おはよう、まみー。昨日はよく眠れた?」

磨夢「お蔭様で。すっきりした。ありがとう」

八城「良かったぁ。これで生きてける」

磨夢「………。八城は何がいい?」

八城「今日はココアな気分♪」

磨夢「ん、分かった」


257-1

ゆい「いっぱい出ましたね、兄さん」

基茂「お互いにな。ゆいゆいはまだいけるんじゃないか」

ゆい「いえいえ。兄さんにたっぷりなじられましたし、もうお腹いっぱいです」

基茂「ちょっとおっぱい吸わせろ」

ゆい「兄さんに気に入ってもらえて嬉しいです」

基茂「むは、むはははは」


257-2

磨夢「………」

八城「何してるの?」

磨夢「耳を澄ませば、基茂とゆいの狂乱が」

八城「何も聞こえないや」

磨夢「そう」

蕨「………」

八城「あっ、らびぃ。おはよう」

蕨(ペコリ)

磨夢「蕨も何か飲む?ミルクがある」

蕨(コクリ)

磨夢「じゃあグリーンティー」

八城「らびぃの朝っていつ?」

蕨(首を傾げる)

八城「分かんない?」

磨夢「朝に起きてくることが珍しい」

八城「だよねぇ」

蕨「!」

八城「美味しい?」

蕨(コクリ)


257-3

ゆい「兄さんは部屋に堂々とエロ漫画を置いています」

基茂「居間で堂々と違法ビデオ観ている奴よりマシだろ?」

ゆい「磨夢さんは押収物の確認をしているだけです。繰り返し観ることにより犯罪に至った原因を発見するのです」

基茂「直結するものでもないだろう」

ゆい「自制心がある方なら、実際に手を出すことはないのです。空想と現実を区別出来なければ、自己を破滅に追い込むことになります」

基茂「まぁ、てーへんなこったよ」

ゆい「自分がやった悪事たることに少しも異変を感じないのです。一度実行すれば、怖くなくなります」

基茂「万引きとかね」

ゆい「繰り返しによって、得る快感というものがあります。殺人なんかはそうですね。うちに来る方は一度でやめる方が大半ですが、偶に見ますね、連続殺人犯。必ずしも猟奇的な目を灯しているわけではありません。ある人はまるで人を殺すように見えなかったのです。優しい顔をしていました。わたしには全く殺意を見せなかったのです」

基茂「それは、ゆいゆいを信じていたからだろう」

ゆい「確かに、わたしは警察とグルじゃありませんからね。磨夢さんは管轄外と言って相手にしませんから。まぁそれはともかく、殺人犯は良い人です」

基茂「その考えはどうかと思うぞ」

ゆい「ところで兄さん、今日はどうします?今日もPCとにらめっこですか」

基茂「その前に居間に向かおうじゃないか」

ゆい「朝ご飯です」


257-4

磨夢「おはよう。今朝はお楽しみでしたね」

基茂「一週間分は使い果たしたな」

ゆい「兄さん、日課を怠るのは許されないのです」

基茂「下半身だけやろう。それで満足したまへ」

ゆい「そうですか、わたしは肉体を置いていきましょう。魂は行き着く場所を知っていますから」

基茂「疲れてんじゃないか、そこのソファーで寝てろ」

ゆい「そうですかそうですか……くぅー」

基茂「本当に寝やがった」

蕨「………」

磨夢「蕨、添い寝してあげて」

蕨(コクリ)

基茂「やしろんは?」

磨夢「朝シャン」

基茂「それはない」

八城「あぁすっきり。あっお兄ちゃん、おはよう」

基茂「はよーす」

磨夢「おかえり」

基茂「で、どしてたんだ」

八城「お散歩だよ。怪しい人に附いていかなかったよ」

ゆい「誘拐犯よりは殺人犯がうろうろしているくらいですからねぇ」

基茂「おっかねー町だな」

ゆい「バラバラ殺人が流行っているそうです。有望な人材揃いですね。是非、お店を開いてもらいたいです」

磨夢「近所には例の店だけ?」

ゆい「はい、例の店だけです。目立つわけにもいかないので、丁度いいのかもしれませんね」」

磨夢「そう」

八城「例の店?」

ゆい「素敵な楽園ですよ。八城ちゃんには人肉の美味しさが屹度分かるでしょう。兄さんも磨夢さんも食わず嫌いなだけです」

八城「ジンニク……?」

磨夢「そう、人肉。実物加工済みが」

ゆい「ご覧、ただの肉ですよ。わたしはこれが大好きです。まぁあれですよ、何を食べるにしても初めてがありますから。牛豚鶏だって同じです。赤子の頃は食べるとも思わなかったでしょう」

磨夢「好き嫌いは食べないと分からない?」

ゆい「その通りです。未知なる味の可能性を知るべきですよ。高級食を不味いという人もいますから」

磨夢「確かに」

ゆい「なら食べましょう。わたしだけの分では余りますし」

磨夢「基茂が食べるって」

基茂「いや食わねーし」

磨夢「………」

八城「えー!?」

ゆい「なら磨夢さん、ゴニョゴニョゴニョ」

磨夢「分かった」

基茂「やしろん、晩飯は寿司の出前でも取ろう」

八城「あたしサーモン食べたい」

基茂「おし、オレはマグロだ」

ゆい「刺身ですか。やはり新鮮なままいただくとなると、そういうのもありですね」

磨夢「馬刺とか」

ゆい「ありますね、確かに確かに」

基茂「同じ食卓に居られんぜ」

ゆい「兄さんは同じ寝床にあればいいですよ」

基茂「懲りねぇ枯れねぇオレよかよっぽどタフだ」

ゆい「兄さん、明日も楽しみです」

基茂「それは嬉しいなぁ、はは」

八城「お兄ちゃんが元気ない。やしろん成分注入。とちゅげきぃ」

基茂「おっしゃ、飛び込んでこいや、やしろん」

八城「あはは、お兄ちゃんだぁいすき」

磨夢「さてと」

ゆい「また古臭いビデオですね」

磨夢「発禁モノだから」

ゆい「曰く付きのものですか」

磨夢「精肉工場。実際に人、捌いてる」

ゆい「それは大変興味深いです。今度、貸してもらえますか」

磨夢「ん、なら今日でも」

ゆい「ありがとうございます。磨夢さん、大好きです」

磨夢「わたしには嫁がいるから」

ゆい「全く、兄さんといい、磨夢さんといい、あはは」

磨夢「ふふ」


258

玄那「ハッピーゴールデン」

霞「ゴールデンウィークに金ばらまきイベントですよー」

玄那「なぬぅ!?早急にログインせねば」

霞「マーケットも物価が大幅下落していますねぇ。みんな売ろうと必死です」

玄那「お買い求めやすい値段になっており、装備が潤うなぁ」

霞「本日8キャラ目回しております」

玄那「おっ、パイレーツ」

霞「略奪が美味い美味い」

玄那「魔法が哀れだ、ヒャハハハ」

霞「機動力ではこっちが断然上ですからねぇ。こういうランダム発生も楽しいですし」

玄那「機動力がある分、回避も見てから避けることができる。魔法職は遅すぎる」

霞「魔法職は魔法職で集めて殲滅が強いですが。それじゃあつまらんのですよ。やはり不遇職は近接ですねぇ」

玄那「体力は圧倒的だが、魔法や弓の一斉射撃を受けるとどうにもなぁ。ポーションがぶ飲みで余裕か」

霞「攻撃が出来なきゃ意味ないですよ。溜め技が唯一の取り柄です」

玄那「魔法職までじゃないものの、前方への火力はまあまあだな」

霞「連発は出来ないですけどね。後、飛び道具は弾けます」

玄那「サムライは例外だ。後シノビも」

霞「シノビは廃人職ですからね、仕方ないですよ」

玄那「クナイ投げすぎ、分身多すぎ、隠れるのも得意。何といっても二刀流だな。ありゃチーターだ」

霞「伊達に隠しジョブやっていませんよね。転職時の試練は悪の組織っぽくてかっこいいです。で、不遇職でしたね。木槌が大振りですよね、ある意味ロマン装備ですが」

玄那「期待値が高いやつは、隙が多すぎるんだよなぁ。ボス戦には強いけども」

霞「でも単体最強は良いですね。範囲攻撃で作業しているより燃えます。あ、一体ずつ殴っている方がダレますね。でも、WB殴る時には俺tueeeになりますよ」

玄那「まぁ申し訳程度の範囲攻撃があるわけだし、フィールドは何とかなるさ。IDは知らん。課金してコンパニオンでも買っとけ」

霞「コンパニオンなんて一度買えば他キャラに回せるお手軽モノなんですけどね。まあまあ、最前線の人なんて大半無課金ですよ。外見に拘る余裕派が課金するんです」

玄那「期間限定販売のコスとかな、普通にマケで売っているアレか」

霞「そうです、無課金の私達でも頑張れば買えるんですよ。まあコスに金を使うぐらいなら装備を充実させます。魔防も高い鉄壁騎士を作るんです」

玄那「じゃあ山賊でも作っておくか」

霞「ロハで仕入れて安く売ってくれるんですね。新規に優しいのは良いことです」

玄那「100,200lv帯の装備ならそうしてる。高レベなら勿論ぼったくるぞ。掘った分だけバカ儲けだ」

霞「あらやですね、資金難の高レベユーザーも居るかもしれないのに。そこは質を落とせって話ですね」

玄那「あたぼうよ。第一買えないなら、掘りゃあいいよ。買っている方が珍しいんじゃないか、ポーション以外」

霞「わたしも買えるものなら買っている程度ですからね。何の為に貯めているのやら、気づいたら20Gですよ」

玄那「何をしたらそんなにまで増えるのか、わたしは甚だ疑問だ」

霞「マケで当たれば馬鹿みたいに稼げますからね。いつかはマケ買い占めなんてしてみたいですねー」

玄那「求100M、出見抜き…と。369のキューピッド」

霞「そんな物好きいるものですか。あっ、知り合いにいるかもですね。そちらにご紹介しましょう」

玄那「まぁさ、露店でも開いて適当にやってるからよろしく頼む」

霞「ではでは先方に」

玄那「かすむんってギルド入ってるん?」

霞「居ますよ四人」

玄那「これはギルドやない、ただのパーティーや」

霞「どこかで狩りやってるんで、良かったら来てください」

玄那「シャウトとか、しないのか」

霞「やりますか、市街地レベリング」

玄那「390帯か行けるか、わたしのキューピッド」

霞「問題ありませんよ、壁になりますし。あっ、先生キター。こんにちは」

玄那「IDかな?」

霞「はい、自動マッチングで知っている人に会うのは嬉しいですね」

玄那「さっき行けてたら、一緒だったのか。見事な置き去り」

霞「それは残念です。先生ラグってますね。そして落ちています。あっ、メールです。パソコンがやられたそうです」

玄那「物理的な切断か。運営もやりよる」

霞「雷鳴ってますねぇ。やめましょう、ゲームになりません」

玄那「わっ、光った。今ピカッと」

ガラピシャーン

玄那「ひぃっ」

霞「真っ暗です」

玄那「しし暫く抱きついてていいか?」

霞「この際は仕方ないですなぁ。うへへへ」

玄那「………」

霞「クロちゃんが先生だったら」

玄那「空想に浸ってろ」

霞「また光りましたねぇ」

玄那「もう駄目だぁ」

ドシャァーン

霞「………」

玄那「あわわ、あわわわ」

霞「クロちゃんは意外と小心者ですよね」

玄那「かすむんは肝が据わっているよなぁ」

霞「雷は克服しました。幾らでもきて……」

ガラピシャーン

霞「ふぇぇクロちゃあああん、やっぱり怖いですぅ」

玄那「くわばらくわばら」

霞「こういう時は電源を使用しない遊びをしましょう。そう、人生ゲームを」

玄那「人生はクソゲーだ」

霞「だから楽しい人生を作るんですよ。これを使って」

玄那「なけなしの小遣い1000円を持って、さあ新しい人生の幕開けだ」

霞「100万円を拾う。交番に届け、無事持ち主が見つかった。拾得者のあなたは見返りを求めなかった。良い人ですね」

玄那「神社のアルバイト。7000円貰って2つ進む。電気屋でキーボードを買う。7000円払う。よく出来てるな」

霞「本屋で気に入った本を買う。500円払う」

玄那「ネトゲの月額課金、990円払う。もうやめよう、金が無い」

霞「大丈夫ですよ、またお小遣い貰えますよ」

玄那「いつまでも脛かじっていられない。わたしは渡米する」

霞「執事に出してもらうんですね」

玄那「こないだ手紙を送った。本気にしてくれないだろうなぁ」

霞「クロちゃんは頑張っていますよ。でも足りません、親への愛が」

玄那「わたしは没落した。本能のままに動く。ただがむしゃらに生きている」

霞「クロちゃん、将来の夢はありますか。わたしはとりあえず医学部へ」

玄那「かすむんは未来が明るいな。わたしは何をしたらいいのか分からない」

霞「クロちゃんは早く執事とハネムーンしましょう。羨ましいなぁこいつぅ」

玄那「果報は寝て待て。わたしは寝る」

霞「ふかふかのベッドで、すやすやとお眠りなさい」

玄那「昔を思い出す。当時は純粋な子供だった」

霞「あらゆるものに興味を持ちましたよね。武器も厳選する必要はないんですよ」

玄那「ランダムエンチャとか考えてるとしんどいからな。適当でいいんだよ」

霞「対人やらない限りは構いませんよ。ではおやすみです」

玄那「おやす」


259-1

ゆい「おや磨夢さん、人物画ですか」

磨夢「八城は絵になる……少し休憩」

八城「ゆいちゃん、替わってー」

ゆい「途中でわたしになったら、磨夢さん困惑しますよ」

八城「あたしとおんなじ顔しておんなじ姿勢ね」

ゆい「おんなじ顔は難しいですねぇ。どんな表情でした?」

八城「ずっと真顔だよ」

ゆい「同じ筋肉と皮膚、同じ頭蓋骨、無理な話じゃあないですが」

八城「はい、あたしのお面」

ゆい「用意周到ですね。しかし、磨夢さんの目を欺けるでしょうか」

八城「そんなに心配することでもないかも」


259-2

磨夢「さてと、続きを」

ゆい「………」

磨夢「………」

テクテク

磨夢「フッ」

ゆい「ひゃうっ」

磨夢「吐息が中から」

ゆい「………」

磨夢「ゆい、バレバレ」

八城「やっぱり駄目かぁ」

磨夢「八城、座って」

八城「あたしじゃなきゃ駄目?」

磨夢「ん、八城を描いているから」

ゆい「姑息な手段は通用しませんか」

磨夢「………」

八城「ふああ」

ゆい「凄い集中力です」

八城「動かないってのは難しいね」

ゆい「座るより寝た方が楽ですよ」

八城「脱ぐの!?」

ゆい「わたしなら脱ぎますね」

八城「ふぇぇ、恥ずかしいよぅ」

ゆい「辱めを受けているのではなく、芸術の対象として見られているのです。見てください、磨夢さんの真剣な眼差しを。愚かな考えなど微塵たりとも感じ得ることはできないでしょう」

八城「でも何描いてるか分からないよ」

ゆい「えっ、八城ちゃんじゃないんですか。磨夢さん、ちらっと見せてください」

磨夢「ん」

ちらっ

ゆい「可愛らしいワンちゃんですね」

磨夢「間違えた」

ゆい「その間違いには容易で気付くものですよ」

磨夢「描く犬を間違えた」

ゆい「………」


259-3

八城「どうだった、ゆいちゃん」

ゆい「犬プレイです。犬を使うのではなく、犬になるアレです」

八城「それはひどいよ、まみー」

磨夢「八城、お疲れ様」

八城「ちゃんとあたしを描いてくれた?」

磨夢「これ」

八城「まみー、絵上手いね」

磨夢「八城と犬しか描けない」

八城「え?」

ゆい「わたしは描けませんか」

磨夢「やってみれば分かる」

八城「本屋さん行ってくるね」

ゆい「行ってらっしゃいませ」

磨夢「ゆいは脱いでこそ味がある」

ゆい「ふふ、磨夢さんも好きですね」

磨夢「ん」


259-4

八城「ちるお姉ちゃん、こんにちは」

ちる「こんにちは、今日も、いい天気、です」

八城「お散歩日和だよん」

ちる「海の方、まで、歩いて、みません、か」

八城「海、近いんだった」

ちる「あまり、行かない、ですか」

八城「海に呼ばれてなかったし」

ちる「なら、こちら、から、向かいま、しょう」

八城「お散歩コースなの?」

ちる「今回は、特別篇、です」

八城「カモメさん、居るかな」


259-5

八城「いっぱい飛んでるよ」

ちる「水平線の、彼方に、船が、見えますよ」

八城「うーみーはひろいーな。おーきいなー」

ちる「でも港町では、ないんです」

八城「おっきい港ってのは、やっぱり余所行かなきゃ見れないかな」

ちる「ですね。海浜公園は、あります、けど」

八城「あの緑の所だね。こないだお祭りで行ったから知ってるよ」

ちる「八城ちゃん、そこの、自販機で、ジュース、お願い、します」

八城「おk」


259-6

高砂「随分とーくまで来た」

八城「魔女さん、おひさ」

高砂「きぐーだな。よく来るのか?」

八城「うぅん、今日は特別コースなんだよ」

高砂「特別ねー。たかしゃごも何か飲みたいぞ」

八城「残念、ジュース二つ分のお金しかないよ」

高砂「ケチだな」

八城「あたしのお金じゃないからね」

高砂「連れがいるのか」

八城「うん、ちるお姉ちゃんだよ」

高砂「あしょこのベンチにしゅわってる人だな。ちと先に挨拶してくる」

八城「せっかちだなぁ」

ちる「魔女?あなたが、噂の……」

高砂「たかしゃごはゆーめーじんなのか。しゃてはしゃちょーの知り合いだな」

八城「ゆいちゃんのことだよ。はい、ちるお姉ちゃん、」

ちる「ゆい、さんが」

高砂「ならあるてーどしょーかいされてる筈だし。特にはなしゅこともない」

ちる「あの、海を、割るような、ことは」

高砂「けしゃの魔力はイマイチだ。火もおこしぇない」

八城「調子悪いんだ」

高砂「町は焼き尽くしぇる」

八城「どっちなの」

高砂「ちゅーとはんぱなんだ」

ちる「………」

高砂「焼きちゅくしゅ?」

ちる「おうち、無くなる、のは、嫌です」

八城「あたしもちるお姉ちゃんに同じ意見だよ」

高砂「つまんにゃーの」

ちる「ところで、魔女、さん、この公園は、初めて、ですか」

高砂「ぐーぜん見かけた。こっちにも緑があるんだな」

ちる「中心部に、珍しい、公園、です」

八城「周りは山だもんねー」

高砂「はっはっは、隣町に比べりゃ大都会だ」

ちる「もはや其方が、村、ですよ」

高砂「しょーだな、これは村になる」

ちる「昔は、栄えたん、ですか」

高砂「魔界とーちじたいは、それなりの町だったらしー。第二支部が近くにあったとか」

八城「へぇそれはすごい」

高砂「魔族のみんな、昔は強かった。現まおーは確かに温和派だけど、人間がいつ攻撃仕掛けてきても余分の戦力があるだの言ってた」

ちる「魔族、というと、異形の種族、ですか」

高砂「人型もいるっちゃいるけど少なかったなぁ。あれだ、人魔のはーふ」

ちる「人間とは、仲良く、やって、いたん、ですか」

高砂「きゅーしぇんの頃は、ゆーこーを深めるため、こーりゅーもしゃかんだったしょーだ。愛はへーわを築いた」

八城「過去形だぁ」

高砂「まーしょーゆー時代もあったってこと。現まおーもしょれを手本としてやっているよーだが、人間側にあまり理解を得られないしょーだ」

ちる「難儀な、問題、ですね」

高砂「しぇんしょーにはならんからだいじょーぶってまおーが言ってた」

八城「良い人なんだね」

高砂「悪いやっちゃーない。じっしゃいかわいー、見た目だけは。例えるなら、うしゃぎのよーな」

ちる「うさぎ、ですか」

高砂「但し、耳まみっちゅありゅ」

八城「噛み噛みだよぉ」

高砂「シャボン玉ガム噛んでるからな」

八城「なぁにそれ」

高砂「膨らましぇたら、シャボン玉のよーに飛んでいくふーしぇんガム。たかしゃご改心のしゃくだ」

ちる「肺活量、必要ですね」

高砂「んにゃ、膨らましぇた後は、軽く吹きゃー飛んでくよん。まほーは作る時しか使ってない。えーっと、誰だっけ」

八城「八城だよ、魔女さん」

高砂「しゃちょーのゆーじん」

八城「やしろんだよ」

高砂「たかしゃごだ。名前はまだない」

ちる「猫、ですか」

高砂「猫、あやちゅはちゅかいみゃよん」

八城「うちも買っているよ、レオポン」

高砂「ましゃかライオンと豹とのあいのこを!?」

八城「にあやかったつけた名前の白い猫だよん」

高砂「しょーじきしぇんしゅある」

八城「えへへ、ありがとう。魔女さんとこは黒猫?」

高砂「しぇーかい、猫好きなら今度連れてこよー」

八城「わぁい楽しみだなぁ」

高砂「おねーしゃんは読書か」

ちる「ま、魔術書、とかじゃ、ない、です。ごめん、なさい」

高砂「おねーしゃんにも何か貸してあげよー。ゆーじんに前貸したやつ」

八城「ねぇねぇ魔女さん、あたしって魔女さんの友達?」

高砂「いや、しゃちょーのゆーじんだ。略してしゃゆー」

八城「何だかよくわかんないや」

高砂「まずはにゅーもんから。読書家のおねーしゃんならよゆーだろー」

ちる「あ、ありがとう、ございまず」

八城「それ読めないやつじゃなかった?」

高砂「たかしゃごに読めるからだいじょーぶ」

八城「あたしは読めなかった」

ちる「中、見て、いい、ですか」高砂「どーぞどーぞ」

ちる「むむ、むぅ」

高砂「ないよーに関してはどーとゆーことはない。解読は確か、付録を挟んであった筈」

八城「数頁で嫌になったよ」

高砂「でも今なら読めるだろー」

八城「まぁ何とかね」

ちる「八城ちゃんは、色々、読んだん、ですか」

八城「何冊か読んだよ。でもちっとも分かんない」

高砂「前回貸したのが悪魔こーれーじゅつ。じょーきゅーまほーはそりゃ難しーに決まっている」

八城「本当に出来たら大変だぁ」

高砂「きしょを掴めば、しろーとでも出来たりしゅる」

八城「ほんとかなぁ」

高砂「例えばこのほーき、どうやって飛ぶ?」

ちる「飛べ、飛べ、と、念じるん、でしょう、か」

高砂「やってみる?」

ちる「は、はい」

八城「なんだかねぇ、見たことあるの」

高砂「気のしぇーだ多分」

ちる「びくとも、しません」

高砂「れんしゅーは、ひつよーだ。飛べとめーれーする他に自分も舞い上がる気持ちで」

ちる「上昇気流の、ように?」

高砂「自然と一体化しゅる気持ちは大事だ。よっ」

八城「おぉー、飛んだ飛んだ」

高砂「身体を軽くすればこんなもの」

八城「そいちゃー難しいね」

高砂「たかしゃごは軽いからな」

八城「ゆいちゃんとどっちが軽い?」

高砂「しゃちょーだ、何でだろー」

八城「骨と皮だかんね」


259-7

ゆい「ひっくしょーえん」

磨夢「バームクーヘン」

ゆい「全然違います。そして、いい加減寒いです」

磨夢「羞恥プレイ。こんなものがあった」

ゆい「首輪ですか、これ磨夢さんの持ち物ですか」

磨夢「ん、何もかも懐かしい」

ゆい「何があったんでしょうか」

磨夢「犬友達プレイ。両者吠えあう」

ゆい「飽きそうですね」

磨夢「勿論交尾」

ゆい「いいです、聞きたくありません」

磨夢「ありとあらゆる場所に輪を装備」

ゆい「それは聞くだけでおぞましいです」

磨夢「フラフープ、天使の輪、手錠、足枷etc」

ゆい「最近、拷問部屋はどうなんですか」

磨夢「罪人には最低限の食事を与えている。血まみれになろうと欲求は止まない」

ゆい「美味い肉にはならなそうですね」

磨夢「寧ろ肥やしてから屠殺するべき?」

ゆい「食用であれば、ですね。罪人に無理に食わせるわけにもいけません。拘束されてはいますが、多少なりとも自由があるのです」

磨夢「そう」

ゆい「常時監視下にあるわけでもないでしょう。指定された時間に悪魔と対面するだけです」

磨夢「苦しみは一瞬」

ゆい「早く殺してくれと思っているかもしれませんが、それは業者さんのお仕事ですからねぇ。例のお店の大将に話をつけてみましょう」

磨夢「普段はどこから」

ゆい「企業秘密だそうですよ。わたしにも分かりません」

磨夢「そう」


260

八城「ただーにゃ」

磨夢「ラコルーニャ」

基茂「カタルーニャ」

ゆい「おかーにゃ」

八城「にゃーにゃー」

磨夢「レオポンは散歩。お昼には帰ってくるって」

八城「ほんとだ。黒板に書いてあるよ」

基茂「どう見ても、磨夢の筆跡だろ」

磨夢「ん」

ゆい「あら兄さん、磨夢さんの字が分かるんですか」

基茂「ったりめーよ。長いつきあいだかんな」

磨夢「………」

八城「あたしも何かかこっと」

磨夢「レオポン」

八城「レオポン、こんな感じかにゃー」

磨夢「これは元祖レオポン」

ゆい「かっこいいですね」

八城「にゃはは、かっくいいかぁ」

基茂「やべぇ、ムラムラしてきた」

ゆい「兄さん、落ち着きましょう。今日は三人でお風呂ですね」

八城「まみーも一緒がいいな」

磨夢「基茂が何もしないなら」

基茂「てか収まらんだろ、あの浴槽。三人でいっぱいだ」

ゆい「では兄さん、温泉旅行を計画します。どっかで無料券手に入れておきますね」

磨夢「二人有効のがある」

ゆい「兄さん」

基茂「うるせーよ」

ゆい「まだ何も言っていませんよ」

磨夢「期限が五年前」

八城「ざーんねん」

基茂「捨てとけよ、紛らわしい」

磨夢「シュレッダー掛けとく」

基茂「別にそこまで言っちょらん」

ゆい「じゃあ温泉掘ってきますね。温泉街にしましょう」

八城「温泉って掘って、出るものなの」

ゆい「出るものですよ。油田掘るよりは簡単だって実際に油田王になった知り合いが言っていました」

八城「へぇ、そうなんだ」

基茂「ゆいゆいの交友関係が分からん」

磨夢「社員が精鋭だったから」

ゆい「そうですよ、わたし自身は顔が狭いです」

基茂「情けねぇ社長だなぁ」

ゆい「一つの軍団を率いれば、後は部下に丸投げです」

磨夢「社長は社長らしくあればいい」

ゆい「第一、掛け持ちするのが間違っているのです。彼らが本業としてやっていたから、委任したのです。わたしは偶に命令するくらいでしたね」

磨夢「神社と社、どっちが大事?」

ゆい「そりゃ八城ちゃんに決まっていますよ。今なお機能していることが奇跡的です」

八城「お兄ちゃん、ガム噛む?」

基茂「ありがたく頂戴する。誰かに貰ったのか」

八城「うん、魔女さんに。新しい発明品だって」

ゆい「鍋から何をどうやってガムを生成するんでしょう」

基茂「多分あれだ、魔法の鍋」

ゆい「高砂さんなら、容易い話でしょうね」

八城「魔女さん家行ってみたいなぁ」

ゆい「実験対象にされますよ。本当に何されるか分からないです」

八城「ふぇぇ」

磨夢「肉体改造?」

ゆい「肉体に異常が起きても不思議じゃないですね」

磨夢「ん」

基茂「やしろん、映画でも観ようぜ」

八城「何か面白いのある?」

基茂「並んでるなぁ、ドエロいのが」

磨夢「参考資料」

ゆい「と、仰っています」

基茂「参考資料なら仕方がないな。じゃあオレもその言い分で」

八城「面白いのがいいよ」

基茂「面白いかねぇ」

磨夢「………」

ゆい「兄さん、もうビデオ入っています」

基茂「再生っと」

八城「何も映らないね」

基茂「最初砂嵐は基本だろ」

八城「ずっと砂嵐だったらつまんないよ」

磨夢「音声は入っている。微妙に形だけ分かる」

ゆい「妄想がはかどりますね、兄さん」

基茂「何でそんなもん、表に置いてんだよ。クチュ音だけでは何ともいえぬ」

八城「アイス食べてるのかな」

磨夢「その視点は良い線行ってる」

基茂「行ってねーよ、寧ろ健全路線じゃないか」

ゆい「案外撮影は平和的に行われたのかもしれませんよ」

基茂「だといいけどな」

磨夢「騙してやるのが平和的……」

ゆい「最低条件というのはありますね。それを越えて初めて可能になるのです」

八城「何にも映らないね」

磨夢「期待するだけ無駄」」

ゆい「兄さんは無を鑑賞しているのです。馬鹿には見えない映像です」

基茂「これさ、一時間も見るようなもんじゃないぜ」

磨夢「古いものだから仕方ない」

基茂「きしょーめ」

磨夢「同年代のがそこに」

ゆい「やっぱりビデオですねぇ」

基茂「そっちは映像ありで?」

磨夢「ん、でも若干年齢が」

基茂「調教済みかぁ」

ゆい「磨夢さんの仕入先も気になりますよぅ」

磨夢「闇市場。それ以上は言えない」

基茂「さてと、今度こそ」

八城「いけないビデオだぁ」

基茂「やしろんには刺激が強いだろうなぁ」

八城「んだねぇ。ゆいちゃん、本貸して」

ゆい「八城ちゃん、魔術書にハマったんじゃないんですか」

八城「こっちも面白いかなぁって」

ゆい「そうですね、研究分野を広げるのは良いことですよ」

八城「んにゃあ♪」

磨夢「さっきのに比べたら劣る」

基茂「中身知ってるのかよ、羨ましい」

磨夢「………」


261

ルイ「お外では、蛙がゲコゲコ鳴いているのよ。雨ちょっと降ってたね」

マスター「ざーっと来る系かな。客足が減ることはないと思うけど」

カランコロンカラン

高砂「………」

マスター「いらっしゃいませー」

ルイ「いらっしゃいませー」

高砂「へくしっ。しゃもしゅん」

マスター「シャギーは歩きなんか」

高砂「しょこはあるってった。かしゃしゃすのも危うい?」

ルイ「見られるの恥ずかしいのかな」

高砂「しゅがたをけしゅのは朝飯前だ。ただ飲みおけー」

マスター「シャゴの魔法は確かに素晴らしいけど、それはあきませんなぁ」

高砂「たいしょー、おむらいしゅ、しょーで」

ロントット「タイショウ?ギョーザウッテソウデスネ」

マスター「魔女さん、こっちこっち」

高砂「しぇーぎょが効かない。ちゅーぼーわーぷ」

ルイ「魔女さん、モンブランだよ」

高砂「モンブラン、だと。さらばだロボット」

ロントット「ゴユックリー」

高砂「マスターの血が欲しい」

マスター「残念ながら献血はやっとらんなぁ。後あんま美味しくないで。飲むんなら、るーちゃん」

高砂「る、るーちゃ、血を」

ルイ「マスター、トマトジュース」

マスター「それで満足するんか?ほい、トマトジュース」

高砂「これは、けんこーてきだ」

マスター「シャギーって案外草食やったりするん?ほら、山に住んでるゆーし」

高砂「やしゃいジュースはしゅき。マスターは弛んでる」

マスター「これで弛んでるたぁ、厳しいお人や。なぁ、るーちゃん」

ルイ「魔女さんの言うとおりだよ。マスターはもうちょっと身体を動かすべきだよ」

マスター「これでもグラス六本積みなら運べるわ。でも筋力というより平衡感覚?」

ルイ「そうだね。でも中身入りは文句言えないかな。わたしは未だに慣れないし」

高砂「ねんどーりきを覚えたら筋力なんてかんけーないぞ」

マスター「グラスが浮いた!?凄いけど、割らんでな」

高砂「しゅとーんと落ちたりはしないから安心しゅるんだ。ほら優しく」

ルイ「超能力者かな」

高砂「いいえ、たかしゃごは、まほーつかいです。ねんどーりきはまだ浅いからこれぐらいの重さしかできない」

マスター「人間持ち上げるのはまだ先かぁ」

高砂「ましゅたーくらいなら持ち上げられるかも」

マスター「弛んでるとか言ってたのに」

高砂「はぁっ」

マスター「!?」

ルイ「浮いた?」

マスター「若干な。感覚的に0.5cmくらい」

高砂「これが精一杯だ」

マスター「………」

ルイ「マスター、もう一度その目やって」

マスター「るーちゃんはこの目が好きなんか」

ルイ「可愛いよ」

マスター「るーちゃんの笑顔には敵わんわ」

ルイ「えへへ」

高砂「ましゅたー、しぇんしぇー知ってるか」

マスター「先生?先生は沢山居はるけど、やっぱりとっしーとかムー?」

ルイ「磨夢のことじゃない?」

高砂「しょーしょれがしぇんしぇー」

マスター「ムーとシャギー、雰囲気は似てるわな」

高砂「たかしゃごもしょー思ってた」

マスター「ムーはあんま喋らんけどな」

高砂「無口、か」

ルイ「無理に喋んなくてもいいんだよ。喋りたいことだけでいいからね」

マスター「カウンセラーみたいやなぁ」

高砂「たかしゃごは、うるさいのか?」

マスター「会話が弾むええお客様です。少なくともムーよりは。ムーはるーちゃんばっかり見てるもんなぁ」

ルイ「マスターマスター、笑顔だよ」

高砂「しょーだ。マスター、笑顔笑顔。ニコッ」

マスター「ぎゃははは、るーちゃんやめて。これはきょっけきょけきょけ」

ルイ「マスターは相変わらず擽りが弱いね」

マスター「るーちゃんも強い方じゃないくせに」

高砂「実に刺激的な味だ

マスター「いや何飲んでるし」

高砂「血なまぐしゃいトマトジュース。しゃちょーが飲みたかったのは多分これだ」

マスター「それは至って普通のトマトジュースやけどな」

ルイ「魔女さんは血だと思って飲んでいるんだよ。トマトジュースの要素に加えてね」

マスター「そうなんか、シャギー」

高砂「ただのトマトジュースだ。飲めば分かる」

マスター「るーちゃん深読みし過ぎ」

ルイ「hahaha」

高砂「血糊が」

マスター「それは果肉や」

高砂「全く驚かしゅなよー」

ルイ「はい、モンブランタワーだよ」

マスター「何芸術品作ってんの!?また扉の近くに飾っとこう。写真撮ってな」

高砂「どれにしよーか」

ルイ「一番下かな。但し手を使わないで取ってね」

高砂「らくしょーだ」

ルイ「ケーキ増えちゃった」

高砂「気にしない気にしない」

マスター「一度に二つ魔法使うなんてびっくりや」

高砂「一つでも良かった」

ルイ「そだね、さっきやったみたいにケーキを浮かせればいいよ」

高砂「くーかんいどーしゃしぇて、しょのしゅきまを埋めるためにぞーしょくさせるのは確かに二度手間だ」

ルイ「で、美味しいかな」

高砂「うまうま」

ルイ「それは良かったよ」

マスター「これはどうするん、まだ九段、いや減ってないから十段あるんか。在庫?」

ルイ「うぃ、そうするよ。すぐ出せるからね」


262

磨夢「心臓が痛い」

霞「だからってベッドを占有しないでください、枕投げますよ」

磨夢「今も鼓動は止まらない」

霞「止まったらご臨終ですからね。クロちゃんがinしました。やっほ」

磨夢「霞の匂い霞の匂い」

霞「現実逃避って素晴らしいですね。クロちゃんと狩り行ってきます」

磨夢「………心臓止まりそう」

霞「どこにしましょうか。公園ですかね、先生」

磨夢「ん………」

霞「キャンプワープできるので楽ですよほんと」

磨夢「霞とキャンプしたい」

霞「一緒にカレー作りたいですねぇ。懐かしいですよ」

磨夢「ん………」

霞「絶対防御の盾!負けないが勝てないというやつですね」

磨夢「霞、暑くない?」

霞「パソコンは冷却していますよ、大丈夫です」

磨夢「アイス」

霞「パピコならありますよ。取ってきてください」

磨夢「動きたくない」

霞「そりゃあこっちも同じですよ。先生も布団から出てください。そうすれば、多少は涼しくなるでしょう」

磨夢「確かに」

霞「では交代です、、頼みますよ。こうしているだけでいいです。むしろ放置でもいいくらいです」

磨夢「じゃあ漫画読んどく」

霞「パピコはあるでしょうか」

磨夢「………中の人は変わった、と」


263

八城「あっ、るーちゃんだ」

ルイ「八城、ぼんじゅーる」

八城「よく会うね」

ルイ「いつもこの付近を廻っているからね。ジュース何にする?」

八城「ソルティにするよん」

ルイ「はいよん」

八城「ありよん」

ルイ「どもよん」

八城「にゃあ、ポイント付きだよ。集めると、えむてーべーが当たるよ」

ルイ「てーじぇーヴぇーが当たる!?それはびっくりだ」

八城「てーじぇーヴぇーって速いの?」

ルイ「速いよ。でも、のぞみも速い」

八城「飛行機じゃないの?」

ルイ「うぃ、飛行機乗って、空港からは船だね。だからのぞみは乗ったことないよ」

八城「船で来れるんだ。電車要らないね」

ルイ「この町に落ち着くと本当に乗らないよ」

八城「るーちゃんは旅行しないの?」

ルイ「こないだマスターとアマゾン行ったぐらいで、日本国内は行ったことないね」

八城「バスが動かなくなったってやつだね」

ルイ「うぃ、あれは地盤が悪かったんだよ。スコールは危険だね」

八城「ふぇぇ、スコールぇ」

ルイ「そいや梅雨時だよね。今年は雨降んないや」

八城「蛍見たいなぁ」

ルイ「隣町なら見れるって話だよ。と、そろそろ戻らなきゃ。じゃね、あでゅー」

八城「あでゅー」


264-1

ガララッ

ゆい「兄さん♪」

基茂「いきなり抱きつくなし」

ゆい「裸同士、抱きつかなきゃ損ですよ」

基茂「勝手にしろい」

ゆい「はい、兄さん」

八城「にゃーにゃー」

基茂「やしろんも居たか」

八城「まみーは居ないよ」

基茂「それを聞いて安心した」

ゆい「わたしも同意です」

八城「にゃーにゃー」

基茂「いつも例のローションが置いてあるんだが」

ゆい「磨夢さんは優しいですねぇ」

基茂「………」

ゆい「兄さん?」

基茂「やしろんが居たか」

八城「じゃああたし、上がるね、ごゆっくりーん」

ガララ

ゆい「兄さん、来てください」

基茂「ヌルヌルにしてやんぜ」

ゆい「あっ、手つきがいやらしいです」

基茂「やっぱゆいゆいはエロいな」

ゆい「ありがとうございます」

基茂「もう固くなってる」

ゆい「兄さんも他人のこと言えませんよ」

基茂「仕方ないさ。ゆいゆいがエロすぎるのが悪い」

ゆい「ふふっ、兄さんも分かっています」


264-2

磨夢「八城、暇そう」

八城「お風呂はいけない場所だね」

磨夢「それはあの二人だけ」

八城「まみーもああいうの、好きなの?」

磨夢「やるより見ている方がいい」

八城「見ているのもあれだなぁ……」

磨夢「苦手?」

八城「苦手というより複雑、何か思い出しそう」

磨夢「………」

八城「あれは確か、んんーと」

磨夢「思い出せない?」

八城「……うん」

磨夢「そう」

八城「まみー教えてよ、えっちなこと」

磨夢「ゆいに教わればいい」

八城「ふぇぇ、ゆいちゃんは本気だもん」

磨夢「………」


265-1

ゆい「ん、うーん?」

ガララッ

ゆい「これは……」

グタツナ「お初にお目にかかる。君が、巫女だね」

ゆい「はい、わたしがそうです。魔王様。一体これは?」

グタツナ「人類は自然の怒りを買って滅亡した。だから我々が代わって、この世界を再構築するんだよ」

ゆい「みぃごとな更地です。人類の夢は潰えたのですね」

高砂「ただいまー。いやー何もないな。しゃちょーは無事だろーと思ってた」

ゆい「残ったのは二人だけですか」

グタツナ「仮にも人間、なのかな。いいや、この爆風で生き残る人間なぞ居ない。術者は兎も角、巫女、やはりただものではないね」

ゆい「魔王様、簡単な話です。高砂さんの強力な結界の効果がまだ継続されていただけです。生身の人間でも余裕で生き残れます」

グタツナ「ふむ、確かに魔女の結界は強力だ。我々の行列も保護してくれたわけだから。ただね、巫女、君はそれを必要としないだろう?」

ゆい「自己結界なるものは修得していませんよ。わたしはご先祖様とは違います。高砂さんの力を必要としない人間などいてたまるものですか」

グタツナ「限界を超えし人間は魔族をも凌駕する。魔女はそれこそこっち側に加入してほしいくらいだし、巫女、君はまた別の可能性を感じる。いつかお目にかかりたいものだね」

ゆい「……しっかし、ぼろぼろですね。辺り一面焼け野原です。一体何が」

高砂「分からない、いんしぇきでもしょーとつしたんじゃないか」

ゆい「魔王様は心当たりはないんですか」

グタツナ「人間と争うだけの理由にここまではしないさ。単なる漁夫の利というところだね」

ゆい「ちょっと行きたいところがあるんですが」

高砂「分かった、たかしゃごに任せろ。まおーはじゆーにしてくれ」

グタツナ「緊急会議でも開くとするか。この人間界、いや未開の地について、大規模な移住計画でも考えてこよう。じゃあね、巫女、魔女、わたしはいつでも君達の味方だよ」

ゆい「はい、ありがとうございます……さて高砂さん、わたしの行きたい場所はですね」

高砂「分かっている、分かっているさ」


265-2

ゆい「よく知っていましたね」

高砂「このてーたくに出入りしているのは知っている」」

ゆい「やはりそうですか。さてとここが、もう何も残っていませんね。惜しいことをしたものです。まさかこうした形で終焉を迎えるなんて」

高砂「しょれはしゃいなんだったな」

ゆい「わたしの最愛の人、もはやただの捕食対象ではなかったのかもしれません」

高砂「しょれとけーやくしゃか」

ゆい「骨の髄までいただきたかったです」

高砂「………」

ゆい「冗談ですよ。あの家族は唯一の癒やしだったんですよ。今までにない楽しい日々を過ごしていたのです」

高砂「たのしーひびか」

ゆい「ここが兄さんとの愛の巣です。もし子供が出来ていればそのまま消化していました」

高砂「実験体として譲ってくれれば、生かしておくぐらいはできたぞ」

ゆい「そういう風に使ってもらえると光栄ですね」

高砂「食ったら消えてしまうからな」

ゆい「兄さんの髑髏です」

高砂「食えたものじゃないな」

ゆい「家宝として飾っておくぐらいですかね」

高砂「好きな人か」

ゆい「高砂さんには居ましたか」

高砂「きのーのお客さんは、なかなかいー血液を持っていた。呻き声も良かった。ああいう人はしゅきだな。右腕だって提供してくれしょーだ」

ゆい「研究の為なら出費は惜しみませんね」

高砂「たかしゃごの金じゃないからな。何ともない」

ゆい「その機関も金銭価値もなくなりましたけどね」

高砂「まおーを頼ればいーじゃないか。きっときょーりょくしてくれる」

ゆい「高砂さんの技術なら問題ないでしょうね」

高砂「たかしゃごのしゅることは変わらない。例え人類がほろびよーともだ」

ゆい「じゃあわたしも巫女を続けましょう。魔族の皆さんに参拝してもらえれば、お賽銭がっぽりです」

高砂「何ら変わることはないな」


266-1

八城「おはよう、まみー」

磨夢「ん、おはよう。今朝は早い」

八城「まみーってあんまし寝てない?」

磨夢「寝つきは多分悪い方……」

八城「お布団被るとね、眠りやすいよ。今の時期は暑いか」

磨夢「変な汗かきそう」

基茂「大変だ、ゆいゆいが居ない」

八城「ゆいちゃんが?」

磨夢「人類が滅亡した後は魔族の支配下になる」

基茂「まるで知っているかのようだ」

磨夢「預言者は実際に未来の世界を確認している」

基茂「成程」

八城「あれ、じゃあ帰ってこないの?」

ゆい「誰も未来なんて行ってませんけど」

磨夢「じゃあさっきのくだりは?」

ゆい「これとそれとは話が違いますよ」

八城「じゃあ何してたの」

ゆい「死体を眺めていたのです」

磨夢「まだ新しい?」

ゆい「骨は見えてなかったですね」

基茂「朝にゆいゆいが来ないと満たされねーな」

ゆい「何なら今からでも構いませんよ、兄さん」

基茂「休息もありだな」

ゆい「兄さんにキスが届かないのです」

八城「あたしぐらいが丁度いいよ」

ゆい「八城ちゃんなら戯れることが可能です」

基茂「何だか悲しいぞ」

ゆい「また明日ってところですかね。他に興味が移らないものなら」

八城「ゆいちゃん、今お暇なの」

ゆい「はい、大丈夫ですよ。気分転換にお風呂ですか」

八城「うん、朝風呂だよん。れっちゃごー」

ゆい「ちょ、ちょっと、八城ちゃん、力強いです」

バビュン

基茂「オレも行ってきていいかな」

磨夢「駄目」

基茂「今回ばかりは無理か」

磨夢「朝は知識を蓄える時間」

基茂「最近読書してねーよ」

磨夢「そう」


266-2

八城「にゃんにゃんにゃん、にゃんにゃんにゃーん」

ゆい「ご機嫌ですね、八城ちゃん」

八城「うふふ、ゆいちゃんと二人っきりー。お風呂で二人っきりー」

ゆい「二人っきりという響き、最高です」

八城「にゃーにゃー」

ゆい「何をしたって平気なのです」

八城「ゆいちゃんのえっち」

ゆい「わたしは親友を汚したりしないのです」

八城「へぇ」

ゆい「だからお背中を流します」

八城「よろしくね」

ゆい「行きますよ、はぁっ」

八城「にゃはは、全然洗えてないよん」

ゆい「非力の宿命です。むしろこっちを使用した方がいいのでは」

八城「あたしぬるぬるきらーい。やっぱ石鹸だよ」

ゆい「あわあわはいいですよ、あわあわは」

八城「あわあわあわー。でも、ごしごししてこそのあわあわだよ」

ゆい「ごしごしありきのあわあわですか。説得力があります」

八城「交代だよー。あっ、ゆいちゃん。背中の骨見えてるよ」

ゆい「お肉は食べているんですけどねぇ」

八城「栄養が足りてないんだよぅ」

ゆい「ふっ」

八城「あれか、太らない体質だ」

ゆい「体型を維持するのなんて慣れたものです。必要以上に食べなければいいだけです」

八城「確かに。ゆいちゃんはあんま食べないよね」

ゆい「うちで食べるのは兄さんと八城ちゃんくらいですよ。八城ちゃんの方が余程太らない体質です」

八城「にゃはは、大きくなったら駄目かも」

ゆい「八城ちゃんはきっと霞さんみたいに理想の体型になることでしょう」

八城「それはないかな」

ゆい「じゃあマスターくらいです」

八城「マスターよりはるーちゃんがいい。るーちゃんムッキムキだよ」

ゆい「仕事が仕事ですからねぇ。継続は力なりというやつですね」

八城「るーちゃんみたいに優しくて頼れる存在になりたいな」

ゆい「努力あるのみでしょう」

八城「んにゃにゃ、難しいにゃあ」

ゆい「ですねぇ」

八城「にゅうううう」


266-3

八城「朝ね朝ねの朝風呂だったよ」

基茂「おかー」

ゆい「さっぱりしますね」

磨夢「基茂、面白い?」

基茂「こういう考え方は好きだよ」

ゆい「兄さん、気が合いますね。わたしも好きです」

基茂「やはりゆいゆいだったか」

磨夢「基本的にゆいから借りてる」

八城「ゆいちゃんの思想はちょっと外れているよね」

ゆい「路線変更は必要ですからね。自己流への昇華となるのです」

磨夢「ゆいはネジ外れてるから」

ゆい「固定されたネジは成長の兆しが見えませんから」

基茂「久しぶりに読んだら頭痛くなった。ちと寝てくる」

ゆい「あっ、兄さん。わたしもお供します」

磨夢「八城、どう思う」

八城「にゃにゃにゃー、にゃーにゃー」

磨夢「成程、そう考えるのもあり」

八城「本当に分かっているの」

磨夢「じゃあレオポンに訊いてみる。今のはどういう意味」

レオポン「にゃぁごろろ」

八城「そんなことよりお腹が減った、だって」

磨夢「ん、分かった」


267-1

基茂「さてと……重いわけないな、ゆいゆい」

ゆい「重いなんていうのは磨夢さんに乗っかられて場合ですよ」

基茂「あいつああ見えて図体でかいからな」

ゆい「磨夢さんに比べたら、わたしなんて軽いものです。騎乗位も苦にならないでしょう?」

基茂「ゆいゆい以外の人間とは行為ができないかもな」

ゆい「ちるさんはどうするんですか」

基茂「ぶっちゃけゆいゆいとの隠し子でもいい」

ゆい「残念ながら、わたしは神の子しか宿さないのです」

基茂「伊崎の血はこうも容易く滅んでしまうものか」

ゆい「わたしは羽衣を継がねばなりませんから」

基茂「神ねぇ」

ゆい「死ぬのは楽ですよね」

基茂「いつ死ぬかなんて分からんもんな」

ゆい「人類が滅亡するその日まで、一緒に居たいですね」

基茂「まぁ確かに、いつ滅びるかも分からんわな」

ゆい「何か形跡を残してください、この長い長い人類史に。兄さんが生きていた証です。いつかまた思い出せるように、ですね」

基茂「地下深くにタイムカプセルを埋めておこう。見つかればいいな」

ゆい「きっと見つかりますよ」


267-2

ゆい「見つかりましたよ、兄さん」

高砂「いつまでゴミあしゃりをしてるんだ」

ゆい「高砂さんもいつまで居るんですか」

高砂「しゃちょーにはもうたかしゃごしか居ないって、しょー言われたから」

ゆい「高砂さんは彼らに屈したのですか」

高砂「くっしゅるも何も二人じゃどーしよーもない。生き残りとして、きょーりょくしているだけ」

ゆい「それもこれも資金を貰うため、ですよね」

高砂「いましゃら他の事をしゅる気にもならないからな」

ゆい「そうですか、高砂さんは最先端の科学をご教授なさると」

高砂「大学でもつくろーか。みんなの為にはなるだろー」

ゆい「魔王様は高砂さんを厚く信頼しています。何を言わずとも支援してくださると思います」

高砂「神社はどーなんだ」

ゆい「神は休養しています。再建には暫し時間が必要でしょう」

高砂「しょれでこーしているわけだ」

ゆい「お腹空きましたねぇ」

高砂「門は開いているから、しょっちに行けばいい」

ゆい「仕方ないですよね」


267-3

サフール「魔王様は只今ご多忙の身です。お会いすることはできません

高砂「いじゅーもんだいで議論を交わしているまっしゃいちゅー」

ゆい「わたしはお腹が空いています」

サフール「あなた方は貴重な生存者です。そういうことなら幾らでもお申し付けください。あなた方の存在は、土地に暗い我々にとって今後の生命線ともなり得ますから」

ゆい「要は特別な存在……いえいえ、何もやましいことはありませんよ。お互いそういうのはなしでいきましょう。それより魔族の方は何を食べるんですか、やはり人肉ですか。でしたらわたしの大好物ですよ。今となれば素材が非常に希少なものですけどね」

サフール「そのようなことは、後でゆっくりお話しましょう。さあ、お二方、どうぞ中へお越しください」

高砂「たかしゃごもちょーどお腹がしゅいていたところだ」


267-4

マスター「魔界喫茶にようこそ、どちらも常連さんやったなぁ」

ゆい「マスター、ご無事だったんですね」

ルイ「わたしもいるよ、ゆい」

ゆい「るーちゃん、でもどうして?」

マスター「ほらうち、夜間営業やろ?そして地上の空気は吸わない」

ゆい「マスターのお店は核シェルターですか」

高砂「きしぇきを一番認知しているのはしゃちょー」

マスター「そやな、ユイールは巫女さんなわけやし。確かにうちも死ぬかと思ってた。店も殆ど壊滅状態。あの時ばかりは神に祈ったなぁ」

ルイ「神様はね、ああいう時に救ってくださるの。やっぱり信仰してきた甲斐があったよ」

ゆい「ボロボロのロザリオ……」

ルイ「今回ので奇跡は使い切っちゃったみたい。だから、わたしは信仰を捨てたの。十字架も此方の住民にとっては禁忌みたいだからね。わたしはそっと閉まっておくの。お守りでいいのかな」

ゆい「ですね。でしたら、神社風に仕立てましょうか。この包みに入れれば、きっと御利益があるでしょう」

ルイ「気持ちは嬉しいけど、断っとくね。個人的な思い出の品にしとく」

高砂「つまりましゅたーと職人は助かったわけか」

マスター「何でか知らんけど生きていたなぁ。そうそう、気付いたらここにいた」

ルイ「ねー、誰か運んでくれたのかな」

ゆい「これで生存者は四人。案外助かっている人は居るのかもしれませんね」

マスター「ユイールはどうやって助かったん?」

ゆい「あぁ、わたしはですね、高砂さんの結界によって九死に一生を得たんです。ねぇ、高砂さん」

高砂「ましゃか、たかしゃごは結界をはつどーしてなかったし」

ゆい「え、それでも持続時間は長い筈では」

高砂「しゃちょーは自力でたしゅかったんだ。職人のゆーきしぇきってやっちゃ」

ルイ「あはは魔女さん、掘り返しちゃやだよ」

高砂「熱いな、たこ焼きとゆーやつは」

ルイ「マスターの得意料理の一つだよ。オーサカの名物なんだって」

高砂「おーしゃかか。きーたことあるよーな」

マスター「懐かしいわ、何もかもが。こなもんゆーてな、お好み焼きってのもあるんやけど、お腹膨れるし、また今度でいいやろ」

ルイ「もう時間とか分かんないね。ずっとマスターの所で働いてられるんだ」

マスター「より閉鎖的な店になっちゃったなぁ。こっちの人らはこの店知っとるんかな」

グタツナ「知っているぞ。まだ知らせていないだけで」

マスター「いらっしゃいませ、可愛いお客さん」

ルイ「美しい作法ですね」

グタツナ「上が美を追究することで、下も自然とこれに従うものだよ」

ゆい「この方が魔王様ですよ」

マスター「まま魔王!?もっと怖い外見してるもんやと思ってたのに。よよよろしくお願いします、わわわたしがマスターです」

ルイ「魔王様、会えて光栄です」

グタツナ「噂には聞いていたが、君達がそうか。わたしが魔族で最初の客というわけだ。よろしく頼むよ」

マスター「るーちゃん、聞いてへんって。魔王様が来るなんて」

ルイ「どんな人が来るか分からないのがお客さん。マスターもそう言ってたでしょう」

マスター「で、でもー、こんな偉い人が来るなんて初めてやし」

高砂「まおーまおー、たかしゃごは大学を作りたい」

ゆい「早速ですね、高砂さん」

グタツナ「大学か。魔術研究でもするのかい」

高砂「しょーだ。たかしゃごはけんきゅーをちゅじゅけたい。 しょの為にしきんてーきょーをお願いしたい」

ゆい「直球すぎるんですが」

グタツナ「魔女の実力は確かだからね。下手すりゃ我々が滅ぼされかねないな。文明を隔てて研究を続けたまえ。学問の権威となってもらいたい」

高砂「ははー、ありがちゃきしあわしぇー」

ゆい「高砂さんは怒らせたら怖いです」

ルイ「ひょっとして人類滅亡させたのも魔女さんなんじゃ?」

ゆい「ど、どうなんでしょうかね。知らない方がいいかもしれませんよ」

ルイ「うぃ、そうしとくよ」

マスター「ま、魔王様はお酒とか飲みはるん?」

グタツナ「飲まないね。我ら魔族が好んで飲むお酒があるんだけど、度がきつくて人間には飲めたものじゃないらしい。折角だから、今度部下に持ってこさせよう」

マスター「お、おおきに。そのお酒を飲む人が多いなら、そちらを多く仕入れさせてもらいます。でも、人間の酒も普及したいですね」

グタツナ「そうだね、元はといえば、文化交流を目的として我々は歩み寄った。今だから言える話だけど、潜入捜査も多かったよ。変身能力を備えた種族もいる。とりわけ優秀な者だったさ。ひょっとしたら、マスターのお店も訪ねていたかもしれないね」

高砂「ましゅたー、きょーのカレーはしゅこしかりゃひ」

マスター「そう?こんなもんかと」

ゆい「少し貰えますか?」

高砂「辛いぞ、かなり」

ゆい「ん……水水水」

ルイ「はい、お冷やだよ」

ゆい「ゴクゴクゴク、はあはあ」

高砂「な?」

ゆい「な、じゃないですよ。辛すぎますって」

ルイ「いつも通りだよ」

グタツナ「別に大して辛くないね」

マスター「味見したときはいつも通りやったし」

高砂「じ、実はあまり辛くなかった」

ゆい「あのですね、皆さん」

みんな「アハハハハハ」


267-5

ゆい「さてと今日は楽しかったです」

ルイ「もう帰っちゃうの」

ゆい「魔王様も帰られたんで、わたしたちも」

高砂「たかしゃごは家ないぞ」

ゆい「うちに来ればいいですよ」

ルイ「ゆいは神様に近い存在だもんね。だからお家も助かったんだ」

ゆい「外観は結構ボロボロですけどね。家が残っていたのは確かに奇跡ですね」

高砂「きしぇきの神社へいざまいらーん」


267-6

高砂「まだボロボロだ」

ゆい「そりゃ一日そこらでは直りませんよ」

高砂「おじゃましまーしゅ」

ガタッ

高砂「あっ、壊れた」

ゆい「構いませんよ。熱線の影響は多少なりとも受けたみたいですから」

高砂「ろーきゅーかってやつだな」

ゆい「それもあるでしょうねぇ。年季入ってますよ」

高砂「本が読みたい」

ゆい「魔術書焼けちゃったんですか」

高砂「みたいだ。まーここに入ってるからだいじょーぶだ。何ならしぇーほんしてもいー。しょっくりしょのまみゃ書く」

ゆい「わたしは要りませんけど、大学の為にはなるでしょうね」

高砂「まおーも驚くぞ。ははは」

ゆい「既に驚いていますよ」

高砂「本棚はけーん。持ち上がらない。持ち上げよう」

フワッ

ゆい「その上げ方だと本が」

ドサドサ

高砂「はらほれひれ、しょしぇきに埋もれる、これぞしあわしぇかな」

ゆい「そーですねー、あはは」

高砂「どーしゅんの」

ゆい「本棚と同じように持ち上げればいいのでは?」

高砂「確かに。でもしゃちょー、これは持ち上げるとゆーより、もどしゅかんかきゅだな」

ゆい「確かにそうですね」

バサバサ

ゆい「高砂さん家は散らかることが無さそうですね」

高砂「たかしゃごはしょーじがしゅきだ。たいしょーが何であれしゅべてかたじゅく」

ゆい「もしかして実験材料とかもですか」

高砂「ふよーとなったものはしょーきゃくしてーる。やはり勿体ない」

ゆい「そうですよ、勿体ないですよ。人肉ならわたしに送ってください」

高砂「肉だけが来るわけじゃないからな」

ゆい「どこかに肉は落ちてないでしょうか」

高砂「風呂は?」

ゆい「ドラム缶がありますよ。是非火魔法で温めてくださいな」

高砂「りょーかい」

ドォン

高砂「ドラム缶なんてないぞ」

ゆい「今破壊しましたよね?」

高砂「破壊したんじゃない、しょーきゃくした」

ゆい「また取ってこないとダメじゃないですか。お風呂入れませんよ?」

高砂「風呂ならしょとの風呂だろー」

ゆい「え?」


267-6

サフール「お風呂ですか」

高砂「しょーだ、お風呂」

ゆい「小さな銭湯でもいいんです。嫌な汗を流したいのです」

高砂「しゃちょー、汗かいてるのか」

ゆい「思い出せば思い出す程流れ出てくるんです」

サフール「ちょっと失礼、聞いてみますね。こちらサフール、生存者が鍋所望。はい、はい、了解」

高砂「魔界でもしゃちょーのしょーひんがふきゅーしてるな」

ゆい「無線技術くらい魔界にも存在しますよ」

サフール「ご案内します。此方です」


267-7

高砂「旅館か」

ゆい「大浴場でもあるんでしょうか」

ヤゼノ「いらっしゃいませ。当旅館自慢のマグマ風呂をお楽しみください」

ゆい「普通のお風呂がいいです。温かいのですね、人間にとって」

ヤゼノ「人間は熱いのには入れませんか。実は人間向けの銭湯もございます。昔、人間と交流したことがありましてね、その時の名残です」

高砂「しゃちょーは熱いのも辛いのも嫌いだ」

ゆい「そうですね、わたしは冷たいのや甘いのが好きです」

ヤゼノ「行者の方には落差10mの滝も用意しております」

ゆい「結構です、裏山にあろうとも」

高砂「ひょーしきに書いてある。冷水、常温、人間用」

ゆい「こっちの文字読めるんですね、見直しました」

高砂「日本語とあまり変わらないな。ほら、しゃちょーも読んでみれ」

ゆい「えぇっと、魔界温泉……なんて絶対に書いてませんね。行きますよ、高砂さん」

高砂「しゃちょーはべんきょーしゅる気もないのかー」


267-8

ゆい「はぁー」

高砂「貸し切りだな、しゃちょー。こんなに広いお風呂をだ」

ゆい「ですねぇ」

高砂「魔界はいーところだろう」

ゆい「えぇ、もう満喫しましたとも。向こうに戻る気もしないくらいです」

高砂「あんなしぇかいじゃ戻る気ないだろ」

ゆい「魔界は文明が生きているわけですからね」

高砂「しょーじきいじゅーしゅる意味はないとおみょう」

ゆい「在りし日の人間界と比較しても、独特の良さがあります。高砂さんのように達観しておられる方なら尚更分かりますよね」

高砂「まほーしょもおーいからな。けんきゅーがしゅしゅみゅ」

ゆい「大学を作りたいというのもよく分かります」

高砂「とにかく図書館が欲しい。こーしゃないにでっかいの作るぞ」

ゆい「夢のある話ですね」

高砂「夢じゃないぞ。近いうちに実現しゅる」

ゆい「わたしも図書館行ってみたいです」

高砂「まほーしょだらけでつまんないと思うぞ」

ゆい「哲学書もお願いしますね」

高砂「じゅよーあるだろうか」

ゆい「わたしがいますからね。そうだ、人間界の思想も広めていただけるとありがたいです」

高砂「しゃちょーは、ちゅーもんがおーい」


268

磨夢「おかえり」

ゆい「ただいまです」

八城「にゃ?ゆいちゃんはお客さんだよ」

磨夢「おかえりなさいませ、お嬢様」

八城「にゃん」

ゆい「本業ですか」

磨夢「………」

八城「にゃ?」

基茂「メイドさんごっこはおよしなさい」

八城「メイド?」

ゆい「あの世のことです。人間死んだらそこへ行く……おお、ここは天国ですか」

磨夢「………」

ゆい「うにゅにゅぅ、まみゅひゃん分はりまひたにょぉ。このほでふ」

磨夢「ん、分かればいい」

八城「ゆいちゃん、痛くなかった?」

ゆい「痛かったです。現実です」

基茂「ゆいゆい、また死んだんじゃねーの」

ゆい「最近は死んでいませんよ。八城ちゃんが関わっていませんからね」

八城「あたしが絡むと死んじゃうの」

ゆい「正確には殺…いや、なんでもないです」

磨夢「………」

ゆい「わたしったら、時空を越える会話とは、どうも上手くできませんね」

八城「んにゅう」

基茂「しまいにゃ未来の話とかし出すんじゃねーの」

ゆい「実はですね、みんな死んじゃうんですよ」

磨夢「ん?」

ゆい「あぁ、死ぬのはわたしだけで結構でしたね。すみません」

基茂「ゆいゆいは何度でも生き返るしな」

ゆい「あってないようなものですからね、この肉体は」

磨夢「ゆい」

ゆい「大丈夫ですよ、今のわたしはしっかり存在してますから」

八城「ゆーいちゃーん」

ゆい「八城ちゃん」

基茂「頭が痛いな」

磨夢「………」

ゆい「枕元、いや、ダブルベッドまでお付き合いしますよ」

基茂「そんなもんねーよ」

磨夢「拷問台ならあるけど」

基茂「やめれ、トラウマが蘇る」

八城「お兄ちゃんのトラウマ?」

磨夢「身体に教え込んでやったら、それ以来従順に」

ゆい「磨夢さんって嗜虐性があったんですね」

磨夢「昔やられたことを基茂にも軽くやってみた」

基茂「あれだけやられてよく生きてるよ」

磨夢「もっとひどいことされてた」

八城「ひどいことかぁ」

ゆい「八城ちゃん、何か思い出せそうですか」

八城「思い出せるって何を?」

ゆい「あ、分からないなら大丈夫です」

磨夢「わたしは記憶があるけど、八城にはない」

ゆい「磨夢さんの記憶も消してあげたいくらいです」

磨夢「一応復讐計画はあるし、別に平気」

ゆい「肉は残さず取っておいてくださいね」

基茂「誰彼構わず食おうとする」

ゆい「後処理ですよ。生きたものをそのまま食うことはないですよ。あ、でも、活け作りなんかもいいですね」

磨夢「買い物行ってくる」

八城「あたしもついていく」

基茂「いってら」

ゆい「兄さん、二人ですよ」

基茂「居間でゴロゴロしてな」

ゆい「兄さんもゴロゴロしませんか」

基茂「ゴロゴロしてナニすんだ?ゆいゆいはエッチだな」

ゆい「兄さんもエッチです」

基茂「ほれ、好きなのを選べ」

ゆい「Cですね。兄さんと戯れたいです」

基茂「理由を述べよ」

ゆい「わたしは世界中の誰よりも兄さんを愛しているからです」

基茂「オレにはちるが居るんで」

ゆい「全く会わない正妻ですか」

基茂「オレが会えば捕まるからな」

ゆい「もう少し純粋な恋愛をしてもいいと思うんですよ。他人のふりデートの機会を増やしましょう」

基茂「行く場所は、図書館だな」

ゆい「さりげなーく誘うんですよ。何ならそっと耳打ちでもいいです。伝えたいことだけを話しましょう」

基茂「大丈夫だ、放課後に話す時間がある。問題はデートだな。適度な距離感が分からん」

ゆい「お互い目の届く範囲に居れば安心ですよ。少しずつ距離を縮めていきます」

基茂「それじゃあ本末転倒だぜ。物理的に距離を縮めることは目的としていない」

ゆい「物理的に距離を縮めるわけではない、まあ普通は精神的な距離ですか。じゃあこう考えましょう、そのお互いが安心できる距離を維持することで、二人の関係が安定するという寸法で」

基茂「やっぱり現状維持が一番かぁ。おけ」

ゆい「下手に刺激して離縁なんてごめんでしょう。ちるさんが気の毒です」

基茂「うむ」


269

玄那「うぅん」

ピンポーン

ちる「あの…」

ガチャ

玄那「ふぁーい、いつも助かります」

ちる「はい」

霞「クロちゃんはいい加減自分で料理をすることを覚えましょうね」

玄那「じゃあかすむんの手料理を」

霞「わたしは先生の為に料理を作ろうと思うんですが、その毒味をしてもらえるなら是非協力していただきたいものですね」

玄那「やったー」

ちる「喜ぶ、ことでは、ないんじゃ」

玄那「てかあれっしょ。かすむんは別に料理下手でもないじゃないか」

霞「わたしなんてまだまだ素人ですよ。何より独学です。みんな鍋に放り込むわけですよ。今度鍋パーティーしましょうね」

ちる「闇鍋、ですか」

玄那「食えるもんね、鍋用意しとくから」

霞「箸で摘まめ、かつ、食えるもんですよ、先輩」

玄那「崩れるやつ駄目だぞ、先輩」

ちる「鍋にして、豆腐は、抜き、ですか」

霞「闇鍋ですからね、普通のものを入れちゃ面白くないです」

ちる「つまり、普通じゃない、もの、ですか」

玄那「詳しくは当日説明しましょう」

霞「それじゃ遅すぎますよ。とりあえず適当な食材を持ってきてください。something to eat!」

玄那「あっついのになぁ」

ちる「………」


270-1

基茂「うぃーす、どこへ行く美幼女」

八城「お風呂なの」

基茂「いてら」

八城「にゃ」


270-2

井筒「らっせー」

八城「お客さん入ってる?」

井筒「金髪碧眼の美少女が入ってったよ」

八城「お、めるすぃー」


270-3

八城「にゃー」

ルイ「八城、一人?」

八城「うん、一人だよ」

ルイ「この時間は人居ないよ」

八城「昼風呂だもんね」

ルイ「井筒も暇そうだしね」

八城「るーちゃんってお肌綺麗よね」

ルイ「肌の色が違うだけだよ。みんな違ってみんないい」

八城「だよね。マスターも可愛いよ」

ルイ「マスター連れてきたら良かったかな」

八城「にゃーにゃーだよ」

ルイ「そうだね、にゃーにゃーだなぁ。そもそも起きてないよ」

八城「何か変なのん」

ルイ「マスターは完全な夜行性だからお昼はよっぽどな限り起きないよ」

八城「叩き起こさないと駄目なの?」

ルイ「うぃ、でも乱暴だなぁ」

八城「あたしお兄ちゃんは叩き起こすよ」

ルイ「へぇ」

八城「まみーにやったら返り討ちにあうよ」

ルイ「寝起きが悪いからじゃないかな。凶暴なのは」

八城「じゃあやっぱ手を出さない方がいいんだ」

ルイ「だねぇ」

八城「あついにゃあ」

ルイ「夏だからね」


271-1

高砂「しぇんしぇーだな」

磨夢「ん」

高砂「試したいくしゅりがある」

磨夢「そう」

高砂「死ぬ確率は2ぱーだ」

磨夢「承知」

高砂「恐らく死には至らない」

磨夢「………」


271-2

高砂「気分はどーだ」

磨夢「死ぬかと思った。頭と喉がひどく痛い。はぁはぁ」

高砂「2ぱーも低くないな」

磨夢「………」

高砂「実験はしぇーこーりつも低い。容易にりょーやくができればくろーしない」

磨夢「………」

高砂「回復を早めるくしゅりくらいならある。これを飲め。安心しろ、死には至らない」

磨夢「……信用ならない」

高砂「これを飲まなきゃ三日は寝込む」

磨夢「………」

高砂「しぇんしぇー、口を開けるんだ」

磨夢「ん……」

高砂「しょれでいー」


271-3

磨夢「………」

八城「あっ、まみー、おかえりー」

磨夢「……ただいま」

八城「どったの、元気ないよ」

磨夢「気にすることはない」

八城「にゃあ……」

磨夢「寝る、夕飯は基茂に」

八城「絶対おかしいよ」


271-4

八城「かくかくしかじか」

ゆい「以前もありましたね。これはひょっとすると」

八城「なぁに」

ゆい「ヤクにでも手を出したんじゃないでしょうか」

八城「にゃはは、まみーに限ってそんなことはないよー」

ゆい「しかし、急性的な体調悪化といえば、そんなところだと思うんですが。いや、待ってください。磨夢さん本人が服用したとも限りません。別の誰かに飲まされた可能性もあります」

八城「まみー友達いるのかにゃ」

ゆい「そう考えるのが必要ですよねぇ」

八城「お腹空いたよ」

ゆい「兄さんを呼びましょう」


271-5

八城「おうぁお、ポカリスエッツォ!」

基茂「病人にポカリは定石」

八城「うぃっしゃー、任せっちゃい」

ゆい「兄さん、わたしはいつものでお願いしますね」

基茂「おぅ、いつも通りみんなと一緒な」

ゆい「磨夢さんがやっている通りにお願いしたいのです」

基茂「んなもん、余所で食ってこいよ。磨夢に料理できても、オレにはできねぇ」

ゆい「わたしは飢えています。明日は覚悟しておくべきですね」

基茂「ひぃっ」


271-6

八城「まみー、入るよぉ」

磨夢「………」

ガチャ

八城「ポカリ、置いとくよん」

磨夢「……ん」

八城「本当に大丈夫?」

磨夢「……死ぬかも」

八城「えぇ!?」

磨夢「ゲホ、ゴホ」


271-7

八城「まみーが死んじゃうんだって」

ゆい「磨夢さんが死ぬなんて嘘です。あんなタフな人、容易に死にませんよ」

八城「だといいけど」

ゆい「磨夢さんの死はわたしに予見できますから、その時はその時ですねぇ」

八城「どうなっちゃうんだろ」

基茂「ほぉい、できたぞー」

八城「よっ、待ってました」

ゆい「お腹空きましたぁ」

基茂「こういう時にゆいゆいも料理が作れたらなぁ」

ゆい「八城ちゃんが作れた方がいいですよ」

八城「えっ、あたし?」

基茂「踏み台は用意しておくぜ」

八城「あたしにできるかな」

ゆい「やってみないと分かりませんよ。天賦の才は行動より見出されるものです」

基茂「まぁた、いい加減なことを」

八城「じゃあお兄ちゃんに教えてもらお」

基茂「オレで良ければ構わんが」

ゆい「わたしにできないことは八城ちゃんにしてもらいます。八城ちゃんにできないことはお任せください。可能な限り実行していきます」

基茂「やしろんには荷が重たい気がするぞ」

ゆい「無理な注文はしませんよ。八城ちゃんのできることでいいんです」

八城「そだね、あたし頑張る」


271-8

ゆい「こうしてわたしと高砂さんだけが生き残るわけです」

高砂「無理だ。魔族のかいにゅーはしょしできない」

ゆい「余計なことをする人はいつでも現れますね」

高砂「しょもしょもこんなことしゅるしつよーもないしゃ」

ゆい「計画ではなく、来るべき未来なんですよ。観測者による報告もここにあるんです」

高砂「だからにゃんだ。たかしゃごとしゃちょーは、いつもどーり生きていればいー」

ゆい「焦土か凍土か知りませんが、人間が生きられない土地になる、と」

高砂「仮にしゅくわれた人がいたら、魔界行きだ」

ゆい「わたしは学者を信じがたくなってきましたよ」

高砂「なら反論すればいー。学会のしょーいに勝てるとは思わんが」

ゆい「高砂さんに勝てないわたしが、相手にしてもらえるわけがないです」

高砂「しょこは努力次第だー」

ゆい「ですよねぇ」

高砂「じっしゃい信じがたいものだが、たかしゃごにとってはどーでもいー」

ゆい「高砂さんはいつもそういう態度をとります」

高砂「やちゅらには何もできない」

ゆい「はい」


271-9

ゆい「ところで高砂さん」

高砂「なにゅ」

ゆい「磨夢さんを薬漬けにしているのはあなたでしょう」

高砂「試薬の提供ならこないだ」

ゆい「やはりそうでしたか」

高砂「金は払っている。だいじょーぶだ」

ゆい「了承は得ていますか」

高砂「しぇんしぇーは首を横に振ることはしない」

ゆい「そんな身体を張ってまで友好を深めることもないでしょうに」

高砂「しぇんしぇーのこと、全然知らないぞ」

ゆい「磨夢さんは他人に、心を開こうとしませんからね」

高砂「時間が掛かるのか。めんどくちゃいな」

ゆい「高砂さんは他人のこと言えないですよ」

高砂「たかしゃごは、しぇんしぇーみたいに根暗じゃないぞ」

ゆい「時間が掛かるという点ですよ。対等に会話できているのはわたしくらいでしょう」

高砂「たかしゃごはたかびーじゃないぞ」

ゆい「他人を実験対象としか見ていないでしょう。半ば強制的に投薬する様は鬼畜ですね」

高砂「ふくしゃよーが起きれば、それにたいおーしゅるものを即座に渡している。たまに死ぬことがある」

ゆい「記憶を飛ばすのは構いませんが、生命を絶やすのはあんまりですねぇ」

高砂「じゃーこーゆーのはどーだ。運が良ければきおくしょーがいでしゅむ。運が悪けりゃ死みゅ。儚いなーじんしぇー」

ゆい「人の子に生まれたことを恨むのですね」

高砂「あ、しょーだ、しゃちょー。しょこで買ったラムネをあげよー」

ゆい「ありがとうございます。ビー玉の入ったやつですね。これどうやって救出するんですか」

高砂「たかしゃごもきゅーしゅちゅしたことがない」

ゆい「飲む分には芸術的だから構いませんけど」

高砂「なちゅだなぁ」

ゆい「風鈴の音色が心地良いです」


272-1

ピンポーン

八城「うみゃーうみゃー」

磨夢「………」

ガララッ

ゆい「今時律儀に鳴らす方が居るんですね」

磨夢「宅配便だから」

ルイ「判子お願いしまーす」

磨夢「誰宛て?」

ルイ「磨夢宛てだよ」

磨夢「?」


272-2

磨夢「ゆい、見て」

ゆい「磨夢さんはちゃんと仕入れてくれていたんですね」

磨夢「勝手に来た」

ゆい「彼らは察しが良いですから」

磨夢「………」

八城「うにゃにゃ」

レオポン「みゃーお」

蕨「♪」

ゆい「まぁ皆さんお集まりで」

蕨(ニコッ)

ゆい「何が入っているかは秘密です」

八城「なーんだ」

磨夢「実はAV」

八城「アダルトなの?」

磨夢「いや、もっと幼い」

ゆい「磨夢さんは上手いですよ」

磨夢「ん」

レオポン「みゃあおーん」

磨夢「まずい」

ゆい「蕨ちゃん、レオポンを」

蕨(こくり)

レオポン「にゃおおお」

蕨(フリフリ)

レオポン「にゃあ」

八城「らびぃ、すうぉぉぉぉい」

蕨(ニコッ)


272-3

磨夢「さてと、観よう」

ゆい「拷問モノですか」

磨夢「まさかこんなものが残っていようとは」

ゆい「もしかして実話ですか」

磨夢「人魔の闘争には様々な挿話がある」

ゆい「彼らの快楽と考えるものですか」

磨夢「肉欲などはなく、ただのサンドバッグ」

ゆい「異なる種族間では、興味関心を抱くことはない、と」

磨夢「人魔に至ってはそう。そこは種族によるけど」

ゆい「動かなくなった人形は処分するだけですねぇ」

磨夢「炙り、切断、幾らでも手はある」

ゆい「痛めるだけ痛めつけて最後に美味しく頂くのです」

磨夢「相変わらず肉にしか興味がない」

ゆい「人を平等に見る目が働いているんですよ」

磨夢「………」


272-4

磨夢「そして彼は悲嘆に暮れる」

ゆい「ああ悲しきかな。到着はあまりにも遅すぎたのです。彼の涙はやがて怒りに変わり、敵陣へ単身突撃するのです。そして名誉あるる戦死を遂げるわけですね」

磨夢「知ってた?」

ゆい「この部分だけ知っていました。ビデオの分は敵陣営の話なので、詳しく語られてないのです」

磨夢「知ったところで、捕虜の苦痛しか伝わらない」

ゆい「そうですよねぇ。完全にそっち嗜好の映像です」

磨夢「愚かな、哀れむ余地もない」

ゆい「何故捕まったのでしょう」

磨夢「絶望的な能力差。蚊が止まって見えたという」

ゆい「そこを一斉に」

磨夢「考えが甘かった。動いた故に捕縛された」

ゆい「人間は不自由なものです」


273-1

霞「あつかですねぇ」

玄那「甘えだな」

霞「ひどかですねぇ。熱中症は甘えじゃありませんよ。わたしは健常ですけど」

玄那「外が涼しく見えるな」

霞「意外と風があるものですよ。微風でありながら、炎天下では有用です。どこか行きましょうか」

玄那「久々に腕を試したいものだ」

霞「じゃあゲーセンで決定ですね」


273-2

霞「おー、見知った顔がありますよ。どこに向かうんでしょうか」

玄那「様子を窺っていても駄目じゃないか」

霞「ごもっともで。八城ちゃんこんにちは」

八城「にゃ、かすむん?」

霞「はい、クロちゃんとも一緒です」

玄那「やぁ、やしろん。散歩か」

八城「うん、ただぶらついてるだけだよ」

霞「なら我々にご同行願います。これは任意同行です。ご自由に」

八城「はにゃ、どこ行くのさ」

玄那「ゲーセンは分かるか、ゲームセンター」

八城「何だろうねそれ」

霞「娯楽施設兼戦場です。彼らは喜び勇んで殴り合い撃ち合いをするんですよ」

八城「かっこいいとこなの」

玄那「上手い人はかっこいいな」

八城「あたしも上手くなるかな」

霞「やしろんなら問題ないですよ。ね、クロちゃん」

玄那「そうだな、やしろんなら安心できる」

八城「にゃあ?」


273-3

八城「可愛いぬいぐるみが沢山あるよ」

玄那「これはUFOキャッチャー。箱の中にあるものをあのちっちゃいやつで取るんだが、かすむんならいけるだろう」

霞「取りやすいものなら。あぁ、これなんてどうですか。熊さんです」

八城「なかなか現実味があるよ」

玄那「牙がむき出しだ」

霞「可愛いのは難しいんですよ」

玄那「投資額は少ない方がいいよな」

霞「ではいきましょう。これは楽勝ですね。やしろん、どの熊が欲しいですか」

八城「奥の白いのがいい

霞「ほぅ、シロクマですか。やしろんは見る目がありますよ」

玄那「どう見てもパンダじゃないか」

霞「あ、でもアライグマも狙えるんでそっちにしましょう。はい、どうぞ」

八城「こっちも可愛いね、ありがとう」

玄那「なんかセコいな」

霞「ではではやしろん、こっからが本番ですよ。我らの戦場です」

八城「おー、これは」

玄那「機械が沢山並んだろう。それらで遊ぶんだ」

八城「うわぁ、面白そうなのがいっぱいあるよ」

霞「さてと、戦いましょう」

玄那「協力プレイといこう」

八城「にゃ、なんかはじまた」

霞「ロボットの殴り合い撃ち合いです。今回私達は仲間なんですよ」

八城「へぇ、じゃあ違う人と戦うんだ」

霞「向こう側に居る人ですよ。彼らも強いです」

玄那「始まるぞ」

八城「やれやれー」


273-4

玄那「すまないな、死にすぎた。もう一戦やれば勝てる」

霞「今回は八城ちゃんも居るし、このあたりで」

玄那「よし、じゃあこっちだ」

八城「そっちはなにかな」

玄那「シューティングだ。慣れが肝心。やってみせよう」

八城「うん」


273-5

霞「ボスです。こいつを倒せばステージクリアですよ」

玄那「よし、交代だ」

八城「え、あたしがボスやっつけるの」

玄那「死ぬことはないだろう。敵の攻撃をかわしつつ、攻撃を続けるんだ」

八城「よっ、やっ、とぅ」

霞「上手です。やはり見込みありますよ」

玄那「とにかく集中、これに尽きる」

八城「おーやっつけた。ぼーなすだって」

玄那「じゃあ後は任した」

八城「にゃっ、行けるとこまでやってみる」

玄那「道中のザコ敵に関しちゃ、モグラ叩き感覚だな。出てきた順に倒していくのが理想的だ。無理そうな所は逃げて構わないぞ」

八城「うん、分かった」


273-6

霞「しかし横シューに強いとは、これまた意外ですね」

玄那「なぁ格ゲーが上手かったのにな」

霞「やってみなきゃ分からない、天賦の才ってやつですよ」

玄那「みんな潜在能力が高すぎる。わたしも真似ばっかじゃいかんな」

霞「今回の相手、クロちゃんみたいな人だったのかもしれませんね」

玄那「わたしが大量ってなんだか怖いな。みんなかすむんの真似をしていたのか」

霞「結果的にわたしの独り相撲でしたか。通りでクロちゃんがやられるわけです」

玄那「どんだけわたしを恨んでいるんだ。本体はそっちだろうに」

霞「クロちゃんもね、クロちゃんらしく戦ってもらいたいものです」

玄那「わたしらしく、ねぇ」


273-7

八城「クリアしたよー」

玄那「おめでとう。はい、ジュース」

八城「わぁい、クロちゃん、ありゃっとー」

霞「どうでしたか、手応えありましたか」

八城「うん、何回もやられちゃって、もう少しで終わっちゃうとこだったよ」

玄那「まさに満身創痍だな」

八城「いつか一位取ってみせるね」

霞「じゃあこれからも一緒に来てもらえますか」

八城「勿論だよ」


273-8

磨夢「ゲーセン」

八城「シューティングで最後まで行ったんだよ。このぬいぐるみはかすむんが取ってくれたの」

磨夢「霞」

八城「折角だからまみーのお部屋に飾っとくね」

磨夢「ん」


273-9

八城「まきびしとかまいてない?」

磨夢「まいてない」

八城「落とし穴ある?」

磨夢「ある」

八城「怖いにゃあ」

磨夢「扉から前に3、右に4、後ろに1、左に2」

八城「結構ジグザグするね」

磨夢「警備は厳重だから」

八城「にゃあ!?」

ドサッ

磨夢「ちゃんと覚えてから」

八城「アイタタタ、まみー助けてー」

磨夢「はい、縄」

八城「にゃはは、罠と縄」

磨夢「頭は打ってない?」

八城「うん、大丈夫。ゲーセン行ったことは覚えてるよ」

磨夢「成程、そう簡単にはやられない」


273-10

ゆい「そりゃそうですよ。八城ちゃんは頑強になっております」

磨夢「つまり、脳筋?」

ゆい「八城ちゃん読書家なんでわりと理性的です。発症当時より回復しつつあります」

磨夢「以前の八城には戻ってきている」

ゆい「近付いてはいますね。後は捨てられた事実を伝えますか」

磨夢「伝えても思い出せない。そう、ただの譫言としか」

ゆい「記憶自体が曖昧ですからね。度重なる記憶喪失で、更に薄まることでしょう」

磨夢「実際その対象に会すれば、どうなる」

ゆい「私見では、赤の他人と判断することでしょう。記憶障害がここまで邪魔になるものとは。わたしの計画もおじゃんです」

磨夢「標的を外した」

ゆい「聞き出せないのは残念ですが、八城ちゃんは今の八城ちゃんで幸せだと思いますよ。何より本当の家族じゃないてすか」

磨夢「そう思うなら、そうかも」

ゆい「ちょっくら大将のとこまで行ってきましょうかね」

磨夢「ゆいは大食い」

ゆい「もう少し肉が多ければいいです」

磨夢「………」


274-1

虎徹「そこを行くはジュンジークじゃな」

純治「おお、コテッチャン。久しぶり」

虎徹「調査は順調かの」

純治「写真なら古いのが出てきたぜ。幼なじみのあすぽんだ」

虎徹「おお、これはかわええのぅ。貰うてええかの」

純治「勿論、その為のコピーだぜ」

虎徹「この子と一緒に寝たことはあるかの」

純治「その子の兄貴とも仲良くて、よく三人で遊んでた。そして三人で寝た。元々兄貴から知り合ったんだな」

虎徹「そんで妹が紹介されたんじゃな。羨ましいのぅ。色々やったんじゃろうて」

純治「子供の純心にそういった感情は芽生えないぜ」

虎徹「純粋故に気付かぬこともあるじゃろう」

純治「若さゆえの過ちってやつだな。あまりにも若すぎるけど」

虎徹「そもそも幼少期に付き合うこともなかろうて」

純治「あすぽんのスカートめくったりはしていたぜ」

虎徹「悪戯はどこまで許されたのかのぅ」

純治「幼児の戯れだ。川で押し倒されたりした」

虎徹「積極的な子じゃのぅ」

純治「あの時がオレの青春だったなぁ」

虎徹「一番可愛い時に出会えて良かったのぅ」

純治「以降、あすぽんはブラコンの道を歩むことになる」

虎徹「あすぽんって飛鳥ちゃんじゃろ。うちの剣がお世話になっとる」

純治「あすぽんとつーたんは本当に仲良いぜ」

虎徹「自由恋愛じゃのぅ」


274-2

飛鳥「へくちっ」

柘榴「んじゃ行くよー」

剣「ザクロフ、離れすぎだよー」

柘榴「うりゃああああああ」

剣「あら、あすぽんの方に飛んでった」

飛鳥「うぉっ!?わわわ」

義斗「危ないなぁ。飛鳥ちゃんに向かって」

剣「流石よっしー、外野手転向しようよ」

義斗「剣ちゃんは、そんなに剛の女房役になりたいのかな」

剣「剛?剛はごめんだね。どちかと言うと、よっしーの女房役になりたいかなー、なーんて」

義斗「僕が投手転向なんてまずないだろうね」

剛「またか、またザクがやったのか」

柘榴「肩壊れちった。」

剛「いかんな、制球はもっと正確にしないと。義斗おおおお、行くかんな」

義斗「おっけー、剛」

剛「うぉぉぉぉらっ」

義斗「流石剛だ。構えた所に来るから、安心できるよ」

飛鳥「つまり剣ちゃん、義斗君は狙いを外さない、一直線な子がタイプなんだよ」

剣「あはは、成程ね」

剛「しかし、ザクが外すなんて珍しい。風でもあったのか」

柘榴「いや、単純に体勢が悪かったみたい。公田君のように美しい姿勢で投げればいいんだ。よし分かった。じゃあ改めて行くよ、剣ちゃん」

義斗「ほら、剣ちゃん」

剣「あ、うん。来いやあああ、おんどりゃあああ」

柘榴「しゃああああ」

剣「おおぅ、これは。剛のやつ、ザクロフに何かしたな?」

義斗「剛もできるやつだよ」

柘榴「ありがとう、公田君。大分よくなったみたい」

剛「ザクも投手やって、いいんだぜ?」

柘榴「わたし不器用だから、大暴投しかねないよ?」

剛「やってみなきゃ分からんぞ」

柘榴「バックホームするのと変わんないんだよね」

剛「まあ距離が近くなったって話だな。ということで村雲、捕手を頼む」

剣「いや無理だし死ぬし。よっしーお願い」

義斗「替えの捕手も欲しいなぁ」

剣「剛に頼めばいいよ」

剛「何でオレが投手も捕手もやらなにゃらんのだ」

柘榴「変化球とかよく分かんない」

剛「男は直球勝負だぜ」

義斗「剣ちゃん、バッターボックスに立ってもらえる?」

剣「それぐらいならやるよ。実際見てみたいし」

柘榴「あまり期待はしないでね?」

義斗「とりあえず投げてみてよ。可能なら限り捕るから」

柘榴「うん、分かった。てぇい!」

ギュオン

剣「何だこれえええ」

義斗「剛よりずっと速い。これは抑え候補だ」

剛「大丈夫か」

柘榴「ちょっと肩やっちゃったみたい。あはは、張り切りすぎちゃった」

潤作「見てたぞ」

剛「部長」

潤作「問題は体力か。適応力はありそうだが」

義斗「はい、初めてなので力んじゃっただけでしょう。それと遠投もやっていましたからね」

潤作「暫くは様子見だな。時折投球練習も入れるとしよう」

飛鳥「大丈夫、柘榴ちゃん」

柘榴「んふふ、平気平気。走れば治るよ」

飛鳥「どういう理屈か分かんないよ」

柘榴「外周行ってきまーす」

剣「行ってらっしゃーい」

剛「オレ、地位が揺らいでいる気がする」

義斗「大丈夫だよ、剛は僕らのエース」

剛「そうだよな、みんなが認めているから、オレがエースだ」

剣「あすぽん、ボール貸して」

飛鳥「え、あ、うん」

剣「よっしゃあ、おみゃーら、ノック行くぞぉ」

剛「しゃあっ、来いや村雲ぉ」

義斗「セカンドとか慣れないなぁ」

剣「あっ、よっしーが打ってもいいよ。すごく守り難そうだし」

義斗「悪いね、捕手なばかりに」

舞浜「コラァ、てめーら何してる。オレは外野守っぞ」

潤作「舞浜ノリノリだな」

舞浜「部長もどこか付け。でっかいのが来るぞ」

義斗「あまり期待されても困りますよっと」

剛「飛ばすなぁ義斗」

剣「柵越えしちゃ誰も捕れないよ」

柘榴「危なっ」

パシッ

舞浜「大丈夫か」

柘榴「大丈夫です。グローブ持ってて良かったぁ」

舞浜「流石の反応力だ。外周終わったら参加しろよ」

柘榴「舞浜先輩は打たないんですか」

舞浜「別にオレが飛ばしてもいいが。指宿、外野に回れ。オレがやる」

義斗「わ、分かりました」

剣「よっしーも大変だね」

義斗「僕は捕手なのに」

舞浜「行くぞてめーら、こんにゃろぅ」

みんな「応っ」

飛鳥「あついなぁ」

潤作「飛鳥、お茶貰える?」

飛鳥「うん。お兄ちゃん抜けてきちゃったの」

潤作「舞浜には悪いが、オレは試合に向けて色々考えにゃいかんのだ」

飛鳥「外野が悩む所だね」

潤作「ザクは投手も視野に入れてる。舞浜はどこでもいいし、村雲に外野はきついだろう。一年生回すか」

飛鳥「足が速くて守備が上手い人だね」

潤作「後は肩だよな。ザクみたいな人が欲しいぞ。じゃあ宮本だな。内野はこれでいいか」

飛鳥「決まったの」

潤作「ああ、決まった決まった。後は相手校の研究だ。みんなでビデオ観るか」

飛鳥「今呼んじゃう」

潤作「後からゆっくりやらぁいいよ。こっちも力付けなならんしな」

柘榴「外周終わりました。守備練習行ってきます」

飛鳥「柘榴ちゃん、お茶飲んでいきなよ」

柘榴「あ、うん。あ、部長」

潤作「ザク、どうする。次の試合で登板も考えちゃあいるが」

柘榴「投手は練習しないといかないので、外野手でいきたいです」

潤作「まぁ時間は要するか」

柘榴「公田君に教えてもらって、着実に力をつけます」

潤作「うむ、それがいい。その逆もよろしくな」

柘榴「はい、お任せください。では行ってきます」

飛鳥「柘榴ちゃんは可愛いね」

潤作「舞浜も優しくするわけだな」


274-3

ちる「………」

磨夢「ちる」

ちる「わ、わわ……せ、先生」

磨夢「散歩」

ちる「わたしも、です」

磨夢「うちの野球部はすごい」

ちる「そう、ですね。皆さん、頑張って、います」

飛鳥「あっ、延原先生」

磨夢「三羽烏は」

飛鳥「居ますよ。今打っているのは三年の舞浜先輩で、みんな守備練習です」

磨夢「義斗は捕手」

飛鳥「ノックになると、指宿君の扱いがぞんざいになりますね」

磨夢「それはそうと、差し入れ」

飛鳥「先生、顧問でもないのにいつもありがとうございます。みんな喜んでいますよ」

磨夢「良かった」

潤作「飛鳥ー、給水の準備を頼む」

飛鳥「マネの仕事です。失礼します」

磨夢「ん」

ちる「先生」

磨夢「図書館」

ちる「はい、活字に、飢えて、います、から」

磨夢「感心感心」

ちる「ゆいちゃんは」

磨夢「ゆいはあまり遠くに行かないから」

ちる「遠く、ですか」


274-4

磨夢「待ってて、ちる」

ちる「あ、はあ」

高砂「たかしゃごは書庫に向かうから何もしにゃいぞ」

磨夢「魔法書?薬学書?」

高砂「りょーほー。前者は期待うしゅだけど」

磨夢「会ったら不味い」

高砂「連れがいるだろー。じゃーまた」

磨夢「………」

ちる「魔女さん、ですよね」

磨夢「ちる、魔女に近付いてはいけない。危険」

ちる「そう、ですか」

磨夢「だが誰でも、というわけではないらしい」

ちる「先生は、怖いん、ですか」

磨夢「わたしはともかく、八城の記憶を吹っ飛ばした」

ちる「………」

磨夢「ちるも書庫に行く?」

ちる「いいえ、わたしは、一般書を、読んでおきます」

磨夢「そう、じゃあ」


274-5

高砂「追ってきたのか」

磨夢「いや、ゆいへのお土産」

高砂「しゃちょーにお土産か。かにばの本」

磨夢「自覚あるから学習することもない」

高砂「歴史を見ることで、仲間をみちゅけることができる」

磨夢「世界各地に仲間が?」

高砂「しゃちょーみたいな人間は五万といる」

磨夢「それは怖い」

高砂「しかし、しぇんしぇーは理解者だと聞いた」

磨夢「普通の肉ばかりだとうるさいから」

高砂「しゃちょーも幸せだな。しゃてと、しりょーしゃがしゅか」

磨夢「ん、無難にプラトン」


275-1

ゆい「やぁ、これはひどい。腐ってちゃゴミ同然ですね」

高砂「焼くか?」

ゆい「灰になってもらった方がいいですね。ただ臭いが」

高砂「ヘルブレ……」

ゆい「わーわー、森が焼けます。火力も考えてください」

高砂「一瞬にして消ししゃることで、ししゅーどころじゃなくなっていーのに」

ゆい「電話の前で待機しますよ」

高砂「便利なものだ」

ゆい「やっぱり黒電話に限りますね」

高砂「あれはガチャガチャうるしゃひ」

ゆい「あの音がいいんです」

高砂「んでどーしゅる、これ」

ゆい「ほっとけば、養分となりますよ。下手に動かせば、問題になりますから」

高砂「こればかりはたかしゃごにも無理だ」

ゆい「うちに上がってください。お茶煎れますよ」

高砂「暢気なしゃちょー」

ゆい「簡素な墓でも作りたいですか」

高砂「この大木が彼のぼひょーとならんことを」

ゆい「今日の高砂さんは人間味が感じられます」

高砂「やっぱり燃やしたい」

ゆい「高砂さんは放火魔です」

高砂「着火」

ゆい「加減が分かっていますね」

高砂「たかしゃごだってやりゃーできる。やがて灰になる」

ゆい「やっぱり火力強いです」

高砂「今日は風が強いな」

ゆい「狼煙でも上げてるんですか」

高砂「また門を開けたい」

ゆい「また時期になればお願いしますね」

高砂「りょーかーい」

ガサッ

ゆい「来ましたか」

幽霊「そうです、部位単位で運んできます」

男「ん?」

ゆい「あなたも解体職人ですか」

男「いかにも。解体は得意だ」

ゆい「ではでは、何人くらい手に掛けてきたのでしょう」

男「ざっと五、六人だ。次はあんたか」

ゆい「わたしに手を掛けようものなら、そこの魔女が黙っていませんよ」

高砂「人間は燃えるゴミだからな」

男「燃えるゴミか、この腕は埋めるつもりだが」

ゆい「腕なら構いませんよ、わたしが欲しいのは胴体なんで」

男「ほぅ、面白いことを言う」

ゆい「脂肪分が多い方が美味しいに決まっていますからね」

男「人を食うとは正気か」

ゆい「あなただって、人を殺して埋めているでしょう。お互い様です」

男「はは、面白い方だ」

ゆい「だから疎ましくも思いません。どういう思いで人を殺めているのか詰問も致しません。かくいうわたしも訳もなく、食しているわけですから」

男「じゃあ作業を続けさせてもらう」

ゆい「こんな所、誰も来ませんからね。どうぞゆっくり行ってください。高砂さん、わたしたちは戻りましょう」

高砂「見張りもひつよーないしな」

ゆい「穴場ですからねぇ」


275-2

磨夢「大量殺人はバレる」

ゆい「行方をくらますことは可能ですが、事件を完全に明るみに出さないことなど不可能です」

磨夢「人が死んでいる事実は拭い去れない。彼はあまりにも殺しすぎた」

ゆい「後は時間の問題ですねぇ」

八城「ひとごろし?」

ゆい「はい、物騒な世の中です」

磨夢「ちょっと地下行ってくる」

ゆい「自分にも危機を感じましたか」

磨夢「あれは玩具だから大丈夫」

八城「いっちった」

ゆい「犯人が捕まるまでは無駄な外出を控えましょう」

八城「ゆいちゃんは大丈夫なの」

ゆい「確かに、この家に居た方が安全かもしれませんね」

レオポン「にゃあ」

ゆい「お疲れ様です」

八城「お手紙?」

ゆい「高砂さんが監視しているみたいですね。姿を消したみたいです」

八城「お巡りさんも増えたしね」

ゆい「自ら地獄に踏み込んだりしないでしょうね」

八城「これ中継?」

ゆい「はい、町に配備された監視カメラの映像ですね。怪しい影には注意してください」

八城「怖いなぁ」

コンコン

八城「ひゃっ、殺人鬼」

ゆい「高砂さんですよ」

ガララッ

高砂「しょちの飼い猫にふみゅ付けたが、付近にゃいにゃーみたいだぞ」

八城「にゃあにゃあにゃあ」

高砂「にゃーしょちょー」

ゆい「もう捕まったんじゃないですか。もしくは屋内に潜伏してるとか」

高砂「あーたかしゃご気配しゃっしゅるのは出来にゃいにゃー」

八城「にゃあにゃあみい」

ゆい「あくまで俯瞰が得意である、と。高砂さん、この箱の中には何が入っていると思いますか」

高砂「んー、こりゃあ生肉だ」

ゆい「では次は触らずして、中身を確認してください」

八城「一休さんかな」

高砂「何か聞こえたりしないかな」

ゆい「耳を使いますか」

高砂「しゅいてき、液体の類とみた。トクトク音がする」

ゆい「切断されて新しいですからね。まだ細胞が生きているのです」

高砂「ふぅーん」

ゆい「見る方はできませんか」

高砂「手を使わず箱の中身、見るのかー。やしろーんならできしょーだ」

八城「にゃ、あたし?」

高砂「目、いーだろ。この箱はどーでもいーから、外を眺めてくれ。何か見えてくる筈」

八城「え、あぁ、うん」

ゆい「理解していただけましたか」

高砂「とーしとかむずかしーぞ」

八城「やっぱりお肉だ」

高砂「おもいどーり」

ゆい「見えちゃいましたか、八城ちゃん」

八城「層が薄いよ」

高砂「ほんとだ、目を凝らしぇば見える。とーしでも何でもない」

ゆい「第一段階は通過ですね。ではでは、外を見ましょ……」

幽霊「やあ」

ゆい「成仏させますよ」

高砂「ゆーれーか」

八城「ゆーれい」

ゆい「ですねぇ。それも被害者」

幽霊「理解しているなら話が早い。奴は近くにいる。わたしの死体もそこにな」

ゆい「貰ってもいいですか」

幽霊「だーめ。もう鑑識入ってる」

高砂「しゃちょー、わたしたちには見えないし、声も聞こえないぞー」

八城「何話しているのかな」

ゆい「そこで殺されたそうですよ」

高砂「じゅーたくがいでか。とーりまみたいなやつ?」

幽霊「バラバラにはされてないね。急所やられて即死。何か悲しいな」

ゆい「何で歩いていたんですか」

幽霊「たまたま帰り道だったんだよ。話も半端にしか聞いてなかったし。さっき警察の話を小耳に挟んだ程度」

ゆい「それは災難でしたね」

高砂「むしゃべつ、ねぇ」

幽霊「君達は出歩かない方がいいよ」

ゆい「だそうです」

八城「いや、分かんないし」

ゆい「まあまあ見ていてくださいよ。気配さえ察すれば、こっちのものですから」

高砂「だいじょーぶなのか」

磨夢「思ったより時間が掛かった」

八城「まみー、おかえり」

高砂「おかーり」

磨夢「魔女と、もう一人」

幽霊「あの人も見えるんか」

ゆい「いいえ、適当に言っているだけですよ」

磨夢「………」

ゆい「幽霊ですか、居ますよここに」

磨夢「そう」

幽霊「こんにちは」

ゆい「随分近いですね」

磨夢「冷たい」

幽霊「死体はそうだね、冷たいさ」

ゆい「今頃司法解剖されているでしょうね」

磨夢「霊はここにいる」

幽霊「見えてる?聞こえてる?おーい」

ゆい「………」

高砂「しょのゆーれいは何故いるでしょー」

磨夢「この家の元住人」

高砂「やったのか、あやめちゃたか」

ゆい「彼らにはあの樽の中で対面できます」

高砂「肉片と化したか」

ゆい「ほっといても腐るので、実はもうありません。魂はあるかもしれませんが」

高砂「しゃちょーしか見れないしいーや」

八城「だねぇ」

幽霊「そろそろ話戻そうか」

ゆい「あっ、そうでした。磨夢さん、この方は例の事件の被害者でして」

磨夢「そう」

高砂「しぇめて見えりゃーにゃ」

幽霊「不便なものだねぇ」

ゆい「はは」

八城「あっ、これは来てるよ」

磨夢「ヤシロの予言」

ゆい「とりあえず皆さん、隠れますか。磨夢さん、地下は大丈夫ですか」

磨夢「二層なら大丈夫」

高砂「なんだ、実験でもしてるのか」

磨夢「色々と。魔女のと比べたら、程度が知れている」

八城「にゃーにゃー怖いとこはやだよ」

磨夢「怖くない」

ゆい「ありがとうございます」


275-3

高砂「しぇつびが整っている」

磨夢「この層は避難用。実験場はもう少し下になる」

八城「こんなとこ知らなかったよ」

ゆい「完全に磨夢さんの趣味空間ですからね」

磨夢「地下施設は前の家主が所有していたのを少し改造した」

高砂「おー、ひょーそーの様子が見える。本当に来てるな」

八城「当たったよ、えっへん」

ゆい「わたしと同じく庭からですね。鍵は簡単に壊せますし」

磨夢「ゆいが壊したんじゃ」

ゆい「ごめんなさい、我慢できなくて」

高砂「うちの合い鍵ならあるぞ」

ゆい「高砂さん家の合い鍵貰っても仕方ないですよ。しょっちゅう行くわけでもありませんし」

磨夢「地下の合い鍵」

ゆい「地下じゃないですよ。家の合い鍵をください」

八城「だってさ、まみー」

磨夢「迂闊に渡せない」

ゆい「………」

高砂「しんよーしゃれてないだろ」

ゆい「いつまでもお客さん扱いする気ですよ。この人達」

八城「だって住んでるわけじゃないし」

ゆい「三食食ってお風呂に入り兄さんの寝込みを襲うだけでは認められませんか」

磨夢「ん、本気で住みたいなら籍を移してきて」

ゆい「神社は捨てられませんし、あくまで通いですかねぇ」

高砂「あの母屋にこしゅーしゅるりゆーは」

ゆい「やはり朝一の仕事ができるからですよ。やること済まして、朝の日課です」

磨夢「朝というより未明」

ゆい「兄さんに合わすのも難しいですね」

八城「まみーまみー、おうちめちゃくちゃだよ」

磨夢「留守なんで帰ってほしい」

高砂「懲らしめてやってもいーんじゃないか。何ならたかしゃごが」

ゆい「家ごと消し飛ぶんで結構です」

高砂「だいじょーぶ、地下は残しゅ」

八城「ちてーじんになっちゃうよぉ」

磨夢「ピアノ線でも張っとくべきだった」

ゆい「地下にそういった機器はあるんですか」

磨夢「ん、倉庫があるから。もっと痛いのもある」

高砂「痛いよりきもちーほーがいーぞ」

八城「きもちーの?」

ゆい「高砂さんの薬は神経を患わ、蝕むくらいでしょう」

磨夢「そう、わたしもひどい目に」

高砂「くしゅりといっても、くるしーものばかりではない。きもちーのもある。ゆーなれば、心がしゅっとしゅるよーなもの。快楽は人をころしゅ」

八城「じゃあ楽しくなるのがいいな」

高砂「のーにしゃよーを及ぼすしぇーぶんとの比率か。くしゅりとは苦いもの、とゆーのから考えていけば、ふむふむなるなる。しぇんしぇー、黒板ありがとー」

カリカリカリ

ゆい「高砂さんが張り切っているところで我々は映像の方を」

八城「アイス食べてるよ」

磨夢「後で返してもらうから」

ゆい「食べ物の恨みだけで倒せそうですね」

八城「ところでお兄ちゃんは?」

磨夢「何も知らずに自室に籠もっているかと」

ゆい「連絡はしとくべきでは」

磨夢「出てこないし問題ない」

ゆい「ご飯の時間じゃなくて良かったです」

八城「もう出ていくかんじ」

磨夢「頃合いだ、通報しよう。ゆい、繋いで」

ゆい「えぇ、お繋ぎしましょう」

高砂「けーしゃつとむしぇんか」

ゆい「電波なんてさほど問題じゃないんですよ」

磨夢「犯人伊崎屋敷ニ潜伏。庭カラ出タ所ヲ逮捕願フ」

警察「ザー、了解。直チニ現場ヘ向カフ」

ゆい「表から出るかも分かりませんよ」

磨夢「表ノ門ニモ応援要請」

警察「了解」

ゆい「傍受している以上はそれらしくやるんですね。流石元警察」

八城「まみー、警察だったんだ」

磨夢「特殊部隊。爆弾除去や無線傍受はゆいの力を借りることも多かった」

高砂「しゃしゅがしゃちょー」

ゆい「まだ現役でしたからね」

高砂「しゃちょーはめーよしゃちょーだからな」

ゆい「名誉職に就くには早すぎると思いません?」

高砂「しょーか、しゃちょーはいつまでもしゃちょーか」

ゆい「はは、高砂さんが言うんならその通りですね」

八城「犯人、悩んでるね」

磨夢「逡巡している間に囲むのは定石」

ゆい「増援が続々集まっていますね」

警察「連続殺人犯。君は完全に包囲されている。武器を捨て、おとなしく出てきなさい」

男「おのれ、この家の住民が通報したのか」

警察「要求を飲むか否か。返事によって突撃せざるを得ない」

男「畜生、どこに潜んでいやがる」

八城「もうだめねこの人」

高砂「低い高めのけんぶちゅだな」

ゆい「時間というのは恐ろしいものですね」

男「おとなしく出るわけにもいかん」

警察「返事はどうだ」

男「要求は飲めない。この口より何一つ吐きはせん」

カチャ、ドゥーン

磨夢「自害用拳銃」

ゆい「犯人は自殺、ですか。肉は回収できそうですか」

磨夢「警察が囲んでいるし無理…ザー、容疑者ハ自殺シタ模様。警戒シツツ回収願フ」

警察「了解」


276-1

マスター「魔界での暮らしが始まってからさー、るーちゃんも夜行性に目覚めてんな」

ルイ「夜行性以前に夜なのか昼なのか分かんないよ」

マスター「でも個人的な感覚としては夜に活動している気がする」

カランコロンカラン

マスター「いらっしゃい。ユイールとシャギー」

ゆい「お客さん、人間界の時よりも多くないですか」

マスター「店が広いんのもあるし、珍しいんか評判も良いみたいで、多いって感覚やなぁ」

ゆい「では相対的な割合としては変わってないというわけですね」

マスター「まぁあくまで感覚やけど」

高砂「しゃけにちゅよいんだ、人間よりもずっと」

ルイ「耐性の問題だよね」

高砂「焼き鳥としゃいだー」

ゆい「じゃあわたしはうぉっか」

マスター「そりゃ無理やなユイール」

ゆい「年齢的には達していても身体的には未熟なのです」

マスター「そうそう、幾ら悪魔やゆーても、その一方で成長が進んでへんのやからな、ユイールは」

ゆい「今日のマスターは冴えていますね。なので実際普通の人間と変わらないのですよ」

高砂「ほんとちゅごーのいー話だ」

ゆい「これで健康的に生きてきたわけですから、高砂さん唯一の成功例ですね」

ルイ「何のことか分かりますか」

山羊「そりゃああれよ。精神安定剤的なやつよ」

ゆい「そんなところです。初期のわたしには魔力に耐えうる程の体力がありませんでした。人間より強大な魔族の血ですよ。人間界の病院にそれを解決するものはありません。そこで、高砂さんを頼ったわけです」

高砂「あの時のしゃいけつは確かにかじょーに思えた。しかし、魔族の血液と天秤を合わせる為にはだとーなものだった」

ゆい「人間としてのわたし、悪魔としてのわたし、両方を保つために高砂さんは尽力してくれました。血液を比較することで、人間に不足している成分を発見したのです」

高砂「しょいつをしゃちょーにぶち込めばいいのだと。ちゅーしゃした途端にしゃちょーははっきょーした。悪魔のしゃけびとゆーのか、人間といー表しぇないやちゅだ。しょこで、あんてーざいをちゅーにゅー、しゃちょーは落ち着いて、最初のくしゅりのこーかもしっかり現れていた。めでたしめでたし」

ゆい「悪魔は人間よりも長寿なので、成長が遅いのも納得するでしょう」

マスター「確かになぁ。やから、ユイールには酒は出せない」

ゆい「じゃあトマトジュース、シルヴプレ」

ルイ「うぃ」

高砂「血が欲しー、がおー」

ルイ「きゃー、噛まれるー」

マスター「……ユイールも血に飢えてるん?」

ゆい「血なんてもんじゃないですよ、肉ですよ、がう」

マスター「おっとろしーわ」

高砂「悪魔だからな」

ゆい「よくも食べられずに済んだものですよ」

ルイ「魔界はいいとこ、一度はおいで。いつ食べられるかって、どきどきするね」

マスター「それで人気があるんやったら、店畳みたくなるわ。いや、畳まへんけど」

ゆい「人の味を酒の味で上書きすることですね」

マスター「悪魔は騙せても、ユイールは騙せんな」

ゆい「長らく人肉は食してないので、欲求は薄らいでいる筈ですが、筈ですよね」

マスター「知らんけどな。うちの料理食べてたら、忘れてしまうんちゃう?」

ゆい「ははは、そうかもしれませんね。かつて人間と悪魔の抗争があった頃、捕虜になった人間も居ました。その時食べた味が忘れられず、今でも残っていると言われます」

高砂「ちなみにしゃちょーはかんけーないぞ」

マスター「え、この流れでそれ言っちゃう?」

ゆい「わたしの場合、完全に趣味ですからね。食べなくても問題ないのです」

ルイ「嘘だよ、正常でいられるのも薬のお蔭」

高砂「しょろしょろとは思っていた。しゃちょー、観念しろ」

ブスッ

ゆい「う……」

ドサッ

高砂「あー、気付いて良かった。ありがとー職人」

ルイ「ゆいのこと、大事にしてあげてね」

高砂「大事に、大事にか。まー何とかしてみる。かいけー」

マスター「お、おおきにー。大丈夫なんかな、ユイール」

ルイ「魔界での生活が慣れないんじゃないかな。そっとしておこう」


276-2

高砂「こんだけやりゃーへーきか。おーいしゃちょー、起きていーぞ」

ゆい「ん、ここは」

高砂「神社だ。しゃちょーのよーしゅがおかしくなったから、しゅこし身体を弄らしぇてもらった」

ゆい「まさか、改造人間にしてたりしないですよね」

高砂「しょこまでやってない。人肉よっきゅーと別れしゃしぇた」

ゆい「人間の少ない魔界では不要ということですね」

高砂「しょーだ。人間界が健在だったときは、腹を満たすゆーよーなよっきゅーであったが、今となりゃー、マスターと職人を脅かすだけだ」

ゆい「遂にお別れの時が来ましたか。長かったですねぇ」

高砂「ちゅかいみちは、ひつよー個体をみちゅけ、ぼくじょーやこーじょーをけんしぇつしゅること。しょのしゃぎょーはめんどーだろーな」

ゆい「誰か見つかったらいいですけどね。見つかるまではお預けです」

高砂「てーきてきに食しゅるのは自覚あったろ」

ゆい「あの家庭があった時は、ほぼ毎日でしたねぇ。磨夢さんと大将のお蔭です。だから人を襲うようなこともなかったのです」

高砂「嘘吐き」

ゆい「まぁ、自分で仕入れることもありましたけど」

高砂「しゃつじんには手をしょめていない、と」

ゆい「はい」

高砂「もーしゃちょーはしんよーしないぞ」

ゆい「そんなに嘘ばかり吐いてます?」

高砂「ひてーはしない」

ゆい「しょんぼり」

高砂「しょれはともかく、今度は悪魔食いにしておいた。今までどーりにやっていけるだろー」

ゆい「高砂さん、大好きです」

高砂「しゃちょーはちょろい」

ゆい「十分過ぎますよ」


277

玄那「ただいま」

霞「おかえりなさい」

玄那「わたしの居らん間に何かあったかい」

霞「音速ノックを聞きましたよ。わたしは居留守しましたけど」

玄那「拳痛くなるぞ」

霞「篭手位は付けてましてよ。鉄と鉄が重なり、より重い音が聞こえました。ガガガガグワァンって感じですかね」

玄那「ノックだけか」

霞「そういえば鍵掛けてなかったなと思い、テレビのリモコンで掛けときました。手応えは十分。ガッチリ締めましたよ」

玄那「んで、どうなったんだ」

霞「お嬢様、お嬢様ああああ。いらっしゃるのなら返事してくださあああいとテレビ電話が残っていました」

玄那「執事は手紙派だぞ」

霞「手紙、来てたでしょう」

玄那「あぁ、これ執事からの恋文だ」

霞「ハートで封されています。執事さんのクロちゃんに対する熱い恋慕の気持ちがひしひしと伝わってまいります」

玄那「どれどれ。お嬢様に会いたいです。お嬢様のいらっしゃる場所なら、どこへでも飛んでまいります」

霞「じゃあゲーセンで会おう、としときましょう」

玄那「知ってはいるだろうが、披露したことはないぞ」

霞「そもそも飛び出して以来会っていないんですよね。では尚更お嬢様言葉の練習をしなきゃです」

玄那「庶民やってることはそれとなく伝えてるよ。後訓練はやめだ」

霞「確かに現在のクロちゃんにお嬢様なんて似合いませんね。過去にそうであったかも疑わしいです」

玄那「天から落ちれば人格も変わるさ」

霞「お嬢様のクロちゃんにも会いたいです」

玄那「幾ら言っても昔のわたしは帰ってこないぞ」

霞「執事さんならきっと戻してくれますよ。嫌でも矯正されましょう」

玄那「人生すらやり直せそうだな、それ」


278-1

ゆい「おはようございます」

基茂「朝帰りだろ、帰れよ」

ゆい「やん、兄さんったら冷たいです。この肉棒、しゃぶっていいですか」

基茂「もう精力は尽きました。お帰りください」

ゆい「滋養強壮剤というのですか、例の魔女から頂きまして」

基茂「エロい薬品も開発してるんか」

ゆい「高砂さんはどんな薬でも誇らしげに試供品として渡してくれるんです」

基茂「どんな薬でも、か。それは飲んじゃ駄目な気がする」

ゆい「兄さん、らしくないですよ。何も悪いものじゃありません。大きくなるという利点もあります」

基茂「デカくしても、ゆいゆいが痛いだけだぞ」

ゆい「兄さんなら構いませんよ。ぶち破ってください」

基茂「人殺しにはなりたかねぇ」

ゆい「血を見るのが怖いのですか」

基茂「別に怖かねぇが。磨夢みたいな鬼畜じゃないってこと」

ゆい「やや、兄さん。地下の事をご存知ですか」

基茂「拷問じみたことをしてんだろ」

ゆい「食糧は与えているので、生き地獄ですよ」

基茂「さっさと殺してやれよ」

ゆい「どれだけやっても真実を吐かないからです。秘密を聞き出すまではあのままですねぇ」

基茂「やしろんみたいに記憶喪失してるんじゃねーのか」

ゆい「高砂さんと掛け合わせた覚えも雨の中ダンボール箱で見つけたりもないですが、まぁ八城ちゃんはトラウマなんでしょうね」

基茂「それに第二の記憶喪失が上書きされれば、もはや思い出せまい」

ゆい「早く食べる為に八城ちゃんに電気ショックを与えましょう」

基茂「やしろんに無茶苦茶すんじゃねぇぞ」

ゆい「すみません。お詫びにふぇはひはふ」

基茂「咥えてから言うなよ」

ゆい「がう」

基茂「牙むくなし」

ゆい「はっ」

基茂「急にやめんなし」

ゆい「今思えば、兄さんもう出ないんでしたね」

基茂「今ので戻りそうだったな」

ゆい「じゃあ敢えてやめときましょう」

基茂「そいつぁひでぇや」

ゆい「兄さんがこの薬を飲まなきゃ始まらないのです」

基茂「むぅ、その条件は飲めんなぁ」

ゆい「お腹減りました」

基茂「ちょっくら居間見てくらぁ」


278-2

基茂「誰か居ませんかああ」

蕨「?」

基茂「お、蕨。磨夢とやしろん見なかったか」

蕨(フリフリ)

基茂「朝から居ないのか」

蕨(コクリ)


278-3

基茂「だ、そうだ」

ゆい「そりゃあ大変ですねぇ」

基茂「流石に慣れてっか」

ゆい「二人っきりは慣れていますよ」

基茂「寝泊まりもこっちでしたらいいのに。部屋なら幾らでもあんぞ」

ゆい「そうしたいのはやまやまですが、神様が泣いちゃいます」

基茂「いっそ、うちまで神域広げっか」

ゆい「霊験あらかたな町になりますね。わたしは嬉しいですが」

基茂「出るよな、間違いなく」

ゆい「神社を根城にする幽霊で町が溢れ返ることでしょう」

基茂「墓場しかねぇ」

幽霊「よう」

ゆい「こないだの犯人さん」

幽霊「君はここに住んでいたのか」

ゆい「いいえ、わたしの住居は神社ですよ」

幽霊「泊まっていたのか」

ゆい「まあそんなところですね」

基茂「何か事件でもあったのか」

ゆい「連続殺人の犯人がこの家に立てこもったんです」

基茂「うちも有名になったな」

幽霊「こいつは見なかった」

ゆい「兄さんは部屋に籠もっていましたからね」

幽霊「気が付かなかったなんて肝が据わった野郎だ」

基茂「磨夢ややしろんは?」

ゆい「みんな地下に隠れていました。犯人さんは居間でアイスを食べていました」

幽霊「あれは美味かった。最期に食えて良かったな」

ゆい「最期に食べるのがアイスというのもどうかと思いますが」

基茂「自殺でもしたのか」

ゆい「えぇ、見事な死にっぷりでしたよ。拳銃を頭に打ちつけ死亡。現場に駆けつけた警察が回収しました。あれは勿体なかったですね」

幽霊「警察呼ばれちゃあ敵わんだろう」

ゆい「警察が来なきゃ美味しく頂いていました」

基茂「何故呼んだし」

ゆい「磨夢さんの勢いに引っ張られて無線使っちゃいました。てへ」

幽霊「それで警察が反応したのか。まさに背水の陣だったんだな」

ゆい「アイス食べてる暇なんかなかったんですよ」

幽霊「暑い日だったから頂いた」

ゆい「アイス代もしっかり頂きました」

幽霊「死んだ後にか。何か複雑だな」

ゆい「あれは高かったみたいですよ。買い直して食べました」

幽霊「確かに、あれはお薦めだ」

ゆい「ところで犯人さんは何故うちに」

幽霊「目立つ所程気付かないだろうと考えたからだ。知っているだろうが、死は覚悟していた」

ゆい「自決用拳銃ですね」

幽霊「あれで人を殺そうとは思わなかったな。みんなナイフで突き刺して殺した」

ゆい「死者からの供述ですよ、兄さん」

基茂「貴重な取調だな」

幽霊「それでどうする、オレの取調結果は。サツにでも報告するのか」

ゆい「そんなことをすれば、わたしが怪しまれますよ。霊視能力なんて大したもんじゃありませんから」

基茂「曰わく、あっても迷惑なものってな」

ゆい「全くですよ。殆どの幽霊は会話能力を失い、気味が悪いだけです。犯人さんのように死んで新しいものなら、こうしてお話できるんですけどね」

幽霊「あんたと別れれば、もう言葉を発することもなくなるだろうな」

ゆい「幽霊の仲間でも見つかればいいですね」

幽霊「寡黙な幽霊はあちこちにいるな」

ゆい「喋ってないと言葉を忘れるあれですよ」

基茂「磨夢と二人の時は日常茶飯事でしたが何か」

ゆい「わたしや八城ちゃんのお蔭ですね、えっへん」

基茂「賑やかなのを相手していると治るよな」

ゆい「愉快愉快。兄さんの喜びはわたしの喜びです」

基茂「あのな、ゆいゆい」

ゆい「兄さん、幽霊さんが見てますよ」

幽霊「見てない」

ゆい「ありがとうございます?」

基茂「喜びを共有するというのはオレの身勝手な欲求も…まぁいいや。幽霊さん、お疲れさんっす」

幽霊「さらばだ。嗚呼、友人が欲しい」

スーッ

ゆい「兄さん、近い近い近い」

基茂「ぐへへ、良いではないか良いではないか」

ゆい「キャー、ケダモノー」

ガチャ

基茂「うわっ、帰ってきやがった」

磨夢「いいよ、続けて」

基茂「お前視力おかしいんじゃねーの」

磨夢「物音が騒がしいから」

八城「なになに、なにしてんの」

磨夢「プロレスごっこ」

八城「あー、プロレスごっこかぁ」

ゆい「うぶぶ、兄さん潰れる潰れる」

基茂「あぁ、すまん、ゆいゆい、平気か」

ゆい「だからわたしは騎乗位が良いと言ったのですよ」

磨夢「………」

ゆい「兄さんは重いですからね。ちるさんも潰れると思いますよ」

基茂「別に乗っかってねーし」

磨夢「あっ、こんな所にロータが」

基茂「ゆいゆいの落としもんだろ」

磨夢「証拠物品」

ゆい「あっ、こんなとこに絆創膏が」

八城「それあたしの」

ゆい「八城ちゃんも隠したい年頃ですか」

八城「何のことかな。膝すりむいただけよん」

基茂「これは恥ずかしい」

磨夢「ゆい、身ごもった?」

ゆい「三カ月ぐらいですかね」

基茂「黙れ風船野郎」

プシュー

八城「折角膨らましたのに空気抜いちゃうの」

ゆい「生命はここで事切れたのです。劣悪な不良品は処分されます」

八城「あたしゃ不良じゃないよ」

ゆい「そうですね、とってもよい子です」

八城「えへへ」

基茂「どちかというと、ゆいゆいが不良だ」

ゆい「うちの風紀を乱しまくりですからね」

磨夢「別に構わない」

ゆい「まあ!磨夢さんは寛容ですね」

磨夢「ん」

八城「お兄ちゃんお兄ちゃん、ホラー映画を借りてきたんだよ」

基茂「どれどれパッケを見しとくれ。流血表現がありますってよ」

八城「怖いやつなの」

基茂「怖いというよりグロい」

磨夢「肝っ玉小さい」

基茂「おっしゃじゃあ早速上映会開始といこうじゃん」

磨夢「ん」

八城「おー」

ゆい「わくわくです」


278-4

ゆい「ありゃホラーじゃないですね。グルメ映画です」

基茂「確かにいろいろ食ってたな」

八城「ゆいちゃんみたいだったよね」

磨夢「あれは笑えた」

基茂「もう一作いきたいな」

磨夢「こっちはちるを連れてきた方がいいかと」

基茂「もっとやべーやつか」


278-5

ちる「お邪魔、します」

基茂「これ見たことあるかね」

ちる「あぁ、これは。本物、ですよ」

ゆい「ほぅ、それはそれは」

ちる「撮影日時、撮影場所、不明。事件は、隠匿されて、います。一体、どこで」

磨夢「闇としか言いようがない」

ちる「先生の環境、羨ましい、です」

基茂「一体誰がばらまいてんだか」

ゆい「わたしも分かりませんよ」


278-6

基茂「あぁ無理だ、抜ける」

磨夢「ちるが真剣」

基茂「ホラー好きにも程があるぜ」

ゆい「人間は残酷な生き物ですねぇ」

八城「さっきのと比べものになんないや。怖すぎ」


278-7

ちる「あれ、先生、だけ」

磨夢「わたしも一度抜けた」

ちる「はぁ」

八城「あー怖かった」

ちる「本物は、違い、ます、ね」八城「なんで怖くないの」

ちる「人じゃない、ので。幽霊、なら、ものなら、仲良く、なれると、思ったん、です」

ゆい「今朝ですね、殺人犯の幽霊とお話してたんですよ」

磨夢「何か聞き出せた?」

ゆい「そんな大したものではありませんよ。アイスが美味しかった、というのでしたり、ナイフで人を殺す気はなかった、というのくらいです」

ちる「アイスを、食べたん、ですか」

ゆい「ここで立てこもってのんびりしていたわけですよ」

磨夢「最後の晩餐」

ゆい「確か真っ昼間だったと思いますよ」

八城「あたしが起きてた時間だからね」

磨夢「ん」

ちる「皆さんが、ご無事で、何より、です」

磨夢「ん」

ゆい「みんな磨夢さんのお蔭なのです」

八城「地下室がすごいんだよ」

ちる「床に仕掛けが、あるん、ですか」

磨夢「鍵だけど。ちるも合い鍵要る?」

ちる「これ、マスターキー、ですよね」

ゆい「家も地下も開けれるなんて便利ですね」

磨夢「基茂の部屋も開く」

ちる「貰います」

八城「お兄ちゃん鍵掛けないよ」

ゆい「鍵あったことを知りませんでした」

磨夢「うちは開放的だから」

ゆい「それは色々困りますね」

磨夢「風呂はRECしてるから」

ゆい「やめてください」

八城「地下のあれで映ってたよ」

ゆい「それは大変ですね」

磨夢「………」

ゆい「磨夢さん?」

磨夢「どっかで死んでも知らないから」

ゆい「危険なお家です」

ちる「危険、ですか」

八城「いや全く」

ゆい「住んでる人が危険なんです」

八城「あたし危険じゃないよ」

ゆい「わたしは何度だって殺されていますよ」

八城「そりゃゆいちゃんがヤワすぎるからだよ

ゆい「傷が付けば砕けますよ、いやほんと」

磨夢「ちる、ゆいの手握ってみて」

ちる「あ、はい」

ゆい「力入ってますよ」

ちる「力、入れてません、けど」

八城「腕触ってみぃさぁ」

ちる「はい」

磨夢「心臓」

ちる「はい」

ゆい「はぁ、十年程寿命が縮まった気がします」

磨夢「ちる、どうだった」

ちる「腕は、骨に、届きますし、心臓は、ものすごい、鼓動で」

ゆい「良いですか。この鼓動こそが兄さんの嫁としての自覚です」

八城「お兄ちゃんの嫁はちるお姉ちゃんだし」

ちる「成程、です」

磨夢「基茂は無料で売り渡す」

ちる「いただき、ます」

ゆい「ならわたしはちるさん家に通わなきゃいかんくなりますね」

八城「そんなお家離れてないし、いんじゃないの」

ゆい「日常に僅かなる変化があれば、己を見失ってしまうのです」

ちる「そんなに、複雑、でも、ありません、よ」

ゆい「わたしの体力で往来可能な範疇にあるか、ですよ。あまり遠出をすると死の翳りが見え始めます」

八城「隣町は遠くないの」

ゆい「空間の歪みに入れば、近いものです」

ちる「歪み、です、か」

ゆい「目的地が目と鼻の先にあるように映るのです」

磨夢「蜃気楼?」

ゆい「幻覚ではありません。本物がそこにあるのです」

八城「さらだあっぶっらー」

ちる「先生、お野菜、使って、よろしい、です、か」

磨夢「何作る?」

八城「野菜炒めだよん」

磨夢「おっけ」

八城「やたっ、ちるお姉ちゃん」

ちる「お肉も、使います、ね」

磨夢「ん」

八城「何か手伝いたいな」

ちる「材料の、準備、です。人参、玉葱、ピーマン、もやし、キャベツ」

八城「あいさあいさ」

磨夢「肉はチルドルームに」

八城「うぃっしゃ」

ゆい「ふぅ」

磨夢「ちるは多分知らない」

ゆい「無関係な人を巻き込む必要はありませんしね」

磨夢「吟味中?」

ゆい「磨夢さんはもう少し太っていいんですよ?」

磨夢「ん」

ゆい「まぁわたしよりしっかりした腕だこと。良いですね、ぷにぷに」

磨夢「骨より肉」

ゆい「ごもっともで」


278-8

八城「ステーキだう。ステーキだう」

ちる「基茂さん、呼んで、きます、ね」

八城「あたしもついてくー」

磨夢「………」

ゆい「う……」

高砂(ベタァー)

ゆい「高砂さん」

ガララッ

高砂「美味しょーだな、と」

ゆい「野菜炒めとステーキです」

高砂「肉は」

ゆい「残念ながら磨夢さんが作ったのではないので」

高砂「しゃちょーは飯抜きだな」

ゆい「わたしだって普通の肉は食べますよ」

磨夢「でも好きじゃない」

ゆい「そこを言われると辛いところがありますね」

高砂「しゅき嫌いはイクナイぞ」

ゆい「そういう高砂さんだって好き嫌い激しそうです」

高砂「たかしゃごは結構何でも食うぞ。ほらやしょーとかしょーどーぶつとか」

磨夢「………」

高砂「とゆーことでしゃちょーのステーキいただき」

ゆい「いやぁー、わたしはお腹が空いてるんですよ」

磨夢「じゃあもう一人分作る」

ゆい「お願いします」

高砂「あ、猫」

ゆい「レオポンって名前ですよ。八城ちゃんに忠誠を誓っております」

高砂「たかしゃごには寄ってきしょーにないな」

ゆい「いいえ、レオポンは気付いていますよ」

レオポン「にゃ」

高砂「獣くしゃいか」

ゆい「否定しませんよ」

磨夢「おまたせ、ゆいの分」

ゆい「磨夢さん、ありがとうございます」

高砂「しゃちょーも飽きないな」

ゆい「一生飽きない味と断言してもいいですよ」

高砂「うむ」

磨夢「………」


278-9

高砂「ごちしょーしゃまっした」

ゆい「八城ちゃん達帰ってくる前に食べ終わってしまいましたか」

高砂「たかしゃごはおしゃきにしつれーする」

八城「あ、魔女さん」

高砂「……げっ」

ちる「魔女さん、ですか」

基茂「………」

高砂「これでぜーいんか」

ゆい「はい、わたしとちるさんは客ですか」

磨夢「蕨もいる」

高砂「だいしぇたいだな」

ゆい「ですねぇ」

八城「魔女さんお昼食べたの」

高砂「ついしゃっき頂いた」

八城「へぇ、ゆいちゃんと同じお客さんか」

高砂「まーじょーれんにゃならないかと」

ゆい「高砂さんは料理できますよね」

高砂「色々と混ぜてな」

八城「魔女さんだからね」

ゆい「お腹壊しますよ」

高砂「しょのへんはまかいぞーしてるからへーきだ。しゃちょーだってしょーだぞ」

八城「え、ゆいちゃんもまかいぞー?」

ゆい「体内を弄られるってどんな感触でしょうね」

高砂「ましゅいかけるしだいじょーぶ」

ゆい「そういう問題ですか」

基茂「でもゆいゆいは中が好きなんだろ」

ゆい「外も外で好きですよ。こう、ぶっかけられるというのは」

磨夢「………」

八城「ちるお姉ちゃん、何の話」

ちる「え、あの、その」

磨夢「ちるはむっつり」

ちる「違い、ます、よ」

高砂「で、何の話だったかな」

ゆい「高砂さんは素敵ですね」

高砂「うむ、しゅてーきは美味かった」

八城「魔女さん今度赤の魔法書貸してー」

高砂「赤まほーか。しょーか、やしろんもちゅいに」

八城「赤なら分かる気がする」

ゆい「いつにない自信ですね」

八城「単純な本としてだけどね」

ちる「魔法書、ですか」

高砂「おねーしゃんは白まほーだな」

ちる「白、魔法」

八城「白も難しかった気がするよ」

高砂「単純な本としてならだいじょーぶ」

八城「あはは、そうだね」

ゆい「八城ちゃんも変わりましたよね。良い方向に」

基茂「益々天才肌に染まっていくな」

磨夢「ゆいのお蔭」

ゆい「いやいやわたしもついていけませんよ」

高砂「やしろんはほんとにしょしつある」

ゆい「まさか」

八城「特訓だ」

高砂「じゅこーりょーむりょー」

八城「わーい」

磨夢「取れる金がない」

高砂「金なんて国からしゃくしゅしゅればいー」

磨夢「税金泥棒」

ゆい「医薬品業界で暗躍している高砂さんは確かに理解され難いものでしょうね」

磨夢「………」

高砂「正しくはがくじつきかんか。金が回ってるのは事実。なんならしぇんしぇーも回してやりゅ」

磨夢「回される?」

高砂「いーみしぇを知っている。高く買ってくれるぞ」

磨夢「後で地下室に来るように」

ゆい「高砂さんに悪気はありませんよ。いつだってそうです」

磨夢「わたしは構わないけど、八城が報われない」

高砂「やしろんにちゅいては、もーしわけなく思ってる。だよな、やしろん」

八城「ん?魔女さんあたしに悪いことしたの」

高砂「記憶を飛ばしたなんて信じないだろー」

八城「信じないよー。あたしはあたしだし」

高砂「とまーそんなかんじ」

磨夢「……馬鹿」

八城「まみーは分かるの」

磨夢「わたしは分かっている。八城は実際二回記憶喪失している」

八城「二回かぁ。一つが魔女さんなの」

磨夢「ん」

高砂「だからたかしゃごはやしろんに頭が上がらない」

ゆい「八城ちゃんを扇ぐのは高砂さんの仕事です」

八城「もう秋だよ」

ゆい「八城ちゃんの足を舐めるのだって高砂さんの仕事です」

高砂「たかしゃごにしょーゆー趣味は無いが、どーしてもとゆーなら」

八城「あたしもそんな趣味ないや」

ゆい「お風呂入りましょうか」

磨夢「洗ってきて」

ゆい「お風呂洗うのはわたしの仕事です」

高砂「しゃちょーはしぇんしぇーに頭が上がらない」

磨夢「高砂とゆいの関係とあまり変わらないと思う」


278-10

ゆい「ということでお風呂です」

八城「わーい」

高砂「しぇまい」

ゆい「井筒さんとこと比にはならんですよ」

八城「うち風呂だかんね」

高砂「しゃてと」

ゆい「お背中流すのは高砂さんの仕事です」

八城「洗いっこしよ。魔女さん」

高砂「りょーかい」

八城「にゃーにゃー」

高砂「にゃーにゃー」

ゆい「八城ちゃんが増えました」

八城「レオポンが増えたのよ」

高砂「しょーしょーレオポンにゃ」

ゆい「猫は水が苦手です」

八城「そういうのは偏見というんだよ」

高砂「種を一括りに捉えりゅのはよくにゃいぞ」

八城「にゃーにゃー、魔女さん、犬は好きかな」

高砂「犬はあまり見たことはないなぁ。からしゅはしゅきだ」

ゆい「高砂さんは、からっさんと似てますね」

高砂「たかしゃごは鳴かずに飛んでるぞ」

八城「後見えないや」

高砂「消えるまほーは難しーから、くしゅりに頼ってる」

ゆい「通りで気付かないわけです」

高砂「他人は見えず、自分は見えるとゆーのは不思議な感じだ」

ゆい「幽霊と同じですね。透明を見破るのは難しいですが」

八城「透明の時触ることはできるの」

高砂「実体を残しぇばしょれもかのー。完全にとーめいとなれば、お互いしゃわれない」

ゆい「これも幽霊ですね。実体を持たないとなれば、触れることはできないのですから」

高砂「実体を消しぇば、死に近づく」

ゆい「存在するのが難しいですね」

八城「ふぅん」

高砂「ちゅぎは頭」

八城「しっかり爪立ててね」

高砂「たかしゃごの爪はとーひに抉りこむりょ」

八城「え、優しくね」

高砂「………」

ゆい「高砂さん」

高砂「しゃいきん切ってないからな」

ゆい「見せてください」

高砂「ほれ」

ゆい「おぉ、と言わんばかりです」

高砂「風呂上がりに爪切り借りゆ」

八城「頭がゆいちゃん」

ゆい「わたしは長髪です」

高砂「短いほーが色々楽だ。たかしゃごも昔は長かった」

ゆい「お風呂も面倒臭いっちゃ面倒臭いですね」

高砂「分かってるなら、断髪だ」

ゆい「おさげ出来なくなったら死にます」

高砂「髪は命、か」

八城「魔女さん結んだりしてないよね」

高砂「自然体」

ゆい「自然を愛する高砂さんは人工的嗜好があります」

高砂「人である以上、物に頼らずにはいられない。実験器具としぇーかつよーひんぐらい」

ゆい「必要最低限のものがあれば生きていけますからね

高砂「鍋と寝袋。歯磨きとお風呂しぇっと。着替えも要るな」

ゆい「まるでお泊まりみたいですね。鍋は余計ですが」

高砂「確かに。持ち運べないな」

ゆい「そういう問題ですか」

八城「鍋ってやっぱでかいの」

高砂「ちっこい鍋はきのーしないぞ」

ゆい「料理はそのちっこい鍋でやるものですよ」

八城「何にも見えない」

高砂「むー、たかしゃごはわしゅれっぽい」

ザッパーン

高砂「しゃちょーは全身を洗いたい」

ゆい「どんな欲望ですか」


278-11

ゆい「上がりましたよ」

磨夢「ん」

蕨(コクリ)

八城「まみーとらびぃ仲良いね」

ゆい「ですねぇ」

磨夢「………」

蕨「?」

高砂「さてとたかしゃごは帰るぞ」

ゆい「頭乾いていませんよ」

高砂「しょーじゃのー」

八城「魔女さんの髪型好きだな。すっきりしてる」

高砂「物好きもいるもんだ」

八城「あ、そうそう。扇風機は封印したよ」

ゆい「やはり涼を取るには風鈴ですね」

高砂「しゅじゅしー気分がしゅるだけー」

八城「アイスがあるよ」

ゆい「抹茶いただきます」

高砂「たかしゃごはきょほーをいただく」

八城「イチゴ残しといたら怒られないよね」

ゆい「磨夢さんは相変わらずイチゴなんですね」

高砂「しゃちょーも人肉だろー」

ゆい「さっき食べたので大丈夫です」

八城「ほんとに食べてんの」

ゆい「わたしは本物だと思っていますよ。偽物だと思う人に味が分からないことでしょう」

高砂「ぎょーしゃにだましゃれてる」

ゆい「はは、まさか。人に近い何かとでもいうんですか」

八城「お猿さんかな」

高砂「今年は酉年だぞ」

ゆい「唐揚げ食べたいですね」


279-1

ゆい「わたしたち以外の生存者、そう簡単に見つかりゃあしませんよ」

高砂「しゃちょーはかつどーはんいがしぇまいからな。仕方ない」

ゆい「じゃあ連れてってください。高砂さんの町へ」

高砂「ふぅん、あの町ね」


279-2

ゆい「ここにあったんですね」

高砂「もう廃墟と化しているな。人っ子一人も居ない」

ゆい「気配というものが感じ取れますか。ではでは参りましょう」

高砂「しゃちょーは、れーかんあるよな」

ゆい「はい、友達でも居ましたか」

高砂「まー居ないんだが」

ゆい「ですよね」

高砂「ここで死んだやちゅがいるかなーって」

ゆい「時差ありますし。そりゃもう大勢居ますよ」

高砂「はんのーはあるか」

ゆい「いいえ、感じ取れません」

高砂「時間とゆーのは残酷だ」

ゆい「きっとどこかに居る筈です。図書館はあちらですね」

高砂「知恵あるものの行く当てか」

ゆい「研究の光が見えます」

高砂「居るのか」

ゆい「居ますね。気配が感じられます」

ガタッ

高砂「今、物音が」

ゆい「………」

人「誰、か……」

高砂「しぇーぞんしゃだ」

ゆい「居ますよ。こちらは人間二人です」

人「居た、か……」

ゆい「出てきてください」

人「よっと。ん、君は」

高砂「たかしゃごを知っているのか」

人「あまり見ない顔だったな。卒業生か」

高砂「ちゅーたいだ」

人「そういう生徒は珍しくない。早期独立は成功を収める」

高砂「たかしゃごみたいなのが他に居るのか」

ゆい「それぞれの分野に特化した魔法使いが居るんですね」

人「ああ、七色魔法全てを修得した賢者は未だ嘗て存在しない」

高砂「たかしゃごが七色の賢者になる」

ゆい「高砂さんは赤特化ですねぇ」

高砂「赤以外は基本しか知らないからなー」

ゆい「ゲート開いていたのはどこの誰ですか」

高砂「あれはたかしゃごの技じゃない。確か」

人「今じゃ自由に行き来できるんだってな」

高砂「しょーしょー、まおー曰わく、勝手に開いたとか」

ゆい「隕石の衝撃でしょうね。空間に亀裂が生じたのです」

高砂「じゃー魔界以外に通じている門もあるかもしれないな」

ゆい「どうでしょうね。高砂さんみたいな人が地球上のどこかにいるなら可能性はあります」

人「私の先生が天界への扉を開いていた」

高砂「天界への扉。きんだんまほーの一つで、しんこーしんもしょれなりにひつよー」

ゆい「わたしも開いてみたいです」

人「複写本はここにある。貴宅に転送しよう。ただとはいわんが」

ゆい「あらあら」

高砂「………」

ドゴォン

ゆい「あらあら」

高砂「貰える物だけ貰ってしゃろー」

ゆい「良い焼き加減に思いますよ」

高砂「まだはんのーしゅるのか」

ゆい「味は覚えていませんけどね。うっすら記憶にあるんです」

高砂「記憶も消しておくべきだったか」

ゆい「全部消されそうなので結構です」

高砂「しゃちょーにはしょこまでしない」

ゆい「なぁんにも反省していませんね」

高砂「まーまーいつか残骸がみちゅかるから、話はそっからだ」

ゆい「未だ安否確認は取れていませんねぇ」

高砂「難しーだろーな。たいてーの人間が消し飛んだんだから」

ゆい「息さえしていれば魔族の医療技術でどうにかなるんでしょう」

高砂「ましゅたーや職人みたいにしゅくいよーはある」

ゆい「魔法とは偉大なものですね」

高砂「どこかで誰かがけんきゅーしてーる限り、しょのこーかはみちしゅーだ。人がちゅくるどーぐと変わらない」

ゆい「ものづくりの職人は一流です。しかし魔法は一般階級でも使用可能です」

高砂「簡単なものはしょーしゃ。火力は魔力、時にはえーしょーもひつよーとしゅる」

ゆい「扉を開いた時は詠唱していましたよね」

高砂「あの時は仕方なかった。たかしゃごはえーしょーが嫌いだ。だからこーして身体のひょーめんに魔力を宿してゆ」

ゆい「箒は例外ですか」

高砂「たかしゃごはふゆーしていないからな。頼らざるを得ないのだ」

ゆい「少しでも浮いてりゃ飛行物体ですか」

高砂「しゃちょーだって足がないぞ」

ゆい「そういう高砂さんだってありませんよ」

高砂「もはや何の意味も成していない」

ゆい「高砂さん、最近籠もりっきりでしたよね」

高砂「一旦魔界戻って風呂はいろー」

ゆい「偶にはいたわってあげてくださいね」

高砂「いつか朽ち果てるまで一緒に居たいな」

ゆい「わたしのことですか」

高砂「しゃちょーなわけない」

ゆい「ふぇぇん、ひどいです」

高砂「ちょっと資金集めてくる」

ゆい「転移も気分ですよね」

高砂「いるひつよーが感じられない」

ゆい「早く帰りましょう」

高砂「りょーかい」


280-1

霞「うむむ」

玄那「ひっどい台風だなぁ。霞ん家来て正解だった」

霞「無駄な外出は控えるべきですよ、クロちゃん」

玄那「まさか呼び出されるとは思わなかった。出た時は風くらいだったけど、今はすごい雨だ。お蔭でびしゃびしゃ。シャワー借りるな」

霞「はいはい、どうぞどうぞ。クロちゃんは家族ぐるみの付き合いですからね」

玄那「もう三宅家に籍移そっかな。じゃ、いってくる」


280-2

玄那「ただいま」

霞「クロちゃんはサービスシーンがないんですね」

玄那「かすむんじゃなきゃ売れないよ」

霞「わたしゃあ売りもんじゃないですよ。クロちゃんのような体型を好む方の数が近年右肩上がりになっております」

玄那「ははは、人気は鰻登りってわけか。じゃあ今回からわたしが主役だな」

霞「でもクロちゃん自体はあんまり人気ないですよね」

玄那「わたしは地味だからな、仕方ない」

霞「ゲーセン勢からは何気に人気ありますよ」

玄那「女っ気が少ないだけじゃないのか」

霞「校内放送でもクロちゃんのお便りはありますよ」

玄那「あれ聞いてる人居んだな」

霞「放送に至っては、全教室の拡声器切られていても、鋼の精神で続けるんだと部長さんが言っていました

玄那「お便りあるだけマシと思うべきだな。悪かった」

霞「自分の魅力を少しは自覚すべきですよ」

玄那「蓼食う虫も好き好き、だな」

霞「さてと」

玄那「何だね、その長文は。頭が痛くなる」

霞「文通ですよ。長文には長文でお返事をします」

玄那「わたしも執事に書かないと。出でよ、万年筆」

霞「どうぞ、百年モノです」

玄那「百年筆ぇ」

霞「さてわたしはネトゲしますね」

玄那「わたしもやりたいな」

霞「クロちゃんはお手紙を書かないといけないでしょう」

玄那「とはいえ、何を書こうか」

霞「かすむんさんからのお便りです。執事さんはどうして羊じゃないんですか。わたしも長年疑問に思っていました。確かに執事が人じゃあ笑う要素がありませんからね。では山羊ならどうでしょうか。わたしは山羊に育てられたんだ。どうですか、この人間を逸脱した感じは。執事は山羊だとわたしは信じ込んでしまったのです」

玄那「実際、羊頭で山羊みたいな目をしている」

霞「さらに熊の手に馬の蹄、とどめに尻尾が牛と来ちゃうわけです」

玄那「鼻は豚だな」

霞「耳は兎ですね」

玄那「口はペリカンのようにでかい」

霞「首はキリンのように長いんですね」

玄那「そして蛍のように羽を開いた」

霞「何とまあ幻想的な生き物でしょう」

玄那「シツジは学会に高く売れるな」

霞「駄目ですよ、最愛の人でしょう」

玄那「人だったのか。幻滅」

霞「クロちゃん、蟹装備は揃えましたか」

玄那「今は蟹が主流なのか」

霞「蟹祭り開催中ですからね。次回は海老ですよ」

玄那「海老反りキックかましてみたい」

霞「装備一式揃えて固有技使えるというのはいいですねぇ。要望出しときましょう」

玄那「要望スレって運営見てんのかな」

霞「ギルメンの書き込んだ要望も通ったんだから大丈夫ですよ」

玄那「公式なら対応しようもあるか」

霞「実際どこまで見ているかは不明ですけどね」

玄那「うんうん」

霞「洞窟最奥部の湖なんかにぬしが潜んでいるんですよね」

玄那「蟹がいるのか」

霞「巨大蟹の目撃情報がありますよ。スレの方に画像があってですね、はい、これです」

玄那「ここ、これは、ボス戦になるな。水中戦で」

霞「潜水もできないわけじゃないですからね。でも弓職も魔法職も死にますよ」

玄那「まぁいけて槍ぐらいだな。それも投げる系統」

霞「銛に活用するとなると、やはり投げ槍ですか。小刀を投げるもかっこいいですよ」

玄那「毒塗って投げるのか。刺さるかはさておき、良いと思うぞ」

霞「水中戦そのものが難しいですからね。あまり力も入りませんし」

玄那「なんかえっちな表現だな。やめてくれ」

霞「変なところで敏感ですね全く」

玄那「先は長いからなぁ。で、水中戦って、集団で戦うわけじゃないよな」

霞「物好きしかやらないのは明らかにですよ。賢明な冒険者は魔物をどこか陸上へ引き上げるんです」

玄那「海底洞窟でも探しておこう」

霞「海底マップも更新が盛んですからね。個人的に空も拡張してほしいですが」

玄那「空はPCが深入りするもんじゃないな」

霞「遺跡好きなら海底が向いているかもしれませんね。募集かけてみましょう」

玄那「んじゃノート借りるな」

霞「どうぞ」

玄那「相変わらず早い」

霞「本体が早くても、蔵が問題です」

玄那「まるで一体化しているようだな」

霞「特に細工もしてませんけどね」

玄那「ほんとだ、蔵起動遅ぇ」

霞「ぽつぽつ集まってきていますね」

玄那「よし、inできた。どこに行きゃあいい」

霞「港の方ですよ。赤い帆を張った船が見える筈です」

玄那「狩り途中で寝落ちしてた。とりあえず街へ向かう」

霞「迷宮ですか。森抜けたら海出れませんか。そこで待っていますよ。あ、クエワープありましたね」

玄那「だな。じゃ、そゆことで」

霞「はい、まずは探索ですからね。適当な場所でいいですよね。初見募集なので、多分知っている人は居ませんよ」

玄那「洞窟はどこにでもあるらしいが、遺跡の方は半ば都市伝説とかって話だな」

霞「捏造なんていくらでもできますし、ガセと言われても仕方ないですよね」

玄那「公式も信用できたもんじゃないな」

霞「まぁ自分で探すことは大事ですね」

玄那「おまけみたいなもんだしな。開拓していこう」

霞「世界は無限に広がっていますからね」


281

基茂「無双にハマった」

純治「戦国かね」

基茂「うむ、OROCHIやる前にちと馴れとこうとな」

純治「やっぱ幸村だな」

基茂「槍使いは大体強いよな」

純治「攻撃範囲うpしてからが本番だ」

基茂「まさかに無双だな」

純治「より強い武器を求め高難易度でマゾプレイすんだぜ」

基茂「戦ってる間は常に瀕死だ」

純治「紙装甲すぐる。地獄なら仕方ないが」

基茂「瀕死は無双回復するからな。一撃離脱の作業」

純治「基本ノーガード戦法ですが何か」

基茂「第一、敵が多すぐる。ガード間に合わん」

純治「ウメハラみたいに出来りゃあすげーよな」

基茂「CPUはまさにそれなんだが。お蔭で突っ込めん」

純治「慣れよ慣れ」

基茂「副将に殴られている隙を狙えばあるいは」

純治「それぐれーしかないよな」

基茂「副将は孤立したら死ぬぞ」

純治「しっかり助けてやれよ。フンフンフンフンとかで」

基茂「信長の無双は未だに制御出来ないな」

純治「右上の地図をしっかり見るんだ。敵の多い方に突っ込みゃあいい」

基茂「タイマンじゃ使えねーじゃねーか」

純治「ライトセーバーで我慢しな」

基茂「一人だけ進んでるよな」

純治「魔王様に勝てる者は居りますまい」

基茂「敵で出たらそりゃ脅威っすよ。なんつーか、威厳があるね」

純治「第六天魔王なめんなよ。天下を制するだけはある」

基茂「みっちーのシナリオは良かった。蘭丸でやったけど」

純治「魔王様良い人やー」

基茂「あの二人が凄すぎたんだよ」

純治「二人で毛利攻めか」

基茂「侍大将さんも居たけどね」

純治「しっかり奮迅してやれよ」

基茂「九州攻めは本当に疲れた」

純治「まろも普通に強いぜ」

基茂「忠勝プレイなぁ。地獄の何て楽しいことか」

純治「早く4武器手に入れろよ」

基茂「話はそっからよな。頑張るぜ」


282-1

虎徹「お菓子をあげるから、わしについてくるんじゃ」

八城「ハロウィンはもう終わったんだよ」

虎徹「普段お菓子食わんのかの」

八城「宴会は時々やっているよ」

虎徹「酒は出てこないかの」

八城「うちは誰も呑まな……まみーは呑むか」

虎徹「是非一緒に呑んでみたいの」

八城「マスターの店行ったら多分会えるよ。常連さんだから」

虎徹「信頼のお店じゃな」

八城「いつ居るかは知んないよ」

虎徹「時間未定、と」

飛鳥「剣ちゃんのおじいちゃんだ」

剣「どこに乗っけてくんだか」

飛鳥「ハイエースだね」

剣「ありゃあただの軽自動車だぎゃあ」

虎徹「儂と良いことをしよう」

八城「にゃんにゃんするの」

虎徹「にゃんにゃんしたいのぅ」

剣「おじいちゃん」

虎徹「剣もドライブに来るかの」

剣「あすぽん居るからいいや」

飛鳥「わたし免許証持ってないよ」

八城「お姉ちゃんたち学園の人?」

剣「そだよ。複雑な年頃だよ」

八城「複雑だなぁ」

虎徹「ほんとにのぅ」

飛鳥「お爺ちゃんとは仲良いんだよね」

剣「わたしゃあ爺ちゃんっ子だからねぇ」

虎徹「孫は良いもんぞ。いつでも死ねるわい」

剣「いや爺ちゃん、長生きしてね」

飛鳥「仲良いなぁ」

八城「じゃああたしは帰るね」

虎徹「そうじゃな。剣とドライブするわい」

剣「いや断ったばっかだし」

飛鳥「楽しんできなよ。わたしもお先ね」

剣「あっ、ちょ、あすぽん」

虎徹「じゃあ、れっつらごーじゃ」

剣「海岸でも走るのかな」

虎徹「いいのぅ。寒そうじゃ」


282-2

八城「ただーにゃ」

ゆい「おかえりなさい」

八城「落ち着くねぇ、神社も」

ゆい「第二の拠点にしてくれて構いませんからね。お茶を用意しましょう」

八城「夕飯までここに居ようかな。あっ、本が増えてる」

ゆい「お蔵の方に眠っていた書籍ですよ。わたしはちっとも学んでいないのです」

八城「神社の難しそうな本だらけだ」

高砂「理解できない」

ゆい「読み飽きたので余所に寄贈しようと思います」

八城「あたし読むよ。ゆいちゃんみたいな巫女さんになるの」

高砂「巫女だからってしゃちょーみたいになるわけじゃない」

ゆい「わたしになりたいなら一攫千金を狙わなきゃいけませんね」

八城「宝くじだね。どうやって当てたし」

ゆい「運がわたしに味方したのです。運における神の恩恵はありません」

高砂「ちなみにたかしゃごも関わっていない、しゃちょーだけならインチキだ」

八城「そうだ、インチキだぁ」

ゆい「お神籤で大吉当てた効果ですよ。うちは当たりにくいことで有名ですから」

高砂「自分ん家ではつもーでか」

ゆい「余所の神社へ行くと、うちの神様が悲しみます」

高砂「しゃしゅがおあちゅいこった」

八城「魔女さんはいつもゆいちゃんとこ来るわけじゃないでしょ」

高砂「たかしゃごの町にも神社があるからな。しょーひーきしてられない」

八城「にゃー、普通そうだよね」

ゆい「願掛けみたいなものですからね。どこでしようと自由です。決して強制はしませんよ。八城ちゃんも偏見のない翼を以て、広大な空へ飛び立ってください」

八城「ふぇぇ、ゆいちゃんが怖いよぅ」

高砂「理解しちゃ駄目だ。取り込まれちゃ駄目だ。しょんな危険なブツは他人には渡しぇない。しぇきにんを以て、ゆーじんであるたかしゃごが処分しよー」

ゆい「図々しいです。高砂さんと雖も、ここは譲れません。世界の理が何を基準とするかは誰にも分からないのです」

高砂「確かに」

八城「ゆいちゃんじゃないことは確かだね」

高砂「うむ、しゃちょーを基準にしたら世界のほーとゆーほーが覆しゃれるぞ」

ゆい「良いですね、世界を作り直しましょう」

八城「もっと楽しい世界が良いなぁ」

高砂「まほーをちゅかえる人間を増やしてほしー」

ゆい「全員が、とは言わずに講師の頭数を揃えたいんですね」

高砂「しぇーとはしゃいのーしゃえあれば、無知でも構わんからな、やしろん」

八城「え、あ、うん、そだね」

ゆい「高砂さんは八城ちゃんに期待しているんですよ」

八城「あたしに魔法が使えるってこと」

高砂「ふかのーとは言わない。しゃちょーは全くだが、やしろんからは魔力が感じられる」

八城「え、ほんと。そりゃすごいや」

ゆい「八城ちゃんは高砂さんと同じ匂いがします。こうして会えたのも何かの縁でしょうね」

八城「てゆうのはどんなの」

高砂「ぜんしぇからの因縁だな。昔同じシマで育った仲だ」

ゆい「だからこうして接近したわけです」

八城「あたしにそんな力が身に付くと本当に思っているんだ」

高砂「自分のしゅごさを自覚することだ。自然とぜんしぇのやしろんが蘇る」

八城「うぅーん」

ゆい「八城ちゃんは不死鳥です。自ら生命を絶ち、また新たな人生を歩むのです」

八城「あたしが目覚める、前は」

バタリ

高砂「よてーちょーわだな。一旦持ち帰る」

ゆい「麻酔ですよね」

高砂「コロリと逝くやつだ」


282-3

男「この家は捨てるぞ。家財道具全て売り払って更地にしよう」

女「流石、潔い方。ではあの子はどうします」

男「これはわたしとお前二人の話だ。余計な荷物は無用だ」

女「殺しては面倒ですし、捨ててしまいましょう。自由に生きてもらいます」

男「そうだな、あいつの為を考えれば一番の選択だ」


282-4

少女「すやすや」

男「よく眠っているな。おい、あれを用意しろ」

女「はい」

男「こいつともようやくお別れか。とんだ疫病神だったな」


282-5

八城「………っ!」

高砂「おはよー、やしろん」

八城「あたし、捨てられてない」

高砂「何か思い出したのか」

八城「あれは夢だよ。あたし見てないもん」

高砂「おかしーな。ただの夢だったか」

八城「え、どゆこと」

高砂「とーじの記憶とやらを掘り出しょーとしたんだが、どーやら失敗したよーだ」

八城「じゃあもう一回見たらあたしの記憶も」

高砂「無理だ。もーこーか切れてる」

八城「ふぇぇ、いつまでも子どものままだよぅ」

高砂「やしろんはふつーの人間だろー」

八城「そだよ。ゆいちゃんみたいなんじゃないよ」

高砂「しゃちょーやたかしゃごは外見だけなのだ」

八城「まみーもそうなの」

高砂「しぇんしぇーはしゅこしじょーけんが違うだけのふつーの人間だ」

八城「条件って」

高砂「しぇんしぇーが大人に見えるか」

八城「全然」

高砂「つまりはしょーゆーこちょだ」

八城「よく分かんないや」

高砂「他人には分からないよーににゃってるから仕方がにゃい」

八城「にゃーにゃー。ところであたしの頭開いたの」

高砂「記憶を弄るときはとーぜん開ける」

八城「ふぇぇ、頭ぱっかりだよぅ」

高砂「ちゅぎはしゃちょー」

八城「変わるのはあたしだけでいいからぁ」

高砂「しょーか。これからもしゃちょーの事は頼む」

八城「うん、魔女さんもゆいちゃんと仲良くね」

高砂「りょーかいした」


282-6

高砂「まーしかし仲良くやっているもんだ」

ゆい「まぁた改造したがっていますけど、わたしゃ機械じゃありませんからね」

高砂「しゃちょーはたかしゃごのおもちゃだ」

ゆい「おもちゃなら他を当たってください。そういえば磨夢さんでは楽しめたみたいですね」

高砂「記憶かんけーにはだいしょーが高く付くからな。しゃちょー以外は」

ゆい「高砂さんが友人で良かったと思います」

高砂「しゃちょーは腕の一本や二本取られても死なないし」

ゆい「痛いものは痛いですが、そのときだけですからね。後、義手も欲しいです」

高砂「しゃちょー機械化けーかく」

ゆい「それは嫌です」

高砂「人間の皮膚は脆いぞ」

ゆい「そんな危機的状況に遭遇することがまずないです。ヒトの皮膚で十分です」

高砂「偶然たしゅかっただけだろー」

ゆい「本当に高砂さんは何もしていなかったんですね」

高砂「ああ、しゃちょーの家遠いからな」

ゆい「その割にわたしの所へ真っ先に来てくれたんですね」

高砂「しゃちょーぐらいしか生きていないだろーと思ったからとーぜんのこーどーだ」

ゆい「高砂さんに来ていだたけなければ磨夢さんとの契約で死んでいました」

高砂「けーやくごときで死ぬな」

ゆい「契約を侮るなかれですよ。普通は平等な関係を保つものです。だから生命を共有しないといけないのですよ」

高砂「たんめーの人間に期待するのが悪い」

ゆい「磨夢さんに輸血しても後悔しませんでしたよ。高砂さんだって磨夢さんに期待していた筈です」

高砂「強いよくぼーを持っていたから生き地獄を味わしぇたやっただけだ。実に愚かだ」

ゆい「高砂さんに尊敬の念を抱いていたのかもしれませんよ。狂信者のように」

高砂「敵愾心を抱いていたことなら知ってるぞ。何度も毒飲ましぇたからな」

ゆい「治験を偽って、身体弄りたいだけでしょう。本当に悪い人です」

高砂「全く怪しまないからかっこーの獲物だったな」

ゆい「生きているんでしょうか」

高砂「たかしゃごが殺したんじゃないぞ。しゃいごにとーよしたときもピンピンしてたし」

ゆい「まぁ亡くなられたとしたらあの日ですよねぇ」

高砂「しぇんしぇーの安否は確認できていないのか」

ゆい「この髑髏だって兄さんのものと確証はありませんからね」

高砂「しょこにあったとしてしょれであるとはいーきれないからな」

ゆい「躯が吹っ飛んだっておかしくありませんからね。あの衝撃ですよ」

高砂「この星はよく残っているな」

ゆい「辛うじて生態系は維持されているのですよ。ヒトの場合は魔界にコネがないと餓死していますが」

高砂「しゃいごに笑うのは大自然だ」

ゆい「魔族の天下もいつまで続くか分かりませんからね。未来の事は大自然に委ねましょう」

高砂「ところでどーしゅる。しゃがしゅのか」

ゆい「磨夢さんたちの生死は問いません。魔術書集めを優先しましょう」

高砂「流石しゃちょー、物分かりがいー」

ゆい「というより長い付き合いだからって話ですよ。高砂さんが望まないことは自分でやります」

高砂「しょーだんには乗るぞ」

ゆい「ありがとうございます。でも一方的な押し付けはしたくないのです」

高砂「たかしゃごもしゃちょーの役に立ちたい」

ゆい「じゃあ片手間で良いですのでお願いします」

高砂「任しぇろい」

ゆい「………」


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