二人、想い重ねて
大井×鹿島SS
皆さん初めまして。
今回初めて投稿するSSは大井×鹿島の物語です。
拙い部分も多々あると思いますが、楽しんでいただければ何よりです。
鎮守府近海。冬の寒さが一段と厳しくなる時期ではあるが、ここ最近は晴天に恵まれているためか、例年と比べて暖かく感ぜられる日々が続いていた。麗らかな陽光は辺り一帯に降り注ぎ、水面に反射した光が煌めく情景が広がっている。
そこを単縦陣を組みながら海上を駆け抜けていく小さな艦隊の姿があった。
「さあみんな、もうすぐ鎮守府の正面海域に入るわよ!」
そう号令をかけているのは、艦隊を先導している練習巡洋艦の大井だ。球磨型軽巡洋艦の一隻として生まれ、後に重雷装巡洋艦へと改装された彼女だが、今は飾り紐を垂らした正肩章がついた白地の軍服を身に纏い、練習巡洋艦として新しく着任した艦娘たちの教鞭を執っている。
もっとも、軍艦として在りし日には機関の不調が原因で練習巡洋艦として活動していた時期もあった大井だが、何故再びこの任に当たっているのか?それはまた後の話としよう。
この日は鎮守府近海における練習航海を行っていた。兵学校で修得した知識や技能を活かし、艦隊の練度を向上させるためには欠かせない任務の一つだ。
「了解!良い?みんな、ついてらっしゃい!」
大井の号令に受け答えるのは、神風型駆逐艦の朝風。彼女は姉妹艦である春風、松風、旗風とともに第五駆逐隊を編成していた。彼女たちは着任してからまだ日が浅いため、こうして訓練に従事しているのだ。
「了解です」「了解!ようし、行こう!」「分かりました、朝姉さん」春風たちはそう受け答え、若干速度を上げた。
「ところで…」松風はふと思い出したかのように切り出した。
「この艦隊に新しく教官として着任する艦娘が来るって聞いたんだけど、どうなったんだい?」そう大井に問いかけた。
「それなら、今日やって来るって話だわ」大井が聞き返すと一同は「へえ~!」と少し驚いた面持ちで声を上げた。
「今度来る艦娘はおっかない人じゃないと良いな。なあ、姉貴」松風はちょっぴり意地悪そうな笑みを浮かべながら言ってみせた。
「ちょ、ちょっとどう言うつもりなの!?」朝風は慌てふためいた様子で取り成そうとし、周りはドッと笑いに包まれた。
大井もまた新しく着任する艦娘が気になっている様子だ。
「私にとっても先任の練習巡洋艦として色々教えなくちゃいけないからね。どんな娘が来るのかしら…」そう考えながら、艦隊は水上を軽快に駆け抜けていく。彼女たちの根拠地、呉はもうすぐだ。
* * *
呉鎮守府。練習艦隊が帰還した頃にはすっかり夕暮れ時になっていた。
「…以上で今日の練習航海は終わりとします。気をつけ、敬礼!」
大井が一日の終わりの訓辞を述べた後、号令をかけた。五駆の一同はそれに応えて一斉に敬礼をし、「直れ!」の号令とともに挙げていた右手をザッと下ろした。
「ふう、今日も頑張ったなあ」「姉貴、お疲れさん」「春姉さん。久々に間宮さんの所にいきませんか」「それも良いわね」
一日の任務を終えてか和やかな雰囲気が漂い始め、大井もまたどこかホッとした表情を浮かべていた。
「ほおう、今日もまたずいぶんと気張ってたじゃないか」
大井がとっさに振り返る。そこには、カーキ色の下地に襟の階級章が特徴的な第三種軍装を纏った青年が、右隣に一人の艦娘を連れながらにこやかな表情で近づいてきた。
「な、何よ。教え子のためにはこれぐらいやっておかないといけないじゃない!」大井は両腕を組みながらややつんけんとした面持ちで言い返した。
「まあまあ、そう怒んなさんな」彼は少しなだめるような素振りを見せていた。
彼の名前は上総拓海(カズサ タクミ)。普段は遙か南方に位置するラバウル泊地に赴任している彼だが、この日は仕事の都合上で久々に内地へと帰還していたところだった。
「まあ、ここ最近は大規模作戦も増えていることだし、一人多く充分な練度は上げていきたいところだからね」
そうつぶやいたのは上総の秘書艦を務めている金剛型戦艦二番艦の比叡。二人の左手薬指にはケッコンカッコカリの証であるケッコン指輪をはめていた。それに違わず二人の信頼関係は厚いという。
「あのう」
「?」
後ろの方から話かけられた上総が目をやると、一人の少女がその場に立っていた。
「こちらに練習艦隊の旗艦を務めている大井さんがいると聞いているのですが…」
「ああ君か、新任の練習巡洋艦の娘は。ようこそ呉鎮守府へ、と言っても自分の所属はまた別の場所だけどね」
二人はお互いに手を差し出し握手を交わした。
「僕は上総拓海、よろしくね。隣にいるのが僕の秘書艦の比叡だ」
「初めまして提督さん、鹿島です」
「初めまして鹿島。私は比叡、よろしくね」
「初めまして比叡さん」鹿島は比叡とも握手を交わした。
「そして、ここにいるのがこれから一緒に行動することになる練習艦隊の艦娘たちだ」
上総がそう言いながら手で示すと、五駆の四人は気をつけの姿勢をとり一斉に敬礼をしながら、一人一人挨拶を始めていった。
「第五駆逐隊、旗艦朝風」
「同じく第五駆逐隊所属、春風と申します」
「同じく五駆所属の松風」
「旗風と申します」
鹿島もそれに応える。
「香取型練習巡洋艦二番艦の鹿島です。本日付けでこの艦隊に着任することとなりました」
「そして…」
上総がそう言いかけると、大井がつけていた手袋を外しながら鹿島の元に近づいてきた。
「初めまして、大井よ。今は練習巡洋艦として新しく着任した艦娘の教鞭を執ってるの。よろしくね」
「大井さん、初めまして」
二人は互いに敬礼をした後、さっきと同じように握手を交わした。
「今日はもう遅いからゆっくりしていって良いわよ。もっとも、明日からはバリバリ忙しくなっていくからそこの所は覚悟しておいてね」
「はっ、はい!よろしくお願いします!」鹿島はやや緊張した面持ちで、気をつけの姿勢をとった。
こうして、鹿島のそして大井たちの新たな日々が始まろうとしていた。
どうでしたでしょうか。
感想や気になった点、アドバイス等々書いていただけると嬉しいです!
今後ともよろしくお願いします。
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