艦これ 短編集
短編集というか、書こうと思っていた導入とか。メモみたいなものも。
一個一個はあまり長くはならないと思います。
何かあればコメントいただければ。ネタも、書けるかはわかりませんが一応。
艦娘というのは不思議な存在である。
不思議というのは、個人の理解では及ばないところを指すものであり、今の私にとっての彼女たちに向けられるそれは、恐らく一般的なものとは離れたところにあるのだと思っている。
それは、彼女らの知識や記憶についてだ。
必要な素材を用意すれば建造できたり、深海棲艦との戦いの後に保護されたり、入浴ーー正確には入渠したら体の傷が癒えたり。そういったものに対する驚きは最早無い。そういうものだと、鎮守府に配属されて1年も経った頃には思うようになっていた。
では、彼女たちの記憶・知識の不思議なのか。
彼女たちには記憶がある。前世……と言うと語弊があるが、昔の記憶が、しっかりと。
そして知識もある。知恵と言った方が正しいのかもしれない。日本語を話し、外見からという意味での歳相応の教養がある。
それでも、それらはあくまで彼女らの前世(便宜上そう呼ばせていただく)での話だ。
彼女らは着任した時、大半が科学の進歩に目を丸くする。
テレビの存在に驚く。夜になると電球の明るさに目を細めるし、携帯電話で通話をする私を首をかしげて眺めている。その後、この小さな電子機器でできることを説明してやると大層驚いて見せる。
――ここまでなら矛盾はないだろう。
問題は、他に彼女らの知識に欠落している部分があったことである。
ひと月ほど前の話だ。
言い訳はしない。単刀直入に言おう。
自前のエロ本を目撃・回収されてしまった。
彼女らに、所謂「性知識」がないことを、私はその時に初めて知ったのである。
◇
箪笥の奥、ワイシャツの下になるように隠していたのだが、これがまずかった。
最初に発見したのは秘書艦であった正規空母の加賀である。彼女は洗濯の当番になっていた艦娘が持ってきた私の服を畳み、箪笥に収納しようとしてくれたのだろう。
所用で司令室を離れ、さあ事務仕事を再開しようと戻ってきた私が見たのは、大きく口を開けたままの箪笥と、未だに収納されていない靴下。そして、今まで見たことがないくらい顔を真っ赤に染めながら、私の宝物を食い入るように読みふける加賀の姿だった。
頭が真っ白になった。
それは彼女も同じだったようだった。扉を開けた姿勢のまま、固められたように動けない私の姿を見て、彼女はすぅ、と息を吸いこんだ。
数秒の沈黙。加賀は私の顔を見て、何故か視線を本に戻し再び私に目を向けると、目を大きく見開いて部屋を飛び出していった。大事そうに、エロ本を抱えるようにして。
おい、と声をかけた。彼女は止まらなかった。
走って追いかけた方が良かったのだろうが、今となってはどうしようもない。
結局、彼女はその日司令室に顔を出さなかった。
◇
男性諸君に伺いたい。
初めて自慰をした時のことを覚えているだろうか。
私は覚えている。あれは……と、自分の話は今は置いておくことにしよう。
悪事千里を走る、という言葉がある。私――未婚の成人男性がエロ本を所持していたことが悪かどうかというのは各々の判断に任せるとして、「性」という概念が艦娘に広がる速さは驚くべきものだった。高速+どころではない。最速である。
発端は加賀。様子のおかしい加賀を心配した赤城が本を閲覧、そして2人の様子がおかしいと心配した誰かが。と、そのような連鎖が数度起きた後、広報を担当する青葉の耳に入りーー。
そのような経緯を経て、私のエロ本仕込みの性知識は大半の艦娘の知るところになったのである。
何かが起きていることに気づいたのはその翌日の朝食の時だ。私が挨拶をしても誰もが目を合わせようとしない。その癖、チラチラとこちらを確認する多数の目線。
小首を傾げつつ、加賀にどう弁明しようかとキョロキョロと視線をさまよわせていると、
「……提督」
と、後から声をかけられた。
振り返ると加賀だった。頬を軽く染め、私の顔から視線をそらしている彼女の手元には、昨日私の頭を散々悩ませた元凶が隠されることなく握られていた。
艦娘が大勢いる場所で。私のエロ本が。隠すことなく。晒されている。
内心大パニックである。だが、私を糾弾するだろうと思っていた加賀の口からは、予想外の言葉が紡がれた。
「その……。この本では、どうして男女が、その……」
加賀のものか、はたまた食堂にいた誰かのものか。ゴクリと、生唾を飲む音がはっきりと聞こえた。
「……え?」
艦娘には性知識が備わっていないと知ったのは、そのすぐあとの事だ。
その後、何も知らない女性(ロリから成人相当まで)に性教育をするという苦行を強いられたこともあり、「性」というものが鎮守府に一気に広がった。
「提督、それでイクのおっぱいよく眺めてたのね! にひひひっ」
これは教育後のとある潜水艦の言葉。いっそ殺せ。
私が貶められるのはこの際どうでもよい。
最初の質問に戻ろう。
初めて自慰をした時のことを覚えているだろうか。
驚いたはずだ。あんなに気持ちがゲフンゲフン。
その存在を知った時、人はどうするものなのだろうか。
性欲があまり無い者もいる。興味のない者も、どうでも良いと吐き捨てる者も。
それでも、である。
興味を持つ者も、自慰してみる者も、はたまた、それが病みつきになる者も。あるいは。
……この鎮守府で唯一の男性である、私に興味を向ける者も。
多少は、いるようなのである。
<導入終了>
「いや、なんだ。とりあえず落ち着いてくれないか」
「私は冷静です」
「力で劣る相手の両肩を掴んで無理やり口付けしようとしてるのが冷静だと思うか」
「……わかりました」
「イチチ……痕が付いただろこれ」
「……それで?」
「それで、とは」
「返事を聞いています」
「……いや、あのな。そんな白か黒かみたいな……」
「回りくどいのは苦手だわ」
「……あのな、加賀。別にこれ自体に深い意味はないんだよ」
「……」
「書類には目を通してる筈だ。知ってるだろ? だから別に誰に渡したって変わらないし、そこに俺の気持ちが入る余地はないわけだ」
「……そうとは、限らないわ」
「心意気は、嬉しいよ。まさか、そんなふうに思っているなんて思ってもみなかった」
「……そう。やはり、私では……」
「いや、違うんだって。まあ、そこは一旦置いといて、とりあえず話を聞いてほしい」
「……どういう意味かしら」
「まずだよ。この指輪は、与えられた艦娘は燃費が良くなり、更に能力の向上が見込める」
「ええ」
「で、だ。これを付けることが出来るのは練度が一定以上あると認められた艦娘である」
「そうね」
「だから、うちだと君を含めて数人が対象なわけだ。……ここまでいい?」
「わかります」
「それでな? 加賀に言いたいのは、これは頼めばいくつでも……まあ金はかかるけど、用意してもらえるってことなんだよ」
「……え?」
「名前のせいで君は勘違いしてたみたいだけどな。俺は、ゆくゆくはみんなに付けてもらおうと思ってるよ。……なぜ睨む」
「軟派なのね。……以外と」
「話聞いてた!? 悪趣味な名前に振り回されすぎだろ。だから嫌だったんだよ、こんな名前……」
「……ふん」
「だから、これに深い意味は無い。渡せる相手の燃費順に、まずは武蔵に渡そうと思ってる。……わかった?」
「………………貴方がそういうのでしたら。わかり、ました。……後で私にも、いただけるんですよね」
「渡す渡す。そりゃあ渡すよ。金がかかっても、命には代えられない」
「……そう。今は、それでいいです。今は……」
「……にしても、見上げた向上心だな、加賀」
「…………は?」
「さっきのことだよ。あんなに顔真っ赤にして、必死になって……くくっ、あんな君は初めて見たかも」
「……あの、提督」
「ん?」
「何故、私がそうしたと?」
「だってそりゃ、お前……。これ貰って活躍したかったんだろ? 最近、瑞鶴に追いつかれたかもってボヤいてたじゃないか」
「……」
「だからって、あんな……くくくくっ、あ! 大丈夫大丈夫! みんなには秘密にしといてやるから! あんな珍しい加賀、写真でも撮っておけば――」
「――頭にきました」
「……ん? い、いてっ! ちょ、なんだ? 肩つかむな! さっきので、って……ちょ、おい! 待てって! ま…………」
「はぁ、はぁ……」
「……これで、わかっていただけたかしら?」
「わ、わかった。わかった、けど……」
「なにかしら」
「……もう一度、冷静になってはもらえないだろうか」
「私は冷静です」
「いや、俺からしたらそうは思わん」
「……もう一度する必要がありますか。いいけれど」
「そうじゃなくってだな。……加賀、君は艦娘として何年生きた?」
「……○年目です」
「そうだな。もうそれだけ経ったかとも思うかもしれないけど、俺から……いや、人間からしたらまだまだ数年ってところだ」
「何が言いたいのですか」
「……お前、男と交際したことは?」
「……」
「いや、いい。知ってる。だから睨むな。……じゃあ、俺以外の男とまともに関わったことは?」
「……それは」
「な。ないだろ? たまの休日でも、君は鎮守府にいるか、外出したとしても軽い買い物くらいだっただろう」
「それはそうですけれど。でも、それは」
「あまり自分を安売りするなよ、加賀。いつも見ているからわかると思うが、俺は冴えん男だ」
「……そんなこと」
「残念なことにそんなことあるんだ。ずっと一緒にいた君の気持ちにも気づかん。金剛とか、直接好意を伝えてくれる奴にも、俺はさっきのようなことを考えてしまって応えることが出来んのだ」
「……そう、だったのですか」
「ああそうだ。俺は矮小な人間だ。……選択回避の法則というのを知っているか?」
「知りません」
「まあ要するに、選択肢が多いと選べないって話なんだけどな。……でも、逆に考えると、選択肢が少なければ選びやすいだろう。一つだけならその余地もない」
「……それって」
「俺はな。ケッコンカッコカリという名前を聞いた時震えたよ。そこまでして艦娘を縛り付けたいのかと。だって、おかしいだろう? もっと君らは色々な世界を見ていいはずなんだ」
「……」
「だから、艦娘の気持ちは、お前らがもっと広い世界を見てからーー」
「提督。あなたは勘違いをしているわ」
「……なんだと?」
「まず、貴方は冴えない男ではありません。確かに書類のミスは多いし、部屋は散らかっていてだらしがないし、偶に私たちの胸を見て鼻の下を伸ばしているけれど」
「ぐっ」
「それでも。それでも貴方は私たちのために手を尽くしてくれています。それを、私は知っています」
「……それが仕事だからだ」
「それでも、私達は知っているんです」
「……」
「……それと、もう一つ。私たちが、男性を知らないわけがないじゃないですか」
「は?」
「それとも、二航戦。……飛龍がよく口にする彼は、男性ではないのですか」
「……あっ」
「私たちには記憶があります。あなたを慕う子達にも、勿論。……わかっていただけたかしら」
「…………ちょっと、考えさせてくれ。色々」
「……そうね。暫く考えて、悩むといいわ。……誰にするのか。誰の気持ちに応えるのか」
「いや、そんな事言われても……いや、でも、えぇ……」
「……なるほど。これが選択回避の法則ですか」
<了>
最初の印象は、お世辞にも良いものではなかった。
「提督、この書類出し忘れてますよ」
「えっ……やべっ……」
「……はぁ」
聞いたところによると、元々彼は一般人だったらしい。それが、何の因果か妖精が見えるとかで提督になったとのこと。
「提督! あの遠征は駆逐艦にお願いしないとダメじゃないですか!」
「提督! あの編成で勝てるわけないじゃないですか! いいですか、もっと相手の編成を見てですねーー」
「提督ーー」
元練習巡洋艦として、彼をサポートして一人前にするのは大変だった。でも、彼が私たちのために必死になって成長しようとしているのは伝わってきたし、それにーー、
「大井のお陰で、なんとかやれてるよ」なんて、調子のいいことを言って笑う彼の事が、私は不思議と嫌いじゃなかった。
「お疲れ様です。中々、今日の指揮は様になってましたよ」
「本当か? そりゃどうも……ん? それ、手紙?」
「ええ。北上さんっていう、私の姉妹艦なんです」
「ああ、例の子ね」
「例の?」
「噂には聞いてるよ。前の鎮守府ではずっとベッタリだったんだって?」
「……誰から聞いたんですか?」
「それは秘密。……なぁ」
「なんですか?」
「もし……さ。…………いや、なんでもない」
「……?」
こんな話をしたのが、確か1ヶ月前。気が付くと、この鎮守府に来てもう半年近くなっていた。彼はすっかり提督として板についてきたと思う。
北上さんと会えなくなって、最初はとても寂しかったけど、今はそうでもない。
頻繁に手紙をやり取りしているから、というのもある。単に慣れたというのもあるし、長い休みの時には会うことが出来たのも大きいかもしれない。
でも、実を言うとそれらは些細なことなのだ。
自分でも、薄々気が付き始めていた。
出撃から帰ってきた時、一緒に書類仕事をしている時、休日に廊下ですれ違った時。私の視線が、吸い寄せられるように彼に向かっていたことを。
もう、認めるしかないのかもしれない。
私、大井は、提督のことをーー。
「大井、お前、元居た鎮守府の方に戻ることになったから」
ーーーーーーーーーー。
「な……なん……」
「なんでかって? ……俺も仕事も慣れて大体のことはできるようになったしさ、ほら、ここって別に深海棲艦がたくさんいる地域でもないだろ? だから、雷巡としての大井の力が必要なのはあっちなんじゃないかって」
「で、でも!」
「それに、お前、北上と一緒にいたいだろ? 俺の前じゃ気を遣ってあんまり言わなかったみたいだけど、やっぱり、姉妹艦同士一緒にいた方がいいかなって、みんなのこと見てたら思うし」
「……」
「まあ、たまにはこっちに遊びに来てくれよ。手続きとかはもう済ませてあるから。……大井?」
〈導入終了〉
ああ、君らが不細工だったらよかったなぁ。
……なんだよ、その目は。俺は思ったことを言っただけだ。
いや、だから関係ないだろう俺の顔は! 別に嫉妬で言ってるんじゃない。本気で言ってるんだ。……まあ、いいじゃないか。ここには君しかいないし、たまの酒の席だからね、言いたいことを言わせてもらおう。
俺に言わせてもらえば、これは君らの生存戦略というやつだな。ほら、いるだろう? 葉っぱの色した虫とか、自分の種を蒔くために果実を真っ赤に成長させる果実とかさ。それと同じさ。艦娘があまりに綺麗だから、俺は君たちを何が何でも死なせたくないんだ。
……はは、それは買い被りすぎだ。君らがもしも綺麗じゃなかったら───いや、それは言いすぎか。人の形をして、俺とこうして話をすることができなかったら、今のような指揮を執っている自信はないよ。こうして、誘われて酒を飲むこともない。
…………なあ、なんで君たちは俺たちの味方に付いてくれるんだ?
だって、そうじゃないか。そりゃ、人間には理由があるよ。海があんなんだったら、俺たちは困るわけだし。でも、艦娘にはわざわざこちらの味方になる理由はない。少なくとも、建造されて産まれた時にはね。……すまん。余計なことを言ったな。
……全部終わったら、みんなで旅に行こう。今は、それでいいよな。
〈了〉
短編ごとのメモ書きとか
・ピンク色
そのままエロに移行してもよし。日常系にしてもよし。コメディにしてもよし(自分の低いギャグセンスはこの際考えない)。多分続かない。
・ベタな会話①②
まあよく見るやつ。ゲームに何を考えとんねんと自分でも思うけれど、ケッコンカッコカリって二次創作的に考えると結構罪深いシステムだと思ったりする。
・ 病んじゃう大井っち導入
めちゃ雑で申し訳ない。やろうと思えばラブコメもできそう。書いたパターン以外にも、北上が着任することで秘書艦を外すパターン、提督に対して積極的な艦娘が来て大井っちの立場を奪っていくパターン、そもそも提督が他の子を好きになるパターンなどが考えられるので、もしアレでしたら誰か書いていただければ読みに行きたい所存です。
あとコメントいただいたとおり、もし後になってR-18書いたらタグ付けるようにします。問題あったら付け直しますけど。
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