夕焼け、夢見の星が見守って。
蘭モカだと思います キャラクタータグを間違えて付けてしまいすまない
*注意 この執筆者あららいの書く物語は仕様上登場人物の命は補償できません。そう言ったモノが苦手な方は読むことをオススメできません。
なお、グロテスク表現はない(と思う)のでその点に関してはご安心くださいませ。
「――以上卒業生代表羽沢つぐみ」とつぐみの代表挨拶が終わり、校歌を歌い在校生に見守られ、あたし達卒業生は退場する。拍手の中ひまりは泣きながら歩いていたし、巴は普段通りだったけど、その妹のあこは姉を目で追いながら感極まっていた。つぐみは涙をこらえていた。モカは一見いつもと変わらないように見えるが、珍しく心持ち寂しそうではあった。
あたし――美竹蘭は『いつも通り』だった。名残惜しくないのかと言うと嘘になる。だけど、寂しくとも悲しくともなかった。だからひまりたちがちょっと羨ましくとも思った。
「やっほー蘭」
相変わらずのマイペースな口調でモカは話しかけてきた。
「ああ、モカ」
「あたし達もついに卒業しちゃいましたなー」
「そうだね」
「あれあれ~?もしかして蘭寂しいのー?」
「別に」
あたし、モカ、つぐみ、巴、ひまり。あたし達は小さいころから高校の今までずっと一緒だった。クラスが離れてしまったりしたこともあったけど、逆にそれがきっかけでAfterglowを結成して中学、高校と色々あった。さすがにここから先はお互いの道は離れる。それはすでにわかっていたし覚悟もしていた。それにあたし達はこれからもここに戻ってくる。Afterglowは帰る家のようなものになる。そう直感している。
「ちょっと前の蘭なら絶対寂しがってるとおもったのにーいやはや、せいちょーを見られてモカちゃんかんどー」
「ちょっと、茶化さないでよ」
「はーい」
そんな他愛ない会話をしているとひまりと巴とつぐみが来た。
「私、卒業式感動しちゃったよ-!それに、つぐの代表挨拶ホントに決まってたよ!」
「えへへへ……そうだったかな?緊張したけど、いっぱい練習したかいがあってよかった」
「だな!つぐは原稿考えるとこからスゲー苦労しててだからこそ良い結果になった。蘭とモカもそう思うだろ?」
「うん。つぐみは頑張ってた」
「うんうん。すーぱーツグってたー」
と、囲まれるように言われてつぐは照れて赤くなっていた。
「あの……卒業のお祝いでお父さんがみんなにケーキ作るらしいんだけど、どうかな?」と誘ってきた。
「ケーキ!モカちゃんいくー」
「あたしも食べる。巴とひまりは?」
「ああ!アタシも行く」
「食べる食べる!つぐのお父さんのケーキちょー楽しみ!」
そんな風に話をしながらあたしたちはつぐの家の喫茶店へ向かった。
羽沢珈琲店は今日も変わらず穏やかで心地よい。よく遊びに行ったりお客としてよく来る。所謂常連だ。まあ、一番多いのはひまりらしく新作メニューのアドバイスをすることもあるらしい。
お祝いだからご馳走しよう。という言葉に甘えてあたしとモカ、巴はコーヒー、ひまりは紅茶を頂くことにした。つぐみはお父さんを手伝いに向かったが、説得をされたのか、こっちの席に戻ってきた。
「ゆっくり座って話をしてきなさいって言われちゃった……うう……なんか落ち着かない……」
「あんまりないからね。一緒になって座るの」あたしはそう言った。
「つぐはいつも頑張ってるしたまには休んで休んで!」
「そーそーツグりすぎだからモカちゃんを見習ってモカろう~」
「モカはもっとツグった方がいいんじゃないか?」
「え~、ともちーん。モカちゃんは頑張りすぎると溶けちゃうから~」
「ははは……なんだそりゃ?」
しばらくするとケーキと飲み物が届いた。音頭はひまりが取るらしい。
「ではみんないっくよ-!かんぱ「かんぱーい!」
先取りするようにモカが乾杯してしまう。
「こらーモカ!先に言っちゃダメ-!」
「「ぷっははは!!!」」
あたしと巴は吹き出してしまった。
「にしてもさ、あっという間だったよなぁ。高校生活の三年間ってのも」と、巴は振り返りはじめた。
「そうだね。色んなことがあったけど思い返せば昨日の事みたい」
「ガルジャム出たり、パスパレの曲作ったり井ノ島で夕焼け見たり……他のバンドのメンバーと交流したり」
「パン食べたりーパン食べたりーあと……あ、パン食べたりー」
「それはモカだけでしょ」あたしは突っ込む。
「それじゃあ……アレだ。夜の学校の肝試しー」
「「「「それは思い出したくないな……」」」」モカ以外苦い顔をした。
それからあたしたちは打ち上げを楽しんだ。盛り上がって来たところであたしは話を切り出した。
「そういえば明日はみんなヒマだったりする?長い休みになるし今みたいな頻度でバンドできなくなると思うからできるうちはやっておきたい」
「確かになー。いいぜ!アタシは大丈夫だけどひまりたちは?」
「私も平気!」
「わたしも大丈夫だよ巴ちゃん!」
「モカは?大丈夫か?」
巴がそう聞いた。が聞こえなかったのかケーキに加えてどこで買ってきたのかパンやお菓子を食べていた。
「モカ、聞いてるの?」
「……んー?大体きーてたよーえっとねーモカちゃんは超絶カワイイってハナシー?」
「…………」
「あー無視しないでよー蘭ー」
「だったら真面目に返事してよ」
「まぁ問題ないだろ。じゃあ明日スタジオで」
その後つぐみの家で打ち上げを楽しんだ後は四人で帰った。
「じゃな!蘭また明日な」
「うん」
「じゃね!」
巴とひまりと別れる。
「じゃーねー」
「明日、来なよ」
モカは一瞬地面を見つめていた。そしていつものとぼけたペースで手を振って帰っていった。
『いつも通り』の会話。
あたしはそう感じた。
でも何でだろう。あたしの心はざわついていた。
「「「モカがいなくなった!!!???」」」
あたしの悪い予感は当たった。次の日念のためモカに連絡をしてみた。しかし携帯はつながらない、家にも行ったがいない。みんなに事情を伝え、思い当たる連絡先に聞いてまわり、いそうな場所を片っ端から調べてみたけどだめだった。
そこで最低一人はスタジオに残る形でモカを捜すことにした。
三時間ほど交代しつつあちこち探し回った。だけど手がかりも掴ませてくれなかった。あたし達は一度スタジオに合流した。
「モカちゃんどこに行っちゃったんだろう……」
「沙綾ん家にも聞いてきたけど今日は来てないみたいだ」
「もしかして事件か何かに巻き込まれたんじゃ……」
心配は連鎖となりあたしたちに伝播する。すると、巴が「そういえば……」と呟いた。
「巴、何か知ってるの?」そう聞いたのはひまりだ。
「いや、大したことじゃないし手がかりでもなんでもないぜ?」
「それでもいい。聞かせて」あたしは知りたかった。その気持ちはひまりもつぐみも同じであった。
「そっか……それなら。いや、卒業が近くなるにつれてモカのやつボーっとすることが増えたなーって思った」
「いや、モカはいつもマイペースでボーッとしてるじゃん」
「そうなんだけどさぁ。なんていうかその……頻度が増えたっていうか……もちろんこうやって改めて思い返さないとわかんないレベルだからアタシの思い違いかもしれない」
「うーん……確かに言われてみればそうだったかも?うーん、わたしは気づいてあげられなかったよ……長い時間一緒にいたのに」
「大丈夫だよつぐ。だって私も気づけなかったんだもんあはは……」
落ち込むつぐみをひまりがフォローしようとしたようだが逆にミイラ取りがミイラになる要領で落ち込んでしまう。
巴に言われてやっと気がつくそういえば昨日もボーッとしてた。それだけじゃなくてたまに寂しげに窓を眺めてたこともあった気がする。
「もう一度探しに行こう」
「蘭……」
「蘭…………」
「蘭ちゃん……」
あたしは立ち上がり部屋を出ようとした時だった。ガチャリ。と扉が開く。そこにいたのは行方不明だったうちのメンバー。つまり、モカだった。
遅れた本人は「いやーごめんごめん。ねぼーだ、ねぼう」とあっけからんとしていた。
「もぉーモカ!ずっと家にいたの?電話にも出なかったしトークアプリにだって連絡してないじゃん!!」 ひまり頬を膨らませてそう言った。
「でんわ……あ、充電切れてる」
「もぉー!それじゃ意味ないじゃん!」
「どこにいたのモカちゃん?」
「どこって家でぐーっすり眠ってしまったのだー」
「???あたしが行った時いなかったんだけど」
「やだなーいたよー勘違いだったんじゃないのー?」
あたしは確かに確認しにモカの家を訪れたし両親にも確認をとった。勘違いをするはずがない。
夢を見ていたのだろうか?
「まぁよかったじゃないか何はともあれ揃ったんだ。練習はじめようぜ」
「う、うん……」やっとバンドができるという点はあたしも同じだ。頭に残っていた疑問を振り払い音に没頭する。ボーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラム。音はハーモ二ーとなり、あたし達の熱い音楽となる。
『いつも通り』そう『いつも通り』……
(あれ……?)
あたしは違和感を感じた。それはさっき巴が言った例のように意識して気がつくもの。
他の人達では気づけない。あたし達でしか感じられない差異。
みんなも気づいているはずだ。
練習が終わり、後片付けをする中、あたしは違和感の原因を解き明かすことにした。けれど、そんな大層なことはいらない。あたしは話しかけるだけでよかったんだ。
「ねぇ、モカ」
「どーしたの-?もしかして、カワイイカワイイモカちゃんにパンの差し入れ-?」とモカはあたしから見るとはぐらかしているような雰囲気だった。
「違うから」
「そっかーじゃあ何か用?」モカは首を傾げていた。
「モカ……」
言い淀む。でも、あたしは止まりたくなかった。隠し事があるならして欲しくない。もちろんこれはモカだけに限ったハナシではない。
だから、言う。
「モカ……アンタ。あたし達に何か隠してることあるでしょ?突然いなくなったり絶対おかしい」
「あれは蘭のか「それに!」
モカの言葉を遮るように続けざまに言い放つ。
「今日の演奏全くハートに響かなかった。それを必死に隠そうとしていたのも丸わかり」
「えー。失礼しちゃうなーモカちゃんはこんなにマジメなのにー心外ですなー。ひーちゃんたちもそう思うでしょー?」
とモカはひまりたちに問いかける。だけど、モカの期待した答えは返って来なかった。
「えーと……私はその……蘭の指摘に賛成っていうか……」
「だな、確かに今日はモカらしい音じゃなかったっつーかえーと……」
「うん、これはわかったよ。いつもみたいなのびのびとしたモカちゃんの演奏とはどこか違ったような気がした」
案の定メンバーは気づいていた。言葉を交わさずとも、何か隠していても、音を奏で合えばわかり合える関係。それがAfterglow。
「モカ。何か隠してるなら言いなよ。あたし達に隠し事なんてできないしそれにモカらしくないから」
そう言葉を突きつけられ押し黙るモカ。目を瞑り息をはくと何かを覚悟するように呟いた。
「ねぇ蘭。それにひーちゃんにつぐにともちん。もしあたしが死んでたとしたらびっくりする?」
「実はね、モカちゃんこと青葉モカはユーレーなんだよ」
衝撃、荒唐無稽、冗談、真実。いつものテンションで語られどれともリアクションしづらい。
モカが死んでいた?
「ははは……モカー私を驚かせようとしてもその冗談は驚けないなー!」
「あ、ひーちゃん。下に虫が」
「えっ虫ぃ!ヤダ!どこどこ!」ひまりは肩をすくませ驚いた。
「なーんてじょーだんー。でもあたしが死んじゃってるってのはほんとうなの」
モカは自分の掌を見せてくる。
「っっっ!」
あたしは目を疑った。他のみんなもそうだったと思う。
モカの手は透けていてスタジオの床が貫通して見えていたのだから。
「やっぱりみんなには隠し事できないやー。だからさーちょっとモカちゃんの昔話に付き合ってよ」
とポツリポツリと語り出した。
あたし――青葉モカは高一の時に死んだ。死因は溺死。川で溺れたのが原因。
あれは雨の日だった。おまけに風も吹いていた気がする。傘もないので近道の土手沿い走って帰ってる時、バッグから何かが落ちる感じがした。それはひーちゃんの魔術グッズもとい人形だった。置き去りにするとのろわれそーとも思ったし、なかなか見つからなかったので見つかって安心もした。それで取ろうとして屈んだら急に強い風が吹いた。人形はどうやら茂みの中に入ってしまったみたいだった。それで草をかき分けていると人形は見つかった。でも取ろうとした時に土が緩い場所を踏んじゃったみたいで、あたしの体はそのままずざざざーって川に放り込まれた。さすがのモカちゃんもパニックになった。なにしろ背中にはギターを背負っているから勝手に沈む。服が水を吸って沈む。雨で川は増水してる。どうしていいかわからない。
沈む。沈む。沈む。
息ができなくなって苦しくなる。辛い。体が冷たくなって寒い。怖い。死ぬのは怖い。
でも何よりみんなと会えなくなることが一番怖かった。
そして何も考えられなくなって何もかも真っ暗になった時、あたしは死んだ。少なくともあたしはそう思ってる。まるで気絶するような感じだと思う。気絶なんてしたことないけれどね。
それであたしはなんで生き返れたのか?ううん違う。あたしは確かに死んだ。それだけは変わらない事実。でも不思議な感覚がした。死んだとわかっている。心臓も血の巡りも感じない。だけど、「目の覚める」感覚がした。今思えばこれが「星の鼓動」なんだって思う、香澄も前に感じたというそれだ。あたしは雲の上にいた。周りは一面の空。雲が覆っていたけど全てが「視えた」。
蘭が蘭パパとケンカしてたのも。
つぐが病院にいてみんなを不安がらせてないかと心配していたことも。
そんなふたりをひーちゃんとともちんが何とかしようと、自分たちに何ができるか考えていたことも。
そんな中あたしは何ができるだろう?そればかりかあたしが死んだことはじきに知れ渡る。そうなればみんなは言い尽くせないほど悲しくなってAfterglowはなくなってしまうかもしれない。そう思った。
みんなを絶望させたくない。
居場所を壊したくない。
もっとみんなとバンドがしたい。
救いたい。守りたい。助けたい。失いたくない。続けたい。
そんな時声が「聴こえた」。
「何か聞こえる」
『願ったのなら叶えてしまえば良い』
不思議な声だった。優しくて楽しそうでキラキラで笑ってるような声だった。
そこから先はモカちゃん自身もよくわからないや。スーっと空から降りる雰囲気で戻ってきて、あたしは七不思議の幽霊を借りることで存在できていた、ってことしかわからない。
だからあの時の心霊現象はあたしがやったとも言えるし別の幽霊のせいとも言える。それに関してはごめん。
期限は三年、卒業するまで。それを過ぎればあたしは消える。
これはあたしが作った夢にすぎないかもしれない。モカちゃんのわがままを振りかざしてるだけかもしれない。
それでもあたしはみんなと一日一日を満喫してしあわせでした。
めでたしめでたし。
「いやーはなしたーはなしたーこんなに話したのは生まれてはじめてかもーってそうだあたしもう死んでるんだー」
「ホント……なの?」
あたし――美竹蘭はおそるおそるモカに問う。
「ごめん、蘭ずっと言えなくて」
あたしは何も言えなかった。この抑えようのない感情の行き場をどうしていいかわからなかったしそもそも視界が滲んでいたし、わけがわからなかった。
「嘘だよね?モカちゃん違うよね?違うって言ってよ!」
「ホントなんだつぐ。明日からは青葉モカは一年の頃に死んでしまったっていう世界に切り替わる。今日ここにいられるのは本当に奇跡」
「そもそも事の発端ってあたしの人……形……うあああああああああんんんんん」
ひまりは顔を手で覆って泣き崩れる。
「ううん違うよ、ひーちゃん。あの人形がなくてもあたしはあそこで死んでたと思う。それにあれはみんなを守ってくれたってあたしはおもうよ」
「ううう……ほんとぉ?」
「うん、本当だよ」
穏やかにモカはひまりをなでる。そしてみんなを見回す。
「みんなにお礼しなきゃ。蘭、ひーちゃん、つぐ、ともちんみんながいてくれてあたしは幸せな夢の続きが見れたよ。Afterglowでやってきたことが本当に楽しかった」
涙は流れて嗚咽が漏れる。これはひまりが出しているのか。いやつぐみ?巴?あたし?あるいは全員?
夕焼けの中あたし達は帰る。こんな時もモカは『いつも通り』帰りたいなんていうものだから話をしながら帰ることにした。
この光景はもう見られない。そう思うと、寂しくなって、悲しくなって、口数は減り、無意識に早足になってしまう。
いや、思えばいつもこんな感じだったかも。あたしは前にいてモカが隣にいてひまりやつぐ巴が盛り上がっててモカがひまりに茶々をいれる。あたしはそれを見守ったり、ツッコんだりいろいろしてた気がする。
「それじゃあたしこっちだから」
「モカちゃんもーまたねー」
小さく手を振るモカにひまりは感極まってモカに抱きつく。意外なことにつぐみも一緒だった。
「モカ嫌だよ!!!別れたくない!!!」
「モカちゃんとさよならなんて絶対したくない!!!」
泣き叫ぶ二人を抱きとめてモカは諭し始めた。
「大丈夫だよ。あたしは見守ってる。あれになって」
夕焼けは少しずつ夜に侵食されていた。あたしにはそれがあたし達の時間が終わりを示していたようにも思えた。
そう言ってモカの指さす方向には空に煌めく一番星があった。
「「「「ああ……」」」」
「あたしはみんなの近くにはいられない。それでも見守ることはできるから。嬉しいとき、悲しいとき、成功したとき、失敗したとき、いつも通りのとき、そうじゃないとき空を見ればあたしはいるから。モカちゃんは一緒だから」
何も言えないあたし達のなか、モカはさらに言葉をかける。
「それじゃ、またねー」
といつものように手を振り帰っていった。何というか、『いつも通り』だった。
ひまり達は追いかけようとしたけど巴はそれを制していた。「どうして止めたの?」と言いたげな顔をして二人に言葉をかける。
「帰ろう。つぐ、ひまり。モカは『いつも通り』でいたかったんだ。それがモカなりの別れ方なんだと思う」
「「うん……」」
あたしも家に帰った。
さすがに奇天烈で信じがたいことがあった日だ。作詞も自主練もできるはずもなくすぐに寝てしまった。これが夢で終わってくれ、そうじゃなくちゃおかしいと自分に言い聞かせながら。
――真夜中だった。午前二時くらいだったと思う。あたしは急に目が覚めた。それがあんなことがあったからなのか、今、ケータイの着信音が鳴っていたせいなのか。
画面を見ると電話の相手はモカだった。
「もしもーし」
「モカ……?」
「今から会える?」
「???」
「場所を言うねそれは…………」
あたしは着替えて、父さんにバレないようにそっと家を出て『とある場所』へと向かったのだ。
夜道は恐かったけどモカのためと思うといくらか軽減された。
羽丘女子学園。
いつもなら閉まっている鍵が開いてることを考えると一層モカは幽霊だという結論を肯定せざるを得なかった。
そして、中等部の屋上にモカは座ってた。
かつて、あたしが独りでノートに詩を綴っていた場所に。
ずっといたのだろうか。それは待ってたっていう意味じゃなくて、前のあたしみたいに。
独りで。
誰にも打ち明けることなく。
キリキリと心が軋む。かつてのあたしよりずっと苦しんでるのに何も言わずにカッコつけて。
「……あ、らーん」
あたしの気配を察知したのかモカはこちらを振り向いた。
「まーまーすわりなよー」
「うん」
夜空には星々が散りばめられている。月影が照らされてモカの姿はよく見えた。
「……」
「……」
こんなところに呼んでモカは何も言わず星を見ている。あたしも言いたいことはたくさんあるけど、絡まったイヤホンのようになかなかまとまらない。これを逃せばもう会えない。そんなことはわかっているのに。
「ねぇ、みんなは呼んだの?」
あたしはそう問いかけた。
「ううん。蘭だけね呼んだの蘭だけに来て欲しかった」
「???それってどういう……?……!!!」
するとその瞬間あたしはモカに飛びつかれ倒された。
急な出来事で理解できないままモカを見ると、泣いていた。
「うああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ……………………!!!!うっうっ……」
いつものような嘘泣きや茶化した泣きではない。マジ泣きだ。涙を流し、むせび泣くモカの姿をあたしは初めて見たかもしれない。
「あ、だし!もっとみんなとバンドしたかった!!!何でもない話してどーでもいいことで笑いあって!!!っっ、色んなとこで遊んだり美味しいもの食べたかった!!!ヒッグ……それに蘭とずっと一緒にいたかった!!ずっとずっとずっと!!!あたしは蘭が大好きだった!だからそんな蘭が苦しんでるのに耐えられなかった!どうにかしたいと思った!それでまた生き返って蘭の近くにいられるんだってわかった時すごくうれしかった!でもそれはずっと続かないのも知ってた。今日がずっと続いて明日が来なければいいのにっていつも思った!!!もう蘭に触れられないんだって思うと怖くて……!怖くてッッッッ!!」
今まで溜め込んだ感情がドッ!とあふれ出すようにわんわん泣くモカをあたしは何もいわずに抱きしめてその頭を撫でてあげることしかできなかった。
なんというか、今この場に詩(ことば)は不要な気がしたのである。
(ずっと苦しかったんだね)
(ありがとう。モカ、そこまでバンドと……そのあたしのこと、想っててくれて)
口にはしたかったけど照れくさくて歯が浮きそうで言えなかった。
モカは散々泣いて溜め込んだものを全てはき出せたのか幾分か落ち着いた。ただ本音をぶちまけたのが恥ずかしかったのかちょっと赤くなっている。目元は号泣によりウサギのようになっていた。
「蘭ー……さっきのことだけどみんなには」
「わかったよ。ナイショにしとくから」
「ありがとーらーん」
とモカはあたしにひっついてくる。
「ちょっとモカあ、いや……」
「?らーん?」
「やっぱいいよ、くっついて」
「やったー。じゃあモカちゃん蘭を独り占めー」
それからあたし達二人はいろいろな話をした。新しい曲の歌詞、この前のライブの反省、みんなで過ごした思い出。楽器は持ってなかったから二人でバンドの曲をアカペラで歌った。
そうしていると、日が昇り始めた。朝焼けはとても幻想的で、夜と朝の境となるところといい夕焼けを思い出させた。
時の流れが早いこと、そして残酷であることを改めて思い知らされた。モカはすっと立ち上がる。モカの体は光を通してしまうくらいに薄くなっていた。
もう時間なのだろう。
「……」
「もう……時間なの?」
「うん」
「……そっか」
するとモカはまた抱きつく。
「蘭成分を最後に摂取する」
「なにそれ」
「いいの、きにしないでー」
「まぁ、別にいいけどさ」
「……うん。これでよし」
そういうと、モカは空へと舞い上がる。あたしは反射的に手を伸ばしてしまう。モカも手を伸ばしていた。……があと数センチの所で届かない。
距離は少しずつ遠ざかる。
「らーーーーーんーーーーー!!!」
「モカーーーーーーーーー!!!」
「あたし!モカのこと、大好きだーーーーーーーーー!!!」
「あたしも蘭のこと大大大好きーーーーー!!!」
こうしてモカは空へ消えていった。
あれから数日後。世界はまるで変わっていた。モカの言うとおり青葉モカは高校一年のころに死んでいたこととなっていた。モカとの三年間を覚えているのはあたしを含めたAfterglowのメンバーだけだった。人も写真も映像も何もモカのことを覚えてはくれなかった。
それでもいいと思った。あたしたちがいつでもモカのことを思い出せるように仕舞ってさえいれば。
あたしたちは一番星を見るたび感じるだろう。あたしたちをモカが見守ってくれるあたしたちは五人でAfterglowなのだということを。
あたしはきれいな空を見るとふと思い出す。あの日のことを。
明日も、その先も。
読んでくださりありがとうございました。蘭の口調を真似るのに苦労しました。批評アドバイスあればご指導ご鞭撻のほどお願いします。
批判があるなら私よりもっとおもしろいものを仕上げてください
悲しい話でモカがもし死んでいたらという考えたくない内容ですが面白かったです。