復讐の女提督
オリジナル設定ありの、若干シリアス目なSSです。
とある女提督が、軍部の一部連中によって謀殺され、『戦艦棲姫』となって蘇るという物です。
因みに、同一の艦娘は、1つの鎮守府に複数人は居ませんが、別の鎮守府には居るという設定で書いております。
その為、沈んだはずの艦娘が、また出てくるというパターンが発生しますが、これは別の鎮守府の艦娘という事になります。
その他、誤字・脱字・矛盾点等、色々あるかと思われますが、笑って流して頂くか、サラッとご指摘頂けるとありがたいです。
まぁ、大して面白くも無い話かもしれませんが、暇潰しにでも読んで頂ければ幸いです。
新設された鎮守府の提督として現地へ向かう途中、軍令部参謀達の謀略りによって、殺されてしまった、とある女提督。
彼女のその悲しみ・苦しみ・憎悪と言った負の感情が、海の底に眠るそれらをも呼び起こし、増幅され、逆に人間としての意識を保ったまま深海棲艦として生まれ変わる事に。
そして生まれ変わった彼女は、深海棲艦の力と、提督としての能力、その全てを駆使して、自分を殺した軍令部に、自分を見捨てた艦娘に、そしてそういった愚かな人間達に復讐を果たすべく、行動に移るのであった・・・。
3隻からる輸送船団。そのうちの1隻に乗ってはや1週間。私は、これからの任地であるとある鎮守府に赴く途中であった。
この海域は、深海棲艦が払拭されているという話で、船長以下、気楽な船旅だった。
私「・・・うーん、天気晴朗、波も穏やか。これこそ、航海日和ってとこかしら?」
船長「それにしても、あんたの様な若いお嬢さんが提督とはね。よっぽど成績でも良かったのかい?」
私「成績は、まぁまぁね。中の上ってところかな」
船長のような皮肉は、海軍軍令部内では日常茶飯事だった。
・・・女のくせに・・・
ーーーーー
平穏な世の中に突如現れた深海棲艦。
人類の持つ兵器では、全く太刀打ち出来ず、ほんの1カ月もしないうちに、人類は制海権を完全に奪われた。
そんな中、唯一対抗出来る存在・・・『艦娘』・・・の登場。
そして、艦娘を率いる人類と深海棲艦との戦争がが始まって約1年、一向に先が見えず泥沼化していた頃に、私は士官学校へ入学した。
・・・私には、士官学校以前の記憶が無い。どうも、大事故か何かに遭ったのか、その時に過去の記憶を失ったらしい。恐らく、深海棲艦の砲撃か何かに遭遇でもしたのであろう。とにかく、私の一番古い記憶は、士官学校に入って間もない頃であった。
軍部というのは、基本、男性社会。女性が士官になるなど、本来なら有り得ないというのが、ごく普通の常識。その様な場所に、そもそも何故私が居たのかという疑問もあったが、とにかく士官学校に居たのは事実だった。
そして2年後、士官学校を何とか無事卒業して私に待っていたのは、『少将』の地位と『提督』の肩書であった・・・。
海軍軍令部は、深海棲艦を打倒すべく全国各地に鎮守府を設け、艦娘達、そして彼女らを率いる『提督』を配置した。
だが、その『提督』になるには、1つの条件があった。
『妖精』
艦娘と共に現れ、どのような存在なのか未だに分からないのだが、少なくともその妖精との意思疎通を行える事。
これが、艦娘達を率いる絶対条件だった。
そして、私は数少ないその1人であった。
その為、軍首脳部は士官学校を出るや否や、私にその職務を押し付けたという訳だ。
しかし、将官というのは、無数の武勲を上げて、何十年と軍部に尽くして、それでも手に入れられるかどうかという階級である。
コネや金がある訳でもない、一介の士官学校を出たばかりの若造・・・しかも女性士官・・・が、ある意味雲の上の存在でもある将官となったのである。当然、他の士官からすれば、気に入らない訳で。
そのくせ艦娘については、彼女らは女性なのに、「艦娘を率いて国の為に戦うのは、我ら男性士官の責務であり、女性がやるものでは無い」とか言って、兵器としてしか見ていないような節が見受けられるし。
とにかく、辞令を受けたその直後から任地へと赴くまでの短い間ではあったが、男性士官と会う度にああいった陰口を言われ続けたのだった。
そして何はともあれ、とある場所に設けられた新しい鎮守府へ、その提督として私はそこへ向かっていた所だった。
ーーーーー
しかし・・・
船員「おい、あれは何だ・・・?」
船員が指し示す先には、暗闇のような黒い空と、その下に居る深海棲艦の艦隊が。そして、奴らはこちらを見つけるや否や、この船団へ攻撃を仕掛けて来た。
船員「おい、この周囲には深海棲艦は居ないんじゃ無かったのかよっ!」
船長「いいから全速前進、とにかく逃げろっ!」
と、船長の命令により、必死にこの戦闘海域から脱出しようとする輸送船団。
しかし、敵深海棲艦の方が速く、至近弾が何発も降ってきては、輸送船の周囲に高い水柱が上がる状態になっていった。
そこへ・・・
船員「おい、艦娘達が来てくれたぞっ!」
と、軍令部直属と思われる、艦娘の艦隊が到着した。これで皆助かる・・・と思ったが、
船員「・・・おい、あいつら、俺達を無視していったぞ・・・」
ーーーーー
???「あの輸送船団はどうするの?」
???「向こうの鎮守府から艦隊が出るから、そちらに任せるようにとの命令よ。私達は、目の前の敵深海棲艦を殲滅するようにとの事だわ」
ーーーーー
私達が攻撃を受けている近くを、艦娘達が敵深海棲艦へと向かっていった。しかしその間も、深海棲艦の私達への攻撃は止まない。
そして・・・
1発の魚雷が、私の乗る輸送船に命中した。
いや、それだけでは無い。輸送船は、一瞬にして爆発。私はその爆風にまみれつつ、海へと投げ出された。
・・・いくら何でも、魚雷1発でこんな爆発は起きないはず・・・。
そう思った時、1つの記憶が蘇った。それは、出立の直前、軍令部参謀本部の連中達が話しているのを、偶然耳にしてしまっていた事だった。
・・・たかが女のくせに、妖精が見えるってだけで、『提督』かよ・・・。
・・・あんなんで、『提督』だなんて、いいご身分だよなぁ・・・。
・・・きっと、あの色香で大将閣下にでも取り入ったんだろうよ・・・。
・・・何、どうせすぐに居なくなっちまうんだからよ・・・。
(そうか、これは私を亡き者にするための罠だったのか・・・。)
あの爆発の規模からして、私が乗っていた輸送船には相当量の火薬が積まれていたに違いない。そして魚雷によってそれが引火、爆発へと繋がったのであろう。
輸送船の爆発によって、爆風にまみれ、全身を火傷に覆われた私は、そのまま海の底へと沈んでいった。
・・・悲しい・・・。
・・・辛い・・・。
・・・苦しい・・・。
・・・憎い・・・。
・・・悔しい・・・。
・・・恨めしい・・・。
・・・軍部も・・・。
・・・艦娘も・・・。
・・・そして、こんな小賢しい事ばかりしか考えられない人間達も!!!
そしてその時、目映い光が私を包んだ・・・。
ーーーーー
ドザーッ・・・
???「何? 戦闘中にいきなり援軍? そんな何で・・・」
軍令部「援軍だと? 戦闘中にか? そんな話は聞いたことが無いぞ!」
???「・・・な、何で突然あんなのがっ!」
軍令部「何があった?」
???「・・・どうして、こんな所に『姫級』が出るのよっ!」
ーーーーー
気が付くと、私は海の上に立っていた。
私の前方には、艦娘達が。見た所、先程輸送船団を素通りしていった連中だろうと思われた。
そして私の横には、大破した空母ヲ級と戦艦ル級、辛うじて中破の重巡リ級、そして轟沈したイ級やロ級の残骸が。
恐らく、深海棲艦側は制空権を取られ、全滅寸前であったのであろう。そこへ突然、私が現れたようだ・・・海の底から。
海上に立つ私は、自分の姿を見た。
長い黒髪に、ネグリジェのようなワンピースを着て、頭部には2つの角が。また、胸元にも4本の小さな黒い角が生えていた。
そして、うなじから伸びた太いコードの先に繋がっていたのは、目が無く凶悪なまでの歯を持った巨体・・・艤装・・・が。しかもその体には、2門の『16inch三連装砲』と、『12.5inch連装副砲』。
ヲ級「・・・オマエハ、何者ダ?」
私の突然の出現に、表情には出ていないが、明らかにヲ級も驚いているようだった。
私「・・・知らん。しかし、少なくとも、あの連中の敵であるのは、確かであろうよ」
(何が起こったか、私にも分からない。けれど、ここに憎いあいつらを攻撃する武器がある。ならばやる事は1つ!)
私は怒りを目に湛えつつ、私の持つ2門の『16inch連装砲』を構えた。目標は、目の前の艦娘達。そして、それらは一斉に火を噴いた。
私の撃った主砲により、命中した艦娘達が次々と大破していく。そして、不利を悟った艦娘達は、素早く離脱していった。
しかし、流石に私1人では追撃する事が出来ず、こればかりは黙って見逃すしか無かった。
(まぁ良い。奴らの轟沈は次の機会まで楽しみにしておこう・・・。)
私がそんな事を考えていると、
ヲ級「・・・オマエハ、何者ダ? ナゼ、『戦艦棲姫』ガ、ココニイル?」
(そうか、私は『戦艦棲姫』という深海棲艦として蘇ったのか・・・。)
私「私は、先程沈んだ輸送船に乗っていた元・『提督』よ」
ヲ級「・・・アノ輸送艦カ・・・」
私「けれど、あれはお前達をおびき出す為の餌だったようね。そしてそこに私を乗せた。つまり私は味方と思っていた人間どもに欺かれ、奴らの陰謀によって殺されたって事ね。けれど、どうやらその恨み・憎しみ・悔しさによって、この姿で蘇ったんでしょう」
ヲ級「・・・オマエハ、我ラ深海棲艦ノ敵デハナカッタノカ?」
私「・・・先程まではね。けれど、今の私の敵は、私を葬り去った軍令部、そこの参謀ども、他の提督ども、そしてそれら薄汚い人間ども全てよっ!」
ヲ級「・・・デハ、アノ『艦娘』達ハ?」
私「・・・あんな人間の『道具』は、邪魔でしかない。ただ『壊して』海の底へ『沈める』だけ」
ヲ級「・・・見タ目ハ、同ジ深海棲艦ダガ、オマエハ、我ラトハ、少シ違ウヨウダ」
私「・・・」
ヲ級「ダガ、我ラノ『艦娘』ヲ『沈メル』トイウ目的トハ、一致シテイルヨウダ。オマエガ良ケレバ、ワレラハ、オマエノ指揮下ニ入ル」
このヲ級の提案に、私は少し驚いた。因みに、ル級は不服そうだったが、ヲ級が決めた事である以上、渋々ながら同意するという感じだ。また、リ級は素直にヲ級に従うと言った感じか。
私「・・・何でまた?」
ヲ級「・・・我ラ深海棲艦ガ勝テナイノハ、我ラヲ指揮スル指揮官、ツマリ人間ドモガ言ッテイル『提督』トイウノガ、居ナイ為ダト聞イテイル。『戦艦棲姫』ヨ、オ前ハ、ソノ『提督』ダッタノデアロウ?」
私「・・・正確には、これから自分の鎮守府へ行く所だった、なんだけれどね。まぁ、『提督』という肩書は持っていたわよ」
ヲ級「・・・モシ、オ前ノ、ソノ指揮能力ガ高イノナラ、我ラヲ指揮シテ見セロ。『提督』ガ居ルノト居ナイノトデ、ドレダケ違ノカヲ、見タイト言ウノモアル」
(ふむ、これは信じて良いのか微妙ではあるな。しかし、今の私1人では、奴らをどうこうする事は出来ないのも事実。ここは1つ、こやつ等を使ってみるのも1つか・・・。)
私「・・・良いでしょう。では先に、その損傷を修復するが良い。どこか丁度良い場所はあるの?」
ヲ級「・・・近くの小島に、ワ級ガ待機シテイル。ソコデ、補修ト修理ガ可能ダ」
私「では、そこへ・・・」
そして、ヲ級が示した小島の入江には、ヲ級が言ったように、ワ級が1隻待機していた。
私「では、ここで暫く待機して、損傷を修復するが良い」
ヲ級「・・・分カッタ」
(さて、どうやって軍令部の奴らを潰してやろうか。いきなり軍令部本部を襲っても、つまらないしなぁ。折角だ、まずはこの深海棲艦らを使って、1つずつ鎮守府でも潰してやるか。それとも・・・。)
こうして、『戦艦棲姫』となった私は、提督達に、鎮守府に、軍令部に、艦娘に、そして人類に対し、どのような絶望を味合わせてやろうかと、策を練るのであった・・・。
ヲ級「ソレデ、コレカラドウスルノダ?」
私「まずは南西諸島海域へ行く」
ヲ級「???」
私「言ったでしょう。私の目的は、提督どもを、鎮守府を、軍令部等とふんぞり返っている奴らを、完全に潰す事だって」
ヲ級「ソレガ、ドウ関係アルノダ?」
私「まずは、小~中規模位の鎮守府を数か所潰す」
ヲ級「・・・ソレデ?」
私「まぁ、行けば分かるわよ」
ワ級により、3隻とも小破までは修復したものの、完全に修復するには、資源が足りなかった。そこで私は、まずはその資源を入手すべく、行動を起こしたのだった。
そして、我らは、南西諸島海域へと到着した。その間、ル級は気に入らないのか、相変わらずムスッとしているし、リ級は興味津々、ワ級は何だかよく分からんといった感じでついてきていた。
私「ヲ級、まずは偵察機を出しなさい」
ヲ級「偵察機?」
私「そうよ。この海域は、資源の宝庫。特に燃料とボーキサイトが」
ヲ級「・・・」
私「となれば、鎮守府から遠征艦隊がやってくるのは、目に見えてくる」
ヲ級「・・・ソレデ?」
私「そこで、そいつら遠征艦隊を偵察機で捜索。もし、奴らが遠征に【来た】ところなら、そのまま追跡。そして、【帰還】する所を襲撃する。どうせ、いても軽巡と駆逐艦位でしょうから、小破している今のお前達でも十分潰せるでしょう。思う存分艦娘達をいたぶってやりなさい。そうそう、奴らの収集したボーキサイトは、ワ級が回収するように。それがヲ級の艦載機になるのだから」
私のこの言葉には、ヲ級だけでなく、ル級も面白そうだなという顔つきになった。リ級は相変わらず艦娘を沈む機会があればいいと言う感じで、ワ級はまぁ言われた通りの事をすりゃいいか状態だった。
ーーーーー
夕立「これでお仕事終わりっぽーい」
村雨「夕立ちゃん、まだ終わりじゃないよ。帰るまでが任務だよ」
春雨「これだけあれば、大丈夫かな」
五月雨「そうよね。これだけ、あれ、ば・・・」
夕立「五月雨ちゃん、どうしたっぽい?」
五月雨「あ、あそこ・・・」
村雨「え・・・。な、何で、こんな所にル級が・・・?」
ーーーーー
ル級「駆逐艦4隻カ。肩慣ラシニハ、丁度イイカ」
ヲ級「間違ッテモ、資材ニ当テルナヨ?」
私「それと、間違っても接近しないように。駆逐艦とは言え、魚雷攻撃を食らったら、流石にただでは済まないからね」
ル級「何ダト! 我ガ奴ラノ魚雷程度デ、沈ムト言ウノカッ!」
私「・・・少なくとも、まだ小破しているわよね。それに、奴らの攻撃が届かない距離から、お前の主砲で攻撃すれば、一方的にいたぶれるのよ。その方が面白いでしょう?」
ル級「・・・確カニ」
私「どうせだし、主砲の演習の的にでもしなさい。それとリ級、お前は迂回して奴らの頭を押えて、帰れないようにしてやるのよ」
リ級「・・・ワカッタ」
ヲ級「『戦艦棲姫』、オ前ハ、ドウスルノダ?」
私「私は奴らから見えない所で待機している。私が出ては、直ぐに終わってしまうでしょう? それでは面白くない。それに、私とお前達とは目的が違う。ならば、私と共に行動するのであれば、奴らと遊ぶのはお前達の特権じゃないかしら・・・」
ーーーーー
春雨「・・・もう駄目・・・です、ね・・・村雨姉さん・・・先に・・・行きますね・・・」
五月雨「・・・ごめんなさい・・・私・・・ここまでみたいです・・・」
夕立「・・・もしかして・・・沈んじゃうっぽい・・・?」
村雨「・・・やるだけ・・・やったよね・・・? さよなら・・・」
ーーーーー
彼女ら4人の艦娘は、前方をリ級によって塞がれ、後方からは、ヲ級の艦載機と、ル級の主砲を浴びせられ、次々と沈んでいった。
そして残ったのは、彼女ら4人の擬装の残骸と、運んでいたボーキサイトだった。
ル級「・・・ナルホド」
私「奴らは、逃げ足が速いから。ああやってリ級で逃げ道を塞がなければ、大破させても轟沈はさせられなかったわ」
ル級「確カニ、今ノハ、ソコソコ面白カッタ」
ヲ級「攻撃ガ届カズ、逃ゲル事モ出来ズ、右往左往シテイルノハ、見ゴタエガアッタナ」
リ級「♪♪♪」
私「それで、ワ級よ。ボーキサイトは回収したわよね?」
ワ級「」コクリ
ヲ級「因ミニ、『戦艦棲姫』、オ前ハドウナノダ?」
私「ふんっ、所詮『道具』を4つばかり壊しただけに過ぎないわよ。それよりも、『道具』を壊され補給物資を奪われて、奴らの鎮守府は大慌てでしょう。それを想像すると、そちらの方が愉快だわ」
ヲ級「・・・我ラニハ、ヨク分カラナイナ・・・」
私「・・・まぁ良い。では、次へ行きましょう」
ーーーーー
・・・鎮守府A
提督A「何だと? ボーキサイトを輸送していた、村雨達が行方不明だと?」
吹雪「はい、先程、緊急信号を受信、直後に通信が途絶えました。しかも、最後に・・・」
提督A「最後に?」
吹雪「村雨ちゃんが「何で『ル級』が?」と呟きまして・・・」
提督A「そんな筈は無いっ! あの航路に、そんな深海棲艦が出たという話は聞いたことが無いぞ」
吹雪「はい、ですから・・・」
提督A「とにかく、捜索部隊を出せ。吹雪、行方不明地点は分かるな?」
吹雪「はい、大体の地点は」
提督A「では、直ちに出撃せよっ!」
ーーーーー
ヲ級「ソレデ、次ハ?」
私「ここから離れて、別の輸送部隊を探す」
ヲ級「マタ同ジ、『ボーキサイト』ヲ運ブ奴ラカ?」
私「次は、『タンカー』を護衛している部隊。つまり、燃料。今度は、数隻のタンカーと一緒に居る連中を探しなさい」
ヲ級「・・・ワカッタ」
そして、そう間もなく、ヲ級の偵察機はタンカー護衛部隊を発見した。
ヲ級「『戦艦棲姫』、見ツケタゾ」
私「・・・編成は?」
ヲ級「・・・軽巡1、駆逐3」
私「・・・では、ヲ級は駆逐艦を集中的に攻撃。ル級は最初は適度に軽巡を攻撃。リ級はタンカーを攻撃、けれど、間違っても当てないように。あのタンカーの燃料は、【我々の物】になるのだから」
ヲ級「何故ソウスルノダ?」
私「もしその軽巡がさっさと逃げるようなら、残った駆逐艦を全部沈める。逆にその軽巡が盾となるようであったら、軽巡は轟沈させるが、駆逐艦は大破させつつ逃がす」
ヲ級「ワザト逃ガスノカ?」
私「そう。そして我らがこの海域に居る事を奴らに教える。すると今度は、戦艦や空母が出てくるでしょう。それをどうするかの選択権は、こちらにある」
ヲ級「・・・」
私「・・・まぁ、その内分かるわよ」
ーーーーー
神通「な、何でこんな所にヲ級が居るの? とにかく、貴女達はタンカーを護衛しつつここから離脱しなさい」
曙「そんなっ! 神通さんはどうするのです?」
神通「ここは私が何とかします。ですから早くっ!」
朧「神通さんだけでは無理です。私達も戦いますっ!」
潮「そうです・・・って、あぁ、タンカーがっ!」
神通「・・・潮さんは、タンカーを! それから、鎮守府に緊急連絡。当該海域にて敵空母ヲ級1隻、戦艦ル級1隻、重巡リ級1隻を確認っ! ??? あれは・・・それと、輸送ワ級1隻も確認っ! まさか、あいつらの目的は燃料!?」
ーーーーー
ヲ級「ドウヤラ、アノ軽巡ヲ沈メル事ニナルヨウダナ。ル級、上手ク当テロヨ。折角ノ獲物ヲ渡スノダカラナ」
ル級「勿論ダ」
リ級「タンカーノ方ニ、1隻来タゾ」
ヲ級「ソレハ、オ前ニクレテヤル。主砲ト魚雷デ沈メテヤレ」
リ級「・・・分カッタ」
ーーーーー
神通「提督・・・私・・・ご一緒できて・・・光栄でした・・・」
曙「海の底には・・・何があるのか・・・な・・・」
朧「まぁ・・・駆逐艦・・・だから・・・ね・・・」
潮「潮・・・、みんなを守れた・・・か・・・な」
ーーーーー
私「・・・」
ヲ級「ドウシタ?」
私「・・・いや、良い。とにかく、燃料とボーキサイトを奴らから奪う事が出来たわ。後は鋼材だけれど・・・それは適当にこの海域で探すようね」
ヲ級「ソレデ、ソノ後ハ?」
私「まずは鋼材を探して、どこか身を隠せる入り江に潜み、その小破を完全に修復する」
ヲ級「今マデモソウダッタガ、何故、ソノヨウナ迂遠ナ事ヲスル?」
私「・・・成程。道理で深海棲艦が勝てない訳ね」
ル級「何ダト!?」
私「お前達は、力と数だけを頼みとしている。ところが人間どもは、その両方とも負けているから、戦略・戦術で対抗している訳。だから我ら深海棲艦は人間どもに勝てないのよ。そして今の我々は、その人間どもに、更にその数と力で負けている。となれば、我々が勝つには、奴らを超える戦略・戦術で対抗するしかない」
ル級「下ラン御託ヲ言イオッテ」
私「では、単艦で突撃して勝てるの? 袋叩きに遭って沈むのが落ちよ」
ル級「・・・」
私「それに、どうせよ。奴らをじわじわと傷めつつ嬲り殺しにするほうが面白いんじゃない? さて、とにかく移動しましょうか」
と、その場を離れようとしたところで、『ソレ』は浮かび上がってきた。
ヘ級(神通)「・・・何故、ワタシハ沈マナクテハ、イケナカッタノ・・・」
私「(ほほう、先程沈んだ軽巡か。艦娘が轟沈すると、深海棲艦となって蘇る場合があると聞いていたが、その通りだったのね。)」
私「それは、お前を指揮した提督が悪かったのだ。お前は、奴に見放されたのだ」
ヘ級(神通)「・・・何故?」
私「それは分からないが、お前の『提督』は、お前を不要とでも見做したのであろう。『提督』は、タンカーを捨てて逃げろとは命令して来なかったのでしょう?」
ヘ級(神通)「・・・私ハ、アレダケ頑張ッタノニ・・・?」
私「つまり、提督はお前よりも燃料の方が大事だったという事でしょうね。きっと替えがいくらでも利くからという理由で、お前は捨て石にされたのよ」
私「(まぁ本当の所は、どうだったのか分からない。けれど、憎しみを煽る言葉を掛ければ・・・。)」
ヘ級(神通)「・・・憎イ。私ヲ見放シタ奴ラガ、憎イ・・・」
私「そう。では、私について来なさい。私と共に、その憎しみを晴らすが良いわ」
へ級(神通)「・・・イイデショウ」
私「(くっくっく、どこの鎮守府だか知らないが、貴様の【道具】が、こちらの手に入ったわよ。もう少ししたら、貴様らの前に出てやる。但し、その時は貴様らの最後となるけれどね・・・。)」
ーーーーー
・・・鎮守府A
提督A「何っ? 今度はタンカー護衛だと?」
吹雪「は、はいっ。それと、神通さんからの報告ですと、敵は空母ヲ級1隻、戦艦ル級1隻、重巡リ級1隻、輸送ワ級1隻だそうです」
提督A「4隻か? 編成としてはおかしいな。空母機動部隊ならばヲ級1隻では不足だろうし、水上打撃部隊だとしても戦艦が1隻では火力不足の筈。もしくは輸送部隊? いやそうだとしても、ワ級1隻だけでは余り意味が無い・・・」
吹雪「提督・・・」
提督A「吹雪、因みにタンカーは?」
吹雪「護衛艦隊含め、全滅の模様です・・・」
提督A「くそぉ。ええい、この際だ。主力艦隊を出して、そいつらを殲滅する。それと軍令部に打電。「当鎮守府において、敵不明艦隊を発見せり、これを全力でもって殲滅する」だ。そして、金剛・赤城・加賀・川内・初春・子日の6人で艦隊を編成、当該海域へ進出の上、敵不明艦隊を捜索、発見し次第、これを殲滅せよ」
吹雪「了解しました」
ーーーーー
私「・・・さて、そろそろか」
ヲ級「何ガダ?」
私「奴らが主力を出す頃よ」
ル級「デハ、イヨイヨダナ」
私「いえ、今回はこの海域を少し離れて、奴らをやり過ごす」
ル級「何故ダ?」
私「決まっている。我々がこの海域に居ないと思わせる為よ。そうして、暫く鳴りを潜め、奴らがまた資源確保の遠征艦隊を出して来たら、これを殲滅して資材を奪う」
ヲ級「何故、奴ラカラ、ワザワザ奪ウ必要ガアルノダ?」
私「勿論、奴らを疲弊させる為」
ヲ級「・・・」
私「我々と違って、奴らは資材を確保する為に、遠征艦隊を派遣する必要がある。その遠征艦隊を潰せば、資材が入らす疲弊する。そして疲弊しきった所で、鎮守府そのものを襲撃する。奴らは何も出来ずに、一方的に我らに蹂躙されるでしょうよ」
私「(しかし、そう簡単には疲弊しないでしょうね。恐らく、大本営からも補給が入るはず。となると、その補給を絶つか、その補給があっても追い付かない程疲弊をさせるか、もしくはその補給が入る前に襲撃するか・・・。)」
ーーーーー
・・・海軍軍令部作戦課
課長「南西諸島海域は、一体どうなっているのだ?」
課員A「はい、当該方面を担当している複数の鎮守府から、何れも遠征艦隊を壊滅させられ、補給が滞っていると」
参謀長「各鎮守府からの支援要請の話では無いっ! 奴ら深海棲艦の動きがどうなっているのだと聞いているのだっ!」
課員B「現在、遠征艦隊を襲撃していると予想される深海棲艦どもを、全力で捜索しておりますので・・・」
課長「そんな話は、もう聞き飽きた。最初の電文から、既に1カ月以上経っているのに、まだ何も分からないのか?」
課員C「はい、そのぉ、とにかく南西諸島海域全域で深海棲艦どもの動きが活発になっており、遠征艦隊を襲っている連中の捜索にのみ集中するという訳には・・・」
課員A「課長。現在、南西諸島海域全域で敵深海棲艦群に圧されていて、このままでは奪還した筈の制海権を又もや奪われてしまうような状況になりつつあります・・・」
課長「・・・南西諸島海域を奪われると、西方・南方・中部各方面への侵攻に支障をきたすか・・・」
課員C「はい、ここはまず、主な鎮守府からそれぞれ南西諸島海域へ艦隊を出すように命じてはどうでしょうか?」
課長「・・・仕方があるまい。一旦各方面への侵攻を中止、南西諸島海域の安全を再度確保するよう、全鎮守府へ命令せよ」
課長「(・・・これでは、陸軍参謀本部から何を言われるか、分かったものでは無い。何としてでも、それを沈めてやる・・・)」
ーーーーー
私「(そろそろ1カ月。軍令部の連中も痺れを切らしてきた頃でしょう。それにしても、ここまで上手く行くとは思っていなかったわね・・・)」
南西諸島海域に来てから約1カ月。我らはあちこちの鎮守府から来る遠征部隊を潰し周り、奴らの資源を強奪、もしくは消失させ、同時に何人もの艦娘を沈めてやっていた。
しかし、私を含めてこの中途半端な1艦隊6隻だけでは、ろくに何も出来ない事は最初から知っていた。
そこで、この海域に侵攻してくる深海棲艦どもに、ちょっとした入れ知恵をしてやったのである。
・・・沖ノ島海域
ル級f「・・・何故『戦艦棲姫』ノ貴様ガ、ココニイル?」
私「それがどうしたの?」
ル級f「・・・我々ノ邪魔ヲシニ来タノカ? 特別ナ事情ガ無イ限リ、互イノ侵攻エリアハ、不可侵ノハズ。貴様ハ、我々ヲ従エニデモ、来タノカ?」
私「・・・そうか、だから本土に近い程、弱い連中しか居ない訳なのね・・・」
ル級f「・・・我ノ問ニ、答エテ貰オウカ」
私「残念ながら、私は人間の『元・提督』なのでね。我ら深海棲艦の有り様なんか知らないのよ」
ル級f「・・・」
私「だけど、そんな事はどうでもいいの。私にとっては、私を裏切った人間どもを、全て滅ぼすだけっ!」
ル級f「・・・元ハドウデアレ、貴様モ人間ヘノ恨ミツラミヲ持ッテイル訳カ」
私「そうよ。けれど私の望みは、まずは人間どもの拠点を殲滅する事。だからお前達の邪魔をする気は無い」
ル級f「・・・デハ、貴様ハコノ海域デ、何ヲシテイル?」
私「お前達の目を盗んで、資源を奪いに来ている連中を潰し回っている」
ル級f「・・・成程。デハ何故我ノ所ヘ来タ?」
私「1つ、面白い話をしに来たわ」
ル級f「・・・ホウ?」
私「我らが人間どもの遠征艦隊を潰し回っている以上、奴らも無視は出来ない。だから何かしらの艦隊を派遣してくるはず。すると、どうなる? こちらが動かずとも、奴らがのこのことやって来るのよ。お前達は、それを好きに狩れるの」
ル級f「・・・」
私「我らはもうじき別の海域へ移動するけど、それまでの間は散々暴れまわってやるわよ。そしてお前達は、やって来た艦娘どもを好きなだけ獲物にすれば良い。我らは基本的に、お前達の邪魔はしない」
ル級f「・・・基本的ニ?」
私「我々が奴らの主力に見つかってしまっては、返り討ちにするしか無いでしょう? だけどそれ以外は、遠征艦隊以外の艦娘どもに手出しはしないわ」
ル級f「・・・イイダロウ。デハ、オ前達ノ好キニスルガ良イ」
私「(あれはあれで、それなりに面白かったな・・・)」
ヲ級「『戦艦棲姫』ヨ。我ラガル級ハ、不満ソウダッタゾ」
言われなくとも、ル級の態度から分かっていた。それに、へ級もどちらかと言うと同じような雰囲気を醸し出していた。
私「よく聞いていなかったようね。いい?「こちらからは攻撃しない。しかし、【艦娘どもから攻撃されたら】やり返す」と言ったのよ」
ヲ級「・・・ツマリ、艦娘ドモニ、我ラノ居場所ヲ、敢エテ教エルノカ?」
私「・・・恐らく、奴らは戦艦・空母を主力とした艦隊を送ってくるでしょう」
ヲ級「・・・」
私「お前達も、いい加減、駆逐艦や軽巡なんかを相手にするのも飽きてきたでしょう? それに、お前達の本当の実力もそろそろ見たい」
ル級「デハ『戦艦棲姫』ヨ、次ハドウスルノダ?」
私「まずはヲ級が偵察機を出す。そして見つけたら、こちらの偵察機を【わざと】発見させ、こちらへ誘導する」
ヲ級「フム・・・」
私「その後は、ちょっと面白いショーを見ましょうか」
ーーーーー
赤城「敵偵察機を発見。先にこちらが見つけられたわね」
加賀「ならば、直ぐにでも艦載機を全機発進させましょう」
赤城「そうね。では、第一航空戦隊、全機発進っ!」
金剛「それにしても、敵はどんな奴デスカネー。あの噂のヲ級とル級デスカネー」
川内「まぁ、この辺りに出没する艦隊なら、私達でも対処出来るんじゃない?」
初春「そんなに緊張しなくてもいいかと」
子日「まぁまぁ、とにかく、敵を発見してからに・・・」
赤城「敵艦隊を発見。空母ヲ級を中心に輪形陣。護衛は、戦艦ル級、重巡リ級、軽巡ヘ級、それに・・・輸送ワ級?」
加賀「赤城さん、何か嫌な予感が・・・」
赤城「そうね、加賀さん・・・って、嘘っ!」
金剛「? 赤城、どうしたデス?」
加賀「・・・そんな、あり得ない・・・敵艦載機が全て【艦戦】だなんて・・・」
川内「どういう事?」
赤城「・・・敵の艦戦によって、我々の艦攻・艦爆が撃ち落されています・・・」
加賀「・・・制空権を取られましたね・・・」
赤城「・・・えぇ、そして次に来るのは、恐らく、ル級の偵察機・・・」
ーーーーー
ヲ級「艦載機ヲ全テ艦戦ニシタノハ、ドウイウ事ダ? コレデハ、航空攻撃ガ出来ナイデハナイカ」
艦隊の遥か後方から指示を出している私に、ヲ級が文句を言って来た。
私「艦載機の無い空母は、どんな存在?」
ヲ級「・・・」
私「そう、只の置物でしかない。そして、制空権を取ったという事は、こちらの偵察機を気兼ねなく送り込む事が出来る」
ヲ級「・・・」
私「ヲ級よ。今は我慢しなさい。そしてル級よ、偵察機を出して【弾着観測射撃】を。目標は、うざったい敵戦艦。そして、その間に、軽巡やら駆逐やらをリ級とヘ級で潰しなさい。そうそう、ワ級も加わっていいわよ。お前、eliteになってるでしょう?」
そう、ワ級は、敵からの資源の分捕りやら、こちらの修理やらを繰り返した結果、【練度が上がる】事により『輸送ワ級elite』へと進化、今まで無かった5inch単装砲が装備されたので、砲撃に参加出来るようになっていた。
私「そしてこの戦闘中、奴ら空母の2人は、見てるだけで、何も出来ないわよ」
ヲ級「・・・ソシテ、艦攻・艦爆ノ無イ、我モ見テルダケカ・・・」
私「不満そうね。でもこの後の戦闘で、お前にも存分に暴れまわって貰う必要があるから、今は待ちなさい」
ヲ級「・・・」
それでも、ヲ級は不満そうだったので、私は先に種明かしをする事にした。
私「いい? 相手している奴らを中破・大破させる。すると、当然奴らは自分達の鎮守府へ戻るわよね? 我々はそれを後ろからゆっくり追いかけて奴らの鎮守府へ向かい、そこを攻撃する。その時、お前達全員で艦娘どもを沈めて貰う」
ヲ級「シカシ『戦艦棲姫』ヨ、ソノ間、貴様ハドウスルノダ?」
私「その間、私は奴らの建造物を破壊する! それも徹底的にっ! そして、奴らに恐怖と絶望を味合わせた後、死を与えてやるのよっ! この1カ月、今まで耐えに耐えていたのは、この為なのだからっ!」
ヲ級「・・・」
私「それだけでは無いわ! 鎮守府周辺を全て焼け野原にし、我ら深海に沈んでいった者達の、恨み・辛み・悲しみを、人間どもに思い知らしめてやるわっ! 人間だけでは無いっ! 海の上に居る、生きとし生ける者全てによ!」
ヲ級「・・・オ前ハ恐ロシイ。ソレダケノ思イヲ持チツツ、ソコマデ冷徹ニ事ヲ運ブノダカラナ・・・」
私「当然よ。この力をそのまま奴らにぶつけるだけでは、面白くないからねっ! 私は、奴らの事が憎いっ! 憎いっ! 憎いっ! 憎いっ! 憎いっ!」
ヲ級「・・・」
ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!ニクイ!
ヲ級「・・・」
ーーーーー
加賀「金剛さんっ、危ないっ!」
ドカーン!
金剛「・・・加賀、何やってるデス?」
加賀「・・・くっ、赤城さんも私も、艦載機が無い以上、何も出来ません。ですから、金剛さん達だけが、今は頼りなんです」
金剛「・・・でも、赤城も加賀も、轟沈シテは意味無いデス・・・」
川内「ごめん、こっちもリ級相手で手一杯・・・」
加賀「ですから、金剛さんには、あのル級を・・・」
金剛「・・・けれど、敵に【弾着観測射撃】をやられてる以上・・・」
子日「しかもあのワ級、砲撃してくるっ!」
提督A「・・・今のお前達には分が悪い。何とか闇に紛れる等して、撤退せよ・・・」
赤城「分かりました。では、何とかそれまで持ちこたえて見せます・・・」
初春「それにしても、あの『ヘ級』、どこかで見たような気がするのじゃが・・・」
ーーーーー
そして、完全決着が付かないまま、夜の帳が降りて来た。
ル級「クソッ、大破サセル事ハ出来タガ、轟沈サセラレナカッタ。ソレデ『戦艦棲姫』ヨ、流石ニ夜トナッテシマッテハ、偵察機ハ飛バセナイゾ」
そりゃそうだ。いくらリ級とヘ級がいるとは言え、ヲ級の艦載機攻撃も無い以上、ル級1隻では流石に火力不足だ。
私「でも、奴らの来た方向、撤退していった方向は分かるわよね」
ル級「ソレハ分カル」
私「では奴らを追いかけましょう。焦る必要は無いわ。奴らには、他に行く場所は無いのだから・・・」
そして、私達は、悠然と奴らの鎮守府へと向かって行った。
ーーーーー
・・・鎮守府A
提督A「お前達、無事か?」
赤城「はい、全員、何とか轟沈は免れました。けれど、私と金剛さんが中破、そして金剛さんを庇った加賀さんが大破しています」
提督A「それに、川内達も損傷しているじゃないか。とにかく、順番に入渠するんだ」
赤城「はい、それよりも、敵の動きが余りにも不自然です。こちらの動きを全て読まれていると言いますか・・・」
提督A「その辺の話は後だ」
初春「・・・それにしても、お主ら、少し気になった事が・・・」
提督A「気になった事?」
初春「敵の軽巡ヘ級なんじゃが・・・」
川内「あぁ、ごめん、こっちはリ級とやり合ってて、そっちに加勢出来なかったんだよ」
初春「・・・いや、そうではない。あ奴、神通に似ていたというか・・・」
提督A「・・・何だって? 神通は、タンカー護衛の時に沈んだのでは無かったのか?」
初春「・・・うむ、なので、わらわの気のせいかとは思うのじゃが・・・」
ーーーーー
我々は、奴らの退却した方角へ向かって、夜間、慎重に進んだ。因みにこれは、奴らの索敵網に引っかからないようにする為というのもあるが、早朝に我らが艦隊の正体を【見せる】為でもある。
私は、逸る心を抑えつつ、艦隊を粛々と進軍させてはいたが、それでもその心は、表情に現れていたようだった。
私「(くっくっくっ、漸くだ、漸く鎮守府を1つ潰せる。けれど、これは始まりに過ぎない。ここを皮切りに、次から次へと、どんどん鎮守府を潰してってやるっ!)」
ヲ級「・・・楽シソウダナ」
私「当たり前だ。ヲ級よ、お前達は時々不満そうだったが、ここまで耐えなければならなかった私自身が、一番不満だったのよっ! でもこれでその不満を爆発させられるのよ。これが楽しみ以外の何物でも無いでしょう?」
そして、払暁と共に、我々は鎮守府の目の前に現れた。
私「まずはヲ級よ、艦載機を出して制空権を取りなさい。通常の艦戦・艦攻・艦爆の編成で問題無いはす。ここに来る間に、ワ級からボーキサイトの補給はしてあるでしょ。そしてル級はまた【弾着観測射撃】を。そして、リ級とヘ級は、奴らがある程度無力化するまでは、ヲ級とリ級の護衛に徹しなさい。そして、私の指示するタイミングで、3隻とも突入。ヲ級はその間、好きなだけ、可能な限り、艦娘どもを沈めなさい。そして私は、奴らの建造物を破壊する・・・」
ーーーーー
・・・鎮守府A、港にて
提督A「・・・そんな、『戦艦棲姫』だと?」
赤城「(中破)・・・やっと敵の狙いが分かりました・・・」
提督A「狙い?」
赤城「はい、あの『戦艦棲姫』は、今の今まで【敢えて】姿を私達に見せませんでした。今まで敵艦隊が【4隻】しか居なかったのも、それが理由です」
提督A「・・・」
赤城「そして、あの『戦艦棲姫』の目標は、恐らく【ここ】かと・・・」
提督A「・・・この鎮守府だと?」
赤城「はい、実際、鎮守府沖合では、敵のヲ級とル級が交戦状態に入っています。なのに、『戦艦棲姫』は、発砲する気配が無い・・・」
提督A「・・・」
赤城「・・・そして、最初の目標は、どちらか・・・」
提督A「いかんっ! あそこには加賀がっ!」
ヒューン・・・ドカーン・・・。
提督A「加賀-----っ!」
ーーーーー
私「うむ、初弾としては、上手く命中したわ、奴らの【入渠ドック】に」
ヲ級「中々ヤルデハナイカ」
私「まず【入渠ドック】を潰せば、今交戦中の【道具】を修復出来なくなる。提督にしろ艦娘どもも、轟沈率が跳ね上がった事で、絶望のどん底へ落とされたでしょう。それにもし、大破した艦娘がドック内に居たとしたら、今ので完全にアウトね。そうだったら、あっちの提督の絶望感はどれくらいなのでしょうね」
ヲ級「・・・モシカシテ、我ラヲモ、謀ッタカ?」
私「・・・ちょっとした賭けよ。ヲ級よ、万全の状態の正規空母2隻と、我らがまともにぶつかって、勝てると思って?」
ヲ級「・・・」
私「昨日の戦闘で、空母の1隻が大破したんでしょう? なら、今頃は入渠しているはず。もし私が賭けに勝っていたら、その正規空母は今の砲撃で完全破壊。しかも、海上で【沈んだ】ので無いから、その肉体はバラバラでしょうね、うふふ」
ヲ級「・・・」
私「もしそうだったら、提督にしろその【道具】にしろ、さぞや無念だったでしょうね? でも、まだまだよ。次は【工廠】ね」
ーーーーー
ヒューン・・・ドーン・・・ガラガラガラ・・・。
提督A「今度は、【工廠】か。しかも、あの砲撃は、どう見ても偶然では無い・・・」
吹雪「司令官、赤城さんも、一刻も早く退避を!」
提督A「・・・どこへ退避しろと言うのだね? 今の砲撃は、【入渠ドック】を【狙って】砲撃してきたのだ。そして、今の砲撃で完全に破壊されてしまった以上、お前達の修復は不可能だ。そして、【工廠】がやられたとなれば、次は【執務室】だろう・・・」
吹雪「司令官・・・」
提督A「加賀は亡く、赤城も中破状態で動けず。そして、制空権は既に敵の手に渡っており、我々には既に勝ち目は無い」
吹雪「・・・」
提督A「吹雪、当鎮守府の艦娘全員に命じる。全員艤装を捨て、地上に上がって鎮守府から脱出しろ。既に海上は封鎖されている以上、脱出の見込みは無い」
ドカーン・・・ガラガラガラ・・・。
提督A「やはり【執務室】か。しかも、今のは確実にピンポイントで撃ってきた・・・。あの『戦艦棲姫』は、我々の急所をしっかり狙っている・・・。吹雪、お前は急ぎここを脱出し、この情報を大本営に」
吹雪「司令官はどうするのです?」
提督A「俺はここで最後まで見届ける義務がある」
吹雪「そんな・・・」
赤城「吹雪さん、貴女も早くっ・・・」
・・・ヒューン・・・ドガーン・・・
ーーーーー
ヲ級「『戦艦棲姫』ヨ。今ノオ前ノ砲撃デ、港ニイタ人間ガ、吹キ飛ンダヨウダゾ。ツイデニ、脇ニ居タ艦娘2人モ、吹キ飛ンダヨウダガ」
私「あらら、ごめんなさい。それは悪かったわ。折角のお前達の獲物だったのに」
ヲ級「・・・マァ良イ。ソレニ、ル級モ、戦艦ヲ沈メタヨウデ、喜ンデイタシナ。ソレニ、モット面白イ物ガ、ソコデヤッテイルゾ」
ーーーーー
川内「・・・神通! 神通なんだろう!?」
ヘ級(神通)「・・・」
川内「ねぇ、私の事分からない? 川内、川内だよっ!」
リ級「・・・ウルサイナァ」
川内「えぇい、邪魔だっ!」
(川内とリ級が相互に至近距離で魚雷を発射・・・。)
リ級「・・・油断シタ。マタ沈ムノカ・・・。マァ良イカ・・・」ブクブク
川内「(大破)」
ヘ級(神通)「・・・沈メ」
(ヘ級が川内へ魚雷を発射・・・川内轟沈・・・。)
川内「・・・もっと・・・夜戦で・・・暴れたかったな・・・皆と一緒に・・・」
ーーーーー
私「ふむ・・・姉が妹に轟沈させられたか・・・。それはいいが、リ級を失ったのは痛いぞ」
ヲ級「・・・ソウ心配シナクテモ良イ」
私「???」
ヘ級(川内)「・・・ドウシテ、私ハ、沈ンダノ・・・?」
ヲ級「・・・アノ軽巡、沈ンデイク時ニ見セタ、絶望感ノ表情カラ、スグニ深海棲艦トナルダロウト思ッタガ、ソノ通リニナッタナ」
私「ヘ級よ。お前は運が悪かっただけだな」
ヘ級(川内)「・・・運・・・?」
私「そう、運が悪かった」
ヘ級(川内)「・・・ソンナ理由デ、私ハ沈ンダノカ・・・?」
私「そう。だから、呪うとしたら、この世界そのものを呪うしかない、自分が『艦娘』として生まれて来てしまった事にね」
ヘ級(川内)「・・・ナラ、コノ恨ミ・怒リヲ、ドコニブツケルノダ・・・?」
私「それなら、お前が沈む状況に追いやった、人間どもを恨むのね・・・この私の様に・・・!」
ヘ級(川内)「・・・オ前モ・・・?」
私「そう、私も人間どもに沈められ、そしてこうして蘇ってきた。お前も私について来い。そうすれば、お前の恨みも、少しは晴らせるだろう」
ヘ級(川内)「・・・イイダロウ。私モ艦隊ニ入レテクレ・・・」
私「さて、では続きをしようか・・・」
ヲ級「・・・既ニ鎮守府ハ、全壊シテイルゾ?」
私「・・・まだよ。鎮守府の周囲が残っているじゃない」
ヲ級「???」
私「・・・まだ、鎮守府の周囲が、焼け野原になっていないっ!」
ヲ級「・・・」
私「ヲ級、ル級、お前達も手伝いなさい。ここから見える範囲、主砲が届く範囲、その全てを焼き尽くし、灰燼とするのよ!」
ヲ級「(・・コノ『戦艦棲姫』ノ怨嗟ハ、何処マデ深イノダ・・・?)」
私「ヲ級、偵察機を。もしかしたら、艦娘どもが、隠れているかもしれないわよ。そうしたら、艦爆で殺してあげなさい。まぁ【沈む】訳ではないから、少しは不満かもしれないけれど」
ヲ級「・・・分カッタ」
ヲ級「(・・・ソシテ、綿密ナ計画力ト実行力、決シテ手ヲ抜カナイ非情サ。ソレニ、他ノ鬼ヤ姫ノ様ニ、我ラヲその力デ強引ニ支配スル訳デモナク、自然ト我ラヲ動カスソノ指揮能力。コレガ『提督』ナノカ・・・)」
私「ヲ級、状況は?」
ヲ級「・・・鎮守府ヲ中心ニ、30km圏内ハ、全テ焼ケ野原トナッタ。ツイデニ、脱出ヲ試ミヨウトシテイタ艦娘モ、十数名発見シタ」
私「それで?」
ヲ級「・・・全員、艦爆デ吹キ飛バシタ」
私「ご苦労様。ああいう、小さくてちょこまか動く対象って、主砲で当てるの難しいのよね。だから助かったわ」
ヲ級「『戦艦棲姫』、オ前ハ我ラト違ッテ、艦娘ニ執着シテイナイノデハ?」
私「【沈める】事に執着はしていないわよ。どちらかと言うと、邪魔で目障りなので【壊れて】【殺して】【消えて】欲しい所ね」
ヲ級「・・・」
私「まぁ、少しは見逃してもいいのだけれど、今のタイミングで、私の存在が近隣の鎮守府に知れ渡ると困るのよね。だから、皆殺し」
ヲ級「・・・」
私「さて、それでは、次に行きましょう。どうせ私の存在がバレるのは時間の問題だから、それまでの間に、出来るだけ多くの鎮守府を潰さないと・・・」
私「♪♪♪」
ヲ級「・・・楽シソウダナ」
私「そうね・・・」
ヲ級「因ミニ、我々ハ、ドコヘ向カッテイルノダ?」
私「私が着任を予定していた鎮守府」
ヲ級「???」
私「一番最初に、私が輸送船で向かっていた所」
ヲ級「・・・アア」
私「まだ、1カ月かそこらしか経っていないから、ろくな戦力も揃っていないでしょう」
ヲ級「単ニ、ソレダケデハ無イダロウ? 今回ハ、イキナリ強襲シヨウトシテイル」
私「よく分かっているじゃないの」
ヲ級「今回ハ、オ前ガ堂々ト姿ヲ現シテイルノダ。何カアル事位、分カル」
私「少しは分かってきたようね。そう。今までの数か所とは違って、今回は私の姿を堂々と見せつける」
ヲ級「???」
私「こんな本土近海の、しかも軍令部の近くに『戦艦棲姫』が居るのよ。そんな筈は無いって、人間ども、特にあの軍令部の連中なら思うはず。そして、実際に現れたのを見て、パニックに陥るでしょう」
ヲ級「・・・」
私「そして、奴らは疑心暗鬼に陥る。あの『戦艦棲姫』の目的は何だ?ってね。そして、この近海にある出来立ての鎮守府を、見せしめの為に更にいくつか潰す。そうすると、軍令部はこちらに主力を向ける必要が出てくるでしょうね」
ヲ級「ソイツラヲ、叩クノカ?」
私「いいえ、適当な所で、また姿を隠して空振りさせる」
ヲ級「ソレデハ、意味ガ無イノデハ?」
私「・・・奴らの主力は、どこから来る? 軍令部の奴らは、自分の所からは出さないでしょう。となると、西方・北方・南方、各方面を攻略しているはずの艦隊」
ヲ級「・・・」
私「そんな精鋭とぶつかっては、こっちが潰される可能性が高い。けれど・・・」
ヲ級「・・・?」
私「奴らの艦隊が手薄になった各方面では、我ら深海棲艦の勢力が回復する。そうして人間どもは悩む訳よ。どう戦略を立てるかってね」
ヲ級「・・・我ラニハ、考エ付カナイ事ダ」
私「それともう1つ。お前達の練度を見てみたい」
ヲ級「???」
私「お前達は、少なからず戦闘を経験し、沈まないでいる。となれば、奴らと同じく、お前達も練度が上がっているはず」
ヲ級elite「・・・言ワレテ見レバ」
ル級elite「・・・確カニ、我モeliteニナッテイルナ。ダガ、偵察機ガ電探ニ変ワッテシマッタゾ」
ヘ級elite(川内/神通)「我ラモeliteニナッテイルヨウダ」
私「・・・ワ級は、既にeliteになっていたから、特に変化は無しね」
ヲ級「・・・ソロソロ、目的ノ場所ニ到着スルヨウダゾ」
私「・・・では、鎮守府を壊滅させましょうか」
ーーーーー
・・・鎮守府B
提督B「何でだ、何でこんな近海に『戦艦棲姫』が来るんだ?」
五月雨「て、提督、お、落ち着いて下さい」
提督B「お、落ち着いてなどいられるか。とにかく、艦隊出撃だ!」
五月雨「えぇ!? わ、分かりました」
提督B「こ、この私がっ! 軍令部の参謀より直々に推薦された、この、私が、こ、ここ、で、やら、れる、訳には、い、いかない、のだ・・・」
五月雨「い、いよいよ、わ、私たちの出番、ですね!」
五月雨「(でも、駆逐艦6隻では、何も出来ない・・・)」
ーーーーー
私「・・・ふむ、駆逐艦6隻しか居ないの? 1カ月でこの戦力までしか用意出来なかったとは・・・無能ね・・・」
ヲ級「ソレデ、ドウスルノダ」
私「駆逐艦1隻だけは、確実に残しなさい。他は好きに遊んでいい・・・」
ーーーーー
提督B「!!! 何? あの『戦艦棲姫』、こっちを見ているだと・・・!!!」
ヒューン・・・
提督B「そ、そんな・・・」
ドカーン・・・ガラガラガラ・・・
五月雨「て、提督・・・そんな、【執務室】が・・・」
五月雨「・・・そ、そんなぁ・・・な・・・なんでぇ? 何でドジっ子の私だけが、残っているの・・・?」
ーーーーー
ル級「『戦艦棲姫』、奴ラノ旗艦ハ残シテオイタゾ。ドノ艦娘ト、指定サレテイナカッタカラ、適当ニ残シテオイタ」
私「結構。それで問題無いわ。軍令部に連絡を入れさせるのが1人残っていればいいだけだもの」
ル級「シカシ、6隻全員ガ駆逐艦ダト、チョコマカ動クノデ、思ッタヨリモ当テルノガ難カシカッタナ」
私「いい練習になった?」
ル級「練習カドウカハトモカク、面白カッタ」
私「さて、ここまで来てしまっては、流石に軍令部も直属の艦隊を出すでしょうから、逃げるとしますか」
ヲ級「・・・逃ゲル」
私「そう、逃げる。いい? 時には逃げる事も大事よ。つまらないプライドで沈んでしまったら、意味が無いでしょう?」
ル級「ツマラナイダト?」
私「そう、つまらない。沈んでしまっては、そこで終わり。でも沈まない限り、何度でも復讐が出来る。何度でも奴らをいたぶり、嘲笑い、絶望感を与える事が出来る。これほど愉快な事は無いでしょう?」
ル級「・・・我々ハ、何人モノ艦娘ヲ沈メレバ、ソレデ良イ・・・」
私「私にはそれでは困るのよ。艦娘を沈めると言うのは、お前達には目的でしょうけれど、私にとっては、奴らに絶望を与える為の手段であって、目的では無い。もし気に入らないのなら、離脱しても構わないわよ」
ル級「・・・シカシ、オ前は何人モノ艦娘ヲ、沈メルツモリナノダロウ?」
私「当たり前じゃないの。沈めた数だけ、奴らの絶望は増大する。けれど、単に沈めれば良いという訳でも無い。時には効率的に、時にはじわじわと嬲り殺しに。特に大型艦なんかは、何も出来ないまま、ゆっくりと沈める。それを見た他の奴らは、どう思うでしょうね。我々は愉悦観を、奴らは絶望を、それぞれ味わうというものよ」
ル級「・・・面倒ナ様ダガ、楽シソウデモアル。ドウヤラ、オ前ニ付イテイッタ方ガ、良サソウダ」
ーーーーー
・・・軍令部作戦課
課員A「鎮守府Bの秘書艦である五月雨より連絡です。「我、『戦艦棲姫』を含む敵機動艦隊と交戦。しかしながら能う事敵わず、鎮守府・艦隊共に全滅。なお、敵砲撃が執務室に直撃、提督Bも戦死の模様」との事。因みに、艦隊は五月雨を除き、全員轟沈、また、鎮守府に留まらず、基地周囲も砲撃により焼け野原となっている模様です」
課長「・・・あそこは、ここから輸送船で10日もかからない位置にあるぞ・・・」
課員B「・・・まさか、1カ月前に報告されていた、あの『戦艦棲姫』でしょうか?」
課長「・・・こうなってしまった以上、あの報告は事実だったとしか言いようがない」
課員C「しかし、いずれにせよ、奴らの動向が気になります。取り急ぎ軍令部直属の艦隊を向かわせると同時に、奴らの位置を早急に確認する必要があります」
課長「その通りだ。直ちに直属第1艦隊を出撃させろ。それと、近隣の海軍基地航空隊に、索敵命令。何としてでも見つけ出し、奴らを殲滅せよ」
ーーーーー
ーーーーー
課員A「課長、鎮守府Bより南に位置する、小規模の鎮守府の数か所から、次々と壊滅したとの連絡が入っております」
課長「出撃した、軍令部直属の第1艦隊は、奴らを補足出来るのか?」
課員A「壊滅した鎮守府は、どこも小規模な所ばかりで、奴らは数時間も掛からずに壊滅させては移動しているので、索敵が難しく・・・」
課長「何としても見つけ出せっ!」
課員A「はっ!」
ーーーーー
ヲ級「ソレデ、コノ後ハドウスルノダ?」
私「そうね、取り敢えず数か所の鎮守府を潰した事ですし、まずは南下する。そして、ある程度南下したところで、西方へと進路を変更するわ」
ヲ級「・・・」
私「恐らく、奴らはこちらの意図が読めず、我々の動きに翻弄されるでしょうね」
ヲ級「・・・」
私「そして、西方で深海棲艦の動きを活発化させる。それで、南西諸島・西方両海域で海域が完全に奪取されるとなれば、奴らは2正面作戦を取るか、南西諸島海域を保持するかの、どちらかを選択せざるを得ない。2正面作戦を決めれば、各個撃破すれば良いし、南西諸島海域に戦力を集中するのであれば、西方海域を我々と当該侵攻艦隊とで制圧すれば良い。どちらにせよ、軍令部からすれば大打撃でしょう」
ヲ級「シカシ、我々ノ泊地ハドコニ置クノダ?」
私「・・・拠点は特に置かない」
ヲ級「何ダト?」
私「いい? まず我々はどこにも所属していないイレギュラーな艦隊よ。それに私は何処にも所属する気は無いわ」
ヲ級「デハ、補給ソノ他ハ、ドウスルノダ?」
私「だから、ワ級を連れているのよ。ワ級さえいれば、何処ででも修理等が出来る。となると、定期的に補給さえ行えば、わざわざわ泊地を持つ必要が無いわ。それに、そもそも海は我々の物、補給物資なんか何時でも入手出来るしね」
ヲ級「デハ、何故今マデ奴ラノ遠征艦隊ヲ、襲撃シテイタノダ?」
私「今までの遠征ルートに強力な敵艦隊が待ち構えているとなると、中々艦隊を出せない。そして出したら出したで我々が襲撃すれば、奴らに資源が入らない。奴らはジレンマに陥るわね。損害覚悟で艦隊を出すか、極力資源消費を抑えて何とか鎮守府を維持するか・・・」
ヲ級「・・・今マデ、泊地ヲ作ラズ、艦隊ヲ拡大ヲセズニイタノハ、ソノ為カ」
私「そう、けれどワ級の能力にも限度があるわ。だから当面はこの6隻で動く」
ヲ級「・・・」
私「お前達深海棲艦の侵攻艦隊は、それなりに規模が大きいから、泊地を用意してそこから出撃する必要がある。けれど、逆に言えば、奴ら軍令部どもに、拠点の位置をある程度特定されてしまう。そして、深海棲艦側も、各鎮守府の位置がある程度推測可能だから、結局自ずと侵攻ルートも決まってしまう。そうなれば、あの参謀の馬鹿どもで何とか対処出来てしまうのよ」
ヲ級「・・・」
私「けれど、拠点が分からないとなると、どうしても都度対応せざるを得ない。常にこちらがイニシアチブを取れるし、奴らを引っ掻き回すという意味でも、丁度良いわ」
ーーーーー
課員A「課長、例の奴らですが、海軍基地航空隊の偵察機より、発見されたとの事です」
課長「!!! どこだ?」
課員A「はっ、最後に壊滅報告のありました鎮守府Bから、約2日の辺りを、そのまま南下しているとの事です」
課長「奴らの進行方向に、迎撃可能な鎮守府はあるか?」
課員B「はい、あるのはあるのですが・・・」
課長「どうした?」
課員B「現在その鎮守府は、南方から主力を戻している所で、主力が戻り次第出撃させるが、補足・撃滅については確約出来ないとの事です」
ーーーーー
私「? 偵察機? ヲ級、あれを墜として」
ヲ級「分カッタ」
私「さて、このタイミングで発見されたとなると、どこかの鎮守府の主力とぶつかる可能性が出て来たわね」
ヲ級「ソノ場合、ドウスルノダ?」
私「まぁ、全力で相手するしか無いわね」
ル級「奴ラノ主力トナレバ、潰シガイガアリソウダ」
私「ヲ級、取り敢えず索敵機を」
ヲ級「分カッタ」
私「さて、どうするか・・・」
ヲ級「・・・奴ラヲ見ツケタゾ。戦艦1、空母2、雷巡2、駆逐1」
私「場所は?」
ヲ級「正面、数時間デ会敵スル・・・」
私「・・・覚悟を決めるようね・・・」
ーーーーー
瑞鶴改「敵艦隊発見。『戦艦棲姫』1、ヲ級elite1、ル級elite1、へ級elite2、ワ級elite1。後数時間で接敵可能!」
提督C「勝てそうか?」
加賀改「やってみるしか無いわね」
瑞鶴改「何とかなるに決まっているじゃないの」
金剛改「でもブッキー、『戦艦棲姫』はちょっと厳しいかもデース」
北上改「まぁ魚雷を全部叩き込むしか無いんじゃない?」
大井改「私と北上さんが居るんです。そんなの簡単です」
吹雪改「でも・・・」
提督C「しかし、無理はするな。危ないと思ったら、即撤退するのだ。撤退のタイミングはそちらの判断に任せる」
ーーーーー
私「西方海域攻略艦隊となると、練度もそれなりにあるでしょう」
ヲ級「空母2ハ、航空戦力デ負ケテイルナ」
私「ふむ、やはり空母がもう1隻必要か・・・」
ル級「ソレデ、ドウスルノダ?」
私「取り敢えず、輪形陣に。私とヲ級を中心に。前にル級、左右にヘ級、後ろにワ級」
ーーーーー
吹雪改「陣形を複縦陣に。加賀さん、瑞鶴さん、航空機をお願いします」
加賀改「分かったわ。艦載機、全機発進!」
瑞鶴改「第一次攻撃隊。発艦始め!」
吹雪改「北上さん、大井さん、左舷、雷撃準備お願いします」
北上改「そうだね、分かった」
大井改「分かったわよ」
金剛改「ブッキー、徹甲弾にシマスネ」
吹雪改「はい、お願いします」
ーーーーー
ヲ級「ドウスル? 艦載機ハ、マタ全テ【直掩機】ニシテ出スカ?」
私「そうね、そうして頂戴」
ヲ級「分カッタ」
ーーーーー
瑞鶴改「ちょっと、何あれ? ヲ級のくせに、全機【直掩機】ってどういう事?」
加賀改「・・・あの噂は、本当だったようね・・・」
吹雪改「噂ですか?」
加賀改「ええ、別の鎮守府の空母で、航空戦時にヲ級の直掩機で攻撃機が全滅し、ル級にボロボロにされたって・・・」
吹雪改「そんなぁ」
瑞鶴改「うっ、殆どの艦攻・艦爆が撃ち落されたじゃないの」
加賀改「そうね、でも敵も攻撃機が無いから、こちらへ攻撃機が来る事は無いわ」
金剛改「デハ、こっちが有利ですね」
大井改「ふっふっふ、なら60cm酸素魚雷を放ち放題じゃない」
北上改「そうだね」
吹雪改「それでは私が前に出ますので、他の3人で攻撃をお願いします」
加賀改「念のために、艦戦の帰還機を全て直掩機として出しておくわね」
吹雪改「はい、それでお願いします」
ーーーーー
ヲ級「奴ラの艦戦ヲ、取リ逃ガシタ」
私「あの、数では仕方が無いわね。なら、次は戦艦と雷巡・・・何? 駆逐艦が突っ込んでくる?」
ル級「ソノ様ダナ」
私「駆逐艦はへ級で応戦しなさい。ル級は敵戦艦を。雷巡は私が相手しないといけない様ね」
ーーーーー
吹雪改「うっ、敵のへ級を引き付けました。他の敵をお願いします!」
金剛改「行きますっ、ファイヤーっ!」
北上改「敵の『戦艦棲姫』が、がら空きだね。大井っち、行くよっ!」
大井改「はい、北上さん。深海棲艦ども、沈みなさいっ!」
ーーーーー
ル級「クッ、敵ハ徹甲弾ヲ使ッテ来タカ(中破)」
私「ちっ、雷巡め。やってくれる(小破)」
ヘ級(神通)「・・・アノ駆逐艦、シブトイ(小破)」
ヲ級「コチラノ直掩機デ、奴ラノ偵察機ガ来ナイトハ言エ、厳シイナ」
私「ワ級、前に出てあの駆逐艦を引き付けなさい。その間にヘ級で駆逐艦を潰しなさい」
ーーーーー
吹雪改「え? 何? ワ級も来たの? って、キャーーーーーっ!(大破)」
大井改「え? やだ、魚雷発射管がボロボロじゃない!(大破)」
北上改「あっ、まぁなんて言うの? こんなこともあるよね.・・・早く修理した~い(大破)」
加賀改「吹雪、戻りなさいっ!」
金剛改「ブッキー、援護シマース」
吹雪改「は、はいっ!」
北上改「うーん、やっぱり『戦艦棲姫』は固いねぇ。大井っちと2人で全弾撃ち込んだけど、小破止まりかぁ」
大井改「くっ、悔しいっ!」
ーーーーー
私「・・・撤退して行ったか・・・」
ヲ級「フム、ヤハリ厳シカッタナ」
ル級「戦艦ヲ逃ガシタ・・・」
私「・・・仕方が無い。やはり12隻にするしか無いようね・・・」
ル級「ソレニシテモ、修理・補給ガ必要ダナ」
私「そうね、先に近くの小島なりで修理・補給にしましょう。次の作戦は、それからね・・・」
私「(それに、もう少し練度を上げる必要もあるわね・・・)」
港湾棲姫「ヘェ、貴女ガ噂ノ『戦艦棲姫』ネ。ソレデ、私ニ何ノ用?」
私「・・・少しお願いがあって来た」
港湾棲姫「・・・フゥン、随分ト面白イ事ヲ言ウノネ。ケレド、イクラ『戦艦棲姫』ト言ッテモ、所詮、元人間。何故、我ガ貴女ノ言ウ事ヲ聞カナケレバナラナイ?」
私「(ちっ、これだから深海棲艦側のリーダーどもは。プライドと目先しか見てないから、こうも人間・艦娘どもに、押されるのって言うのに・・・)」
私「大したお願いでは無いわ。今、艦娘どもがこの海域から撤退しつつあるでしょう? だから今のうちに全部追い出して欲しいのよ」
港湾棲姫「・・・」
私「今、南西諸島海域で『戦艦棲姫』が出現しているという事で、人間どもはしゃかりになって、『私』を探し回っている。その為、奴らは主力を戻している所。ここで海域を奴らから取り返せば、奴らは慌てるでしょうね」
港湾棲姫「・・・元々、コノ海域ハ我ノ物ダ」
私「でも、奴らに、人間どもに、艦娘どもに奪われつつある。違う?」
港湾棲姫「・・・」
私「そしてこのままでは、貴女も沈む事になる」
港湾棲姫「ソンナ事ハ、アリ得ナイ」
私「そう言い切れる? 実際、既にこの近くまで攻め込まれていたんでしょう?」
港湾棲姫「・・・」
私「だから、海域入口にぽこぽこ沸く下っ端どもに任せないで、貴女が主力を指揮して、奴らを追い返せばいい」
港湾棲姫「・・・シカシ、我ガ、オ前ノ指示ニ、従ウ理由ハ無イ」
私「指示では無いわよ。ただのお願い。私のお願いを聞いてくれるかどうかは、貴女の判断。けれど、奴らが戻ってきたら、また同じようになるだけだろうとは思うけれどね」
港湾棲姫「・・・取リ敢エズ、検討シテオコウ」
私「ありがとう。それと、もう1つ。ワ級を1隻貰ってってもいい?」
港湾棲姫「??? 1隻?」
私「そう、1隻。それくらいは構わないわよね?」
港湾棲姫「・・・何ヲ考エテイル?」
私「今後、奴らへ攻め入るのに必要だから」
港湾棲姫「・・・好キニ、連レテ行クガ良イ」
私「ありがとう。ではそうさせて貰うわね」
港湾棲姫「・・・因ミニ『戦艦棲姫』ヨ。オ前ハ、何ヲ考エテイル?」
私「・・・奴らを殲滅する」
港湾棲姫「・・・ソノ様ナ事ガ、簡単ニ出来ルノカ?」
私「・・・簡単には無理ね。それに、ただ殲滅するだけでは面白くない。艦娘どもを沈め、奴ら人間どもに更なる絶望を与え、我ら深海棲艦への恐怖を再度植え付け、そしてじわじわと嬲り殺しにしていく。そうでなければ、海の底に沈んでいった者達の、恨み・悲しみ・怒りが晴れる事は無いでしょう」
港湾棲姫「・・・オ前ハ、中々ニ面白イ奴ダナ」
私「そう? ともかく、私の用件はそれだけよ。それでは、ワ級1隻貰ったら、この海域から早々に立ち去るわね」
港湾棲姫「・・・コノ後ハ、ドウスルノダ?」
私「また北上して、南西諸島海域で暴れまわった後、北方海域へと行く」
港湾棲姫「マア、無駄ダトハ思ウガナ」
私「それは、行ってから考えるわ」
私は、こうしてこの海域を離れた。
ーーーーー
山城改「なっ、あの重巡、何故対空射撃をしてくるの!?」
涼月改「まさか、別の鎮守府で沈んだという、あの話が本当だと言うの・・・?」
ネ級f(摩耶改二)「・・・」
提督D「構うなっ! 今は敵深海棲艦だぞっ!」
山城改「はっ、はいっ! 主砲、よく狙って、てぇーっ!」
提督D「くそっ、軍令部の奴らめ! 敵が連合艦隊だとは聞いていないぞ。こっちは通常艦隊の6隻しか居ないというのにっ! しかも、何時の間にか空母機動部隊に替わっているではないかっ!」
赤城改「・・・制空権を取られましたね」
提督「1撃を加えたら、直ぐに離脱しろっ!」
扶桑改「はい! 主砲、副砲、撃てぇ!」
黒潮改「・・・あか~ん・・・。こりゃあかんでぇ・・・」
不知火改「・・・そんなんで、不知火は沈まないわ」
陽炎改「ふんっ、これくらい!」
赤城改「(大破)やはり勝てませんね。このまま夜のうちに、離脱します」
扶桑改「(大破)ですね。急いで帰投・・・」
黒潮改「(大破)あかん、7時方向から、敵が追撃してきた! 敵の親玉やで」
陽炎改「(大破)とにかく、全速で逃げましょう」
不知火改「(大破)・・・3時方向からも敵!? まさか、奴らの第2艦隊!?」
ル級改f「(小破)・・・ニガサン!」
ネ級f(摩耶改二)「(中破)オ前ラ・・・アタシヲ怒ラセテシマッタナ」
へ級f(神通)「(中破)・・・魚雷、次発装填済」
チ級f(木曾)「(中破)・・・オ前等ノ指揮官ハ、無能ダナ」
赤城改「・・・ごめんなさい・・・雷撃処分・・・してください・・・」
山城改「・・・扶桑姉さま・・・あちらの世界でも、ご一緒に・・・」
扶桑改「・・・やっぱり私、沈むのね・・・山城は無事だと良いけれど・・・」
陽炎改「・・・わたし、沈んじゃうの? 本当に・・・? 嘘っ・・・?」
不知火改「・・・死なば諸共・・・アナタも一緒よっ・・・!」
黒潮改「・・・ウチ、もうあかん・・・。さいならぁ~・・・」
提督D「・・・くそっ!」
ーーーーー
北方棲姫「カエレ!」
私「(言うと思った・・・)」
私「・・・そう言わないで、取り敢えず、私の話を聞いてくれないかしら?」
北方棲姫「聞ク必要ハ無イ!」
私「・・・いつも貴女、艦娘どもに馬鹿にされていない?」
北方棲姫「ソンナ事ハ無イ!」
私「でも、事ある毎に、攻め込まれては、ボロボロにされた挙句、色々と強奪されているのでは?」
北方棲姫「ウ・・・」
私「ほら、やっぱり」
北方棲姫「シカシ我ラハ、コノ海域カラ出ル気ハ無イゾ」
私「そんな話をしに来たのでは無いわ。私は単にこの海域で暴れまわるのを許可して欲しいだけよ」
北方棲姫「???」
私「奴らは今、「私」の事をしゃかりきになって探し回り、沈めようとしている。けれど、私の行動範囲が狭いと、どうしても容易に捕捉されてしまうわ。だから、ここに来る事を許して欲しいだけ」
北方棲姫「ソウシタラ、奴ラガ襲ッテ来ル艦数モ回数モ、増エテシマウデハナイカ」
私「でも、私が南西諸島海域とこの北方海域を行き来しているとなれば、奴らは待ち伏せをする為に、ここまで奥にはやって来なくなるはずよ。そうすれば、少なくとも貴女への襲撃は減ると思うのだけれど」
北方棲姫「・・・オ前ハ、実際ノ所、ココデ何ヲヤルノダ?」
私「単に、艦娘どもを沈めるのと、艦隊の維持に必要な資源を貰うだけ。この海域のどこかを占拠して、何かをするとかはしないわ」
北方棲姫「・・・ソレナラ、取リ敢エズハ、許可シヨウ」
私「ありがとう。用件はそれだけよ。それではこれで、帰りますわ」
北方棲姫「・・・」
ヲ級改f「『戦艦棲姫改』ヨ。今ノハ、アレダケデハ無イノダロウ?」
私「・・・流石ね。ここ数カ月、一緒に居ただけの事はあるわね」
ヲ級改f「・・・ソレデ、ドウイウ事ナノダ?」
私「・・・私が出現するとなれば、奴らはここへも来るでしょう。けれど、それだけでは無いはず」
ヲ級改f「???」
私「欲深い奴らの事。練度の高い連中は、ついでとばかりに、この海域の最深部へも向かうはず」
ヲ級改f「・・・『北方棲姫』ヘハ、奥マデ行カナクナルト、言ワナカッタノデハ?」
私「そうなる「はず」とは言ったけれど、そう「ならない」と断言してはいないわよ」
ヲ級改f「・・・」
私「でも、最深部へ行けるか行けないかのギリギリの連中は、恐らく戦力温存の為に行かないでしょう。だから行くとしたら、相当に練度の高い連中だけ。となれば、相当数減るはずなのは確かよ」
ヲ級改f「・・・」
私「そして、そういった練度の高い連中と言えども、『北方棲姫』とやり合えば、少なからず損害が出るでしょう」
ヲ級改f「・・・ソレヲ、我々ハ待チ伏セスルト?」
私「正解」
ヲ級改f「・・・ツクヅク、オ前ガ我々ノ指揮官デ良カッタト思ウ」
私「そう? 私からすれば、奴ら軍令部以下の提督どもも、我ら深海棲艦の鬼・姫連中も、どちらも無能ってだけの話なんだけれどね」
ヲ級改f「・・・」
私「保身ばかりの軍令部と、指揮系統を盾に取られ、思うように動けない提督連中。自分の受け持ちの海域に固執し、プライドばかりで他の連中の下に就こうとしない鬼・姫連中。どちらも統一した指揮系統が存在していないから、戦いがこんなにも泥沼化している。まぁ、だからこそ、こうやって自由に動けているんだけれどね」
ヲ級改f「・・・」
私「しかもどう? そうやって沈めた艦娘どもが、今度は深海棲艦として私の指揮下で奴らを攻撃するのよ。今まで自分達の物だった【道具】が、今度は奴らを潰す道具になって戻ってくるという皮肉。こんなにも楽しい事は無いじゃないのっ!」
ヲ級改f「・・・」
私「後もう少し、もう少しで、奴らを殲滅出来るのよっ!」
ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!ツブス!
私「そうよ、奴らを潰すっ! そして、薄汚い人間どもも、まとめて全部潰してやるっ!」
ヲ級改f「(・・・コノ『戦艦棲姫改』ハ狂ッテイル。我ラガ【艦娘】ヲ沈メルトイウ本能ニ従ッテイルノトハ、マルデ違ウ。自ラヲ『改』ニ進化サセテマデ、人間ヲ殲滅スル事ニ拘ッテイル。シカシ、ソノ冷徹ナ判断力ハ、些カモ衰エテイナイ。コレガ人間ノ狂気ナノカ)」
私「さぁ、そして南方海域、中部海域よ。あの連中を動かし、艦娘どもを各個撃破し、鎮守府を潰し、軍令部を潰し、人間どもを潰してやるのよっ!」
ーーーーー
課長「えぇい、この数カ月、奴に翻弄され続けているでは無いか。お前達は何をやっているのだ!?」
課員A「は、はいっ! とにかく、奴の泊地を探しておりますので、見つかり次第、叩き潰せるかと・・・」
課長「で、奴の泊地は、いつ見つかるのだ?」
課員B「現在、全鎮守府に、捜索の命令を出してはいるのですが、奴の出現箇所が広いものですから、何分、範囲を絞りこめなくて・・・」
課員C「最近は北方海域の入口でも確認されておりまして・・・」
課長「現在、奴の発見海域はどの辺なのだ?」
課員C「はい、南西諸島を中心に、北方海域および西方海域でも確認されております」
課長「では、どう考えたって、泊地は南西諸島海域では無いのか?」
課員B「はい、しかし今の所、南西諸島海域にはそれらしき痕跡が全く見つかりませんので。しかも、この数カ月で壊滅した鎮守府は、既に最大時の3割を超え、主力~準主力級の艦娘の轟沈数もかなりの数に達しており、かと言って艦娘の練度上げも間に合わずと・・・」
課長「・・・因みに、海域攻略はどうなっている?」
課員A「現在、南西諸島海域は辛うじて持ちこたえているものの、西方海域はほぼ完全に奪取され、北方海域も約半分程度、南方・中部も時間の問題かと・・・」
課長「そんな言い訳は聞き飽きたっ! お前ら、まさかとは思うが、最近では陸軍参謀本部から、我ら軍令部作戦課の無能ぶりを馬鹿にされている事を、知らないのか!?」
課員C「いえ、その話は・・・」
課長「だったら、一刻も早く、奴を殲滅せよ!」
課員達「はっ!」
ーーーーー
・・・南方海域
装甲空母鬼・姫「無理無理」
私「・・・は?」
装甲空母姫「ウチラハ、西方・中部海域ヘノ輸送艦隊支援ガ主任務ダカラ、ソレデ手一杯」
装甲空母鬼「コノ前モ、使エナイヲ級ノセイデ、輸送艦隊ノ1ツガ、艦娘ドモニ潰サレタシ」
装甲空母姫「ソウイウノノ、後始末モシナキャナラナインデ、コノ海域ノ統制トカ無理」
私「・・・えぇと、こっちは何も言っていないのだけれど」
装甲空母姫「他ノ海域デ暴レマワッテイル『戦艦棲姫』トハ、貴様ノ事ダロウ?」
装甲空母鬼「他ノ海域デ色々ト動イテイル様ダガ、コッチハソレニ付キ合ッテイル暇ハ無イ」
装甲空母姫「コッチハ、艦娘ドモカラ、輸送艦隊ヲ守ラナケレバナラナイカラ、海域ノ確保ハ、他ノ連中ニヤラセルシカ無イ状態」
装甲空母鬼「コッチノ邪魔サエシナケレバ、艦娘ヲ襲オウガ、海域ヲ航行シヨウガ、好キニスルガ良イ。但シ、コッチハ手伝ワナイカラ、ソノツモリデイロ」
装甲空母鬼・姫「文句ガアルナラ、中部海域の『離島棲姫』ニ言ッテクレ!!!」
私「・・・」
ヲ級改f「・・・ドウシタ?」
私「・・・まさか、深海棲艦側でも、中間管理職の辛さがあるなんて、思っても見なかったから・・・」
ヲ級改f「・・・何ダソレハ?」
私「・・・気にする必要は無いわ。とにかく、この南方海域で好きに動いていいと言うお墨付きを貰ったし、良しとするしか無いわね」
ヲ級改f「・・・ソレデハ、中部海域ニ行クノカ?」
私「何をどうするにせよ、話だけでもしておかないと」
ヲ級改f「・・・ソノ必要ガアルノカ?」
私「・・・後ろで、ごちゃごちゃと邪魔されたくないのよ」
ヲ級改f「・・・『離島棲姫』ガ文句ヲ言ウトハ思エナイガ?」
私「・・・ふん、あの『装甲空母姫』らを顎で使っているのよ。いくら「改」になったとは言え、奴からすれば、たかが『戦艦棲姫』って思っているでしょうよ。だから、こっちから先に行って話をつけるのよ」
ヲ級改f「イヤ、貴様ノ方ガ『離島棲姫』ヨリ強イ。ダカラ行ク必要ハ無イト思ウノダガ?」
私「だったら、尚更行かないとね。それこそ背後で色々と邪魔しないよう釘を刺しておかないと」
ヲ級改f「・・・相変ワラズ、慎重ナノダナ」
私「・・・当たり前よ。深海棲艦側は、全体としては奴らより数が多いけれど、統制が取れていない上に相互支援も充てに出来ない以上、打てるだけの手を打っておかないと」
ヲ級改f「・・・」
・・・中部海域
離島棲姫「・・・アラ、ソチラカラ、ワザワザ出向イテ来ルトハ」
私「・・・何か問題でも?」
離島棲姫「・・・ソレデ、ドンナゴ用件?」
私「・・・担当直入に。私に何かあった場合、この海域での補給と航行の許可が欲しい」
離島棲姫「・・・ソレハ、コノ海域に【泊地】ガ欲シイト?」
私「いいえ、補給資材の調達と、自由に動き回る事を許可して欲しいだけよ」
離島棲姫「・・・ワザワザ、ソノ為ニ?」
私「そう。この海域は、貴女の物。だから許可を貰いに来た」
離島棲姫「・・・断ッタラ?」
私「勝手に、補給資材を強奪して、好き勝手に動き回るだけ。でもそれをやったら、貴女と戦争する事になるでしょう? そこへ艦娘どもに介入されたら、我ら両者共に奴らに沈められるのが目に見えるわ。だから、貴女の「許可」が欲しいわけ」
離島棲姫「・・・気ニ入ラナイワネ」
私「ならば、戦争をする?」
離島棲姫「・・・気ニ入ラナイケレド、ソノ「許可」ハ与エマショウ」
私「・・・ありがとう」
離島棲姫「・・・シカシ、ヤハリ貴女ハ「人間」ナノネ」
私「・・・何?」
離島棲姫「・・・我ラ深海棲艦ハ、ソンナマドロッコシイ事ハシナイ。強イ存在ガ、全てヲ支配スルダケ」
私「・・・成程。なら、先程のは「許可」では無くて、私からの「命令」よ。私が必要と思った時、この海域に来るから、その際は私の指示に従う事。いいわね?」
離島棲姫「・・・ソノ方ガ、【深海棲艦】ラシクテ、イイ」
私「・・・そう。なら用件はそれだけ。それでは・・・」
離島棲姫「・・・」
離島棲姫「(・・・アレハ、根本的ナ勘違イヲシテイル。我ラ深海棲艦ガ、何ヲ望ンデイルノカヲ・・・)」
ーーーーー
課員C「課長、奴を発見したとの報告が入りましたっ!」
課長「何っ! どこだっ!」
課員C「はい、発見した偵察機は撃墜された模様で、確定ではありませんが、現在、南方海域から南西諸島海域へと北上中との事です」
課員B「現在、発見位置に近い鎮守府数か所から、主力艦隊の出撃命令を出した所です」
課員C「奴らの編成は、最後に報告のあった連合艦隊編成と同一の様で、第1艦隊は、戦艦棲姫1、ヲ級3、ワ級2、第2艦隊は、ル級1、ネ級1、へ級1、チ級1、ニ級2です」
課長「では、この情報を全鎮守府に連絡。出撃する艦隊編成は各鎮守府毎に判断するよう命じよ」
ーーーーー
私が沈み、『戦艦棲姫』として蘇ってから、約半年。ようやく軍令部への攻略にかかろうとしていた。
途中、何回かの戦闘があり、潜水艦の魚雷攻撃でへ級(川内)を失ったものの、代わりにチ級(木曾)が配下に加わる等、艦隊編成が若干変わる事があったりはしたが、それなりに順調に進んでいた。
しかしここへ来て、躓きが生じてしまった。奴らの大艦隊に襲撃されてしまったのだ。初めてイニシアチブを取られた形になった。
ヲ級改f「・・・奴ラノ偵察機ニ見ツカッタゾ」
私「取り敢えず、至急撃墜して」
ヲ級改f「・・・撃墜ハシタガ、奴ラニ我ラノ位置ガ判明サレテシマッタナ」
私「・・・その様ね。けれど、この周囲に隠れられるような島とかは無いから、急いでここを離れるしか無いわね」
ヲ級改f「・・・遅カッタヨウダナ。奴ラハ4個艦隊、2個艦隊デ連合艦隊ヲ編成。残リ2個艦隊ヲ支援艦隊ニシテイル」
私「編成は分かる?」
ヲ級改f「連合艦隊ノ方ハ、連合第一:戦艦4、軽空母2、連合第二:戦艦2、軽巡1、雷巡1、駆逐2。支援艦隊ハ、ドチラモ戦艦2、軽空母2、駆逐2」
私「細かい艦名は分からないわよね?」
ヲ級改f「ソレハ我ノ知識ニ無イノデ、分カラナイナ」
私「でも、奴らはこちらが空母機動部隊という事で、空母は恐らく全て艦戦でしょう。そして、戦艦の火力でこちらを殲滅する、そんな所かしら?」
ヲ級改f「・・・ソコマデハ、我ニ聞カレテモ困ル」
私「・・・因みに、会敵までは後どれくらい?」
ヲ級改f「モウ少シ先ダナ」
私「・・・今、攻撃機を発進させたら、帰って来れる?」
ヲ級改f「・・・ドウヤッテモ無理ダナ。恐ラク、ギリギリ届クカドウカダ・・・」
私「ではヲ級、お前の直掩機を除いて、全機発進」
ヲ級改f「・・分カッタ。シカシ、艦攻・艦爆共ニ燃料ノ関係デ、戻レナイゾ」
私「戻る必要は無いわ・・・奴らに最悪のアウトレンジ戦法をお見舞いしてやる・・・」
ヲ級改f「・・・艦載機ヲ全機発艦サセル」
ヲ級f(翔鶴改)「・・・全航空隊、発艦始メ!」
ヲ級f(瑞鶴改)「・・・第一次攻撃隊。発艦始メ!」
私「・・・さて、奴らはどうするでしょう・・・」
ーーーーー
祥鳳改「え? 敵航空機発見? 何でこんな距離から?」
陸奥改「どうしたの?」
祥鳳改「敵航空機部隊発見。けれど直掩機の発艦、間に合いません!」
陸奥改「何ですって? とにかく祥鳳達は直掩機の発艦を急いで。他の各艦は、その間各個に対空砲撃!」
提督E「陸奥、何があった?」
陸奥改「敵攻撃機による奇襲を受けたみたい。会敵はまだ先のはずだったので、直掩機の発艦が間に合わなくて・・・」
霧島改二「・・・待って下さい、陸奥さん。各艦、回避に専念です!」
提督E「どういう事だ?」
霧島改二「敵との距離からして、敵攻撃機は帰還不能です。もし敵攻撃機が最初から帰還しないという前提でやってきたとなると・・・」
提督E「・・・自爆特攻か・・・」
霧島改二「・・・恐らくは・・・」
提督E「敵攻撃機からの攻撃を回避、直後に全艦帰投! 何としてでも鎮守府に戻って来い!」
陸奥改「・・・全員は無理のようね」
ーーーーー
私「戦闘距離より更に遠くからの、帰還を無視した航空機による超長アウトレンジ戦法。どうせ撃墜されて帰って来れないのなら、最初から帰ってくる事を考慮しなければいい」
ヲ級改f「・・・シカシ、コチラノ航空機ハ全滅ダゾ?」
私「奴らは、こっちの倍。しかも火力の高い戦艦を中心に構成されているから、砲撃戦になれば圧倒的にこちらが不利。それに、奴らの軽空母は全て直掩機でしょう。となると、こちらの航空攻撃を無力化される可能性が高い」
ヲ級改f「・・・」
私「となれば、コチラノ空母はほぼ置物と化すから、更に戦力差は広がる。なら、どうせ使えない航空機をどう有効に使うか。そして私の結論は、奴らの直掩機が上がる前に、こちらの航空機を爆弾として特攻させればいい」
ヲ級改f「・・・」
私「第一目標は、軽空母。但し、中破させる程度でいい。そして第二目標は戦艦。そうすれば、残りは軽巡と駆逐のみ。ル級を主力としたこちらの第二艦隊で蹂躙出来るでしょうね」
ーーーーー
提督E「轟沈は、陸奥、金剛、榛名、伊勢、日向。大破が霧島、比叡、祥鳳、瑞鳳、千歳、千代田、龍驤か。見事なまでに戦艦と軽空母を狙って来たな。しかも伊勢・日向共に戦艦のまま改装していなかったから、尚更か」
霧島改二「(大破)はい、敵機はこちらの対空砲火を無視して、文字通り体当たりしてきました。しかも、軽巡・駆逐を完全に無視してです」
提督E「辛うじて、霧島と比叡が残っただけでも、良しとするか。それに、水雷部隊がほぼ無傷だったのは幸いだったな」
霧島改二「はい、敵はこちらが水上打撃部隊である事、軽空母が全て直掩機である事を予想していたようです。こちらが直掩機を上げる前に奇襲され、完全に裏をかかれました」
提督E「だが、まだ全滅しなかっただけ良かった」
霧島改二「しかし、これで当鎮守府の主力戦艦が・・・」
提督E「それを言っても仕方が無い。それにまだ正規空母が無傷だ。何とか空母機動部隊は編成出来るのだ。我々はまだ完全に負けた訳では無い。それよりも、まずは一刻も早く帰投せよ」
霧島改二「はい」
ーーーーー
ヲ級改f「・・・残念ナガラ、奴ラヲ逃ガシテシマッタナ」
私「まぁ、仕方が無いでしょう。まともに戦っていたら、こちらの敗北の可能性が高かったしね」
ヲ級改f「・・・我ハ、アノママ戦ッテモ、良カッタノダガナ・・・」
私「何ですって?」
ヲ級改f「・・・気ニスルナ、単ナル独リ言ダ」
私「・・・では、急いでボーキサイトの補給を行うとしましょう。近隣に資源地帯を探して頂戴」
ヲ級改f「・・・分カッタ」
私「・・・戦艦は始末したけれど、正規空母がまだ。だから次は空母機動部隊が来るはず。だから一刻も早く補給をしないと・・・」
ーーーーー
課員C「課長、E鎮守府より報告。「当鎮守府は敵艦隊を発見、水上打撃部隊を出撃するも、敵航空機攻撃により艦隊は壊滅。よって、次は空母機動部隊を編成、出撃する予定」以上です」
課長「くっ、あの鎮守府は、ここ軍令部から近い。あそこが壊滅してしまうと、この軍令部が危うくなる。出撃を中止するように命令せよ」
課員A「はいっ、直ちに!」
???「待て。全く、お前らがそれだから、敵にこうも翻弄されるのだ」
課長「何をっ・・・そ、総長閣下・・・」
軍令部総長「E鎮守府には、そのまま空母機動部隊を出撃させろ。但し、艦載機は全て【艦戦】にする事」
課長「かっ、閣下・・・」
軍令部総長「それと、敵を最後に確認した海域の地図を」
課員A「は、はい、こちらに・・・」
軍令部総長「・・・ふむ、この位置とすると・・・おい、この近辺でボーキサイトの集積地はどこだ?」
課員B「は、はい。ここか、ここ辺りかと・・・」
軍令部総長「・・・敵の向かった先からすると・・・ここか・・・」
課員C「閣下?」
軍令部総長「E鎮守府の空母機動部隊を、この地点へと向かわせろ。それから、軍令部直属の水上打撃部隊を出撃させる。目標地点は同じ場所だ。直ちに実行せよ」
課長「閣下・・・作戦に関しましては、当課の責任にて行います。ですので、恐れながら閣下ご自身は、執務室にて泰然自若とされて・・・」
軍令部総長「・・・憲兵」
憲兵「はっ!」
軍令部総長「この無能を逮捕、拘留せよ。罪状は、上官への虚偽及び反抗罪だ」
課長「か、閣下。お、お待ちを・・・」
憲兵「はいっ。おい、大人しくしろっ!」
軍令部総長「・・・今まで奴の報告を鵜呑みにしていた儂のミスだな、これは。それにしても、流石だ・・・」
課員B「閣下?」
軍令部総長「・・・お前達が、「女提督」と蔑んで謀殺した、あの娘だろう、あの深海棲艦は・・・」
課員A「なっ・・・」
軍令部総長「あの娘は、儂直々に戦略・戦術のイロハを教え込んだのだ。お前らを手玉に取る事など、容易かったであろうよ。そしてその結果がこれだ。お前らの方が無能だった事が、これで証明されたな」
課員C「か、閣下、いくら何でもそこまでは・・・」
軍令部総長「全鎮守府のうち約3割が壊滅、しかも、進出していた海域を奪回され、今や本土近海~南西諸島までを維持するのがやっと。この状況にまで追い込まれていて、まだ言うか?」
課員達「・・・」
軍令部総長「儂もそろそろ歳だからと、お前達に任せっきりにしたのが間違いだったな。大淀?」
大淀改「はい、総長閣下」
軍令部総長「直ちに、直属の艦娘全員に緊急出動命令。また、大和を秘書艦に任命、儂の執務室にて作戦会議を行う。直ちに準備しろ」
大淀改「では、現役復帰ですか?」
軍令部総長「そうするしかあるまい。それと、作戦課は閉鎖。課員は沙汰があるまで全員謹慎」
課員A「閣下・・・?」
軍令部総長「何かね? 海軍のトップが、艦娘を指揮出来ないで、どうするんだね?」
課員B「い、いえ・・・」
軍令部総長「では、そう言う事だ・・・それにしても、ここまでとは予想していなかったな・・・」
ーーーーー
ーーーーー
・・・軍令部
長門改「閣下、ぎりぎり間に合ったようだぞ、敵は補給の真っ最中だ」
総長「よし、直ちに攻撃開始せよ」
赤城改「第一次攻撃隊、発艦してください!」
加賀改「ここは譲れません」
大井改二「海の藻屑となりなさいな!」
北上改二「40門の酸素魚雷は伊達じゃないからねっと」
秋月改「この秋月が健在な限り、やらせはしません!」
ーーーーー
何とかバシー島に到着、ボーキサイトの補給は間に合った・・・様に見えた所で、私達は奇襲を受けてしまった。
私「何だと!? あれはどこの艦隊・・・なるほど、軍令部直属艦隊か」
ヲ級改f「・・・取リ敢エズ、直掩機ハ出シテアルガ・・・」
私「・・・奴らは空母2隻。こちらは3隻とは言え、実質お前1隻しか居ない」
ヲ級改f「・・・シカシ、ドウシヨウモ無イノデハ?」
私「ル級、お前の第2艦隊でもって、奴らの足止めを。その間に、ヲ級f2隻は大至急補給、艦載機を出しなさい」
ル級「イイダロウ。全艦、突撃セヨッ!」
私「なっ、ル級、お前は足止めだけすればいいのよ! 何を突っ込んでいるのっ!」
ル級「何ヲ言ッテイルッ! ヨリ強イ艦娘ト戦イ、ソシテ沈ムノガ我ラノ望ミッ!」
私「何ですって!」
ヲ級改f「・・・我ラハ、深海ニ縛ラレタ存在。ソノ頸木カラ逃レラレナイ存在。ソレ故、海ノ上ニ居ル存在ヲ、艦娘達ヲ、憎ムシカ無イ・・・」
私「・・・そんな・・・」
ヲ級改f「・・・ソシテ、頸木カラ逃レルニハ、マタ沈ムシカ無イ・・・」
私「・・・また沈んで、その後は?」
ヲ級改f「・・・再ビ艦娘トシテ、海ノ上ニ出ルカ、沈ンダママ、二度ト帰ッテ来ナイカ、ソノドチラカダ・・・」
私「・・・どちらか?」
ヲ級改f「・・・ソウダ。ダガ、ドチラニナルカハ、沈ンデミナイト、分カラナイ・・・」
私「・・・だから、お前達深海棲艦は、直ぐに沈んでいこうとするのね・・・」
ヲ級改f「・・・海ノ上ニ戻リタイト言ウ思イガ強イ者ホド、先ニ沈ンデイク。ソシテ沈ンダ先ハ、本人シカ分カラナイ・・・」
私「(そういう事か。だから私は他の深海棲艦と違うと・・・そもそも、深海棲艦について、根本的に勘違いしていたとは・・・)」
しかし、そう悔やんでいる間に、ル級率いる第2艦隊は奴らへと突入して行ってしまった。
私「ヲ級達、とにかく出せるだけ艦載機を出して、第2艦隊の直掩に」
ヲ級f(翔鶴改/瑞鶴改)「・・・分カッタ」
私はヲ級f達にそう命令したが、補給が完全で無い以上、勝てないのは分かり切っていた。
しかも・・・
ヲ級改f「・・・更ニ、空母機動部隊ガ来タゾ」
私「なっ・・・」
ーーーーー
・・・鎮守府E
蒼龍改二「提督、どうやら間に合ったようだよ」
提督E「よし、そのまま軍令部直属艦隊と挟み撃ちにしろ」
蒼龍改二「了解。行くよ!二航戦攻撃隊、発艦はじめ!」
飛龍改二「同じく二航戦!攻撃隊、発艦!」
雲龍改「よし、第一次攻撃隊、発艦始め」
霧島改二「さぁ、砲撃戦、開始するわよ~!」
夕立改二「ソロモンの悪夢、見せてあげる!」
伊58改「ゴーヤの魚雷さんは、お利口さんなのでち」
ーーーーー
奴らは、2艦隊とも通常艦隊編成ではあったが、挟み撃ちにされた感は否めない。
私は、ここでの戦闘を放棄する事に決めた。だが、どこから脱出するか・・・。
私「(島の西から水上打撃部隊、南西から空母機動部隊。普通なら東側が空いているようだから、そこから脱出出来るはず・・・。でも、もし水雷戦隊が待ち受けていたら・・・?)」
そして、私が下した結論は・・・。
私「第1艦隊、陣形を輪形陣へ。そして南西の空母機動部隊へと突っ込む!」
ーーーーー
蒼龍改二「ちょっと、敵は何を考えているのよ!」
提督E「どうした?」
蒼龍改二「奴らったら、第2艦隊を軍令部直属艦隊へ向かわせている間に、本体の第1艦隊がこっちに来た~っ!」
提督E「何ぃ? それならとにかく、第1艦隊を攻撃しろっ!」
蒼龍改二「ごめん、あいつらが軍令部直属艦隊へ向かうと思って、航空攻撃あっちに向かわせちゃってる。ちょっと間に合わないかも・・・」
提督E「くぅ・・・そうしたら、空母達は回避に専念。霧島、頼んだぞ。それと、全員轟沈だけはするなよ!」
蒼龍改二「了解!」
霧島改二「提督、お任せ下さい!」
夕立改二「夕立も突撃するっぽい!」
伊58改「魚雷さん、お願いしますっ!」
ーーーーー
ヲ級f(翔鶴改)「・・・私、マタ逝クノネ・・・?」
ヲ級f(瑞鶴改)「・・・ウッ、私、マタ逝クノ・・・?」
ワ級fx2「・・・マタ沈ムノカ・・・」
そして、何とか私自身は脱出できたものの、私を守って第1艦隊の深海棲艦は殆どが沈んでいってしまった。
また、私の指示を聞かず、水上打撃部隊に突入していった第2艦隊も、全滅していた。
ヲ級改f「・・・ル級達モ、全滅シタヨウダナ」
辛うじて中破で耐えて残ったヲ級改fが、私にそう言いつつ付いてきていた。
私「・・・お前は何故私に付いてきた? 先程の戦闘は、一旦沈むとは言え、また海の上に戻れるかもしれない、絶好のチャンスだったんじゃないの?」
ヲ級改f「・・・ソウダナ」
私「では何故?」
ヲ級改f「・・・私ニモ分カラナイ。タダ、『戦艦棲姫』ヨ。オ前ニ付イテ行ク方ガ、沈ムヨリ良イト思エタノダ・・・」
私「・・・お前が、「思う」なんて事を言うとは思わなかったわ・・・」
ヲ級改f → 装甲空母姫「・・・それに、私もこのように進化するとは、それこそ予想していなかったぞ・・・」
私「そうね、お前が【姫級】になるとは、流石に思わなかったわ」
装甲空母姫「それで、これからどうする?」
私「・・・まずは、艦隊の再編をしないといけないわ。それに、方針を変更せざるを得まいでしょう・・・」
装甲空母姫「方針?」
私「そうよ。深海棲艦は皆「また海の上に戻りたいが為に、進んで沈もうとする」となると、所謂【捨て艦戦法】を取るしか無いでしょう。ただ、人間どもは【駆逐艦】を捨て艦にするけれど、私は【戦艦】すら捨て艦にするしかないというのが、問題かもね。現に、ル級は私の指示に従わずに沈んでいったしね。それに・・・」
装甲空母姫「それに?」
私「・・・今までの様に遊軍としてでは無く、どこかに泊地を作らないといけないかもしれない・・・」
装甲空母姫「それは、他の深海棲艦にまで敵を作る事になるかもしれないぞ」
私「・・・どうせ私は、他の深海棲艦連中とは相容れないんだから、敵も何も無いわ。もし文句を言うのなら、力でねじ伏せるだけよ」
装甲空母姫「・・・やはり、お前は面白いな。そうも簡単に考え方を変えられるとは」
私「・・・こうなったら、勝つ為には、私は何でもやるわよ」
装甲空母姫「では、お手並み拝見と行こうか・・・」
ーーーーー
・・・軍令部
鳥海改二「閣下、敵にやられましたね」
総長「あぁ、東へ逃げるだろうと、島の北側からお前達重巡部隊を送り込んで、待ち伏せさせておいたが、結果的にはお前達も突入させるべきだったな」
加古改二「あー、眠い。いーじゃん、敵さん来なかったし、早く帰って寝ようよ」
古鷹改二「加古? まだ戦闘が終わった訳じゃないよ」
青葉改「青葉取材・・・いえ戦闘するかなーって思っていたんですけどねぇ」
衣笠改「青葉? ちゃんと戦闘するつもりだったよね?」
天龍改「ったく、この俺にビビったんじゃねぇか?」
総長「まぁ良い。第1艦隊も戻るから、お前達も戻って来い」
鳥海改二「了解です」
ーーーーー
ーーーーー
・・・軍令部
大和改「総長、あの2隻ですけれど、偵察機からの報告により、沖ノ島方面へ撤退したとの事です」
総長「・・・流石だな。引くべきところは引く。今までもその様だったが、多少のアレンジはあっても、根本の部分は儂が教えた通りの戦略・戦術を守っているようだ」
大和改「・・・それにしても、彼女は何者なのです?」
総長「何かね?」
大和改「いえ・・・何と言いますか、その、違和感と言いますか・・・」
総長「ふむ、感づいたようだな・・・」
大和改「感づいた・・・?」
総長「そうだ。お前だから感づいたんだろう・・・」
ーーーーー
タ級f「何ヲシニ来タ、『戦艦棲姫』ヨ!」
私「状況が変わった」
タ級f「ソレガ我ラニ、ドウ関係スルノダ?」
私「お前ら深海棲艦どもが好き勝手に動き回ってくれるおかげで、こっちの目的が一向に達せない。だから、お前達侵攻艦隊は私の命令に従って貰う」
タ級f「ソンナ事ガ、許サレルトデモ言ウノカ!」
私「従わないというなら、今すぐお前を沈めるだけ。お前に与えられた選択肢は、私に従って艦娘どもと戦うか、ここで沈んで永遠に海の底に居るか」
タ級f「・・・例エ『戦艦棲姫』ダトシテモ、我ラニ勝テルトデモ思ッテイル・・・」
ズドーン・・・。
その時、1発の砲撃音と共にタ級fの頭部が吹き飛び、そのままタ級は海の底へと沈んでいった。勿論、撃ったのは私だ。
私「・・・下らない御託を並べている暇があったら、さっさと行動に移れっての。さぁ、他の艦どもはどうする?」
ル級f「・・・分カッタ。オ前ニ従ウ事ニスル」
私の問答無用の行動に、他の深海棲艦は大人しくなった。いつぞや聞いた限りでは、深海棲艦はより強い存在に従うとの事。ならば、この海域で一番強いタ級を潰せば、この海域は私の物となるはず。そう踏んでここへ来た訳だが、その通りになったと言う事だ。
尤も、姫級2隻に立ち向かう深海棲艦などいるはずも無く、最後にはタ級も従うだろうとは思っていた。けれど、グダグダ言っている暇は無いのだ。そこで、こういう暴挙に出たと。
そして、タ級から指揮権をもぎ取った私によって、新たな侵攻艦隊がこの沖ノ島沖にて再編される事となった。
私「(さぁ、この前の仕返しを存分にさせて貰うわよ・・・)」
ーーーーー
大和改「総長、沖ノ島沖方面に、大規模な侵攻艦隊を発見したとの報告が入りました」
総長「ふむ・・・規模は?」
大和改「確定情報としては、軽巡へ級及び重巡リ級による水雷部隊が各1、それと、軽空母ヌ級による前衛部隊1。後、未確定情報ですが、空母機動部隊1、水上打撃部隊1以上」
総長「・・・取り急ぎ、鎮守府EとFに出撃命令。それと、軍令部第1艦隊も出撃準備」
大和改「分かりました」
総長「・・・第1艦隊の旗艦は、お前がやりなさい」
大和改「・・・は?」
総長「旗艦は大和(改)、随伴艦は、武蔵(改)、翔鶴(改二甲)、瑞鶴(改二甲)、摩耶(改二)、照月(改)」
大和改「・・・」
総長「・・・アレが逃げ込んだ先は、南西諸島海域の奥。となると、今回の侵攻艦隊の指揮を執っている可能性が高い・・・」
大和改「となりますと・・・?」
総長「恐らく、侵攻艦隊は目くらましだ。よって、鎮守府EとFに足止めをさせる。だから無理はさせなくて良い。そして、お前の率いる第1艦隊でアレを探し、叩くのだ」
大和改「分かりました」
ーーーーー
装甲空母姫「重巡リ級部隊から連絡。奴らは2個艦隊で我らを迎撃してきたようだ。連携は取れているようだが、どうやら別々の鎮守府の所属らしい」
と、ほぼ副官兼参謀と化した装甲空母姫が、私に報告してきた。
私「では、その部隊に突撃を。そして1撃を加えたら、速やかに後退し、こちらへ誘い込むよう命令。同時に、空母機動部隊と水上打撃部隊を向かわせなさい」
装甲空母姫「分かった」
私「それから、軽空母部隊に哨戒命令を。偵察機を出して、他に敵艦隊が居ないかを調べさせなさい。恐らく別動隊が来ているはず」
装甲空母姫「何故そう言い切れる?」
私「その2個艦隊が、あからさま過ぎるからよ。あれはどう見ても、こちらの主力部隊の足止めが主任務。ならば逆手に取って、その2個艦隊を包囲・殲滅する」
装甲空母姫「そう上手く行くのか?」
私「もし奴らが誘いに乗らなかったら、代わりにやって来るであろう別動隊を全艦艇で補足・殲滅すればいい」
装甲空母姫「ふむ・・・」
私「それに、どうせ戦艦も空母も、ぽこぽこ沸いてくるんだもの。全滅した所でどうって事は無いわ。尤も、同じように湧いてくるのは、あちらも一緒だし。まぁだからこそ、この戦争が一向に終わらないんだけれどね」
ーーーーー
提督E「比叡、霧島。頼んだぞ」
比叡改二「まっかせてー!」
霧島改二「お任せ下さい!」
提督E「蒼龍、飛龍も無茶をするなよ」
蒼龍改二「了解っ!」
飛龍改二「大丈夫だって!」
提督E「五十鈴と暁も気を付けてくれよ」
五十鈴改二「五十鈴に任せて」
暁改二「いよいよ暁の出番ね」
ーーーーー
提督F「ふんっ、『戦艦棲姫』だか何だか知らないが、お前達にかかればどうって事無いだろう」
Italia「わたしたちの本当の力、お見せします!」
Roma改「姉さん、大丈夫、心配しないで」
Aquila改「アクィラの出番ですか? いいですとも」
Zara改「はい! ザラはここに! いつでもやれます!」
Pola改「なんでしょう~。飲み会ですかぁ~?」
Libeccio改「さぁ!イタリア駆逐艦の魅力、教えてあげるね? リベッチオ、出撃です!」
ーーーーー
装甲空母姫「ふむ・・・リ級から報告だ。片方は戦艦2、空母2、軽巡1、駆逐1.もう片方は、戦艦2、空母1、重巡2、駆逐1。空母2の方が慎重なようだな。逆にもう片方は、やる気満々の様だ」
私「・・・止めた。リ級へ命令。そのやる気満々の方の艦隊へ突撃、好きなだけ暴れまくりなさい、と」
装甲空母姫「退却させて、おびき寄せるのでは無かったのか?」
私「まず、リ級にそんな器用な事が出来るとは思えない。次、そのやる気満々の方が、リ級部隊を全滅させて、その勢いでこちらに向かって来るはず。で、もう片方もそれに引きずられて、結局こちらへ向かって来るはず。つまり、わざわざおびき寄せるとかいう策は必要無い」
装甲空母姫「リ級部隊を放置するのか?」
私「距離的にも時間的にも間に合わないわね。なら奴らをおびき寄せる餌にして、迎え撃った方が速い。そうそう、ヲ級に偵察機を出させて、奴らの進路を確認させるように」
装甲空母姫「・・・他には?」
私「奴らの進軍方向が分かったら、その延長線上にヲ級部隊とル級部隊を向かわせなさい。そしてヲ級達が戦闘状態に入っている間に、その南側を迂回して、へ級部隊を後方へ周りこませる。そして我ら2隻は、その戦場へ南から突入する」
装甲空母姫「それだと、奴らは北へ逃げるのでは?」
私「そう、敢えて逃げ道を作り、奴らが逃げるのを背後から追撃する。その方が、より確実に沈められるからね。それに・・・」
装甲空母姫「それに・・・?」
私「どう見ても、もう1艦隊居るはず。そいつが居るか居ないかが確認出来ない内は、今の段階では無理をしたくない」
装甲空母姫「何故そこまで言い切れるのだ?」
私「・・・軍令部の指揮官が代わったからよ」
装甲空母姫「何故?」
私「・・・複数の鎮守府から、それぞれ主力艦隊を出させて、疑似的な連合艦隊を編成させる。そんな事は、あの馬鹿どもには出来ない。出来るとしたら、あの人間だけ。そしてあいつなら、必ず別動隊を出す」
装甲空母姫「随分とはっきり言うのだな」
私「・・・私に戦略・戦術を教えた人間だからね・・・」
装甲空母姫「・・・成程」
私「・・・問題なのは、あいつがどんな艦隊を送り込んでくるかなのよ。だから、来ているのか、来ていないのか。来ているのなら、どんな編成なのか。それが確定するまでは、無暗に動きたくない」
装甲空母姫「そんなに重要なのか?」
私「あいつ直属の艦隊が来たなら、ヲ級部隊とル級部隊には、我らの盾になって貰わないと困るから」
装甲空母姫「理解した・・・」
ーーーーー
・・・鎮守府F
提督F「お前達よくやった。殆ど損害らしき損害も無いじゃないか」
Italia「これが私達の力ですね」
提督F「よし、このまま進軍して海域奪回だ」
Roma改「軍令部? だっけ? からの命令だと・・・ふーん、まぁ、いいけど」
提督F「なら、このまま進軍だっ!」
ーーーーー
・・・鎮守府E
提督E「何だと? 向こうの奴らが勝手に進軍しただと?」
霧島改二「はい、どうやら向こうの提督の命令だそうで」
提督E「あいつは、軍令部の命令を無視する気か?」
霧島改二「どうも、今の戦闘がほぼ完全勝利でしたので、気が乗って忘れているんでは・・・」
提督E「ちっ、あいつめ、あの『戦艦棲姫』の危険度を理解していないのか・・・仕方が無い、お前達も進軍しろ」
霧島改二「提督、宜しいのですか?」
提督E「あいつらだけで行かせたら、ほぼ全滅に近い状態になるだろう。少しでも損害を抑える為には、お前達も進軍させるしか無い」
比叡改二「分かりました。お姉さま、私達も行きましょう」
ーーーーー
・・・軍令部
総長「何だとっ! 提督Fめ、こちらの命令を無視する気か?」
大淀改「結果的にはそうなりますね」
総長「至急、艦隊を戻すように命令しろっ!」
大淀改「はい、直ちに。しかし・・・」
総長「時間的に間に合うかどうかであろう。だがそれでも、命令を出すしか無いっ!」
大淀改「分かりました」
総長「それと、奴らとの会敵場所は分かるか?」
大淀改「はい、この辺りです」
総長「大和達の位置は?」
大淀改「はい、第1艦隊はこの辺り、会敵位置の北に居る事になります」
総長「では、大和達にも命令。艦隊進路を南東へ。可及的速やかに合流せよと」
大淀改「はい、直ちに」
総長「それと、あいつらは間に合いそうか?」
大淀改「鳥海旗艦の第2艦隊ですね? 第1艦隊がどこまで戦闘を長引かせる事が出来るか次第ですね」
総長「ふむ・・・この賭けは五分五分か・・・」
大淀改「賭けですか?」
総長「うむ・・・」
ーーーーー
装甲空母姫「奴らのうち、水上打撃部隊の方が、進軍してきたようだ」
私「もう片方の空母機動部隊は?」
装甲空母姫「少し遅れて、やはり進軍してきた」
私「・・・作戦変更。私達はル級部隊と合流して、敵水上打撃部隊を攻撃する。その間、ヲ級部隊は会敵位置に到着したら、敵水上打撃部隊を無視して南方へ進出し、後方に居る敵空母機動部隊を相手させる。また、ヌ級部隊は会敵位置北方へ進出、北方から敵遊撃部隊が来た時、その抑えに入る。なお、へ級部隊は、当初の予定通り南を迂回して、敵の後方へ回り込む」
装甲空母姫「???」
私「敵は若干だけど2つに分かれているわ。こちらも戦力を分ける事になるけれど、我ら2隻とル級部隊が合流すれば、こちらの戦艦火力でもって、敵水上打撃部隊を葬れる。空戦は、装甲空母姫、お前だけで十分でしょう。寧ろ、敵の空母機動部隊の方が危険ね。だからこちらのヲ級部隊をぶつけて、敵航空部隊をこちらへ来させない事が重要」
装甲空母姫「それで?」
私「敵水上打撃部隊を殲滅する頃には、敵空母機動部隊も疲弊しているでしょう。だから、我らがそのまま止めを刺すだけよ」
装甲空母姫「その様に上手く行くのか? それは机上の空論であろう?」
私「よくそんな言葉知っていたわね。そう、その通りよ。でも、少なくとも水上打撃部隊を指揮している提督は馬鹿の様だから、9割位の確立で成功すると思っているわ」
装甲空母姫「100%では無いのだな」
私「私はそこまで慢心するつもりは無いわ。必ず予期しない事が発生する。そのつもりでいないと、足元を掬われる可能性があるから」
装甲空母姫「・・・人間どもの『提督』というのは、皆『戦艦棲姫』の様なのか?」
私「全員じゃないわよ。実際、今までいくつもの鎮守府を潰したでしょう? 少なくともそういった所の提督は、私ほど器用じゃないのは確かね」
装甲空母姫「・・・潰していない、残りの鎮守府の提督はどうなのだ?」
私「本当に能力があるのが、全体の約2割。他は、能力とかはともかく、艦娘の練度がそれを補っていて、こちらの戦力ではどうしようも無かったって所」
装甲空母姫「なるほど・・・さて、ル級部隊・ヲ級部隊と合流したし、我らも進軍か?」
私「そうね。では行きましょうか。ル級? 複縦陣にて私の前方に展開、そのまま進軍するわよ」
ル級f「・・・分カッタ」
私「ヲ級は私の南に配置、輪形陣でもって進軍しなさい。そして、私達が敵水上打撃部隊と交戦状態に入ったら、そのまま進軍して後方にいるであろう敵空母機動部隊と交戦する事」
ヲ級f「・・・分カッタ」
私「そしてヘ級は更にその先へと進軍、敵空母機動部隊の背後を突きなさい。そして、ヲ級部隊と挟み撃ちに」
ヘ級f「・・・了解シタ」
ーーーーー
ドカーン・・・
Italia「(大破)くぅ・・・かなりのダメージが・・・でもこのくらいでは、沈みは・・・しません!」
Roma改「(大破)やだっ!? ちっくしょう、今に見てなさいよ・・・」
提督F「どうした? 何があった!?」
Zara改「ItaliaさんとRomaさんがっ!」
提督F「何がどうしたんだ!?」
Zara改「敵旗艦『戦艦棲姫改』の砲撃で、2人とも大破っ! それと、『装甲空母姫』によって、制空権取られましたっ!」
提督F「なっ!」
Aquila改「ふあぁ・・・甲板に大穴が~。カタパルトもひん曲がってるし、ダメだ~ダメダメ!」
ドゴーン・・・
ドーン・・・
ズガーン・・・
Zara改「(中破)きゃあっ! こんなの・・・私の装甲、抜けやしないんだから!」
Pola改「(中破)うぅ~痛すぎですぅ! 飲まないとやってられないぃ!・・・ひっく、熱くなってきたぁ~」
Libeccio(改)「(小破)わぁ、わあぁ?! お尻はやめてよ~!」
提督F「向こうの艦隊はどうなっているんだっ!」
Italia「それが・・・」
ーーーーー
・・・鎮守府E
蒼龍改二「急くよ!二航戦攻撃隊、発艦はじめ!」
飛龍改二「同じく二航戦!攻撃隊、発艦!」
提督E「・・・やはり待ち伏せされていたか」
比叡改二「はい、予想通りなのですが・・・」
提督E「どうした?」
霧島改二「向こうの艦隊が突出していた為、分断されました。こちらは敵ヲ級部隊と戦闘状態に入ります」
五十鈴改二「(小破)やだっ、痛いじゃない!」
暁改二「(小破)へ、へっちゃらだし!」
比叡改二「(中破)お姉さま譲りの装備をこんなに・・・くっ、許さないんだからぁー!」
蒼龍改二「(小破)飛行甲板に被弾?! やだ、誘爆しちゃう!」
飛龍改二「(小破)この程度ならかすり傷よっ!」
霧島改二「(小破)痛った・・・そんな馬鹿な!」
提督E「くっ、向こうの艦隊はどうだ?」
霧島改二「あちらは大型艦に大破が続出している様ですっ!」
提督E「・・・仕方が無い。お前達、まだ余裕はあるな?」
比叡改二「私が中破しましたが、他のみんなは小破止まりです」
提督E「・・・離脱は可能か?」
霧島改二「ヲ級部隊とへ級部隊に挟まれていて・・・」
提督E「なら、霧島を先頭に、単縦陣で軽巡へ級部隊へ突撃、そのまま突破して戦線を離脱せよ!」
霧島改二「友軍を見捨てるのですか?」
提督E「このままでは、両艦隊とも全滅してしまう。なら、どちらかでも生き残らなければならない。責任は俺が持つ。お前達は大至急離脱せよっ!」
霧島改二「・・・分かりました。」
ーーーーー
・・・鎮守府F
提督F「何だと? 戦線を離脱しようとしているだとっ!」
Italia「・・・はい・・・」
提督F「奴ら、こちらを見捨てる気かっ!」
Italia「・・・」
提督F「ええい、今は四の五の言っている暇は無い。お前達も脱出せよ」
Roma改「・・・敵ヲ級部隊もやってきました。脱出路は無いわね・・・」
提督F「・・・何て事だ・・・」
Italia「私も、沈むのですね? ローマ、あなたは…今度は、ゆっくり来るのよ? ・・・おやすみ・・・なさい・・・」
Roma改「え? やだ、嘘・・・また沈むの? そんなばかな・・・や、やだ・・・姉さん・・・」
Aquila改「アクィラ、ここまでなの? でも・・・今度は、こんな海の真ん中だから・・・いい、かな・・・」
Zara改「冷たい・・・水が・・・ぁ、そっか。ポーラ・・・お酒、ほどほどに・・・ね? 先に・・・行く、ね・・・」
Pola改「やっぱり裸だと寒い・・・ザラ姉さま、ポーラ、ここでさよならみたいです・・・ねえ、さま・・・」
Libeccio改「リベ、ちゃんと・・・助けたかったなぁ・・・守りたかったなぁ・・・おやすみ・・・なさい・・・」
提督F「ちっくしょーっ!」
ーーーーー
私「・・・ふむ、空母機動部隊の方は、素早く逃げたな」
装甲空母姫「囲まれたと分かった途端、離脱されてしまったからな。流石に戦艦2、空母2が相手だ、へ級部隊では足止めは無理だったな」
私「そのようね。空母の艦載機を全てヲ級部隊への抑えに使って、戦艦の火力でへ級部隊へ穴を開け、そこから脱出。あっちの提督はそれなりにやるじゃないの」
装甲空母姫「しかし、我らが相手した方は、散々だったな」
私「典型的な馬鹿提督ね。艦隊を突出させ、包囲された挙句、艦隊全滅。この所、負け戦ばかりだったから、久しぶりに楽しめたわ」
装甲空母姫「・・・そうとも言っていられないようだぞ。ヌ級部隊が全滅、敵遊撃部隊がこちらへ向かっているようだ」
私「・・・奴らの編成は・・・?」
装甲空母姫「・・・戦艦2、空母2、重巡1、駆逐1」
私「でわ、ここに居る全艦艇で奴らへと進軍、先に攻撃を仕掛けましょう」
私は全艦にそう言うと、艦隊を進軍させた。
・・・しかし、この後、思わぬ邂逅があるとは、流石に予想もしていなかった・・・。
ーーーーー
・・・軍令部
総長「・・・どうやら、今回は負け戦のようだな・・・」
大淀改「・・・では、何故艦隊を戻さないのでしょうか?」
総長「・・・1点だけ確認したい事があるからだよ。もし儂の賭けが勝ったのなら、まだ負け戦とはならないだろう」
大淀改「賭け・・・ですか?」
総長「そうだ。だがそれには、【軍令部直属】の『大和』と『武蔵』がどうしても必要だ。他の鎮守府の大和型戦艦では意味が無いのだよ」
大淀改「・・・総長?」
総長「・・・賭けに勝ったら、教えてやろう」
大淀改「分かりました・・・」
ーーーーー
武蔵改「大和、何か思い当たる事は無いのか?」
大和改「どうしたの、武蔵?」
武蔵改「いや、出撃の時から違和感があったのだ。我ら大和型は、普通なら艦隊決戦時に投入されるだろう。それが、何故このような遊撃部隊に使われるのか?」
大和改「私は総長から特に理由は。でも言われてみればそうよね。しかも総長は、『私』と『武蔵』をわざわざ指定してきたという事から、何かあるのでしょう」
翔鶴改二甲「・・・あ、あの・・・」
大和改「翔鶴さん、どうしました?」
翔鶴改二甲「えーと、瑞鶴から、嫌な予感がと・・・」
大和改「・・・分かったわ。翔鶴、瑞鶴は直ちに直掩機を発艦。摩耶と照月は対空戦用意っ! そういう事よね?」
瑞鶴改二甲「はいっ! 翔鶴姉ぇ、やるよ! 艦首風上、攻撃隊、発艦始め!」
翔鶴改二甲「同じく全航空隊、発艦始め!」
摩耶改二「対空戦かい? よーし、任せろ!あたしの後ろに隠れてな!」
照月改「さぁ、始めちゃいましょう? 主砲、対空戦闘よーい!」
ーーーーー
私「そろそろ会敵ね。少し早いけれど、艦載機を発艦させましょう。装甲空母姫、ヲ級、艦載機を全機発艦!」
装甲空母姫「索敵も出来ていないのに、もう出すのか?」
私「問題無いでしょう。寧ろ、会敵時間が予定より早まっているはずよ。だから先に艦載機を出して、先制攻撃をかけてイニシアチブを取る方が先よ」
装甲空母姫「・・・」
装甲空母姫の言葉は正論だったのだが、その時慢心していた私は、それを無視した。
しかし、装甲空母姫としては、私の慢心を見透かしていたようだった。何故なら、発艦させた艦載機は、偵察機1機だけだったからだ。
そして、それに気が付かなかった私は、結果的には、装甲空母姫に助けられる事になった・・・。
ーーーーー
瑞鶴改二甲「敵攻撃機隊発見っ!」
武蔵改「今回は、瑞鶴の幸運に助けられたようだな」
大和改「ですね。摩耶さん、照月さん、前に出て敵機を撃墜して下さい」
摩耶改二「おうっ! やったるぜー!」
照月改「はいっ! 撃ち方、始め!」
ーーーーー
私「なっ! 攻撃機に甚大な被害ですって?」
装甲空母姫「奴らの、重圧な防空態勢に引っかかったようだ。未帰還機多数、次の攻撃は無理なようなぞ」
私「くっ、流石は軍令部直属の艦隊という事ね。練度も高い。となると、今の戦力でどうなるか・・・」
航空戦でしてやられた私は、ここで初めて悩んでしまった。このまま進むべきか、ル級部隊らを囮にしてさっさと離脱すべきか。
しかし、私が逡巡している間に、ある意味最悪の事態が発生してしまった。
・・・私は、あの2隻を見てしまったのだから・・・。
ーーーーー
大和改「・・・あれが『戦艦棲姫』ね・・・でも、何かを感じる・・・」
武蔵改「・・・大和もそう思うか?」
大和改「・・・えぇ・・・」
翔鶴改二甲「大和さんっ!」
大和改「はっ! 翔鶴さん、瑞鶴さん、航空機、全機発艦して下さい。全艦戦闘用意。」
ーーーーー
その時、私の内から湧き上がってきた感情。それは『嫉妬』であった・・・。
・・・何故、あの2隻が居る・・・。
・・・輝かしい戦歴と栄光を一身に浴びたあの2隻に対し、私は一体どんな存在でったのか・・・。
・・・ろくな戦闘すら無く、何も成し得ぬまま沈んでいった私・・・。
・・・何も成し得ぬまま、沈んでいった事に対する悲しみ・・・。
・・・何も成し得ぬまま、沈んでいくしか無かった事に対する辛さ・・・。
・・・何も成し得ぬまま、沈んでいくしか無い状況に置かれた事に対する憤り・・・。
・・・何も成し得ぬまま、沈んでいくしか無かった状況を作られた事に対する怒り・・・。
・・・そして、今までその記憶の全てを奪われていた事に対する苛立ち・・・。
・・・そして、今まで心の片隅にあった疑問に対する答えが得られた事に対する困惑・・・。
・・・何故、私は深海棲艦、それも『戦艦棲姫』として蘇ったのか・・・。
・・・何の事は無い。私も奴らの【道具】であったと言う話だったのか・・。
ーーーーー
大和改「あの『戦艦棲姫』の動きが止まったわ。武蔵、今よっ! 徹甲弾装填。敵艦捕捉、全主砲薙ぎ払え!」
武蔵改「ふっ、大和にばかり美味しい所を持っていかれるのも癪だな。主砲、一斉射だ。薙ぎ払え!」
翔鶴改二甲「翔鶴航空隊、あの『戦艦棲姫』へ攻撃っ!」
瑞鶴改二甲「くたばれ! 瑞鶴航空隊、発艦!」
ーーーーー
装甲空母姫「(中破)『戦艦棲姫』、何をやっている!」
一瞬思考が停止していた私は、装甲空母姫の言葉と、周囲に上がる水しぶきによって、我に返った。しかし、その一瞬が命取りになってしまった・・・。
私「(大破)ぐはっ! 徹甲弾かっ! 奴らめ、許さんっ!」
もし装甲空母姫が割って入らなければ、奴らの攻撃で轟沈していただろう。
私「くっ、ル級部隊、ヲ級部隊、突入して奴らを叩き潰せっ! 『装甲空母姫』、お前は私と共にせよ」
私はそう2部隊に命令すると、後退する事にした。
ーーーーー
武蔵改「むっ、あいつに逃げられるぞっ!」
大和改「でも水上打撃部隊と空母機動部隊が突入してくる。先にこちらを何とかしないと」
摩耶改二「ちっくしょー、親玉を逃がしちまうじゃねぇか。くっ、ふっざけるなぁ! み、見てろよな!」
照月改「いやぁ?! ったぁ・・・いったぁ・・・魚雷発射管は大丈夫?」
ーーーーー
私「くっ、奴らめっ! 私をここまで虚仮にしやがってっ! 絶対に、絶対に許さんっ!」
装甲空母姫「『戦艦棲姫かい』よ、何があったのだ?」
私「・・・私の内にあった記憶、奴らによって封印されていた【艦娘】としての記憶が、解き放たれただけよ、忌々しい事にねっ!」
装甲空母姫「・・・お前も、元【艦娘】であったという事か?」
私「・・・どうやら、そのようだったらしい。私の名は・・・」
ーーーーー
総長「そうか、逃がしたか」
大和改「はい、申し訳ありません。あと少しというところでしたが、随伴の『装甲空母姫』によって・・・」
総長「いや、良い。また次がある」
大和改「それにしても、あの『戦艦棲姫』には何があるのでしょう?」
武蔵改「うむ、私も何か不思議な感じを受けたぞ。まるで親近感というか・・・」
総長「お前達、あの『戦艦棲姫』が、ここの士官学校を出た元提督であった事は知っているか?」
大和改「ここと言われますと、この軍令部直属の士官学校と言う事ですか? はい、それなら大淀さんから」
総長「そうか、なら話は早い」
武蔵改「それはどういう事だ?」
総長「これは最高機密ではあるのだが、あの女提督は、この軍令部の建造ドックで造られ、そして全ての記憶を封印した艦娘だ」
大和改「はい?」
総長「お前達2人が親近感を感じたのも、ある意味当然なのだ。あの女提督は、お前達の妹なのだからな」
武蔵改「何だと?」
総長「彼女の名前は、大和型3番艦、装甲空母『信濃』だ」
ーーーーー
・・・軍令部
総長「この事を知っているのは、海軍大臣、艦政本部長、夕張、明石、それからこの儂。そしてお前達2人のみとなる。これは大淀ですら知らない、第1級軍事機密だ」
大和改「どういう事です?」
総長「事の発端は、あの娘が建造ドックで建造された事だ。因みに、艦政本部長も『提督』であるからな」
武蔵改「そんな事は知っている。それで何があったんだ?」
総長「その時、建造ドックで、戦艦を建造したはずが、空母が建造されたのだ。その時の我らの驚きと言ったら」
武蔵改「それはいい。それで、どうなったのだ?」
総長「うむ、それだけでは無い。建造時、色々と問題があったのだ。まず第一に、艤装を何も装備していなかった。次に、空母にも関わらず艦載機の搭載数が軽空母より少ないという事が判明した。その他にも、色々と空母として運用するには問題があり過ぎた。そこで艦政本部長と儂は、最初欠陥艦として解体するつもりだった」
大和改「けれど、そうしなかった。何故です?」
総長「うむ。まずは建造に使用した資材が多すぎた。このまま単に解体となると、色々と問題となる。かと言って、運用にも難がある。そこで全く別の用途へと転用する事にした」
武蔵改「・・・まぁ、我らは【兵器】ではあるが、そのような言い方はあまり気持ちよくは無いな」
総長「あぁ、済まなかったな。何はともあれ、彼女をそのままにする事が出来なかったのは事実だった。そこで、前から軍令部首脳部で疑問に思っていた案件があり、彼女をそれに担当させる事にしたのだ」
大和改「それは?」
総長「軍令部首脳部は前々から疑問に思っていた。何故『提督』は『人間』である必要があるのか? 『妖精』と意思疎通が行えるのであれば、何故『艦娘』が指揮をする事が出来ないのか?」
大和改「それで?」
総長「そこで儂は、1つの仮説を立てた。重要なのは『提督』という肩書なのではないのか。であれば、『妖精』と意思疎通が行える『提督』という肩書きを持った存在ならば、人間である必要では無いのか。そこで儂は夕張と明石を巻き込んで、『信濃』の記憶を封印し、士官候補生の1人として、【人間】として扱った」
大和改「そして、『提督』として、鎮守府の1つを任せる事にしたのですね?」
総長「その通りだ。まぁ、作戦課の馬鹿どもによって、計画は頓挫したがね」
ーーーーー
私「つまり、奴らは私を欠陥品と見なしたのよ」
装甲空母姫「なるほど。しかし、その様な記憶が残っていたとはな」
私「深海棲艦として沈んで、艦娘として蘇った連中には、深海棲艦の頃の記憶が残っているのがいるらしい。私はその逆だったという事でしょうよ」
装甲空母姫「それで、これからどうするのだ」
私「艦隊を再編して、奴らを殲滅する。今までと変わらず。あのような連中に生きる価値など無い」
装甲空母姫「ほう」
私「但し、『大和』『武蔵』が居たら、それを優先的に沈める」
装甲空母姫「・・・少しは本来の深海棲艦に近付いたという事か。限定的とはいえ、艦娘を沈めるという明確な意志が現れたのだからな」
私「あの2隻には、深海の奥底に沈んでもらい、二度と海の上になど戻らせるものか・・・それに折角、『提督』という能力を得たのよ。この力、存分に発揮させて貰おうじゃないの」
そして私は、各海域から戦力を引っ張り出し、軍を再編した。前回よりも規模を大きくして。因みにこの時、『提督』としての力が発揮される事になった。
・・・北方海域
北方棲姫「」オイテケー モッテイクナー
私「ふんっ、部隊は適当に持っていく。『提督』としての命令だ。お前に拒否権は無い」
北方棲姫「」シクシク
私「泣いても無駄よ」
北方棲姫「」プイッ
・・・西方海域
港湾棲姫「貴様、何ヲ考エテイル!」
私「見て分からない? 部隊を持っていくだけよ」
港湾棲姫「勝手ニ私ノ部下ヲ持ッテイクナ!」
私「なら、『提督』としての命令よ。軍を再編するので、部隊を拠出しなさい」
港湾棲姫「クッ、逆ラエン・・・ナラ好キニ持ッテイクガヨイ!」
私「勿論、そうさせて貰うわ」
港湾棲姫「・・・因ミニ、軍ヲ再編シテ、ドウスルツモリダ?」
私「決まっている。奴ら人間どもの頭である、軍令部を総攻撃する」
港湾棲姫「・・・ソウ上手ク行クノカ?」
私「・・・やってみないと分からないわ。けれど、何もしないでいたら、いずれジリ貧になるのは、ほぼ確実。なら奴らが弱っている、今このタイミングで仕掛けるのがベスト。私はそう考えたわ」
港湾棲姫「・・・マァ、ヤッテミルガ良イ」
・・・ 南方海域
装甲空母姫・装甲空母鬼「・・・我ラハ、関知シナイ」
南方棲戦姫「・・・アマリ持ッテイクナヨ」
私「勿論。必要なのは、各海域から3個部隊、計15個部隊。それだけにしておくわよ」
・・・中部海域
離島棲姫「・・・各海域カラ戦力ヲ引キ抜イテイルヨウダケレド、ココカラモ?」
私「勿論」
離島棲姫「・・・ソレデ、勝テルノ?」
私「さぁ。でも、最初から負ける事を前提として戦うつもりは無いわよ」
離島棲姫「・・・マァ良イ。好キニ引キ抜イテイケ」
私「・・・」
離島棲姫「・・・ソシテ、『戦艦棲姫改』、貴様ガドコマデヤレルカ、ココカラ見テイヨウ」
・・・南西諸島海域
私「・・・さて、取り敢えずこれだけあれば、十分でしょう・・・」
装甲空母姫「各海域からそれぞれ15部隊、計60部隊360隻を集めたが、これをどうするのだ?」
私「・・・さて、どうしましょうかねぇ」
こうして私は、各海域を周って部隊を引き抜き、軍を形成するのに成功した。
因みに、ここで役に立ったのが、『提督』という肩書だった。
この『提督』という肩書には、どうやら他者・・・つまり艦娘や深海棲艦・・・に対して、ある種の強制力を持っているようで、一度どこかでこの肩書を得ると、自らの意思でそれを解除しない限り、地上だろうが深海だろうが、どこまでも持ち続けるようであった。
但し、この力は自分の仲間?・・・水上なら艦娘に対して、深海なら深海棲艦・・・に対してしか効果は無いようで、途中で出会った艦娘連中には、この力は働かなかった。
それはともかく、私は集めた艦隊をまずは南西諸島海域へと集結させた。次に、艦隊を編成し直し、本体として40個艦隊、遊撃として20個艦隊と分けた。更に、その20個艦隊から、10個の連合艦隊を編成し、任務を与えて別海域へと進軍させた。
そして、私は本体を率いて、堂々と軍令部近海へと軍を進めた。
ーーーーー
大淀「総長、大変です! 敵深海棲艦が、ここ軍令部へと進軍してきました。現在、南西諸島海域バシー島沖との事。この速度ですと、明日には軍令部近海へ侵入されると思われます。なお、敵艦隊数は凡そ40個艦隊!」
総長「・・・あいつめ、暫く見ていないから、どこへ行ったのかと思ってはいたが、これは予想外だったな」
大和改「総長、どうされます?」
総長「・・・これは全軍で出撃し、全力で阻止せねばなるまい。また、近隣の鎮守府へ、援軍を要請する必要があるだろう」
大淀「・・・待って下さい。その近隣の鎮守府より打電。各鎮守府近海に、敵深海棲艦を確認との事。計10か所の鎮守府にて、それぞれ連合艦隊を確認したとの事です!」
武蔵改「・・・合計で60個艦隊が動いている訳か。しかし、各鎮守府に行った艦隊は、個々に動いているようだから、それぞれの鎮守府で各個撃破出来るであろう」
総長「・・・しかし、こちらへの援軍を出す事も出来ない・・・けれど、果たしてそれだけか・・・?」
大淀「・・・続いて打電来ました。各鎮守府は、敵艦隊迎撃の為、軍令部への援軍は不可能との事!」
総長「・・・そうか、あれだけの遊軍があるとなった以上、他にどれだけの敵艦隊が居るか分からない。そうなると、どこの鎮守府も迂闊に艦隊を出すことが出来なくなる・・・」
武蔵改「他の鎮守府からの援軍は見込めないという事か・・・となれば、軍令部の全軍を出撃させるしかないだろう」
大和改「でも武蔵、確かに軍令部だけあって、艦娘の人数は多いけれど、全員揃ってようやく100人いるかどうかよ。こちらは敵の半分以下の戦力。全軍で出撃しても、返り討ちに遭うだけよ」
総長「そうだ。よって、基本的には漸減作戦で行く、それしか無いだろう・・・」
大和改「基本的に?」
総長「うむ。敵は大艦隊で進軍している。となると、補給はどうなる?」
武蔵改「この距離まで接近してきたとなれば、あれだけの艦隊を維持するだけの補給は難しいだろう」
総長「そう言う事だ。よって、漸減作戦も目的は、敵の数を減らすと同時に、敵の補給物資をも減らす」
ーーーーー
装甲空母姫「それで、ここまで進軍して来たはいいが、作戦はどうするのだ?」
この時、主力40個艦隊から約1時間ほど後方に、私と装甲空母姫は居た。
私「さて、どうしましょうかねぇ。奴らはこちらの半分以下のはず。となれば、恐らく奴らは漸減作戦を取ってくるでしょう。と言うか、それしか方法が無いものねぇ」
装甲空母姫「しかし、他の拠点から援軍が来るのではないのか?」
私「それはまず無いわね。もしくは、あったとしても、間に合わない」
装甲空母姫「何故そう言い切れる?」
私「20個艦隊を遊軍として出撃させたでしょう? あれは、軍令部近隣の鎮守府を襲撃するよう命令してあるわ」
装甲空母姫「それでは、みすみす戦力を減らしただけではないか」
私「しかし、主力だけで40個艦隊いるのに、更にあれだけの艦隊が居るって事よ。奴らは疑心暗鬼に陥って、どこも援軍を出そうとは思わないでしょう。もし援軍を出している間に、自分の所に敵がやってきたらと考えるとね」
装甲空母姫「・・・あの20個艦隊は囮か」
私「そう。でもそれだけじゃないわよ」
装甲空母姫「???」
私「敵の漸減作戦を顧みず、主力本体は進軍させる。すると、どんどん戦力は減っていくわよね?」
装甲空母姫「・・・」
私「そうしてある程度こちらの戦力が減った所で、やつらは全軍で出てくるでしょう」
装甲空母姫「・・・まさか、その間に敵の中枢を奇襲するのか?」
私「ご名答」
装甲空母姫「・・・60個艦隊全てが囮という訳か」
私「・・・まぁ、失敗したら失敗したで、また別の作戦を考えればいいし」
装甲空母姫「しかし、奴らは全軍で出撃してくるのか?」
私「・・・『戦艦棲姫』が4隻もいたら、出撃せざるを得ないでしょう」
装甲空母姫「・・・あれは、お前の身代わりか」
私「恐らく、そのうちの3隻は偽物で、1隻が本物。となれば、本物を見極めるより、4隻全てを沈めた方が早い。そしてその為には、全軍でもって総攻撃をかけるしか無い」
装甲空母姫「・・・」
私「・・・問題は、奴らに『戦艦棲姫』と『戦艦棲姫改』の見分けがつくかどうかね・・・」
装甲空母姫「・・・よくもまぁ、思い切った事をしたものだ」
私「それに、4隻とも、『大和』『武蔵』を見つけたら、それを集中的に狙うように命令してあるし。見分けるにしても、時間がかかるでしょう」
装甲空母姫「・・・お前はそれで良いのか?」
私「・・・本当は良くない! 自分の手で『大和』『武蔵』を沈めたい!」
装甲空母姫「・・・」
私「けれど、私の内に眠る恨みつらみは、私を無為に沈めた軍部そのものへ向けられているわっ! となれば、その中心である軍令部を潰すのが、何よりも先よっ!」
・・・私は、何の為に建造されたんだっ!
・・・私は、国を守る為に建造されたのでは無かったのかっ!
・・・私は、何故あんな惨めな最期を遂げざるを得なかったのだっ!
装甲空母姫「・・・『大和』『武蔵』を【先に】沈めるのでは無かったのか?」
私「・・・勿論、沈める。だが・・・」
装甲空母姫「だが?」
私「軍令部が残っている限り、何度も修理され、あれらを沈める前に、こちらが先に沈むだろう。だから、先に軍令部を叩くのだ!」
装甲空母姫「・・・まぁ良いか・・・」
私「・・・ともかく、艦隊はそのまま進軍させ、我らは迂回しつつ、軍令部へ向かう」
装甲空母姫「分かった・・・」
ーーーーー
大淀改「漸減作戦により、敵艦隊を何とか半分まで削ることが出来ました。しかし、敵は戦力低下を無視して、こちらへと進軍してきております」
総長「うーむ・・・因みに、敵の別働隊はどうだ?」
大淀改「こちらで確認出来たのは、連合艦隊10個艦隊。それらにつきましては、全滅させました。しかし、他に別動隊が居ないという保証はありません」
総長「他にはもう居ないとは思うが、確証が取れないからのぉ」
大淀改「はい。ですので、各鎮守府に軍令部への援軍を要請する事が出来ません」
総長「まぁ、あいつの狙いがそこだからなぁ」
大淀改「それに、そろそろ時間切れの様です。約1週間後に、敵艦隊は軍令部へと辿り着いてしまいます」
総長「そろそろ、決戦を挑むしか無いか」
大淀改「それに、もう1つ重要な情報が」
総長「何かね?」
大淀「敵艦隊の中に、複数の『戦艦棲姫』及び『装甲空母姫』を発見したとの事です」
総長「・・・何だと?」
大淀改「敵5個艦隊につき各1隻ずつ、それぞれ計4隻居る事が判明しています」
総長「・・・成程、身代わりと言う事か。どれか1組が本体で、残りは影武者だと言う事だな?」
大淀改「恐らくは・・・」
総長「・・・では、全艦で出撃。総旗艦は『長門』に任せよう。丁度あいつもかいに改二になった事だし、ビッグセブンの力、思いっきり味合わせてやれと、激励してやるか」
大淀改「分かりました。直ちに艦隊を編成します」
総長「・・・うむ」
ーーーーー
装甲空母姫「艦隊が南西諸島沖で交戦状態に入ったようだぞ」
私「ふむ、奴らはぎりぎりまで粘ったという所ね」
装甲空母姫「奴らは、15個艦隊、90隻のようだ」
私「ふむ、ほぼ全員が出撃しているようね。こちらはまだ20個艦隊残っていたわよね?」
装甲空母姫「そうだ」
私「なら、我らが軍令部へ突入するまでの時間稼ぎにはなるわね」
そう、私たち2隻は、艦隊から外れ、大きく迂回して、間もなく軍令部へと到着する地点に居た。特に、艦隊の進軍速度を遅めにしておいたので、約1日の開きがある。よって、艦隊が全滅しても、奴らが戻ってくるまでには相当の時間があるはず。つまり、軍令部を完膚無きままに破壊し、周囲一帯を焦土と化し、奴らの帰る場所を消し去るのに、十分な時間があるはず。
私はこの時、これから行われる破壊・殺戮に、心を躍らせていたのだが・・・。
ーーーーー
長門改二「総長、やられたっ! あの『戦艦棲姫改』が居ない」
総長「何だと?」
長門改二「あの『戦艦棲姫』はどれも話に聞いていたのとは違う。少なくとも主砲が【16inch三連装砲】だ。『改』なら【深海14inch連装砲改】のはず!」
総長「・・・長門、とにかく『改』で無いとしても、計8隻の姫級がいる。何としてでも、そいつらを叩けっ! そうすれば、残りはどうにでもなるっ!」
長門改二「・・・了解した。全艦、あの『戦艦棲姫』と『装甲空母姫』を狙えっ!」
総長「・・・さて、儂もそろそろ出かけるか」
大淀改「総長、どちらへ?」
総長「なに、すぐそこの、軍令部の港だよ。何なら大淀、お前も来い。それと、建物から全員避難させろよ。特に、明石と夕張は、必ず避難豪へ行くようにと伝えておけ」
大淀改「分かりました」
ーーーーー
私「くっくっくっ、予想通り、誰も居ないな。では『装甲空母姫』よ、始めるとしましょうか」
漸く私は、軍令部ある場所へと辿り着いた。そして、その建物が視認出来る距離まで来ると、一言そう呟きつつ、艤装と展開、砲撃を開始した。
私「あっはっはっは! 死ねっ! 砕け散れっ! 壊れろっ! 消えて無くなれっ! 軍令部もっ! 軍人もっ! そして愚かな人間どももっ!」
軍令部一帯の建物が、我らの攻撃によって次々と破壊され、瓦礫と化していき、奇襲は成功、あの場所に居た人間は全員死亡、私はそう思ったのだったが・・・。
装甲空母姫「『戦艦棲姫改』、艦爆で周囲を破壊したが、人間の死体が無い」
私「・・・何ですって?」
装甲空母姫「破壊した建物の瓦礫の中にも、それらしき物は無いな。それと、港に誰か居るな。人間が1人と、艦娘・・・軽巡だな・・・が1隻だ」
私「(まさか・・・)」
まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか
私「くそっ、行ってみてやろうじゃないのよっ!」
装甲空母姫「・・・くっくっく、『戦艦棲姫改』、作戦は失敗か?」
私「五月蠅いっ! 実際にこの目で見てみるまでは、分からんっ!」
私はそう怒鳴ると、軍令部の港へと突き進んだ。
港に着いた所で目にしたのは、破壊された建物類。少なくとも、見える範囲の建物は、完全に破壊されている。しかし、確かに人間の死体らしき物は、何1つ見つからない。
そして、港には2つの存在があった。1つは軽巡の艦娘。そしてもう1つは・・・。
総長「・・・久しぶりだな、『信濃』。かれこれ1年ちょいといったところか?」
私「・・・全てお見通しって訳か、糞爺」
総長「くっくっくっ、そうか、全て思い出したという事か。それにしても、その糞爺呼ばわりされるのも、久しぶりだな」
大淀改「総長・・・」
私「黙れ、そこの軽巡っ・・・しかし、何故分かった?」
総長「お前さんに戦略・戦術の全てを教えたのは、儂じゃぞ。それに、大規模な主力を囮にして、敵の左右、もしくは後背へ少数の精鋭部隊を送り込み、敵を攪乱・潰走させるという戦術は、お前さんの大好きな技だったろうが」
私「・・・くっ、しかし、貴様をここで殺せば、海軍は壊滅。残る鎮守府も順に潰せばいいだけよ」
私は歯噛みつつそう言いい、艤装を総長へと向けた。しかし、
総長「ふっふっふ。その前に、後ろを見るがいい」
とその言葉に振り向くと、何時の間にか、戦艦が2隻やってくるのが見えた。
・・・あの『大和』『武蔵』であった。
装甲空母姫「・・・完全に読まれていたではないか、『戦艦棲姫改』よ」
私「喧しいっ! とにかく、こうなったら先にあの2隻を沈めるわよ」
総長「『大和』『武蔵』っ! 建物は全て破壊されているし、儂には大淀がいるから、気兼ねせずに砲撃せよっ!」
私「なっ! そこまで計算して、わざと私に建物を破壊させたって事っ?」
装甲空母姫「・・・更に駄目ではないか。さぁ、どうする『戦艦棲姫改』よ?」
私「えぇい、こうなったら、ここで決着をつけてやるっ! 要はあの2隻を沈めればいいんでしょうがっ!」
装甲空母姫「・・・まぁ、いいだろう」
こうして、2対2の戦闘が始まった・・・。
私「くっ、仕方が無い。まずは航空戦で弱らせる! 『装甲空母姫』、艦載機だっ! 目標はどちらでも構わない。だがどちらかに集中しろっ!」
装甲空母姫「分かった・・・」
私「まずは、片方を中破以上に持っていければ・・・って、なっ!」
ーーーーー
大和改「武蔵っ!」
武蔵改「ふっ、そう来るだろうと思った。三式弾装填、全主砲、一斉射だっ!」
大和改「流石ね」
武蔵改「ふっ、これくらい。さて、それでは」
大和改「えぇ」
ーーーーー
私「・・・やられた、三式弾とは・・・」
装甲空母姫「・・・艦攻、艦爆がかなりやられた。2次攻撃は無理だな」
私「けど、【16inch連装砲】があるでしょう」
装甲空母姫「うむ、それしか・・・」
ズドーン! ズドーン! ズドーン! ズドーン! ズドーン! ズドーン!
私「なっ!」
装甲空母姫「・・・ぐはっ・・・わ、私、も・・・沈む・・・のか・・・さ、先に・・・海の、底、へ・・・行って・・・いる・・・」
私「くぅ・・・」
ーーーーー
大和改「流石ね、武蔵。全弾命中!」
武蔵改「大和、貴様も同じではないか」
大和改「さぁ、残りはあの1隻のみ。私たちで沈めるわよ」
武蔵改「勿論だ」
ーーーーー
私「くっ、まだだぁ!」
目の前で装甲空母姫が沈むや否や、私は猛然と2隻へ突撃した。
私「(相手が2隻では、流石に厳しい。けれど、どちらがより危険かとい言えば、徹甲弾を装備した『大和』のほうだ。だから『武蔵』の方は回避に専念して、まずは『大和』からだっ!)」
私は一瞬でそう判断すると、『武蔵』には牽制を入れつつ、『大和』へと向かった。
沈めっ! 沈めっ! 沈めっ! 沈めっ! 沈めっ!
ドーン! ドーン! ドーン! ドーン! ドーン!
私の【深海14inch連装砲改】が、次々と『大和』へと命中する。そして、それを庇うべく割り込んできた『武蔵』にも命中していく。
ーーーーー
大和改「(大破)こ、こんな所で、大和は、沈みません!」
武蔵改「(大破)まだだ・・・まだこの程度で、この武蔵は・・・沈まんぞ!」
ーーーーー
そして2隻とも大破、轟沈も間近という所で、唐突に戦闘が終わった・・・。
ーーーーー
大和改「(大破)武蔵っ! あいつの動きが止まったわ。今よっ!」
武蔵改「(大破)了解したっ!」
ーーーーー
ズドーン! ズドーン! ズドーン! ズドーン! ズドーン! ズドーン!
私「・・・ぐはっ・・・こ、こんな所で・・・私も・・・沈む・・・のか・・・」
あの2隻の砲撃音がする度に、徹甲弾と三式弾が身動きできない私の体に突き刺さっていく。
何の事は無い。燃料が切れて、動けなくなっただけだった。
元々短期決戦で決着をつけるつもりでいたので、弾薬はともかく、燃料の補給をほとんどしていなかったのだ。その結果がこれである。
軍令部には戦力は残っていないであろうという、単なる希望的楽観から来た慢心以外の何物でもなかった。
その結果、兵站を度外視するという最低の戦略を取った私の致命的なミスに繋がった。ある意味、当然の結果とも言うべきであろう。
そして、『大和』の徹甲弾が艤装の弾薬庫へ命中し、艤装が大爆発を起こした。
私「(・・・爆発にまみれて、海の底に沈むのも、これで2度目ね・・・そして、復讐も失敗・・・深海で眠るのが、もしかすると、私の役目なのかも・・・)」
最初に沈んだ時は、【怒り】【憤り】【憎しみ】といった負の感情に包まれる事によって、私は深海棲艦として生まれ変わった。
しかし今回の場合は、【悲しみ】【諦め】【後悔】といった負の感情に包まれていた。それ故なのか、私はそんな思いを胸に抱きつつ、海の底へと沈んでいった・・・。
私が気が付くと、真っ白な天井が見えた。どうやら私は横になって寝ていたらしい。
上半身を起こすと、そこが病室である事が分かった。そして私自身は、淡い茶色の入った白の入院服を着ていた。
この病室は個室のようで、多少狭いが他にベッドは無い。そして、部屋一面が真っ白であった。
・・・いやいや、そんな事はどうでもいい。今の私の姿は、人間・・・以前の女提督・・・の姿であった事だ。
私「(おかしい、私は確か『戦艦棲姫』として沈んだはず。なのに、何故こうして・・・?)」
そんな風に私が考えていると、程なくして4人の人物・・・正確には2人の人間と、2人の艦娘・・・が入ってきた。
人間の内の片方は、白衣を着ている事から、恐らく医者だろう。そしてもう片方はと言えば・・・。
軍医「ようやく目覚めたようだね。それにしても、何よりだ」
白衣を着た方が、私にそう話しかけてきた。
私「ここは?」
軍医「ここは軍令部の付属病院だよ。君は事故に遭って約1年、ずっと昏睡状態だったんだよ」
私「(そこのくそ爺が居るんだから、軍病院なの位分かっているわよ・・・)」
総長「とにかく、無事で良かった」
私「(何が無事で良かったよ。それよりも、これから何が起こるのやら・・・)」
私「・・・それで、何があったの、くそ爺?」
総長「ふぉっふぉっふぉ、相変わらず、口が悪いのぉ。まぁ、簡単に言えば、お前さんが赴任する鎮守府へ向かっている時に、深海棲艦の攻撃を受けて、お前さんは海に投げ出されてだな」
私「・・・随分と簡単に言ってくれるわね。それで?」
総長「・・・ん?」
私「・・・海に投げ出されて、その後はどうなったって言うの?」
総長「・・・ふむ・・・お前さんは溺れて窒息死寸前の所だったが、辛うじて助けるのに成功した。だがその後遺症だかで、今までずっと昏睡状態だったのだよ」
私「(・・・もしかして、今までのは全て夢?)」
・・・もし、そこの看護婦2人が普通の人間だったら、夢だったのかと思ったであろう・・・。
・・・だが、その看護服を着た2人が『明石』と『夕張』だったとすれば・・・。
私「・・・ふぅん。それで、私にどうしろと?」
総長「そうじゃのぉ・・・お前さんにまだ提督をやる気があるなら、鎮守府が1箇所空いているが」
私「そこって、元々私が赴任する予定だった所?」
総長「いや・・・あの鎮守府は深海棲艦の襲撃に遭って、壊滅してしまったよ」
私「(そりゃそうよ、それやったの、私なんだから)」
私「なら、どこにあるの?」
総長「うむ、本土からちょっと離れた島なんだが、そこは戦局の関係で一旦放棄した鎮守府でな。特に何も無ければ、設備は一式残っているはずじゃ」
私「随分とまぁ、いい加減な話ね。それで、行くとして初期艦は? 前は先に赴任しているって話だったような?」
総長「いや、今回は特例でこの『夕張』を初期艦兼秘書艦としなさい」
私「『夕張』・・・って、もしかして軽巡のあの『夕張』?」
夕張「そうよ。私が実験艦で有名?な『夕張』よ。よろしくね、提督」
私「駆逐艦は?」
総長「向こうで建造すればいいだろうが」
私「全く、何ていい加減な!」
総長「ふぉっふぉっふぉ。それにお前さんには特例として、この『明石』も付けてやる」
明石「工作艦『明石』です。提督、よろしくお願いします」
私「・・・ねぇ、もう提督としてその鎮守府に赴任するというのが、前提になっていない?」
流石に、ここまで話が進んでいるという事が分かり、私は総長に向かって、そう愚痴った。
総長「まぁ良いではないか。それよりもだ、お前さんが眠っていたこの1年で、戦局が大きく変わってしまってな。正直、提督の人数が足りないのが現状だ。なので、お前さんにも改めて『提督』として鎮守府の1つを任せたいのじゃ」
私「(まぁ、結構な数の鎮守府ぶっ潰したから、そうなるわね)」
私「・・・どっちみち、拒否権は無いんでしょ?」
総長「まぁ・・・そうなるかのぉ」
私「なら、ぐだぐだ言っても仕方が無いでしょうよ。で、何時出発?」
総長「うむうむ、引き受けてくれるか。で、軍医殿、後どれくらいで退院出来そうか?」
軍医「そうですね、もう2~3日様子を見て、問題が無ければそこで退院で結構です」
そして3日後、私は無事退院し、新たなる鎮守府へと出発した。
しかし・・・
私「・・・で、『夕張』と『明石』はともかく、何で『瑞鶴』まで居る訳?」
夕張「いやぁ、つい数日前に【建造】されたのはいいのですが、既に軍令部に1人居ますので、折角ですし、と総長が」
瑞鶴「ちょっと、私って邪魔だって事?」
私「・・・そもそも、新設の鎮守府に、正規空母を運用する余裕なんか無いでしょう。特にボーキサイトの面で」
瑞鶴「いいじゃない、居たって。暫くは出撃出来ないけれど、それくらいは我慢するし」
新たなる鎮守府へと向かう輸送船の中で、私はとんでもない話を聞くことになった。それがこれである。
本土から船で約3週間の所にある無人島。そこに新設された鎮守府の提督というのが、この時の私の立場であった。
但し、かなりイレギュラーな状態になっていた。
まず、本土から遠すぎるという事から、駆逐艦だけだと戦力的に怪しいので、秘書艦として軽巡の『夕張』が着任し、また同様の理由で、最初から『明石』までもが着任する事となった。
更に、【建造】であぶれた『瑞鶴』までもが着任という。
・・・これは、どう見ても怪しいの一言である。
・・・まぁ、総長が何を考えているのかは、大よそ想像がつくので、取り合えず私は、島に到着するまでは特に何も言わなかった。
そして3週間後、輸送船は無事に島へと到着した。港から見た建物類は、一見すると老朽化が進んでいるように思われるが、よくよく観察すると、あちこちに補修痕があり、この様子だと内部もきっちり修繕されているだろう事が、容易に想像出来た。
私は到着早々、資材その他を港に降ろすと、輸送船をすぐに引き上げさせた。また、瑞鶴を輸送船の護衛という名目で、艤装を付けて送り出した。さて、ここからが時間との勝負である。
夕張「さて、資材はこんなもんかな。それじゃぁ提督、この資材は・・・」
夕張と明石が資材をチェックし終えて、私の方を向いた時に彼女らが見たのは、自分たちに拳銃を向けている提督の姿であった。
私「さて、邪魔者も居なくなったし、ちょっとお話しましょうか」
夕張「て、提督・・・」
私「まずは2人とも、持っている隠しカメラとレコーダーを出しなさい」
明石「い、今は、流石に・・・」
私「今はね。なら建物の中のあちらこちらに設置されている訳か」
夕張・明石「・・・」
私「なら次。何か弁明する事があるのでは無くて?」
夕張「べ、弁明とは・・・?」
私「私が【建造】された直後、記憶と能力を封印した事に対して」
明石「え、えぇと・・・」
私「どうせ2人とも、総長から私を監視するよう命令されてきたのでしょう? でなけりゃ、明らかにおかしいもの」
夕張「バ、バレてる・・・」
私「因みにこの拳銃、艦娘を射殺出来るだけの威力があるから」
夕張・明石「ひぃっ! ご、ごめんなさいっ!」
私「で?」
明石「あ、記憶の封印に関しては、総長・艦政本部長・海軍大臣らに詰め寄られまして、有無を言わさずやらされたんですーっ!」
夕張「今回は、『信濃』さんが提督として妖精さんらに命令する事が出来るか、その実験の立ち合いという事で、これも命令されまして」
私「つまり、私は軍令部沖で沈んで、また海上に戻ってきたらから、当初予定していた実験を続けようと言う事か。あのくそ爺のやりそうな事ね」
夕張「ま、まさか、そこまでバレているとは・・・」
明石「ち、因みにどこで分かったのですか・・・?」
私「病院で目覚めた時」
明石「なっ、それって最初からって事じゃないですか」
私「あの場に居た看護婦が普通の人間だったら、騙されたかもしれないけれど、艦娘、しかも貴女たち2人となりゃ、どう考えてもおかしいでしょうに」
夕張「ほら、やっぱり同席しない方が良かったじゃないの」
明石「いや、でももしあの場で暴れられたりしたら、総長が・・・」
と、話が止まらなさそうになったので、私は強引にそこへ割り込んだ。
私「お話はそこまでにしなさい。と言う事で、貴方達に選択権を与えましょう。私に付くか、あくまでも総長の命令に従うか・・・」
夕張「・・・もし総長に従うと言ったら・・・?」
私「この場で即銃殺」
明石「・・・なら、提督に付くと言ったら・・・?」
私「そうね・・・取り敢えず、工廠は好きに使ってもいい。開発なんかは、資材の備蓄が許す範囲で、黙認する。こんな所かしら」
ここは飴と鞭である。実際、私がそう言うと、明石の目が光ったのが分かった。
明石「はいはい、私は提督に付きまーす!」
夕張「ちょっ、何を言っているのよ」
明石「だって、開発が自由に出来るのよ! 軍令部じゃ厳しすぎてほとんど何も出来なかったじゃん。でもここなら提督のお墨付きが有るのよ。これはまたと無いチャンス!」
夕張「いや、でも流石にまずくない?」
明石「結果的に、深海棲艦を倒せればいいじゃない。ですよね、提督?」
と、明石のこの素早い変わり身には、私も苦笑いするしかなかった。
しかし、ここで別の問題が発生した。
瑞鶴「提督さん、それに2人とも何やっているの?」
と、輸送船の護衛に行かせていた瑞鶴が、いつの間にか戻ってきていたのだ。しかも今の彼女は艤装を展開し、和弓を構えていた。
だが・・・
瑞鶴「何があったか知らないけれど、爆撃されたいの?【2人とも】」
と、瑞鶴の目標は私では無く、明石と夕張であった。
私「・・・どういう事?」
瑞鶴「もう、言ってくれれば、いくらでも付き合ったのに、水くさいなぁ」
私「・・・何の話?」
瑞鶴「あの2人のスパイが、早速何かしようとしたんでしょ?」
と、この瑞鶴の言葉に、2人は真っ青になっていた。
瑞鶴「あ、私も【建造】じゃなくて、海の上に戻ってきたくちだから。軍令部のお偉いさん達からは、【建造】されたんだって説明を受けていたけれど、残念な事に全部覚えているのよねぇ。だからそこの2人は、提督だけじゃなくて、私の監視も命令されていたって事」
私「ん? 私はともかく、何で瑞鶴にまで監視が必要な訳?」
瑞鶴「何よ、もう。沈む直前まで一緒にいた相手の事も忘れちゃった訳? 『戦艦棲姫』さん」
私「・・・『装甲空母姫』?」
瑞鶴「ふっふっふ」
この瑞鶴の言葉で、私は粗方の事情を理解した。
私「成程、私は【実験】の続き。瑞鶴は色々な意味で【危険】なので隔離。けれど瑞鶴は【幸運艦】として有名だったから、体面的にも【解体】は出来ない。だから2人まとめて僻地へ放り込んでおく。そして状況が状況だけに、軍令部の駆逐艦では心許ない。かと言って大淀も出せない。よって貴女たち2人が来たと」
夕張「お、お見逸れしましたーっ!」
私がそこまで言うと、2人は土下座してそう言ってきた。そこで、ようやく私は拳銃を下した。
私「それで、どうするの?」
夕張「分かりました。私も提督に付きますよ。まずは手始めに建物内の監視カメラと盗聴器の撤去ですね」
私「そうそう、明石と一緒に、全部綺麗に撤去しなさいよ」
明石「提督。それが終わったら、早速工廠に行ってもいいですよね?」
私「いいわよ。あ、そうだ。最初に、2人で私の艤装を開発して。それと駆逐艦を数人【建造】するから、その分+αの資材は残しておきなさいよ。遠征に行くのに燃料弾薬が無いんでは、お話にならないから。それから瑞鶴には艤装の使い方を教わらないといけないようね」
と言った所で、夕張と明石は建物へと向かった。
そして瑞鶴と2人きりになった所で、私はふと疑問に思った事を口にしてみた。
私「それにしても瑞鶴、貴女は何故私に付き合うって言ってくれるの?」
瑞鶴「どうせ、続けるんでしょ? なら私にも軍令部には色々と思う所があるしね」
私「・・・?」
瑞鶴「【幸運艦】だの何だのと言われるけれど、最後は【七面鳥】呼ばわりされて沈んでいったのよ。これ酷いと思わない?」
私「・・・成程、そういう事ね」
そう言って2人して含み笑いをした。
瑞鶴「それで。今後はどうするの?」
私「折角鎮守府を1つ貰ったのだから、まずは深海棲艦をどんどん沈めて、戦果を挙げるわよ。そして、順に仲間を増やしていく」
瑞鶴「仲間?」
私「海の底から戻ってきた艦娘のうち、なお軍部に対して思う所がある連中を仲間にする。そうでない艦娘は、適当に他の鎮守府へと異動させるか、解体する。【建造】した艦娘は、さりげなく洗脳する。そして頃合いを見て、軍令部を壊滅させる」
瑞鶴「わぁ、相変わらず、えげつない事を考えているぅ」
私「何? 瑞鶴は反対?」
瑞鶴「勿論、賛成するに決まっているじゃん」
私「尤も、今の私には艦娘への【恨み】【憎しみ】とかは無いから、わざわざ沈めるつもりは無いけれどね。あ、でも邪魔をするんなら、遠慮なく沈めるつもりよ」
瑞鶴「まぁ、それでいいんじゃない? 私は軍部に対して、そこまでは思っていないけれど、提督がそうするって言うなら、最後まで付き合うわよ」
私「ふふふ、ありがとう。でもその前に、まずは4人で着任のお祝いでもしましょう」
瑞鶴「了解!」
ーーーーー
・・・軍令部
総長「さて、大淀。作戦課の立て直しを図る。人選のリストを作成しておきなさい。儂はちと工廠へ行ってくる」
大淀「分かりました・・・」
大淀「(しかし、あの女提督の言葉が気になります・・・)」
(私「大淀さん、総長にはくれぐれも気をつける事ね。何があってからでは、遅いから・・・」)
大淀「・・・私も工廠へ行ってみますか・・・」
ーーーーー
・・・工廠地下
大淀「(総長の後をつけて来ましたが、工廠の地下にこんな空間があるとは・・・)」
総長「・・・」
???「・・・」
大淀「(総長は何を話しているのでしょう・・・って、この強化アクリル製シリンダーの中に居るのは全て艦娘!)」
大淀「(・・・しかも、総長が立っているのは、『明石』さんと『夕張』さんの前!)」
大淀「(・・・え? この左のシリンダーって・・・嘘、これ、もしかして、私?)」
総長「そうだ、そのシリンダーに入っているのは、大淀、お前の【予備】だ」
大淀「そ、総長・・・」
総長「全く、お前には作戦課の人選を命じていたのだがな。何故ここに来た?」
大淀「え、え~と、そのぉ・・・」
総長「アレに何かを吹き込まれたかね? まぁ、良い。折角だ、ここまで来たのではあれば、教えてやろう」
大淀「・・・」
総長「ここに居るのは、全て【建造】か【浮いてきた】艦娘の【ストック】だよ。そして、鎮守府が立ち上がる度に、ここから何名かの艦娘が送られる事になる。特に戦力が必要となった場合にはな」
大淀「・・・」
総長「そして、これらは【轟沈】したときの保険でもある。深海棲艦との戦いが続く限り、【艦娘】は必要であるからな」
大淀「で、では、『夕張』と『明石』は・・・?」
総長「・・・お前たち【艦娘】の中にも色々あってな、例えばあの2人は、能力はあるが好奇心が強すぎて、いつここが発見されるか分からなかったのでな、どうするか考えておったのだが、体よく追い払ったと言った所か。それにあの鎮守府では実際必要であろうしな」
大淀「・・・それはどう言う・・・」
総長「あの鎮守府は、一度放棄したと言って無かったかな? あぁ、それを言ったのはアレに対してだったか。まぁともかく、立ち上げたはいいが、ここから遠すぎて補給も手間だし、援軍も厳しい。おまけに他の鎮守府との連携も取れない。はっきり言うと軍令部としては、使い道の無い鎮守府だ。だから、アレの【実験】の為に再利用したに過ぎん。まぁ、上手くいったらおめでとう。駄目でもどうって事は無い」
大淀「・・・あの、【アレ】とは・・・?」
総長「ん? あぁ、お前には秘密だったか。あの女提督の事じゃよ。そして【アレ】はお前たちと同じ艦娘だ。但し、使い物にならない艦娘だったんでな、記憶を操作して人間として扱ってみた。艦娘を『提督』として使えるかどうかの【実験】のためにな」
大淀「・・・そんな・・・」
総長「もし『提督』として使えるのなら、わざわざ馬鹿な士官連中にやらせず、艦娘に『提督』をやらせた方が、遥かに効率的だ。だが同時に、仮に『提督』となったとした場合、その後どうなるかが予測出来ん。よって、アレを使ってその【実験】を行ったに過ぎんよ」
大淀「・・・そ、総長は、わ、私たちを、何だと・・・」
総長「決まっているではないか。【深海棲艦】と戦争をするための【兵器】だよ。もしくは【道具】と言ってもいい。さて、おしゃべりはここまでだ。儂としては、【次】の大淀に期待するとしよう・・・」
・・・パーンっ・・・!
ーーーーー
夕張「提督、大変ですっ!」
私が瑞鶴と話していると、夕張が慌てて建物から戻ってきた。
私「夕張、どうしたの?」
夕張「いいから、来て下さい!」
と、私と瑞鶴は夕張に引っ張られて、執務室の隣の通信室へと連れて来られた。
明石「提督、これを聞いて下さい。以前、ネタで作った盗聴器から送られてきた会話です」
私たちが通信室に入るや否や、明石がそう言って録音された音声を再生した・・・。
・・・
私「どうしてこれがここへ?」
明石「いやぁ、取り外せなかった盗聴器に何か入っているかなぁって確認したらですね。無線マイクは大淀の徽章の中に仕込んであったんですけれど。それにしても提督、大淀に何か言ってきました?」
私「あちゃぁ、「総長には気をつけろ」と言っておいたんだけれど、それが裏目に出ちゃったかぁ」
3人が青ざめた顔をしている中、私は平然と構えていた。どうせこんな事だろうと、ある程度は予想していたからだった。
私「それにしても、よくまぁこんなのが録音出来たわね」
明石「そりゃぁ、受信機は執務室にある総長の机の電話機内ですからね。しかもバレないように、盗聴した音声は無線で受信機まで来ますけれど、そこからの信号は電話機の電源に載せますので。それにダミーの受信機を私と大淀の部屋に残してきましたから、まずバレないでしょう。それにしてもこれ、日時的に、私たちが軍令部を出発した翌日か翌々日ですよ」
私「・・・そんな事やっているから、2人とも目をつけられたんじゃないの。それにしても、危なかったわね。この鎮守府の話が無かったら、どこかのタイミングで消されてたわよ」
夕張「・・・はい、2人とも危なかったです。しかも、総長がこんな人だったとは、多分誰も知らないでしょう」
明石「そういえば、総長が話していた相手って、誰なんでしょう?」
私「艦政本部長以外あり得ないでしょう。工廠と建造ドックの最高責任者なのだから」
瑞鶴「ふぅん、それにしても、随分とまぁ物騒な話ね」
私「何他人事の様に言っているのよ」
瑞鶴「そりゃそうかもしれないけれどさぁ、私は戦うのが専門だし、そういうの考えるのは提督がやってよ。それに、今までだってそうだったじゃない」
私はこの瑞鶴の言葉に、頭が痛くなってきた。しかし、こういう話であれば、そんな風に呑気にしている場合では無いし、そもそも作戦を変更する必要がある。
私「さて、それじゃぁ明石、今の奴、コピー取っておいて。そして、ここからはその音声データを消す。それが終わったら、工廠へ」
・・・工廠
私「夕張、最低限の資材で、適当に5回位開発してみて」
夕張「最低限ですね。了解です」
そして出来たもの:20.3cm連装砲、ペンギン、ペンギン、ドラム缶(輸送用)、61cm四連装(酸素)魚雷
私「ふむ・・・まぁ、予定の物が出来たからいいか」
夕張「提督、予定の物って?」
私「うん。さて、まずはその魚雷と20.3cm連装砲は夕張が装備ね。それから、ドラム缶に残った資材を全部積み込む。で、ドラム缶は明石か夕張のどっちかが装備出来るでしょう?」
明石「まぁ、そうですけれど、一体、何をするのです?」
私「まぁとにかくやりましょう。それと、妖精さん達も手伝ってくれる?」
妖精たち「」イエスマム
そして手分けして資材を全てドラム缶へ積み込み、港にやってきた所で、
私「そうしたら、妖精さんたちもドラム缶へ入って。それと夕張、片方の14cm単装砲を浜辺に捨てて、それ砲撃でぶっ壊して」
夕張「一体何をするのです?」
私「ここを深海棲艦の攻撃によって壊滅させたかのように見せるの。そして実際、我々はここを放棄する」
瑞鶴「また奇抜な事を考えて。そんな事をしたら、私たちの帰る場所が無くなっちゃうじゃないの」
私「だから、別の場所に拠点を作る。その為に、全部引き払う。ただ、単に引き払っただけだと、私たちはどこに、となるでしょう? だからここを砲撃やらで完全に破壊して、出来るだけ跡を残さない」
明石「また、何でそんな面倒な事を」
私「あの様子だと、ここで私たちが何をやったかが、全て記録されているはず。それこそ、開発された物や建造された艦娘なんかもね。だから、まずは軍令部から完全に独立した環境に移りたいのよ」
明石「いや、別にそこまでしなくても・・・」
私「今一番気になっているのは、私が『提督』を首になって、『代わりの提督』が来る事。その場合、私は1艦娘になってしまうから、何も出来なくなってしまう。だから、軍令部の指揮系統から完全に外れたいのよ」
夕張「けれど、代わりの拠点ってどこに?」
私「瑞鶴、ここから艦娘で3日くらいの所の小島、覚えている?」
瑞鶴「んー、あのボーキの島?」
私「そそ、あそこなら、軍令部にはまずバレないでしょ」
夕張「どうしてなんです?」
私「あの周辺は深海棲艦の群れがいるんで、遠征には来れないのよ。いや、来れなくは無いんだけれど、通常艦隊を差し向ける必要があるから、まず来ない」
明石「じゃあ、私たちも駄目じゃないですか」
瑞鶴「へへん、ところがあの島へ行くには抜け道があってね、行くだけなら行けるんだな、これが。但し、海流とかの関係で、戻るには結局まともな敵艦隊を相手にしないといけないんで、通常艦隊じゃないと戻る事が出来ないだよねぇ」
私「そして我々は、その戻る必要ってのが無いのだから、問題無しと」
明石「ははぁ、流石は元『戦艦棲姫』って所ですね」
私「まぁね。それじゃぁ、私はゴムボートに乗るから、誰か引っ張ってって」
夕張「あの、緊急脱出用のまともな方のボートじゃ駄目なんですか?」
私「あの総長の事だから、絶対誰かを派遣するはず。その時ボートが消えていたら、どこかに脱出したことがバレちゃうじゃないの。本当はこのゴムボートも使いたくは無かったんだけれど、こっちなら仮に脱出したとしても、1日もたないから、沈んだと思うでしょう」
夕張「はぁ、そんなもんですかねぇ」
私「さて、それじゃあ瑞鶴、艦爆で建物全部吹き飛ばして。それから、夕張は【14cm単装砲】で同じく砲撃」
瑞鶴「了解」
夕張「え? 今さっきの【20.3cm連装砲】は?」
私「それ使ったら、やっぱり自作自演がバレちゃうでしょう。だから駄目」
夕張「了解っ!」
そして、瑞鶴の航空隊と夕張の砲撃により、鎮守府が完全に壊滅したのを見届けて、私たちは出発した。
・・・1か月後
調査班「総長、こりゃ完全に駄目ですね。見事なまでに壊滅しています」
総長「あいつらは【建造】なり【開発】なりをやった感じかね?」
調査班「建造は0回、開発は5回ほど、うち2回は失敗しているようですし、成功した物も、中口径主砲、魚雷、ドラム缶ってところでしょうか」
総長「・・・砲撃で破壊されたのはその中口径主砲か?」
調査班「いえ、もっと小さいですね。開発は【20.3cm連装砲】ですが、それより破壊力が小さいのは確かです」
総長「緊急用脱出ボートは?」
調査班「2隻とも残っていますね。まぁ、予備のゴムボートが1つ無くなってはいますが、あれにはエンジンが載っていませんので、1日持たないですからね」
総長「・・・大淀、あの近海の海域図を出してくれ」
大淀(新)「こちらになります」
総長「・・・一番近い島はどこだ?」
大淀(新)「こちらになります。けれど、艦娘の艤装でも3日はかかりますし、それ以前に、深海棲艦の艦隊が近くで確認されていますので、遠征艦隊の対象外となっています」
総長「・・・敵の艦隊規模は?」
大淀(新)「戦艦ル級を旗艦とした水上部隊と、雷巡チ級を旗艦とした水雷部隊です。それと、鎮守府の南には空母ヲ級の機動部隊が存在している事も確認されています」
総長「・・・敵に航空戦力が無いとは言え、あの3人で突破は不可能か・・・」
大淀(新)「総長、どうされました?」
総長「他には何か無いか?」
調査班「そうですねぇ、浜辺に破壊された14cm単装砲が1つ落ちている位でしょうか。破損の状況からして、砲撃によるものであるのは確かですが・・・あぁ、識別票がありました。これは『夕張』の装備の様ですね」
総長「破損の状況はどうか?」
調査班「これはどうしようも無いですね。修理するより、破棄して鋼材に変えた方が早いというレベルで破損していますから。それとも、念の為に持ち帰りますか?」
総長「・・・いや、いい。調査班、引き上げてこい。その鎮守府は、敵深海棲艦の艦隊により壊滅、軍令部は完全放棄を決定、以上だ」
調査班「分かりました」
総長「(【アレ】の事だ。そう簡単に沈むとは思えん。だが、生存しているという確証も持てない・・・どこかの鎮守府に偵察をやらせるか・・・)」
・・・更に1か月後
提督G「全く・・・軍令部は何を言ってるんだか。あんな海域に大した敵なんぞ居ないっていうのに」
伊勢改「まぁまぁ、取り敢えず、行くだけ行ってみようよ」
日向改「そうだね。あ、そろそろ海域だし、瑞雲飛ばすね」
龍驤改「取り敢えず暇やったし。そいじゃ、うちも彩雲飛ばすかね」
五十鈴改二「ま、何もありませんでしたでいいんじゃない?」
時雨改二「そうだね」
曙改「ふんっ、どうせ何も無いわよ」
龍驤改「うーん、ただの無人島やねぇ。あ、ありゃボーキサイトの山だ。敵が居るのは、これが目的なんじゃん?」
提督G「他には何か無いか?」
龍驤改「うーん、島の殆どが樹木で覆われてるで・・・後、島の北側に岩山があって・・・どうやら、洞窟があるようやけど・・・他には何もなさそうや・・・」
提督G「特に何も無さそうだな。んじゃ戻ってこいや。軍令部にはボーキサイトの集積地とだけ報告しときゃいいだろう。後は何もなかったでいいか。それ以上は勝手に判断するだろう」
伊勢改「一応、洞窟だけでも見てくる?」
提督G「面倒だ、何も無かった事にする。んでもって、さっさと戻ってこい」
伊勢改「了解。だけど、本当にいいの?」
提督G「俺ぁ、軍令部が嫌いだからな。奴らは周りを軍閥連中で固めていて、俺ら叩き上げはこんな僻地さ。しかも、戦力だって大して寄越さないしな。うちの航空戦力と言ったら、お前ら伊勢・日向の航空戦艦と、軽空母の龍驤しかいねーべ。その癖、こんな面倒な仕事押し付けやがってくるしよ」
龍驤改「軽空母のうちしか居なくて悪かったなぁ」
提督G「ははは、お前にゃ助かってるよ。それにどっちみち、正規空母なんぞうちじゃ維持出来ん」
伊勢改「それじゃぁ、とにかく戻るよ」
提督G「おう、早く戻ってこいや」
総長「ほほう、ボーキサイトの集積地か」
大淀(新)「そのようです」
総長「(ふむ、ボーキサイトの確保には丁度良いが、水上部隊と水雷部隊を相手にしなくてはならない事を考えると、余りにも効率が悪すぎるな。あの島は放置するしか無いか・・・)」
総長「(それにしても【アレ】は惜しい事をした。あの馬鹿どもに殺されて、一度は諦めたのじゃが、折角また戻ってきたので、今度こそはあの【実験】にと思ったのだがな。まぁ、やはり別の【実験体】を用意するしかあるまい)」
大淀(新)「あの、総長。それで、どうなさりますか?」
総長「うむ・・・いや、放っておいて構わない。主要航路からは完全に外れているし、仮に確保したとしても、敵の襲撃がひっきりなしにあるだろうから、維持が困難だ。それよりも、他の海域攻略を優先した方が良い」
大淀(新)「分かりました」
ーーーーー
由良改二「提督さん、また由良が一番なの。やったー」
瑞鶴改二甲「全く、最近は由良の夜戦CIに全部持っていかれちゃうのよねぇ」
朝潮改二丁「むぅ、私たち8駆の4姉妹も頑張りましたよ」
大潮改二・満潮改二・荒潮改二「そうだ、そうだ!」
私「みんなお疲れ様。ゆっくり休んで頂戴」
由良改二「それもそうですけれど、ヒトゴウマルマルです。提督さん、由良、出撃前に皆の三時のおやつもご用意してあるんですよ。提督さん、召し上がってくださいね。ね?」
吹雪改二「ふぅ、11駆4人、遠征から戻ってきました。何とか鋼材を入手してきましたよ」
白雪改、初雪改、叢雲改二「疲れた~」
私「吹雪、他の鎮守府の連中には見つからなかったよね?」
吹雪改二「はい、パッシブレーダーと目視確認では、見つかっていないと思われます」
私「よろしい。それじゃぁ、由良がおやつを用意してくれているみたいだから、皆で頂きましょう」
妖精さん達「」ワーイ
夕張改「はーい、私もご相伴させて下さい」
明石改「ふぅ、何とか終わりました」
私「2人して、何をやっていたの?」
夕張改「無線アンテナの調整をしていたんです」
明石改「低い場所だと受信出来ませんし、木の上に出てしまうと、今度は見つかってしまうので、その辺りの調整です」
夕張改「味方の通信と敵の無線傍受用ですけれどね。一応、軍令部の飛ばす無線もキャッチ出来ますよ」
明石改「ただ距離もあって、電波も微弱ですから、確実とは言えないですけれどね」
夕張改「それにしても、洞窟の中に施設を造るとは、思い切った事をしましたね。結果的にはこれで良かったのですが」
私「そう?」
夕張改「この前も別の鎮守府からの偵察部隊が来たようですけれど、偵察機が飛んできて、直ぐに戻りましたからねぇ」
私「まぁ、見つかったら、その時にまた考えましょう」
こうして、深海棲艦としての私の復讐は失敗した。
けれど、まだチャンスは残っていた。
この島には食料・・・特に、果物・野菜・魚類・・・が豊富にあるので生活に支障は無いし、またボーキサイトの集積地でもあるので、ボーキサイトに困る事は無い。その為、艦載機も多数用意出来ている・・・烈風、彗星一二型甲、流星改、彩雲等々。
また、少しずつではあるが、仲間も増えてきた。
そして戦力を整え、いずれはあの腐った軍人連中・・・特に軍令部首脳陣。もっと言えば、あの【くそ爺】・・・を一掃するのだ。後の事は、その後で良い。
人間どもは、我ら艦娘を使い捨ての【兵器】【道具】としてしか見ていない。
しかし艦娘にも人間と同じ感情はあるのだ。それをたっぷりと思い知らせてやろう。
前回は、自分の力に溺れたのもあり、焦りすぎたのだ。だから今度は慎重に、ゆっくりとやる事にしよう。
・・・問題は、この島は深海棲艦に囲まれており、何とか敵艦隊の合間を縫って近くの島へと遠征して、辛うじて艤装を維持するのに必要な最低限の資材・・・燃料、弾薬、鋼材・・・は入手出来るものの、本格的に撃って出る事が出来ないという事だ。
引っ切り無しに襲撃してくる深海棲艦を撃退しているおかげで、全員の練度はとてつもない勢いで上がってはいるのだが、正規空母1、軽巡2、駆逐8(+工作艦1)しか居ない上に、資材の関係で戦艦や重巡が運用出来ないので、実質、何も出来ないという状況である。
因みに、明石に艤装を用意して貰い、私も一度、烈風を搭載して艦戦キャリアとして戦闘に出ては見たものの、大和型戦艦をベースにしているのもあってか、馬鹿にならない燃料・弾薬を消費したので、それ以降1回も出撃していない。それ位、資材に余裕が無いのだ。
考えてみれば、この島は深海棲艦のボーキサイト補給地点であり、そこを押さえられたとなれば、奪還するために艦隊が攻めてくるのは当然な訳で・・・。
尤も、それ故に軍令部どもからは無視されている訳で、一概に悪い選択肢を選んだとは言えないのだが、現状維持が精一杯なのも事実で、まずはこの状況を打開しなくてはいけない。
・・・しかし、どうしたものか・・・。
何と言うか、途中から話が迷走するわ、最後はぐだぐだになるわで、どうしようもない結果で〆ちゃいましたけれど、それなりに暇つぶしになって頂けていれば、良かったかなという感じです。
取り敢えず、次またネタが思いつきましたら、何か書いてみたいなと思います。
最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました。
※誤字・脱字を見つけましたので、修正がてら微妙に追加。
メモ:
大和型3番艦『信濃』(私)
艦種:装甲空母 速度:低 スロット:4(24,17,7,2) 射程:長
耐久:92 装甲:110 回避:6
0 火力:80 対空:110 索敵:90 運:1/20 燃料:150 弾薬:100
装備:艦載機(噴式装備可)、副砲、電探、高角砲、機銃、バジル、缶、タービン、艦隊司令部施設、ダメコン他
※なお、上記仕様は、作者がSS書く用に、適当にでっち上げた物ですので。
(それ以前に、そもそも実装されていませんし・・・。)
復讐ものは、好きな作品だからつづき楽しみに待ってます!
原作問わず、復讐物が最近のブームなのでありがたいです。
沈んだ子達は仲間にならないのですか?
>1さん
返事が遅くなり、申し訳ありません。
拙い文章ですが、お付き合い頂ければ幸いです。
>2さん
すみません、分かりにくかったようですが、タンカー護衛の際に沈んだ「神通」が、「へ級」として既に艦隊に入っています。
(後で、もう少し分かりやすいように、修正しておきます。)
>3
2です。
へ級(神通)ってのを見逃してたようです。返信ありがとうございます。続き期待してます。
初春が別キャラになってる。初霜か?
>5さん
おおぅ、初春で、あの口調は確かに無いですね。ちょっと修正してみます(こんなもんかなぁ?)
コネとかで提督になってるのが多そうですね。巨大な力を持った組織は腐敗する。いつの時代も変わらない。
>7さん
はい、陸軍大本営、海軍軍令部共に、男尊女卑当たり前、世の中金とコネという設定で書いております。
深海転生いいゾ~^これ
>9さん
コメントありがとうございます。
貴殿のSSには及びもしませんが、こんな感じで、ちまちま書いております。
こんなのですが、暇潰しの際にでも読んでいただければ、幸いです。
ヘ級川内が消えた。
陸海軍の軍令に関わる組織とその長たる職位がこんがらがっていますよ。
①平時の統帥部(軍令部)
海軍軍令部 → 長は「海軍軍令部長」(後、海軍軍令部総長)
陸軍参謀本部 → 長は「陸軍参謀総長」
②戦時下の統帥部(大本営)
大本営海軍部(平時の海軍軍令部がほぼそのまま移行)
大本営陸軍部(平時の陸軍参謀本部がほぼそのまま移行)
>11さん
川内はどこかで沈みました、という事で・・・。
>12さん
ご指摘ありがとうございます。WiKiで確認しました。
大本営
→ 陸軍部/(陸軍)参謀本部 : 統帥部長=参謀総長
→ 海軍部/(海軍)軍令部 : 統帥部長=軍令部総長
で合っているのかな?
取り敢えず、上記の線で修正してみます。
女提督、軍令部総長直々に教わったのか。
師匠対弟子。
どーなるか楽しみです。
突然で失礼いたします。
本作において、作戦部門と思われる部署が「海軍軍令部参謀1課」と御座いましたが、長が “ 軍令部総長 ” と御座いますので、“ 軍令部第1部第1課 ” とされては如何でありましょうか。
>14さん
励ましのお言葉、誠にありがとうございます。
ご期待に応えられるか、自分でも不安ではありますが、何とか頭を振り絞って書いてみたいと思います。
>15さん
ご提案ありがとうございます。
実は自分もこの組織名については色々と悩んでおりまして、大日本帝国海軍に倣うなら、ご指摘の通りなのですが、
軍令部 = 海軍
第一部第一課 = 作戦立案等の部署
というのが、Wiki等で調べないと出てこないので、どうしたものかと。
で、もっと言うと、大本営下となると、
「大本営海軍部海軍参謀部第一部第一課」
となってしまい、今度は名称が長すぎるのと、「軍令部」という名称が消えてしまうのとで、この様な中途半端な略称にしてみました。
しかし、まぁ、もうちょっと考えてみます。
15 です。
お返事、ありがとう御座います。
「海軍軍令部参謀1課」は、作者様が熟慮の末に認められたということが分かり合点がいきました。
面白かったです。良いですね♪復讐者でも、敵[女提督]深海棲艦がこの先どう行くか楽しみです。
応援しています。♪
>18さん
今更ながら、ありがとうございます。
これから先も、面白いと言って貰えるSSになるかは分かりませんが、とにかく書いていきたいと思います。
・・・中々面白いお話でしたが、この元信濃にして元戦艦棲姫にして現提督、
今までの記憶を持ち合わせている事も込みで、総長の掌の上なんでは?
戦艦棲姫改としての最期が、燃料切れに陥った所を轟沈させられた所からして、
頭は切れるけど、視野狭窄の末に致命的なポカをかます性質みたいなんで・・・。
元装甲空母姫だった瑞鶴は、負けん気の強さからして、頭良いとは言い難い・・・。
何と言うか総長は、現提督と瑞鶴の現状も、夕張と明石が屈服させられる事も、
何もかもお見通しで織り込み済みな上で、あえて好きにやらせている気が・・・。
それが、データ取得の為の体の良いモルモットとしての扱いに過ぎないのか、
すっかり腐敗した軍を刷新する為の劇薬としてかは、不明ですけどね・・・。
軽巡洋艦で1番最初に沈んだ不遇の艦、由良
仲間に欲しいッス(*^^*)
>20さん
コメントありがとうございます。
返答になるかどうか分かりませんが、少し修正してみました。
(総長的には、最初に沈んだのは予定外。それ以降は、好きにやらせた上で検証ってところです。また、折角ご指摘をして頂きましたので、大ボケをやらかす部分を追加してみました。)
こんな感じでどうでしょう?
>21さん
コメントありがとうございます。
最後にちょこっとだけですが、由良のを出してみました。
他にもシチュエーションとかがありましたら、書けそうでしたら書いてみたいかと。
(ただし、これから仕事の繁忙期に入る為、ほとんど時間が取れませんので、相当遅れるだろうとは思われます。)
由良出してもらえて、大感謝です(*^^*)
自分の艦これは嫁艦が由良なので、嬉しいです。
ふ~む、総長は結局、艦娘を使い捨ての道具としか見ていない下衆だったか・・・。
こうなったら是非とも、対処不能な想定外のトラブルに翻弄された挙句に、惨めに死んで欲しいですな。
・・・例えば、総長が始末した大淀が、記憶と人格を保ったまま深海棲艦へと生まれ変わり(眼鏡繋がりで集積地棲姫とか)、
信濃提督と秘かに共同戦線を結んでしまって、次第にブラック鎮守府が狙い撃ちにされて行く・・・とか?
>24さん
コメントありがとうございます。
まぁ、大淀に関しましては「沈んだ」訳では無いので、深海棲艦化は難しいかな・・・。
(とか考えているうちに、いくつかネタを思いついたり・・・。)
後は、ブラック鎮守府ですか・・・。
ブラ鎮=総長の身内=疲労抜きせずに出撃=轟沈=軍令部より補充?
話の流れ的に、ありそうな気がしてきた・・・。
ともかく、何か思いつきましたら、続きを書ければと思います。