[1章 赤い悪魔を追え！]

「元陸上部を舐めるなぁーっ！」

いつものように市バスの三倍の速度が出ていそうな色の民間バスをめがけて1人の人間ミサイルが北へ向かって爆走している。

そしてそんな暑苦しい先輩に遅れること6mの距離を保ちつつ私こと綿貫 瞳は赤い悪魔を追走していた

話は一時間前に巻き戻る

「…であるからしてこれは作者がブリーフとブリーフをかけたものです」

プロジェクターの光だけが輝く暗い教室で私は睡魔との奮闘をしていた

隣の席に座るイケメンを始め前列の生徒がほとんど撃沈されているがプロジェクターには次々とパワーポイントで目ぐるしく文字や図が表示されていく

ふと授業終了時刻を確かめようと入学祝いに叔父から送られた懐中時計を眺める

どうやらまだ45分しっかり残っているらしい・・・残り時間をカウントし終えるや否や私の意識は急速に暗転した

・・・そして現在

「山本先輩っ！もう無理です！凪の辻から地下鉄に乗りましょう」

「諦めるな綿貫ぃ！あやつは国道に出る直前で渋滞に巻き込まれるはずだ！」

「それは分かりますが…先輩…まさか本気で追いつく気じゃないですよね？」

「誰がジョークなど言うものか！今日こそはあのにっくき16:33分発のバスに間に合ってやるのだ！」

（授業で寝こけてバス停に行ってバスを追跡して乗るのが趣味な物好きに捕まるとは本にいつもと違う行動は取るべきでは無いものである）

「…っ先輩！先のバス停に人が居ません！」

「なぬっ！？ならば西だ！新幹線沿いに西に行って先回りするぞ！付いてこい！」

それから私たちは駆けた！タクシー会社の横を！ファミマの横を！ピザ屋の横を駆けに駆け抜け地下鉄の地上口を通過しブックオフから袋を持って信号を渡ってくる学生軍団を軽く追い抜き素早く交通券をどこぞの決闘者のように構え！無事にバスに乗り込む事に成功したのであった…

［2章 バックトゥザステーション！]

「どうしよう」

瞳はピンチに直面していた

「確かに9時って聞いたはず、9時ってメモにあるし…ってこれ日付来週じゃん！」

集合予定場所に付いて一時間、誰も他にクラスメイトは来ず…当たり前だここへ集合するのは来週のはずなのだから…

「まだ焦る時間じゃ無い！幸い集合時間には3時間…余裕をもってつけるはず…ってか着かなきゃ単位がー！」

あわてて"来週"の集合場所を後にして駅へ向かい全力で走り出す

「…駅まであと10mこのままのペースで信号を滑り込めば！」

交差点を通り過ぎ駅の前に到達した頃には列車はすでにホームから出て行くところだった…更に2週連続学外講義の集合場所を間違えた仲間（クラスメイト）が2人

「えっなんで居るの？」

「「…えっ」」

「線路を辿ってJRの駅まで走れば間に合うと思う」

「確かに地図で見ると近いけど本気？」

「奈良公園を迂回しなくてはいけないという法はないからな」

そして私たちは走り出した二箇所のコンビニで水分補給をとりつつ追走して鹿に目もくれず信号という信号を滑り込み奈良駅のエスカレーターを駆け上がり汗をかきながら列車に飛び込む…もちろん1時間ののちに京都駅近区の駅ビルは特別講義に使われるはずの部屋の前で直立した三人がしろく燃え尽きて居た事はいうまでもない

［3章 更地を作る者]

ビーン！ビーン！ビーン！

モーターが回転しナイロンの刃が草むらを一瞬で更地に変えていく

ブーン

カラカラカラ

「暑…」

瞳は草刈機のナイロン刃を取り替えつつ汗を拭った

「あと3回分か…やっぱりたけのこに気付かなかったのはミスったかも…」

ウィーン！ウィーン！

刃を取り換え終わった草刈機は先ほどまで空回りしていたのが嘘のようにバイクの様な咆哮を響かせる

「さてやりますか！」

土煙を巻き上げながらナイロン製の刃が振り下ろされるたびに雑草の根が宙を舞う

1時間後には草むらだった空間にはすっかりと砂場が広がっていた

「手強い相手だった…」

突き立てた草刈機にもたれかかりながら瞳は更地になった元草むらを見渡した

［4章 ]

「…と言うわけで俺は今日用事があってな、悪いがお前から部長にプリントは渡しといてくれ」

「山本先輩、いくら三浦部長にからかわれるのが嫌だからって校内の地形把握してすら居ない一年をどこにいるかわからない部長への連絡役にするのやめてください」

「なぁに綿貫、お前はやればできるやつだ、いいな！6時までにとどけろよ！」

三浦部長は放浪癖がある、そして人をからかうのがすごく好きだ

…

「…で、ドアトラップに引っかかって濡れネズミの一致あがりってわけね」

「普通は黒板消しでしょうが！あんた…」

「いやーごめんね綿貫ちゃん〜山本のバカが既読スルー繰り返すからつい…」

「つい…じゃないですよ！プリントはとっさに廊下に投げたしまだ暑いし授業の関係で着替え持ってたからいいものの風邪引いたらどーすんですか！」

「バカは風邪ひかない！」

「…」

「部長…こないだの合宿の時のし・ゃ・し・ん・山本先輩に見せますよ」

「スミマセンデシタ（棒）」

「はいこれ生徒会からのプリントです、それでは私はこれにて…」

背を向けてドアに向かおうとした瞬間部長の目がギラついたのは気のせいではなかった…

「秘技ボールペン背中突き！」

「ひゃん！」

「綿貫は背中が弱いメモメモと…」

「もう許しませんからね」キッ！

数分後

山本に合宿の時に撮ったおちゃらけ集合写真をメールで送信した直後、それは自爆技であった事にハッと気づいて赤面する綿貫であった。