花陽「ここから生きるんだ」
μ'sの講堂ライブを1ヶ月後に控えたある日、動画サイトで見つけたある曲が花陽の心を動かす。
こんにちは、StoratoSと申します。
今回はSS初投稿ですが、東日本大震災という出来事とsuzumokuさんの楽曲「僕らは人間だ」をテーマに書かせていただきました。
非常にデリケートなテーマであることは承知しております。私自身も被災者ではありますが、幸い身内を亡くしたり自分が負傷したりということはありませんでしたので、より大きな被害を受けた方々からすると不愉快な部分があるかもしれません。
拙く、また短い文章ではありますが、震災から四年経った今感じていることを花陽ちゃんに代弁してもらいました。
どうぞよろしくお願いいたします。
少しずつ春の匂いが近づく2月、部室
花陽「うーーん…っ…これ、は……」カチッカチッ
海未「花陽?どうかしたのですか…ってこれは…写真?それも、東日本大震災の」
花陽「あ、海未ちゃん…………ほら、あと1ヶ月くらいしたら震災から四年でしょ?TVでも最近はその話題が多いしちょっと考えてみたんだけど、私たち当時の被災地のことあんまり知らないんだなって思って」
海未「知らない……ですか?」
花陽「うん。TVとか見てたらさ、人が大勢津波にのまれて、住む場所を失って、病院や自衛隊なんかの人達は命がけで救助活動して…っていう事実は知れるけど、TVに取り上げられる程には被害のなかった被災者の人達のこととか、ぎゅうぎゅう詰めの避難所とか、3月の吹雪の寒さとか……体験してない私達にはしょうがないことなのかもしれないけど、私達の知らない被災地っていっぱいあるんだ」
海未「それで、当時の写真を?」
花陽「うん。特に、報道の人達じゃなくて一般の人が撮った写メとか、アマチュアの写真家さんが撮ったのとか…そういう写真を見てたんだ」
海未「確かにそういう写真の方が、報道写真より小さな視点で震災をとらえていそうですね」
花陽「……」カチッカチッ
海未「……」
海未「……なんと、言うか」
花陽「?」
海未「こんな、こんなことがあったのに……何もできない、できなかったというのは」
海未「悔しい、ですね………」
花陽「…そう、だね…」
花陽「…」
海未「…」
穂乃果「生徒会の仕事、おっわりーー!さあ練習だぁ!」バァン!
ことり「ま、待ってよ穂乃果ちゃ〜ん……」ゼェゼェ
海未「穂乃果、扉は静かに…って生徒会?わ、私呼ばれてましたっけ……」
絵里「会長業務の引き継ぎに漏れがあっただけだから穂乃果だけでよかったのよ。暇そうにしてたからことりとー」
希「ウチが手伝ってた、ってワケや」
海未「なるほど……ありがとうございます、引退後も度々」
希「ええんよ、久しぶりに生徒会室入って楽しかったし。人助けって楽しいもんやしな?」
絵里「さて、まだ来てないのはにこと真姫と凛、ね。じきに来るでしょうし、先に屋上で待ってましょう」
花陽の家
花陽「うーん今日も……疲れ……た……」バタッ
花陽「パソコンに向かうのもちょっとつらいや…スマホでも調べられるよね」
花陽「………」ポチポチ
花陽「『僕らは人間だ』?」
花陽「ツアー中仙台で被災したシンガーソングライターが、他所者の自分にも暖かい対応をしてくれたことに感動して作った曲…か」
花陽「とりあえず聴いてみようかな」
花陽「…いい曲」
花陽「『あどけない勇者が、拳を振り上げて駆けて行く』…か。ふふっ、なんだか目に浮かぶみたい」
花陽「……この曲をμ'sでできたら…」
花陽「うーん……」スヤァ
部室にて。
絵里「次のライブのセットリストだけど…これでいいのかしら?」
真姫「うーん……」
にこ「悪くないんだけど…なんかちょっと微妙というかなんというか…」
ことり「曲と曲のつながりは悪くないし、全体の流れもできてるけど…なんていうか、『ここっ!』ていう見せ場がないよね」
希「そうやねぇ…ちょっと最後の方ダレてしまいそうや」
花陽「あ、あの…」
8人「?」
花陽「次のライブの日って、3月10日だよね?」
凛「3月10日にゃー」
花陽「だよね……」
ことり「花陽ちゃん、それがどうかした?」
真姫「もしかして出られないとか…」
穂乃果「ええっ⁉︎花陽ちゃん本当⁉︎」グワングワン
花陽「ち、違っ……ダレカタスケテェー!」
穂乃果「ご、ごめん…つい」
海未「それで花陽、その日にちがどうかしたのですか?」
花陽「あ、うん、あんまりライブには関係ないかもだけど…次の日、東日本大震災があった日なんだなって」
絵里「あ、確かに…」
花陽「それで……私たちなんかがやっていいのかわからないけど、震災がテーマの曲をできないかなって思ったの」
真姫「い、今から作るの⁉︎」
海未「震災がテーマなんて、私では歌詞が書けそうにもありませんが……」
花陽「うん、私もそう思った。真姫ちゃん海未ちゃんを見くびるわけじゃないけど、震災を経験してもいない私たちに、お客さんに届く曲を作るのは難しいと思う」
希「じゃあ、誰かの曲をカバーするってことになるんかな?」
花陽「うん。震災がテーマの曲いろいろ聴いてみたんだけど、この曲がいいんじゃないかって」iPod出す
海未「僕らは人間だ……ですか」
絵里「とりあえず聴いてみましょうか」
〜試聴中〜
穂乃果「いい曲……だね」
絵里「そうね……でも」
穂乃果「?」
絵里「……個人的には、震災の曲を演るのは反対…かな。やっぱり、そう軽々しくやっていいテーマではないと思うから。花陽もそれは分かっていると思うけど…それでも提案したってことは、何か考えがあるのかしら?」
花陽「………うん。考えっていうか、私の個人的な想いなんだけど」
花陽「あのねーーー」
ライブ本番中
トナリハキーミーナーンーダー
穂乃果「ありがとーーー!!」
海未「今日は私たちの講堂ライブに来ていただき、本当にありがとうございます」
ことり「本当に楽しくて、あっという間で……もう、あと二曲になってしまいました」
エェー
ヤダー
モットー!
凛「みんなありがとうにゃ!」
絵里「それで次の曲なんだけど…私たちのオリジナルじゃなくて……花陽の提案で、とあるアーティストさんのカバーをやらせてもらいます。
カバーだけど、私たちの……願いがこもった曲です。じゃあ花陽、お願いね」
花陽「うん。……まずは私からもお礼をさせてください、皆さん、まずは今日のライブに来てくれて本当にありがとうございます。」
花陽「次の曲の紹介をする前に、皆さん明日が何の日か覚えてますか?」
花陽「そう、東日本大震災があった日です」
花陽「あの日からもう四年が経とうとしていて…都内にいると、震災の痕を見つけるのは難しいくらいですよね」
花陽「でも、被災地…原発事故があった福島もそうだけど、宮城県や岩手県の津波をかぶった地域とかはまだ更地だったり、畑や田んぼも使えなかったりっていう状況があって。」
花陽「……四年たってもまだ、です」
花陽「だから被災地のことを忘れないで、とか、手を貸してほしいとかって言うのは、被災地で頑張ってる皆さんだから言う資格があることだと思うので、私からは言いません。私が言いたいのは、この震災の経験を忘れないでほしいっていうこと、です」
花陽「今日の時点で、震災で亡くなった方、今もまだ行方不明の方、怪我をされた方、合わせて24,627名だそうです」
花陽「……日本にいる限り、地震からは逃れられないっていうのはたぶん皆さんわかってることだと思います」
花陽「東京でも、首都直下地震が来るってずっと前から言われてますよね。でも結局今まで起こってなくて、どうせ来ないと思ってる人も多いと思います」
花陽「…本当に来るかどうかはたぶん誰にもわからない。でも、もし来たら、たぶん大勢の人が、大事なものや、人や、家や家族………」
花陽「…命を、失うことになるんだと思います」
花陽「でも、せめて私達の仲間には、そうなってほしくないんです」
花陽「私達は最初、オトノキの廃校を阻止するために始まったグループです」
花陽「だから、今ステージにいる9人は、オトノキが、オトノキのみんなが大好きです」
花陽「だから……もし東京で災害があった時、オトノキの仲間には誰にもいなくなってほしくない。災害から落ち着いて学校が再開したとき、1人も欠けることなくここに揃ってほしい。そして、誰にも、大切な人を失う悲しみを味わってほしくない」
花陽「そう思って、この曲をカバーさせてもらうことにしました」
花陽「『僕らは人間だ』」
〜♪
海未「瓦礫を掬う傷だらけの両手」
絵里「虚空に漂うSOSの声」
にこ「『どこにいる?』『心配だ…』『くたくただ…』『もう嫌だ』」
真姫「微かなともしびが、胸の中で今震えている」
全員「息を止めるな、繋ぐ手を離すな」
全員「その足で立つんだ、僕らは人間だ」
全員「朝の光だ、始まりの合図だ」
穂乃果「取り戻してみせよう」
全員「いつかの日常を」
希「炊き立てを配るあかぎれの両手」
ことり「頬張る子供の無邪気な笑い声」
凛「『ありがとう!』『おいしいよ!』『平気だよ!』『楽勝だ!』」
全員「あどけない勇者が、拳を振り上げて駆けて行く!!!!!」
全員「逃げ出したいけど、夢だと信じたいけど」
全員「その目を開けるんだ、僕らは人間だ」
全員「夜の暗闇に、底無しの不安に」
全員「星が寄り添うだろう、光を携えて」
穂乃果「待っていろ、諦めるな、大丈夫、気をつけて」
穂乃果「何気ない言葉を、どれほどの命が待ってるだろう」
全員「朝の光だ、始まりの合図だ」
全員「取り戻してみせよう、いつかの日常を」
全員「夜の暗闇に、底無しの不安に」
全員「星が寄り添うだろう、光を携えて」
花陽「涙流れて、すべて奪われて」
花陽「ここから生きるんだ」
全員「僕らは人間だ」
fin
いかがだったでしょうか。
ライブシーンの花陽ちゃんのMCは、四年経った今私が思っている本心です。
被災地のためではなく、皆さん自身のために震災を忘れないでほしい。
皆さん、自分の家と職場(学校)の最寄りの避難所、そこまでの安全な経路、わかりますか?
家に食料や、寒い地域なら燃料の備蓄はありますか?
家族のいる方は、家以外で被災したときそれぞれがどう行動するか決めてますか?
日本は災害大国です。
地震・津波、火山、気象、あらゆる災害の危険にさらされている国に皆さんは暮らしています。
だからこそ、常に災害に備えておくことができるはずです。いつか起こることは分かっているんですから。
最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。
このSSの読者の皆様が災害に遭われた時その犠牲とならないことに加えて、東日本大震災の犠牲となった方々のご冥福を祈って後書きとさせていただきます。
StoratoS
作品中登場曲/suzumoku「僕らは人間だ」
http://youtu.be/FFARdqE9dMI
実は花陽の誕生日って阪神淡路大震災が起きた日なんだよな…