朱に交われば朱の空
今日3月31日は加賀さんの竣工日だということで書いてみました。お誕生日おめでとう、加賀さん。
執筆にあたって某一航戦動画様の影響を多大に受けております。あの作品は素晴らしい…。
あの日…そう、ミッドウェーのことをお話したいと思います。
ミッドウェー海戦。私は赤城さんや蒼龍、飛龍と共に出撃しました。
加賀「ふふ、いよいよね、赤城さん」
赤城「そうね、加賀さん。腕が鳴るわ。」
飛龍「慢心はダメ、絶対ですよ!」
蒼龍「もー飛龍は心配症なんだから!」
加賀「さて…赤城さんと私の一航戦の誇り、お見せします!」
赤城「第一次攻撃隊、発艦始め!」
ああ…いつ見ても綺麗ね。一航戦の印、赤色の線が描かれた艦載機たち。航空機たちが空に朱の軌跡を残す限り、私たちが負けるはずは…
赤城「加賀さんッ!」
ーーえ?
何が起きたのかわからなかった。そうか…爆撃を受けたのね。あ…痛い…嫌だ…沈む?そんなはずは…一航戦の…誇り…飛龍…蒼龍…翔鶴…瑞鶴…
赤城さん…あなたを残して沈むわけには……
どんどん空との距離が遠くなってーー
綺麗な…朱色…
そう。これがミッドウェーです。私達の慢心により、日本軍は敗北したと言われています。
深い海の底で誰かに、強く手を引かれたような気がした。チラリと見える朱い衣。あれはーーー
ーーー新しい艦娘が着任しました!ーーー
突然視界が明るくなる。ここは…どこ?
なんだか懐かしいような気がする。
そうか…。ここは鎮守府だ。忘れようとしても忘れることのできない思い出の場所。最期はあんなのだったけど、ここでの生活はかけがえのないものだった。
それが…どうしてもう一度?
周辺を歩いてみる。どこもかしこも懐かしい。
ここは赤城さんと海を見た岬。
工廠では明石さんにお世話になったわ。
入渠ドックでは駆逐艦の子達と一緒になることもあったわね。
ふと、声が聞こえた。こちらに近づいてくる影が見える。
???「ふー今日も疲れたよ~」
???「早く休もうね~」
あれは…あれは!?
加賀「飛龍!蒼龍!」
飛龍蒼龍「…!」
飛龍蒼龍「加賀さん!?」
加賀「どうしてここに…」
飛龍蒼龍「加賀さんこそ…」
加賀「…」
飛龍「…」
蒼龍「…」
加賀飛龍蒼龍『お久しぶりです』
加賀「…」ニヤリ
飛龍「…」ヘラッ
蒼龍「…」ニヘラッ
加賀飛龍蒼龍『ははは…』
加賀「少し聞きたいのだけれど、ここはどこなの?」
飛龍「ここは鎮守府です。かつて私達がいたところと同一の。」
蒼龍「なんだか『深海棲艦』というよくわからない者達がこの世界を脅かしているそうですよ」
加賀「その者達を倒すためにまた私達は呼び出されたのかしら…」
飛龍「そうみたいです」
蒼龍「身勝手な話ですよね~。でももう会えないと思っていたみんなに会えるのはすごく嬉しいです。」
飛龍「この世界でなら活躍できる子達だっていますしね。」
加賀「ということは…あ…赤城さんも?」
飛龍「ええもちろん。」
蒼龍「今頃間宮さんのところに…って行っちゃった」
飛龍「まあそりゃそうよねー。あの二人は切っても切れない存在だものね。切ろうとしてもこっちがやられちゃう感じ」
ハァ…ハァ…
赤城さんに…赤城さんにまた会える!
この世界のことはよくわからないけどまずは赤城さんに会う事が先決。赤城さんに会ったら…何を言おう…何をしよう…?
???「間宮さん、おかわりです!」
間宮「はーい、わかりました〜」
加賀「赤城さんッ!!!」
赤城「…」
赤城「はい?」
赤城「何か私にご用でしょうか?」
この反応…私のことを覚えて…いない…?
加賀「あ、赤城さ」
赤城「私は赤城といいます、よろしくお願いします」ニコッ
ああ、あなたはこの世界でも前の世界と変わらない笑顔をするのね。
私は今までこの笑顔に何度を助けられたか。ただ、今は屈託の無いあなたの笑顔が逆に辛い。
私はなんのためにこの世界に呼ばれたんだろうか。赤城さんに覚えられていない。こんなショック鳴ことがあるだろうか。こんな酷い仕打ちを受けるくらいならこんな世界になんか来たくなかった。神というものがいるなら、神は私にまた罰を与えるつもりなのか。海の底で見守っている方がよかった。
提督「全艦娘に告ぐ、只今より次の作戦の指示を行う」
提督「赤城・加賀・陸奥・秋月・青葉・古鷹は一○○〇に執務室に来るように 以上」
作戦…そういや深海棲艦と戦うと言っていた。だが今の私に何ができるというのだろう。こんな状態で…。
提督「よし、全員揃ったな」
結局来てしまった。やはり昔の癖は治らないようだ。
提督「では今から作戦を説明する。まず………
ふと、赤城さんと目が合う。笑顔だ。
あなたは私が知っているあなたとは違うけれど、あなたがあなたであることには変わらない。
やっぱりこっちの赤城さんでもそんな顔をするのね。違う赤城さんとわかっていても心が安らぐ。
なぜこの世界に呼ばれたのかはわからないけれど、少し頑張ってみよう…きっとできる。
提督「以上だ、よろしく頼むぞ」
そう。私と赤城さんは
第一航空戦隊、一航戦なのだから。
陸奥「まずは一航戦のお二人さん、よろしくね」
弓を持つ。番える。引く。放つ。
数え切れないほど行ってきたこの動作。
この世界でだってやることは変わらない。
加賀「さて…赤城さんと私の一航戦の誇り、お見せします!」
赤城「第一次攻撃隊、発艦始め!」
意識もしていないのに前の世界と同じ台詞を言ってしまう。赤城さんも全く同じ事を言っているしここは前の世界と同じなのか?私がおかしいのか?
赤城「やりました」ニコッ
加賀「ええ、そうね」ニコッ
結局、その出撃で私達は勝利を収めた。
陸奥「じゃあ帰投ね〜」
ーー鎮守府ーー
この世界のことを考えよう。赤城さんが私のことを覚えていないというのはどうも辻褄が合わない気がする。赤城さん以外はちゃんと私のことを覚えている。これはどういうことなのだろう。
電「加賀さん、赤城さんがお呼びなのです。 間宮さんのところでお待ちなのです」
赤城さんが私を…?何だろう。わざわざ間宮さんのところで話すほどのことなのだろうか?わからない。
加賀「赤城さん、加賀、来ましt」
パンパンパーン!!!(クラッカー)
!?
艦娘一同「加賀さん、お誕生日おめでとう!!!」
……そうか、今日は私の…竣工日だ。
「こんなことをするために…わざわざ…」
もうすっかり忘れていた。あれから何年が経ったのだろうか。遠い昔のよう。
飛龍「こんなこととはなんですか!」
蒼龍「加賀さんが私達にとってどれほどの存在か…」
飛龍「空母、いや艦娘達のエース、一航戦の片翼を担う」
蒼龍「ツンとした佇まい、でも後輩の私達にはとっても優しい」
飛龍「そんな加賀さんが私達は大好きなんです…!」
この世界に来てよかった。初めてそう思えた。みんなが私を頼ってくれる。憧れの目で見てくれる。これほどまでに嬉しく、幸せなものだったのだろうか。私はうまく思いを言葉にできないときもあるけれど…これは言える。いや、言えないわけがない。
加賀「ありがとう。」
……………………違う。
まだ何かが足りない。何かというほどのことでもないことは私が一番わかっている。
蒼龍「次は花束贈呈で〜す!」
コツ、コツ。足音が近づく。
そう。やっぱりあなたなのね…赤城さん。
加賀「赤城さん…」
赤城「加賀さん、お誕生日おめでとう。」
赤城「いつも私の傍にいてくれてありがとう。」
赤城「いつも私の隣で戦ってくれてありがとう。」
赤城「あなたがここに着任するまでの間、とっても辛かった。」
赤城「おかえりなさい。」ニコッ
加賀「赤城さん…」
赤城さん。私だって…
赤城「それと…私はあなたのことを忘れていません。」
え?
赤城「忘れたふりをしていただけです。」
赤城「あなたの着任があんまり遅いからいたずらしようと思って…」ニコッ
……………………
加賀「赤城さん、私がどれだけ苦しんだかわかってるんですか!」
赤城「え…?」
加賀「この世界に来て、赤城さんとまた会えると聞いたときは心が踊りました。でも。」
加賀「私が会ったあなたは私の知っているあなたではなかった…!」
加賀「なぜこの世界に呼ばれたのだろうとかそんなことばかり考えていました」
加賀「それが…冗談だったですって?」
加賀「あんまりです…あんまりですよ…赤城さん。」
赤城「加賀さん…」
加賀「絶交です。」
赤城「え?」
加賀「あなたとは…絶交です。」
加賀「それでは。さよなら。」
赤城「加賀さん!」
赤城さんの悲痛な声。
踵を返して私は歩く。
赤城さん、これは私を騙した小さな報いです。
でも。あんなことを口にしたけど。
あれが私の本心なわけがない。
絶交だなんてそんな言葉は軽々しく使わない方が良かったかな。
くるり。
加賀「私は今しがた赤城さんと絶交しました。なので今私達は朱の他人です。」
加賀「そんな赤城さんに言います。」
加賀「もう一度、私の…友達に…友達以上の存在になってください…」
あれ…涙が。
赤城「……もちろんです」
赤城さんまで泣いてしまって…
赤城加賀「うわーーーーん」ギュッ
赤城「加賀さーーん 加賀さんのことも考えずに安直な行為をしてしまってごめんなさいいいいい」
加賀「赤城さーーん 絶交だなんて言葉で一瞬ではあるけども私達の関係を切ってしまってごめんなさいいいいい」
私は朱色が好きだ。
私達一航戦の艦載機の目印。
そして何より…私の大切な人を連想させる。彼女がいつも身に付けている色だ。
今日も夕焼けで朱く染まった空に朱い艦載機が、航跡を描く。
あの動画は神や