夢の舞台へ… 第一話「開いた扉」
アイドルに興味を持ちその道を目指したある女の子の物語。
ミリオンライブの田中琴葉を中心に置いて書いていきます。
元ネタとは多少異なる部分もあるのであらかじめご了承ください。
「ふぅ……」
扉の前で1つ息を吐く。いつもより鼓動が速くなっているのがのが分かる。
「それはそうだ」
小さく呟く。今から私の今後に関わる大事な事があるのだから。改めて周りを見回してみる。今私の周りには2人の人が居る。
「…………」
1人は背は私と同じくらいだろうか? 入念にメイクの確認をしている。
「ふんふんふ~ん♪」
そしてもう1人の方は余裕なのだろうか。楽しそうに鼻歌を歌っている、緊張も見えずもしかしたら鼻歌はリラックスではなく自信の表れなのかもしれない。
「ううん。私は私に出来ることをしなきゃ」
思わず自分と比べてしまいそうになるも切り替える。
「お待たせしました。始めますので中に入ってください」
そうした所で中から顔を出して私達を呼ばれる。顔を一部しか見えないが事務員さんだろうか。
「はい!」
「はーい」
「分かりました~」
私含め三人は返事をして中に入っていった。
中には椅子が三つ少し間隔を空け置いてあり、それぞれ椅子の横に立つよう指定される。そうしてから
「社長? 次の三人です」
「ありがとう小鳥君。ではすまないが次の三人を待機させておいてくれたまえ」
「はい」
そう会話をした後事務員さんは外へと出て行った。
「さて、はじめまして。私がこの765プロダクション社長の高木順二郎だ。まぁひとまず……掛けたまえ」
そう言って社長さんは座るのを勧めてくる。私達は
『失礼します』
と言って椅子に腰掛ける。
「それではまずは、自己紹介をしてもらえるかな? まず君から」
社長さんは顔を私に向け言う。
「はい。田中琴葉、18歳、高校三年生です。多くの人を感動させるアイドルになる為にこの765ミリオンスターズのオーディションを受けました。アイドルに興味を持ったのは最近の事ですが今後アイドルとしてやっていく為なら努力は惜しみません。よろしくお願いします!」
そういい終わったところで、心の中で一息つく。散々練習したかいがあって詰まる事もなくしっかり言えた。
「うーむいいねぇ! 立派な心がけだアイドルに努力は欠かせないものだからね。これはアイドルに限った話ではなく日常に置いても努力は欠かしてはいけないものだ」
社長さんはうんうんと頷きながら言ってくださった。よい印象を持ってもらえただろうか。
「では次は、君? お願いできるかな?」
「あ。はい。所恵美です。年は16になります。えっと……」
16歳だったんだという事に私は驚いた。所さんはこちらを見てから再び社長さんの方を見る。
「私、田中さんみたいにアイドルについて詳しい訳じゃなくて、かといってそこまで可愛いって感じでも無いですけど。この事務所や配属される劇場を少しでも大きくできるように頑張ってみたいなって思ってオーディション受けました。だからその……よろしくお願いします」
そう言って彼女は頭を下げる。社長さんは困ったような笑顔を浮かべ
「顔を上げてくれたまえ。いいじゃないか、人の為に頑張ろうとする気持ちそれは相手に伝わるからね。その心意気が大切なのだよ。では最後の君お願いできるかな?」
そう言われた方は椅子から立ち上がった。
「はい。北上麗花です! えっと自己アピールは……私内臓には結構自信あります。小さい頃にお婆ちゃんに褒められました。特に肺活量は自信あります。アイドルになったら色んな事に挑戦したいなーって思ってます! 人生は1度きり思い切っていきたいですし、何より色んなことを経験して、たくさんの人を笑顔にさせたいなって思ってるんです。こんな感じです」
そう言って北上さんは座ろうとした。しかし途中でピタッと止まり再び立った姿勢に戻る。
「すみません。年齢は20歳です。よろしくお願いします!」
そして椅子に腰掛けた。
「確かに北上君の言うとおりだ。一度きりの人生。私ももっと多くの事を経験すれば良かったと思う。どんな経験もけして無駄にはならない。それは自分の糧になるんだよ」
全員が自己紹介を終え、社長さんは満足そうに何度も頷かれる。そして笑顔を見せ口を開く。
「三人とも素晴らしい事を言ってくれたね。まぁ努力、心意気、経験。他にも数多くの大事なことはたくさんある。だけどね。私が1番大事だと思うのはね?」
そこで社長さんは一旦間を置く。
「恵美君?」
「は、はい!」
「君にとって『楽しい時』と言ったらなんだい?」
「えっ?」
突然の質問に所さんは困惑している様に見える。それは私もだ。自分にとっての楽しい時……
「あぁ答えてくれなくていい。ただそういう時はあるかね?」
「えっと……はい」
所さんは頷く。北上さんも見つかっているのか頷いている。
「そうか。私はね、ファンも楽しませる事も大事だと思うけどまずは自分が楽しいと思えるかどうかが大事だと思うんだよ。そしてファンとアイドルの全員がその気持ちで1つになる。これを私は追いかけて欲しいと思う」
「自分とファンが一緒に……」
私は思わず呟いていた。
「そうだ。その為に必要なのが――」
「社長、すみません。そろそろ」
社長さんが立ち上がりさらに続けようとした所で先ほどの事務員さんが入ってこられる。
「もうそんな時間かね? まだまだ話したい事がたくさん……」
「受ける人も多いのですから我慢してください。じゃないと受ける人達の帰りに影響が出ちゃうんです」
慣れた様子で社長さんに言う事務員さん。長い付き合いなのだろうか。
「はぁ……では申し訳ないがこれにて終了とさせてもらう。短い時間ですまないね」
社長さんが軽く頭を下げられる。
「い、いえ! そんな。今の話を聞けただけでも良かったです!」
「そうです。そんな考え方もあるんだってアタシも勉強になりました」
私と所さんは慌てて言う。北上さんは
「やっぱり社長さんって凄いんですねー」
と感心していた。今そこを気にする時だろうか。
「合否に関してはまた後日お届けするから。今日は来てくれてありがとう」
「では、退席をお願いします」
こうして私の、765ミリオンスターズへのオーディションは終わった。
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