765PRO 音無の物語
これは765PROALLSTARS生まれる前の765PROの物語
オリジナルP交えての作品です。
原作と多少異なる部分もあるのであらかじめご了承ください。
「ちょっと助けてください」
電話の向こうから言われた言葉に俺は少し戸惑った。この事を話すには少し前に時間を戻して説明しないといけない。
自己紹介をしておこう。俺の名前は音無と言う。現在大学で教員免許取得に励んでいる極普通の大学生だ。本日申請の説明会に出席してようやく肩の荷も下りた所だ。そんな時携帯が着信で震えた。
「小鳥? 珍しいな……」
着信の相手は妹である音無小鳥だ。電話を通話に切り替えて
「もしもし?」
そう言ってみる。電話の向こうから
「あ、兄さん? えっと、今大丈夫?」
控えめにどこか困ったような声が返ってきた。何かあったのだろうか? とりあえず今日の用事は終了しているため
「大丈夫だが、何かあったのか?」
「うん……あのね?」
そこで小鳥は言葉を切る。電話の向こうで深呼吸をするような声が聞こえた。そして
「ちょっと助けてください」
この言葉を言われたのだ。そして話は今に至る。俺はこの時1つ思ったことがあった。
「またお得意の妄想じゃないだろうな?」
「ち、違うよ! 今回は本当に困ってるの」
「なら落ち着け。まず何があったんだ?」
今の情報だけじゃあまりにも状況が掴めない為小鳥に聞く。
「えっと……今日の用事が終わって家に帰ってる途中だったんだけどね?」
そこから始まるのか、と言う言葉を飲み込み俺は耳を傾ける。
「そこで、ちょっと良い子が居て私鼻歌交じりで歌を口ずさんでいたの」
うん、いつも通りの小鳥だ。それがどうして助けを求めるような状況になるのだろうか。
「そしたら何か知らないおじさんが『ティンと来た!』って言ってとりあえず事務所まで来てくれないかって言われて断ったんだけどなしくずしに連れてこられて……」
「…………」
父よ、母よ私は小鳥の将来が凄く心配です。
「なぁ小鳥……」
「うん?」
「それって誘拐だよな?」
「…………えっ?」
自覚が無いところが輪をかけて素晴らしい。押しに弱いというかなんと言うか
「でも、拘束とかされてないし乱暴もされてないよ? とある同人誌みた――」
「ちょっと黙ろうか。で? その誘拐犯は何て言ってるんだ?」
「うん。ちょっと変わるね?」
変わるってどういうことだ。少しの間を置いて電話の向こうから
「やぁ、君が小鳥君のお兄さんだね? 私は高木という者だが……」
元気そうなおじさんてきた。というか、自分の名前を教えたのか小鳥の奴は……
「はい。えっと小鳥に何の用ですか?」
「それはだね……少々内密な話になるから事務所の方まで来てくれないかね? 場所はたるき亭の上になるのだが……」
「ここでは言えない事なんですか?」
最悪の場合兄妹揃って誘拐なんて情けない話になりかねない。事務所は言わば相手のホームだ。電話相手……高木は少々迷ったのか
「うーむ……小鳥君にも君にも関わる話だからね。面倒だが来てくれないかね?」
「……分かりました。たるき亭の上ですね? 今から向かいますので」
「すまないが、よろしく頼むよ」
その言葉を聞いてから俺は電話を切った。たるき亭と言えば前に食事しに行った事があるから問題ない。移動中考えたことは何で俺にも関わることなのだろうかと言う点だ。単純に身代金等が目的なら直接両親にかける筈だし……相手の意図が分からないままたるき亭の前に着いた。
「765?」
たるき亭の上……2階の窓に貼ってあるガムテープだろうか? そこからはそんな数字が読み取れた。横の階段から2階に上がる。そこのドアには
【765プロダクション事務所入り口】
と書いてあった。これ以上上は屋上になるし、ここで間違いは無いだろう。俺は入り口をノックした。
「入ってくれたまえ」
ドアの向こうから先程話した高木の声が聞こえる。俺は一つ深呼吸をしてドアを開けた。
「やぁ、君が音無君か。私はここ765プロダクションの社長の高木と言う者だ」
出迎えてきたのは、電話で話した高木だった。見た目は普通のおじさんところだろうか? 少々黒く見えるのは気のせいだろう。
「あ、兄さん」
その後ろから小鳥の姿が見えた。確かに拘束なんかはされていないようだ。
「ううん! 小鳥君と同じで言い面構えだ。まぁ、とりあえず座りなさい」
「は、はぁ……」
なんというか勢いのある人だな。この勢いは小鳥は断れないだろう。
「で? お話って何なんですか?」
俺と小鳥、高木が対面するように座ってから俺は用件を切り出した。
「うむ。実はだね……我が765プロダクションとして小鳥君をアイドル候補生としてスカウトしたいのだよ」
「……は?」
予想の斜め上とはこのようなことを言うのだろうか。小鳥がアイドル? あまりにも現実味が無さ過ぎて理解に時間がかかった。そして出た言葉が
「な、何で小鳥を?」
単純な疑問だった。
「彼女の歌を少しだけ聞かせてもらってね。こんなにも歌が好きだと感じさせる歌声を持ってる小鳥君に大きな魅力を感じたからだよ」
それは俺にも身に覚えがある。昔、小鳥は中学・高校と合唱部だったが他とは違う何かを感じ、不思議とこちらの気持ちまで楽しくというか温かくなるというか……単に兄の妹補正かと思っていたが勘違いでは無かったようだ。
「だから、私は小鳥君にこの世界で頑張ってもらいたいのだよ。小鳥君の歌声は必ず人々の心に響き笑顔を作ると私は確信している」
熱く語る高木だが、俺にはそこまでのビジョンは見えない。小鳥ほうは唖然としている。
「小鳥はどうなんだ? この誘いは?」
とりあえず俺は小鳥に話を振ってみた。仮に俺と高木が合意形成しても本人の意思が伴わないと意味が無い。
「わ、私!? えっと……その……」
小鳥はどこか歯切れが悪かった。おそらくある事を危惧して迷っているのだろう。
「高木さん。1つ聞きたいんですけど、仮に小鳥がアイドルになったとしてテレビで見るような大きなライブをしないといけないのですか?」
「あっ……」
俺の言い分に小鳥が俺の方を見る。小鳥が危惧してるのは自分の性格だろう。簡単に言えば、小鳥は大人数を相手にすると緊張のあまり歌に集中できないのである。高校では部内ナンバー1の歌唱力を持っていたがが文化祭といった学生全員の前などで歌う時は隅の目立たないところじゃないと緊張でまともに歌えなかったそうだ。
「大きなライブかね……うーん」
高木はしばらく腕を組んで唸なった。少し間をおいて口を開いた。
「プロデュースの方法なんて他にいくらでもあるものだよ。地方への営業やオーディションだってある。アイドルと聞けばライブなんかをイメージしがちだが実際には小さな活動の積み重ねなのだよ」
「小さな活動の積み重ね……」
「そう。確かにライブは映えるしテレビに出る分人気も出やすいだろう。でも地方に行きファンの生の声を聞くことも十分にライブに勝るものなのだよ」
「…………」
俺は小鳥を見た。小鳥は深呼吸した後高木をまっすぐに見て口を開いた。
_。
「高木さん。いや、高木社長。小さな活動を行っていく形でも良いなら私……頑張ってみたいです」
「そうか。フフッ」
小鳥の発言を聞いて高木が笑った。その笑みはどこか懐かしいものを思い出しているようなそんな笑みだった。
「あの? 高木さん。どうしたんですか? 急に……」
「いや……私がプロデュースしたアイドルも君と同じような事を小鳥君が言ったものだからついね……彼女も「大勢は無理だけど小さな活動なら良い。それで自分を変えたい」と言ってアイドルになったものだからね懐かしくなったんだよ。彼女は最後は普通にライブが出来るくらいにまで成長してくれた……本人も喜んでいたよ」
「……」
「別に君にその様になれという訳じゃない。ただ、アイドルを目指す理由は些細なものでも良いってことだよ。例えば『歌うことが好き』、『人を喜ばせたい』、極端に言ってしまえば『もっと可愛くなりたい』といったものでも私は良いと思っている。大事なのはその思いをレッスンやオーディションなどで自分を支える力に出来るかどうかだと思っているよ」
高木の言い分に小鳥は感心したような表情を浮かべていた。小鳥の方は問題無さそうだ。そうなるともう一つの件を聞かないといけない。
「あの、高木さん。小鳥は分かったんですけど、俺は呼ばれた理由は?」
「ああ。そうだね! 言ってなかったね。音無君。君は小鳥君のプロデューサーとしてスカウトしたいのだよ」
「俺がプロデューサーですか?」
プロデューサーと言えばアイドルのスケジュール管理などの部門だと言う認識しか俺には無い。そのようなものに何故俺が……
「しかし、何で俺なんですか? もっと腕利きのプロデューサーを雇ってやったほうが良いのでは?」
率直に聞いてみる。高木は頷きながら答えてくれた。
「確かに。君の言うことにも一理ある。だけど小鳥君からしたら君のほうが良いのではないか? プロデューサーというのは何もアイドルに仕事を持ってくれば良いだけではない。時にはアイドルの相談に乗ったりして二人三脚でトップアイドルを目指していく関係を築いていくものだと私は考えている。小鳥君にとっては君が相談相手として1番向いてると思うのだよ」
そこで一呼吸置いて高木は続ける。
「それに、新人アイドルにベテランをつけるのは私はあまりしたくない。さっき言った事に繋がるが新人とベテランでは見えるものが違う。新人にとっては喜べるものでもベテランになると当たり前の事として受け止める。これはアイドルのモチベーションに大きなダメージを与えかねない。小鳥君の才能を埋もれさせたくない私としては君にプロデュースをして欲しいのだが――」
それを言われたら困る。というかこの人、こっちの性格を見越して話してきてないだろうか、簡単に言えば
「君がプロデューサーにならなければ小鳥は大変な思いをすることになるよ」
という事だ。しかし、それを含めてのアイドルなのではないだろうか……
「あの、兄さん。その……私頑張るから大丈夫だよ」
「…………」
小鳥は口ではそう言うものの目は不安に揺れていた。これだとスタートから転びかねない気がする。俺は口を開いた。
「分かりました。その話俺の方も受けさせて頂きます」
「兄さん……いいの?」
「まぁ、幸いなことに赴任先も決まってなかったから大丈夫だよ。それにさっきの話には納得できる部分もあったし」
「そっか……ありがとう」
小鳥は笑顔でお礼を言ってきた。少々照れくさい。
「そうか。君には分からないところが多い分苦労をが多いかもしれないがよろしく頼むよ」
そう言葉をかけてきた。
「不安でいっぱいですけど頑張らせて小鳥共々頑張らせて頂きます」
「わ、私も精一杯頑張ります!」
小鳥は両手を握って気合を入れていた。
「さて、話もまとまった事だ。登録の手続きなんかは私がやっておくから2人は明日に備えてゆっくり休んでくれたまえ」
高木さん……いや、高木社長は気遣ってくれたのかそれとも何かあるのかそう言ってくれた。とりあえずは帰ろう。
「はい」
「では、今日はこれで……」
「うむ。明日からよろしく頼むよ」
帰り道で小鳥はどこかボーっとしていた。
「そんなにボーっとしてると電柱にぶつかるぞ」
「そんなことないよ。ただ、実感湧かなくて……」
「まぁ、実際デビューしてないしな。とりあえずはさっさと帰るぞ。」
「あ、待ってよー」
こうして、小鳥はアイドルとして俺はプロデューサーとしてやっていくことになった。不安で仕方ないが頑張っていこう……
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