「飛べない燕と銘無き英雄」プロローグ
英雄を目指す少年と、彼を慕う少女の物語。
(この作品には赤蜥蜴826様のキャラクターである「無銘」が登場します)
赤蜥蜴826氏へ
[プロローグ]
オレが、君の英雄になる。
―――――赤坂蜥蜴
*
暖かい日だった。
冬はとうの昔に過ぎ去り、桜が咲き誇り春の気持ち良い風が頬を撫でる…そんな季節が今年もやってきた。
赤坂蜥蜴は公園のベンチに腰掛け、本を読んでいた。文字から内容を読み取り、頭の中で映像として再生する…そういった作業をひたすら繰り返している。苦痛では無い。寧ろ楽しいくらいだ。
特にこの本の内容は自分が関わったある事件をモデルにしているという事もあり、当時の事を思い返しながらの読書だった。
(あの頃は無茶してたな…)
無茶しているのは今でも変わらないのだが、昔と比べたら抑えている方だ。それは自分が守りたいものが明確になったからだろう。
隣を見る。赤坂の肩に頭を預けて、一人の女性が寝息を立てていた。一見すると死んでいるようにしか見えないのだが、よく見ると胸は確りと上下している。静かに眠るその姿にヒヤリとした事は一度や二度では無い。
嘗てはツインテールにしていた髪を下ろし、大人びたファッションに身を包んだ彼女は本当に美しくて…思わず見とれてしまった。そんな自分に苦笑する。
(女性恐怖症だったオレが…変わるもんだな)
今も女性に対しては少し気後れしてしまう赤坂であったが、それでも大分マシにはなった。
(コイツと出会って…オレは変わった)
愛を知らなかった自分が、誰かを愛する様になった。
孤独でいいと割り切っていた自分が、人肌の温かさを求める様になった。
それは悪い事では無くて…嬉しくて、温かくて、優しい感情だった。
きっとこれが、誰かを愛するという事なのだろう…そう考えてからかなり恥ずかしい事を考えている事に気付き、慌てて思考を転換させた。
(こんな事考えてるってバレたら…多分二日は顔合わせられないぞ…主に羞恥で)
彼女は心を読めるとかいった能力は持ち合わせていないのでその考えは確実に杞憂なのだが…それでも慌ててしまうあたり、自分もまだまだというべきか。
勝手に慌てて勝手に落ち着いた後、再び物思いにふける。
(思えば、色々あったな…)
今でこそ彼女が隣に居るのが当たり前になったが、そこまで辿り着くまでには多くの出来事があった。
嬉しい事もあったが、それよりも悲しい事が多かった。何度も死にかけた。辛かった。苦しかった。…それでも、諦めなかった。
『オレが、君の英雄になる』
この言葉を、裏切る訳にはいかなかったから。
目の前で泣いている少女を、見捨てる訳にはいかなかったから。
だから、戦った。
たった一人の少女の為に、拳を握りしめて。
そして、未来を掴みとったのだ。
幸せに満ちた、未来を…。
…いつの間にか、赤坂の意識は過去へと飛んでいた。
彼女と出会った時から始まる、一連の物語を追想する様に……。
―これは、少女と英雄の物語。
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