海未「ありふれた魔法」
とある雨の日の一幕。2年生組のまったりとしたお話です。
さーっ、さーとゆるやかな雨が降っていますね。そんな微かな雨音ですが、私は目が覚めてしまいました。
時刻は朝5時を回ったところでしょうか。
朝の稽古の時間には少し早い気もしますが、せっかくなので起きてしまいましょう。
「雨、止むといいですね」
気が付いたら私は、ぽつりとそんなことを呟いていました。
誰に聞かせるわけでもないですが、思っていたことが、口から自然とでてしまいました。これじゃまるで穂乃果みたいです。
そういえば昨日は穂乃果が、張り切っていましたっけ。明日は6月入って最初の休日練習だから、気合いれていこーって。
…しかし、今日のこの調子では、穂乃果はむくれてしまいそうですね。私は袴に着替える中で、そんなことを思います。
後々のメールを楽しみにしておきましょうか。
「まだ、お父様は来ていないようですね」
道場に着いて一礼した後、中をぐるっと見回してみましたがお父様の姿はありませんでした。
まぁもう少ししたら来るでしょう。先に一回雑巾がけをしておきましょうか。
梅雨の時期になると、道場は滑りますからね。感謝を込めて、床を拭き始めます。
「ふう・・これで大丈夫ですね。さっそく初めていきましょう。」
奥に立てかけてある、竹刀に手を取り、私はいつもの場所へと立ちます。
素振りを始める前のこの静寂が、とても好きですね。凛と心を研ぎ澄まして、私は一心に竹刀を振ります。
「おう、早いじゃねえか」
「あ、お父様。おはよう御座います。雨音で目が覚めてしまいまして」
「なるほどな。素振りが終わったら久々に打ち合いでもやるか?一本勝負だがな」
「ええ、是非お願いします」
ひとしきり素振りが終わった後、防具を身に着けました。
こうしてお父様に、見てもらえる機会はなかなかないので、身が引き締まりますね。
お父様も準備が終わったようです。お互いに向き合い、立ち上がります。
ドンっと踏み込む音と、私達の声が道場に響き渡ります。
激しい鍔迫り合いの繰り返し、お互いに引けをとりません。
ですが、私は一瞬の隙を見逃しませんでした。
「やぁっ!めぇぇんっ!」
「むぅ…面ありだな」
重く鈍い音をたて、お父様から一本取ることに成功しました。
一礼し、これで打ち合いは終わりです。
「強くなったな。これからも精進するように」
「はい、お父様」
「さてと、疲れたろ?朝飯を食いにいくぞ」
「わかりました。着替えてから向かいます」
お父様と共に道場を雑巾がけし、私はシャワーを浴びに行きました。
シャワーから上がると、良い匂いがしてきました。この匂いはおそらく、肉じゃがでしょうか。
密かに心が躍りますね。少しわくわくとしながら、食堂へと向かいます。
「最近、新しく部活をはじめたんだって?」
ふいにお父様に尋ねられました。どうやらお母様から、μ'sのことを聞いたようです。
ただ、お母様も世間には疎いですから、私達の活動をただのダンス部か何かだと思っているみたいです。
厳密に言えば違うのですが、それはこの際置いておくとしましょう。
「ええ、穂乃果やことり達と一緒にやっています」
「ああ、あの娘達か」
お父様はそれだけ言うと、どこか納得した様子でした。穂乃果とことりは、昔からの幼馴染ですからね。
その二人とやっていることならば、きっと別段口を出すことでもないと判断したのでしょう。
「まぁよくはわからないが、楽しんでいるのであればそれでいい。悔いだけは残さないようにな」
「はい」
そう言って、お父様は一足先に食べ終わり、食堂を後にしました。
「ご馳走様でした」
朝食を済ませた私も、後に続くように自室へと戻りました。
しかしまだ、8時手前ですか。時計を確認し私は悩みます。さてと、どうしたものでしょうか。
昨日出た宿題もわずかに残っていますし、読みたい本もありますね。
手持ち無沙汰気味だった私は、なんとなく携帯を見てみました。そこには2通のメールが届いていました。
一つは、絵里から全体あてへ、今日の練習は中止の旨が書かれたメール。残りは、穂乃果からでした。
『もうっなんで今日は雨なの!?』
『すっごく楽しみにしてたのに! 穂乃果の昨日のワクワクを返してよっ>A<』
ふふ、やっぱり私の想像通りですね。相変わらず、わかりやすいんですから。
『仕方ないじゃないですか。降ること自体は昨日の予報でも言っていましたし』
『それに楽しみにしていたのは、穂乃果だけではありませんよ?』
『私も楽しみでしたから』
返したメールはそんな内容でした。不思議なものですね。
自分には、縁のない世界だと思っていたアイドル。その活動をやりたい自分がいる。
人間何が起こるかわからないものです。おそらく、以前の私がみたらびっくりしてしまうかもしれません。
そのあといくつかのやりとりを得て、ことりと一緒に私の家に集まる流れになりました。
練習が出来なかった不満を解消するために、穂乃果はどうしても、じっとしていられなかったのでしょう。
二人が来るまでには、まだまだ時間がありますね。ひとまず部屋の掃除を、済ませておきますか。
特にこれといって、散らかってはいないですが、まぁこういうのは気持ちが大事です。
親しき仲にも礼儀あり。人を呼ぶときには、環境は最低限に整えておくものだと私は思います。
掃除も終わり、読書をしていたときでした。視界の隅で、携帯が明るくなるのを感じました。
『海未ちゃーん。おはよ~』
『そこの公園で綺麗な紫陽花が咲いてたから、画像送るね♪』
『あ、あと少しで着くから待っててー』
ことりからのメールですね。添付されてきた紫陽花は確かに、綺麗に色づいています。
とてもカラフルで、見ていて飽きがこない、素敵なものです。心が自然と穏やかになった気がします。
…っとそれよりも、もうそんな時間ですか。つい読書に没頭して、時間を忘れてしまいそうになりました。
二重の意味で、ことりに感謝をしながら私は、短く返事を返しました。
ぴんぽーんと、少し間の抜けた電子音が響きます。下で待っていた私は、すぐに玄関へと向かいました。
戸を開け、目の前のことりと穂乃果に、入るように促します。
「二人とも、どうぞ上がってください」
「「おじゃましまーす」」
「そうそう、今日はたくさんお菓子を作ってきたんだよ♪」
「本当!?わぁいっ楽しみっ!」
ふわっとした甘い薫香がするのは、ことりがお菓子を作ってきたからだったんですね。
シナモンの匂いでしょうか。やさしい香りです。
「ありがとうございます。ことりの手作りはとても美味しいですからね。私も楽しみです」
「えへへ、ことり張り切っちゃいました」
「私の部屋はわかりますよね?先に行っててください」
「うんっ。いこ、ことりちゃん!」
「あ、待って引っ張らないでぇ~」
傘を立てかけ、靴を揃え、奥へ進もうとしていた時でした。くぅ・・と小さく私のお腹が鳴りました。
私としたことが、うっかりしていました。普段であれば、人前でお腹を鳴らしたりはしません。
今の微笑ましいやりとりで、無意識に気が緩んでしまったのでしょう。すかさず穂乃果に、指摘をされました。
「あれ?海未ちゃん、もしかしてお昼食べてないの?」
「う・・はい。先ほどまで、読書をしていたもので」
ええい、こうなってしまったら恥はかき捨てです。
「二人はもう済ませました?まだでしたら、一緒にご飯を作りませんか」
と、思い切って尋ねてみると、大げさにお腹をさする穂乃果に、はにかんで照れくさそうにしていることり。
「いやー、実は穂乃果もまだなんだ。さっき時間あるからって、つい二度寝しちゃったんだよねー」
「私もお菓子作りに夢中になってて、気付いた時にはもう、ご飯食べてる時間がなかったの」
そんな偶然に、たちまち可笑しくなってきて、三人で笑い合います。
「一緒ですね私達。ふふ、じゃあメニューは何にしましょうか」
とは言ったものの私は、にこや、絵里のように特別、料理が得意というわけではないですけどね。
しかし、料理で大事なのは、自分の腕前よりも、食べてくれる人のことを思うことと、お母様が言っていました。
大したものは作れないかもしれない。けれど二人のためならば、私もきっと、お母様のように美味しくできる気がします。
ああ、また一つ楽しみが増えました。小さな情熱を胸に、食堂へと足を運びます。
「さて、この食材だと、ことりはなにがいいと思いますか?」
「うーんっとね・・・あっ回鍋肉なんていいかもっ」
流石はことりです。私の得意と言える料理は炒飯なので、合うものをぴたりと提示してくれました。
回鍋肉であれば、穂乃果たっての希望である、肉が主役のおかずですから、一石二鳥ですね。
「ありがとうございます、ことり。穂乃果はそれで構いませんか?」
「ピーマンをいれないなら大丈夫だよ!それに、海未ちゃんが作ってくれるんだもん、全然オッケーだよ!
あ・・・もっ、もちろん待ってるだけじゃなくて、私もちゃんと手伝うからねっ!?」
なにもそこまで、動揺しなくてもいいと思うのですが。
もしかして、私に何か言われるんじゃないかと、焦っていたのかもしれませんね。
「それでは、お願いします。私と一緒に材料を切りましょう」
「うんっ、まかせてよ!」
「ことりには回鍋肉を頼みます」
「りょーかいです♪」
それぞれ分担し、私達は作業に取り掛かります。
私が炒飯に取り掛かる頃には、食堂いっぱいに、オイスターソースのいい香りが広まっていました。
「はぁい、完成だよ。ことり、お手製の回鍋肉ですっ♪」
「なかなか美味しそうですね。すぐ炒飯を作りますので、もう少し待っていてください」
「えへへ。海未ちゃんの炒飯楽しみにしてるね」
「くぅ~っ、私もうっ待ちきれないよ!海未ちゃん、なるべく早くね!」
「ふふ、善処しますよ」
待ってくれている二人のためにも、全力で臨みましょうか。
煙が出るほど熱した中華鍋に、材料を加え、しっかり芯まで空気が入るように炒めていきます。
私がフライ返しをするたびに、小さな歓声があがります。これ、実は結構得意なんですよね。
まあそれもそのはず、なんせお父様直伝の技ですから。
お父様から教わった、餃子と炒飯だけは誰にも負ける気がしないです。
卵を軽くぱらっとさせたら完成です。小気味よく皿に盛りつけ、私の役目はこれにて終了。
「お待たせしました。さぁ、出来ましたよ」
「わぁ・・まるでお店で見るような炒飯だね。流石は海未ちゃん♪」
「おお、すごいよ海未ちゃん、ことりちゃんも!とーっても美味しそうだよっ」
出来上がった料理を前に、穂乃果は興奮を隠しきれない様子です。
「二人とも、ありがとうございます。では、冷めないうちに頂きましょう」
「「「頂きます」」」
「…!おいしいっ。二人は料理上手で羨ましいなぁ」
「ありがとう穂乃果ちゃん。でも、ことりはそこまで料理得意じゃないんだよ?作れるのは、本当に簡単なものだけだから」
「私もですよ。実際のところ、炒飯と餃子くらいしか誇れるものはないですし」
別に謙遜しているわけではなく、これは事実です。ことりも、本当のことを言っているのでしょう。
しかし、穂乃果は納得がいかなかったようです。
「えーっ?これで得意じゃなかったら、穂乃果なんてだめだめじゃんっ。おまんじゅう包むくらいしか出来ないよ!」
高らかに言う穂乃果に、思わず吹き出してしまいました。
「ふ、ふふ…っ、そんなに自信満々に…い、言わなくても……っ」
「ううぅ笑わないでよーっ。はぁ、どうしたら穂乃果も出来るようになるのかな」
「穂乃果ちゃん家も御夕飯、当番制にしてみたらいいんじゃないかな?ほら、ことりはお母さんたちが忙しいから。
自然とやることが増えて、出来るようになったって感じかなぁ」
「結局地道にやるのが一番ってこと?そっかぁ…じゃがんばらなくっちゃね」
「その意気です穂乃果。きっとおば様も喜びますよ」
やると決めたことは、しっかりとやる、穂乃果のいいところですね。現に今、料理についてことりに聞いています。
私はそのひたむきさが、好きですよ。ただそれが、勉強にも適応されれば文句なしなんですけれど…。
「ようしっ、燃えてきた!次は私が二人に、とっておきをふるまっちゃうんだから楽しみにしててよっ」
「うん、頑張って穂乃果ちゃん♪」
心に火が灯されたようです。ふふ、私も負けられません。次こういった機会があるときまでに、お母様から学んでおきましょう。
そしたら炒飯だけでなく、もっと他のメニューも二人に、喜んでもらえるかもしれないですね。
新たな決意を胸に、緩やかなお昼が過ぎていきます。
「「「ご馳走様でした」」」
「さてと、片づけて部屋に行きましょうか」
「そうだね。あ、今度は海未ちゃん手作りの餃子を、ご馳走して欲しいな♪ そのときは、μ'sのみんなで集まりたいよね」
「おおっ、いいんじゃない?穂乃果は賛成だよっ」
「なるほど。確かに集まって料理を作るのも楽しそうですね。是非、みんなに聞いてみましょう」
思っていたよりも早く、ふるまう機会が来そうです。お母様から、いろいろ学んでおきましょうか。
「みんな喜んでくれると思うよ。海未ちゃんの料理、すごく優しくて美味しかったもん!」
「ことりもそう思うな。きっと楽しいパーティーになるね」
「ありがとうございます。次までに腕を磨いておきますよ」
こうして常に楽しいことで、私を満たしてくれる、二人とならいつまでも、幸せが尽きないような気がします。
なんて考えているうちに、洗い物も終わり、私達は部屋へ向かいました。
「海未ちゃんの部屋、昔と全然変わってないね。あ、ことりの作ったぬいぐるみがある! えへへ、大切にしてくれてありがとう」
「せっかくことりが作ってくれたものですから。それに、見ているとなんだか落ち着くんですよね」
私の机に置いてある、ことりお手製のぬいぐるみ。確か小学生の頃にもらったものでした。
小さなベレー帽を被った、可愛らしい小鳥。今でも、裁縫が下手なりに努力して、ほつれたところを直しています。
「…そうだ、ことりちゃんことりちゃん、今度穂乃果にもなにか作ってよ!」
「いいけど…時間かかっちゃっても大丈夫?」
「全然オッケーだよっ。穂乃果待ってるから」
ぬいぐるみが羨ましくなったのでしょうか、穂乃果が目を輝かせています。
ところで、私は穂乃果が来た時からずっと気になっていたことがあります。それは、穂乃果の寝ぐせです。
跳ねた毛先は、あっちこっちに向いていますね…。ふふ、湿気の所為もあるのかすごい有様です。
自分のことには割と無頓着で、根っからの跳ね返り娘といいますか、小さなことは、目もくれないまっすぐな性格。
だからこそ、そばにいて支えたくなるんですよね。
「穂乃果、酷い寝ぐせですよ?整えてあげますから、ちょっとこっちへ来てください」
「ありがとう、海未ちゃん。本当は二度寝するつもりはなかったんだよ?ただ、やることないなぁって、
ぼーっとしてたら、なんだか眠くなってきちゃって、つい寝ちゃってた」
「ことりもなんとなくわかるかも。ただじーっとしているのって、あんまり得意じゃないから。
あっそうだ、せっかくだから、三人で髪型を変えて遊んでみない?」
穂乃果の髪をすいているのを見て、ことりがふいに思いついたようです。
髪型変更ですか、私はなにやら嫌な予感しかしないのですが…。
「いいねっ!海未ちゃんの髪って、さらさらつやつやだから、いろいろいじってみたかったんだ」
「うんうん♪きっと海未ちゃんの長さなら、いっぱい試せるよね。やーんっ、どきどきしちゃうっ」
ああ、予感的中です。二人のスイッチが入ってしまいました。
こうなってしまったらもう止められません。はしゃぐ二人を横目に、私は若干顔がひきつるのを感じました。
「もう、しょうがないですね。あんまり派手なのは勘弁してくださいね?」
「大丈夫だよ~。海未ちゃんなら、なんでも可愛いって思うな♪」
ことりの笑顔が、いささか不安です。…なるように任せましょう。
「やっぱり、ことりが思った通り♪海未ちゃんはこういう髪型も似合うねっ。ほら、鏡見てみて。」
差し出された鏡に映っていたのは、絵里を全体的にボリューミーにした私でした。
なんというか、ことりの技術のおかげなのか、普段の私とはまるで違いますね。
「海未ちゃん、いつもより色気倍増だね。絵里ちゃんの色気は、やっぱりこの髪型が原因なのかな…。
穂乃果もこうしたら色っぽくなるのかなぁ」
「いや、絵里の場合はおそらく雰囲気だと思うのですが。穂乃果ももう少し、おとなしくすれば近づけるかもですね」
「うぐっ、それは厳しいね…」
「まぁまぁ、穂乃果ちゃんはそのままが一番だよ」
ふふ、ことりの言うとおりですね。
こう言ってはなんですが、天真爛漫な穂乃果が艶っぽくなったところは想像できないです。
「あー、穂乃果も絵里ちゃんみたいになりたい!よし、今度秘訣を教えてもらわなくっちゃ。
きっと絵里ちゃんの色気には、なにか秘密があるはずだよっ。それが分かれば穂乃果も…」
「あはは…聞いてどうにかなることじゃない気がするけど」
流石に今の発言には、ことりも苦笑いしてますね。聞いて解決することなら、誰も苦労しないと思いますよ。
「別に絵里みたいにならなくても、十分ですよ」
「海未ちゃん、なんか余裕だね。そっか、いつもモテモテだもんね」
あれ?私に飛び火しました。
「穂乃果知ってるよ。この間も、一年生からラブレター貰ってたのを!」
「えぇっ、海未ちゃんまた貰ったんだ。流石だね♪」
「なっ、み、見ていたのですか!?」
私としたことが、迂闊でした。てっきり、あの日は誰も居ないものだと思っていたのに。
「そりゃあもう、ばっちりとね」
くっ…不肖、園田海未。もう一度、注意力の鍛錬をし直す必要がありそうです。
「あれはなかなか、すごい光景だったね」
一部始終を見ていたらしい穂乃果が、身振り手振りでその光景の、再現を始めました。
それをことりが嬉しそうに聞いていますね。本当、この類の話が好きなのは相変わらずです。
まったく、二人は昔から私に浮ついた話があると、すぐこうやって盛り上がるんですから。
おかげで、だんだん恥ずかしくなってきました。これ以上は私の身が持ちません、早めに二人を止めておきましょう。
「もうっ、やめてください!その話はなしです!」
「はぁい♪」
「えーっ!?これからが一番いいところじゃん!」
素直なことりに対して、穂乃果からは不満の声が上がりました。
「さぁ、私の話は置いておいて、次は穂乃果の髪をアレンジする番ですね。ことり。手伝いお願いします」
「うんっ、ことりのおまじないでもっと可愛くしちゃうから」
そう言ってことりは、鞄から一冊の雑誌を取り出しました。
「じゃ~ん、この間にこちゃんから借りたヘアカタログです!これで、どんな髪型もお任せあれ♪」
「にこちゃん、こういうのも持ってるんだ。μ's1のオシャレ番長は伊達じゃないねっ」
オシャレ番長って、なんだか物騒な呼び名ですね。にこが聞いたら可愛くないって、抗議が飛んできそうです。
まぁ、このことは私達の秘密にしておきましょうか。
いろいろと夢中になっていたら、いつのまにか時間が経っていました。午後4時ですか…。丁度いい頃合いですね。
「ふぅ、一端この辺で休憩にしましょうか。では、お茶を淹れてきますので、ゆっくりしていて下さい」
「海未ちゃん一人じゃ大変じゃない?持ってくるの手伝おっか?」
「気持ちだけで嬉しいです、穂乃果。ただ、私がもてなしたいだけですので、待っていて大丈夫ですよ」
「そっか、ありがとう」
「はい、では行ってきます」
私は足早に下へと降りて行きました。前にいいほうじ茶を貰ったので、今日はそれにしましょう。
「…ねぇ、ことりちゃん。海未ちゃんあの髪型を気に入ったみたいだね」
「そうだねぇ。ポニーテール動きやすいって言ってたもんね」
温めた湯呑に、均等になるように注いでいきます。蒸らしたほうじ茶の香りが心地よいです。
淹れ終わって一息ついたところで、気が付きました。
「…そういえば、ことりが作ってきたものって洋菓子でしたね。紅茶の方がよかったかもしれないですね」
しかし、生憎ながら私の家は生粋のお茶派、紅茶は置いていないのが現実です。
「まぁ、二人がそこまで気にするとは思いませんし、なにより美味しいほうじ茶ですから、大丈夫でしょう」
無理やりですが、自分に言い聞かせ、上へと戻ることにしました。
「お待たせしました。すみません、扉を開けてください」
「うん、今開けるね~」
「ことり、ありがとうございます」
テーブルの上にお茶を置いて、私も席に着きました。
「全員揃ったし、食べよっか♪今日のお菓子はことりの自信作なのっ」
箱から出てきたのは色とりどりのお菓子。鮮やかな見た目は、見ているだけでも楽しいです。
「これって…もしかして」
「そう、まかま~かマカロ~ン?」
「「おいしーいっ。いえーいっ」」
ふふ、ことりと穂乃果は息ぴったりですね。
「というわけで、今回はマカロンを作ってきたの。味もいろいろだから好きなのを食べてね」
「このピンク色のは何?」
「ええとそれはねぇ、イチゴ味だよ。」
「じゃ最初はこれにしよっと」
「はい穂乃果ちゃん、あーんっ」
「あーん、…うんおいしいっ!」
幸せそうな二人を見てると、こちらも自然と頬が緩んできますね。
薄い緑色、おそらく抹茶でしょうか。とりあえずこれにしましょう。
「ことり、頂きます」
「召し上がれ♪」
手にしたそれは、予想通り抹茶味でした。甘さ控えめですごく食べやすいですね。
なんというのか、ことりの優しさが詰まっているような気がしました。
「流石ですね。とても美味しいです」
「二人ともありがとう。えへへ~、まだまだあるからいっぱい食べてね。そうだ、海未ちゃんもはいあーんっ」
「え?い、いや、それは…」
恥ずかしいので自分で食べますと、言おうとしたときでした。
「海未ちゃん、だめ?……おねがぁいっ」
うっ、いつものパターンですね。正直な話、ことりには勝てる気がしません…。
「あ、あーん…」
素直に応じてしまいました。しかし毎度のことながら、食べさせてもらうのってやっぱり恥ずかしいです。
「海未ちゃんもいい加減に慣れなよー」
にやつく穂乃果に茶化されてしまいました。
「慣れろと言われましても…恥ずかしいものは恥ずかしいんです」
「そこは本当昔から変わらないんだね。穂乃果は全然だけどなぁ」
「まぁ海未ちゃんは、意外と照れ屋さんなのが可愛いところだよねぇ」
「うんうん!普段はあんなにかっこいいのにね」
「からかわないでくださいっ。もう…」
この二人相手だと、私はどうしても後手に回ってしまいます。まぁでもこのやりとり、嫌いじゃないですけどね。
楽しい時間も過ぎて、ちょうど食べ終わったころ、私は部屋に光が射しているのに気が付きました。
「あ、二人とも見てください。日差しが出ていますよ。」
「本当だ。雨止んだんだね。ねぇ海未ちゃん窓開けていい?」
穂乃果はどこかワクワクとした様子です。
「ええ、大丈夫ですよ。」
「ようし、それじゃあっと…。おおーっ見て見て、虹が出来てるよっ!」
「わぁ、綺麗だね~」
「ですね。久々に虹を見た気がします」
目に映る景色に私達は心奪われていました。雨上がりの空って、どうしてこうも惹かれるものがあるんでしょうね。
単純には言い表せないですが、強いて言うならちょっとした魔法みたいですよね。
ありふれた光景ですけど、今こうして私達三人が見ているものは、私達だけの世界です。
まったく同じ景色を知る人は、私達以外には誰も居ない。
「今日が雨でよかったかもしれないですね。練習は出来ませんでしたが、みんなにお土産話は出来ましたね」
「そうだね。あー、でも次こそは雨降らないでね、絶対練習やるんだから!」
穂乃果が空に向かって叫んでいます。そんな穂乃果に私とことりは、笑いを堪えきれませんでした。
こんなときのためにも部室があったらと思ってしまいます。
そうすれば今度雨が降ったら、私達三人だけでなく、μ'sのみんなで同じ景色が見れるかもしれませんね。
ラブライブss2作目になります。
友人の依頼で書いていたものを再編成し、投稿しました♪
個人的にはマカロンのシーンがお気に入りです。
まだまだ拙いかもしれませんが読んでもらえたら幸いです。ではで、これにて失礼します。
このSSへのコメント