やーやー、私は北上。今年で20歳になるどこにでもいる女の子。隣に座ってもいいかな？

そんな怪訝な顔しないでよー。仕事もせずにぼーっと過ごしているんだけど、さすがにそろそろ何かやりたいなぁって思ってるニート女子だよ。

というのも、私は去年まで海で戦う戦士だったんだよー。

なんか黒いキモイ奴らを倒して一躍国のヒーローになったんだー。

でも、そんなことも1年すれば大体の人に忘れられちゃった。

同僚だった娘達の何人かはその可愛さゆえに芸能界デビューしたりしたけど、私はなんか暑苦しい世界に見えて、今はこうやってのんびりしている。

今日は久しぶりに海に来て、魚釣りしてるんだー。

おや、君も全然釣れてないねー

ちょうど良かった。今日は天気もいいし、ちょっと君には私の思い出話に付き合ってもらおうかな。

私が軍隊に入ったのは、高校生の頃。なんか学校の体力測定で1位をとったらそのまま呼び出されちゃった。

あれよあれよと、書類にサインして、気がついたら私は海の上で戦ってたんだ。

色んなことがあったなー。駆逐艦の子たちにいじわるしたり。阿武隈をいじったり。

って私意地悪ばっかりしてた訳じゃないからね？

これでもハイパー北上様って名乗れるくらいには強かったんだから。

こんな私だけど、いつも同部屋の大井っちって子がいたんだー。

私たちはいつも一緒に行動してさー。

大井っちは完全にそっちの気があったよね。あはは

でも私たち息ぴったりでさ、背中を合わせて戦ったことは今でも元同僚の間では話題になるんだよ。

え？今の私がそんなふうに見えない？

もう、君は連れないなぁ。まだ戦争終わって1年なのに艦娘の存在も忘れちゃったの？

そうだよ！私も艦娘の1人だったの！

まったくさー。そんなんだから魚に嫌われちゃうんだよ。

まぁいいや。

とにかく、大井っちと過ごした時間はとてつもなく楽しくて、戦闘で疲れる私の癒しだったんだよー。

でもね、大井っちは

"沈んじゃったの"

もちろん、すぐに別の大井っちが建造されて、帰ってきた。

でもそれまでの記憶を持った大井っちはもう居ないんだよ。

正直、やる気なくなった。

背中合わせで戦っても。なーんにも楽しくない。

気味の悪い感覚が襲ってくるんだ。

なんなら、新しい大井っちが話しかけてくる度に

だんだん気持ち悪くなっちゃった。

でも、なんだかんだ過ごしてるうちに、戦争は終わっちゃった。

あっけなかったなー。なんて思うけど、それからみんなはどうやって生きるか決めなきゃ行けなかった。

アイドルになる子、お店を開く子、はたまた郡に残る子。学校に通う子。

みんなそれぞれ歩みだしたんだー。

でも私は、退役の報奨金を貰ってから旅をすることにしたんだ。

もちろんみんなとも仲良かったし、みんなのいるところに留まるのもいいんだけどさ。

大井っちが…んーん、私の好きな"大井っち"がいない場所には。

私の心が留まりたくなかったのかも。

だからさー、今もこうやって過ごしてるんだ。

私の大好きな大井っちが沈んでから今日で2年。だから海に来たってのもあるんだよー。

ごめんねー、暗い話で。ちょっと話題を変えようか

それにしても君はなんでこんなとこで釣りをしてるんだい。それにその釣竿、

"餌ついてないよね。"

なんで分かるかって？

多分私も君と同じだから。

こんなところで釣りするなんて馬鹿だもん。

だってここ

"海まで20mもあるんだよ？"

それに君、釣りするにしては軽装だし、その釣竿だってその辺の海岸に落ちてたの使ったんでしょ？

まったくさー。こんな日に同じ目的の人が集まったら詫寂がないなー。

本当は大井っちのところ行きたかったけど。

今日はやめにしとくかー。

さてとー。じゃあ気分転換にお昼にしますかー。

え？僕も一緒に？

当たり前でしょー。君は人の予定を狂わせたんだからさー。問答無用だよ。

私が奢るから大丈夫。

それと、君には旅に着いてきてもらおうかな。

どうせこの先の予定とかなかったでしょー。

ほら立って。って、なんでそんなに急かすのかって？

そりゃーもちろん

"もう海に沈む人は見たくない"

からに決まってるでしょ。