2023-12-12 11:39:22 更新

概要

とある提督の、不思議な体験記。

五月雨を、取り戻せ。


前書き

駆逐艦五月雨と乗組員に捧ぐ。
※この物語は史実を参考にしたフィクションであり、実在人物、団体とは一切関係ございません。
※独自設定、想像がふんだんに含まれます。あらかじめご了承ください。


あの日の記憶


体が冷たい。


体をぶつけたのか、動かない。


ただ顔にかかる海水の飛沫が、まだ生きている「実感」を保たせる。


『『何があったの?』』


遠くに傾いた影が見える。


高熱


スピーカー「「総員起こし5分前」」

間髪入れずに鎮守府全体が動き出す。


スピーカー「「総員起こし」」

スピーカーが「朝の合図」を告げ終わるその刹那、艦娘寮から一斉巻き起こる点呼の怒涛が窓を開けた執務室にどっと流れ込む。



と、言ってはみるモノだが、只今0800。早い者はもう既に朝食を済ませて各々の業務に取り掛かっている。

なんなら点呼の声ではなく、遅刻ギリギリで叫びながら走っている音である。

それはそうと、自分で淹れた珈琲は何故か絶妙に不味いのはどうにかならないだろうか。

本日の朝飯は白飯に味噌汁、鯖の塩焼きに漬物少々、そしてホウレンソウのおひたし。実に健康的な日本人らしいメシだ。朝からやる気が出る。(誰得情報)


最近は敵勢力の沈静化が進み、現在では持ち回りの監視部隊と同じく持ち回りの警戒待機部隊を除いて戦闘行動もなく、非常に穏やかな日々である。




で、秘書艦が来ないぞ。


さては寝坊したのだろう。昨日夜遅くまで書類整理を手伝ってもらったが、やはり良くなかったか。

結局途中で寝てしまって、私室(兼休憩室)に寝かせておいたが。



「五月雨?」




「五月雨?朝だぞ?」


様子がおかしい。明らかに顔が赤く、体温が高い。


「五月雨!」「おい!起きろ!五月雨!」

慌てて工廠兼医務室に急患の旨内線で明石を叩き起こして、世間一般だと中学生くらいの体格か、自分と比べてずっと小さな五月雨を抱えて走る。


途中寝癖が付いたままで髪も結んでいない、寝巻きのまま明石がストレッチャーを押して走ってきた。


ストレッチャーに彼女をのせて医務室へ急ぐ。


雑に髪を纏めた明石がパソコンと睨み合っては資料を探す。

こんなことは前例がないのだ。

目を覚さない五月雨に寄り添い、明石に朝飯を持ってくることしかできない自分がもどかしい。


結局、原因は全くわからないのだ。

何もしてやれない無力さが胸を締め付ける。




結局、1日の仕事は全て大淀と霞が代わってくれた。二人には何かお礼を考えねば。


夕張の発見

あれから数日間、明石と夕張が交代で五月雨の様子を見ていてくれた。

流石にずっと自分がつきっきりでは通常業務に支障が出るため、霞に秘書艦代理をやってもらって業務に戻った。

しかし、待てど暮らせど容態は好転しない。一週間経つが、五月雨は苦しそうに眠ったままだ。

ふと、霞が入れてくれたブラックコーヒーが目に入る。

普段五月雨が淹れてくれるそれよりも濃い、深い独特の黒色だ。


『もし目覚めなかったら?』



コンコン


誰かの執務室の扉を叩く音で我に返る。自分は何を考えているのだろうか、縁起でもないことを。


夕張「軽巡洋艦夕張、入ります。」

「どうぞ」

彼女と明石には負担をかけっぱなしだ。申し訳ない。

「夕張か、明石と代わったのか。」

夕張「はい。」

霞「それで、、どうなの、、?」

夕張が小さく首を横に振った。

霞「そう、、、」

「そうか、、。」

「もうすぐ仕事が片付くから、見に行くよ。」

「霞、夕張に一杯何か出してやってくれ。」

霞「コーヒーで良い?」

夕張「ありがとう、霞ちゃん。」

夕張「それで、提督、私思ったんだけど、この時期ってさ、」


夕張「「「五月雨ちゃん、前世で座礁して救援を待ってる頃じゃない?」」」


!!!!

慌ててカレンダーに目をやる。

今日は8月25日、五月雨が目を覚さなくなってから一週間。

その瞬間、吸い寄せられるように何かが繋がった。

「すまん夕張!直ぐに行ってくる!」

夕張「ちょっと、提督、どうしたの!?」


走る。


走る。


ただ走る。


医務室へ。


五月雨が眠っている医務室へ。


「「間に合ってくれ!!」」


バタン!

明石「提督!どうしたんですか?」

「明石!五月雨の体温を測れ!!」

明石「え、あぁ、はい!」


布団に覆われた指先は少し冷たくなっていた。


「「「五月雨ちゃん、前世で座礁して救援を待ってる頃じゃない?」」」


夕張の言葉が脳裏をよぎる。


どうして気づけなかったのか!

いや、気づけてもどうすれば!

後悔というか、よくわからない感情がこだまする。




それから何時間経っただろうか。時計の音だけが医務室に響く。


そっと五月雨の頬に手を触れる。

柔らかい。


涙が溢れてきた。


神様、どうか五月雨を助けてください………!!


その瞬間、ずっと忘れていた、その光景を思い出した。

それはまさに、小学生の頃、海で溺れて生死の境を彷徨った時に見た光景だった。


あの日の光景、繋がる記憶

???「おい!しっかりしろ!」

遠くで怒鳴る声が聞こえる。

バチン!!

「いってぇ!」

???「良かった。死んだかと思ったぜ。」

目の前の油で真っ黒に汚れた水兵にビンタされて起きた。体は重油だろうか、黒い油と海水でずぶ濡れになっている。


???「おうい、伝令兵、バケツだ、バケツを持ってこい!」

その瞬間。


ドーン!!


悍ましい衝撃が走った。

気づくと、自分にビンタを喰らわせた男は頭から血を流していた。瓦礫が頭に直撃したらしい。

???「貴様、、、生き、、、、ろ」

そう言い残して男は絶命した。

瓦礫に阻まれて動けなくなってしまった。

そこから数時間、凍えながら瓦礫をどかして道を作り続けたが、太い鉄骨が落ちて先に進めない。

何処からか、波の音とギイギイと金属が軋む不気味な音だけが鳴り続ける。


少し休憩しようと瓦礫に腰掛け、眠りについた。


目覚めると、船の甲板、帝国海軍の駆逐艦の艦首に立っていた。

しかし、座礁でもしたのか、柱が甲板から突き出ている。

油と海水で汚れていたはずの軍服は、真っ白い、「提督」の格好だった。

砲身の下に少女が横たわっているのを見つけた。

ノースリーブの真っ白いセーラー服に透明感のある綺麗な、青いロングヘアー。

まさしく五月雨だ。

「おい!五月雨!起きろ!」

「五月雨!」

五月雨「ん、あなた、は?」

「俺だよ!しっかりしろ!」

五月雨は力無く艦尾の方を指差す。

見ると、あるはずの軍艦旗はなく、夕焼けに駆逐艦だろうか、船の影が消えていく。

視線を戻すと、五月雨は座り込み、泣いていた。

五月雨「敵に近づいてボロボロになって、機雷もロクに処分できなくて、結局座礁して、、、」

五月雨「ちゃんと潜水艦を気にしていれば、夕張さんだって、、、!!!」

「自分を責めるな!」

五月雨「だって、だって、、、!!」

「お前の泣く姿は見たくない!」

「五月雨、戻ってきてくれ!」

五月雨「もう、、できません。もう、動けないんです。」

五月雨「やっぱり私、ドジなんです。」

「やめてくれ!」

「お願いだ、戻って来てくれ!」

五月雨「比叡さん、ごめんなさい。」

そう言うと、五月雨は寂しそうに砲身の陰に座った。

しばらく暗くなってきた水平線を眺めて、

五月雨「こんどは皆揃って、平和な世界がくると良いな。」

そう呟くと艦首に向かって歩き出した。

「待ってくれ!」

そう叫んで彼女の細くて綺麗な手を掴んだ。

「五月雨、お前には帰る場所がある。お願いだから消えないでくれ。」

「俺がお前のコト、命賭けて守るから、帰ってきてくれ!」

涙が溢れる。

五月雨は涙を流して笑っていた。

彼女を抱きしめた。

何処かに行ってしまわないように。

温もりを感じるために。

いつか見た青い空

あれ、今何時だろ、、、

なんだかお布団が重たい、、、

え?提督?

ここは、、医務室!?


窓の外では雨が降っている。


五月雨「提督?」

ユサユサ

「ん、、、、?」

五月雨「提督、あの、わたs」

「五月雨!!」

力一杯五月雨を抱きしめた。

「五月雨、良かった。良かった、良かった!!」

五月雨「て、提督、どうしたんですか?」

五月雨は状況を掴めていないらしい。

冷たかった彼女の手は、元の通り、暖かく、優しく、綺麗だった。


その後夕張がやってきて同じく五月雨は困惑していた。

なんだかんだで、五月雨に異常はなく、高熱から寝込んだ原因は遂にわからなかった。

そうして、いつも通りの日々が戻ってきた。


そして五月雨と久しぶりに出かけた。

行き先は横須賀、五月雨生まれの地だ。

早川の五月雨慰霊碑に参り、造船所を二人でそこから見た。


五月雨は、懐かしそうに横須賀、浦賀の空を眺めていた。

その空は、青く何処までも透き通り、雲ひとつない快晴だった。











あの水兵誰だ????


後書き

初めての作品です。いかがでしたでしょうか。感想いただけると励みになります。
五月雨改二実装してくれないかなぁ(切望)

参考文献:
・須藤幸助「駆逐艦「五月雨」出撃す」


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