提督「東松山鎮守府?」
初のSSとなります。読みづらい点など多々あるとは思いますが、最後までお付き合いいただけると幸いです。また、至らぬ点などありましたら、ご指摘いただければと思います。
提督「どういうことですか?」
教官「言葉の通りだ。君には明日から東松山鎮守府に着任してもらう。」
提督「どうして東松山なんです!」
教官「君の出身は東松山だろう?地元なら何かと便利だろうと思ってね。」
提督「そういう事を言っているのではありません!東松山は埼玉県のほぼ中央、海に面していないどころか、海に出ることすら困難です!」
教官「その辺の理由は追って書類で説明する。いいからもう行きたまえ。私は忙しいのだ。」
提督「……わかりました。失礼します。」
こうして、私は東松山鎮守府に着任となった。
これはどうしたことだろう。目の前には見渡す限りの更地。草は一切生えておらず、地面がむき出しになっている。
そして立て看板が一本立っている。
「東松山鎮守府」
立て看板一本で鎮守府というのは異常な光景だ。しかし、それ以上にこの場を異常たらしめているのは、ここが住宅地に囲まれているということだろう。
まるで住宅地の一部を切り取ったかのように、ぽっかりと四角く空白ができている。小学校なんかが一晩で更地になるとこのような状況になるのではないか。
ともあれ、このままではまともな仕事はできそうにない。ひとまずプレハブ小屋でも何でも、執務室となるものを用意しなければ。それから、入渠用のドックと建造用のドックがあればひとまず形にはなるだろうか。
一週間後、ドック、執務室が完成し、東松山鎮守府はやっと鎮守府として機能しだした。
提督「設備もそろったし、そろそろ艦娘を建造してみるか。」
―建造中―
暁「暁よ。一人前のレディーとして扱ってよね!」
提督「ああ、よろしく。暁。」
暁「・・・・・・」キョロキョロ
暁「・・・あの、司令官?」
提督「どうした?」
暁「ここはどこ?私以外の艦娘は?」
提督「ここは東松山鎮守府。先日私が着任したばかりで、君以外の艦娘はいない。言ってみれば、君が私の初期艦だ。」
暁「え?鎮守府って普通、はじめから初期艦がいるものじゃないの?それから執務室は?見たところ、小屋とドックしかないみたいだけど。あと、ここからだと海は見えないんだけど、海にはどうやって出るの?それから・・・」
提督「わかった。一つずつ説明していこう。」
提督「まず、最後の質問に答えようか。ここ東松山鎮守府は内陸、つまり海からずっと遠くにある。だから、海に出るのも一苦労だ。海に出るには電車などを使って数時間移動しなければならない。」
暁「なんでそんな不便なところにあるの?最初から海の近くにつくればいいじゃない。」
提督「一応、名目上は『深海棲艦が陸上に侵攻してきた場合を想定し、陸上で行動可能な艦娘を育成する』ということになっている。」
暁「???」
提督「つまり、深海棲艦が陸に上がってきたときにも戦える艦娘を育てる、みたいなことかな。」
暁「メイモクジョウ、っていうのはどういうこと?」
提督「本当はそうじゃないんだけど、そういうことにしている、と言ったらわかるかな。」
暁「本当は深海棲艦が陸に上がってきたときのことなんて考えてないってこと?」
提督「そう。」
暁「じゃあ本当の理由って?」
提督「たぶんだけど、私を重要な任に就けないためだと思う。」
暁「どうして?司令官、何か悪いことしたの?」
提督「それはわからないけど、学生時代、一部の教官からは目の敵にされていたよ。」
暁「それが今とどう関係してるの?」
提督「全ての提督は専門の学校で勉強して、成績の優秀な者は卒業後すぐに鎮守府に着任、そうでないものは下働きをして、鎮守府に人手が足りなくなったときに着任する、ということになっているんだ。私は卒業してすぐに着任する方だったんだけど、一部の教官たちからしてみればそれは面白くなかったんだろうね。」
暁「その教官たちが司令官をここに着任させたの?」
提督「そう。卒業生がどこの鎮守府に着任するかはその卒業生を担当していた教官が決めるんだけど、私を担当していた教官は私を嫌っていたみたいだ。」
暁「じゃあ、ここに初期艦がいなかったのもそのせい?」
提督「そうだね。それどころか、私が来たときにはここには何もなくて、更地に『東松山鎮守府』と書かれた看板が立っていただけだったよ。」
暁「…もしかして、あの小屋とかドックとかは司令官が自分で買ったの?」
提督「いや、それは大本営に出してもらったよ。新任の提督は大本営から資金の援助をしてもらえるからね。」
暁「そう。ちょっと安心したわ。」
提督「さあ、いつまでも立ち話をしていないで、ひとまず執務室に行こうか。」
暁「わかったわ。執務室はここから遠いの?」
提督「ああ、言ってなかったね。今のところ、あのプレハブ小屋が執務室だよ。」
暁「大本営から資金の援助があるんでしょ?もっと立派なのにしたら?」
提督「それは艦娘の意見を聞いてから立てたかったんだ。というわけで、今日はこの後執務室の内容を話し合いたいんだけど、いいかな。」
暁「かまわないわ。」
提督「よし、執務室はこんなものかな。他に必要なものはある?」
暁「今のところは思いつかないわ。」
提督「じゃあ、今日はこれで終わりにしようか。暁、執務室と宿舎ができるまでは私の家で暮らしてもらってもいいかな?」
暁「私はこの小屋に寝泊りしても平気よ。」
提督「いや、それはだめだ。小さな女の子を1人にして置くわけにはいかない。」
暁「子ども扱いしないでよ!私は一人前のレディーなんだから!」
提督「こんなところで1人で眠れる?夜になったらあたり一面真っ暗だよ。」
暁「うぅ…」
提督「トイレも電気はつかないし、なにがあっても明日の朝まで1人きりになるよ。」
暁「ふぇぇ…」
提督「もっといえば・・・」
暁「わかったわ!司令官の家に行くわ。それでいいんでしょう!」
提督「そういえば暁、着替えとかパジャマとか持ってないよね?」
暁「そうね。今日建造されたばかりだから、服は今着ているこれだけだわ。」
提督「なら、今から必要なものを買いにいこう。ここからなら百貨店まで歩いても3分とかからない。」
暁「でも、私お金なんてないし・・・」
提督「それくらい私が出そう。」
暁「そんな、悪いわよ。」
提督「子供はそんなこと気にしなくていいんだよ。」
暁「で、でも・・・」
提督「いいから。とにかく行くよ。」
暁「・・・わかったわ。」
暁「本当にすぐ近くにあるのね。」
提督「便利でいいだろう?」
暁「そうね。」
提督「さあ、中に入ろうか。」
提督「さて、まずパジャマを見ておこうか。子供服は3階か・・・」
暁「・・・・・・」ボー
提督「暁?」
暁「な、何かしら?」ソワソワ
提督「まずはパジャマを見に行こうか。」
暁「わかったわ」キョロキョロ
暁はどこか落ち着かない様子だ。今日建造されたばかりだから、見るもの全てが珍しいのだろう。放っておけば、そのままフラフラとどこかへ行ってしまい
そうだ。
提督「暁、手をつないでいようか。」
暁「…えっ?ああ、手?わかったわ。」
提督「じゃあ3階に行こう。」
提督「じゃあ暁、この中から好きなものを選んで。」
暁「・・・・・・」ジー
そういったときにはすでに、暁の目はパジャマに釘付けになっている。
暁「・・・・・・司令官、どっちがいいかしら。」
暁がパジャマを選び始めて5分ほどだろうか。暁が二つのパジャマを指して聞いてきた。
どちらにするか選びかねているようだ。
提督「白地に赤のチェックと無地のピンクで迷ってるの?」
暁「ええ。ちょっと子供っぽいかしら。」
提督「いや、どちらも暁に似合うと思うよ。」
暁「それならいいんだけど・・・。それで、どっちにしようかしら。」
提督「色で決められないなら、肌触りで決めたら?毎日着るものだし。」
暁「そうしてみるわ。」
暁「・・・決めたわ。こっちのチェックのにする。」
提督「よし、それを買っておこう。後は下着と服をいくつか買っておこうかと思うけど、どうする?」
暁「でも、あんまり時間がかかってもいけないし。」
提督「店員さんにいくつか見繕ってもらおうか。」
暁「わかったわ。」
提督「すみません。」
店員「はい、何でしょう。」
提督「この子に服と下着を買いたいのですが、何着か見繕ってもらえますか?」
店員「かしこまりました。少々お待ちください。」
店員「こちらの品はいかがでしょうか。」
提督「どうだ?暁。」
暁「とってもいいわ!司令官、これにしましょう!」
提督「じゃあ、さっきまでのとこれでお願いします。」
店員「かしこまりました。」
提督「さて、服はこれでいいかな。あとは食器が必要かな?」
暁「司令官、艦娘は艤装が壊されない限り死ぬことはないし、燃料さえ補給していれば動けるわ。だから、ご飯は食べなくても・・・」
提督「いや、それはだめだ。ウチの鎮守府にいる限り、艦娘には人間と同じ生活をしてもらう。」
暁「でも、」
提督「食べられないわけではないんだろう?」
暁「それはそうだけど・・・」
提督「なら、大丈夫だ。さあ、4階に行こう。」
暁「司令官がそういうなら・・・」
提督「さて、ここが食器売り場だ。味噌汁のお椀や皿は揃っているから、お茶碗と箸、それからコップを買っておこうか。」
暁「わかったわ。」
提督「じゃあ、それぞれ選んでいこう。今度は自分で選んで私のところに持ってきてごらん。」
暁「決まったわ。司令官。」
そういって暁が持って来たのは赤い水玉模様のお茶碗に黄色の箸、イギリスの絵本に出てくるウサギが描かれたマグカップだった。
提督「よし、それを買って帰ろうか。」
暁「ええ。」
提督「ところで暁、晩御飯に食べたいものとかあるかな?」
暁「じゃあ・・・・・・かれー!かれーっていうのを食べてみたいわ!」
なぜ暁がカレーを知っているのか不思議だったが、考えてみるとそれらしい答えに行き着いた。戦争中の海軍には肉と野菜がバランスよく摂れるレシピとしてカレーが振舞われることがあったそうだ。おそらくそのころの知識を中途半端に持って生まれてきたため、「カレー」という言葉を知っていたのだろう。
提督「そうか。じゃあ今晩はカレーにしよう。」
カレールー以外の材料は家に揃っている。カレールーは一応甘口を買って帰ろう。
暁「やった!」
提督「カレールーを買うから地下一階に寄っていくよ。」
暁「わかったわ!」
暁「ここが司令官の家?」
提督「そうだよ。」
暁「庭もあって立派な一軒家ね。鎮守府に行くよりもここで仕事をしたほうが快適なんじゃないかしら。」
提督「まあ、今はそうかもしれないけど、これから艦娘が増えていったらそうも言ってられないよ。」
提督「とりあえずご飯の用意をしちゃうから、暁は居間で適当に時間を潰していてくれるかな。」
暁「私も何か手伝うわ。」
提督「気持ちはうれしいけど、今日は疲れたでしょう。テレビでも見ながら休んでいなさい。」
暁「てれび?」
提督「あー知らないか。説明するより見てもらったほうがいいな。ちょっとこっち来て。」
暁「? わかったわ。」
提督「この黒くて平べったいのがテレビ。見ててごらん。」ポチ
暁「!?」
暁「司令官、映像が映ってるわ!これがエイガってやつなのね!」
どうやら暁は映画という言葉は知っていたようだ。映画とテレビ番組は違うものだが、二つの違いを説明しても混乱するだけだろう。
提督「まあ、ざっくり言うと自分の家で映画を見れる機械がテレビだ。」
暁「そうなの。」
暁は初めてのテレビに見入っているが、今映っているのはニュース番組。子供が見ていてもつまらないだろう。事実、暁は映像というよりテレビそのものを見ているようだ。ここは毎週録画している、日曜夜の動物番組でも見せておこう。
提督「暁、映像変えてもいい?」
暁「そんなことができるの?ええ、いいわよ。」
提督「じゃあちょっと失礼して・・・」ポチポチ
提督「これを見ててくれ。さっきのよりは面白いと思う。」
暁「わかったわ。」
提督「じゃあ私は夕飯の準備をしてるから、何かあったらよんでくれ。」
提督「暁~。カレーできたぞ~。」
暁「今行くわ。」
暁「これが『かれー』なのね。おいしそう。」キラキラ
提督「じゃあ食べようか。暁、手を合わせて。」
暁「こう?」
提督「そうそう。・・・では、『いただきます。』」
暁「いただきます。」パク
暁「~~~~~~~」
暁「おいしい!この世にこんなにおいしいものがあったのね!すごいわ!」
暁はカレーを一口食べた途端、目を輝かせてそう言った。その後も次々にカレーを口に運んでいく。これだけおいしそうに食べられるとこちらも作った甲斐があるというものだ。
提督「たくさん作ってあるから、どんどん食べて」
暁「おかわり!!」
言い終わらないうちに空っぽの皿が出てきた。おかわりをよそっている間、暁は待ちきれないといった面持ちでこちらを凝視している。そしておかわりを受け取ると、また幸せそうにカレーを頬張る。この様子だと、よほどカレーが気に入ったのだろう。
提督「ごちそうさまでした。」
暁「ごちそうさまでした。」
結局、暁は二回おかわりをしたし、食事の間中目を輝かせていた。これだけ幸せそうに食べてもらえるなら、こちらも作った甲斐があったというものだ。
提督「さて、ご飯も終わったし、風呂に入ってしまおうか。」
暁「わかったわ。」
提督「じゃあ、脱衣所は隣の部屋で、その奥が風呂になっているから。」
暁「あ、あの・・・司令官・・・」
提督「どうした?」
暁「その・・・私、今日建造されたばかりで、お風呂の入り方がわからないから、その・・・一緒に入ってもらえる?」
提督「ああ、いいよ。」
暁「べっ別に一人で入るのが怖いとかじゃないんだから!」
提督「はいはい」
暁「本当よ!本当に怖くないったら!」
どうやら暁は一人で風呂に入るのが怖いようだ。わざわざ怖くないと念を押すところがかわいらしい。
提督「暁、洗ってあげるからこっちにおいで。」
暁「うん。」
提督「じゃあまずは髪を洗うぞ。泡が目に入ると痛いから、目は閉じておいて。」
暁「わかったわ。」ギュー
暁はぎゅっと目を閉じている。これから何が起こるかわからないといった様子だ。もしかすると、風呂の入り方がわからないといったのもうそではないのかもしれない。
ともかく、暁の髪を洗ってやることにする。
暁「ふぁぁ・・・」
最初にシャンプーをつけたときは少し驚いたようだが、暁はそれ以降気持ちよさそうにしている。
提督「・・・よし、終わった。暁、もう目を開けていいぞ。」
暁「・・・ふぅ。気持ちよかったわ。ありがとう。」
提督「どういたしまして。体は自分で洗えるかな?」
暁「・・・お願いしてもいいかしら。」
提督「よし、じゃあ洗ってあげよう。」
洗いながら、暁に体の洗い方を教える。暁は真剣に聞いているが、全てを覚えているかは怪しい。これから少しずつ覚えてもらうとしよう。
提督「さあ、後は泡を洗い流しておしまい。体を洗ったら湯船に浸かって。」
暁「・・・熱っ。司令官、お湯が熱いわ。」
提督「ああ、ごめんごめん。少し水で薄めようか。」
うっかりいつもどおりの温度で風呂を沸かしてしまった。明日からはもう少しぬるめにしなければ。
暁「司令官、もう上がっていいかしら。」
提督「さすがにまだ早すぎるな。あと100数えてからにしようか。」
暁「1,2,3,・・・」
暁は数を数え始めた。やはり小さな子供にとってじっとしているのは退屈なようだ。
暁「・・・98,99,100!」
提督「よし、じゃあ上がろうか。」
暁「やっとね!」
やはり退屈だったのだろう。勢いよく湯船から出て行く。
提督「暁、拭いてあげるからそこで待ってて。」
暁「は~い。」
暁の体を拭き、今日買ってきたパジャマを着せる。
提督「暁、髪がまだ乾ききっていないからドライヤーで乾かそう。」
暁「どらいやー?」
提督「温かい空気の出る、髪を乾かすための機械だよ。」
暁の髪を乾かしながら話しかける。
提督「どうだった?初めての風呂は。」
暁「とっても気持ちよかったわ。」
提督「それは良かった。体は一人で洗えそう?」
暁「えっと・・・それは無理かも。だから司令官、明日からも・・・」
提督「わかった。じゃあ、風呂は一緒に入ることにしよう。」
暁「うん!」
提督「さて、髪も乾いたし、暁の部屋を決めようか。」
暁「私の部屋?」
提督「そう。鎮守府の建物が建つまでにはしばらくかかるから、それまで暁はここで生活してもらわないと。」
暁「えっと、司令官。気持ちはうれしいんだけど、その・・・」
提督「どうかした?遠慮なんてしなくていいんだよ。」
暁「そうじゃなくて、その・・・寝るときも自分の部屋じゃなきゃダメ?」
なるほど、どうやら暁は一人で寝るのが怖いようだ。まあ、今日建造されたばかりでは不安も多いだろう。
提督「いや、暁がよければ寝室で一緒に寝よう。布団を移動するのも面倒だしね。」
暁「それじゃあ、寝るのは寝室にするわ。」
提督「じゃあ、寝るのは寝室として・・・今は二階に二部屋あいてるから、そのうち好きな方を選んでもらおうか。」
暁「わかったわ。」
提督「あいてる部屋というのがこの二つ。隣り合っているけど、階段に近い方が少し広いかな。あとはどちらも同じようなものだよ。」
暁「提督はどっちがお勧め?」
提督「まあ、大きいほうがいいんじゃないかな。」
暁「じゃあ、大きい方にするわ。」
提督「よし、部屋も決まったし、今日はそろそろ寝ようか。」
暁「私はまだ起きていられるわ。」
提督「遊ぶのは明日でもできるんだから、今日はもう寝なさい。ちゃんと寝ないと大きくなれないぞ。」
暁「…わかったわ。」
提督「じゃあ寝室に布団を敷いちゃうから、ちょっと待ってて。」
暁「うん。…ふぁぁ」
暁はまだ起きていられると言っていたが、もう眠そうだ。はやく布団を敷いてしまおう。
提督「じゃあ、電気消すぞ。」
暁「うん…おやすみなさい…」
提督「おやすみなさい。」
提督「暁、そろそろ起きなさい。」
暁「ふぁぁ…おはよう司令官。」
提督「おはよう。朝ごはんできてるから、顔を洗って食卓について。」
暁「うん…」
暁はまだ眠そうにしている。もしかすると朝が弱いのかもしれない。
提督「さて、じゃあ食べ始めようか。」
暁「いただきます。」
提督「いただきます。」
暁「そういえば司令官、鎮守府はずっとあのままなの?」
提督「とりあえず、建物が建つまではずっとあのままかな。その建物も1年以内には完成するみたいだ。」
暁「それ以外の施設は作らないの?」
提督「演習場の設置と、必要に応じてドックの増設を考えているけど、他に何か必要かな。」
暁「その、できたら公園みたいなものがほしいかな、って。」
提督「なるほど。そういうものも必要か。じゃあ、建物の立つ場所が決まったら、残った敷地のどこかを公園にしよう。」
暁「ありがとう!」
提督「いや、こちらこそありがとう。これからも何か思いついたら言ってくれ。」
提督「ごちそうさまでした。」
暁「ごちそうさまでした。」
提督「さて、朝ごはんも終わったし、鎮守府に行こうか。」
暁「そうしましょ。」
提督「・・・暇だ。」
暁「・・・そうね。」
まだ昼だというのに、もう仕事が残っていない。暁も、初めは仕事を隣で見ていたが、途中から飽きてしまったようだ。それでも文句を言わずに我慢していられるところを見ると、暁はじっと待っていることもできなくはないようだ。
暁「司令官、鎮守府に娯楽室とか作らない?」
提督「私もそう思っていたところだよ。二、三日のうちに建築を依頼した会社の人が来ると思うから、そのときに相談してみよう。」
暁「わかったわ。」
暁「・・・司令官、立て札の近くで誰かがうろうろしてるわ。お客さんじゃないかしら。」
提督「よし、行ってくるから、ここで待ってて。もしかしたらこっちにつれてくるかもしれないから、そのときはちゃんと挨拶するんだよ。」
暁「わかったわ。」
提督「あの、鎮守府に何か御用ですか?」
「ああ、すみません。東松山鎮守府とはこちらでよろしいのでしょうか。」
提督「はい、そうです。」
「ああ、よかった。私、こちらの建設を担当させていただきます、○○社の大島というものです。」
提督「すみません、わかりにくくて。というより、何もなければ戸惑いますよね。」
大島「いえ、そんなことは。ただ、場所が場所ですから、いたずらか何かかと思いました。」
提督「まあ、そうでしょうね。そうすると、今日はいたずらでないことの確認で?」
大島「ええ、失礼ながら、そうさせていただきました。」
提督「そういうことでしたか。実はここ、建物が建つより先に私が着任してしまったもので。ご迷惑をおかけして申し訳ないです。」
大島「いえ、滅相もありません。こちらこそ、疑ってしまい申し訳ありません。お詫びというわけではありませんが、すぐに設計にかからせていただきます。」
提督「そうしていただけるとこちらとしてもありがたいです。」
提督「それから、その設計の話なのですが、いくつかお願いしたいことがあるのですが。」
大島「それは今うかがってもよろしいでしょうか。もしご都合がつかなければ後日お伺いしますが。」
提督「できれば今でお願いします。」
大島「かしこまりました。」
提督「それでは、あちらのプレハブ小屋までお願いします。現状、あそこしか建物がありませんので。」
提督「では、こちらへどうぞ。」
大島「ありがとうございます。」
暁「こんにちは。」
大島「ああ、こんにちは。」
大島「・・・あの、この子は妹さんでしょうか。」
提督「いえ、ここの艦娘で、暁といいます。」
大島「こ、これは失礼しました。」
提督「いえ、お気になさらず。」
提督「それで、建物の件ですが、こちらの条件を満たすものにしていただければと思います。」
・各階に2箇所のトイレを設置
・食堂として使える大部屋が一つある
・風呂は大きなものを2箇所に設置
・艦娘の部屋を合計で50部屋程度用意
・物置として使える部屋を二つ、内一つは外からの出入りが可能なもの
・売店として使えるスペースを一箇所設置
・執務室の隣に提督の生活する部屋を作る
・室内に大型プールの設置
・グラウンドとして使えるスペースを確保する
暁「あと、公園も作ってください!」
大島「公園?」
提督「艦娘が遊べるようなスペースが必要なので。それから、図書室や娯楽室のような部屋も作りたいので、自由に使えるような部屋をいくつか作っていただけますか。」
大島「なるほど。わかりました。そうすると、普通の鎮守府にある設備を全て一つの建物にまとめる、といった感じでしょうか。」
提督「そうですね。分かれていると雨の日などに移動が面倒なので、一つにしてください。」
大島「そういうことでしたら、建物はいくつかに分け、それぞれを渡り廊下でつなぐ、というのはどうでしょう。ほら、小学校や中学校の校舎みたいな感じです。」
提督「そうすると何か利点があるのでしょうか。」
大島「まず、一番は増築のしやすさでしょうか。艦娘が増えてきた時や必要な部屋が増えたときなど、比較的に景観を損ねずに増築ができます。」
大島「また、一つの建物にしてしまうよりも窓を多く作れます。」
提督「なるほど、ではそれでお願いします。」
大島「それから、この物置のことなのですが、これは資材をためておくためのものでしょうか。」
提督「はい、そうです。」
大島「それでしたら、ドック自体を大き目の建物にしてしまい、その中に資材をおいてはどうでしょう。他の鎮守府ではそのようにしているところが多いですよ。」
提督「今、ドックはすでにあるのですが、そこを大きくすることはできますか?」
大島「ええ、もちろんです。ただ、工事期間はドックは使えませんが。」
提督「わかりました。ではドックのほうもお願いします。」
大島「かしこまりました。それとあと一つ。この大型プールというのは何に使うのでしょう。」
提督「いえ、こんな場所ですから艦娘の訓練にはプールを使おうと思いまして。」
大島「そういうことでしたら、演習用と訓練用で2箇所のプールを作っておくことをお勧めします。訓練と演習とでは用途が変わりますから。」
提督「わかりました。では、プールは二箇所でお願いします。」
大島「それからプールに波を起こす装置を付けることもできますが、そちらはどうしましょう?」
提督「付けてください。」
大島「かしこまりました。それから、これまでの条件となりますと料金もたいへんなものになってしまいますが、予算はどのくらいでしょうか。」
提督「一応、XXXX円までは大本営から出ることになっています。」
大島「わかりました。その予算であればご希望に添えるものができます。」
大島「では、設計が終わり次第、こちらに伺います。」
提督「わかりました。それはどれくらいかかるのでしょうか。」
大島「本来であれば二ヶ月~三ヶ月程度かかるのですが、今回はやることがはっきりしていますので、今月中には詳細な設計を持ってこれると思います。」
提督「ありがとうございます。」
大島「最後に一つ、伺ってもよろしいでしょうか。」
提督「ええ、どうぞ。」
大島「なぜこのような場所に鎮守府を作ったのですか?」
提督「その辺は大本営に聞いてもらったほうがいいとは思いますが。まあ、簡単に言いますと陸上でも活動できる艦娘を育成するためです。」
大島「敵の・・・その、なんと言いましたっけ。」
提督「深海棲艦」
大島「そう、深海棲艦。で、それは陸に上がってくるんですか?」
提督「現在のところ、そんな事例は確認されていませんし、おそらく上がってもこないでしょう。」
大島「あの、このようなことを言っては失礼かもしれませんが、その・・・学生時代に何かしたんですか?」
提督「深海棲艦が襲ってくるのはこちらが攻撃するからだ、みたいなことを言ってたら目を付けられまして。」
大島「そして前線に出してもらえなくなった、と。」
提督「そんなところです。」
大島「今度、時間のあるときに詳しい話を聞かせてください。少し興味がわきました。」
提督「ええ、いいですよ。」
大島「では、今日はこれで失礼します。ありがとうございました。」
提督「いえ、こちらこそありがとうございました。」
暁「司令官、結局話はどうなったのかしら。」
提督「ああ、とりあえず希望通りにいきそうだよ。今月中には細かい設計までしてくれるみたいだ。」
暁「そう。それは良かったわ。」
暁「ところで司令官、さっき図書室を作るって言ってたわよね。」
提督「いったね。」
暁「私たち、字なんて読めないわよ?」
提督「そうなのか?」
暁「ええ。深海棲艦と戦うのに文字なんて必要ないもの。」
提督「それはいけないな。よし暁、今日から毎日勉強してもらうぞ。」
暁「それはいいけど、そんなの、どこでやるの?」
提督「もちろんここでだ。暁、計算はできるか?」
暁「で、できるわよ?」
提督「16+25=?」
暁「…41?」
提督「よし、とりあえず計算と読み書きから始めるか。」
結局、その日は5時まで暁にひらがなと足し算を教えた。暁は飲み込みが早く、ナ行までの25文字を覚え、計算では繰り上がりの足し算を覚えた。
おそらく知識を持っていなかっただけで、生まれつき学習能力は高いのだろう。
そして一週間後、大島さんがやってきた。
大島「こんにちは。」
提督「ああ、大島さん。こんにちは。」
大島「設計ができたので、もってきました。こちらになります。」
提督「ありがとうございます。」
大島「大きな変更点はありませんが、大きさの異なる部屋をいくつか追加しておきました。問題点がなければすぐにでも工事を始められます。」
提督「そんなに早く進められるんですか。」
大島「ええ、このプレハブ小屋では大変でしょうから、こちらで準備を進めてしまいました。それでどうでしょう。何か問題点などは。」
提督「暁はどう思う?」
暁「・・・いいんじゃないかしら。」
提督「よし、じゃあこれでお願いします。工事はどれくらいかかりますか?」
大島「急いでも半年はかかるでしょう。」
提督「その間はここにいないほうがいいですか?」
大島「いえ、この周辺には建てませんから、その必要はありません。」
提督「わかりました。では、よろしくお願いします。」
大島「はい。なるべく早く完成させるようにします。」
プルルルルル・・・・・・
大島「すみません。電話がかかってきてしまいました。少々失礼します。」
そういって大島さんは小屋の外に出て行った。
暁「どうしたのかしら。」
提督「仕事のことで何かあったんじゃないかな。悪いことじゃなければいいんだけど。」
大島「いや、大変失礼しました。」
提督「何かあったんですか。」
大島「いえ、ここの建設を急ぐようにと上から言われまして。」
提督「へえ。何かあったんですか。」
大島「なんでも、いくつかの鎮守府からそういった旨の要請があったようでして。」
暁「司令官、何か心当たりは?」
提督「たぶん、学生時代の友達だと思うんだけど。東松山鎮守府にいることを知ってるのはいいとして、どうして依頼する会社がわかったんだろう。」
大島「鎮守府の施設なんかは全てウチで請け負っているからだと思います。しかし提督さん、人望がありますねえ。」
提督「ありがとうございます。」
大島「まあ、そういうわけでこちらの建設を急がせていただきます。それでですね、できればそちらのドックにいらっしゃる妖精さんたちにも協力をお願いしたいのですが。」
提督「妖精さんって言うと、艦娘や装備を作ってくれる?」
大島「はい、その妖精さんです。」
大島「なぜだかわかりませんが、妖精さんに手伝ってもらえると、建設のペースが数倍になるんです。ですから、本当は一年かかるような建設も、妖精さんの協力を得られれば数ヶ月で終わらせることができます。」
提督「そうですか。では妖精さんに聞いてみましょうか。」
暁「司令官、妖精さんならちょうど窓の外に来ているわ。」
提督「よし、聞いてみよう。」
提督「妖精さん、ここの建物を建てるのに協力してくれませんか?」
妖精さん「いいですが、一つ条件があります。」
提督「その条件とは?」
妖精さん「艦娘を一隻たりとも轟沈させないことです。」
提督「それについてはご心配なく。どんなことをしてでもウチの艦娘は守って見せます。」
妖精さん「わかりました。そういうことであれば協力しましょう。工事が始まったらドックまで来てください。」
提督「わかりました。」
大島「・・・・・・」
提督「大島さん、どうかなさいましたか。」
大島「いえ・・・妖精さんを見るのは初めてでしたし、あんなにハッキリと話すとは思いませんでしたから。」
提督「そうでしたか。まあ、何はともあれ妖精さんの協力は得られます。建設の方、お願いしますよ。」
大島「わかりました。明日にでも工事を始めましょう。それでは、私はこれで失礼します。」
提督「はい。ありがとうございました。」
大島「いえいえ。これからもよろしくお願いします。」
提督「さて、暁、話のとおりで、すぐに工事は始まるようだ。少しうるさくなるかもしれないけど、我慢してくれ。」
暁「わかったわ。ところで司令官、さっきの話だけど。」
提督「さっきの、って言うと建設の話?」
暁「ううん。その後。妖精さんと話したとき。」
提督「妖精さんに協力してもらうのはまずかった、っていうこと?」
暁「ううん。それは問題ないと思うわ。私が言いたいのは妖精さんの条件のことよ。」
提督「それがどうかしたか?轟沈させないなんてのはたいした問題じゃないと思うぞ。」
暁「ええ。普通にしている分には轟沈なんて滅多にないわ。だから、それはたいした問題じゃない。」
暁「私が聞きたいのは、どんなことをしてでも艦娘を守る、ってところよ。あなたは、どれくらいのことをするつもりでいるの?」
提督「言葉の通り、どんなことでもだ。どんな代償を払おうと、たとえ命を落とすことになろうとも、私は艦娘を守る。」
暁「バッカじゃないの?私たちは兵器なのよ?艦娘が沈んだら新しいのを建造すれば事足りるわ。そんな物に命を懸けるなんて馬鹿げているわ。」
提督「いや、そんなことはない。確かに艦娘は人間とは生まれ方が違う。でも、それだけだ。艦娘は兵器ではないし、沈んだら新しい艦を建造すれば済む、なんてこともないんだ。」
暁「そうだとしても、やっぱり艦娘は簡単に建造できるんだから、逆ならまだしも、提督が艦娘を守るために命をかけることなんてないわ。」
提督「・・・暁、それは本気で言っているのか?」
暁「当たり前よ。艦娘なら提督を守って沈むなんてどうってことないわ。」
提督「そうか。暁、ちょっと手を貸して。」
暁「えっ?手?これでいいの?」
そういって暁は戸惑いながら手をこちらに差し出す。私はその手を左手に乗せ、右手で強くたたいた。
暁「痛っ!・・・何するのよ!」
提督「いま、どうしてたたかれたかわかるか?」
暁「わからないわよ!」
提督「それは、お前が大切だからだ。大切だから、自分自身のことを大切にしてほしいし、自分のことも、他の艦娘のことを兵器だなんて考えてほしくない。できれば、暁には素直で、やさしい子に育ってもらいたい。」
暁「……司令官、ごめんなさい…。私、そんなに思ってもらえるなんて知らなくて。」
提督「わかってくれればいいんだ。こっちこそ、たたいたりしてごめんね。手、大丈夫?」
暁「うん、まだちょっと痛いけど平気。心配してくれてありがとう。」
提督「いや、たたいたのはこっちだし・・・。でも、何かあったらすぐに言って。」
暁「ううん、本当に大丈夫。・・・でも司令官。お願いが一つあるの。」
提督「なんだい?」
暁「司令官も、自分を大事にしてね。私も、司令官のこと、大切だから。」
提督「わかった。暁も、自分も大事にするよ。」
暁「うん、ありがとう。」
普段の暁はものわかりがいいのだが、今回は珍しく反抗的だった。そして、暁の反抗のもとには、私への信頼や好意ではない、使命感のようなものが感じられた。暁がその使命感に従って行動してしまうのが怖くて手を上げてしまったが、それ以降の反応を見ていると、そんなことをする必要はなかったのかもしれない。やりすぎてしまった。そんな思いが湧き上がってくる。
提督「さて、もう夕方だし、そろそろ帰ろうか。暁。」
暁「あら、もういいの?」
提督「ああ、今日はもう来客もないだろうから。」
提督「帰りに晩ご飯の買い物をしようと思うけど、晩ご飯のリクエストはあるかな。」
暁「私が決めていいの?それじゃあ・・・」
暁「・・・カレー、いややっぱりハンバーグ、いや、でも・・・」
食べたいものは沢山あるようだ。
暁「決められないわ…」
暁は助けを求めるようにこちらを見上げてくる。とはいえ、暁の食べたい物を全て用意するわけにも行かない。
提督「何と何で迷ってるんだい。」
暁「カレーとハンバーグ、スパゲッティ、それから肉じゃがよ。」
提督「なるほど。それじゃあ、スパゲッティは明日のお昼ご飯にして、残り三つのうち一つは明日の晩ご飯にしたらどうだろう。」
暁「いいの?やったぁ!それじゃあ、今日の晩ご飯はハンバーグで、明日の晩ご飯はカレーがいいわ。」
提督「よし、それじゃあ帰ろうか。」
暁「うん!」
提督「さて暁、ご飯もお風呂も終わったけど、まだ時間があるな。暁、まだ起きていられそうか?」
暁「まだ平気よ。」
提督「それじゃあ暁、少しゲームをしてみるか?」
暁「ゲーム?よくわからないけど、やってみるわ!」
提督「よし、じゃあついておいで。」
暁「わかったわ。」
暁「ここって、司令官の書斎よね。ここにゲームがあるの?」
提督「いや、この隣の部屋だ。さあ、開けるぞ?」
そういって、私は扉を開ける。
暁「・・・すごい。棚が背中合わせになって、四列並んでる。これがゲーム?」
提督「正しくはゲームに分類されるもの、かな。」
暁「?」
提督「ゲームって言うのは、遊び道具の種類なんだ。で、ゲームもさらにボードゲーム、カードゲーム、ビデオゲームなどに分類される。」
暁「えっと、動物の中に犬とか猫とかがいる感じかしら?」
提督「そうそう。で、犬の中に柴犬とか秋田犬とかがいるでしょう。」
暁「じゃあ、ボードゲームの中にももっと細かいのがあるのね。」
提督「そういう事。で、ここにはボードゲームとカードゲームがある。」
暁「ビデオゲームは?」
提督「いくつかあるけど、それはまたの機会にしよう。暁、ボードゲームとカードゲームどっちがいい?」
暁「ボードゲームにしてみようかしら。」
提督「わかった。じゃあ、オセロをしようか。」
暁「おせろ?」
提督「まあ、説明は後でするから。とりあえず、居間に戻ろう。」
暁「それで司令官、おせろってどうやるの?」
提督「簡単に言うと、オセロは陣取りゲームみたいなものかな。白と黒に分かれて、自分の色を増やしていって、ゲーム終了時に自分の色が多いほうの勝ちだ。」
提督「まあ、実際に見せながらのほうがわかりやすいかな。まずこれがゲームで使うコマ。片面が黒、もう片方の面が白になっていて、裏返すことで相手のコマを自分の色に変えることができる。」
暁「相手のコマを裏返すにはどうすればいいの?」
提督「それは、自分のコマで相手のコマを挟むんだ。そうすると、挟まれた相手のコマを全て裏返せるんだ。」
暁「???」
提督「実際に見せようか。まず、こんな風に黒と白のコマを置いてゲーム開始だ。黒の側が先にコマをおいて、それから後は交互にコマを置いていく。お互いにコマを置けなくなったらゲーム終了。その時点での自分のコマを比べるんだ。」
提督「たとえば、黒がここにおいたとする。そうすると、黒に挟まれたこの白が裏返って、黒になるんだ。次は白が置く番だけど、白がおける場所はどこかな。」
暁「そんなの、いっぱいあるじゃない。」
提督「ああ、言い忘れていたね。コマをおくときは相手の色を挟める位置にしか置けないんだ。」
暁「じゃあ、白が置けるのはこことここ、それからここの三箇所ね。」
提督「そう。それじゃあ、交互に置いていってみようか。」
暁「司令官、今私がここにおくと、まずここの列が裏返るわよね。」
提督「そうだね。」
暁「で、この列が裏返ると、新たにこことここが挟まれたことになって、ここも裏返るでしょう?」
提督「いや、裏返るのは新しく置いたコマと今までに置いてあったコマに挟まれた場合だけなんだ。」
暁「そうなの。じゃあ、ここは裏返らないのね。」
提督「そうそう。どうかな。ルールはわかった?」
暁「わかったわ。さっそくはじめましょ。」
提督「ああ、そうしようか。」
暁「うーん、私の負けね。」
提督「まあ、それでも10回中5回買っているんだから、全体的に見たら引き分けでいいんじゃない?」
暁「それもそうね。それじゃ、もう一回・・・ふぁぁ…」
提督「それは明日にして、今日はもう寝ようか。片付けはやっておくから、先に寝室に行ってて。」
暁「…うん、おやすみなさい。」
提督「おやすみ。」
暁「お帰りなさい司令官。今いいかしら。」
提督「ああ、どうかした?」
暁「昨日、オセロをやったじゃない?それで、その、ここにオセロを持ってきたらどうかと思うんだけど。」
提督「うーん。さすがに、執務室にオセロはまずいな。」
暁「どうして?仕事なんてそんなにないじゃない。」
提督「それはそうなんだけど、お金をもらって働いている以上、仕事中に遊ぶわけには行かないんだ。まあ、艦娘が遊んでいる分には問題ないから、宿舎とかができたら、家にあるゲームはこっちに移動しようか。」
暁「わかったわ。」
提督「こっちからも相談があるんだけど、いいかな。」
暁「いいわよ。なに?」
提督「工事が始まると数ヶ月間建造ができないでしょう。それで、今のうちに新しい艦を建造してもいいなと思ってね。」
暁「でも、工事には妖精さんも参加するから、工事の間は建造はできないんじゃないの?」
提督「ちょうど今、それについて妖精さんと話してきたんだけど、妖精さんが工事に参加するのは明日からで、今日だったら建造も可能らしいんだ。」
暁「そうなの。なら、建造しても大丈夫じゃないかしら。」
提督「そうか。じゃあ早速妖精さんに頼みに行こう。暁も一緒に来る?」
暁「ええ。行くわ。」
提督「それじゃあ妖精さん、建造をお願いします。」
妖精さん「わかりました。この資材だと、おそらく駆逐艦しかできないと思いますが、それでいいですか?」
提督「はい。」
暁「提督、空母や戦艦じゃなくていいの?」
提督「ああ。今の資材で空母や戦艦にしようとするとかなりきついからね。今は駆逐艦のほうがいいんだ。」
妖精さん「では、建造します。おそらく二十分くらいでできると思いますので、しばしお待ちを。」
提督「わかりました。」
提督「さて、ついに二人目の建造だね。」
暁「そうね。」
提督「暁はお姉さんになるんだから、ちゃんと妹に挨拶するんだぞ。」
暁「私が、お姉さん?」
提督「ああ。そうだ。」
暁「わかったわ!妹の面倒は私が見てあげる!」
妖精さん「提督さん建造終わりましたよ。」
提督「え?まだ十分くらいしかたってませんよね。」
妖精さん「根性です。」
提督「それは・・・何というか、ありがとうございます。」
妖精さん「いえいえ。お気になさらず。ほら、はやく迎えに行ってあげてください。」
提督「わかりました。暁、行こう。」
響「響だよ。その活躍ぶりから不死鳥の通り名もあるよ。」
暁「私は暁。あなたのお姉さんよ。よろしくね!」
提督「私がこの鎮守府の提督だ。よろしく。」
響「ここが、鎮守府なのかい。」
提督「色々疑問はあると思うが、それは後で説明しよう。暁、響を連れて先に執務室に戻っていてくれ。」
暁「提督はどうするの?」
提督「私は少し妖精さんと話をしてから戻るよ。」
暁「わかったわ。響、ついてきて。」
提督「さて、妖精さん。」
妖精さん「何でしょう。」
提督「響のことですが、体に異常はないのですか。」
妖精さん「ええ。出撃も遠征も、問題なくこなせますし、解体すれば資材も手に入ります。」
提督「そうではなく、寿命が縮んだり、体力が落ちたり、ということはないのですか。」
妖精さん「あったらどうします?」
提督「治す方法を探します。治らないなら、他の子と同じ暮らしができるよう配慮します。」
妖精さん「・・・ふふふ。それを聞いて安心しました。」
提督「安心?」
妖精さん「実は、試させてもらったのです。あなたが艦娘を預けるに足る人間かを。」
妖精さん「合格です。あなたの言葉は本心からのようですし、以前の言葉もうそではないでしょう。」
提督「それでは、工事に参加するのは明日からというのは・・・」
妖精さん「あなたを試すために工事を一日遅らせてもらいました。明日からは全力で工事に取り組むのでご安心を。」
提督「わかりました。それで、響のことですが・・・」
妖精さん「種明かしをすると、響ちゃんは高速建造材を使っただけです。ですから、体に問題はありません。」
提督「それを聞いて安心しました。」
妖精さん「さあ、早くあの子達のところへ行ってあげてください。きっと待ってますよ。」
提督「ええ。それでは、失礼します。」
暁「あっ!やっときた。」
提督「ごめんごめん。ちょっと話が長引いちゃった。」
提督「それじゃあ響、この鎮守府について説明しようか。」
響「ああ、それなら問題ないよ。司令官が来るまでに姉さんに教えてもらった。」
提督「そうか。ありがとう暁。」
暁「私はお姉さんなんだから、これくらい当然よ!」
提督「ははは。頼もしいな。」
提督「それじゃあ二人とも、今日は響の買い物をして、帰ろうか。」
響「いいのかい?司令官。」
提督「ああ、いいよ。」
暁「さあ、早く行きましょ。」
響「わぁぁ・・・」キラキラ
暁「響、あんまりフラフラしないの。迷子になっちゃうわよ。」
百貨店に入ると、響は暁のときと同じような反応を示した。一方で暁は響が迷子にならないように注意している。少し不安なところもあるが、立派なお姉さんだ。
暁「司令官、最初はパジャマだったかしら。」
提督「そうだね。三階に行こうか。」
暁「さあ響、好きなパジャマを選んでいいのよ。」
響「姉さんはどれにしたの?」
暁「私?私はこれよ。」
響「じゃあ、私もそれがいい。」
暁「私と同じじゃなくても、好きなやつを選んでいいのよ?」
響「姉さんと同じがいい。」
提督「色もいくつかあるけど、同じでいいの?」
響「うん、姉さんと同じがいい。」
暁はすっかり響に気に入られているようだ。響がなじめるかどうか少し不安だったが、この分なら問題ないだろう。
提督「さあ、パジャマが決まったら今度は服と下着だ。響、何か希望はあるかい。」
響「姉さんと同じが・・・」
暁「もうっ!それくらいは自分で決めなさい。私の服なら貸してあげるから。」
響「わかった。でも、服の選び方なんて・・・」
提督「なら、暁のときみたいに店員さんに見繕ってもらおうか。」
暁「そうね。それがいいわ。すみませ~ん。」
店員「あらお嬢さん、どうかしましたか?」
暁「私の妹に服を選んでくださいっ!」
店員「妹さんはそちらの子かしら。」
提督「ええ、この子の服と下着をいくつかお願いします。」
店員「かしこまりました。少々お待ちください。」
店員「こちらでどうでしょう。」
提督「響、どうだい。」
響「姉さんはどう思う?」
暁「似合うと思うわ。」
響「じゃあ、これにする。」
店員「では、お会計はあちらのレジまでおねがいします。」
提督「わかりました。暁、響を連れて先にお茶碗を見ててもらえるかな。」
暁「わかったわ!響、いきましょう。」
響「わかった。」
提督「結構時間がかかったな。まさかレジが故障するとは。」
会計を終えて食器のコーナーに来てみると、暁たちの姿が見えない。ここはエスカレーターから離れているし、迷子になったのかもしれない。とにかく探してみよう。
暁「響、泣かないで・・・。きっと・・・もうすぐ、司令官に会えるから・・・。」
響「うん・・・」ポロポロ
二人を見つけたとき、響は大粒の涙を流していた。暁は響を不安にさせないためだろうか、涙目になりながら響をなぐさめている。
提督「二人とも、遅くなってごめん。」
暁「司令官・・・?しれぇかぁぁぁん」
響「ふぁぁぁぁぁぁぁん」
私を見たとたん、二人とも駆け寄ってきた。
提督「ごめんごめん。不安にさせちゃったね。」
暁「うぅ・・・。あのね、わた、私が、まよっちゃって、・・・グスッ、それで、響が、」
提督「大丈夫。もう心配することはないから。響きの面倒を見ていてくれてありがとう。」
提督「響も怖かったね。でも大丈夫。私も、暁もそばにいるからね。」
響「・・・グスッ・・・グスッ」
二人の気持ちが落ち着くまで待って、事情を聞くと、どうもトイレに行ったら、そこからどっちにいけばいいのかわからなくなってしまったようだ。近くに人もいなかったようなので、それで余計に不安になったのだろう。
暁「響は悪くないのよ。私が迷ったの。だから、響をしからないで。」
響「ううん、姉さんは悪くないんだ。私が、トイレに行きたいなんていったから。」
提督「いや、二人とも悪くないよ。私が二人だけ先に行かせたのが悪かったんだ。」
提督「さあ、三人で食器売り場に行こう。」
暁「・・・、そうね。行きましょ。響。」
響「わかった。・・・司令官、姉さん、手をつないでていいかな。」
提督「ああ、いいよ。」
暁「そうね。迷子にならないためにもそうしましょ。」
二人とも、少し元気になってきたようだ。
響「姉さん、食器って何を買うの?」
暁「お茶碗と、お箸と、マグカップだったかしら。響、ちゃんと自分で選ぶのよ。」
響「お茶碗だけでも、おそろいじゃだめかな?」
暁「それだけなら・・・司令官、いいかしら。」
提督「ああ、いいんじゃないかな。」
そうして響は、暁とおそろいのお茶碗と水色の箸を選んだ。マグカップは自分で選んだのだが、偶然暁と同じものになったようだ。この二人はウサギが好きなのかも知れない。鎮守府の建物が完成したら、ウサギを飼ってもいいかもしれない。
提督「そうだ。今日の夕飯は響の食べたいものにしようと思っていたんだ。響、何がいい?」
響「そうだね・・・。肉じゃがをお願いできるかな。」
提督「肉じゃがか。わかった。もう一品くらい作れるけど、何か希望はあるかな。」
響「特にはないかな。」
提督「そうか。暁は?」
暁「私も、特にはないわ。」
提督「それじゃあ・・・。サラダとシシャモを追加するのはどうかな。」
暁「私はいいわよ。響は?」
響「問題ないよ。」
提督「よし、材料は家に揃っているから、帰ろうか。」
暁「ええ。」
響「うん。」
提督「さて、私は晩御飯の準備をするから、二人は遊んでて。」
暁「司令官、ご飯までの間、響に色々教えてあげてもいい?」
提督「ああ、それじゃあお願いしようかな。」
暁「わかったわ。それじゃ響、ついてきて。」
響「」コクン
暁「いい?響。これがテレビよ。見ててね。」ポチッ
響「!?」
響「姉さん、これは一体・・・」
響は驚きを隠せないでいるようだ。まあ、現代の知識はほとんど持っていないのだから、無理もないだろうが。ともかく、響のことは暁に任せ、私は料理に専念しよう。
提督「二人とも、ご飯だよ。」
暁、響「は~い。」
提督「さあ、二人とも席について。」
言われて、暁は私の向かいに座る。それに対し、響は何か戸惑っているようだ。
提督「響、どうかした?」
響「私は、どこに座ればいいのかな。」
暁「そんなことで悩んでるの?それなら、ここに座りなさい。」
そう言って、暁は自分の隣のイスをたたいた。
響「わかった。」
提督「さて、二人とも座ったね。じゃあ、手を合わせて。」
暁「はい!」
響「こ、こうかい?」
提督「そうそう。それじゃ、いただきます。」
暁、響「いただきます。」
暁「おいしい!やっぱり、司令官のごはんは最高ね!」
響「・・・ハラショー。すごいよ司令官。とても美味しい。」
提督「それは良かった。」
提督「そういえば響はご飯を食べることに疑問は持たなかったな。」
暁「ああ、そのことなら、司令官が妖精さんと話している間に私から伝えておいたの。」
提督「そうか。ありがとう。他には、どんなことを教えたんだ?」
暁「えっと、提督のことでしょ。海がないことでしょ。それから、・・・」
響「テレビと、オセロのやり方と、この家のことを教えてもらったよ。」
提督「なるほど。じゃあ、私から追加することはないかな。」
響「うん。姉さんの説明はわかりやすかったからね。」
響「ああ、そうだ。司令官、お願いがあるんだけど、いいかな。」
提督「ああ、言ってみな。」
響「その、お風呂と寝るときは姉さんと一緒なんだろう?それでだね、ええと、私も、その、一緒に・・・」
提督「ああ、そうだな。響だけを一人にするわけにはいかない。」
響「スパスィーバ。・・・いや、ありがとう。」
提督「どういたしまして。」
提督、暁、響「ごちそうさまでした。」
提督「さて、お風呂に入って今日はもう寝ようか。」
暁「もう少しおきててもいいんじゃないかしら。」
響「うん、もう少し遊んでいたいよ。」
提督「まあ、響は今日建造されたばかりだし、今日のところはゆっくり休みなさい。」
暁「そうだったわね。それじゃあ、今日は休んだほうがいいかもしれないわ。」
響「でも、まだ起きていられるよ。」
提督「遊ぶのは明日でもできるんだから、今日は寝てなさい。」
提督「さあ、お風呂に入ろう。」
暁「はい!響、行きましょ。」
響「うん。」
提督「暁、流すぞ。」ザバァー
提督「はい、暁はこれでおしまい。響、おいで。」
響「うん。」
提督「まずは髪を洗うから、さっきの暁みたいにして、目を閉じてて。」
響「うん、わかった。」
初めて暁の髪を洗ったときと同じように、響も身を硬くしている。艦娘は頭を洗うときに緊張するものなのだろうか。
提督「はい、髪はおしまい。次は体を洗うぞ。」
響「よろしくお願いする。」
提督「はい、体もおしまい。後は湯船に浸かって。」
暁「響、お風呂に入ったら、肩まで浸かって、100まで数えるのよ!一緒に数えましょう。」
暁「1,2,3,・・・どうしたの響?」
響「ええと、100までじゃなきゃだめかな。もう少し短くは・・・」
暁「100までって提督が言ってたんだから、100まで数えなきゃだめよ。ほら、次は4からよ。」
響「・・・うん。」
暁、響「4,5,6,・・・・・・,100!」
暁「ふぅ。提督、もう上がっていい?」
提督「ああ、いいよ。体を拭いてパジャマを着てて。上がったら、ドライヤーかけてあげるから。」
暁「わかったわ。響、いくわよ。」
響「ハラショー。・・・気持ちがいいな。」
ドライヤーをかけていると、響が目を細めていった。
暁「そうでしょう。私も、お風呂の後で司令官にドライヤーかけてもらうのが楽しみなの。」
響「姉さんもなのか。うん、確かにこれは癖になる。」
提督「それは良かった。・・・はい、おしまい。」
響「むぅ。もう少し続けてほしいな。」
提督「それはまた明日、お風呂の後でね。さあ、もう寝よう。」
暁、響「おやすみなさい。」
提督「はい、おやすみなさい。」
響「司令官、おはよう。」
提督「ああ響、おはよう。よく眠れた?」
響「うん。とっても。」
提督「それは良かった。」
響「ところで司令官、何をしてるの?」
提督「ああ、朝ごはんの準備を。」
響「私も何か手伝おうか。」
提督「それじゃ、味噌汁のお椀を出しておいてもらえるかな。」
響「わかった。・・・これでいいかな。」
提督「うん、ありがとう。もうすぐご飯になるから、暁を起こしてきてくれる?」
響「了解。」
暁「ふぁぁ・・・司令官、おはよう・・・」
提督「ああ、おはよう。朝ごはんにするから、顔を洗っておいで。」
暁「うん・・・」
提督「それじゃあ、いただきます。」
暁「いただきます。」
響「いただきます。」
響「司令官、これなんだけど。」
提督「ああ、納豆がどうかした?」
暁「それはこうやってかき混ぜて、ご飯にかけて食べるのよ。」
響「いや、それは知ってるんだけど、これ、本当に食べられるの・・・?」
提督「食べられるぞ。まあ、一口食べてみな。」
響「うん・・・」パク
響「・・・あまり好きではないな。」
提督「響は納豆ダメか。それじゃ響、納豆は食べなくていいから、その分豆腐を食べなさい。」
響「わかった。」
暁「響、好き嫌いは良くないわよ?司令官も、甘やかしちゃダメよ。」
響「姉さんは嫌いなものないの?」
暁「当然よ!レディーは好き嫌いなんてしないわ。」
提督「それじゃあ、暁はニンジンも食べられるな。」
暁「ええと、私はいいけど、響がどうか・・・」
響「?私はニンジン平気だよ。」
暁「う・・・でも、カレーに入ってるのは食べられるもん!」
提督「ははは。冗談はこのくらいにしておこうか。まあ、二人ともなるべく好き嫌いはしないようにしないと。」
暁「うん、努力はするわ。」
響「私もがんばる。」
提督、暁、響「ごちそうさまでした。」
提督「さあ、今日は早めに鎮守府に行こう。二人とも、支度して。」
暁「早めに?今日は何かあるの?」
提督「いや、今日から工事が始まるだろう?車の出入りが激しくなると思うから、工事が始まる前に鎮守府に入っておきたいなと思って。」
響「なるほど。」
提督「さて。まだ工事は始まっていないようだね。」
暁「そうね。」
響「!司令官、お客さんだ。」
提督「ああ、大島さんだね。ちょっといってくるよ。」
提督「大島さん。」
大島「ああ、提督さん、おはようございます。」
提督「おはようございます。なにか御用でしょうか。」
大島「ええ、今日から工事を始めさせていただきますので、工事の大まかな予定をお伝えしようと思いまして。」
提督「そういうことでしたか。まあ、中へどうぞ。」
大島「では、お言葉に甘えて。」
暁「大島さん、おはようございます。ほら響、後ろに隠れないで、挨拶しなさい。」
響「・・・おはよう、ございます。」
大島「おはようございます。新しい艦娘かな。」
響「」コクン
提督「響は昨日建造されたばかりでして。」
大島「そうでしたか。」
暁「それで大島さん、ご用は何かしら。」
大島「ああ、そうでした。それでは、工事の予定を説明させていただきます。」
大島「まず、執務室や司令官の生活空間、大部屋などが含まれる建物である本棟を建て、次いで艦娘たちの部屋、1号棟を建てます。そちらが終わり次第、プールなどのある特別棟の建設とドックの増築を平行して行います。ここまでで、何か質問はありますか。」
提督「ええと、1号棟というのは・・・」
大島「ああ、艦娘が増えるに連れ増築が必要になると思いましたので、番号を振っておいたほうが便利かと、こちらで勝手に名づけさせていただきました。無論、仮名ですので呼び名はそちらで決めていただいて結構です。」
暁「あの、公園はいつ作るんですか?」
大島「全ての建設が終わった後になりますね。芝生を植える関係上、公園は最後にしたほうがいいのです。」
暁「わかりました。」
響「その、この周辺には手を加えないみたいだけど、この辺はこのままなのかい?」
大島「ええ、少なくとも工事の間はそうなりますね。」
響「ふぅん。」
提督「響、それについてはちょっと考えがあるから、あとで話すよ。」
響「わかった。」
大島「他に質問がないようでしたら、すぐにでも工事にかからせていただきますが・・・」
提督「はい、問題ありません。よろしくお願いします。」
提督「さて、しばらく外は工事中だから、二人ともこの辺りにいてね。」
暁「わかったわ。司令官、やることもないし、今日の分の勉強を始めましょ。」
提督「そうだな。それじゃあ、暁は100マス計算からはじめようか。響は、まずひらがなの書き取りかな。」
響「わかった。じゃあ、はじめるよ。」
提督「ああ、まって。響、クレヨンじゃなくって鉛筆を使おう。」
響「うん。これでいいかい?」
提督「いや、その持ち方じゃきれいにかけないな。こうやって、親指と人差し指で挟んで・・・」
暁「司令官、終わったわ!」
提督「ああ、そうか。それじゃ、ええと・・・」
響「司令官、持ち方はこれでいいかい?」
提督「ええと、そうだな、それでいい。」
響「それじゃ、始めるよ。」
暁「司令官、私はー?」
提督「ああ、そうだった。ええと・・・」
響「司令官、どれをかけばいいのかな。」
提督「・・・・・・よし、ひとまず落ち着こう。」
提督「まず暁、今日は掛け算の問題を解くのと、漢字を10文字覚えよう。響に教えることがたくさんあるから、あんまり見てあげられないかもしれないけど、わからないところがあったら持ってきて。」
提督「それと響、字は読める?」
響「読めないよ。」
提督「なら、まずはひらがなの読みからだ。これが『あ』。」
響「『あ』だね。」
提督「そうそう。それで、その次が『い』だ。」
響「『い』。」
提督「そうそう。それで・・・」
いっぺんに二人の勉強を見なければならなくなったため、忙しくなったが、それでも何とか昼過ぎまでには今日の分を終わらせた。午後はほとんどない書類の仕事を片付け、明日の勉強の範囲について考えたりなどしていると、あっという間に5時になった。一人で教えるのも大変だ。誰かに手伝ってもらえないだろうか。
提督「暁、響、今日はもう帰ろうか。」
暁「わかったわ。」
響「了解。」
次の日、鎮守府に来てみると、巨大な建物の骨組みが完成していた。
暁「司令官、もう骨組みができてるわ。」
提督「ああ、ものすごい速さだ。ちょっと、妖精さんに話を聞いてみようか。」
提督「妖精さん、もう骨組みが完成したんですか。」
妖精さん「ええ、今いる妖精を総動員して、夜を徹してやっておきました。」
提督「速くしてもらえるのはありがたいのですが、無理はしないでくださいね。」
妖精さん「いえ、私たち妖精は疲れませんので。ご心配なく。」
提督「それでも、徹夜での作業は危険でしょう。」
妖精さん「・・・あなたは、艦娘だけでなく、私たちまで気にかけてくれるんですね。」
提督「当たり前でしょう。あなたたちも、この東松山鎮守府の一員ですから。」
妖精さん「ありがとうございます。・・・わかりました。あなたがそこまで言ってくれるんですから、徹夜での作業はやめましょう。」
提督「それを聞いて安心しました。」
暁「妖精さん、よろしくお願いします。」
響「よろしくお願いします。」
妖精さん「ええ。貴女たちのためにも、なるべく速く建てましょう。」
暁「でも、本当に無理はしないでよ。」
妖精さん「ええ。約束です。」
それから、妖精さんたちは夜の作業はやめたようだ。それでも建築は非常に速く進み、一週間で本棟が完成した。大島さんたちにとっても予想以上のペースだったらしく、この分なら五月末には完成するだろう、とのことだった。今のうちに鎮守府に移動する荷物をまとめておこう。
暁「司令官、今日の勉強は何をするの?」
提督「そうだね。今日はテストをしよう。」
暁「テスト?」
提督「そう。暁がどれくらいできるようになったか見せてもらおうと思って。」
響「司令官、私もテストかい?」
提督「いや、響はまだ着任して3週間だし、テストはもう少し経ってからにしよう。」
響「わかった。それじゃ、私は何をすればいい?」
提督「今日は割り算をやってみようか。その次は漢字だね。」
響「了解。」
提督「それじゃあ、割り算がどういうものか、からはじめよう。」
暁「司令官、終わったわ。」
提督「ああ、暁。あの量を三十分でこなしたのか。すごいな。」
暁「そうなの?」
提督「ああ、一応五十分を目安に作ったものだからな。ずいぶん速いよ。」ナデナデ
暁「えへへ。」
提督「じゃあ、採点するから、しばらく休んでて。」
暁「わかったわ。」
改めて採点すると、暁の答案は後半でのミスが目立った。最初は一つ一つ丁寧に計算していて、全くミスがないのだが、最後の文章題になると、繰り上がりや九九を間違えたり、問題文を読み違えたりしている。この様子だと、最後の五分、もしかすると十分は集中力が切れてしまったのだろう。一度、集中力がどれくらい続くのか調べてみたほうがいいかもしれない。
響「司令官、いいかい?」
提督「ああ、響。どこかわからない?」
響「いや、そうじゃなくて。大島さんが来てるよ。」
提督「ああ、ありがとう。」
提督「すみません、お待たせしてしまって。」
大島「いえ、お気になさらず。」
提督「それで、何か問題などありましたか。」
大島「いえ。その逆です。かなり順調に作業が進み、建物が完成してしまったので、ご報告に上がりました。」
提督「もう完成ですか!」
大島「ええ、といっても本棟と特別棟、ドックをつなぐ渡り廊下はまだなのですが。」
提督「でも、もうほとんど完成してるんですね。」
大島「ええ。そうなりますね。」
暁「なに?もうできたの?」
響「できたの?」
提督「ああ、まだ完成じゃないけど、建物自体はできてるみたいだよ。」
暁「なら、見に行きましょう!」
大島「いや、まだ色々と手続きが残ってて、実際に使えるのはまだ先に・・・」
暁「でもできてるんでしょ?なら見に行きましょう。」
響「私も見に行きたいな。」
提督「大島さん、建物って中には入れるんですか?」
大島「ええと、入っても危険はないのですが、中はまだ散らかっていて、妖精さんたちがその掃除をしているので・・・」
暁「じゃあ、妖精さんがいいって言ったらいいのね。響、妖精さんのとこに行くわよ。」
響「了解した。」
提督「ああこら、待ちなさい!」
そういった時、二人はすでに駆け出していた。
提督「ああ、もうあんな遠くに・・・」
大島「妖精さんの居場所、わかるんでしょうか・・・」
提督「とにかく、追いかけますか。」
大島「・・・そうですね。」
暁「提督ー!妖精さん、中に入れてくれるって!」
提督「・・・ごめん、ちょっと、待って・・・」ゼーゼー
妖精さん「大丈夫ですか?」
提督「・・・ええ・・・何とか・・・」
提督「・・・それで、ええと、そう、中に入っても大丈夫なんですか?」
妖精さん「ええ。中は掃除してるだけですから。・・・提督さん、ここで休んでいては?二人は私が案内しておきますから。」
提督「すみません、お願いします。」
妖精さん「わかりました。さあ、二人とも。ついてきて。」
暁「は~い。」
響「うん。」
提督「ふう、やっと落ち着いた。大島さん、そちらは大丈夫ですか?」
大島「ええ、もう大丈夫です。」
提督「それは良かった。さて、私はここであの子達を待ちますが、大島さんはどうします?」
大島「ええと、一応まだ報告がありますので、ここで済ませてしまってもよろしいですか?」
提督「ええ。どうぞ。」
大島「ええと、たしか渡り廊下以外は完成した、というところまでは話しましたよね。」
提督「ええ。」
大島「それで、建物が完成したあと、建築基準法に違反していないかを検査し、検査済証の交付を受けなければなりません。」
提督「それでは、完成してからしばらくは住めないんですね。」
大島「そういうことになりますが・・・」
提督「わかりました。二人にも伝えておきます。」
大島「いえ、そうではないんです。普通は完成してすぐに住むことはできないんですが、妖精さんが関わった建築に関しては、その限りではないんです。」
提督「といいますと?」
大島「妖精さんの作るものには日本の法律は適応されないんです。ですから、ここも完成し次第住めるようになります。」
提督「なるほど。では、荷物をまとめておいたほうがいいですね。」
大島「私もそう思いまして。」
提督「ありがとうございます。」
大島「ところで、一つお聞きしたいことが。」
提督「何でしょう。」
大島「なぜ、あなたはこんなところにいるのですか。」
提督「前にも言いましたように・・・」
大島「いいえ、私が聞きたいのはそれではありません。私は先月あなたにあったばかりで、あなたの仕事もわずかしか見ていませんが、それでもあなたが優秀であることはわかります。」
提督「買いかぶりすぎでは?」
大島「いえ。そんなことはありません。聞けばあなた、卒業時の成績は校内一位だったそうじゃないですか。」
提督「だれから・・・」
大島「ここの建造を急いでほしいと連絡してきたうちの一人です。そのとき、首席で卒業したものには着任する鎮守府を選ぶ権利がある、ということも聞きました。なぜ、ここを選んだんです?」
提督「いえ、私はその権利を与えられなかったんです。」
大島「権利を放棄したと?」
提督「いえ。与えられなかったんです。」
大島「どういうことですか?」
提督「・・・その権利は二位のものになりました。」
大島「なぜです。」
提督「・・・言えません。」
大島「悪さでもしたんですか?」
提督「まあ、そんなところです。」
大島「濡れ衣を着せられた?」
提督「いえ。そのようなことはありません。」
大島「・・・では、あなたが・・・」
提督「そう。私が悪いんです。」
大島「提督さん、私は」
妖精さん「提督さん。あの子達に、特別棟のほうも見せてきます。一時間くらいで戻ると思うので、執務室のほうで待っていてください。」
提督「ああ、はい。それで、あの子達は・・・」
妖精さん「今は中の妖精と話しています。」
提督「そうですか。では、よろしくお願いします。」
提督「すみません、大島さん。続きは執務室でお願いします。」
大島「はい。」
提督「それで、大島さんはなにを言いかけていたんです。」
大島「私は、あなたが悪人であるなんて信じられません。いえ、信じたくありません。」
大島「艦娘を自分の子供のように可愛がり、人間と同じように教育を受けさせる。鎮守府も、艦娘のことを第一に考えて作っている。そんな人が、悪人であっていいはずがない。・・・お願いです。提督さん、本当のことを話してください。」
提督「・・・・・・わかりました。お話します。ですが、このことは誰にも言わないでください。」
提督「学校では、深海棲艦を敵、艦娘を兵器と教わりました。深海棲艦は見つけ次第沈めなければならないと。艦娘は兵器であり、情をかけてはならない。作戦を成功させるためなら轟沈もいとわず、役に立たなくなったら解体し、資材にまわせと。」
大島「そんな・・・」
提督「私も、それは間違っていると思いました。そして、反抗したのです。といっても知識も経験も浅い学生です。同じ考えを持つ仲間を集め、現在の教育に問題があるとして、その実態をマスコミに持ち込むくらいしか思いつきません。」
大島「でも、確かに効果は大きいでしょうね。鎮守府については色々と問題になっていますし。」
提督「ええ。それで、世論を味方に付ければ、現状をひっくり返せるかもしれない、そう思ったんです。ですが、」
大島「成功しなかった、と。」
提督「ええ。持ち込む前に教官に目を付けられまして。それ以来、要注意人物としてマークされ続けたんです。表立って動けなくなった私たちは方針を変えました。私たちの誰かが元帥になり、教育の根本を変えることにしたのです。もちろん、その過程で変えられるならそれが一番ですが。」
大島「では、あの電話は・・・」
提督「そのときの仲間でしょう。」
提督「まあ、以上が全てです。これ以上隠していることはありません。」
大島「話してくださり、ありがとうございます。それと、すみませんでした。まさか、そんなことがあったなんて。」
提督「いえ、気にしないでください。」
大島「・・あの。もしよろしければ、私にも協力させていただけますか。私は素人で艦娘や深海棲艦のことはわかりませんが、暁ちゃんや響ちゃんのようないい子が、兵器として扱われるなんて我慢できません。」
提督「わかりました。では、協力をお願いします。」
大島「よろこんで。」
提督「ああ、でも、あの子たちには言わないでくださいね。」
大島「わかっています。」
大島「では、私は仕事に戻ります。」
提督「ええ。では、お気をつけて。」
―少し前―
妖精さん「ええ。中は掃除してるだけですから。・・・提督さん、ここで休んでいては?二人は私が案内しておきますから。」
提督「すみません、お願いします。」
妖精さん「わかりました。さあ、二人とも。ついてきて。」
暁「は~い。」
響「うん。」
提督も、大島さん?(そう呼ばれていた気がする)も、走ってきたせいか、大分息が上がっているようだ。この子達は私に任せて、二人には休んでいてもらおう。
暁「ねえ妖精さん、ここが本棟?」
妖精さん「ええ。そうよ。ここは新しい執務室や会議室、それ以外にもたくさんの部屋があるわ。」
響「私たちの部屋もあるの?」
妖精さん「それは1号棟にあるのよ。ほら、そこの窓から見えるわ。」
響「大きい・・・」
暁「あんなに部屋があって、使いきれるのかしら。」
妖精さん「そのうち、あれだけじゃ部屋が足りないくらいにぎやかになるわよ。」
暁「想像できないわ。」
妖精さん「ふふふ。まあ、そのうちわかるわ。」
響「妖精さん、これから艦娘が増えたらその子たちは私の妹になるの?」
妖精さん「あら、響ちゃんは妹がほしいの?」
響「・・・うん。」
妖精さん「まあ。でも、妹になるかは艦種によるわね。駆逐艦なら妹になると思うけど、巡洋艦や戦艦だとお姉さんかしら。」
響「そうなのか・・・それは少し、残念だな。」
暁「なら、提督にお願いしましょ。きっと、提督なら駆逐艦を建造してくれると思うわ。」
妖精さん「そうね。私たちも駆逐艦ができるように頑張るわ。」
響「うん!ありがとう。」
妖精さん「それじゃ、そろそろ行きましょうか。」
妖精さん「まず、執務室に向かうわね。」
暁「は~い。」
妖精さん「ついたわ。ここが執務室ね。」
暁「なんにもないわね。」
妖精さん「まだ使われてないからね。」
響「妖精さん、この扉は?」
妖精さん「ああ、その先は提督の部屋よ。提督が暮らすために作られるの。」
響「みてもいいかい。」
妖精さん「いいけど、まだ何もないわよ。」
響「本当だ。」
妖精さん「さて、この部屋はもういいかしら。次はお風呂に案内するわ。」
妖精さん「ここがお風呂よ。」
響「わぁ・・・」
暁「すごいわね。これだけ広かったら、三人で入ってもぜんぜん狭くないわ。いえ、もっとたくさんで入れるわね。」
妖精さん「一応、十五人までは入れるわ。それより、三人って?」
暁「決まってるじゃない。私と、響とそれから司令官よ。」
妖精さん「ああ、一緒に入ってるのね。でも、これからはそれは難しいんじゃないかしら。」
暁「どうして?」
妖精さん「たぶん、多くの艦娘は恥ずかしいと思うから。」
暁「そんなことないわよ。それに、司令官に洗ってもらうととっても気持ちいいのよ。」
響「それに、提督に髪を乾かしてもらうのも気持ちいい。」
妖精さん「う~ん。まあ、そのことは後で相談しましょ。」
妖精さん「さて、後は大きさが違う部屋があるだけだけど、見たいかしら?」
暁「う~ん、それなら見なくてもいいかも。」
響「私もそう思うよ。」
妖精さん「そう、それじゃ提督の・・・」
そういいかけて、何気なく窓の外を見ると、提督の姿が見えた。大島さん?と話しているが、、あまり良くない雰囲気のようだ。この子達にあんな提督は見せたくない。いや、見せてはならない。
妖精さん「・・・二人とも、プールを見たくない?」
暁、響「プール?」
妖精さん「そう。ここじゃなくて、特別棟にあるんだけど。」
暁「でも、司令官が待ってるし・・・」
妖精さん「あら、それなら私が提督さんに言ってくるわ。その間、ここにいてね。」
響「でも、」
妖精さん「ちょっとあなた、この子達の話し相手になって。私が戻るまでの間でいいわ。」
妖精(工廠)「わかりました。」
妖精さん「それじゃあ、ちょっと行ってくるわね。」
妖精さん「提督さん。あの子達に、特別棟のほうも見せてきます。一時間くらいで戻ると思うので、執務室のほうで待っていてください。」
こちらを振り向いた提督は、驚きと、どこかおびえが混じった顔をしていた。やはり、あの子達を連れてこなくて正解だったみたいだ。
提督「ああ、はい。それで、あの子達は・・・」
妖精さん「今は中の妖精と話しています。」
提督「そうですか。では、よろしくお願いします。」
それだけを聞いて私は踵を返す。とにかく、あの子達を執務室から遠ざけないと。
暁「やっと帰ってきた。急にいなくならないでよ。」
妖精さん「ごめんね。でも、提督には言ってきたから。ほら、プールに行きましょう。」
暁「でも、それなら提督も一緒に・・・」
妖精さん「提督は、完成してから見たいって言ってたわ。」
暁「そう。それならいいわ。響もいい?」
響「うん。」
それから私たちは特別棟に行き、設備を一つ一つ説明していった。この二人に理解できたかはわからないが、今はとにかく時間を稼がなきゃ。
そうして一時間後、執務室に戻った。
暁「ただいま。司令官。」
響「ただいま。」
提督「ああ、お帰り。妖精さんも、ありがとうございました。」
妖精さん「どういたしまして。それから提督、相談したいことがありますので、後日一人でドックまで来てください。」
提督「ええ。わかりました。」
妖精さん「それでは私はこれで失礼します。」
そう言って妖精さんは執務室を出て行った。相談というのは、大島さんと話していた内容のことだろう。近いうちにドックに行こう。
その日の夕食で、二人に今日の感想を聞いてみると、二人とも目を輝かせて今日見たものを話してくれた。この様子だと、あの話は聞かれていないのだろう。やはり、妖精さんには明日にでもお礼を言わなければ。
翌日、私は妖精さんを尋ねた。
妖精さん「ああ、提督さん、いらっしゃい。一人で来てくれました?」
提督「はい。」
妖精さん「それは良かったです。」
提督「あの、妖精さん、昨日はありがとうございました。おかげで、あの子達にあの話を聞かれずに済みました。」
妖精さん「いえ、お気になさらず。」
妖精さん「ただ、私にもその話を聞かせてもらえませんか?」
提督「わかりました。実は・・・」
提督「・・・というわけなんです。」
妖精さん「なるほど。そんなことがあったんですね。」
提督「ええ。何か疑問点などありますか。」
妖精さん「いえ。今ので十分です。」
提督「それでは、私はこれで。」
妖精さん「ああ、ちょっと待ってください。」
提督「はい?」
妖精さん「昨日あの子達から聞いたんですが、お風呂も寝るときも一緒なんですって?」
提督「はい、そうですが。」
妖精さん「それは、少しまずくないですか?今はまだあの子達だけですけど、これから戦艦や空母、巡洋艦などが増えると、一緒にお風呂は厳しくなると思うのですが。」
提督「・・・そうですね。失念していました。では、巡洋艦や戦艦、空母に駆逐艦のお風呂を見てもらえばいいでしょうか。」
妖精さん「まあ、それで問題はないと思います。あとは寝るときですが、そちらはどうします?」
提督「艦娘を数人ずつ相部屋にしたらどうでしょう。」
妖精さん「いえ、それは効果が薄いでしょう。あの子達は、あなたといるのが一番安心するみたいですし。」
提督「では、少しずつ慣らしていきますか。」
妖精さん「ええ、最初は枕元にいるくらい、次は隣の部屋、といった具合に、少しずつ寝る場所を離していきましょう。」
提督「わかりました。」
妖精さん「ところで提督さん、あの子達に勉強を教えているんですよね。」
提督「ええ。そうなんですが、二人を見るのだけでも大変で、これから艦娘が増えてしまったらどうしようかと。」
妖精さん「それなら、私が手伝いましょうか。」
提督「いいんですか。」
妖精さん「ええ。専門的なことは教えられませんが、書き取りや簡単な算数なら見てあげられます。」
提督「それはありがたいですね。」
妖精さん「では、工事が終わった翌日からお手伝いさせていただきます。」
提督「ありがとうございます。」
妖精(工廠)「リーダー、工事は私たちでやっておきますので、今日から手伝いに行ってください。」
妖精さん「何を言っているの。そんなこと、できるわけないじゃない。」
妖精(工廠)「いえいえ。大丈夫ですから。リーダーは少しでも長く提督と居たいでしょう。」
妖精さん「何を言ってるの。もう。」
妖精(工廠)「まったく、素直じゃないんだから。それじゃ提督、ウチのリーダーをよろしくお願いします。」
妖精さん「ちょっと!・・・はあ。すみません提督。あとで言っておきます。」
提督「いや・・・。なんというか、すごい部下をお持ちで。」
妖精さん「あんなでも、腕は確かなんですよ。・・・それでは提督、今日から、お手伝いさせていただきます。」
提督「それはありがたい。では行きましょうか。」
妖精さん「はい。」
暁「提督、おかえり~。」
響「おかえり。」
提督「ああ、ただいま。」
暁「あれっ?妖精さん。」
響「こんにちは。」
妖精さん「こんにちは。」
提督「今日から、二人に勉強を教えるのを手伝ってくれることになったんだ。」
妖精さん「そういうわけで、よろしくね。」
暁「うん、よろしくおねがいします!」
響「よろしく。」
それからは二人で教えたのだが、一人のときよりはるかに楽になった。妖精さんも、教えるのはかなりうまいようだ。これなら、もっと早くから頼んでおけばよかった。
そうこうしているうちに日は経ち、ついに全ての工事が終了となった。これからは、他の鎮守府と同じように活動していけるだろう。
妖精さん「提督、荷物の移動も終わったようですし、新しい艦を建造してみては?ドックが拡張されたので、二隻までなら同時に建造できますよ。」
提督「そうですか。それでは早速建造してみましょうか。」
妖精さん「艦種はどうします?確実ではないですが、ある程度なら絞り込めますよ。」
暁「ほら、響、今言わなきゃ。」
響「うん。・・・司令官、実は私、妹がほしいんだ。」
提督「妹、って言うと駆逐艦か。まあ、いいかな。」
響「やった。」
妖精さん「では、一隻は駆逐艦として。もう一隻はどうします?」
提督「うーん、この子達の姉になってほしいから、最初は空母か戦艦かな?」
妖精さん「では、今ボーキサイトが少ないので、戦艦にしませんか。」
提督「そうですね。それでは、駆逐艦と戦艦でおねがいします。」
妖精さん「わかりました。まあ、その二種が出るとは限りませんが。」
妖精さん「では、明日の朝には建造が終わっていますので、明日の午前中にでもドックへ来てください。」
提督「わかりました。それでは、よろしくおねがいします。」
響「司令官、これで私の妹ができるんだね。」
提督「その予定だけど、確実に妹ができるとは限らないんだ。」
暁「どうして?駆逐艦を建造するんでしょ?」
提督「いや、正しくは『駆逐艦ができる確立が高い』建造だ。」
暁「よくわからないわ。」
提督「ええと、順番に説明しようか。まず、建造は、使う資材の量によって、できやすい艦種が変わるんだ。」
暁、響「??」
提督「例えば、資材を多く使うと重巡洋艦や戦艦が出やすくなるし、ボーキサイトを多く使えば空母ができやすい。」
暁「なんとなくわかったわ。」
提督「それで、どの資材をどれくらい使うとどの艦種になるか、という情報を集めている提督がいるんだ。」
提督「今回はその情報をもとに建造をしたんだ。」
響「その情報では確実に駆逐艦ができるわけではないんだね。」
提督「そうなんだ。たまに、軽巡洋艦ができたりもするんだ。」
響「じゃあ、今回は私たちのお姉さんが二人できることになるかもしれないのか。」
提督「まあ、そうなるね。」
暁「そうなんだ。でも、もし駆逐艦ができなくても、次は駆逐艦を建造してね。」
提督「ああ。約束しよう。ただ、あんまり連続して建造すると妖精さんたちが大変だから、少し時間を空けよう。」
暁「それもそうね。妖精さんはここを建てるために頑張ってくれたんだから、ちゃんと休んでもらわなきゃね。」
響「そうだね。」
響「そうだ。妖精さんたちに、何かお礼をしたいな。何がいいだろう。」
提督「なんだろう。食事に招くとか、それくらいしか思いつかないな。」
暁「う~ん。そうだ!私と響で、妖精さんたちのお手伝いをする、っていうのはどうかしら。」
提督「まあ、妖精さんたちに聞いてみて、迷惑でなければ、っていう感じかな。」
暁「私たち、迷惑なんてかけないわ!ねえ響。」
響「うん。ちゃんとお手伝いするよ。」
提督「う~ん。じゃあ、食事に誘うときにそのことも聞いてみようか。」
暁「うん!」
提督「ところで、二人とも今日からどこで寝る?」
響「?司令官と一緒じゃないのかい?」
提督「いや、艦娘のための建物もあるんだし、二人とも自分の部屋で寝てもいいんじゃない?」
暁「でも、やっぱり司令官と一緒がいいわ。」
提督「それじゃあ、今日からは同じ部屋の、違う布団で寝るというのはどうかな。」
暁「響がいいのなら・・・」
響「私も、姉さんがいいのなら・・・」
提督「まあ、ためしに今日はそうやってみようか。」
二人とも、乗り気ではないようだ。今まで一緒に寝ていたのだから、無理もないか。時間はあるのだから、ゆっくりと慣らしていこう。
提督「さて。いつまでもこんなところにいても仕方がない。」
暁「執務室で勉強かしら。」
提督「いや、今日は勉強はナシにして、公園に行ってみよう。」
響「公園?」
暁「ああ!鎮守府の中に作ってもらったやつね。」
提督「そうそう。せっかくだから、見に行ってみよう。」
暁「わあ~!すごい!」キラキラ
響「ハラショー。」キラキラ
二人とも公園の様子に目を輝かせている。確かに、この規模ならそれが普通の反応だろう。シーソーや滑り台、ジャングルジムにブランコといった遊具は、定番といえば定番だが、全てが揃っているところはそうそうないだろう。それだけにとどまらず、うんていやタイヤとび、鉄棒に砂場と、小学校を髣髴とさせる遊具があり、ベンチに東屋といった休憩スペースまで用意されている。それらの遊具の多さは目を見張るものがあるが、特筆すべきはその広さだ。これだけの遊具がありながら、公園の中央部は芝生が敷かれ、かなり広いスペースが確保されている。ざっと見たところ、芝生のところはテニスコートが二面分くらいはあるだろう。
暁「司令官、もう遊んでもいいかしら。」
提督「ああ、いいよ。私はここで見てるから、二人で遊んできなさい。」
暁「よ~し!いくわよ、響!」
響「うん!」
そう言って二人は駆け出す。
暁「提督ー!これ、どうやって使うのー?」
うんていの下で暁が叫ぶ。
提督「ああ、それはね・・・」
提督「二人とも、そろそろ暗くなってきたし、帰ろうか。」
暁「もうちょっと。もうちょっとだけ。」
提督「遊ぶのは明日でもいいでしょう。さあ、帰るよ。ほら、響も。」
響「待って司令官。後一回滑り台を・・・」
よほど楽しかったのか、いつもは聞き分けがいい二人が、なかなか離れようとしない。とはいえ、暗くなって怪我をしたら大変だ。ここは強制的につれて帰ろう。
提督「よっと。」
暁「ふぇっ?な、何でいきなり抱き上げるのよ。」
響「むぅ。姉さんばっかりずるい。司令官、私も。」
提督「じゃあ、響は肩車ね。」
響「やった。」
提督「二人とも泥だらけだな。帰ったらすぐにお風呂かな。」
提督「さあついた。二人とも、玄関で泥を落として。」
暁「わかったわ。」
響「了解した。」
提督「お風呂はすぐそこだし、ここで服脱いでった方が汚れないかな。」
提督「二人とも、ここで服脱いで、お風呂に行ってて。パジャマと下着は用意しておくから。」
暁「わかったわ。さあ響、行くわよ。」
響「うん。」
提督「やれやれ。とりあえずこの服は洗濯機に入れて、パジャマを持って風呂に向かうか。」
妖精(入渠)「あら提督、こんばんは。」
提督「ああ妖精さん・・・入渠の方だったかな?」
妖精「よく覚えてますね。それはそうと、ちょっとお風呂をお借りしてもいいですか。」
提督「かまいませんが、どうかしたのですか?」
妖精(入渠)「いえ、私たち妖精も、汗をかいたりしますから。」
提督「そういうことなら、どうぞお使いください。ほかの方にも、そう伝えていただけますか。」
妖精(入渠)「わかりました。それでは、早速使わせていただきます。」
提督「そうだ。すみませんが、上の階を使ってください。一階は今暁たちが入っていて、二人を洗うためこれから私も入るので。」
妖精(入渠)「わかりました。それでは、失礼します。」
提督「さて、早く行かないと。」
提督「二人とも、泥は落ちた?」
暁「その声は司令官?」
響「助けて司令官。」
二人とも、髪にシャンプーをつけたまま、目を閉じていた。一人で髪を洗おうとしていたようだ。
提督「わかった。流してあげるからまってて。」
暁「ふー。ありがとう、司令官。」
響「たすかった。」
提督「二人とも、自分で洗うのはまだちょっと早いから、少しずつ練習していこうね。」
暁「わかったわ。」
響「わかった。」
響「ねえ司令官。ご飯はいつごろになりそうかな。」
風呂から上がるなり、響がそう訪ねてきた。今日は午後の間ずっと遊びまわっていたのだから、無理もないか。
提督「そうだな。急いで作るけど、三十分はかかるかな。」
暁「そう。じゃあ、がんばって我慢するわ。」
提督「そうしてくれると助かるよ。じゃあ二人とも、食堂に行こうか。」
暁「うん。」
響「司令官、オセロとか持って行ってもいいかな。」
提督「ああ、いいよ。それじゃあ娯楽室に寄っていこうか。」
提督「二人とも。ご飯できたよ。」
暁「えっ?もう?」
響「思ったより早かったね。」
提督「オセロをしてたから、時間が早く過ぎたかな?」
提督「まあ、さめないうちに食べちゃおう。」
提督、暁、響「いただきます。」
暁「そういえば司令官、明日の朝に新しい艦娘が着任するのよね。」
提督「ああ、そうだよ。」
暁「明日の朝ごはんはその子と一緒に食べるの?」
提督「うーん。二人が我慢できればそうしたいんだけど。」
響「私はいいよ。」
暁「私も我慢できるわ。」
提督「それじゃあ、新しい艦娘と一緒にご飯を食べようか。」
暁「うん。」
響「わかった。」
提督、暁、響「ごちそうさまでした。」
提督「さて。私は食器を洗ってしまうから、二人は自由にしてていいよ。ただ、どこに行くかは言っておいてね。」
暁「じゃあ、娯楽室を見たいんだけど。」
提督「ああ、いいよ。道はわかるね。」
暁「うん。じゃあ響、いきましょ。」
提督「暁、響。いるかい?」
暁「あっ。司令官。ここってこんなにゲームあったの?」
提督「ああ。そうだよ。何か気になるものはあった?」
響「これ。」
提督「人生ゲームか。本当はもうちょっと人数がいたほうがいいけど、やってみる?」
暁「うん。」
響「やりたい。」
提督「そうか。じゃあルールだけど、これはすごろくみたいなものなんだ。ただ、すごろくと違って、ゴールした順番じゃなく、ゴールするまでに稼いだお金を競うんだ。」
響「お金?」
提督「うん。ほら、このマスを見てごらん。」
響「飼い犬がテレビ出演。$5,000もらう。」
提督「こんな風に、止まったマスによってお金が増えたりするんだ。でも・・・」
暁「あっ。見て!こっちのマスには$2,000はらう、って書いてあるわ。」
提督「そう。そんな風にお金が減るマスもあるから、注意が必要だね。」
提督「ともかく、一回やってみようか。」
暁「結婚?このゲーム、結婚もするの?」
提督「ああ、そうだよ。」
暁「ふうん。」
響「そういえば司令官は結婚はしないのかい?」
提督「ああ。結婚するにしてはまだ若いし、相手もいないからね。」
響「じゃあ、私が大きくなったら結婚してあげる。」
暁「ずるいわ響!司令官、私も大きくなったら司令官と結婚する!」
提督「ははは。二人ともありがとう。」
提督「ともかく暁、ゲームの中での結婚を早くしちゃおうか。」
暁「そうだったわ。ええと・・・」
暁「ゴール。一番は響。二番は私で司令官は三番ね。」
提督「まさか最後の最後で宇宙旅行に行くとはなあ。」
響「でも司令官、あの$250,000を払ってなければ一番じゃないか。」
暁「そうよね。やっぱり、司令官はすごいわ。」
提督「ははは。ありがとう。」
提督「それでどうかな。二人とも、楽しめた?」
響「うん。明日もやりたいな。」
暁「いいわね!新しい子も一緒にやりましょう。」
提督「明日の晩御飯は妖精さんを招待するから、明後日にしたら?」
暁「じゃあ、明日の昼間にやるのは?」
提督「二人がちゃんと勉強を終わらせたらそうしようか。」
暁「わかったわ!響もいいわよね?」
響「ふぁぁ…。うん…。」
提督「もう眠いみたいだね。じゃあ、寝室に行こうか。」
暁「司令官、一緒に寝てくれるのよね。」
提督「ああ。ただ、今日は私だけ違う布団にしようか。」
暁「ちゃんと同じ部屋で寝てくれないと嫌だからね?」
提督「ああ。大丈夫だよ。さあ、響も眠そうだし、執務室に向かおう。」
暁「司令官、おやすみなさい。」
響「・・・おやすみなさい。」
提督「ああ、おやすみ。」
暁「司令官、手を握っててくれない?」
提督「ああ、いいよ。・・・これで眠れそう?」
暁「うん。ありがとう。」
暁「司令官、おはよう!」
響「おはよう。」
提督「ああ・・・暁。響も。早いな。」
暁「今日は新しい艦娘が着任するんだもの。寝坊なんてしてられないわ!」
提督「そうか。それじゃ、ドックに行こうか。」
妖精さん「あら。提督さん。おはようございます。」
提督「おはようございます。」
暁「おはようございます!」
響「おはようございます。」
妖精さん「あら、暁ちゃんに響ちゃん。おはよう。」
妖精(工廠)「みなさん、新しい艦娘のお迎えですか?」
提督「ええ。」
妖精(工廠)「ではご案内します。こちらへどうぞ。」
妖精(工廠)「さて、一隻目はこちらです。」
暁「なにこれ。艤装・・・?」
妖精(工廠)「ええ。暁の艤装です。」
暁「どういうこと?私の艤装は私の部屋にあるはずだけど。」
妖精(工廠)「ですから、こちらは新しく建造された暁です。」
提督「二隻目以降は艤装だけが建造される、ということですか?」
妖精(工廠)「ええ。艦娘とは、艦の魂が人の形になったもの。そして、その魂は一つの鎮守府につき一つ。つまり、この鎮守府には暁や響がもう一人増える、ということはないのです。」
妖精(工廠)「そんな中、暁が建造されると、今回のように魂の宿らない、艤装だけが建造される。というわけです。このような艤装は近代化改修に使用するか、解体して資材にするかしかないですね。」
響「ええと。よくわからなかったけど、私の妹が建造されるのはまだ先なのかな。」
提督「残念ながらそうだね。でも気を落とさないで。なるべく早く建造してもらうから。」
暁「そうよ。すぐに建造してもらえるから、後ちょっとだけ待ちましょ。」
妖精(工廠)「ごめんね。響ちゃん。次は必ずあなたの妹を建造するから。ね。」
響「うん・・・。ありがとう。」
響「・・・もう大丈夫。さあ、私たちのお姉さんを迎えに行こう。」
妖精(工廠)「さあ、こちらが二隻目になります。」
霧島「マイク音量大丈夫…?チェック、1、2……。よし。はじめまして、私、霧島です。」
提督「はじめまして。ここの提督です。」
暁「暁よ。よろしくね、霧島お姉ちゃん。」
響「響だよ。よろしく。霧島姉さん。」
霧島「お姉ちゃん?姉さん?・・・それから、海辺にしては空気がさわやかというか・・・」
提督「ああ、その辺のことは後でまとめて説明しよう。」
提督「そうだ。妖精(工廠)さん。ここの建造や日ごろのお礼として、妖精さんたちを今日の夕飯に招待したいのですが、お時間はありますか?」
妖精(工廠)「もちろん大丈夫です。・・・リーダー!提督さんから食事のお誘いだよー!」
妖精さん「もうっ!また私をからかって!提督さんが私を誘ってくださるわけないでしょ!」
提督「いえ、本当に食事のお誘いです。実は・・・」
妖精さん「・・・あら、そういうことでしたか…。私、勘違いしちゃいました。」
妖精(工廠)「リーダー、もしかして提督と二人っきりだと思った?」
妖精さん「っ!あなたはちょっと黙っていなさい!すみません提督さん。」
提督「いえ・・・。ああ、それで、妖精さんたちはどれくらい食べるのでしょうか。」
妖精さん「ええと、私たちは大体五人で普通の人の一人前くらいでしょうか。それで、妖精は今五十人いますので・・・」
提督「わかりました。それから、リクエストなどは・・・」
妖精さん「そんな、招待していただけるだけで十分です。」
提督「わかりました。それでは、メニューはこちらで決めさせていただきます。」
霧島「あの・・・」
提督「ああそうだ。霧島に色々と説明しなきゃか。それじゃ霧島、執務室に行こう。暁と響は・・・」
妖精さん「勉強なら、私が面倒を見ますよ。」
提督「すみません。では、二階の会議室でおねがいします。」
妖精さん「わかりました。それじゃ二人とも、行きましょう。」
提督「すみません。よろしくおねがいします。」
提督「さて霧島、私たちも行こうか。」
霧島「はい。」
提督「・・・というわけで、以上がここの現状だ。何か質問はあるかな。」
霧島「ええと、あの、駆逐艦の子達が着ていた服なんですが・・・」
提督「ああ、そうだった。霧島も色々と必要だな。よし、午後にでも買いに行こう。」
霧島「ああいえ、そういうわけではなく。制服は着なくて良いのですか?」
提督「ああ、いいぞ。」
霧島「そうですか。あ、あと、妖精さんの言っていた、勉強というのは・・・」
提督「ここの鎮守府にいる艦娘には読み書きや計算などを覚えてもらうんだ。もちろん、霧島にも覚えてもらうぞ。」
霧島「はい。わかりました。」
提督「まだわからないことはあるかな?」
霧島「いえ。もう大丈夫です。」
提督「そうか。じゃあ、暁と響を迎えに行って朝ごはんにしよう。」
提督「暁、響。朝ごはんにしよう。」
響「わかった。」
暁「やっとね。もうおなかペコペコよ。」
提督「妖精さんは朝食は済ませました?まだでしたら一緒にどうでしょう。」
妖精さん「では、お言葉に甘えて。」
提督、暁、響、霧島、妖精さん「いただきます。」
暁「司令官、ご飯のあとはみんなで遊ばない?」
提督「いいけど、今日の分の勉強が終わってからね。妖精さんにはどこまで見てもらった?」
暁「漢字は終わったわ。」
提督「そうか。じゃあ算数をしてから少し遊ぼうか。霧島、買い物はその後でいいかな。」
霧島「え、ええ。かまいませんよ。」
暁「買い物に行くの?」
提督「ああ。暁のときも、響のときも、着任した日に行っただろう?」
暁「私も行きたい!」
提督「う~ん。悪いけど、今回は二人にはお留守番をお願いしたいな。」
暁「え~!なんで~?」
妖精さん「まあまあ。暁ちゃん、今日はお留守番してましょ?」
暁「う~。」
響「司令官、私も行きたい。」
妖精さん「二人とも。あんまり提督さんを困らせないの。提督さん、この子達は私たちに任せてください。」
提督「すみません。よろしくお願いします。」
提督「さて。霧島、そろそろ行こうか。」
霧島「はい。・・・ですが、あの子達は置いていってしまってよろしいので?」
提督「まあ、三人も面倒は見れないしな。」
霧島「そうですか。」
提督「霧島は優しいな。これからも、あの子達のことを気にしてあげてくれ。」
霧島「そんな。私なんかじゃ力不足です。」
提督「そんなに身構えないで。できる範囲で、無理しないくらいでいいからさ。さあ、行こう。」
霧島「・・・」キラキラ
暁たちのときと同じように、霧島もまた目を輝かせている。やはり珍しいのだろう。ただ、フラフラといなくなったりはしなさそうだ。ともあれ、まずは服だ。暁たちのときは子供服でよかったが、霧島はそうは行かない。
提督「ええと、婦人服は・・・一階と二階か。」
霧島「あの、司令。私、服の選び方なんてわかりません。」
提督「私もわからないんだ。もう、店員さんに適当に見繕ってもらうとかでいいかな。」
霧島「はい。そのほうが助かります。」
店員「合計で・・・・・・円になります。」
霧島「えっ?そんなに?・・・あの、司令。やっぱり私、」
提督「気にしなくていいよ。」
霧島「でも、」
提督「いいから。さあ、食器を見に行って、」
霧島「?食器を見た後、どうするんです?」
提督「いや、あの、・・・下着を買わなきゃいけないなー、と。」
霧島「?それが何か?」
提督「いや、その間俺はどうすれば・・・」
霧島「そんなの、一緒に・・・っ!?」
霧島「あああの司令、その、えっと、今のナシです。えとえと、選ぶのは私が・・・いや、それじゃお会計のときに」
提督「ああ、ええと、そうだ!店員さんに袋に入れてもらって、それからお金を払えば!」
霧島「そうですね!そうしましょう!」
なぜこんなことに気がつかなかったのか。そうだ。暁や響と違い、霧島は子供ではないのだ・・・
提督「・・・もしかして霧島、その、下着って、・・・上も必要?」
霧島「・・・はい。その・・・実は、さっきから胸の先が服にこすれて痛くて・・・」
二人とも混乱していたためか、思い出してみるとかなり恥ずかしい会話をしていた。とにかく霧島に多めにお金を渡し、自分で買ってもらうことで、今回は何とかなったが、これ以降は艦娘の誰かに手伝ってもらおう。
提督「・・・無事に買えた?」
霧島「あ、はい・・・。その、何かすみませんでした。」
提督「いや、こちらこそ配慮が足りなかった。・・・ええと、あと、食器を買っておきたいんだけど、大丈夫?」
霧島「はい。なんとか・・・」
提督「それじゃ、四階に行こう。」
結局、気まずい空気のまま食器売り場に向かった。しかし、食器を見ているうちにさっきの恥ずかしさが薄れたのか、だんだんと気まずさは薄れていった。
霧島が選んだお茶碗は白地に赤の縞が入ったもので、箸は黒い木製のものだった。そしてやはり、マグカップは暁、響と同じ、イギリスのウサギだ。これを持ってきた時はさすがに恥ずかしかったようで、顔を赤らめながらはにかんでいた。
提督「さて、これで買い物は終わったけど、霧島は疲れた?」
霧島「少し疲れましたが、まだ大丈夫です。」
提督「それはよかった。晩御飯の材料を買っていこうと思うんだけど、一緒にメニューを考えてくれるかな。」
霧島「はい。私でよければ。」
提督「それじゃあお願いしようかな。妖精さんは一人で食べる量は少ないみたいだから、何品か用意して、自由に取ってもらおうと思ったんだけど。」
霧島「そうなると・・・中華ですか?」
提督「中華?」
霧島「ええ。大皿かみんなで食べるというと、中華のイメージだったのですが。ダメでした?」
提督「いや、名案だよ。中華にしよう。それで、霧島は食べたいものとかある?」
霧島「私ですか・・・。それでは、シュウマイが食べたいです。」
提督「シュウマイか。いいね。じゃあ、あと何品か用意しよう。」
霧島「あの、私、中華って言うとあと春巻きとか麻婆豆腐しか思いつかないんですが・・・」
提督「いや、もうそれでいいんじゃないかな。後は適当に野菜を摂ればいいかな。」
霧島「いいんですか?私、建造されたばかりで何も知らないんですが。」
提督「いや、いいよ。私も中華についての知識はほとんどないから。」
そうして材料を買って帰る途中、妖精さんの分の食器がないことに気づいた。仕方がないから、食器は持参してもらおう。
提督「さて、私は晩御飯の準備をしておくから、霧島は少し休んでて。」
霧島「いえ、私も手伝います。別に疲れているというわけでもありませんから。」
提督「そうか。それじゃ、手伝ってもらおうか。」
霧島「はい。何なりとお申し付けください。」
提督「でも、料理を手伝ってもらうのは危ないから、暁たちを見ててもらえるかな。」
霧島「わかりました。」
暁「あっ。霧島お姉ちゃん。今帰ってきたの?」
響「おかえり。何を買ってきたの?」
霧島「ただいま。あなたたちと同じで、食器と服、それから・・・下着よ。」
そう言った途端、あのことが思い出され、頬が熱くなる。二人に悟られないといいのだけれど。
妖精さん「二人とも。麦茶持ってきたわよ。・・・あら。霧島さん、お帰りなさい。どうかした?少し顔が赤いみたいだけど。」
妖精さんに見抜かれてしまった。しかし、なんとなくこの子達の前では話しづらい。
霧島「いえ、何でもありません。」
妖精さん「なんでもないってことはないでしょう。ちょっと熱を測って来ましょう。二人はここで待っててね。」
妖精さん「さて、ここなら話せるかしら。それで、何があったの?」
霧島「それが、私の下着を買うときなのですが、・・・・・・ということがありまして。」
妖精さん「そうなの。あの提督さんが。あの人はもっと慎重な人かと思ってたわ。」
霧島「いえ、司令は悪くありません。悪いのは私です。」
妖精さん「ああ、ごめんなさい。非難するつもりはなかったの。ただ、意外だなと思っただけで。」
霧島「そうなのですか?」
妖精さん「もちろん。あの人は自分のことよりも先に艦娘の心配をするような人よ?それに、私たちのような妖精にまで気をかけてくれるし、今日なんて晩御飯に招待してくれるなんて。もう、本当に素敵な人だわ。」
霧島「あの・・・妖精さん?」
妖精さん「えっ?ああ、ごめんなさい。とにかく、提督さんを非難することなんてないんだから。」
霧島「それなら良かったです。・・・あっ!そうだ。大事なことを伝え忘れていました。あの、今日の夕食には食器を持参していただけますか?」
妖精さん「ええ。他の子たちにも伝えておくわね。」
霧島「ありがとうございます。」
妖精さん「さて、そろそろ行きましょ。あの子達が退屈しちゃうわ。」
提督「みんな。そろそろご飯だよ。」
暁「わかったわ。」
妖精さん「あら。私たちはいつごろ行けばいいかしら。」
提督「いつでも食べ始められますので、今からでも大丈夫です。」
妖精さん「では、他の子たちも呼んできますね。」
提督「それでは皆さん、お好きな席にお着きください。また、食事はバイキング形式をとらせていただきます。中央のテーブルよりお好きな料理をおとりください。」
妖精1「暁ちゃん、一緒に食べましょ。」
妖精2「私も一緒に食べていいかしら。」
妖精3「響ちゃん、こっちのテーブルにおいでよ。」
妖精4「霧島ちゃん、もうこの世界には慣れた?」
艦娘たちの周りにはたくさんの妖精が集まっている。やはり、自分が建造に関わった艦娘に愛着がわくのだろうか。
妖精(工廠)「提督さん、こちらのテーブルにどうぞ。」
提督「私でいいんですか?」
妖精(工廠)「ええ。むしろ、提督じゃないと嫌だと・・・」
妖精さん「こらっ!またしょうもない嘘をついて。」
妖精(工廠)「でも、提督さんと一緒に食べたいんでしょ?」
妖精さん「そ、それは・・・」
妖精さん(工廠)「そういうわけですから提督さん、こちらのテーブルへ。」
提督「では、そうさせていただきます。」
妖精(工廠)「では、私はこれで。」
妖精さん「待ちなさい。あなたは幹部でしょう。こっちのテーブルにいなさい。」
提督「幹部?」
妖精さん「ええ。工廠と入渠をとりまとめる妖精が一人ずついるのです。今日は提督にご挨拶をと思いまして。」
妖精(入渠)「すみません。ちょっと遅れましたか?」
妖精さん「遅すぎよ。提督さんを待たせてしまったじゃない。」
妖精(工廠)「我らがリーダーは提督さんが絡むと怖いんだから、気をつけなきゃ。」
妖精(入渠)「ほんとにね。」
妖精さん「もうっ!いいから提督さんに挨拶しなさい。」
妖精(工廠)「工廠を仕切らせてもらってます。妖精(工廠)です。」
妖精(入渠)「同じく、入渠を仕切る妖精(入渠)です。」
提督「ここの提督です。どうぞよろしくお願いします。」
妖精(入渠)「話の通り、腰の低い人ね。」
妖精(工廠)「でしょでしょ!いつもリーダーが話してるのは全部本当なんだって。」
妖精(入渠)「そうみたいね。それだと、わたしの出番はないかしら。」
提督「話の通りとは?」
妖精(工廠)「ウチのリーダーったら暇があれば提督の話をするんですよ。」
妖精さん「っ!もうあなたたちは料理を見てきなさい。」
妖精さん「提督さん、お騒がせしてすみません。」
提督「いえ、気にしてませんから。でも、すごい人を幹部にしましたね。」
妖精さん「いえ、最初にうちにいた中であの二人の性格が飛びぬけて目立っていて。それで、あの二人を中心に皆が動くようになってしまったんです。」
提督「そうでしたか。ところで、あなたはなぜリーダーと呼ばれているのですか?」
妖精(工廠)「それはね。リーダーが唯一私たちに言うことを聞かせられるからだよ。」
妖精さん「この子達はかなり強く言わないということを聞かないんです。それで、他の妖精ではそんなことはできないので、唯一強くいえる私がリーダーと言われるように・・・」
妖精(入渠)「それだけじゃなくて、リーダーは私たちのことをよく考えてくれてるんだ~。疲れている子がいれば休ませるし、疲れてない子でも連続で三時間以上働かせることはないよ~。」
いつの間にか、料理を取りに行った幹部二人が帰ってきて、交互に妖精さんを褒めている。こうして褒められているところを見ると、妖精さんはかなり好かれているのだろう。普段妖精(工廠)が妖精さんをからかっているのも、その好意の表れなのか。
妖精(工廠)「そうそう。ウチのリーダーはすごいんだ。周りに気配りもできるし、艦娘や部下の面倒もよくみるし、思いやりもあるし。」
妖精さん「あなたたち・・・」
妖精(工廠)「だから提督さん、結婚するならリーダーだよ。」
妖精さん「!?」
妖精(工廠)「それに、ウチのリーダーは誰よりも提督が・・・」
妖精さん「ああああなた、何を言って・・・!」
妖精さん「す、すみません提督さん。私も料理とってきます。・・・ほら、あなたも行くわよ!」
提督「・・・大変そうだなあ。」
妖精(入渠)「見ての通り、リーダーはあんな感じで、なかなか休めないんだ~。だから提督さん、たまにあの人の話を聞いてあげてね~。」
提督「あなたが聞くのではだめなのですか?」
妖精(入渠)「やっぱり、提督さんじゃなきゃ。リーダー、私たちの前では弱音をはかないから~。」
提督「まあ、わかりました。いつでもとまではいえませんが、できる限りやってみます。・・・ところで、入渠について質問が・・・」
妖精(入渠)「はい?」
提督「入渠って、どこまでを治せるのでしょう?例えば艦娘が風邪を引いたら、入渠で治せるんでしょうか。」
妖精(入渠)「ん~。それは無理ですね~。入渠で治せるのは外傷だけで、心身の病気は治せませんよ~。もっとも、艦娘は風邪を引いたりは滅多にしませんけど~。」
提督「なるほど。わかりました。」
妖精(入渠)「あなたは、本当に面白いですね~。そんな質問をする提督なんてはじめてですよ~。」
妖精さん「先ほどは失礼しました。・・・妖精(入渠)、提督さんと何を話してたの?」
妖精(入渠)「そんなに怖い顔をしなくても、提督さんをとったりしないわよ~。ただ、入渠の話をしてただけ~。あと、時々リーダーと話してもらえるよう提督さんにお願いしておいたわよ~。」
妖精さん「なっ・・・!あなたはまた・・・」
提督「私でよければ相手になりますので、話したくなりましたらいらしてください。」
妖精さん「・・・ありがとうございます。」
妖精さんたちとの話が一段落して、しばらくしたころ。大方のテーブルでは食事が終わり、艦娘と妖精との雑談が交わされている。もう食事はいいだろう。折を見て終了としよう。
提督「皆様、本日の会食はこれにて終了とさせていただきます。ここには図書室、娯楽室などもありますので、どうぞそちらでおくつろぎください。」
妖精A「娯楽室あるの?響ちゃん、一緒にあそばない?」
妖精B「暁ちゃん、私にゲーム教えてくれない?」
妖精C「あ、私もお願い。」
妖精D「霧島ちゃん、娯楽室まで案内してくれない?その後一緒に遊んでくれるとうれしいな。」
ここでもやはり、艦娘の周りに人だかりができる。・・・今日くらいは、少し夜更かししても許してあげよう。
妖精さん「提督さん、片付けなら私も手伝います。」
提督「いえ!いつもお世話になっていますから、今日くらいは休んでいてください。」
妖精(工廠)「もう。提督は乙女心がわかってないな~。リーダーは提督と一緒に居たいんだよ。」
妖精さん「こら!私のことはともかく、提督に何てこと言うの!すぐに謝りなさい!」
提督「いえ、どうかお気になさらず。」
妖精さん「すみません提督さん。」
提督「・・・その、まだ気が変わっていなければ少し手伝っていただけますか?」
妖精さん「・・・、はい。」
妖精(工廠)「それじゃ、私たちは娯楽室行ってるね。」
妖精(入渠)「提督さん、リーダーのこと、よろしくお願いします。」
提督「そういえば。妖精さんたちは普段どこで生活しているのですか?」
妖精さん「基本的にはドックに居ますね。あそこは妖精が生活するのに必要なものは全て揃っていますし。」
提督「そうなんですか。では、入渠用と建造用で分かれて住んでいるのですか?」
妖精さん「普通はそうなんでしょうが。提督さんのおかげで、入渠用のドックには住まずに居られます。」
提督「やっぱり、入渠にいるのは嫌ですか。」
妖精さん「それはそうですよ。誰だって、怪我をして辛そうにしている艦娘を診るより、艦娘の誕生に立ち会うほうがうれしいに決まっています。」
提督「まあ、そうですよね。私も、あの子達を自分の娘のように思っていますから、あの子たちが傷つくのは見たくありません。」
妖精さん「私もそうです。みんな、いい子達で。本当は、出撃なんてしないで、ずっとここにいて欲しいです。」
妖精さん「あっ、すみません。こんなこと言っちゃって。」
提督「いえ・・・。」
妖精さん「・・・さあ!早く片付けを終わらせて、娯楽室に行きましょう。実は私、娯楽室に行ってみたいと思ってたんです!」
提督「そ、そうですね!じゃあ、急いで片付けましょう!」
そんな風に、無理に声を出して、努めて明るく振舞う。出撃の問題から目を背けるために。きっと、妖精さんも同じ気持ちなのだろう。
提督「さて。これで終わりました。娯楽室へ向かいましょうか。」
妖精さん「はい。」
霧島「ああ。司令。片づけを手伝えず、すみませんでした。・・・それと一つ、お話が。」
提督「ああ、気にしなくていいよ。いまは妖精さんたちと仲良くなってもらいたいし。それより、用件は?」
霧島「はい。今日のお風呂なのですが、」
提督「ああ、霧島は風呂の入り方わからないか。ええと、でも、私と一緒は恥ずかしいよね。」
霧島「・・・はい。それで、今日は妖精さんたちが一緒に入ってくれるそうで。」
提督「それはいいな。いっその事、今日は妖精さんたちにもここの風呂を使ってもらおう。」
妖精さん「いいのですか?」
提督「ええ。もちろん、迷惑でなければ。ですが。」
妖精さん「ありがとうございます。みんなには私から言っておきます。」
提督「それから、宿舎も余っているので、こちらに泊まりたい方がいれば開放しましょう。」
その後、しばらく遊んだ後、みんなは風呂に行った。私は、執務室の隣に付けられた風呂に入るとしよう。
暁「司令官・・・、そろそろ、寝たいわ・・・ふぁぁ。」
響「・・・・・・、!。・・・」コクリコクリ
二人とも、もう限界のようだ。
提督「それじゃあ、そろそろ寝ようか。霧島も、寝室に行こう。」
霧島「はい・・・。」
戦艦でも、夜は苦手らしい。
提督「それじゃ三人とも、おやすみなさい。」
暁、霧島、響「おやすみなさい。」
霧島「おはようございます、司令。」
提督「おはよう。・・・と言っても、もう九時だけど。」
霧島「すみません。寝坊してしまいました。」
提督「いや、昨日は遅くまで起きていたんだから仕方がないさ。さあ、暁と響を起こして朝ごはんにしよう。」
暁、霧島、響、提督「ごちそうさまでした。」
暁「司令官、今日の勉強はいつから?」
提督「そうだな。午前中に終わらせようか。」
暁「わかったわ。」
響「司令官、その、私の妹は・・・」
提督「ああ、響の妹を建造してもらわないとだな。今日の午後にでも工廠に行こうか。」
響「うん。」
提督「じゃあ、みんなは先に教室に行ってて。私は片付けを終わらせていくから。」
霧島「あの、司令。」
提督「ああ、霧島は勉強するの初めてか。じゃあ、いくつか教えることがあるから、ちょっと残ってくれるかな。」
提督「さてざっと説明は終わったけど。何か質問はあるかな。」
霧島「では、一つだけいいですか?」
提督「ああ、いいよ。」
霧島「訓練はいつするのですか?わたし、ここに来てからほとんど水に触っていないのですが。」
提督「そういえばそうか。プールもあることだし、訓練をしてみてもいいね。」
霧島「え?今まで、訓練はしていなかったのですか?」
提督「ああ。ここの建物ができてから、まだ日が浅いし。」
霧島「そうなんですか。」
提督「とにかく、訓練がしたいんだったら、妖精さんと話し合っておくよ。さあ、私たちも教室に行こう。」
妖精さん「あら提督さん。おはようございます。」
提督「おはようございます。すみません。また面倒を見てもらっていたようで。」
妖精さん「いえ。私も好きでやっていることですから。」
暁「妖精さん、ここなんだけど・・・」
響「妖精さん、私も。」
提督「響のは私が見よう。響、おいで。」
響「うん。ここの式なんだけど・・・」
提督「さて。勉強はここまでにしよう。」
暁「んーーー。疲れたわ。」
妖精さん「暁ちゃんが今日やったのはかなり難しいところだからね。」
響「司令官、工廠に行こうよ。」
提督「今は妖精さん達もお昼を食べてるころだと思うから、お昼の後にしよう。」
提督「霧島。今日の感想はどう?」
霧島「はい。司令がわかりやすく教えてくださったので、楽しかったです。」
提督「それは良かった。分量はどう?多すぎたりした?」
霧島「いえ、特にそんなことは。ただ、ちょっと手が疲れましたね。」
提督「そうか。じゃあ、明日の量を少し減らそう。」
提督「そうだ。妖精さん、お昼はどうします?」
妖精さん「いえ、特に決めていませんが・・・」
暁「じゃあ一緒に食べましょ!いいわよね、司令官。」
提督「もちろん。」
妖精さん「じゃあすみませんが、ご一緒させていただきます。」
提督「さて、お昼も終わったことだし、響、工廠に行こうか。」
暁「私も行く!」
霧島「では、私も。」
提督「じゃあ、みんなで行こうか。」
提督「こんにちは。」
妖精(工廠)「やあ提督。建造かな?」
提督「ええ。このレシピでお願いします。」
妖精(工廠)「これでいいの?もっと資材使ったほうが大きな艦が出やすいよ?」
響「大きな艦じゃ、私の妹にならないから。」
妖精(工廠)「なるほど。それじゃあ一気に二隻とか建造しちゃう?」
提督「そうですね。では、二隻でお願いします。」
妖精1「お話終わりました?」
提督「ええ。」
妖精1「じゃあ、建造を待っている間、艦娘達と話しててもいいですか?」
提督「もちろんです。」
言うや否や、艦娘達の周りに妖精さんたちが集まる。艦娘と妖精さんたちとの交流の場を設けたほうがよさそうだ。
妖精1「じゃあ、今日は響ちゃんの妹を建造してもらいに来たの?」
響「うん。このまえは、うまくいかなかったから。」
妖精2「そうだったの。でも、おかげで今日は妹が二人もできるね。」
響「でも、また艤装だけができるかも・・・」
妖精3「大丈夫よ。私達、がんばるから。」
暁「そうよ響。心配してても仕方ないわ。アンズルヨリウムガヤスシ、よ。」
妖精4「あら、暁ちゃんは難しい言葉を知ってるのね。」
暁「当然よ!毎日、司令官に勉強を教わってるんだから。」
妖精2「すごいわね~。」
妖精3「ところで霧島ちゃん、昨日はよく眠れた?」
霧島「はい。この子達や司令と一緒の部屋だったので。」
妖精3「それは良かったわ。建造されたばかりだと夜とか不安な子が多いから。」
妖精(工廠)「お~い。建造終わったよ~。」
響「!」タタタ
暁「あっ響!走らないの!」
提督「やあ、来たね。じゃあ、あけてもらうよ。」
響「うん。」
雷「いかずちよ!かみなりじゃないわ!そこのとこもよろしく頼むわねっ!」
電「電です。どうか、よろしくお願いいたします。」
提督「私がこの鎮守府の提督だ。よろしく。」
暁「私は暁。あなた達のお姉さんよ。よろしくね。」
響「私もお姉さん。名前は響だよ。よろしく。」
霧島「霧島です。どうぞよろしくお願いします。」
提督「二人とも、まずは鎮守府の中を案内したいんだけど、いいかな。」
雷「いいわよ。」
電「はいなのです。」
雷「ところで司令官。私と電とではどっちがお姉さんなの?」
提督「気になる?」
雷「うん。といっても、私がお姉さんに決まってるけどね。」
電「雷ちゃん、ずるいのです。私もお姉さんがいいのです。」
提督「う~ん。実は、二人とも同時に建造されたから、どっちがお姉さんとか、そういうのは決まってないんだよ。」
雷「え~!じゃあ、司令官が決めてよ!」
提督「そうだなあ・・・。双子、っていうのはどうかな。」
雷「むー。それじゃあ、どっちがお姉さんか分からないじゃない!」
電「そうなのです!ハッキリして欲しいのです!」
暁「二人とも、いい加減にしなさい!司令官が困ってるじゃない。」
雷「でも・・・」
暁「でもじゃない!それに、そうやってムキになってちゃお姉さんとは言えないわよ!」
響「そうだよ。さあ、分かったら鎮守府を見に行こう。」
雷の質問に答えあぐねていると、暁たちが助けてくれた。二人とも、ずいぶんとお姉さんらしくなっている。百貨店で迷子になって泣いていたのがつい昨日のことのように思えるが、内面ではその頃から大分成長したようだ。
提督「二人ともありがとう。助かったよ。」ナデナデ
暁「えへへへ。このくらい、どうってことないわよ。」
響「ハラショー。」
雷「お姉ちゃんたちずるーい!司令官、私も頭なでてー!」
電「電も、なでて欲しいのです。」
提督「分かった分かった。」ナデナデ
雷「えへへー。」
電「気持ちいいのです。」
暁「しれーかーん、私達はー?」
提督「あとでなでてあげるから。」
霧島「あ、あの、司令官。その、私も・・・」
提督「ああ、そうだね。気づいてあげられなくてごめんね。」ナデナデ
霧島「あ、ありがとうございます。・・・気持ちいい・・・」
妖精(工廠)「提督ー。私とリーダーもお願いー。」
妖精さん「はぁっ!?ちょ、ちょっと、何いってるの。提督さんに迷惑でしょ。」
妖精(工廠)「えー。でも、霧島ちゃん、本当に気持ちよさそうだよ。それとも、リーダーはやめとく?」
妖精さん「う・・・。すみません提督さん。お願いします。」
提督「分かりました。」ナデナデ
妖精(工廠)「なるほどー。確かにこれは気持ちいいね。」
妖精さん「ふぅ・・・。・・・・・・ずっとこのままいられればいいのに。」
暁「司令官、次は私の番よ。」
結局、このまましばらくみんなの頭をなでつづけ、鎮守府の案内が終わったのは二人の建造から二時間くらい経ってからだった。その後、雷、電をつれて百貨店に行き、二人の日用品などを買った。二人とも好みが似ているらしく、パジャマとお茶碗、箸は色違いでおそろいのものを選んでいた。ただ、マグカップはどちらから言い出すということもなく、暁たちのと同じウサギのマグカップを手に取った。
提督「そうだ。二人は晩御飯に食べたいものはある?」
雷「オムライスを食べてみたいわ。」
電「暁お姉ちゃんのいってた、スパゲッティが気になるのです。」
雷「むぅ~。電、今日はオムライスよ!」
電「スパゲッティがいいのです!」
雷「オムライス!」
電「スパゲッティ!なのです!」
提督「ははは。それじゃあ、両方にしようか。」
雷「それなら文句ないわ!」
電「いいのですか?」
提督「まあ、今日は二人の誕生日だからね。でも、これからは自分のことだけじゃなくて、相手のことも考えるんだよ。」
雷「わかったわ。」
電「はいなのです。」
提督、雷、電「ただいま~。」
霧島、妖精さん「お帰りなさい。」
暁、響「おかえり~。」
提督「すみません妖精さん、また三人を見てもらってたようで。」
妖精さん「いえ。昼は迷惑をおかけしましたし。それに、他にやることもありませんから。」
雷「そうだ!妖精さん、一緒に食べましょ!」
妖精さん「いえ!晩御飯までご馳走になるわけには・・・」
電「どうしてもダメですか?」
暁「だれも気にしないわよ。一緒に食べましょう。」
雷「それに、今日はオムライスとスパゲッティの二本立てよ!今日食べなきゃ損するわ。」
提督「この子達もこう言っていますし、ご迷惑でなければ一緒にどうですか?」
妖精さん「では、お言葉に甘えさせていただきます。ですが、せめて料理の手伝いだけでもさせてください。」
提督「わかりました。それでは、食堂までお願いします。」
提督「ご飯になるまで、みんなは遊んでていいよ。」
妖精さん「提督さん、スパゲッティの味付けはどうします?」
提督「たらこでいいかと思ってたんですが、他に案はありますか?」
妖精さん「いえ、あの子達もたらこが好きなようなので、たらこがいいと思います。」
提督「ところで妖精さん、これから食事のたびに妖精さんたちを招いたら、迷惑でしょうか。」
妖精さん「いえ、迷惑どころか、ウチの子達は喜ぶと思います。でも、急にどうしたんです?」
提督「いえ、妖精さんたちは艦娘と一緒にいるのが好きなようなので、艦娘との交流の場を設けようと思いまして。それで、食事のたびに五人くらいなら無理なく招待できるかなと。」
妖精さん「ありがとうございます。では、帰ったら皆に話しておきましょう。」
提督「そうしてくれると助かります。それともう一つ。」
妖精さん「何でしょう。」
提督「霧島が、訓練をしたいそうなのですが、いつごろからなら訓練は始められるでしょうか。」
妖精さん「そうですね・・・。一応、プールは温水プールですが、風邪を引くといけないので、もう少し温かくなってからにしましょう。」
提督「やっぱりそうですよね。では、来月に入って、気温が二十五度を超えた日にでも。」
妖精さん「はい。それがいいと思います。」
一同「ごちそうさまでした。」
提督「さて、片付けはやっておくから、皆はお風呂に入っちゃいなさい。」
暁「でも、提督が来てくれないと、洗えないわ。」
提督「それもそうか。それじゃあ・・・」
霧島「あの、提督・・・」
提督「そうか、霧島は恥ずかしいよな。」
妖精さん「それでしたら提督、これからは艦娘のお風呂は私達、妖精が担当しましょうか。」
提督「そうしていただけると助かりますが、いいのですか?」
妖精さん「ええ。提督にはずいぶん良くしてもらってますから。それくらいのお手伝いはしますよ。」
提督「それじゃあ、お願いします。」
プルルルルルルル・・・・・・
提督「はい、東松山鎮守府です。」
大島「もしもし、大島です。」
提督「大島さん。どうしました?私用での電話なんて。」
大島「ええ。早急にお伝えしたいことがありましてこの電話、聞かれる恐れはあります?」
提督「いえ。周りには誰もいませんし、盗聴の恐れもありません。」
大島「それは良かった。・・・本題に入りますが、近々、そちらに何者かが視察に行きます。」
提督「視察?それならたいていの鎮守府にはありますし、心配はないかと。」
大島「それがどうも、今回は毛色が違うようで。」
大島「まず、私の会社に電話があったんです。視察に行くので、東松山鎮守府の場所を教えてくれ、と。」
提督「それは変ですね。大本営ならそんなことは知っているはずだ。」
大島「ええ。私もそう思ったので、そんなことはできない、と答えたんです。その時はそれで済んだのですが、後日、その電話の主がやってきまして。身分証明書を持ってきて、自分は士官学校の教官で、教え子の鎮守府を視察に行きたいから、住所を教えろと言ってきたそうです。」
提督「その人、白髪の老人じゃありませんでしたか?」
大島「それが、私は直接会っていないので分からないんです。ただ、電話の声はしわがれて、威圧するような声でしたね。」
提督「それ、たぶん私のいたところの教官です。」
大島「それなら、どうして直接大本営に聞かなかったんでしょう。」
提督「大本営に聞く場合、視察の旨を伝えて、こちらに大本営からの連絡が入ってから視察となるんです。」
大島「普通なら、それでいいでしょうに。」
提督「それでは都合が悪いのでしょう。おそらくその視察は、私に難癖を付けるためのものでしょうから。抜き打ちでなければ意味がありません。」
大島「ということは、その人が提督さんと対立していた?」
提督「その一人です。」
提督「ともあれ、ご連絡ありがとうございました。」
大島「いえ。この件で新たに情報が入りましたら、連絡します。」
提督「ありがとうございます。」
大島「それから、今回は運よく情報をつかめましたが、毎回そううまくいくとは限りませんので、お気をつけて。」
提督「はい。気をつけておきます。それでは。」
大島「では、失礼します。」
提督「妖精さん、今、時間ありますか?」
妖精さん「ええ。お風呂も終わりましたし。なにか御用ですか?」
提督「ええ。ひとまず、執務室のほうでお話しします。」
提督「・・・というわけなんです。」
妖精さん「なるほど。教官の、提督さんと対立していた人が粗探しに来る、と。」
提督「そうです。一番の問題は、そいつが艦娘のことを兵器としか見ないクズなんです。学生時代は捨て艦戦法を勧められました。」
妖精さん「どうしてそんなのを野放しにしておくんです!大体、捨て艦戦法なんてたいした利益はないし、そもそも大本営も避けるように言っているでしょう!」
提督「そうなんですが、学校は結構、年功序列の社会ですから、あの老害にはだれも強く言えないのです。」
妖精さん「そんな・・・」
コンコン
暁「司令官、いるかしら。・・・お話中だった?ごめんなさい。」
提督「いや、気にしないで。それより、なにか用かな。」
暁「うん。そろそろ寝たいんだけど。」
提督「そうか。もう大分遅いね。じゃあ、寝室に行こうか。」
提督「妖精さん、すみませんが、話の続きは明日でもよろしいでしょうか。」
妖精さん「わかりました。それじゃ、暁ちゃん。おやすみ。」
暁「うん。おやすみなさい。」
提督「みんな起きろ~朝ごはんだぞ~。」
暁「ふぁぁ。・・・おはよう、司令官。」
響「おはよう。」
雷「おはよう司令官!」
電「・・・・・・おはようなのです。」
霧島「おはようございます、司令。」
一同「いただきます。」
提督「みんな、今日は一日休みにしようと思うんだ。」
暁「休み?勉強はしないってこと?」
雷「それじゃ、ずっと司令官と一緒にいられるのね!」
提督「いや、悪いけど、それはできないんだ。」
雷「なんで?さっきは休みって言ってたじゃない。」
提督「それはそうなんだけど、ちょっと妖精さんと話をしなきゃいけなくてね。」
雷「なによそれ!妖精さんばっかりずるいわ!」
暁「コラ雷、あんまり司令官に迷惑かけないの!司令官にも考えがあってのことなんだから。そうよね、司令官?」
提督「ああ、その通りだ。まあ、話が終わったら一緒にいられるから。」
雷「ホントね?絶対よ!」
提督「ああ。絶対だ。」
霧島「あの、提督、訓練の件なのですが・・・」
提督「ああ、それなんだけど、訓練は万が一のことを考えて、もっと暖かくなってからだ。風邪でもひいたら大変だからな。」
提督「ただ、基礎体力作りは早めに始めようと思ってる。」
霧島「そうですか。催促してしまったようで、すみません。」
提督「いや、気にしなくていいよ。」
提督「妖精さん、今時間ありますか?昨日の話の続きをしたいのですが。」
妖精さん「ええ。いいですよ。場所は執務室ですか?」
提督「ええ。そのつもりです。」
妖精(工廠)「なになに?提督さん、デートのお誘い?」
妖精さん「・・・ちょうどよかった。あなた達も聞いておいて欲しいから、妖精(入渠)と一緒に執務室まできなさい。いいですよね?提督さん。」
提督「もちろん。というか、こちらから誘おうとしていたところです。」
妖精(工廠)「なにやらマジメな話みたいですね。分かりました。すぐに向かいますので、先に行っててください。」
提督「さて。集まりましたので、はじめましょうか。昨日話したことから改めてお話します。」
提督「・・・というわけです。」
妖精(工廠)「嫌なやつだね。ウチの艦娘には近づかないで欲しいな。」
提督「ええ。捨て艦戦法を勧めるほどの頭と性格の悪さです。ウチの艦娘に何を言うか、何をするか分かったものじゃありません。」
妖精(入渠)「そうですね。私達で協力すれば、人間の一人くらい『解体』してしまえるのですが・・・」
妖精さん「そんなことをすれば疑われるのは提督さんです。ややもすると免職なんてことも・・・」
妖精(工廠)「それは絶対に避けたいところだね。提督さんみたいな人はなかなかいないだろうし。」
妖精さん「それに、提督さんがいなくなったらあの子達は立ち直れないかもしれません。」
妖精さん「ここは、そいつを艦娘に近付けずに、なおかつ滞りなく視察を終える方法を考えるべきでしょう。」
提督「ええ。視察はされても全く問題はないので、あいつが来ないようにすれば解決なんですが。」
妖精(入渠)「それじゃあ、そいつを来させない策と、そいつが来たときの対策を考えておきましょう。」
提督「ええ。一応、対策のほうはいくつか考えてみました。こちらです。」
1、視察中、艦娘を鎮守府の外に避難させる
2、他の鎮守府から艦娘を呼び、艦娘が教官と会話する機会を減らす
3、鎮守府でイベントを開き、大勢の人を呼ぶことで、視察自体を行えなくする
妖精さん「なるほど。これなら被害は抑えられそうですね。」
妖精(入渠)「しかし、前もって視察の日が分からなければ実行は難しそうですね。」
妖精(工廠)「それに、実行に移せても、2と3は確実にあの子達を守れるわけじゃないよ。」
提督「そうなんですよ。それから、できることなら2はやりたくないですね。」
妖精さん「?」
提督「ほら、他の鎮守府から艦娘を呼ぶってことは、ある意味で、ウチの艦娘を守るために他の艦娘を盾にするって事じゃないですか。」
妖精さん「なるほど。では、1か3を活かすほうで考えましょう。」
妖精(工廠)「それじゃ、あの子達を遠征に出す、って言うのは?」
妖精さん「そうね。妖精の中から誰かについて行かせれば心配もないし。」
妖精(入渠)「でも、艦娘がいないんじゃあ、後日改めて、ってことにならないかしら。」
提督「それなら心配はありません。原則として、視察は年一回と決まっていますから。」
妖精さん「でも、向こうは正式な視察として来る訳じゃないですから、その原則は当てはまらないのでは?」
提督「いえ、事実の確認さえ取れれば、事前に申請していない視察も公式のものとして数えられます。ですから、一回だけ視察をしのげば、それから一年は安全です。」
妖精(入渠)「それじゃあ、あの子達は遠征に出す方向で・・・」
「」ガチャ
提督「っ!誰だ!?」
電「い、電なのです・・・ご、ごめ・・・なさ・・・ヒック・・・わた、わたし、しれ、かん、に・・・グスッ」
電「ふぇぇぇぇぇぇぇん」ダダッ
提督「あっ、電!・・・すみません。ちょっといってきます。」
妖精さん「私達もいきます。」
妖精1「あら、電ちゃん、どうしたの?怖いことでもあった?」
電「うわぁぁぁん」
妖精1「落ち着いて。何があったのか、話してごらん。」
電「・・・わた、し、司令官さんを、呼ぼうと、思って、・・・それで、執務室に、いって、・・・司令官さんが、誰だ、って・・・」
妖精「そっかそっか。司令官が怖かったんだね。」
電「」コクコク
妖精「大丈夫よ。大丈夫。きっと提督さん、急に来たから驚いちゃったのよ。」
電「で、でも、妖精さんたちも、怖い顔だったのです。」
提督「お~い、電~」
妖精「ほら。提督さんが探してるわよ。」
電「でも、」
妖精「お姉さんもついていってあげるから、一緒にいきましょ。」
提督「ごめんね電。怖かったね。」
妖精さん「ごめんね。私達、大事なお話をしてたの。」
妖精「ほらいったでしょ。大丈夫よ。」
電「もう、司令官さん、こわくないです・・・?」
提督「うん。もう怖くないよ。」
電「電のこと、怒らないです?」
妖精(入渠)「怒るわけないじゃない~。」
妖精(工廠)「そうだよ。こんなにいい子を誰が怒るって言うんだい?」
電「・・・よかったのです。」
妖精「電ちゃん、お詫びに提督がお願いを聞いてくれるってよ。」
電「じゃぁ・・・だっこ、なのです。」
提督「だっこ?」
電「暁お姉ちゃんは抱っこしてもらったっていってたのです!お姉ちゃんばっかりずるいのです!」
提督「わかったわかった。・・・これでいいかな?」
電「なのです!このまま、娯楽室に行くのです!」
提督「わかった。」
電「妖精さん達も、なのです!」
妖精(入渠)「わかったわ~。」
妖精さん「ええ。あなた達も行きましょ。」
雷「あ~!電、司令官にだっこしてもらってる!司令官、次私ね!」
提督「ああ、またあとでね。」
暁「妖精さん達も来たのね。人生ゲームには多すぎるから、他のにしましょう。」
提督「それじゃあ、二人組みを5チームで、カタンをやろうか。ルールは後で説明するから、とりあえず5組に分かれよう。」
電「私は司令官とチームなのです!」
雷「ずるいわ!私も!」
提督「悪いけど雷、今回は電に譲ってくれないかな。」
雷「う~。じゃあ妖精(入渠)さん!一緒にやりましょ!」
妖精(入渠)「いいわよ~。がんばりましょうね。」
暁「私は妖精さん!」
妖精さん「ふふ。ありがと。」
妖精「私は霧島ちゃんとがいいな~。」
霧島「私でよければ。」
響「それじゃあ妖精(工廠)さん、よろしく。」
妖精(工廠)「おっ、私は響ちゃんとか。よろしく。」
提督「・・・とまあ、ルールはこんな感じだ。それから、今回は二人組を5組でやるけど、二人組みでなければならないってことはないよ。むしろ、普通は各々がバラバラでやるね。」
電「やったのです!私達が一番なのです!」
雷「むぅ~。ずるいわ電。司令官、めちゃくちゃ強いじゃない。司令官!次は私とやりましょ!」
暁「私も司令官とがいい!」
響「司令官、私と組むのはどうかな。」
霧島「あの、司令。あとで、私ともお願いします。」
妖精さん「こらこら。みんなして提督さんを困らせないの。」
妖精(工廠)「とかいって、ホントは提督さんと一緒になりたいんでしょ?」
妖精さん「ま、まあ、なりたくないわけじゃ・・・」
妖精(入渠)「なんか、一緒になる、って言うと結婚するみたいね。」
妖精さん「ちょっ・・・!な、何を言ってるの!そんなわけ・・・、あ、いや、違うんです提督さん。その、結婚したくないわけじゃ、・・・むしろ、ゴニョゴニョ・・・」
提督「あ、あははは・・・」
雷「ねー。しれーかーん、次はわたしとよねー?」
暁「だから違うって。次は私よ!」
プルルルルル・・・
提督「電話がかかってきたから、ちょっといってくるね。」
雷「あー。行っちゃった。」
響「ところで妖精さん、さっき言ってた、司令官と結婚したいっていうのは本当かい?」
雷「そんなこといってた?」
響「暁と雷が言い争ってる間に。」
電「電も聞いたのです!」
妖精さん「それは、その・・・」
妖精(工廠)「ほんとだよ。」
妖精さん「ちょっと・・・!」
妖精(入渠)「そうよ~。リーダーったら、提督さんにメロメロなんだから。」
妖精さん「あなたまで・・・」
雷「そーなの!?」
暁「でも、いいじゃない。おにあいよ!」
響「うん。司令官が他の人と結婚するところなんて想像できないしね。」
雷「あっ!司令官と妖精さんが結婚したら、私達は二人の子供かしら?」
電「なのです!司令官さんがお父さんで、妖精さんがお母さんなのです!」
妖精さん「ちょ、ちょっとそれは提督さんに迷惑じゃ・・・」
雷「大丈夫よ!きっと司令官も喜んでくれるわ!」
暁「そうよお母さん。」
電「お母さん、結婚式はいつにするのです?」
暁「そうだわ!結婚式のことを考えなきゃ!」
雷「そうね!まずウエディングケーキかしら。」
響「いや、まずは場所を決めなきゃ。」
暁「それはここでいいんじゃないかしら。」
電「それより、ドレスを決めるのです!」
妖精1「ねえねえ霧島ちゃん。霧島ちゃんは話に入らないの?もしかして、霧島ちゃんも結婚したかったとか?」
霧島「いえ、そういうわけでは。司令と妖精さんが両親になったらすばらしいと思います。ただ・・・」
妖精1「ただ?」
霧島「人と妖精は結婚できるのかな、と。」
妖精1「そんなの、愛さえあればどうとでもなるわ。」
霧島「そうでしょうか。」
妖精1「そうよ。」
霧島「あの、もう一ついいですか?」
妖精1「ええ。いいわよ。」
霧島「あの、妖精さんたちは結婚のこと、どう思ってるんですか?」
妖精1「もちろん、リーダーには幸せになって欲しいわ。リーダーはいつも私達や艦娘のことを考えてくれてるのよ。自分はいくら無理をしても、絶対に私達には負担をかけないようにするし。どんなに自分が疲れていても、明るく振舞って、私達に心配をかけないようにするの。」
霧島「それは、かなり大変なのでは?」
妖精1「ええ。そうよ。きっと、私達といる間、ずっと気を遣ってるんじゃないかしら。」
妖精1「でも、提督さんといる間、リーダーは私達の呪縛から解放されているみたい。だから、リーダーには少しでも長く提督さんといて欲しい。」
霧島「妖精さんが好きなんですね。」
妖精1「ええ。私達は、あなた達と同じくらいリーダーが好きよ。」
提督「ただいま。」
暁「あっ!お父さんだわ!」
提督「お父さん?」
雷「そうよ!妖精さんがお母さんで、司令官がお父さん。」
響「それから、私達が娘だよ。」
提督「そうかそうか。・・・妖精さんたち、ちょっといいですか?」
雷「えー!また仕事なの?」
提督「ちょっと話してくるだけだから。すぐに戻るよ。」
妖精さん「あの、なんだかすみませんでした。・・・提督さん?」
妖精(工廠)「提督、もしかして泣いてる?」
提督「すみません。ちょっと・・・」
妖精さん「あの、本当にすみません。ご迷惑でしたよね。」
提督「いえ、そんなことはありません。・・・ただ、感極まってしまって。」
妖精(工廠)「どういうこと?」
提督「暁を建造したときから、私は艦娘達の父親になりたかった。艦娘達を娘のように愛してきた。いつの日か、父親として認められたいと願いながら。それが今日、叶ったんです。あの子達が、『お父さん』と・・・。あの子達は、認めてくれてた・・・。」
妖精さん「私もです。あの子達にお母さんと呼ばれて、嬉しかった。お父さんが提督さんで、本当にうれしいです。私、死んでもいいです。」
妖精(工廠)(ちょっと、席をはずそうか。)
妖精(入渠)(そうね。少ししたらまたきましょう。)
妖精(工廠)「いやー意外だね。あの提督が涙を流すなんて。あの人、そんなタイプだなんて思わなかったな。」
妖精(入渠)「そうかしら。線の細い人って感じだったけれど。」
妖精(工廠)「いや、確かに外見はそんな感じだけどさ。でも、なんていうか、人前では弱さを見せないようにしてたっていうか。」
妖精(入渠)「まあ、それはあったかもしれないわね。」
妖精(工廠)「でしょ?だからさ、あの人が泣くのは意外だったんだよ。」
妖精(入渠)「でも、それは私達を信用してくれてるってことじゃない?」
妖精(工廠)「そっか。そうだね。」
妖精(工廠)「よーっし!そろそろ戻りますかー!」
妖精(入渠)「そうね。もういいでしょう。」
妖精(工廠)「提督ー!入るよー?」
提督「どうぞ。・・・すみません。気をつかわせてしまってみたいで。」
妖精(入渠)「いえいえ。お気になさらず。」
妖精(工廠)「それで。どこまでいったの?」
妖精さん「何もしてないわよ。・・・それより、話の続きをしましょ。」
妖精(工廠)「へ?話?」
提督「私から話をそらしてしまい、申し訳なかったのですが。さっきの電話で、視察に関して大島さんから連絡が。」
妖精(工廠)「それで?大島さんはなんて?」
提督「視察の日程を聞くという条件で、こちらの場所を教えたそうで。」
妖精(入渠)「でも、場所を教えたら抜き打ちでここにきちゃうんじゃない?」
提督「視察の当日、ここまで案内するということで手を打ったそうですから、心配はいりません。」
妖精さん「それで、その日程だけど、六月の五日になるみたい。」
妖精(入渠)「それじゃあ、その日にあの子達を遠征に出せばいいのね。」
提督「それなんですが、遠征ではなく演習に出すと言うのはどうでしょうか。遠征だと、午前中に出発すると午後には帰ってきてしまいますから。」
妖精(工廠)「確かに、その点では演習のほうがいいね。夜戦の演習をするなら相手方の鎮守府に一泊しても不思議じゃない。」
妖精(入渠)「問題は相手がいるかですね。」
提督「学生時代の友達をあたってみます。」
妖精(工廠)「それじゃあ、演習に出す方向で進めて、万が一のために遠征も準備しておく、ということでいこうか。」
提督「ええ。それでいきたいと思います。」
妖精さん「それでは、私達は演習についていく妖精を決めておきます。」
提督「よろしくお願いします。私は演習相手のほうを探しておきます。」
妖精(工廠)「二人とも、演習のことを決めるのはいいけどさ。とりあえず、娯楽室に戻らない?あの子達待ってるよ。」
提督「それもそうですね。それじゃあ、ひとまず娯楽室に戻りましょうか。」
雷「みんな遅いわよ!もう、二回戦始めちゃったわ。」
提督「ごめんね。ちょっと話が長引いちゃって。それじゃあ、私達は見ているとしようか。」
妖精(入渠)「そうね~。」
雷「お父さん、これが終わったら私とだからね!」
暁「だから、次は私って言ってるでしょ!」
響「ここは間を取って私なんかどうかな。」
提督「そうだな。それじゃあ、雷、響、暁の順でどうかな。」
暁「なんで私が最後なのよ!」
提督「誰と一緒にやるとしても、順番を決めなきゃいけないよね。」
暁「まあ、そうだけど・・・」
提督「そうなると、一番お姉さんの暁が我慢できるかな、って思って。どうかな。」
暁「そういうことなら仕方ないわね。私が一番お姉さんだから、我慢してあげるわ!」
提督「ありがとう。次に何かするときは、暁からにしようか。」
提督「さて。これで一回ずつ終わったね。ちょっと遅くなっちゃったけど、お昼にしようか。」
暁「もうそんな時間?」
雷「そういえば、おなか空いたわね!」
電「お昼は何なのです?」
提督「ああ、早く作れるし、うどんにしようかな。」
妖精さん「私も手伝います。」
響「お母さんも一緒に作るの?」
電「お母さんのお料理、楽しみなのです。」
妖精(工廠)「焦がしちゃわないように気をつけてねー。」
妖精(入渠)「それよりも、ものすごく甘くなっちゃわないかしら。」
妖精さん「二人とも、何言ってるの!」
電「お母さん、お料理は苦手なのです?」
妖精さん「そんなことないわ。ちゃんとおいしく作るから、大丈夫よ。」
妖精さん「さ、提督さん。行きましょう。」
一同「いただきます。」
妖精(工廠)「これは・・・けんちんうどん、かな?」
提督「多分そうだと思います。レシピだけで名前は覚えていませんが。」
妖精(工廠)「いや~。てっきり、ざるうどんだと思ってたから、ちょっとびっくりだ。」
妖精(入渠)「妖精(工廠)ちゃんの得意料理はざるうどんだもんね~。」
妖精さん「あなた、そんなのだから料理が上達しないのよ。」
妖精(工廠)「う、うるさいなぁ。別にいいじゃん。」
妖精さん「よくないわよ。ちゃんとしたもの食べないと体に悪いじゃない。」
妖精(工廠)「そんな面倒なことしてまで長生きするくらいなら、楽して短く生きるもん。」
電「妖精(工廠)さん、死んじゃうんですか・・・?」
妖精さん「このままの食生活を続けていたら、長生きはできないでしょうね。」
電「そんなの、嫌なのです!妖精(工廠)さん、電のご飯半分あげるから、長生きしてください!」
妖精(工廠)「わかった!長生きする!するから、なかないで!」
電「ほんとう、なのです?」
妖精(工廠)「うん!本当だよ!」
電「よかったのです!」
妖精(工廠)(こんな笑顔を向けられちゃ、とても逆らえないな。)
妖精(入渠)「あら~。それじゃ、私が料理教えてあげるわ~。電ちゃんは、自分のご飯は自分で食べようね。」
暁「響、ニンジン食べてくれない?」ヒソヒソ
提督「暁、嫌いでもちゃんと食べなさい。みんなよりニンジンは少なくしてあるから。」
暁「うぅ・・・。は~い・・・。」
一同「ごちそうさまでした。」
暁「お父さん、午後は何をするの?」
「まだ決めてないけど、少し仕事を片付けちゃおうかな。」
雷「え~。一緒に遊びましょうよ~。」
提督「そういうわけにもいかないんだ。」
電「むぅ~。お父さんは仕事ばっかりなのです。」
提督「そう言わないでくれ。なるべく早く終わらせるからさ。」
妖精さん「電ちゃん、提督さんが戻るまで、私達と遊ぼう?」
電「分かったのです。でも、本当に早く来てくれないと嫌なのです。」
提督「うん。終わったらすぐに行くよ。」
妖精(入渠)「それじゃあ、お昼の片付けは私達でやっておきましょうか。」
妖精(工廠)「そうだね。少しでも提督の仕事を減らそう。」
提督「すみません。よろしくお願いします。」
これで書類の仕事は片付いた。演習の件が片付いたら暁たちのところに戻ろう。
提督「もしもし。こちら東松山鎮守府の提督です。」
「はい、こちら市川鎮守府。」
提督「やあ、久しぶり。元気にしてたか?」
市川提督「それはもう。・・・しかしお前、本当に東松山なのか?」
提督「そうだよ。まあ、それは置いておこう。実は、頼みがあるんだ。」
市川提督「何だ?言ってみろ。」
提督「六月五日に演習をして欲しい。」
市川提督「どうして急に。」
提督「学生時代、片岡って教官がいたろ?あいつが抜き打ちで視察に来るんだ。」
市川提督「艦娘をあいつに会わせたくない、ってわけか。」
提督「ああ。それで、そっちに一泊させてもらいたいんだ。」
市川提督「わかった。ただ、ウチに泊めるなら、一つ条件がある。」
提督「条件?」
市川提督「そっちの艦娘に、遊戯王を教えておいてくれ。」
提督「・・・お前、艦娘にデュエルを教えたのか?」
市川提督「もちろん。ウチの鎮守府じゃ、大概のことはデュエルで決まるぜ?」
提督「お前は、変わらんな・・・。」
市川提督「呆れた声を出すな!いいだろ別に!提督やってるとデュエルする機会がねーんだよ!」
提督「まあ、気持ちは分からなくもないが。」
市川提督「とにかく、そういうわけだから、デュエルは覚えさせておいてくれよ!」
提督「わかった。」
市川提督「それから、ウチでの演習は全部デュエルな!ウチ、今資材ないから!」
提督「ああ。そう言っておく。」
妖精さん「提督さん、何か手伝えることはありますか?」
提督「ああ、妖精さん。ちょうど今、そちらに向かおうと思ったところです。演習の相手が決まりました。市川鎮守府です。」
妖精さん「市川?そんなところに鎮守府ってありましたか?」
提督「ここと同じで、最近新しくできたんです。今、提督が増えてきてますから。」
妖精さん「そうでしたか。」
提督「それで、艦娘達に遊戯王を教えることになりました。」
妖精さん「遊戯王?」
提督「もしかして、嫌いですか?」
妖精さん「いえ、そんなことは。ただ、どうして?確か、遊戯王ってカードゲームでしたよね?」
提督「それは、・・・・・・ということなのです。」
妖精さん「そういうことなら、私達妖精にも教えてください。あの子達についていく以上、私達もできたほうがいいでしょう。」
提督「そうですね。それでは、ひとまず娯楽室に行きましょう。」
響「おかえり。二人とも。」
暁「お父さん!新しいゲーム教えて!ずっとカタンやってるのも、飽きちゃったわ。」
妖精さん「その前に、提督さんからお話ですよ。」
提督「みんな、急で悪いけど、六月五日に市川鎮守府まで演習に行ってもらうことになった。」
霧島「でも、私達訓練もそんなにしてませんよ。いきなり演習なんて・・・。」
提督「それなら心配ない。今回は向こうと仲良くなるために行くようなものだから。」
雷「友達になればいいのね!まかせて!」
提督「それで、みんなには向こうで遊戯王っていうカードゲームをやってもらう。」
提督「今日から六月五日までにそのゲームになれてもらうよ。」
暁「なれるまでって、そんなに時間かかるの?普通のゲームなら一回やれば大体わかると思うんだけど。」
提督「まあ、げーむの流れなら一日で分かるよ。」
雷「じゃあ、そんなに時間かからないじゃない。」
提督「いや、ルールがものすごくややこしいんだ。」
提督「それから、今までのゲームと違うのは、人によって使うカードが違うんだ。」
響「ババ抜きみたいに、それぞれが持っているカードが違うの?」
提督「そうじゃないんだ。トランプは、ゲームで使うカードが決まってるでしょ?遊戯王は、七千以上のカードから、それぞれのプレイヤーが使うカードを選ぶんだ。」
妖精さん「自分の鎮守府から何人かの艦娘を選ぶ感じですか?」
提督「まあ、イメージとしてはそんな感じです。それで、艦隊にあたるものをデッキと呼んで・・・」
提督「・・・とまあ、こんな感じだけど、分かってもらえた?」
妖精さん「まあ、なんとなくは。」
電「ちんぷんかんぷんなのです・・・。」
提督「ちょっと見せてみたほうがいいかな。」
提督「これでどうかな。カードの種類、ターンの進行、専門用語は分かってもらえた?」
暁「大体分かったわ。」
響「なんとなくだけど、わかったよ。」
雷「ええと、ちょっとダメかも・・・」
電「私もなのです。」
提督「霧島や妖精さんたちは?」
霧島「私は分かりました。」
妖精さん「私もなんとか。のびちゃってるこの子達には、私が言っておきます。」
提督「それじゃあ、まずは暁と響で一回やってみよう。みんなは二人がやるのをみてて。所々で解説を挟むから。」
暁「じゃあ、まずはデッキを作るの?」
提督「ゆくゆくはそうしてもらうけど、今回の演習は私が作ったデッキでデュエルしてもらおう。」
提督「それで、デッキを選んでもらいたいんだけど、二人は使いたいものとかある?」
響「私はシンクロ召喚、っていうのが気になるかな。」
暁「じゃあ、私はエクシーズ召喚かしら。」
提督「なるほど。それなら、響は植物族、暁はBKでどうだろう。」
暁「わかったわ。」
響「私もそれでいいよ。」
提督「それじゃあ、デュエルをはじめよう。二人とも、デッキをシャッフルして、じゃんけんで先攻を決めて。」
響「私の先攻だね。それじゃあ、ドローフェイズ。先攻はドローできないから、そのままスタンバイフェイズにいっていいかな。」
暁「いいわ。スタンバイフェイズにも、何も使わないわ。」
響「それじゃあ、メインフェイズ。・・・お父さん、これはどうすればいいんだろう。」
提督「ああ、そのデッキはギガプラントとローンファイア・ブロッサムの効果を何度も使っていくデッキだから、墓地にローンファイア、フィールドにギガプラントっていう形になればいいかな。」
響「なるほど。・・・それじゃあ、駿足のギラザウルスを特殊召喚。もう一体。ギラザウルスでエクシーズ召喚。メリアスの木霊。」
暁「なにもないわよ。」
響「それじゃあ、メリアスの木霊の効果で、デッキからローンファイア・ブロッサムを墓地に送るよ。」
暁「いいわよ。」
響「最後に、メリアスの木霊をリリース、ギガプラントをアドバンス召喚。何もなければターンエンドだよ。」
暁「なにもしないわ。」
響「じゃあ、ターンエンド。」
響 手札2枚 ライフポイント8000
フィールド ギガプラント
墓地 駿足のギラザウルス×2 メリアスの木霊 ローンファイア・ブロッサム
暁「私のターンね。ドロー。・・・ええと、RUM-七皇の剣を引いたから、公開するわね。なにもなければメインフェイズに入りたいんだけど。」
響「いいよ。」
暁「それじゃあ、メインフェイズ開始時にRUM-七皇の剣を発動するわ。効果で、No.105 BK 流星のセスタスを特殊召喚して、その上にCNo.105 BK 彗星のカエストスを重ねるわ。何かあるかしら。」
響「何もないよ。」
暁「ええと、それじゃあ、カエストスの効果を発動するわ。響のギガプラントを破壊して、その攻撃力分、2400ポイントのダメージよ。」
響「くっ…」
暁「お父さん、このデッキはどう使うの?」
提督「色々な方法でレベル4モンスターを並べて、エクシーズ召喚をしていくデッキかな。墓地にBKグラスジョー、手札にBKスイッチヒッターっていう状況ができたらいいかな。」
暁「それじゃあ、まずはBKヘッドギアを召喚して、効果でデッキからBKグラスジョーを墓地に送るわ。」
響「うん。何もないよ。」
暁「それじゃあ、手札からバーニングナックル・スピリッツを発動するわ。デッキの一番上のカードを効果で墓地に送って、墓地のBKグラスジョーを特殊召喚するわ。」
暁「それじゃあ、BKグラスジョーとBKヘッドギアでエクシーズ召喚。えっと・・・H-Cエクスカリバー。」
暁「ここまではいいかしら。」
響「うん。」
暁「それじゃあ、エクスカリバーの効果で、エクスカリバーの攻撃力を2倍にするわ。」
暁「バトルフェイズに入っていいかしら。」
響「どうぞ。」
暁「それじゃあバトルフェイズ。エクスカリバーとカエストスでダイレクトアタックよ。」
響「4000+2800で6800ダメージか。私の負けだね。」
暁「お父さん、わたし達のデュエルはどうだった?」
提督「うん。二人とも、よくできてたよ。」
暁「えへへー。」
響「でも、私は負けちゃったよ。」
提督「いや、響きはあの手札からできる中で一番いい動きをしてたし、本当にいい勝負だったよ。」
響「でも・・・」
提督「それに、響の手札にあるカードがあったら、響は最初のターンに勝っていたよ。」
暁「そーなの!?すごいじゃない、響!」
響「そう、かな。」
提督「さて。一回デュエルを見てもらったけど、どうだろう。わかってもらえたかな。」
雷「バッチリよ!お父さん、今度は私にやらせて!」
提督「よし。それじゃあ、次は雷と・・・」
霧島「あの、わたしにやらせてください。」
提督「それじゃあ、雷と霧島でやろう。二人とも、どんなデッキがいい?」
暁「私達が使ったのとは違うのを使うの?」
提督「うん。演習ではそれぞれが違うデッキを使うことになるからね。今は色々なデッキを見て欲しいんだ。」
雷「それじゃあ、私は・・・。そうね。強いモンスターで一気に勝負を決めるようなのはないかしら。」
霧島「私は・・・戦術に幅があるデッキがあれば。」
提督「そうだな・・・。雷はサイバードラゴン、霧島はガガガを使ってみようか。」
雷「サイバー・エンド・ドラゴンで攻撃!」
霧島「私の負け、ですね。」
提督「あ~。ごめん。この組み合わせだと、霧島は不利だったかも。」
妖精さん「組み合わせによって有利・不利があるんですか?」
提督「ええ。戦艦だけの艦隊では、潜水艦に攻撃できないでしょう?それと同じように、デッキごとに得意・不得意があるんです。場合によっては、なにもできずに負けてしまいます。」
妖精さん「それで、今回は霧島ちゃんが不利だったと。」
提督「ええ。ある程度慣れた人なら対策のしようもあったんですが、初心者ではどうにも。」
霧島「そうでしたか。」
提督「それでも、霧島はよくできてたと思うよ。ミスもなかったし。この分なら、もっとレベルの高いデッキも使えるかな。」
雷「ねーおとーさーん。私はー。」
提督「ああ。雷も良かったぞ。雷にはこういうデッキが向いてるのかもね。」
提督「さて。次は妖精さんと電かな。次はどんなデッキがいい?」
電「私はあんまり難しくないのがいいのです。」
妖精さん「私は・・・提督さんらしいデッキを借りられたら。」
提督「うーん。難しいな。」
暁「そんなに難しい?二人とも、変なことは言ってないと思うけど。」
提督「いや、そうなんだけどね。私が作るデッキって、どれも複雑だからさ。難しくない、って言われるとなかなかないし、私らしい、って言うのは難しいし。」
雷「じゃあ私達が選んであげる!お父さん、全部のデッキを見せて!」
提督「はい。これで全部だよ。」
霧島「たくさんありますね。」
提督「まあ、趣味だからね。」
暁「早速見ていきましょう!お父さん、このデッキは?」
提督「それはジェムナイト。1ターンに融合召喚を何度もして、一気に攻めるデッキだよ。」
雷「これは?」
提督「そっちはE・HEROだね。相手の動きに合わせて戦っていくから、上級者向けかな。」
電「お父さん、これは何なのです。」
提督「ああ、それは、ドラグニティっていうんだけど、それは貸せないかな。」
暁「どうして?すごく難しいとか?」
提督「それもあるんだけど、これはずっと愛用し続けてきたデッキで、誰にも貸したくないんだ。」
雷「え~。いいじゃない。貸してくれても。」
提督「まあ、みんなが強くなって、このデッキを使いこなせるようになったら、かな。」
妖精さん「わかりました。必ずそのデッキが似合う女になって見せます。」
提督「そのときは、よろしくお願いします。」
暁「お父さん、このデッキは?」
提督「ああ、それはエリアだ。」
暁「エリア?」
提督「憑依装着―エリアっていうモンスターを最大限に生かして戦うデッキでね。ただ、他のデッキに比べると攻撃力がかなり低いんだ。」
暁「それなら、攻撃力の高いモンスターを入れれば?」
提督「そうするところをエリアを守ることに費やしてるからね。ちょっと厳しいんだ。」
響「それ、すごくお父さんらしいと思うよ。」
電「これを妖精さんに使ってもらえばいいのです。」
提督「でも、これは・・・」
妖精さん「いえ。そのデッキを使わせてください。」
響「じゃあ、電はジェムナイトにしなよ。」
電「でも、それは難しそう・・・」
雷「大丈夫よ!私達が手伝ってあげるわ!いいわよね?妖精さん。」
妖精さん「ええ。いいですよ。」
提督「それじゃあ、私は妖精さんを手伝ってもいいかな。このデッキは使い方が難しいから。」
暁「いいわよ。」
雷「ジェムナイトマスター・ダイヤで憑依装着―エリアを攻撃よ!」
電「効果で攻撃力は400ポイントアップしているのです!今の攻撃力は3300!」
響「これで終わりだね。」
妖精さん「いえ。まだ終わりません。攻撃宣言時に鎖付きブーメランを発動。」
暁「でも、ここで守備表示にされても結果は変わらないわ。次のターンで終わりよ!」
提督「いや、ここでは守備表示にする効果は使わない。」
霧島「でも、それじゃあ意味がないはず・・・」
妖精さん「もう一枚。収縮を発動です。」
雷「それじゃあ、ジェムナイトマスター・ダイヤの攻撃力は下がって・・・」
暁「1850ね。」
電「私達の、負けなのです。」
雷「あ~!なんであそこで収縮なんてあるのよ!あれがなければ勝ってたのに~!」
暁「仕方ないわよ。」
響「そうだよ。お父さんとお母さんのチームなんだし、そう簡単には勝てないさ。」
電「二人とも本当にすごいのです。」
霧島「ええ。ライフ差7400から巻き返して、しかも勝ってしまうなんて。」
妖精さん「ええ。でも、提督さんがいなかったら勝てなかったと思います。」
提督「そんなことはありませんよ。コツをつかめば一人でも戦えます。」
暁「それにしても、本当にお父さんらしいデッキね。憑依装着―エリアを守ることに特化してる。」
響「でも、私はあんまり好きじゃないかな。」
雷「どうしてよ。」
響「一人だけ生き残っても、全然うれしくないよ。」
提督「そういえば、戦争中の響きは暁型で唯一残ったんだっけ。」
響「うん。私はそのときの記憶はないけど。でも、きっとそのときの響は凄く悲しかったと思う。」
提督「そうだな。・・・よし、ちょっとこのデッキを改良するよ。今度は、みんなで生き残れるように。」
妖精さん「あの、私もご一緒していいでしょうか。」
響「私も手伝うよ。何もできなくても、せめて見ていたい。」
雷「じゃあ、私も!」
霧島「雷ちゃん、今回は遠慮しましょう。」
暁「そうよ雷。今回は我慢しましょ。」
雷「え~。何でよ。」
暁「あのデッキは、響の好きなようにさせてあげて。」
響「姉さん、ありがとう。」
暁「いいわよ。お礼なんて。さあ、満足のいくまで改良してらっしゃい。」
響「・・・うん!」
提督「暁はすっかりお姉さんだな。」
妖精さん「そうですね。でも、まだまだ可愛いところもあります。」
響「そうかな。とても頼もしい姉さんだけど。」
提督「まあ、響たちからするとそうだろうね。」
響「お父さん達は違うの?」
提督「お姉さんっていうより、娘って方がしっくりくるね。」
響「そうなんだ。」
妖精さん「もちろん、響ちゃんもよ。」
響「・・・スパスィーバ。」
提督「さあ、そろそろデッキの改造に入ろう。響、どんな風に改良したい?」
響「やっぱり、それぞれのモンスターが活躍できて、みんなを守れるのがいいかな。」
提督「それじゃあ、活躍するモンスターを増やしていこう。今はほとんどエリアとガエルだけだからね。」
妖精さん「でも、モンスターを増やすと守りが手薄になりませんか?」
響「それは、やだな。」
提督「それを解決する方法は二つ。エクストラデッキを増やすか、増やすモンスターを仲間を守れるものにするか、だ。」
提督「今回はエクストラデッキを増やしてみよう。」
妖精さん「でも、デッキをそのままで、っていうのは難しくないですか?」
提督「うん。だから、エクストラデッキを改良して、それに合わせてデッキを微調整することになるかな。」
響「お父さん、エクストラデッキに入れられて、仲間を守れるカードってあるかな。」
提督「もちろん。私のお勧めはこの『閃珖竜スターダスト』かな。」
響「へえ。一ターンに一度、仲間を破壊から守れるのか。」
提督「そうだ。私のお気に入りの一枚だよ。」
響「よし、それを使おう。」
妖精さん「でも、このデッキ、チューナーってありましたか?」
提督「いや、入ってないよ。だから、次はチューナーを決めよう。」
響「うん。これでいいんじゃないかな。」
提督「もう改造しなくていいかな。」
響「うん。早くみんなのところに戻ろう。」
雷「みんなお帰り~。」
響「ただいま。改良終わったよ。早速やろう。」
電「それじゃあ、私がお相手するのです!」
暁「響が改良してる間、私達は練習してたんだから!負けないわよ!」
提督「それは楽しみだな。どこまで使いこなせるかな。」
電「アマゾネスの射手の効果発動なのです!ギガプラント2体をリリースして、響お姉ちゃんに1200ポイントのダメージなのです!」
響「くっ…私の負けか・・・。」
提督「すごいな電。あのコンボを自分で考えたのか?」
雷「違うわお父さん。私達で考えたのよ。」
提督「そうなのか。まあ、何れにしても凄いな。」
妖精さん「提督さん、今、何が起こったんです?」
提督「まあ、無限ループの一種ですね。合成魔獣ラプテノスがいる時に使えるのですが、ギガプラントの効果でギガプラントを特殊召喚、そのギガプラントでさらにギガプラントを特殊召喚。最初の2体のギガプラントをリリースしてアマゾネスの射手の効果を発動。残ったギガプラントの効果でギガプラントを特殊召喚。」
提督「これを相手のライフがなくなるまで繰り返すんです。」
妖精さん「それ、どうやっても勝てないじゃないですか。」
提督「まあ、対策がなければそうですね。」
妖精(工廠)「提督~。あの子達、何であんな複雑なゲームできるの?」
妖精さん「あなたたちが理解しようとしないだけよ。詳しいルールは今日の夜教えてあげるから、今はあの子達がやるのを見てなさい。」
妖精(入渠)「じゃあ、そうするわ~。」
雷「なになに?妖精さん達もやるの?私が教えてあげるわ!」
妖精(入渠)「うふふ。それじゃあ、お願いするわ。」
暁「こら雷。あなた、まだサイバー流以外使えてないじゃない。そんなんじゃ教えられないでしょ。」
雷「教えられるわよ!」
暁「絶対ムリよ!代わりに私が教えるから、あなたは他のデッキを練習してなさい。」
雷「なによ偉そうに・・・」
提督「はいそこまで。妖精さんたちは二人いるんだから、二人で一緒に教えなさい。」
暁「でも・・・」
提督「ただし、ルールを教え終わったら雷は妖精さんたちと一緒にデッキの回し方を練習すること。いいね?」
暁「それならいいわ。」
雷「う~。仕方ないわね。」
電「お父さん、雷お姉ちゃんと暁お姉ちゃんはしばらくデュエルできないのです?」
提督「まあ、しばらくは。」
響「困ったな。そろそろ相手を変えようと思っていたんだけど。」
妖精さん「それじゃあ、私が代わりましょう。提督さんはどうします?」
提督「うーん。ちょっと、霧島とやってきます。」
電「霧島お姉ちゃんはすごいのです!もう、4種類のデッキを使いこなせるのです!」
提督「それは楽しみだな。じゃあ、ちょっと行って来るよ。」
提督「霧島。」
霧島「あら。あの子達はもういいんですか?」
提督「ちょっと、霧島と話したくてね。」
霧島「はい、何でしょう。」
提督「いや、霧島って大変じゃない?他の子がみんな駆逐艦だから、一人だけお姉さんでいなきゃならないっていうか。」
霧島「・・・気づいてました?」
提督「まあ、こんなんでも一応提督だからね。艦娘の調子くらいは分かるつもりだよ。だから、辛いことがあったら聞かせてくれるかな。」
霧島「・・・つらい、と言うわけではないんですが、ちょっと、他の子との距離を感じてしまいます。」
霧島「いえ、あの子達は悪くないんです。私が、勝手に壁を作って。あの子達は私にも平等に接してくれてるのに。」
提督「いや、霧島は何も悪くないよ。大丈夫。悪いのは私のほうだよ。」
霧島「いえ。私が・・・」
提督「いや。霧島は何も悪くない。霧島は優しいから、そうやって自分のせいにしようとするんだ。他の人に罪を着せないように、他の人が傷つかないように、って気を遣っちゃうんだよね。今回だってそうだ。あの子達が退屈にならないよう、仲が悪くならないよう、そして自分との差を感じないよう。そんな風に思って、一歩引いたところから皆を見てたんじゃないかな。」
霧島「・・・そう、なんです。いっつも、そうやって打算を働かせて。それで、あの子達みたいに純粋に楽しめなくて。それで、そんな自分が嫌になるんです。」
提督「そんな風に自分を責めないで。そうやって周りを見れるっていうのは霧島のいいところだよ。胸を張っていいんだ。例えば霧島は今、打算を働かせる、って言ったけど、本当はそれは思いやりっていうものだ。決して悪い事じゃない。霧島は、自分で思ってるほど悪くないよ。」
霧島「そう、でしょうか。」
提督「そうだよ。私が保証する。・・・そうだ。また不安になったら、私のところに来るといい。いつでも、どんなことでも相談に乗るよ。」
霧島「ありがとうございます。」
妖精1「それから、甘えたくなったときも、ね。」
霧島「妖精さん・・・」
妖精1「あなた、自分は戦艦だからって、いっつも我慢してるでしょ。提督さんも私達も、そんなことは気にしないから。甘えたいときは、素直に甘えなさい。」
提督「そうだぞ。霧島も大切な娘なんだから。」
霧島「お二人とも、ありがとうございます・・・」
妖精1「ほら、そこで泣くのを我慢しないの。提督さんの胸で泣いちゃいなさい!」
霧島「う、ああ、うぅぅ・・・」
霧島は声を押し殺して泣いた。体は大きくても、つい最近建造されたばかりの子供だ。やはり、色々と我慢していたのだろう。これからは負担がかかり過ぎないように気を配っていこう。
提督「・・・少し、落ち着いた?」
霧島「はい。・・・あの、すみませんでした。」
提督「いや、気にしなくていいよ。むしろ、もっと頼ってほしいくらいだ。」
霧島「しかし、私は戦艦で・・・」
妖精1「そんなことは関係ないの。あなたは私達の大事な娘なんだから。」
提督「そうだよ。戦艦だからって気に負う必要はないんだ。もっと甘えていいし、わがままだって言っていいんだ。」
霧島「・・・それでは、一つだけ、いいですか?」
提督「ああ。三つでも四つでも。何でも聞こう。」
霧島「・・・その、お風呂の後に、髪を乾かしてください。」
提督「お安い御用だ。というか、それだけでいいの?」
霧島「はい。実は、提督に髪を乾かしてもらってるあの子達がうらやましかったんです。」
提督「わかった。それじゃあ、お風呂の後は執務室にきてくれれば、乾かすから。」
霧島「わかりました。」
妖精1「霧島ちゃん、もう一つ言うことがあったわよね?」
霧島「あぁ・・・ええと、それはまたの機会で・・・」
妖精1「今がチャンスなんだから、言っちゃいなさい!」
提督「よく分からないけど、何でも言ってくれて構わないよ。」
霧島「それでは、・・・その、私も司令のこと、お父さんとお呼びしてよろしいでしょうか。」
提督「もちろん。むしろ、呼んでくれるのを待ってたくらいだよ。」
妖精1「良かったわね。霧島ちゃん。」
霧島「はい。」
妖精1「霧島ちゃんたら、ずっと悩んでたんですよ。」
提督「なるほど。最近私を呼ぶことを避けていたのはそのためか。」
霧島「・・・すみませんでした。」
提督「いや、いいよ。そういうまじめなところも霧島の良いところだからね。」
霧島「はい、お父さん。」
提督「・・・さて、すっかり話し込んでしまったな。・・・そうだ、そもそも私はデュエルをしに来たんだった。霧島、今使えるデッキは?」
霧島「ガガガ、BK、E・HERO、カオスドラゴンです。」
提督「なるほど。なかなか覚えが早いみたいだな。」
霧島「いえ。そんなことは。」
提督「いや。謙遜しなくていい。この短時間で4つも使えるのは凄いよ。」
提督「他に使いたいデッキとかある?」
霧島「使いたい、というか気になるデッキが一つ。」
提督「じゃあ、それを使えるようになろう。どんなデッキ?」
霧島「はい、これなんですが。特殊召喚できるモンスターを並べて、シンクロ召喚をする、というのはわかるんですけど、すぐに手札がなくなってしまって。」
提督「ああ、それはクジャドルだね。覚えるのにかなり時間がかかるから、これから演習まで、ずっとこれを使ってもらおう。」
霧島「分かりました。」
妖精1「あの、私も教わってもいいですか?」
提督「もちろんです。」
提督「それでは、基本の動きから。・・・」
提督「さて。今日はこんなものかな。続きは明日にしよう。」
霧島「はい。」
妖精1「ありがとうございました。」
提督「皆も、今やってるのが終わったら、一旦切り上げよう。」
今日は初日だったが、みんな物覚えが良く、思った以上にできるようになった。この分で行けば、演習までには何とか戦えるようになるだろう。
―そして、六月五日
提督「さて、今日はいよいよ演習の日だ。みんな、気をつけて行って来るんだよ。」
暁「まかせて!妹達の面倒もちゃんと見るわ!」
響「・・・行ってくるよ。」
雷「いっぱい勝ってくるわ!」
電「ええと、がんばります!なのです!」
霧島「お父さんの顔に泥を塗らないよう、がんばります。」
提督「妖精さん達も、よろしくお願いします。」
妖精1「ええ。任せてください。」
提督「よし、行きましたね。」
妖精さん「ええ。掃除もしてありますし、いつ来ても大丈夫です。」
提督「と、電話だ。ちょっとでてきます。」
提督「あと一時間くらいで来るそうです。」
妖精さん「では、私はそろそろドックのほうへ行ってます。」
提督「ようこそいらっしゃいました。すみません。ロクなおもてなしもできず。急なお話だったものですから。」
片岡「フン。日ごろから万一に備えておかないからそういう事になるんだ。」
提督「肝に銘じておきます。」
片岡「まあいい。今日は視察に来たんだ。さっさと案内しろ。」
提督「それでは、まずはプールからご案内しましょう。」
片岡「プールだと?お前は大本営からの援助を受けて遊び場を作ったのか?」
提督「いえ。こんなところですから、プールでもなければ訓練ができないのです。」
片岡「フン。大層なものを作ったじゃないか。兵器に使わせるならもっと安いものにできたろう。」
提督「いえ、作るからには実戦に近い状況を作り出せたほうがと思いまして。兵器と違って、艦娘には学習能力もありますし。」
片岡「・・・まあいい。次だ。」
提督「こちらがドックになります。入渠・建造でそれぞれ二箇所あります。」
片岡「・・・おい、いつまで続けるつもりだ。」
提督「ええ、後は執務室などを案内するつもりです。」
片岡「そうではない!秘書官も出さないで、どういうつもりだ!はやくお前の艦隊を見せろ!」
提督「ああ、言っていませんでしたか。ウチの艦娘は今日、演習に行っていていないんです。」
片岡「ふざけるな!私は視察に来たんだぞ!」
提督「ですから、急なお話だったので、何の準備もできなかったんです。前もってご連絡いただければ演習もずらせましたし。」
片岡「大体、何で演習なんかするんだ。こんな所で出撃することもないだろう。」
提督「出撃の機会の少ないここだからこそ、演習で経験をつむ必要があると考えました。」
片岡「もういい。私は帰る。」
提督「お送りしましょう。」
片岡「・・・ところで。私はこの視察について大本営に報告をするわけだが。お前は何かすることがあるんじゃないか?」
提督「そうですね。こちらからも視察についての報告書をださなければなりません。」
片岡「その報告書だが、口裏を合わせてやろう。書き上げたら一度、持ってきなさい。」
提督「口裏を合わせる、とは?」
片岡「お前も、こんな田舎で終わりたくはなかろう。」
提督「・・・それはつまり、虚偽の報告をする、ということで?」
片岡「ああ。要するにそういうことだ。」
提督「そういうことでしたら、お断りします。嘘を吐いてまで出世しようとは思いませんし、汚職でクビになるのもごめんです。」
片岡「わざわざ恩師が手を貸してやると言っているんだ。つべこべ言わずに持って来い!」
提督「いいえ。持って行きません。」
片岡「・・・そうか。今後、出世の道は無いと思え。」
提督「ええ。いいですよ。」
片岡「フン。後で泣いても知らんぞ。」
妖精さん「・・・帰りましたか。」
提督「ええ。今後は心配する必要はありません。」
妖精(工廠)「でも、最後はあの人、変じゃなかった?嫌いなはずの提督さんの出世を手伝おうとしてたし。」
提督「ああ。それは、私に恩を売っておこうとか、私に協力するフリをして、私を汚職でクビにしようとか、そんな魂胆があったんじゃないですか?」
妖精さん「どこまでもクズですね。」
妖精(入渠)「今からなら間に合いますよ?『事故』でも起こしてきましょうか?」
提督「いえ。その必要はありません。」
妖精(入渠)「でも、あんなのをのさばらせておいたら、害しかありませんよ?」
提督「ええ。ですから、アレにはクビになってもらいます。」
妖精(工廠)「でも、どうやって?」
提督「じつは、視察中の会話は全部録音してあるんです。それをうまく使います。」
妖精さん「じゃあ、最初からこの状況を見越してたんですか?さすが提督さんです。」
提督「それは買いかぶりすぎですよ。・・・それで、ちょっとこれから出かけてきますので、すみませんが、留守をお願いします。夜までには帰れると思います。」
妖精さん「わかりました。」
提督「それじゃあ、行ってきます。」
妖精さん「はい。行ってらっしゃい。」
提督「すみません。遅くなりました。」
妖精さん「お帰りなさい。遅くまでお疲れ様でした。ご飯とお風呂は用意しておきましたので、お好きなほうを。」
提督「ありがとうございます。それでは、ご飯を先で。」
妖精(工廠)「あー!リーダー、ちゃんと教えたとおりにしてない!」
提督「教えたとおり?」
妖精(入渠)「『おかえりなさいアナタ。お風呂にする?ご飯にする?・・・それとも、ワ・タ・シ?』ってやつです。」
妖精(工廠)「新婚三択ってやつだね。リーダーったら、これが定番だって言ってもやってくれないんだよ。」
妖精さん「そんな恥ずかしいの、できる訳ないでしょ!ああ、すみません提督さん。すぐにご飯にしますので。」
一同「いただきます。」
妖精(工廠)「それで、どうなったの?」
提督「はい。学生時代に片岡と敵対していた教官と会ってきました。後のことは、むこうでやってくれるそうです。」
妖精さん「その人は信用していいんですか?」
提督「ええ。立派な人ですよ。学生時代には随分お世話になりました。」
妖精(入渠)「提督さんの様子を見る限り、大丈夫そうですね。」
妖精(工廠)「それじゃあ、ひとまず問題は片付いたのかな?」
提督「そうですね。当分は何もないかと。」
妖精(工廠)「なら、鎮守府内でイベントでもしてみない?」
提督「いいですよ。どんなのがいいですか?」
妖精(入渠)「優勝者に賞品とかにして、何かで大会なんてどうです?」
提督「わかりました。」
妖精さん「でも、それで暁ちゃん達も楽しめるかしら?あの子達の慣れてない種目だと、退屈じゃないかしら。」
提督「種目はあの子達に決めてもらいましょうか。」
妖精(工廠)「それよりも、妖精の部と艦娘の部に分けちゃったら?」
妖精(入渠)「艦娘の部で足りない人数は私達から出す、ってことで。」
提督「それじゃあ、そうしましょうか。賞品は・・・」
妖精(工廠)「こっちで勝手に決めるより、優勝者本人に決めてもらおうよ。」
妖精(入渠)「それから、種目はゲームにしましょう。」
妖精(工廠)「せっかく教わったんだし、遊戯王にしようよ。」
妖精さん「あなたたち、さっきから勝手なこと言い過ぎよ!」
提督「いえ、いいですよ。というか、今回の企画はおまかせしてもいいですか?」
妖精(工廠)「もちろん!それじゃあ、ご飯のあと、会議室借りるね!」
妖精(入渠)「その間、提督さんはリーダーと一緒に居てくださいね。」
妖精さん「ちょっと!何で・・・」
妖精(工廠)「リーダーには、参加する側にまわって欲しいからね。」
妖精さん「それで、待ってる間どうしましょうか。」
提督「することもありませんし、少し歩きませんか?」
妖精さん「ええ。そうしましょう。」
妖精さん「・・・そういえば、さっき、新婚三択の話があったじゃないですか。あれ、どうですか?やって欲しいと思います?」
提督「・・・ええ。少しだけ。」
妖精さん「・・・そう、ですか。」
提督「妖精さん」
妖精さん「はい。」
提督「その、ええと、・・・つ、月が、きれいです、ね・・・。」
妖精さん「はい?月?・・・・・・!?」
妖精さん「ええと、・・・その、ほんとうに?」
提督「・・・はい、」
妖精さん「でっでも、月って、近くで見るとデコボコですし、他の星に比べて小さいですし、おまけに自分からじゃ光れないですし、・・・それに、夜空には他にもたくさんの星があるじゃないですか。どうして、月なんか・・・」
提督「私から見たら月はデコボコなんてありませんし、仮にデコボコだったとしても、デコボコな所も、小さいところも、全部好きです。」
妖精さん「で、でも、」
提督「自分から光れなくても私には輝いて見えます。それに、夜空に星は多くても、昼も夜も見えて、ずっと近くにいてくれるのは月だけですから。やっぱり、月じゃなければいけないんです。」
妖精さん「そう、ですか。・・・その、ありがとうございます。」
提督「ええ。どういたしまして。」
提督「・・・さて。そろそろ戻りますか。」
妖精さん「ええと、・・・はい。」
妖精(入渠)「あら。二人ともお帰りなさい。」
妖精(工廠)「随分遅かったね。夜のお散歩デートかな?」
妖精さん「ええと、その・・・」
提督「何というか・・・まあ・・・」
妖精(工廠)(ねえ、これってもしかして・・・)
妖精(入渠)(明らかに何かあったわね。)
妖精(工廠)(どどどどうしよう。気づかないフリしてようか。)
妖精(入渠)(そ、そうね。それがいいわ。それじゃ、何とか話題をそらしましょう。)
妖精(工廠)「そ、そうだ!あの、ゲーム大会の企画を作ったんだけど、聞いてもらえる?」
妖精(入渠)「そ、そうそう。大会は妖精の部はトーナメント、艦娘の部は総当りでどうかしら。」
妖精(工廠)「デッキはそれぞれの試合で各々が使うものを選んで、プレイングスキルを競う形式にしよう。」
提督「いいと思います。・・・となると、同じデッキは二つ用意した方がいいですか?」
妖精(入渠)「できれば、そのほうが良いですね。」
妖精さん「でも、そんなこと、出来るんですか?同じデッキをもう一つずつなんて、滅多にしないんでしょう?」
提督「そうですね。全てのデッキを作るとなると、かなり大変です。なので、今回だけはコピーカードでいいですか?身内だけのイベントですし。」
妖精(工廠)「そうだね。今回以外は使うこともないだろうし。」
妖精(入渠)「あ、それから。優勝者の景品なんですが・・・」
提督「はい。」
妖精(入渠)「何でも一つ、提督に望みを叶えてもらえる、というのはどうでしょう。」
提督「いいですよ。何でも、とまではいきませんが、出来る限り叶えましょう。」
妖精(入渠)「ありがとうございます。」
妖精(工廠)「日程は明後日でいいかな?」
提督「ええ。そうしましょう。」
提督「それでは、今日はこれでお開きにしましょうか。」
妖精さん「そうしましょう。遅くまで、ありがとうございました。」
提督「いえ。気にしないでください。それでは、失礼します。おやすみなさい。」
妖精さん、妖精(工廠)、妖精(入渠)「おやすみなさい。」
妖精(工廠)「・・・その、リーダーさ、提督さんと・・・何か、あった?」
妖精さん「・・・うん。『月がきれいですね』って・・・」
妖精(工廠)「?月がきれいだと、何かあるの?」
妖精さん「そうじゃないわ。その、」
妖精(入渠)「遠まわしに言った『I love you.』よね。」
妖精さん「・・・そうよ。」
妖精(工廠)「そ、それってつまり、その、こ、告白?」
妖精(入渠)「そ、それで、どこまでいったの?キ、キスとか、しちゃった?」
妖精さん「そ、そんなこと、出来るわけないでしょ!そういうのは、その、結婚してから・・・」
妖精(入渠)「そうよね。やっぱり、結婚してからよね。」
妖精(工廠)「て、ことはさ。リーダーと提督さんって、いつか結婚して、その、キスとか・・・するの?」
妖精さん「それは、その・・・・・・したい、けど。」
妖精(工廠)妖精(入渠)「・・・・・・」
妖精さん「な、なによ!急に黙り込んで。いつもなら、茶化してくるくせに。」
妖精(工廠)「いや、その。」
妖精(入渠)「私たち、こんな話するの初めてだから。その、恥ずかしくなっちゃって。」
妖精さん「・・・そうよね。普通の妖精は恋なんてしないわよね。」
妖精(工廠)「いや!だからって、リーダーが変だなんてことはないから!」
妖精(入渠)「そうよ!気にすることないわ!さ、今日はもう寝ましょう。」
妖精(工廠)「そうそう。明日は子供達も帰って来るんだし。」
妖精さん「・・・ええ、そうね。」
妖精(入渠)「リーダー、私たちでよければ、いつでも相談に乗るから、一人で抱え込まないでね。」
妖精さん「うん。ありがとう。おやすみ。」
妖精(工廠)、妖精(入渠)「おやすみ。」
雷「ただいまー!」
提督「お帰り。演習はどうだった?」
暁「とっても楽しかったわ!」
響「友達もできたんだよ。」
電「また行きたいのです。」
妖精(工廠)「勝率はどう?」
霧島「大体勝てたんですが、向こうの提督さんと、叢雲さんにだけは勝てませんでした。」
雷「そうなの!いつも1ターンで負けちゃうの!」
提督「そうだったのか。」
妖精さん「みんな疲れたでしょう。お話もいいけど、そろそろ中に入って休んだら?」
響「そうだね。」
提督「さて。改めて、みんなお帰り。」
妖精さん「帰ってきたところで、みんなにお知らせがあります。」
暁「お知らせ?」
妖精(入渠)「ええ。鎮守府内で遊戯王の大会を開くわよ~。」
妖精(工廠)「あっ、サラッと言っちゃうんだ・・・。」
妖精(入渠)「駄目だった?」
妖精(工廠)「いや、普通はもうちょっと溜めたり・・・」
雷「それより!大会って?」
妖精(工廠)「ああ。言葉の通りだよ。明日、鎮守府で遊戯王の大会を開くんだ。」
妖精(入渠)「私たち妖精はトーナメント、艦娘達は総当りね。」
妖精(工廠)「優勝者は提督さんに願いを叶えてもらえるんだ。」
暁「本当!?」
提督「うん。まあ、出来る範囲で、だけどね。」
霧島「願いを、ですか。それは、建造とかでも聞いてもらえるのですか?」
提督「ああ、もちろん。でも、建造くらいなら優勝しなくてもやるよ?」
妖精(工廠)「それから、使うデッキは対戦のたびに選んでもらうよ。組み合わせによって有利・不利がでないようにね。」
響「プレイヤーの技量が問われるわけだね。」
雷「そうと決まれば特訓よ!」
提督「帰ってきたばかりだし、少し休んだら?」
暁「大丈夫よ!全然疲れてないわ!」
電「お父さん、デッキの使い方、詳しく教えてほしいのです。」
響「私も、デッキの調整をお願いしたいな。」
提督「よし、それじゃあ娯楽室へ行こうか。」
妖精(工廠)「ホント、提督さんは優しいね。」
妖精さん「提督さんは譲らないわよ。」
妖精(工廠)「いやいや、そんな気はないって。私、好きとかよく分からないし。」
妖精(入渠)「でも、他の子はどうか分からないわよ?案外、明日の優勝者が提督さんとのデートをお願いしたりして。」
妖精さん「・・・そう。そんな子が・・・。」
妖精(工廠)「あの、リーダー?ただの冗談だよ?」
妖精さん「特訓よ。あなた達、付き合いなさい。」
妖精(入渠)「・・・。ちょっと、からかいすぎたかしら。」
電「ギガプラントでダイレクトアタックなのです!」
霧島「あらら。負けちゃいました。」
提督「これで決まったかな?」
暁「ええ。悔しいけど、電の優勝ね。」
雷「おめでとう、電。」
電「ありがとう、なのです。」
妖精(工廠)「こっちは終わったかな?」
響「うん。電の優勝だよ。」
妖精(工廠)「そっかそっか。妖精の部はこれから決勝だよ。見に来たら?」
提督「それじゃあ、皆行こうか。」
妖精さん「・・・・・・ライブラリアン、ジェット・ウォリアー、フォーミュラ・シンクロンでシンクロ召喚。シューティング・クェーサー・ドラゴン。」
妖精さん「ソウル・チャージを発動。ライブラリアン、フォーミュラ・シンクロン、ジェット・ウォリアー、ジャンク・シンクロンを特殊召喚。」
妖精さん「ジェット・ウォリアー、ジャンク・シンクロンでスターダスト・ドラゴン。スターダストとフォーミュラでシューティング・スター・ドラゴン。」
妖精さん「カードを2枚セットしてターンエンド。」
暁「えっと・・・。今、何ターン目?」
妖精さん「あら。皆来てくれたのね。まだ先攻1ターン目だから安心して。」
響「たった1ターンでこれを・・・?」
妖精「ええと、ドロー。まず、おろかな埋葬でBKグラスジョーを墓地へ。次にブラックホールを発動。」
妖精さん「シューティング・スターで無効にするわ。」
妖精「BKスイッチヒッターを召喚。効果を発動。」
妖精さん「クェーサーで無効。」
妖精「バーニングナックル・スピリッツを発動。対象はグラスジョー。」
妖精「スパーを特殊召喚。エクシーズ。BK拘束番兵リードブロー。カードを1枚セットしてターンエンド。」
妖精さん「エンドフェイズ、サイクロンでセットカードを破壊。強制脱出装置でリードブローをバウンス。」
妖精さん「私のターン、ドロー。クェーサーで2回攻撃しておしまい。」
雷「えっ?何?もうおしまいなの?」
電「何がなんだかわからないのです。」
提督「まあ、後で解説するよ。」
妖精(入渠)「さて。妖精・艦娘双方の優勝者が決まったので、これでお開きとします。」
妖精(工廠)「優勝した二人は賞品を考えておいてね。」
提督「二人とも、賞品は決めた?」
妖精さん「私は、もうしばらく考えさせてください。」
提督「それじゃあ、決まったら教えて。」
電「ええと、物じゃなくてもいいですか?」
提督「もちろんだよ。」
電「それじゃあ、・・・あの、敵も見方も沈めたくないのです。」
電「だから、出撃するときは、轟沈も撃沈もナシにして欲しいのです。」
提督「わかった。そうしよう。」
提督「でも、それだけじゃ足りないな。轟沈を防ぐ方法を確立し、同時に深海棲艦との和解を目指そう。」
電「?」
提督「誰も沈まなくして、それから戦わなくてよくするよ。」
電「ありがとう、なのです!」
この日を境に東松山鎮守府は研究機関の色が強くなり、他の鎮守府とは一線を画すものとなっていくのであった。
続く
話の終着点が見えなくなってきたので、ここで一区切りとさせていただきます。これからしばらくは短編を書き、文章に慣れたら続編に取り掛かろうと思います。
話は必ず完結させますが、取り掛かるのは来年になると思いますので、待っていていただけると幸いです。
東松山に4階建ての百貨店なんか無いだろいい加減にしろ(ご近所提督並感)
東松山調べてみたらファッ!?っていう場所にあったわww
地元すぎて笑った
豚製の焼き鳥を食べねば
熊谷市民の俺惨状!!
バスは駅から出てるけど行ったことないから地元イベントとか出してくれると期待しています。頑張ってください。
ちなみに来月7月20~22日の3日間、熊谷はうちわ祭り(出店は21日から)だから暇なら冷やかしにでも来て見てください(熊谷のステマではありませんので、気にさわったらごめんなさい)。
東松山市……大東文化大学かな?(現学生)
※1 ま、丸広あるから…
期待してます!
頑張ってください
吉見よりは都会。
都幾川から荒川を経由すれば太平洋まではすぐに出られるぞ。
※9 突然の地元disで草
それにしてもスレタイだけで埼玉県民ホイホイされすぎぃ!
丸広通りでプラモ買わなきゃ(使命感)
翔鶴さん出してぇ~
応援してます
割と埼玉の友人多いけど地元トークされて置いてけぼりくらった経験のある千葉県民参上
な、泣いてないんだから
とてもおもしろかったです!
更新楽しみにしています!
埼玉県民なので楽しみにしてます
更新が毎回楽しみです、
頑張ってください!
市川って何処だっけ(´・ω・`)?
ふんふむ。
建造されたばっか=幼いってところが斬新で面白い
今日初めて読みました面白いです俺も市川で艦娘とデュエルやりたい(・∀・)
妖精の恥ずかしがってるとこ可愛い(≧∀≦)
このSS最高です。続きが気になります
とても面白かったです。by松高生
東松山調べたら本当にファッ!?
って場所にあった(川が2~3本ある程度)
(今回の台風で被害にあった方にお悔やみ申し上げます)
東松山市外から失礼ずるゾ。うわ、このss面白すぎ。自分お気に入りに登録して良いですか?