ペトラ「翼を支えたいんです。」
モブ→ハン→リヴァ↔ペト
┗━━━━┛
↑の話。
モブリット「大事な片翼ですから」
↑の続きです。
ハンジ分隊長の恋する兵長の大人の両想いです。
前の話を読んでいると面白いと思います。
翼を支えたい
「兵長!」
「なんだ、ペトラか」
「どこに居るのかと思ったら…」
ぷりぷり怒っているのは部下のペトラである。
「黙れ。モブリットとハンジが起きるじゃねえか」
「ッ…!」
口を手で抑えなくてもいい。
目の前でスヤスヤと二人は眠る。
こいつらデキてんのか。
「…むにゃ、ハンジ、さん…」
奇行種には勿体無い部下である。
「…んにゃ?!」
奇行種が起きた。
「ええと、モブリットは?」
「てめえを心配して倒れたんだぞ?黙れ」
慌ててメガネを掴み取り、モブリットを見つめる。真っ直ぐな、カラメル色の瞳で。
「ごめんなさい、モブリット…」
✧✧✧
うう、寒い。
冷たい調査兵団兵舎の廊下を走る。
兵長、兵長、兵長。
壁外調査から帰ってきて、2日目のことだった。
「兵長がいらっしゃらねぇ!」
声を上げたのはオルオ。
「うるさい、オルオ!で、兵長は?」
「いらっしゃらねぇって言っただろうが、話を聞け…」
こんな時に至って真似を続けるオルオを蹴ってから、走りだした。
まさか。
兵長は死んでなんかいない。
…士気を下げるのを防ぐため話されていない?
…仲間の身代わりに?
…死んではいなくても、大怪我とか?
最悪の事態が脳裏をよぎる。
「兵長!」
✧✧✧
気が付いたモブリットは、ハンジに土下座。
ハンジもモブリットに土下座。
医務室での土下座大会が始まった。
「ごめんなさい!」
「すみません!」
「…」
「やめてください…」
ペトラの声が耳に入っていない。
「…お前等。その汚え減らず口を閉じて、汚え身体を洗って来い」
「「っひゃい!」」
ドタバタと風呂に追い出す。
ペトラが肩を叩く。
「…兵長、あのお二方は付き合っているとお思いですか?」
「…あ?お前はどう思う、ペトラ」
「私ですか?私は、上司部下以上、恋人未満、というふうに見えますね。」
ふふふっ。と花が咲くように笑った。
小麦色の髪が揺れる。
「…そうだな。さっさとくっつけばいい。じれってぇ」
「?!」
ペトラの手が止まる。
「…兵長も、恋愛とか興味あるんですね」
「する方はねぇ」
女を作る気にはならない。
自分より大切な人ができてしまったら、選択を間違うことは許されない。約束を果たせないかもしれない。人類の為にそいつを切り捨てることになるかも知れない。でも、そいつを失うのは怖い。
「…死人を見るのは、もう沢山だ。」
「…?」
肩を労るように叩き続けるペトラの手を握った。
「お前も大切な人が出来たなら…生きてる間に…伝えておけ」
「…分かりました。兵長も、ですよ?」
道端の花のような、切ない笑顔だった。
✧✧✧
うは。手、握られちゃった。洗いたくない…
でも兵長に怒られるな。
『お前も大切な人が出来たなら…生きてる間に…伝えておけ』
思わせ振りな態度取らないでください…
私の大切な人、貴方なんですよ?
…でも。調査兵団に入った以上、命の保障はない。ハンジさんから聞いた。
『リヴァイさあ…マントの自由の翼の裏に、戦死者の名前刺繍してんのよ。部屋にも、拡大版のタペストリー飾ってて…
ほんとにあいつは、死んだ奴らの名前を背負ってんだなぁ。』
貴方は、背負ってしまうから。
私と変わんないくらいの背中には重すぎる、たくさんの名前。“人類最強“の名。
兵長の責任。
全部背負ってしまうから…
その上におぶさることなんて、出来ない。
私は。貴方の横でその重い翼を、半分でも支えたいだけなんです。
「おはようございます、兵長!」
また、アールグレイで朝が始まる。
✧✧✧
ベッドにぶっ倒れた。眠い。
いろんな記憶が、表れては消える。
人間の死に顔が、現れては消える。
…もう 疲れた
人類最強なら、何故誰も救えない。
何故巨人を駆逐出来ない。
何故誰も守れない。
人類最強なんて嘘っぱちだ。
お前を守れないのが、怖い。
ペトラ。
✧✧✧
今、兵長のドアの前にいます。
深呼吸。ふー。
やっぱり、伝えなきゃ。生きてる間に。
ガチャ
ん?!
ゴンッ
額に鈍い痛み。うう。
「ペトラ…?」
あ、兵長の目が一瞬三白眼から四白眼になった。
「大変申し訳ありません!」
土下座だ土下座。怖い…
「ペトラ」
へ…?
「立て」
「ひゃい!」
こけた。踏ん張って、立つ。
「…ペトラ。俺の大切な人を当てろ」
「えっ…?えっ?」
「ペ…トラだ」
どこぞの少女漫画━━?
少女漫画ならこのままキス。しかし、兵長は俯いて震えていた。表情は見えない。
「へい、ちょ?」
「怖い…」
涙を堪えていることにやっと気付く。
「お前を…俺の選択で…殺したくねぇ…怖い…だから」
「大切にしたら…もっと辛れぇよ」
私だってそうですよ、兵長。
「兵長」
きゅっと、硬いけれど崩れそうな身体を抱きしめた。
「やめろ」
「兵長」
「兵長!!」
ダメだ。私が、貴方が
壊れてしまう。
「その翼を半分貸してください」
「なんだ」
「貴方は、背負い過ぎです。」
「当たり前だろうが、人類最強は」
自嘲気味に笑う貴方。
「そんな無理しないで下さい。」
私が苦しい。
「やめろ、ペトラ…」
✧
✧
✧
ファーランやイザベルが死んで、調査兵団にちゃんと入団して。
俺は、どれだけの約束を破って
どれだけの信頼を裏切って
何人の兵士を見殺しにしたんだ。
「俺は、愛される資格がねぇんだ」
「愛なんてもんは与えた事も与えられた事もねぇ」
ガキの頃母さんが死んで、なんだか知らねえケニーに育てられた。
そのケニーにも捨てられて、ゴロツキで生きて。
愛される資格がない。
その言葉は何度も咀嚼して、反芻して、身体に染み込ませた。
「そんな事無いですよ」
「…ありがとう、ペトラ」
ぴしゃり。
ドアを、閉めてしまった。
大人の恋愛って難しい!
切ない…!