『Pierce』
いろはと八幡がイチャイチャするだけお話。
とあるサイトで書いてるものです。
SSって地の文いらないのかな……。
描き直そかな。
加筆修正ありです。
ある程度たまったらまとめてやります。
学校に、教室にチャイムが鳴り響いた。
チャイムを聞き、先生が「じゃあ今日はここまでな」といって黒板に書かれた文字を消し始める。わたしもピンクのシャーペンと消しゴムを筆箱に入れ、教科書とノートを片付ける。約二分かけて消し終わり、教卓に置いてあった教科書や個人ノート、チョークなどをまとめると、先生は教室から出て行った。
それとほぼ同時に教室が一気に騒がしくなる。
わたしは大きく伸びて、そのままぐたー、と机に倒れこんた。
授業が終わり、昼休み。至福の時間だ。
数日前に席替えが行われ、わたしの席は窓際最後尾という最高のポジションを獲得していた。
各々が好きなように、好きな場所で昼食を取り始める。中には教室から出て、売店に行く人、教室以外の、例えば友達がいる別の教室へ行った人、はたまた別の教室へ行った人。クラスの半数が出て行き、少しだけ静かになった教室。
比較的仲の良い友達三人がわやわや言いながら机をくっつけて、昼食の準備を続ける。わたしはそれを顎に掌を押し付けて眺めていた。その視線に気づいた友達(A)が「手伝え」とアイコンタクトを送ってくるが、左手を適当に左右に振り、「いやだ」と丁重にお断りする。友達(A)は苦笑いを浮かべる。
顔を左に動かし、目を細めたまま窓の外を見下ろす。
昼休みというだけあって、グラウンドにも結構な人が出て来ていた。ふと、ある人の影を見つけて、わたしは上半身を起こし、窓の外に身を乗り出す勢いで駆け寄る。
淀んだ瞳、猫背、一人ぼっち。
高鳴るわたしの気持ち。
わたしは小さなお弁当箱を手に取り、仲の良い友達三人に手を振りながら、教室を出る。
すれ違う友達に軽く挨拶をし、階段を下ること二回。あとは目的の場所まで歩くだけだ。
気持ちはさらに高鳴っていく。
わたしは息を殺し、辺りの気配を伺う。人影はない。足音も聞こえない。意を決し、一歩踏み出す。さらに一歩。歩幅は小さく、気づかれずに。
少し、頬が緩む。
そこでわたしは急に悪い予感に襲われ、慌てて立ち止まり、後ろを見渡した。人影はなく、足音も聞こえない。ただ誰もいない空間が広がっていた。
安堵の息が漏れる。
振り返り、さらに奥へと進んでいく。
どんどん歩いていく。
一歩、二歩、三歩。足取りは少しずつ速くなっていく。
呼応するかのように心臓の律動も速くなる。
見えてくる目的地。
あー、だめだ。頬が緩む。制御がきかない。出来そうもない。そもそもする気すらない。
緩みきった頬を両手で軽く引っ張り、元に戻す。しかし、指を離した途端に頬はすぐに緩んでしまう。
うん。まあ、しかたない。このまま行こう。
足音を消し、ゆっくりと近づいていく。
猫背の背中はまだ気づいていない。
緩みきった頬のまま、その左肩に左手を置いた。左に振り返ってきた顔に人差し指が軽く食い込む。
少し見開かれた瞳はすぐにいつもの淀みきった瞳に戻る。
「せーんぱい。今日も一人ですか?」
精一杯の皮肉顔は緩みきった頬のせいで台無しだったかもしれない。
「……一色か。見りゃ分かるだろ」
「いつも寂しくないですか?」
「別に。最近はお前が来るし」
「口説いてますか?」
「口説いてないよ?」
「そうですか。残念です」
「……」
「よいしょっと」
そう言って、わたしは先輩の隣に座る。
それを不愉快そうに眺める先輩。
「……やっぱり今日もここで食べるのか?」
「当たり前じゃないですかー」
「いい加減教室で食えよ」
「わたしもここで食べたいんですよ。先輩の隣で」
「……」
「あ、もしかしてキュンとしましたか? 付き合いますか? 大歓迎ですよ?」
「帰れ」
「あーん、先輩ひどーい」
そう言いながら、お弁当を開ける。
先輩はいつもと変わらずパンを頬張っていた。
……。
視線をお弁当に落とす。
あー、これいいかも。
「先輩っていつもパンですね」
「そうだな」
「わたしがお弁当作りましょうか?」
「いらん」
即答された。
「なんでですか! 美少女生徒会長のお弁当ですよ! 男子がみんな羨むことですよ!」
「自分で言うな。なんか入れられそうで怖いからいらない」
「なにも入れませんよ!」
「うるさい。早く食わないと昼休み終わるぞ」
「……、」
卵焼きを食べる。
先輩って卵焼きも甘いの好きなのかな。
「……」
先輩はパンを頬張る。
わたしはご飯を食べる。再び卵焼きを口に含む。
食事中会話がないのはいつものことなので、特に気にすることはなかった。
もぐもぐと口を動かす。
ちらっと左を見れば先輩は最後の一口を放り込んでいた。
数回口を動かし、飲み込む。
おもむろに先輩は立ち上がり、どこかに行ってしまう。
わたしは特に気にすることなく、食事を再開する。
数分すると先輩は帰ってきて、わたしにお茶を手渡してきた。
食事を中断し、軽く会釈。わたしは財布から一五○円を取り出し先輩に渡そうとしたが、「いらない」と断られた。残された左手をスカートのポケットに突っ込み、お金を一時的にそこに置くことにした。先輩の手にはマックスコーヒーが握られていた。指を弾き、カシュッ、と軽い音を響かせ、先輩は一口飲む。
いつからだろう。先輩がなにも言わずにお茶を買ってきてくれるようになったのは。
わからない。わからないほどの時間をここで過ごしてきた。季節は夏。高校に入って二度目の夏がやって来た。
お茶を飲む。
緑茶が好きだって言ってないはずなのに、ここ一ヶ月はずっと緑茶を買ってきてくれる。いつ気づいたんだろう?
テニスコートには戸塚先輩がラケットを振っていた。いつ見ても女の子にしか見えない。下手をすればわたしより可愛いかもしれない。っていうか先輩、戸塚先輩のこと好きすぎ。
わたしはお弁当の中身を次々片付けつつ、先輩と同じようにグラウンドを眺めていた。
周りの人から見たら、この光景はどんな風に映るんだろう? カップル……に見える……かな? 見えると……いいな。
お弁当を食べ終わり、片付け、お茶を飲み、一息つく。
先輩、最初の頃はこの時点で「もう帰る」って言ってたなー。引き止めるのすごい大変だった。今ではなにも言わなくても予鈴がなるまではここにいてくれるようになった。
うららかな午後の日差しが眠気を誘う。
風に揺れる髪の毛を軽く押さえる。
心地いい。
まぶたをゆっくり閉じる。
このままずっと先輩の隣にいたいな。
♯01 It_started_out_as_any_other_story
眠気を誘う午後の授業を耐え抜き、ようやく放課後になった。
帰り支度を終えて、友達と軽く談笑し、わたしは教室を出た。
階段を登り、生徒会室へ向かう。
そういえばそのままちゃんと生徒会室に行くのは久しぶりだなー。いつもならこのまま奉仕部に向かうから、何日ぶりだろう。
廊下を歩く。そこで見慣れた猫背の先輩が現れた。
わたしは嬉しくて、思わず後ろから抱きついてしまった。
「ーーーせーんぱい!」
「うおッ!?」
突然の出来事に先輩は驚きつつ、しかし体制は崩すことなく、なんとかその場所でこらえる。
背中から離れ、先輩の前に移動する。
先輩は変わらず淀んだ瞳でわたしを見てくる。
先輩。その眼止めたらかっこいいのに。もったいないな。目鼻だって整ってるし。自分で言う通り、ある程度イケメンなんだから、それさえ直せば人気出ると思う。
でも、人気が出て競争率高くなったら、こっちがたまらないので、先輩はわたしが落とすまで当分このままでいい。
「いきなり危ない奴だな。あと軽率な行動は慎もうね。でないと勘違いしちゃうよ。主に俺が」
「わたしとしては勘違いしてくれた方が助かるんですけどねー」
「しないから。俺クラスになると相手の行動一つで好意が全てわかる」
「じゃあわたしの好意は?」
「お前は俺で楽しんでるだけだろ?」
「ハズレでーす。わたしの好意は先輩大好きでしたー。だから付き合いましょー」
「嫌でーす。早く生徒会室へ帰ってください」
「まあまあいいじゃないですか」
そう言って肩をバンバン叩く。
先輩が歩き出したから、わたしも釣られて歩く。
肩に手を出し置いたまま。
「一色」
「なんですか?」
「歩きにくい」
「そうですかー」
「うん。だから離して」
「いやです。このまま部室へ直行です」
「いやいや。お前生徒会長だろ。さっさと生徒会室に行けよ。毎度毎度サボってんじゃねえぞ」
「そう言ってわたしと一緒で嬉しいくせに。先輩は素直じゃないですねー」
「嬉しくないからね。本当だよ?」
誰に確認をとってるのだか。
肩から手を離し、先輩の隣を歩く。
階段をもう一度登る。
「先輩」
「ん?」
「髪跳ねてますよ」
先輩は右手で髪を押し付けた。
「あぁ、さっき図書室で寝てたからか」
「生徒会長の前で堂々とサボりを明言しないでくださいね。それから跳ねてるところそこじゃないです。もっと左です」
「いや、サボってないよ? 本当だよ?」
「違います違います。もう少し左です。あ、今度は行き過ぎです」
「もういい」
「ダメです。こっち向いてください」
「いやだ」
「ダメ」
そう言ってわたしは先輩の髪の毛を優しく梳くようにして押さえつけた。先輩は照れているのか、少し頬が赤い。
先輩の方がせが大きいので必然的にわたしはつま先で立つことになってしまい、少し疲れる。階段を二段登り、同じくらいの高さに調整して、もう一度髪に触れる。
先輩は耐えられなくなったのか、わたしの手を払いのけ、さっさと行こうとする。
「待ってください先輩。まだ直ってませんよ?」
それをわたしは阻止する。
「もういいって」
わたしは先輩の手を強く握る。
「……」
優しく優しく、髪を痛めつけないようにして、少しづつ寝癖を直していく。
「はい。直りましたよ先輩」
「……」
無言のまま、先輩はそそくさと移動する。
わたしはため息まじりにそのあとを追う。
窓枠いっぱいに広がる夏の青空と入道雲。
口元は終始にやけてばかり。
心臓の鼓動は速くなるばかり。
おさまれ。おさまって。バカ心臓。大したことないから。
角を曲がり、そこから一直線に廊下が伸びている。その廊下のちょうど真ん中らへん。そこが奉仕部の部室。人気はあまりなく、生徒がここに来ること自体稀。あまり目立った活動をしてこなかったせいか、知名度もないので、依頼に来る人はいない。
それでも、たまに人が通る。
ほら、いままさに友達(二人)がわたしたちの隣を横切ろうとしている。
友達二人と目があうと、二人はニヤッと笑った。なんて楽しそうな笑みを浮かべるんだ君たちは。
「お邪魔してごめん」と言っているかのように、友達はわたしにウインクして早足で去っていく。
わたしは「早く行け」とジェスチャーで意思を伝える。
向こうも理解したらしく、何も言わず、しかし口元には笑みを浮かべながら、最後までわたしたちを見ていた。
まったく。
わたしの気も知らないでーーー。
***
悩みに悩んだ末、結局わたしは奉仕部へは行かなかった。
奉仕部へ向かった先輩と別れて生徒会室へ向かったわたしだったがら喉が渇いていたので、そのまま生徒会室へは向かわずに自販機の前にいた。そこでわたしは腕を組んで悩んでいた。
理由はどれを飲むか、でだ。
ここはやっぱりいつも飲んでいるレモンティーにするべきか、それとも……。
先輩がいつも飲んでいるこの黄色と黒の危険色飲み物、マックスコーヒーにするべきか。
実はわたし、千葉県に住んでいながらまだMAXコーヒーを飲んだことがない。自販機やお店で見かけはする……が、わざわざ買おうとは思わない。
……チャレンジ……するべきだろうか。
先輩はいつも美味しそうに飲んでいるが、成分のほとんどは『加糖練乳』、『砂糖』、ついでに『コーヒー』だ。お分かりの通り、多分体にすごく悪い。
でも、女には時としてやらなくてはならない時がある。
わたしは悩み抜いた末に、マックスコーヒーを購入することにした。
財布からお金を取り出し、自販機に入れ、ボタンを押し、素早く目的のものを取り出し、生徒会室へ向かう。
五分ほどで生徒会室へ着いた。
生徒会役員たちに軽い挨拶を済ませ、席に座り、目の前にマックスコーヒーを置く。
……飲めなかったらどうしよう。
先輩を呼ぶか……いや、わたしが奉仕部へ行くか……でもやる事が……。
とりあえずコレは冷蔵庫に入れておこう。
わたしはマックスコーヒーを持って立ち上がり、冷蔵庫へ向かう。
この冷蔵庫は数日前に戸部先輩が運んでくれたものです。壊れないように大切に使用しています。
中には飲みもの以外入っていない。
食べものはダメ。もちろん、ちょっとしたスイーツもダメ。これは冷蔵庫を設置するたきに、平塚先生と約束したルール。
わたし個人としては別にそれで構わないと思っている。他のメンバーもなにも言わないので、多分文句はないはず。
冷蔵庫にマックスコーヒーを入れる。
自分の席に戻る。
「会長、確認お願いします」
副会長が一枚の書類を持ってきた。
「はいはい、確認しますねー」
わたしはその紙を受け取り、目を通す。
……。
副会長を見る。
「……部費の引き上げはしませんよ?」
「そう言うと思った。じゃあこれは」
「はい、断ってください」
満面の笑顔で言った。
「わかった……はあ」
副会長はため息を吐きながら席に戻る。多分同じクラスの友達に頼まれたんだろう。しかし、はっきり言ってこういう仕事はわたし達生徒会の仕事じゃない。部費をあげて欲しいなら先生に言えばいいんです。
背中から負のオーラを噴出する副会長。
わたしは悪くないはず。
書記ちゃんが副会長をなぐさめる。
……。
わたしも先輩にあれされたいな。まあしてくれないと思うけど。
頬に掌を押し付けて、出来上がっていた生徒会新聞に誤字がないか確かめる。
ーー仕事中ーー。
生徒会新聞に誤字はなかった。
さすがは書記ちゃん。いい仕事してくれます。
「今日もお疲れ様でしたー!」
『お疲れ様です』
わたしが荷物をまとめていると、副会長が書記ちゃんに話しかけていた。
「あのさ、」
「はい?」
「この後……さ、ちょっと遊びに行かない?」
「……いいですよ」
「はいはーい、わたしの前でイチャイチャしないで下さいねー。鍵閉めるんで早く出てくださーい」
私の言葉を聞いて、二人がやっと外に出てきた。
全く。
……?
何か忘れてるような、なんだろ?
……。
「……会長?」
「あ、コーヒー」
「え?」
「いえいえ、なんでもないですよ! 鍵わたしがかけとくので、みなさん先に帰ってもいいですよ!」
「そう? じゃあ」
「……、」
頬を染めて互いに見つめ合う副会長と書記ちゃん。
二人の世界に入らないで下さいねー。
わたしなんてセンパイにあんなこと言ってもらったことないのに。多分頼んでも言ってくれないと思うけど。
三人が帰ったを確認して、わたしは冷蔵庫からマックスコーヒーを取り出す。
キンキンに冷えてるなー。
……なんか飲む気なくなっちゃった。
先輩にあげよう。うん、それが良い、そうしよう。
ーー移動中ーー。
ドンドン、と奉仕部のドアを二回ノックする。
中から「どうぞ」という声が帰ってくる。
わたしがドアを開けると、先輩が「ゲッ」って言ってきた。
反応酷すぎませんかね。
先輩の前に座る。
「……なんの用だよ」
「いつも仕事を手伝ってくれる先輩にご褒美です♡」
そう言って、ゴトンと先輩の前にマックスコーヒーを置く。
結衣先輩と雪ノ下先輩はポカーンとしていた。
ふ、勝負はすでに始まっているんですよ。
距離を取る先輩。
「……お前が、俺に?」
「はい」
怪しそうに、マックスコーヒーを手に取る先輩。
そんなにわたしのプレゼントが怪しいですか。
……。
「まあ、貰っとくわ。……ありがと」
「いえいえ! それとですね先輩」
わたしは一つ間を作り、
「今日小町ちゃん友達の家に泊まるらしいので、晩御飯はわたしが作りに行きますね!」
『……は?』
三人の声が重なる。
わたしはニコニコ笑っている。
「いや、どうして兄の俺が知らない情報をお前が持ってるわけ?」
「さぁ、どうしてでしょう?」
先輩はスマートフォンを取り出し、誰かにメールを送る。小町ちゃんだと思うけど。
帰ってきた小町ちゃんからの返信に、絶望する先輩。
だから、失礼すぎませんかね。
わたしの顔を見る先輩。
わたしはニコニコ笑う。
「悪い、俺帰るわ」
「そうですね。帰りましょう!」
「いや、一人で」
「さあさあ行きますよ!」
わたしは先輩の腕を引っ張りながら奉仕部を出て行く。
残された二人は互いの顔を見つめていた。
***
奉仕部に残された二人は、
『え?』
と最後に呟いていたーーー。
***
奉仕部を出て、二人で廊下を歩き、昇降口から出る。
駐輪場へ向かう先輩の腕に抱きつきながら、さらに歩く。
「一色、歩きづらい」
「そうですか? わたしは別に」
「いや、お前の感想なんて求めてないから。離れろ」
「良いじゃないですか」
「よくねえよ。友達だと思われるだろ」
「どちらかといえば彼女じゃないですかね」
顔を背ける先輩。
照れてる、可愛い。
まあ、先輩が可哀想なので、離れますけど。
わたしが離れると、先輩が距離を取ろうとしたので、腕を掴む。
すると、諦めたのか、抵抗がなくなったので手を離した。
しばらく歩いていると、先輩が質問してきた。
「本当に作りに来るのか? 別に来なくても大丈夫だぞ?」
「ダメですよー。小町ちゃんに頼まれたんですから。ちゃんと約束は護らないと」
「小町……」
外町ちゃんの名前を呟きながら、自転車に鍵を差し込む。
さすがに校内で二人乗りは出来ないので我慢する。
これでも生徒会長ですから。
***
いろいろあり、現在先輩の家にいます。
小町ちゃんの言った通り、うちには誰もいません。
お父さんは、夜遅くまで残業みたいです。
お母さんはわからないです。
制服の上からエプロンを付けながら、わたしは先輩に言葉を投げる。
「先輩なに食べたいですかー?」
素っ気ない言葉が返ってくる。
「チャーハン」
「チャーハン……そんな簡単なので良いんですか? わたし唐揚げとかも作れますよ?」
「いや、今日はずっとチャーハン食いたかったんだ」
「そうですか、チャーハンですか。冷蔵庫開けますねー」
「おー」とやる気のない声が返ってくる。
わたしはガサゴソと冷蔵庫の中を確認する。
ニンニク、ショウガ、玉ねぎ、ベーコン、カブの茎と葉、卵とチャーハンに使うものを選別し、取り出していく。
「せんぱーい」
「なんだよ」
「調味料ってどこにあるんですかー?」
「冷蔵庫の隣の棚。そこの一番右から二番目の引き出しに入ってる」
「わかりましたー」
中華味の素と鶏がらスープ……あった。普段は小町ちゃんが料理するからか、必要なものは全部揃っている。流石は小町ちゃん。やるなー。
多分先輩たくさん食べるだろうから、一合半くらい使っちゃおう。
たっぷり一合半のご飯で、胡麻油を効かせ、ニンニクとショウガを炒め、カブの茎はシャキシャキに。ご飯粒を包む卵は黄金に輝き、あとは玉ねぎの甘みとベーコンの旨みに任せておけばオッケーです。中華味の素を適当に、塩胡椒も少々ふりかける。隠し味にオイスターソースを入れれば完璧です。
お湯と使いきれなかった玉ねぎの欠片を入れただけの鶏がらスープを添えて完成です。
あとは盛り付けるだけですね。
全体的に先輩のを多めに入れる。
テーブルに持っていく。
だいたい二○分くらいで出来ました。
「せんぱーい。出来ましたよー」
「……おー」
「なんでそんな嫌そうなんですか」
「だって、お前の手料理なんて食ったことねーもん」
「今から楽しみですね」
「なんでだよ」
「じゃあ、冷める前に頂きましょうか」
「っていうか俺の量多くない?」
「大丈夫ですよ。きっと食べきれますよ」
「一体なにを持って言ってるんですかねぇ……」
そう言いながら、先輩はチャーハンをすくって一口食べる。
そのまま無言で食べ続ける先輩を見て、安心したところでわたしも食べる。
無言のまま食べる先輩にわたしは質問する。
「美味しいですか?」
「……あぁ、美味い」
「それは良かったです」
「……、」
「食べたかったらいつでも作りに行くんで、言ってくださいね?」
「まぁ、気が向いたらな」
「はい。向いてくださいね」
わたしは最後に精一杯の笑顔を作って、笑ったーーー。
一章 了
***
『ーーーごめん』
すごくあっさりしたものだった。
ほんと簡単だった。
ものすごく緊張して、悩んだし、胸が破裂するんじゃないかってくらいの気持ちで告白したのに、彼からの返事はまるで用意していた言葉を読み上げるかのようにスラスラと流れてきた。
胸が弾んでいた。
なのに。その結果と来た、ほんとうにあっさりしてて簡単だった。
ほんと……バカみたいだ。
『いろはの気持ちは嬉しいけど、俺はいろはとは友達として一緒にいたいんだ』
『……』
驚きを隠せない自分がいた。いや、驚きで誤魔化していた自分がいた。情けないことに、彼がすべてを言い終えた時には、わたしは彼の前から走り去ってしまっていた。
逃げることしかできなかった。
わたしはどんな表情で彼を見たら良いのか分からなかった。
笑えるほど強くはない。泣くしか出来なかった。
だから、逃げ出した。こんな顔を見られなくなかったら。
中途半端な気持ちで好きになったわけじゃない。
本気で好きだった。
どんな手を使ってもわたしのモノにしたかった。
でも、わたしは彼のことを表面しか見ていなかった。内面をまるで理解していなかった。
誰もいないところで、ようやく顔を上げる。
恋が終わる瞬間というのは、こんなにもあっけなくて、簡単なんだって分かった瞬間だったーーー。
***
風が吹いている。
ゆっくりと、のんびりと吹いている。
今日は一段と暑い。ついこの間まで春の匂いがしていたと思えば、気づけば季節は移ろい、揺らぎ、変化していた。あと数日もすれば蝉が鳴きだすはずです。
それにしても……。
先輩が振り向いてくれない。わたしが本気で落としに行っているのに、全く落ちる気配がしないのはなんでだろう。窓の外を見つめても、答えは落ちてこない。
「はぁ」
どうしよう。
本当にどうしよう。
格好つけて、いつか必ず落ちるとか言ってる場合じゃない。このままだとまた負けてしまう。それだけは嫌だ。絶対に嫌だ。何がなんでもそれだけは嫌だ。
でも、考えても何も思いつかない。
「はぁ」
ため息ばかり漏れる。
まさか自分がこんなにも弱いなんて思わなかった。そりゃあこれまでだって何人も落としてきた。付き合った事はないけど。上目遣いで頼めば誰でも言う事を聞いてくれたし、これからもそれで通用すると思っていた。
でも、それが通用しない人が現れたら?
現在進行形でその人がいるんですよねー。
でも、悩んだってしかない。
わたしが好きになったのならしょうがない。
そう言って気持ちを誤魔化す。
よく晴れた空を見ていても、何の解決にもならない。でも、決定打をわたしは持っていない。
「うん。悩んだってしかない。今日も生徒会がんばろー」
期待
期待
期待×10000
期待
あま
某有名小説投稿サイトの方で読ませて貰っています!
続き楽しみにしてます~+(0゚・∀・) + ワクテカ +
期待
チャーハン食べたくなった
チャーハン食べたくなった大草原w
最高ですね
いろはチャーハン
続くの?
「Pierie」は失恋の歌だからもしかしていろはすも......