例えばこんな未来予想図
朝チュンココチノ
「んぅ……朝……?」
窓から射す朝日の光と、小鳥のさえずりで目が覚めました。
時計を見ると、ただ今の時刻は午前6時。
この生活が始まってからだいぶ経つけど、朝起きるのだけはまだちょっと苦手かなぁ……。
「……寒い。」
毛布から出ようとして、ようやく、今私は何も着ていないことに気が付きました。
昨日は確か……そうだ。
昨日の朝、珍しくチノちゃんからキスしてきて、それに仕返しをしたらヘンに盛り上がっちゃって……それから1日中えっちなことしてたんだっけ。
日付が変わる直前ぐらいまでの記憶はあるんだけど、疲れていつの間にか寝ちゃったみたい。
「……すぅ。」
すぐ横でスヤスヤと眠っているチノちゃんを起こさないように、私はそっとベッドから抜け出して、とりあえず机の上に
脱ぎ散らかしていた服を着ることにします。
「よいしょっと。」
1日放置していた服はかなり皺になっていたから、一先ず防寒のためにシャツだけを羽織ることに。
……今の私は、所謂『裸ワイシャツ』という恰好。
チノちゃんが見たらどんな反応をするかな?
ちょっと興味あるかも。
そんなことを考えながら、眠気を吹き飛ばすためにうんと一伸び。
よしっ!ココアパワーの準備完了♪
「うーんっと……何からしようかな?」
開店までの時間を考えると、あんまりのんびりしている暇はないよね……。
でも、もうちょっとだけチノちゃんは寝かせておいてあげたいから、起こした後のことから考えようかな。
「朝ごはんは……トーストと目玉焼きでもいいよね。お風呂はシャワーにすればそんなに時間もかからないし……。あとは……洗濯かぁ。」
そういえば昨日はずっと雨だったなぁ、と思って窓を開けて外を見ると、今日の空には雲一つなく、まさに絶好の洗濯日和。
よしっ!これならシーツと毛布を洗濯しても問題ないよね!
と、開店までにするべきことの一通りの目途が立ったので、いよいよ(主に私が)お待ちかねの、チノちゃんを起こす作業に取り掛かかります……!
「そっと、そおっと……」
できるだけ物音をたてないように、忍び足でベッドに近づきます。
そして両手と片膝をベッドにつけて、チノちゃんを起こそうと―
「……私は、いいと思うんだけどなぁ。」
「……。」
覗き込んだチノちゃんの寝顔は、まだあどけなさが残る可愛らしい顔で。
前にそのことを本人に言ったら『……子供っぽくみられるので私は嫌ですよ。』なんて言われちゃったけど。
私はチノちゃんの可愛い顔、好きなんだけどなぁ……。
……それよりも。
「……チノちゃん、起きてるでしょ?」
「……っ」
あ、目は瞑ったままだったけど、ちょっとピクッてした。
「じーっ。」
「……。」
それに、よーく見てみると耳がちょっと赤くなってるし……もしかして恥ずかしがってるのかな?
私たちがこういう関係になったのはずいぶんと前のことだけど、チノちゃんは未だにそういうことに慣れてないみたい。
キスなんかは勿論、じっと見つめたり、それに『大好きだよ』って言っただけでも照れちゃうもんね。
……まぁ、だからこそ酔った時とか、チノちゃんがたまに大胆になったりすると、おおっ!って思っちゃうんだけど。
昨日もそれでヘンなスイッチが入っちゃって……って、今はそんなことどうでもいいか。
「チノちゃん、本当に寝てるの?」
「……。」
むむっ、今日のチノちゃんはなかなか強情だね……!
でも……いいのかな?
私、逃げるウサギは追い詰めたくなっちゃうんだ♪
「それじゃあ10秒経っても起きなかったらキスします!10、9……」
「っ!?」
あ、またピクッってした。
「8、7、6……」
それにも構わず、私はカウントをとり続けます。
私はキスするのも、チノちゃんが恥ずかしがる姿を見るのも、どっちも楽しいからね♪
「5、4、3……」
うーん、ここまで無反応ってことは……キスしてもいいってことなのかな?
それじゃあ遠慮なく……
「2、1……」
カウントダウンが終わるよりも少し早めに、スッと目を閉じて。
いざ、チノちゃんの唇を奪おうと顔をグッと近づけ―
「……?」
「……。」
あれ。顔を近づけてるハズなのにキスできない?
っていうか、なんか鎖骨のあたりを押し返されているような……。
パチッと目を開けると、果たして、そこにはジト目で私を見ているチノちゃんの顔が。
「……おはよう、チノちゃん♪」
「ココアさんのえっち。」
酷い挨拶だなぁ……。
……ところで今、私とチノちゃんの顔の距離は十数センチしかありません。
そして、私たちはお互い見つめあっています。
ここから導き出される答えは1つ!
早速キスを―
「ココアさん邪魔です。退いてください。」
「はーい。」
……うん。やっぱりチノちゃん、ちょっと不機嫌になっちゃった。
からかい過ぎたみたいだね。反省反省♪
でも、これ以上からかうと後が怖いので、おとなしく撤退することにします。
チノちゃんは、私が離れたのを確認するとようやく警戒を解いて、ベッドから起き上がろうと布団を―
「~~~~っ!」
畳もうとしたところで、ようやく今の自分の恰好に気が付いたみたい。
トマトみたいに真っ赤になっちゃった。
……って、そんなに全力で隠さなくても。
さっき一瞬だけどほとんど見えちゃったし、今更隠す必要もないと思うんだけどなぁ……。
「チノちゃん、そろそろ準備しないと。お店間に合わないよ?」
「わ、分かってますよそんなこ……って、ココアさん!?なんて格好してるんですか!?」
あ、無反応かと思ってたけど、今気づいたんだね。
その驚いた顔が見られただけでも満足かな……?
……いや、もうちょっとだけ欲張っちゃおう。
「どう?チノちゃん、この格好?興奮した?」
「こっ……!?そんなことするわけないじゃないですか!」
ありゃりゃ。冷たい。
「バカなこと言ってないで、早くシャワーにでも―」
「んっ」
「っ!?」
何か言ってるチノちゃんを無視して、不意打ちのキス。
キョトンとしてる顔も可愛いなぁ。
さて!やることはやったし、早くシャワーを浴びて朝食も作らないとね!
「じゃあ、先にシャワー浴びてくるね。チノちゃんも準備終わったら来ていいよ。」
「……っ!ココアさんのバカー!」
そんな怒声を背中に浴びながらも、今日の私はルンルン気分です。
チノちゃんパワーも充電できたしね♪
さぁ!今日も1日頑張るぞー!
「はい、朝ごはん。」
「……ありがとうございます。」
2人ともシャワーを浴び終わって朝食の時間。
表面上はいつも通りのやり取りだけど……。
「……。」
「……。」
わぁ……『ぷくつーん』って音が聞こえてきそうな顔してる……。
やっぱり、チノちゃん完全に拗ねちゃったみたい。
さっきも一緒にシャワー浴びてくれなかったし、それからも必要最低限のこと以外話してくれないし……。
うーん、ずっとこのままっていうのは嫌だから……どうしよう?
「チノちゃーん……謝るからさっきのことは許してー……。」
「……別に、怒ってなんかないです。」
絶対怒ってるよね……?
「じゃあ、なんでも1つ言うこと聞くから!」
「なんでも?」
「うん!なんでも!」
これならどうかな……!
私が出せる最高の条件だし、それに、チノちゃんの言うことだったらどんなことだって―
「それじゃあ、今日は私に抱き着くのは禁止です。」
「……それは難しいかなぁ。」
「なんでもって言ったじゃないですか……はぁ。」
うっ……呆れられてしまった……。
でも、それはあんまりにもあんまりだよ!
チノちゃん成分を補給できないと、私死んじゃうから!
「なんでもとは言ったけど、できれば他のことがいいなぁって。」
「……はぁ。」
ま、またため息つかれちゃったよ……。
さすがに、ちょっと反省。
チノちゃんが可愛いから、ついイタズラしちゃったけど、これからは控えた方がいいのかなぁ……。
「……いいですよ。別に、本気で怒ってたわけではないですし。」
「チノちゃん……。」
「……だから、そんなに悲しそうな顔しないでください。確かに、突然キスされるのは困りますけど……別に嫌というわけではないですし……。
それに!……ココアさんは笑顔の方が似合ってます。私は、そっちのココアさんの方が好きですよ。」
「チノちゃん……!」
「~~~っ!この話はもうおしまいです!早くご飯を食べて、お店の準備を始めますよ!」
「うん!」
私がしょんぼりしてると、いつもチノちゃんはこんな風に励ましてくれます。
……こういうところ、本当に好きだなぁって思っちゃう。
すごく恥ずかしがり屋なのにね。ふふふっ。
「ねえ、チノちゃん。」
「なんですか?早く食べないとお店の準備が―」
「私、チノちゃんのこと大好きだよ!」
「……っ!……私だって、ココアさんのこと大好きですよ。」
「えへへー。」
「なんなんですか、もう……。」
そんなことを言いながらも微笑んでくれるチノちゃん。
なんだか、手のかかる子供を見守る母親みたいだね?
……でも、チノちゃんが笑ってくれるなら、それでもいいかな。
どんな表情のチノちゃんも好きだけど、やっぱり私も、笑顔のチノちゃんが1番好きだもんね。
「ココアさん、手が止まってますよ。」
「はーい。」
そんな感じの、いつも通りの朝。
でも……今日はいつもより、ちょっぴり幸せかな?
私は幸せを噛みしめつつ、朝食を食べすすめます。
よーし、今日は張り切って仕事しちゃうぞー!
「さ、さすがに疲れたよ……。」
「今日は珍しく張り切ってましたもんね。お疲れ様です。」
「うん。チノちゃんもお疲れ様♪」
夜です。
お店を閉めて、夜ごはんとかお風呂とか家事とか、しなきゃいけないことがようやく全部終わったので、やっと寝室に戻ってこれたというわけです。
「はふぅ。あったかーい。」
「そんな、ベッドに飛び込むなんて……はしたないですよ?」
「チノちゃん以外見てないからいいのー。」
「そういう問題ではないんですが……はぁ。まったく、しょうがないココアさんですね。」
朝のことがあったからいろいろ頑張ってはみたけど、やっぱりお昼寝しないと疲れちゃうよね。
でも、外で干した布団とシーツはあったかくてモフモフで、これはこれで幸せかも。
そのまま、しばらくはベッドの上でゴロゴロしてたけど……うーん。
「チノちゃん、ちょっとこっちに来て?」
「……何が目的なんですか?」
酷い言われようだよ……。
「別に……何もしないよ?」
「それならいいんですが……。」
チノちゃんは椅子に座って読んでいた本を机に置いて、トコトコこっちに歩いてきます。
……よし。
「えいっ。」
「っ!?こ、ココアさん……!?」
ベッドのそばまで来たチノちゃんの手首をグイッと引き寄せて。
やっぱり、チノちゃん軽いから簡単に押し倒せちゃうね。
「……何にもしないんじゃなかったんですか?」
「うん、だから何もしないよ?」
「なら、この体勢を早く―」
「んっ」
「っ!?」
チュッと啄むような軽いキスを1つ。
やっぱり私、チノちゃんのこと大好きだなぁ。
想いが勝手に溢れてきちゃって、全然止まれないや。
そしてチノちゃんはというと、私の服の裾をギュッと掴んで、頬を上気させて潤んだ瞳で私のことを……
「……。」
「……あの、ココアさ―んんっ!?」
我慢できなくなって、さっきより少し長めのキスをもう1つ。
今のは不可抗力だね。うん。仕方ない。
「こ、ココアさん……今日も、するんですか?」
どこか期待しているような、そんな目でチノちゃんが質問してきたけど……うーん。
「えいっ。」
「わぷっ!?」
その質問に口では答えずに、私はベッドに寝転んでチノちゃんを抱き寄せました。
そして……
「ココアさん?あの……どうしてモフモフしてるんですか?」
「んー……チノちゃんは、えっちなことがしたかった?」
「~~~っ!」
痛い痛い痛い。
今のは私が悪かったから、腕をつねるのはやめてほしいなぁ。
って、普通にお願いしても聞いてくれそうにないので、理由を説明することにします。
「今日はね、感謝デーなの。」
「……感謝デー?」
「うん、感謝デー。こんな私と一緒にいてくれて……好きでいてくれてありがとうって。」
「ココアさん……。」
背後からチノちゃんを抱きしめたままの体勢だけど、それでよかったのかも。
いくら私でも、さすがに顔を合わせてこんなことを言うのは恥ずかしいからね……。
「だから今日は……」
「……はい。」
「寝ます!」
「えっ?」
「おやすみなさい!」
言うが早いが、私は寝ることにします。
これは……そう、戦略的な撤退だよ!
「ちょっとココアさ……解けない……。」
そりゃあまだ私起きてますし。
それに、チノちゃん小っちゃいから、私が腕ごと抱きしめたら抜け出せないんだね。
……でも、今日は疲れたから。
なんだか、もう眠くなってきたよ……。
「……ココアさん、もう寝ちゃいましたか?」
「ぅん……。」
微睡みの中で、聞こえた声にとりあえず反応している私と、どこか冷静に考えている私がいます。
……なんだか、変な感じだなぁ。
「私だって、毎日感謝してるんですよ……?一緒にいてくれるだけでうれしいですし……それに、好きって言ってくれると、もっと嬉しいですし……。
私は感情を表に出すのが苦手だから、もしかしたら伝わってないのかもしれないですけど……私はずっと、ココアさんと一緒にいたいです。」
「……。」
「……って、寝てる人に言ってもしょうがないですよね……。はぁ。直接言えたらいいんですが……。」
……ううん、チノちゃん。チノちゃんの言葉は、ちゃんと伝わってるよ?
眠くて体が動かないのと、あと、今喋っちゃうと泣いちゃいそうだから何もできないけど……。
でも……そっか。
やっぱり私、チノちゃんのことを好きになってよかったよ。
そんなことを考えながらも、目蓋はどんどん閉じていきます。
もうちょっと起きて、この幸せを抱きしめたかったけど……もう限界かな。
……明日からはまた、チノちゃんが好きな、笑顔の私に戻るから。
今日だけは……そう、おやすみなさい。
このSSへのコメント