【ガルパンSS】「文科省・ウォー!2」
ガルパン劇場版の生徒会長と役人とのあれこれ。ガルパンはいいぞ。
例によって役人と生徒会長の話を書いてしまいました。
大洗学園を廃艦にする。
二度目にそう言われた時、思わず私は耳を疑った。
大洗学園といえば今年の戦車道全国大会の優勝校だ。国をあげて戦車道の競技化、また諸外国を誘致するという目標を掲げておきながら、なぜ大臣はそんな発言をするのか。
【ガルパンSS】「文科省・ウォー!2」
「戦車道全国大会に出た高校には、それぞれ懇意にしておる国の戦車があるだろう。それらの高校は外国の方々にも評判が良くてねぇ。参加表明や好意的な返事が続いてきておるのだが、今年の優勝校を見た途端に渋い顔をなさるんだ。最早彼らにとって戦車道全国大会は自国の戦車が優れている、という証明をしてくれるパフォーマンスになっているのだよ。色んな国の戦車がごちゃ混ぜになった高校が優勝してしまったら、それが台無しだろう。そもそも一度候補に上がっていた学園艦だ、再度提案するとしても何らおかしくはあるまい。」
「しかし、彼女らとは一度約束をし、彼女らはそれを果たしました。」
「所詮君との口約束だけだろう。念書もなし、証拠もなしだ。君の仕事は、決定事項を伝えるだけだ。とにかく、よろしく頼むよ。」
決定事項を伝えるだけ――
子供でもできる簡単な仕事が、己の無力さを突きつけてきたように感じた。
「――というわけだ。」
「――わかりました。」
彼女はそれ以外に何も言わない。そんな、だとか、待ってください、なんて言葉は口にしない。ただ淡々と、起きたことを受け入れる。初めて出会った時もそうだった。廃校を宣言されてなお、彼女は態度を変えることなく、逆にこちらに提案をしてきた。彼女が崩れれば、大洗は崩れる。どれほどの重圧を受けて、彼女は感情を堪えているのだろう。
「そろそろエキシビションマッチも終わる頃だろう。私も学園に向かおう。」
二人並んで歩き出す。私は何も言えない。言うことができない。彼女とは違う。感情を排除して、仕事を淡々とこなしていく。それが私に与えられた役割だ。
彼女の目が私のほうを向く。
「――試合の日、知ってたんですね」
少し笑いながら彼女は言う。――私の仕事ですからね、と答えておいた。
エキシビションマッチから少しして、彼女が私の元へ来た。リュックを背負い、単身私のもとへ。今度は二人はいない。彼女らにも背負うべきものができたのだろうか。こんな状況ではあるが少しだけ、彼女が一人で来られることが嬉しく思えた。
「廃校の件は決定しているんです」
「ですが、優勝すれば廃校は免れるという約束をしたはずです」
「口約束は約束ではないでしょう」
「判例では口約束も約束と認められています。民法第九十一条、九十七条等に記されています」
「――可能な限り善処したんです。ご理解ください」
「――わかりました」
そう言って彼女は部屋を出ていく。
――可能な限り善処した。その言葉に偽りはない。しかし上が納得しなかった。私個人と彼女とのやり取り、私と大臣とのやりとりの中ではそんなことは意味をなさなかった。そう、彼女の意見だけでは足りない。その理由でもし私が意見を通しても、大洗に再び廃校の話は持ち上がる。大臣の屁理屈をねじふせられるような、そんな意見でないと。
さあ、彼女はどうするだろうか――
二度目に表れたときには、西住流・戦車道協会会長・蝶野三等陸佐を連れてきた。このメンツであれば問題ない。これだけの人物が廃校の撤回を求めるのに、文科省は無条件に断ることはできない。西住流の家元は、考えの隔たりからプロリーグの委員長を務めることができないと主張する。これなら、大臣としても懸念すべき状況だろう。
「いや、それは。今年度中にプロリーグの設立しないと、戦車道大会の誘致ができなくなってしまうのは先生もご存じでしょう。」
「優勝した学校を廃校にするのは、文科省の掲げるスポーツ振興の理念に反するのでは」
「しかしまぐれで優勝した学校ですから――」
その一言に家元の顔色が変わる。
「戦車道にまぐれ無し。あるのは事実のみ。」
そう、必要なのは事実だ。彼女らにとっても、私にとっても。
「どうしたら認めていただけますか」
答えは初めから用意している。
「まあ、大学強化選手に勝ちでもしたら…」
「わかりました。勝ったら廃校を撤回してもらえますね。」
間髪入れずに確約を取ろうとする。彼女らの目的はその約束という事実。
「今ここで、覚書を交わしてください。噂では口約束は約束では無いようですからね。」
口約束ではいけなかった。少なくも大臣にとって、口約束は約束ではない。これだけの条件が大臣を納得させるために必要だった。そして今、それが整った。
「――いいでしょう。」
これが考えられる上での最善の策だ。難易度としてはギリギリのラインだが、問題ない。
覚書を作成し、その足で大臣に連絡を入れる。手続きはスムーズに終わった。大臣も流石に本命の外国チーム誘致に影響が出るとまずいと思ったのだろう。
「これが覚書だ。」
「確かに受け取りました。」
彼女以外の三人はもうすでに帰っていた。一人残された彼女は多くを語らない。少しでも早く仲間の元へ帰りたいのだろう。
「送り迎えの車を玄関に待たせてある。」
彼女は小さくお辞儀をし、部屋を出ようとしたところで振り返る。
「――まぐれで勝った、っていう発言は、わざとですよね」
私はそれに答えられない。
「――次の試合、もちろん見に来るんですよね。」
いつも通りの不敵な笑み。こちらの考えていることを見透かしたような、そんな表情。
「はい、私の仕事ですからね」
そう答えると、彼女は満足したのか、小さく――ありがとうございます、とつぶやき、深くお辞儀をして去っていった。
彼女が帰ったあと、私は一人で机に向かった。
――彼女らに必要以上に肩入れすることは、彼女らを不利にする。他の学園艦にない価値を、正々堂々と大臣に認めさせられなければ、何度でも彼女らに廃校の話は持ち上がる。私にできるのは文科省の提案を彼女らに伝えることだけ。廃校を免れるルートはこれで整った。歯痒くとも、手助けをしたくとも、これ以上手を貸せば廃校にできる隙が生まれる。――聡明な彼女は汲み取ってくれるだろうか。
試合当日、私の席を尋ねると、戦車道協会会長との横並びにだと言われた。対立の構図になるのは状況的に致し方ないが、少し嫌になる。私は私の役割を演じねばならぬ。少なくともこの大洗の廃校が撤回されるまでは。
「本日はよろしくお願いします。」
彼女が運営本部に挨拶に来る。戦車道協会会長に挨拶を終えた後、視線がこちらへ向いた。「本日はよろしくお願いします。」
何も言わずにお辞儀だけで返す。
――もう少しですね。
口の動きだけでそう言い、彼女は去っていった。
もう少し、もう少しで、何が起こるのか、あるいは――解放されるのか。
彼女は気づいているのか、今は、確かめる術はない。
試合開始直前、予想通り彼女たちが来た。黒森峰、サンダース、プラウダ、グロリアーナ、アンツィオ、継続、知波単。綿密にルールを設定しなかったのはこのためだ。「異議を唱えられるのは相手チームのみ」というルールがある以上、向こうが条件を飲んでしまえば、こちらは手出しができない。結果を受け、覚書の通りに対応をする。それが私のできる範囲だ。殲滅戦ルールを設定した。カールも認可させた。大臣の指示に従い、手を尽くした。準備は万全だ。これで文科省は負ければ言い訳ができない。あとは彼女が、彼女らが奇跡を起こす様を待つのみだ。自分の役割とは異なるとは知りながら、私の心は、大洗の勝利を望んでいた。
家に帰ると、娘がかぶりつきでテレビを見ていた。
「ただいま」
「おかえり!」
返事は良いが、顔はテレビに向いたままだ。
画面には、今日私が見た景色が映し出されていた。
「お父さんおかえり!」
一通り試合の放送が終わると同時に、娘が膝の上に乗ってくる。私に戦車道の面白さを教えてくれた張本人は、事あるごとに試合を熱心に見ている。
「戦車道は面白いかい?」
「うん!あのね!おっきいのもね、ちっちゃいのもね、早いのもね、遅いのもね、みーんなかっこいいんだよ!」
「そうかそうか」
娘は嬉しそうに話をする。この試合の裏で、私が、登場人物の一人一人が、どんなドラマを抱えているかも知らずに。
「それとね、この人がすっごくキラキラしてるの!」
娘の指差す先には、一人の少女。大洗の廃校にたった一人で立ち向かった、勇敢で、聡明で、ひたむきな彼女。
「わたし、このお姉ちゃんみたいになる!」
そう言って無邪気に笑う娘の顔は、どことなく彼女の笑顔に似ていた。
※らぶらぶ大作戦です!内の描写からこの線はなくなってるんですけど、どうしても文科
省役人に救いがほしくて書きました。がんばれ国家公務員。
直したほうがいい箇所などあれば指摘していただければ嬉しいです。
前作とまとめて読んだが良いな、うん、良いと思います