傷心提督が鎮守府を再興するそうです。
辛い過去を背負った提督が荒廃した鎮守府を復興する話。
キャラ崩壊があります。
冒頭のシーンでは暴力表現が含まれているので、苦手な方は気をつけてください。
前半は提督の行動が多めですが、後半には艦娘達の動きも多く入れたいと思っています。
ある嵐の日、俺の人生は大きく変わってしまった。
家は焼き尽くされ、人が目の前で死んでゆく。まだ幼かった俺の心に大きな傷をつけるには十分すぎる出来事だった。
目の前で惨殺されてゆく人々は俺に助けを求めながら死んでゆく。
耳をつんざく悲鳴が、俺の心を抉りとる。
俺は怖くて、ただ恐怖に怯え、何もすることができなかった。
いつのまにか、嵐は止んでいた。・・・悲鳴も止んでしまっていた。生きているのはただ一人。自分だけが生き残ってしまったんだ。
…なぜ俺が。なぜ俺だけが。
返事を求めても、返って来るのは残酷なまでの静寂だけだった・・・。
ーー某鎮守府ーー
今日もまた一人……仲間が死んだ。
『戦争は犠牲の上で成り立っている』、誰かがこう言っていた。
・・・
『犠牲』…か。なら、今の私たちは一体どれほどの犠牲を、どれほどの命を捨てて戦ってきたんだろうね。
今日も今日とで皆は海に駆り出される。
そう、ここは通称、『ブラック鎮守府』と呼ばれる場所。
ここでは海に出たが最後、先に待つのは轟沈、死あるのみ。
私は今日は出撃がなかったので、海に駆り出され、沈みゆく運命の仲間達に挨拶を言いに行く。
よかった。今日はまだ生きていられるんだ…
「頑張ってね」
でもね、言うことなんてたったそれだけ。だってそれ以上の伝える言葉が分からないから…。
「生きて帰ってきてね」
そんな妄言、言えるわけ無いじゃない。だって、私たちは兵器、生き残ることが役目じゃないの。
私たちは海に出たらその先には『死』しか待ってはいないんだもの。
彼女たちはみんなうつむいて黙ったり、かすかな声で「うん」とだけしか言いません。
その瞳はこちらを向かず、ひび割れた窓越しに水平線を誰しもが見ています。自分たちの未来が既に分かっているのでしょう。
すると、大きなブザー音とともに
『出撃準備 出撃準備 出撃するものは艤装を装着し、直ちに集合場所まで来ること』
放送マイクから聞こえる出撃命令。出撃命令が止むと毎回海軍の行進曲が流れる。この鎮守府でのこの曲は誰かの死を表しているも同然だ。
彼女たちの肩は震え、目には涙が浮かんでいる。すると彼女たちは次々に、
「嫌だ!」
「死にたくない!」
「誰か!誰か助けて!」
と、次々に泣き崩れ始める。
…私たちには彼女たちに何もできない。ただ、見送ることしかできない。
数分後、彼女たちは指定された集合場所へと出て行った。
こうなることは分かっていた。何度も見てきた。でも、いつも私の胸は張り裂けそうになる。
………そして彼女たちは二度と帰ってくることはなかった。
食堂から自分の部屋へ帰る時、私はいつも”執務室”の前を通ります。
そこを通れば、目を背けたくなるような声や音がいつも聞こえてくる。
「お前のせいだ!お前のせいで作戦が失敗したんだ!」
「アイツを取り逃がしやがって!この鉄クズが!!」
「俺の面子は丸潰れだ!どうしてくれる!!あぁ!?」
「テメェみたいな奴を海に出すのにいくら金がかかってるとおもってんだ!!」
ドゴッ、バキッと鈍く痛々しい音が聞こえる。悲痛な叫びとともに「ごめんなさい」と何度も謝る声が聞こえる。
吐き出すように怒号が飛び交う。何分くらい扉の前に立っていただろう?よく覚えていない。
スッと静かに音が鳴り止み、鎮守府からまた一つ、命が消えました。
こんなこと、日常茶飯事なのに…何度も見てきたのに…それでも…耐えられない。
…そう思いながら私は何事もなかったかのように自室へ帰りました。
自室に帰り、私はベッドに横たわりました。
まだ、耳の奥にみんなの叫び声が響いてます。あの叫び声は忘れられません。
いつまでこのような地獄の日々が続くのでしょうか…?
誰か…助けてよ………。
……偶然というのは何時起こるのかなんて、分かったものではありません。
ついさっき、司令官から私に出撃命令が下されました。私の命も、もうこれまでのようです。
…とは言っても私たちの戦いは、出撃というよりも特攻のようなものですが。
出撃する艦娘の艤装に大量の爆弾、いわゆるTNTを積んで敵艦に突っ込み自爆。これが私達、”駆逐艦”の戦い方。
…たしかにこの戦い方は敵を一網打尽でき、非常に効率的と聞きます。でも…それでも……いえ、なんでもありません。
でも、爆弾なんて本当に深海棲艦に効果があるのでしょうか。にわかには信じられませんが。
…そうです。次来る娘のために部屋の片付けでもしておきましょう。とは言っても部屋には何もありませんが。
やっぱり……死にたくないなぁ……
こうして海に出て戦うのも何時ぶりでしょうか。とても懐かしく感じます。
今、まさに海戦の真っ最中。どうやらここが私の墓場のようです。
「…!敵深海棲艦!提督、命令を!」
その一言で奴らはこちらに気づいたのか、敵の砲がこちらを向きました。
一直線に向かってくる敵の砲撃。嵐のように降り注ぎ、一人、また一人と爆炎に包まれて行きます。
私たちは回避に専念しながら必死に無線に耳を傾ける。
『戦況は悪化しているようだな…。ならば一斉に突撃し、そして敵との距離がゼロになった時に手元のスイッチで自爆しろ。
何を恐れる必要がある。国のために命を捨てろ。それがお前達”兵器”の仕事だ。』
その命令に私も自分の手元の装備を見る。いつの間に付けられたのか、たしかにそこには見慣れないスイッチがあった。
『いいか。失敗は絶対に許されない。もし、失敗なんてしてみろ。お前達は実験台か、溶解炉送りだ。いいか、分かったな。』
一方的に無線は切られ、私たち意識は戦場に戻る。
「そんな……こんなことって…」
「嫌だ…死にたく無い…いやぁ……!」
耳を塞ぎたくても直視してしまう現実。そんな中、旗艦の人が口を開く。
「…覚悟はできた…?」
旗艦の人も、こんなこと言いたくて言っている訳じゃ無い。それは分かっている。
でも、今の私たちから見たらあなたは死神にしか見えない。そう思いながらゆっくりと頷く。
一緒にいる子達もこくんと頷く。
「そう…じゃあ皆一斉にいきます。合図を出したら敵に突撃。あとは…分かっているわね…?」
彼女の決心……それを聞いて私は今一度自覚します。ああ、私たちは今から死ぬんだなと…。
他の皆も決心はつけたみたい。
「いきます。3……2……1……」
ゆっくりとカウントダウンは始まる。
どうせ死ぬなら一瞬で意識が飛ぶような爆死の方がいいかな…。
そう思っているうちにカウントダウンはピークに達する。そして……
「ゼロ!今よ!」
敵の一瞬の隙を見て旗艦の人が叫ぶ。それと同時に私たちは一斉に敵に向かって突っ込む。
敵との距離は……250メートルくらい。
あと200メートル。敵は私たちに総攻撃をかける。一人の体が大炎上し、その場に倒れ込みました。
あと100メートル。また、一人がバランスを崩して体全体に攻撃を受け、血飛沫と共に吹き飛んだ。
あと50メートル。あちこちで爆発音。今度は悲鳴。私の頭の中は真っ白。
あと25メートル。右肩に砲撃を受けた。でも、ここまで来たらもうやるしか無い。
一瞬砲撃が止む。
今しか無いと、その間に全力前進。あと10メートル。
そして私はスイッチを………
押しました。
死にたくないなぁ………
あれから一体、どれくらいの時間が経ったんでしょうか。私にも分かりません。
ただ、一つだけ分かっている事があります。…私はもうすぐ沈むと言う事です。
私はあの時、死ぬ事が怖かった。まだ生きていたかったんです。
私は自爆する寸前に艤装を全て海に捨てて敵艦に投げつけた後、スイッチを押して爆発させた。
だから、許されない事だけど私は作戦に背いたんです。生きたいというその強い思いが、私をそうさせた。
でも、そんな強い思いも虚しいだけでした。最悪の状況です。出撃前に言った予想が的中してしまいました。
やっぱり、爆弾なんか深海棲艦に効くはずなかったんです。
かろうじて敵駆逐や軽巡艦には大きな損害を与えました。
が、重巡や潜水艦には軽い損傷、戦艦には損害は疎か傷一つ付けられない始末。私の状況はまさに四面楚歌。絶体絶命もいいところです。
周りを見回せばどこを見ても砲口だらけ。おまけに私はさっきの爆発のせいで足以外の艤装を無くしています。
ああ、これが裏切り者の末路なんだな、なんて思ったりして。体はボロボロ、足の艤装の燃料もほとんどありません。
このまま居ても最後にはどうせ沈みます。沈むのってどんな感じなのかな。痛いのかな、苦しいのかな、それとも…楽になれるのかなぁ。
キュイイィィィという音が耳元でするのが聞こえます。
今度こそ本当に私は沈んでしまう、そんなことを考えるとなぜか自然と笑ってしまいます。
いっその事、沈むなら楽に沈みたい。私は沈むことを、死というものを覚悟し、静かに瞳を閉じ、
そして、自分の最期を感じた私はふとこんな事を思いました。
せめて、もう一度だけ、あの頃のように皆で笑いあいたかったなぁ……。
あれから、どのくらいの時が経ったでしょうか。ここはどこでしょうか。
今の私に見えるのは白い壁、比較的小さな机と椅子、そして私が今寝ている真っ白の暖かくてふかふかの普通の敷布団ぐらいです。
正直、あれからなぜこうなったのか、ここはどこなのか、私には分かりません。
ただ一つ、私は今生きていると言うこと、そのことだけははっきり分かります。
一体、何が起こったのかもう一度思い返して見ることにします。
あのとき、私は確かに『死』というものを覚悟していました。
もはや恐怖なんてものはありません。
むしろ、早く沈めてほしい。そんな事をも思い始めるほどでした。
敵の砲口が頭に押し付けられ、一瞬で私の頭は吹っ飛ぶ。そんな状況。
私は一切の希望を捨てて、目を閉じました。
……………。
どうしたのでしょうか、撃たれません。
「おーい、大丈夫か?もうあいつらはいなくなったぞ。」
・・・え?
だ、誰でしょうか・・・?恐る恐る目を開け、声の主の方へ視線を向けます。
するとそこには、私に視線を下ろす一人の男の人が立っていました…水面上に。
足に艤装が装着されてる…でも、艦娘じゃ無いみたい…
「って、おいおい。その傷大丈夫か!?」
そう言われ自分の右肩を見ると、そこからはとめどなく血が流れ、私の右腕は鮮紅色に染まっていました。
なるほど、どうりで先程から体の自由が効かないわけです。
突然、目の前が暗くなってきました。体に力が入りません。どうやら出血しすぎたみたいです。
せっかく助かったのに私…やっぱりここで死んじゃうんだ…。
なんて惨めな死に方でしょうか。私は自分の運命を恨みながら力なく倒れました。
「っと、大丈夫か?」
倒れる途中、私は男に抱えられました。
「まずいな…この出血量じゃ………」
私を抱える男が何か言っていますが、もう私にはそれを聞き取る力すら残っていません。
ただ私は薄れゆく意識の最中、私の中の何かが温かったのを感じながら瞳を閉じ……。
私の意識はそこで途絶えました。
と、ここまでは覚えていますが、やはり何故こうなったのかはどうしても分かりません。すると、
コンコンコン
『えーっと…食事を持ってきたんだけど…、入っていいかな。』
扉の向こうから男の人の声が聞こえてきました。
私はそれに「…はい。」と小さく答えます。
するとしばらくしない内に男の人が扉を肩で開けて入ってきました。手には丸い盆とその上に湯気立つ和食が乗っています。
「あ…た、食べれる?」
私はあそこにいた時、こんなものは見たことも食べたことがありません。私はすぐに「はい」と言うつもりでしたが…
グウウゥゥ……
恥ずかしいことに、私自身よりも私の腹の虫の方が腹を空かしているようです。
「あ…食べられるみたいだな。」
今の私の顔、多分真っ赤です。
「ここに置いておくよ。」
男の人は私の横に白米を置きました。
「じゃあ、俺は出るから…何かあったら呼んでくれよな。」
そういうと男の人は部屋から出て行きました。
私は再び男が持ってきたご飯に視線を向けます。未だご飯からは湯気が立ち昇っています。
恐る恐る私は盆の上に乗っていた木製のスプーンを手に取り、ご飯を掬います。
正直言って、私はこんなもの食べていいのかと困惑しています。
あそこにいた頃、私は暖かいものはおろか、一欠片のパンでも食べられれば幸せな、そんなところにずっと私はいました。
司令官の命令で出撃し、沈んだ仲間すら裏切り、あの男の人に助けられるまでは。
私は、仲間への申し訳なさや恐怖、助けられた喜びや暖かいものを食べられるという幸福感。
私の中で様々な感情が入り混じり、涙がとめどなく流れてきます。
そして一口、泣きながら私はすくった粥を口の中へ頬張る。
おいしい…おいしい……!
涙は止まるどころか滝のように出てきます。
私は泣きながら一口、また一口と次々にご飯を食べ続けました。
男「はぁ…」
リビングの椅子に深く腰掛けているこの男。今は深くため息をつきながら天井を仰いでいる。
男「どうすっかなぁ…この状況。」
男は少々乱暴に自分の頭を掻きむしる。と、そこに
「どうしたです?」
「イライラしちゃよくないのです。」
「カルシウムがたりてねーです?」
フローリングの床をトコトコと歩いてくる三匹の小人のような生き物。
男「あぁー妖精さん、起きてたのか。」
「あたりまえ。」
「おなかすきました。」
「もう12じすぎてるのです。」
男「もうそんな時間か。じゃあ俺たちも昼飯食べるかな。」
「たべるのです。」
「てつだうのです。」
「みんなをおこしてくるのです。」
男「はぁー食った食った。」
「たべたのです。」
「うまかったのです。」
「おなかいっぱいです。」
男「ん、もうこんな時間か。そろそろあの娘の包帯を取り替える時間だな。」
ー寝室ー
コンコンコン
『入っていいかな?』
艦娘「あ、はい。どうぞ。」
さっきと比べて明らかに声に明るみが増しているのが分かる。
ガチャッ
男「そろそろ包帯を取り替えに来たんだけど…」シュルシュル…
男「お…血、止まってるな。」
もうすでに血は止まっていた。それだけでは無い。この短時間で傷もかなり回復しているのだ。
艦娘「あ…あの…」
男「ん?」
艦娘「助けてくれたんですよね…こんな私を…ありがとうございます…」
うつむきながらか細い声で喋る艦娘。その目には薄く涙を浮かべている。
男「そんなの、別にいいってことよ。俺も驚いたぜ、何かが爆発したと思ったらお前が血まみれで倒れてたんだもんな。」
艦娘「それで…あなたの名前を…」
男「ああ、俺の名前か?俺は〇〇っていうんだ。それで、そっちの名前は?」
艦娘「名前、…吹雪…。特型駆逐艦の1番艦、吹雪です。」
自分の名前を最後に口にしたのは何日ぶりでしょうか。あやうく忘れていたところです。
男「吹雪か…なかなか良い名前じゃん、よろしくな。」
吹雪「え…、その…はい、よろしくお願いします。」
私はその手を弱々しく握りました。こんなに暖かい手を握ったのは初めてです。
冷たい手しか握ったことのない私のその手を男は強く、優しく握りしめてくれました。
こんな人が私たちの指揮官だったら…。なんてつい、夢を見てしまいます。
男「えっと…そろそろ手を離してもらっていいかな。」
気づけば私は無意識のうちにずっと握っていたようです。
男「それで、君に質問があるんだが…」
ピーンポーン…ピーンポーン……
突然として鳴るインターホンの音に私の意識は現実に戻されました。
男「ん?なんだ、客か?」
男「はいはい、今開けますよっと。」
ガチャリ
男「どちらさまでしょ……」
金属製のそこそこ重いドアを開け、訪問者を見上げる男。
しかし、彼の言葉は途中で途切れてしまった。それもそのはず。なんと、扉の前に立っていたのは…
憲兵「………。」
ゴリゴリマッチョの憲兵さんだったからだ。
男「………。」
パタン…。
相手を確認した男はすぐさま扉を閉めた。いわゆる”そっ閉じ”というやつだ。
男「俺は何も見ていないぞ…。」
目頭を押さえながらつぶやく男。ちょっと泣いてる…。
男「いや…見間違いかもしれない。きっとそうだ。よし…」
ガチャリ
憲兵「………。」
男「」
何度見ても同じだ。扉の前にはマッチョ憲兵が待ち構えていた。
男(やべぇよ…俺が何したってんだよ…。)
憲兵「お前が〇〇だな?」
男「え!?あ、あぁ、そうだけど。」
憲兵「そうか。急な話で悪いが、大本営で元帥閣下がお前をお待ちしている。一緒に来てもらおうか。」
男「あー、な〜んだ。大本営に出頭ね。おーけー、おーけー。」
男「は〜、良かった。良かった。」
男「…………。」
男「…は?」
男「ちょ、え?」
憲兵「さあ、早く来てもらおうか。」
男「え?えええぇぇ!?」
ー大本営ー
コンコンコン
元帥「入れ。」
憲兵「失礼します。例の男を連れて参りました。」
元帥「おお、そうか。では早速中に通してくれ。」
憲兵「はっ! ほら、早く中に入れ!」
男「ったく…何でこんなとこ来なくちゃいけないんだって…い、痛い!押すな!」
元帥「君が〇〇君か、よくきたね。まあ、立ち話もアレだから、まずはこれに腰掛けなさい。」
男「…?あ、あぁ。こりゃどうも。」
妖精A「ここがだいほんえい…はじめてきました。」
妖精B「でっけー…!」
妖精C「なんでよばれたのです?」
男「そ、そんなこと俺に聞かれてもねぇ…。」
元帥「………。」
元帥(この男にも妖精が見えるのか…!)
元帥(深海棲艦と戦う男と妖精か…。ふふっ、面白い。どうやら、この男にも提督としての素質があるようだな…。)
男「それで、話って何なんだ?出来れば早めに終わらせてほしいんだが…。」
元帥「話というのも、君に頼みたい事が一つあってだね…。」
男「頼みたいこと?軍のトップが一般人の俺に何の頼みだ?」
元帥「これは、君にしか頼めない事なんだ。聞いてくれるか?」
男「まぁ、そんなに難しい話じゃなければ。」
元帥「うーむ、話せば長くなるんだが……」
かくかく…しかじか…
男「なるほど、つまり…」
男「今、あんたたち海軍は深刻な人手不足に陥ってて、どうしようもないって時に、」
男「偶然、提督資格者で深海棲艦を撃退した『一般人』の俺にこの話を持ちかけたわけだ。」
元帥「つまり、そうなっちゃうね。」
男「…本気か?」
元帥「もちろん、本気さ。」
男(マジかよ…。)
元帥「で、返事は?」
男「もちろん、却下だ。」
元帥「あ、やっぱりね。」
男「大体、そんなことやって俺に一体なんのメリットがあるんだよ。」
男「招集理由もしょうもないし。なんだ人手不足って、全部そっちの責任じゃねぇか。」
男「くっだらねぇ。俺はもう帰るぞ。」
そういうと男は勢い良く立ち上がり、ドアノブに手を掛ける。
妖精A「え…〇〇さん…」アタフタ
男「じゃあな。」
元帥「深海棲艦の撲滅。」
突然、元帥が呟くように放ったこの一言。
男「……何?」
その言葉が彼の耳に入った瞬間、その手は止まった。脳内に蘇る惨劇。
元帥「提督になれば少なからず艦娘と共に奴らと戦うことになる。」
元帥「しかも君、話によれば深海棲艦をかなり恨んでいるそうじゃないか。」
元帥「どうだ。君とっても私達にとっても損は無いと思うのだがね。」
男「その話、誰から聞いた…!」
元帥「さあね。君がこの話に乗ってくれればそのうち分かるんじゃ無いか?」
男「………。」
男「よし、いいだろう!その話、乗った!」
元帥「おお、そうか、そうか。感謝するぞ。そうと決まれば早速鎮守府へ向かって欲しいんだが、今日はもう遅い。」
元帥「日を改め、明日にでも鎮守府に向かってくれ。迎えの車は君の家へ向かわせよう。」
男「お、そうか。じゃあ俺たちはそろそろ…。」
元帥「ああ、そうだった。大事な所を忘れていた。」
男「なんだ。まだ何かあったのか。」
元帥「まぁ、そう慌てるな。君が着任する鎮守府なんだが、本来なら艦娘達が迎えてくれるはずなのだ。」
男「ふーん。それで?」
元帥「…そこの鎮守府の艦娘は少し違ってね。」
男「少し違う?違うって、どう違うんだ?」
元帥「彼女達は人間を憎んだり、恐れているのだよ。」
男「はぁ、そりゃなんで?」
元帥「どうやら前の提督にかなり酷い扱いを受けていた様でね。彼女達と接触する時には十分気をつけてくれ。」
男「なるほど、了解。」
元帥「そういえば、君の家には今保護している艦娘がいたね。」
男「ん?あ、あぁ。吹雪のことか。それがどうしたんだ?」
元帥「その娘は君が着任する鎮守府に所属していた艦娘だ。」
男「つまり、俺が着く鎮守府の詳しいことについては吹雪から聞けと。」
元帥「そういうこと。それじゃ、明日からよろしく頼むよ。」
ー翌日ー
チュンチュン…チュンチュン…
男「ん…もう朝か…。」
プー!プップー!
やかましいクランクションの音が部屋じゅうに響く。
そういえば、元帥が迎えの車を送るとか言ってたっけ。それにしても近所迷惑だっつうの。
男「よっこらせっと。」
ゆっくりと体を起こし、伸びをする男。
男「さて、まずは妖精さんを起こしに行かないとな。」
吹雪「あ、あの、おはようございます。」
男「ん、あぁ。おはよう。早いんだな。」
吹雪「えぇ。あの、昨日はありがとうございます。」
男「ん?何が?」
吹雪「私、あんなに温かい食べ物、久しぶりに食べて…。」
男「え、マジかよ。」
男「ま、まあいい。そうだ、吹雪。妖精さん達を起こすのを手伝ってくれないか。」
吹雪「はい。いいですよ。」
吹雪「………。」
吹雪「あ、あの!」
男「ん?どうした。」
吹雪「ありがとうございました。私を助けてくださって…。美味しい食事を食べさせてくださって…」
吹雪「それから…、えっと…」
男「…吹雪。」
吹雪「はい…。」
男「その続きは…鎮守府に着いてからにしようか。」
男「それに、俺も吹雪に言いたいことがあるからな。」
吹雪「え、それって…」
男「がんばろうな、吹雪!」ポン
吹雪「……!」
吹雪「はい!吹雪、がんばります!」
男「よし、皆準備は出来たな?」
妖精s’『はい!』
吹雪「は、はい!」
男「それじゃ、出発だ!」
ガサゴソ…
揺れる車の中で大本営から送られてきた資料に目を通す。
昨日、まんまと元帥の手口に乗せられた俺は、人里離れた鎮守府に着任することになった。
…そこは、数週間前の深海棲艦による襲撃によって鎮守府は完全に機能しなくなったらしく…、
吹雪を除いた艦娘たちは消息不明…。
そこの指揮官は逃げ出したのか、行方は未だに掴めずのまま…。
そのまま軍はろくな調査もせずにその鎮守府を放置。
うん…。絶対にヤバイやつだわこれ。
提督「全く、何考えてるんだか・・・。」
提督「まぁ、悩んでても仕方ないか…。」
ー鎮守府前ー
提督「ふぅ…。結構遠かったな・・・。」
妖精A「かなりこたえました・・・。」
提督「…それにしても・・・。」
コオオォォォォ……
提督「ひどいな…。ボロボロだ…。」
提督「話には聞いてたけど、まさかこれ程とはな…。」
提督「仕方ない…、行くぞ。」
吹雪「あ、はい!」
提督「………。」
正直な所、頭が痛くなって来た。いろんな意味で。あの元帥の口車にまんまと乗せられた俺も俺だが、これは無いだろう。
鎮守府は、建物としての形こそ保てているものの、窓ガラスのほとんどが粉々に割れている。
屋根もところどころ吹き飛んでいる。これ、雨風防げるのか?
外壁なんかにはヒビ入ってるし…。鎮守府の看板なんて、ほとんどすすけて『鎮守府』の文字しか見えないぞ。
本当…ヤバイな、ここ。
提督「中に入るぞ…。」ガチャ
ギイイィィィ…
玄関扉が不気味な音を立てて開く。長いこと使われていなかったのか、ガタついていてかなり重い。
と、扉を開けたその瞬間。とてつもない悪臭が提督たちの鼻を刺した。
提督「…っ!!」
吹雪「? どうかしましたか?」
妖精A「こ…これは…!」
妖精B「きつすぎるぜ…!!」
提督「血の匂い…。それも、立っていられなくなるほどの凄い匂いだ…!」
吹雪「…!!」
提督「くっそ…先に進むしかないか…。」
ー執務室前ー
提督「へーえ…。ここが執務室ねぇ。」
提督「なんつうか、存在感が凄いな。ここだけむっちゃ綺麗にしてある…。」
提督(数週間は開いていたはずだが…変だな。)
提督「資料によると、大淀って人がいるはずなんだけど…。」
提督「大丈夫かなぁ。吹雪は後で来ると言ってたが…。」
提督「とりあえず入ってみるしかないよなぁ。はぁ・・・。」
ガチャッ
???「…っ!だ、誰ですか・・・?」
提督「俺か?俺は今日からここに着任することになった提督だ。君が大淀だね?」
大淀「は、はい・・・。私が大淀です。」
提督「そうか。改めて初めまして、俺が新しい提督だ。よろしく頼む。」
カチャッ
大淀「こ、来ないで!!」
提督「…!!」
大淀「…はっ!こ、これはその…違うんです!!」
提督「いや、それは分かってるけど…。」
大淀「あ、あぁ…!!」ガクガク
大淀「も、申し訳有りません!提督様!わ、私、提督様にとんだご無礼を!!」
提督「…!!?」
提督「お、落ち着け!確かに出会い頭にソレは驚いたけど・・・。っ!!その傷は!」
大淀「この傷…ですか?これは、前任提督に『お前たちは兵器だ。俺の道具だ。』と言われてつけられた傷です…。」
大淀「といっても、ほとんどの娘にもこの傷はあります。」
提督(そういえば、あの時の吹雪にも…!)
大淀「中には、強制的に夜伽させられた娘もいて・・・。うっ・・・うぅ・・・。」
そういうと彼女は突然泣き始めた。それほど嫌だったんだろう。
提督「大淀!!」ガバッ
すると提督は、大淀を強く、優しく抱きしめた。
大淀「な、なにするんですか!は、離してください!!」
提督「大丈夫だ…、アイツはもういない。今日から俺がここの提督だ、心配するな。」
大淀「…!!」
提督「たとえ、世界中の人々がお前たちの事を兵器だと言っても、俺だけはお前たちの味方だ。俺が守ってやる。」
大淀「…提督……。」
提督「だから…今は泣け。今までの嫌な思い出を忘れるくらいにな…。」
大淀「はい…提督・・・!提督・・・!!」
大淀「う、うぅ・・・うわああああぁぁぁ………うわああぁぁぁ・・・・!!!!」
彼女は、提督の胸の中で泣き崩れていった。その頭を提督は優しく撫で続ける。
提督「少しは落ち着いたか?」
大淀「はい、おかげさまで…。」
提督「…だってよ。そろそろ入ってきて良いんじゃないか?吹雪。」
ガチャ
吹雪「えっと…その…ごめんなさい!」
大淀「ふ、吹雪ちゃんじゃない!あなた、大丈夫なの!?」
吹雪「大淀さん!はい。司令官に助けてもらいました。」
大淀「そうなの…!提督、何から何までありがとうございます。」
提督「いや、それほどでも…」
妖精A「なんてったって、ずっとつきっきりでかんびょうしてましたもんね。」
吹雪「え!そうだったんですか!?」
提督「ちょっ!それは言わないって…!!」
妖精B「え〜。いーじゃん!いーじゃん!」
大淀「あらあら、提督。」
提督「悪いな。こんなやつらで。」
大淀「いえいえ。良いんですよ。」
大淀「では、改めてよろしくお願い致しますね。提督。」
提督「あぁ、よろしく。」
そう、提督が手を差し伸べた時だった。
バリイイィィィン!!!
全員「…!!!」
突然、部屋中にガラスの割れるような音が響く。どうやかなり近い場所で割れたようだ。
妖精B「な、なんだぁ!?」
提督「今の音は一体…?」
吹雪「この奥からです!」
彼女が指差した先には、大きめの本棚がある。一見何の変哲も無い本棚だが、確かに音はこの先から来ている。
…いや、先というよりかは裏と言ったほうが正しいだろうか。
提督「……なんともないけど?」
吹雪「でも、たしかにこの奥から…。」
妖精C「お、これすいっちか?それ、ぽちっとな。」カチッ
ゴゴゴゴゴ…
提督「うおっ!なんだ!?本棚が…。」
妖精E「うごいた!」
大淀「これは…。」
吹雪「隠し扉…、でしょうか…。」
提督「鍵は開いてる。行ってみる価値はあるな…。」
提督(しかし…わざわざ作ってある隠し扉なのに、鍵がかかってないのは不自然だな…。)
提督「・・・・。」
妖精A「…?どうしました?」
提督「い、いや、なんでもない…。行こう。」
ギィィィ…
提督「うっ!入り口よりも凄い匂いだ…!」
妖精A「これは…きつすぎるのです…!」
提督「くっそ…。進むしかねぇか。」
石造りの地下室を進む提督。おまけに謎の腐敗臭が半端じゃない。しかし、内部は不気味なほど綺麗に保たれている。
提督「この鎮守府に、まさかこんな物があるとはな…。」
大淀「私も、こんなものがあったなんて…。」
提督「…行こう。この先に何かあるかもしれない。」
提督「・・・ここが最奥みたいだな。」
妖精A「すんすん…。なんでしょう、なにかへんなにおいがしますね。」
吹雪「何かの薬品…でしょうか。」
提督「開けるぞ…。」
ガチャリと、思いの外ドアノブは軽かった。まるでつい最近まで誰か使っていたみたいだ。
提督「・・・!!おい、大丈夫か!」
そこには、一人の少女が倒れていた。提督は慌てて駆け寄る。
少女の首にはハートの装飾をしている首輪がしてある。なんとも趣味の悪い首輪だ。
よく見ると首輪にタグがついている。タグに書かれた少女の名前は…
大淀「う、嘘よ…そんな…!」
吹雪「島風…ちゃん……?」
駆逐艦、島風。
大淀「でも、島風ちゃんは確か…」
提督「うっ!酷い熱だ…!それに…。」
全身はズタボロに傷つき、髪は乱れ、ピクリとも動かない。
提督「くそっ!…確か、執務室の近くに医務室があったはずだ!」
提督「まずはそこへ!大淀、手伝ってくれ!」
大淀「は、はい!」
ー医務室ー
島風「・・・・。」
提督「島風・・・。」
提督「…」ギュ
生気をほぼ持たないか細い手を、提督はやさしく握る。
提督(こんなにも冷たくなって…。)
提督(待ってろよ…。今、俺が助けてやるからな・・・。)
吹雪「…それで、島風ちゃんは大丈夫なんですか?」
提督「ああ、心配ない。幸い、気絶しているだけだ。」
大淀「そうですか…。良かった・・・!」
提督「だが、この分の怪我が直るには相当な時間がな…。」
提督「なにか、良い方法は・・・。」
妖精C「それなら、”ばけつ”があるのです。」
提督「バケツ?」
吹雪「私達艦娘を治す修復材と呼ばれるものです。」
大淀「最後に見たのはたしか…、”ドッグ”だったかしら。」
提督「ドッグか・・・。よし、俺が探してこよう。」
吹雪「わ、私も行きます!」
提督「いや、だめだ。吹雪たちはここで島風を見ててくれ。」
吹雪「でも!」
提督「吹雪もここまで来るのに疲れているだろう。今はここで休むんだ。」
吹雪「…はい・・・。」
ー鎮守府廊下ー
提督「さて、まずはそのドックとやらを探しに行くか。」
提督「しっかし・・・。」
ギイィ…ギイィ…
歩くごとに床が悲鳴を上げている。どれだけ放置されていたのだろう。
提督「この床、どんだけボロいんだよ…。いつか抜けるんじゃねぇのか…?」
ードックー
提督「お、あったあった。これがバケツか。」
提督「…最後の一つか、まあいいや。」
提督「よし、島風たちのところに帰るか。」
提督「…それにしても、本当に誰もいないな…。」
ヒソヒソ…
提督「前言撤回。誰かいたわ。」
ボクガ……ダチヲ…ネ…
提督「…?なんて言ってんのかよく聞こえないな…。」ソローリ
バキバキッ!!
提督(うおっ!床が…抜けっ…!?)
???「っ!!誰だい!」
提督(し、しまった!くそっ!!なんでこんな時に…!!)
提督(ぬ、抜けねぇ…!!)
ガチャッ
???「動くなっ!」
暗くてよく見えないが、恐らく砲を向けられている。
…ここは動かない方が賢明だろう。
???「はぁ・・・、はぁ・・・、何者だい?」
また自己紹介するのか…。
提督「俺は今日からここに着任する提督だ。」
???「人間が今更…一体何の用だい……?」
見た感じ、怪我をしているようだ。息もかなり荒い。
提督「おい、大丈夫か?」
???「人間なんかに…心配される覚えは・・・うっ!!」
バタッ
砲を向けていた艦娘は、提督の前で力なく倒れた。
???「・・・。」
提督「…!?おい、しっかりしろ!おい!」
提督「…しょうがない。この娘も休憩室に連れて行くか。いよっ!」
提督「ふぅ。やっと抜けた…。」
提督「よっこらせっと。やっぱり軽いな。」
???「なん・・で・・。」
ー医務室ー
ガチャ
提督「妖精さん、言われた通りバケツを持ってきたが…。」
本当に治るんだろうか・・・。
妖精A「あとは、それをかけるだけです。」
提督「でも、一つしかないぞ?」
妖精B「む、これはこまったね…。」
吹雪「…それなら、布に染み込ませるなんてどうでしょうか?」
提督「布か、なるほど。」
妖精A「じゃあ、ふくをぬがせるので、ていとくさんは…。」
バタン…
…追い出された。
はぁっとため息を吐きながら、ボロボロの壁にもたれる。
ふと、俺は彼女たちに出会った時のことを思い出していた。
『こ、来ないで!!」
『人間が今更…いったい何の用だい……?」
ここに来るまでにあった娘はみな傷ついていた。
心も…体も。俺は、どうしたらいいのだろう。どうしたら、彼女たちを助けてあげられるのだろう。
その答えは…もう……。
レイカン…シレイカン…。
吹雪「あの、司令官。どうかしましたか?」
提督「はっ!…あぁ吹雪か。なんでもない。それで、どうしたんだ?」
吹雪「傷の手当てが済んだので…呼びに来たんですけど…。」
吹雪「何度呼んでも返事がなくて・・・。」
提督「すまない。…少し、考え事をな。」
吹雪「そうなんですか?なら、いいんですけど・・・。」
吹雪「司令官もあまり無理はしないでくださいね。」
提督「あぁ、分かった。」
…それにしても、こうまで完璧に傷が癒えるとは思わなかった。
しかし、いくら傷が治ったとはいえ、彼女たちの心の傷まで言えたとは到底言えないはずだ。
…もしも、今彼女たちが目覚めたらどうなるのだろう。
いや、考えなくてもわかる。吹雪たちはともかく、間違いなく俺は警戒されるだろうな。
ドカッ
提督「!?」
突然後ろから衝撃を受け、倒れこむ。
吹雪「司令官!?」
ガチャッ
後頭部に砲を押し当てられる。
提督「…もう体はいいのか?」
???「…何故僕を助けたんだ。」
提督「そりゃあ、あんな怪我していたんだから、放っておくわけにはいかないだろう。」
???「黙れ!偽善者め・・・!」
時雨はグッと砲をさらに押し込む。
大淀「ちょっと!時雨ちゃん!」
時雨「君も、他のヤツらと同じなんだろう?」
時雨「最後には裏切るんだ・・・!!」
吹雪「…それは違います!司令官は…!」
時雨「うるさい!吹雪、君はこの男の毒牙にかかったのかい?」
吹雪「っ!」
提督「時雨…!君は…本当は辛かったんだろう…!?」
時雨「黙れ、黙れ!君達に、いったい僕の何がわかるっていうんだ!」
バッ
そう怒鳴り散らすと時雨は踵を返し、部屋を飛び出て行ってしまった。
吹雪「司令官!大丈夫ですか!?」
提督「いてて…ああ大丈夫だ。」
提督(時雨・・・・・。)
妖精A「あれ、どこいくんですか?」
提督「…ちょっと執務室で頭冷やして来る。しばらく一人にしてくれ・・・。」
ー執務室ー
『君達に、いったい僕の何がわかるって言うんだ!』
提督「・・・・・。」
提督「分からねえよ…!」
ゴトッ
突然、机から何かが落ちた。
提督「…?これは…。」
前任の日誌だ。残虐な非行の数々が記されていた。見れば見るほどムカっ腹が立って来る。
日誌に書かれた最後の出撃はちょうど数週間前。俺が吹雪を発見した日だ。
最後のページには名簿が挟まれていた。
提督「全員で数十名ってとこか。…?」
提督「本日の担当艦…、第六駆逐隊?なんだこれ。」
提督「それと、引き出しの中には…ノートパソコンか。どれどれ…。」
カタカタ…
提督「一通り調べたが、特にこれと言ったものはないな…。ん?このソフトは・・・。」
提督「…なるほど。これは鎮守府全体の地図みたいだな。」
提督「ここが今いるところで・・・、これは…食堂か。」
提督「何か気になるな・・・。よし、行ってみるか。」
ー食堂ー
提督「ここが食堂・・・・なのか?」
本来ならば食堂とか書かれているのだろう。
今は食堂の『堂』の文字が欠けて、『食』としかなっていない。
ギイィィ…
中へ入ってはみたものの、とても食事ができる場所とは思えなかった。
嗅いだことのない異臭が立ち込めて来る。換気は出来ているのだろうか。
提督「おいおい・・・。」
彼が見つけたのは、ちょうど今から食事を取ろうとしている艦娘たち・・・なのだが。
みな、こちらを様々な目で見ている。怯える者、睨みつける者…。
ざわざわ・・・
提督(ざわめいてるな・・・。まあ無理もないが…。)
彼が口を開こうとした次の瞬間、
???「おいテメェ!人間なんかがここに何の用だ!!」
ガッ
提督「っ!!」
突然、飛び出して来た一人の女性に胸ぐらを掴まれた。
提督「ま、待て!俺は敵じゃない!」
???「そんなこと聞いてるんじゃねえんだよ!ぶっ殺されてえのか!?」
グググ…
提督(な…なんつー力だっ…!)
足が地面から離れてしまった。彼女の手で喉が圧迫されてゆく。
提督「がっ…!はっ……!!」
苦しい…!息が、できない…!!
提督「お…落ち着いてくれ…!俺は…ここに…着任することになった…提督だ・・・!!」
???「そんな事、誰が信じるかよ!」
そ、そろそろ本当にマズい・・・!
バンッ!
吹雪「し、司令官!それに…摩耶さん!」
摩耶「…!?ふ、吹雪じゃねえか!お前、どうしてここに!それに…!」
提督「し、島風…!」
島風「てーとく、大丈夫!?」
提督「あ、あぁ。大丈夫だ。それより島風、お前、俺が怖くないのか?」
島風「うん!吹雪ちゃんや大淀さんから全部聞いたよ!」
摩耶「島風…!お前、幽閉されてたはずじゃ・・・!」
島風「うん。でも、この提督に助けてもらったの!」
摩耶「…じゃあ、お前が新しい提督だってのは。」
提督「ああ、さっきも言ったが本当だ。」
提督&摩耶「・・・・・。」
二人の間に静寂が広がる。
摩耶「・・・わりぃ。」
提督「いや、いいんだ。誤解が解けてよかった。」
提督「それより、ここで食事をとっていたみたいだが。」
摩耶「・・・これが食事に見えるのか?」
提督「っ!これは…!」
プレートの上に乗っていたのは粗末など可愛く聞こえるほどのものだった。
弾薬に、燃料。どれも人が食べるものではない。
提督「そのプレートに乗ってるのは燃料だろ?このドングリみたいなのは弾薬。」
提督「そんなもの食べていいわけあるか!!」
摩耶たちのプレートから強引にそれらを奪い取る。
提督「吹雪、島風!悪いが、急いでこいつらを破棄してきてくれ!」
吹雪「は、はい!」
島風「おうっ!」
ー数分後ー
島風「ただいま!」
提督「おっ、早いな。」
吹雪「はぁ…はぁ…島風ちゃん…速すぎ…。」
提督「二人ともお疲れ様。それと・・・」
提督「いるんだろう?隠れてないで出てきなよ、時雨。」
時雨「…いつから気づいていたんだい?」
提督「足音が一つ多いからな。床がボロいもんだからすぐ気づけたよ。」
提督「・・・俺のことはまだ信用できないのか?」
時雨「・・・・・。」
吹雪「時雨ちゃん、今度の司令官は前の人とは違うんだよ。」
吹雪「…だから、もう一度だけこの人を信じて、前を向いて歩いていこうよ。」
時雨「・・・・・。」
時雨「…そうだね、吹雪がそう言うなら信じてみようかな。」
吹雪「…!!」
よかった…!なんとか時雨ちゃんと和解できたみたい。
提督「・・・じゃあ、お前らに手伝って欲しいことがある。」
島風「それって?」
提督「お使いだ!って言っても俺も行くけどな。」
吹雪「お、お使いですか?」
提督「そうだ、お使いだ。何か不満か?」」
吹雪「いえ…。」
提督「とにかく行くぞ。いいか、世の中にはな、あんなギトギトした燃料や、火薬臭い弾薬なんかよりもずっと美味いものがあるんだよ。」
摩耶「そ、そうなのか!?」
提督「当たり前よ!まぁ、とにかく買い物だ!車は外に用意してあるぜ。」
吹雪と島風、それに妖精を連れ、外の車に乗り込む提督たち。
近くには工房もあり、ボロボロのクレーンが今にも取れそうだ。
提督「よーし、乗ったな。これから街へ出かけるぞー。」
島風「これが車…。」
妖精「あれ、そういえば〇〇さん。めんきょしょうもってましたっけ?」
提督「・・・・・。」
妖精「…〇〇さん?まさか・・・。」
提督「うるせえ!バレなきゃ犯罪じゃぁねえんだよ!」
妖精B「うっそだろおい!」
提督「かっとばすぞ、つかまれッ!」
エンジンは唸り、激しく土煙を上げながら車は爆走する。
吹雪「し、司令官!速すぎです!」
提督「島風、どうだ!これが外の世界だぞ!」
島風「楽しい!もっともっと!」
提督「おう!任せろ!」
それから約10分が過ぎ、町へと到着した。
町の規模はさほど大きくもなく、そこそこ賑わっている町だ。
提督「さて、八百屋と肉屋はどこかな?」
吹雪「何を作るんですか?」
待てない・・と言ったら?どうする?
ふはははは!!
個人的な事だけど歯が痛い・・・
↑歯医者行きなさいよ(笑)近くでやってなきゃあロキソニン飲んでごまかせるか試してみなよ。
ブラック鎮守府...ゆうしぐ...うっ頭が...
提督の悪堕ち期待
題名なら、全てを失った青年と人々を嫌う艦娘、シンプルですがどうですか?
タイトルねぇ、語呂よく行って
[首狩り提督復讐譚]なんてのは
どうよ?
・・・どっから首狩りが出たかってのは、言わない約束で
地の文が艦娘達の心境や境遇をとても分かりやすく表現されていて、
とても読み易い。
自分は少し難しくしてしまう癖があるから、こういうのは見習わなくてはいけないと思った。というか面白い!
タイトルなのですが......「君が為の英雄譚」はどうですかね?
厨二臭いですが......。
超期待
1<<更新はカタツムリレベルですが良ければ見てやってください…(汗)
3<<ブラ鎮要素もゆうしぐ要素も出しますんで安心してください。
4<<悪堕ちというか、提督自体が準悪みたいなキャラなので…。
5<<意見ありがとうございます!シンプルイズベスト!
6<<意見ありがとうございます!
タイトル名の「譚」の字が読めなかったのは秘密です…。
7<<タイトルありがとうございます!
面白いなんて褒められると主は調子乗っちゃいますよ?
8<<これからの展開に期待してくれると嬉しいです!
続きが楽しみです!多大なる期待を寄せつつ待ってます!(`・ω・´)
続きに超期待です!楽しみにしてます!
でもくれぐれも無理はしないように...
インフルエンザは洒落になりませんからね...←今年インフルにかかった
11<<応援ありがとうございます!
更新ペースは遅めですが、頑張ります!
12<<超期待・・・だと!?
主はインフルエンザは去年かかりました。初日はもう大変で…
こちらも現在、近代兵器無双提督×艦これを製作中也。
提督の愛機はみんな大好きフランカー
14<<お互い頑張りましょう!
近代兵器無双提督…だめだ、脳みそが乏しい主には想像できない…。
ブラックはいいっすね^~
悪堕ちも見てみたいところだけど、提督の過去も見てみたいです。
どうしてブラック鎮守府へと変貌してしまったか、みたいな(?)←
応援してますので、これからも頑張ってください。
久々に読みごたえたっぷりなssです! 続きをお待ちしております。
16<<ブラック鎮守府と提督の過去…なるほど、考える価値ありですね!
応援ありがとうございます!
17<<これからどうなるか…それは今後のお楽しみに…。
確かにこの戦い方は敵を一網打尽にでき だと思います。
耳を塞ぎたくなるという表現もたしかにあるのですが、 後ろに直視という言葉をつかっているから
目を背けたくなる という方があっているような気がします。
感じ方 考え方の違いでしょうね。
表現の前の部分は艦娘たちの実際の声 、後ろには直視という言葉。
面白い場面だと思います。
死食 は関係なさそうですね←ナンの話だ(笑)。
だらだら上から目線でコメントしてすみません。
なんか分かりやすくて 面白そうなお話だったので 突っ込んでしまいました。
長々と失礼しました。
19<<上から目線ですみませんだと?とんでもねぇ、待ってたんだ。
指摘箇所は訂正しておきました。
まじ久しぶりの良作だぜ・・・・
良作の予感!
これからも頑張って下さい!応援してます!
21<<まじやる気出てくるぜ・・・
22<<頑張ります!応援ありがとうございます!
19のコメントをした者です。
19での指摘は忘れてください。 色々と勘違いをしてしまい、申し訳ありませんでした。
○○がどんな戦いをするのか、これから何をしていくのかが楽しみです。
今宵花吹雪~♪♪(*^▽^*)
24<<いえいえ、むしろ感謝してますよ。
〇〇のこれからに、乞うご期待!…ってね。
時の嵐の中で今、舞い散る花の涙!
提督よ、誰がために(たがために)とか?
26<<それってタイトル案の件ですかね?
タイトル募集についてはもう既に締め切っているので…。
説明不足で申し訳ない…。
ブラックはやはり現実と直視させられますねぇ
自分的にはブラック鎮守府の過去や 提督無双なんかが見たいです
応援しています!頑張って下さい!
28>>ブラ鎮の過去話についてはかなり先の話になりそうです。
提督無双…!そういう手もありますね!
応援ありがとうございます!現実にも負けずに頑張ります!
続きはよ!
…はよ!(懇願
クソッ!良いところで止めやがって続きが気になって夜も寝れねーよ馬鹿野郎!(誉め言葉)
とても良い作品だと思います!深海棲艦を憎む男が提督となり、どうやって傷ついた艦娘達の心を癒して行くのか!本当に続きが気になります!
花粉が未だに無慈悲にも飛び交っていますが応援しています!頑張って下さい!
30>>主、頑張ります!
31>>応援ありがとうございます!夜はきちんと寝ましょう!
花粉症…もうそんな季節なのかぁ…。
これは良い作品
そして更新を待ってた!
んー、この提督には信頼出来る別の提督が味方に付いてほしいかなぁ、悪落ちはともかくストレスマッハになりそうなイメージ(※カウンセラー目指してた目線からの勝手な判断)
出てほしい艦娘は三日月(※嫁艦)とか村雨とかですねぇ
ともあれ、無理せずに、楽しみにしております
続きが
物凄く
気になります
33<<コメントありがとうございます!
そうですねぇ…。味方に付く別提督については少し考えておきます…。
三日月、村雨ですね。了解しました!睦月型はよいぞ……
34<<続きは
ゆっくりと
お待ちください
さぁ、面白くなってまいりました!
最高のSSです!続きも期待してます!
はやく書いてくれよな〜頼むよ〜
これはブックマーク登録不可避!
初期の頃から見ているので、一時はどうなるかと思いましたが
良い感じにまとまってきて何よりです!(初期の時雨は今よりもっと闇が深かったけれど、今回は少し和らいでいる模様)
続きを超期待しています!
ブラ鎮のやり方見てるとどうも効率悪そうなんだよな…合理的でもないし人道的でもないし…
ところで島風が出るなら親友の天津風も出るよな!!ナァァァァ!!
ふふ いいねいいね 更新が楽しみだね!
・・・ある・・・よね(ちら
続きが気になるネー!!
早く出してほしーデース!!
今の提督が前のクズ提督を倒すところをはやく読みたいᕕ( ᐛ )ᕗウキウキ
続きを...続きをくれ...
本ssをご覧の皆様、初めまして。またはお久しぶりです。春雨麻婆豆腐です。
主は、訳あってこちらでのss執筆ができなくなってしまいました。
なので、新アカウントにてこちらのssの内容をある程度引き継いだ、新しいssを執筆させていただきます。
このような対応が遅れ、皆さまに迷惑と混乱を招きましたことを、お詫び申し上げます。
今後ともよろしくお願いします。