2018-02-05 18:33:40 更新

概要

2036年。
深海棲艦の勝利から3年後。
ここに、艦娘を基に戦後に作られた深海棲艦がいる。
彼女は3年前の敵である艦娘に興味と小さな憧れを持っていた。

大半の人間に、敗者として貶められ、嫌われてる艦娘に、興味を持っていた。

そんな深海棲艦は、艦娘を救いたいと願った。

*艦娘に対しての暴力や虐待があります。
*艦娘が死ぬ予定はありません(すでに死んだのは除いて)
*シリアス中心の小説です。
それらが苦手、嫌いな方は、閲覧をお勧めしません

*初の小説のため、もしかしたら多少のミスがあるかもしれません。


前書き

ずっと読み専だったので、たまには書いてみようと書き始めた小説。
主人公は深海棲艦、舞台は深海棲艦勝利の戦後。
初の小説ですが、読んでいただければ幸いです。


Prologue:戦後


2036年。

戦後約3年。

人間と我々との間で繰り広げられた戦争は、我々『深海棲艦』の勝利で終わった。

その原因は、人間が持つ資材が尽きたことだった。

深海棲艦は、人間の味方である艦娘が沈めば沈むほど増えるのに対し、人間は艦娘を資材を使って建造しなければならない。

それ故、戦争が長引くほど人間は不利になっていき、最終的に白旗を上げてしまった。

人間は頭がいいと聞いたが、意外とバカなのかもしれない。


深海棲艦が勝利した後、特に何も問題はなかった。

我々の要求は海上での戦争を禁止すること、ある一定海域に船で立ち入らないこと、そして深海棲艦に理由もなく攻撃しないこと。

この三つだった。

私は実際に見たわけではないが、その要求を聞いた人間の表情は面白かったらしい。

なんでも、「海に入ることを禁ずる」と言った厳しい内容を想像していたとか。

我々はそこまで鬼畜ではないつもりだったのだが……戦争で(先輩方が)少しやりすぎたのだろうか?



そういえばまだ自己紹介がまだだったな。

私は深海棲艦の間で研究され、戦後に『建造』された新しい深海棲艦。

艦娘を基にし、人間との交流を目的に作られた『艦娘棲姫』だ。

とりあえず、これから地上でいきなり艦娘に会ってみたいと思う。


First:偵察


深海棲艦は、艦娘と同じように艤装をつけていないと戦闘時のように強くはない。

つまり、深海に棲む我々は、その水圧や温度に耐えるため、常に艤装をつけている。

我々自身もよくわからない方法で艤装を取り外し、どこかへ収納することは可能だが、そんなことは滅多にしない。

そのため、外の温度がどれだけ寒いのか『体感』したことがない。


そんな私は、今、海から地上へ上がった後、艤装を取り外し、収納してしまった。


ずぶ濡れの状態で。


正直に言おう。

寒い。

風が冷たく、海水も冷たい。

自然の力を甘く見ていた。

数十秒も我慢できず、私は艤装を再装着し、体が乾ききるのを待った。

砂浜に座り、青空を見上げていると、声が聞こえた。

嘲笑う複数の男性の声と、弱く、悲痛な叫びを上げる少女の声。

声のする方数人の男性が、一人の少女を囲んでいた。


ーーー視点変更


私は、海が好きだ。

私は、人が好きだ。

海の上を滑り、人々を守っていたあの頃が懐かしい。

特型駆逐艦1番艦【吹雪】として海を守っていたあの頃が懐かしい。


そんな私は、今ではただの醜い『敗者』だ。

あんなに守ろうとした人に、

あんなに好きだった人に、

裏切られるのは、とても悲しかった。


何度も蹴られて、何度も殴られて、私は泣き叫ぶ。

だけど、この人たちは手を止めない。

私が敗者だから。

どんなにやめてって言っても。

どんなにお願いと叫んでも。

止めてくれない、嘲笑うだけ。

私はどこで何を間違ったんだろう?

私の首襟が掴まれる。


「おい」


女性の一言で、男の人たちの手が止まった。

何度も殴られて、朦朧とした意識の中、私は女性の方を見る。

男達も女性の方を見ていた。


ポニーテールにした夜の海のように深い黒髪。

昼の海のように蒼く鮮やかな瞳。

服は『深海』という言葉が似合うほど黒のワンピースだった。

ところどころに、白の模様が入っている。


「一体貴様らは何をしているんだ?」


流暢な日本語を話す彼女は、誰がどう見ても艦娘にしか見えなかった。

だけど私はわかる。

本能的に、あの女性は深海棲艦だと。


周りの男の人たちは、ニヤリと笑みを浮かべる。

私は砂浜に投げ捨てると、女性の方へジリジリと歩み寄っていった。

その人は深海棲艦だから危ないと叫びたかったけど、そんな気力も体力もなかった。

むしろ、そのまま返り討ちにあってしまえと思った。

私は、いつからか人が嫌いになっていたらしい。


「もう…疲れたな……」


ゆっくり目を閉じて、意識を手放した。



ーーー視点変更



なにか騒がしかったので、声をかけて見た。

怪しまれるのは嫌なので艤装は取り外してある。

男性が少女を、おそらく艦娘である少女を殴っていた。

私の方を見た男性達は、笑みを浮かべると少女を投げ捨てて私の方へやってきた。

なんだこいつら、気持ち悪い。


「おぅおぅ、なんだ?艦娘みたいなゴミが、俺たち人間様に逆らおうってのか?」


ニヤニヤした気持ち悪い表情で、私の体全体を舐めるように見る。

そして今こいつは艦娘をゴミと言ったな。

心底嫌な気分だ、殴っていいだろうか?


「もう一度聞こう、お前達は何をしていたんだ?」


「へっ、ちょっと遊んでただけだよ」


もう一人の男性が答える。

なるほど、これがクズというやつなのか。

厄介な奴に絡んでしまったな…。


「それよりあんたも俺たちと遊ば 」


「私は遠慮しておこう」


私の肩を掴もうとした男性の手を、片手で叩く。

男性は少し驚いたような顔をした。

すると、少し困ったような顔をして、拳を作った。


「ちょっと痛くしねぇとわからねぇみたいだな!」


他の男性達も、私に掴み掛かったりしてきた。

結果だけを言おう、私の圧勝だ。

深海棲艦は艤装がなければ「戦闘時ほど」の強さはない、しかしそれでも人間よりは十分強い。

あの少女を見ると、艦娘は普通の人間のように戻ってしまうらしいが。


横に倒れている少女に覗き込む。

どうやら気を失っているらしい。

安全な場所に連れて行きたいが、海軍に連れて行けば私がやったと誤解され……ん?そういえば艦娘はどうしてこんな場所にいるんだ?

普通は海軍基地内にいるものだと考えていたが…。

難しいことは好かん。

何か事情があるんだろう。

私は、事に関して考えるのを放棄した。

それからただ、少女が目覚めるまで待っているだけ



ではすまなかった。


「君が報告で聞いた艦娘か」


声をかけられる。

見ると、海軍の兵士だった。


「あぁ、海軍の者か…」


事情を伝え、艦娘の保護をお願いしようと立ち上がろうとした。

だが、頭に突きつけられた銃口が私にそれを許さなかった。


「……なんのつもりだ?」


「それはこっちのセリフだ。人間に対する暴行を行なったらしいな。艦娘のくせに、俺たちに逆らうやつがまだいるとはな…」


…どうやら、人間は艦娘のことを下に見ているらしい。

なるほど、だからあの気持ち悪い奴らも偉そうにしてたのか。

まてよ?さっきから私は艦娘だと勘違いされてるということは…


私は焦った。


「いや、私は艦娘ではなくて深k」


「見苦しい言い訳はよせ、一緒に来させてもらう……そこにいるやつも運べ」


言い訳など、させてもらえなかった。

こうして私は海軍に連行される事になった。




ーーー視点・場所変更




机の書類を片付けながら、私は思った。

最近は艦娘に関しての報告が少なくなって来たと。

大きな原因は、艦娘自体の数が解体や自殺などで減っていったことだ。

今この世の中では、艦娘を戦争の敗北の原因だと考えるものがほとんどだ。

本当の原因は、無謀な作戦の連続による資材の過剰消費だというのに、上は自分の都合のいいように情報を報道している。

そんな私は、数少ない艦娘保護、救出派のものだ。

目を付けられるとまずいので、あまり表立つようなことはできないが…。


コンコン


ドアのノックが聞こえる。


「なんだ」


「暴行を行なった艦娘を保護しました。」


私は資料から目を上げる。

まだこの世の中に反抗できるほど心を保っている艦娘がいたとは驚いた。

これは嬉しい事実だ。


「…そうか、では少し会ってみよう」


「少佐ならそういうと思いました」


ドアの向こうにいたのは、昔からの親友である一真(かずま)だった。

彼も私と同じ保護派のものだ。


「…それで、その艦娘は誰なんだ?」


「それが…不明なんです」


「不明だと?」


全国で艦娘の建造は終了しているから、新しい艦娘が作られることはない…。

では戦中に見つかったドロップ艦が見つかったのか…?

3年間も発見されず?


「…その艦娘の容姿は?」


「おそらく巡洋艦の艦娘です。

黒髪で髪を結んでおり、瞳は青、服装は黒に白の模様が入ったワンピースで、肌色は私たちと同じです。

あ、なんか自分は艦娘ではないと嘆いてましたが…」


黒い髪、青い瞳、黒いワンピースに艦娘ではない…と。

……なんか今朝の書類にそんなことが書かれていたのがあったような…。


「着きましたよ」


深く考えていたら、気づかぬうちに付いていたらしい。

一真が扉を開け、私は中に入る。

机に突っ伏していた艦娘が顔を上げた。

例の『艦娘』を見て、私は血の気がサァっと引いていくのがわかった。

今朝送られた書類で、深海棲艦から届けられたものがある。

今日偵察にくる艦娘棲姫に付いての書類だった。


「遅かったではないか?少佐…」


この時、私は死の覚悟をした。



Second:否定


ーーー視点:艦娘棲姫


兵士に少佐が会いにくると言われて数分後、ドアが開いた先にいたのは、おそらく少佐であろう人物と、先ほどの兵士だった。


「これはこれは……初めまして艦娘棲姫様」


帽子を脱ぎ、少佐が挨拶をしてくる。

隣の兵士がひどく驚いている。


「あぁ、初めましてだな……少佐よ、こうなることはまだ想定内だ、そんなに畏ることはないぞ?」


少佐の顔が真っ青で、機嫌を損なわないように無理して笑顔を浮かべているのが一目でわかる。

見ているこっちが心配になってくる。


「それで少佐よ、少し二人で話しがしたい」


少佐が何かを述べる前に、私は声をかける。


「は、はい、わかりました」


後ろの兵士に、下がっていろと少佐が言う。

少佐と同じように、ひどく不安な表情の兵士は一礼すると、部屋を出て扉を閉めて言った。

この場所で話してもいいのかと少佐に聞いたところ、

今いるこの部屋は防音対策がしっかりしているらしい。


「そ、それで話しと言うのは何でしょう?」


落ち着いているつもりなのだろうが、少佐は恐怖や不安で震えていた。

私はよくわからないが、おそらく私に何かあったら彼の上司に厳しい罰を与えられるのだろう…私も何度か戦艦棲姫によって地獄のような目に合わされたことがある。


「安心しろ、別に貴様の職に危険が及ぶような話じゃない……肩の力を抜け、こっちが心配になる」


少佐は安堵の息を吐いた。

しばらくして少佐の肩から力が抜け切ったのを見ると、私は少佐に聞いてみた。


「少佐よ、貴様は艦娘の事をどう思っている?」


少佐が少し反応し、表情が真剣になる。

少し考えてから、彼は口を開いた。


「私は、艦娘のことはあまり好んでいません…彼らと関係を持つと、必ず上司に目をつけられたりして碌な目にあいませんから」


まっすぐこちらを見つめて、彼はそう答えた。



ーーー視点変更



「少佐よ、貴様は艦娘の事をどう思っている?」


艦娘棲姫は、私にそう聞いてきた。

さて、どう答えればいいだろうか…。

私は無論、艦娘を救いたいし、仲良くしたい。

一人の女性とまではいかないが、大切な仲間の兵士として見ている。


だが、そんな事を伝えたら、彼女はどう思うだろうか。

彼女は、戦後に『建造』されたとはいえ、艦娘を敵とした深海棲艦だ。

私が艦娘を好んでいると答えれば、機嫌を損なってしまうかもしれない。

もし、機嫌を損なわなくても、艦娘棲姫から他の人物へ私のその情報が伝わり、バレてしまうかもしれない…。

私は、真実ではなく、安全を第一にすることにした。

艦娘棲姫の目をまっすぐ見て、私は言った。


「私は、艦娘のことはあまり好んでいません…彼らと関係を持つと、必ず上司に目をつけられたりして碌な目にあいませんから」


と。

とりあえず艦娘棲姫の機嫌は損なわずにすむだろう。


「……そうか…貴様はそちら側だったか…。」


艦娘棲姫は、少し困ったような表情をして、視線を逸らした。

艦娘棲姫よ、私は何か間違えたのか?

そちら側とはどういうことだ?


「…どうかしましたか?」


「いや、貴様が艦娘を嫌っているならいい。

とりあえず、私は基地から出させてもらうが、いいか?」


「え、えぇ…いいですよ」


…私は今、何か重大な間違いを犯した気がした。

艦娘棲姫は立ち上がり、ドアの方へと向かっていく。

ドアの取っ手に手をかけると、こちらに振り返り、私の名前を聞いてきた。


虻川 裕一です


私はそう答えた。


「では虻川少佐よ、一つだけ私の願いを聞いてくれないだろうか?」


人差し指を立てて、少し申し訳なさそうに艦娘棲姫は聞いてきた。


「願いとは何でしょうか?」


「私がここに連れて来られた時、一緒に艦娘がいたのだが、そいつを一緒に連れて行きたい」


「何のためにですか?」


「……一緒に連れて言って街の反応を見て見たくてな」


あぁ、なるほど。

と私は思った。

艦娘棲姫の目的は、人間社会の偵察だ。

艦娘に対しての反応を見るために、一人連れていこうと言うことなのだろう。


「…わかりました、部下に伝えて基地の北入口に連れていってもらいます」


「ありがとう」


礼を言って艦娘棲姫は部屋を出ていった。


私が、とてつもない間違いを犯したとしか思えないのは、なぜだろう。



ーーー視点・場所変更



基地の北口まで歩いていけば、少佐が言っていた通り、部屋であった兵士が砂浜での艦娘と一緒だった。


「ありがとう、連れてきてくれて」


「はっ、私はこれで失礼させていただきます」


敬礼した兵士は、そう言って自分の持ち場へと走って戻って言った。

艦娘の方は、俯いて何も話さない。

おそらく砂浜で起きたことと似たようなことを何度も経験したんだろう。

これほど暗くなるのも仕方がない。


「…怖がることはない、いくぞ」


艦娘の肩に手を置くと、彼女はビクッと肩を震わせ、小さく「はい」と返事をした。

こうも暗いとやりにくいな…どこか街の中で飯でも食べていくか。

私は艦娘を連れて、街の方に歩いていった。



ーーー視点・場所変更



状況がよくわからなかった。

目が覚めたら、私は海軍の収容所に入れられていて、数分後に北入口に連れていかれた。

そこで待っていると、砂浜で会った深海棲艦がやってきて、私を街に連れていった。

そして今、どう言うわけか、飲食店に座っている。


ちなみにここまで2回ほど男性の集団に絡まれたけど、あの深海棲艦が吹っ飛ばしてた。


「腹が減っているだろう?奢ってやるから食え」


払うのは海軍だがな、と後に付け加えて深海棲艦はそう言った。

わけがわからない。

なぜ、私は深海棲艦に奢られているんだろう。


「なんで…ですか?」


「なにがだ?」


「なんで元々敵だった私にこんなことをしてるんですか?」


私は聞いた。


「……同じ艦が痛めつけられるのは、嫌いでな…」


深海棲艦は先ほど買ったフライドポテトを食べてそう答えた。

同じ艦が痛めつけられるのは嫌い?

こいつは何を言っているんだろうか。

長く忘れていた憎しみと怒りが込み上がってくる。


「…私たちを何十人も、何百人も沈めておいて、よくそんな事が言えますね」


深海棲艦の手が止まる。


「どうせあなたも心の中で嘲笑っているんでしょう?

あなた達に負けた私たちを。

他の人間達と同じように、私に餌を与えてから突き落とすつもりなんでしょう?

いい加減に隠すのはやめてください。

あなた達深海棲艦が沈めてきた私達を使って、今度は何がしたいんですか?」


次第に私の声が大きくなっていく。

今目の前にいる深海棲艦がいなければ、私はもっと幸せだっただろう。

今目の前にいる深海棲艦がいなければ、他のみんなも生きていただろう。

そう考えると、私の中にある怒りはより大きくなっていった。

艤装があれば、今目の前にいるこいつを魚雷で粉々にしていただろう。


「……私は、君達を助けたい」


「私たちをこんな目に遭わせておいて、『助けたい』だなんて今更遅いんですよ!!!」


怒りに任せて深海棲艦に叫んだ。

気づいたら気づいたら自分は立ち上がっており、周りの客の、店員の視線は全てこちらに集中していた。


「……もうこれ以上関わらないでください」


私は怒りと苛立ちを抱えて、店から出て行った。

深海棲艦は、すぐに追いかけては来なかった。





飲食店を出たい数分後、やっぱり複数の男性に絡まれた。

飲食店で目立ちすぎたんだろう…あんなに叫ばなければよかった。

私は無理やり裏路地に連れ込まれた。


「へへっ、抵抗しないぜ?こいつ」


一人の男性が私の方に手をかける。

気持ち悪い、だけど抵抗したところで、結果は何も変わらない。

艤装を持ってない私は、今ではただの女の子だ。


「じゃあ、遠慮なくヤらせてもらいますかぁ」


ニヤニヤしながら、別の男性が近づいてくる。

その男性は私の両肩に手を置き、私を近くの壁に押し付けた。

…私は目を瞑った。



Third:捕まえた


あの艦娘と別れてから、私は悩んだ。

あの様子を見る限り、おそらくほとんどの艦娘は深海棲艦を敵艦として見ているのだろう…困ったものだ。

ではどうすれば相手が納得するような理由でそばに置いておけるだろうか?

人間の商店街を歩いていた私は、ふと本屋に目をやった。

その本屋においてある本のうちの1つに"戦争"というものがあった。

別に戦争というものに興味があるわけではない、しかしなぜかその本を手に取りたくなった。

本屋に入ると、周りの客や店員が嫌な顔をしていたが気にしない。


目に止まったその本を手に取り、ペラペラと適当にページをめくる。

大体半分くらいまできたところで、手が止まった。

そのページに書かれている一言を見つけて、私はニヤリと笑みを浮かべる。

そうだ、これなら成功する。

これなら誰でも納得してくれる。


艦娘を助けられるなら、私は喜んで悪役を演じよう。



ーーー視点変更



「っ…うぅ……」


痛みで苦しい呻き声が出てしまう。

お腹が熱いのに、体は冷たく感じる。

肌に触れるコンクリートが氷のように冷たい。

私を好き勝手弄んだ男性が私を見下ろしていた。


「おいおい、いくらなんでもボロボロに壊れたやつとヤりたくねぇぞ?」


一人の男性が不満げに言うと、私を見下ろしていた男性が笑って謝った。


「いや、幾ら何でも抵抗しなさすぎるから面白くてな。ほら、俺の番は終わったから好きにしていいぞ」


気持ち悪い。

反吐が出そう。

艤装さえあれば、体に大穴開けてやるのに。

様々な言葉が、感情が喉の奥から込み上がってくる。

だけど一言吐けば状況は悪化する、今は飲み込むしかない。


下品な笑みを浮かべて、残りの男性が私を無理やり立ち上がらせる。

じっくりと私の体を舐めるように見ると、私の顔の隣を強く叩いた。

思わずびっくりしてしまった。

昔だったら憧れる"壁ドン"なのだけれど、今は最悪極まりない。


「抵抗するなよ?嬢ちゃん」


げへへと笑って釘をさす。

そんなこと言わなくても抵抗できるはずがないのに…。

ゆっくり目を閉じて、できる限り外からの情報を遮断する。

暗闇に閉じこもって、心を無にして…今から起こることをできるだけ考えないで。


私の頬の男性の手が触れ、撫でるように動く。

まるで私の反応を楽しむように撫で回した手は、私の耳の位置で止まる。

ついに男性に好きなようにされるかと思った瞬間、聞き覚えのある子が響く。



「そいつの番が終わったなら、私の番でもいいだろう?」



ゴキリと嫌な音が耳元で鳴った。

ただ折れるような音じゃない。

砕かれるような音だった。


恐る恐る目を開けた先にあったのは地獄だった。

ただしそれは人間のである。

地と壁は血飛沫で染まり、多数の死体が転がっていた。

その中心にまるで地を弄ぶように手のひらを見る"姫"が一人。


くるりと私の方を見ると、その威圧感に屈しそうになった。

それもそうだ、相手は綺麗な人型である以上、"姫級"に当たるだろう深海棲艦だ。

何故気付かなかったんだろう。

何故、あれほど強気で入られたんだろう。

今考えれば、あの店で怒鳴ったのは自殺行為だった。


「……どうした、まるで蛇に睨まれたカエルのようだぞ?」


まさにその通り、私は"姫(蛇)"に睨まれた"少女(カエル)"だった。


「人間というのは優しいものに心を開くと聞いたが、やはり艦娘というのは違うようだな」


カツカツと足音を立てて私の方に歩いてくる。

思わず後ずさりをするが、後ろは壁。

逃げ場はない。


「先ほどは"小娘"として扱って悪かったな。

今度は直球に言わせてもらおう



貴様が私の捕虜だ。

一緒に来い、拒否権はない」


そのセリフを聞いた時、私は本当に驚いた。

まず戦争中でもないのに"捕虜"なんてなれるはずがない。

少なくとも"人質"にはなれるだろうけど、私にそんな価値はない。


私は胸を張って私を捕虜だと言った深海棲艦の目を見てふとある人を思い出した。

その目はまっすぐで綺麗で、深海の女王のものだとは思えなかった。


"私は、君たちを助けたい"


この深海棲艦がそんなふざけたことを言ったのを覚えてる。

誰が聞いても馬鹿だとしか思えないけれど、その瞳を見たら嘘だとは思えなくなってきた。

ここはひとつ、賭けに乗ろう。

"捕虜"として今よりマシな生活を手に入れるか、"敗者"としてより残酷な扱いを受けるか。

今までで一番大きな賭けだと思う。







そして数年後、私はこの賭けに見事勝つことができたのだと、この選択肢を与えてくれた彼女に感謝することになる。

けれどそれは、幾多もの危機を乗り越えた上に手に入れたもの。

そしてそれは、もう少し先の物語。









Fourth:帰還


―――視点:艦娘棲姫


やったぞ。

私は、後ろからついてくる艦娘に見えないように小さくガッツポーズをする。

自然に負け、海軍に捕らわれ、艦娘に怒鳴られといろんな苦難を乗り越え、ついに艦娘を保護することに成功した。

ただし名目上は私の捕虜であるため、少なくとも私の拠点につくまでは冷たく捕虜のように接さなければならない。


「そういえば貴様の名はなんという?」


保護した少女へ振り向き、問う。

艦娘は少し間を開けて、その名を告げた。

どうやら吹雪というらしい。

特型駆逐艦1番艦【吹雪】…深海棲艦の間でも有名な駆逐艦だったはずだ。

そんな艦娘でさえ、あんな扱いを受けるのかと、吹雪の体に残る痣を見て思う。

やはり助けようと考えて正解だった。


「では吹雪、これから私の拠点に貴様を連れていくが文句はないな?」


「…はい、ありません」


吹雪は私の目を見て答えた。

何か知らないが先ほどまでの暗い雰囲気はもうない。

それに満足した私は、吹雪に背を向けて今朝の砂浜へと歩き出す。

後ろから吹雪の足音がついてくる。





―――視点:吹雪


目の前の深海棲艦についていった私は、砂浜へとやってきた。

今朝男の集団に殴られ、そして姫級と出会ったところだった。

歩いている途中で、私が殴られていた場所を通り過ぎていた。

満潮で血の汚れなどは洗い流されており、そこに私がいた痕跡はきれいになくなっていた。


彼女の拠点に連れていかれると言っていたから、多分ここから出発するんだろう。

しかし、私は艤装を持っていないので海の上を渡ることなんてできない。

そのことを深海棲艦に伝えたら


「安心しろ、私が貴様を運んでやる」


と返事が返ってきた。

まぁ、予想通りである。


「貴様の艤装があったとしても、邪魔だから必要ない」


艤装を展開しつつ深海棲艦は続けた。


「え…?」


その言葉の意味を理解しようと少し考え込む。

が、間に合わなかった。

気づけば足を取られ、いわゆるお姫様抱っこをされて海の上に連れていかれた。

抵抗する暇もなかったし、すでに海の上だったので深海棲艦にお任せしておいた。

そして海の上を滑るのかと思いきや…


トプン、という音を立てて海中へと沈んだ。




―――視点変更




私はヲ級と呼ばれる深海棲艦だ。

みんなからは『ヲ秘書』と呼ばれている。

この深海拠点の中で、私の上司を除き最強の航空戦力を持つ深海棲艦である。

Flagshipの力を持ち、人間の言葉だと「秘書艦」に当たる地位にいる。

それだけ聞けば、羨ましがられるような話だ。

なぜなら深海棲艦の数は非常に多い。

その中でも「秘書艦」の地位を持つというのは、姫級などに次いで最強の権力を持つことと等しい。

それでも艦娘に力及ばず、入れ替わりが激しかったが、今は戦後の時代。

私は永遠にこの地位を保持できるのだ。

それは幸せなことだ。


しかし……そんな私は心底この地位を捨てたいと思っている。

理由は、私の上司である。


私の上司、艦娘棲姫は落ち着きを知らない。

『建造』されたばかりだということもあるかもしれないが、とりあえず何かしら問題を起こすのだ。

ある時は工廠に行って装備に変な改修を施したり、演習に乱入してレ級やらを片っ端から大破(実弾)させたり、勝手に資材を使って艦娘の艦載機を自作したり…とりあえず問題を起こし、私はその尻拭いをする羽目になるのだ。

あまりの問題児っぷりに、最初のころは上部の姫級に艦娘棲姫の解体申請書を(偽造して)提出したこともある。

10分後に、否決の答えをもらった。

島風もびっくりの速さである。

ストレスで胃に穴が開いた。

半年もたてば慣れた。


本当に辞めたい、しかし私の後を継ぐ同士に申し訳ないのでやめられない。



さて、そんな上司だが、初の任務で人間社会の視察に行くらしい。

これで1週間は休めると思い、心の中はパーティー状態だった。

しかし、奴は一日で帰ってきた。


「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!」


「お、落ち着いて…大丈夫だよ、ヲ秘書…」


チ級が慰めてくれた。




―――視点:艦娘棲姫



拠点についたころには、吹雪は私の腕の中寝ていた。

正確に言うと、気絶していた。


艦娘は軍艦の化身である。

そのため、生まれながらして深海に対して恐怖心を抱く。

特に水上艦はその恐怖心が強い。


水に潜った直後、吹雪が私の腕を掴むのがわかった。

逃げ出そうとしているようだが、力は私のほうが上だ。


私にとって水中移動はごく普通のことだったため、吹雪が暴れる理由がわからなかった。

その後吹雪が気絶し、急いで拠点に戻り、そこでヲ級にため息をつかれたところでやっと理由に気が付いた。

いくら捕虜(名目上)とはいえ酷いことをした。

後で謝っておこう。


こうして私は拠点に吹雪とともに帰還した。




しかし一応任務は一週間なので、ヲ秘書に追い出された。

吹雪に謝るのは一週間後らしい。


後書き


初の小説にしてはいきなりストーリーすごすぎない?と思う人もいるかもしれません。
だけど自分、こういう長いのしか書けないんです()
短編にできないんです()
ちょっと困りましたね…ははは

第3章更新
いやー、受験やら体育祭やらでほとんど書けなかったですorz

第4章更新(2018・2・5)


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このSSへのコメント

4件コメントされています

1: 真.名無しの艦これ好き 2016-11-24 15:38:34 ID: Kq3WYpHz

戦後を描く人は結構見ますが、艦娘を敗者として描くのは珍しいですね。
内容も随分とハードですし。
更新楽しみにしてます。

2: Yuzu 2016-11-24 15:44:16 ID: fjQ9Oemf

おぉ、ありがとうございます!
これからも頑張ります!

3: くたくた 2016-11-24 17:42:07 ID: ngWaTf2x

面白いです。楽しみが増えました

4: SS好きの名無しさん 2016-11-29 07:27:38 ID: oKYrRC4z

良いですね、続き楽しみです、戦後レジスタンの球磨の作品も途中で終わってしまったので完結までお願いいたします。 みやこわすれ提督です


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