提督「ここが異動先の鎮守府か」
前線から離れて過ごしていた車椅子にのる提督がとある鎮守府に1ヶ月だけ、繋ぎとして着任するお話。
※暇つぶしで書き始めました。更新速度は期待しないで下さい。
※ブラック的表現が含まれています、苦手な方は注意してお読みください。
提督「前線から離れて約一年。俺は数隻の艦娘たちと小さな鎮守府に異動し、ゆったりとした日々を過ごしてした」
提督「しかしそんなある日、平和な鎮守府に奴が訪れ、俺に対してこう言った」
元帥『お前、異動な』
提督「ハッ倒してやろうかと思った」
提督「しかし今の俺の階級は中佐。現役の頃なら余裕で抹消することもできたが、今はそれが出来ない」
提督「まぁ、そんな事ができる権力を捨てて異動したからな。仕方ない」
提督「拒否することも許されなかった俺は、元帥の命令に素直に従うしかなかった」
提督「元の鎮守府は大丈夫。鳳翔さんに任せてきたし、現役の頃に活躍してくれた艦娘たちもいる。安心できるだろう」
提督「ま、異動とは言っても新しい提督が着任するまでの繋ぎとしてだからな」
提督「1ヶ月前後にはおさらばできるだろう。それまでの辛抱だな」
運転手「提督殿、鎮守府に到着しました」
提督「お、もう着いたのか。ありがとう」
運転手「提督殿、車椅子にどうぞ」
提督「いや〜世話かけます」ドッコイショ
運転手「では、私はこれで失礼します」ペコ
提督「お達者で〜」
ブロロロロ…
提督「……さて、いきますか」
────────
提督「クソッ、まさか玄関に入るのにこんなに時間かかるとは思わなかった! あの段差、許さねぇ……絶対スロープにしてやる!」
提督「あぁ、こんな事なら漣でも連れてくればよかった!」
提督「たのもー」ガラガラ
長門「貴様が新しく着任してきた提督だな? 私は長門型戦艦、長門だ。よろしく頼む」ビシッ
提督「お、長門か。そんな畏まらなくていい、俺は繋ぎの提督だ。1ヶ月後には本当の提督が来るんじゃないか?」
長門「なに? 貴様は提督ではないのか?」
提督「俺は別の鎮守府に着任している提督だ。さっきも言った通り、俺は繋ぎとしてここに来た」
長門「ふむ、と言う事は1ヶ月は貴様が提督と言うことだろ? 私たちにとって誰が提督だろうとそんなに変わらない」
提督「そんなもんか、まぁいいや。ここにいるってことは案内役だろ? 執務室に案内してくれ」
長門「うむ、了解した」
提督「……長門、案内する前に一つお願いがある」
長門「なんだ?」
提督「俺を持ち上げてくれ」
──────
長門「ここが執務室だ。左の扉からは提督の自室に繋がっている」
提督「ほほー、出入り口が狭いこと以外は特に不満は無いね。後で妖精さんにお願いしよう」
長門「提督、他に命令はあるか?」
提督「命令? あぁ、そうだな……」ジー
長門「なんだ、私の顔に何か付いているのか?」
提督「いや、思ったよりも普通に接してくれるんだなーって思ってさ」
長門「どういう事だ?」
提督「ほら、ここってブラックだったみたいじゃん? 前任があまりにも酷すぎて、犬に噛まれて大怪我したって聞いたからさ」
長門「あぁ、あの事か。駆逐艦はともかく、私たち戦艦や空母、巡洋艦たちはわかっているさ。提督の皆が前任の様な奴ばかりではないと」
提督「ほぉー。それじゃあ今のところは様子見で、俺がどんな奴か判断中ってことか」
長門「そうなるな」
提督「まぁいい、指揮に支障がなければなんでもいいさ。それより所属している艦娘たちに挨拶をしなければならないな。今は10時16分だから……よし、長門、一一〇〇に鎮守府玄関前に鎮守府内に所属している者を全て集めてくれ」
長門「了解した」
提督「おっと、大切なことを忘れてた。長門、頼みがある」
長門「なんだ?」
提督「案内してくれ。前の飼い主に噛み付いた『狂犬』のところに」
────────
提督「元帥から聞いた話によると、今は自室で待機……もとい、監禁されていると聞いている」
長門「あぁ、その通りだ。本来であれば私たちの上司である提督を大怪我させたのだ、即解体のはずだったのだが、元帥殿が弁護してくれたみたいでな。なんとか自室謹慎という形で収まっている」
提督「やっぱ権力の有無は大事だな」
長門「着いたぞ。ここが謹慎中の艦娘、白露型駆逐艦四番艦、夕立の部屋だ」
提督「うむ、では早速……」ガチャガチャ
提督「………」ガチャガチャガチャガチャ
提督「開かないんですけど?」
長門「まぁ、鍵かけられてしまってるしな」
提督「え、じゃあ監禁されてから誰もここに入ってないってこと?」
長門「そうなるな。……二週間は経つのか」
提督「うわぁ……やばそう。鍵は?」
長門「無い。持って行ってしまったのだ」
提督「クソだな。持っていくなって話だよ」
長門「どうするのだ、提督?」
提督「壊そうかと思ったけど、二週間だからねぇ……これを使うのさ」シャキーン
長門「……髪留め? もしかしてピッキングでもするのか?」
提督「その通り。まぁ見てなって」カチャカチャ
長門「流石に無理ではないか? 本部の者が掛けた鍵だぞ? この長門ですらビクともしなかった」ガチャ
提督「開いたで」
長門「なん……だと?」
提督「それよりお前、今ビクともしなかったって言わなかったか?」
長門「あ、いや、そんな事は……」
提督「まぁ、長門らしくて安心した。……うし、開けるぞ」
長門「あぁ」
ガチャリ
提督「……っ」
長門「うっ」
提督「長門、早く入るぞ。開けっ放しはマズイ」
長門「そ、そうだな」バタン
提督(すごい臭いだ。尿と糞の臭い、それと少しだけ別のも混じってるのか? とりあえず、吐き気を催す臭いが部屋に充満している)
夕立「」ギロリ
提督(部屋が暗いせいか、碧色の双眸が良く魅える。臭いがなければすごく綺麗だと思いました)
提督「長門、電気をつけろ」
長門「あぁ」パチ
夕立「ぅ……」
長門「な、なんだこれは」
提督「まぁ、艦娘を抑えるわけだし、こうなるわな」
提督(中央に夕立を椅子に座らせ、四肢を固定。体と椅子を複数の鎖で縛り、部屋のあらゆる所に鎖を引っ張り杭を打ち込んで動かないようにしている)
長門「ふざけやがって……!」
提督「待て長門。怒るのもわかるが、変に触るなよ」
長門「ではどうしろと言うのだ!」
提督「任せとけって」ヒョイ
長門「それは……ナイフ?」
提督「これはただのナイフではない……明石さんが作った凄いナイフだ」
長門「明石が作ったナイフだと?」
提督「まぁ、見てろって」スッ
スパッ
提督 長門「「おお!?」」
長門「すごい切れ味だな」
提督「あぁ、俺も想像以上で驚いてる。よし、続けるぞ」
数分後
提督「あとは猿轡を切って……終わり!」
長門「おぉ! いいぞ提督!」
夕立「ぅ…ぁ」グラリ
提督「おっとっと。ほれ長門、夕立を早く入渠させてやってくれ。バケツがあれば使っていいから」
長門「り、了解した!」バタン! タッタッタ…
提督「さてと……部屋の掃除でもするかねぇ。へい、妖精さん!」パチンッ
────────
一〇四三、入渠
提督「おーい、長門いるかー」
長門「あぁ、提督か」
提督「夕立の様子はどうだ?」
長門「入渠は高速修復材を使うまでもなくすぐに終わったが、目を覚まさなくてな」
提督「やっぱりメンタルがやられたよな……あんな状態で二週間はキツイわ……。そう言えば、執務室の隣は俺の部屋だったよな。そこにベッドはあるのか?」
長門「あぁ、新しく来るということで新しい物に替えてあるのがある」
提督「よし、そこに寝かせよう。ここで寝かせるよりは何倍もマシだろう」
長門「いいのか提督。私が言うのも何だが、夕立はさっきまであの部屋に……」
提督「入渠したんだろ? なら問題はないだろ。ほれ、つべこべ言わず夕立を運ぶ……前に服着せないとな。予備の服は?」
長門「服は洗濯中だ。夕立の他の服は私物とともに本部の者たちに持ってかれてしまって無いのだ」
提督「あいつら何考えてんだ……仕方ない、確かこの中に」ゴソゴソ
長門「提督?」
提督「あったあった。ほれ、これ着せてやってくれ」
長門「ワンピースと下着か……ありがたい。しかし提督、よくワンピースと下着なんて持ってたな」
提督「あぁ、誕生日に艦娘たちから貰ったんだ。他にもあるぞ」
長門「どこにそんなものが……」
提督「この明石特製四次元バッグに収めてあるぜ」
長門「すごそうなバッグだな……よし着せ終わったぞ」
提督「実際にすごいからな。んじゃいきますか」
────────
一一〇八
長門「これでよし……」
提督「うむ、ご苦労。しかし、時間が思ったよりも掛かったな」
長門「す、すまない。皆に集合を言うのを忘れてしまった。……罰なら受ける」
提督「仕方ないさ。俺もちゃんと把握しきれてなかったんだし。そうだな……昼前には終わらせておきたいし、一二〇〇で頼めるか?」
長門「あ、あぁ、任せておけ! だが……」チラッ
提督「夕立が気になるか? まぁ、提督と二人っきりにさせるのは不安だよな」
長門「いや、そういう訳では……」
提督「安心しろ、手なんか出さないよ。あんな事があったばかりだし、疲れたからな。それより早く伝えてきてすぐに戻ってくればいいだろ? それまでは様子見てるからさ」
長門「……それもそうだな。よし、戦艦長門、出撃する!」バタン!
提督「あんなの見たあとなのに元気だなー。……さてと」クルリ
夕立「ぽいぃぃぽいぃぃ」ウーンウーン
提督「……魘されてるよなぁ。……んー、どうするべきか」
時津風『しれーの手って、あったかくてやわらかいよね〜。なでられるとすっごく落ち着くし気持ちがいいんだ〜。だからなでてなでてー!』
提督「あぁ、そう言えば時津風がそんなこと言ってたな……」
夕立「ぽいぃぃぽいぃぃ」ウーンウーン
提督「……まぁ、モノは試しか」スッ
夕立「ぽいぃ」ビクッ
提督(なんだこの撫で心地。時津風とは全く別だわ)ナデナデ
夕立「……ぽいぃ…ぽいぃ…」スースー
提督(ま、それもそうか。道具とか兵器だって言っても、結局生きてることには変わりないんだもんな……)ナデナデ
長門「戦艦長門、ただいま任務より帰還した」
提督「お、来たか。それじゃ、あとは頼んだぞ」スッ
長門「あぁ、任せておけ。……提督、どこへ行くのだ?」
提督「隣の部屋。1ヶ月とは言え、鎮守府を任されるわけだからな。時間も少しあるし、最低限所属してる艦娘ぐらいは把握しておこうと思ってな」
長門「そうか」
提督「んじゃ、時間になったら頼むわ」ガチャリ
長門「……まだ少ししか時間を共にしていないが、今回の提督は信頼してもいいかもしれない……ん?」
夕立「ぽいぃ…ぽいぃ…」エヘヘ
長門「……っ。信頼できる……な」
─────────
一二〇〇
ガヤガヤガヤ
提督「おおう、みんないるな……優秀ですねぇ」
長門「いや、これぐらいは普通だろ?」
提督「それもそうだな」
長門「提督、夕立の事なのだが……」
提督「まだ目が覚めてないんだろ? なら無理して起こす必要もないさ。後で話せばいい事だし」
長門「本当にありがとう、提督」
提督「感謝されるような事でもないんだけどなぁ。……よし、いくか」
「あ、きたよ」
ガヤガヤガヤ……ピタッ
提督(お、私語が消えた)
提督「よし、全員いるな。えー本日、一〇〇〇に着任した提督である。提督とは言っても、1ヶ月間だけの仮着任だ。まぁ、1ヶ月後に来ると思われる本来の提督までの繋ぎだな」
提督「しかし1ヶ月とは言え、俺は鎮守府と艦娘の管理を任された。……故に、お前たちに言っておかねばならないことがある。それは……」
提督「俺はお前たち艦娘の事をただの道具、そして兵器としか見ていない」
長門「なっ!?」
艦娘たち「っ」ザワ……
提督「お前たちが前任にどのような扱いを受けていたのかは聞いている。だが、俺はお前たちに対して態度や扱いを変えるつもりは毛頭ない」
提督「俺がお前たち艦娘に求めるものはただ一つ……俺の指揮、そして命令には絶対に従うことだ。命令を素直に聞き入れ、実行する……ただそれだけを俺は求めている」
長門「提督、貴様……!」
提督「……以上。今日は解散だ。各々、次の命令があるまで好きに時間を過ごしてもらって構わない」クル
長門「……」
────────
長門「提督、先ほどの挨拶はなんだ?」
提督「なんだって言われても……そのままの意味なんだが」
長門「そのままの意味だと? ふざけるな! 貴様は自分が何を言ったのかわかっているのか! 私たち艦娘を……」
提督「違うのか?」
長門「っ」
提督「なぁ、長門。お前たち艦娘は何故なんのために生まれたのか、わかるか?」
長門「……それは、人類を深海凄艦の脅威から守るためだ」
提督「まぁ、間違ってはいないな。静かな海を守る……そのためにお前たち艦娘は存在している。少なくとも俺はそう思う」
提督「長門。もう一度聞くが、間違っているか?」
長門「……間違っては、いない」
提督「否定したい気持ちもわからんでもないがな」
長門「……一つ聞きたい。夕立を助けたのは何故だ?」
提督「んー。1ヶ月とは言え、この鎮守府は今は俺の物だ。もちろん艦娘も例外ではない。俺の物を、俺がどう扱うかは俺が決める。だから夕立の謹慎を解いたんだ」
長門「……わからない」
提督「理解してくれとは言わないが、命令には従ってくれよ」
長門「……」
提督「……あ、間宮さんだ。おーい、間宮さーん」ノシ
間宮「……初めまして提督さん。私は給糧艦、間宮です。私に何か御用ですか?」
提督「うん、お腹が空いたからなにか作ってもらおうと思ってね。今お店の方、大丈夫?」
間宮「えぇ、大丈夫ですよ」
提督「んじゃ、昼食の方、お願いできますかね?」
間宮「えぇ、もちろん。こちらへいらして下さい」
提督「ありがとうございます。ほら長門、行くぞ?」
長門「……あぁ、了解した」
────
間宮亭
提督「あー腹減った。どこに座ろうかね……やっぱりカウンター?」
間宮「いえ、提督はこちらの席になります」
提督「……なぁにこれぇ」
間宮「提督専用の食事を摂るスペースです」
提督「これ絶対に一人で使う広さじゃないだろ。……うわ、なんだこのソファー、超柔らけぇ」
間宮「こちらが提督専用のメニューとなっています」
提督「提督専用のメニュー? ……わぁお、めっちゃ美味そうやん」
間宮「ここで待機してますので、お決まりになりましたらお申し下さい」
提督「待機って……。提督用があるってことは艦娘用もあるってことかな?」
間宮「いえ、艦娘たちは麦ご飯だけですね」
提督「麦ご飯ね、いいよね麦ご飯。栄養価高いし……って、は? 麦ご飯だけ?」
間宮「はい」
提督「」チラッ
長門「そうだな」
提督「……注文、いいですか?」
間宮「はい。何にいたしますか?」
提督「提督専用メニューを廃止して、みんなが食べられるようにしてください」
間宮「……え? みんなが食べられるように、と言いますと」
提督「艦娘たちもこのメニューが食べられるようにしてください」
長門「!?」
間宮「よ、よろしいんですか?」フルフル
提督「今すぐお願いします!」
間宮「うっ…うっ…」ポロポロ
提督「ま、間宮さん!?」
長門「間宮! 大丈夫か!?」
間宮「うっ…ごめんなさい。やっとあの子たちにも美味しいご飯が食べさせてあげられると思ったらつい涙が……」グスッ
提督「あ、あの、間宮さん?」オロオロ
間宮「提督さん!」ガシッ
提督「オウ!」
間宮「ありがとうございます、本当にありがとうございます……!」
提督「わ、わかりました、わかりましたのでどうか泣き止んでください………ハッ」クルッ
朝潮「」ビクッ
大潮「」ビクッ
提督「……長門、飯決まった?」モドシ
長門「私もいいのか?」
提督「あなたも艦娘でしょ! 早く決めなさい」
長門「そ、そうだな……このきつねうどんと唐揚げが気になるな」
提督「間宮さん、きつねうどんに唐揚げをセットで二人分お願いします」
間宮「はい、任せてください!」ナミダフキ
提督「あ、執務室にいるんで、誰か適当に捕まえて持って越させてください!」
間宮「執務室ですか? わかりました」
提督「それじゃ……あーそれとそれと、重湯をいつでも作れるように準備しておいて下さい!」
間宮「重湯ですね、了解しました。準備しておきますね」
提督「それじゃ失礼しました! 長門、行くぞ!」シャーーーー
長門「あ、ちょ、提督!?」
朝潮「……ま、間宮さん、大丈夫ですか?」
大潮「新しい司令官になにかされたんですか?」
間宮「大丈夫よ、何もされてないわ……。それより、なにか食べたいものはないかしら?」
───────
執務室
提督「夕立は?」
長門「まだぐっすりと眠っている」
提督「そっか……。目が覚めたら夕立を間宮さんのところに連れて行ってくれ」
長門「……提督、私は貴様の考えてる事が全くわからない」
提督「いきなりどうした」
長門「夕立の監禁を解いたと思ったら、皆の前であんな事を言い出す。貴様も結局は前任と一緒か……と思いきや、間宮での提督専用メニューの廃止。そして今もなお、眠っている夕立を気にかけているところ……」
提督「別に分からないことはないと思うが……。まぁ、単純に俺が物を大切にするタイプなんだ。だからお前たち艦娘を大切に扱いたいし、兵器として最高の活躍ができるようにコンディションを調えてやりたいと思ってる」
長門「私たち艦娘を、大切に……?」
提督「ま、道具とか兵器なんて思ってる奴が何を言ってんだよって思うかもしれんが、それが俺の考え方であり、これからも変えるつもりはない」
長門「……」
コンコン
提督「はーい、どちらさまー?」
朝潮「朝潮型駆逐艦、一番艦の朝潮と」
大潮「大潮です!」
朝潮「間宮さんから頼まれて司令官と長門さんの昼食をお届けに参りました!」
提督「お、待ってましたー。今開けるよ」ガチャ
提督「ご苦労様。ささ、入ってくれ」
朝潮「はい、失礼します!」
大潮「し、失礼しますっ」
提督「いやぁ、まさか朝潮と大潮が来るとは……。あ、そこのソファーのあるテーブルに置いてくれ」
朝潮「了解です」テキパキ
大潮「わ、わかりました……」オドオド
提督「長門、話しは腹を満たしてからでもいいだろ? はよソファーに座れ」
長門「そうだな……しかし、座ってもいいのか?」
提督「なにお前、立って食べる気なの? 別に構わないが、食べづらくはないか?」
長門「……では、言葉に甘えるとしよう」スッ
大潮「あっ」ビターン
ガシャーン!
提督「あっ」
長門「大丈夫か!?」ガタッ
朝潮「!?」
大潮「うぅっ…うっ…ご、ごめんなさい……ごめんなさい、しれいかん」ウルウル
提督「……大潮」
朝潮「司令官! 大潮の失敗は朝潮型の一番艦であり、姉であるこの朝潮に責任があります! 罰なら私が受けますので、どうか大潮のことをお許し下さい!」サッ
長門「……」ジッ
提督「朝潮、退きなさい」
朝潮「司令官!」
提督「退きなさい」
朝潮「……っ、はい」
大潮「しれいかん、本当にグスッ…ごめんなグスッ…さい」
提督「大潮」スッ
大潮「っ!」ビクッ
提督「大丈夫か?」ヒョイ
大潮「え?」キョトン
提督「んー、怪我とかは無さそうだな」
朝潮「あの、司令官……怒ってはいないんですか?」
提督「ん? いや別に。わざとやった訳じゃないんだし、怒らないだろ……な?」
大潮「え、は、はい」
提督「失敗する事は悪い事じゃない、失敗は誰にだってあるんだし。大切なのは次に同じことを繰り返さぬようにする事だ。……と、言うわけで大潮、次は気を付けるんだぞ」ナデナデ
大潮「は、はい!」
長門「」ホッ
朝潮「しかし、流石にこのままにはしておけません。お掃除させて下さい」
大潮「大潮も、お掃除します!」
提督「あーそうだなぁ……。んじゃ、お願いするかー」
朝潮 大潮「「はい、お任せください司令官!」」ビシッ
タタタ…
提督「……さてと。長門、お前は早くご飯食べちゃえ」
長門「えっ、いや、提督より先にいただくなど……」
提督「別に構わんよ。お前にはこの後手伝ってもらいたい事があるんだからな」
長門「し、しかしだな」
提督「せっかく朝潮たちが持ってきてくれたんだぞ? 俺のことは気にせず食ってくれ。……てか、それはお前が選んだ料理なんだし」
長門「駆逐艦が持って来てくれた料理……。そ、それもそうだな。うむ、ならありがたくいただくとしよう……いただきます!」パク
長門「んん! うまいぞ! まさか唐揚げがこんなにもうまいものだったとは! ……次はうどんを」チュルチュル
長門「このうどんとやらもかなりうまいぞ! このような素晴らしい物をひとりだけ食していたのかと思うと、これまで以上に前任の提督に対して殺意が湧いてくるな……!」モグモグモグ
長門「……提督、私のうどんと唐揚げが消えたのだが」
提督「いや、お前が自分で食べたんでしょうが……」
長門「そうか……。提督、すまないが間宮のところに用事ができたので行ってくる」
提督「おい待て。お前絶対飯食いに行く気だろ」
長門「それ以外に間宮に行く用事があるのか?」
提督「それはそうだが、少しは隠そうとしろよ……」
ギィィ
提督「ん? ……あ」
夕立「お腹すいたぁ……なにかいい匂いがするっぽ〜い」ヨロヨロ
提督「長門、喜べ。間宮に行ってきてもいいぞ」
長門「なに? それは本当か!?」
提督「ただし、夕立を連れて行くのが条件だ」
長門「任せろ!」ガシッ
夕立「ぽい!?」
長門「行くぞ夕立!」ダダダダダ
夕立「ぽいー!?」
提督「……やっぱ、食べ物の力って偉大だわ」
朝潮「ただいま戻りました!」
提督「おかえり」
大潮「あの、司令官。さっき長門さんが夕立ちゃんを抱いて走っていたのを見たのですが」
提督「あー、あれは夕立の謹慎が解けたからな。一緒に間宮さんのところに行かせたんだ」
朝潮「そうだったんですか」ホッ
大潮「夕立ちゃん、謹慎解けたんですね。よかった〜」
提督「よし、それじゃあ掃除を始めるぞ」
朝潮「はい、了解です!」
大潮「お〜!」
朝潮「お、大潮! 司令官の前ではちゃんとしないと……」
大潮「あ……ごめんなさい、司令官」
提督「ん? ……あぁ。いや、元気があっていいと思うぞ。それに今は作戦中でも、戦闘中でもないしそんな畏まる必要なんてないさ。……ほら、掃除始めるぞー」
朝潮 大潮「「はい!」」
────────────
提督「おー綺麗になった。ありがとな、二人とも」
朝潮「いえ、当然の事をしたまでです!」
大潮「司令官、本当にごめんなさい」ペコリ
提督「ん? 気にするな、ちゃんと反省してるならそれでいいさ。掃除してくれてありがとな」ナデナデ
大潮「し、司令官……えへへ///」テレテレ
朝潮「……」ジー
提督「どうした、朝潮」
朝潮「あ、いえ、なんでもない……です」ソワソワ
提督「……朝潮、こっちにおいで」
朝潮「? はい」トコトコトコ
提督「掃除手伝ってくれてありがとー」ポンッ…ナデナデ
朝潮「!? あのっ……」
提督「朝潮も、がんばったもんな。きちんと褒めてやらないと」ヨーシヨシヨシヨシ
朝潮「……っ」ジワ
提督「あ、朝潮!? 嫌だったか? 頭撫でられるの」ピタッ
朝潮「違うんです……。なぜかわかりませんが、司令官に頭を撫でられたら急に涙が出てきちゃって……」ポロポロ
大潮「朝潮姉さん……」
提督「……朝潮」ギュッ
朝潮「えっ、あの、司令官……?」
提督「お前は……いや、この鎮守府に着任している艦娘は、俺がここの提督である限り、俺の所有物だ」
朝潮「……」
提督「それは同時に、お前たち艦娘にとって最高の所有者で……そして、安心して帰ってこられる居場所でなければならない」
朝潮「……!」
提督「……朝潮、我慢する必要はないんだ。だって俺は、お前たちの提督なのだから」
朝潮「し、司令官……」ポロポロ
提督「んー? どうした?」ナデナデ
朝潮「本当は怖かったんです……。新しく来た司令官が、前の司令官のような人だったらどうしようって……」ポロ…
提督「……」ナデナデ
朝潮「さっき、大潮が転んで司令官のご飯を落としちゃった時も、妹があんな事されちゃうって思って……」ポロポロ
提督「……」ナデナデ
朝潮「でも司令官は怒らなくて……優しくしてくれて……お掃除も手伝ってくれて……ありがとって褒めてくれて、頭を撫でられたらよくわからなくなっちゃって……!」グスッ
提督「そうか……。俺は嬉しいぞ、朝潮の本音が聞けて」
朝潮「司令官……朝潮は、朝潮は!」ポロポロ
提督「よーしよし、いっぱい甘えていいんだぞ」
朝潮「しれいかぁん……」グスグス…
大潮「……っ」ジワ
提督「ほら、大潮もおいで」
大潮「でも大潮は、朝潮姉さんみたいに良い子じゃなくて……失敗ばかりの……」グシグシ
提督「そんな事言って……ほらおいで!」ダキッ
大潮「わぁ!」
提督「言ったろ? 俺はお前たちの提督だって。いい子かどうかなんて関係ない、いっぱい頼れ……な?」
大潮「は、はい!」
数分後
朝潮「し、司令官。その、お恥ずかしいところをお見せしました……」カァァ///
提督「いいっていいって。それよりほら、涙痕が残ってるぞー」フキフキ
朝潮「あ、ありがとうございます司令官……///」テレテレ
大潮「司令官、大潮は?」
提督「大潮は……可愛いなぁ!」ワシャワシャ
大潮「わぁ!」キャー
提督「んじゃ、掃除も終わったし解散だな。すまないが掃除用具の片付けを頼む」
大潮「はい、お任せください!」
朝潮「司令官、こちらの食べ終わった食器もお持ちしてもよろしいですか?」
提督「ん? あぁ、長門の……そうだな、頼むよ」
朝潮「はい! それと、お食事を新しくお持ちしましょうか?」
提督「あー……いや、大丈夫。少し書類の片付けをしなくちゃいけないから」
朝潮「了解です。では、朝潮はこれで失礼します」ビシッ
大潮「大潮も失礼します!」ビシッ
バタン
提督「ふぅ……さてと」グルリ
提督「……誰かいるのか?」
………
提督「……気のせいか。まぁいいや、仕事仕事っと」
???「……」
──────
一四三〇
提督「………」ペラ…ペラ…
提督「んー……」ペラ…ペラ…
提督「……疲れた。単純に疲れた」パサ
提督「やめだやめ。こんな時はココアを飲みながら時津風を愛でるに限る」
提督「……が、肝心な時津風がいないのでココアだけで我慢しよう」ガザゴソ
提督「ココアはやっぱり森〇だよな」ジャーン
提督「牛乳は……無いな。ポットはあるからお湯割にしよう」
提督「おー! 沸かしてあるじゃん……誰が沸かしたんだろう、優秀」
提督「この、〇越で買った山風マグカップにココアと練乳、そしてお湯を入れてかき混ぜる……」クルクル
提督「完成! 山風の練乳ココア!」バーン
提督「あぁ^~山風のココアが骨身に沁みるんじゃあ^~」ゴクゴク
コンコン…
提督「開いてまーす」
長門「提督、失礼するぞ」ガチャ
夕立「失礼します」
提督「あぁ、長門か。丁度いい、聞きたいことが……ん? 夕立も一緒だったのか、調子はどうだ?」
夕立「すっごくよくなったっp……よくなりました」
提督「ん、なら安心だ。……あぁ、そうそう無理して口調を直す必要はないぞ、自分の話しやすいように話すといい」ズズズ
提督「あぁ^~」
夕立「……」トコトコトコ…
提督「ん?」
夕立「……」スンスンスン
提督「え、なに? 臭う?」スンスンスン
提督(臭いは大丈夫のはずだ……夕立の部屋の掃除の終わり際に、妖精さんに消臭してもらったし大丈夫……大丈夫だよな?)
夕立「……あなたが新しい提督さん?」
提督「1ヶ月の間だけ、だけどな」
夕立「ふーん……」スンスンスン
提督(……ちょっと心配になってきたぞ)
夕立「……ふふ」ニコ
提督(笑われた? なんだ、いったいなに対して笑ったんだ……俺は臭いのか?)ズズズ
提督「あぁ^~」
夕立「提督さんからはとてもイイ匂いがするっぽい!」
提督「イイ匂い……?」
夕立「うん! なんかこう、優しくて安心する匂い!」
提督(時津風と同じこと言ってるよ……)
提督「そうか……まぁ、元気そうで良かったよ。ソファーにでも座りな」
夕立「え、座っていいの!?」
提督「いいぞー」
夕立「やったー!」ポフ
長門「……ところで提督よ、腹は空いていないか?」
提督「あー、空いてるわ」ズズズ
提督「あぁ^~」
長門「間宮に言って作り直してもらったんだ。食べるといい」
提督「マジで? てっきり長門が自分で食べるために持ってきたのだと思ってた」
長門「む、心外だな。やらんぞ?」
提督「いただきますいただきます、ありがとー長門ー」
長門「フ、最初から素直にそう言えばいいものを……ほら」コト
提督「ありがたやありがたや……いただきまーす。……んん〜うまうま〜」モグモグ
長門「ところで、聞きたいこととは? ……あぁ提督、座ってもいいか?」
提督「いいぞー」
長門「失礼する」ボフ
提督「聞きたいのは、前任の事なんだが……夕立、大丈夫か?」
夕立「前の提督さんのこと? ……うん、夕立は大丈夫っぽい!」
提督「そうか……なら都合がいい。遅かれ早かれ夕立にも聞こうと思ってたしな」
夕立「夕立にも……?」ポイ?
長門「前任の何が聞きたいんだ? 私の知っている事なら出来る限りは教えよう」
提督「まずは……と、言いたいところだがその前にココア飲む?」
長門「あ、いや……そうだな、いただこう」
夕立「はいはーい! 夕立も飲みたいっぽい!」
提督「あいよー」テキパキ
長門「……しかし、こうして提督に飲み物を淹れてもらう日が来るなんて思いもしなかったな」
夕立「うんうん」コクコク
提督「こういうのってだいたい、艦娘がやっちゃうしな……。ほい、お飲み」コト、コト
長門「すまない、いただくとしよう」ズズズ…
夕立「わーい、いただくっぽーい!」ズズズ…
長門 夕立「「……ほっ」」ホッ
提督「さて、ご飯食べながらですまないが話を聞かせてくれ」
夕立「……」ピタッ
長門「……」ズズズ…
提督「前任と、この鎮守府のことを……」
──────
提督「まずは、俺が把握している範囲だが……もし間違いがあったら訂正してくれ」
長門「了解した」
夕立「ぽい!」
提督「ん。まずは、暴力的行為を艦娘に、それも駆逐艦を中心に行っていたと元帥から聞いた。それも艦娘の皆が寝静まった夜に……だ」
長門「その通りだ……」クッ
提督「ミスを犯したり、何か提督にとって気に触る事があると更に酷かったみたいだな」
長門「あぁ……っ」グググ…
提督「どうした? 長門」
長門「……付け加えると、私のような戦艦や空母がミスを犯せば、その矛先が駆逐艦に向いていたんだ。……そしてその事実に気付いたのは、夕立が事を起こした後だった」
提督「……なるほど。体格がよく、戦力にもなる戦艦や空母には暴力は振るわず、その矛先を駆逐艦に向けていたと」ゴソゴソ…
長門「私は、その事実を知って私自身を恥じた。何が戦艦長門だ……何が世界のビッグセブンだ!」ググ…グシャッ
提督「……」つバケツ
長門「駆逐艦を守れないで何が……っ!」
提督「そうか。悔しいのはわかるが、マグカップを壊さないでくれ」
提督(幸いにも、山風がプリントされていない普通のマグカップであったから許そう)
長門「あっ……すまない、つい感情的になってしまった」
提督「気にするな……と言っても気にするんだろうな。まぁ、あまり気に病むなよ」ポンポン
長門「提督……」
提督「お、なんだ、嫌だったか?」ナデナデ
長門「……フッ。嫌か? と聞きながらも撫で続けるとは、わかっててやってるな?」
提督「それはどうかな……」ピタッ
長門「なんだ、もうおしまいか?」
提督「続けてほしい?」
長門「夕立の前だ、名残惜しいが遠慮しておく」
提督「となると、夕立のおかげで事実を知れたってことだな……。しかし、夕立は前任を怪我させたらしいが……なにをしたんだ?」
夕立「んーと、前の提督さんの提督さんを……こう! したっぽい!」グッ!
提督「……ん? どういうこと?」
夕立「えーっと……まず、提督さんの提督さんたちがたくさんいるお部屋を、こう! して……」グッ!
提督「……っ!」ビクッ
夕立「提督さんの提督さんをっっっこう! したっぽい!」グンッ!
提督「っっっ!」サー…
夕立「提督さん、夕立えらい?」ソワソワ
提督「あ、あぁ……夕立はすごいな」ナデナデ
夕立「えへへ、もっと褒めて褒めて!」ポイポイ
長門「どうした提督、声が震えているぞ」
提督「いやぁ、夕立の話を聞いたらなんかゾッとしちゃってね……」ナデナデ
長門「提督はそういう話は苦手なのか?」
提督「苦手……というか、あまり想像したくないと言うか……」ナデナデ
長門「まぁ、わからんでもない。……が、私たち女には関係のない話しだ」
提督「……ん?」ピタッ
夕立「提督さん、もう終わりっぽい? もっと撫でてほしいなぁ……」
提督「あ、すまんな」ナデナデ
夕立「んー!」ポイポイ
長門「そう言えば、提督は元帥殿に言われてここに来たと言っていたな」
提督「あぁ、急に鎮守府に来たと思ったら、ここの鎮守府に異動だー! なんて言ってきたからな……」ナデナデ
長門「……元帥殿には本当に感謝しなければならないな」
提督「元帥にか?」
長門「あぁ。本来であれば夕立は即解体……いや、もっと酷い罰を受けていたであろう夕立が謹慎という形で収まったのは元帥殿が進言してくれたからだ」
提督「そんな事も言ってたな」ナデナデ
長門「それに、この鎮守府に所属している私たちへの配慮なのだろう……こうして同性の提督を着任させたのは」
提督「……ん?」ピタッ
夕立「本当にその通りっぽい!」
提督「……あの、長門さん? 同性の提督って」
長門「貴方のことだ、提督。ここには前任に暴力を振るわれていた艦娘、そして私のように前任の悪行を知らずに過ごしていた事に傷ついた艦娘もいる」
提督「……」
長門「提督に、それも男性の提督にトラウマを抱いている艦娘も少なくない……。それでも私たちは艦娘だ、嫌でも提督と付き合っていく事になる」
提督「……」
長門「だから、貴方が来てくれたことに本当に感謝している」
提督(……夕立の話しからして、駆逐艦は性的暴力を受けていたのは確定だろう。そして男性に対して恐怖心などといった負の感情を抱く艦娘もいること……)
提督「……だから俺なのか」ハァ…
長門「どうした?」
提督「いや、なんで俺をここに1ヶ月という短い間だけでも着任させたかったのか、やっと理解できたんだ」
長門「どういうことだ?」
夕立「ぽい?」
提督「長門、夕立。お前ら二人から見て、俺はどう見える? 難しく考える必要はない、単純に見た目で判断してくれて構わない」
長門「……見た目だけなら、全く頼りに出来そうにない少女……だな」
夕立「夕立は提督さんのこと、と〜ってもかわいいと思うっぽい!」
提督「そうなるよなぁ……」
長門「だが、少なくとも私は提督のことを信頼している。多少、言動が悪くとも提督が私たち艦娘のことを大切に思ってくれているのは、今日の行動を見れば嫌でもわかる」
夕立「夕立は、まだ少ししか一緒にいないけど、それでも提督さんがいい人なのはよくわかるっぽい!」
提督「……そこまで思われていたとは予想外だよ、まったく」
長門「フッ」
夕立「えへへ」
提督「だが、残念なお知らせがある」
長門「残念なお知らせだと?」
夕立「ぽい?」
提督「お前らが信頼を寄せている提督は、残念ながら女ではない……………前任と同じ、男である」
────────
長門 夕立「「ええええええええ!?」」
長門「お、男? 提督がか? いやしかし、こんな少女が……?」
夕立「そんな事ない! だって提督さんからはとてもいい匂いがするもん!」クンクン
提督「なんでここにいる艦娘とすんなり仲良くなれたのかがわかったよ……。それと夕立はいい加減、匂い嗅ぐのをやめろ」ペシ
夕立「あう!」
長門「……」
提督「お前の言う通りだよ、長門。元帥が俺をここに異動させたのは、お前たち艦娘のためを思っての事だろう。正式に着任してくる提督は恐らく男……。少しでも男性に対するトラウマを和らげようと、女みたいな容姿をした俺を着任させたんだろう」
長門 夕立「「……」」
提督「まぁ、困惑するのもわかる。まだ短いとはいえ、女だと思っていた相手が男だったんだから」
提督(二人の様子からして、今日はこれ以上話しを聞くのは難しいかな……)
提督「二人とも、話しを聞かせてくれてありがとな。今日のところはこの辺で───」
夕立「っっっぽーい!」ピョーン
提督「ちょ、おま!」バターン…
提督「あぶねー……いったいなんの」
夕立「夕立は提督さんが好きっぽい!」
提督「お、おう……」
夕立「長門さんから話しを聞いた。新しい提督が女の人であり、夕立の謹慎を解いてくれたことも……。でも、怖かった。前の提督さんと同じ人だったらどうしよって……」
提督「夕立……」
夕立「でもね、会ってみたらそんな事忘れちゃった。提督さんからはとてもぽかぽかする匂いがするから……夕立ね、提督さんの為なら頑張れるって思ったの!」
提督「そうか……なら、長門からは聞いてるだろ? 俺がお前たち艦娘の事をどういう風に認識していて、どう扱うかを」
夕立「そう言えばそうだったっぽい!」ハッ!
提督「忘れてたのか……」
夕立「言ったでしょ? 忘れちゃったって!」ギューッスリスリ
提督「ったく、お前ってやつは……。お前みたいな奴には……こうだ!」ワシャワシャワシャ
夕立「きゃー! 提督さんもっと撫でて撫でて!」キャッキャッ
長門「……まぁそういう事だ、提督。確かに驚きはしたが、貴方だから私は信頼を寄せているのだ」
提督「貴方、ね……。お前らちょろ過ぎない? 前任よりも凶悪かもしれないぞ?」
長門「凶悪な奴は、そんなこと言ったりしないさ」
提督「そうかい。だが忘れるなよ、俺がここに要られるのは1ヶ月前後だということを」
夕立「ぽい……」ショボン
長門「なら、その1ヶ月の間、みっちりと働いてもらおうか」ニヤ
提督「あぁ任せろ。前任の方が良かったと吐かせてやるほどの濃い1ヶ月にしてやる」
夕立「提督さん、本当に1ヶ月でいなくなっちゃうの? 夕立、寂しいっぽい……」
提督「大丈夫、安心しろ。1ヶ月後にはそんなこと思えないほど酷使してやるからな!」ナデナデ
夕立「そんなー」ポイー
─────
二二〇〇
執務室
提督「……んーっ!」ノビー
提督「とりあえずこんなもんかな……」トントン
提督「練度が高いのは、ケッコンしてる那珂ちゃんと、戦艦の長門と陸奥に空母の赤城と飛龍。軽巡の天龍か……この編成で出撃してたのがよくわかる。駆逐艦なんてほとんど育っていない」
提督「ひとまず、戦力増加のために改二に改造できる朝潮、大潮、夕立を優先的に育てるか。残りの駆逐艦は遠征に出して、資源調達しながら練度を上げてもらおう」
提督「しかし、これだけの資材をどうやって集めたのやら……。遠征に出してるのは月に2、3回……任務もろくにこなしてないみたいだし不思議だ」
提督「まぁいいや、仕事は終わったし風呂にでも……」
コンコン…
提督「ん? 開いてるぞー」
夕立「……提督さん」ガチャリ
提督「夕立か。どうしたこんな時間に」
夕立「提督さん、一緒に寝てもいい?」
提督「一緒に寝るって……だから枕持ってるのか」
夕立「大丈夫っぽい?」
提督「別に構わないが、何故ここに? 自室があるだろ」
夕立「あの部屋にはあまりいたくないの……」マクラ ギュッ
提督「……そうか。俺は今から風呂に入るから、先にベッドにでも寝ててくれ」
夕立「お風呂なら夕立も一緒に入るっぽい!」
提督「お前はもう入ったろ? それに一緒に入るのはちょっと厳しいかなぁ……」チラッ
夕立「提督さんどうしたの? 誰かいるっぽい?」
提督「いや、なんでもない。風呂入ってくる」ガチャ
夕立「ぽい!」スタスタ
提督「……」ヌギヌギ
夕立「おっふろ、おっふろ〜」ヌギヌギ
提督「なにしてんだお前」
夕立「服を脱いでるっぽい!」
提督「……夕立?」ガシ
夕立「ぽい?」
提督「オラァ!」ポイ
夕立「ぽいー!?」ヒューン
提督「……ったく」ヌギヌギ
…………
………
…
提督の部屋
夕立「うぅ……提督さんひどいっぽい〜。お尻がぁ……」サスリサスリ
夕立「仕方ない、先にベッドに入ってるっぽい……」トコトコトコ…
夕立「……っ」ピタッ
夕立「……」キョロキョロ……
(前任『夕立は可愛いなぁ……』ニタァ…)
夕立「……っ!!」ザワッ
タタタタ……バサリ…
夕立(なんでこんな時にあいつが出てくるの……!)ギュウ…
(前任『んん〜、いい匂いだ……』グヘヘ スリスリ)
夕立「……っやだ」
(前任『ここ、気持ちいいんだろ?』)
夕立「ハァ……ハァ……ハァ……」ギュウゥ…
(前任『なぁ夕立……これ、しゃぶっt────』)
夕立「やだ!」バッ!
タタタタ……
「あ、待っ──」
「……っ」
………
……
…
提督用浴室
提督「あ゛ぁ〜気持ちええのぉ」チャポン
提督「流石は少将殿が使っていただけの事はあるね……一人用にしちゃあかなり広くてとても使いやすい」
提督「……しかし午後からずっと誰かに監視されてる気がするんだよなぁ。まぁ、仕方ないのかもしれないが。……んー!」ノビノビー
タタタタ…バタ―ン!
提督「おぅ!?」ビクッ
夕立「ハァハァハァ……」キョロキョロ
提督「ゆ、夕立? いったいどうし────ぬお!」
夕立「っ!」ガバッ ボチャーン!
提督「おいこら夕立! いきなりなんだ!?」
提督「ていとくさん……ていとくさん……!」ギューッ ポロポロ
提督「……どうしたんだ夕立、俺はここにいるぞ?」ナデナデ
夕立「てい……とくぅ……ぅあああああん!」ポロポロ
提督「……」ポンポンナデナデ
………
……
…
カポーン……
提督「………」
夕立「………」
提督「さて、夕立くん。いったい何があって風呂場に飛び込んできたのかな?」
夕立「……」ブクブクブク
提督(だんまりか……。どうしたものかね)ハァ…
夕立「……前の提督さんのこと、思い出しちゃったの」
提督「前任の?」
夕立「うん。とても嫌な思い出。あの部屋にいたら思い出しちゃって……」
提督「……」
夕立「提督さんの言うとおりベッドに入ったんだけど、それでも頭から離れないの……。すごく怖くて……寒くて……っ」ブルブル
提督「……夕立、おいでー!」ギューッ!
夕立「ひゃ! て、提督さん!?」アタフタ
提督「風呂に入ってるのに寒いってあるか!」
夕立「そうだけど、そうじゃないっぽい……」
提督「んん? じゃあどういうことなのかな、ん?」
夕立「なんて言うのかな。こう、体の中が寒くて……あれ?」ポロポロ…
夕立「な、なんで涙が出てくるの? あれ、あれれ?」ポロポロ…
提督「……本当に怖かったんだな」ギュ
夕立「提督さん?」
提督「夕立、もう寒くないか?」
夕立「っ! うん……うん! 寒くないよ提督さん。すごくぽかぽかするっぽい」
提督「そうか……それはよかった」
夕立「提督さん、ありがとう」ギュ…
提督「……あぁ、どういたしまして」
───────
チュンチュンチュン…
次の日
〇六〇〇
提督「」ムクリ
提督「」チラッ
夕立「ぽいー……ぽいー……」スー…スー…
提督「おはよう諸君、私だ」
提督「夕立が隣で寝ているが決して! ……やましい事はしていない」
提督「さてと、起きて着替えますか……」ドッコイショ
提督「服は……あ、夕立の制服を取り寄せるの忘れてた……」
提督「どうするかな……流石にパジャマのままで過ごさせるわけにはいかないから昨日のワンピースか、夕立の着ていた制服……かなぁ」
提督「そう言えば長門が夕立の制服を洗濯したとか言ってたな……。まだ寝てるだろうし、後で聞k────」
バーン!
テイトクイルカー!
提督「お、長門か。丁度いい」
提督「おはよう長門。早起きなんだな」ガチャリ
長門「おはようだ提督。早朝から騒いで済まない……だが聞いてくれ、大変なんだ!」
提督「いったい何があったんだ?」
長門「夕立が消えたんだ!」
提督「……」
長門「朝、着る服がないと困るだろうと思い、昨日洗濯した夕立の制服を持って部屋に行ったんだ。夕立はちゃんと昨日部屋に送ったんだ……提督は何か知らないか?」
提督「あー……夕立なら俺の部屋で寝てるぞ」
長門「……何? どういう事だ」ギロリ
提督「まぁまぁ落ち着け。実はな、かくかくしかじかってことがあってな。大丈夫、手は出してないさ」
長門「そうか、そんなことがあったのか……」
提督「しかし着任したての俺に甘えてくるなんて。昼間は平気そうな顔をしていたが、やはり辛かったんだろうな……」
長門「日の長さなんて関係ないんじゃないか? 貴方だから甘えたのではないかと私は思う」
提督「俺だから? そうなのかねぇ……まぁ、そうだったら嬉しいな」
長門「フッ、提督は結構素直なんだな」
提督「んー? 素直と言うか、あいつらの影響だろうな」
長門「あいつら?」
提督「あー、現役時代の艦娘たちさ。今は前線から離れ、辺境の鎮守府でのんびりと過ごしているんだ。俺はこうして異動させられたけどな」
長門「だがそれでも1ヶ月でいなくなってしまうのだろ?」
提督「あくまで繋ぎだから」
長門「……提督、正式にここに着任はできないか? まだ1日しか経ってないが、一緒にいて、夕立を見れば貴方がどれだけ素晴らしい人物なのかは嫌でもわかる。貴方がいれば皆の心の傷も……」
提督「無理だな」
長門「っ……」
提督「俺には俺の鎮守府があり、そして艦娘がいる」
長門「……なら、その艦娘をこちらに異動させるか、私たちがそちらの鎮守府に異動するかなら」
提督「どうだろうな。俺はあの鎮守府から動く気はないから正式な着任は却下だ。お前たちがこっちに来るのは……まぁ、よっぽどじゃない限りあり得ないな」
長門「そうか……」
提督「……ま、今は俺がお前たちの所有者だ。俺の所有物である限り誰にも手出しなんかさせないし、俺の手から離れたとしても、どこに出しても恥ずかしくない艦娘にしてみせるさ」
長門「……あぁ、頼りにしているぞ、提督」
提督「おう、任せろ。……でだ、夕立の制服を置いてからでいいからお願いしたいことがある」
長門「なんだ?」
提督「皆を食堂に集めてほしい。時間は〇九〇〇で頼む」
長門「了解した」
──────
〇九〇〇
提督「みんなおはよー。全員集まったかな?」
朝潮「おはようございます司令官!」ビシッ
大潮「おはようございます!」ビシ
提督「おう。この2人以外はみんな後ろの方にいるな……あーあー、聞こえるかなー?」
大潮「はい! よく聞こえます!」ビッ!
提督「そりゃあ前の席にいるもんな、聞こえなかったら逆にびっくりだわ。さてと、後ろにいる子で聞こえなかったら遠慮せずに聞こえる範囲に移動しろよー」
提督「長門と夕立も座ったらどうだ?」
長門「私は立っていよう。何かあったら遠慮なく声をけてくれ」
夕立「夕立も立っているっぽい!」
提督「あ、そう。えーじゃあまず最初に……おや?」
筑摩「ちょ、姉さん……」
利根「」テクテクテク
利根「あさしお、隣失礼するぞ?」
朝潮「あ、利根さん! はい大丈夫です!」
利根「うむ」ス…
提督「……いらっしゃい。声、聞き取りづらかったか?」
利根「ん? そんなことはなかったぞ」
提督「そうか、ならいいんだが……」
利根「うむ。さぁ提督よ、早く続きを喋るのじゃ」ジー
提督「あ、はい。……えー、まず最初にお前たちに言わなければならない事がある」
提督「知っているものも、気付いてるものもいるかもしれないが……俺はこう見えて、男である。以上。さて、今後の予定だが────」
朝潮 大潮「「ええええええええ!?」」
利根「なんじゃとおおおおお!?」ガバッ
提督「……言いたい事はあると思うが、それは話しが終わってからにしてくれ」
利根「提督よ、お主本当に男なのか? 男にしてはあまりにもほっぺたが柔らかすぎるぞ? 実は女なのではないか?」プニプニ
提督「えぇい、突くのやめい! 俺については話しが終わってからだと言ったろ、はよ席につけや!」
筑摩「姉さん! やめてください! 提督、本当にごめんなさい! 姉さんはここにきてまだ日が浅いのです……罰ならこの筑摩が受けますのでどうか姉さんの失礼をお許しください!」
利根「な、なんじゃちくま。そんなに頭を下げて……」
提督「許さん! 許して欲しければ席について大人しく話しをききなさい!」
筑摩「は、はい! ほら姉さん、席につきましょ?」
利根「わかっておる……ほれ、ちくまもここに座るのじゃ」ドッコイショ
筑摩「そ、そこですか……?」
提督「どこでもいいから早く座りなさい」
筑摩「はい……」チョコン
提督「えーでは、今後の予定だが───」
………
……
…
提督「───以上。なにか質問はあるか?」
利根「あるぞ! 提督は本当に男なのか?」
筑摩「姉さん!」
提督「無いようだな。よし、さっき発表した第一艦隊と第二艦隊のメンバーは一〇〇〇に執務室に来てくれ。後は指示のあったもの以外は自由行動とする、解散!」
利根「こら提督! 我輩を無視するでなーい!」プリプリ
提督「まぁ待て、慌てるな。……おーい、那珂ちゃんはいるかー?」
那珂「……はい、なんでしょう」
提督(あれ、なんか雰囲気が……)
提督「ん、那珂ちゃんには秘書艦をしてもらおうと思ってな。……いいか?」
那珂「はい」
筑摩「あの、提督」
提督「お、どうした?」
筑摩「私はどのような罰を受ければよろしいでしょうか?」
提督「罰? ……あぁ、罰ね。そうだなぁ……」ンー
提督「決めた。おーい妖精さーん」
妖精「ハーイ」トテトテ
提督「あそこに豪華な席があるでしょ? あれを撤去して欲しいんだ」
妖精「リョーカイ。イクゾー!」ビシッ
妖精s「「「オー!」」」ゾロゾロ…
提督「よし。筑摩よ、今から罰を与える」
筑摩「は、はい」
提督「妖精さんの手伝いをしてきなさい、それが罰である」
筑摩「え?」
提督「返事は?」
筑摩「あ、はい。行ってきます」タタタタ
利根「あ、待つのだちくまー! 我輩もいくぞー!」トテトテトテ
提督「あいつ、質問しときながら筑摩に付いて行きやがった……まぁいいや」
長門「提督、私はどうしたらいい?」
提督「ん? 長門は今日、非番にするつもりだから自由にしてくれて構わないが」
長門「その自由行動なんだが……何をすればよいのかわからないのだ。……今まで出撃ばかりしていたものでな」
提督「そうだな……だったら街に出かけてみたらどうだ?」
長門「街に……だと? 行ったことがないのだが……」
提督「だったら尚更行くべきだ。日頃、自分たちが守っているものはなんなのかを把握するのも大切だからな」
長門「なるほど……」
提督「ひとりが不安なら陸奥と天龍を誘えばいい。あいつらも非番だからな」
提督「もし出かけるのなら後で執務室に来てくれ」
長門「了解した。2人を誘って行ってみる。それでは提督、失礼する」
提督「おう、またな」
夕立「提督さん、夕立お腹空いたっぽい!」
提督「俺も。那珂ちゃんは朝食食べた?」
那珂「いえ……私は今まで提督と一緒に食べていたのでまだです」
提督「なら丁度いい、食べてから行こう」
夕立「提督さんとごはん食べるっぽい!」
那珂「……」
────────
一〇〇〇
執務室
提督「ふむ……」
夕立「ぽい?」
朝潮「っ!」ピシ
大潮「…っ」ソワソワ
飛龍「……」
利根「んー、なぁちくまー」
筑摩「姉さん、しーっですよ」
陽炎「……」
不知火「……」ウツムキ
秋雲「ブツブツ……ブツブツ……」ゲッソリ…
赤城「」モグモグモグ
那珂「提督、第一艦隊と第二艦隊のメンバーが揃いました」
提督「ん。既に会話を交わしたものもいるが改めて……。1ヶ月だけこの鎮守府を任された提督だ、よろしく頼む」
提督「さて早速だが朝潮、大潮、夕立、飛龍の第一艦隊には鎮守府近海に目撃された潜水艦を撃沈してきてもらう。装備はこれに記してある、旗艦の朝潮に渡すので確認するように……ほい、朝潮」ヒョイ
朝潮「了解であります!」
提督「おう、それじゃ頑張ってね」
朝潮「行ってまいります!」ビシッ!
大潮「大潮、行ってきまーす!」
夕立「夕立、行ってくるっぽいー!」
飛龍「……二航戦飛龍、出撃します」ビシッ
提督「うむ、行ってらっしゃい」ノシ
バタン…
提督「……さて、第二艦隊の皆には演習に参加してもらいたいのだが……何故秋雲はそんなに疲労しているのかが気になって仕方ない。いったいどうした?」
赤城「へえほく、かのぎょあ(提督、彼女は)」モグモグ
提督「食いながら喋るな。てか、なんでお前は肉まんを食べてんだよ……」
赤城「ゴクン……腹が減っては戦はできぬ、と言うでしょ?」キリッ
提督「……働かざる者食うべからず、と言う言葉があってな」
赤城「日本語って難しいですね」アーンモグモグ
提督「お前って奴は……まぁいい。不知火」
不知火「っ」ビク
陽炎「し、司令、どうしたのかしら?」ス…
提督「ん? あぁ、秋雲についてなんだが……何故あんなにげっそりしてるのか知ってるか?」
陽炎「あー、秋雲ね……。前の提督と一悶着あって、あの子が大切にしていた物を提督に捨てられちゃったの」
提督「大切な物を……か」
陽炎「えぇ。あと秋雲って絵を描くのが好きなんだけど、それも禁止されちゃって……。それ以降、どんどんやつれちゃって今に至るの」
提督「……それは絵を描かせれば治ったりするのか?」
陽炎「どうだろう……でも、今よりは絶対に良くなるわね」
提督「そうか……」
提督「秋雲、ちょっと来てくれ……秋雲ー?」
秋雲「ヤッパリユリガイイノカナ…デモバラモ…」ブツブツ…
提督「……仕方ない、よっと」ヒョイ
提督「軽っ! なんだこれ、壊れそうですごく怖いんだが……」
陽炎「提督に色々禁止されてから食が細くなっちゃったのよ。……てか、司令はどうして秋雲を膝の上に乗せてるのかしら?」ジッ…
提督「まぁそう警戒するな、手を上げるつもりはないからさ。……ほれ秋雲、これがなにか分かるか?」ス…
秋雲「……エン、ピツ」ピク
提督「そうだな。それじゃ……これは?」ペラ
秋雲「カミ…エンピツト、カミ…!?」バッ!
提督「おぅ!?」
秋雲「………」カリカリカリカリ
秋雲「……フフフ」カリカリカリカリカリカリカリカリ
秋雲「アーッハッハッハッハッハ!」カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
陽炎「あ、秋雲の目に……光が!」
不知火「……!」ソー…
利根「絵か? 絵なら我輩も描けるぞ!」
筑摩「そうなんですか?」
赤城「」モグモグモグ
那珂「……!!」
提督「お、おぉ……おお!?」パチクリ
秋雲「うおおおおおお!」カリカリカリカリヒュピーン!
………
……
…
10分後
秋雲「……ふぅ。まぁ、こんなところかな」キラキラ
提督「こ、これは……?」
秋雲「ん? 見てわからない?」
提督「いや……陽炎と不知火ってのはわかるのだが」
陽炎「え? 私と不知火? 秋雲ったらいったい何を描いt……なにこれ」ペラ
不知火「……?」
秋雲「嫌だな〜。陽炎 “兄さん” と不知火 “兄さん” に決まってるじゃ〜ん」キラキラ
陽炎「は?」ビリ
秋雲「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! なんてことするのー!」
提督「お前ら、男だったのか」
陽炎「は?」ギロリ
不知火「……っ」キッ
提督「うっ……冗談だよ、そう睨まないでくれ」
秋雲「あぁ……なんて無慈悲な……久しぶりに良いのが描けたのに」ガックシ…
提督「そう落ち込むな秋雲。ほら、紙ならいくらでもあるからさ……また描こう、な?」ペラ
秋雲「うぅ……うん、そうだね。ありがとね、誰か知らないお譲ちゃん」ナミダフキ
提督「……ん? お譲ちゃんってまさか、俺のこと?」
秋雲「そりゃあそうでしょ。……てか俺っ娘!? うはー! リアル俺っ娘とかすごく捗るんですけど!」カキカキカキ
提督「……あー秋雲、捗ってるとこ悪いんだが俺はここに着任することになった新しい提督だ」
秋雲「」ピタリ
秋雲「……新しい提督?」クルリ
提督「あぁ。とは言っても正式ではなく、1ヶ月だけの仮着任だけどな」
秋雲「ふーん……そう言えばあの提督は?」
提督「前任の事だったら、今頃病院のベッドで寝てるんじゃないか?」
秋雲「え、病院? なにあの人怪我でもしたの?」
提督(なにも聞いてないんだな……まぁ、あんな状態だったし仕方ないか)
提督「あぁ。夕立に噛まれて大怪我を負ったみたいだ」
秋雲「……ぃよっしゃああああああ! 夕立ちゃんナーーイス!」ダンッ
提督「……」
秋雲「この秋雲さんの大切な宝物を捨てただけでなく、絵も奪った報いじゃ! あーメシウマ」
……
漣「ん?」
時津風「どーしたの?」
漣「……今、漣のアイデンティティが揺るがされたような気がしまして」
時津風「ほー。それより早く洗濯物干しちゃおーよ」バサバサ
漣「そうですね、ちゃっちゃと終わらせちゃいますか」
時津風「おー!」
……
提督「……秋雲、嬉しいのはわかったから机から降りてくれ」
秋雲「あ、ごめんねお譲ちゃん、つい昂っちゃった」チョコン
提督「それと大変申し訳無いが、俺はお譲ちゃんじゃなくて男なんだ」
秋雲「……え?」クルリ
──────
秋雲「……」ジ…
陽炎「あ、秋雲?」
秋雲「……男の娘で、車椅子」ボソ
陽炎「え?」
秋雲「最初は俺っ娘美少女絶壁車椅子かと思っていた……」サワサワ
提督「おい、なに人の胸を擦ってんだ」ベシ
秋雲「フフ、事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものね」
提督「なんだ、思ったよりも元気そうだな。陽炎、こいつ連れて演習に行ってきてくれ」ポイ
陽炎「わ! ちょ、司令! いきなり投げないでよ……って、うわ、あんた軽すぎ……」キャッチ
秋雲「ちょっとー! もっと秋雲さんを大切に扱いなさいよー!」プンプン
提督「あー聞こえなーい。早速だが第二艦隊は演習を行ってもらう、以上。ほら行った行ったー」
秋雲「なんて横暴な提督なんだ……見た目に騙されるところだった!」バタン!
筑摩「それじゃあ、行ってきますね……ほら姉さん、行きますよ」クイクイ
利根「なんじゃ、もう行くのか?」トテトテ…
赤城「……お腹空きましたね」テクテク
陽炎「それじゃ司令、行ってくるわねー」
提督「あぁ陽炎、ちょっと待ってくれ。聞きたいことがあるんだが──」
………
……
…
陽炎「陽炎、出撃しまーす!」
不知火「……」ペコリ
バタン……
提督「ふぅ……。んじゃ早速、那珂ちゃんには秘書艦の仕事でもしてもらいましょうかねー……ほい、これ任せた」ドサ
那珂「……多いですね」
提督「そりゃあ、前任が入院してから俺が着任するまでのやつがあるからな。量が多いのは仕方ないだろ……。ま、でも昨日の内に必要なものとそうでないものを分けたからこれでも減った方だな。……お前も見ていたからわかるだろ?」
那珂「……なんのことですか?」キッ
提督「やっぱり那珂ちゃんだったんだ……顔に出てるぞー。昨日みたいにコソコソと影から見られるのは落ち着かないんでね……せっかく秘書艦にしたんだから堂々と俺を見てくれ」バッ
那珂「……仕事します」
提督「なんだ、照れなくてもいいのに」
コンコン…
「提督、いるか?」
提督「おぉ、長門か。入っていいぞー」ペラペラ
長門「失礼する」ガチャリ
提督「なんだ、外にでも行くのか?」カキカキ
長門「その事なんだが……やっぱり今日は遠慮することにした」
提督「ほー、理由を聞いてもいいか?」ピタリ
長門「簡潔に言うと、陸奥と天龍に怒られてしまってな……」
提督「そうか……んー」
長門「どうかしたか?」
提督「いや、何でもない。他になにかあるか?」
長門「特には無いな、これで失礼する」ビシッ
バタン…
那珂「……提督、一一〇〇です」
提督「11時か……どう、進んでる?」
那珂「進みは悪くないです」カキカキ
提督「ほほー、順調に山が減ってるね……。一段落したら間宮さんのとこでご飯でも食べに行こう」
那珂「はい」カキカキ
提督(……あれ? 那珂ちゃんってこんな感じだったっけ? 俺の知ってる那珂ちゃんはもっとキャピキャピしていて生き生きとしたオーラを纏っていた気がするんだ……)
提督(この那珂ちゃんからは活気を感じない……。てか本当に那珂ちゃんなのか? 実は俺の知らない艦娘だったりして……)
那珂「……あの、提督。そう見つめられますと仕事に集中できないです」
提督「あ……ごめん」
那珂「いえ」カキカキ
提督「……」チラッ
那珂「……」カキカキ
提督(ここの那珂ちゃんはこれが素なのかな……)
提督(……)
提督(……よし)
提督「那珂ちゃーん」
那珂「はい?」カキカキ
提督「那珂ちゃんってアイドル目指してるんでしょ? そんな仏頂面で大丈夫なの?」
那珂「……アイドルですか?」ピク
提督「そうそう。そんなんじゃみんなを笑顔にできないんじゃないかなーって」
那珂「……提督は可笑しな事を聞くんですね」カキカキ
提督「そうか?」
那珂「はい、とても可笑しいです。提督も言っていたじゃないですか、私は……いえ、私たち艦娘は提督の道具であり兵器であると」
提督「そうだな」
那珂「艦娘は深海凄艦を倒す為に存在します……。そんな争いの中でしか存在意義を見いだせない兵器が、どうやってみんなを笑顔にするんですか?」
提督「……」
那珂「提督の都合でしか生きられない道具なのに、アイドルなんて……」
提督「……失言だったな、すまない」
那珂「いえ、こちらこそ熱くなってしまい、すみません」
提督「だが、これだけは言っておきたい」
提督「確かに俺はお前ら艦娘を道具として、兵器として見ている……が、俺が考える艦娘の存在意義は深海凄艦と戦うことではなく、海を守る事なんじゃないかと思っている」
那珂「……海を守る、こと?」
提督「あぁ。単純で明快、そして最も大切なこと……なんじゃないかな」
那珂「……」
提督「すまん。少しお喋りが過ぎたな、昼食にしよう」
那珂「……はい」
───────
鎮守府、港
那珂「一三〇〇」
提督「ん、時報ご苦労さん。……お、あれは飛龍だな、やっぱり空母はでかいなー」
那珂「夕立と大潮が大破、朝潮が中破で飛龍は被弾あり……飛龍が艦を出したと言うことは、大破の状態が酷いという事でしょうか」
提督「まぁ、だろうな。でなければ鎮守府近海で艦は出さないだろうし」
那珂「……着いたみたいです」
提督「本当にでかいな。これで燃費が変わらないんだから不思議だ……お、降りてきたな」
朝潮「司令官、艦隊が帰投しました!」バッ
大潮「なんとか帰ってこられました……」ボロボロ
飛龍「夕立ちゃん、大丈夫?」
夕立「ぽいー……」ボロボロボロボロ
提督「うむ、誰も欠けずに帰ってきてくれて何よりだ。しかし、夕立は随分と派手にやられたな……右半分が吹き飛んでるぞ」
提督「うぅ、あんまり見ないで欲しいっぽ〜い……」
提督「すまんすまん」
夕立「でも夕立がんばったぽい、提督さん褒めてほめて〜」
提督「よーし褒めちゃうぞー。……飛龍、屈んでもらっていいか?」
飛龍「……はい」ス
提督「ありがと、飛龍。よーしよしよし、よく頑張ったなー」ナデナデ
夕立「えへへ〜」ニヘラ
朝潮「ぁ……」ソワソワ
大潮「……」シュン…
提督「んー? 朝潮も大潮も、よく頑張った!」ナデナデナデナデ
朝潮「き、旗艦として当然のことをしたまでですっ!」エヘヘ
大潮「……ぅ」ジワ
提督「ん、どうした? 大潮」
大潮「大潮は、褒められるようなことはしてません……叱られることばっかりしました。夕立ちゃんに怪我させちゃったり、大破しちゃって提督やみんなに迷惑を……」
提督「そうか……でも、こうしてみんな欠けずに帰ってきてるじゃないか。叱るかどうかは報告を聞いてから判断するさ」
大潮「はい……」コクン
提督「ん。それじゃ、報告は飛龍から聞くことにするか」
飛龍「え」
提督「朝潮は中破してるし、夕立と大潮は大破してるからな。早く入渠させないと」
提督「那珂ちゃん、飛龍から夕立を受け取って、この二人を連れて行ってくれ」
那珂「……了解しました」
飛龍「あ、どうぞ」
那珂「確かに受け取りました。二人とも行きますよ」
朝潮「で、でも」
提督「大丈夫大丈夫、ゆっくりとお風呂に入ってくるといい」
朝潮「は、はい!」トテトテトテ…
飛龍「……」
提督「さて、早速報告を……と言いたいが、その艦、しまわないのか?」
飛龍「あ、すぐにしまいます」スッ…
提督(もう何度もこの光景を目の当たりにしてきたが、いつ見ても艦の展開と分解する瞬間は綺麗だな……)
飛龍「……ふぅ、終わりました」
提督「それじゃ、報告を頼む」
飛龍「はい、報告します────」
………
……
…
飛龍「──報告は以上になります」
提督「うんうん。大潮が魚雷を受けて大破。大潮に魚雷がさらに向かってきたのでそれを庇って夕立が大破。その二人のカバーに入って朝潮が中破っと……」
飛龍「……」ゴクリ
提督「……なんだ、やっぱり叱る必要なんてないじゃないか」
飛龍「よかった……」ホッ
提督「おっと、その反応は俺が大潮を叱ると思ってたのかな?」
飛龍「え、それは……」
提督「まぁ、内容によっては叱ることも考えていたが、大破してしまうのは仕方ないことだ」
提督「大破しても、きちんと帰ってきてくれた……俺はそれだけで充分嬉しいんだよ」
飛龍「……!」パチクリ
提督「なんだよ、その顔」
飛龍「あ、いえ、その……なんか普通に良い人で驚いているというかなんと言うか……」
提督「どういう事だ……?」
飛龍「ほら、提督って私たちの事道具とか兵器としか見てないーって言ってたじゃないですか」
提督「おう」
飛龍「だから少し警戒してたんですけど……えいっ!」プニプニ
提督「……ないしぇてんの(なにしてるの)?」プニプニ
飛龍「いやぁ、利根ちゃんが突いてるの見てたら私もやりたくなっちゃってね……はぁぁ柔らかいですねぇ」プニプニ
提督「えぇい、やめーや!」バシ
飛龍「あぁ! もう少し堪能したかったのに……」ブーブー
提督「うるさいうるさい。報告は終わったんだ、解散だ、解散!」シッシッ
飛龍「ふふふ、本当に女の子みたい……ねぇ、どうせだから口調をもっと可愛くしない?」
提督「だー! なんだお前! 早く散った散った!」
飛龍「はーい。またね提督〜」ノシ
提督「はぁ、やっと行ったか……」
提督「……」チラッ
提督「演習組が帰ってくるまでまだ時間があるな……」
提督「ひとまず、執務室に戻って仕事の続きかな……」
提督「あー、めんどくせー」
………
……
…
一四〇〇
執務室
提督「……」ペラ…
提督「んー、艦娘の月給ね……」ペラ…
提督「艦娘の金面管理は提督がするのをいい事に全部自分の懐に入れてたってわけか……」
提督「さぞかし良い生活を送ってたんだろうねぇ……ま、今は病院で寝てるけどな」
提督「さて、厄介な書類はこれで最後……っと。後は那珂ちゃんの仕事だが……まぁ、暇だしやっちゃうか」ドサ
コンコン
提督「あいどうぞー」
那珂「ただいま戻りました」ガチャリ
提督「おー、おかえり」カキカキ
那珂「……書類が減ってますね」
提督「あぁ、俺の分が終わったから那珂ちゃんのからぶん取ったんだ」カキカキ
那珂「そうでしたか……」ス…
那珂「……」ピタ
那珂「あの量を終わらしたんですか?」
提督「あぁ、そうだが?」カキカキ
那珂「そんな、私の書類よりも多かったのに……」
提督「あー……那珂ちゃん、ちょっとそれを見てくれ」ユビサシ
那珂「?」チラリ
シュレッダー「パンパンだぜぇ……」
那珂「………提督」ジト…
提督「いらない物は、すぐに捨てるに限る」
那珂「……」
那珂「……それは、私たちにも当てはまりますよね」
提督「……そうだな。いらなければ、捨ててしまうな」
那珂「……っ」
提督「自分の事を兵器だと思うのなら、そんな風に感情を顔に出してはならない」
那珂「……顔に出ていましたか?」
提督「あぁ、よーく出ていた。……今も鍛えているのか? 表情筋とか」
那珂「今はやっていません……」
提督「“今は”、ねぇ……」ニヤニヤ
那珂「!! ニヤついてないで仕事してください」プイ
提督「あいやー、ごめんごめん。仕事しますねー」
那珂「っ……」カオペタペタ
提督「じー」ガンミ
那珂「!? 仕事してください!」カァァ///
提督「あはは、めんごめんご」
那珂「もう……あまりそういうのはやめて欲しいです」
提督「無理かなー……今までもこうして艦娘には接してきたから」
那珂「道具として、兵器として見ているのに?」
提督「だからだよ。俺は、お前たちにとって最高の持ち主でありたいんだ……」
那珂「……提督って、ツンデレ?」
提督「べ、別にあんた達のために提督をしているわけじゃないんだからね!」
那珂「すごーい! 提督って演技も上手なんだね! 今度、那珂ちゃんにも──」
那珂「……すみません、言葉が過ぎました。ご無礼をお許しください」
提督「流石アイドル。切り替えが早い」
那珂「いえ、そういう訳じゃ……」
提督「まぁまぁ、俺はお前の提督だぞ? 甘えてもいいんだぜ? ほら、朝潮と大潮みたいにさ。それか一緒にお風呂にでも入るか?」ニヤニヤ
那珂「い、いえ、遠慮しておきます……」
提督「遠慮なんかしなくていいのに……ま、何かあったら俺を頼ってくれよ?」
那珂「……はい」
提督「ん。じゃあ仕事しましょうかねー」
──────
再び鎮守府内、港
那珂「一五〇〇」
陽炎「第二艦隊、ただいま演習より戻りました」ビシッ
提督「うむ、ご苦労である。演習では負けてしまったが、よい経験が出来たのではないかと思っている。……それじゃこの辺で解散で、お疲れちゃん」
秋雲「ほら提督、執務室行くよ!」クイクイ
提督「そりゃあ行くが、なんか用事でもあるのか?」
秋雲「あるに決まってるでしょ? 絵を描きたいのよ」
提督「あー、んじゃシャーペンと消しゴム、それに紙を渡すから自室で描いてね」
秋雲「おぉ! 提督はわかってるね……愛してるよー!」バッ
提督「俺も愛してるよー!」バッ
ダキッ!
陽炎「……なにやってんのあんた達」
那珂「提督……」
提督「なんだ二人とも、羨ましいのか?」
陽炎「変なこと言ってると怒るわよ?」
那珂「……」ジト…
秋雲「提督提督」チョイチョイ
提督「ん、なんだ?」ス…
秋雲「陽炎姉さんはね」
提督「うんうん」
陽炎「ちょ、秋雲何言おうとしてるのよ」ガシッ
秋雲「きゃー! 提督助けて〜」ギュ
提督「やめろ! 秋雲はなにも悪くない!」
陽炎「提督もあまり変なこと──あ」
提督「どうした?」
陽炎「──なんでもないわ……不知火、行きましょ」クル
不知火「うん……」ペコリ
陽炎「あ、秋雲! 余計な事言ったら承知しないからねー! それと提督も秋雲の言葉なんて鵜呑みにしないこと!」
提督「はいはい、またな」
秋雲「……」
秋雲「それじゃ、私たちも行きましょうか」ポフ
提督「そうだな……って、人の膝に座るのかよ」
秋雲「なんて言うのかな……座り心地がいいんだよね〜。ほら、背もたれが平だからかな?」
提督「そうか? 俺はあったほうが柔らかくていいと思うけどな」
秋雲「やっぱり提督も男だね〜」
提督「そりゃあ男だからな」キリッ
秋雲「まぁ、本音を言うとさ……落ち着くんだよね。こうして提督に背中を預けるのがさ」ポフ
提督「ふーん、みんなそう言うよな。そんな落ち着くのかね」
秋雲「すごく落ち着くよ……。てか、みんなって誰よ〜私以外にも膝に乗せたの〜?」ウリウリ
提督「いっぱい乗せたぞ〜」ワシャワシャ
秋雲「ちょ、撫でるならもっと優しく!」
提督「はいはい」ナデナデ
秋雲「あ、結構いいかも……。提督ぅ〜いったい何人の艦娘をその手で落としてきたのかな〜?」
提督「聞きたいか?」
那珂「提督、そろそろ執務室に戻りたいのですが……」
提督「あ、ごめんなさい」
秋雲「はい、ごめんなさい」
那珂「続きは執務室でお願いします……では押しますね」
──────
一五三〇
執務室
…
……
憲兵『や、だめです……そんな』
提督『そんな事、口では言っているが……ここは嫌がってないみたいだぜ?』サワサワ
憲兵『ひゃあ/// そ、そんなことっ!』
提督『フッ。こんなにおっ勃てやがって……なんやかんや言って期待しているんだろ?』
憲兵『っ』キッ!
提督『いいねぇ、その反抗的な目と強気な態度……。そうでなくちゃ攻め崩す楽しみが増えないからな』ニヤ
スッ…
憲兵『な、なにを!?』ビクビク
提督『なに、恐れるのも分かる……人は未知の領域に踏み込む事に恐怖を感じる生き物だ。だが安心しろ……怖いのは、最初だけさ』
憲兵『あぁ……あぁあ!』ワナワナ
提督『今夜は長く、そして濃密な時間を刻めそうだ』
憲兵『アッーーーーー!』
……
…
提督「おい、なに描いてんだお前は」
秋雲「提督〜、制作途中の作品を覗き見するのは感心できないなぁ〜」カキカキ
提督「自室で描けって言っただろ……。はい、ココア」コト
秋雲「おー! 提督気が利くね〜。どれどれ……」フーフー
提督「ほい、那珂ちゃんも」コト
那珂「あ……すみません」ペコリ
提督「そんな畏まらなくてもいいのに……。てか、秋雲はいつまでいるんだ?」
秋雲「んー、満足するまで……かな」キリッ
提督「そうですか……。てか上手いもんだな」
秋雲「でしょ〜。でも久しぶりに描いたから結構鈍ってるんだよねぇ……はぁ、あの提督が憎らしい」カキカキ
提督「これで内容がまともだったら更に良かったのにな」
秋雲「何言ってるのよ提督。このシチュがいいんじゃない。提督と憲兵……立場は違えど、同じ鎮守府に所属する唯一の同性。周りが女だらけの職場で、異性相手に疲れた提督が同姓である憲兵に癒やしを求めるのは……必然じゃない?」
提督「ごめんちょっと何言ってるか分からない」
秋雲「照れなくていいのに……」
提督「照れているように見えるのか……。そう言えば、この鎮守府には憲兵がいないんだよな。書類を見た限りだと、前任が解雇してしまったらしいけど」
秋雲「かー、下心丸出しのとんだスケベ野郎じゃん。ほんときもいわー」
提督「当然のように毒を吐くなぁ……。ま、そのおかげで俺は気兼ね無く艦隊運用できるからいいんだけどね」
秋雲「おやおや〜? 提督も実は下心があったりするの〜?」ニヤニヤ
提督「……おう、俺はスケベだからな」ウネウネウネ
秋雲「その指の動き……もしかして提督、手馴れてる!?」
提督「フッ、俺をそこら辺の提督と一緒にするなよ?」
那珂「あの、静かにしていただけませんか?」ジト…
提督 秋雲「「はい」」
秋雲「……」
提督「……」
秋雲「提督は仕事しなくていいの?」ヒソヒソ
提督「実は終わってるんだ」ヒソヒソ
秋雲「お、やるじゃん提督。実は有能?」ヒソヒソ
提督「有能過ぎて命狙われたこともあるぜ」ヒソヒソ
秋雲「えぇ!? 提督すごいじゃん!」
提督「や、やめろよ〜」テレテレ
那珂「……」ジー
秋雲「無言の圧力……」
提督「いや、もしかしたら秋雲が俺とイチャイチャしていたのが羨ましかったのかもしれない」
那珂「……はぁ」ガタ
秋雲「……違うみたいよ?」
提督「そんな馬鹿な……。って、なになにどうしたの那珂ちゃん、俺の背後を取って……」
那珂「お仕事が進まないので、少し外に出ててください」グッ
提督「え、あ、ちょ、那珂ちゃん!? 早まってはいけない、落ち着くのだ……。俺たちには言葉という他の動物にはない素晴らしい能力がある。……暴力ではなにも解決はしない、ここは一度話し合いを────」ガチャリ
バタン
那珂「これでやっと仕事に集中できます……ねぇ?」チラリ
秋雲「あ、あぁ! 本当ね! うん、これで秋雲さんもお仕事に専念できるってもんよね〜!」カキカキカキカキ
那珂「……」ジー
秋雲「大丈夫よ、騒いだりしないって〜」
那珂「そうですか……」
秋雲「……那珂ちゃん、無理してない?」
那珂「してないですっ」
秋雲(即答ねぇ……)
秋雲「ならいいけど」カキカキ
那珂「……無理なんて」ボソ
────────
一六〇〇
鎮守府内、港
提督「追い出されちゃった」
提督「色々と言いたいことがあるが……まぁ俺は優しいからな、今回は大目に見てやろう……」
提督「しかし……1日に3度もここに来るとは思わなかった」
提督「別に暇を持て余してるわけではない……ただ、やる事が多過ぎてなにから手を付けていいか悩んでしまうんだよ」
提督「陽炎に不知火、まだまともに顔合わせをしてない天龍と陸奥。それに那珂ちゃんも……」
提督「どうしたもんかねぇ……ん?」
天龍「あ」
提督「あ」
天龍「……」ゴクリ…
提督「……よ」ノ
天龍「お、おう……」ビクッ
提督「なにをそんなにビクついてるんだ?」
天龍「別にビクついてるわけじゃ、ただ……」
提督「ただ?」
天龍「……」
提督「遠慮なんかしなくていいぞ? 言いたいことがあるならはっきりと言ってほしい」
天龍「……それは」
夕立「あ! 提督さんみーつけた!」ダキッ
提督「うおっ! 夕立か……いきなり抱きつくと転ぶだろうが」
夕立「えへへ、ごめんなさ〜い」ポイポイ
提督「ったく……」
天龍「ゆ、夕立。お前なにしてんだ……?」
夕立「ん? あ、天龍さんこんにちわ〜。夕立はね、提督さんに抱きついてるっぽい!」
天龍「……そいつは、前の奴と同じ提督だぞ。やめておけよ、なにされるかわからないぞ」キッ
夕立「むむ、そんな事ないっぽい! 提督さんはとても良い人っぽい!」
天龍「わからねぇぞ? アイツだって最初はそうだったからな。良い顔しといて、オレたち艦娘が信じきった頃に本性を表したんだよアイツは」
夕立「それは前の提督さんでしょ? 今の提督さんは違うもん! 昨日は一緒にお風呂に入ったし、同じベッドで寝たけどなにもなかったもん!」
天龍「だから、手を出さなかったのは最初だから……って、テメェ! なに夕立と風呂入ってんだ!」ジャキ
提督「待て、落ち着くんだ天龍! そんな物騒な物は鞘に納めて……な?」ドウドウ
夕立「たとえ天龍さんでも、提督さんに危害を加えるなら……夕立が相手になるよ」ギソウテンカイ
天龍「オレとやり合おうって言うのか? ハッ、辞めておくんだな。練度が違い過ぎる」
夕立「そんなのやってみなきゃ……!」
提督「おいやめーや」グイ
夕立「あわわわ、提督さん!?」ポイ―
提督「じゃれるのは構わないが、艤装はやめろ。天龍も冗談は程々にな?」
天龍「冗談だと? 冗談に見えるか?」ジャキ
提督「冗談にしか見えないんだよなぁ〜」
天龍「バカにしてんじゃねぇぞ……。提督だから艦娘から危害を加えられないと思ったら大間違いだからな!」ダッ
夕立「ぽいっ!」ダッ
提督「……ん?」
長門「そこまでだ。天龍、夕立」ガシッ
天龍「なっ……長門さん」
夕立「ま、前が見えないっぽい〜」アタフタ
提督(素手で刀を受け止めやがった……。しかも、もう片方の手で夕立をアイアンクローしてやがる)
長門「これはどういう事だ、天龍?」
天龍「なんでもねぇよ……。離してくれないか?」
長門「そうはいかないな。こうして提督に刃を向けているのに、どうして離すことができる?」
天龍「……っ」
提督「離していいよ、長門。てか離してやらないと夕立が……」
夕立「」
長門「あ、す、すまない夕立!」パッ
夕立「はっ、光が!」
天龍「ふん……。どうやって長門さんや夕立を丸込めたのかは知らないが、オレは騙されないからな」クルリ…テクテクテク…
提督「行っちゃったな」
夕立「うぅ、提督さ〜ん顔が痛いっぽい〜」ウルウル
提督「はいはい、いたいのいたいの飛んでけ〜」
夕立「……飛んでいかないっぽいぃ……」グスリ
提督「そりゃあそうだろ。ただのおまじないみたいなもんだし」
長門「……その、すまない提督。あいつは本当は良い奴なんだ、どうか今回は見逃してはくれないか……頼む」ペコリ
夕立「あ、夕立からもお願いするっぽい。提督さん、天龍さんを許してあげて?」ペコリ
提督「おいおい、やめてくれよ二人とも。別にあの位でどうこうするつもりは無いし、この鎮守府の状況を考えれば天龍の気持ちも理解できるさ」
長門「ありがとう、提督」ホッ
夕立「やっぱり提督さんは、とても優しいっぽい!」ダキ
提督「何言ってんだよ、俺が優しいのは当たり前だろ? そんな事より……なぁ、長門」ヨシヨシ
長門「どうした?」
提督「陸奥はどんな感じなんだ?」
長門「いきなりだな」
提督「いやー、天龍があんな感じだからな……。まだろくに顔を合わせていない陸奥が心配で……」
長門「んー……ぶっちゃけるとかなり警戒はしてるな。提督が道具発言したのが原因だがな」
提督「あー、自業自得ってやつか。まぁ、あれが俺の本音だし、上っ面だけの言葉を並べてもお前らから信頼なんか得られるわけもないしな」
長門「はぁ……中身は良いんだが、それを覆うものが悪過ぎるのが勿体無い……。提督は言葉で損をするタイプだな」
夕立「でも、夕立はそんな提督さんが大好きっぽい!」スリスリ
提督「おぉ夕立……ありがとう! 俺もお前が大好きだぞぉ!」ワシャワシャ
夕立「提督さん、もっともっと〜!」
提督「いっよ〜し……いっぱい撫でちゃうぞ〜」ヨ~シヨシヨシヨシ
夕立「やったー!」ポーイ!
長門「……本当に、勿体無い人だ」
────────
次の日
那珂「〇八〇〇。おはようございます、提督」ビシッ
提督「おー、おはよう那珂ちゃん。随分と早いねぇ……9時からでよかったのに」カキカキ
那珂「いえ、早めに執務室に待機してようかと思いまして……。しかし、そう言う提督も随分と早くに仕事をしているのですね」
提督「おう、こう言うのは早めに片付けたほうが楽だからな。……あ、大丈夫だぞ? ちゃんと那珂ちゃんの分も残してあるからな! ほれ」スッ
那珂「ありがとうございます。……随分と少ないのですね」ペラリ
提督「昨日が特別多かったわけで、普段はこんなもんだぞ。それに、艦娘に任せられる書類も限られるしな」カキカキ
那珂「そうなんですか……」
提督「そう言えば、朝食は済ませたのか?」カキカキ
那珂「いえ、まだですが……」
提督「なら丁度いい。隣で寝てる夕立を起こして間宮さんのところに行こう」フー
那珂「また一緒に寝たんですか?」ジト…
提督「いやぁ、どうやら寝てる時に入ってきたみたいでな。朝起きたら隣で寝ていたんだ」
那珂「そうですか……まぁ、提督ですからなにもしてないでしょうけど」
提督「お? 信用してくれているのかな? 嬉しいねぇ、那珂ちゃんにそう言ってもらえるなんて」
那珂「っ……夕立ちゃんを起こしてきます」バ
提督「おう頼むでー」
提督「……」ペラリ
提督「……遠征報告書。メンバーは旗艦の陸奥のみ、行き先は□✕鎮守府……か」
ガチャリ
夕立「ふあぁ……たくさん寝たっぽ〜い」アクビー
提督「お、夕立おはよう」サ…
夕立「おはようございます提督さん! ……ん? 提督さん、今なにか隠さなかった?」
提督「え? なにも隠してないよ?」スットボケ
夕立「絶対になにか隠した! 夕立の目は欺けないっぽい! とりゃあ!」ピョン
提督「やめろー、やめろー!」グワー
那珂「……なにしてるんですか」
夕立「あ、那珂ちゃん見てみて! 提督さんたらゲーム機を隠してたっぽい!」ジャジャーン
提督「ちくしょう……バレちまった」
那珂「……まさかとは思いますが、朝早くに執務室にいたのは……」
提督「な、何言ってるんだよ那珂ちゃん! 俺は優秀な提督だぞ? そんな朝早くにゲームで遊ぶなんてことするわけないだろ! ましてや那珂ちゃんが来たから仕事をしていた振りなんてするわけがない!」
那珂「……」ジト…
提督「やめろ、そんな目で俺を見るな……」
夕立「夕立もゲームが欲しいっぽい!」
提督「わかった、買ってやろう……買ってやるからそれをこっちに渡すんだ」
夕立「本当に?」
提督「本当だ、男に二言はない」
夕立「やったー! 提督さん大好き!」ピョーン
提督「おう、嬉しいのはわかったからいきなり抱きつかないでくれ。優しく抱きついてくるのだ」
那珂「……間宮さんのところに行ってきますね」
提督「待つんだ那珂ちゃん。置いて行かないでくれ」
那珂「ほら行きますよ、二人とも」ハァ
夕立「はぁーい。……それじゃ、夕立は提督さんを押すっぽい!」ガシッ
提督「や、優しくな?」
夕立「任せるっぽい!」
────────
間宮亭
提督「うまうまー」ズルズル
那珂「……提督、それはなんです?」
提督「これか? これはな、豚骨ラーメンという素晴らしい食べ物だ」ズルズル
那珂「豚骨ラーメンですか……」
夕立「提督さん、それすっごく臭いっぽーい」ハナツマミ
提督「何言ってるんだよ。この臭さが良いんだろ?」ズルズル
夕立「えー。そんなの食べる提督さんおかしいー」
提督「ほぅ……豚骨ラーメンを侮辱するか……。口を開けろぉぉおおおお!」ガバ
夕立「やだやだー!」
長門「騒がしいな……何事だ?」
提督「あ、長門。おはよう」
那珂「おはようございます、長門さん」
長門「おはよう提督。いったいなにをしている?」
提督「聞いてくれよ長門。夕立がな」
夕立「長門さん聞いてよー。提督さんが変なの食べさせてくるっぽいー」
長門「変なの?」
夕立「そう! 白くて臭いやつ!」
長門「白くて臭いやつだと!?」
提督「豚骨ラーメンな」
陸奥「なにやってるのよ。早く食べちゃいましょ、長門」
長門「あ、あぁ、すまない」
那珂「おはようございます、陸奥さん」
夕立「あ、陸奥さんおはようっぽいー!」
陸奥「おはよう、二人とも……あら? 貴方は……」
提督「お、陸奥おはよう。こうして顔を合わせるのは初めてだな」
陸奥「おはようございます提督。確かに初めてね……」ジロジロ
提督「な、なんだ……?」
陸奥「……いいえ、なんでもないわ。私たちはこれで失礼するわね、それじゃ」
提督「あ、陸奥。この後時間あるか? 少し話したい事があるんだ」
陸奥「この後? えぇ、大丈夫よ」
提督「それはよかった。港で待ってるから、食べ終わったら来てくれ」
陸奥「わかったわ」
提督「あぁ、よろしく頼む」
………
……
…
鎮守府、港
提督「お、きたな」
陸奥「待たせちゃったかしら」
提督「いや、そんなには待ってない。長門も来たんだな」
長門「なんだ、いないほうが良かったか?」
提督「俺は別に構わない……。それは陸奥にこれを見てから決めてもらおう」ス…
陸奥「なにかしら……。……………っ!」
長門「どうかしたか? 陸奥」
陸奥「……ごめんなさい長門。少し席を外してもらってもいいかしら」
長門「あ、あぁわかった。二人ともまた後で」ノシ
陸奥「えぇ」
提督「おう、またな」ノシ
陸奥「……」
提督「さてと、その書類を見ればこれから話す内容は大方検討がついてるんじゃないか?」
陸奥「……えぇ、それでなにが聞きたいのかしら?」
提督「単刀直入に言うと、この書類に記された鎮守府に行って、なにをした?」
陸奥「そうなるわよね……ただの遠征、と言ったら信じてくれるかしら?」
提督「そうだなぁ……他の鎮守府に戦艦一隻が遠征。まぁ、少し気になるがこれだけなら流せたんだけどね」
陸奥「なら流してくれてもいいのよ?」
提督「そうもいかないんですわ。この報告書に記入されてる遠征結果の資材量が多くてね」
陸奥「……大成功だったからかしら?」
提督「燃料3万、弾薬2万、鋼材2万5000、ボーキサイト1万……。そしてこの報告書が全く同じ内容で11枚も出てきた。それはそれは大変大事そうに保管されてたよ」
陸奥「……っ」ギュ
提督「いやぁ〜流石に見過ごせないな〜と……」
陸奥「それで? 資材が足りなくなったのかしら?」
提督「いや、めっちゃ足りてる。ボーキの消費が何故か激しいが、それ以外は問題ない」
陸奥「……そう」ホッ
提督「まぁ、なんやかんや言ってきたけど俺が言いたかったのは、もう遠征に行かなくていいぞって事だ」
陸奥「え……?」
提督「この書類を見る限り、どうやら提督の指示が無くとも行く事が決定されてるみたいだし。俺の指示無しに勝手に出られるのは困るからな」
陸奥「本当にあの鎮守府に行かなくてもいいの……?」
提督「あぁ。言っただろ? 勝手に出られる方が困るって。話しはそれだけだ……おっと、この書類は返してもらうよ。なんやかんやで重要な書類だからな」ヒョイ
陸奥「もう、行かなくていいのね……」ホロリ
提督「ん、泣くなよ……ほれ」つハンカチ
陸奥「……ありがとう、提督」フキフキ
提督「そのハンカチ可愛いだろ? 端っこにカタツムリのシルエットが描かれているんだ。それあげる」
陸奥「……いいのかしら」
提督「あぁ、存分に活用してくれ……。それじゃ、俺はこれで失礼するよ。またね〜」ノシ
陸奥「……」
陸奥「……夢じゃ、ないのよね」
陸奥「……」スッ…
陸奥「────っ!!」ホッペギューッ バチン!
陸奥「……ふふ」ヒリヒリ
──────────────
4日後
執務室
那珂「一一〇〇です、提督」カキカキ
提督「うむ」カキカキ
那珂「……」ペラ…カキカキ
提督「……」カキカキ
那珂「……」カキカキ
提督「……」ペラリ…
提督「……はぁ、不知火かわいい」
那珂「いきなり過ぎませんか?」カキカキ
提督「そんなことないぞ。なんやかんやで着任してから1週間くらいたってるわけだし」
那珂「そういえばそうですね……もう1週間が過ぎたんですか」
提督「おぅやおや〜? 今、もうって言った?」
那珂「言いましたけど?」
提督「と、言うことは〜? なんやかんや言って那珂ちゃんは今の生活を楽しんでいるんじゃないのかな〜?」
那珂「なっ、いきなりなにを! ……いえ、そうなのかもしれません」
提督「お、おう……そう素直に肯定されると次の言葉に困るな」
那珂「本当のことですので、今ここで否定する方がバカバカしく思えてしまって……。私は提督と過ごす今を楽しんでいるのかもしれませんね」フ…
提督「……驚いた。那珂ちゃんて綺麗に笑えるんだね」
那珂「どういうことです?」ムッ
提督「いやいや悪い意味じゃないぞ。ほら、那珂ちゃんてキャピキャピに星を振りまきながら笑うイメージがあるから……それにさ」
那珂「?」
提督「那珂ちゃんて普段笑ってくれないから、こうしてふとした瞬間に笑顔を見せてくれることがすごく嬉しいんだ」ニコ
那珂「ぁ……。……提督は卑怯です」
提督「なんでぇ」
那珂「自分の胸に訊いてください。それよりも何故いきなり不知火ちゃん?」
提督「おや、嫉妬かな?」
那珂「はい?」
提督「ん゛ん゛……あー咳払い。聞いてくれよ那珂ちゃん、不知火がかわいいんだ」
那珂「それさっき聞きました。そう思う理由を尋ねているんです」
提督「そうだなぁ……そう思い始めたのは、俺が夕立と戯れていたときだった……」
ポワポワポワ……
鎮守府、中庭
夕立「提督さん!」
提督「おやおやどうしたんだい、夕立」
夕立「夕立と遊んでほしいっぽい!」
提督「いいぞ〜、何して遊びたいんだい?」
夕立「ん〜……なにして遊ぼうかしら」
提督「考えてなかったのか……」
夕立「だって、提督さんと遊びたかったんだもん……」シュン
提督「答えになってないんだよなぁ……。なら夕立、これで遊んでみないか?」ゴソゴソ…ジャジャーン!
夕立「それなぁに! どうやって遊ぶの!?」キラキラ
提督「これはな、フライングディスクというおもちゃでな……これをヒョイッと投げて……」ヒョイ
夕立「おぉ!」ウズウズ
提督「……飛んできたこれをキャッチする遊びなんだ」キャッチ
夕立「すごーい! 戻ってきたっぽい! 提督さんもう一回投げて投げて!」キラキラ
提督「あぁ、いいぞ」ヒョイ
夕立「ぽーい!」キャッチ
提督「!?」
夕立「はい提督さん! もう一回、もう一回!」ワクワク
提督(こ、これは……)
提督「よーし、今度はもっと遠くに投げるぞー……それー」ヒョーイ
夕立「わぁーい!」タッ…キャッチ
夕立「夕立、ちゃんと取れたよ! えらい?」キラキラ
提督「すごいじゃないか夕立! お前はなんていい子なんだ!」ヨーシヨシヨシヨシ
夕立「きゃー! 提督さんもっともっとー!」キャッキャッ
提督(あぁ、犬だこれ……ん?)
提督「あれは……不知火か?」
不知火「……」|д・) ソー…
提督「どうかしたか? 不知火」
不知火「……っ」|彡サッ
提督「あら、行っちゃった……」
夕立「提督さん提督さん! 早く、早く!」クイクイ
提督「ハッハッハッ、可愛い奴め。そう急かすのではない……いくぞ〜、そーれ」ヒョーイ
夕立「ぽーい!」
ポワポワポワ……
提督「てな事があったんだ」
那珂「はぁ……それで不知火ちゃんは?」
提督「ん? ちゃんと出てきただろ?」
那珂「出てはきましたが、それとあの発言に繋がりが見えないんですが……」
提督「ハァ!? 那珂ちゃんガチで言ってるの?」
那珂「え、えぇ……その、なんかすみません」
提督「まったく、那珂ちゃんは仕方ないなぁ……。次のエピソードを聞かせてあげよう……」
ポワポワポワ
間宮亭
大潮「ん〜! 気持ちいいですぅ司令官」ポワワ
提督「それはよかった……。しかし、思ったよりも大潮の髪はサラサラしてるんだな」サーッサーッ
大潮「そうですか? えへへ、司令官に褒められちゃいました///」テレテレ
提督「ほいほいっと……ほれ、できたぞー」
大潮「わぁ……ありがとうございます、司令官!」パァ
提督「どういたしまして」
朝潮「よかったですね、大潮」ニコ
大潮「はい! えへへぇ」デレェ
提督「少し喜び過ぎじゃないか? いつもと同じ髪型だろ?」
大潮「あ、すみません……司令官にやっていただいた事が嬉しくて」テヘヘ
提督「大潮はかわいいなぁ」グヘグヘ
朝潮「……あ、あの、司令官」モジモジ
提督「どうした? ……ったく、仕方ないなぁ。ほら、向こう向いて」
朝潮「は、はい!」パァ…クルリ
提督「〜♪」サーッサーッ
朝潮「あ、あの、ンッ司令官。朝潮の髪は……ンッどうでしょうか……?」ピクン
提督「ん〜? やっぱり姉妹なんだな……すごくサラサラしてて梳かしやすいよ。やってるこっちが気持ちいいくらいだ」
朝潮「そ、そうですか……それは……ンッ良かったです」ピクン
提督「……だ、大丈夫か? 少し息が荒くなっているが」
朝潮「これはその……ンッ、思ったよりも気持ちよくて……」ピクン …♡
提督(あ、これアカンやつや)ピタッ
朝潮「ぁ……もう、おしまいですか?」トロン…
提督(経験上、これはやめて正解だな)
提督「そうだな、梳かすのはこれくらいにして……!」バッ
朝潮「し、司令官!?」
提督「姉妹なんだし、髪型を合わせるのもありだよな……っと、どうだ!」パパパッ
朝潮「おぉ……!」
提督「大潮と同じく、両側に括ってみたんだが……どうだろうか?」
大潮「わぁ〜! 朝潮姉さん、大潮とお揃いですね! す〜っごくかわいいです!」
朝潮「そ、そう……? えへへ///」
提督「あ〜、かわいい……ん?」
不知火「……」|д・) ソー…
提督「あれは……不知火? おーい、どうしかしたか?」
不知火「……っ」|彡サッ
提督「……?」
大潮「司令官! 今度は大潮たちがやってあげます!
さささ、こちらに」
提督「お、俺?」
朝潮「はい! 司令官も髪が長いので……ご安心してください! こう見えて朝潮、髪のお手入れには自信がありますので!」フンス
提督「そうじゃないんだよなぁ……まぁ、いいか。お願いしちゃおっと」ドッコイショ
大潮「いっきまっすよ〜!」
朝潮「おまかせ下さい、司令官!」
ポワポワポワ
那珂「あぁ……だからあのとき髪を2つに括ってたんですね」
提督「3人でお揃いの髪型だったんだぜ」
那珂「それでだったんですか……ところで、不知火ちゃんなんですが」
提督「お? ついに気づいちゃった?」
那珂「いえ……わからないんですけど」
提督「ハァ?」
那珂「うっ……」
提督「……っハァア?」
那珂「す、すみません……」
那珂(なんで謝ってるんだろう……)
提督「那珂ちゃんは本当に仕方のない子なんだから……それじゃあ次は……」
那珂「え、まだ続くんですか?」
提督「当たり前だろ? 那珂ちゃんが理解するまで続けるつもりだよ」
那珂(ウソでしょ……? 私が理解するまでって……こうなったら!)
提督「次の話しはな、廊下で────」
那珂「提督、もう話す必要はありませんよ。私、気づいてしまいましたから」
提督「……ほう、気づいてしまったと? 一体何に?」
那珂「提督がどの部分で不知火ちゃんに魅力を感じていたか、ですよ……」
那珂(さぁ、ここからです。ここでの提督の発言によってこの先の運命が変わる……。これで納得してくれればそれでよし……もしそうでなければ……)ゴクリ
提督「では、その部分とやらを教えてもらおうか……!」
那珂(クッ! やはりそっちで来ましたね……。しかし、それは想定済み、予想の範囲内です!)
那珂「まず、提督の話してくれた内容で不知火ちゃんが出てきたのはほんの数秒……。と、言うことはこの数秒の間にその魅力が詰まっているということ」
提督「ふむ……」
那珂「では、その数秒の間に不知火ちゃんがしたこととは何か? そう! 物陰から提督たちを眺めるという行為!」
提督「うんうん」
那珂「まだ終わりません。何かを訴えるかのような眼差しを向けられた提督……。その事には気付いてはいるものの、内容が分からない……。故に提督はこう声をかけた! 『どうかしたか?』……と」
提督「おぉ!」
那珂「恐らく不知火ちゃんはその問いに対し、なにか応えたかったのだろう……しかし彼女は提督の前だとなかなか言葉が出ない……」
提督「……ん?」
那珂「彼女の物陰から覗き、声をかけられたら逃げる……この行為は喋ることが困難な彼女なりのアクションなのではないかと。そして提督は、この一連の動作に小動物的何かを感じ取り、結果的にあのような発言をしたのではないかと……私は思います!」ドドーン!!
提督「エクセレント! パーフェクトだ那珂ちゃん! 流石は秘書艦であり、最高練度である!」ブラボー! パチパチパチ
那珂「そう褒められますと、少し照れますね 」テレテレ
提督「でだ……那珂の発言の中に気になった言葉があったのだが……」
那珂「気になったこと……ですか?」
提督「そのだな……不知火が喋るのが困難ってどういうことだ? 初耳なんだが」
那珂「……え?」
────────
提督「まさか、不知火が喋れなかったなんて……!」
那珂「いえ、喋れないわけじゃなくて言葉に詰まってしまうと言う感じで……まぁ、提督の前だと喋れないようなものですけど」
提督「その原因てやっぱり……?」
那珂「前任以外にありえませんね」
提督「だよなぁ……はぁ、本当に嫌な種を撒いてくれるねぇ」
那珂「どうするんです?」
提督「どうするもなにも、俺からはなにもできないんじゃないかな? 声の問題って大体は精神的に参ってる場合が多いからな……。時間が解決してくれるのを待つしかないんじゃないか?」
那珂「そうですか……」
提督「もちろん、何もしないわけじゃないぞ。きちんとケアをすれば治る時期も早まるから、不知火の負担にならない程度には接していきたいと思っている」
那珂「それは良かったです」ホッ
提督「……ふぅ、さてと」
那珂「提督、どちらへ?」
提督「あぁ、少し裏庭にな。あそこは誰も来ないみたいだから、考え事をするのによさそうだし」
那珂「中庭ではなく裏庭ですか……」
提督「あ、今日の分の仕事は片付けたから安心して。那珂ちゃんももう上がっちゃってもいいぞ」
那珂「いえ、これを終わらせてからにします」
提督「ん、それじゃ」ガチャリ
バタン…
那珂「裏庭ですか……。ま、タイミング的にはいいのかもしれませんね」
………
……
…
鎮守府、裏庭
提督「ん〜……ふぅ。たまには車椅子から降りて、木陰に腰を下ろすのもいいねぇ……」
提督「……んー」ガサゴソ
提督「ダメだ。ここで本を片手に優雅な雰囲気を出そうと思ったが、残念なことに漫画しかない。これじゃあ格好がつかないな……」
提督「仕方ない、大人しくこれからの事でも考えますかねぇ……」
提督「しかし思ったよりもいいな、ここ。風通しもいいし、匂いも悪くない。ここで眠れたら気持ちいいだろうなぁ……」ス
提督「……」
提督「……zzZZ」スー…スー…
────────
不知火(……結局、司令と接することなく1週間が経ってしまいました)テクテク
不知火「……はぁ」
不知火(司令がいい人なのは鎮守府のみんなを見ればイヤでも分かる)
不知火(本当は他の子みたいに司令と話してみたい……。でも、どうしても司令を目の前にすると言葉が出なくなってしまい、体も竦んでしまう)
不知火「……いつから、こんなに弱くなってしまったのだろう」
(前任『見るな触れるな喋るな。お前が近くにいるだけでイライラするんだよ』)
不知火(っ……やめましょう、アレのことはもう考えたくない。それに、今の司令はそんな人では……)ブンブン
不知火「……?」
不知火(珍しいですね、裏庭に誰かいるなんて……)テクテク
提督「……」
不知火「……っ!?」ピタッ
不知火(し、司令がいる……。いったいなにをしているのでしょうか)ソー…
提督「……」スー…スー…
不知火「……寝てる?」ホッ
不知火(どうやら寝てるだけみたいです……しかし)
不知火「司令の寝顔……」
不知火(この人がアレと同じ男の人とは思えない……。ほっぺた、柔らかそう……)
不知火「……す、少しだけなら」ツン
提督「ん……」
不知火「!?」ビクッ!!
提督「……」スー…スー…
不知火「……」ホッ
不知火(そろそろ離れたほうがいいですね……)
不知火(……そう言えば、秋雲が司令の太ももは座り心地がいいと言っていましたね)チラ
提督「……」スー…スー…
不知火「流石に座るのは起こしてしまいますね……。で、でも」スッ
提督「……」スー…スー…
不知火「頭を乗せるぐらいなら……」ピト
不知火「これは、なかなか凶悪な……」
不知火(太ももの柔らかさと、司令の匂いが合わさってすごく安心する感じ……あれ、なんだか目蓋が重く……)トロン…
不知火「……zzZZ」スー…スー…
………
……
…
提督「なぁにこれぇ……」
不知火「……」スー…スー…
提督「俺は太ももに感じる違和感で目を覚した……。寝る前には感じなかった重みである。その正体を確認するべく俺はまだ眠気を纏いながら視線を太ももに落とした……するとそこには不知火がいた」
提督「……寝顔かわいい」デレデレ
提督「違うそうじゃない。今はなぜ不知火が俺を膝枕にして寝ているのかだ……」
提督「いったい寝ている間に何があった? 不知火が膝枕してもらいたくて自分からこの体勢に……? いやいやいや、あの不知火だぜ? ちょっと無理があるんじゃないかなぁ」
提督「そうなると、他の誰かが寝ている不知火を、または一服盛って不知火を眠らせてここに連れてきたと……そうなるが」チラ
不知火「……」スー…スー…
提督「……ま、不知火の寝顔見れたし、いいか。いやしかし本当に不知火はかわいいですなぁ」ナデナデ
不知火「ンッ……ぁ」ピクン
提督「起きちゃったかな?」ピタリ
不知火「やめ……ないでください」トロン……
提督「おやおや、不知火は甘えん坊だなぁ」ナデナデ
不知火「ん……///」キュッ
提督「……」ナデナデ
不知火「……ハッ!?」ガバッ
提督「うお、いきなり起き上がるのは危ないぞ」
不知火「し、司令が起きて……る?」
提督「あぁ、起きてるぞ。おはよう」
不知火「っっ」サー…
不知火(ど、どどど、どうしよう……)
提督「不知火? 顔が青いぞ、大丈夫か?」
不知火(許可もなく勝手に司令に近づいただけではなく、触れてしまった)
不知火「し、司令、これは……っ!」バッ
不知火(喋ってしまった……それも司令に言い訳を……)サー…
提督「おーい、しらぬーい」
不知火(イヤ……あんな思いはもうしたくない……っ!)ガクガク
提督「不知火っ!」
不知火「っ!」ビクッ…ソー
提督「……不知火、こっちにおいで」ポンポン
不知火(優しくて、暖かい声……そうだ、今はこの人が不知火の司令なんだ)
不知火「……」ソー…チョコン
提督「ん? 隣でいいのか? なんなら膝乗りしてもいいんだぞ」ポンポン
不知火「!?」ブンブン
不知火(流石にそんな勇気は……)
提督「ハハハ、冗談さ。……なぁ、不知火」
不知火「?」
提督「気付いてやれなくて、ごめんな」ギュ
不知火(て、手を握られた!)ビクッ
提督「不知火も他の子と同じで、甘えたかったんだよな」
不知火「……っ」
提督「甘えるようなタイプじゃないのかな……なんて見た目でそう判断して、何かあれば不知火から歩み寄ってくるだろうと思ってたんだ」
不知火「……」
提督「でも違った。不知火は既に歩み寄ってくれていたんだ。俺がそれに気付かずにそっぽを向いてしまっていた……こんなに近くまで来てくれていたのに」
不知火「……」ポロリ
提督「あ、でもほら、もしかしたら俺の勘違いなのかも─────」
不知火「いいんですか……」
提督「ん?」
不知火「不知火は、司令の近くにいても……」
提督「あぁ、いいんだ」
不知火「司令を見ても、話しかけても、触っても……!」ギュウ…
不知火「司令のお側にいても……! ……いいんですか?」ポロポロ
提督「当たり前だろ、逆にダメな理由が見つからないな……これからは遠慮なんかいらない、不知火のありのままで接してくれよ……な?」ニコ
不知火「しれぃ、しらぬいは……しらぬ゛い゛はあぁぁあ」ポロポロ
提督「よしよし、いっぱい泣きなさい。全部受け止めてあげるから」ナデナデ
不知火「しれぃ、しれぃいぃぃ」ウワァァァン!!
………
……
…
那珂「あ……」
不知火「……」スヤァ…
提督「お、那珂ちゃんか。どうした?」ナデナデ
那珂「提督にお電話が来ておりまして……それより、この状況は……」
提督「あぁ、泣き疲れて寝ちゃったんだよ」ヒザマクラ
那珂「そうなんですか」ホッコリ
提督「ところで、電話って?」
那珂「そうでした。提督とあって話がしたい……と、□✕鎮守府の提督からお電話がありました」
提督「□✕鎮守府……の提督から? 日程は?」
那珂「それが……明日です」
────────
次の日
〇九〇〇
間宮亭
利根「なーんかこの前も召集がかかった気がするのじゃが」
筑摩「最後にかかったのは1週間ほど前でしょうか……早いものですね」フフ
利根「時が早く感じるということは、それだけ充実してる生活を送れておるということじゃな!」
飛龍「でも提督が着任してからもう1週間過ぎたってことよね……こんなんじゃ、1ヶ月なんてあっという間にきちゃうね」
天龍「いいんじゃねぇか? さっさといなくなって欲しいけどな、俺は」
筑摩「あら、そうなると今度は別の提督がここに着任することになるのよ?」
天龍「どちらにしろ1ヶ月も経てばアイツはいなくなって、別の奴が来るんだ。だったら最初からそいつを着任させたほうがいいだろうに……わざわざこんな回りくどい事ことを」
赤城「あら、私はそうは思わないわ」モグモグ
筑摩「あら赤城さん、おはようございます」
利根「おー、あかぎ〜おはよう。相変わらずよく食うのぅ」ノ
赤城「おはようございます。やっぱり朝こそしっかり食べなくちゃ」モグモグ
天龍「……なんで赤城さんはそうは思わないんだ? どうせアイツは1ヶ月で消えちまうんだぞ?」
赤城「だからこそ、なんじゃないかしら? 本部が1ヶ月だけでも着任させたかった提督……。現に彼が着任してから鎮守府は良い方向へと向かっていると思うの」
天龍「それは……」
赤城「否定できないでしょ? それは天龍さんも提督が良い人だと理解してるから……。認めたくないだけなのよ、どうしても前の提督と過ごした日々を思い出してしまうから……」
天龍「……」
赤城「提督が全て前任のような人だけではない……。っと、これ以上は蛇足ね。あぁ、いっぱい喋ったからお腹空いてしまいました、おかわり行ってきますね」トトト…
天龍「……」
飛龍「お、提督がきましたねー」
提督「みんないるな? うむうむ感心感心」
夕立「提督さんおーそーい! もうみんな集まってるっぽい!」
提督「すまんすまん、すこし準備が長引いてしまってな……」
大潮「準備ですか?」
朝潮「言ってくだされば朝潮もお手伝いしましたのに……」
提督「今回は那珂ちゃんが手伝ってくれたからな。次回は朝潮にお願いしちゃおうかな?」
朝潮「は、はい! おまかせ下さい!」ビシッ
秋雲「ところで提督、こうしてみんなを集めたってことはなにかあるんでしょ?」
提督「でなければ集めないしな。……さて、さっそく本題に入るが……回りくどいのは嫌いなので率直に言うけど、今日は休暇、鎮守府内の艦隊の機能を停止させて休みとする!」
………
「「「……えぇー!?」」」
天龍「……」ボーゼン
赤城「あら、なにやら賑やかですね」ストン
飛龍「赤城さん、さっきの聞いてなかったんですか?」
赤城「ごめんなさい……おかわりを受け取るのに夢中で」モグモグ
飛龍「もう……。あのですね提督が、今日は鎮守府をお休みにするって言い出したんですよ」
赤城「鎮守府を……それって、艦隊運用もお休みってことですよね? いいじゃないですか、今日はいっぱいご飯が食べられます」モグモグ
飛龍「それいつもと変わってませんよ」クスクス
提督「でだ、せっかくの休みなのでみんなには是非ともこの鎮守府から出て、街に出かけてほしいなと思っている」
夕立「街!? 街に行っていいの!?」キラキラ
提督「あぁ、いいぞ。もちろん手ぶらでは行かせない、きちんとお小遣いを用意したから安心してくれ」
秋雲「お小遣い? 提督わかってるねぇ〜。はい! お小遣いちょーだい」
提督「お前は正直だな……那珂ちゃん、お願い」
那珂「了解です……はい、お財布です。中に入ってますので無駄遣いはしないように」
秋雲「大丈夫大丈夫、わかってるって。どれどれ、中身の方は〜っと……あぇ?」
大潮「わーい、お小遣いです! ……ん? なにか数字が書かれてる紙が入ってますね」
陽炎「一、十、百、千……万!?」
不知火「……20枚も入ってますね」
朝潮「し、司令官、朝潮にはこのお財布がすごく重く感じます……」アワアワアワ
提督「大丈夫だ朝潮、すぐに慣れる。……さて、みんなが言っているように今配ってる財布には20万入っている。もっと渡してもいいとは思ったが、いきなりそんな大金渡されても困るだろうと思い、この金額に抑えた」
筑摩「あの、20万でも充分に多いと思うのですが……」
提督「そう? なら使いたくなったでしょ? よし、みんな今日は外出決定な!」
天龍「……お前、ふざけてるのか?」
提督「ん? ふざけてはいないぞ?」
天龍「艦隊運用の停止……これだけでもおかしいのに、艦娘には全員外出を願うとかふざけてるとしか思えないだろ」
提督「まぁ、そうだな」
天龍「自覚があって言ってるのか、尚更だな」スク
提督「おーい、どこへ行くんだい?」
天龍「部屋に戻るんだよ。これ以上ここにいても仕方ねぇからな」
提督「まぁまぁそう言わずに。話は最後まで聞こうぜ?」
天龍「ハッ、冗談だろ?」テクテクテク
提督「行っちゃった。……ま、いいか」
那珂「いいんですか?」
提督「あの様子じゃ外には行く気ないみたいだしなぁ、仕方ないか」
提督「さて、要約すると今日は休暇にするので全員外出してくれってことなんだが……なにか質問ある?」
………
赤城「……へいとく、いいでひゅか?」モグモグ
提督「飲みこんでから喋ってくれ……なんだい?」
赤城「ゴクン……私も気になっていたのですが、警備の方はどうするのです? もし深海凄艦が攻めてきたら……」
提督「そのことは心配ない。知り合いに優秀な提督がいてな、そいつに任せてある……最初に話すべきだったな」
赤城「なら安心です。どこ行こうかしら♪」アーン
提督(食べ物があるところだな、絶対)
提督「さて、警備の方は大丈夫。他になにかあるか?」
大潮「はーい! 司令官は誰かとお出かけするんですか?」
朝潮「」ピク
不知火「」ピク
夕立「」ピク
提督「俺? 俺は用事があるから行けないな」
朝潮「」シュン…
不知火「」ショボーン…
夕立「」ガーン
大潮「はうぅ、それは残念です」
夕立「提督さん行かないなら夕立も行かなーい」
提督「夕立、それでいいのか?」
夕立「?」
提督「もしこの機会を逃したら、俺とゲームができないかもしれないんだぞ?」
夕立「そ、それは……」
提督「あー、夕立とゲームしたかったなぁ! 残念だなぁ! 夕立とゲームできなくて!」
夕立「!? 行く! 夕立、ゲーム買いに行く! そして提督さんとゲームするっぽい!」
提督「よしよく言った、楽しみにしているぞ」
夕立「うん!」
提督「他になにかある?」
………
提督「無さそうなので解散ね。……あ、それとできれば夕方以降に戻ってきてくれるとありがたい」
利根「それは提督の都合か?」
提督「おう。16時以降なら何時でもいいぞ……ただまぁ、あまり遅くはならないようにな」
利根「うむ、了解じゃ! ゆくぞ、ちくま!」
筑摩「ちょっと姉さん! もう……提督、失礼しますね」
提督「おう、気をつけてなー」
────────
一三〇〇
客室
ガチャリ
提督「どうぞ、こちらにお入り下さい」
大将「失礼するよ」
提督「そちらのソファーにお掛けになってください。今、お茶をお入れいたしますね」
大将「いや、そんなに長居するつもりは無いよ。それよりも……」ジロジロ
提督「あの、どうかいたしましたか?」
大将「まさか女を寄越すとは……それも、身体に障害を持つ者を」
提督「……」ピク
大将「別に非難しているわけではないよ。本部の方も人手が足りないのだろう……仕方のない事だ。提督という職業、それも艦娘という “兵器” を扱うのだから人数は限られている……」
提督「そうですね、その通りかと」
大将「ほう、大半の奴は艦娘を兵器や道具と言うとなにかしら反抗的な態度を見せるのだが……」
提督「そのことならご安心を。私も艦娘を兵器や道具として見ていますので」
大将「……あーっはっはっはっは!」
提督「大将殿?」
大将「すまない、まさか私と同じ考えの者だとは思わなくてね。これなら思ったよりも話が早く済みそうだ」ニヤリ
提督「その、お話と言うのはなんでしょう?」
大将「この鎮守府に関することでな、実はここの実権は私が握っていてね」
提督「実権を……と言うことは、この鎮守府は大将殿の所有物と言うことですね。複数の鎮守府を掛け持つ……管理が大変だと思うのですが」
大将「だからこそ、君のような提督がいるのだよ?」
提督「……なるほど、こうして提督を置くことにより鎮守府の現場管理を任せると共に、複数所持している事実のカモフラージュとしての役割も果たしている……ということですね?」
大将「理解力があって頼もしいな、説明をしないことがこんなにも楽だとは思わなかった」
提督「お褒めいただいて嬉しく思います……しかし、提督の皆が素直に聞いてくれるのかが疑問ですね」
大将「その為にこうして私が直々に出向いているのだ……賢い君なら、わかるんじゃないか?」クイ
提督「……脅し、ですかね?」
大将「人聞きの悪い言い方をしないでくれたまえ。お願い、と言ってほしいものだな」フッ
提督「失礼しました。大将殿とお話ししていただいている事に嬉しくてつい……申し訳ございません」
大将「そう改まるな。君との会話はこちらも楽しんでいてね……さっきの言葉選びには感心しているところなんだ」
提督「そうでしたか」
提督(さっきの冗談が通用しちゃうのか……)
提督「ところで、お願いとはなんですか?」
大将「なぁに、簡単なものさ。私の指定した艦娘を私の鎮守府に遠征を出してくれればいい」
提督「遠征ですか」
大将「あぁ。そう言えばこの鎮守府には陸奥をお願いしているのだが……」
提督「そうでしたか……すみません。前任が入院することになり、いきなりこちらに着任することになってしまったので……」
大将「わかっているさ。逆に、引き継ぎもなしに問題なく運営できている事を褒めてやりたいくらいだ。それに、前の奴は無能でな……君のような有能者が来てくれるのはこちらとしては大歓迎だ」
提督「ありがとうございます。……話を戻しますが、先程の陸奥の遠征について少し質問がありまして」
大将「なにかね?」
提督「具体的に、何をなされているのでしょうか。こちらとしても戦力である陸奥を遠征に出すとなりますとかなりの痛手なので……できれば内容を把握しておきたいと思いまして」
大将「……ふむ」クイ
提督(踏み込みすぎたか? もう少し、距離を縮めてからにするべきだったかも……)ゴクリ
大将「今までの奴らはそんな事を聞いてこなかったものでね……ま、君なら別に構わないだろう」
提督(マジかよ、無能って言っても本当に頭の中からっぽなんじゃないのか? 前任って……)
提督「こちらの言葉を聞いていただき感謝いたします」
大将「とは言っても、捨て艦や囮としては扱わないから安心してくれ。ただ少しだけ戯れるだけさ……」
提督「戯れる……ですか。それってもしかして……」
大将「おっと、口にはしないでくれよ? 下品な会話はしたくないのでね」
提督「失礼しました」
大将「さて、こちらの要求は理解してもらえたと思う。次はその見返りだ」
大将「私が君に提供するのは、各資材を最大で4万ずつだ。もちろん、要望があれば高速修復材や装備も付けよう……どうかね?」
提督「たった1隻を遠征に出すだけで……すごく、魅力的なお話です」
大将「そうだろそうだろ……そう言えばこの鎮守府には現在、謹慎中の艦娘がいると聞いている。確か、……夕立だったかな?」
提督「はい。そうですが、夕立がどうかしましたか?」
大将「なに、提督に反抗するものはいても、実際にこうして手を出してくるものは中々いないので、是非会ってみたいのさ。そして支障がなければ、夕立を連れていきたいと思ってね」
提督「申し訳ありません。実は夕立の謹慎は、私の着任と共に解いておりまして……現在は出撃により、不在でございます」
大将「廊下で言っていたな、入渠している天龍以外は皆出撃していると。まさか夕立も出ていたとはな」
提督「申し訳ございません」ペコリ
大将「出ているのなら仕方ない、頭を上げてくれ」
大将「そうだな……確か、天龍はいるのだったな?」
提督「えぇ、入渠中ですが」
大将「なら、天龍でいいか」
提督「天龍でいい……とは?」
大将「陸奥は不在、夕立を含めた他の艦娘も出撃中……こうなっては鎮守府にいる天龍を選ぶしかあるまい?」
提督「そこまで焦る必要はあるのですか?」
大将「確かに、普段の私ならば指定した以外の艦娘を選ぶ事はしないのだが……予定が狂っていてね、本調子じゃないんだ」
大将「あまりしたくはないが……調子を取り戻すためには必要なことなのでね。余ってる艦娘で妥協しようって事だ」
提督「……」
大将「安心したまえ。きちんと報酬は上乗せするさ」
提督「……」
大将「さて、そうと決まれば早速向かうとしようか……」スッ
提督「……どこにいくんです?」
大将「どこにって、天龍を連れてくるのだろう?」
提督「俺はまだ、天龍を渡すなんて言ってないし、あんたの提示した条件を呑み込んでいないんだけど?」
大将「……どういうことかね?」
提督「まどろっこしいのは好きじゃないんでね、簡潔に言うと……あんたに陸奥を、夕立を、天龍を、渡すつもりはないって事だ」
大将「何故……と、聞いておこうか?」
提督「単純だよ、俺は物を大事にしない奴が大嫌いなんだ。だから俺はお前が大嫌いなんだ、大将殿」
大将「何を言い出すのかと思えば……はぁ、いるんだよ、君みたいな己の立場も弁えずに突っかかって来るものが」
大将「賢い君ならわかるだろ? この世界は階級が全てだ。私は大将で、君は中佐。更に、この鎮守府の実権は私が握っているのだよ?」
提督「そう……で、それが何か問題でも?」
大将「はぁ……君にはがっかりだよ」パチン
ガチャリ
憲兵「「」」ゾロゾロ
提督「っ……」スッ
大将「床に押さえつけろ」
憲兵「「はっ!」」バッ
提督「つぅ……」ダン
クルクルクル…
大将「おやおや、携帯が落ちたよ……一体誰に掛けようとしたのかな?」ニヤニヤ
提督「誰だと思う?」
大将「そんなの知るわけないけど、警察かな? ま、あいつらに掛けたところで意味はないけどな!」
提督「……」
大将「ったく、有能な手駒ができたと思ったらこれだよ……やんなっちゃうね、無能の相手は」
大将「それとなに? さっきの言葉はさ。物を大事に? 何を言ったって結局君は私とに違いはないのさ。あるとしたら、偽善者かそうでないかってぐらいかな」
提督「偽善……か」フフフ…
大将「なにがおかしい?」
提督「俺は好きだよ、偽善。例えその行いが偽りだとしても、善には変わりないからね……」
大将「……っ」
提督「俺は、他人に厳しく自分に甘くをモットーに自己中心的な考え方で生きてきた。俺は俺自身がやりたいと思うことしかやらないし、他の奴らの事なんか気にしたくもない」
提督「故に、偽善者と言われるということは、俺の行いに善があるという事だ。……嬉しいねぇ」
大将「……これ以上の会話は無意味だな。おい、よく抑えとけよ」チャキ
提督「おやおや、そんな玩具なんて取り出して……おままごとでもするのかな?」
大将「そうだね、これから行うのはお料理だ。食べやすく加工しないと……ねぇ」ニヤリ
提督「っっ」ゾワ
大将「一度やってみたかったんだ……達磨の女とね。……そうだ、切り落とした腕はオナ○にしよう。そして穴という穴を犯した後は腹を“ピー”いて“ピー”を“ピー”して、それでオ○ニーをしよう!」
大将「暗闇の中で、音と痛みによる恐怖を与えながら飼ってやるさ」
提督「……っ」
大将「私は慈悲深い。どうだい? 今からでも私と取引をしないか? そうすれば」
提督「ここは俺の鎮守府だ。俺がここの提督である限り、俺の物である艦娘は絶対に渡さない……特にお前みたいな奴には……」キッ
大将「それじゃあ、仕方ないなぁ!」ブン
提督「っ!」ギュ
ドン!
────────
憲兵「「なっ」」
大将「なんだ、天井が……」
トン…
大将「……誰だ、貴様」
「オレか?」
「オレの名は、天龍……」
提督「え……」
大将「天龍だと?」
ヒュン
憲兵「「カハッ」」バタリ
天龍「……」ダッ
大将「なっ!?」アトズサリ
天龍「……」チャキ
大将「ヒィ……!」シリモチ
天龍「フフフ、怖いか?」ギロリ
大将「くっ……長波! 出てこい! こいつを取り押さえろ!!」
「はーい」ガチャリ
大将「きたか!」
大和「長波です」ニッコリ
大将「……はぇ?」
天龍「え?」
元帥「いやー、派手にやってくれたねー……大将くん?」
大将「げ、元帥!? なんでここに!?」
元帥「そんな驚かれると登場したかいがあるってもんさ」
大将「長波! 長波ぃぃぃい!!」
元帥「はぁ……出ておいで」
長波「……提督」
大将「長波! 長波、ここにいる奴らを全員取り押さえろ!」
長波「……」
大将「……なにしている、早くしないか!」
長波「なぁ、提督。もうやめにしないか? 私はヤダよ……もう、こんな事は」ギュ
大将「どいつもこいつも使えない無能めっ!」ジャキ
ザン!
大将「あれ?」カチカチ…
天龍「軍刀だけじゃなく、銃まで持ってるとはな……それはガキが使っていいもんじゃねぇぞ?」チン
大将「!?」バラバラ…
元帥「おーお見事お見事。んじゃ大和、そいつ運ぶの頼むわ」
大和「了解です」ガシ
大将「は、離せ!」ジタバタ
大和「フン!」ゴッ
大将「」ガクン
元帥「相変わらず容赦ないねぇ……どれ、ワシは提督とお話をっと」
大和「あっ……元帥も行きますよ」ガシ
元帥「え、いやちょ、大事な話が……」ズルズル
大和「そんなのは後でいいですからほら。……長波さんもね」
長波「あ、あぁ……」テクテク
天龍「……よくわからねぇが、一件落着? あ、そんな事より提督、大丈夫か……ってうぇ!?」
提督「……」ギュ…ブルブル
天龍「提督、本当に大丈夫か!? そんな縮こまって震えるなんて……」アセアセ
提督「……て、天龍、なんでここに?」
天龍「なんでって、那珂に言われたからであって……」
提督「そうか……手間をかけさせたね」
天龍「……怖かったのか?」
提督「っ!? ……あんまり、声をかけないでくれ……」ポロポロ
天龍(うわぁぁぁぁ! 泣きだしちまったぁぁぁぁ! どうすんだよこれ、オレは一体どうしたらいいんだ!?)オロオロ
提督「スン……スン……」ポロポロ
天龍「……」
天龍「……えいっ!」ギュー!
提督「!? て……」
天龍「正直、どうしたらいいのか頭の悪いオレにはわからねぇし、慰めの言葉なんて考えられない。……オレに出来るのは体を張ることだけだから」ギュー
提督「てん……りゅう……」
天龍「勘違いすんなよ! オレはお前をまだ認めてねぇ! 助けてやるのも、胸を貸すのも今回だけだ!」アタフタ
提督「……ありがと、天龍」ギュ…
天龍「っ……おう」
────────
一五三〇
執務室
元帥「──てなわけで、無事大将を捕らえることができた。協力感謝する、中佐殿」
提督「はいはい」
元帥「なんだよー、こんな時ぐらい真面目にやらんか。ワシは元帥だぞー」ブーブー
提督「なぁ大和、長波……いや、大将の鎮守府にいる艦娘はどうなる?」
元帥「無視かぁ……悲しいなぁ……ね、天龍ちゃん」
天龍「あ、あぁ……」
大和「ご心配には及びませんよ。きちんと引き取りますから……私の提督が」
元帥「なぬ? 聞いてないんだが……」
大和「あら、言ってませんでしたっけ?」
元帥「もう好きにしなさい……」ドッコイショ
提督「もう行くの?」
元帥「あぁ、まだまだやる事があるからのう。……しかし」ジー
提督「な、なんだよ」
元帥「……いや、泣きべそかいてたにしては大丈夫そうで安心したよ。これも天龍ちゃんのおかげかのう?」ニヤニヤ
天龍「はぁ!? な、何言って」
提督「そうだね」
天龍「ちょ、お前まで!」
提督「照れることないだろ、事実なんだから。感謝してるよ、天龍」ニコ
天龍「っっや、やめろよ……そう言うの」カァァ
元帥「どれ、そろそろワシらはお暇しようか、大和」
大和「はい、提督。それでは提督殿、天龍さん、私たちはこれで失礼しますね」ペコリ
提督「またね大和、元帥」ノシ
天龍「おう、気をつけてな」
………
……
…
天龍「……なぁ、提督」
提督「ん?」
天龍「お前にとって、オレたちってただの道具なんだだろ?」
提督「そうだね」
天龍「ならなんであいつの話に乗らなかったんだよ」
提督「なんでって言われてもなぁ」
天龍「これでも練度は高いんだ、それだけ鎮守府にいれば嫌でもわかるんだよ……あの話の旨さってやつが」
提督「……」
天龍「今回だったらオレを渡せばよかったんだろ? オレがいなくなったほうがお前にとっても都合が……」
提督「嫌だったから」
天龍「は?」
提督「俺と大将の会話を聞いてたならわかるだろ? 理由なんて単純さ。ただ俺が嫌だったからだよ」
天龍「嫌だったからって……誰がどう見たって明らかにオレを渡した方がメリットが大きいだろ」
提督「そりゃあそうだろ。艦娘を遠征に出すだけで万単位の資材と、欲しい装備が手に入るんだから」
天龍「だったらなんで……」
提督「嫌だったからって言ってるだろ?」
天龍「っ、それが納得できねぇんだよ。お前自身もあの取引の旨さを理解してるのになんで……オレたち艦娘はお前の道具なんだろ!? だったらもっと道具らしく、兵器らしく扱ってくれよ!」
提督「無理だなー」
天龍「っ!?」
提督「だって俺、自己中だし。やりたい事以外やりたくないしー」
天龍「なんだよそれ……なんなんだよ!」ダッ
提督「あ、おい!」
ガチャン!
提督「……扉、閉めてってくれー」
………
……
…
天龍(本当になんなんだよ! あの提督は!)
天龍(自己中? やりたい事以外やりたくない? だったら……)タッタッタ
提督『あんたに陸奥を、夕立を、天龍を、渡すつもりはないって事だ』
天龍「……これも」ピタ
提督『俺の物である艦娘は絶対に渡さない……特にお前みたいな奴には……』
天龍「これもっ! 全部、あいつの本音ってことになるじゃないか!」
天龍「本当は怖くて震えてたくせに……」
天龍「腕を切り落とされそうになって、もっと酷いことされそうになった状況だったのに……あいつは」
天龍「……少し、熱くなっちまったみたいだ。外に出て頭でも冷やすか……」テクテクテク…
玄関ガラガラ…
朝潮「……」ジ…
夕立「……」ジ…
不知火「……」ジ…
天龍「うおっ……何やってんだ」
不知火「何やってんだ、と言われましても」
朝潮「待っているんです!」
15:59:58 ピッ
天龍「待っている? 一体何を……」
15:59:59 ピッ
夕立「それは……」
16:00:00 ピッ!
夕立「夕方っぽーい!」ダッ!
不知火「っ!」ダッ!
朝潮「朝潮、行きます!」ダッ!
天龍「あ、ちょ、待てお前ら!」ダッ
………
……
…
天龍「あいつら、あんなに速かったか? って、ここ執務室じゃねぇか。おい提督! 今ここに……」
夕方「提督さん提督さん! 夕立たち、VI○A買ってきたっぽい!」ドーン
提督「そ、それは……ADVAN○E!?」
不知火「それと提督、3○Sも」スッ…
提督「S○!!」
朝潮「可愛くてつい……こっちも買っちゃいました! 2D○!」バ!
提督「GAMEB○Y……」
夕立「あ、あと」
不知火「みんなで出来るようにと」
朝潮「すえおき? を買ってきました!」フンス
提督「6○、だと?」ワナワナ
夕立「白いのと迷ったんだけど……」
不知火「確か、司令は白いPS○を持っていたので」
朝潮「なら、黒い○iiUを……と思いました!」キラキラ
提督(白って、絶対にスー○ァミだろ……)
夕立「提督さん提督さん!」
朝潮「どうでしょうか!?」
不知火「不知火たちに、落ち度でも?」
提督「そうかー、みんなとゲーム楽しみだなぁー」ヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシヨシ
夕立「ぽーい!」ブンブンブン
朝潮「し、司令官、そんなに撫でられると……///」ブンブンブン
不知火「っ! っ!」ブンブンブン
天龍「……」
天龍「あれ、目がおかしいのかな」ゴシゴシ
天龍「……」ジー
不知火「」ブンブンブン
朝潮「」ブンブンブン
夕立「」ブンブンブン
天龍(尻尾が見えるぅぅぅぅぅ! しかも千切れんばかりに振ってやがるッ!)ブルブル
提督「ん? どうした天龍、そんな驚いた顔して」
天龍「あ、いや、そいつらに尻尾が……」チラ
提督「……お前」
夕立「?」
不知火「?」
朝潮「?」
天龍「あ、あれ? でも確かに今……」
提督「天龍……」b
天龍「え?」
提督「よーし、みんなでゲームやろうぜ!」
夕立「やったー!」ポーイ!
朝潮「この朝潮、司令官に胸をお借りさせていただきます!」フンス
不知火「徹底的に追い詰めてやるわ」
夕立「!?」
朝潮「!?」
不知火「……冗談です」
提督「ハハハ……ほら、天龍もおいで」
天龍「お、オレ?」
提督「みんなでやった方が楽しいからな」
天龍「……なんか、バカバカしくなってきた」ボソ
提督「……ん? なにか言った?」
天龍「なんでもねぇよ、提督!」
提督「そうか、なら良かったよ……」
※後日、ちゃんとしたゲーム機を買い与えました。
────────
数日後
執務室
提督「あの日から、天龍との距離が縮まった気がする」
提督「挨拶をすれば返してくれるようになってくれたし、向こうから声を掛けてくれるようになった」
提督「更にはなにかと気にかけてくれるようになったわけで……」
提督「今ならちゃん付けしても怒られないかもって思うんだけどさ……どうよ」
那珂「いいんじゃないんですか?」コポコポ
提督「投げやりだなー。あの天龍が話しかけてくれてるんだよ?」
那珂「そうなる事はなんとなく予想できてましたから大して驚いてません……はい提督、お茶です」コト
提督「うへぇお茶だ……。那珂ちゃんが淹れるお茶は渋くて渋くて……苦手なんだよなぁ」ズズズ…ニゲェ…
那珂「この渋さがいいんじゃないですか。子供じゃないんですからそんな事言わないでください」
提督「ほら、心は子供だから」
那珂「見た目は女の子ですけどね」
提督「女の子だから渋くないお茶が飲みたいなぁ」
那珂「提督はやっぱり女の子だったんですね」
提督「いや、なんでもないです」
天龍「なんだ、提督は女だったのか」
提督「……ノックぐらいしてくれませんかねぇ」
天龍「あ、わりぃわりぃ」
提督「あ、そう言えば天龍! お前、あの日のこと陸奥に話しただろ!」ガタッ
天龍「あの日? あぁ、あのヒョロガリ眼鏡が来た日のことか?」
提督「ひ、ヒョロガリ……その通りだけどさ。……ま、今は大将じゃなくなったしいいけど」
天龍「そう言えば、その事を話したら終わる前に慌ててどっか行っちまったな……」
那珂「あぁ、だから昨日、陸奥さんが慌てた様子で執務室に来たのですね」
天龍「なんだ提督のところに行っていたのか。……その、話さないほうが良かったのか?」
提督「……いや、どちらにしろ話す気でいたからな。きっかけを作ってくれて感謝してるよ、ありがと」ニコ
天龍「……おう」ピコピコ
那珂「……喜んでますね、天龍。耳、動いてますよ?」
天龍「耳……? はぁ!? これは耳じゃねぇ、電探だ! それに喜んでねぇし!」サ
那珂「そんな慌てて手で隠さなくても」
提督「……その手を退けなさい、褒めちぎるから」
天龍「あーもううるせー! はいこれ!」バンッ
提督「おー怖い怖い。……ん、遠征の報告書だね、ご苦労様」
天龍「……なぁ提督」
提督「ん?」
天龍「結局、提督は女なのか? ヒョロガリの時も自分の事女だって言ってたけど……」
提督「女だとは言ってないんだよなぁ」
天龍「でも否定はしてなかったよな?」
提督「だってそっちの方が都合がいいからな。この業界には女の提督は少ないから……ねぇ?」ニタァ
那珂(うわぁ……悪い顔してる)
天龍「ふーん……で、結局女なのか?」
提督「……男だよ」
天龍「そうか……でも安心しろ! 男だろうがちゃーんとこの天龍様が守ってやるからな!」
提督「そいつは心強いな」
那珂「……」
提督「那珂ちゃん、どうかした?」
那珂「あ、いえ、その……少し驚いてしまいまして。まさかここまで態度が変わっているとは……」
提督「俺もびっくりだよ」
天龍「そりゃあ、あんなの見せられたら……」
那珂「なにを見たんですか」ゴクリ
天龍「ん? 提督の泣き顔」
提督「!?」
那珂「泣いたんですか!? 詳しく!」
天龍「あぁ、あれは───」
提督「あー! あー! あー! 那珂ちゃん、お仕事をしなさい! ほら、こんなにいっぱいあるよ!」ドッ
那珂「ちょ、なんですかこの書類の量は……」
提督「ほら天龍ちゃん! 那珂ちゃんの仕事の邪魔をしてはいけません! ほらほら行った行った!」グッグッ
天龍「ちょ、押すな……おいどうやって車椅子で押してんだよ! てかさり気なくちゃん付けしてんじゃねぇ! おいこら聞いてn───」
扉バタン
提督「ふう……」
那珂「……」
提督「なんだよ」
那珂「泣いたんですか?」
提督「……まあ、うん」
那珂「泣いたんですかぁ」ニヤニヤ
提督「その顔やめろ……」
提督(最初の頃の凛々しい那珂ちゃんは何処に……でも)チラ
那珂「私、気になります」
提督「……ま、いいかな」
那珂「話してくれるんですね?」
提督「この書類終わったら天龍に聞きに行ってもいいよ」
那珂「……」カキカキ
提督(えぇ……そこまでして知りたいか)
………
……
…
那珂「終わりました、それでは」バビューン
提督「……なんかキャラ崩壊してない? それとも元々崩壊なんてしてなかったりして」
──────
次の日
鎮守府、廊下
提督「んー、今日のお昼は何を食べようかな」
提督「ラーメンかな? うどんもいいし蕎麦も捨てがたいな……あれ、麺しか食ってない気がする」
提督「よし、今日は米にしよう!」
「くぉらぁあああ! 秋雲ぉぉぉお!!」ドタドタドタ
提督「ん? なんか騒がしいな」クルリ
陽炎「待ちなさぁぁぁぁぁぁい!」
秋雲「ふっふーん。待てと言われて待つ馬鹿がどこにいるのかしら!」
提督「なにやってんだよ……」
秋雲「お、提督! いいところ……にっ!!」ピョーン
陽炎「あ」
提督「え?」
ドンガラガッシャーン
秋雲「ふう……」スタッ
秋雲「あ、提督大丈──」クルリ
提督「大丈夫に見えるか?」
秋雲「んー……うん、大丈夫そうね。陽炎姉さんが提督の上でぐったりしてるけど!」b
提督「は?」
秋雲「じ、冗談よ。やぁね〜提督」ヒラヒラ
提督「はぁ……まあいい。ほら陽炎、いつまで俺の上に乗っかってるつもり……」
陽炎「」キュー…
秋雲「あら〜これは落ちてますね」マジマジ
提督「……秋雲さん?」ニコ
秋雲「なぁに、提督?」ニコ
提督「」ニッコリ
秋雲「……はい、手伝わせていただきます」
提督「ん。じゃあとりあえず陽炎を担いで執務室ね」
秋雲「はぁ〜い……」
………
……
…
執務室
陽炎「」スゥ…スゥ…
秋雲「膝枕か〜いいなぁ……提督の膝は座り心地いいから羨ましい」
提督「膝なんて無いけどな」
秋雲「じゃあ太もも!」
提督「そんな事より秋雲お前、俺にわざと向かって来ただろ」
秋雲「」ギクッ
秋雲「な、なんのことやら……」メソラシ
提督「お、提督! いいところに!」
秋雲「」ビクッ
提督「い い と こ ろ に 」
秋雲「だー! そうですぅ、わざと提督に向かいました!」
提督「素直な子は好きだぞ。さて、理由を聞こうか」
秋雲「言わないとだめぇ?」
提督「当たり前だ、車椅子を見ろ」
車椅子ボロォ…
秋雲「あちゃー右側の車輪が曲がってるね」
提督「それだけじゃないよ。グリップだって曲がったし、ブレーキなんて動かないしで……これを乗ってここまで来たんだよなぁ」ジロリ
秋雲「うぐ、あんまりこういうことは言いたくないんだよねぇ……秋雲さんのキャラじゃないし」ポリポリ
提督「いいから」
秋雲「うん……。ほら、秋雲と不知火姉さんはさ提督に救ってもらったじゃん?」
提督「そう? 秋雲には絵を描かせただけだし、不知火は自分自身から歩み寄ってきてくれたからであって……」
秋雲「絵を描くってこと、提督にとっては大したことなくても秋雲的にはすごく大きいんだ……絵を描くの大好きだから」
提督「……俺は、別にお前らを救いたいからそんな事をしたんじゃない。道具として使い勝手がいいようにしたかっただけ」
秋雲「でもその結果、秋雲は……ううん、秋雲だけじゃないこの鎮守府にいる艦娘たちは救われてるんだよ? 提督はそう思ってないのかもしれないけどさ」
提督「……」
秋雲「提督が来る前まで、秋雲は陽炎姉さんに色々と世話してもらってさ……。「秋雲は私の妹だからね!」なんて言って、前の提督から庇ってくれたりしてくれたの」
秋雲「陽炎型とはわかっていたけど当時は自分のことを夕雲型だって思ってたし、陽炎姉さんもそう思ってるだろうなって思ってたからさ……その一言がすごく、嬉しくて……」ポロポロ
提督「そっか……」
秋雲「陽炎姉さんは提督と仲良くなりたいって言っていた。秋雲も仲良くなってほしいから……」ポロポロ
提督「秋雲、顔上げて」ス…
秋雲「ん、提とkうわ」フキフキ
提督「俺さ、陽炎とは一度話し合いたいと思ってたんだ。……よし」
秋雲「……ありがとう」
提督「どういたしまして。……だからさ正直なところ感謝してるんだ。こうしてきっかけを作ってくれた事に」
秋雲「え……?」
提督「ありがとな、秋雲」ナデナデ
秋雲「───!!」カァァ///
秋雲「だぁー! こんなの秋雲さんのキャラじゃなぁーーーい!」ガバッ
提督「うお」ビクッ
秋雲「部屋に帰って絵を描いてペヤ○グ食べて絵描いて寝る!」テク!テク!
提督「寝る前に風呂入れよ」
秋雲「わかってるって!」ガチャ
提督「ならいいけど」
秋雲「──提督」
提督「ん?」
秋雲「さっきの話し、陽炎姉さんには黙っといてね! じゃ!」バタン
提督「……仲良くねぇ」チラリ
陽炎「」スゥ…スゥ…
提督「……かわいいなぁ」ナデナデ
陽炎「ん……ぅん?」ボー
提督「お、目ぇ醒めた?」
陽炎「だぁれ?」グシグシ
提督「提督だよ」
陽炎「てぇとくねー……ん? 提督?」ピタ
提督「おう」
陽炎「……し、司令……? え、え? なにこれ」
提督「んー……なにこれと言われてもな。……膝枕?」
陽炎「ひ、膝枕ぁ!?」アタフタ
提督「あ、ちょ、こら。そんなに暴れたら……」
陽炎「あ……。あふっ」ゴロン…ビターン
提督「落ちるよー」
陽炎「うぅ……司令、言うの遅い」グッタリ
提督「言う前に落ちたからね」
陽炎「は、鼻が……。てか、なんで膝枕?」サスサス
提督「実は今日、那珂ちゃんが出撃してるから退屈だったんだよね。そんなところに気絶した陽炎ができたからさ暇つぶしに」
陽炎「気絶……? ……あぁ!」ガバ
提督「おぅ」ビク
陽炎(そうだ、秋雲を追いかけていて司令にぶつかっちゃったんだ。ど、どうしよう……謝らなきゃ)サァー
陽炎「し、司令……ぶつかっちゃって、その……ごめんなさい」ペコリ
提督「……ぁ」チラリ
陽炎「っ……」ギュウ…
提督「本当に申し訳ないと思ってる?」
陽炎「は、はい」
提督「じゃあ、話し相手になってもらおうかな」
陽炎「……え?」カオアゲ
提督「俺は知っているんだ……陽炎にとって、提督という存在に恐怖を抱いていることを」
陽炎「うぐ」
提督「と、言うことは? 提督である俺と二人っきりでお喋りをするという行為は……最大の罰になるんじゃないかな」
陽炎「……」
提督「ほらいつまで立ってるのさ。ここに座りなさい!」ポンポン
陽炎「へ? あ……うん」チョコン
提督「さーて、なんのお話ししようかなー」
─────
………
……
…
陽炎(司令と話し始めてどのくらい経ったのだろう……)
陽炎(お話し……と言っても私はただ相槌を打ったり質問に一言答えるぐらい)
陽炎(本当はもっとお話したい。……けど、いざこうして二人っきりでいると私の中にある前任との日々が頭にチラついてしまい、体が強ばってしまう。せっかく司令が話題を振ってくれてもそっけない態度をとってしまう……)
陽炎(頭ではわかっている、この人は違うってことくらい。……はぁ、私って全然可愛くない。こんな無愛想な反応で司令は気にしてないのかな……?)チラ
提督「──でさ、その時に比叡も作りたいーって言い出して──」ペチャクチャペチャクチャペチャクチャペチャクチャペチャクチャペチャクチャ
陽炎(すごく喋ってる。気にしてないようだけど……)
提督「陽炎はどう? 作れたりする?」
陽炎「え」
提督「なんだよその反応……さては聞いていなかったな?」
陽炎「……うん」
提督「全く、ちゃんと聞いてくれよ? 寂しいじゃないか。で、陽炎は料理作れたりするの?」
陽炎「作ったことない……」
提督「へぇー……あ、そうだ」
陽炎「?」
提督「どうせだし、今から作ってみない?」
陽炎「え?」
提督「俺の部屋になっちゃうけど、いいよね? キッチンあるし。それにちょうど今は那珂ちゃんがいないから都合がいい」
陽炎(料理……。やってみたいけど、大丈夫かな)
提督「あ、これ罰ゲームだから。強制ね」ヨッコイショ
陽炎「でも、車椅子……」
提督「あ、大丈夫大丈夫。喋ってる間に妖精さんに直してもらったから」
陽炎「そう……」
提督「ほら、いくよー」
陽炎「う、うん」
………
……
…
提督部屋
提督「んー何作ろうかねー」ゴソゴソ
陽炎「あの、このエプロン……」ピラ
提督「可愛いだろ? うさぎさんのエプロンだ」
陽炎「司令のは……クジラ?」
提督「そうそう。うちにいる龍鳳から貰ったんだ。っと、小麦粉と卵にマーガリンがあるな……」
陽炎「なにつくるの?」
提督「んー、ちょうど比叡からもらった紅茶の葉持ってるし、紅茶クッキーでも作ろうかね。大丈夫、品質に問題はない」
陽炎「問題って……それよりクッキー作れるの?」
提督「クッキーって思ってるよりも簡単だから大丈夫。あ、三角巾」ホイ
陽炎「あ、ありがとう……司令は?」
提督「大丈夫、あるから」ギュ
陽炎「うわ……それ髪型崩れない?」
提督「いいんだよこれで。前髪上げたほうが楽なんだから」
陽炎「ふーん……」
提督「……」ジッ
陽炎「な、なによ……」
提督「いや、なんでも。さぁてはじめるよー」
陽炎「なにすればいいの?」
提督「まず、砂糖とマーガリンを混ぜるよ。ふんわりするまで混ぜてね、ほい」
陽炎「こ、こう?」マゼマゼ
提督「おーいいね。その調子」
陽炎「次は?」
提督「ふんわりしてきたら卵黄をいれて混ぜるよ。ほれ」ポト
陽炎「ん」マゼマゼ
提督「んで、混ざったら小麦粉と紅茶の葉をいれて手でこねるよ」
陽炎「おぉ……なんかくすぐったい」コネコネ
提督「大丈夫、そのうちそれがクセになるから」
陽炎「ん、ん……どお?」コネコネ
提督「いいね。んじゃこねたそれをこのラップの上に置いて」
陽炎「よいしょっと」
提督「その上からもう一枚ラップをしいて……ほい、この麺棒で生地を平らに伸ばして」
陽炎「うん。……んしょ、んしょ」コロコロ
提督「できたら方で切り抜くよ」
陽炎「ふん!」グッ
提督「いや、そんな力込めなくていいから……あぁ、キッチンにめり込んでる」
陽炎「ご、ごめんなさい……」シュン
提督「いいよ、気にしないで。次は切り抜いた生地を並べてオーブンで焼くよ」
陽炎「ふぅ……。あとは?」
提督「使った道具の片付け」
陽炎「はーい」カチャカチャ
チーン
陽炎「お、できたかな? ……ん〜いい匂い」ワクワク
提督「うん、上手くできてるね。それじゃこの皿に移したら執務室の方に運んどいて。俺は紅茶でも入れるからさ……あ、オーブンはそのままでいいからね」
陽炎「はぁーい♪」
………
……
…
執務室
提督「紅茶淹れたよー」
陽炎「待ってましたー!」
提督「あれ、食べてなかったの?」
陽炎「うん。どうせなら一緒に食べたいな〜って」
提督「え?」
陽炎「な、なによ……」
提督「いや、なんでも……。ささ、食べよう食べよう」
陽炎「うん! いただきまーす」アーン
陽炎「ん! おいしい!」パァ
提督「そうかそうか。ほら、紅茶。温かいうちにどうぞ」コト
陽炎「ありがとう司令。……へぇ、紅茶ってこんないい香りなんだ、それに飲みやすい」
提督「それは良かった。さて、クッキーのお味は……ん、美味しくできてるね」
陽炎「んーでもちょっと作り過ぎたかな……ねぇ、このクッキーさ、不知火と秋雲に持っていってもいい?」
提督「おう、いいぞ。なんだったら紅茶の葉も持っていきなよ」
陽炎「いいの!? ありがとう司令!」ニカ
提督「……なぁ、陽炎」
陽炎「ん? なぁに?」
提督「お前、俺と普通に話せてるの気づいてる?」
陽炎「え?」
提督「……」
陽炎「……」ジー
提督「……」
陽炎「……ハッ! 本当だ。私、普通に司令と喋れてる」ワナワナ
提督「気づいてなかったか。……で、その事に気づいた今はどう?」
陽炎「……司令って、結構かわいい顔してるのね。女の子みたい」
提督「今更すぎない?」
陽炎「いやほら、私ってさっきまで司令の顔を直視できなかったから。こう、じっくりと見ることがなかったし」ジロジロ
提督「もう平気ってことでいいね、うん」
陽炎「でも不思議。こんなすぐに話せるようになるなんて」モグモグ
提督「……案外、自分の中で司令に対する恐怖心を大きくしていたのかもね」
陽炎「そうかも。なんやかんやで不知火や秋雲に比べたら私に対する当たりは弱かったから」
提督「だとしたら、不知火と秋雲は相当勇気を振り絞って俺に近づいたんだろうな……いや、秋雲はそうでもないかも」
陽炎「そんなこと無いわよ。だって秋雲ったら司令と会った後にめちゃめちゃ怖かったって言ってたもの」
提督「秋雲に会ったのって確か演習の時だろ? 新しい提督って聞いても特に反応はなかったと思うんだが……」
陽炎「ふーんって言ってたしね。でもあの子なりに内心はビクビクしてたらしいわよ」
提督「ほー……そういえば、その時の陽炎って割と俺に噛み付いてなかった?」
陽炎「あ、あの時は恐怖心よりも妹たちを守らなきゃって思って、司令の意識を私に向けさせようとしたからよ」
提督「一番艦らしいな」
陽炎「一番艦だからねー」
提督「おっと、もうこんな時間か」ヒトサンマルマル
陽炎「お? おやつの時間だね」
提督「それじゃあ、不知火と秋雲に持っていくといい。もうすぐ那珂ちゃんも帰ってくるし、今日はこのへんでお開きだね」
陽炎「うん、わかった。……あの、司令」モジモジ
提督「ん? どうした」
陽炎「その、今日は本当にごめんなさい」
提督「まだ言ってるのか」
陽炎「この謝罪は前置き。本当は……」
提督「本当は?」
陽炎「ありがとうって言いたいの。今日、司令と話せてよかった。だから、ありがとう!」ニッ
提督「……俺も、話せてよかった。これでやっと、気兼ねなく話せるようになったよ」
陽炎「? 司令は私たちの事、道具として見てるんだしこっちのことを気にするする必要ないんじゃ」
提督「道具だからだよ」
陽炎「?」
提督「結局、海に出て戦うのはお前たち艦娘なんだ。一度戦闘になったら、俺はただ指を咥えて見てることしかできない」
提督「だからこそ、その戦闘において最高のパフォーマンスを発揮できるように俺はお前たち艦娘を大切にしたいんだ」
陽炎「……じゃあさ、もし私が肩揉みしてって言ったら?」
提督「おう、やってやるぞ?」ウネウネウネ
陽炎「なにその指の動き、キモいんですけど……」
提督「よく言われる。ほら、肩を揉んであげよう」ウネウネウネ
陽炎「え、遠慮しておくわ。それに揉んでほしいわけじゃないし……」
提督「なんだ、違うのか。そるじゃあ他にして欲しいことがあるとか?」
陽炎「……あ、頭を撫でて欲しいなーって。ほ、ほら! 大潮ちゃんとかを見てるとすごく気持ちよさそうにしてるからさ気になるな〜って!」アセアセ
提督「頭ぐらいいくらでも撫でてやるさ」ナデナデ
陽炎「お? おぉ……!」
提督「どうだ?」ナデナデ
陽炎「な、なるほど……秋雲の言ってた通り、司令はかなりのテクニシャンね……」
提督「もういい?」ナデナデ
陽炎「え、もう?」
提督「ほら、クッキーもあるし」ナデナデ
陽炎「……! そ、そうね! もう大丈夫よ!」
提督「おう」ス
陽炎「……」
陽炎(まさかこんなに名残惜しいと思うなんて……)
提督「どうした、もっと撫でられたいって顔してるぞ?」
陽炎「そ、そんな顔してないし! 適当なこと言わないでよ!」カァァ///
提督「はいはい。……ん、クッキー包んどいたから。それと茶葉」ホイ
陽炎「ありがとう……それじゃ」スク
提督「暇だったら遠慮なく来ていいからな」
陽炎「……うん!」
────────
翌朝 〇七〇〇
執務室
陽炎「───失礼しました!」タッタッタッタ…
提督「あいよー」ノシ
提督「……さてと、片付けでもしますかね」
那珂「おはようございます」
提督「うおっ! 那珂ちゃんか、驚かさないでくれ……おはよう」ビクッ
那珂「驚かしたつもりはありません。それより今のは陽炎ちゃんですよね? こんは早朝から何をなさっていたのですか?」
提督「実は紅茶の入れ方を教えて欲しいって言われてね」
那珂「紅茶ですか?」
提督「あぁ。昨日、陽炎に茶葉をあげたんだけど、どうやら美味く淹れられなかったみたいでね。さっきまで教えていたんだ」
那珂「あぁ、それで紅茶の匂いが充満しているんですね」
提督「そそ。……じゃあ、はい」ス…
那珂「? これは」
提督「陽炎が淹れた紅茶。まぁ座りなよ、おかわりは沢山あるからさ」
那珂「……わかりました、手伝います」
提督「流石那珂ちゃんだ、頼りになる。あ、クッキーもあるよ」
那珂「では、いただきます」クイ
提督「どうかな?」
那珂「……美味しいです」
提督「そりゃあそうだ。それは陽炎の淹れたやつの中で俺も美味しいと思うやつだからね」
那珂「美味しくないのもあったのですか?」
提督「最初のやつは酷かったね。飲んだけど」
那珂「ちょっと気になりますね」
提督「やめておけ、本当に苦いから。コップを投げたくなるから」
那珂「そんなにですか……でもなら良かったです。ちゃんと美味しく淹れられるようになって」
提督「当たり前だろ? 俺が直接教えたんだからな!」
那珂「そうですね」フフ
提督「……しかし、こうしてゆっくりと話すのって初めてなんじゃないかな?」
那珂「そうでしょうか?」
提督「そうだよ。いつもは仕事しながらだし」
那珂「確かに、そうかもしれません」
提督「でしょ? だからさ何か話そう? 気になる事とかない?」
那珂(気になる事……)
那珂「……提督はないのですか?」
提督「俺? そうだなぁ……気になるとしたら、やっぱり那珂ちゃんかなー」
那珂「私ですか?」
提督「うん。ほらこの鎮守府で唯一のケッコン艦だし」
那珂「あー……確かにそうですね」
提督「気にはなっていたけど、もし理由を聞いて那珂ちゃんの機嫌を損ねたら運用に支障が出ると思ってね。控えてたんだ」
那珂「では何故、今になって?」
提督「簡単だよ。俺の仮着任の期限がそろそろ終わるから」
那珂「支障があっても、問題が無いって事ですね」
提督「うん」
那珂「……」
那珂「……提督は、なぜ私が前任とケッコンしたかわかりますか?」
提督「あ、話してくれるんだ」
那珂「」ジト…
提督「ご、ごめん……」
那珂「全く……で、どう思います?」
提督「んーぶっちゃけわからん。俺、那珂ちゃんじゃないし」
那珂「提督ならそう言うと思いました……」ハァ…
提督「だって、提督だし……」
那珂「はぁ……。正解は私が前任の駆逐艦に対する扱いを知ってしまったからです」
提督「あー、みんなには内緒でやってたみたいだしね。そうなると口封じのためにケッコン? でもそんな機能は無かったはず……」
那珂「口封じ……確かにそれも条件の中にありました」
提督「条件?」
那珂「はい。前任は私に、ケッコンすれば駆逐艦には手を出さない……と言いました」
提督「……駆逐艦の件、他の艦娘に相談しなかったのは?」
那珂「口外したら、駆逐艦に手を出すと……」
提督「なるほどね……。ケッコンはできて口封じもできる。おまけに本部の受けも良くなるから一石二鳥……いや、周りからの評価も良くなるから一石三鳥、四鳥ってやつか」
那珂「本部? どういうことですか?」
提督「ケッコンするっていうのは、周りにこの鎮守府には最高練度の艦娘がいるぞ、関係も良好だぞと言っているようなもんなんだ」
提督「故に本部はその鎮守府は有力だと判断し、監視を緩くして待遇を良くするんだ。……当たり前だ、深海凄艦に対抗できる貴重な戦力だからな」
提督「……ま、ケッコンのシステム上、艦娘の同意と練度があれば好感度なんて関係無いんだけどね」
那珂「……っ」
提督「とまぁ、ケッコンするっていうのは鎮守府的にも提督的にもメリットがたくさんあるって事なんだ」
那珂「……提督は」チラッ
提督「ん? あぁ、俺はしてないよ。めんどいし」ヒラヒラ
那珂「そうですか……」
提督「話が逸れたね。続き聞かせて?」
那珂「はい。……私は前任の言葉を信じてケッコンしました。それから私は前任の全てを受け入れてきました。どんな嫌なことも、痛いことも、苦しいことも、辛いことも……」
那珂「でも良かったんです。それで他の艦娘が無事に過ごせるのだったらと思うと耐えられました」
那珂「そのお陰でしょうか。前任は私以外の艦娘に手を出すことはありませんでした……」
提督「それはどういう……」
那珂「どうもこうもありません。前任は手を出していませんでした……そう、私の目が届く範囲では」
提督「それって……」
那珂「そうです。私が出撃中、または眠っている間に前任は駆逐艦に手を出していたのです」
那珂「愚かですよね。私は前任の言葉を鵜呑みにして、ケッコンしたことでみんなを救っていると勘違いしていたんです」
那珂「他にも艦隊のみんなには笑顔でいてもらいたい……そう思い、前任がいない時には歌やダンスを披露して少しでも笑ってもらえるよう努力してきました」
那珂「私は自分に酔っていたんです。みんなのために前任に体を差し出して、更には歌って踊ってみんなを笑顔にしている……そんな自分の境遇に」
提督「……」
那珂「でも実際はどうです? 前任の行いは続いており、ただそこに私が加わっただけ。それどころか、私はあの子たちを利用してアイドルをしたいという欲求に付き合わせていたんです!」
那珂「あの時、歌の練習をせずに前任の側にいれば……あの時、ダンスの練習をせずに目を光らせておけば……! 私自身が、アイドルなんて目指していなければ! あの子たちに辛い思いをさせずに済んだのに……」ポロポロ…
那珂「私がちゃんとしていれば夕立ちゃんは監禁されることはなかった、不知火ちゃんが提督に対して言葉が詰まるなんてこともなかった、秋雲ちゃんがあんなにやつれる事もなかった。陽炎ちゃんも、朝潮ちゃんも大潮ちゃんも提督に恐怖心を抱く事なんてなかったのに!!」ダンッ!
提督「那珂ちゃん……」
那珂「……そして、全てを知ったとき気付いたんです。所詮、戦うことでしか存在意義を示せない道具で兵器で……玩具である艦娘の私は、アイドルにはなれないのだと」
提督「……なんでなれないの?」キョトン
那珂「……提督、話聞いてました?」
提督「うん、ちゃんと聞いてたよ」
那珂「だったら──」
提督「アイドルを目指していなかったら本当に防げてたと思う?」
那珂「……少なくとも、被害は最小限に抑えられました」
提督「それはないね」
那珂「どうしてそう言えるのです?」
提督「よく考えてみなよ。どうして俺がここにいるのか」
那珂「それは……新しい提督の繋ぎとして、です」
提督「そうだ。……で、まだ気付かない?」
那珂「……何にですか?」
提督「やれやれ、察しが悪い困った艦だぜ……。夕立が事を起こさなかったら俺はここにいなかったし、今も那珂ちゃんの知らないところで駆逐艦の被害が広がってたかもしれないんだよ?」
那珂「そ、それは……。しかし、元帥殿がきっと!」
提督「その可能性は否めないけど、それでも確実に今より発見は遅くなるよ。それは那珂ちゃんがよく知っているんじゃないかな?」
那珂「それは……」
提督「ここの前任は相当頭の切れが良かったみたいだし、ずっと隠し通せたかもね」
那珂「っ……」
提督「……だから、俺が思うに那珂ちゃんはあの状況の中で、自分ができる最良の手を打ったと思うよ」
那珂「……提督」
提督「だから、もっと自分に自信を持ってもいいんじゃないかな。もっと自分に、素直になってもいいんじゃないかな」
那珂「……でも、私のような艦娘がアイドルには……」
提督「俺から見たら、アイドルも道具だけどね」
那珂「──え?」
提督「ほら、アイドルってぶっちゃけ商売道具じゃん。ステージに立って最高の歌と踊りをみんなに提供して、笑顔にする。それでお金を稼いで、食っているんだぞ?」
那珂「……しかし、アイドルは兵器では」
提督「時にアイドルは……人を萌え殺すことがある。人を死に至らしめることができる道具を、兵器と言わず何と言う?」
那珂「……ん!? え、えっと……で、でも! アイドルは玩具では……!」
提督「玩具で遊ぶと楽しいよね? 楽しいと笑顔になるよね? アイドルってみんなを笑顔にするよね? ……あれ、道具で笑顔……」ハッ!
提督「アイドルは玩具!」ババーン!!
那珂「……」ポカーン
提督「どう? 納得した?」
那珂「ちょっと待ってください。少し、頭の整理が……」クラクラ
提督「頭で考えるんじゃない……心で、感じるんだ」
那珂「……ふふ」
提督「なに笑ってるの?」
那珂「いえ、提督が真顔で冗談を言うのが可笑しくて」
提督「冗談? そんなの言った覚えないんだけど」
那珂「え?」
提督「え?」
那珂「……」パチクリ
提督「? ……?」???
那珂「……あはははは! やっぱり提督、可笑しいです」
提督「えぇ……真面目に答えたんだけどなぁ」
那珂「ごめんなさい。でもそうですよね、提督はそうゆう人でした」
提督「どうゆう人だよ……。まぁいいや、そろそろ仕事でもしますかねぇ」
那珂「……提督」
提督「ぬぁ?」
那珂「ありがとうございます。少しだけ、自分に自信がついた気がします」
提督「あ、そう……なら良かったよ。あ、そうそう朝食どうする? 俺は食べに行こうと思ってるんだけど」
那珂「あ、私も行きます」
提督「そう。じゃあそれ飲み終わったら食べに行こう」
那珂「はい、提督」ニコ
────────
同日 執務室
提督「……よし。あとは那珂ちゃんに任せてる艦娘の改装を終えれば仕事は終わりっと……」
提督「改装、予定よりだいぶ遅くなっちゃったけど……ま、いいか!」
ポツ…ポツ…
提督「ん? 雨?」
提督「予報だと晴れって言ってたんだけどな……。あ、洗濯物干しっぱなしになってる」
提督「ちょっと間宮さんのところに行ってくるか」シャーーー
………
……
…
ザァァァァァァ…!
提督「うひゃあ、本降りになってきたなぁ」
間宮「助かりました提督。危うく洗濯物がびしょ濡れになるところでした」
提督「雨の中、濡れた洗濯物を取り込むのは虚しくなるからね……。それと、赤城たちが間宮さんのところにいてくれて助かった。おかげで本降りになる前に取り込めた」
赤城「いえいえ、お役に立ててよかったです」
陸奥「いいのよ提督、気にしないで」
飛龍「そうそう。困ったときはお互い様、ね?」
秋雲「ご褒美は間宮さんの特製プリンでいいよ〜」
赤城「私は間宮特製DXフルーツパフェ大和盛りでお願いします。あ、武蔵盛りでも構いません」キリッ
飛龍「むむ、プリンとパフェかぁ。私はどうしようかな……でもお腹周りが……」ブツブツ
提督「……」ジー
陸奥「提督どうかしたの? 空なんて見上げて」
提督「ん? あぁいや、なんでもない」
陸奥「そう? ならいいけど」
秋雲「ちょっと提督ぅ〜? ちゃんと話聞いてた?」
提督「ん? 何がだ?」
赤城「提督が私たちにお礼にパフェを奢る話ですよ」
提督「あーあーきーこーえーなーいー」
………
……
…
提督「てかなんで間宮さんのところにいたんだ?」
秋雲「えー提督がそれ聞く? 見てわからない?」
提督「赤城、秋雲、飛龍、むっちゃん……んー、赤城はわかる。常にここにいるからね」
赤城「食のあるところに赤城あり、です」キリッ
提督「秋雲は……料理のデッサン?」
秋雲「いつもお世話になってます……」ペコリ
提督「飛龍はお腹空いたのかな?」
飛龍「蒼龍じゃないんですから……否定はしませんけど」
提督「むっちゃんは何だろう、早めの昼食?」
陸奥「うふふ。さぁて、どうかしら?」
提督「ぶっちゃけ、赤城以外はわかんないな」
秋雲「はぁ〜。改装あぶれ組だよ?」
提督「あぁ、確かに。他の艦娘は改装中だしな、那珂ちゃんを除いて」
秋雲「ここにいるのは改二がきてない哀れな艦娘なんだよねぇ」
提督「ん? じゃあなんで飛龍がいるんだ?」
飛龍改二「……」
秋雲「……」ジロリ
飛龍「わ、私はお腹が空いたので、たまたまですよ」
提督「やっぱり飯か」
飛龍「さっき否定しませんって言いましたよね!?」
提督「そうだったなぁ……あれ? 飛龍、マニキュア変えた?」
飛龍「あ、わかっちゃいます? シアーにしてみたんだけど……どうかな?」
提督「いいじゃん、うまく塗れてる。上達したなぁ……」
陸奥「私も気になっていたのよ。とっても似合ってるわ」
秋雲「あ、本当だ。前はラメだったよね?」
赤城「……」
赤城(あれ? 私だけ蚊帳の外!?)
赤城(いや、私にはまだ間宮さんが──!)バッ
間宮「マニキュアですか。いいですね……でも、私は料理とかするので難しいかなぁ」
赤城(……そう言えば、プリンを作っておいたんでした)クルリ
提督「間宮さんもやってみます? ほら、料理とかする時は使い捨て手袋すればいいですし」
間宮「なるほど……。でも私、そういうの持ってませんので……」
提督「大丈夫、俺持ってるから。好きな色あげるよ」バッ
間宮「よ、よろしいのでしょうか?」キラキラ
提督「間宮さんにはいつも美味しいもの作ってもらってますから。ついでにマニキュアに必要なものも一式あげちゃいます!」
飛龍「私もラメは提督から貰ったから気にしないで! と言うより、提督から教わったんだけどね」
秋雲「てゆうか、提督ってこういうの詳しいよね……もしかして趣味?」
陸奥「確かに。他にも可愛らしい服とか持ってるわよね」
提督「詳しいのは母親の影響だな。あとはほら、見た目はいいから割と使えたりするんだよね」
秋雲「へぇ〜提督のお母さんか〜。ちょっと会ってみたいかも」
赤城「それはちょっと難しいと思いますよ?」
秋雲「え? それって……、うわでかっ! プリンでか!!」
提督「マジで作ったのか」
赤城「はい。やっぱり憧れますよね……バケツプリン」キリッ
提督「それより、それ100Lのバケツだろ? よくそんなキレイな形にできたな……どうやったんだ?」
赤城「ボーk」
提督「わかった。もういい」
赤城「……」プクー
陸奥「プリンはすごいけど、それより難しいって?」
赤城「それはですね……」チラ
蒼龍「難しいと言うより……」チラ
提督「お前ら、そんな引き伸ばしたら誰でも気になるだろうが……。まぁ、簡単に言うと死んでもう会えないってことだよ」
陸奥「それは……ごめんなさい」シュン
秋雲「ご、ごめん……」シュン
提督「ほら見ろ。間を伸ばすから変な空気になっただろうが」
赤城蒼龍「「ごめんなさい」」
提督「たく……あまり気にしなくていいからな」
陸奥「……そうね。その事で気を使ったら提督に怒られちゃうわね」
提督「流石むっちゃん」
秋雲「てかなんで赤城と飛龍は知ってるの?」
赤城「私は料理が作りたいと言ったときに教えてもらいました」
飛龍「私はほら、マニキュアとか化粧のやり方とかを教えてもらったときに……ね?」
秋雲「なんか知らぬ間に仲良くなってますなぁ……」
提督「そりゃあそうだろ。お前、基本的に部屋にこもってるし」
陸奥「もしかして、赤城が間宮さんのところにいるのは……」
提督「間宮さんのお手伝いでもすればいいんじゃね? って俺が言った」
秋雲「そういえば、飛龍がマニキュア始めたのって提督が着任して最初の方だよね?」
提督「へーよく見てるね。飛龍は着任して6日目ぐらいか? 赤城は4日目だった気がする」
秋雲「おぉ、思ったよりも早い……」
提督「まぁ、このメンバーだとその頃の秋雲はガチで絵ばっかり描いてたし、むっちゃんは参ってたし気付かなくても仕方ないんじゃないかな?」
陸奥「」ビクッ
間宮「あの時は皆さん荒れてましたからね……」
提督「みんなが駆逐艦の境遇と前任の本性を知ってしまったところに俺が着任だもんな。でも思ったよりは荒れてなくてよかったよ」
秋雲「え、なにそのもっとヤバイところ知ってますよー的な発言は……」
提督「……」
提督「」ニコ
秋雲「無言で笑うのはやめて欲しいなぁ……」
陸奥「でも、知っていてもおかしくはないわよね。じゃなきゃこんなところに着任なんてさせないと思うわ」
秋雲「あー確かに。なんか振り返ってみるとこうゆう環境に慣れてる感じはするよねぇ」
提督「……ま、ぶっちゃけるならもっとヤバイところを知ってるし、経験もしてるからね」
秋雲「……」
提督『有能過ぎて命狙われたこともあるぜ』
秋雲(……冗談かと思ってたけど、まさか……ね?)
陸奥「もっとひどい環境があるのね……それを聞くと私たちはまだ良かったのかもしれないわ」
提督「こうゆうのは比較するもんじゃないよ。……ま、比較することで心に余裕ができるのは事実だけどね」
秋雲「人の不幸は蜜の味……ってね」
提督「そうそう」
秋雲「ところで、提督が今までで一番辛かった事は何なの?」
提督「え、それ聞く?」
秋雲「……やっぱりまずいかな?」
提督「まぁいいか。一番はそうだなぁ……やっぱり、小さい頃にボットン便所にさ、ド○ミちゃんを落としたことだな……」
赤城「!?」
秋雲「……え?」
提督「当時は足も健在だったし、ドラ○もんのチューペットも売っていたんだ。俺はド○ミちゃんのオレンジ味が好きだった……」
赤城「あぁ……あぁ!」ワナワナ
提督「洋式だったんだけど、ちょっと調子乗ってド○ミちゃんを咥えながらトイレをしようとしたら……なんか、落ちちゃってさ……」グス
赤城「提督……!」
秋雲「……」
提督「もう、辛くてさ……ただただ落ちていくド○ミちゃんを眺めるながら放尿する事しかできない自分の無力さに絶望してさ……」ポロポロ…
赤城「もういいんです! 提督!」ガバッ
秋雲「!?」
提督「……赤城?」ポロポロ
赤城「提督、もういいんです……辛かったんですよね、 悲しかったんですよね! ……話してくれて、ありがとうございます」ギュウ…
提督「……っ! 赤城ぃぃぃ!!」ギュウウウウ!
秋雲「……」チラリ
陸奥「提督……」ホロリ
飛龍「うぅ……」ポロポロ
間宮「……」グス
秋雲(あれ? もしかして私だけがおかしい……?)
提督「……秋雲」
秋雲「な、なにかしら?」
提督「……ペヤ○グだばぁ」
秋雲「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
………
……
…
提督「それ以降、俺は小便器以外のトイレでは座ってするようになったのだ……」
赤城「辛すぎますよ……!」
提督「ありがとう、赤城。それにみんなも、共に泣いてくれて……」
提督「おかげで、車椅子生活になった時でもトイレは抵抗無くできたなぁ……」シミジミ
間宮「あの時の犠牲は無駄じゃなかったんですね……」
提督「あぁ……。今でもあの時のド○ミちゃんは俺の中で生きている」
陸奥「よかったわ……」フフ
飛龍「ド○ミちゃん……!」
提督「過去の辛い事、悲しい事……いや、それだけじゃない。嬉しい事も楽しい事も全部引っ括めて、今まで培ってきたモノは決して! ……無駄にはならないからな!」
間宮 赤城 飛龍 陸奥
秋雲「「「「「……はいっ!」」」」」
……ダダダダダ!
提督「……ん?」
扉バーーーーン!!
夕立改二「ぽーーーーい!」スッポンポン
提督「は?」
不知火改二「いきます……!」スッポンポン
提督「ん?」
朝潮改二「司令官っ!」スッポンポン
提督「え?」
大潮改二「いっきまっすよーー!」スッポンポン
提督「……まじかぁ」
ドンガラガッシャーーーーン!!
間宮「ケホケホ、いったい何が……」
那珂「待ちなさい! まずは服を───あ」バッ
陽炎改二「こら不知火! 服を着なさーーー──あ」バッ
提督「……」ゴロン
夕立「提督さん! 夕立、さらに強くなれたっぽい! どうかしら?」ポイポイ
不知火「改装した不知火です。……新しい不知火はどうでしょうか?」ヌイヌイ
朝潮「朝潮、改装完了しました! 今まで以上に頑張る覚悟です!」フンス!
大潮「司令官! 大潮、改装しました! これからもアゲアゲでいきますね!」ドーン!
那珂「て、提督、大丈夫ですか?」
提督「うん、まぁ、うん。俺は大丈夫だけど……」チラリ
車椅子「」ゴチャア…
那珂「あらら……」
陽炎「し、不知火! 早く服着ちゃいなさい! ほら!」バッ
提督「……陽炎」
陽炎「な、なにかしら?」
提督「まずはお前が服を着なさい」
陽炎「へ? ……!?!? ///」スッポンポン
陽炎「きゃああああああ!」ウズクマリ
提督「……締まらねぇなぁ」
───────
同日 間宮亭
天龍改二「改装された天龍様だ。……フフフ、怖いか?」(つω・´)キリッ
提督「かわいい」
天龍「うぇ? はぁ!? 俺は怖いかどうか聞いてんだぞ!」
提督「あー……怖い怖い。はい次、長門」
天龍「適当すぎるだろ!」ガバッ!
提督「顔が近い、続きはあとで聞こう」グイ
天龍「ちょ、おま、顔押すな!」
提督「長門ー、気にせずやっていいぞー」
長門改二「う、うむ。……改装された長門だ。新しいビッグセブンの力、余すことなく活用してくれ。提督にならできるはずだ」
提督「お、そうだな。……次」
長門「む、随分と適当なんだな。少し寂しいぞ」
提督「ならもう少し寂しそうにしなさい」
長門「む、寂しいなぁ……」
提督「はい次、利根」
利根改二「うむ! この時のために、カタパルトは整備しておったのだ! 見よ、これが新しい我輩じゃあ!」ババーン!
提督「利根、ちょっとおいで」チョイチョイ
利根「ん? なんじゃ提督よ」トテトテトテ…
提督「失礼します」ペラリ
利根「ん?」
筑摩改二「て、提督! いきなりなにを!」クワッ
提督「うお、なんだよいきなり……。次は筑摩だから安心しろって」
飛龍「いやいやいや、明らかにそこじゃないよね?」
秋雲「いや、でもわかるわ〜。秋雲さんも気になってたから……で、どうだったの?」
提督「ん? あぁ、履いてなかった」モドシ
秋雲「ちょっと待って。じゃあ同じ格好の……」チラ
提督「あー……筑摩、こっち来なさい」
筑摩「今このタイミングで素直に行くと思いますか?」サッ
利根「おぉ、珍しく筑摩が反抗しておる」
筑摩「反抗もしますよ! だから履いてくださいって言ったのに……!」
利根「イヤじゃ! アレは履きたくない!」
筑摩「姉さん!」
利根「イヤじゃ!」
提督「……なぁ利根、お前が嫌がるなんてどんな下着なんだ?」
利根「ん? これじゃよ」ヒョイ
提督「あー……ハイレグ」
秋雲「しかもレオタード……捗りますなぁ」フムフム
飛龍「結構角度あるね……。でも服装的にこれぐらいないと見えちゃうのか」
提督「これ今、筑摩着けてるんだよね?」
筑摩「着けてま……すよ、もちろん」モジ…
提督「……そう。まぁとりあえず今は履いてこい、いいな? 利根」
利根「提督までそんな事を言うか! お主も着てみればわかるぞ、ほれ!」バッ
提督「いや、渡されても困るんだが……」
秋雲「提督のハイレグレオタード……!」ピキーン
飛龍「ねぇ提督、ちょっと着てみない?」
提督「なんでお前らは食い気味なんだよ」
秋雲「いやぁ、これから先、提督本を描くことがあるかもしれないからその為のネタとして……ね?」
提督「お前既に一本描いてなかったか?」
飛龍「大丈夫! 提督なら似合うって!」
提督「似合う似合わないの問題じゃないんだよなぁ」
夕立「提督さんの提督さんがはみ出ちゃうっぽい?」バッ
長門「!」
提督「それだよなぁ」
秋雲「あぁ……それはそれで秋雲さん的には勉強になるので是非お願いしたいところですなぁ」グヘヘ
飛龍「提督の提督さんって……あー」
不知火「? 司令、司令の司令とは?」ヌイ
長門「!!」
朝潮「司令官の司令官……と、言うことは私たちの司令官なのでしょうか?」クビカシゲ
長門「!?!?」
大潮「司令官よりも偉い人がはみ出ちゃうんですね!」キラキラ
長門「」ハナジ
提督「俺よりも偉い人かー……元帥がハイレグレオタードってキッツいなぁ」
天龍「……やめようぜ、想像したくない」
秋雲「元帥殿かぁ……見たことないなぁ」
提督「大丈夫、今度会う事になるから。……てかお前ら、なんでまだ全裸なんだよ」
タタタタ…
陽炎「こらー! 私が着替えてる間に逃げるんじゃなーい!」ゼェハァ
提督「ほら、怒ってるから。着替えきなさい」
夕立「ぽーい!」
不知火「はい」
朝潮「はい!」
大潮「はーい!」
タタタタ…
提督「……長門、大丈夫か?」
長門「大丈夫だ。このぐらいなんてことない」キリッ タラー…
提督「垂れてる垂れてる」
天龍「ほら、拭けよ」つテイッシュ
長門「む、有り難い。世話をかけるな」フキフキ
提督「さて、話しがだいぶ逸れたが……利根、とりあえず履いてこい」
利根「な!? 提督が着る話しはどうなったのじゃ!」
提督「俺は着ない」
利根「ずるいぞ! 我輩に履けと言うくせに自分は履かないなどと!」
提督「いいから。あとでそれ以外のを一緒に考えよう。だから今はとりあえず履いてくれ」
利根「ぐぬぬ……わかったのじゃ」
筑摩「姉さん……!」ジィン!
利根「な、泣くほど嬉しいのか……。まぁよい、筑摩ゆくぞ」グイ
筑摩「姉さん、そんな強く引っ張ら──」ヨロ
提督「あ」
利根「ん?」
ビターン!
利根「ち、筑摩? すまぬ、大丈夫か?」オロオロ
筑摩「いたた……もう、姉さんたら。次はいきなり引っ張らないでくださいね?」
利根「う、うむ、すまぬのじゃ。しかし筑摩よ……」チラ
筑摩「どうしま──!?」サー… バッ!
提督 艦娘達「……」メソラシ
筑摩「み、見ました……?」ワナワナ
提督「何か見たか?」
天龍「いやなにも?」キョトン
長門「鼻血を拭いててな……」ゴシゴシ
秋雲「いやー提督のハイレグレオタードは捗るねー」カキカキ
飛龍「なにもみてないよー」クルリ
提督「だ、そうだ。ほら早く行ってきなさい」
筑摩「は、はい……」ホッ
利根「なぁ、筑摩よ」
筑摩「な、なんでしょうか?」ビク
利根「どうしてお主はパンツを履いていないのだ?」
提督 艦娘達「!?」デデン
筑摩「あ、あぁ……」ジワァ
利根「さっきお主、履いておると……」
提督「利根ええええええ!」
筑摩「うぅ、うわぁぁぁぁぁん!」ダバー
………
……
…
筑摩「うぅ……っ」ポロポロ
利根「すまぬ、筑摩」シュン…
提督「お前って奴は……なんでこういうときに限って」
利根「ぐぬぬ……」
筑摩「グス。姉さんは悪くありません……。わた、私が履いてなかったのが悪いんです」
提督「……どうせ筑摩のことだから利根のために履いてなかったんだろ?」
筑摩「そ、それは」
利根「我輩のため?」クビカシゲ
提督「これは俺の予測だが……姉である利根だけに恥ずかしい思いをさせたくなかったんじゃないか?」
利根「恥ずかしい思い?」
提督「ノーパンだよ」
利根「我輩は別に恥ずかしくは思ってないぞ?」
提督「知ってる。だからある意味、筑摩の自業自得だとは思うが……それだけ大切に思われてるってことだろ」
利根「ふむ……」
提督「どんなにしっかりしていても、筑摩は姉思いの妹だからな。恥ずかしい思いをするなら私も! って思っちゃったんだろう……」
利根「……」
筑摩「て、提督。私が勝手にやったことです、それ以上、姉さんを怒るのは……」
利根「いや、これは我輩の配慮が足りなかった」
筑摩「え?」
利根「少し考えればわかった事じゃ。筑摩は我輩の事を第一に考える事に」
筑摩「姉さん……」
利根「提督が来て、この鎮守府が明るくなり、皆に笑顔が戻った。我輩としたことが少し、平和ボケをしてしまったらしい」
筑摩「そ、そんなことは!」
提督「だとしたら俺が悪いな」
利根「なぬ?」
筑摩「提督……?」
提督「今の環境を作ったのは間違いなく俺だ。その中でお前たち艦娘のコンディションが崩れることがあるとしたら、それは俺の責任だ」
利根「……だとしたら提督よ、お主が責任を感じる必要などない」
提督「?」
利根「他のモノはわからぬが……提督が着任してから今日このときまで、我輩は我輩らしく過ごせてきておる。要するに、提督が作ったこの環境こそが我輩にとってとても心地の良いものなのじゃ」
長門「フ、そう思ってるのは利根だけではないぞ。私も、今の鎮守府が大好きだぞ」
飛龍「私もかな〜。前なんかすっごくピリピリしてて気が休めなかったし、今みたいにのんびりとお話しなんてできなかったもん」
秋雲「わかるわ〜。てか、比べるまでもないわ。圧倒的に今よ、今!」
那珂「私も、提督の作った今が大好きです」
天龍「お前ら、よくもまぁそんな言葉がスラスラと出てくるもんだな……」
那珂「天龍ちゃんは違うの?」
天龍「ちゃん付けはやめろって! ……まぁ、嫌って言ったら嘘になるな」
那珂「素直に好きって言えばいいのに」
天龍「うっせぇ!」
筑摩「……良く考えれば、この様なことで泣いたり、些細なことで笑ったり、みなさんと語り合える今ってとても幸せなことなんですよね……」
提督「……」
筑摩「提督。今を作っていただき、ありがとうございます」ニコ
提督「はい。……で、空気読めないこと言うけどさぁ……これってノーパンの話だったよね?」
筑摩「……! 〜〜っ///」カァァ
筑摩「き、着てきます! ほら、姉さんも!」ガシッ
利根「ぬおおお!? ち、筑摩よそんなに引っ張るでなぁあぁぁぁぁぁ……」
那珂「提督……」ジト
長門「せっかくいい感じで終わるところだったのに……」ハァ
天龍「なんでお前はわざわざ空気読めないことを」
秋雲「まぁ、提督らしいと言っちゃ提督らしいんだけどねぇ」
飛龍「そうだね」
提督「恐らく、あのタイミングで無理矢理にでも言わないと言えなくなる気がしてな……」
間宮「ふふ、お話しは終わりましたか?」ヒョッコリ
提督「あ、間宮さん。そうですね……一応?」
間宮「曖昧ですね……」
提督「間宮さんはどちらにいました?」
間宮「赤城さんと昼食の下準備をしていました」
提督「あぁ、なるほど。なにか手伝いましょうか?」
間宮「そんな、提督に手伝ってもらうなんて……。それに車椅子があのご様子じゃ……」チラリ
車椅子「やぁ」キラキラ
間宮「……直ってますね」
提督「いつまでも壊れたままじゃ不便ですので、妖精さんに頼みました」
間宮「そうでしたか。……ところで、なにかご注文はされますか?」
提督「俺はまだいいや。他のみんなは?」
那珂「それ、聞きます?」
長門「愚問だな」
天龍「どうせ、あいつらが戻ってくるまで待ってるつもりだろ?」
飛龍「食べるなら大勢で食べたほうが美味しいよね!」
秋雲「私はほら、提督ハイレグレオタードで忙しいから」カキカキ
提督「……だ、そうです。間宮さん」
間宮「はい、わかりました」ニコ
赤城「もちろん、私も待ちますよ」モグモグ
提督「もう食べてるじゃないか」
赤城「いいえ、これは食前のお腹の運動です。いきなり食べるとお腹がビックリしますからね」キリッ モグモグ
提督「お前は平常運転だなぁ……」
───────
提督「む……」
長門「提督、どうした?」
提督「トイレ行ってくる」
長門「そうか。それは引き止めて悪かった」
多摩「なんにゃ、なら多摩が押して行ってやるにゃ」
提督「おぉ、それは助かる」
多摩「任せるにゃ」
天龍「いやいやちょっと待て」
提督「どうした? 用ならトイレのあとにして欲しいんだが……漏らすぞ?」
多摩「気をつけるにゃ。この提督、なんの躊躇いもなく漏らす奴にゃ。素直に行かせてあげてほしいにゃ」
天龍「え、やめろよ? ここ飯食うところなんだから……」
秋雲「なになに? 提督の公開お漏らし!?」
飛龍「え〜提督漏らしたのぉ?」
天龍「だー! なんで集まるんだよ! てかまだ漏らしてねーぞ! ……漏らしてねぇよな?」
提督「おう、まだな」ブル
長門「今ブルったな」
天龍「多摩ぁぁぁあ! 早く連れてけぇぇぇえ!」
多摩「任せるにゃ」グン
提督「優しく頼むぞー……」ビュー…
天龍「はぁ……はぁ……」
秋雲「なーんだ。結局漏らさないのか」
天龍「いやそこじゃねーだろ……」
長門「……しかし、何故ここに多摩がいたのだろうか」
天龍「そう! 俺が言いたかったのはそれなんだよ!」
飛龍「あーそう言えばそうね。提督の反応からして提督のところに所属してる艦娘だったりして」
那珂「……あれ、提督は?」ヌ
天龍「那珂か、提督ならトイレに行ったぞ。……てかお前どこに行ってたんだよ」
那珂「いえ、提督にご用があると元帥殿が来まして……。その対応をしていました」
天龍「は? 元帥?」
那珂「はい。トイレに行ったんですね? わかりました」タタタ…
長門「……元帥殿が提督に用か」
飛龍「元帥って……そんな偉い人が提督になんの用だろう?」
赤城「恐らく、次の提督の事じゃないかしら」モグモグ
天龍「次の提督……」
長門「そろそろ1ヶ月経つからな。確かに、それ以外に思い当たる節がない」
天龍「……もう、1ヶ月経つんだな」
………
……
…
鎮守府トイレ前
提督「はースッキリ」
多摩「それは良かったにゃ」
提督「出すもん出したところで……多摩、もしかしなくても改二になったか?」
多摩改二「ふっふん、その通りにゃ。……ど、どうかにゃ、似合ってるかにゃ?」ソワソワ
提督「あぁ! とーっても似合ってるぞ! さらに猫っぽく可愛いくなりやがって!」ナデナデワシャワシャ
多摩「た、多摩は猫じゃないにゃ……でも提督の猫なら悪くないにゃあ〜」ゴロゴロ
提督「よーしよしよしよし!」ナデナデ
多摩「にゃ〜お」ゴロゴロ
提督「あ、そう言えばなんで多摩がここにいるんだ?」ワシャワシャ
多摩「それはにゃ〜」ゴロゴロ
那珂「何してるんですか、トイレの前で……」ジト…
提督「お、那珂ちゃん。なんだ、トイレか?」ナデナデ
多摩「なー」ゴロゴロ
那珂「違います、提督を探していたんです。あと、いい加減それやめませんか? トイレの前ですし……」
提督「それもそうか」ピタリ
多摩「なー……もうおわりかにゃ?」トローン
提督「すまない多摩。秘書艦の那珂ちゃんが嫉妬してしまってな……」クッ
那珂「してません」
多摩「なら仕方ないにゃ」ハァ
那珂「ですからしてませんからね」
提督「大丈夫大丈夫、安心して那珂ちゃん。ちゃんとあとで那珂ちゃんにもやってあげるから」
多摩「あー、ずるいにゃ!」
那珂「は?」
提督「ところで那珂ちゃん、どうして僕を探していたんだい?」ケロッ
多摩「そうにゃそうにゃ」ケロッ
那珂「っ……はぁ、提督に御用があると元帥殿がいらっしゃったんですよ」
提督「元帥が? ……多摩が連れてきたの?」
多摩「なんか提督のところに行くから足になってほしいって言われたにゃ」
提督「ふーん、そうなんだ。応接室に通したの?」
那珂「はい。ですので早く行きましょう」
提督「あー、それじゃあ那珂ちゃんはみんなのところに戻ってて」
那珂「え……それって」
提督「午後は元帥の相手で潰れるだろうし、戻るまで那珂ちゃんに任せるわ」
那珂「それは構いませんが……」
提督「大丈夫大丈夫、多摩がいるから」
那珂「多摩さん……が?」チラッ
多摩「任せるにゃ」フンス
那珂「そう、ですか……」
那珂(多摩さんがいるから……か)シュン…
提督「あ、いや別にな──」
多摩「しかし那珂ちゃんは随分と提督から信頼されてるんにゃね」
那珂「信頼、ですか……?」パチクリ
多摩「そうにゃ。多摩なんて提督とはそこそこ長い付き合いにゃけど、滅多に任されたことなかったにゃ」
提督「! そりゃあそうだろ。適材適所、その道具にあった使い方をしなくちゃな」
多摩「こういう奴にゃ。多摩たち艦娘を道具としか見てない最低な奴にゃ」
提督「失敬な。自分で言うのもなんだが、俺は物を大切にするタイプだぞ? 良い持ち主だと思うんだがなぁ」
多摩「どの口が言ってるにゃ。そうだと言うなら優秀な多摩の待遇をもっと良くするにゃ。具体的に言うと鮪とろ缶を所望するにゃ、三食分」
提督「それは元帥に言え。お前は今、元帥の所にいるだろ……」
那珂「……そう、でしたね。提督はそういう人でした」
提督「ん?」
那珂「午後はお任せください。いつも通りでいいんですよね?」
提督「おう、任せたわ」
那珂「はい!」ニコ
タタタ…
提督「……なぁ、多摩」
多摩「なんにゃ?」
提督「ありがとう」
多摩「………にゃあ」ニパ
──────
のんびりと書いていく予定
すぐ読み終わっちまった…続き待ってます!
良いわぁ、こうゆうの大好き
更新頑張れ
のんびり更新お待ちしてます。
更新が楽しみで、そわそわしながら待ってます!
期待してます。
あぁ^~続きが待ち遠しいんじゃ~
最高です
こういうのはもっと伸びても良いはず
読みやすく面白いです。
続きキタ━(゚∀゚)━!
この提督車椅子に乗ってるんだよね?
なんか健常者みたいな言動があって気になる。
久しぶりに見たとても良いSS
失踪せずに完結するまで続けてくれるのに期待
早く続き見たいぜ…
之は良いSS
是非とも完結まで頑張っていただきたいです
続きをくだsあばばばば・・・・・
前任者め。人間の屑がこのやろう
この少しずつほっこりに向かっていく感じすごくいいです。
前任者の糞はそのまま消えればいいのに。
物をだいじに出来る人は
同じく人も大事に出来る
人間の鏡にして提督の模範だ。
おもしろいです!
頑張って下さいね!
トップブリーダーやw
此はもうポイヌに続きしらいぬの誕生も近いw
動物を苛める奴は人間の屑だって。
それ常識だから
この提督が来た鎮守府は、全艦娘が甘えん坊になりそうだな(笑)
だがそれがいい♪
色々大変でしょうが、更新楽しみにしてます♪
夕立の購入するハードがVRならps4の購入を忘れそうだw
デモ機のVRを頭につけて遊びますw
驚きの世界が其処にあるw
勢いのままに購入しかし夕立の落ち度。
デモ機繋がれてたps4の存在を知らなかったよw
最高すぎるよぉ...
64のマリオカートこそ至高のレトロゲーム
玄関先で待つ三人の忠犬w
ホッこりするw光景やでw
続きききたー!
うわーい続きだー
更新きた~
ゆっくりでもいいかおねがいします
なんでもしまかぜ
続きだーーー!!!(歓喜)
車椅子が魔界村のアーサーの鎧のように壊れたねwどんな即死攻撃も一度だけ必ず防ぐ!
やはり好きなゲームのジャンルから聞き出し
会話を広げていい雰囲気の所でスリーサイズを聞き出すのだ!
普通ならセクハラだが彼なら大丈夫だw
更新待ってました!
おもしろいです!
忙しいと思いますが更新待ってます!
とても面白いです!程ほどに更新頑張って下さい!
更新確認!ゴロリ艦隊です!(唐突)
まさかのド◯ミちゃんが出てくるとは…。たまげたなぁ…(白目)
そしてすっぽんぽんで登場した駆逐艦たちの今後は如何にァア^〜
ファッ!?ついに更新来たか!
こんなほのぼのとした鎮守府いいなぁ。
とても面白いです。更新頑張って下さい!
このss大好きです。
いつも楽しく読ませていただいてます。夏祭りや鎮守府一般開放的なイベントハプニングがあると嬉しいです。応援してます
ちくしょう艦娘たち可愛いすぎるだろ…
にしても酷かった鎮守府が、ここまでほのぼのとした鎮守府になってよかった。
今後このSSの更新予定はありますか?
自分としては更新して欲しくはありますが、作者様の判断に委ねます。