2017-10-20 00:31:14 更新

概要

【●ワ●:最終決戦『承』】


前書き

最終章まで一気に投下しました。


ここまで読んでくれてる人にもはや注意書など。




オリキャラ、勢い、やりたい放題。海のように深く広いお心でお読みください。


【1ワ●:悪魔の装備:経過程想砲】

 

 

提督「響さん、ようやく目覚めたのですね。体調はどうです?」

 

 

響「ごめん。体調のほうは大丈夫」

 

 

響「それと妙なことにВерный艤装は響艤装よりも馴染むんだ」

 

 

提督「先程、響さんが艤装を身に付けた時のデータが送信されてきましたかま、狂ってなかったのかも。響さん、聞いてください」

 

 

提督「あなたの適性率は『170%』とあり得ない数値を叩き出しています」

 

 

響「私達は響とВерныйだから」

 

 

提督「……、……」

 

 

提督「すみません悪い癖が出ました」

 

 

提督「暁さんがかなりヤバいです。大破より中破でなお、探照灯で敵艦隊の照射を続けています。しかもあの子、空母棲姫を発見したら自分の指示を無視して最悪な位置に飛び込んでしまったので」

 

 

 

提督「阿武隈さん達にも戦線を下げてもらっていますが、前方との挟み撃ちの状況でまだ合流できません。照射を頼りに榛名さんと瑞鳳さんが援護をしてくれていますが、時間稼ぎ程度にしか」

 

 

提督「雷さん電さんともに、24隻の敵陣の真っ只中です。ルートはこちらで指示を出しますので、全速全前です」

 

 

響「了解。その数値だと戦闘に支障は?」

 

 

提督「断定は出来ませんが、ないかと。『未知の才能』です。今だと艤装に好かれたとかいう理屈で説明出来なくもないですけど」

 

 

提督「艤装が本来の性能を凌駕したという。近代化改修の域を越えていて、もはや訳の分からない状態です……」

 

 

響「まあ、もともとこの海はオカルトだよ」

 

 

響「そのオカルトが想なのは司令官が証明したじゃないか。私達が私達を理解不足だったのは理解しているよ」

 

 

提督「頼もしいですね……寝ていたことにも意味があったようでなにより」

 

 

天城「准将さん、こちらの現場ですので、指示に追加があれば」

 

 

提督「天城さんは響さんと電さんとともに戦線に加わっていただきたい。雷さんは艤装が破壊された暁さんを、拠点軍艦まで運んでください」

 

 

天城「直ちに」

 

 

響「暁、後は任せて」

 

 

暁「……うん」

 

 

雷「ほら、行くわよっ!」

 

 

電「私がなんとか動いていますが、海の傷痕がいるせいでもう持たないのです」

 

 

提督「直に中枢棲姫勢力が加勢に来ます。そのタイミングで全損傷艦は拠点軍艦に撤退させますので」

 

 

提督「それまで、です」

 

 

2

 

 

海の傷痕:当局【……】

 

 

海の傷痕:当局(……此方、響のことどう思う?)

 

 

海の傷痕:此方(あの艤装は探知できないけど、情報だけ分析すると、適性率のおおよそは推測可能だね)

 

 

海の傷痕:此方(150%は越えてる)

 

 

海の傷痕:当局【初ケースである。改造後のほうが適性率の高い響か】

 

 

海の傷痕:当局【少々驚いた】

 

 

海の傷痕:当局(どう動かすのだ? あの響に当局は負けるまであるぞ?)

 

 

海の傷痕:此方(まだまだ予定調和内でしょう。しかし、そろそろ本稼動だね。残りの想の回収に乗り出さなきゃ)

 

 

海の傷痕:当局(電は回収してある。重課金は出来ればでいいから、残るは中枢棲姫であるな)

 

 

海の傷痕:当局(予定通り『E-5』にて誘き出すか?)

 

 

海の傷痕:此方(うん。もう少しだけ時間を稼いで。私が現海界した時の装備の性能を調整しているから。ダメそうならラストの深海棲艦を包囲網の外から出現させる)

 

 

海の傷痕:当局(……それで?)

 

 

海の傷痕:此方(私の想をそっちの艤装に流し込んでる。ついでに経過程想砲を『優先してメンテナンスverを解除して射程をあげる』ね)



海の傷痕:此方(複製したほうの私を本官さんと同じ状態にしてロスト空間の維持を任せるつもり。恐らく来るであろう初霜に負けるけど)

 

 

海の傷痕:此方(まだ私の想を艤装に流し込んでることがバレないのが理想だから、カモフラージュできる?)

 

 

海の傷痕:当局(方法はある)

 

 

海の傷痕:当局(まあ、見せ場はそれなりにあげて回ったつもりだ。この後に甲大将のところに行くつもりが、無理そうだな。まあ、どいつもこいつも悪くはなかったぞ)

 

 

海の傷痕:当局【まあ、それでは】

 

 

海の傷痕:当局【Trance】

 

 

3

 

 

電(……響お姉ちゃんの砲撃精度が神がかってますね)

 

 

響「電、聞こえるかい? 私に対しては史実砲も経過程想砲も使ってこないね。私が相手をするよ」

 

 

電「……海の傷痕の速度があがりました。あれはなんなのです……?」

 

ドンドンドン!


 

響「む……艤装が生きているみたいに動くね……加えてあの速度は」

 

ドンドン!

 

電「司令官、偵察機の映像は」

 

 

提督「……、……」

 

 

提督「あの速度と艤装は『島風』かと。あの妙な挙動をする艤装は『連装砲ちゃんor君』と似てます、が……」

 

 

響「先程の被弾の再生待ちのため、回避に徹しているのかな」

 

 

提督「……、……」

 


提督「響さん、引き続き攻撃を。意識を割いて申し訳ないのですが、海の傷痕の挙動を細かく報告してください。電さんは引き続き天城さんの露払いで」

 

 

電「はい。そして追加報告です。新たな深海棲艦が流れて来ています。しかも重巡棲姫がいるのです……」

 

 

響「死地だね。正直、私は海の傷痕だけで手一杯だ」

 

 

提督「拠点軍艦の退避は完了しているので、引き撃ちで構いません。この局面で海の傷痕:当局は倒すのは厳しいので、倒すことよりも避けてください」


 

天城(……予想していたこととはいえ、さすがに厳しくなってきましたね)

 

 

天城(……、……)

 


天城(本当にギリギリの戦いですね)

 


天城(作戦の全貌が伝えてもらえなくても、将校艦隊は動けますが、それでも不利になるにつれて不安は出ます。士気に影響が出始める頃……)

 

 

天城「……っと、新たな敵影、深海棲艦型艦載機も、ですね」

 

 

天城「包囲網の外から、です」

 

 

電「……! 天城さん、その艦載機の対処はしなくていいです!」

 

 

天城「へ?」

 

 

電「あの艦載機の軌道、狙いは私達ではないのです!」

 

 

ガガガガガ

 

ガガガガガガガガガガ!

 

 

天城「海の傷痕と、深海棲艦を?」

 

 

天城「ということは……」

 

 

リコリス棲姫「ええと、これでいいのかしら。通信聞こえる?」

 

 

天城「中枢棲姫勢力ですね!」

 

 

リコリス棲姫「そそ。リコリス。海の傷痕はいるみたいね」



リコリス棲姫「到着っと」


 

電「……リコリスさん?」

 

 

リコリス棲姫「そうね。私とお墓作ってくれたの電ちゃん?」

 

 

電「……」

 

ギュッ


リコリス棲姫「ありがとう」


 

電「はわわ! 今戦ってるんだから抱き付くんじゃねーのです!」

 

 

リコリス棲姫「うーん、ただの電ちゃんよね」

 

 

電「あの時に思い浮かべた人が助けてくれました! これで十分でしょう! 手を動かすのです!」

 

 

天城(中枢棲姫勢力とはいえ、隣にリコリス棲姫とか恐すぎるんですが……闇の人達は感覚が狂ってるとしか……)

 

 

リコリス棲姫「ふふ、そうね。前のあの子は響ちゃんかしら。海の傷痕と一人でやり合えているだなんて凄い」

 

 

電「だーかーら!」

 

ドンドンドン


電「手を動かすのです!」

 

 

リコリス棲姫「さて、躾ね」


 

リコリス棲姫「世紀を跨いだそのオイタの報いを受けてもらおうかしら」

 

 

海の傷痕:当局【少し整えようか】

 

 

海の傷痕:当局【lastに向けて】

 

 

海の傷痕【経過程、想砲】

 

 

【2ワ●:E-5:それぞれの戦場へ】

 

1

 

大淀「――――」

 

 

大淀「想定を越えた規模の深海棲艦艦隊が出現しました。数はおよそ250体です。それも――――」

 

 

大淀「包囲網の外です!」

 

 

元帥「っ」

 

 

元帥「闇を除く戦力の包囲網を解かして、拠点軍艦の護衛に全戦力を割け」

 

 

大淀「艤装データの損壊状態が、い、いきなり5割を越えました! 全戦力の艤装損壊が2段階、あがりました。中破以上の艦の艤装が全壊! 北上、大井、漣、潮、サラトガ、陸奥、日向、黒潮の艤装損壊状態撃沈(仮)、航行可の継戦不可能状態です!」

 

 

元帥「了解。おい、各艦隊は指揮官の拠点軍艦まで撤退して、拠点軍艦の護衛に回ってくれ。各支援艦隊はC1-5の動きだ。散らばっている潜水艦は各艦隊に1名ずつ護衛に」

 

 

元帥「旋回しても背中に気を付けろ」

 

 

大淀「だ、ダメですこれ! 残存数の深海棲艦に囲まれてます! 深海棲艦数230……!」

 

 

元帥「おい丁、聞こえるか?」

 

 

丁准将「大淀がやかましいな。平手でもかまして黙らせてもらいたい。実戦から離れていた弊害か?」

 

 

元帥「マジで申し訳ねえんだが」

 

 

丁准将「長門陸奥日向は拾う。武蔵と大和と長門の3人でこの拠点軍艦を敵のど真ん中まで突っ切ろう」

 

 

元帥「全員聞こえたな。包囲の内側の敵は拠点軍艦と戦艦戦力で引き付ける。その間になんとしても自陣に戻れ」

 

 

元帥「おい准将、闇の戦力はこちらに回せんか?」

 

 

龍驤「龍驤さんやで。翔鶴不知火間宮は長門んとこに行ってるからこき使ってええよ。位置的な問題で阿武隈第1艦隊と明石君支援艦隊は丙少将の拠点軍艦、大鳳達は乙中将の拠点軍艦のところに回ってるな」

 

 

元帥「そろそろ全員生還に支障が出る。初霜達は」

 


龍驤「とうに向かったよ。いや、『まだ帰投していない』やね」

 

 

龍驤「中枢棲姫勢力から出撃の合図をもらったんやけど、向かっているのは包囲網の内側やね。各拠点軍艦のほうから突撃しとるみたい。内側は殲滅するから、外回りだけ注視してくれればいいみたい」

 

 

龍驤「わるさめは北上達を送り届けてから内に合流。中枢棲姫勢力、わるさめ、響改二、電、この戦力で海の傷痕:当局を含めた包囲網の内側を殲滅する」

 

 

元帥「了解だ。准将の予定なら『ここで仕留めにかかる』だ。准将に伝えておいてくれ。しくじったのならば『全滅は避けるため、全軍撤退』させると」

 

 

龍驤「了解」

 

 

元帥(……この航行可の、継戦不可の損壊、経過程想砲の射程が急に伸びたとしか思えん)

 

 

元帥(メンテナンスverの縛りが解けたのか? それとも海の傷痕:此方のほうがなにか……くそ、海の傷痕の力が多様過ぎて種を考えても分からん)

 


元帥「持久戦、ここが踏ん張りどころだ。闇が、任務を完遂するまで」

 

 

元帥「どうか、誰も死なんでくれよ」

 

 

2

 

 

漣「ほわっつ!?」

 

 

潮「勝手に艤装が自壊した、ね」

 

 

北上「この艤装の壊され方は……」

 

 

大井「航行は出来ますね。それ以外が軒並みです。誘爆しないように魚雷発射管だけ器用に壊すやり方は……」

 


北上「海の傷痕の経過なんちゃらですねえ。でもうちらのところまで届かないはずだよね?」

 

 

大井「甲さん」

 


甲大将「撤退しながら聞いてくれよ」

 

 

甲大将「元帥から闇を除く戦力撤退の指示が出た」

 

 

北上「……どゆこと」

 

 

甲大将「全員じゃねえけど、お前らみたいに艤装が使いもんにならなくやったやつが半数、今はもう5割の戦力失ったんだ」

 

 

大井「こんなこと出来たのに、なぜ今まで使ってこなかったんです?」

 

 

甲大将「知らねえ。とにかく死なないうちに戻ってこい」

 

 

龍驤「甲ちゃん、聞こえるー? そこにわるさめおるやろ。撤退の護衛につけるから、こき使ってくれてええで」

 


甲大将「ん、助かる」


 

北上「撤退はいいけど、5割の戦力ってボロ負け状態だよ。どうすんのさ?」

 

 

甲大将「お前らのがんばりのお陰で木曾達は温存できたから、なんとかなるよ。もう誰も死なせねえための支援でしか動かせねえ状態だけど」

 

 

大井「脇役でしたねえ。まあ、仕方ありませんね」

 

 

北上「ま、しゃーないか」

 

 

わるさめ「うんうん、生きてることに感謝して後は残ったやつに託しなー」

 

 

戦艦棲姫「そうねえ。でもさっさと逃げたほうがいいわよ。私の電探がさ、更に50体くらいの深海棲艦キャッチしてるからね」

 

 

3


 

日向「……あ?」

 

 

陸奥「私も……姉さんもね」


 

乙中将「そっちに先代の丁のやつが向かってるからそこまで撤退して。そこから指揮は僕から」


 

長門「了解。橋渡し助かった」

 

 

乙中将「これからが踏ん張りどころだからね!」

 

 

長門「陸奥、何体仕留めた」

 

 

陸奥「姉さんと私だけで30体は仕留めたわよ……姫3、鬼4の戦果ね。指揮してくれた乙中将殿に感謝しなければならないくらいなのに、不満そうねえ……」

 

 

長門「……」

 

 

日向「呆気ない終わりだと嘆くなよ。艤装がなきゃどうしようもないんだ」

 

 

長門「いや、私の艤装は半壊だぞ。陸奥は中破から一気に持っていかれたが、私は中破止まりだ」

 

 

日向「それを先にいってくれ。じゃあ私と陸奥が逃げる間に精々働くといい」

 

ドンドンドン!

 

陸奥「道が掃けてくわね……というか、軍艦が来るんだけど、その護衛にいるのは……大和型のお二人かしら」


 

日向「はは、軍艦じゃ深海棲艦は倒せないといっても、深海棲艦のサイズじゃ止めきれないみたいだなー」

 

 

大和「悠長なこといってないで乗り込んでくださいな♪」

 

 

長門「いいたいことは山ほどあるが」

 

ザパン

 

駆逐棲姫「……」

 


装甲空母鬼「……」

 

 

ヲ級改「……」

 

 

陸奥「35体ね……キツいわこれ」

 

 

武蔵「まあ、なんとかなるさ」


 

ドドドドドドドドドドドド!

 

ドンドンドン!


ドオオン!

 

 

大和「あら?」

 



 

 

 

 

 

 

レ級「ドンドンドンドンガガガガ!」

 

 

 

レ級「ドオオオオン!」

 

 

日向「中枢棲姫勢力かあれ?」

 

 

レ級「死ね死ね死ね――――シネ!」

 

 

レ級「テメーらデカブツどもは死にたくなきゃとっとと撤退しろよー! 潰しても潰しても沸いてくるからさア!」

 


レ級「道を空けろ、この量産型が!」

 

 

大和「あー、あの方が例の高知能深海棲艦ですか。本当に普通にしゃべるんですね。敵のオーラがありません」

 


武蔵「大和はあいつらと戦ったことねえからンなこといえるんだよ。あのレ級、私より強いからな」

 

 

日向「あいつの飛び魚艦爆と高速深海魚雷で辺りが火の海なんだが……」

 

 

レ級「最初期のウルトラ脳筋の攻撃が当たるか間抜けが! 海の傷痕に与しちゃうその頭の出来を恨みな!」

 

 

日向「この場で一番のウルトラ脳筋はあいつなんだが」

 

 

間宮「ちょ、え、これ魚ら」

 

 

不知火「この浅さなら」ガガガ

 

 

ドオオン!

 

 

間宮「不知火ちゃん、た、助かりました……」

 

 

不知火「おともがわるさめさん瑞鶴さんならまとめてもらってたかもしれませんね」

 

 

間宮「だ、大丈夫ですよ!」

 

 

翔鶴「あの、後方から北方棲姫が来ていますので、油断なさらぬよう。敵空母がうじゃうじゃいて、私だけでは制空権の確保はまず無理なので……」

 

 

陸奥「あら、翔鶴達も来たわね」

 

 

ザパン

 

 

伊13「伊九型潜水艦の改良改装型、伊十三型潜水艦の伊13、です……」

 

 

伊14「んっふふ、伊14も来たよ! 伊19は持ち場が違うから、乙中将のほうに!」

 

 

大和「あら、初めまして。大和です」

 

 

武蔵「悠長に自己紹介してる場合かよ……」

 

 

日向「ヒトミとイヨか。例のろーちゃんが来たらどうしようかと」

 

 

不知火「……ああ、あのろーちゃん」

 

 

間宮「疲労回復効果ありますから、ちゃちゃっと召し上がってください」

 

 

翔鶴「先代さん、辺りに艦載機を飛ばしてこの周辺の深海棲艦はこちらに引き付けてますが、大丈夫でしょうか?」

 

 

《いい判断である。先の我輩への暴行はチャラにしてやろう》

 

 

翔鶴(根に持つ人なんですね……)

 

 

《そこのデカブツども。さっさと乗り込め。我輩を無駄死にさせる気かね》

 


《大和は前方、武蔵は右方、長門陸奥は交互に入渠補充の後直ちに左方、翔鶴不知火は後方で眼をやりたまえ。間宮は兵糧配り終えたら直ぐに日向とともに通信室に来い》

 


《潜水艦は本来の任務に従事したまえ》

 

 

《状況を見極めてこの拠点軍艦を捨てて撤退だが、その時は指示を出す》

 

 

一同「了解」



4

 

 

木曾「ようやくか」

 


江風「待ちわびたよ。大将の気持ちがよく分かった時間だった。江風にゃ提督は無理だなー、辛抱強くねえ」

 

 

グラーフ「……全くだ」

 

 

甲大将「比叡と霧島もなー」

 

 

霧島「うーん、余裕ですね。この温存戦力なら他の艦隊の支援にも出向けそうです」

 

 

甲大将「そうだなー。多分、そろそろ来るんじゃねえかな。通信オンにしてるし」

 

 

提督「聞こえてます。その6名を温存しながら立ち回っていたんですか……」

 

 

甲大将「北上達の様子を見て、行かせる予定だったけど、与えられた役割はあいつらだけでこなせたしな」


 

提督「すみません、恐らく本官さんが救援を求めに来るので、比叡さんと霧島さんをお貸ししていただけないかと」

 

 

甲大将「もちろんだ。比叡と霧島は海の傷痕:此方撃破作戦の支援に向かってくれ」

 

 

比叡「金剛お姉様の支援ですか!!」

 

 

霧島「海の傷痕:此方のほうのデータもありますが、詳細の作戦をお聞きしてもよろしいでしょうか」

 

 

提督「初霜さんが『海の傷痕:此方の能力を妨害しています』ので、現場の指示に従ってください。向こうの指揮はこちらからは執れませんので、旗艦に判断を任せています」

 

 

霧島「了解です。それで合流ポイントは?」


 

提督「陽炎さんが戻ってきてますので、海の傷痕:当局の戦闘海域を迂回してのD-2の地点ですね」

 

 

甲大将「はいよ、了解」

 

 

比叡「見せ場が来ましたよ霧島!」

 

 

霧島「そうですね、対海の傷痕:此方で編成された闇の戦力で苦戦しているとなると、やはり見せ場ですね」

 

 

江風「比叡さん達、いいなー。江風も海の傷痕とやりたかったよ」

 

 

霧島「目の前の敵を片付けて海の傷痕:当局のほうに向かえばいいのでは」

 

 

グラーフ「……いってくれる」

 

 

甲大将「北上達に感謝しろよー。その頑張りのお陰で『融通』が利いた」 

 

 

甲大将「とりあえず一人頭」

 

 

甲大将「25体で全滅だな」

 

 

山風「無理」

 

 

江風「おおい! そこはやるっていえよ!?」

 

 

山風「……全員生還、でしょう。無理なことは無理といわせてもらう。そうじゃないことは」

 

 

山風「……精一杯、やる、よ」

 

 

甲大将「結構だ。グラーフの護衛艦を頼むな」

 


サラトガ「Fight! 私の分もよろしくお願いします!」

 

 

サラトガ「危険だったら私がダイハツに乗って深海棲艦を素手で仕留めに行きますから」

 

 

江風「サラの姉御ー、その必要はないよ」

 

 

木曾「これ片付けたら、やりたいこともあるから、余力を持って片付けてくるつもりだしな」

 

 

甲大将「片付けたら、内のほうに行って海の傷痕に一発入れてきても構わん」

 

 

甲大将「作戦内容的に、准将はここが私達の限界と見定めてるから」

 

 

江風「腹立つなあいつ!」

 

 

グラーフ「冷静なだけだ」

 

 

甲大将「まあ、文句いうなよ。あの時に負けたからこの位置だ。だから、肝心なところは強いやつに任せる」

 

 

甲大将「それでいいんだ」

 

 

甲大将「巻き返して返り咲くには」

 

 

甲大将「もう、ここしかねえ」

 

 

甲大将「作戦は頭に入れたのなら、気合い入れろよ。終わってもやることは嫌になるほどあるんだ」

 

 

甲大将「さあ、抜錨だ」

 

 

木曾・江風・グラーフ「応!」

 

 

山風「は、い」

 

 

5

 


丙少将「闇の第1艦隊の指揮ねえ……」

 

 

阿武隈「よろしくお願いします! 提督と龍驤さんは立て込んでまして!」

 

 

阿武隈「ま、丙少将の手腕に期待していますよ!」

 

 

卯月「はよしろし。うーちゃん達ならどんな指示でも完遂できるから気負う必要はないぴょん」


 

丙少将「相変わらず口の減らねえ艦隊だな……」

 

 

丙少将「とりあえずやばそうなのはツ級と軽巡棲鬼、後はヲ級改か」


 

阿武隈「あ、ろーちゃんが来ました!」


 

丙少将「!」

 

 

丙少将「ろーちゃん、軽巡棲鬼の囮やってくれるか?」

 

 

ろーちゃん「了解ですって!」

 

 

卯月「お前が囮とは、メッキが剥がれてきたぴょん。ぷっぷくぷw」

 

 

丙少将「余裕そうなのはいいこった。だがお前は知らねえみたいだな」

 

 

卯月「?」

 

 

丙少将「まあ、いいや。軽巡棲姫を榛名と瑞鳳で、ヲ級改を卯月阿武隈、ツ級は」


 

丙少将「雪風と伊勢で行けるな?」

 

 

伊勢・雪風「了解です!」

 

 

明石「おい! アッキーと到着したぞ!」

 

 

丙少将「馬鹿野郎、秋月っていえ。誰かと思ったわ」

 

 

秋月「北上さん達が最寄りのこの拠点軍艦に向かっているので私達はここで資材を積んでそちらに向かえばよろしいでしょうか!」

 

 

丙少将「妹のほうは優秀だなオイ」

 

 

丙少将「その通り。お前らは」

 


丙少将「仲間の傷を治せ」

 

 

6

 

 

瑞鳳「え、ええ!? ろーちゃん軽巡棲鬼に突っ込んで行きましたよ」

 


榛名「榛名は大丈夫です!」

 

 

瑞鳳「いや、そりゃ榛名さんは大丈夫だろうけど! ああ、もう、艦載機発艦!」

 

 

ろーちゃん「ドーンドーンドーン!」

 


軽巡棲鬼「……」ジャキン


 

榛名「私は周りのお供をやるので、瑞鳳さんは軽巡棲鬼に艦爆を!」

 

 

瑞鳳「すでに!」



ドオオン!

 

 

瑞鳳「あ、ろーちゃんさん被弾しました……今の自分から当たりに……?」

 

 

瑞鳳「え、え?」

 

 

榛名「あのろーちゃんなら大丈夫です。ゴーヤさん越えの根性値ですから!」

 

 

ろーちゃん「0距離ドーンですって!」

 

 

瑞鳳「ちょ、ろーちゃん!? 0距離するような場面じゃないよ!?」

 

 

榛名「瑞鳳さんは今世代のろーちゃんの素質を知らないのですね。痛みを力に変えるあの才能、悪口を言われると喜び勇み、異様なまでの被虐趣味が長じて限界オリョクル最長記録保持者、ついた通り名が……」

 

 

ろーちゃん「もっともっともっと」

 

 

軽巡棲鬼「……コザカナガ、チョコマカト」ジャキン

 

 

ドオオン!



ろーちゃん「当ててこいですって!」イェイ

 

 

榛名「Disって☆ろーちゃん」

 

 

瑞鳳「!?」


 

榛名「さあっ! 切り替えまして!」

 

 

榛名「榛名!」

 

 

榛名「全力で参ります!!」ジャキン

 

 

榛名「瑞鳳さんも畳みかけましょう!」


 

瑞鳳「うわああん、ろーちゃん巻き込まないように艦爆狙うの難しいですー!」

 

 

7

 


乙中将「大鳳さん達に明石さん達も!」

 

 

山城「……あー、良かった。このまま私達が徒手空拳で戦いに行く展開かと焦ったわ」


 

扶桑「山城、資材の運搬手伝いなさい?」


 

大鳳「戦艦棲姫2体と深海海月姫までいますね……!」

 

 

乙中将「そいつらとの戦い方は頭に入ってるね。戦艦棲姫に対しては」


 

白露「囮だね! 私にまっかせて!」

 

 

乙中将「白露、任せるね。拠点軍艦は下がるから、とりあえずの狙いは前線になる。大鳳さん達の空母の火力を、」

 


明石さん「あー、乙中将、少しいいですか?」

 

 

乙中将「なに?」

 

 

明石さん「神通艤装と飛龍艤装、新しいの運搬してきたので」


 

乙中将「2ヶ月はかかる予備の艤装を? さっき壊れたばかりなのに?」

 


乙中将「本官さんの仕業だよね。明石さん艤装だけじゃなくて、他のも、か」

 

 

明石さん「うちの提督が本官さんに急ピッチでいくつか艤装を用意してもらったようです。乙中将は序盤で艤装壊されるとにらんでいたので、絞って建造してもらっていたみたいです」


 

乙中将「飛龍! 神通!」

 


飛龍「聞こえてましたっ!」

 

 

神通「直ちに出ます。白露と前線で?」

 

 

乙中将「うん。飛龍はクラゲのほうね!」

 

 

蒼龍「飛龍! 江ノ草隊の装備も持っていってね! きっと役に立つから!」


 

飛龍「蒼龍ありがとう! 蒼龍達の分まで戦ってくるからね!」

 

 

夕立「ガンバって欲しいっぽい!」

 

 

時雨「夕立、明石さんが補充に来るから、手伝いに行くよー」

 

 

飛龍「もちろん夕立時雨、扶桑さんと山城さんの分もね!」

 

 

山城「そういうのは現場で戦ってもらえれば伝わるからとっとと行きなさいって……」

 

 

乙中将「うん、山城さんのいう通り。神通はもう行ったからね。扶桑さんと山城さんは抜錨ポイントまでの艤装の運搬を手伝ってあげて」

 

 

乙中将「後、プリンツさんいるよね?」

 

 

プリンツ「分かっています。深海海月姫ですよね」

 

 

乙中将「飛龍もつけるから」

 

 

プリンツ「Danke!」

 

 

プリンツ「Fertig los!」

 

 

飛龍「え、なんて?」

 

 

乙中将「よーいドン! だって」

 

 

飛龍「ちょ、待ってよ!?」

 


【3ワ●:海の傷痕:此方撃破作戦-2】

 

1

 

初霜「……」


 

瑞鶴「あれ、なんか艤装が重く感じる」

 

 

陽炎「ちょ、金剛さんよね?」

 

 

金剛「んー? 陽炎は背が伸びて」

 

 

陽炎「金剛さんが小さくなってるんだって! 駆逐艦並みにチビになってるわよ! 声もなんだか可愛いし!」

 

 

金剛「……イエース、私もなんだか目線が低いデース。多分この身体のサイズ、義務教育時代に戻ってますネ」



瑞鶴「なにこれ! ロリ金剛さん可愛い!」

 

 

陽炎「本官さん、これなに?」

 

 

仕官妖精「どうやら先の龍驤達の奮戦により、ロスト空間の管理に異常が発生している模様であります」


 

仕官妖精「史実砲のギミックの再現が捩れているのであります。金剛、あなたの艤装を確認してみてください」


 

金剛「……これは」

 

 

金剛「改装、前?」

 

 

瑞鶴「金剛改二から金剛に?」

 

 

金剛「……うーん、まあ、数値的にはあながち間違いでもないですケド、この装甲が強化されていない……造りの特性からして、大改装前の……?」

 

 

陽炎「……あ、ヤバいんじゃないのそれ。いいのもらえばすぐに爆沈の怖れアリじゃ」

 

 

金剛「いずれにしろ、いつもと艤装の感じが違って戦闘に不備が出そうデース……」

 

 

仕官妖精「ま、艤装自体がロマンで出来ているのでそれに46砲を装備しても普通に扱えるはずであります。戦闘は可能なはずでありますから」

 

 

金剛「瑞鶴は大丈夫デスカー?」

 

 

瑞鶴「大丈夫。とりあえず変な風になったのは金剛さんだけね」

 


陽炎「……しかし、少し気分が悪いというか」

 

 

金剛「入っただけで疲弊するネ。前に不法侵入の罰で遠征させられた時のような疲れが」

 

 

瑞鶴「……まあ、確かになんか身体が重いわね」

 

 

仕官妖精「建造という手段で肉体は強化されるものの、あなた達の軍学校は甘すぎでありますなあ」

 

 

陽炎「本官さんの時代はハードだったの?」

 

 

仕官妖精「あの頃は殴る蹴るが日常でありましたので、それはもう。この任務の途中に私語、弱音、本官の時代ならすでにあなた達には厳しい鉄拳制裁が加えられているのであります」

 

 

仕官妖精「殴られやり返さず。そして自らが上に立てば後輩を同じように痛め付けるのであります」

 

 

初霜「ならば本官さんも鉄拳制裁ですね」

 

 

仕官妖精「後輩である限り、そんな正論をいうあなたが殴られるような体制でありましたなあ……」

 

 

初霜「駆逐艦、桃、ですね」

 

 

仕官妖精「本官の経歴、を?」

 

 

初霜「分かるんです。この場所はあの時と同じで、自然と繋がって、その一部のような感覚」

 

 

初霜「まるで故郷のような、そんな気すらします」

 

 

初霜「皆さん私達は最重要任務を受けているということをお忘れなきよう」

 

 

瑞鶴「……」

 

 

陽炎「でも肝心の海の傷痕:此方が見当たらないけど」

 

 

仕官妖精「雲隠れしているようで本官では探知できないのであります」

 

 

仕官妖精「どうも海の傷痕:此方はなにかしているようでありますね」

 

 

初霜「引き寄せます。提督から私の役割を与えてもらってますから」

 

 

初霜「この日のために研究部で私はロスト空間の滞在を想定して一時の訓練を受けてきましたからね。皆さん、目を閉じて肩の力を抜いてリラックスしてください」

 

 

初霜「……」スーハー

 

 

初霜「……、……」

 


――――

 

 

――――こ――――

 

 

 

――――――――こ――――

 

 

 

――――です――――。

 

 

【4ワ●:Rank:Worst-Ever-純度】

 

 

海の傷痕:此方(……見つ、かった……)

 

 

海の傷痕:此方(いや、これは……)

 

 

海の傷痕:此方(フレデリカさんみたいに呼ばれて繋がれただけじゃない……)

 

 

海の傷痕:此方(『本体:想』を繋がれて引っ張り寄せられた……!)

 

 

海の傷痕:此方「この芸当……」

 

 

海の傷痕:此方「不確定要素のWorst-Everです、ね」

 

 

陽炎「向こうから現れてくれたわね」

 

 

瑞鶴「……ま、理屈はどうでもいいわ。使命を果たしてとっとと戻る」

 

 

金剛「此方ちゃんに恨みはないケド、この戦争終結のため、心を鬼にして、撃沈しマース!」

 

 

初霜「……ロスト空間のことも海の傷痕のことも分かった気がします」ジャキン

 

ドンドンドン!


海の傷痕:此方「……っ」

 


初霜「なるほど、いくつか情報と齟齬がありますね。皆さん、海の傷痕の生態情報は全て捨てて下さって結構です」

 

 

初霜「海の傷痕は――――」

 

 

初霜「トランス現象で産まれただけのただの『神を語る人間』です」

 


海の傷痕:此方「Trance:経過程想砲!」

 

 

初霜「相殺ですっ」

 

 

ドンドン!

 

 

陽炎「……空中で爆発したけど」


 

金剛「海の傷痕:此方は経過程想砲を使った?

私達は損傷してませんネー」

 

 

瑞鶴「いや今さ、はっつんの艤装の装備が現れたように見えたけど」

 

 

仕官妖精「……、……?」

 

 

仕官妖精「本官にもなにがなんだか」

 

 

海の傷痕:此方(『Rank:Worst-ever』の対処法はあるけど、斜め上の順応の速さ……勝敗はともかく、時間だけは稼がないと)

 

 

海の傷痕:此方「……こほん」

 

 

海の傷痕:此方「初霜さんは来てから理解したようですね。此方は何分でも待ちますが、この場で作戦を組み直してはいかがです?」

 

 

海の傷痕:此方「このまま戦うより、勝ちの目が多くなるかも、ですー」

 

 

初霜「3分ですかね。攻撃してくれても構いません」

 

 

初霜「みなさん、ロスト空間は要は『想の純度』が物をいう世界です。先の乙中将艦隊も、龍驤さんも、その力で海の傷痕:此方と戦い抜いた。きっとその純度の段階を海の傷痕は主に『廃と重』で区別しています」

 

 

海の傷痕:此方(……)

 

 

初霜「例えばそうですね、提督のどこに皆さんは惹かれましたか、と聞けば、思うはずです」

 

 

初霜「きっと皆さんの好意のその根っこはあの提督の『純度』に魅せられたからのはずです。あの提督の純度がもたらした数々の功績」

 

 

初霜「なにかの節目の度に確実に戦争終結に階段飛ばしで駆け抜けている、それをさせるあの提督の純度のはずです」

 

 

初霜「それがロスト空間では強さの数値となります。要は心のパラメータの1つ、一途さ、ですね。その一途さを」

 

 

初霜「持ってすれば」

 

 

初霜「空に幻影だって」

 

 

瑞鶴「彗星……」

 

 

仕官妖精「……、……!」

 

 

仕官妖精「海の傷痕の」

 

 

仕官妖精「桃の木山の木山椒の木。初霜は想の力を、使いこなしているのでありますか……」

 

 

初霜「説明は長くなるので今は省きます」

 

 

初霜「旗艦としての指示です」

 

 

初霜「『考えるのではなくて、感じてください』」

 

 

初霜「『理屈で勝利を想い描くのではなく、心で勝利を願ってください』」


 

瑞鶴「理屈じゃないほうは得意分野ね」

 

 

陽炎「まあ、私は強いとも賢いともいえないからねー。その分、心で勝利を願ってきたわよ」

 

 

金剛「バーニングラヴに全力ですネ。任せてくだサーイ!」

 

 

初霜「その通りです。皆さんはこのロスト空間で戦える人達です。提督はちゃんと私達のこと、見てくれています。その上で勝てると踏んで、任務を与えました」

 

 

初霜「その期待に、応えます」

 

 

海の傷痕:此方(……、……)

 

 

海の傷痕:此方「おかしいですね。真っ白な幼少時代のあなたでもなく、戦争という無視できない現実を経た人間が、理屈を無視した人間になれるわけがないのです」

 

 

海の傷痕:此方「あなたの数ある適性が狭まっていってるのがその証拠ですよ?」

 

 

初霜「ううん、それは違うわ」

 

 

初霜「私の本質は変わってない。あの頃は何者にもなれていただけ。この艤装が揶揄される文句と同じ器用貧乏みたいな感じです」

 

 

初霜「数ある可能性を選んで行っただけ。それは狭まったのではなく」

 

 

初霜「選び取っただけ。その1つ」

 

 

初霜「その1つの純度は、ただの無垢さゆえの純粋ではなくて、歳月を重ね、あらゆる感情の過程を経て」

 

 

初霜「あの海を愛した自分の純度を遥かに越えると断言できます」


 

初霜「あの海と、軍艦初霜の最後の特攻作戦の夢から始まり、様々な海を乗り越えてきて」

 

 

初霜「集約したのです」

 

 

初霜「皆さんも強く、ただ純粋に、心のままに、その想いの波に身を委ねるように、一心不乱に」

 

 

初霜「出来るだけ助けたい。全員、です。鼻で笑われるものですね。理屈で理想を笑われるでしょう」

 

 

初霜「理屈ではなくて、時の流れによって、遅れと、錯誤と、そう風化しつつある学習です。『頭ではなく身で体得』すること」

 

 

初霜「『全員生還での戦争終結』」


 

初霜「成し遂げます」

 

 

初霜「必ず勝てますから。これは勝ち戦であり、海の傷痕にとっては負け戦、今はその追撃戦です」

 

 

初霜「気を付けるのは、窮鼠猫を噛まれることだけです」

 

 

海の傷痕:此方「――――っ」

 

 

初霜「気力」

 

 

初霜「振り絞って参りましょう」

 

 

初霜「戦闘開始」 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海の傷痕:此方(あの頃はネバーランドの住人の才能がありそうとは思ってたけど……今は)

 

 

海の傷痕:此方(立派な兵士、ですね)

 

 

【5ワ●:海の傷痕:此方撃破作戦-3】

 

 

海の傷痕:此方(……想がジャミングされてる……妖精工作施設が使えない)

 


海の傷痕:此方(ロスト空間が、向こうの流れを汲んでる……究極的なまでの純粋無垢な好きと願いを踏まえた心、か。ロスト空間の想が弾かれ、より純度の高い初霜の心を映してる……)

 

 

海の傷痕:此方(たった一人の心に負けてる)

 

 

海の傷痕:此方(それほど勝ちたいってことは分かるけど、その度合いが想像し切れない。そう前も結論付けて『Worst-Ever』だと理解を投げた子が……)

 

 

海の傷痕:此方(私に勝つためだけにあの時の純度を越えてきた。これほど信仰してくれる人もそういないけど)

 


海の傷痕:此方(継ぎ接ぎ、だね。その純度は波のような感覚がある。まあ、器となる身体があるんだから、限界はあるよね。永久に集中が続く人なんていない)

 

 

海の傷痕:此方(命令に忠実な機械や想いに縛られた幽霊じゃないと)


 

海の傷痕:此方(寄せて返したその時に)

 

 

ドンドンドン

 

 

初霜「っ」

 

 

海の傷痕:此方(……経過程想砲は捩じ込める)

 

 

海の傷痕:此方(当局、聞こえる?)

 

 

海の傷痕:当局(聞こえている。先程から、此方の心の声もだが、そっちに意識を避けんから、単刀直入に)

 

 

海の傷痕:此方(残り5分でそっちの艤装に完全に移れるよ。『艦隊これくしょん』のデータも持っていくね。そっちは?)

 

 

海の傷痕:当局(家の仕事は此方に頼むのである。時間の調節はそちらでやってくれ。当局はこれから)

 

 

海の傷痕:当局(中枢棲姫勢力の殲滅に移る。なるべく響改二も無力化しておくよう善処はするが、現海界のタイミングはそちらで測って欲しいのである)

 

 

海の傷痕:此方(電の想は、すでに回収して取り込んである。中枢棲姫勢力のチューキさんだけは頼むね。そちらの時間で後、2時間後くらいになるかな)

 

 

海の傷痕:当局(了解である。見積もろう。いざという時は使うからサインを送れ。使う、でいい)

 

 

海の傷痕:此方(了解)

 

 

瑞鶴「しっぶといわねえ!」

 

 

陽炎「そろそろ観念して降参すれば一思いに沈めてあげられるわよ!」

 

 

金剛「負ける気がしませんネー」

 

 

金剛「はっつんのお陰でただの砲雷撃戦。あなたの素質が高くても、想の力を塞き止められている以上」

 

 

金剛「ただの強敵に過ぎまセーン!」

 

 

金剛「そんな海は腐るほど乗り越えてきたネ!」

 

 

海の傷痕:此方「楽しい」

 

 

海の傷痕:此方(アップデート、完了)

 

 

海の傷痕:此方「……Set」

 

 

瑞鶴「ん、その艤装、軽空母?」

 

 

海の傷痕:此方「艦載機、発艦!」

 

 

初霜「……、……?」

 

 

瑞鶴「ちょ、軽空母みたいだけど、私の艦載機が火力で押されてる!? なにあの性能!」

 

 

海の傷痕:此方「ヒント」

 

 

海の傷痕:此方「とおおお↑う↓」

 

 

3

 

 

陽炎「ヒントというか答えみたいなもんじゃない! その奇声は確か適性者不在の最上型熊野!」

 

 

金剛「空母になれたのなら、IF改造? 適性者不在の歴史のせいネー。その形態の軽空母の熊野のデータはまだなかったはずデース!」

 

 

初霜「創作空間ですから、やろうと思えば他にも出来ますよ! ただ海の傷痕の性質的にモチーフが必要です!」

 

 

初霜「飛龍さん達が沈んだ海戦後に巡洋艦の空母化は検討されていたはずですから、そこからです!」

 

 

初霜「惑わされないでください。強力な空母の域を出ませんから、瑞鶴さんでも十分に太刀打ちできます!」

 


瑞鶴「『瑞鶴でも』ってなに!?」

 

 

初霜「言葉の綾ですからっ!」

 

ドオオン!


金剛「Shit! 痛いネ……あっ、提督に貰った大切な装備がぁ……」ポロポロ

 


陽炎「金剛さんが中身も幼児化してきてるんだけど!?」

 


海の傷痕:此方「隙あり、です」

 

ドオオン!

 

瑞鶴「っ、私は中破で、金剛さんが大破!」


 

金剛「まだ、まだ、デース……」フラ

 

 

陽炎「……っと」ガシッ

 


陽炎「初霜、あんた海の傷痕みたいに女神の力を、金剛さんに使えないの!?」

 

 

初霜「出来ますが、無理です。瑞鶴さん、私も手伝いますので、一気呵成です!」

 

 

海の傷痕:此方(む、いい状況判断力ですね。金剛の修復に意識を割いたら、その瞬間に経過程想砲で全員大破させられましたが……)

 

 

初霜「向こうもすでに大破よりの中破判定です。時間もかけられません!」

 

 

初霜「ここで決着をつけます!」

 

 

海の傷痕:此方「かかってきなさい」

 

 

海の傷痕:此方「海の傷痕装甲服!」

 

 

4


 

ドオン!


瑞鶴「今度は海月姫か。どうせおちびみたいに意地の悪い隠し方をしているんでしょうね……」

 

 

初霜「私が突破します!」ジャキン

 

ドンドン!

 

海の傷痕:此方「……っ」

 


瑞鶴「一気に大破!?」

 

 

初霜「効果艦の酒匂なら適性ありました。艤装なんかすぐにイメージできますし、ロスト空間ならそれをすぐに質量化できます!」

 

 

瑞鶴「いや、私は出来ないし、はっつんだけだって。でも、チャンスね!」

 

 

海の傷痕:此方「初霜はまるで妖精に近いですね……素質が私への特攻として機能しますか」ジャキン

 

 

初霜「来ますよ!」

 

 

ドオオン!

 


初霜「……っ、特殊、潜航艇っ」

 

 

海の傷痕:此方「大破しても、純度が濁りませんか。ようやく、あなたの想いの深さを実感出来てきました」

 

 

海の傷痕:此方「……っ、弓?」

 

 

瑞鶴「飛距離延びてるからね、変化しないまま刺さっちゃったけど、そこから変化して、そのはっつんが開けた風穴に」

 

ドオオン!

 

瑞鶴「初見だった当局ならまだしも同じ手にひっかかるのかー。艤装作ったのあんたでしょーが。あまり賢くないの?」

 

 

海の傷痕:此方「わざとですよー」

 

 

初霜「あ、瑞鶴さん!」

 

ドオオン!

 

海の傷痕:此方「海中から飛び魚艦爆です。その言葉、そっくりそのままお返しを」

 

 

初霜「……」ガシッ

 

 

初霜「一旦引か、ないと」

  

ドンドンドン!


初霜「あ、」

 


海の傷痕:此方「経過程想砲」

 

 

海の傷痕:此方「意識を割くから。大破撃沈の仲間で揺らぎます。そこが常駐の廃との差です。電さんなら、私に攻撃していたはずです」

 

 

ドンドンドン!

 

 

金剛「それはあなたもデース!」

 


海の傷痕:此方(……全快して、る? それも金剛改二艤装、身体のサイズも戻って、る)



陽炎「はっつんに瑞鶴さん、下がるわよ。少し引いていなさいな」

 

 

初霜「……あれ、は」

 

 

仕官妖精「ふう、本官の仕事は早いでありますよー。支援艦隊を連れて来たのであります」

 

 

比叡「……は、鼻血が止まりません」ダラダラ

 

 

霧島「ええ、とても良いものを見させて頂きました」

 

 

比叡・霧島「小さい金剛お姉様!」

 

 

金剛「比叡霧島! いい加減にしなヨ!? そんな場合じゃないデース!」

 

 

海の傷痕:此方「え、嘘、あの比叡と霧島の想の純度、」

 

 

海の傷痕:此方「廃レベル!?」

 

 

比叡「お姉様を想う心で、この私に勝てる存在がいると思うのですか?」

 

 

霧島「全くです。ロスト空間のことは准将から聞いています。この創作空間で愛する金剛お姉様の姿形を思い描いて元に戻すことなんて」


 

比叡・霧島「お茶の子さいさいです!」

 


パシャパシャ

 

 

海の傷痕:此方「眩しい、これ……フラッシュ……?」

 

 

青葉「どもども青葉でっす♪ ロスト空間の調査係として同好させていただきましたよっと♪」

 

 

青葉「ロリ金剛さんも撮りましたので、生きて帰って来られたら現像して差し上げますね~」

 


青葉「此方ちゃんの写真もしかとー。そのアンニュイな表情いいですね~」

 

 

海の傷痕:此方(……あーあ、空気が完全に壊れちゃった。縛りを解いて原子爆弾でも落としてあげたいや)

 

 

金剛「はっつん、指示は出せるー?」

 

 

初霜「陽炎さんは瑞鶴さんの護衛を、私は……引き続き、ロスト空間の制御に……長くは、なので」

 

 

金剛「了解!」

 

 

比叡「過去最高に気合い入れて行きますから、お覚悟を!」

 

 

霧島「さっさと片付けてこちらから悪戯できなくすれば、向こうの皆さんの負担を減らして差し上げないと」

 

 

青葉「あー、青葉は内陸でばっか仕事してて練度そう高くないんで、こそこそとガンバりますねー」

 


海の傷痕:此方「……」

 

 

青葉「海の傷痕さん、私達、勝って終わりますからねー。絶対に同じ歴史ではないです。私が真実を後世に残していきますよ」ニコニコ

 

 

海の傷痕:此方「……メディアも大本営も、信用できないんですよ」

 

 

海の傷痕:此方「しかし、私も」

 

 

海の傷痕:此方「まだ、戦えます」

 

 

金剛「それでこそ。手向けられるというものネ」

 

 

金剛「ここからの砲撃一発ずつがこの戦争で散っていった皆の弔砲」

 

 

金剛「そして提督のHeartをつかむ愛の祝砲デース」

 

 

金剛「その重さを受け止めてみるといいネ」

 

 

金剛「全砲門!!」

 

 

 

 

 

 

金剛「Fire!」

 





初霜(……ここで必ず仕留めます)



初霜「……鉢巻き締め直そう」




【6ワ●:想題:初霜】

 


5歳の頃は、ちょっと疲れてたことを覚えている。勉強、習い事、たくさんのことを親から強要されていた。

 

 

自分の意思とは別に。産まれてきた時と同じだね。生きている実感ってのがあの頃はなかったんだ、と思う。


 

幼少期の頃の記憶自体が唯一しっかりと覚えているのは、誘拐されてから保護された時の間のこと。

 

 

初めて見た海に見惚れた時のこと。


 

今、思うと哲学していた。

 

 

あの景色の中で真実を探求した思考回路だ。特別な体験だったけど、別に特別なことを考えたわけでもなく、誰でも1度は思考したことがあるのだろう、と今となっては思う。それが私の場合はちょっと早かった。


 

生きる意味とは。

 


生物の図鑑を開いて色覚の項目に目を通した。その時にびっくりしたのは人間が見ている景色と犬や猫が見ている景色が違うということ。

 

 

どっちが本当の世界なの?

 


先生に聞いたら、どっちだろうね、と。

 


犬猫に聞いたら、返事はない。

 

 

違う、とはいわない。分からない。

 

 

私が見ている景色は偽物で、犬猫が見ている景色が本当なんだろうか。もしかして私達は同じ世界にいるように見えているだけ、だったり。

 

 

拐われてもあまり深く考えてもいなかった。そんなモヤモヤを更に深めるかのような景色に、考え事してた。

 

 

なぜか青い空を覆うように広がる白い叢雲に、

 

なぜか寄せては返すさざ波に、

 

なぜか迸る稲妻に、

 

なぜか氷が吹雪いて。


なぜか吹き付ける風。

 

なぜか空から垂れる雨。

 

なぜか揺れている木々の枝葉。

 

なぜか足元にいる黒蟻。



初めて実物を見た海との関係の始まりだ。

 

 

そういえばあの図鑑では生物のなかで虫が最も繁栄に成功しているってあった。けどけど、私は細菌のほうが数が多いんじゃないかって思う。細菌って生物じゃないのかな。



なんだか、考えるの面倒臭くなってきたから、考えるのを止めた。それでいいや。だって人間のほうが賢いのに、虫のほうが成功しているんだから。

 

 

たくさん勉強させられていたけど、この世界で生きていくのに本当は知能なんていらなくて、本当はただ死ぬまで生きているだけでいいんじゃないかなって思った。

 

 

目の前にあるたくさんの『なぜ』は、私をそんな風に思わせた。

 

 

神様がこの世界を作ったとか。その景色のどこを見ても神様の発明を感じられた気がする。

 

 

そんな風に思う私。

 

 

親が子の幸せを願って名前をつけるように、この世界にある全ては私が名前をつけて行けばいいのかもしれない。

 

 

なぜか青い空を覆うような叢雲に名前を。

 

なぜか寄せては返す波に名前を。

 

なぜか吹き付ける風に名前を。

 

なぜか揺れている木々の枝葉に名前を。

 

なぜか足元にいる黒蟻に名前を。



みんなに愛着が沸いてくる。その眼に映る景色が好きになっていく。観察していくにつれて知っていく。初めまして、から、知り合いへ。知り合いからから友達から。お友達から家族へ。


 

すごく、楽しい。

 

 

小屋の気が独りでにギシギシと軋む。なんだか、外のほうに逃げていくようなギシギシの音だ。仲間外れにされたことを怒ったのかもしれない。名前を考えた。決めた後にその板のほうを向いて名前をつけた。

 

 

もしかしてあの足音みたいなの、本官さんだったのかなって今となっては思う。出てったのかな。あそこには眼には見えないものも、いたんだ。

 

 

どれくらいの時間が、経ったのか分からない。お腹が鳴って、這いずるようにドアの前のご飯のところに行った。

 

 

お手紙があった。そこの窓から見える丘からの景色は綺麗ですよ。なら、ちょっと行ってみよう。

 


遠出なので歩行器に頼って外に出た。靴を履き忘れたけど、まあ、いいやってそう思ったから、まあ、いいや。

 

 

足の裏が冷たい。夜が明ける前に行かなきゃね。ゆるやかな坂の霜道をゆっくりと確実に歩いた。

 

 

そこから見た景色は海しか見えなかった。でも、吹き付ける風が、冷たい空気を肺の中に入れ込む。外に出ると、みんなと一緒になれた気がした。

 

 

太陽が昇って、沈みかけた暁の時、いつもと違う輝きが見えた。緑色の太陽だった。ずっと見惚れてた。

 

 

後ろから誰かに声をかけられた。

 

 

私の冒険は終わりを告げた。

 

 

2

 

 

ああ、なんてことだ。私はもう9つになっていたらしい。皆はもう小学校高学年になっている。私はまだ入学もしていない。親から勉強は大事だといわれていたから、それがダメなことだとは分かる。私は自然の一部から人間へと戻ることになった。

 

 

けど、親は私に会いに来ても、迎えには来てはくれない。その施設で、親と施設の人が話していた。親がいった。

 

 

『海で暮らせる方法がある』と。

「学校行かなくていいの? 怒らないの?」

 


「うん」と笑った。

「そっか、それなら、それがいい」と私は答えた。

「またね、お姉ちゃん」と母の隣にいた見知らない小さい女の子がいった。

「? またね」と私は返した。

 

 

そこから先は困難の日々だった。騙された、だなんて思った時もあった。すぐに理解はした。自分の境遇は現乙中将が教えてくれた。親に見離されたと。

 

 

9歳の子供にそんなことストレートにいう人だった。最も現実をしっかり受け止めさせようとしたそれは、兵士としての教育のようなものなのかも。

 


あんまり悲しくはなかった。思えば産まれの親には愛を受けたけど、その私のための愛は押し付けられてばかりで、私は好きじゃなかった。


 

でも、涙が出たな。

 


山城さんなあたふたした。

飛龍さんが、いないいないばあ、と変な顔をした。

蒼龍さんが、飛龍さんを小突いた。私の頭を優しく撫でた。

神通さんが、悲しげに目を伏せた。

時雨さんが、左手を握ってきた。

夕立さんが、右手を握った。

白露さんは、水道のようにだばっと目から水を流していた。

扶桑さんが膝を曲げて視線を合わしてきた。ぎゅーっと抱き締めてきて、私はその大きな胸に顔を埋めた。

 

 

子供扱いされたのはそれで最後だった。それから私は一人の兵士として容赦なく鍛えられた。子供の教育とかそんなのどうでもいいといわんばかりに死なないための教育を徹底された。

 

 

ミスをすると頭ごなしに怒られる。死にそうになると、ちょっと違う。みんな、泣きそうな顔で怒る。

 


乙中将は将として優れているけど、私には少し冷たかった。思えば時雨さんや夕立さん、白露さんにもそうだった。

 

けど、それはあの人なりの私との付き合い方なんだ、と今なら分かる。私はなんだかんだいっても子供だ。優しくしてもらえば、甘えてしまうだろう。戦場において誰かへの甘えの意識は死へと繋がる。誰かに頼られるくらいであれ。私はそんなメッセージを感じて、皆の背中を見ながら勉強した。

 

 

そして第2艦隊の旗艦に任命されることも出てきた。

 

 

確かな愛と絆を感じた。ちゃんとこの歯車の一部になれているようだ。

 

 

丙乙甲の人達は、そのただの記号の旗に意味をつけている。あの時、そこにあるものに名前を与えていた自分と似ている。やっぱり私は人間のようだ。人間として生きていくことを選ぶに足りる理由だ。

 

 

海は、私の全てになった。

 

 

期待に応えた。海は、好きだった。初めて海に出た時から、ここは私が生命を営む場所だと、そう思えたからだ。

 

 

危ない場面もいくつかあったけれど、乗り越えてきた。戦争を終わらせるために。勝っても負けても悲しい涙を流す戦争を終わらせるために。

 

 

それが、私の戦う燃料へと。

 

 

終わらないと詩人さえも詠うこの戦いの出口はいまだ見えない。いつか必ず、と私は毎日、海に出ていた。


 

状況は変わらない。現状維持で、海の広さは減ったり増えたりの綱引きだ。

 

 

乙中将の旗のもと身を粉にして戦って、戦い、続ける。その時はこの戦いに生きてリタイアしていった先人の言葉に、共感をし始めていた。たくさん優秀な人達がいる。それでも、それでも、終わりはいまだ見えない。

 

 

深海棲艦は自然のようにそこにあり続ける。神様の存在すら感じる戦いだ。

 

 

そんな頃だった。

 

 

未知の深海棲艦、中枢棲姫勢力との戦いに支援艦隊として急遽、駆り出された。丙少将の艦隊に加えて扶桑さん山城さん飛龍さん蒼龍さんもいるはずなのに駆り出されるということは、そこが相当な死地だとは想像に容易い。

 


乙中将の指示に従い、最近に活動を始めた例の鎮守府の提督の指揮下に入ることとなった。

 

 

そこの提督は生気の薄い幽霊みたいな雰囲気の人だ。 実際、その提督は乙中将やみんなから感じ取れていた温かさというものが全くなかった。幽霊みたいな生気のなさと、機械みたいな冷たさ。

 

 

しかも、例のない高知能型との戦いだ。みんなが生きるか死ぬかの戦いを繰り広げているなか、海の底を撮影するだなんてなにを考えているの?

 

 

信じられない。

 

 

合同演習時から悪い噂から信じられない提督だとは認識していたけど、本当に信じられない。

 

 

 

私はその海で、

 

 

その信じられない提督が、

 

 

神様の首根に刃を突き付けるという。

 

 

信じられない暴挙をしているのを見た。

 

 

3

 

 

なぜかその提督だけでなく、私にも見える深海妖精が、頭から離れない。

 

 

乙中将になにか勘づかれたのかもしれない。二人で話をすると「あの鎮守府に行きなよ。きっと初霜さんにとってプラスになると、なんとなく思う」と。

 

 

とりあえず気になることがあの鎮守府にたくさんあるので、向かうことにした。金剛さん榛名さん、瑞鳳さんも。

 

 

乙中将はあの提督のことを純粋に絶賛していた。でも、飛龍さんや山城さんが複雑そうな顔をしていたのを覚えている。戦争終結に繋がる出口への道の発見。それ自体は喜ぶ他ないけれど、それをしたのが、

 

 

 

 

 

 

 


 

 

対深海棲艦海軍の爪弾き者。

 

 

たまたま最高戦力を扱えるという点だけで提督の椅子に座り、電に間接的に指示を出すだけの道具で、その手腕にはなにも期待されていなかった人らしい。


 

対深海棲艦海軍が、無能だと、馬鹿だと、組織の隅に追いやった人間に、無能なのはお前らだという言い付けたのも同然の所業。

 

 

本当に大騒ぎだった。軍の中にはその功績を称える者、プライドに傷がついた者、様々な感情が吹き出していた。

 


その感情の処理をあてがわれたのが甲大将だ。あの時は甲大将も珍しく激怒していたんだっけ。その功績を横取りする羽目になったのだから。

 

 

軍はまた間違えた。

 

 

その提督は、天命を持っていた。常軌を逸していたのだ。


 

いや、違うかな。

 

 

この鎮守府が常軌を逸していたのだ。

 

 

深海妖精の発見に留まらず、

 

 

殉職処理されていた駆逐艦春雨:Tipe Tranceを軍に寝返らせ、

 

 

乙中将を下し、

 

 

深海妖精を陸地に誘い、

 

 

トランスタイプの全貌を暴いて、

 

 

深海棲艦の裏にいる海の傷痕を引きずり出し、

 

 

駆逐艦電を闇から救いあげ、

 

 

中枢棲姫勢力と講和を成し、

 

 

丙少将甲大将を打ち破る。


 

一年足らずのその快進撃は、乾いた笑いが漏れるほどだ。


 

私の過去だって、あの人は暴いてくれた。

 

 

私のイメージは間違ってなかった。この人は信じられない提督なのだ。この鎮守府で私達が過ごしている時間は紛れもない伝説といえる。

 


艤装も身に付けられなければ、深海棲艦を倒す力もないただの人間が、ただ1つの『考える力』でこの海を追い詰めた。これが、提督の力なのだろう。

 

 

あの提督の生気の薄さも、機械のような冷たさも代償として海に捧げたものなのかもしれない。実際そうなのだろう。最近になって、優しくなった。温かさを感じる人になった。

 

 

信じられない人だけど、これほど信じたいと思える人もそういない。抱いていた好意は日々に膨らみ続けるだけ。そろそろ破裂してしまいそう。

 

 

だから、ちょっと羨ましいな。

 

 

電さんと、あの提督の絆。


 

私も戦争終結を志しているけど、あの二人の純度には遠く及ばなかったのかもしれない。

 

 

だけど、同じ景色を見る必要もない。

 

 

 

 

 

たどり着く

 

 


場所は

 

 

 

 

 

みんな、同じだ。


 

みんな、一緒だ。

 

 

最後だ。

最後なんだ。

最後にするんだ。

 

 

みんな、で生きて帰投するために、

 

 

個々がこの海で役割を果たさなければならない。兵士だ。死を恐れて逃げてはダメ。それがこの鎮守府の全員生還という意味合いでもある。それが全員生還に繋がると信じている。

 


あの頃の純度なんか、


とうの昔に越えてる。

 

 

欲張りになった。

 

 

出来るだけ、じゃない。

 

 

みんなだって同じ。

 

 

全員、助けたい。

 


それが出来ないのが現実なのかもしれないけど、それでもやってみせる。



艤装を優しく撫でる。


 

あなたもそうでしょう。

 

 

【7ワ●:Fanfare.初霜】

 


砲雷撃戦の轟音が、鼓膜を殴るように響く。放った鉄の塊は海で弾け、間欠泉のように空に向かって海水を弾かした。



海の傷痕:此方「……、……」

 

 

海の傷痕:此方「――――!」

 

 

向こうの世界ではロスト空間という道具がないから不可能ではあるものの、このロスト空間にいるならば、想の全ての力は相殺可能だ。

 


感覚で分かる。


 

ロスト空間は、元来の人に備わった力に満ち溢れている。

 

 

この世界ではこの身心1つでなんだって出来る。それが想に質量を乗せる原始的な力にして、海の傷痕はその力を応用しているに過ぎない。

 

 

要は創作過程を短縮する世界だ。

 

 

想い描く。

 


なにをエンジンにしてもいい。鉛筆1つで人を感動させる絵を、物語を、人間は作り出せる。命のないモノに命を吹き込む。命のないモノに命を吹き込まれる。まるで妖精にでもなったような気分になるアトリエ空間だ。


 

このロスト空間で、 

想い描く。

 

 

そうして海の傷痕は、この『艦隊これくしょん』に命を与えた。あの頃の歴史をエンジンにして、製作したのだ。

 

 

それはきっと神様なんかじゃなくても出来る。人間から産まれ落ちたあなたに出来るなら、人間が出来ないはずがないんだ。

 

 

「普段は微のくせに、最大瞬間風速で廃の最高領域まで来る……」

 

 

海の傷痕は、人間がいずれ辿り着く通過点に過ぎないのだから。海の傷痕の想の力は人間が持つものだから。

 

 

だから、あなたは提督に敗けを認めることになったんだ。

 

 

命中し、被弾して。

 

 

海の傷痕:此方「楽しい程に忌々しい。この生きるか死ぬかの殺し合いをよしとする、この本能……」

 

 

海の傷痕:此方「かかってきなさい」

 

 

海の傷痕:此方「みんな死んでしまえ!」

 

 

海の傷痕が吠えた。使える手品の種は同じならば後は素質の勝負だ。負けるはずがない。負ける気もしない。

 

 

あなたは、ずっとここにいたんだから。

 


景色を見ているだけじゃ、強くはなれないよ。鎮守府(闇)には届かない。多くの可能性を持つより、1つの可能性を選び続けてきたこの鎮守府には届かない。

 

 

その海色の適性、なんでも書き込める薄ぺらい真白は、一点に鋭く尖ったら切っ先に破り抜かれて当然だ。その穴の向こうには、皆が望む太陽があると信じて突き抜ける。

 

 

艦載機が、

 

魚雷が、

 

砲が、

 

 

海の傷痕を、追い詰める。

 

 

その証拠に経過程想砲も使わず、再生しないということは妖精工作施設も、弾薬を気にした動きは海色の想も、妨害できている。

 

 

ならば数ではこちらが有利。でも、素質が違う。地力が違う。これがロスト空間の管理をしているか否かの差なのだろう。

 

 

描ける白紙の部分が大きい。可能性を狭めなかった利点といえる。

 

 

それが、

 

 

私達を、追い詰める。

 


砲口を構える。隙あらば撃つ。必ず隙は出来る。陽炎さん金剛さん比叡さん霧島さん青葉さんは、すでに中破、大破だらけだ。

 

 

海の傷痕のあの死地での強さは、神通さんをイメージさせる。あの主張の強さと声の大きさ、繊細な動作は龍驤さんを思い起こした。

 

 

恐らく彼女は――――

 

 

人間になりたくて必死だ。どれくらいの人間をコレクションして、その身に宿せば殺戮本能は消え失せて人間になれるのか。

 


同情はする。

 

 

だけど、それで役割を放棄するだなんて、そんなあまっちょろい訓練は受けて来なかった。

 

 

感謝と敬意を。

 

 

「本官さん、ロスト空間の管理権限をお願いします」

 

 

「いつでも。准将の指示通りにロスト空間は当局が消えるまで、本官が支配しておくのであります」

 

 

本官さんの表情は読み解けない。想い人の死を望んでいるかのような、決意の色が滲んでいる。

 

 

強く、鉢巻きを締め直した。

 

 

轟音がする。戦艦の砲撃の連撃を受けて、フラリ、と身体がよろけた。皆は次弾の装填をしている。

 

 

 

 

「ここです」

 

 

 

海の傷痕:此方「――――、――――」

 

 

海の傷痕が前のめりに倒れた。身にまとう艤装が、その身体が蛍火のように幻想的な光へと変化していく。

 

 

目標の、撃沈を、消失を、

 

 

確認。

 

 

 

任務、完了。



【8ワ●:見捨てる命】

 

1

 

 

響「あの黒腕は妖精工作施設でいいのかな。さきほどからカーンカーン、と音を立てっぱなしだよ」

 

 

提督「……、……」

 

 

龍驤「どないしたん?」

 

 

提督「こちらの艦隊のあの艤装破壊、経過程想砲の射程距離が伸びたのでしょうか。本気を出してきたのか、それとも……」

 

 

龍驤「なんか響が交戦に入ってからの海の傷痕が無口過ぎへん? 加えてあのトランスの回避集中、隙あらば響から距離を広げてるのはВерныйが驚異やから、でも通るやろ。響が抜錨した時のデータも」

 

 

龍驤「『適性率170%』の未知」

 

 

龍驤「予想を越える一手やったとしてもおかしくあらへんやん。まだ見定めているんとちゃう?」

 


龍驤「またはロマン空間に出向いた特務部隊のはっつん達の影響とか?」

 

 

提督「……希望的に考えるとそれらももちろんですし、可能性としては十分あり得ます。が」

 

 

提督「序盤は確かに『殲滅:メンテナンス』最優先の動きでこちらに進路を取ってました。あそこで乙中将艦隊に好き勝手やらせるよりは、とちゃちゃを入れたのも含めてまあ、最良ではなくとも以後の目的を踏まえると、重課金の神通さんと夕立さんの艤装想を回収出来て効率的ではあります」

 

 

提督「……今の射程ではぷらずまさんの『殲滅:メンテナンス』を妨害していた瑞鳳さん榛名さんを撃沈(仮)に出来るはずですが、あの時はそうしなかった。ひっかかります」

 

 

龍驤「……、……」

 

 

龍驤「海の傷痕本体? それとも艤装に変化が出てきた、という線も……」

 

 

龍驤「現海界した当局の性能は変えられんはずやろ。過去のデータからしてもそのはず。今作戦用になんか弄くって、とか、考えるとキリがないけどさ……」

 

 

提督「……、……」

 

 

提督「………、………」

 

 

提督「…………、…………」ツー

 

 

提督「海の傷痕:此方を産み落とす行程に入っている、のか……?」

 

 

提督「……そう、か」

 

 

提督「そういうこと、か」

 

 

龍驤「え、どゆことなん?」

 

 

提督「結論からいうと『勝っても負けても海の傷痕:此方を生存させるための行程』と思われます」

 

 

提督「中枢棲姫さんの論ですが、此方を壊:バグとして産み落とせば当局が消えて想の力が途絶えても、此方はそれで人間となれます。自分も方法はそれと断定してます」

 

 

龍驤「その方法の方法ってことやな」

 

 

提督「ええ、海の傷痕は反転建造にて此方を産み落とすといったようですが、恐らく我々の艦娘から深海棲艦へ、の認識とは逆です」

 


龍驤「……そこは確かに盲点や。うちらの反転建造といえば今や艦娘から深海棲艦へ、の認識が固定化してる。その更に反転、深海棲艦から艦娘、という意味の反転建造ってことやろ?」


 

提督「そうですね。ですけど、恐らく艦娘から深海棲艦への通常反転建造、も同時進行しているかも」

 


提督「『此方の想を艤装→素体へ&当局の想を素体→艤装へ』」

 

 

提督「その『反転建造』によって」

 

 

提督「海の傷痕:此方は『壊:バグ』として産み落とされます」

 

 

龍驤「待ち。此方を産み落として、当局がなおこちらに居座るならロスト空間を管理するやつがおらんやん」

 

 

龍驤「あ、そうか。管理権限がなくなっても、ロスト空間は即消えるわけやないし」

 

 

提督「艤装は想、つまりロスト空間との接点は保てます。加えてトランスタイプですから、ロスト現象自体が当局をロスト空間に送る手段にもなります。維持は可能です」

 

 

提督「なぜ現海界した当局が『5』のスロット数なのか、も頭の隅にありました。それ以上もあるのかもしれないとも。メンテナンスverそのものが不確定要素なので、ある程度の見当だけをつけて実際はこの戦いで探るしかないとしていましたが」

 

 

提督「これなら納得です。いうなればその数は壊:バグとして産まれる此方は5種の違法改造となります。わるさめさんのケースが事実としてあるように、その数は最もトランス現象を器用に扱える数でもあるから、です」

 

 

提督「響さん」

 

 

提督「『島風の連想砲ちゃん』は」

 

 

提督「『なかば深海棲艦状態であることと、艤装に思考付与能力していることをカモフラージュする目的』があり」

 

 

提督「隠したいのは『すでに艤装に海の傷痕:此方の想をトレースし始めている』ことです」

 

 

提督「響さん、中枢棲姫勢力が直に集結します。そこからは中枢棲姫勢力に合わせて特攻艦として本格的に攻めてもらいますが、こちらから指示を出します。その際は増設にバルジを積んでありますので、中破を目安に多少の無茶も強行も許可します」

 

 

提督「必ずここから逃がさないように、です。はっつんさん達が勝ち、ロスト空間を本官さんが掌握すれば、海の傷痕の全ての装備の供給を止めます。そして、そこの当局を倒して終わり、です」

 

 

提督「これが自分の作戦です」

 

 

響「!」

 

 

響「了解した。またなにかあれば連絡を入れるね」

 

 

提督「……、……」

 


龍驤「どうしたん?」

 

 

提督「これだと、海の傷痕が、」

 

 

提督「これを出来るとなると……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――深海棲艦から、

 

 

 

 

人間へ生まれ変われるので、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中枢棲姫勢力は――――

 

 

 

 

 

 

 

人に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なれる――――


 

 

 

 

 

 

龍驤「――――!」

 

 

龍驤「中枢棲姫勢力に教えてやらんと! おい中枢棲姫、聞こえるか!?」

 

 

中枢棲姫「もうすぐ現場ですので、手短にお願いしたい。ああ、それと」

 

 

中枢棲姫「包囲網の外に手こずっているみたいなので、ネッちゃんを送りました。が、人間の提督は准将にしかなついていません。指示をもらいに値動きがあなたのところに来るかも、です」

 

 

龍驤「いや、そんなことではなくて」

 

 

提督「すみません。なんでもありません。切りますね」

 

 

龍驤「ちょ、キミ」

 

 

提督「龍驤さん」

 


提督「自分のミスです。伝えるべきことではありませんでした。しかし、どうか感情に流されないでください」

 

 

龍驤「任務やろ。中枢棲姫勢力は味方やん!? いうなれば『戦争終結とともに自害する羽目になる』んやで。地獄におった頃の電やろ!」

 

 

龍驤「キミ、そんなあの子を見て助けたいって思ったんちゃうの!?」

 

 

龍驤「それが叶えば理想の形での全員生還が可能になるやん!」

 

 

龍驤「全部を取りに行く戦いやんこれは!」

 

 

龍驤「方法だってあるし! ロスト空間を本官さんが掌握すれば、現実的な策になってくるやろ!?」

 

 

提督「中枢棲姫さんは、ぷらずまさんと同じく廃課金です」

 

 

提督「ぷらずまさんが普通の身体で普通の人間として過ごすことを海の傷痕の打倒よりも優先しましたか?」

 

 

龍驤「そ、それは、」

 

 

提督「戦争終結への想いが強くなったんです。そしてあの子は変わった。みんなと仲良くなれるまでに」

 

 

提督「自分にも、分かります。龍驤さんも中枢棲姫さんの手紙の言葉を抜錨前に聞いたはずです」

 

 

提督「『戦争終結』」

 

 

提督「ぷらずまさん、チューキさん、自分はここから繋がって理解をし合えたのですから」

 

 

提督「残念ながら時既に遅し、なのです。彼等にも作戦があります。今から彼らを助ける行程を組み込むとなると、作戦が一気に瓦解していく恐れが高くなり、海の傷痕につけこまれる隙を与えることにもなりかねません」

 

 

提督「予想外があってなお順調という今を、不意にする訳には行きません。今の自分達は」

 

 

提督「世界の未来を背負っているんです」

 

 

龍驤「……理屈では、納得できた」

 

 

龍驤「けど、けどさあ……!」

 

 

龍驤「対中枢棲姫決戦の時、レ級の心を聞いたよ。あいつら、人みたいに傷ついて人の痛みが分かるやつらだったよ!」


 

龍驤「人間としか思えへんのに、身体がうちらと違うから化物として扱われてる」

 

 

龍驤「そんなの、助けてあげたいやん……!」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネ級「人が理不尽に殺されていく」

 

 

 

ネ級「それが戦争ですよ」

 

 

2

 

 

提督「ネッちゃんさん、どうしてここに……?」

 

 

ネ級「うーん、チューキさんがお前ら手こずっているから、包囲網の外にって。ネッちゃんお前以外の指揮下に入る気ないから指示を仰ぎに」

 

 

ネ級「駆けつけました……! 本体が重いけど、一応は陸にあがれますから……!」

 

 

提督「……聞いて、いましたか?」

 


ネ級「ネッちゃん」

 

 

ネ級「いいこと聞いた」

 

 

ネ級「ネッちゃん達、人間になって、みんな仲良しで暮らせる……!」

 

 

提督「――――っ」

 

 

ネ級「チューキさん、レッちゃん、リコリスママ、スイキ、センキ、ネッちゃんも、わるさめと同じになって」

 

 

ネ級「街で仲良く生きていける!」

 

 

ネ級「仲良し7人家族!」

 

 

ネ級「ネッちゃん達、人間になったらって何度も想像してて……」

 

 

ネ級「それが叶うんだ!」

 

 

ネ級「そんな救いが聞けるなんて、ここに来てよかった……!」

 

 

龍驤「せや、それが叶う未来があるんや。だから……」

 

 

提督「……、……」

 

 

ネ級「なんて、いってみただけ」

 

 

ネ級「二人とも」

 

 

ネ級「そんな顔してくれて」

 

 

ネ級「ありがとう、ございます」

 

 

ネ級「分かる。ネッちゃん達のこと救いたいって、顔してる」 

 

 

ネ級「ありがとう、ございます」

 

 

ネ級「でも大丈夫」

 

 

ネ級「長生きするために、ネッちゃん達は海の傷痕と戦うわけじゃない」

 

 

ネ級「叶うか叶わないかじゃない」

 

 

ネ級「やるかやらないか、っていえる人間は、幸せ。ネッちゃん達にはその選択ですらないから。だって」

 

 

ネ級「やりたくても、やれない。だから」

 

 

ネ級「だから」

 

 

ネ級「そんな未来があったということ」

 

 

ネ級「それだけが、救いです」

 

 

ネ級「ありがとうございます」

 

 

ネ級「生きてて、良かった」

 

 

ネ級「本当に」

 

 

ネ級「最後の最後までありがとう」

 

 

ネ級「大本営での話は、密会の時に鹿島から、聞いた」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――きっと、大本営で

 

 

 

――――ぷらずまも、

 

 

 

――――解体可能だって、

 

 

 

 

 

 

――――あなたに救われた時、

 

 

 

 

 

 

 

 

――――こんな気持ちだったんだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、

 

 

 

 

 


 

 

 

 

涙が、止まらないや――――


 


ネ級「……」ポロポロ

 

 

ネ級「ネッちゃん達も艤装の反転建造で産まれたし、人の想が始まり」

 

 

ネ級「こっち側にいた誰かの想いの結晶です」

 

 

ネ級「だから、温かく伝わります」

 


ネ級「そして、ありがとう、の」

 

 

ネ級「恩返しをさせてください」

 

 

ネ級「提督さん、この亡霊に、死地を命じてください」

 


ネ級「必ず、必ず」

 

 

ネ級「成し遂げますから……!」

 

 

 

 

提督「――――」

 

 

提督「家族のもとへ」

 

 

提督「海の傷痕をその手で」

 

 

提督「沈めにっ……」

 

 

ネ級「了解です!」タタタ

 

 

3



提督「龍驤さん、一発殴ってもらえますか」



龍驤「了解」


バキッ

 

提督「気持ちは同じなはずです、がっ」

 

 

提督「切りっ、替えない、と……!」

 

 

龍驤「……」ポロポロ

 


龍驤「くそ、涙拭わんと」グイッ

 

 

龍驤「完全勝利Sはなくなった」


 

提督「……元帥は、最低でもS勝利、と」

 

 

龍驤「……どうなん」

 

 

提督「これまで300体を越える深海棲艦ですよ。しかも姫鬼交じりの、最初期特性の深海棲艦です」

 

 

提督「それらを相手にいまだ殉職者なし。しかも、ここにきて、この段階で」

 

 

提督「更に巻き返しています」


 

龍驤「感傷に耽る思考回す場合ちゃうやろ。現場からの響の情報に頭を回せや。気持ちは分かるけどなあ、ほんま皆想像以上にやってくれとるよ」

 

 

龍驤「キミはまだ応えられてへんで。みんな、キミを信じて夜通しで持久戦してくれとるんやから」

 

 

提督「……、……」


 

龍驤「中枢棲姫勢力にはなにもいわへんの?」

 

 

提督「……していない訳がないんです」


 

提督「復活させたリコリス棲姫、戦艦棲姫、そして、スパイとして送り込ませた2代目の水母棲姫に」

 

 

提督「ギミックを細工していない訳がない。意地の悪い海の傷痕:当局の性格から考えても、中枢棲姫勢力を殺すのに躊躇いはないです」

 

 

提督「あの方達は深海棲艦だから」

 

 

提督「海の傷痕:当局は彼等に最悪な死に方を用意していると考えています」

 

 

龍驤「……、……」

 

 

龍驤「キミは、もしかして」

 


龍驤「キミの策は――――」

 


提督「それが分からない中枢棲姫さんでもないです。リコリスさんもきっと気付いてる。だから、彼女達の物語にこの機会を組み込みたかった」

 


提督「あわよくば」

 


提督「――――、――――」



龍驤「さっきのネ級の言葉聞いてようそんな死地に送り出せたもんやな……!」

 

 

龍驤「誰の目から見ても明らかな人選ミス。そこはアブーやろ……?」

 


提督「数値的な人選では阿武隈さんか伊勢さんが適任でしょう」

 

 

龍驤「せっかくみんなが奮戦して手に入れてる理想の流れ……あえて、言わせてもらうで」

 

 

龍驤「もしもその『エゴ』で」

 

 

龍驤「誰かが死んだら」

  

 

龍驤「……惨劇に、なる」

 


龍驤「うちだけやない。みんな、」

 

 

提督「全て覚悟の上です」

 

 

提督「龍驤さん、一旦指揮はいいです。船を用意しておいてもらえますか。苺みるくさんも乗せてください」

 

 

龍驤「了解。任せとき」

 

 

提督「電さん、応答してください」

 

 

電「はい」

 

 

提督「今からいうポイントで拠点軍艦の管理をしている鹿島さんの援護を。その場から離れて、被弾はなしの状態で。次の指示があるまで損傷や燃料弾薬をすぐに拠点軍艦にて行ってください」

 

 

電「了解なのです。なにかあればまた通信しますね」

 

 

電「……司令官さん、そろそろ、ですか?」

 

 

提督「ええ、もうそこまで」

 

 

提督「待ち望んだ海を引っ張り寄せています」

 

 

提督「わるさめさん」

 

 

わるさめ「あいあーい」

 

 

提督「海の傷痕:当局撃破作戦開始です。中枢棲姫、響さんに加わってください。指定した海域内から遠く離れるようなことはしていませんか?」

 

 

わるさめ「もちろん。てか通信してるし位置は分かるだろー。別段、なにか仕事を押し付けられたわけでもないから、今から向かうよ」

 

 

わるさめ「で、当初となにか変わったの?」

 

 

提督「はっつんさんがまだ帰投していないので少しシビアなズレが生じてきます」

 

 

提督「航行しながら聞いてくださいね」

 


【9ワ●:想題レッちゃん:中枢棲姫勢力】

 


もうすぐ海の傷痕のところへと行ける。

 

 

ああ、

 

 

思ったより、ここまで来るの、

 

 

すぐだったなあ――――

 

 

2



南方のサーモン海域北方。

レ級が産まれたのも、レッちゃんが産まれたのもそこ。

 

 

いつも通り攻めてくる艦娘を迎え撃ちに行こうとしたに意識のブレーカーが突然、落ちた。


 

次に目覚めた時には、妙に心がクリアになっていた。南太平洋の快晴と同じく清々しい気分だ。

 

 

異常を感じたのは、深海棲艦の時には知らなかったことを、なぜか知っているということだった。イルカもイルカだと分かるし、珊瑚も珊瑚だと分かる。そして艦娘を発見しても、即ブチ殺そうだなんてそこまで憎たらしく思わなかった。

 


加えて深海棲艦の仕組みにもすぐに気が付いた。身体を動かそうとすると、艤装が動いた。ん?



この身体を動かすにはコツがいる。艤装と肉体の目を逆に向けてみて判明した。映している景色は肉体のほうだ。

 

 

五感のメインである肉体が損傷すると、艤装の感覚に移行する。

 

 

最も、五感とはまた違う。第六感的なものだ。なんとなく深海棲艦や艦娘がどこにいるか分かる。今だと答えはある。艦娘の想いの塊である深海棲艦が、その想を感覚として探知出来るから。本当に第六の感覚だったという。

 


周りの姫や鬼と会話は出来たけど、あいつらより遥かに頭が良かった。正確には知識と自制に秀でていた、か。

 

 

なにか、変だ。



前は考えるよりぶっ放していたけど、今はぶっ放つより先に考える。いくつか覚えている隊列も深海棲艦は旗艦に合わせて適当に組むけど、組む隊列の特徴、そしてその有用性も把握出来た。

 

 

深海棲艦だけど、深海棲艦とは違う。

 

 

清々しい青空に、どこまでも広がる海、解放的な気分だ。あの鳥のように翼でも生えたんじゃないだろうか。

 

 

夏の日、レ級0歳。

 

大冒険が始まった。

 

 

3

 

 

提督と艦娘がうざ過ぎる。安全海域増やしたいみたいで、飛行機雲に沿って偵察機が航空していた。

 

 

西方で陣取っている飛行場姫を助けるつもりで、艦娘を追い払ってやった。


 

弱いけど、強い。奇妙な連中だ。性能自体はこちらの足元にも及ばない。なのに拮抗する。深海棲艦は次々と撃沈していくのに、向こうは中破止まり。

 

 

捩じ伏せる力では勝っていても、生き抜く知恵で負けている感じだ。向こうは一人はみんなのために、みんなは一人のためにって、チームプレイしている感じ。


 

深海棲艦とは大違いだ。姫や鬼は取り巻きを道具程度にしか考えていない。使えるか、使えないか、だ。姫や鬼同士で隊列を組んでもそう。

 

 

だから、一人はみんなのせいに。みんなは一人のせいに。それがナチュラルであり、僕もそうだった。低級とか弱すぎて盾くらいにしかならないし、邪魔な時さえある。自分が深海棲艦だと改めて自覚する。



そのせいで大破寄りの中破だよ。

 

 

――――あのレ級、なんか喋ってない? レ級って、あんなに喋ったっけ?

 

 

――――気のせいでしょ。それより早く撤退しないと! レ級となんてやってられないし!

 

 

あ、ヤバい、とそう直感した。この変化のことはバレると面倒になる。そこまですぐに分かるほどに、知能は高くなっていた。

 

 

口を閉じて、撤退する。あまり、艦娘と関わらないほうがいいな。どうでもいいやつらと関わり続けるのも、かったるい。

 

 

そうして西方の海の深くに向かっている途中に、ぷかぷかとただ浮いている貨物船っぽい船を発見した。とりあえず低級の深海棲艦を追い払って、中の様子を探った。

 


4

 

 

人間がいた。たくさんいる。

 

 

この体格的に全員男だろうか。全員、動かない。固そうなベッドの上に四肢をだらんと投げ出していたり、壁に背中を預けていたり、くの字で通路に横たわっている。そこらで砲雷撃戦でもやってきたかのように、身体が欠けていた。

 

 

生きている人間もいた。小さな女の子だった。くちゃくちゃ、と音を立てている。振り向いた。顔が深紅に染まっている。

 

 

死体を食べているのか。

 

 

歯茎に、死肉が挟まっている。

 


お化け!

同時に悲鳴をあけた。

 


その叫び声がすると同時に正面のほうから慌ただしい足音がした。太った男が「どうした!」と女の子を守るように僕の前に立ち塞がった。

 

 

手には小さい砲口。あれは銃かな。銃を握っている。瞬間、銃撃音が鳴り響くが、この身体には傷1つつかない。

 

 

「深海棲艦か……?」

 

 

「そう、深海棲艦。別に危害を加える気はないよ。深海棲艦の海域にどうして人間がいるんだ。しかも、かなり安全航路から外れているところだぞ?」

 


「なあ、この辺りで、どこか、陸地はないか?」

 

 

「質問しているのはこっちな。まず答えなよ。その後で教えてやるよ」

 


小太りの男が笑顔になる。跳び跳ねると、通路が揺れた。船が傾いたかと思った。


 

5

 

 

「海賊……?」

 


どうもこの船は見た目は貨物船だが、人間の船を襲って金目の物を奪っている海賊船というやつらしい。

 

 

嵐の日に追い回されて逃げるのに必死で、こんな奥深くまで来ていたらしい。それで遭難した、と。

 


食物もなくなり、水も少なくなってきて、この船では殺し合いが起きたとか。そして死体を食べているとか。人間は大変だな。

 

 

「近くまで送ってやるから人間のところに帰れよな。船の燃料も持ってきてやるよ。この辺りは深海棲艦だらけで人間が棲める環境じゃないと思うし」

 


「あー、どちらにしろ死ぬな」



「人間にも殺されるのか?」

 

 

「殺される。俺は悪い人間だからな」

 


「海賊なんて、海の屑だからよ」

 

 

「海の屑なんだ。その子は?」

 

 

「襲った船からさらってきた。子供は高く売れる。特に日本人の娘は」

 

 

そんな弱そうなやつに価値があるのか。この子供は超がつくほど弱いくせに群れからはぐれるあのハ級よりも弱そう。この子供に価値があるなんて人間の世界の仕組みはいまいち分からない。

 

 

「この子だけでも人間のところに送ってやってくれねえか」

 

 

「さらってきたのに、返すのか」

 


「もうどうしようもねえ。仲間も死んで、俺はおしまいだ。今更、こいつを売り払って小金を持ったところで、なにも変わらねえや」

 

 

「嫌だね。面倒臭いし」

 

 

「そこをなんとか」

 

 

「嫌だね」

 

 

「じゃあ、俺の命でなんとか」

 

 

「……」

 

 

「面倒臭え。交渉成立ってことで」

 

 

撃鉄音が鳴った。男は脳髄を撒き散らして死に絶えた。

 

 

女の子は亡霊のような目で、横たわる男を見下ろしていた。亡骸の右手から銃を奪い取ると、その男に向かって撃った。

 

 

お父さんの仇、と何度も何度も。

 

 

死んだ人間に無駄弾を使ってどうする。やはりハ級以下の馬鹿なのだろうか。それに、誰かのために自分の命を差し出せる男にも疑問がある。それも面倒臭いとよく分からないことをいって死んだ。人間は本当に解せない。

 

 

なにがどうなって、そうなるんだ。

 

 

頭の中で疑問符だけが、この船のようにぷかぷか浮かんでた。

 


6

 


船から脱出した。周りの深海棲艦が攻撃をし始めている。いちいち相手していたらキリがない。女の子を抱えて海へと出た。


 

「英語、話せるんだね」

 

 

「英語、あれは英語か。そうか」

 

 

「日本語も」

 

 

いちいち答えるのもだるい。それに自分でも知らないし、答えようがなかった。

 

 

黙り込むことにした。攻撃手段にもならないこいつを持っているのもダルく思える。この海に捨ててやろうと思った。

 

 

けど、そうしなかったのは、

 

 

胸に抱えたこの子が温かいからだ。なんでかな。どくんって鼓動がこの子から僕の身体に伝わってる。なんだか、捨てることを躊躇った。

 


この子を抱いていると、周りの深海棲艦が攻撃してきたが、返り討ちにしてやった。女の子が「すごいすごい」とはしゃぐから、いい気分になって、見応えがあるように派手に攻撃した。無駄遣い。なにしてんだろ。


 

陸地につくと、その子を下ろした。散策して泉があった。その子は水を飲んでから、深々とお辞儀をした。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

なんでお礼だ。

 

 

ああ、人間は生きるには飲み食いしなきゃだからか。どういたしまして。

 

 

遊んだ。艤装のせいで陸地では動きがかなり制限される。だるい。虫や植物を見て、不思議そうに首を傾げる。

 

 

どれくらいの時間が経過したかな。食物も集めて来てあげて、女の子と暮らしていた日々だ。

 

 

飲み物も食べ物もあるのに女の子は、元気がなくなっていった。

喋りかける。

 


なんでか喋らなくなった。それでも喋りかける。

 

 

そして段々と立つこともなくなった。それでも喋りかける。返事をくれた。

 

 

「ありが、とう」

 

 

それを最後に起きなくなった。それでも喋りかけてみる。

 

 

温かい鼓動が、止まっていた。

 

 

胸がチクり、とした。

 

 

艦娘が攻めてきた。岸辺にいる僕を艦載機が狙ってくる。降り注いだ艦攻の攻撃に混ぜられた艦爆が、落ちる。

 

 

被弾してしまった。

 

 

女の子が、消し飛んでしまった。

 

 

撤退することにした。やってられない。ここにもういる理由もなかった。そういえば、あの女の子を人間に渡すの忘れていた。あの女の子も、戻りたい、とか1度もいわなかったな。

 

 

なんでだろ。

 


とりあえず尻尾を巻いて撤退することにした。追撃を受けるが、駆逐艦のへたっぴな砲撃だ。その程度なら、逃げ切れる。周りの深海棲艦も沈められてた。飛行場姫もいないから、やられたんだろうな。

 

 

 

後ろから聞こえた艦娘の笑い声。初陣で深海棲艦を、2匹も倒した、とか、それを褒める声も聞こえた。

 

 


 


 

 

 

 



 

笑ってる。

 

 


 

 

 

 

絶対に、許さない。

 

 

 

なんでこんなこと、思うんだろう。

とうとう自分のことすら分からなくなってきた。

 

 

でも、1つだけ理解できたことがあった。

 

 

もう面倒臭い。突撃して死んでやろうかなって思ったんだ。

 

 

自殺したあの男の気持ちが分かった。

 

 

7

 

 

リコリスママとネッちゃんに会ったのはその翌日だ。

 

 

ネ級とリコリス棲姫が僕の前に立ち塞がった。力を貸せー、とかかな。

 


喋りかけられた内容にびっくりした。深海棲艦なのに、僕と同じような思考回路を持っていたからだ。

 

 

リコリス棲姫「飛行場姫から食料とか集めてるおかしなレ級の話を聞いたから、もしかしてと思ったけれど」

 

 

ネ級「ネッちゃん達と同じ!」

 


レ級「……なにが起きてる? なんで急に変な風になったんだ?」

 

 

ネ級「ネッちゃん達にもよく分からない。それよりお前、低級の深海棲艦を利用して人間の船を襲いすぎ。敵の戦力が西方に結集しかけてる……」

 

 

リコリス棲姫「とりあえず話が出来る場所まで案内するから着いて来なさいな。あなたが襲った輸送船の残骸から色々とこの海の知識も手に入れたし。そのお礼に状況を教えてあげる」

 

 

警戒をしつつ、二人の後についていく。

 

 

8

 

 

まず変な風になった時からこれまでのことを全て話した。

 

 

どうもあの女の子が死んだのは、病気のせいらしい。「断定は出来ないけど、症状は本にあったわね。多分、人の肉を食べ漁っていたからではないかしら」といった。そうなのか。人は人を食べると病気になるのか。

 

 

「最後の『ありがとう』はなに?」

 

 

「そのままの感謝の言葉よ。あなたに感謝していたんだと思う」

  


「……うーん」

 

 

「どくんって鼓動が温かくてその子を捨てなかった気持ちは、私も分かるわね。ネッちゃんに置き換えれば理解に容易いわ」

 

 

そういって、抱き締められた。あれ、不思議だ。この深海棲艦の身体はあの子みたいに温かい。心地が良かった。

 

 

リコリス棲姫「とりあえず、私達の異変がバレると不味いのは分かるわね。一緒にいて欲しいのだけど……」

 

 

リコリス棲姫「どうする?」



「じゃあ、一緒にいよっかな。どうせ行くあてもないし、同じ境遇のやつと一緒にいたほうがいい。もっといえば周りの深海棲艦は馬鹿すぎるし、お前らのほうがマシそうだから」



ネ級「じゃあ、レッちゃん! レ級だからレッちゃんです……!」

 

 

ネ級「こちらはママ、おっぱいが母性的、そして包容力があり、色々と優しく教えてくれる。だから、リコリスママです……!」

 

 

別に呼び方や呼ばれ方なんてどうでもいい。ただこいつは賢くなさそうだ。

 


へっ、仲良くはなれそうにないな。

 

 

 

 

 

そんな風に思っていた時期が僕にもありました。

 

 

9

 

 

ネッちゃんが案内してくれたのは木を積み上げて作られている小さな小屋だった。すごい、木で家を作る発想に痺れた。


 

ネ級「ネッちゃんの自信作の秘密基地です……!」

 

 

ネ級「入ってもいいですよ……腰を抜かすことなかれ……」

 

 

中にはサイドボードとか、家財があった。家具箱の中を開けると、綺麗なコインがあった。ドラム缶の中の植物は綺麗な花を咲かせている。

 

 

「まるで家だ……!」

 

 

仲良くなるのにそう大層な理由なんて、必要ないようだった。その秘密基地のなかでネッちゃんと夜通しで語りあっていたら、分かり合えた。

 

 

ある日、リコリスママが将棋とかいうものを持ってきた。ルールも教えてくれたので遊んでみたが、ネッちゃんには勝てるけど、リコリスママには1度も勝てなかった。悔しい。

 

 

「でも、すごいわね。やっぱり知能は人間といっても問題ないわね」

 

 

「僕が人間だったら、一回も勝てないリコリスママは神かなんかかよ!」

 

 

「あら、その名で読んでくれるのよね。まあ、私はこの遊びの戦術本を読んだからじゃないかしら」

 

 

はいこれ、と差し出された本を開くが、意味がよく分からない。どうやらこのリコリスママは頭がかなりいいらしい。


 

ネッちゃんと僕が連日に遊び呆けているなか、リコリスママは毎日のように書物を読み漁り、海へと出ていく。

 

 

ネッちゃんと僕は二人で海に出た。遠くで大きな生き物が、潮を吹いた。潜水艦みたいに大きな生き物だった。鯨、という生き物だったかな。近くで見ようと追いかけて遠くまで行った。

 


その時にチューキさん達と出会った。

 

 

10


 

中枢棲姫「……輸送船を襲っているのはあなた達でしょうか。狙いは知りませんが、丙の将に目をつけられたので、自重して頂きたいのです」

 

 

ネ級「レッちゃん! この人達もネッちゃん達と同じ……!」

 

 

水母棲姫と戦艦棲姫も連れていた。攻撃しないで近寄ってくるし、なんとなく表情で察してはいた。今更、驚きはしない。ネッちゃんとママにも会ったんだ。他にもいてもおかしくない。

 

 

ネッちゃんが喋ると、中枢棲姫が怖い顔をした。ネッちゃんやリコリスママとは違う。明確な殺意があった。

 

 

「中枢棲姫、殺しとくべきね」戦艦棲姫がいう。

 

 

「あー、そうねえ」水母棲姫が同調する。「このレベルの知能じゃ、こいつらから私達のことまで向こうにバレそう」

 


中枢棲姫「ええ、そうですね。この人達は慎重さに欠けます。下手すればこちらの足もつきます。対深海棲艦海軍よりも早く発見できて良かった」

 

 

レ級「ネッちゃん、やるか」

 

 

ネ級「頭脳ゲームに明け暮れたネッちゃん達の連携、思い知るといいです」

 

 

戦闘が始まった。水母棲姫と戦艦棲姫もかなり強かったけど、ネッちゃんと協力して大破まで追い込めた。

 

 

けど、中枢棲姫は別格だった。

 

 

深海魚雷が、飛び魚艦爆が、無効化さる。中枢棲姫という深海棲艦自体初めて見たが、とてつもなく強い。深海棲艦の中で最強じゃないのかこいつ。敗北が頭を過る。

 

 

「これは、死、死ぬ……」

 

 

そこで助っ人が登場した。姿を現したのは、リコリスママだった。いつもの笑顔は消えていて、怖い顔をしていた。

 

 

中枢棲姫と話しを始める。


 

リコリス棲姫「あら、貨物船を襲ったのはそうねえ、通信設備の情報を得るためね。情報の伝達は欲しい技術だし。でも、こっちだってあなた達にいいたいことがあるのよ」

 

 

リコリス棲姫「艦娘と交戦したでしょ。その時にそっちのことがバレたんじゃないかしら。駆逐艦電と、フレデリカ大佐」

 

 

リコリス棲姫「仲良くしていらっしゃるようで」

 

 

中枢棲姫「『深海棲艦艤装を展開できるトランス現象』は非常に興味深いのです」

 

 

リコリス棲姫「深海の妖精の仕業でしょうね。深海棲艦と艦娘を繋ぐ妖精。あなたにも見える?」

 

 

中枢棲姫「……素晴らしいですね」

 


中枢棲姫「その先にはお気づきですか。断定は出来ずとも、なにかの影があるとは思いませんか」

 

 

リコリス棲姫「……」

 

 

中枢棲姫「手を組みませんか? 同じ境遇の者同士、群れを成して、隊列を組みましょう。効率的になります」

 

 

リコリス棲姫「どっちの群れが上になるのかしら」

 

 

中枢棲姫「そうですね、勝利したほうでどうでしょう? 我々はしょせん深海棲艦にカテゴライズされます。話し合いでは納得出来ない部分もありますし」

 

 

ネッちゃんがリコリスママのほうを見ながらビクビクしている。

 

 

中枢棲姫「まあ、私とあなたの一騎打ちとなりますか……」

 

 

砲を構えた中枢棲姫の顔面が殴り飛ばされた。リコリスママが容赦なく、先手を打ったのだ。拳で来るとは思わなかったのだろう。中枢棲姫は困惑しているのか、次の動作が遅れた。

 

 

リコリス棲姫「中枢棲姫みたいな規格外の深海棲艦がさあ……」

 

 

リコリス棲姫「うちの子達を虐めてんじゃないわよ」

 

 

至近距離の攻防が始まった。中枢棲姫は艤装による攻撃は強かったけど、殴り合いは不得意のようだった。

 

 

リコリスママはケンカが強い。容赦がなかった。舌をつまんで、引っ張りあげると、上を向いた顔に向かって、拳を叩き落とした。 容赦がなかった。中枢棲姫はひたすらボコボコにされている。顔がアンパンみたいだ。

 

 

中枢棲姫「……く」

 

 

リコリス棲姫「あらー、その顔、深海の妖精で色々と弄くってるみたいねえ。感覚を強化するから、恐怖だって生まれる。壊-現象ギミックは発動させないわ。絶妙な加減で肉のほうを壊さなきゃね」

 

 

ネ級・水母棲姫「ひいっ」

 

 

ネッちゃんと水母棲姫がお互いを抱き締めあって、怯えた声をあげた。同じく僕は戦艦棲姫と抱き合いながら、怯えている。

 


中枢棲姫「あ、もう無理、無理です。か、勘弁してください――――」

 

 

決着した。今では中枢棲姫勢力と言われているけど、この勢力の本当のボスはリコリスママのほうだ。だって今でもリコリスママの一睨みで、チューキさんは汗をかく。誰も逆らえない。

 

 

この家族の最強はママ。

誰からも異議は出なかった。

 


11



中枢棲姫達と仲良くなるのにもそう時間はかからなかった。このメンバーさえいれば怖いものなんてなかったからだ。中枢棲姫とリコリスママも馬は合うようで二人でなにかを話していた。

 

 

どうやら組織として行動することなったらしい。お互いの持つ情報を交換して目的も見つけた、とか。

 

 

深海棲艦と艦娘を故意的に戦争させているやつがいるらしい。「なんだそれ、根拠はあるの?」

 

 

リコリス棲姫「中枢棲姫と私にしか見えないと思うけど、私の足元に妖精がいるのよ。新種の妖精で、艦娘を資材に深海棲艦を作る子ね。ここらは実演してあげるけど、その前に」

 

 

中枢棲姫「深海妖精との意思疏通により、様々な強化が可能です。そしてその1つに『タイプトランス』という深海棲艦艤装を展開できる艦娘が造れます。そうですね、これは追々で」

 


ネ級「そういえば、向こう側となんかやり取りしてるとかいってましたが……?」 

 

 

中枢棲姫「はい。非人道的な研究をしている提督の鎮守府と、情報交換を。色々と貸しがあり、今はまだ好意的に思われているはずです」

 

 

中枢棲姫「とりあえず我々の身体の強化実験と、立場を対等にしておくため」

 

 

中枢棲姫「現物であるタイプトランスを抑えます」

 

 

リコリス棲姫「ということになったから協力よろしくねー」

 

 

その夜に、会議が行われた。正直、どうでも良かったから乗り気じゃなかった。別にそいつを見つけてどうするっていうんだ。

 

 

レ級「艦娘は殺していいの?」

 

 

中枢棲姫「構いません」

 

 

どこか機械的なやつだ。でも機械的だからこそ、頭も回るのだろう。

 

 

レ級「なら、殺そう。少しムカつくんだ。僕の初めての友達の死体を木っ端微塵にしやがったからな」

 

 

中枢棲姫「友達? リコリス、もう一人メンバーがいたのですか?」

 

 

リコリス棲姫「ああ、レッちゃんは私達のところに来る前に、人間の女の子を拾ったみたいなのよね」

 

 

レ級「そいつにご飯あげてたけど、病気で死んじゃったんだ。その時に攻めてきた艦娘の艦載機で、死体は木っ端微塵になった。その島を出てネッちゃんとリコリスママと出会った」

 

 

中枢棲姫「……そう、ですか」

 

 

レ級「そうだ。その前に海賊の男に出会ったんだけどさ、海賊は海の屑だって自虐してたけど、そうなの?」

 

 

中枢棲姫「まあ、海賊は罪のない人間を襲って金品を奪いますから」

 

 

レ級「罪のない人間を襲うと屑になるの?」

 

 

中枢棲姫「ええ、まあ……」

 

 

レ級「深海棲艦を襲うのは屑じゃないの?」

 

 

リコリス棲姫「そうねえ、私達は化物で人間の脅威だからね。一緒に生きていくことは難しいわ」

 

 

ネ級「ネッちゃんも罪のない艦娘、殺したことある。あの頃、艦娘だからって理由で、たくさん傷付けた」

 

 

レ級「じゃあ、僕らも海の屑だね」

  

 

ネ級「懺悔と開き直りを込めて、艦隊名、それでいいと思います……」

 

 

レ級「海の屑艦隊……いや、海屑艦隊のほうが短いし、いいやすい」

  

 

中枢棲姫「お好きに。艦隊名なんて必要もないですし、何でもいいです」

 

 

水母棲姫「つーか、作戦は私がこのガキ二人のお守りしなきゃならないわけ?」

 

 

ネ級「ガキじゃないですけど? とってもクレバーなネッちゃんですが」

 

 

レ級「まー、仕事は真面目にやるさ」


 

ネ級「というか、個体名だと紛らわしいからそっちにも名前もつけよう」

 

 

ネ級「チューキちゃん、スイキちゃん、センキちゃんで」

 

 

中枢棲姫「名前をつけるのは賛成ですが、ちゃん付けは勘弁してください」

 

 

水母棲姫「そうねえ。私は別に呼び捨てでいいけど、まあ、好きにしたら。センキはセンキね。ちゃん、とか、さん、とか似合わないし」

 

 

戦艦棲姫「どうでもいいわよ。そこのチビどもの好きな風に呼べばいいじゃないの。ねえ、リコリスはママだっけ?」

 


リコリス棲姫「あなたもママって呼ぶのね。甘えたいの? 構わないけど」


 

戦艦棲姫「ちょっとなにいってるか分かんない。リコリスって呼ぶから」

 


リコリス棲姫「こほん」

 

 

リコリス棲姫「後、さらうタイプトランスの子と仲良くしてもいいけど、深海妖精のことを絶対に教えないこと」

 

 

リコリス棲姫「ここを破れば私はきっとチューキがネッちゃんレッちゃんを虐めていた時みたいに怒ってしまうわ」

 

 

一同「了解しました」

 

 

センキとチューキさんは、この辺りの深海棲艦をまとめて勢力を作り出した。そしてリコリスママは、通信設備がどうのこうの、とまたなにかの本を読んでいた。

 

 

スイキとネッちゃんと僕は、例の作戦を遂行し、無事、タイプトランスの鹵獲に成功して帰投した。鹿島のあの顔に、少し罪悪感を抱きながらだ。ネッちゃんも言葉が少なくなっている。スイキだけはいつも通り。

 

 

水母棲姫「私達の仲間だって散々やられているし、なにを今更。あんたらもシャキッとしなさいよ」

 

 

水母棲姫「海の屑でしょうが」

 

 

なるほど、確かにそうだ。あの海賊のように女の子をさらった。同じだ。僕ら深海棲艦は産まれながらの海の屑。

 

 

捕獲してきたタイプトランスとかいうやつがこれまた海の屑みたいなやつだった。

 

 

わるさめ「あー、うー、わるさめちゃん殺されちゃいますかー?」


 

わるさめ「なるべく一思いに」

 

 

わるさめ「よろりん☆」

 

 

そういってウィンクした。

なんだこの生き物。

 

 

レ級「お前の仲間をやったのに、僕らに怒らないの?」

 

 

わるさめ「びっくりした。こんな人間臭い深海棲艦もいるんだ……」

 

 

わるさめ「なら、こういおう。こっちだって深海棲艦殺してる。むしろそっちより多く殺してる。だから、もう誰が死のうと仕方ないんじゃないの」

 

 

わるさめ「それが、戦争だろ」

 

 

リコリス棲姫「なんだか悲しい眼をしているわね。なにか辛いことでもあった?」

 

 

わるさめ「え、わるさめちゃん達にしたこと忘れた? 認知症かな?」

 

 

リコリス棲姫「あなたさっきいったわ。『こっちだって深海棲艦殺してる。むしろそっちより多く殺してる。だから、もう誰が死のうと仕方ないんじゃないの』って悟った風にね。いや、投げやりな感じ、ね。それ以外にもありそう。あなたの言葉とか雰囲気はそうねえ、初めて会った時のレッちゃんと似てる」

 

 

わるさめ「……あー、戦争に参加する意味なくなっちったから。鹿島っち一人でも生かせられたのなら、わるさめちゃん、もう死んでもいいや」

 

 

わるさめ「で、あんたら何なの?」

 

 

ネ級「よくぞ聞いてくれました」

 

 

ネ級「ネッちゃん、レッちゃん、リコリスママ、センキ、スイキ、チューキさんの最強深海棲艦勢力」

 

 

ネ級「海屑艦隊、です……!」

 

 

わるさめ「●ω●」ホウ

 

 

レ級「!」ゾクッ

 

 

わるさめ「最強の深海棲艦か。そんなの一人艦娘深海棲艦連合艦隊のわるさめちゃんを倒してから名乗ってもらおうか」

 

 

わるさめ「やることねえし、死んだ皆の仇でも取ってやらー」

 

 

わるさめ「トラ☆ンス」

 

 

まあ、強かった。

 

 

リコリス棲姫「愛の鞭だからねー」

 

 

けど、みんなで倒した。主にリコリスママが、ボコボコにして再起不能にしてた。

 

 

わるさめ「ちょ、リコリスママ強くない……艤装とか要らなくない?」

 

 

ネ級「そこに気付くとは」

 

 

水母棲姫「止めときなさい。リコリスはうちの最強だから。中枢棲姫が勘弁してください、と半泣きするレベル」

 

 

なんだかんだいって、少しずつ仲良くなった。わるさめは他の艦娘と違って、僕らとも仲良くしてくれている。ただ捕虜なので、海に出たりはさせないし、監視も厳しい。

 

 

ネッちゃんとわるさめと僕の3人で、たくさん遊ぶようになった。うっとうしいやつだけど、一緒にいると面白いし、僕らの知らない街のことも話してくれて、新鮮だった。

 

 

だから、リコリスママからいいつけられていた深海妖精の情報をうっかり漏らさないようにするのは大変だった。

 

 

わるさめは僕らとは違うってことも、段々と分かってきた。この子の心は向こう側にある。時折、悲しそうな顔をするんだ。寝ている時に魘されてたり、「お母さん」と泣いたりしていたから。

 

 

でも、みんな思ってたはずだ。

 

 

 

七人目の家族だって。

 

 

タイプトランスは、向こう側とこちら側を繋ぐ希望のように思えた。

 

 

深海棲艦でも、いつの間にか、人間の心を持ってた。友達や家族に、その両方に当てはまる皆がいたから。


 

今だからこそ分かる。

僕らが得てきたモノ全ては、海の傷痕から与えられた時限式の幸福だ。海の傷痕は、勝手に与えておいて、勝手に奪おうとしているとんでもない輩だ。

 


僕らは深海棲艦だけど、人間の心を持っている。 対深海棲艦海軍はさ、きっとそこまでは知っているだろう。だけど、そこから先は知らない。

 

 

人間として生きようとした理由は、個々によって違うんだ。

 

 

 

チューキさんやリコリスママは人間として生きた証を残すため。これは皆のためにもなることで、家族という組織のヘッドらしい目的といえた。

 

 

今のスイキは色々と複雑だけど、どっちサイドのためにもなるからっていってた。何だかんだいってスイキは優しいところがあるからな。

 

 

センキは一番、深海棲艦っぽいな。ただ単に裏で糸引いてるやつがいるのなら、ムカつくから殺したいんだと。ネチネチしてるところもあるけど、その心の奥底は割とシンプルなやつだ。

 

 

わるさめはやっぱり違う。あいつはこの先も生きていく。この戦争が終わった後も生きていく。僕らにはそれがない。僕らは未来がない過去の亡霊だ。


 

僕とネッちゃんの場合、海の傷痕を倒したいのは、そうすることで皆がよりすごい家族になるからだ。

 

 

その家族には向こう側にいるやつらも含んでる。深海棲艦である僕らが、向こう側に認められるには、海の傷痕を消すことに貢献することだ。

 

 

その時、生き残った彼等はこういうだろう。深海棲艦である僕らのことを、わるさめやぷらずまも、認めてくれる。絶対に認めてくれる。

 

 

だって、僕らの組織は握手を交わせたんだから。その先にだってなれる。

 

 

あわよくば、この戦いで最高に僕らは活躍してその勇姿を刻み付けたいな。もしも、生き残った彼等が、また誰かに負けそうになった時、

 

 

僕らも思い出したらガンバれる。そんな思い出っていう燃料として生きることが出来たのなら是非もないよ。

 

 

そんな未来を、図々しくも思い描いてる。

 

 

夏のあの日から始まった僕の大冒険は、しっかりと宝箱が用意されてたんだろうな。

 

 

その宝箱までの燃料も羅針盤も、あの海賊船の中で出会った女の子が、最後に僕にくれた。

 

 

誰かを好きになる心だ。

 

 

あの子がいたら僕は自然とお礼をいいそうだ。そしてあの子はあの時の僕みたいに首を傾げるだろう。当然だ。僕にだって理解し切れない。

 

 

難解だね、心ってやつはさ。

 

 

【10ワ●:特攻】

 

1

 

海の傷痕を見つけた。それと、あの艦載機は直感的に分かる。リコリスママだ。そしてセンキの姿もある。

 

 

スイキもいるが、二人のことは差して気にしていないかのようだ。ただ必死に戦っている。

 

 

今更、驚くこともなかった。甦った二人に罪はない。だって、どう考えてもあの二人を現海界させたのは海の傷痕だ。二人は、また玩ばれたのだろう。

 

 

動揺などしないが、燃え盛る怒りの炎に油を注がれたかのようだ。

 

 

理性でその怒りも制御できる。その油はより艤装を精密に操作する潤滑油と出来る。頭はクールだ。

 

 

海の傷痕は僕に気付いた様子はない。僕らの想は探知できないのか、それとも、わざと気付いていない振りをしているのか。いずれにしろ、確かめれば分かることだ。 

 

 

近距離まで近付いて、飛び魚艦爆を発艦させながら、更に距離を詰めた。もうすぐ至近距離になる、というところで、海の傷痕が僕が後ろについていたことに気が付いたようだ。

 


海の傷痕:当局【おはようございます】



レ級「……よくも」

 

 

長い本体を蛇のように海の傷痕の身体にまとわりつかせる。高速深海魚雷の発射準備は完了している。

 


レ級「弄んでくれたな」

 

 

レ級「せめて、死んでくれ」

 

 

そのにやけた顔面に高速深海魚雷を、撃ち込んだ。


 

自爆距離だが、構わない。確実に当たればそれでいい。すぐに朽ちるこの身を案じてどうなるという。

 

 

海の傷痕:当局【ふむ】

 

 

レ級「!」

 

ドンドン


レ級「砲撃は効いて、飛び魚と魚雷が無効化……」

 

 

レ級「お前今、深海棲艦か……?」

 

 

海の傷痕:当局【貴女達と似たような状態であるな】

 

 

海の傷痕:当局【いやはや、艤装が本体などと不便なものである】

 

 

艤装から黒い腕が伸びて、開発音を立て始めた。その黒い掌が握っていたのは、肉だ。自爆して弾けとんだ僕の肉を使って、再生を始めている。

 

 

海の傷痕:当局【貴女達のために用意したモノもちゃんとある】

 

 

海の傷痕:当局【E-5】

 

 

海の傷痕:当局【余裕がなくなってきたので、中枢棲姫以外は構っていられん】

 

 

海の傷痕:当局【貴女達の終わりは呆気ないくらい、肩透かしとなるが、怨まないでくれたまえよ】

 

 

海の傷痕:当局【ここで貴女達の旅路は終わりだ。永遠をくれてやる】

 

 

海の傷痕:当局【海の傷痕に還りたまえ】



2

 

 

リコリス棲姫「……、……」

 


リコリス棲姫(……史実砲は効かないわよね。そして経過程想砲は使ってこない。スイキを送りつけるだなんてややこしい方法も納得。どうやら私達は『完全に探知できないバグ』なのか。その説明も、出来るわね)

 

 

リコリス棲姫(……私達の想はあくまで海の傷痕の査定で、正確には量れてはいない、のか)

 

 

リコリス棲姫(艦爆と雷が効かない上に、頭が吹き飛んでも死なないのはトランスタイプではなくて深海棲艦で)

 

 

リコリス棲姫(……海の傷痕:此方を現海界させる準備で、恐らくそれをさせたら)

 

 

リコリス棲姫(メンテナンスverの制限が解けて、最悪な流れになりそう)

 

 

リコリス棲姫「響ちゃん、今のこの戦いの結末、予想できる?」

 

 

響「司令官は初霜さん達が帰ってきて、この海の傷痕:当局を倒せば終わりだと」

 

 

リコリス棲姫(……ふぅん、それじゃチューキからの置き手紙と齟齬があるわねえ)

 

 

リコリス棲姫「……、……」

 

 

リコリス棲姫(あー、なるほどね)

 

 

リコリス棲姫(……響ちゃん達の提督)

 

 

リコリス棲姫(“サイコロの目を3まで減らしてる”)

 

 

リコリス棲姫(……提督の限界よね。ここから先は直接戦う私達が残る“2まで減らす役割”ね)

 

 

リコリス棲姫「私はちょっとレッちゃん助けてくる。響ちゃんは私から離れていなさい。念のためにスイキとセンキにも近寄ってダメよ?」

 

 

響「説明を要求する」

 

 

リコリス棲姫「スパイのスイキと、海の傷痕が復活させた私とセンキには、どうも艤装に細工がされていたみたいなのよ」

 

 

リコリス棲姫「『E-5』が宣言された時から」

 

 

リコリス棲姫「酷い頭痛がするわ」

 

 

リコリス棲姫「そうね、これ多分ただの深海棲艦に戻ってる」

 

 

響「!」

 

 

響「レッちゃんさんの他に、スイキさんとセンキさんがやけに前に出ていると思ってたけど」

 

 

リコリス棲姫「あんまり長くは持たないと思う。スイキとセンキも気付いている風ね」

 

 

リコリス棲姫「それじゃ全機飛ばしておくわね。前にも出過ぎちゃダメよ」

 

 

響「飛び魚も舞ってる危険地帯に飛び込むことなんてしないよ」

 

 

3

 

海の傷痕:当局(バグなしならば、この海で完全に探知できないのは、響改二艤装と今を生きる人間)



海の傷痕:当局(……ロスト空間に此方がいない今ならば仕官妖精もか……)



海の傷痕:当局(手を加えていないレ級ネ級中枢棲姫は電や春雨とは違って至近距離でも完全に探知出来ない……)

 

 

海の傷痕:当局(もはや思考機能付与能力によって深海棲艦でも艦娘でもない新たな生命体、だな)

 

 

海の傷痕:当局(しかし、この戦争ルールの輪にいる以上はやりようがある。メンテナンスverの最後の仕事を)

 

 

海の傷痕:当局(ケラケラ、まさか当初は飼い犬の首輪を外したら噛みついてくるとは思わなかったな)

 

 

海の傷痕:当局【さて、ネッちゃん】

 

 

ネ級「その名を呼ばないで欲しい」

 

 

海の傷痕:当局【ケラケラ、産みの親はの反抗期かな。ネ級】

 

 

ネ級「しかし、よくネッちゃんのほうに自分から来てくれた。受けて立つ……!」ジャキン

 

 

海の傷痕:当局【避けんから撃ってこい】

 

 

4


 

ネ級「魚雷と砲撃と、艦載機!」

 

 

ネ級「そんなの、当たりません」

 

 

海の傷痕【回避と運が高いな。プレイヤーの皆様にこのような敵を量産型として産み落としたことを深く詫びたいくらいにうざったい】

 


ネ級「8inch三連装砲&8inch三連装砲!」

 

ドンドンドン


ネ級(……当てられない。装甲耐久もそうだけど、みんなの集中砲火を上手くさばいてる)

 

 

ネ級(あの変な航行術は確か秋津洲とか明石君のパクリ、で、あの妖精工作施設の黒い腕が、艦載機も砲弾も叩き落として受けとめて……)



海の傷痕:当局【仕組みは深海棲艦verではあるが、卯月の真似も出来る】

 

 

ネ級「魚雷を跳んで避けられるの……」ジャキン

 

 

ドンドン!

 

 

海の傷痕:当局【キャッチ&リリース!】

 

 

ネ級「!」

 

ドオン!

 

ネ級(被弾……黒腕が砲弾つかんで、投げ返してきた……無茶苦茶な性能……)

 

 

ネ級「きっも……」



海の傷痕:当局【つかま、】

 

 

ネ級「!」

 


海の傷痕:当局【えた!】

 

 

海の傷痕:当局【メンテナンス開始である】

 

 

ネ級「……?」ジャキン

 

ドンドンドン!

 

ネ級「……、……!」

 

 

ネ級「グ……」

 

 

 

【11ワ●:想題:リコリスママ】



ネッちゃんとかレッちゃんとか電ちゃんとかわるさめに限らず、チューキ達や、提督もそうよ。



愛とか絆とか、ナニカに一生懸命よね。



私は深海棲艦だから分かるわ。その想いが純粋なんだって。



子供みたいにね。



純粋同士だから争うのかもね。深海棲艦の時はそんなことに思考を割くこともなかったし、そういう風に思考したら、言葉にもしたくなくなった。



深海棲艦だもの。ただ誰かを傷つけるための身体だもの。ただ誰かを傷つけた痛みを声に出すのも、ね。



私には、記憶がある。多分、私の艤装のベースは空母、じゃないかな、とは思う。私がリコリス棲姫として生きた日々ではない記憶が、色濃く甦る。



曖昧なところはあるけれど。



そう広くもない家のなかで、旦那さんが帰ってこなくなって、たった一人の娘が、この戦争で死んでしまうの。



海辺の近くの家で、その家の近くに墓地があった。そこに旦那さんと、娘は眠ってる。



だから一人で暮らすことになったのよね。毎日、お仕事をガンバって、そして、幸せか不幸か、運命はその人を艦の兵士に選んだ。妖精可視の才も、あったみたいね。



戦いに明け暮れて、終わりの見えない殺し合いに嫌気が差して、妖精に自ら解体を頼んで、戦いの輪から卒業した。その人は頭がかなり良かった。



自分が精神的に異常が出たのをきっかけに行動に出た。自分を艤装の後釜を見つけていた。



海軍からの催促はおとがめがあっても、どうとでもなったんじゃないかしら。予想なのよね、ここから記憶が飛ぶもの。恐らく適性者が変わったから。



新しい適性者は、その人に教えをもらっていた。母と子みたいに仲が睦まじい。その子のその想いも、強く艤装に残ってる。



戦いに明け暮れたとある日に、その子の艦隊は壊滅的な打撃を受けて、フラフラと流れ着いたその先が、



あの人の家の近くの海辺だ。家に向かうその途中、正面にあった墓地を通った。その時に、お歳を召したあの人の姿があった。フラフラとそこまで向かう。



なぜ、そこで死んでたのかは分からない。けど、冷たくなっていたのよね。水荒れしてた手はきっとお仕事をガンバっていたからでしょうね。



旦那さんと娘さんが眠る墓に、寄り添うように頭を預けていた。ここが本当に私に刻まれた一番の強い想いだと思う。



人間って、あんなに安らかで幸せそうな顔をして死ねるものなのね。



その子はすぐに海に出た。なんでかは、追っての深海棲艦が来ていたことに気付いたからかな。その子は戦う。背中の景色を守ろうと戦う。



そこで、記憶は終わり。

きっと、ここまで思い出しているのはスイキと私だけでしょうね。スイキは例外かしら。チューキは最初期の深海棲艦で、始まりから深海棲艦だし。



最期が笑って逝けるって、幸せよね。そんな私の根源だから、なんだか、心はずうっと温かいのよね。



ネッちゃんとかレッちゃんとか電ちゃんとかわるさめに限らず、チューキ達や、提督もそうよ。



愛とか絆とか、ナニカに一生懸命よね。



私は深海棲艦だから分かるわ。その想いが純粋なんだって。



子供みたいにね。



純粋同士だから争うのかもね。深海棲艦の時はそんなことに思考を割くこともなかったし、そういう風に思考したら、言葉にもしたくなくなった。



深海棲艦だもの。ただ誰かを傷つけるための身体だもの。ただ誰かを傷つけた痛みを声に出すのも、ね。



慈愛、かしらね。



母性っていうの、これ。



何でもいいけれど、この身に異常が起きてからは、眼に映る全ての命が愛しく尊く思えるわ。



だけど、戦争の中で生きるしかない私には、全部を守るだなんて無理だと分かっている。



だから、せめて、家族くらいは幸せにしてあげたいじゃない。末長くは、難しくても、短く太くなら、深海棲艦でも。



だから私は向こうサイドのことを調べて、劣っている点を徹底的に導き出した。



絞り込んだのは信頼関係と、知略、そして知略の伝達だ。知略の冴えを、信頼関係が、油を差して滑らかにさせる。そしてその両方を支えるのは、通信という伝達システム。



知略はなんとかなる。そして今の異常があればきっと信頼関係もね。ならばシステムさえ構築出来たのならば、



大和だろうと、敗けない。



もともと性能では圧倒している。異常で絶妙なバランスは崩れ、どちらサイドを踏まえても最強を名乗るに足りる。まあ、戦争しているといっても、殺しはやっぱり嫌ね。命を奪うことに抵抗がなくなれば、それはもう人じゃない。ナニカに操られる道具だ。



深海棲艦はたくさんいるから、私達は私達のことをやれる余裕があるわ。



喧嘩結構、悪口上等。後悔もいい。確かな絆のある私達にはその全てのマイナスがプラスに変わる。



「せいっ!」

 

 

海の傷痕:当局【!?】



軍刀を妖精にお願いして作ってもらってよかった。本気モードの海の傷痕:当局は空母に対して最悪ね。私の装備は、死んでるも同然だ。


 

ネ級「ママ、助かりました。けど、ケド、頭が……痛イ」フラフラ

 


かすかな海の傷痕:当局の口元に張り付いた笑みで、察した。


 

「……っ」

 

 

海の傷痕:当局【さてネ級はそこらに放り投げて置くか】

 

 

海の傷痕:当局【間に合わなかったな。これだけいえば分かるか?】

 

 

分かるわね。その妖精工作施設はトランスタイプだけでなく、私達のメンテナンスも可能、ということなのでしょう。ネッちゃんの反応的に恐らく、ただの深海棲艦に戻すみたいね。


 

海の傷痕:当局【しかし、思ったよりも厄介であるな。その魔改造みたいな二次創作作品の軍刀能力は】

 


「……チューキ、聞こえるわよね」



「――――ってこと」

 


中枢棲姫「了解です」



海の傷痕:当局【いや、しかし、最後に母を捨てるか。ネ級を見捨てて、得た情報を伝達するとは】



海の傷痕は、どうも基準は人間の価値観のようだ。まあ、産まれを考えればそうなのでしょうけども。



「違うわ。今、助けて命を数刻延ばしてどうなるの。そうしたいなら、皆ここにいないわ」



「あの子の望みはあなたを倒すことだから」



海の傷痕:当局【……良き母とはそれでも身を呈して庇うものなのだがな】



海の傷痕:当局【最も当局は自己犠牲が嫌い――――】



海の傷痕:当局【といいつつ、子を守る母の愛に涙する輩を眺めるのが好きである。性格が悪いので】



「……まあ、分からないわよね」

 


「私はしっかりと自らで経験してその上だもの。映像や誰かの自伝を部屋で引き込もって眺めてる此方のほうは、どうなのかしらね……」



「いくら上質な想を得ようと、それは媒体を通した娯楽に過ぎないわ」


 

海の傷痕:当局【……そうだな。現海界した此方はそう思うのならば、現海界した甲斐があるのだが】



「……」



海の傷痕:当局【……ふむ、知性が落ちてきたか。まあ、そろそろ理性の限界だよな。お前とセンキは時限式のバグと細工して創った】

 

 

海の傷痕:当局【『探知できるぞ、リコリス棲姫』】

 

 

(……、……)

 

 

海の傷痕:当局【通常の深海棲艦として艦娘でも沈めに行きたまえよ】

 

 

「……」キッ

 

 

海の傷痕:当局【● ●】

 

 

海の傷痕:当局【それが一番、強い感情ではあると当局はそう思う】

 

 

「なニよ、知った風な口を聞カナイデよ……」

 

 

海の傷痕:当局【母は、強し】

 

 

海の傷痕:当局【あなたの母性は、立派ではあるよ。それでは】

 

 

リコリス棲姫「……!」

 

 

海の傷痕:当局【経過程想砲】

 

 

海の傷痕:当局【還りたまえ】

 

 

ドンドンドン!

 


 

海の傷痕:当局【さて少し本気を出そう。管理者が使えばブーイングと乾いた笑いしか出ない芸ではあるが】



【12ワ●:想題スイキ:お後がよろしいようで】


1



あー、振り返ると、愚痴が洪水のように溢れてくるわ。



水母棲姫になって性能あがってから思ったけれど、瑞穂、あんたさあ。










低速ってなんなの? 遅いの死ぬの?




瑞穂の機関部周りのことは知っていたけど、適性者のことも考えてよね。そこまで再現しなくてもいいじゃない。



軍学校の時に、低速艦は高速艦よりも基本ステータス高いからー、とか言われていたけれど、現実は高速優遇な状況だったからねえ。



作戦立案の時に水上機母艦が必要ってなっても、深海棲艦の特性から考えて全体の流れを読むと、自然と進路を模索する段階に突入する。



その時に「高速じゃないと支障が出るから」とかって外されるのよね。高速でなくて低速じゃないとダメな場面ってのが、ねえ?



でも控え目な瑞穂ちゃんしていたから、



“少しゆっくりで、ごめんなさい”



とかいってたわ。

低速コンプがあった。ちとちよコンビと同世代だったこともあってさ。



深海棲艦になってから反転したような性格になった。だから、あの時の私にドロップキックでもかまして「もっとグイグイ行けよ」とかいってやりたくなるわ。



そうね、私は『瑞穂』が好きじゃなかった。なのに人生を振り返ってみると、どう考えても瑞穂から好かれているとしか思えない。



ああ、思えばなんか建造した時も、気分が優れなくて寝たり起きたりで、半年も健康状態が安定しなかった。



やっと抜錨したら雷撃で大破撃沈したし。死ぬかと思った。この瑞穂が機関部関連であーだこーだやってて、海へと抜錨したらドカーンって撃沈した夢を思い出した。



この不運艦に負けず劣らずの、不運な人生を歩む羽目になったしさ。



こいつのせい。

この艤装に適性なんかあったせいよ。

まあ、それを選んだのは私だけども。



終いには瑞穂の艤装になっちゃうなんて、もう笑うしかないじゃないの。



愚かだ。自分を必要としてくれるのならダメな人でも、ズブズブとはまっていく女だったことも含めて。



周りに空母にだってなれる高性能なやつらがいるのに、こんな私を一番に誘ってくれたからさ、じぃーんと胸に来た。ヤバいくらい人として終わっているフレデリカさんだったけど、「私が支えてあげないと」とか思っちゃって。



支えてあげた結果があの末路よ。



私は愚かね。いや、頭は良かったわ。試験の成績的な意味合いではね。



フレデリカさん最優先に考えて、判断をいくつも間違えた。普通の人間なら、あんな実験に喜んで協力もしなければ、春雨とか電まで巻き込もうとするのも止めるわよね。愛は盲目というけれど、そうじゃなくて、気付くのが遅すぎた。



思考回路まで低速気味。



だから私は道具みたいに扱われるのを心のどこかで受け入れてたのかもって、今は思う。頭もどっか緩いから、自分で考えて動くと悪い方向にどうしても流れてしまうし。



そういう意味で深海棲艦は性に合ってる。こちらの世界は私みたいなアホでも世界で5本の指に入る高知能エリートなのよ。そりゃ深海棲艦は艦娘にどんどんほふられるわけだわ。スイキちゃん納得よ。



駆逐艦春雨や、駆逐艦電とは違う。



私は完全な深海棲艦になったから、あいつらよりも、分かってる。



そっち側にいた時は深海棲艦の知能の低さは好都合ではあったけれど。



知能が低い訳じゃないのよ。高くなれるんだから。チューキやリコリスとかそっちにいる並のやつより賢いし。



深海棲艦はただね、



純粋なだけ。



海の傷痕:当局のほうか。あいつはそんな感じだ。ペラペラと情報を流して鬼ごっことかやって馬鹿じゃないのって思うけれど、あいつはきっと真剣なのよ。



本で読んだことあるわ。



街に出て公園で子供達の球遊びを見ている大人は彼等がやっていることを、遊びだって思う。



けれど、子供達は真剣に遊んでる。



大人からしたら、仕事は遊びじゃないのかもね。けれど、遊びも真剣なの。



真剣が遊びを放り出すのならば、



真剣さえも仲間に入れてあげている遊びのほうが、上等だーって。



瑞穂の頃も、そんな感じでいられたらよかったな。遊びに熱中するような真剣でお仕事に取り組めたのなら、それはきっと天職だといえたのでしょう。



深海棲艦は純粋の塊だから真剣だ。お金をもらえるわけじゃないことに全力。球遊びに熱中するような子供に見えてきた。



深海棲艦をいつの間にか、





人間みたいに見てた。




ま、仕方ないわよね。チューキもリコリスもセンキもレッちゃんネッちゃんも、深海棲艦の形した人間だと思うもの。



海の傷痕って本当に人間のスペシャリストだと思うわ。この戦争は化物と人間の戦争だと思わせる仕掛けすごい。



人間は犬猫とか可愛がっても、路傍の蟻は平気で踏み潰すもの。



姫や鬼は人間の形をしているから怖い面もあるわよね。ほら幽霊を思い浮かべてみるとさ、人間の女、多すぎない?



そういうもんでしょ、人間って。


深海棲艦が勝ってみ?



平和になるわよー。あいつら、争うけど、子供のケンカだもの。仲裁も楽。やろうと思えばただの姫や鬼でも出来る。どう考えても人間が消えたほうが地球の平和は守られるわ。平和だ命だ全員生還だー、とか理屈つけても、結局は人間は人間最優先。ま、それのなにが悪いって、いうしかないわよね。



そして最後に「この戦争は人間と人間の殺し合いでした」とか「海の傷痕は人間から生まれ落ちたんだよー、自業自得だね」だなんて正しく人間が絶望するオチを仕込んでいた。ホント人間を熟知していると思う。



深海棲艦は純粋だ。チューキ達は小賢しいからどっちかといえば、私達のなかでも人間寄りね。



フレデリカさんは賢いけれど、深海棲艦寄りの人間だと思う。あの狂気の目的に子供みたいに純粋で、真面目だったわけだから。



人間とか害悪よ。幸せだなんて、思い描いてその実、私は私を思い返して分かったのよ。私よ、聞きなさい。



全ての欲望は、どす黒いわ。



全ての欲望は、楽したい怠けよ。



ひねくれた解釈だけど、恋愛も仕事もね。



全ての選択は、自分が結果的に楽になるだろう、という選択の上にあった。



艦の兵士という仕事。

低速コンプだったのも、そうでしょうに。高速ならもっと自分は出番が出来て、って心が楽になると思ってたからよね。



フレデリカさんを好きになったのもそう。自分に自信のない私が、必要としてくれる人の力になることで、心を楽にしようとしていただけ。



そうよね。本当にフレデリカさんに愛情を向けていたのなら、止めていたはずだもの。



楽したいだけ。



楽になろう、と自分にない物をたくさん持っている人とか、綺麗な形を好きになってた。そのきっかけからでも愛情が芽生えたらいいんだけどね。私は自分本意で相手に愛情とか向けられないから、きっと結婚とか向いてないタイプね。相手の持ち物なくなったら支えずに捨てちゃいそう。私が神様に誓う永遠の愛は(笑)。



わるさめに1度だけ聞いたことがあった。鹿島艦隊の悲劇から落ち着いて、あの鎮守府を攻め落とす前に、だ。



「そういえば、あそこに瑞穂っていたわよね。秘書官って辞めたの?」



「瑞穂。あー、どっかいなくなったな。死んだわけじゃないよー」



「あのクソ女は瑞穂が忘れてったぱんつを人形にはかせてたー……」



聞かないほうが良かったわ。フレデリカさんは新たな性癖を獲得してしまったのね。



「それよりさー、電のやつ」



「元気にやってっかな……」



知らないわよ。



本当に聞かないほうが良かった。



私は、




その時の私は、








まだ瑞穂だったことを思い出してない。



多分こいつが春雨だったことが災いして、私の口から想の残滓が零れたんじゃないかしら。



私が2代目だとチューキが気付いたのは、そのわるさめとの会話がきっかけだった。知能覚醒したのはここから遠くの海で、すぐにチューキと合流した。おかしい。このスイキはどこかおかしい。私の頭でも理解できた。



瑞穂のことをなぜ秘書官だったと知っているのか、を究明されてしまったからだ。最もその時の私は私を2代目だと自覚していなかったから、クエスチョンだらけだったけれど。



チューキやリコリスが論理的に時系列を追って説明してくれたから理解出来た。そっかー、私、2代目かー、と。



リコリスに感謝しなきゃね。



――――殺しちゃ、めっ、よ?



あの一言でチューキが凍りついたかのように止まったから。あの時の中枢棲姫のべそかきそうな顔は、今でも覚えてる。いやまあ、そうよね。私もチューキとタイマンしてた時のリコリスはちょっと。



「はー、センキさー、聞いてよ」



って、よくいってたわ。あいつは深海棲艦らしい純粋なところがあって、話し相手としては良かったわ。



リコリスやチューキは話すのにも頭を使うもの。レッちゃんネッちゃんわるさめはガキ過ぎるし。わるさめは時々大人びていたけど、あのモードは引き出そうとして引き出せるものじゃなかったし。テンションの差が激し過ぎんのよ。



「スイキ、あんたさ、私のこと馬鹿とか思ってるでしょ」



「安心しなさいよ。私のほうが馬鹿だから」



こんな軽いノリで自虐を吐ける。センキとは悪くない関係だ。



楽になれる。



結局、私は変わってないようだ。



フレデリカさんは賢いけれど、深海棲艦寄りの人間だと思う。あの純粋無垢な狂気の目的に子供みたいに真面目だったわけだから。



はあ、楽になりたい。



結果的に私は深海棲艦になってチューキ達の輪に入れたのは良かったわね。



私はあんまり小難しいこと考えなくても良かったから楽だ。



そういえば、わるさめのやつが渡り鳥とか回遊魚を眺めて、鳥や魚になりてえ、とかってぼやいたことがあったな。



鳥や魚もいいけれど、



深海棲艦ってのも、悪くないわ。



楽よー。周り馬鹿ばっかだから。



小難しいこと考えるのは賢いやつに任せとけばいいのよ。それも許されるしねえ。試験もなんにもなーい♪



今だってそう。海の傷痕をぶちのめせばいいだけの単純明快な目的だけ。



その後にチューキ達もわるさめや電も、幸せになれるんだから。そのために辛い思いをしてやるわよ。本音をいえば面倒で嫌だけど、皆のためにやるって決めちゃったからね。



フレデリカさんだって、そうしたものね。



あれ、最後の最後で私ってば、




自分本意じゃなくなってる?





うーん、今頃ねえ。




だからさー、











遅いんだっての。








低速か。


 

【13ワ●:最後まで不幸とか】

 

 

水母棲姫「あ、私達は死んだわね」


 

戦艦棲姫「……無理ね。諦められない戦いなのに、無理とかいわされちゃう時点で屈辱の極みよ……」

 

 

水母棲姫「……艦載機いくつよ」

 

 

戦艦棲姫「900くらい」

 


水母棲姫「まだ一撃も当ててないし、色々な意味で頭痛が酷くなるわ」

 

 

戦艦棲姫「ねえ、あの作戦内容って」

 

 

水母棲姫「ここで死ねばいいのよ。私達は……ってことじゃないの。勝てるかも、しれないって思ったけど」

 

 

水母棲姫「……艦載機いくつよ」

 

 

戦艦棲姫「だから900くらいだってば。おまけに深海海月姫と防空棲姫、あれはチューキの艤装も展開してる」

 

 

ザパン

 

 

わるさめ「だから、なんだー?」

 

 

水母棲姫「わるさめ、あんた逃げなさいよ。ここで死ぬ訳には行かないでしょ」

 

 

わるさめ「司令官からチューキちゃん達と海の傷痕:当局を倒せ、と」

 

 

わるさめ「リコリスママは間に合わんかったけどさ」

 

 

わるさめ「やるか、やらねえか、の選択肢があるぞ」

 

 

わるさめ「あいつがヤバいのは分かるけど、このままだと、最強の深海棲艦(笑)だぞー」

 

 

海の傷痕:当局【……春雨か!】

 

 

水母棲姫「一撃、イレよウかしら」

 

 

戦艦棲姫「ソ、ウねェ……理性モ」

 

 

わるさめ「防空は任せろ。トランス、防空棲姫!」

 

 

ガガガガガガ!


 

わるさめ「二人のファンファーレの道のりはわるさめちゃんが作ろう! ガブリするためには近づかないとだしね!」

 


レ級「わるさめー、お前空をなんとかしてくれよ! 僕も道が出来たら海の傷痕に砲撃しまくるからー!」

 

 

わるさめ「任されたー!」

 

 

中枢棲姫「聞こえますか、すみません。遅れました。リコリスが流してくれた情報を外で分析してました」

 

 

中枢棲姫「『全て予定調和内なので』」

 

 

中枢棲姫「『このまま攻めれば勝てます』」

 

 

水母棲姫「アノネ、チューキ」

 

 

水母棲姫「多分、もう理解デキナクなる」

 

 

戦艦棲姫「勝テルノね。それならイイワ。ウーン、レッちゃんネッちゃんもそうだけど」

 

 

水母棲姫・戦艦棲姫「ありがとね」

 

 

水母棲姫「特攻」

 

 

7

 

 

海の傷痕:当局【……、……】

 

 

海の傷痕:当局(……なんだ?)

 

 

海の傷痕:当局(勝て、る……と。この状況で勝てるといったのか?)

 

 

海の傷痕:当局(中枢棲姫の性格的に情けとは思えん。しかし、当局の頭ではどう考えてもここからひっくり返すのは『無理』だ)

 

 

海の傷痕:当局(……敗けが色濃くなっているのは分かるはずだ。ここを越えさえすれば、当局はほぼ勝ちが確定、色濃い敗北は『電の早期解体という向こうのミス』で、ひっくり返った)

 

 

海の傷痕:当局(全員生還ならば早期の電解体は、悪くない。それでも勝ちの目はあるから。中枢棲姫勢力の踏ん張りと、予想外の特攻素質の春雨に、予想以上の響改二の要素は当局を撃沈可)

 

 

海の傷痕:当局(……仕官妖精と初霜が上手くやれば、此方も撃沈は可能だ。それを出来て『クリア』だ)

 

 

海の傷痕:当局(……中枢棲姫勢力は先程ネ級に試したところ、予定通りにメンテナンスは可能、妖精工作施設で触れるだけで勝てるも同然。この不確定要素は当局に味方した。中枢棲姫勢力の戦闘能力は大幅に減少し……)

 

 

海の傷痕:当局(響改二と春雨を交えても、負けの目はほぼない勝負となった)

 

 

海の傷痕:当局(リコリス棲姫はネ級の反応を見て通信を飛ばしていたな。ネ級にしたことは中枢棲姫にも、准将にも伝わっているはず……)

 

 

海の傷痕:当局(……勝てない勝負だと、分からん二人ではない。本当にただの特攻、か?)

 

 

海の傷痕:当局(『なぜ?』)

 

 

海の傷痕:当局(そうだな、なぜだ)

 

 

『なぜリコリス棲姫は突撃してきて、自らメンテナンスされたネ級を確認してから、黒腕に触れた?』


 

『ネ級がどうなったか中枢棲姫に通信を入れたのだから、どうなるか分かっているのにも関わらず』

 

 

海の傷痕【……、……】

 

 

海の傷痕:当局(……面白い)



海の傷痕:当局【海の傷痕にギミックを用意するか!】


【14ワ●:経過報告-3】

 


初霜「提督、第4特務部隊帰投しました。皆さんは龍驤さんのいる拠点軍艦のほうの設備に」

 

 

提督「……首尾は!」


 

初霜「任務成功です。海の傷痕:此方を撃沈しました。時間はかかりましたが、本官さんが無事にロスト空間の管理権限を乗っとりました」

 

 

初霜「『艦隊これくしょんのシステムを作る想は此方が持っていった模様。しかし、ロスト空間の管理権限を得たことで本官の妖精としての全機能が解放された』との伝言を預かっています」

 

 

提督「よくやってくれました!」

 

 

提督「青山より通達です。旗艦初霜特務部隊が帰投し、報告を受けました。『海の傷痕:此方を撃沈し、ロスト空間の管理権限の奪取に成功』しました」

 

 

元帥「そうか、そうか……!」

 


提督「はい、海の傷痕:此方は恐らく既に海の傷痕:当局の艤装にトレースされています。残りは『反転建造を終える前に海の傷痕:当局を撃破』で」

 

 

提督「我々の勝利です」

 

 

提督「中枢棲姫勢力、そして響、電も向かわせています。皆さん、もう少しだけ踏ん張ってください」

 

 

乙中将「報告ありがとう! 疲労で落ちかけている現場の士気が爆発してる! これならまだ耐えられるよ!」

 


甲大将「……、……」

 

 

甲大将「こちらも同じく」

 

 

丙少将「こっちもだ」

 

 

丁准将「ちょうどいい。報告がある。我輩のところはキツいぞ。直に拠点軍艦は航行不能だが、艦の娘どもは上手く逃がすので応援は要らん」

 

 

丁准将「が、脳筋どもが荒らしすぎて深海棲艦が少し散り散りになっている。各戦場に数体ほど流れる恐れがあるので、背中に気を配りたまえよ」

 

 

丙・乙・甲・元「了解」

 

 

提督「それでは、引き続きお願いします」

 

 

提督「初霜さん、本官さんは他に伝言はありませんでしたか」

 

 

初霜「ありました。任せてくれ、と。それと次の作戦ですが」

 


仕官妖精「ふう、戻ってきたのであります」



仕官妖精「……早く戻らねばなりません。今の建造が終わるまでです。それから本官がロスト空間から出たら管理権限は恐らく奪い返されます」


 

提督「では、これからの作戦を伝えます」



提督「――――、――――」



初霜「了解です」



仕官妖精「これまたかなりの大仕事でありますな。お任せください。可能ならばやり遂げてみせるのであります」



【15ワ●:想題:チューキ】

 

 

雷雲のドス黒い空に迸る電気のもとで、轟々とした風に舞う無数の艦載機と鳴り止まない砲雷撃の奏で。

 

 

最初期のあの日に、似ている。

 

 

勇敢に特攻をしてきた齢10程度の幼い駆逐艦電は砲撃すらろくに出来ない兵士だったな。雷鳴の音はあの子を想起させる。

 

 

彼女の一筋の勇気に、この身はたじろいだ。子供とは思えない勇者の咆哮をあげて、四肢が千切れても、向かってきたあの底知れない恐怖を思い出す。

 


「終わらせてください」と彼女は最後にいった。「こんな無意味な戦争、早く、終わらせて」

 

 

“敗けでいいから、もう殺して――――”

 

 

天命は、知能覚醒を以てしてついに私の元へと。

 


彼女の声が、私に呼びかける。この惨劇の等価となるモノを捧げて、と。


 

戦争を終わらせたかった。そのために効率的な方法を機械的に探していた。この強い知能で、周りを利用し、深海棲艦勢力の中枢として存在していた。

 

 

争う度にいつだって理由を求めていた。この戦争は間違っていると証明したかった。

 

 

強い理性を手に入れて、まずはあの優しき幼子の殺害を悔いたことから始まった。丸めた拳はいつの間にか、指を絡めて、自然体で祈りを捧げている。

 

 

戦争の血を洗い流す清潔を。私の眼に映る全てを救済に運ぶかのような波の流れを与えたまへ。

 

 

究明を続けるために、海に立ち込める霧の向こうにある究明の理を求めた。深海棲艦、艦の兵士、提督が捧げた血肉の海にあるはずの真実を。


 

たどり着いた場所にあるのは忘却したはずの始まりの景色だ。

 

 

身を寄せ合う場所もなく、鉄の塊と衝撃だけがある。悲鳴も命乞いも雷鳴にかき消され、なにもかもを荒波が飲み込んでゆく。

 

 

死の塊が跋扈する。

 

 

心にこだまするのはあの日の彼女の声だけだ。 


 

“私の敗けでいいから、もう殺して――――”

 

 

この惨劇の等価となるモノを手向けなければ。始まりと終わりを司る深海棲艦として。

 


無垢なる命を殺戮したという失敗を洗い流すためには、どれだけの等価が必要なのだ。

 

 

19世紀はこの海に傷痕を残し、私の家族はその大口に飲み込まれてゆく。まだ足りないという。この戦争は終わらないと、いわんがごとし。

 


自然と言葉が出る。理性を取り戻した私が初めて、喋った外来語だ。見えない罪に羽交い締めにされたかのように身動きが取れない。陸にあがった魚のように痙攣しながら、

 

 

“Let me go:死なせて”

 


“Let me go:離して”

 

 

“Let me go:逝かせて”

 

 

返ってきたのはあの日の呪詛だけだ。


 

“私の敗けでいいから、もう殺して――――”

 


手を伸ばせば、原因へと触れられる。

 

 

天命は私をここまで航行させた。

 

 

死なせてくれ。

逝かせてくれ。

 

 

海の傷痕の先にある、

 

 

新たなる世界の境界線へ。

 

 

あの暁の水平線の向こう側へ。

 

 

群れを曳く獣の唸り声が私の喉からあがる。

 


【16ワ●:Fanfare.中枢棲姫】

 


「ウアアアアアアッ!」

 

 

攻撃の叫びがこの肉体から砲口から、この空間へと発射される。

 


――――なにも考えるな。特攻タイミングの許可はもらっている。



――――全身全霊で、やつを殺すことだけを考えろ。


 

天から注ぐ艦載機の鋼鉄の雨がこの身を絶え間なく穿つ。皆に平等に降り注ぐも、不平等な損傷を与えている。

 


視界の端にいるスイキとセンキが、愚直に海の傷痕に突き進んでいる。身体を削りながらも、憎き怨敵に一矢報わんと、軍艦のように雄々しく海を往く。

 


センキの航行が止まる。恨み辛みの怒声を撒き散らしながら、海底へと沈んでゆく。彼女の勇姿はしかと。しかと、この胸に。この中枢棲姫の魂に確かに刻まれて、私という無力な軍艦を更に曳いてくれる。

 

 

スイキが倒れるも、無様に手足を動かして前に進んでいる。その様はまるで不覚を取って沈みゆく軍艦から海へと身を投げた敗者が、その身1つで敵を沈めようとする笑い者の姿だ。瑞穂だった頃からなに1つとして報いを与えられなかったその心が今、無様な命の輝きを煌めかせている。

 

 

「敗けるかア――――!」


 

「そこまで、そこまで行って、今度は、絶対に仕留めてやるからなア!!」


 

レッちゃんが、獣のように海を往く。既に身体は6割ほどなくなっており、頭部は欠損しながらも確かに前へと進み、全ての装備を海の傷痕へと向けている。不沈艦の名を冠しても違和感がない。

 

 

その熱の烈風に吹かれ、私の心がよりゴウゴウと燃え盛る。

 


家族を失い続けるこの悪夢。



後捨てられるモノはなんだ。一時で構わない。なにを犠牲にすればあの憎き神を越えられるのだ。そのためならば、なにも惜しくはない。


 

海の傷痕を、海の傷痕を、海の傷痕を、

 

 

この手で仕留めて、

 

 

私達は、人間となる!

 

 

人間の歴史に貢献し、人間として生きた証を刻まなければならない。この時を最初期より心待ちにしていた。

 

 

人が人を殺すこの戦争を終わらせる。神の首級を手土産に私は先に旅立った皆の待つあの世へと出向こう。

 

 

「お前、お前さえ始末すれば――――全てに報いが行き渡る!」

 


この戦争に殺された春雨の、その鋭い憎悪の刃先が、海の傷痕の四肢を削いでゆく。

 

 

私の牙も、もうすぐ届く。連発していた砲撃ペースに弾薬の供給が追い付いていない。海の傷痕はそれを察したのか、クレバーに私を潰しに来る。願ってもない。飛んで火に入る夏の虫だ。

 

 

海の傷痕:当局【その素晴らしい熱量、神の意思を焼き払うがごとく】



海の傷痕:当局【皮肉なことに、分かり合えたな!】

 

 

海の傷痕:当局【しょせん世界に死を願われる『悪役:ヴィラン』の無神論者が――――】

 


海の傷痕:当局【神を下せる末路なぞ、物書きにでもなったつもりか!】

 

 

中枢棲姫「作り手だ」


 

中枢棲姫「たかが神ごときが、人間の慰み者の分際が、今を生きる我々の未来の――――」

 

 

中枢棲姫「創作を阻むなよ!!」


 

 

海の傷痕:当局【敗けて――――】

 

 

中枢棲姫「敗けてなるものか……!」

 

 

妖精工作施設に喉元を掴まれる。構わない。魂に闇が立ち込める。どす黒い深海棲艦の単純な想に汚染されて、私の知能が急速に低下してゆく。

 


獣を帯びた知性は、私を本能に従順にさせる。百獣の王のような威嚇をあげて、本体の艤装を海の傷痕へと向ける。間髪入れずに、闇雲に海の傷痕に撃ち込んだ。


 

かすかに、声を聞いた。

 

 

――――バルジのおかげでなん、とか。

 

 

すでに大破している彼女は、まるで不死鳥のように、この戦場に居残り続けている。

 

 

海の傷痕:当局【っ、響、この戦火の中でまだ動けて――――】

 

 

中枢棲姫「接射――――」



妖精工作施設を潰した。これで復活は出来まい。私はそれと同時に、生まれでた深海へと沈んで行く。構わない。こいつさえ――――!




さア、最後だ。

 


あなたが、誰よりも優しい始まりのあなたのその一撃で、終わらせてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――電の、

 

 

 

 

 

 

 

 

本気を――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見るのです。

 


 

【17ワ●:想題:電】

 


『なにもない部屋』があった。


 

机には、卒業した院の子の赤いお古のランドセルは、私が譲ってもらったものだ。小さなクローゼットには、数のない私服も、お古のものが多い。2段のベッドの上は、空いていて、小さなサイドボードの上の写真立てにはなにも飾る写真が入っていない。

 


出来る範囲で、お古を集めた。さすがにハブラシとか下着とかリコーダーとかは新品だったけれど。

 

 

新品を、買ってもらえるのにね。寄付される衣服やランドセルに保育士の方は「こういう押し付けは迷惑」だと善意をはねつけていた。

 

 

でも、私はそういう新品をもらっていた。お仕事の規定や義務で与えられるものよりも、誰かの好意で贈られて来たモノのほうとか、誰かが大事に使ったものほうが好きだった。

 


私のお小遣い、月に500円。

 

 

名も知らない人から贈られて来たものはそれよりもずっと高価な品物で、流行り物。すごい高かっただろうに、「あなたの未来を陰ながら応援しています」って、丁寧なお手紙を添えて、見知らぬ命にくれるだなんて。

 

 

とっても温かく感じられて、

 

 

大事にしたいって、思えるよ。

 

 

この時、私は控え目に無邪気な女の子で、この感情を優しさだなんて考えたことなかったな。

 

 

そういう人が、大好きだった。だから電の適性が出て、兵士になって、みんなを守ることにしたんだし。だから戦争に参加するって、ちょっと子供の度が過ぎていると軍学校で指摘されたこともあった。私は変な子なのかもね。

 

 

変えてくれたのは、海だったな。


 

引っ込み思案な私の初めてお友達、姉妹艦の暁、響、雷のお姉ちゃん。



優しくしてもらって、ようやく優しくすることを覚えられた。そして気付いたのだ。あの感情は、優しさの類だったのかもしれないって。


 

その優しさが、反転しちゃって、闇に囚われた日もあった。私の子供の部分を戦火が優しさごと燃やしてしまった。その熱は、大切にしていた他人の善意にも飛び火して、燃やしてた。

 

 

それも変えてくれたのは、やっぱり海だったんだ。お仕事の関係もあるから、司令官さんといってるけれど、新しいお友達かな。

 

 

大本営で救いを示してくれた時から、ハレルヤ、だなんておちゃらけて心で叫びそうになった。

 

 

その優しさを受け入れて、強く手を、人の手を握り返した。

 

 

闇が晴れていく。冷たい暗闇で閉ざされて凍りついていた私の心は、優しさの温度で、氷解していく。その解けた氷の滴が、目元から流れ落ちた。


 

殻に閉じ込もっていた日々も無駄じゃなかった。失った身心の痛みはずっと影のようにひっついて回って、その痛みに気付かない鈍さもなかった。

 

 

いつの間にか周りには、お友達もたくさん増えていた。

 

 

今あの部屋に帰ったのなら、足の踏み場もなくなるほどたくさんの宝物が、あの花壇のお花達のように咲き誇るだろう。

 

 

あの空っぽの写真立てにも、みんなの写真が、ずっとそこに入るだろう。

 

 

それは決して綺麗なだけの思い出とはなり得ないけれど。

 

 

この海で敵と戦い散って、岸辺のほうに打ち上げられた命が繋いでくれた、1つの結末だ。どんな写真を飾っても、想像を越える人の想が凝縮されている。

 


努力は報われるとは限らないとか、無駄な時間とか、止まない雨や、明けない夜もあるだとか。

 

 

強く想えば描けるんだ。叶うんだ。だってこんなにも強く想えば、身体は意思とは無関係といわんばかり。この身体から、突き抜けて意思だけが先行せんとばかりで身体さえも置き去りにするかのような活力を与えてくれる。

 

 

結局は自分次第なんだ。

どれ程そう思い知らされたのか、思い出せ。

 

 

私はそんな笑っちゃうくらい素敵な神様の欠片をこの身に誰よりもトランス(降ろ)して、戦い抜いてきたはずだ。

 

 

《ぷらずまさん、最後の一撃、任せます》



来たのは、通信。最後の一撃、の意味は分かる。



初霜さん達が、証明して帰投した。


 

恐れるな。

 

この艤装の、

この身体の、

この心の、

 

 

その全てが海の傷痕を倒すための、一撃必殺の紫電清霜。

 


みんなで作ったこの波、海の傷痕になんか押し返されてたまるか。みんなが作り出してくれたこの波の先に、津波が押し寄せてきたって、軍艦の化身である私が、たくましく航行してみせる。

 


【18ワ●:Fanfare.電】

 

 

中枢棲姫勢力のほうへと進む。最後の交戦の進路を往く指示がもらえた。

 


《海の傷痕:当局のほうへ。必ず大きな隙が出来ます。その時に砲撃を当ててください》

 

 

《それで暁の水平線、到達です》

 

 

ようやく、ここまで来たのです。


 

暁・雷「電とか響だけ、美味しいところずるい!」

 

 

暁「私も出るわ」

 

 

雷「暁は艤装、完全に壊れちゃってるじゃない」 

 

 

鹿島「雷さんは私と一緒に拠点軍艦の護衛に残れ、といわれたでしょう」

 

 

「任せて欲しいのです。電がみんなの分もまとめて入れてきます」

 

 

鹿島さんが不安そうな顔をしている。

 

 

「大丈夫です。電は必ず当てます。鹿島さんとたくさん練習しましたから」

 

 

「鹿島さんを死神から勝利の女神へと変えてきてあげるのです」

 

 

鹿島「――――」

 

 

鹿島「はい。どうかお願いします」

 

 

きっとこの役目は阿武隈さんや卯月さんのほうが適任なのだろう。もしも外せばこの明らかな人選ミスを、責められるはずだ。あの司令官さんは、今度は――――全国民から後ろ指を。

 

 

なのに、なぜ私なんだろう。

 

 

答えはすぐに出た。この海には想いの力が渦巻いている。海の傷痕が絵に書いた餅を食べてみせた。

 

 

司令官さんは想いの可能性を信じたんだ。

 

 

この最後の場面に限って阿武隈さんや卯月さんよりも、私のほうが当てられる、とそう想ったのだ。

 

 

確かな信頼を感じた。

 

 

当てられる気しかしなかった。今の精度はきっと誰にも負けない。繰り広げられている死闘や天候に反して、私の心は穏やかそのものだった。

 

 

声が聞こえる。近くから声が聞こえる。電探が探知しているが、反応したり消えたり。

あれは――――

 

 

「ネッちゃんさん、なのです?」

 

 

唸り声をあげただけで返答はなかった。フラフラと不安定に航行している。なにかがおかしかった。

 

 

「あ、プラズマ、あ。だ……?」

 

 

私に向かって、砲口を構えた。その砲口も、力なくフラフラとしている。砲が撃たれた。明後日の方向に砲弾は飛んでいく。なにを狙ったんだろう。

 

 

「……わ、私を、狙ったのです?」

 

 

口を魚みたいにパクパクさせている。正気に戻れ、と顔面に拳を叩き込んでおく。ネッちゃんさんは、涙を流した。


 

「はわ、ごめんなさいなのです」

 

 

「な、なんにも出来ナかッタ」

 


悔しい、悔しい、と嘆き始める。

 

 

「ただの、深海棲艦ニ、戻ッちゃウ」

 

 

ただの、深海棲艦に戻るって、どうして。海の傷痕は中枢棲姫勢力になにかしたのだろうか。すぐに察した。

 

 

『殲滅:メンテナンス』

 

 

中枢棲姫勢力も異常なのだ。海の傷痕は彼等を直す機能も備えていた、ということなのだろう。

 

 

「お願イ、処分シテ」


 

「――――え?」 

 

 

「モウ、戦えナ、イ」

 

 

「早ク早く早ク、嫌嫌嫌嫌」

 

 

「化物に戻ルノ、い、嫌」

 

 

「仲良くなれた、皆、殺しチャウ前に――――!」

 

 

「っ」

 

 

私は静かに砲口を向ける。だけど、なかなか撃てずにいた。ダメだ。早く撃たないと。それが慈悲だ。

 

 

「あ、アア、お願イお願イ、どうか、どうか、お願イします――――」

 


「っ、了解、なのです」

 

 

撃鉄の制裁音が響く。ネッちゃんさんの口元がパクパクとまた動いた。お礼をいわれた気がした。

 

 

砕けた艤装とともに沈んでゆく。

 


最悪だ。こんなこと、2度としなくて済むって面ってたのに。中枢棲姫勢力の皆とはお友達になれたのに。

 

 

せめて一緒に海の傷痕をって、目的が重なって、握手だってしたのに。

 

 

なんで、私が殺さなきゃならない。

 

 

最後はせめて、海の傷痕と戦って死ぬのが、慈悲というものだろう。殺すにしてもお前の手だろう。

 

 

なんで、私が殺すことになった。

 

 

私がしてきたことの報いなの?


 

ネッちゃんさんに

 

 

殺して、と、

 

 

こっちに懇願させることが、

 

 

どれだけ酷いことか分からないの?

 

 

「どこまであいつは――――」

 

 

私達の心を踏みにじれば気が済むの。


 

「…ぃ、うああっ……」


 

泣いている場合じゃない。

 

 

進まなきゃ。

 

司令官さんが示してくれた羅針盤を信じて、この先の海に。

 

 

 


 




進まなきゃ!

 

 

 

 


【19ワ●:Fanfare.電 Ⅱ】

 

 

近距離までもうすぐだ。想像以上の荒波がそこにはあった。あの中枢棲姫さんとは思えないほどの激情だった。

 

 

荒れ狂う海や空とは正反対に私の心はひどく穏やかだ。助ける、とか、応援する、とか、そんなんじゃない。この戦争を終わらせること、それだけがたった1つの優しさのはずだから。

 

 

この身を削ろうとする艦載機の雨をなるべく交わしながら、海の傷痕に全神経を傾けて、注視する。

 


やはり、そうだ。

ロスト空間は奪取している。

海の傷痕はただのタイプトランスと化している。その艤装は、戦っている皆の決死の奮戦で削り取られていって、確かに海の傷痕をただの生身へと変えて行っている。追い詰めている。

 

 

海の傷痕:当局が、雄叫びをあげた。いつものヘラヘラとした表情は完全に消え失せていて、私達と同じく、戦う兵士の顔だ。確実に追い詰めている。

 

 

生死がさんざめくぶつかり合いの中で、鉄の雨を回避して、水飛沫の中を突っ切り、生をつかみ取ろうと必死の形相で艤装に咆哮を唸らせている。

 

 

中枢棲姫さんが、あの黒腕を艤装ごと破壊する。もう、海の傷痕は満身創痍だ。あの口が大きく開かれて、激しい呼吸を繰り返し、フラフラと沈みゆく船のように、動き始める。

 

 

響お姉ちゃんが砲を構えた。こちらを見た気がした。私も砲口を構える。限界まで装備改修をした12.7cm連装砲B型改二だ。私にはちょっと上等な装備。

 

 

響お姉ちゃんが砲を構えた。こちらを見た気がした。

 

 

その海の傷痕に追撃が突き刺さる。海の傷痕:当局に命中し、腹部に突き刺さる。倒れた響お姉ちゃんに、すかさずわるさめさんが救助に動いた。

 

 

同時に私に、いう。

 

 

――――ぷらずま、決めろ!

 

 

お前が決めろ!

 

 


沈みゆくチューキさんが、最後の雄叫びをあげた。



“あなたが、誰よりも優しい始まりのあなたのその一撃で、終わらせてくれ――――”

 

 

外す気がしなかった。当たる未来さえ見えた気がした。砲撃の極意を心得たかのように、自然に、気負うことなく、砲口から、砲弾を発射する。

 

 

海の傷痕:当局が、苦笑いした。どこか悟ったような清々しさがある。

 

 


 

嘲嘲、そうか、ここまでか――――

 

 

 

 

おめでとう。

 

 

当局の、

 

 

 

 

 

 

――――敗北、である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電の、

 

 

 

 

 

 

 

 

本気を――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見るのです。

 


 

勝利が、弾けた。

 

 

海の傷痕に吸い込まれるようにして、砲弾は当たり、誘爆という最高の演出を弾かせた。

 

 

空を舞う艦載機が、自然と海へと堕ちてゆく。この海の傷痕が塞がるように、全てが自然に還ってゆく。

 

 

降り注ぐ艦載機の雨、誘爆の煙は空にたゆたうように伸びて、風に吹かれて広がる様は、いくつもの血を栄養にしてきたお花が咲いたかのよう。

 

 

 

ようやく、

 

 

 

ようやく、たどり着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『Srot4:海の傷痕装甲服』についてご教授しましょうか」

 



 

 

 

 

――――え?

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2

 

 

海の傷痕:此方《通信、機能しているかな。聞こえますか?》


 

海の傷痕:此方《『妖精を除いた艦娘、深海棲艦に関わる全てのモノに変質します』》


 

提督「う、ああ――――!」

 

 

海の傷痕:此方《此方が、当局の艤装にトレースしていたのを看破したのはさすがです。間違いではなかった。私が生まれ落ちるための建造時間に当局を仕留める》

 


海の傷痕:此方《素晴らしい策です。よくぞ未知の存在を相手に、正解までたどり着けたと感服しました》

 

 

海の傷痕:此方《1秒ほど遅れていたら、私は当局ともども死んでいました。ですが》

 

 

 

海の傷痕:此方《想像力がまだ足りない》

 


 


海の傷痕:此方《反転建造に》


 


海の傷痕:此方《適用できる》

 

 

 

 

 

海の傷痕:此方《高速建造材の存在》

 

 

 

提督「でも! なぜ、どうして……!」

 


海の傷痕:此方《全快しているか、を聞くんじゃ、もうあなたも底が見えましたね。システムを考えてください。『史実砲はロスト空間から出られなかった此方の練度をあげるための役割もある装備』で》

 

 

海の傷痕:此方《高速建造は当局を艤装に移す時間の短縮、そしてタイミングを示し合わせて、私は人の肉体に入ります。復活した妖精工作施設にて、史実砲にて練度をあげた私を瞬間的に》

 

 

海の傷痕:此方《メンテナンスverから改造》

 

 

提督「――――!」

 

 

提督「改造に、よる、瞬間再生……!」

 

 

海の傷痕:此方《ちなみに、高速修復材も作れます》



提督「……く、そ」



海の傷痕:此方《誘爆煙で隠れたこと、そしてタイプトランスだったことが、私の生存を隠しましたね》

 

 

海の傷痕:此方《未知と戦う以上》

 

 

 

 

海の傷痕:此方《こういう理不尽はある》


 

 

海の傷痕:此方《戦場で知らなかった、分からなかったという理屈は通用せず、理不尽に更なる理不尽が積み重なり、その結果が敗北を呼び寄せるのです》

 

 

提督「ち、くしょう――――」

 

 


海の傷痕:此方《『E-6』です》



海の傷痕:此方《さようなら》

 

 

 

海の傷痕:此方《電》

 

 

提督「させるか……させてたまるか」

 

 

 

提督「考えろ考えろ、考えなきゃ。なにかなにか……!」

 

 

海の傷痕:此方《アドバイス》

 

 

海の傷痕:此方《ロスト空間から本官さんを戻したら、当局をロストさせて、管理権限は即奪い返すことが可能》

 

 

海の傷痕:此方《振り出しに戻ります》


 

2

 

 

司令官さんの嘆きが、聞こえた。あの人のあんな声は、初めて耳にした。私の胸も、張り裂けてしまいそうだ。あの人が喜べば、私も喜んでしまう。泣けば、泣いてしまいそうになる。

 


海の傷痕:此方「電さん」

 

 

海の傷痕:当局【電よ、海の傷痕:当局は敗北した。たが、付け加える間もなかったのでな】

 

 

海の傷痕:此方「当局、艤装らしく喋らないで静かにしてください。全く、ちゃっかり中枢棲姫勢力の深海妖精での工作まで施したのですね……」

 


海の傷痕:当局【ああ、5感強化の過程の応用、肉を本体の艤装に埋め込む発想はなかなか面白い。当局の性格的にやるに決まってるであろうよ。当局はおしゃべりさんなのである】



海の傷痕:当局【でだ、電――――】


 

海の傷痕:当局【『当局は敗北しても、海の傷痕はまだ敗けていない』】

 

 


そんな、そんな。嘘だ。

 

 

こんなのって――――

 

 

「こんなの間違ってる!」


 

「だって、当てたのです!」

 

 

「電は、ちゃんと、ちゃんと、当てたじゃないですか!」

 

 

「ずっと苦手だった砲撃、ちゃんと当てたのに!」

 

 

「たくさん練習したのに――――!」

 

 

「当てて最後だと、司令官さんはいったのです!」

 

 

「あの司令官さんが間違った指揮を執るわけがっ」

 

 

海の傷痕:当局【ああ、終わりだよ。当てて貴女の終わりだ】

 

 

海の傷痕:当局【此方、もう聞くのも見るのも堪えん】

 

 

海の傷痕:此方「『因果応報』」

 

 

海の傷痕:此方「大本営にてこの海で孤独な化物は海の傷痕一人だといいましたね」

 

 

海の傷痕:此方「その化物からのせめてもの慈悲をお受け取りください」

 

 

「まだまだ……」

 

 

「電はまだ! 戦えるのです!」

 

 

「司令官さんが失敗しても、この私がそのミスをフォローしてあげれば」

 

 

「今度は私が助ける番――――」

 

 

突き進む。みんなが繋いだ今、失敗だなんて、認められない。司令官さんが示したら羅針盤を信じて、海を進む。


 

なんで。どうして。

邪魔だ。深海棲艦が、私の道を塞ぐ。あなた達の倒すべき敵は、私なんかじゃないのに。

 

 

砲撃を受けた。この薄い耐久装甲は一撃で大破まで追い込まれて、航行に支障が出る。


 

 

前に上手く――――

 

 

 

進め、ないよ――――!

 

 

 

「あああああああッ!」

 

 

壊れた装備で砲を発射しても、壊れていて、砲撃が出ない。闇雲に深海棲艦を壊れた装備で殴り付ける。

 

 

行かせて。海の傷痕のところまで進ませて。私は、役割を――――。

 

 

わるさめ「馬鹿! 戻れよ! 私は意識のない、響を抱えていて――――!」

 

 

手を伸ばせば、暁の水平線が、ある。

 

 

わるさめ「逃げろって! 私はお前に」

 

 

わるさめ「死んで欲しくないよ!」

 

 

わるさめ「家族をもう失いたくないんだよおお!」

 

 

繋いでくれた皆の想いを無駄になんか、出来ない。したくない。して、たまるか。


 

「皆の報いは、すぐそこ――――」

 

 

砲口をあげながら、手を伸ばした。つかまなきゃ。この手の中に、未来を。

 

 

わるさめ「間に合わない――――お願いだから!」

 


わるさめ「逃げてってばあああ!」

 

 

海の傷痕の、切なそうに伏せた目とは、正反対に砲口が、あがる。

 

 

弾着観測射撃、だ。

 

 

「く、そぅ……」

 


この眼は、映した。

 

 

この海の水平線に伸ばした私の小さな手が、木っ端微塵に吹き飛んだ景色を映した。

 

 

 

海の傷痕:此方「トドメ、です」


 

 

ごめんなさい。

 

 

お友達のみんな、

 

 

 

役割を果たせなくて、ごめんなさい。

 

 

 

私、届かなかった。 


 


艦娘の生命力は、私に私の最期を確認させた。

 

 

 


あんな遠くに、私の身体?

 

 

頭が、空へと舞ったの?

 

 

知ってる。これ、は。




“絶対に助からない損傷”

 

 


イヤ、




死に、



たくない。






海中へと沈んでゆく。私が殺したくさんの深海棲艦と同じように。

 

 

暗い暗い海の底に。

 



 

 

 

 

因果応報、だね。


後書き








ここまで読んでくれてありがとう。


↓14章のお話です。

【1ワ●:Fanfare.わるさめ】

【2ワ●:想題:鹿島】
 
【3ワ●:E-7】

【4ワ●:想題仕官妖精:『始まりの提督の記憶』】

【5ワ●:死にゆく貴方達へのハルノート】
 
【6ワ●:Fanfare.鹿島】
 
【7ワ●:Fanfare.木曾&江風】
 
【8ワ●:それでは雪風、阿武隈さん達とともに奇跡を起こしに参ります!】

【9ワ●:Fanfare.卯月】
 
【10ワ●:想題&Fanfare.阿武隈】

【11ワ●:Fanfare.アッシー&アッキー】

【12ワ●:想題&Fanfare.伊58】
 
【13ワ●:工作艦の極地を以てして、Type:Tranceを解体撃滅せよ!】
 
【14ワ●:暁の水平線の景色】
 
【15ワ●:Fanfare.間宮】
 
【16ワ●:長ったらしい『艦隊これくしょん:ファンタジー』のお話】


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