2017-08-16 23:46:59 更新

概要

突然姿を消した整備士。
それをきっかけに、世界は徐々に動き始める。


前書き

※この作品には独自の解釈・設定が含まれます。ご注意ください。


2013年、謎の人型生命体によって日本の制海権が奪われた。

この生命体は海上を移動し、旧式の実弾兵器で武装しており、現代兵器が全く通用しなかった。

彼ら…いや…彼女らは「深海棲艦」と呼ばれた。

ミサイルや攻撃機、戦略爆撃機などもことごとく撃墜され、絶望的な戦況の中、人々の生活圏は急速に縮小していった。

しかし、同年未明に「艦娘」と名乗る少女が現れ、これを容易く撃破してみせた。

艦娘の詳細は軍の重要機密として秘匿されながらも、深海棲艦と戦える唯一の存在として人々に宣伝された。

そして2017年、4年に渡る戦いの末、人類はようやく生活圏を取り戻しつつあった。




日本国 : 神奈川県 横須賀鎮守府_______



提督「さて…そろそろ寝るか…」


提督(私は提督。ここで艦娘を束ねて指揮している。本日も執務を終え、休みにつくところだ。

深海棲艦が現れてから我々はまさしく決死の覚悟で防衛にあたり、今となっては攻勢に転じつつある。

これもひとえに艦娘のおかげであろう。

軍事機密である彼女らの正体は分からないが、こうして国のために貢献する彼女らを私は信用しているし、信用されている…と思う。

もう少しで人類が勝つんだ。そう思うと胸が熱くなる。)




…コンコン



提督(こんな時間に誰だ…?)


提督「入りたまえ」



ガチャ…



整備士「遅くにすまないな…」


提督「なんだ…お前か」


提督(彼は整備士だ。主にドック内の整備や修理、たまに艦娘の装備も整備している。

共に士官学校卒だったが、何を考えたのか彼は急に方向転換した。

おそらく同期生の中でもトップクラスに頭のいい彼は、出世街道を捨てて、鉄とオイルにまみれる生き方を選んだ。何故優秀な彼がそんなことをしたのか分からない。彼には学や論理では測れないところが多々あったから。そして、初期の頃のこの鎮守府は彼によって支えられていた。)


整備士「……………」


提督「どうした?」


整備士「なあ…お前は俺が辞めると言ったらどうする?」


提督「何をバカな冗談を…」


整備士「冗談なんかじゃあない。これでも嘘はつかない性分なんだ」


提督「…軍属が簡単に辞めれるとでも?それに辞めた後はどうする気だ?」


整備士「さあ、どうなるんだろうね。何も考えていない」


提督「士官学校でも、そんなことを言っていたな。それでお前は将校になることを拒否した」


整備士「そうだ…懐かしいな…あの時と同じ気持ちだ。何もかもが嘆かわしい」


提督「どうしてそう思う?キャリアはいらないのか?」


整備士「どうでもいい。そんなレッテル。お前は考えないのか?生きる意味を」


提督「私が生きるのは国のためだ」


整備士「違うね。全然違う。社会に尽くすのは当たり前だ。そうする事が自身を守ることにつながるから。お前は自分のために生きているんだ。生きるために、生きている」


提督「なあ、何が言いたい?本題に入ろう」


整備士「戦争をして、艦娘や鹵獲した深海棲艦と関わって、人生を達観してしまったんだ」


提督「達観はいつもしていただろう」


整備士「そうなんだが…何だろうな、それよりもっと向こう側、もしかしたらこれが真実かもしれない。そういったものに気付いてしまったんだ」


提督「真実…?それは何だ」


整備士「多分これは気付くか気付かないかなんだと思う。だから気付かないならその方がいい」


提督「一体なんだって言うんだ…」


整備士「すまないな、混乱させて。とりあえず俺はもう行くよ。さようなら」


提督「おい待て」


整備士「待てない。俺はせっかちなんだ」


提督「明日、艦娘たちになんて言えばいいんだ?」


整備士「それはお前の考えることだ」


提督「どうしてもダメみたいだな…」


整備士「長い付き合いだ。もう分かっているだろう?」


提督「…ガレージのバイク、次会う時まで貸しといてやる」


整備士「…ありがとう。じゃあな」



提督(なんなんだ…理解が追いつかない…こんな急に……。まるで半身を失ったような気分だ。彼の損失は重大な問題だ…。)


提督「…寝るか」





………


……………


___________朝礼



提督「今日は君たちに重大な報告がある」


艦娘(((ザワザワ…)))


提督「昨日付で、設立当時からこの鎮守府を支えていた整備士が解任された」


艦娘(((!?ドウイウコト?ナンデ?)))


提督「理由は不明だが、彼の希望によるものだ」



夕張「…なんで……」



提督(しばらく艦娘たちの動揺は収まらなかった。

彼は多くの艦娘に慕われていたから。そうでなくとも少なからず仲間同士の絆のようなものを感じていたのだろう)


提督「とにかく、彼の穴を埋めるべく、我々は一層努力しなくてはならない。諸君らの働きに期待する」



___________その後、執務室



提督「一人の欠員でこんなに士気が下がるとは…個に依存するなど組織として失格だな」


大淀「仕方ありませんよ。それだけ影響力の大きい人だったんです。我々ができるのは、その事実を受け止め、対処することだけです」


提督「君にも迷惑をかける…大淀。君のおかげで私は冷静でいられるよ」


大淀「そんな大げさな…ですが、ありがとうございます」


提督「ところで、今日の任務を聞いていいかな?」


大淀「6ヶ月後の大規模攻勢に備えて、呉鎮守府の第一艦隊との演習があります。2時間後に到着するとのことです」


提督「あそこは主力艦ばかり使ってくるからな…第二艦隊は準備できているか?」


大淀「既に演習場で準備運動をしております」


提督「よし、呉提督が到着したら出迎えよう」



_______演習場




呉提督「やあ、提督。会えて嬉しいよ」


提督「こちらこそ。お互い健闘を」


提督(ニヤニヤして、相変わらず気持ち悪い野郎だ)



呉鎮守府 : 第一艦隊

大和 長門 陸奥 大井 北上 加賀


大和「ちょっとオーバーパワーではありませんか?」


加賀「上々ね」



横須賀鎮守府 : 第二艦隊

翔鶴 瑞鶴 日向 夕立 雪風 Z1


瑞鶴「うちの主力艦がほとんど入渠中なんだけど…」


翔鶴「私たちもまだ全快ではありませんしね…」


夕立「寄せ集めっぽい」


日向「まあ、そうなるな」




________戦闘開始




大和「あなた達に、この私が倒せるかしら?」


夕立「調子に乗るなっぽい!」


大和「そんな豆鉄砲で何が出来るっていうの?」


夕立「……は?これは整備士さんが整備してくれた装備っぽい。豆鉄砲じゃないっぽい」


大和「ふうん。ま、やれるものならやってみなさい」


夕立「…最後に一つだけ質問だ」


大和「……?」


夕立「女を知らない男を、男を知っている女が真似たらどうなると思う?」


大和「………さあ」


夕立「男を知らない女が出来上がるんだ」


大和「なんの話よ?」


夕立「整備士さんの受け売りっぽい!うらああああああああああああ!!!」





………


……………



__________戦術的勝利B



夕立「実質負けたっぽい…」


Z1「でも健闘した方だよ」


日向「夕立…何故大和を撃破している…?」


夕立「頑張ったっぽい!」


提督「素晴らしい。奴に一矢報いることができるなんて」


大淀「戦力差は歴然でしたものね」


提督「大淀、彼らは今どこに?見送りたいのだが」


大淀「どうやら決着がついた後にすぐに帰られたようです」


提督「稚拙な野郎だ。まあいい。今日は祝賀会でもしてやるか」


夕立「嬉しいっぽい!」


雪風「幸運の女神のキスを感じちゃいます」




_____________祝賀会後




提督「なあ、夕張。少しいいか?」


夕張「はい…」


提督「すまないな。二点聞きたいことがある」


夕張「なんでしょうか…」


提督「お前は整備士とよく話していたな」


夕張「同じ職場でしたからね…」


提督「お前は整備士と最も繋がりが強かった」


夕張「…そうです」


提督「すまない。止められなかったのは私の責任だ。ショックも大きいことだろう」


夕張「仕方がありませんよ。止めて止まる人じゃありません」


提督「それで…職務に支障は無いか?」


夕張「やはり一人だと厳しい面もあります。ただそれ以上に…」


提督「それ以上に…なんだ?」


夕張「艦娘数名が、整備士さんの作業場や元宿舎を訪れているようです」


提督「そうか…」


夕張「そして、置いていったものを持っていっているようです」


提督「どうせ使わないものだろうし…構わないだろう」


夕張「そうなんですがね…整備士さんに会いに来て…そうして初めていないことに気付くという者もいて…」


提督「それは…キツいものがあるな」


夕張「別に死んだわけじゃないと諭すんですが、それでも、そういった方達が多くて」


提督「そんな対応までさせてしまっていたか」


夕張「私だって嫌ですよ。整備士さんがいなくなるなんて。だけどみんなもそうだから…」


提督「すまないな…苦労をさせる…」


夕張「私は大丈夫です。絶対に整備士さんを捕まえて連れ戻してやります」


提督「はは…心強いな」


夕張「私にはあの人しかいませんから」


提督「それで、工廠の増員をしようと思うんだ」


夕張「増員…ですか?」


提督「といっても一人だけどな…他の鎮守府から明石が派遣される。大本営が緊急で対応してくれた」


夕張「それは嬉しい報告ですね」


提督「それと、もう一つ質問がある」


夕張「なんでしょうか?」


提督「あいつは最後に何か言っていなかったか?」


夕張「あいつって…整備士さんですか?」


提督「そうだ。何でもいいから教えて欲しい」


夕張「そういえば…


整備士『イプセンの"人形の家"は、女主人公の家出で終わる。「母としての義務を振り切って夫と子供を捨てるのか」という夫に対して、「一人の人間として生きたいの」といって出ていく。この女主人公は幸せになれると思うか?』


と言っていました」


提督「……………………」


提督(あいつは自由の意味を説いていたのか?いや…違う…何かもっと、大きいものを言っている気がする。)


夕張「…どうしました?」


提督「ああ、すまない。ありがとう、何となくわかってきた気がする」


夕張「お役に立てたのなら光栄です」


提督「あと、夕張」


夕張「はい?」


提督「あいつを連れ戻すのに、私も協力しよう」


夕張「…!ありがとうございます!」




___________翌日 執務室




提督(一晩考えたが…どういうことだ?あいつが意味のないことを言うはずがない。だが、どうにも今回は言葉を濁している。何もハッキリしてこない。

あいつは気付かないならその方がいいとも言っていた。何故そんなことを?

古い付き合いだし、私たちの間で隠し事はあまりなかったように思う。

何に対しても協力できた。だが今回は違う。明らかにあいつの意思で隠している。

知られたらマズイのか、それとも………)


提督「我々を巻き込まないようにした?」



…コンコン



提督「入れ」


大淀「提督、報告があります」


提督「聞こう」


大淀「昨日、元整備士さんの宿舎を漁っていた数名の艦娘達がいました」


提督「ああ、いたらしいな」


大淀「その中に、ひとり見かけない艦娘がいたと報告を受けました」


提督「それは?」


大淀「あきつ丸です」


提督「…何故陸軍の艦娘が?」


大淀「どうやら整備士さんに接触を図ろうとしたようです」


提督「どういうことだ?何故陸軍が?」


大淀「先ほど問い合わせ、高い技術と知能を持っているからヘッドハンティング…という回答を貰いました」


提督「いや、おかしいだろう。どう考えてもおかしい」


大淀「ですよね。一昨日の整備士さんの急な辞任。そして昨日、陸軍が整備士さんに接触を図った。絶対に何かありますよ」


提督「何にせよ、今は情報が少なすぎる。大淀、この件の調査、君に任せていいか?」


大淀「はい。問題ありません」


提督「あと、あいつはわざと私たちを遠ざけた。それはつまり、私たちの身を案じたのだろう。くれぐれも気をつけてくれ。そして、誰にもこの件に勘付かせてはならない」


大淀「承知しました」



___________一週間後




大淀「提督、工作艦明石が着任しました」


明石「工作艦、明石です。

少々の損傷だったら、私が泊地でばっちり直してあげますね。お任せください!」


提督「ああ、歓迎するよ。これからよろしく頼む」


大淀「それでは、明石に鎮守府の案内をして参ります」


提督「確か、君たちは仲が良かったな。積もる話もあるだろう。今日は自由にするといい」



提督「……………」



コンコン



提督「入れ」


夕張「失礼します」


提督「何か用か?」


夕張「整備士さんのことです。捜索の方はどうでしょうか?」


提督「まだ全く進んでいない…ただ、この件に関しては、もう首を突っ込まない方がいい」


夕張「な、なんでですか!?提督は協力してくれるって…」


提督「すまない…だが、これは君のためでもあり、あいつの願いでもある」


夕張「私のため…?」


提督「あいつは何かに気付いて軍を抜けた。陸軍があいつを追っているようなんだ。そして言い残した発言は、気付かない方がいい、と。明らかに我々を遠ざけようとした。その理由は分かるか?」


夕張「…私たちの身を案じた?」


提督「そうだ。この件には、我々の思いもよらない裏があるらしい。だから、君たちはこの件に関わるべきではない」


夕張「…分かりました」


提督「分かってくれたか…」


夕張「あとこれ…整備士さんの本に挟まっていました」


提督「何だこれ…?メモ?」


夕張「そうみたいです」


提督「見させてもらうよ」




"TR 0 1 DOLLY"




提督「あいつは考えてる時に、思いついたことを書き出す癖があったんだよな。にしても、ドリー?なんのことだ?」


夕張「分かりません…思いつくものといえばクローン羊ですが」


提督「クローン…か、一体何の関わりが…」


夕張「そういえば、いなくなる数日前から生物工学について調べていました」


提督「そうか…ありがとう。有益な情報だった。それと、くれぐれもこれ以上関わらないように」


夕張「はい。失礼します」



提督(生物工学か…近年生物工学によって生み出されたもの……)


提督「…艦娘?」




___________翌日





大淀「提督、報告があります」


提督「聞こう」


大淀「整備士さんの情報が見つかりました」


提督「言ってくれ」


大淀「ここから北東へ130km…つまり東京ですね。ここで、赤いバイクに乗った男の目撃情報がありました。ナンバープレートは無かったそうです。そこから更に200kmの地点の山道で捨てられたバイクが発見されています。おそらく同型かと」


提督「ああ…多分私が貸したバイクだ…」


大淀「ではやはり…」


提督「大淀、これ以上の追跡は諦めよう。多分、そう思ってバイクを捨てたんだろう」


大淀「了解しました」




ドォン!



「特捜だ!整備士を出せ!」




大淀「…!?あなた達…!」


提督「いい、大淀。私が相手をしよう」


大淀「了解しました」


提督「で、警察がウチに何の用ですかな?」


刑事「あんたがここの長か?」


提督「そうだ」


刑事「だったら話は早い。ここにいる整備士を出せ」


提督「…理由を聞いても?」


刑事「そいつが汚職に関わってたって、そっちのお上から情報があってな、捜査に来たんだ」


提督「彼が一体何をしたと?」


刑事「贈賄横領よりどりみどりだぜ」


提督「残念だったな。一整備士ごときが軍の財政になんて関われないし、何より彼は既に辞任してここにはいない」


刑事「なんだと!?まさか隠してんじゃねえだろうな?」


提督「言いがかりはよせ。だったら好きなだけ調べればいい」




プルルルル



刑事「あ?なんだ?………は?俺たちも出動するのか?…………分かった」


刑事「今日はここまでにさせてもらう」




提督「……………はあ、なんなんだ一体?」


大淀「提督、報告が」


提督「報告しろ」


大淀「先ほど、東京で民衆の暴動が起こったようです」


提督「暴動?」


大淀「何者かがビラを巻き、それを見た民衆が暴れていると」


提督「そのビラの内容は?」


大淀「"深海棲艦は人が作った。"だそうです。丁寧にリーク写真付きで」


提督「そのビラを見せてくれ」


大淀「はい。こちらに」


提督「"Experiments Report TR-01 Dolly" …!これは!」


大淀「どうしました?」


提督「あいつのメモに書いてあった内容だ…」


大淀「ということは…このビラは整備士さんが…」


提督「なあ、大淀、おかしいと思わないか?」


大淀「…そうですね」


提督「おそらくこの情報は国や軍の最高機密だ。あいつがいなくなった直後に現れた陸軍。そして汚職疑惑で警察まであいつを追っている。これはつまり…」


大淀「消されようとしている…」


提督「だが、このビラにある情報、これだけでは意味をなさないんじゃないか?」


大淀「他国の兵器、反社会勢力のテロの道具、逃げ出した実験動物、どうとも言えますね」


提督「そうだ。日本が作ったとも限らんのだ。そもそもこんな情報だけで国があいつを狙うか?」


大淀「理由としては薄いですね」


提督「まだ何かあるはずだ…あるはずなんだ…」


大淀「全員の行動理由も分かりません。今動いている組織は、警察に情報をリークした海軍、警察、そして陸軍です。特に陸軍」


提督「陸軍は、自分たちに引き入れるような動きをとっているな」


大淀「もしかしたら、海軍や警察とは違う目的なのかもしれません」


提督「とはいえ油断ならないのも確かだ。なあ大淀、俺たちはどこにつけばいい?」


大淀「おそらく。周りには敵しかいないかと」


提督「だよなあ…。なあ大淀」


大淀「なんでしょうか」


提督「身を守れ」


大淀「それは…調査は諦めるのですか?」


提督「これ以上は無理だ。私はこの鎮守府を危険に晒す真似は出来ない」


大淀「…了解しました」


提督「……なあ大淀」


大淀「はい」


提督「あいつは…こんな敵と戦ってたのか…」


大淀「…はい」




___________2ヶ月後 執務室


提督(あれから2ヶ月が経過した。

警察によって整備士の情報が公開され、ロッキード以来の巨大汚職事件として捜査が進められている。

ロクな証拠もなしに、軍上層部からのリークだけで断定しているようだ。

彼らも星が欲しいがために証拠をでっち上げでもなんでもした。

そのせいで、世間では整備士が国民の敵とされ、当然鎮守府でも整備士への疑惑が持ち上がった。

今や整備士は完全に包囲されていると言っても過言ではない。

だが、夕張、夕立を筆頭とした艦娘達は整備士への疑惑を晴らすために、周りを説得しているらしい。夕張は、あいつが帰ってこれるように居場所を残しておきたいんだそうだ。

そのおかげか鎮守府内での整備士の評価は悪くない。

まあ何より、あいつの人柄を知っているからだろう。

あいつは金に目が眩むような奴じゃない。それどころか金を憎んでさえいた。


整備士『こんなものがあるから…。今の世界が見えない血で溢れているんだ』


あいつはそう言っていた。

リークされた、深海棲艦を人が作ったという情報も、すぐにデマとして処理された。

一部の陰謀論者は未だ話題にしているらしい。

そして、肝心のあいつはというと、依然逃亡中。一度も姿を見せていない。

更に、これは憲兵隊からもたらされた情報だが、海軍上層部に怪しい動きがあるとのこと。

言われなくても怪しいなんてもんじゃないが、これで確証は持てた。

あいつが軍上層部が隠している重大な秘密を知ってしまい、それに気付いた軍があいつを消そうとしている。

陸軍があいつに近付いたのは、おそらく海軍の弱みを握るためとかだろう。

調べていても、あまりこの件と陸軍の接点は分からない。だからそんなとこだろう。

少し前に、あれだけ喧騒があったにも関わらず、いまは平穏な日々が続いている。

それでいい。少なからず、今飼い主の手に噛み付いたら殺される。

私の責任は、この鎮守府を守ることだから。

だが、結局あいつの目的や、今回の件の真相は不明だ。)



コンコン



提督「入れ」


大淀「失礼します。報告に参りました」


提督「報告してくれ」


大淀「西日本のほとんどの泊地から、深海棲艦の数が減っているとの情報が入っています」


提督「それは…殲滅できているということか…?」


大淀「単純に考えればそうですが、少々不審な点もございます。東日本では今も変わらず存在しており、西日本周辺海域から深海棲艦が移動したとも考えられます」


提督「移動…深海棲艦が統率されたような動きをとっていると?」


大淀「普通では考えられません。ですが、その点を鑑みて3ヶ月後の大規模攻勢を早める動きもあるようです」


提督「まあ、当然だろうな。災いの芽は早めに摘んでおかないとな」


大淀「ここにきて深海棲艦が新しい動きを見せるなんて…」


提督「あいつといい深海棲艦といい、この国が根底から揺るがされているいるような、そんな気がするな」


大淀「一体我々は何と戦っているのでしょうか」


提督「実弾を交えるのは深海棲艦だが、ほとんどが人と戦っているな」


大淀「もしかしたら、整備士さんはそこを狙っているんじゃ…?」


提督「…は?」


大淀「い、いえ、ただの妄想です」


提督「いや…確かにそうだ…あいつの行動はいつもそんなところがあった。他人を推し量るような…意思を試すような…」


大淀「なるほど…確かに極度のリアリストではありましたが、論理では説明できない行動も多々見受けられましたね」


提督「とすれば…あいつがこのまま、この状況を見過ごすと思うか?」


大淀「ないでしょうね」


提督「あいつはこれから何をするんだ?何と戦う気なんだ?残念だが、俺の思考はあいつには及ばない。だから予想もできないな」


大淀「今は大方の予想がついただけでも良しとしましょう」


提督「そうだな」



コンコン



提督「入れ」


夕張「失礼しました」


大淀「あら、夕張さん。どうしました?」


夕張「整備士さんのことなんですが…」


提督「あいつがどうした?」


夕張「もし彼を捕らえた場合、また元の居場所に戻ることは出来るのでしょうか?」


大淀「それは………」


提督「最大限の配慮をするようにしよう」


夕張「そんな建前はどうでもいいんです!ただ、彼がどうなるのか、それが聞きたいんです!」


提督「……………」


大淀「……………」


提督「あいつの罪状からして、まず数十年は刑務所行きだ。そして、君には伝えていなかったが、軍はあいつを排除する方向で動いている。おそらく捕まったら……………」


夕張「………殺されるんですか?」


提督「ああ……おそらく」


夕張「提督はそれでいいんですか!?」


提督「軍の意向には逆らえない」


夕張「同僚じゃ……古い仲なんでしょ……?」


提督「私は彼個人より、この鎮守府全体を優先しなければならない」


夕張「なんで…整備士さんが……死ななきゃならないんですか……」


提督「お前を守るためだよ。そして鎮守府も」


夕張「………整備士さんを連れもどせないなら………」


提督「……………」


夕張「………いや、やめておきます。彼のために、居場所は残しとかないと…」




…ガチャ…………バタン




大淀「提督…」


提督「なあ、大淀」


大淀「はい」


提督「分からないんだ。どこの味方になって、どこと戦って、誰を守ればいいか」


大淀「…我々はもしかしたら、試されているのかもしれませんね」



_________翌日 執務室




コンコン



大淀「提督、緊急連絡です!」


提督「…!君がそんなに慌てるとは…何事だ?」


大淀「幌筵泊地が…陥落しました」


提督「なんだと!?」


大淀「一度に多数の深海棲艦に襲撃され、抵抗虚しく…。また、司令塔の無い深海棲艦が、戦略的に行動していたとの報告もあります…それと…」


提督「…それと?」


大淀「幌筵泊地から全国に電文が入りました。旧日本軍の暗号です」


提督「内容は?」


大淀「こちらです」




"我々が求めるのは秩序溢れる世界だ。

深海棲艦を受け入れ、君たちが隠している秘密を認めるか、もしくは全面戦争か、選べ"




提督「…間違いない…あいつの文だ」


大淀「ということは…あちらの司令官は…」


提督「ああ、どうやったかは分からんが、あいつは深海棲艦を率いている」


大淀「自暴自棄になったか…それとも…」


提督「いいや、あいつは常に冷静だよ。全て理屈ありきだ」



ガチャッ



夕張「提督…!」


夕立「提督さん…これって…」


提督「ああ…整備士だ」


夕張「どうして……?」


夕立「…………」


提督「あいつは、完全に私たちと対峙した。もうあいつは仲間じゃない」


夕張「……敵ですね…」


夕立「夕立……整備士さんとは戦いたくないっぽい…」


提督「これで…あいつはもうテロリストだ。もし捕まっても死刑になる。現実を見ろ夕立」


夕立「もう生きれないっぽい?」


提督「ああ」


夕立「……だったら、だったら夕立も一緒に死ぬっぽい!」


夕張「やめて!」


夕立「……………」


夕張「もう………やめてよ………もうたくさんだよ…」




___________幌筵泊地




ヲ級「コレデ、ホントニイインダナ?テイトク」


整備士「完璧だ。これで、やっと第一歩だ」


幌筵提督「ーーーー!ーー!」


整備士「ああ、縛ったままでした。申し訳ありません」


幌筵提督「…君は…何者かね?」


整備士「そうだな…深海提督、とでも名乗りましょうか」


幌筵提督「君の目的はなんだね?」


深海提督「俺はあんた達の上層部に用があります。寺山修司の自立のすすめ、読んだことは?」


幌筵提督「ないな、それがどうかしたのか?」


深海提督「その本によると、地上は限りない戦いのために見えない血で溢れているそうです。これは持論ですが、それが顕在化したら、地上は本物の地獄になる」


幌筵提督「テロでも起こす気なのかね?」


深海提督「いや、実際に既に顕在化しているんですよ。だから、それを作った連中には、自分で作った地獄で苦しんでもらおうと思っています」


幌筵提督「狂人め…!」


深海提督「俺が狂人だとしたら、もっともっと狂った連中がいます。それがあんたらの飼い主だ」


幌筵提督「うるさい!貴様らなんぞに泊地は渡さん!」


深海提督「……がっかりですよ…もう少し話が通じると思ったのに。あと、安心してください。ここの艦娘達は無事ですよ。気を失ったりはしてるでしょうけど」


幌筵提督「本当に…なんのつもりなんだ…?君たちは…」


深海提督「だから言ったでしょう?我々が求めるのは、秩序溢れる世界だ」




___________翌日 執務室





大淀「司令部より入電です。

"この度 深海棲艦側の味方をする人類の敵が現れた。日本国、そして国民の危機である。このような暴挙を断じて許してはならない。我々は彼らに正義の鉄槌を下さねばならない。3日後、彼らに対して徹底抗戦をする。詳細は後日報告する"

以上です」


提督「なあ、大淀」


大淀「はい」


提督「正義ってなんなんだろうな?」


大淀「相対的な価値観ですね」


提督「うん、いや、そうなんだけどさ。本当の正義って何だろうな。一体何が正しいんだ?」


大淀「こう言うのはどうかと思いますが…おそらく整備士さん側が、本当の正義に近いと思います」


提督「だよな。それでも、俺たちはあいつと戦わなくちゃならない」


大淀「………」


提督「………なあ」


大淀「はい」


提督「何か話してくれ…頭がおかしくなりそうなんだ」


大淀「…我々は、現状を維持しなければ、大きな損害を被ります」


提督「………」


大淀「彼らを悪と断定して、自らを正義と偽ることで、その損害は回避できます」


提督「………」


大淀「我々がとれる選択肢は、それだけです」


提督「結局、誰かの下についた時点で、避けられん結末だったのかもな」


大淀「はい」


提督「皆を集会場に集めてくれ」


大淀「はい」




__________単冠湾泊地 通信室




《こちら暁、敵影なし》


単冠湾提督「了解、次のポイントに移動してくれ」


《了か………待って、何よあれ……》


単冠湾提督「暁、何が見える、報告せよ」


《イ級多数、その後ろに、ル級、タ級、レ級、ヲ級………あと…あれは姫級?なんで…》


単冠湾提督「暁、急いでその場を離れよ、命令だ!」


《や……、足がすくんで……》


単冠湾提督「暁!撤退せよ!」


《しれいk…ザザザーーーーーッ》


単冠湾提督「暁!暁!」




__________翌日 横須賀鎮守府 執務室




大淀「提督、報告があります」


提督「言いたまえ」


大淀「…単冠湾泊地が陥落しました」


提督「…………」


大淀「単冠湾泊地より入電です。

"あなた達の答えは聞かせてもらった。非常に残念だ。あなた達はファウストのように愚かで、メフィストフェレスのように狡猾だ"

以上です」


提督「フッ…実にあいつらしいな」


大淀「そうですね」


提督「なあ大淀、単冠湾に入電してくれ。"The optimist sees the doughnut, the pessimist sees the hole."」


大淀「…どういう意味ですか?」


提督「ちょっとした皮肉だよ」




__________単冠湾泊地 執務室




深海提督「楽観主義者はドーナツを見て、悲観主義者はその穴をみる…」


ヲ級「ナンダ?ソレハ」


深海提督「オスカーワイルドという人の言葉だ」


ヲ級「ウレシソウダナ」


深海提督「ああ、嬉しいね…、全くあいつらしいよ、皮肉のつもりかな」


ヲ級「ニンゲンハ、ヨクワカラナイ、ワルクイワレタンダロウ?」


深海提督「そうなんだけどね………」


ヲ級「………オマエハ イツモ サビシソウダナ」


深海提督「…そう見えるか?」


ヲ級「アア、ワレワレデハダメナノカ?」


深海提督「ダメじゃないよ。ありがとう。だけど、全て捨ててきたんだ。名誉も居場所も。だから今更どうしようもない」


ヲ級「コノタタカイガオワッタラ、ワレワレカラモハナレルノカ?」


深海提督「おそらくな」


ヲ級「イヤダ!ズットイッショニイテクレ!」


深海提督「…分かってくれ、世界が俺の存在を許してくれないんだよ」


ヲ級「コノママ、タタカイガツヅケバイイ。ソシタラズットイッショダ」


深海提督「それはダメだ。それでは本末転倒だ」


ヲ級「イヤダ……イヤダ………」


深海提督「……困ったな…」


単冠湾提督「…君」


深海提督「ああ、申し訳ありません。お見苦しいところを」


単冠湾提督「いや、しかし微笑ましいものだな」


深海提督「俺にとっては大問題ですよ。…ところで報告書は読んでくれました?」


単冠湾提督「ああ、到底信じられないが。深海棲艦という実例があるからな。信じないわけにもいかない」


深海提督「…納得してもらえましたか」


単冠湾提督「ああ、それに…暁が生きていてくれたなら、それでいい」


深海提督「…俺の邪魔は、しないで頂けますね?」


単冠湾提督「もちろんだ。しかし私は海軍の人間だ。協力はできない」


深海提督「邪魔が無ければ十分ですよ」


単冠湾提督「…ところで、たとえこれが終わっても、君はもう生きては…」


深海提督「いいんです。大義に殉教できるならそれで」


ヲ級「ソンナノダメダ!」


深海提督「…すみません。彼女と少し外へ出てきます」


単冠湾提督「ああ」



…ガチャン



単冠湾提督「君は…大馬鹿野郎だな」




___________翌日 執務室




大淀「提督、報告があります」


提督「言いたまえ」


大淀「明日の作戦の概要が発表されました。作戦としては、現在敵勢力は北海周辺にいると考え、大湊警備府を防衛ラインとし、敵を迎撃するというものです。そして、最も近い我々が一番最初に向かい、大湊警備府の艦隊と戦線に加わります。絶対に本州の拠点をとられてはならないとのことです」


提督「まあ、順当なところだろうな」


大淀「あまりにも捻りがありませんね」


提督「あいつは分かりやすく最終決戦の構図をつくったようだ」


大淀「はい」


提督「大淀、車を手配してくれ」


大淀「車…ですか?」


提督「そうだ」


大淀「行き先は?」


提督「決まっているだろう。大湊警備府だ」


大淀「提督まで行く必要は…いえ、分かりました。今すぐ手配いたします」


提督「すまないな。あと、夕張と夕立を呼んでくれ」


大淀「了解しました」



ガチャ…



夕張「失礼します」


夕立「失礼します」


提督「明日の作戦は聞いたか?」


夕張「はい」


提督「俺たちは明後日から加わる。そのために、今から大湊に向かうわけだが、君たちには待機を命令する」


夕張「…………」


夕立「…夕立は嫌っぽい」


提督「命令に背くつもりか?」


夕立「夕立は、戦いに参加するっぽい!参加して、整備士さんをボコボコにするっぽい!」


提督「…………」


夕張「あの…私も、参加したいです」


提督「いや、すまなかった。君たちがこの作戦で命令が聞かないようなことがあったら問題だと思い、確認したかったのだ。最初から参加させるつもりだったよ」


夕立「夕立、頑張るっぽい!」


提督「ああ、期待してるぞ」




___________ 北海道沿岸 道東太平洋海域 ボート甲板




深海提督「うん、冷えるね。ところで君たちは裸に近いけど寒くないのかい?」


ヲ級「ジブンデ、タイオンヲアゲレル、テヲカシテミロ」


深海提督「ああ、暖かい」


ヲ級「ズット、コウシテテモイイゾ」


深海提督「しばらく、こうさせてもらうよ」


ヲ級「…………」グイッ


深海提督「…おっと」ギュッ


ヲ級「…………」ギュー


深海提督「…ヲ級」


ヲ級「ナンダ?」


深海提督「おそらく次が最後の戦いだ。敵も全戦力を投入してくる」


ヲ級「…………」


深海提督「勝っても負けても、次が最後だ」


ヲ級「……フアンナノカ?」


深海提督「どうしてそう思うんだい?」


ヲ級「フルエヲコラエテイルノガ、ワカル」


深海提督「参ったな…そこまで見抜かれているのか…」


ヲ級「アンシンシロ。ワレワレノタマシイハ、イツモオマエトトモニアル」


深海提督「…司令官が励まされてたら、世話ないな」


ヲ級「シズムトキハ、ミンナイッショダ」


深海提督「ロクでもないね…ホント…」



___________翌日 大湊警備府



大湊提督「提督、よく来てくれた」


提督「ええ、お出迎えありがとうございます」


大湊提督「早速ですが、作戦の説明をしたい。執務室へ」


提督「分かりました」




………


……………


大湊提督「この警備府の立地は、この地図にある通りです。津軽海峡は、二方向を陸地に囲まれていますので、敵はどちらかから侵入すると思われます。そしてここは陸奥湾の奥地。この地形を利用して、津軽海峡の両サイドを前線とし、更に陸奥湾の入り口に防衛線を展開します」


提督「…………」


大湊提督「…どうかしましたかな?」


提督「…ああ、いえ、なんでもありません」


大湊提督「よろしい。では続けます。ここにある…………」


提督(…この作戦は、一見合理的だが、本当にこれでいいのか?敵は整備士だ。あいつならこの程度予想がついているはず。何かを見落としている気がする)


大湊提督「…………以上になります。何か質問は?」


提督「…あの…もし、他の方法で敵が攻撃して来た場合は…」


大湊提督「これは侵入経路を全て塞ぐような布陣です。そんなことはありえません」


提督(ああ…だめだ、この司令官は。今まで深海棲艦が戦略をとってこなかったから、感覚が麻痺しているんだ)


大湊提督「……ふむ、何か不満がおありのようで。ま、ここまでの大規模作戦は初めてです。緊張なさるのも無理はない。ですが、肩の力を抜くことも重要ですよ」


提督「ええ、すみません。若気の至りというか……」


大湊提督「ハッハッハ!年寄りの耳には痛いですな」


提督「ハハ…では、秘書艦と、連絡をとってきます」




………


……………


提督「……………………以上が、作戦だそうだ」


大淀「だめですね。おそらくその作戦では」


提督「やっぱりそう思うか」


大淀「私は作戦立案をしたことがないので詳しくは分かりませんが、確実に、敵は先を行きます。でなければ2つも泊地が落とされていません」


提督「そうだよなあ…」


大淀「それと、泊地を複数落とすような力を持った敵に対して、大本営は戦力の逐次投入を行なっています。呉の主力艦隊がこちらに来るまでは更に翌日。これも戦略的には最低ですね」


提督「敵の侵攻速度から見て焦ったんだろう。そう言っても、無理もない」


大淀「そうですね…」


提督「今は全くあいつの行動が予想できない。ひとまずはこの作戦で行くしかない。艦隊に連絡してくれ」


大淀「了解しました」


提督「ああ、長い船旅で疲れただろうから、休ませてからでいい」


大淀「提督も、お疲れでは?」


提督「いいや、艦娘ほどではない。君もさっさと休みたまえ、すぐに警戒態勢に入る」


大淀「それでは、お言葉に甘えて」


提督「………………」


提督(なあ整備士……お前は今どういう気持ちなんだ?一体何を見て、何を考えている?)



___________翌日 大湊警備府



呉提督「お会いできて光栄です。大湊提督、そして…提督」


提督(こいつまだ根に持ってやがんのか)


大湊提督「ああ、よく来てくれた。案内しよう。ついて来てくれ」


呉提督「はい」




………


……………



大淀「提督、艦隊が配置につきました」


提督「ああ、了解した。ここからだな。気を引き締めていかんと」


大淀「はい」


提督「これで、明日には呉艦隊も配置につく」


大淀「守りはより強固なものになりましたね」


提督「一見安心だが…不安感が拭えないな」


大淀「まあ、相手が相手ですから」


提督「そうだな…」



_____________翌日



提督「今日で3日目だよな」


大淀「そうなりますね」


提督「まだ…動きはないか」


大淀「少なからず近海にはまだ」


提督「あいつなら、もっと早く攻めてくるものだと思ってたんだがな。こっちが戦闘配備する前にさ」


大淀「それか違う目的があったのかもしれませんよ」


提督「例えば?」


大淀「こちらの戦意を削ぐために、主力をまとめて叩けるように集まるまで待っているとか」


提督「それだ!」


大淀「いきなり大声上げないでください」


提督「すまない。だが、あまりに納得できたものでな」


大淀「だとすれば…もうそろそろですかね…」


提督「ああ、間違いないだろう。こちらの主力は呉艦隊だからな」




ブロロロロ…




提督「ん?エンジン音?」



ドォン!ドォン!ドゴォォォン!



提督「オイオイオイオイオイ!ヤバイだろ!これ!空襲ってなんだよ!」


大淀「3時方向?ということは…」


提督「あいつ…太平洋から陸奥湾に航空機飛ばしてきてやがる」




____________道南太平洋海域 ボート甲板




深海提督「…ニイタカヤマノボレ」


ヲ級「ナンダ?ソレ」


深海提督「圧政と理不尽に耐えてきた者の、反撃の狼煙だよ」


ヲ級「ヨクワカラナイナ」


深海提督「フッ…まあいいさ。さあ諸君!撃鉄を上げよ!優雅と剛毅の鞭で、道成寺の衣裳簞笥を開けてやろう!」




___________大湊警備府





大湊提督「ああ…なんということだ…」


提督「大湊提督、被害のほどは?」


大湊提督「被害自体はそれほど大きくはない。ただ…」


提督「ただ?」


大湊提督「通信設備だけを集中的にやられた…艦娘と交信ができない…」


提督「…………」


提督(ああ、見えてきた…あいつの作戦が…しかしもう遅い…)


呉提督「ハッハッハ!この程度なんの問題もありません。我が艦隊は独自に行動し勝利を掴むことができる優秀な者ばかりです。心配には及びません」


大湊提督「おお!そうか!」


提督(バカだこいつら…これから何が起こるのかを分かっていない。海上で情報が掴めないのは致命的だ)




___________ 津軽海峡 東




大和「提督?提督?………………繋がらない…」


長門「何が起こっている…?」


夕立「さすが整備士さんっぽい…早速ピンチっぽい」


瑞鶴「とりあえず、彩雲を飛ばすわよ」


瑞鶴「……………」


瑞鶴「見つけた。二時方向から、多数のイ級」


長門「イ級?ただの雑魚じゃないか」


夕立「慢心はダメっぽい!絶対に何かあるっぽい!」


大和「とりあえず、迎撃はしなきゃダメでしょう。砲雷撃戦。用意!」




………


……………


大和「ふう、すごい数だったわね」


長門「だが一方的な戦闘だった。嫌な感じだ」


夕立(なんだか変な感じっぽい…何かないか探すっぽい!)


大和「大口叩いてた割には拍子抜けね」


夕立(何か…何か……。あれ?あの白い線は…航跡?)


夕立「大和さん!魚雷っぽい!」


大和「えっ?」



ドゴォォォォン!



大和「きゃあ!」中破


長門「潜水艦か!」


夕立「瑞鶴さん!後ろ!」



ドゴォォォォン!



瑞鶴「クッソ!」大破


夕立「…囲まれてるっぽい?」




…………


…………………



長門「…全員大破か」


夕立「絶対絶命っぽい」


瑞鶴「こんなところで…沈むなんて…」


夕立「………」


夕立(今、対潜戦が出来るのは夕立だけ…)


夕立「よし!夕立が囮になるっぽい!」


大和「あなた…何を言って」


夕立「今戦えるのは夕立だけっぽい!だから敵を引きつけるっぽい!」


長門「…そうしよう」


大和「長門!?」


長門「ここで全員沈んだら、そっちの方が問題だ。そんなこと分かっているだろう」


大和「…………」


瑞鶴「…分かった」


夕立「それじゃあ決まりっぽい!私の屍を踏んでいくっぽい!」



……



ソ級「…………」


夕立「さあ、素敵なパーティーしましょう?」




__________ 津軽海峡 西




翔鶴「敵を探知、三時方向、あれはレ級と…ル級?複数確認」


夕張「戦艦!?というか三時方向ってことはもう湾内に…」


翔鶴「ええ、警備府と連絡が取れなくなって久しい…そう考えるのが妥当でしょう」


陸奥「陸奥の中に入り込むなんて…」


夕張「冗談言ってる場合ですか?ともかく、迎撃しないと」







………


……………






___________ 大湊警備府





艦娘達「…………」大破





提督「全艦娘が戦闘不能…傷が深い者から入渠させています。幸い、沈んだ者はおりません」


大湊提督「ああ…なんということだ」


呉提督「なんだと!?ありえない!」


提督「現実を見てください。負けたんだ。私たちは」




…パチパチパチパチ




呉提督「誰だ!?」


大湊提督「姿を見せろ!」





深海提督「いやあ、実に素晴らしい!慢心と希望的観測。日本の海軍は、先の戦いで何を学んだのでしょうね?」




提督「久しぶりだな、整備士」


深海提督「今は深海提督と呼んでくれ」


大湊提督「君は何者かね」


深海提督「もう三度目だ。名乗るのも面倒になってきた。提督、君なら分かるだろう。説明してやってくれ」


提督「こいつは、横須賀鎮守府の元整備士で、今回の件の首謀者だ」


深海提督「百点満点だ。さて、ここの管理者は誰だ?」


大湊提督「…私だ」


深海提督「ほう…なるほど」


大湊提督「な、なんだね君は!?」


深海提督「サリンジャーのバナナフィッシュにうってつけの日を読んだことは?」


大湊提督「…し、知らん」


深海提督「バナナフィッシュはとても不思議な生物で、バナナの沢山入った穴の中に入ると、とたんにその中のバナナを平らげてしまう。そして、太って穴から出られなくて死んでしまう」


大湊提督「…何が言いたいのかね?」


深海提督「今回、俺が敵だったから一隻も沈めていないが、もし相手が違ったらどうなってたか分かります?」


大湊提督「それは…」


深海提督「あなたのような人が、きっと軍上層部にはたくさんいるんだな」


呉提督「お前!良い加減に…」


深海提督「敗者は黙れよ。あんたに大和はもったいない」


呉提督「ぐっ…」


深海提督「とりあえず、これ以上の面倒は嫌なんで、さっさと負けを認めてください。"私は負けました。"はい繰り返して?」


大湊提督「私は…負けました」


呉提督「……………わ、私は負けました」


提督「私は負けました」


深海提督「はい、では提督、少し来てくれ、二人になりたい」


提督「ああ、望むところだ」





………


……………



提督「本当に、驚かされたよ」


深海提督「こっちからすると、お前に作戦を読まれないかヒヤヒヤしてたよ」


提督「バカ言え、私がお前に勝てたことなど一度もないだろう」


深海提督「だが、こっちの手も何度も見せてたわけだから、どっちみち危険だった」


提督「…無駄話はここら辺で、本題に入ろうぜ」


深海提督「ああ、何から話そうか」


提督「今回の動機と、事の真相を話してくれ」


深海提督「そうだな…じゃあ最初から話そう。

俺は大抵のことは高い水準で出来るんだ、だが、何かが傑出してできるということはない。だから自分は何が得意と言えない。もっと言えば何者にもなれない。ただ、唯一何か物を作っているときは、自分の存在を肯定できる。その作者になれる。そんな気がする。」


提督「それが理由か?」


深海提督「いいや、これは士官にならなかった理由だ。本題はここから。

俺は本質的には人間は皆無価値なことを知っている。だから、自分に価値を見出だせなかったんだ。自分は、ただ地球の表面にある凸凹の続きの凸凹で、物質の流れという川の中にある淀みで、そしてこの思考も、五感も、全てただの現象なんだ。

さて、突然だが、深海棲艦と艦娘について、一般的にはどう言われている?」


提督「大戦時の、海の底に沈んだ怨念が具現化して現れたのが深海棲艦。そして、かつての英雄達の魂が再びこの国を守るために現れたのが艦娘…ではないのか?」


深海提督「そうだ。だから艦娘を見たときは嬉しかったんだ。本当に魂が存在するんだって思った。魂の存在を、命の意味を、証明できる気がした。

でも違った。全部インチキだった。すこし長くなるが、説明するぞ。」


提督「ああ」


深海提督「日本の独立のためには核以上のものが必要だった。

そのためにこの国はクローン兵士を開発した。

銃弾を弾く強靭な肉体、死をも恐れぬ勇猛さ。

秘密裏に研究していたクローン技術と生物工学は最高峰に達して、ついに人類を超えたわけだ。

それが艦娘だ。女しかいないのは、ただ操作をしやすいからだそうだ。

しかし、国際条約でクローンと生物兵器は禁止されていた。

だから配備を正当化するための、それ相応の敵として、深海棲艦がつくられた。

対深海棲艦戦争だけでも十分な利益があることを宣伝することで、世の資本家は次々に投資をし、計画は達成された。

おかげで今の日本は世界一の軍事大国だ」


提督「………」


深海提督「後は洗脳して、艦娘には艦の記憶、深海棲艦には大戦時の怨念とやらを入れてやれば出来上がりだ。艦娘の深海棲艦化なんてものがあるけど、違う。本質的に艦娘と深海棲艦は同じものだ。

どうだ?これが世界の真実だよ。大戦の記憶?英雄の魂?そんなものは初めからなかった。そうやって非科学的なもので思考停止させておけば、誰も艦娘の正体に気付かないと思ったんだろうな。まあ実際そうなったわけだが…」


提督「………」


深海提督「一度だけ、深海棲艦を鹵獲したときがあっただろう。

すぐに大本営に送られたわけだが、その前に手短に調べさせてもらったんだよ。そしたら、そいつは一瞬だけ意識を取り戻した。しばらく話をさせてもらったわけだが、これがどうにもおかしい。最初の記憶は海じゃないっていうんだ。白い天井と、白い壁のある部屋で、液体の中にいたそうだ」


提督「それは…研究所?」


深海提督「ああ、リーク写真にもうつってたあの場所だ。ちなみに大東亜理研っていう国営研究所らしい。その時だ、一番はじめに疑問を持ったのは。その後、調査を続けてこの真実にたどり着いた。俺は全てに裏切られた気持ちになった」


提督「…………」


深海提督「俺は艦娘が好きなんだよ。

だからこそ、彼らの魂がまがい物だと気付いたときはショックだった。

それでも、そう気付いても、生き生きとして、笑顔で語りかけてくる彼女たちを否定することは出来なかった。

だから余計 許せなかったんだ。彼女たちを私的な利益に利用する奴らを。こんな存在を産んでしまった人間を…!

そして、同種の深海棲艦が、息絶えようとしている。そんなことがあってはならない。

だから、そういうクソ野郎共に問うたんだ。それが、俺がこうして戦っている理由だよ」


提督「陸軍がお前に近づいたみたいだがそれは?」


深海提督「あいつらか、あれは、事の真相を知らない中級将校が海軍の弱みを握れると思って近づいてきたらしい。実際はあいつらのトップもグルだけどな」


提督「………」


深海提督「だから、泊地をとって脅しをかけて認めさせようと思ってな。残りもすぐに陥落する」


提督「まだやる気なのか?」


深海提督「軍上層部の出方次第だ。こちらの要求を飲むようならもうしない。だが…」


提督「なるほど…ありがとう」


深海提督「すまなかったな。隠してて。軍を弱体化させないと皆が危なかったんだ」


提督「分かってるよ」


深海提督「俺の話は以上だ…………提督?」


提督「…少し…一人になりたい」


深海提督「…ああ」


提督「…………」



提督(なんということだ…そんな…そんなことって…。じゃあ俺たちは一体何と戦っていたんだ?)



大淀「…提督」


提督「うおっ、大淀か」


大淀「どこにもいないので…心配しましたよ」


提督「すまない。あいつと話してて…」


大淀「………!何を聞きました?」


提督「な、なんだよ?」


大淀「何を聞きましたか?」


提督「その…色々だ」


大淀「…まさか、艦娘についてとか…?」


提督「………」


提督(…これはマズイか?黙っておこう…)


提督「い、いや、聞いていない」


大淀「本当ですね!?」


提督「ああ」


大淀「…良かった…」


提督「………?」


大淀「本当に…良かった…」





………


……………



パァン!



深海提督「……ッ!」



「殺さないなんて、甘いことをしているからこうなるんですよ」



深海提督「ああ、そうか…君が……明石」


明石「我が国に、あなたのようなカリスマ的指導者は必要ない。国家の脅威となるから」


深海提督「国家の脅威?体制の脅威の間違いだろう」


明石「こんな状況で無駄口だなんて、理解に苦しみますね」


深海提督「問おう。君にとっての正義は何だ?」


明石「体制の維持。なので、私の任務はあなたの調査と暗殺」


深海提督「参ったね…そのために横須賀艦隊に…。ああそうだ、ひとつお願いを聞いてくれないか?」


明石「…聞くだけですよ」


深海提督「ありがとう…。夕張という艦がいる。君と気が合うと思う。…彼女を…よろしく頼む」


明石「いいでしょう。職場の同僚ですし」


深海提督「ああ…そいつは…………良かった…」


明石「まったく、最後まで他人事なんて…、整備士さん?」


整備士「………」


明石「…まったく、嫉妬しちゃいますよ」





………


……………



ヲ級「ドコダ!テイトク!」


ヲ級「ヲ?」





整備士「………」





ヲ級「…………」


整備士「…………」


ヲ級「…………」ギュー




__________ 翌日 大湊警備府




提督「…整備士が消えた?」


大淀「ええ、ついでに深海棲艦も、今朝までに跡形もなく」


大湊提督「ハッハッハ!怖気付いて逃げたのではあるまいな?」


呉提督「ハハハハハ!」





………


……………




_____________________________________







提督(その後、大湊警備府は、深海棲艦を追い返した場所として賞賛され、私を含む司令官は表彰された。

反対に、陥落した泊地の提督は、何かにつけて有罪とされ、極刑にされた。おそらく彼らが知った"何か"が、不都合なものだったのだろうが、決してこのことは口にしてはいけない。

今回の件は徹底して情報統制が行われ、外部に漏れることはなかった。

そして日本の周辺にいた深海棲艦は、あの日を境に完全に姿を消した。)



大淀「提督、御時間です」


提督「ああ、すぐに行く」


夕立「提督さん、偉くなったっぽい!」


夕張「こら、もう提督じゃないんだから…」


提督「はは…」



提督(あれから五年、私は元師の地位まで上り詰めた。

これは、自身の中に高い目的意識が無くては不可能だっただろう)



提督「やっと、あいつに報いることができるな」


大淀「ええ」


提督「さあ、暴いてやろう。道成寺の衣裳簞笥の正体を!」


夕立「それ整備士さんっぽい!」





ーfinー




後日譚のような外伝



後書き

とっつきづらいタイトルにとっつきづらい内容。これはひどい。
ちなみに所々作家の台詞が隠れています。

追記 : 読んでいただきありがとうございます。5日間の連載いかがだったでしょうか。しばらくはまたなろうにこもります。それでは( ̄^ ̄)ゞ

小説家になろうで小説も書いております。
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1: 2-4-11 2017-08-10 00:19:10 ID: ZYfWQlQb

これは期待

2: Schnitzel 2017-08-13 03:43:45 ID: ZgfV1A8P

期待……

3: Schnitzel 2017-08-20 15:18:22 ID: Jntk6s-z

おもすろかった……


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