不知火「この鎮守府は何かおかしい」
新任駆逐艦「不知火」が、鎮守府の謎に挑みます。
※このSSは、「最後から三番目の真実」の外伝です。
深海棲艦との戦いは、小さくない犠牲を払いながら終わり、再び世界に平和が戻った。
それから6年。深海棲艦の残党がまだ残っている地域もあり、艦娘達は彼らを無力化し保護することに日夜明け暮れている。
そして、横須賀鎮守府に、新たな艦娘が配属された。
___________日本国 神奈川 横須賀鎮守府
不知火「この鎮守府は何かがおかしい」
こんにちは、こんばんは、おはようございます。不知火です。
近頃は陽射しも強く。汗ばむことが多い毎日。体調は崩されていないでしょうか。
さて、社交辞令はさておき、本題に入りましょう。
不知火は、この鎮守府に対して疑念を持っています。
配属早々こんなことを言うのもなんですが、胡散臭いことこの上ないです。いや、この上ぬいです。
といっても些細なことなのですが…。ことは配属初日に遡ります。
……………配属初日 執務室
不知火「不知火です。ご指導ご鞭撻、よろしくです」
提督「ああ、よろしく。私がここの提督だ。何か質問とか無いかな?」
不知火「……ひとつあります」
提督「なんだい?」
不知火「不知火たちの、任務についてです」
提督「…ほう?」
不知火「深海棲艦は、人の生活を脅かす存在だと聞きました。では、何故駆除ではなく保護なのでしょうか?」
提督「…すまない。これは上からの命令なんだ。私からは何も言えん」
不知火「分かりました。ありがとうございます」
提督「それじゃあ、明石が部屋まで案内してくれるから」
…
………
……………
明石「ここが不知火ちゃんのお部屋。自由に使ってね」
不知火「ありがとうございます」
不知火「……………」
何もありませんね。いや、そりゃ何もあるわけはありませんが。
さっさと備品を確認して、鎮守府を見てきましょう。
不知火「ん?あれは…」
ベッドの下に何かありますね。これは…新聞?うわ、6年前のだ。
"横須賀鎮守府の整備士、汚職疑惑。警視庁特別捜査本部はロッキード事件以来の大汚職事件として…"
何これ…こんな話聞いたことない。しかも場所はここですね…
鎮守府を回りながら、少し話を聞いてみましょう。
〜〜〜〜〜〜〜〜
結局…何も分かりませんでした…
そもそも配置換えで当時を知る艦娘自体少なく、更に知っていても話そうとしなかったり。
こうなったら…
不知火「明日、提督に聞きましょう」
………………翌日 執務室
提督「6年前?ああ…」
不知火「何かご存知でしょうか?」
提督「私が着任したのは今年からだけど、確かに話題になったな。でもすぐにそんなこと忘れられて、深海棲艦との最終決戦が終わったのもあって、誰もそのことについて話さなくなったよ」
不知火「そうですか…」
提督「ああ!そうそう。前任の提督で、今は元帥になっている方なんだけど。あの人がここにいた時のことだよ。確か工廠にいる夕張っていう艦娘が当時からここにいるよ」
不知火「…!なるほど。貴重なお話ありがとうございます」
提督「いやいや、あんまり昔のことは知らないんだけど。役に立てたのなら良かったよ」
……………… 工廠
夕張「6年前?」
不知火「ええ。提督が、あなたは当時からここにいると」
夕張「そうよ。それで、何が知りたいの?」
不知火「6年前、ここの整備士が汚職を働いたと…」
夕張「…ああ、あれね。それ、結局疑惑だけだったのよ」
不知火「それは…本当ではないと?」
夕張「いいえ…疑惑のまま終わったの」
不知火「ですが、今はいませんよね」
夕張「ええ…本当に…どこに行ったのやら…」
不知火「…?」
夕張「ああ、ごめんね。じゃあ、少しだけ当時の話をしてあげるね」
不知火「…!お願いします」
夕張「彼は、っていうのは、整備士さんのことね。彼は、とても本が好きでね」
不知火「………」
夕張「いっつも本を読んでて、何か話すときは本の引用ばっかりで…」
不知火「………」
夕張「本当に優秀で、提督の右腕として鎮守府を支えて、色んな艦娘から慕われてたの」
不知火「………」
夕張「だけど、ある日姿を消したの。それも突然」
不知火「………」
夕張「そう。それだけよ。あと、この工廠の一角。あそこに整備士さんの宿舎があったの」
不知火「工廠に住んでいたのですか…」
夕張「ええ、物を作っている時だけは自分の存在を肯定できるーなんて言ってさ。無理言ってあそこに住んでたのよ」
不知火「なんだかイメージと違いました」
夕張「そう?ともかく、年中理屈ばっかりこねくり回して遊んでた奴だったわ」
不知火「夕張さんは、好きだったんですか?」
夕張「ふぇ!?えっ、い、いや、そんな…」
不知火「冗談です。お話ありがとうございました」
夕張「フフッ…暇になったら、いつでもここに来てくれていいからね」
不知火「はい。ありがとうございます」
___________最初に戻って、不知火の部屋
不知火「腑に落ちない…」
いやだってそうじゃないですか。
話そうとしない艦娘いるのもおかしいですし、当時特捜の捜査線上に整備士が上がったのは一体なんだったのか。
疑惑のまま?そんなことってありえますかね?いや、ありえない。いや、ありえぬい
そして、整備士を悪く思っている者は少ない。それどころか覚えている者は大抵好意的。
極め付けに突然いなくなったといいます。
不知火「これは何かありますね…」
しかし、今の所資料といっても新聞だけ。
しかも話を聞けたのも提督と夕張さんのみ。
あと調べていないことと言えば……あ
不知火「不知火、思いつきました」
___________ 夜 元整備士宿舎
ここが例の整備士さんの宿舎。
にしても、6年もたっているというのに、全然埃っぽくありませんね。
これは、確実に誰かが入って来ていますね。
まあ、いいでしょう。綺麗なのに越したことはありません。
えーと、まずは本棚から…
近代能楽集…フラニーとゾーイー…たったひとつの冴えたやり方…全く脈絡がありませんね。
本好きというのは本当だったみたいですが、種類は問わなかったのですね。
シリーズ本はと、シモーニュ・ヴェイユ著作集…寺山修司著作集…ユリシーズ…失われた時を求めて…
あれ、失われた時を求めての10、11巻が無くなってますね…誰かがとっていったのでしょうか?
うーん、本の間に何かを挟んでおくのは流石になかったですか…
あと調べてないところ…机の引き出しとか。
大抵は机の裏に何かをしておくのが定石ですが…うん。やっぱり穴がありましたね。
これは…ここの穴に何かを挿して引き出しの底板を外せるのかな?
デ◯ノートで見た構造です。この程度不知火にかかればお手の物です。
不知火「よし、開いた」
ふふ…整備士さんも、デ◯ノート好きだったんですね。
おや、封筒ですか。中身は…
"Experiments Report TR-01 Dolly"
これは…なんでしょうか?英語が沢山あって読めません。
ですが、この写真…女の子が液体の中に入れられてますが、どことなく深海棲艦に似て…
「あなた、そこで何をしているの?」
不知火「ヒッ!?あ…明石さん?」
明石「あら?…不知火ちゃん…それは何?ここで何を?」
不知火「えっと…えっと…」
明石「まあいいわ、それをよこしなさい」
不知火「はい」
明石「ああこれ…こんな所にあったんだ…」
不知火「…え?」
明石「これの内容、見た?」
不知火「い、いえ!見ていません!」
明石「そう…ねえ、不知火ちゃん」
不知火「はい!」
明石「明朝、執務室に来なさい。それと今日はもう部屋に戻りなさい」
不知火「はい!失礼しました!」
怖かった…明石さんのあんな顔初めて見ました…
普段とは違う虚ろな目…まるで何か深い闇があるような…
不知火「ね、寝ましょう…!」
___________ 翌朝 執務室
提督「不知火と、本部に?」
明石「ええ。突然申し訳ありません」
提督「いや、いいだろう。ついでに元帥によろしく言っといてくれ」
明石「かしこまりました」
明石「さあ、車に乗って、不知火ちゃん」
不知火「はい…」
___________ 日本海軍 軍令部
明石「元帥に話は通してあるから、言ってらっしゃい。私はここで待ってるから」
不知火「はい」
…
………
……………
不知火(ここが海軍の中心…広い…)
大淀「あなたが不知火さんですね」
不知火「はい」
大淀「元帥がお待ちです。こちらに」
不知火「初お目にかかります!不知火です!」
元帥「やあ、よく来たね。私が元帥だよ。といってもこの前まで提督だったからあんまり自覚は無いんだけど」
大淀「ふざけたこと言ってないで、さっさと本題に入ってください」
元帥「ああ、すまない。相変わらず厳しいね…」
不知火「あ、あの、不知火は何故ここに…?」
元帥「聞かされていなかったのか。まあいい。で、どこまで知ったんだ?」
不知火「えっと…整備士さんのことでしょうか…?」
元帥「そうだ」
不知火「汚職疑惑があって…本好きで…何か重要なことを知っていて…突然消えた…ぐらいです」
元帥「なるほど。それと、君は最初に提督に質問したそうだね。何故深海棲艦を保護するのか、と」
不知火「…はい」
元帥「うん。もっともな疑問だ。責めているわけじゃない。安心して?」
不知火「はい」
元帥「なるほど…。それら全ての疑問に答えるためには、この世界の真実を知る必要がある」
不知火「この世界の真実?」
元帥「少し昔話をしようか」
不知火「はい」
元帥「ある男がいた。とても聡明な男だ」
不知火「………」
元帥「その男は、持て余した知能で自身の違和感を追求した結果、世界の真実を知ってしまった」
不知火「………」
元帥「それを察知した組織は、その男を消そうとした」
不知火「………」
元帥「しかし、男は思いもよらない行動にでた。男は居場所も名誉も、全てを捨てて組織に挑んだ」
不知火「………」
元帥「しかし、組織の闇は男が思った以上に深かった。男は闇に足をすくわれ、自身の正義を貫き世界から消えた」
不知火「………」
元帥「男の名前は整備士」
不知火「………」
元帥「後に深海提督と名乗った」
不知火「…えっ?」
元帥「そして、男が組織に挑んだその戦いは、深海棲艦との最終決戦と呼ばれる」
不知火「そんな…」
元帥「…ショックを受けている所悪いが、これからあるものを見てもらう。大淀」
大淀「はい。こちらに」
元帥「これは彼のつくった啓蒙のための道具だ。我々はこれを整備士の報告書と読んでいる。読みたまえ」
不知火「……………」
…………
不知火「そんな…こんなことって…」
元帥「ちなみに、かつてそれを読んだ人間は、次々に組織によって消された」
不知火「ヒッ!」
元帥「ああ、脅かせてすまない。私がトップになるまでの話だ。私は知ろうとする者に真実を伝え、協力者にしようと考えている」
不知火「じゃあ…不知火は…消されない…?」
元帥「ああ、その代わり協力してもらうがね。とりあえず安心してくれ」
不知火「はい…協力というのは一体何を…?」
元帥「通常任務をこなしてくれ。ただ、このことは仲間には内密に」
不知火「はい!絶対に言いません!」
元帥「それじゃあ、これで話は終わりだ。車は?」
不知火「明石さんが…」
元帥「そうか、それじゃあ待たせるのも悪いな。いつでも帰ってくれて構わない」
…
………
……………
明石「…終わった?」
不知火「はい」
明石「じゃあ、聞いたのね」
不知火「…はい」
明石「………消されてないのが不思議だわ。甘いのね。今の上層部は」
不知火「…………」
不知火は、軽い気持ちで探偵ごっこをしていました。
でも、事態はそんなに軽く触れていいものではなかった。
あの場では"消された"と言われていたけど、整備士さんだって…
不知火「夕張さんに、謝らないといけませんね…」
大淀「良かったんですか?元帥」
元帥「どのみち、関係者をパージしていくんじゃ限界が来る。これぐらいがいいのさ。それに…」
大淀「それに?」
元帥「アレを知るだけでも、十分にお灸を据えたことになるだろう」
大淀「それは自身の経験から来る言葉ですか?」
元帥「ああ」
大淀「元帥、深海棲艦を保護する理由。ただ艦娘と同種だからというだけじゃないでしょう」
元帥「バレてた?」
大淀「私に隠し事ができるとでも?」
元帥「厳しいね」
大淀「それで、どういった意図が?」
元帥「無期懲役になっている元単冠湾提督から聞いたんだが、整備士の隣にはいつもヲ級がいたらしい」
大淀「そのヲ級を探すと?」
元帥「ああ、消えた整備士…多分殺されてるだろうが…あいつを弔ってやりたいんだ」
大淀「…"提督"らしいですね」
元帥「あいつなら、こういう場面で何を引用するんだろうなあ…」
-fin-
ところで、艦これ世界での軍の構造ってどうなってるんですかね…
小説家になろうで小説も書いてるよ。
リンク:http://ncode.syosetu.com/n6782ec/
このシリーズ好き