2018-06-27 01:07:47 更新

概要

突発的に降って来たネタなので不定期更新です、恐らく完結しないで投げっ放しになりそうです


前書き

ご都合主義で進行していきます。


プロローグ

今日も航空母艦としての任務を終えて基地へと帰投、埠頭に上がり艤装とのリンクを解除した後に艤装を身体から外し、待機していた回収班の仲間達にトラックへと運んでもらう。


私自身もトラックに乗り込み基地へと戻る、トラックの中では仲間達と雑談をしながら基地へと戻る間の暇を潰していた。


そんな中、防空担当としていつもコンビを組んでいる初月が私に話しかけてきた、お互いに口数は少ない方だが会話が嫌いというわけではないので雑談程度は気兼ねなく出来る仲だと私は思っているわ。



初月「そういえば加賀は聞いたかい? 今日は大型建造が行われる日なのだけど、以前から妖精さん達と綿密に打ち合わせして計画していたらしいよ」


加賀「聞いた事はあるわね、どの艦娘を建造するのかは全く知らないけれども、貴女は知っているのかしら?」


初月「僕が聞いたのはどうやら正規空母を建造するということくらいだね、ウチの鎮守府も激戦区に赴く事が多くなってきただろう?」


加賀「先を見据えてって事かしら、赤城さんは優秀すぎるが故にウチの基地から南方の泊地へと引き抜かれてしまったけれど、その所為かしらね」


朧「その話、朧も聞いてます、赤城さんが居なくなって随分経ちますからね、正規空母が加賀さんだけとなると代理とか編成も将来的には辛くなりそうですし」



この話に朧も割り込んで来た、この子も口数は少ないけれど初月や私みたいに単に口数が少ないという訳ではなくて、控えめで思慮深いからではないかと私は思っている。


あまり他人の話に割って入るタイプではないけれど、珍しい話題があると参加したくなる気持ちはわかるわ。



加賀「そうね、飛龍と蒼龍も所属は違うし、軽空母も祥鳳と瑞鳳の二人しかいない、大鳳が建造できたとしても貴重な装甲空母だから間違いなく引き抜かれるわね」


朧「中堅の基地は世知辛いですね…… 狙うは加賀さんの様なスタンダードなタイプの正規空母でしょうか?」


初月「僕はそうは思わないな、提督も先を見越した上で大量の資材を投入したいはずだ、そうなると……」


加賀「第五航空戦隊正規空母の二人、つまり翔鶴型姉妹を狙う事になるわね、少し前に装甲空母への改装が出来るようになったと聞いたわ」


初月「加賀も同じ意見なのか、僕も翔鶴型だと思っていたよ」


加賀「育成すれば装甲空母に改装できる、だけどそれにはかなりの時間が必要だわ、最初は未熟な正規空母、引き抜くにはリスクが大きい」


加賀「装甲空母になったとしても、育成に費やした時間を無駄にさせるような引き抜きはそうは行われない筈よ」



私が意見を述べると、二人ともある程度の納得をしたかのような表情を見せた、大型建造の話をしている内にトラックは私達の基地へと到着していた。



────数分後の提督執務室



共に任務を遂行した仲間達と提督執務室へと行く、今日は中破が一人居たので、その娘は先に入渠ドックへ行く様に指示を出しておいたわ。


執務室の扉の前に立ち手の甲で軽く三度叩き、自らの所属と名前、要件を簡潔に述べ許可を待つ。


少しの静寂の間、提督から入室の許可が降りる、執務室のドアを開き提督に一礼をした後に報告。



加賀「本日遂行の威力偵察任務が完了しました、中破以上の艦娘は入渠ドックへ速やかに行く様に指示してあります」


提督「うむ、ご苦労だった、日常の動作に支障が出るくらいの怪我をした艦娘は無理に来させなくて良い、結果はどうなったかね?」


加賀「はい、提督の予想通り、南方の地域には深海棲艦が活動している様です、しかし数は提督の想定以上と思われます」


提督「その様だな、何せ威力偵察で中破が出てしまうほどだ」


加賀「行きの航行中に偵察部隊と思われる編隊と一度目の交戦、指示されたポイントの孤島を複数偵察した際に二度目の交戦」


加賀「そして帰路の航行中にこれも偵察部隊と思われる編隊と三度目の交戦、かなり活発に活動していると思われます」



報告を聞いた後、提督は顎に手を当て思案に耽るも案が思いつかなかったようで、再び私と目を合わせた。



提督「報告ご苦労、怪我をしているだろうからドックへ向かい治癒をすると良い、報告書はその後で良い、期日までに提出を頼む」


加賀「はっ、ありがとうございます、報告を終了します」


提督「最後に一つだけ言わせてくれ、最近の成長が目覚ましいと聞くが無理に急ぐ様な事はするなよ」


加賀「何故それを?」


提督「結構あるのさ、成長して出来る事が急激に増えると、今までのペースがもどかしく感じて急いだり焦ったりするのがな」


加賀「……心に留めておきます、私からも一つ良いですか?」


提督「ああ、いいぞ、言ってみな」



帰路で初月から聞いた大型建造の話をここで振ってみる、本当に正規空母を建造するのかを。


新たに正規空母が増えるのは良い事だけれど、このタイミングで建造する理由を聞きたいわね。



加賀「大型建造で新たな正規空母を建造する、そのような話を聞いたのだけれど本当かしら?」


提督「ああ、間違いない、今度の建造で出せる資材は現在たったの2回分しかないが、今後も無理が無い程度に目当ての艦娘が来るまで建造するつもりだ」


提督「建造するのは第一候補に翔鶴型、第二候補は雲龍型、大穴で大鳳と言ったところだ」


加賀「大鳳とは大きく出ましたね、規模の大きい鎮守府に引き抜きされてしまうのでは?」


提督「交換条件をふっかける、応じないで強引に引き抜く様なら此方にも考えはある、正直なところ絵に描いた餅の様な話だから先ず大鳳が建造されるとは思っていないが」


提督「翔鶴型が来てくれる事を祈ろう、雲龍型が悪いというわけではないが需要が違うのでな……」



なかなか大きく出たわね、ウチの提督はあからさまに運に頼る事はしないのだけれど、今回は事情がいつもと違うようね。



提督「翔鶴が来たら祥鳳に、瑞鶴が来たら加賀に育成をしてもらう予定だ、瑞鳳は両方のサポートだ」


加賀「私が瑞鶴を……? 提督がご存じ無いとは思えないのですが『加賀』という艦娘は五航戦に対して非常に強い対抗心を持っていると聞きますが」


提督「加賀は五航戦は嫌いか?」


加賀「不在なので特に考えた事はありません、私自身も『他所の加賀』に比べればずっと未熟ですし、そんな態度をする気にはなれないわ」



提督は何を考えているのかしら、『加賀』である私に五航戦の育成をさせるなんて。


数こそ少ないけれど複数人いる『加賀』は私の知る限りでは皆、瑞鶴との関係は微妙だ。



提督「すまないがここからは個人的な話になる、加賀以外は退出してほしい」


初月「ああ、わかった、これで失礼するよ」


朧「了解しました、提督、失礼します」



初月・朧を含めた艦娘達が提督執務室のドアから廊下へと退出していく、これでこの部屋は私と提督だけになった、そういえば提督はかなりの多忙でないと秘書艦は任命しない人だったわね。



提督「仮定の話に過ぎないが瑞鶴を迎え入れることが出来た後の教育係に、加賀を指名したいのは君が『他所の加賀』とは決定的に違うからだ」


加賀「決定的に違う? まあ、言われてみれば違うとは思いますが、他所の加賀みたいに前線基地にも所属できないくらいに微妙な練度ですし」


加賀「何より私以外の加賀は最初からずば抜けて強かったという話をよく聞きます、ここから引き抜かれていった赤城さんの様に」


提督「そうだ、君は加賀としては珍しいタイプだ、世間的には弱いというのは短所に見られるが、育成するという点においてはそうではないとわたしは考えている」


提督「それと君は『かつての加賀』だった頃、轟沈したことに関しては他所の加賀とは違う非常に強い意識を持っている」


加賀「私以外の加賀もそれに関しては同じ事ではなくて?」


提督「慢心にて轟沈した事は君以外の加賀も戒めとして考えてはいるが、空母の頂点だった一航戦である誇りが戦果を求め、その意識が少しずつ薄れていくのだ」


提督「その点、君は旗艦や司令塔として指示を出す際に決して自分も仲間も無茶させない、必要以上の戦果を求めさせないように振る舞う」


加賀「私は仲間を危険に晒すくらいなら一航戦としての誇りなど必要ないわ、『かつての加賀』も誇りに重きを置いた結果、慢心をして沈み後輩達にも要らぬ苦労をさせた」


加賀「それに戦果というものは私達が決めるべきではないと思っているわ、私達のトップに立つ提督が決める事よ、命を捨ててまで自主的に求めるものではないわ」


提督「俺は君のそういうところに信頼を置いている、だからいずれ此処に来てくれるであろう瑞鶴の未来を任せたいと思っているのだ」


加賀「……そう、その気持ちは嬉しいわ、期待に応えてみせます」


提督「話は以上だ、君も入渠ドックで傷を癒し今日は休むと良い」



私は提督に一礼をして執務室から出た、まだ空母として未熟者以上一流未満という半端な私が育成を任せられるなんて……


提督のお気持ちは嬉しいけれど、正直不安の方が強いわね、自分の任務を遂行するだけで手一杯ね。


自分があまり愛想が良くないというのも自覚はしているし、激励のつもりが辛辣な一言になったという事例が過去に何度かあったので、ますます不安が募る。


自分の肩にかかる荷が重くなったのを感じるわね、とりあえず今日は入渠をして体を癒しましょう、考えるのはそれからね……



────二か月後



瑞鶴の育成を提督から任される事になってあれから二か月、大型建造を3回ほど実行した結果、一度目は翔鶴の艤装が完成、二度目と三度目は艤装の建造を失敗。


翔鶴の艤装と適合する女性を適性試験の結果で発見し、本人や親族の了承を取った後に妖精さんによる艤装適合手術を施術、艦娘へと生まれ変わり艤装との適合に無事成功。


現在は翔鶴としてこの基地に配属されて一か月半となる、まだまだ改にもなれない未熟者だけれど新兵だった頃の私より上達は早い、赤城さんの様な才能を感じられるわね。


艤装の性能も旧式で欠陥が多い『加賀』の物より、ずっと後に作られた『翔鶴』の艤装だから信頼性や出力は大幅に上ね、期待は大きいけれど重圧に負けてしまわない事を願うわ。



そして半月ほど前に四度目の大型建造で瑞鶴の艤装も完成した、艤装の適性試験に合格した女性も無事に確保。


本日、艤装と一緒にこの基地に着任するそうね、少し楽しみでもあるけれど教導する立場になるという不安もあるわ。


現在、私は大量の兵糧や物資の確認をしている、備蓄の管理に怠慢は特に許されないのでかなりの人数が駆り出されているのだ。


備蓄倉庫責任者の間宮さんの指導の下、皆が厳しく確認と備蓄データの照合をしている最中、連絡用の携帯端末から着信音が鳴り響いた。



加賀「もしもし、こちらは正規空母の加賀です」


提督「お、出たか、今は確か備蓄倉庫の管理だったか?」


加賀「ええ、そうです、大した用事でなければ連絡は控えてもらいたいのですが」


提督「残念ながら大した用事なんだな、『瑞鶴』がたった今こちらに着任して執務室に居る、艦船の頃に縁があった初月と朧も呼んだ、後は加賀だけだ、こちらに来れるか?」


加賀「わかりました、間宮さんに報告した後にそちらへ向かいます」


提督「ウチに来た瑞鶴だがどうにも違和感が拭えない、説明するのも難だからとりあえず見に来ると良い」


加賀「違和感ってどういu…… 切られてしまったわね」



説明するのが面倒くさいから強制的に話を切り上げたわね…… 違和感があるってどういう事なのかしら。


正直、面倒な事は戦闘だけで十分間に合っているのだけれど、見た方が良いという時もあるから素直に従うしかないかしら。


間宮さんに説明をして少々確認作業から外れなければならない旨を伝え、執務室へと向かう事に。


執務室へと歩を進めて10分程度、同じ敷地内とはいえ基地はかなり広いので徒歩だとそこそこ時間がかかる。


執務室のドアの前に立ち、いつもと同じように手の甲で3度軽くドアを叩き、いつものやりとりをして執務室へと入室した。



加賀「第一艦隊所属正規空母加賀、ただいま参りました」


提督「うむ、いつも任務以外は堅苦しい挨拶は要らんとは言ってはいるが律儀だな」


加賀「貴方が肩の力を抜き過ぎ、それで新しい空母の瑞鶴は…… そう、見ない顔だけれど貴方が瑞鶴ね」



瑞鶴と思われる艦娘は、朧・初月と笑顔で再会の挨拶? それとも初対面の挨拶かしら? 艦娘によって記憶の継承具合はかなりの個体差がある。


翔鶴は朧と初月の傍に立って微笑で瑞鶴を見つめている、やはり姉妹艦だから何か感じいる物があるのかしら。


私みたいに記憶の継承が薄いのではないかと思われる艦娘は、あまり艦船時代の個性を残さないらしいわね。


艦船時代の記憶が薄い私だけれど、この娘が『瑞鶴』というのは理解できる、ただ何故理解できるのかは説明するには非常に難しい。


とりあえずこれから教導をして共に戦い、まだ遠いとは言え将来的には私を超えて艦隊最強の空母になってもらう事になる瑞鶴に近づく。


顔を見た瞬間、確かに妙な違和感を覚える、他所の『瑞鶴』を見た事はあったけどまだまだ未熟で幼い顔立ちをしていた印象がある。



数人程見た中では如何にも血気盛んで、若さ故の負けん気の強さが顔立ちと性格に現れている『瑞鶴』ばかりだった。


プライドの高い『加賀』とぶつかり合うのも必然、と言わんばかりな『瑞鶴』しか見た事が無かった。


目の前にいる瑞鶴の顔からは我儘ぶりや気の強さなどは感じられない、穏やかな顔立ちをしている。


やや釣り目がちだが、翡翠色の瞳からは穏やかではあるけれど逞しさを感じられる程の眼力がある、けれどそこはかなとく憂いも匂わせる。


この娘は一体何を見て、何を経験して生きてきたのかしら…… 新任の若い娘が醸し出す雰囲気ではないわね。



それに『瑞鶴』と言えば特徴的なツーテールが目印ね、でもウチに来た瑞鶴は私と同じ頭の左側にサイドテールが一つ。


どんなに鈍い感性でも、これだけ明確に違いを見せてきたら違和感を覚えない方がおかしい。


……あれこれ考えても短い時間では答えは見つからない、先ずは挨拶をすることにしましょう。



加賀「貴方が今日この基地に着任した瑞鶴ね、私は正規空母の加賀、艦船時代の記憶が強いなら分かると思うけれど」



私が挨拶をすると彼女は顔をこちらに向け目を大きく見開き、僅かではあるが私の姿を凝視し、そして姿勢を正して敬礼した。



瑞鶴「せ、正規空母瑞鶴、ただいま着任しましたっ!!! 正規空母として万里一空の境地を目指して驀進します!!」


提督「君と翔鶴にはかなりの期待を寄せて建造をしたが、そんなに堅苦しい挨拶はしなくてもいいぞ」


瑞鶴「は、はいっ!! ご期待に副えるように頑張ります!! 翔鶴姉に負けないような空母になります!!!」


加賀「提督、労うのと甘やかすのは違うわ、でも提督の言う通りでもあるわね、瑞鶴、これからもよろしくね」



『瑞鶴』ってこんな堅苦しい挨拶をするタイプの艦娘だったかしら? 変に無礼よりは余程まともだけれど。


私が握手の為に右手を差し出すと瑞鶴は多少驚きの顔を見せるも、ゆっくりと私の手を握る。


最初は片手だったが少し間をおいてもう片方の手でも私の手を握った、その両手は何故か若干震えている。


何事かと思い私は手に落としていた視線を瑞鶴の顔へと上げる、瑞鶴は顔をくしゃくしゃにして涙を堪えていた。



瑞鶴「……加賀さん、私っ、私っ!! 守れなかった!! 仲間を守れなかった!!! 一航戦の誇りも守れなかった!!! 加賀さんの背中に追いつけなかった!!! 追い越せなかった!!!」


加賀「瑞鶴、貴女何を言って……」


瑞鶴「ごめんなさい、ごめんなさい…… 加賀さん…… ううっ……」



瑞鶴は理由のわからない謝罪と共に嗚咽を漏らし、私の右手を両手で握りしめながら膝から崩れ落ちた。


皆と私が呆気にとられる中、異様な空気を感じ取ったのか提督が翔鶴の名前を呼び、瑞鶴を介抱させる。


翔鶴は私の手から瑞鶴を引きはがし医務室へ向かうと提督に告げて、瑞鶴に肩を貸して執務室から退出した。



加賀「……少し普通ではないわね、あの子、あの様子だと艦娘として戦えるのかしら?」


提督「違和感の拭え無さはあったが、君が来る前まではそこまでおかしくはなかったのだ、君は何か覚えはあるか?」


加賀「いいえ、私自身には何も覚えはないわ、それに他の『加賀』と違って強さに憧れを持たれる程には強くはないわ、どうしたものかしらね」


提督「そうか…… 瑞鶴には悪いが今後の育成方針は心身共に安定している翔鶴を主軸に据えて行こうと思う」


加賀「異論はありません、戦争に不確定の要素は出来るだけ排除しなければならないわ」



あの子、普通の『瑞鶴』とは随分と違う、艦船時代の『加賀』は随分と厄介な事を今の私に遺していった様ね。


あの子の何が『加賀』に執着しているのか、心身共に落ち着いている時に聞かなければならないわね。



────数時間後



あれからそれなりの時間が経つ、医務室へと向かった翔鶴と瑞鶴はどうなったのかしら。


混乱の原因となった私が医務室へと赴くわけにもいかず、再び倉庫へ向かい間宮さんの資材管理の手伝いへと戻った。


資材管理も人海戦術で強引に推し進め、終わりが見えてきた頃に翔鶴が私の元へと小走りで来た。



加賀「あれから瑞鶴はどうなったのかしら、暴れたりはしていない?」


翔鶴「ええ、あれから私と軍医の先生が落ち着かせて寝かしつけました、瑞鶴の様子がどうにもおかしいのは記憶の継承がおかしいみたいなんです」


加賀「艦船時代の記憶がおかしい? どういうことなのかしら」


翔鶴「瑞鶴が少し落ち着いた時に説明しまして、私は五航戦時代の記憶が強く残っているのですが、瑞鶴は一航戦時代の記憶が強いようです」


加賀「瑞鶴が言う一航戦…… つまり艦船時代の赤城さんと私があの戦で轟沈した後、つまり戦争後期の話ね」


翔鶴「ええ、一航戦を託された瑞鶴にとって轟沈した加賀さんの存在は鮮烈に見えるようでして、色々と複雑な想いがあるみたいです」


翔鶴「ほとんどの『瑞鶴』は五航戦時代の記憶が強く、加賀さんもまだ轟沈せずに健在でしたので、違和感なく受け止められるのだと思います」



瑞鶴は『一航戦の誇り』を受け継ぐも惨敗を繰り返し敗戦したという事に負い目があるのかしら、私としては誇りを優先し過ぎた結果があの末路。


仲間を危険に追いやるくらいなら『一航戦の誇り』など深海にでも投げ捨ててしまえば良いと思っている、大凡『加賀』とは思えない思考ね、我ながら。


こんな『加賀』を『瑞鶴』はどの様に見てどの様に受け止めるのかしら? 幻滅や失望するのかしら? 私としては教導に悪い影響が出る気がしてならない。


私なりに精一杯を尽くしてあの子に大した成長が見込めそうにないなら、教導を辞退する必要もありそうだわ……



加賀「報告ありがとう、瑞鶴と接するのは少し間を置いてからにするわ、あの子、着任して右も左も分からないでしょ? 落ち着いてからにした方が良いと私は思うわ」


翔鶴「加賀さんのお考えに私も賛同です、瑞鶴にはその様に伝えておきます、新しい環境に馴染んでも居ないまま更に混乱を招くのは精神衛生の上では辛いと思います」


加賀「提督への報告と提案は私が口頭と纏めた物を書類として提出します、恐らく認可されるとは思うけれどされなかった場合は提督と相談する事になりそうね、教導の面も含めて……」



このまま精神が安定しないというのは起きないとは思うけれど、危うさと繊細さを抱えたまま瑞鶴を教導する事になるわ。


私は良く外見と性格が正反対と言われるくらいに感情的だし、あまり細かい事は気にも留めない生き方だから、繊細な相手にはどう接したら良いのか分からないわ……


まさかこんな複雑な事情を持った『瑞鶴』が着任するとも思ってなかったし、彼女の眼を見る限り芯の部分はしっかりとしていそうだけれど、表層的な部分はかなり繊細な印象を受けた。


他の『瑞鶴』と同じように負けん気と反骨心が強く、心身共にタフなタイプなら私も多少は気にを遣わずにみっちりと訓練で鍛え上げるのだけれど。


翔鶴「あの、加賀さん」


加賀「……ええ、ごめんなさいね、少し思案していたわ、何か意見でも?」


翔鶴「私に出来る事があれば申しつけ下さい、瑞鶴は血の繋がりこそ有りませんが精神の一部は姉妹ですし、同じ戦場に立つ仲間として力になりたいのです」


加賀「貴女は素直で仲間想いね、貴女が必要になった時には必ず呼びます、でも普段の鍛錬や任務は疎かにしない、わかった?」


翔鶴「は、はい!! 加賀さんの期待にお応えできるよう尽力いたします!!」


加賀「そう、良い返事ね、私は…… そうね、この仕事を終え次第、提督執務室へ行って提督と早速相談するわ、貴女も持ち場に戻りなさい」



私が翔鶴にそう促すと彼女は頭を軽く下げて自分の持ち場へと戻っていった、私も今の仕事を終わらせて提督と相談をしなければ……


さて、私の意見に提督はどう出るのかしら、あまり突飛な案を思いついたりしなければ良いのだけれど。



────加賀、一週間後、弓道場



あれから一週間、提督には私からの瑞鶴への接触を断念すると提案し、提督はそれ以外に良い策が思い浮かばず承諾。


瑞鶴のケアは翔鶴や鳳翔さん、間宮さんや提督が行っているとの事、私としてはそろそろ目前に姿を現すと思っているのだけれど。


誰も居ない静かな空間、私は考えを纏めるために弓と矢筒を下ろし、座して目を閉じ精神を静かに落ち着かせる。


ほぼ無音の弓道場に入り口の方から足音が聞こえてくる、やや不規則な足音が耳から入り鼓膜へと響く。


程無くして入口の扉が開く、姿を見なくても誰が来たのかはわかる、恐らく私を探して此処まで来たようね、入り口と来訪者を背にして座したまま私は口を開いた。



加賀「随分と時間がかかったようね、あの錯乱ぶりでは無理もないけれど」


瑞鶴「……その節はご迷惑をおかけしました」


加賀「責めているわけではないわ、『加賀』が素っ気ないのはご存知でしょう? それで体調はどうかしら、問題はない?」


瑞鶴「明石や軍医の先生からは問題はないと、提督からも漸く行動の自由を認められました」



瑞鶴が言い終えたのを確認し、一つ間を置いて立ち上がる、振り向いて瑞鶴の姿を確認する。


目の錯覚ではない様ね、やはり髪型が私と同じ…… 背丈は私より5cmくらい高いわね、私は瑞鶴へ向けて右手を差し出した。



加賀「握手のやり直しをしましょう、今度は錯乱なんてしないで頂戴ね?」


瑞鶴「えっ、あ、はいっ」



瑞鶴は私の右手を握手すると以前と同じように大事な物にでも触れる様に、両手でしっかりと握った。


何故こんな事をするのでしょう、不思議なものね。



加賀「貴女、此処まで来るのに随分と躊躇っていたようね、不安か何かで足音が随分と乱れていたわ」


瑞鶴「そんな事までわかってしまうんですか? やはり加賀さんはすごい……」


加賀「それで私に会って気分はどうかしら?」


瑞鶴「正直迷ってましたけど、会ってみたら特に迷う必要なんて無かったのではないかと思うくらいにスッキリしました、よくわかりませんけど」


加賀「そうね、『瑞鶴』はそのくらいで丁度良いと思うわ、単純なくらいで良いのよ」


瑞鶴「他の『瑞鶴』ってそんな感じの子が多いんですか?」


加賀「そうよ、気が強くて負けず嫌いでどちらかというと短慮で『加賀』とは犬猿の仲というパターンが多いわね」


瑞鶴「ええ~…… 私はとてもそんな感じになれそうにはないですね……」


加賀「私もそう思うわ、貴女の目を見ているとそんなに癇癪起こすようには見えないし、落ち着いているのは良い事なのではないかしら」



そう言うと瑞鶴は僅かながら笑顔を見せた、沈痛な顔しか見てなかったけど笑顔が出るくらいには回復したみたいね。


ついでだから腕試しでもしてもらおうかしらね。



加賀「貴女、折角弓道場に来たのだし、一つ射ってみないかしら」


瑞鶴「ええっ!? でも私は弓の訓練すらしたことないですよ? 弓を持つどころか弓道場も今日が初めてですし」


加賀「別に構わないわ、貴女の素質を見たいだけ、構えが出鱈目だろうが、的に届かなかろうが構わないわ、一応構えを簡単に指導してはあげるけれど」



私は瑞鶴に弓と矢を渡し、体を密着させて射撃時の構えと正しい姿勢を文字通り手取り足取りしながら構えさせた。


弓と矢を構えた瑞鶴はとても窮屈そうにしているが、とりあえずは形にはなっている様だ。



瑞鶴「なんだか呆気にとられている内に構えを取らされてしまった…… 加賀さん、やけに押しが強くないですか……」


加賀「こういう物は口で教えるよりやって見せた方が早いのよ、数日前まで学生してた貴女は口で説明してわかるのかしら?」


瑞鶴「それは確かに正論です…… でもこんな窮屈な姿勢なんですね、弓を構えるのって……」


加賀「貴女の筋肉や体幹がまだ未熟なのもあるし、身体が慣れていないからそう感じるのも無理はないわね、そこから矢と弦を引いてみなさい」


瑞鶴「わ、わかりました」



指示を出すと瑞鶴は力を込めて矢を引き始めた、弓は瑞鶴のパワーに応える様にしなやかに形を変えていく。



加賀「それだけ引けば良いわ、後は的に当てる事だけ考えて矢を放ちなさい」



瑞鶴は返事と共に的の捕捉を始め、狙いを付けたところで矢を放つ、矢は甲高い音を放ちながら大気を引き裂き的に向かって飛んでいくが、的から数十センチ離れたところに鏃が突き刺さる。


ふむ…… 矢の速度は申し分ないわね、素人同然の今でこれなら単純なパワーは私より明らかにある、鍛えていけば矢の速度はあっさりと抜かれるでしょうね。


それに私が常用している弓を瑞鶴に使わせたけれど、引き絞っている時点で既に弓が悲鳴をあげつつあった、もっと大型で頑強な弓を使わせても良い位かも知れないわ。



瑞鶴「ぜ、全然見当外れなところに刺さっちゃった…… か、格好悪ぅ~」


加賀「いえ、悪くは無かったわよ、貴女の姉はほぼ同じ状況で的の隅には当てたけれど」


瑞鶴「さすが翔鶴姉だわ!! 実際に会ってみて私より明らかに優秀に見えたし、やっぱりすごい人なんだなぁ」


加賀「でも、貴女には私達には無い利点が一つだけあるわね、それは弓を射るという点でかなりの加点となるわ」



瑞鶴の胸、正しくは胸当てを掌で軽く叩きながら私は言った。



加賀「貴女、瑞鳳と同じで胸部に無駄な脂肪が無いから咄嗟の狙撃で邪魔にならないわね、そこは羨ましいわね」


瑞鶴「なっ…… そ、それって私の胸が洗濯板って言いたいんですか!? 加賀さんそれセクハラですよ、セクハラ!!」


加賀「私達は空母だから板は板でも飛行甲板ってところかしらね」


瑞鶴「ひっどぉい!! 私だって好きで甲板してるわけじゃあないんですよ!?」


加賀「あら? 私だって好きで大きいわけではないのよ? 艦娘になって身体が異常に強くなるまでは肩こりとかあったくらいだし」


瑞鶴「好きで大きいわけじゃないって…… それってすんごい上から目線じゃないですかぁ!!」


加賀「先輩で上司なのだから上から目線で何か問題でも?」


瑞鶴「うっ、た、確かにそうですけどぉ…… なんだかなぁ、加賀さんマイペースすぎて調子狂うなぁ……」



私の感覚からしたら半分くらいは『ただの邪魔な脂肪の塊』であることには間違いないが、この子にとってはどうも違うようではある。


真面目な印象があったけど、からかってみると『瑞鶴』らしいところも多少あるようね、悪くは無いわね。



加賀「この際だから聞いておくけれど、貴女は私に戦闘の教導を受ける予定になっているの、この件については貴女はどう考えているのかしら」


瑞鶴「どう…… とは言われても、いまいち加賀さんの意図というか意味がわからないんですけど」


加賀「私との初対面で急に感情的になり問題になったのを忘れたの? 今後もそう言う事が無いと信用して良いのか疑問が残るのよ」


瑞鶴「あっ、その事でしたか…… あの時は加賀さんを見たら急に『艦船の記憶』がぶわぁっと湧き上がって、あんな事をしてしまいました……」


瑞鶴「で、でもっ、今日はそんな事は起きなかったので、気持ちが落ち着いていれば大丈夫だとは思います!!」


加賀「それってまた気持ちが昂ったら感情的になるという事よね? はぁ…… わかりました、不満が無いなら私が貴女を教導する事にします」


瑞鶴「不満なんてとんでもないです!! 加賀さんに鍛えて貰えるなんてとても光栄です、立派な空母になれる様に頑張ります!!」


加賀「頑張るのは良いけど他所の『加賀』とは一緒にしないで頂戴ね、私は『加賀』としてはあまり優秀ではないから」


瑞鶴「それってどういうことですか……」


加賀「話せば長くなる、貴女が戦場でも狼狽えない一人前の艦娘になったら教えてあげるわ、貴女は提督に容体が良くなったことを報告して指示を仰ぎなさい」


加賀「私はしばらく此処やトレーニング施設で引き続き鍛錬をするわ、返事は?」


瑞鶴「りょ、了解です!! 提督執務室へ報告に行ってきます!!」



なかなか元気があってよろしい、複雑な事情が有る子だけれど元気が無いよりはずっとマシね。


あの様子なら実の姉妹ではない翔鶴とも不仲になる事は無さそうね、翔鶴から衝突するということは先ずは無いと考えている。



────加賀、数か月後



瑞鶴の精神が落ち着いてからそれなりの時が経過したわ、季節が移り替わるほどの長い時では無いにしろ節目は迎えつつある。


あれから私は第一艦隊を外され第二艦隊へと異動、瑞鶴の教導をする為の時間を捻出する為だと提督に説明されたわ、あの人はあっさりと異動を認めたのには驚いていたけれど。


『個人』としては母国を護るという役目を果たせるならば立ち位置はそこまで拘りは無い、ただ『兵器』としては前線に出られるのが望ましいので留守番が仕事になるのだけは今のところは避けたい。


『兵器』として敵に通用しなくなった時は潔く退役する覚悟は既にできている、見苦しい姿はあまり仲間には見せたくは無い、その時は喜んで後輩達に席を譲るわ。


第二艦隊へ異動となり出撃の時間もかなり減り、スケジュールやローテーションを大幅に見直す事になった、少なくとも普段の海上防衛などでは出撃する事はあまり無くなってしまった。


最近のスケジュールの半分以上は瑞鶴関連ばかり、軍属としての振る舞いから装備の仕組みや整備方法、戦闘技術や戦術も座学でマンツーマンで教えている。


瑞鶴の鍛錬メニューには私自身も参加して身体が鈍らない様にしている、始めた当初は半分も出来ずにダウンしていた瑞鶴は今では7-8割は消化できるようになってきている。


つい最近まではただの女学生だったそうなので、それを考えれば努力をしている方だとは思うけれど、軍属としてはまだまだである。


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5件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2017-10-27 13:13:59 ID: inGy6ehh

大型か。資源が溶けるなあw
まるゆ君。カモーンw

2: SS好きの名無しさん 2017-11-03 18:18:59 ID: Ddh9kEDP

理想的な関係だね。
上は下を信頼し部下は上官を信頼する。

3: SS好きの名無しさん 2017-11-05 04:04:08 ID: AJn_ApBX

変わり種瑞鶴の特徴、中でも左側のサイドテールと言う箇所を読んだ時に、
地球出身・ミ○ドチルダ在住で聖王の養母でエースオブエースな某魔導師が、
瑞鶴に憑依してるんじゃないか、みたいな事を考えてしまった・・・。

4: SS好きの名無しさん 2017-11-05 08:16:33 ID: yu4yCYqo

辛かろうなあ。正しい反発はより高く飛べる力となるが。

5: SS好きの名無しさん 2017-11-08 08:03:18 ID: uJPpIn3T

ずいずいには加賀さんや赤城さんとの共同生活で荒療治しよう。あれはもうしょうがなかったと背中とお腹を擦りながらあやしてあげるんだ。おもいっきり泣いて吐き出して。生き残る決意と今度こそ護る決意を生むんだ。


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1: SS好きの名無しさん 2017-12-20 12:13:01 ID: RJE52nai

素直な瑞鶴も良いものですw

2: SS好きの名無しさん 2018-07-10 04:21:51 ID: ao_HYw-1

なかなか新鮮ですね。


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