2018-10-08 20:04:32 更新

概要

10年来あっていなかった、ラジオアクアマリンのDJ一同が、同窓会名目で日ノ坂町に集まってきた。だが、それだけで終わらなかった…


前書き

「きみの声をとどけたい」内容の作品を上梓し続けて、足掛け2年。とりあえず、大人になり、同窓会を開いたことでいったんの区切りにしたいと考えてます。
当初の企画は2018年の8月。おりしも、8月25日に「応援上映」と称したイベントに、お台場にある劇場まで行き参加した思いが残っている中で筆を走らせていたのですが、なかなか完結しない。でも、依頼ということもあって、筆が乗り始めた(10/初旬、別タイトルのコラボssの筆致がかなりいいのでその流れに乗って)機会に乗じて仕上げを試みたというのが実際です。

「きみの声をとどけたい」がなぜここまで名作呼ばわりされるのか?それは、全員のキャラが等しく立っているから。そして、泣きの演技で胸をつかまされるから。あの名曲を聞きながらのクライマックスは泣かざるを得ないから。
こんな作品を知りえたこと、それを10回にわたり劇場で見たこと、そしてそれでもまだまだ広まりが足りないと思っていること。すべてのアニメーション好きにこの作品の良さが伝わることを目標にssも上梓してきました。
一応の最終作となりますが、あくまで「一応」ですのでw

2018.8.27 執筆開始。
2018.10.8 第一版(12256字) 完成、公開。


「はやいものねぇ・・・」

江の島を背に、日ノ坂海岸駅のほうに向かう私…田所なぎさ…は、そうつぶやく。

2017年、ひょんなことから始めたミニFM局「アクアマリン」。同じ年の11月に再興してからというもの、テレビ、ラジオの取材が途絶えることはなく、まだ行合なぎさだったころの私は、そういうマスコミの対応に大わらわだった。

2018年のGWを最後に後進に道を譲り、作る側から聞く側に戻ったのだけれども、結局OGとして時々顔を出すなどして気にかけていたりした。

お寺の中の仮設的なスタジオより、空き店舗を使ったスタジオのほうが露出度も上がっていいんじゃ、という電気屋のおじさんの勧めもあって、商店会が全面バックアップして本格的に放送が始まったのが2018年の秋。さすがにそこからは、スタジオに顔を出すことはなくなっていく。

2019年、私も曲りなりでも女子大に通えることになるのだが、所属したクラブは放送部。私の中で、何かが変わり始めていたのだな、と思うようになっていく。その大学の放送部は、容姿さえ良ければ大手マスコミに推挙されるほどの人気クラブだったのだが、DJ経験者の私は一も二もなく採用される。卒業時には、「同じ職なら、東京でやったほうがいいのに」というみつえさんのアドバイスもあったが、地元重視の私は鎌倉FMに就職する。

それでも「コトダマ」を信じて疑わない私は、地元でこのことばかりを強調してDJをやっていた。だが、私の放送を聞いて感銘する人が続出。それがとうとう東京のラジオ局にまで聞こえて、ヘッドハンティング同様の待遇で移籍が実現する。


「意外にここまでの人生って面白かったなぁ」

踏切で日ノ電が行き交うのを眺めながら、まるで電車と自分の人生を重ね合わせていた。

限られたレールの上しか走らない、走れない電車。それでも、毎日走る電車は日々の営みそのものであり、一日として同じ状況は現れない。電車は決まったレールを走るだけでつまらない、と揶揄する人もいるが、その決まったレールがあるからこそ、間違った道には進まないで済んでいる。自分の半生を振り返った私は

「ラジオに出会ったことも、みんなと放送したことも…」

とつぶやいて、

「きっと運命なんだよ」

と、背後から語りかけられる。

その甘くおっとりとした口調に聞き覚えがあった、いや、そんなものでは済まされない。

「乙葉さんっっ」

危うく感動のあまり落涙しそうになったが、それを思い留めて乙葉さんの肩に手を置く。

「お久しぶりね、元気してた?」

芸能人らしく、ブランドで着飾ってはいるものの、それほど華美には見せない。鎌倉の私の番組にもちょくちょく出演してくれてたし、私が東京に移籍してからでも、新譜があればいの一番に番組に届けてくれたりしていた。今日はさすがにキーボードは背負っていない。

「エエ。私はこの通りっっ」

少しガッツポーズをして見せたのが、ちょっと面白かったのか、乙葉さんは私を見てくすくす笑っている。

「その分なら本当に元気みたいね。私、うれしいっ」

そこから、ふたりは、日ノ坂の商店街をうろうろと歩き始める。

「今日は、お休み取れたんですね」

私は乙葉さんに話しかける。

「私だって、毎日仕事しているわけではないわ。最近は映画音楽の話も来ているんだけど、いい気分転換になりそうだなって」

いかめしい苗字…琵琶小路乙葉ではなく、今はありきたりな佐藤乙葉になっている彼女。デビューから間もなく10年が経とうとしているが、人気はそれほど大きなものではない。しかしじわりじわりと浸透している感じが、ここ最近顕著に感じられていた。映画音楽の話も、湘南を舞台にしたアニメーション映画ということらしく、今は都内に住んでいる彼女にしてみれば、ロケハンの意味合いもあるということらしかった。

「そうなんだ。あ、そうだ、雫ちゃんって、お店出したの、知ってる?」

「ああ、なんか風の噂で聞いたことある。鎌倉付近でも5本の指に入るほどのお店なんだって?」

「まだ営業はじめて3年経ってないんだよぉ、凄いよねぇ」

私の幼馴染・・・土橋雫・・・雫ちゃんは、お菓子一筋に今までやってきている。高校卒業後のフランス留学こそすぐにはかなわなかったが、洋菓子専門学校での成績が優秀だったので、費用学校もちでの留学が可能になった。帰国してすぐに彼女の実家の援助もあって日ノ坂の一角に「アトリエ・グート」を立ち上げ、オーナーパティシエに。グートってフランス語で雫のことらしいが、彼女らしいネーミングだ。もうひきも切らない来客に私たちが行ったところで気がついてくれるか、どうか…

店先に立つと、ぱらぱらっという感じではあるが、来客がいるという感じである。少し早い時間帯だったこともあるのだろうか。

「いらっしゃいませ」

店頭で客の相手をしている雫ちゃんが目に入ってくる。厨房で奮闘している姿しか考えられなかった私たちはあっけにとられる。

私たちを認めて、先に声を出したのは雫ちゃんの方だった。

「な、なぎさちゃん、乙葉さん・・・」

弾むような口調が後半、少しうるんだ柔らか味を持たせる。

「ヤッホー、雫ちゃん」

「ご無沙汰してます」

私は右手を上げて元気に、乙葉さんは少しおしとやかにあいさつした。

泣き出しそうになっている雫ちゃんを何とかしようとするのだが、いろいろなものが一気に噴出したのだろう、声にこそ出さなかったが雫ちゃんは泣き出してしまう。慌てる私たち。

「あら、やだ、もう。お店に来ただけなのにぃ」

そうは言っても、オープンの時以来な私、乙葉さんは初めてらしい。

それでも感動を日常が上回ったのか、ようやく話しかけてくれた。

「いきなりどうしたの?」

雫ちゃんは、ショーケースの立ち位置から、お客さんの側にまで下がってきてくれた。その間、接客はほかのスタッフが肩代わりしていた。

「あ、いやね。私が久しぶりに日ノ坂に帰ってきてたら、そこに乙葉さんがたまたまいたのね」

「私は別の用事で日ノ坂に来たんだけど、ほんと、偶然って恐ろしいわね」

実際待ち合わせもしていないのにばったり逢うんだから、その確率たるや恐ろしい。

「それで私のお店を覗いてくれたのねぇ」

雫ちゃんは、ようやく落ち着きを取り戻している。

「うん。それでね、せっかくだから、私の番組でも取り上げられるか、プロデューサーさんに紹介してみるよ」

私は旧友の一助になれば、と思ってこういう。

「あ、なぎさちゃん、うち、メディアお断りなのね」

申し訳なさそうに雫ちゃんは言う。

「以前テレビで新進気鋭のパティシエのお店で紹介された時にパニックになるくらいお客さんが来て、クレームの嵐だったのよ。それ以来、雑誌もラジオもお断りしてるんだ。同じことになったら、おなじみさんとかが迷惑するし…」

店構えもそれほどなく、スタッフもそんなにいない。負担がかかる露出を嫌っているようにも思えた。

「ああ、そうなんだ…」

せっかくの提案だったが、私は引っ込めた。

「それはそうと、ほかのメンバーってどうしているか、ご存知?」

乙葉さんは、突然雫ちゃんにこんな質問をする。

「ああ、私が知っているのは、かえでちゃんくらいかな。スポーツトレーナーっていうの? そっち方面に進んだみたいなのね」

「なぎさは、紫音さんとは交流あったって聞いたけど…」

次は私の番だ。

「あ、ああ、うん。年賀状くらいは毎年交換するよ。でも、結婚の案内状とかは回ってきてないから、そこまで行ってないんじゃないかな」

「そうなのね…」

「それを言うなら、あやめさんとマブダチだった乙葉さんの方は?」

聞かれてばかりで癪なので私は乙葉さんに聞いた。

「マブダチ?よしてよ。相手が勝手にお熱を上げてただけだから。まあそれでも私がデビューしてからずぅっと応援してくれたのも彼女だしね」

「そう言えば放送関係の仕事するんだって言ってたよね」

雫ちゃんが遠い過去のことを思い出す。

「放送作家として落ち着いているんだけど、あの性格でしょ?私が聞いた限りではあんまりうまくいってないみたいなのね」

我が強いというか、こうと信じたらそのまま突っ走ってしまいそうなあやめさん。社会に出た時にそれが邪魔しないか内心思っていた私はその通りになっていることに戦慄する。

「そうなんだ・・・」

「あ、夕ちゃんならもうすぐ注文のケーキを取りに来るからちょっとだけ待ってれば?」

最後にやってきたDJ・・・浜須賀夕ちゃんは、浜須賀コンツェルンの女帝として既に辣腕を振るっていた。祖父・長介の地盤を引き継ぎ、代議士になっている父の後継という意味もあって、女性ながら帝王学をきっちり備えつつあった。浜須賀建設の副社長、浜須賀開発や浜須賀設備、浜須賀エステートなど、関連会社に常務や専務として兼務しており、名刺はそう言った肩書で埋め尽くされていた。

その彼女が店を訪れたのは、雫ちゃんに待てと言われて数分後であった。だが、大仰なリムジンか、最低でも運転手付きの車から降りてくるのかと思いきや、自ら運転する営業車、それも軽の運転席から事務員風の制服姿でやや速足でやってきたものだから、私たち二人は目を丸くする。

「雫、頼んでいたもの、できてる?」

と声を掛けた夕ちゃんはすぐさま店内にたたずむ二人を認める。

「ああ。あなた方はぁ?」

「夕ちゃん、久しぶり。」

「ご無沙汰してます。乙葉です」

途端に夕ちゃんはくすくすと笑い出す。

「あら、私がこんな格好で現れて、びっくりしてるんじゃないですの?」

少し意地悪そうに夕ちゃんは投げかける。

「あ、いえいえ、そんなことは・・・」

と言いながら、狼狽の色を隠しきれない私。

「まあ、無理もないわね。でもね。私だって仕事がいっぱいなの。着飾ってする仕事じゃないですからね」

胸のネームには、「浜須賀インテリア」の文字。事務員の代わりに、接客用のケーキを求めにやってくることがあるのだそうだ。実際、お嬢様にはふさわしくない、腕の筋肉を認めて、私は、楽な生活をしているとばかり思っていた彼女に対する間違った認識を改めた。

「それじゃぁ、先を急ぐから」

夕ちゃんは支払いをせずにモノだけ受け取って足早に去っていく。

「あ、夕ちゃん、お金・・・」

と言いかける。そのあとすぐに雫ちゃんから

「後でまとめて支払ってもらうから大丈夫よ。そういう付き合いなの」

と言われて、私たちが幼馴染で、そういう信頼の元生活していることを気付かされる。

「あ―あ、行っちゃったよぉ」

軽がスタートダッシュするのを見送る私たち。

「ふーむ。まあ、いろいろと皆さん、ありそうですねぇ」

乙葉さんがボソッという。

「私から提案なんだけど…」

乙葉さんが私と雫ちゃんに向かって言う。

「みんなで久しぶりに逢ってみない? そうねぇ。『ラジオアクアマリンの同窓会』っていうのは、どうかしら?」

「うわっっ!それってやってみたい。ねえ、雫ちゃんは?」

「うん、私もみんなの顔を見てみたいし…」

「やったね。これで3人は決定だよね」

「あとはそれぞれ、連絡が付きそうな相手に連絡してみて。夕さんはなぎさにお願いできるかしら?」

「分かった。連絡する」

「じゃあ、私はかえでネ。すぐにでも連絡入れとくわ」

「私はあやめか・・・。まあ、私が出るって言ったら一もにもなく付いてくるでしょうけどね」

「うん、これできまりだねっ」

あの高2のころの青春が甦るみたいな心持になっている私。雫ちゃんも乙葉さんも同じ気持ちだっただろう。雫ちゃんの仕事の邪魔になっては、とそれがまとまってからすぐに店を出て、私と乙葉さんは、近くの喫茶店で時間を過ごした。


かくして、乙葉さんプロデュースの「アクアマリン同窓会」は、奇跡のタイミングで開催されることが決まった。

私とかえでちゃん、それに乙葉さんはどちらかというと自分でスケジュールを決められる立場。紫音ちゃんは普通のOLだったので、これも別段問題なし。夕ちゃんも「夜なら大丈夫」と言われていたので気にならなかったのだが、一番の問題児はあやめさんと雫ちゃんだった。定休日のある雫ちゃんに合わせようと思うと、それがうまくかみ合わなかったり、逆にみんながぴったり都合が付くのに雫ちゃんだけダメだったり。それが解決しても、番組改変の番組制作が佳境をむかえる時期は連日製作会議であやめさんの体が空かなかったり。結局「やろう」と言ったのが、夏の初めだったのだが、できたのは、初秋の時期だった。

場所は、最初夕ちゃんの関係しているレストランでやることに決まったのだが、私たちのために、豪勢なメニューでやってくれる、ということを聞いて、「そこまでではないから」と断り、日ノ坂の商店街の中の居酒屋でやることになった。

約束の日。私と乙葉さんは、早速居酒屋に陣取り、メンバーたちの到着を待った。

一番目にやってきたのは、あやめさんであった。引き戸をがらガラッと開けるなり、

「お久しぶりです。藍色仮面、ただいま参上、です。」

と、いつもの口上で口火を切る。メガネをくいっと上げるしぐさは、高校生時代と変わっていない。私も少し安堵する。

「ああ、あやめさん。お久しぶりですぅ」

「久しぶりです、元気してましたか?」

私たち二人は声を掛ける。

中原あやめといえば、テレビ・ラジオ業界では一気に知れ渡った放送作家である。大学卒業後、著名放送作家に師事、番組を持ったのがそのわずか半年後、というのだからすごい。「本気でやりぬく」「私の一番大切なもの」「三度の飯よりアニメーション」と、バラエティーはもちろん、ドキュメンタリー的な番組にも顔を出すほどにまで成長していた。彼女自身が顔出しして作った番組「女だてらに放送作家」も、動画配信サイトでカルト的な評価を得ていたりもしていた。

「ご活躍、うらやましいですわ」

乙葉さんが持ち上げるように言う。

「いえいえ。こんなもの、まだまだ序の口でしてよ。いずれはプロデューサー、目指してますから」

「この間の「漫画一人語り」って、めっちゃ面白かったもん」

私も、あやめさんが構成する番組は、できる限りチェックしていた。

「これはこれは。見る目をお持ちのようで。さすがアクアマリンのトップDJ。おっと、今は首都圏FMのトップDJでしたね」

あやめさんも私の職業についてはチェックしてくれているようだ。

「それで、ほかの方々は?」

座敷を見渡して3人しかいないことをあやめさんは早速突っ込む。少しイラッとした口調に気がついたのだろうか、

「もうすぐ来るわよ、そう焦らないの」

乙葉さんがあやめさんをなだめるように言う。

「まあ確かに。30分も早く来ているんですからね」

実際時間の待ち合わせをすると一番最初に来るのは決まってあやめさんだった。彼女は「人を待たせるなんて人間として最低です」というのが身上らしいので、こうなるのは目に見えていた。幹事が彼女より遅れては、という思いから、一時間前に会場入りしていたことは正解だった。

次に姿を現したのは、一番忙しいであろう、夕ちゃんだった。

「待たせたかしら?」

開口一番、夕ちゃんはそういう。

「ううん。全然。まだ20分前だもん」

私は時計を見ながらそう言う。

私と夕ちゃん、あやめさんと乙葉さんという奇妙な4人組が、そろそろ時間だな、と思っているさなかに残りの三人が連れ立って店に入ってきた。

「あーー、お待たせお待たせ」

「ちょっとギリギリだったかな?」

「久しぶりの日ノ坂も懐かしいわね」

かくして、DJ担当7人が勢ぞろいした。


料理が次から次に並べられていく中で、幹事である私と乙葉さんが会を取り仕切る。

「ええっと、今日は、ラジオアクアマリンの同窓会にお集まりいただき、ありがとうございました。皆さん、仕事も家庭もある中でこうやってお集まりいただいたわけですが、皆さんの近況報告などもしていただきたいと思います」

「とにもかくにも、お久しぶりの顔合わせになったことですし、今日は旧交を温めてまいりましょう」

グラスに飲み物が注がれていく。乾杯の音頭はやはりあやめさんだ。

「オホン。ではここで一言。顧みますれば10年前の2017年7月。よもやのアクアマリン復活を小躍りして喜びつつも、「誰がしゃべっているの」という疑念から今のこの面子にたどり着いたわけですが…」

と、一息入れる。

「私がやりたいと思ったことをすべて具現化できたラジオ放送になったのは後にも先にもあの一か月間だけでした。それが今の私にもつながっています」

その声は気持ちが乗って、感極まっているようにも聞こえた。

「初心忘るるべからず。私たちの今日の再会で皆さんも10年前のあのピュアな気持ちを取り戻してもらいたいと思います。では、皆さんのさらなる成長と発展、健康を祈念して、カンパーイ!!」

カチーン、と盛大にガラスの音が店内に響く。一口口をつけて拍手が沸き起こる。


そこからは自己紹介タイムになった。

私が「田所なぎさになりました」というと、周りが一斉に冷やかしてきた。何しろ結婚しているのは、私と乙葉さんだけだからである。

「なぁなぁ、結婚生活ってどんなの?」

喰いつき気味に聞いてきたのは龍ノ口かえで・・・かえでちゃんだった。スポーツ万能、部活動の実績も認められて、いわゆる一芸入学で都内のスポーツ系の強い大学に入学。そこで昨今重要性が言われ、人手も少ないスポーツトレーナーの道を選び、2年前から、鎌倉市内のスポーツクラブで担当として頑張っていた。あとで聞いたのだが、ここに勤務していた別のトレーナーの男性と意気投合、婚約が目の前というタイミングだったそうだ。

「ああ、結構家事とかが大変。私は平日にお休みの日もあるけど、正志さんはサラリーマンだしね。休みが合わないから、なかなか大変だよ」

私自身の出会いは、ずばり、FM局で。田所さんとしりあったのは、移籍の時に初めて人事/総務関係のフロアに足を踏み入れた時。総務部に勤めていた彼が私を見初めてアタックしてきたのがきっかけだった。マスコミの人ってチャラい、と思っていたのだが、まじめそのものの田所さんが気に入り、昨年結婚。幼馴染の中では一番のゴールインだけに、みんなからうらやまれた披露宴が思い出された。

「あの、聴きたいんだけど…」

「なになに?」

紫音ちゃんの問いかけも少しだけ懐かしかった。

矢沢紫音・・・彼女と知り合っていなかったら、私はFMでDJなんかしていないだろうし、幼馴染以外に交友関係が広がることもなかっただろう。紫音ちゃんも、父方の実家で平穏に過ごしている。普通のOLが彼女ほど似合う人もいないだろう。

「今もDJやっているって聞いたけど、ほんと?」

「ああ、うん。そうだよ。でもあんまり顔バレしてないからだろうな、声を掛けられるのってホント少ないんだよ」

「私は場所が少し遠いから、なぎさの声、あんまり聴けないのよね」

首都圏から離れている紫音ちゃん。実家に勤め先が静岡なこともあって、さすがに普通のFMでも聞こえにくい。全国ネットをしている番組でもないので、おすすめ/紹介したとしても、彼女がダイヤルを合わせてくれる可能性は限りなく低い。

「うーん、radikoとかはあるけど…そこまでしてラジオ、聴かないかぁ…」

少ししてやられた雰囲気を出す私。

「そうなんだ。今度頑張って聞いてみるよ」

紫音ちゃんはそう言ってくれる。社交辞令でもありがたい。


お互いが旧交を温めているさなか、かえでちゃんが声を上げる。

「お楽しみのところ申し訳ないんだけど、そろそろ次の場所の時間もあるんで…」

唐突な提案に、私は驚く。だが、ほかのメンバーは、その提案を受け入れている。その温度差で私は悟った。「私に内緒でことを進めたな」

「ねえねえ、次の場所って、どこなのよ?」

あえてその"企み"に乗っかる私。

「えへへぇ。来てみればわかるよ」

「いったい、なんのことなのよぉ…」

一次会が急速にしぼむ中、会計は乙葉さんとあやめさんが済ませていた。お互い個人事業主なので、経費で落とせる部分は落としておきたいということらしかった。夕ちゃんも、得意先の接待という体にして領収書をとっていた。

店を出て、足が向かう先は、以前スタジオがあり、10年前最後の放送をした蛙口寺だった。

「え?ここがそうなの?」

私は率先して歩いていたかえでちゃんに聞く。

「ああ、もうここしかねぇだろう?オレたちの青春の一ページはよぉ」

確かにそうだ。旧矢沢邸である喫茶アクアマリンはとっくに建て替えられ、コンビニに姿を変えている。当初は2階の見晴らしのいい部屋もスタジオとして使う予定だったが、結局私たち以外の後輩や商店主さんたちにしてみれば、アクアマリンの跡地以外の意味合いしかなく、そこで放送しなくては、という考えにまでは至らない。今はコンビニの倉庫になっているらしい。しばらく使っていた離れのスタジオも、役目を終えて元通りに改修されたと聞く。

「お待ちしてましたぜ、御一行」

少し老けたが、川袋電器店のおじさん…佐武郎さんがにこやかに迎えてくれた。

「おお、なぎさちゃん、それにみんな…」

電器店を引き継いだ若旦那という風貌が板についてきた将輝…将ちゃんもいる。

「ど、どうしておじさんに将ちゃんまで…」

割って入って問いただす私。

「ああ、なんのことはない。今日はこれをやってもらうために準備していたんだよ」

いうなり、一気に電灯が瞬く。少し暗がりになれていた目に入ってくる光は、まぶしすぎて少しだけ目がくらむ。それでも恐る恐る見た光景は少しだけ信じられなかった。

あの最後の放送をした2017年8月31日の風景がそこにあるかのようだったからだ。

「うわぁぁ」

それがそこにあると思っているはずのほかのメンバーも一様に驚く。なにより、こんなサプライズを仕掛けられていたと知らなかった私は、その光景が目に飛び込んできただけであの日の出来事が走馬灯のように思い出されてくる。

紫音ちゃんに届けとばかりに呼びかけた最終回。町の人たちの、朱音さんを呼び起こすための想いの乗ったコトダマたちが一斉に舞い上がったあの瞬間、涙ながらに私たちのところに駆け寄ってくる紫音ちゃん。すべて10年前の出来事だとしても、私達にとっては昨日のことのように思い返されてしまう。

「さすがに電波には乗せられないけど、ここで歌うことくらいは可能だよ。あ、住職には許可もらっとるでな。なあ、大悟さんや」

奥からひょこっと、坊主頭にした大悟が顔を出す。先代住職が倒れてしまってやむなく寺を引き継いでいる。

「おお、なぎさ。久しぶり。それと結婚おめでとう。披露宴、行けなかったけど、堪忍してくれよな」

無理もない。自分の家のことが大事なのだから。私は、首を横に振って謝らなくていいと意思表示する。

「それにしても、皆さん、立派になられましたなぁ」

大悟がそう言って私たち一同を見渡す。確かにみんな27歳程度の若者に成長した。でも、その10年間はみんなに等しい10年である。みんなが自分の夢を実現し、それに向かって真っすぐに正直に生きている。そう。あの歌の歌詞のように…

「なっつかしいなあ。あ、でも今日は楽器の演奏がないんじゃ…」

かえでちゃんが、キーボードをもっていない乙葉さんの方を見ていう。

「まあ、お話聞いて、しっかりカラオケ、作っちゃいましたぁ」

銀色に輝く円盤が乙葉さんのカバンから出される。これで演奏の方は大丈夫だ。

「でも、これじゃあ、公開カラオケ大会みたいになっちゃう…」

私はボソッと不安を述べる。

「え?観客が欲しいってか。ほらよっ」

今度はステージ側から客席である広間にライトが当てられる。100人程度とはいえ、わぁーという歓声が聞こえる。

「まったく。君らのたかだか同窓会にここまで仕込まにゃならなかったんだから、少しは感謝してもらいたいもんだね」

佐武郎さんはイヤミも交えてそういう。

「うんうん。ありがとう。それはそうと、あれから、アクアマリンって、いい感じですか?」

私達の残した”遺産”も気になる。

「ああ。今では日ノ坂高校の人気ナンバーワンの部活に放送部がなっているし、2年ほど前から、外部のスポンサーも付き始めた。地域FMでここまで成功した例はないってことで今でも取材がひっきりなしみたいだぜ」

将ちゃんが説明してくれる。もう私たちの出番はないようだった。

観客である町の人々から、出場を促す拍手が熱を帯び始めた。

「じゃあ、私達、行って来るから!」

私は佐武郎さんに声を掛け、ステージに躍り出る。

わぁーーーーという歓声が鳴りやまない。


「みなさーん、ありがとー」

第一声は本当にこれだけしか思い浮かばず、ただ90度に礼をして、場内が落ち着くのを少し待った。

「みなさーん、お久しぶりでーす」

本当に現役のDJなのに、言葉が見つからない。恥ずかしいことこの上ないのだが、それを含めて観客一同は見守ってくれている。

「今日は、こんな素晴らしいステージがあるなんて、私は知らないでここまで来ました…」

ウオッッという反応が返ってくる。

「皆さんにまたあえて、そして、あの最後の放送日の感動がまた味わえるなんて…私達は幸せ者です」

ここで一気に押さえていたものがどっと溢れてきた。とめどなくあふれる。止まらない、止められない…

顔中涙まみれの私、そしてほかのDJたちも程度の差こそあれ、ほぼ同じような状況だった。

30秒ほど落ち着くまで時間はかかった。

「でも、こうして皆さんに、またあの曲を披露できるなんて、なんて素晴らしいんでしょう!!」

言うなり、万雷の拍手が蛙口寺にこだまする。それに呼応して、私はまた涙にくれる。

「私達は、あの曲に出会ってなければ、いや、そもそもラジオを始めようと思わなければ、こんな町の温かみだとか、人のつながりだとか、想いは伝わる、なんてことには決して気が付かなかったでしょう」

ここでいったん区切った。

「私がラジオの仕事を選んだのも、そのことに気づかされたからです。本当にありがとうございました」

礼をしてまた拍手の波が私たちを襲う。

「と、きれいごとばっかり言ってますけど…」

ここで私はキャラを変えた。

「そろそろ「唄えよ」って、思ってるでしょう?」

ドッという失笑の後、また拍手が起こる。

「はい。ありがとうございました。そろそろ私も素に戻ってこの歌を歌いたいと思います。それでは、メンバー紹介っ!」

バンドリーダーよろしく、一人ずつ紹介していく。

「最後は、矢沢紫音!!」

ひときわ大きな歓声が上がる。町中でも、朱音さんの復活は既に知られていたし、時々アクアマリンに呼ばれていることも風の噂で聞いたことがある。10年の歳月は、私達のみならず、周りの人々をも変えて行ったのだった。

いよいよ歌うことになる。私は最後にこういった。

「私達の本当の意味でのラジオアクアマリンのテーマ曲でもあったわけですが、この曲がじわじわと浸透して、遂にはカラオケで配信されるまでになったことを知って、驚いたりもしましたが、歌の力って本当にすごいと思いました。それは、歌ってくれる人がいる、曲を後押ししてくれた無数の存在があるからなんです。いまその思いを胸に、皆さんに聞いてもらいたいと思います。それでは聞いてください。Wishes Come True」

私達は、本当の歌手ではない。もっと言えば、10年前一度歌い、サプライズで歌わされたきりである。もちろんボイストレーニングなんてしていない。それでも、わたしたちの歌声は、聴きに来ていた何人かの胸に刺さり、事実泣いている人も何人も見掛けられた。

歌の力、言霊の持つ効果。それはあの時の紫音ちゃんの泣き顔を見ただけですべてが悟れたわけだが、そんな奇跡的な復活に関われたことが何よりうれしく、そして誇らしかった。私は、何度も泣き出しそうになるのをこらえつつ、最後まで歌いきる。


拍手が鳴りやまない中、私達は、大きくお辞儀をしてその場から去る。もちろん、私はかえでちゃんに一言文句を言わなくてはならなかった。

「もー!!こんなことなんで私に言わなかったのよぉぉぉ」

どんどんと、両手でかえでちゃんの胸板をたたく。"あっ、しっかり体、できてるわ"弾力を感じる筋肉の打ち返しが感じられた。

「あー、わりいわりい。でも、こういうのは、感激屋のなぎさに知らせておかない方が、面白いだろ?」

「もう、ホンとにぃ…ほかの人たちもずるいぃぃ―」

べそをかきながらほかのメンバーにも悪態をつく私。

「知らせないでおこうねってかえでに言われたし…」

「その方がぜってー面白いからって…」

「あ、「なぎさに知らせないでおこう」っていい出したの、私なんですけど(メガネキラーン)」

「そうだったわね」

「でも、なぎさだけかわいそうって私は反対したんだけどね…」

今更言ってもいいわけにしか聞こえない。ともかく私は非常に気分を害した。はずなのだが…

「やっぱり、ステージの魅力って、最高だな」

かえでちゃんが目を輝かせながら言う。

「ええ。あの頃が甦ったもんね」

雫ちゃんも続く。

「私もこのラジオに関われて幸せでしたわ」

夕ちゃんもそう言ってくれる。

「まあ、それもこれも私の尽力あればこそなんですけどね」

あやめさんは相変わらずだ。

「この曲、今度のアルバムに入れようかしら」

乙葉さんはさりげなく爆弾発言する。

そして一人ボロボロ泣いている紫音ちゃん。

「わたし・・・わたし・・・・」

「いいんだよ、紫音ちゃん」

私は紫音ちゃんの肩に手を置く。そして彼女の手を握る。

そこにみんなの手が伸びてくる。一つの大きな握りこぶしがそこに出来上がる。

「そう。私達はいつまでも一緒。ずっと、友達だよっ」

私がそういうと、みんな一斉にうなづく。


「せーのっっっ」


ばぁぁっと手を離したその先には、私達の輝ける未来がそこに見えていた。


後書き

「前書き」に今回はほぼ言いたいことを上げさせてもらいました。
確かに声優陣は、祖母役が何との野沢雅子氏、大悟役に梶裕貴氏、紫音/朱音は三森すずこ嬢と、実は有名どころも多く出ているわけですが興行は案外。公開一周年の企画をしたところで、参加は100人いたかいないかというレベル。これで今後をどうこうしろとか言う方がどうかしているわけです。
それでも、私は、彼女たち7人が気に入り、SSを書きまくったわけですが、当サイトではマジで当方以外に書いてくれる方がおらず少々がっかり。それでも孤軍奮闘頑張らせてもらいました。
今年の9月に「若おかみは小学生!」が、まるでキミコエのような不振にあえいでいると知り、現在当該作品をモチーフにしたSSも書いていますが、質・内容と興行とが正比例しない作品が多すぎて、本当に困ってしまいます。
まずは当方の「キミコエ」SSはこれにていったん終了。ありがとうございました。


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