2019-02-15 22:22:03 更新

概要

山風の事が嫌いな提督と、提督の役に立とうと必死に頑張ろうとする山風の物語。


「提督、あの・・・書類、持って来た。」


山風が書類を持って執務室にやって来る。


「・・・そこの机に置いてくれ。」


提督は山風の顔を見る事も無く机に置くように指示をする。


「うん、分かった。」


山風は何も言わずに、言われた通りに机に書類を置く。


「・・・置いたよ。」


山風は提督の方を見るが、


「・・・・・・」


提督は山風の顔を見ようともしない。


「・・・じゃあ、あたしはこれで。」


山風は執務室から出て行く。



改白露型の山風、口下手で物静かな感じの艦娘であるが、提督のために何かと必死で頑張ろうとする姿が見られる、


しかし、当の提督は山風の事を嫌っており、話しかける事も無ければ顔を合わせる事も無い。


挙句の果てに、山風の事を「おい、緑!(山風の髪が緑色のため)」と名前すらまともに呼ばない。


それでも、山風は提督のために誠心誠意尽くそうとしている。


・・・・・・

・・・



1か月前の事、


「遂にこの時が来たか!」


提督が何故かワクワクしながら待ち侘びている。



最近導入された”秘書艦ローテーション”、自分の鎮守府にまだ着任していない艦娘を秘書艦として迎えたい


提督達のために、本営がこの企画を建てたのだ。



「改白露型の海風! 聞くところによると礼儀正しくて丁寧口調で人気の子だとか。」


どうやら提督は海風が欲しいようだ。


「ああでも、妹の江風でもいいなぁ。 海風と同じ可愛さがあるし、何より・・元気いっぱいでいい!」


そう思っている内に提督達の間で抽選会が始まる。


「さぁ来てくれよ・・・海風か江風・・・頼むよ!!」


何度も願って抽選が開始。


・・・・・・


「さぁ、オレの鎮守府に来てくれる艦娘は・・・」


艦娘が書かれた紙を受け取り、まずは右端から開いて行く。


「おお・・・! 風! 最後が”風”って事は・・・よし、海風か江風だ!」


提督のテンションが最高潮に達する。


「まぁオレはどっちでもいいけどね~。 海風か江風・・・さぁどっちだぁ!」


そう言って、左に折れた紙を開くと、


「・・・山風? 誰それ?」


てっきり、海風か江風が確定すると思った提督は拍子抜ける。



「海風の妹・・・何だ、江風だけかと思ったよ。」


よく見ると、海風と江風の側にもう1人妹らしき艦娘がいて、


「ま、まぁいいか。 海風の妹って言うし・・・姉みたいに元気で江風みたいに元気いっぱいで・・・」


そう言って、山風に会いに行く提督。


・・・・・・


「今日から君がオレの鎮守府に着任予定だ、よろしく。」


提督は山風に対して礼をする。


「・・・・・・」


山風は無言のままだ。


「う~ん、緊張してるのかなぁ? 別にそんな目で見なくても・・・」


提督が気遣うが、


「海風姉、あたし・・・この提督の鎮守府に、行きたくない。」


山風の口から出た思いもよらない言葉、


「えっ・・・お、おいちょっと待て!」


提督は驚きつつも、


「でも、ほら見てよ。 ここに山風って書いてあるだろ? だから規則上君がオレの鎮守府に来る決まりであって・・・」


提督は説明するも、


「嫌だ、もう1回抽選し直して。 あたしは提督の鎮守府に行きたくない。」


山風は海風の背中に隠れながら自己主張を述べる、提督もこれには遂に苛立ち、


「あのね、オレだって本当は海風か江風が良かったの! それなのに、山風、君が当たってしまったんだ!


 オレもはっきり言って抽選をやり直したいよ! でも、出来ない、だからそこは割り切ってオレの鎮守府に・・・」


「・・・最低。」


山風の口から愚痴がこぼれ、


「何だこのクソガキは! もういい、オレは必要ない! 不愉快だ、帰る!!」


提督は遂に切れてその場から立ち去ってしまう。


・・・・・・


提督は山風の着任を拒否するも、抽選で決まった以上は最低でも1か月間は、


鎮守府に置かなければ行けない決まりであるため、渋々従う事にする提督。


「1か月間我慢すればいいんだな? 1か月後に絶対に違う艦娘を秘書艦にするからな! 絶対に!!」


山風の態度が気に入らなかった提督は「1か月間なら」と割り切る。


しかし、当の山風はと言うと・・・


「あたし、帰りたい。」


相変わらずの自己主張で、


「何で、こんな鎮守府に着任しないと行けないの?」


提督が気に入らないと言うか、鎮守府自体も嫌な様子で、


「もっと大きい鎮守府が、良かった。」


山風の度重なる愚痴に、


「あのさぁ、もう決まったわけだから。 そんな不満を言わずに、仲良くしよう・・・な?」


そう言って、提督が手を差し伸べるが、


「近づかないで、変態。」


何故か提督を邪険に扱う山風。


「・・・(このクソガキがぁ!!)」


口に出すのを堪え、心の中で不満を漏らす提督。


「1か月・・・はぁ~、1分だって嫌なのに・・・最悪。」


山風はため息をついて与えられた部屋に戻る。



その後も、提督と山風の仲は良くなる事は無く、何かと文句の言い合いが起きる。


しかも、山風から一方的に文句を言ってくるため、提督は次第に山風を相手にしなくなる。



「提督、資料持って来た。」


秘書艦の時は、きちんと仕事をしてくれるものの、


「後は勝手にやって。」


相変わらずの不愛想で、2人の間に会話は生まれない。


・・・・・・


山風が着任して1か月が経過、


「よし、よく耐えたぞオレ! これで山風から違う艦娘に変えられる!」


提督は山風を連れて、ローテーション場に向かう。


「やっと1か月・・・もうこんな鎮守府になんか行きたくない。」


山風も相変わらずの自己主張。


「今度はもっと・・・優しくて大きな鎮守府に、行きたい。」


山風は提督を置いて、待合室に向かう。


「何だよあの態度? 本当にイラつく・・・でも、今日で終わるんだ、ある意味解放されたよ!」


提督は抽選会に参加するため、山風とは別の待合室に向かう。



しかし、提督を待っていたのは予想外の事態である。


「何だって!? 秘書艦のローテーションは急遽中止!? 何で!!?」


提督に告げられた、残酷な一言。


・・・・・・


開催当初は大好評だった秘書艦ローテーションだが、提督達は”お気に入り”や”まだ着任していない艦娘”を集中的に


選択、抽選会で獲得権利を貰うが・・・それ以外に、”人気が少ない” ”選ばれない艦娘”も多くいるため、


参加するものの、永遠に待機状態にされる艦娘が多く、本営に苦情が殺到したのだ。


それを受け、本営は急遽開催を中止、今いる艦娘たちは無償で引き渡す形となった。



「・・・つまり、山風は?」


提督は質問するが、


「オレの鎮守府に着任のままって事?」


結論を言えばそうなるが、


「ふざけんな! あんな不愛想で愚痴る艦娘なんていらないよ!!」


提督は本営に文句を言うも、「もう決まった事だ」と意見を取り下げられてしまう。



「・・・そ、そんな。」


当然ながら、山風もその報告を受ける。


「嫌だ、あたしはもう、あんな鎮守府に行きたくない!」


また戻ることになると知って拒み続ける山風、


「だってあたし、提督に・・・酷い事しちゃったから・・・」


1か月我慢すればいい、そのつもりでいたため、提督とは仲良くするつもりがなく邪険に扱っていた山風。


「戻ったら・・・提督に酷い目に遭う。」



1か月の間に散々提督を貶したり、文句を言ったりした山風・・・永久着任となれば、


今度は提督からの報復が来るのは分かり切っていて、山風は断固着任を拒否する。


・・・・・・


結局、提督と山風の意見は通らず鎮守府に戻る2人。


「あ、あの・・・提督。」


山風は声を掛けるが、


「ああ? 話しかけるなバカ!!」


提督の機嫌はかなり悪く、


「!! ご、ごめん、なさい。」


怖いのか謝る山風。


「全く・・・何でこんな艦娘をオレの鎮守府に連れて行かなきゃ・・・ちっ!」


提督は舌打ちしながら鎮守府へと戻る。


「・・・・・・」


山風はこれから起こるであろう地獄の日々に恐怖しつつ、提督と一緒に鎮守府に戻る。


・・・・・・

・・・



「提督、あの・・・夕食が出来た、よ。」


山風が夕食を持って執務室にやって来る。


「・・・・・・」


提督は山風を無視する。


「さ、冷めちゃう・・から。 温かい内に、食べて。」


そう言って、机に食事を置くとそそくさと去る山風。



昔の事があって山風を嫌う提督に対して、山風の方は意外にも提督に献身的になっている。


いくら提督が無視しようが、邪険に扱われようが山風は文句ひとつ言わず尽くしていた。


・・・・・・


鎮守府に戻り、地獄を味わうと覚悟した山風、


「提督に叩かれるかも。」


「ご飯が食べれない、かも。」


「休みも貰えず、ずっと働かされるかも・・・」


山風は不安でいっぱいだ、


「でも、あたしが悪いし・・・仕方が、ないか。」



何故、山風は最初提督を嫌っていたのかは不明である、過去にローテーションをした際、別の提督に酷い目に遭ったのだろうか?



しかし、山風の思っていた地獄とは程遠く、平凡な生活が続く。


食事を抜きにされる事も無ければ、暴力を振るわれることも無い・・・休日も規定通り与えられる。


ただ提督が山風を無視し、まともに名前を呼んでくれないこと位だ。



それからだ、山風が提督に誠心誠意尽くすようになったのは・・・


「無視されているわけだから、いくら謝っても無駄だよね。」と諦める一方で、


「あたしを鎮守府に置いてくれてるから、せめて提督に少しでも恩返ししよう」と尽くすようになったのだ。


・・・・・・


2人の生活が続いて半年が経過、


提督の元に朗報が届く。


「浦風? ああ、知ってる。 広島弁で話す元気のいい艦娘だろう?」


提督は更に話を聞くと、


「えっ、マジ? 浦風を鎮守府に迎えてくれるって!? それは有り難い!」


まだ着任していない提督にとって、浦風の着任に胸が躍る。


「それで、条件は・・・山風と交換? いいよ構わん、あんな艦娘で良ければ喜んで交換するよ!」


浦風の着任条件は山風との交換、提督は躊躇いも無く条件に乗った。



山風にもその情報が耳に届き、


「そう、別の艦娘とあたしが交換・・・」


山風は一瞬戸惑うも、


「うん、いいと思う。提督は、あたしの事、嫌いだし・・・」


素直に受け入れる山風。


・・・・・・


後日、提督の鎮守府に浦風が仮着任する、


「うち、浦風じゃ。 提督、よろしくね。」


提督が待ち望んだ元気な艦娘、浦風を見た提督は、


「よ、よろしく! これからこの鎮守府での活躍を期待するよ!」


提督はとても喜び、正式に着任後、秘書艦を任せる旨まで浦風に伝える。


「・・・・・・」


山風は2人の様子を伺っている。


「提督、何か・・・楽しそう。」


山風がいた時とは明らかに違う嬉しそうな表情に、


「やっぱり、あたしより・・あの子の方が、いいよね。」


山風は少し見た後、すぐに立ち去る。



翌日、浦風が正式に着任した事で喜ぶ提督。


「では、今日からよろしく浦風!」


「任せとき! 浦風の活躍見せたるわ!」


浦風の元気な声に、


「ああ、もっと早く来て欲しかったよ。 でもこれで、オレもこれから頑張って戦果を挙げられるな。」


提督は改めて目標を立てる。


「・・・そう言えば、気になったけど。」


提督にはある疑問が残る。


「山風はどうなるんだ? どこかの鎮守府に行かされるのか?」


山風のその後の話を聞かされていないため、妙に気になり確認を入れて見ることに・・・



「えっ、”ゴミ処理場”に入れられるって・・・」


質問に返された答え、山風は”ゴミ処理場”行きだと・・・



※ゴミ処理場:解体予定・不必要な艦娘が入れられる施設。



「ちょっと待て、何で山風がその施設に入れられるんだ?」


更に質問をすると、


「・・・・・・」


提督は言葉を失う。



海風・江風と違い、物静かな山風・・・秘書艦ローテーションでも山風は”人気がない”部類に該当していて、


一部の提督には人気であったが、全体的に見ると底辺近くであり、企画が中止後は山風の今後の処遇に悩まされていたようだ。


それで急遽、提督の鎮守府に着任と言う形になった・・・つまり、鎮守府から出た時点で山風には行く場所がなく、


”必要のない艦娘”として”ゴミ処理場”行きとなったようだ。



「そんな、確かに山風は態度は悪いけど、仕事はちゃんとしてくれるし、決して不必要ってわけじゃあ。」


提督の言い分に、


「貴君が気にする必要は無い、貴君は新たな浦風と今後の鎮守府生活を営んでくれ。」


そう伝えられ電話を切られる。


「・・・・・・」


・・・・・・


「提督、どうしたんじゃ?」


提督の様子がおかしい事に気付いた浦風が近づく。


「・・・・・・」


提督は頭を抱える。


「? 提督ぅ、何を悩んどるんじゃ? うちで良ければ相談に乗るよ?」


浦風の言葉に、


「・・・・・・」


提督は浦風を見つめた後、


「・・・浦風、この鎮守府に来てくれてとても嬉しかった。」


提督は口を開き、


「これから浦風と鎮守府生活をしたら、どれだけ楽しく暮らせるかと思うと、本当に胸が躍るよ。」


しかし、提督は何故か悲しげな表情になり、


「でも、ごめん。 オレは、山風をこの鎮守府に残したい・・・君と交換であの子があのゴミ処理場に行かされるなんて


 到底オレには出来ない、確かにあの子の態度は悪いけど・・・でも、あの施設に行かせることなんて出来ない。」


「・・・・・・」


「だから浦風、この話は無かったことにして欲しい。」


「・・・・・・」


「浦風、ごめん。 本当にごめん!」


提督は何度も頭を下げる、


「何じゃ、うちよりあの子の方が魅力的じゃったか? そりゃあ、参ったなぁ。」


浦風は「ふぅ~」っとため息をつき、


「でも、提督が悩んだ末に決めた事じゃ・・・うちは何も言わん、それじゃあうちはさっさと鎮守府から出て行こか。


 ほんの少しの間だったけど、楽しかったわ提督。」


そう言って、浦風は提督の前から去る。


「・・・本当にごめん、浦風。」


提督は何度も謝る。



「・・・おや、山風。 聞いてたんか?」


「・・・・・・」


扉から出たすぐ廊下で山風と会う。


「山風、いい提督に巡り合えたなぁ。 ほんと羨ましいわ♪」


「じゃ、提督と幸せになぁ」と言って、浦風はその場から去る、


「提督・・・あ、ありがとう。」


山風は聞こえない程の小声で感謝の言葉を言う。


・・・・・・


結局、山風を鎮守府に残すことに決めた提督。


「はぁ~、また活気のない鎮守府生活に逆戻りか。」


山風の行き先を考えた故の結果であるが、


「まぁ仕方がない。 その内、山風と上手くやっていけることを願おう。」


そう言って、執務に専念する提督。



しかし、この行動により、山風の態度に変化が起きる。



ある日の事、


「ねぇ、提督。」


今まで物静かで口数の少ない山風が積極的に話しかけてくるようになった。


「ねぇ提督・・・ねぇってば!」


「何だよ緑、静かにしてくれ。」


あまりにもしつこいので、思わずあだ名で呼ぶ提督。


「・・・やっと返事してくれた、えへへ♪」


何故か笑顔で返す山風。


「・・・(何だ、山風も笑顔になれば結構可愛いじゃん。)」


言葉には出さず、心の中に留める提督。


「ねぇ、あたしの事、ちゃんと名前で言ってよ。」


今度はあだ名ではなく名前で呼んで欲しいと願う山風。


「却下、お前は”緑”で十分だ。」


提督はあくまで”緑”と言い張る。


「お願い・・・山風って呼んで。」


何度も名前を呼ぶように願い続けて、


「ま、まぁそこまで言うなら・・・や、山風?」


提督が名前で言い、


「!! もう1回、もう1回言って!」


またお願いしてくる、


「・・・や、山風。 これでいいのか?」


提督が再び名前を言うと、


「う、うん。 ありがとう、えへへ~♪」


今度は満面の笑みで答える。


「・・・じゃ、じゃああたしは寝るね、おやすみ。」


最後は顔を赤くして執務室から出て行った。


「・・・と言うか、何かあったのか? 急に態度が変わったけど?」


山風の態度に提督は疑問に持つ。


・・・・・・


提督が山風を残すと決めた数日後の事、


「海風姉に江風! 会いたかったよ。」


休日が運よく一緒だったため、改白露型の3人で喫茶店に赴いていた。


「どうですか、山風の着任した鎮守府生活は?」


海風の質問に、


「・・・居心地は良くない、提督も構ってくれないし、あたしの事を”緑”って呼ぶし。」


山風の言葉に、


「緑って、山風は髪の色で呼ばれてるの? 面白いじゃん、その提督!」


隣で江風が笑いこける。


「面白くない! 名前で呼んで貰えないのって何か辛い・・・」


山風はしゅんとする。


「でも、提督は山風を鎮守府に残してくれたのでしょう?」



山風の件については海風と江風の耳にも入っている、下手をしたらゴミ処理場に入れられる状況だったのに、


提督が新たな艦娘の着任を拒否してまで残してくれたことも海風たちは知っていた。



「山風は私がいる鎮守府に着任しなくてよかったですよ。」


海風が意味深な発言をする。


「? 海風姉?」


よく見ると、海風の頬が赤く腫れているのが分かり、


「どうしたの、その腫れ・・・もしかして提督に?」


「うん、ちょっと・・・任務に失敗しちゃってね。」


痛いのか、海風は頬を手で押さえる。



後から聞いた話では、海風は任務失敗で提督から暴力を振るわれていたことが発覚。


江風は疲労状態でも永遠に遠征を行かされ続け、着任してからほとんど休みが取れていないのだと言う。


「・・・・・・」


「海風姉と江風はブラック鎮守府に着任したんだ」と思う山風。



「だからさ、あだ名を言われるだけなら、あたしだって”赤”でも全然いいし、山風は良い場所に着任出来たと思うぜ。」


「そうですね、海風だとあだ名は”青”ですか・・・何か、面白いですね。」


2人は山風の提督のあだ名に笑い出す。


「・・・・・・」


山風は気づいた。


「そっか・・・あたしのいる鎮守府は、とてもいい場所だったんだ。」と。


そして、「あたしが我儘で、自分勝手だったから」とも気づき、今までの提督に対しての行いを反省する山風。


・・・・・・


「ねぇ提督。」


「何だ緑・・・じゃなく、山風?」


執務中の提督に対して、


「構って・・・ううん、遊んで。」


何と、遊びの要望をしてきた。


「はぁ? 今執務中だろ? 遊びは休憩の時にしろ。」


提督の最もな言い分に、


「嫌! 今遊びたい! だから遊んで、構って!」


山風は意外としつこい、


「駄目だ、休憩時間になってからだ、分かったらさっさと書類の整理を始めろ!」


「・・・ぷぅ~、つまんない。」


結局提督の指示に従うも、


「じゃあ次の休憩時間になったら、遊んで・・・絶対に構ってよね?」


書類を持ちながらこれまたしつこいため、


「はぁ~、分かった。 だから仕事を早くしろ!」


「う、うん。えへへ♪」


山風は喜んで仕事に戻る。



山風の積極的な行動に、提督も次第に打ち解けるようになった。



「提督、いつになったら遊んでくれるの? ねぇ!」


一向に遊んで(構って)くれない提督に不満を漏らす山風に、


「ん? これで十分構ってやっているだろう?」


提督が持っているのは、猫が喜びそうな振り玩具。


「あ、あたしは、猫じゃないから!」


猫扱いされて、更に不満になる山風。


「ほぅ、これでもか?」


提督は玩具を山風の頭上で上げたり下げたりする。


「もうっ! ・・・と、届かない。ううん、も、もう少し! あうっ。」


嫌だと言っている割に、面白いほど玩具に反応する山風。


「・・・(可愛い奴)」


あれだけ山風を無視していた提督も、いつの間にか自然に接するようになった。


・・・・・・


それからまた海風たちと再会した山風だが、


「海風姉! だ、大丈夫?」


頭と腕に包帯を巻いていた海風に、


「大丈夫ですよ、出撃で被弾しちゃって・・・」


心配を掛けまいと、「すぐに治るから」と安心させようとするも、


「でも、被弾なら入渠で治るはずじゃあ?」


「・・・・・・」


山風の言った事は正しい、実際は提督からの度重なる暴力による怪我だった。


「江風! 江風ってばぁ!」


会うなりそのまま寝てしまった江風、山風は揺すって起こそうとする。


「んんっ、何だよ山風・・・ふぁ~あ。」


目覚めるなり、江風は大きな欠伸をする。


「江風、昨日は寝てないの?」


山風の言葉に、


「昨日どころか・・・一昨日も3日前もロクに寝てないよ!」


そう言って、再び寝ようとする江風。


「・・・・・・」



海風は徐々に怪我の範囲が広くなり、江風は表情や態度から酷く疲れているのが分かる。


2人の状態を見た山風は不安でいっぱいになる。


・・・・・・


「あ、あの、提督。」


「何だみど・・・じゃなく山風?」


急に目の前で話しかける山風に、提督は首を傾げる。


「海風姉と江風が・・・」


「海風と江風? 2人がどうしたんだ?」


提督の質問に、


「じ、実は・・・」


山風は思いのたけを漏らす。



「それは確かなのか?」


提督に海風と江風が、鎮守府で酷い目に遭っている旨を相談した山風。


「うん、本当。 海風姉も江風も・・・何も言わないけど、あたしには分かる。」


山風が真剣に相談してくるので、


「ふむ、それが本当ならけしからん話だな。 よし、海風と江風から直接聞いて見るとするか。」


そう言って、提督は仕事を早く切り上げ、明日の準備を始める。



翌日、山風と一緒に海風がいる鎮守府に赴く。


「海風姉!」


ちょうど出撃に向かう所だったのか、工廠場近くで海風に出会う。


「山風? ど、どうしてここに?」


突然の来訪に驚く海風、


「・・・そちらのお方は?」


提督を見た海風が尋ねると、


「あ、あたしの、提督。」


山風が答えると、海風は提督の前に立ち、敬礼をする。


「私の妹がお世話になっています!」


深く礼をする海風。


「い、いや・・・こちらこそ。」


山風と違い、海風の礼儀正しさに思わず提督も驚く、


「そして、山風がやらかした数々の提督に対しての無礼をお許しください!」



再会した時、提督に対して数々の失態(邪険や貶したり等)をあらかじめ山風から聞いていたようだ。


そしてもし、提督に会う機会があれば、姉として謝罪するつもりでいたようだ。



「・・・(海風、君は本当に礼儀正しくていい子だよ。)」


提督は海風の行動に関心する。


「・・・(それに比べ、山風は・・・もっと姉を見習って欲しいよ、はぁ~。)」


口には出さず、心の中に留める。


「あ、あの。 それで、この鎮守府に何か御用でしょうか?」


改まって尋ねる海風に、


「ああ、海風の提督に会いに来た、今すぐ会えるか?」


「は、はい・・・お待ち下さい。」


そう言って、近くにあった無線機で提督に連絡を取る。


「・・・・・・」


海風が持っている無線機からは提督の声だろうか、やたら怒涛な内容が少し離れた提督にも聞こえて、


「ほほぅ、これは長い説教が必要だな・・・」


提督は何故か怒り心頭である。


「・・・て、提督?」


側に居た山風は提督の鬼の形相に恐れを成す。


・・・・・・


数分後、待ち人来たる。


「海風! お前何をやっているんだ!! こんな所で時間潰しやがって、さっさと出撃をしろ!!」


海風の提督だろうか、かなり苛立った様子でやって来た。


「そんな包帯はすぐに解いて、出撃しろ! 全く、少し殴った程度で「怪我をした」なんて言うな!!」


提督は何度も海風を罵倒する。


「ほほぅ~? 少し殴った? 今のは間違いなく”海風に手を挙げた”って解釈でいいよな。」


そう言って、山風の提督は前に出る。


「? 何だ貴様・・・はっ!!」


海風の提督は思わず敬礼し、


「こ、ここここれは元帥殿!! 一体この鎮守府に何の御用ですか?」


「えっ? 元帥ってあの・・・」


海風は山風の提督を見て、


「ば、バカ! こちらは元帥閣下だ! 早く敬礼をしろ!!」


提督の指示で海風もすぐに敬礼をする。


「・・・・・・」


海風たちの態度に疑問を感じたのか、


「う、海風姉。」


山風は海風に向かって一言。


「元帥って・・・偉いの?」


山風の質問に、海風は一瞬吹き出し掛け、


「(汗)・・・提督の階級の中で最高位ですよ!!」


海風の説明に、


「そうなの? ・・・あ~、だからあんなに偉そうなんだ。」


山風の遠慮のない言葉に、


「・・・(まぁ、偉いんだけどな。)」


またも心の中に不満を留める元帥提督。



実は、海風と江風の着任した所の提督の階級は”大佐”であるが、山風が着任した所の提督の階級は”元帥”である。



「さて、それはいいとして・・・」


提督は近づき、


「オレの海風に手を出すとはいい度胸だなぁ~、お前はぁ!!」


何故か提督は”オレの海風”と言い張り、


「げ、元帥閣下! 海風は私の艦娘です、何故元帥閣下の艦娘だと・・・」


大佐提督は小声で説明するも、


「”海風に手を挙げる”って事は”オレを殴る”と同じ事なんだよ!! 分かっているのか、ああっ!!!!」


元帥閣下の怒りは治まらない。



最初にも説明した通り、提督は”海風か江風”が欲しかった身、運悪く山風が選ばれ、2人は他の提督の元に着任してしまうも、


「次は絶対に海風か江風を迎えたい!」そんな一心で次のチャンスを願っていたが、急遽企画が中止になった事により、


提督の夢は見事に粉砕されてしまう。


それでも、まだ2人を諦めきれなかった提督は「せめて他の提督に大切にされていれば・・・」と願うも、


今回の事で暴力を受けていると分かり、提督の怒りに拍車が掛かってしまったのだ。



「で、ですから・・・海風は、私の鎮守府の艦娘であって・・・」


あらぬ言い掛かりを言われて、意見具申をするも、


「お前の様なクソ提督には、今日限りで”最果て鎮守府”に強制左遷だぁ! 今すぐに荷物をまとめて鎮守府から


 消えろ、クソがぁ!!!!」



元帥閣下の鬼の形相に大佐提督も何も反論出来ず、結局最果て鎮守府に行かされる事態に・・・


当然のことながら、元帥は江風の鎮守府にも赴き、江風の提督にも同じ”最果て鎮守府”行きを命じられる。



・・・これは冤罪と言うべきか、自業自得と言うべきかは賛否が分かれるだろう。


・・・・・・


その後、山風の願いによって海風と江風は元帥のいる鎮守府に保護される。


「最初にまずは、着任書類を書いて貰いたいが・・・」


海風と江風の態度を見て、


「海風、君は今すぐ入渠しなさい。 傷が治るまでゆっくり風呂に浸かっていろ。」


そう言って、山風にタオルと入渠場の案内を指示する。


「それと江風、お前はずっと休みを貰っていないそうだな? 今日はこの位でいいから、


 支給した部屋に向かって、ゆっくり休め。 続きは明日でいいから。」


そう言って、江風に布団と枕を届ける様に山風に指示する。


 

「海風姉・・傷、大丈夫?」


長い入渠を終え、傷は癒えたものの・・・心の傷は簡単に塞ぐものではないが、


「大丈夫ですよ、お姉さんはそこまで弱くありませんから。」


と、姉として振る舞う・・・海風は立派なお姉さんである。


「zzz~、zzz~」


肝心の江風は布団の中で完全に爆睡していた。


「江風、休みも全く取れなくて・・・ほとんど寝られなかったって・・・」


元帥提督の尋問で、大佐提督が江風に過度な労働をさせていた事実を聞いていた山風。


「もう少し遅かったら、江風は過労で倒れていたって・・・」


「無事でよかった。」と安心する山風。


「・・・でも、ずっと寝てるし。 ほっぺをつねっても全然起きないし。」


そう言って、再び江風の頬を強くつねるも、


「zzz~、zzz~ むにゃむにゃ。」


全く起きる気配が無い江風だった。



翌日から、海風と江風は正式に着任。


結果的に、提督の夢が叶ったという事になる。


・・・・・・


「提督、今日の書類をお持ち致しました。」


大量の書類を持って海風が執務室に入る。


「ご苦労様、そこの机に置いてくれ。」


海風に指示をする提督、


「も、もう少し! あっ・・・と、届かない、もうっ!」


相変わらず、山風は猫用の玩具で遊ばれている。


「こら山風、提督のお仕事の邪魔をしては駄目でしょ!」


海風から叱られ、


「は、はぁい(しゅん)」


急に大人しくなる山風。


「・・・(うんうん、流石お姉さん。 本当に良く出来たお姉さんだよ。)」


海風を見てにやにやする提督。


「提督、山風から聞いたのですが・・・」


海風は提督の前に立ち、


「山風の事を”緑”と呼んでいたのは本当ですか?」


「・・・う、うん。 それがどうした?」


妹にあだ名を付けた事にお姉さんが叱って来るのかと思った提督、しかし、


「わ、私も・・・良ければ、提督からあだ名で読んで頂いてもよろしいでしょうか?」


意外な事に、海風も「あだ名で呼んで欲しい」と要望して来た。


「別の名前で呼ぶって事は、それだけ”気に入っている”って事ですよね? 山風を大切にして貰えて海風はとても嬉しいです。」


「・・・(いや、山風が悪さばかりするから懲らしめのために、あだ名を言うようになったんだけど。)」


またも、心の中に留める提督。


「山風は”緑”、では私の場合は・・・”青”と呼んで貰えますか?」


海風の要望に、


「いやいや、海風は海風だよ! こんな礼儀正しくて、丁寧で妹想いのお姉さんにあだ名で言うなんてとんでもない!」


「・・・は、はぁ。」


提督の言い分に海風は少し驚く。


「だから海風の事は海風って呼ぶから、あだ名では呼ばない・・・オレは絶対に海風って呼ぶからな。」


「・・・は、はい。 分かりました。」


そう言って、仕事に戻る海風。


「提督、あたしは?」


山風の質問に、


「お前は緑だよ!(きっぱり)」


「な、何であたしだけは緑なの・・・ぶぅ~。」


山風は不満げな表情で提督を睨みつける。


・・・・・・


「提督、出撃から帰還しました!」


海風が無事に帰還する。


「おっ、ご苦労様。」


「今日の出撃は、無傷で勝利出来ました(完全勝利S)!」


滅多に出来ない完全勝利の達成に提督も、


「それは凄い! よくやったな海風!」


そう言って、海風の頭を撫でてあげる。


「提督ぅ~! 江風さん遠征から帰還したぜぇ~!」


資源を持って江風が執務室にやって来る。


「おう、江風もご苦労様!」


「聞いてくれよ、今回の遠征・・・大成功だったぜぇ、きひひ~!」


江風は自慢げに語り、


「おおっ、そうか! よくやったな江風!」


そう言って、江風の頭も撫でてあげる。


「・・・・・・」


机で書類整理をしていた山風が3人を見つめる。


「・・・ぷぅ~。」


何故か頬を膨らませて提督を睨みつける。


「何だ緑? そんなに頬を膨らませて?」


提督の問いに、


「・・・・・・」


何も言わず、提督の前に立つ。


「ど、どうした?」


何をするかと思いきや、


「海風姉、江風・・・どいて。」


2人をぐいぐいとどかして、提督の膝の上に座り込む山風。


「何だよ山風、せっかくいい所なのによぉ!」


江風は怒るも、


「あらあら、うふふ・・・」


海風は何かに気付いたみたいで、


「江風、席を外しましょうか?」


「えっ・・・あ~、成程ねぇ~。」


江風も気づいて2人は執務室から出る。


「・・・・・・」


山風は上目遣いで提督を見つめる。


「・・・(何だこいつは? 何かを求めているのか?)」


少し考えるも、


「・・・あ~分かった分かった、山風も褒めて欲しいんだなぁ~。」


そう言って、山風の頭を撫でると、


「♪~」


うっとりした表情で、膝の上で休憩する山風。


「・・・(お前は猫か!?)」


またも心の中で思い留まり、


「・・・つまり海風と江風に気を遣われたわけね。」


それから少しの間、山風に構ってあげる提督だった。


・・・・・・


その後も必死に頑張っている山風を見た提督は、


「よし、今日からお前の事を”緑”と呼ぶことを止めよう!」


提督の宣言に、


「ほ、本当!?」


山風は驚き、


「じゃ、じゃあ今日からあたしの事を?」


「ああ、お前の事を今日から・・・」


山風は「やっと普通に呼んでくれる」と思ったのだろう・・・しかし提督は、


「今日からお前の事を・・・”猫”って呼んでやろう!」


提督の言葉に、


「・・・な、何で”猫”なの!? ”山風”って呼んでくれるんじゃあ!」


山風の言い分に、


「ああ? お前は猫でいいの! お前はまだあだ名で十分だ!」


「・・・ぶぅ~」


山風は頬を膨らませて不満げだ。


「あらあら、提督と山風は仲がいいですね~♪」


「ほんとほんと、見ててこっちが羨ましくなる位だよ。」


少し遠くで2人の光景を見ている海風と江風。




結局、山風の事を”猫”と呼んでいる提督。


当然、山風は不満ではあるが、提督に構って貰いたいその姿(膝に乗って上目遣いで見つめる)は、猫そのものである。


提督に”山風”と呼ばれるのは当分先のようだが、当の本人は文句を言うも、意外に”猫”でもいい様子。


それ以来、執務室に入ると、山風がひたすら提督に寄り添っている姿を度々見かけたと言う。











「提督と山風」 終














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1: SS好きの名無しさん 2019-02-12 10:58:27 ID: S:t83js8

荒れそうだけど俺は好き

2: クリンスマン 2019-02-12 15:58:59 ID: S:am0N-h

ごみ処理場ってあのごみ処理場の事なのかな・・・?

3: キリンちゃん 2019-02-12 16:07:20 ID: S:BbsCG7

クリンスマンさん、

そうです、前にssで書いた”ゴミ処理場”の事です。

4: Abcdefg_gfedcbA 2019-02-12 16:14:50 ID: S:5SE8Ls

すこなのでこすります…

5: SS好きの名無しさん 2019-02-13 03:24:46 ID: S:YH_Ndf

ブラック提督こそ
ゴミ処理場に行けば良いのにね…。

6: SS好きの名無しさん 2019-02-14 00:21:14 ID: S:AJuNVu

最果ての鎮守府って確か別の提督と白露嬢が
切り盛りしてるんだったっけ?あれ間違えたか?

7: キリンちゃん 2019-02-14 00:53:37 ID: S:TCjH63

6さん、

合っています、”提督と白露”で確かに最果て鎮守府が出ていますが、
提督が元帥に昇進し、最果てから”希望の鎮守府”に改名していますので、
今回の最果て鎮守府は別の場所を差しています。


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