2020-07-28 16:29:34 更新

玄関に入ると、小町が仁王立ちしていた。


八幡「え、何お前どしたの?」


小町「来てお兄ちゃん」


そのまま居間に入って行ったので俺もついていくと、テーブルの上に段ボールを切って組み立て、ガムテで貼り付けて作ったらしい、粗末な十字架が立っていた。


十字架?


そして小町が言う。


小町「お兄ちゃん、今日の事で何か懺悔する事があるんじゃないの?」


なぜ知ってる?


考えられる事は1つ。


八幡「一色から何か聞いたのか?」


小町「質問に質問で返すな!」


八幡「すみません、懺悔します」


小町がとても怒っているなと思いました。あれ作文?


逃げられないので、懺悔した。


小町神は聞き終えると、すーっと深呼吸をして


小町「チェイサーー!!」


と、回し蹴り。せっかく作ったであろう粗末な十字架を吹き飛ばす。


無残に折れ曲り、吹っ飛んだ段ボールの残骸がとても虚しい。罰当たりな。


小町「何やってんだごみいちゃんは」


八幡「すみません」


小町「お説教は、勘弁してあげる。いろは先輩が許したなら私は別に良いから」


八幡「はい…」


小町「いきなり先輩からこんな音声が届いたから何かと思ったよホント」


音声?


まさか!


『一色

はい

お前俺のこと好きなの?』


八幡「」


話を聞いただけじゃなかったのか…


小町のスマホから流れてくる音に絶望。


送らないでって、言ったのにな…


小町「と!に!か!く!ちゃんと答えるんだよお兄ちゃん。分かった?」


八幡「ああ、分かってる」


小町「なら良し!」


小町は初めて笑顔を見せると、


小町「ゴミいちゃん、そこの同類…じゃなくてゴミ片付けといて。お休み」


さっさと部屋に行ってしまった。


俺とゴミが同類だと言ったか?てかあの十字架をゴミって言ってやるなよ…


俺はゴミを片付け、寝る準備に入った。


………


??『おーい、おーい!起きろよ父さん!』


声が聞こえた。ふと意識を覚醒させる。


そこには1人の子供が仁王立ちしていた。


??「ったく、真っ昼間に庭の植木見ながらトワイライトるとかありえねぇ」


八幡「何だよトワイライトるって。つーか黄昏てねーし。ぼーっと子供の頃の記憶を思い返して感傷に浸ってただけだ」


??「それが黄昏るって事だろ」


全く生意気だなこいつ。誰に似たんだ。


あ、みなさんおかえりなさい。この話が大人八幡である俺の回想形式だってこと覚えてた?


今までの話全て俺の回想。雪ノ下も由比ヶ浜も一色も小町も、実は全て俺の声で脳内再生されてたってわけだ。笑えるな。気持ち悪い。


先程俺を現実に引き戻したのは我が息子であり生意気の塊、比企谷旭だ。


旭「もう昼ご飯できたから呼んでこいって母さんが」


八幡「そうか。青葉は?」


旭「もう起きてるよ。さっさと食べてんだろ」


比企谷青葉。旭の妹だ。


え?ネーミングセンス悪いって?仕方ないじゃん、俺らの名前の法則に従って名前っぽいの探したんだよ。


旭「なぁ最近さ、青葉が抱っこさせてくれないんだよ。何でかなぁ?」


八幡「もう反抗期か?兄離れの時期か?」


あの青葉がもう…成長とは早いもんだな。


旭「兄離れ?そんな訳無いだろまだ小3だぞ!」


八幡「てかお前が妹離れしろよもう小6だろ。」


旭「父さんだって小町おば…じゃなくて、姉さん離れしてないじゃんか」


八幡「小町が先に兄離れしちまったからな…」


………


沈黙が続いた。


旭は俺によく似た腐った目をさらに腐らせて

、日本海溝より深いため息をつく。


旭「兄離れとかありえない。絶対にだ!」


怖いよこいつ。誰に似たんだよ。


旭「つーか何で3歳差なんだよ!来年から学校ずっと離れちまうじゃんか!あと1年早く産んでくれよ!」


八幡「んな事言われてもな…」


旭「青葉とか超可愛いから絶対変な虫付くじゃんか。誰が守るんだよ?」


八幡「そうだなぁ。そろそろ青葉に極限サンシャインカウンター覚えさせないとなぁ」


旭「何でカウンター技なんだよ…つーか青葉なのに了平の技覚えさせんな」


八幡「カウンターはいつだって一発逆転、不利状況を吹き飛ばす激熱展開のキーだろうが。盛り上がるbgmが聞こえてくるだろ」


旭「戦闘物ならな。青葉がそもそも攻撃受ける前提の時点で駄目だ。覚えさせるなら先手必勝必殺の速攻技だろ」


八幡「速攻と言えば何だ?」


旭「うーん…よく分かんね。ゲイボルクかな?」


八幡「速攻で決まったら展開が盛り上がらないからそういう技は少ないし、扱いの難しさから一撃必殺系は色々こじつけられて確実に避けられる。ゲイボルクみたいにな」


旭「これは要検討だな」


といった所で怒鳴り声が居間の方から聞こえてきた。


旭「やっべ。昼飯忘れてた!母さんキレてんじゃん。さっさと行こ」


旭は駆け出して行った。俺も重い腰を上げる。


母さん、とはつまり俺の奥さんであり、まぁ展開で分かると思うが一色いろはだ。


そういえば回想が中途半端だったな。


俺がいろはにどんな返事をしたのか話していなかった。


が、今ここで話すのは控えよう。取り敢えず今の状況からして、『付き合って下さい』的な方向性の事を言ったと分かるだろう。


え?何で話さないのかって?


疲れたから。腹減ったから。以上。


ずっと回想してたんだもん。しょうがないね。


さて、長々と話し続けた所でまとめよう。


俺が語った黒歴史は今の俺を、俺を取り巻く状況を作った直接的な原因である事は違いない。


そして俺は今、幸福と言っていい生活をしているのだろう。妻がいて、息子がいて、娘がいる。そして仕事とかいう余計なもんもある。


ろくでもない俺をここまで導いてくれたのは、ろくでもない俺のろくでもない黒歴史だ。


いい思い出などでは決してない。


所詮俺の経験則に過ぎないが、みんなにも覚えておいて欲しいからもう一度言おう。


黒歴史を忘れるな。トラウマを捨てるな。青春の一言で片付けるな。


過去に執着すれば人は後ろを向いてしまう。忘れ去りたい過去が導く先にこそ未来がある。


その未来が良いか悪いかは人それぞれだ。決して良くなる確証なんて無い。


だが、黒歴史と比べて今の自分を比べて慰め続ければ心が折れることは無い。


夢も、希望も、理想も無かったとしても、今の自分が幸せであるために、黒歴史は必要だ。









うーん、我ながら深そうで実際特に内容の無い御託をよくここまで並べたもんだな。


何言ってんだこいつって思ってた諸君、まともな感性を持っていらっしゃる。是非そのままでいて欲しい。


共感してしまった人はなかなか厳しい人生を送ってるのでは?ドンマイ!


さて、いろはは何を作ったんだろう?昨日は焼きそばだったからご飯ものかなぁ。


あいつの飯美味いんだよホント。小町の次に。

あ、いや小町の次の雪ノ下の次かな。


え?浮気じゃないのかだって?まさか。そんな事したら死ぬより恐ろしい事になるだろう。


居間へ入り、食卓につく。


うん、いろはは割と怒ってた。ごめんね、のんびりしてて。


まぁ予想通り既に俺以外は食べ始めてた。グラタンじゃないか!旨そうだなぁ。


じゃあ変なタイミングだがここらで締めさせてもらおうかな。


俺の話は終了!そしていただきます!


後書き

ありがとうございました。


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2019-02-28 12:28:29

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