2020-07-05 06:14:17 更新

概要

オリジナルss 彼女らの絶望は終わらない



ここで確実に仕留める…神力を全放出させ、この人と共に自爆する!


どうせ死ぬくらいなら、タダで死んでやるものか。


ーーーーー そう思った、この瞬間までは。だけどその瀬戸際で色々な記憶が脳裏に浮かぶ。


それは聖堂で、大神官さまと過ごした日々。


それはカレンとみんなと出会った時。


それはこの街の人々と心に触れあった時。


せっかく救ってくれたこの命を簡単に手放すのは少し違うのではないのか。ここで死ぬにはまだ早いのではないのか。

まだまだやりたいこと成し遂げたいことが沢山ある。それにまだ助けてくれたお礼もカイゼルさんやカレンにもしていない。このまま恩を返さずに死ぬのは、私としては心残りになる。


わがままなことかもしれない、無謀なことかもしれない。けれど私はまだ生きたい…この先の未来を見てみたい。


あの日救ってくれた希望の光を、近くで見ていたいんだ…!!


クレハ「……芍炎ッ…!!」


エリアス「は?アァァァァァァァ!!!????」


抵抗の際に掴んでいた手からエリアスの腕に神炎を発生させそれは瞬く間に身体全体に燃え広がった。


エリアス「ぐわぁぁぁぁぁ!!??クッッッソガァァァァ!!!!!!」


首を掴む力が弱まり、なんとか抜け出すことができた。足元に落ちていた神剣を拾い上げ、距離を取る。


やった、やってしまった。勢いで自爆からあの場を抜け出す選択をしてしまったが不思議と後悔はなかった。けれども状況が状況だ、これ以上の策は無いに等しい。このままではやられるのも時間の問題だろう。


クレハ「…!」


そんなことを思っていると自身のある感覚に反応があった。その感覚を受けて、無意識に口角が上がってしまう。


この魔力、間違いない。


エリアス「アァァァァァァァ!!!!…はぁ、はぁ…このクソアマがぁぁぁ…!!!お前はもう生かす価値はねぇ!この場でぶっ殺してやる!!」


もはや鬼の形相で怒りで我を忘れるくらいに激昂していた。でも関係ない、次の一手で終わらせるのだから。


クレハ「棘火ッ!」


足元に太い棘の炎を生み出し、それに乗るようにして瓦礫のある後方へと下がっていく。


エリアス「逃げる気かぁ!?逃すわけねぇだろぉが!!」


エリアスの背中からまた黒炎が勢いよく噴き出し始める。さっきと同じことをするみたいだ。来るなら来い、むしろそれこそが狙い。


クレハ「蓮獄ッ!!」


神剣を振り上げ神炎の塊を生み出す。その光景を見てやばいと感じたのかエリアスの動きが止まる。


エリアス「チッ、でもそんな大振りな攻撃当たると思ってんのか!?」


エリアスの言う通りだ。こんな見え見えの攻撃、当たるとは思えない。だがそれで構わない、むしろこれは最初から当てる気などないのだから。


炎の塊をエリアスに向けて投げつけ…ることはせず、真下の地面へと撃ち放った。その際に爆炎が燃え広がり、一種の煙幕のような役割を果たす。


エリアス「あ?何考えてんだあのクソアマは…そんなんで隠れたつもりかよ!!?」


エリアスは全身に黒炎を身に纏い、背中から炎を噴出させ燃え広がる神炎の中に飛び込んだ。黒炎を身に纏い、直接神炎に当たらなければどうということはないと踏んだのだろう。


エリアス「俺を舐めやがって…絶対にぶっ殺してやるッ!!」


神炎の中を突き進み、クレハの元いた場所へと近づいていく。神炎で身を隠したとはいえものの数秒、動けたとしても数歩程度のはず。


エリアス「ははっ、終わりだクソアマァ!!」


クレハ「…!!」


案の定元いた場所にクレハの姿を捉え、一直線に突き進んでいく。ほとんど動いていなかった彼女見てエリアスの内心はバカが、と見下すように不敵に笑った。それはそうだ、こんなに簡単に距離を詰められてしまうなどさっきの神法は一体なんだったんだという話になる。所詮は無駄な足掻き…エリアスは勝利を確信し更に詰め寄る。


エリアス「死ねぇ!!!」


拳を振りかぶり、クレハの顔面へとそれは放たれる。もはや避けることなど不可能、この一撃が当たり、全てが終わるはずだった。


エリアス「…んぁ?」


次の瞬間、エリアスの思考は止まった。寝ぼけているわけでもない、ただ今起きた現実に理解が追いつけずにいた。

ついさっきクレハに向かって拳が振るわれた、それは確かなのだが、何故だか振るわれたはずの拳から腕の先までが…"無くなっていた"。


理解が追いつかずにいると、すぐ横からぼとりと何かが落ちる音が聞こえた。鈍る思考をなんとか巡らせそれに視線を向けると…見覚えがある腕が落ちていた。


エリアス「あ…あ…」


これだけ見れば嫌でも状況がわかってしまう、再び視線を戻し、"斬られた"腕を凝視した。


エリアス「あ…アァァァァァァァ…!!!????!?!?」


ようやく身に起きたことを理解すると、腕を斬られた痛みが遅れて襲い掛かる。


エリアス「う、腕がぁぁぁ!!…なんでだぁ!?近接能力は皆無なはずなのに…!!」


想定外の事態に遭遇したためか、魔力操作が覚束ず、エリアスは黒炎を維持できなくなっていた。

そんなエリアスの姿を見たクレハは鼻で笑い、ぽつりと呟く。


クレハ?「ふっ、なるほどな…」


エリアス「…あ?今の声は…」


エリアスの目の前にいるのは間違いなく神剣を持っているクレハの姿だ。だがさっき聞こえた声は女の声とはまるで違かった。

それにその声は、エリアスには聞き覚えのある声だった。


クレハ?「なんというか、クレハ殿にしてやられたようだな、四聖騎士よ」


そう言い放ち、クレハの姿をした者が揺らめき始め、炎が身体から剥がれるように落ちて正体を現す。


エリアス「て…てめぇ…!!!」


カイゼル「どうやら、ここまでのようだな」


リーネの騎士団長、カイゼルが目の前にいた。


ーーーーー

ーーーーー



エリアス「てめぇ…どういう…どうなってんだよこれは…!?」


驚くのも無理はない、クレハの姿をしたものがたちまちカイゼルの姿へと変わったのだから。


クレハ「貴方が単純な方で助かりました、おかげでなんなく策が上手くいきましたからね」


すると近くの瓦礫の陰からクレハ本人が出てくる。

なにが起きたのか説明すると


エリアスに拘束されて振り解き距離を取った後、私の魔力探知に1つの反応を感じとった。その魔力はカイゼルさんので、カイゼルさんが来るであろう方向…つまり後方へとできる限り下がったのだ。

そして蓮獄で姿を眩まし、その隙に瓦礫の陰で様子を窺っていたカイゼルさんと入れ替わりに場所を移した。だがそれだけではエリアスがカイゼルさんと対面した時に警戒して無防備に近づいて来るのをやめてしまうかもしれない。だからその際にカイゼルさんにはある神法をかけた。


神法、鬼燈<おにあかり>

神炎の衣で私そっくりの姿に変えることができ、それを使って先ほどのように不意打ちの攻撃をしかけられた。


これは偶然できた賜物などではなく、最初から仕組まれたものだ。

私は最初から1人でエリアスを倒すつもりはなかった。理由は簡単、1人では倒すのは無理だからだ。だから私は小天使隊をカイゼルさんに避難させる際にあの一言を伝えた。


"隙を作ります"、と。


クレハ「でも危なかったです、もう少し遅かったら私自爆してたかもです」


エリアス「それは…間に合ってよかった。もしあの4人が目を覚ました時に暴れられても困るので、魔力封じの腕輪を用意して付けさせたものでな…少々時間を喰ってしまったんだ、すまない」


クレハ「いいえ、適切な判断だと思います」


エリアスに加えて小天使隊までも加入してしまうととても手がつけられなくなりそうなのでそこは良判断と言えよう。なんにしろ間に合ったので結果オーライだ。


エリアス「んのやろぉ…!たかが腕一本斬られたくらいで…!!」


斬られた腕を抑えながら殺意に満ちた目つきで睨みつけられる。そしてエリアスの魔力が高まり、黒炎を生み出そうとしていた。


クレハ「やめたほうがいいですよ、その中で魔法を使うのは」


エリアス「あぁ!?何言ってやが…あっがっ!?」


するとエリアスの足下に陣が浮かび上がる。それはクレハの腕の刻印と同じ炎を模した陣で、黒炎を放とうとしたエリアスが逆に神炎に包まれてしまった。


エリアス「ぐわぁぁぁぁぁ!!??!??」


クレハ「神法、天葛<あまかずら>。その陣は魔力に反応して発動する設置型の神法です。その陣の上にいる限り、魔法を使おうと魔力を操作した瞬間に神炎が貴方に襲い掛かり魔法ごと燃やしてしまいます」


本来は罠として使うのが正しいのだがこうやって抑止力として使うこともできる。更にその陣から逃げるために動こうとすれば即カイゼルさんに斬られてしまうという、まさに八方塞がりの状態だ。


カイゼル「逃げ場はない、大人しく降参しろ」


エリアス「くっ…!!」


剣を突きつけられ、目つきは反抗的な感じだがこれ以上抵抗するのはやめたみたいだ。


クレハ「これで…私たちの勝ちですね」


勝った…勝ったんだ。一時はどうなるかと思ったけど、なんとか凌ぐことができた。


エリアス「油断はしないでくれ、魔力封じの腕輪を嵌めるまではな。私はこいつを見ているからクレハ殿、すまないが腕輪を嵌めてくれ」


クレハ「わかりました」


カイゼルさんから魔力封じの腕輪を受け取り、エリアスに近づいていく。


クレハ「さぁ、腕を出してください」


そう声をかけるが、エリアスは俯いてしまっていて応えてくれなかった。


クレハ「大人しく腕を出してください、でないと神法を使いますよ?」


軽く脅しの言葉を使うが、それでも変わらず応えてはくれなかった。


エリアス「…ざけんな」


クレハ「…?」


するとボソッとエリアスが何かを呟く。


エリアス「ふざけんな…くそが…!」


クレハ「はぁ…」


この状況でも悪態を吐けるようだ。これ以上反撃の手段を持ち合わせていないはずなのに。


そう、この時はそう思っていた。だがある時を思い返す。

男の子を助けた時、遠くから感じたあの悪寒と邪悪な魔力…直に対面した時、何故かあの悪寒は感じなかった。そんな余裕はなかったといえばそれまでだがなにか違和感がある。


これほどの魔力を持つものが"この程度"の実力なのか?いくら神法が使えるとはいえ私は戦闘経験がほとんどない。作戦が上手く言ったからって本当にこれで終わった…のか?


エリアス「…もういい」


クレハ「…!!」


エリアスの魔力が膨らみ始める。だがそれはさっきまでとは違い、禍々しく背筋が凍るほど恐ろしい邪悪な魔力で満ちていた。


エリアス「もうどうなってもいい…全部だ…全部」


まだ、終わってない…!まずい!!


エリアス「この国を…滅ぼしてやる」


クレハ「!!…危ないっ!!」


カイゼル「なにっ…!?」


強大な魔力が凝縮され、一気に解き放たれた。あまりの魔力量に天照の陣も耐えきれず破壊され、一瞬で辺り全体が業火に包まれた。

炎で焼かれ、熱で溶かされ、全てが灰塵と化し、周りの建物が聳え立っていた空間は…更地となっていった。


黒炎が徐々に晴れていくと、その中から紅い炎に包まれた2人が姿を現す。


クレハ「っ…はぁ…はぁ…」


激発された黒炎を対処するべく神炎で素早く身を包み込みなんとか一撃を凌いだ。一歩遅ければ一瞬で灰になっていたかもしれない。


カイゼル「すまない、クレハ殿。助かった」


クレハ「いいえ…間に合ってよかったです」


カイゼル「しかし…これは一体…なんてことだ」


そう、さっきの黒炎の爆撃で見える範囲の建物が一気に消えていった。この街の半分くらいは吹き飛んだ…というよりは燃やされたのだろうか。幸い街の住人は全員避難済み、犠牲者はいないはずだが、まさか天葛の陣をものともせずこれほどの魔力を解放するだなんて、一体どれほどの魔力があればこんなことを…


カイゼル「っ…!!なんだ…あれは…!!?」


クレハ「…?どうしたんですかカイゼルさ…え?」


さきほどまで天葛の陣内いたエリアスの場所へと視線を向けると、そこには黒炎の塊が激しく燃えて佇んでいた。


いや…違う、ただの黒炎じゃない。黒炎を身に纏った…"異形の生物"。


クレハ「まさか…あれは…!」


その姿はおよそ人の姿にあらず。黒く変色した肌は謎の鱗に包まれており、鋭く強靭な尻尾を持ち、猛々しい2本の角を生やした、かつて人類を絶望の淵へと叩き落した元凶。


エリアス?「コロ…ス…ゼンブ…!」


クレハ「悪…魔…!?」


500年前に勇者が全て滅ぼしたはずの悪魔の姿が、今ここにあった。











後書き

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