2023-12-31 07:29:49 更新

概要

「蛇提督と追いつめられた鎮守府」の続き、part6です。
自分達の解体を免れる事を条件に、蛇目の男を新しい提督として迎える事となった横須賀鎮守府の艦娘達。
その男は見た目も評判も恐ろしいとの事であったが、提督と艦娘達が関わる中で彼にも艦娘達にも変化が……。
蛇提督の秘密も少しずつ明かされる中、物語は新しい出会いを通して新たな戦いを告げる。


前書き

*注意書き*
・SSというより小説寄りの書式となっています。
・この物語は完全な二次創作です。
アニメやゲームを参考にしてはいますが、独自の世界観と独自の解釈でされてる部分も多いのでご了承ください。(出てくるキャラの性格も皆様の思ってるものと違う場合がございます。)
そのため、最初から読まないとちょっとわかりづらいかも知れません。

それでも良いよという方はどうぞ。
読んでお楽しみ頂ければ幸いです。




所感と予感





―――硫黄島付近 海上―――



古鷹、加古、衣笠、青葉、天龍に夕張は、複縦陣で海上を進んでいた。


衣笠 「ハァ〜……」


そんな中、衣笠は任務中であるのにも関わらず、海上を走りながら憂鬱そうに溜め息をつく。


加古 「どうしたんだよ、衣笠?」


衣笠の様子が良くなさそうなのを見て、加古は衣笠に近づき、他の艦娘達も気づいて同じようにする。


青葉 「ここの所、ずっとこの調子なのですよ〜」


青葉がそう言った瞬間、衣笠はギロっと青葉を睨む。

「うっ…!」と青葉は衣笠のその目に一歩たじろぐ。


古鷹 「青葉が勝手に取材をした日、辺りからだよね?」


夕張 「もしかして、この前の提督の言葉を気にしている?」


ギクっと衣笠は体をビクつかせる。


天龍 「まぁ、あんな言われ方したら怒るのも無理は無いよな」


衣笠 「ま…まぁ……」


夕張 「そうよね〜、衣笠を下心ありありで見てたなんてちょっとショックよね〜」


加古 「提督は目の事があるんだとしても、ああいうところが無ければ、もっとモテそうな気がするけどな」


古鷹 「でも、そういうところも演技だっていう可能性もないわけじゃないし……」


天龍 「そうだぜ、龍田だって言ってたじゃねぇか−−あいつの場合は嘘と本当を混ぜるって−−いちいち真に受けてたら、身が持たないぜ?」


加古 「そういう天龍は、全然気にして無さそうだよね?」


青葉 「そうです。天龍さんも“からかいやすい人”認定されてたじゃないですか?」


天龍 「あー、なんか慣れてきたというか……いちいち食い下がったところで、どうもならんだろ」


加古 「……天龍の言葉とは思えねえ」


天龍 「どういう意味だよ!!」


夕張 「もしかして……!?」


天龍 「あん?」


夕張 「実は……また触られてもいいとか思ってる?!」


天龍 「んなわけあるか!!」


夕張のトンデモ発言に胸を触るジェスチャーを見て、天龍は顔を赤くして怒る。

落ち込んでいる衣笠を置いてけぼりに、話は別の方にヒートアップしていた。


古鷹 「と、とにかく! 気に病む必要はないってことだよ!」


古鷹も少し顔を赤くしながら、彼女らの話を止める。


青葉 「そうです! それにガサ、逆に考えるのです!」


衣笠 「……何を?」


青葉 「触れやすそうな相手ということは、司令官にとってハードルが低く身近な相手として親近感を感じやすいという意味でもあるということです!」


衣笠 「それは……絶対無いと思う」


青葉の提案に、衣笠の表情は暗くなる一方だった。


古鷹 「話はここまで! そろそろ報告にあった敵艦隊を捕捉できるはず−−みんな集中して!」


そう、彼女達は索敵させていた古鷹の水上機から、敵の輸送艦隊を発見した報告がなされ、その追撃をしている最中だった。

彼女達を気を取り直し、任務を続行するーーーー。


しばらく進んでいると、古鷹が「敵輸送艦を捕捉」と目視で発見する−−−−。

「ここで撃破します!」と古鷹の言葉を皮切りに艦隊は最大戦速で追いかける。

これに敵艦隊も気づいて反転し、やがて戦闘に突入する。

輸送ワ級が三隻、重巡リ級が二隻、軽巡ホ級が一隻。油断しなければ数も火力もこちらが上。

古鷹達は泊地棲姫の艦隊を倒した勢いから衰えることなく、これらも確実に仕留めて、それほどの被害を受けずに勝利を収めた。


夕張 「これから、どうする?」


周囲に敵がいないことを確認した上で、夕張が古鷹に指示を仰ぐ。


古鷹 「一度、硫黄島に帰投しようと思う。この事を元帥と提督に報告する必要があると思うの……」


青葉 「そうですね……彼らが進んでいた方向は、明らかにフィリピン諸島方面でしたからね〜」


実は輸送艦隊を見つけたのはこの一つだけではない。

ここまででも五つ以上の艦隊を発見している。全ての艦隊に輸送級がいて、皆全てフィリピン方面に進んでいた。追いつけられそうな艦隊を潰しながら、その規模を把握しようと彼女達は追っていたのだ。

       

敵の新たな動き……こればっかりは、いくら療養を言いつけられている蛇提督にでさえも報告しなくてはならない。

それほど、今回の敵艦隊の発見は重要な意味を持つと考えた古鷹は、哨戒任務の途中ではあったが、急遽戻ることを決断する。


そして一行は、少し足早に帰路につく。

艦隊は複縦陣で、先頭は左側から天龍と夕張、真ん中は衣笠と古鷹、後ろは青葉と加古だ。


加古 「それにしてもさ〜、ここんとこアタシ達負けなしだよね〜」


無線越しに加古が意気揚々にみんなに話しかける。


天龍 「あん? そりゃあ俺様がいるからな!」


加古に負けないくらい鼻高々に言う天龍。


夕張 「いやいや、私のデータが大いに活躍しているからでしょ」


夕張も自慢げに対抗してくる。


青葉 「青葉達の古参組が、これまでの経験を最大限に活かしているからですよ!」


青葉は彼女らの話に、楽しそうに便乗する。


衣笠 「……」


衣笠だけは彼女らの話がまるで聞こえていないのか、まだ思い詰めたままだった。


天龍 「そんな事言ったら、俺だってその古参組だろ」


青葉 「艦隊決戦に関しては、青葉達の方が上です」


夕張 「いやいや、それらも全て網羅している私のデータが−−−−」


話が段々喧嘩になりかねないところで、加古が割言って話す。


加古 「ともかくさ! アタシ達、無敵だよね!」


それを聞いた夕張、天龍、青葉は一緒に納得して同意する。


古鷹 「……でも油断は大敵だよ? 何があるかわからないんだから……」


加古 「大丈夫大丈夫! 何でも来やがれってもんさ!」


天龍 「そうそう! そこまで心配する必要はねぇぜ!」


古鷹 「そうかな……」


古鷹は心のどこかでざわついた感覚があった。

先程の敵艦隊を見たからなのか、それとも他の理由か……。

彼女の中で、見えない不安に駆られていた。


加古 「ふっふーん、アタシってば本当にやる時はやれるんだからね〜」


加古の浮かれ気分は上がる一方だった。

それに合わせるように他の三人も話を盛り上げる。

ここまで会敵することなく硫黄島まであと数十分もすれば帰れる地点にまで来たことが、彼女らの油断をさらに誘う要因になっていた。


そんな彼女らに三時の方角から数本の魚雷が迫っていることに、まだ誰も気づけなかった。

そして最初に気づいたのは古鷹だった。気づいたと同時に回避命令を出すが、警戒が緩んでいた彼女らはその対応が遅れる。


加古 「ぐわあぁっ!!」


魚雷の一本が加古に直撃してしまう。


古鷹 「加古っ!?」


爆発して倒れかかる加古の体を青葉が抱き止める。

古鷹と衣笠は辺りを警戒して、天龍が爆雷の準備、夕張がソナーを使って魚雷が来た方向を索敵する。


夕張 「数は……三……それ以上いるかも」


天龍 「どうする? オレ達、対潜装備はちゃんと積んでねぇぞ」


古鷹 「ここは撤退、振り切ります!」


分が悪いと判断して、即断で撤退を指示、逃げる事を優先した。

硫黄島まではもう少しだ。うまく動けない加古を抱えてでも逃げ切れる。

そう思っていたのだったが、現実はそう甘くなかった。


夕張 「前方に敵潜水艦! 数は六!」


ちょうど道を塞ぐように敵潜水艦が横一列に並んでいるのを夕張が発見する。


古鷹 「まさか……待ち伏せ!?」


そんなことを考えさせてくれる暇も無く、前方の敵潜水艦から一斉に魚雷が放たれる。

今度はこちらの発見が早かった為、回避行動が間に合った。


天龍 「今度も数が多いなーーでもやるしか無さそうだな!」


青葉 「突撃する気ですか?!」


天龍 「もたもたしてたら、後ろからも狙われるぞ!」


天龍の言う通りだ。このままでは前と後ろから挟撃される。

対潜能力の無い重巡四隻と内一隻は大破して連続で回避行動できるほど、船体の調子が良くない。

そして、あまり対潜装備が十分じゃない軽巡二隻だけでは、数に負けてしまう。

でももう迷っている時間もない−−−−絶体絶命だった。


加古 「古鷹……ここは私を置いて……先に……」


古鷹 「何を言ってるの?!」


加古 「この状況作ったのはアタシだ……だから責任を……」


古鷹 「加古を一人置いて行けるわけないじゃない!」


天龍 「そうだぜ! 弱音吐いている暇あるなら、とにかく動け!」


夕張 「私達がなんとか退路を作るから、他のみんなは隙を見つけて先に行って!!」


衣笠 「そんな……!」


青葉 「壁と魚雷処理ぐらいならできます!」


天龍 「戦えない奴がここにいたって邪魔なだけだ! さっさと行くんだな!」


衣笠 「そんな言い方……」


天龍 「死ぬ気はねえよ……オレ達も後から行く」


夕張 「そうそう、私もいるんだから平気! また会いましょう!」


天龍と夕張、二人は笑顔でグットポーズをして見せたあと、その古鷹達の前に堂々と出る。


古鷹 「二人とも……」


そんな彼女らの背中はとても大きく、そして勇ましく見えた。


衣笠 「かっこいい……」

青葉 「その勇姿、この青葉の目とレンズに焼き付けさせてもらいます!」


これから死地に行くとは思えないほど、二人は輝いていた。


夕張 「フフッ……さあ、行くわよ!」

天龍 「ああ、行くぜ!」


と、二人が走り始めようとした−−−−その瞬間だった。


ドゴーーーーン!!!


天龍 夕張「「…………あれ?」」


いつの間にかどこぞの艦隊が、正面の敵潜水艦群に爆雷を投げつける姿が見えた。


天龍 「嘘だろ!? 俺の見せ場が!?」


夕張 「それは私のセリフよ!! 私の活躍の場が〜」


ここのところ、戦闘においてほとんど良いところが無かったと言う二人が、地団駄を踏んでいる。

今の二人に先程の勇姿は微塵も残っていなかった。


衣笠 「アハハ……残念だったね……」

青葉 「でも面白いので撮っておきましょう!」


やがて、潜水艦群を素早く片付け終わった彼女らはこちらへと転進し、颯爽と近づいて来た。


卯月 「助けに来たぴょん!」


皐月 「間一髪だったようだね!」


鳥海 「間に合ったようですね。残りの敵潜水艦もよろしくお願いします」


五十鈴「対潜のコツ、教えてあげるわ。ついてきなさい」


矢矧 「お願いする!」


神風 「さあ、追い込むわよ!」


鳥海以外は、古鷹達の後ろから追いかけてきた潜水艦達をやっつけに向かう。


古鷹 「鳥海さん、お久しぶりです!」


鳥海 「お久しぶりです!」


衣笠 「鳥海達が助けに来るなんて……」


青葉 「鳥海さんがいるってことは大湊から代わりの艦隊が?」


鳥海 「当初はその予定でしたが、色々の都合と重なって他の鎮守府所属の艦娘も混ざってますよ」


夕張 「そうよね……五十鈴は確か舞鶴に……一緒にいたポニーテールの娘は初めて見た顔ね……」


鳥海 「彼女は阿賀野型三番艦の矢矧ですよ。同じく舞鶴にいたとか」


天龍 「なあ、さっき『間に合った』って言ってたけどよ。もしかしてこうなることを予想してたのか?」


加古 「……」


鳥海 「その事も含めて、帰りの道中でお話しします」


彼女らが話し終わった頃に、五十鈴達も敵を掃討して戻ってきた。

そして一同は、硫黄島への帰路につきながら、これまでの事を古鷹達に話すのだった。




―――数時間前 硫黄島沖―――



鳥海 「もうすぐ、硫黄島が見えてくるはずですよ」


鳥海含む重巡三隻、軽巡三隻、駆逐艦十一隻と合計十七隻の艦隊で、発動艇やドラム缶を輸送護衛しながら彼女達は硫黄島へと向かっていた。


霞  「やっと着くのね……ここまで長かったわ……」


浦風 「シンガポールからぶっつけじゃったから、ウチぶち疲れたわ〜」


高雄 「佐世保組の三人は休められるか聞いてみましょうか?」


磯風 「私は平気だ−−−−それより、横須賀鎮守府の提督に会うのが楽しみで仕方ない」


皐月 「僕も会うのが楽しみでしょうがないよ!」


潮  「でもその提督が、とても怖い方だと聞いたのですが……」


曙  「私は艦娘を平気で切り捨てるクソ提督って聞いたけど?」


霞  「艦娘の胸を平気で触るクズってのも聞いたわよ」


愛宕 「まあ……確かに、そういう情報が知れ渡っているけどー」


高雄 「情報元があの青葉さんなので、多少脚色があるかもしれませんが……」


矢矧 「だがその提督は、いつぞや呉襲撃に対していち早く艦隊を動かして窮地を救い、今回の硫黄島攻略の立役者でもあるのだろう?」


神風 「人としては最低だけど、提督の指揮能力はあるってこと?」


磯風 「待て待て、前に言ったではないか? 『俺にとって勝利とは、誰一人沈まぬこと』そう言ったのはその提督なんだぞ。霞にも朝潮からの手紙を見せたであろう」


皐月 「そうそう! 僕の所にも同じのが来たんだから!」


霞  「そりゃあ……姉さんの事は信じたいけど……」


磯風 「私はこれを見た時、確信した。やはりあれは中佐殿の息子なのだと」


神通 「前にもその話をされてましたね……?」


浦風 「そうなんじゃよ、中佐はええ人じゃったわ〜」


朝霜 「父親が良い人だからって息子がそうとは限んねぇじゃねえのか?」


清霜 「何が本当で、そうじゃないのかわかんないや」


鳥海 「横須賀鎮守府で待っていた元帥に聞いても、何も教えてくれなかったですね」


卯月 「会ってみればわかるぴょん!」


五十鈴「そうね、どんな奴かはともかく、五十鈴としては個人的に聞きたいことがあるわ」


初春 「妹のことじゃな? それなら妾もあそこには、たった一人残った妹がおるのでな。そんな提督の下でどうしておるか心配じゃ」


愛宕 「あ! 見えてきたわよー! みんな急ぎましょうー」


彼女達は硫黄島に着き、知らせを聞いて待っていた龍驤と大和が出迎える。

久しぶりに会った挨拶や互いの労を労うなどの私語は程々に済ませ、早速、蛇提督がいる部屋へと案内させてもらう。

そしてその道中、現在の蛇提督についての話を聞かされる。

彼はさきの作戦で負傷をし、まだベッドにいることが大半だが、未だ固定された右腕以外はある程度動くようになった為、この硫黄島基地の指揮に戻るようになった。

今後の作戦を踏まえ、本土に帰る前にある程度やる事をやってから帰るつもりだという事だった。


龍驤 「司令官、代理艦隊が来たで。入ってええか?」


ノックをしてから龍驤が尋ねると中から「入れ」と聞こえたので、龍驤を最初に艦娘達がぞろぞろと入っていく。


蛇提督はこちらに向くようにベッドに腰掛け、隣には武蔵と扶桑、山城がいた。彼らは龍驤達が入ってくるついさっきまで何か話していたような雰囲気だった。


代理艦隊の艦娘達は、蛇提督と会うのが初めてだったが、その大半は彼の鋭い蛇目にビクッと体を震わせる。


蛇提督「よく来たな。早速、ここでの任務内容を話したいとこだが、まずは簡単にお前達の自己紹介をしてくれ」


蛇提督がそう言うのを聞いて、武蔵達は一旦、部屋の端に移動し龍驤もそこへ。

大和だけが蛇提督のそばに残る。




高雄 「こんにちは、高雄です」

愛宕 「私は愛宕よ!」

鳥海 「私が鳥海です」


代理艦隊の全体の責任を任されてるのは高雄で、副官の役割は鳥海だそうだ。


高雄 「それと蛇提督に、玉椿提督から手紙を預かっています」


蛇提督が高雄の言葉にピクッと反応する素振りを見せたが、構わず手紙を受け取って読み始める。

読み進めていく蛇提督の顔は、ほんの僅かに微妙な顔つきになる。


蛇提督「大湊の提督が、私と同僚だったとは知っていたが、あちらがこちらの事を知っていたとはな」


高雄 「養成学校時代で会ったことないのですか?」


蛇提督「無いな」


玉椿(たまつばき)提督、現在、大湊の提督をしている人物で、あだ名は鼠提督。

その容姿が、小柄低身長で特徴的な出っ歯を持っていることが、養成学校時代からの通り名だった。


高雄 「鼠君はよくあなたのことを話すわ。いつか凄いことをやってみせる人だって」


蛇提督「この手紙にも、こちらにいかに友好的であるかを延々と綴られているよ」


愛宕 「嫌いなの?」


蛇提督「手紙だけで考慮するなら……あまり良い感じしない」


一体どんなことが書かれていたのか、その場の全艦娘はとても気になった。


鳥海 「鼠提督は蛇提督の指示をしっかり聞いて動くようにと、あなたに絶対の信頼を置いているようでした」


蛇提督「……まぁ、言うこと聞くなと言われるよりはマシだがな」


龍驤 「そういや摩耶は来とらんのか? アリューシャン作戦以来会ってないから気になっててん」


鳥海 「摩耶もこちらに来たがっていましたが、対潜メインだからあなたは要らないと言って置いてきました」


龍驤 「お、おう……そうなんか……」


鳥海の言葉遣いそのものは冷静なのに、口調はどこか怒っているのを感じて、龍驤は戸惑う。

そんな鳥海を蛇提督もじっと見ていた。


愛宕 「では蛇さん! よろしくお願いしまーす!」


蛇提督「……」


蛇提督の意味あり気なだんまりに高雄が「どうかしたのですか?」と尋ねると、


蛇提督「いや……その呼び名なんだが……」


高雄 「ああ、これですか?」


高雄が言うには、「提督」では誰のことか分からないといけないから、呼びやすい名前で呼ぶようにしているとのこと。


愛宕 「こっちも『鼠君』とか『鼠ちゃん』って呼んでるのよね〜」


高雄 「お嫌でしたら本名の方で呼びましょうか?」


蛇提督「……いや、それで構わん」


このやりとりを見ていた大和は、(“蛇”に関しての名前で呼ばれることにどこか抵抗があるのかな?)と思うのだった。




磯風 「陽炎型駆逐艦十二番艦、磯風だ」

浦風 「ウチ、浦風じゃ、よろしくね!」

霞  「朝潮型駆逐艦、霞よ」


磯風と浦風はその表情だけで「会えて嬉しい」というのが伝わってくる笑顔を見せるが、霞はぶっきらぼうに言う。


蛇提督「三人は佐世保鎮守府所属の艦娘だったな?」


磯風 「そうだ、輸送任務を兼ねて足りない人員を補う為にやってきた」

浦風 「まあ、任務内容を聞いてウチらから志願したんじゃけどね」


蛇提督「ん? どういうことだ?」


磯風 「朝潮から聞かなかったか?」

浦風 「ウチら、提督さんのおとったんにお世話なったんよ」


蛇提督「ああ、そういえば彼女の話からお前達の名前が出ていたな」


磯風 「あともう一人、皐月も一緒に来てるぞ」


磯風がそう話すのを聞いて、後ろの方にいた皐月が自分がここにいることをアピールするようにぴょんぴょんと跳ねていたが、我慢しきれずにタタッと走ってくる。


皐月 「僕も司令官に会うのが楽しみだったんだ!」


子供のようにはしゃいで蛇提督にググッと近づく。その勢いに蛇提督は少し困惑していた。


高雄 「皐月さん、ダメですよ。順番は守ってください」


皐月 「ちぇ……はーい」


高雄に怒られた皐月は渋々列に戻る。


磯風 「朝潮達に先を越されてしまったが、伝言を伝えられることができて良かったと思ってる」


浦風 「おとったんから話を聞いてから、会ってみたいと思うっとったんよ」


蛇提督は伝言が伝わっていることをどうして知っているのか二人に聞くと、磯風達は朝潮から手紙が届いたことを教え、さらに蛇提督から親子の話に首を突っ込むなということも聞いていることを言った。

その瞬間、蛇提督も彼を取り巻く空気も一変する。


蛇提督「……それを知って、なおも俺に関わろうとするのか?」


蛇提督の声が低くなった。その声だけでここにいる前艦娘の背中に緊張を走らせる。


磯風 「親子の問題にどうこういうわけじゃない。私はただ個人的な興味で司令と話してみたいのだ」


浦風 「ウチも同じじゃ。実際こうして会ってみて分かったじゃけえ−−こうしてよう見ると、おとっさんに似とるじゃけえ」


蛇提督「似ていると言われたことなんか無いがな」


浦風 「そうなんかあ? でもこっちの方が男前じゃけえ」


蛇提督「お!? おとこ!?」


浦風の突然の発言に、蛇提督が仰け反るほど面食らって驚く。

そんな姿に高雄と愛宕がクスっと笑ったのを大和は気づいた。


霞  「はぁ〜ばっかじゃないの!」


先程まで腕を組んで事の成り行きを見ていた霞が痺れを切らしたように口火を切る。


霞  「あんたがどんな奴かなんてどうだっていいわ! 私達は遊びで来てんじゃないのよ!」


それを聞いた蛇提督は咳払いをして気を取り直す。


蛇提督「霞の言う通りだ。本来の役目は忘れてはならん」


霞  「そうよ! だいたい、こんな自己紹介なんて時間の無駄よ! さっさと任務内容を話して出撃した方がいいわ!」


磯風 「私語が長くなってしまった事は悪かったと思っているが、それは言い過ぎではないのか?」


霞  「私は仕事に真面目なだけよ。任務以外の事で浮かれてるあんた達とは違うわ」


浦風 「浮かれてるとは聞き捨てならんなあ。ウチは前々から霞のその石頭もどうかと思うっとったんよ」


霞  「何よ?! 私が間違っていると言いたいわけ?!」


このまま口喧嘩になりそうなのを流石に止めるべきだと、すぐそばにいる大和や彼女らの後ろにいる高雄らも止めに入ろうとした時、蛇提督が怒号を飛ばす。


蛇提督「やめないか!!」


その場が静まり返り、蛇提督を見たまま誰一人動かなくなったところで、蛇提督はその鋭い目で霞を見る。


蛇提督「霞」


霞  「な……何よ……?」


その何とも言えない凄みと言い出すまでの間が、霞を緊張させる。


蛇提督「すまなかったな……私的な内容で本来の目的から逸れてしまった。申し訳ない」


霞  「……え?」


霞は豆鉄砲を喰らったように呆けてしまう。


磯風 「待て、関係ない話題を出したのは私で司令が謝ることでは−−」


だが磯風の言葉に蛇提督は、手を上げて制止する。

そして霞への視線をそのままに、構わず話を続ける。


蛇提督「だが自己紹介は俺が必要としてやっていることだ」


霞  「それは……どうして?」


霞の声に反抗の意思は無くなっている。ただ理由を尋ねる。


蛇提督「一時的とはいえ、お前達を預かることになったんだ。預かる責任を請け負った以上、顔と名前、艦種は確認をしておきたい。今後の作戦の為にもな−−−−」


蛇提督の圧が物を言わせる。説得力も重なって反論する余地を与えない。

だがその圧は、先程の親子問題の時とは違うもののような気がした大和だった。


蛇提督「だから時間の無駄ではない−−わかったか?」


霞  「わ、わかったわ……勝手にすれば……」


霞は耐えられなくなったのか蛇提督から視線を逸らして、その場を引く。


蛇提督「二人も話したいのであれば、空いた時間の時にな」


磯風 「そうさせてもらう……すまなかったな、司令」


浦風 「ウチもちぃと頭に血が上ってしまったじゃけえ、ごめんなあ」


事が穏便に収まったところで、安堵した艦娘一同は自己紹介を再開する。




皐月 「やっと僕の番だ! 僕は皐月、よろしくな!」

卯月 「卯月でっーす! うーちゃんって呼ばれてまっす!」

神風 「神風型駆逐艦、一番艦、神風。推参です!」

神通 「あの……軽巡洋艦、神通です。どうか、よろしくお願い致します……」


蛇提督「四人とも大湊の所属だな」


皐月 「そうだよ! 僕も司令官に会ってみたかったんだ! 僕も空いた時に司令官とお話ししたいな!」


蛇提督の話もそっちのけでまたもや皐月はグイッと蛇提督に迫る。


蛇提督「朝潮達といい磯風達といい、お前達の考えはどうなっているんだか……」


蛇提督は呆れた様子で、ため息をつきやや項垂れる。

隣で見ている大和は(こういう強引なのは苦手なのかな?)と思っていた。


卯月 「これが皐月が言ってた、息子さんだぴょん?」


皐月に負けないくらい、いつの間にか卯月もかなり近づいて蛇提督をじっと見る。

隣で見ていた大和は、蛇提督が「ぴょん……?」と小さく言ったのが聞こえた。


卯月 「聞いていたとおり、本当に蛇みたいな瞳をしているぴょん! おもしろいぴょん!」


皐月 「ホントだね! 最初は驚いたけど、慣れればおもしろい!」


蛇提督「面白いってお前ら……」


キャッキャッと騒いでいる皐月達に、蛇提督は怒らず困惑気味だった。


龍驤 (あんな風に言われても、怒らないところが司令官の良い所やわな〜)

扶桑 (小さい子に好かれる提督も良いですね〜)

山城 (――とか姉様は考えてるのでしょうか……。どう見てもおちょくられてるだけなのに)

武蔵 (フフン、我が相棒の人徳のなせる業だな……)


そんな蛇提督達を山城以外は微笑ましい光景だと思っているようだった。


神通 「あ……あの……二人とも、そんなに騒いでは、迷惑ですよ……」


皐月達の後ろから神通が注意しようとするが、声が小さくて皐月達に届かない。


神風 「もう! 神通さん、もっとシャキッと言ってください! 仮にも水雷戦隊を預かる人なんですから!」


神通 「そ……そうは言っても……」


そんな彼女らの話を聞いていたのか、蛇提督が神通に話しかける。


蛇提督「神通……そうだ、樹実提督の戦歴でその名がよく出ていたのを思い出した」


神通 「!?」


樹実提督の名前が出た時、神通がビクッと体を震わせる。

だが蛇提督はそんな様子を見つつ、構わず話を続ける。


蛇提督「水雷戦隊の経験が多いのならば、その戦術について興味がある。空いた時間にでも話を聞かせてほしい」


神通 「あ……えっと……それは……」


神通は口を濁らせてしまい、何を言ってるか聞き取れなかった。

そんな時、助け舟を出すかのように傍から見ていた龍驤が代わりに話し始める。


龍驤 「水雷戦隊に興味があるんなら、ここに集まってる艦娘はうってつけやで」


蛇提督「確かに元帥には対潜をメインに艦隊を出して欲しいと言ったが……詳しく聞かせてもらおう」


龍驤によると、神通を始め、水雷戦隊で活躍したメンバーが揃っているとのこと。

水雷戦隊の旗艦なら神通とこれから紹介する五十鈴、付き従う駆逐艦は霞や曙、潮が該当する。

この名前を挙げた者達は、樹実提督や小豆提督の指揮下で活躍した熟練の艦娘達だ。


蛇提督「ふむ……それはありがたい。彼女らの経験は我が艦娘達にも良い材料となろう」


そんなことを言っている蛇提督の隣では、(考え事をする時、顎をさする癖があるんだよね……)と大和は思いながら彼をじっくり観察する。


神風 「駆逐艦の戦い方に興味あるの? それなら私にも聞いていいのよ」


胸に手を当てて勝気な態度で、蛇提督の前にズイッと出てくる神風。


蛇提督「――確か神風と言ったな? 君の名前は過去の戦歴で見た記憶が無いが?」


神風 「うっ……私は本土襲撃のちょっと前に就役したから大きな戦いには出てないけど……でも、船団護衛はよくやってたわ!」


蛇提督「うむ……これから前線を押し上げていく上で、前線への輸送作戦も多くなる。その時は神風の経験も大いに役立つだろう」


神風 「物分かりのいい司令官で助かるわ! 駆逐艦の戦い方を熟知しているのは私なんだから!」


蛇提督「ほう、自信満々だな?」


神風 「もちろんよ! 駆逐艦の実力はスペックじゃないんだから!」


蛇提督「それに関しては同感だな。駆逐艦に限らずだがな」


蛇提督と神風のやり取りを見ていた大和は(この二人……気が合うのかしら?)と今初めて会ったとは思えない会話をしていて驚いていた。

いや、蛇提督は口数は多いと言えないが、いろんな艦娘と話せるところが彼の長所でもあると改めて思ったのだった。


皐月 「もう! 僕を差し置いて二人で話しているなんてずるいのさ!」

卯月 「うーちゃんを無視するとは、いい度胸だぴょん!」


蛇提督「お前達は勝手に盛り上がってただけだろ……。磯風達にも言ったが、個人的に話したいことがあるならまた今度にな」


龍驤 (ほんま……司令官は着任した時に比べて柔らかくなったわな……心境の変化があったのはウチらだけやないかもしれへん)


ああいう輩には悪態をついても無意味だと諦めたか、それとも彼の中で艦娘に対する見方が変わったのか、何はともあれ自分と艦娘の間に作っていた壁が薄れつつあるのはウチらにとっては良いことだ、と龍驤は考えていた。




初春 「妾が初春じゃ」

曙  「特型駆逐艦、曙よ!」

潮  「特型駆逐艦、潮です……」


先程の皐月達と違い、こちらの三人には蛇提督に対する警戒心があるようだ。

蛇提督は三人は一度じっと見てから話しかける。


蛇提督「先ほど、龍驤の話で曙と潮が出たが、彼女らは小豆提督指揮下で活躍した艦娘だったな?」


龍驤 「おお、そうやで。よく知っとるなぁ?」


蛇提督「彼らの下で戦った艦娘は特に気にしているからな。貴重な経験をしているはずだ」


これを聞いていた大和は、(提督も、過去の提督達の戦略や戦術から自分なりに学んで今後の作戦に役立てているのですね……)と彼の精進ぶりを見習っていた。


矢矧 「あの……質問してもいいだろうか?」


突然、後ろで控えていた矢矧が手を挙げて蛇提督に質問する。

いつものごとく「構わん」と蛇提督は許可を出す。


矢矧 「まさかとは思うが、現存の艦娘を全て暗記しているのか?」


蛇提督「先程の神風のように戦歴にあまり載っていない艦娘は記憶に強く残っていなかったりするが、全ての鎮守府に所属している艦娘のデータは目を通し終えている。――こうして自己紹介をさせてるのも自分の記憶と照らし合わせるためだ」


武蔵 (『艦娘は希望』そうだからこそ一人一人を把握しようとするのだな。さすがだ相棒)


山城 (提督のあの考えは一種の執念みたいなのを感じるのよね……)


二人のように感じ方はそれぞれだが、皆共通して思うことは“変わり者”であることだった。

そしてこんな感じ方をする者もいる。


曙  「はっ! そんな大壮なことを言って、本当は単純に可愛い子はいないのかいやらしい目で探してただけじゃないの?」


潮  「あ、曙ちゃん……!」


曙の発言で部屋中、騒然とする。大和が否定しようとした時、この男はまた話をややこしくさせる。


蛇提督「フン……だったらどうだというのだ?」


曙  「何だって!?」


蛇提督「例え私がそのような目で見ていたとしてもお前には関係なかろう?」


曙  「あるわよ! そんな奴が近くにいると思ったら、キモくてたまらないわ!」


蛇提督「曙がどう言おうと今のお前の上司は私だ、命令は聞いてもらう。――安心しろ、私は公私をちゃんと使い分ける方だ」


ここでまた蛇提督特有のニヤッと気色悪い笑顔が出るのだから、曙の話に真実味を帯びてきてしまう。


潮 「ひいぃぃ!?」


蛇提督の笑顔を見た潮が青ざめて咄嗟に曙の後ろに隠れる。


大和 「提督……必要以上に脅かすのは良くないですよ」


大和は場を宥める為に敢えて優しく注意する。

大和なりに遠回しで蛇提督はそんな人ではないと他に教える為だった。

そんな大和に蛇提督はじっと大和を見てから「フン……事実を言ったまでだ」と大和から視線を逸らすのだった。


曙  「やっぱり聞いた通りね! あんたはロリコンで巨乳好きって聞いてんだから!!」


艦娘の大半はこの発言でびっくりしていた。

それは言われた本人も同じだったようで、


蛇提督「待て待て……それはどこからの情報なんだ?」


高雄 「えっと……それは私の方から説明しますね……」


高雄の話によると、鎮守府間での艦娘だけに伝わる情報は、その鎮守府の艦娘代表が個人宛に手紙を書いて情報を共有している。

情報を回して来てくれるのは主に青葉だ。横須賀鎮守府では衣笠がしていたように、大湊では高雄が代表して受け取っている。

横須賀鎮守府の事件も蛇提督のことについての情報も他鎮守府全てに届けられた。

『ロリコンで巨乳好き』はあの呉襲撃の際に蛇提督が天龍にやらかしてからの事を青葉が情報共有の為に手紙を送っていたのだった。


蛇提督「なるほど……そういうことか……」


ため息つきながら、納得がいったような感じの蛇提督。


龍驤 (あちゃあ〜、青葉が艦娘達を守る為にやってた事とはいえ、裏目に出てしもうたな……)


あの事件は紛れもない事実なので、青葉の手紙に多少脚色があったとしても否定しきれないだろうと龍驤は思った。


大和 「あの……でしたら皆さんも提督の事は既にご存知なのですか?」


と、代理艦隊全ての艦娘達に聞いてみると、皆「うん」と静かに頷くのだ。


扶桑 「まあ〜、提督の事をそれだけ多くの艦娘の皆さんが知って頂いてるというのは嬉しい限りですね♪」


山城 「いえ、姉様……そんな悠長な話ではないと思いますが……」


武蔵 「ふむ……」


武蔵は蛇提督の事が思った以上に伝わっているのだなと思っている。

これまでの彼の行跡、例の事件の事も……。


磯風 「だが司令が言ってくれた『俺にとって勝利とは、誰一人沈まぬこと』私はそれに感銘を受け、他の者達に教えたのだ。司令は噂で言われるような極悪人ではないと」


蛇提督「なに!? その話も伝わってるのか?!」


皐月 「僕の方にも届いたよ! だからみんなに教えたんだ!」


朝潮からの手紙は父との事だけではなく、武蔵達との一件も伝わっていたようだ。

あの場にいたのは呉鎮守府のメンバーが共にいたが、佐世保と大湊の方にも伝わっていたようだった。


蛇提督「ううむ……朝潮が……そうか……」


蛇提督の反応を見て大和は考えていた。

まず彼にとって予想外のことだったのだろう。頭を悩ませているのはそれが彼にとって良いことであり、一方では悪いことでもある。

彼は良いことだと思うことはすぐに認めたりたまに褒めたり、悪いことなら悪口なり否定的な事を言う。それだけ彼が本当は率直な人間であることを彼とのこれまでを踏まえた上で感じたことだ。


高雄 「そのおかげで青葉さんからの情報の蛇提督と朝潮さんからの蛇提督の情報は本当に同一人物なのかと疑う者も出てしまっている始末です」


横須賀鎮守府でも呉鎮守府でも、蛇提督の人物像が分かれる混乱はあったけど、まさか他の鎮守府でもそのような事態になっていたとは……と龍驤は驚いていた。


蛇提督「……私がどう見られようと、お前達が命令を聞ければそれでいい」


だけど当の本人は、有耶無耶にしてしまうのだからますます分からなくなる。


初春 「貴様のようなわけのわからない奴の下に、我が妹がいるとなると心配でならんのお」


それまでずっと黙って聞いていた初春が急に話しかける。


蛇提督「初霜の姉だったな?」


初春 「そうじゃ、久しぶりに初霜に会えると思うて来てみたというのに、なんじゃ聞けば今はおらんと言うではないか」


蛇提督「ああ、すまない。いない理由はこの後の任務の事について説明する時に一緒に話そうと思っていたのだ」


初春 「なんじゃ、そうだったか。なら早う進めてくれんかの。このようなくだらない事で立ち止まっていては時間の無駄じゃ」


そう言いながら手に持っている扇子を広げて口元を隠し、わかりやすくチラッと曙を見る。

それを見た曙は、何かを察してか押し黙るのだった。


大和 (初春さんは提督に対して、どう思っているのでしょう……?)


“くだらない事”というのは、蛇提督自身の事かそれとも蛇提督についての噂や情報についての事なのか、ただ言えそうなのは高飛車な彼女でも妹を持つ姉ならば、やはり妹が心配になるのだろうと自分自身と重ねて思うのだった。




五十鈴「先ほど紹介された、五十鈴です。水雷戦隊の事ならなんでも聞いて」

矢矧 「阿賀野型軽巡の三番艦、矢矧よ」

朝霜 「あたいは、夕雲型駆逐艦、十六番艦の朝霜さ」

清霜 「同じく夕雲型の最終艦、清霜です。よろしくお願いです!」


蛇提督は彼女達の顔を確かめるようにじっと見る。

特に五十鈴を見る時間が若干長かったような気がした大和だった。


蛇提督「お前達は舞鶴からの応援だったな?」


五十鈴「そうよ、佐世保からの輸送任務を手伝うついでに来たの」


矢矧 「さらにそのついでに、いずれ水雷戦隊を預かれるようになる為、その実戦経験を積む為に私は来たわ」


蛇提督「なるほど……五十鈴は指南役か」


五十鈴「ええ、こちらでの任務をこなす上で、矢矧に教えてほしいって頼まれたわ」


蛇提督「久奴木提督にか?」


久奴木(くぬぎ)提督、舞鶴鎮守府で長いこと提督を勤めている人物。

その大きな鼻と体格、つぶらな瞳や穏やかそうな容姿から“象提督”と呼ばれている。


五十鈴「それもだけど、どうやら元帥の意向らしいわよ。これから前線へのさらなる戦力投入が考えられるから、見込みのありそうな艦娘は今のうちに練度を上げておきたいんですって」


清霜 「横須賀鎮守府に着いた時に本人がいたのにはびっくりしたけどね〜」


蛇提督「えっ? 元帥が横須賀鎮守府にいたのか?」


高雄 「あっ……それは、後でお話ししようと思っていたのですが……」


高雄の話によると、佐世保と舞鶴組、そして大湊組が硫黄島へ行くまでにいったん補給も兼ねて横須賀鎮守府で合流した時、そこには元帥と護衛役の憲兵達がいたのだという。

元帥は、「任務内容と構成された艦娘達の再確認、それと蛇提督には伝言も兼ねてよろしく伝えておいてほしい」と艦娘達に言うために、わざわざ横須賀鎮守府で待っていたのだという。


蛇提督「……」


蛇提督は顎をさする癖をまたしながら、なにやら深く考えている。


大和 (確かに私が聞いても不可思議です……提督に伝えたいのであれば電文でも可能のはずですし……)


大和も元帥の行動に疑問を持ったが、でも自分が元帥に直接聞くときっと「そうでも言わなきゃ、可愛い艦娘達に会えないでしょう!」と言いそうだなと苦笑いする。


蛇提督「伝言とは何だ?」


高雄 「わざわざ皆さんの事を聞かれている提督なら大丈夫だと思うのですが……」



――――君の事だから言わなくてもいいと思うが、別鎮守府の艦娘だからといって存外に扱うでないぞ? 何かあればすぐわかるからな。……それとなるだけ早く本土へ帰還してほしい。状況は思った以上に動いているようだ――――



蛇提督「あの野郎……」


隣にいた大和だけが、小声で蛇提督が言ったのを聞き取った。

蛇提督にとってはやはり、元帥は厄介で嫌いな相手なのだろうか。

前に青葉さんや間宮さんが蛇提督と元帥の妙な関係について話していたけど、今はまだはっきりわからない。

わかることといえば、蛇提督にとって元帥は“契約と上下関係もあるからこそ、頭を悩ます相手”といった感じだ。

自分達が初めて提督と会った時も元帥と提督の会話がそんな感じだったからだ。


高雄 「今回の代理艦隊も、元帥のお考えもあって組まれたようです」


蛇提督「そうか……なら早く帰る為にも代理艦隊の君達にはなおさら協力してもらわねばな」


朝霜 「あたいらは輸送任務とあんたの帰還護衛って聞いてるぜ?」

清霜 「私も私も!」


蛇提督「そうなのか?」


さらに列の後ろに戻っていた神風も「私もよ!」と言うのが見えた。


鳥海 「はい、この三人は提督の帰還の際、その護衛と輸送物資の手伝いがメインだと元帥が仰っていました」


蛇提督「そうだったか……だが持って帰るものなんてそんなに多いとは思えないし、こちらの艦隊だけで事足りると思うのだがな」


武蔵 「元帥のことだ、提督が怪我したのを気にして少しでも護衛の数を増やしたいのでは?」


蛇提督「それは……過保護というやつじゃないか……?」


あるいは本当に元帥が提督のことを必要としているからと、ふと大和は思った。


龍驤 「三人は本土に戻った後も他の任務があるんやろ? それなら、ウチらと一緒に帰った方が安全やからやないのか?」


蛇提督「別鎮守府の艦隊と同行させるだけでも貴重な経験になるだろうからな。その為もあるかもしれん」


朝霜 「まあ、そういうことだ! それまで世話になっからな! あたいの名前、忘れんなよ!」


清霜 「私もお世話になります!」


これで一通り艦娘達の紹介が済んだことを確認した蛇提督は、次の話へと移行する。




蛇提督「……では、今後のここでの任務について話していこう」


一体何を言い渡されるのか、様々な噂や情報が飛び交うこの男が何をするつもりなのか代理艦隊の艦娘達は、期待や疑惑、緊張とそれぞれ違った思いを持つ中で蛇提督の話に耳を傾ける。


蛇提督「君達がここでやることは二つ、マリアナ沖への偵察任務そしてこの海域の対潜掃討だ」


高雄 「マリアナ沖ですか?」

愛宕 「どうしてまた?」


蛇提督「私の考えだが、敵は既に次の作戦の為に動いていると思っている。先ほどの伝言を聞く限り元帥も勘付いているようだ」


磯風 「その次の作戦とは?」


蛇提督「敵はフィリピン諸島に戦力を集めている可能性がある。理由は二つ、こちらの侵攻作戦迎撃の為と反攻作戦の為」


霞  「確かにフィリピン諸島のマニラ基地などは昔から交通の要衝でもあり、南西海域と南方海域をつなぐ大事な拠点だわ。戦力を集める理由は分かるけど、もうその為に敵が動いていると?」


蛇提督「今それを確かめるために、古鷹達には遠征に出てもらっている。もしも可能性が出てきたならば、マリアナ沖へ偵察に行く必要が出てくる」


矢矧 「なるほど、マリアナ沖はフィリピン諸島への中継地点になるのか」


蛇提督「その通りだ。敵は戦力をそこにも集め守っている可能性がある。鬼や姫クラスの存在も考慮して一度、敵状視察する必要があるだろう」


鳥海 「そういうことですか……それで私達の中からも選抜して艦隊を編成しようということですね?」


蛇提督「うむ……偵察だけとはいえ何があるかわからん、万全を期していきたいからな」


五十鈴(自己紹介の時点から、私達は品定めされてたってことね……)


怪我から復帰した直後だと聞いていたけど、既に敵の動きを予想しその為の情報収集をするため、私達が来ることを見越しながら既に段階的に作戦を進めていることを見てとれた。

これならこの硫黄島を攻略できたというのもまぐれでは無さそうだと五十鈴は思った。


蛇提督「艦隊編成の選抜は決まり次第伝える。……そして次の対潜掃討の話だが−−」


鳥海 「艦隊を送る前からその要望を元帥にしていたと伺っていますが?」


蛇提督「ああ、敵は次の作戦に移っていると仮定した上で、この硫黄島には潜水部隊を主軸にした艦隊を牽制と偵察目的で行なってくると私は読んでいる」


神風 「その根拠は?」


蛇提督「確かな根拠は無いが、強いていうのなら俺が敵の提督ならそうする、といったところか」


この蛇提督の「敵の提督の立場で考える」とその読みはよく当たるんだよなと龍驤は思った。


鳥海 「ですが、その読みは一理あります。硫黄島を制圧してから、敵が奪還するためのまとまった艦隊を今でも差し向けて来ないことが、それを物語っています」


蛇提督「うむ、それも一つの理由だ。よく調べているじゃないか」


鳥海 「い…いえ、このぐらい当然です」


鳥海はちょっと動揺しつつも、メガネを整えて謙虚に返答する。


蛇提督「潜水部隊を潜航させあわよくば……と考えてる可能性はある。今後の作戦でいずれここに艦隊を集結することを考えれば、この辺りの海域を完全に制圧しておく必要がある」


五十鈴「なるほど……それで私達の出番ってわけね」


その時、部屋のドアがノックされる。


間宮 「間宮です、入ってよろしいですか?」


蛇提督が許可をだし間宮が入ってくる。

代理艦隊の艦娘達が列に並んで固まっている中を通り抜け、蛇提督のところへまっすぐ向かう。

代理艦隊の艦娘達の大半は間宮を見て驚いた。


高雄 「間宮さん!? 生きていたというのは青葉さんからの手紙で聞いていましたが、本当に生きていたんですね?!」


間宮 「はい、運良く生き残りました。その話はまた後で」


と間宮はニコッと笑って、先に蛇提督への用事を済ませる。


蛇提督「どうした?」


間宮 「先ほど連絡が……」


それは古鷹達が敵輸送部隊を発見し撃滅した報告だった。

そして、その詳細を報告する為にも一旦、こちらへ戻るという内容だ。


蛇提督「そうか……。確か、龍田達はまだ指示したエリアを哨戒中だったな?」


龍驤 「連絡がない所を見ると、まだいると思うで」


蛇提督「だな……それなら少し早めねばならぬな……」


磯風 「何か気になることでもあるのか?」


蛇提督「古鷹達の艦隊編成は少し遠めの偵察用として、重巡四、軽巡二の編成だ。しかも対潜装備は少なめときた」


神通 「それはつまり……」


蛇提督「俺なら……その帰路に潜水部隊を待ち伏せさせる」


清霜 「大変! すぐ行かなきゃ!」


蛇提督「慌てるな、古鷹達が報告してきた場所はここからまだ遠い地点だ。潜水部隊を待ち伏せさせるなら、ここに近い海域にするはずだ」


龍驤 「よっしゃあ、古鷹達がどこのルートを通って帰ってくるか割り出しとくで」


蛇提督「ああ、頼む」


そう言って龍驤は間宮から詳細を聞き始める。


卯月 「なら、うーちゃんが迎えに行くぴょん!」

皐月 「僕も行くよ! 司令官の大事な艦娘達だもんね!」


と、二人の勝手な発言を窘めるように鳥海が「決めるのは蛇提督ですよ。鼠提督にそう言われたじゃないですか」と言うのだが−−−−


蛇提督「いや、やる気があるのは良いことだ。任せるとしよう」


とあっさり承諾してしまったので、鳥海は拍子抜けして「て……提督がそう仰るなら……」と引き下がる。

それを見た高雄は、蛇提督にお願いをする。

そう、佐世保組の三人は約一週間ぶっつけでシンガポール方面からここまで輸送任務をして疲労が溜まっているという話だった。


高雄 「ですので、三人にはいったん休息の機会を頂けませんか?」


だが、この発言に反対したのは当の本人達だった。


霞  「何を言ってるのよ?! そんな悠長な事を言ってる場合?!」

磯風 「そうだ、私はこの程度でへこたれるわけなかろう」

浦風 「疲れが溜まっとるんは、ここの艦隊も同じじゃけえ。ウチなら大丈夫や」


と自分たちはまだやれると言い張っていたが、それを見た蛇提督は彼女らをじっと見つめてから少し考える。


蛇提督「いや、三人は休んで大丈夫だ」


と言った蛇提督に対して三人は驚く。


霞  「ちょっとぉ! この大事な時に私を待機させるってどういうことなの?!」


磯風 「我々を心配しているのか? 私はそこの皐月同様、早速提督の役に立てると昂っているというのに」


浦風 「心配いらんよ。ウチはこういうのに慣れとるけん、まかしとき♪」


と、霞は蛇提督に喰らいつき、磯風はやる気に満ちた表情で、浦風は逆に蛇提督を安心させようとする柔らかい笑顔を見せる。

だが蛇提督はそんな彼女らを見ても、冷静でかつ淡々と話す。


蛇提督「代理艦隊の数が思った以上に来たのでな。数を確認したところお前達が休める枠があると踏んだ。こちらの艦娘達も確かに24時間体制で哨戒させているが、疲労がたまらないようにうまく交代させている」


さらに付け加えて、本土などから持ってきた輸送物資を搬入する作業もあるから、三人にはそちらの方をやってもらうように言う。


霞  「で、でも!」


それでも霞は何を焦ってか、納得できない雰囲気だったが、蛇提督が「それにな……」と霞の反論を遮るように話を続ける。


蛇提督「疲労が溜まっていては、いざという時に本領を発揮できない。それが一番危険なことにつながる」


霞  「っ!?」


蛇提督「だからいいな? 今は私が管理している以上、命令は聞いてもらうぞ」


霞は目を大きく見開き動かなくなってしまった。

先ほどまでの威勢はどこかへ行ってしまったようだ。

そして同じく聞いていた艦娘達も静まり返っていたのだった。


龍驤 (でたでた、ウチの司令官のお得意技)


扶桑 (言い方は冷たく聞こえるかもしれませんが、そこには優しさが滲み出ているのですよね……)


山城 (わかるわ、悪いイメージがあるままだと、ああいう発言は驚くのよね。……まぁ、今はさほど違和感を感じなくなってきたけど)


武蔵 (相棒にとっては当然の事だと思っているだろうが、私達にとってはありがたいことなのだ)


大和 (そう……そんな提督に私達は救われてきたんです……)


彼女らは、今の代理艦隊の艦娘達の姿を見て、かつての自分達を見ているかのような気持ちになるのだった。


磯風 「わかった……司令がそう言うのならば甘えさせてもらおう」

浦風 「ほんならウチもそうさせてもらうけんね、ありがとう」

霞  「……」


磯風と浦風はほっこりした顔で納得する。

霞は何も言わず、蛇提督から視線を逸らしてしまってそのままだった。


蛇提督「ではあとのメンバーだが、舞鶴組はどうなのだ?」


蛇提督が質問をして話を再開させる。

五十鈴達の話では大丈夫だということで、五十鈴、矢矧、神風を加える。

そして旗艦を鳥海が買って出た。


高雄 「いいの、鳥海?」


鳥海 「高雄さん愛宕さんは別任務の直後でこの代理艦隊に参加してます。ですので休んでいて下さい」


愛宕 「そう? じゃあお言葉に甘えちゃおっかな〜」


高雄 「ありがとう、よろしくお願いするわ」


古鷹達への艦隊は決まったようだ。

それを確認した蛇提督は次の話へと進める。


蛇提督「龍田達の事だが、彼女らは既に対潜哨戒中だ。彼女らの担当海域を変えるため、そちらの方にも入れ替わりの対潜艦隊を送りたい」


そして蛇提督はついでにそちらの艦隊の方に初霜が参加していることを初春に伝える。


初春 「そうか。なら妾はそちらの方へ行きたいのう」


蛇提督「良いだろう……ではあとは残ったメンバーで−−−−」


神通、曙、潮、朝霜、清霜、そして初春で艦隊を編成することが自然と決まった。


蛇提督「旗艦は神通だ。いけるか?」


神通 「あっ……はいっ……大丈夫、です」


蛇提督の質問にビクつきながらも神通は承諾する。


蛇提督「では作戦に移ってくれ。解散」


艦娘達は敬礼をしてそれぞれが動き出す。

最後残った大和は、蛇提督がこの後何をするかなどの話を軽く聞き、すぐ自分の仕事をするため部屋を出て行く。

一人残った蛇提督は腕を組んで、じっと何かを考え込んでいるのだった。






ーーーー現在 硫黄島東沖ーーーーー


神通 「……といった具合です」


古鷹達が鳥海達と合流を果たし帰路についている頃、神通率いる水雷戦隊も龍田達と合流を果たしていた。

神通も同じく、硫黄島に着いてからの出来事を簡単に龍田達に話していたのだった。


龍田 「そう、そんなことがあったのぉ」


神通 「とても緊張しました……」


龍田 「それで、どうだったぁ?」


神通 「え?」


龍田 「私達の提督を見た感想−−−−」


神通は少し考えてから龍田に答える。


神通 「ほとんど表情を動かさず、何を考えているのか分かりづらい人でした……」


曙  「それには同感、裏で何を考えてるか分かったもんじゃないわ!」


隣で聞いていた曙も賛同する。


潮  「怖かった……です」


潮は蛇提督のあの気色悪い笑顔をまたもや思い出してブルブルと震えている。


電  「見た目は確かに怖いのですが……」

雷  「慣れればどうってことないわ!」

暁  「私達のことをちゃんと見てくれるのよ!」

響  「司令官は優しい」


暁姉妹は口を揃えて反論をする。


初霜 「初春姉さんはどう思いました?」


初春 「得体が知れないのは本当じゃのう。妾はあんな男の下にお主がいることが心配じゃ」


初霜 「そうですか……」


初春の感想を聞いて残念そうな顔をする初霜。


神通 「ですが……」


龍田 「ん?」


神通 「責任感の強い方……なのかなと、少し思いました。一人一人を把握しようとしてましたし……大事をとって疲れている者は休ませたりと……そう言った点では樹実提督や小豆提督に似てる気がします」


曙  「あいつが!? 冗談じゃないわ!」


潮  「そう言われますと……確かに小豆提督はいつも私達の体調や心境を気にしてたから……」


曙  「そこが似てるからって一緒とは限らないわ! 私は認めないわよ!」


龍田 (相変わらずねぇ〜曙はぁ)


曙  「それから“ロリコンで巨乳好き”は否定しなかったんだからね!」


すると曙はズイッと潮に迫り、


曙  「だからあんたは絶対近づかないこと! 私のそばを離れちゃダメよ!」


潮  「う、うん……わかった……」


小豆提督の時代から全く変わっていないと、ある意味安心感をくれる子だと思う龍田だった。


暁  「ねえ、さっきから気になってたんだけど−−−−」


なんの脈絡も無く暁が唐突に曙に質問する。

そんな暁に皆が注目する。


暁  「ロリコンって何?」


それを聞いた途端、皆がギョッとする。


雷  「暁、知らなかったの?!」


暁  「わ、私にだって知らないことが一つはあるわよ!」


曙  「知らなくていい言葉かも知れないけど、今はそういう状況じゃないわね」


暁  「だから何なのよっ!」


電  「え……えっと……その意味は……ですね……」


暁  「何をそんなに赤くなっているのよ?」


潮  「私達から言わせると、ちょっと恥ずかしい……というか」


暁  「もう! もったいぶらないでよ!」


響  「暁、いいかい?」


響がじっと暁を見て、暁を落ち着かせてから話し出す。


響  「簡単に言うと、幼女が好きな人のことを言うんだ」


暁  「ようじょ?」


響  「幼い女の子のことさ、小さい容姿の子とか子供も入るよ」


暁  「なんですって?!」


暁は前の泊地棲姫を初めて見た時以上に顔が青ざめていた。


曙  「無理もないわ、自分とこの提督がそんな変態だったなんて知ったら−−−−」


暁  「それって暁のことは好きじゃないってこと!?」


暁の謎の発言に皆が揃って「……え?」と言う。


神通 「えっと……どうして、でしょうか?」


暁  「だって、司令官は暁のこと、立派な大人のレディって言ってくれたのよ!」


これを聞いた皆は「……?」という具合に理解が追いつかなかった。

でも龍田だけは(そんなことだろうと思った……)と頭を抱えてため息をつく。


雷  「いつ、そんなこと言ったのよ?!」


暁  「フフッ……司令官と暁だけの秘密よ!」


妙に焦っている雷に優越感を感じながら、暁はドヤ顔を決める。


電  「でも暁ちゃんはこの前、“からかいやすい人”に入ってたのです」


そう言う電はなぜかジト目だった。


暁  「はっ!? そうだったわ! 好きなの、そうじゃないの、どっちなの!?」


響  (結論、司令官にとって暁は好印象……響も暁のようになればいいのかな……)


響に至っては、怪しい思考を巡らせてしまう。


曙  (うまいこと口車に乗せられてるってことじゃない。やっぱり危険なのよあいつは……)


潮  (なるだけ関わらないようにしよう……)


神通 (私……ここでうまく、やっていけるでしょうか……)


暁姉妹がワーワーと騒いでる中、不安しか感じない三人だった。

それを少し困惑した表情で見ていた初霜だったが、突然何かを思い出したかのような仕草をしたと思ったら表情が暗くなり、初春に話しかける。


初霜 「初春姉さん……」


初春 「何じゃ?」


初霜 「呉で、那智さんを見かけました……」


初春 「ん? ああ、佐世保からの援軍で那智がおったのか」


初霜 「はい……」


初春 「話せたのか?」


初霜 「いえ……目を合わすことも……一瞬だけ合ったような気がしますが、私も那智さんもすぐ違う方へ目を向けてしまい……」


初春 「おおかた、あちらも気にしておるのじゃろ」


初霜 「本当は、お礼を言うべきなのですが、どうにもタイミングを見つけられなくて……」


初霜は以前、龍驤達と共にアリューシャンへの作戦を行った時、姉である子日を置いてけずに錯乱状態だった自分を強引にでも引っ張って助けてくれた那智に言いたいことが言えずにいたのを心の隅でずっと気にしていたのだった。


初春 「手紙では嫌なのじゃろ?」


初霜 「はい……」


艦娘同士の手紙のやり取りは認められている。初霜も一度は手紙で伝えようと紙を前に悩んだことがある。

だが、どうにも気が進まなかった。こういうのってやっぱり面と向かって話すべきではなろうか……そんな事をあれこれ考えていたら、ずっと筆が進まなかったのだった。


初春 「焦るでない、言える時は必ず来る」


初霜 「はい……」


ちょうどその時、龍田が「そろそろ行くわよぉ」と言ったので、皆の会話も一旦終わりにする。


初春 「それじゃまた後でな初霜よ、くれぐれも無茶をせぬようにな」


初霜 「はい! 皆さんと協力しながら艦隊をお守りします!」


初春 「お、おう……そうじゃな」


初春は一瞬、初霜が以前と何か違うような感じがした。

彼女が見せた笑顔も、子日や若葉を失った後の笑顔と違って陰りが無かったように見えたのもその理由だった。


そして二つの艦隊はそれぞれの任務の為、一度別れるのだった。

そんな中、龍田は−−−−


龍田 (また一波乱、ありそうねぇ〜)


呉鎮守府に行った時のことや明石とその護衛艦隊が来た時の事を思うと、今回もまた何かありそうな予感がする龍田であった。








後書き

ご無沙汰です。
もう今年も終わり。大晦日です。
なんだかんだで続けているこの作品ですが、読んでもらった皆さんには感謝です。
今年もありがとう、来年もよろしくお願いします。


このSSへの評価

3件評価されています


SS好きの名無しさんから
2024-01-22 19:50:08

SS好きの名無しさんから
2024-01-11 21:01:24

SS好きの名無しさんから
2024-01-02 17:43:03

このSSへの応援

このSSへのコメント


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください