【艦これ】帝国海軍興亡記1924~
第二次世界大戦を題材とした仮想戦記(史実はあくまで参考程度です)アルペジオ形式で艦娘が多数登場。
続編できました
初めまして&お久しぶりです。
開戦時点で史実より、軽空母が4隻ほど多い形です。(オリジナルの飛燕、天燕と本来ならもう少し後に完成の龍鳳、大鷹)
また、超理論により独逸艦娘が参戦。(ビスマルク、グラーフ、プリンツ、Z1、Z3)
世界観は作中で説明しつつ進めていこうと思います。
後書きで書いていた補足やキャラ紹介は別に「備忘録」を作りましたのでそちらをご覧ください。
順次そっちへ補足や紹介は移行予定です。
※前作「天一号作戦」との直接的なつながりはありません、パラレルワールドです。
1924年初冬、潮岬沖
「着艦完了。」
甲板の上を滑るように着艦した艦載機を確認した女性が声を上げる。
「了解。」
そう答えるのは深く椅子に腰を下ろした青年だ。
紺の軍装に身を包んだ彼は、大きく息を吐くと先ほど声を上げた女性を見やる。
「……何機だ?」
「12機中4機です、大尉。」
「そうか。」
彼らが現在いる場所は、洋上航海中の「鳳翔」の艦橋。
周囲では十数名の人員がそれぞれの甲板を見下ろしている。
未だ、航空機というモノの実用性に懐疑の眼差しを向ける者が多い黎明の時期。
「初めてとしては、上出来じゃないか?」
「そうかもしれませんが……」
数か月前の、空母への着艦成功が史上初の着艦である事を考えれば確かに十分な練度なのかもしれない。
海軍技術士官として訓練を視察に来ていた三井大佐に対し苦い顔を向けながら海野大尉は言葉を濁す。
「まぁ、潤沢な予算がある訳じゃないから、喪失機に頭を抱えるのも解るけどね。」
三井が言うように軍からの予算は少なく、今回の訓練もなんとか実施することが出来た状態。
艦載機の4機喪失となれば色々と煩く言われるだろう。
「僕も、君も窓際だからね。」
「嫌なことを思い出させないでください。」
爆弾を投下するという方法で一定の戦果を挙げているものの、いずれも陸での話。航続距離も短く、広い海では使い物にならない。
それを補う為の空母なのだが、満足に着艦できるようになるのも手間がかかる。
「……泊地へ帰投でよろしいでしょうか。」
二人の雑談交じりの会話に、先ほど声を上げた女性が声を掛ける。
「あぁ、それで頼むよ、鳳翔。」
「了解しました。」
鳳翔と呼ばれた女性は返事を返すと軽く目を瞑る。
それに併せるように艦が大きく進路を変え速力がゆっくりと落ちる。
「進路280、二時間ほどで泊地へ到着します。」
山河草木、万物全てにカミが宿る。
確かに、彼らは存在した。
しかし時代が移り科学技術が発達し人々の中から「カミ」という存在への信仰は減っていった。
様々な理由があっただろう。
奇跡と呼ばれたモノも次第に理由付けをされ、陳腐化した。
そんな最中、事件が起こった。
とある客船が暴風雨に遭遇し酷い損傷を受けた。
ここまではよくある話だ。
その後が問題だった。
艦橋に突如、女性が現れた。
乗客が迷い込んだかと船長が声を掛けると
「大丈夫です、私は沈みませんよ。」
そう告げる。
訝しんでいると機関が故障し漂流していた船が力強く動き始め独りでに航行をはじめた。
彼女は確かに存在した。
港に戻った後も彼女は船に在り続けた。
様々な研究者がその元を訪れたが、彼女が船を操れる理由は明かされず。
彼女は自身を「船の霊」だと名乗り、船を大切に扱ってくれた事に対する恩返しの為、現れたのだそうだ。
その後、船長が亡くなるまで彼女はずっと船に在り続けた。
夢物語だと、大半の者は馬鹿にした。
しかし、一部の者は信じた。
元々、船には神棚や社、船首像といったカミが宿る場所があった。
形骸化していた信仰に火が灯った。
結果として、数多の船霊がその姿を顕す事になり、その信仰は深くなった。
そうして、気付けば世界に存在する船の3割前後に船霊が顕れ人に力を貸すようになっていた。
各国は彼女たちを「船の霊」として、その能力を有効に使う為に研究が重ねられた。
入港し始めた船を睨み付けるように見ている男が一人。
その傍らに立つ紫髪の女性はやや呆れたような、疲れた表情をしている。
「なぁ、別にここまで来なくてもよかったんじゃねぇの?」
「五月蠅いぞ、バカ天龍。あのバカにはきっちり文句を言わねばならんのだ!!」
天龍と呼ばれた女性はこのくそ寒い中付き合わされる身にもなれと小声で文句を呟き、近づいてくる船を見る。
自身の本体である軽巡洋艦と比べても大きい船だ。
「でかいのに、砲戦もろくにできないってんだからなぁ。」
船から降りてきている一行を眺めながら、隣で罵詈雑言を並べている上官に空返事を返す。
三井、海野、鳳翔の三人は、陸に上がって早々苛立ちを隠しもしない木山大佐に案内され佐世保鎮守府の長官室へとたどり着く。
「着任を歓迎する、ようこそ佐世保へ。」
斉藤小六中将は叩き上げの軍人らしい剛毅な笑みを浮かべながら三名を歓迎する。
「ありがとうございます。」
応じる三井は慣れたように対応しているが、こういった場に慣れていない二人は顔に緊張を滲ませている。
「訓練しながらこっちまで、ご苦労だったな。」
「いえ、ようやく洋上での訓練が出来たと喜んでいる所です。」
「そうかい。で、使い物になるのかい?」
さっそくの一言に言葉に詰まる。
運用方法は考えてはいるが、聞かれているのは「現在使えるのか」であろう。
「現状では、難しいと思われます。」
「洋上航法、離着艦……そんな所か。」
「はい、まだまだ手探りな部分が多く効率的な訓練が出来ておりません。」
そう応じた三井に促されるように問題点や改善策を発言していく。
「知ってるとは思うが3カ月後にはお偉方集めて発表会だ。」
発表会と軽く中将は評したが、実際はそう軽いものでは無い。
少数の派閥の要望で建造した航空母艦が「戦闘の役に立つのか」の評価が下される。ここで酷い評価を受ければますます自分たちは窓際に追いやられるだろう。
「俺は航空機ってのは陸の兵器だと考えている。海の上で使えるとは思えんのだがな。」
斉藤の言葉が終わらないうちにドアがノックされる。
「お、来たか。入っていいぞ。」
「軽巡洋艦天龍、龍田出頭したぜ。」
佐世保鎮守府に到着してからおよそ2カ月。
海野、鳳翔は十名ほどの軍人と共に演習の内容確認を行っていた。
「指定海域における航空母艦を含む5隻と従来の水雷戦隊5隻による模擬戦か。」
細かな条件が書かれた書類に改めて目を通しながら、どうしたものかと思考をめぐらす。
「艦載機運用は、形にはなってきておりますが……」
鳳翔の声に頷く顔は明るくはない。
「私の砲撃能力では、正面からでは負けますね。」
自衛用として砲は搭載しているが、駆逐艦の火力の6~7割といった所である航空母艦。
さらに軽巡洋艦と比べても一回り以上大きい船体が被弾率を上げてしまう。
机上に広げられた海図を見ながら、「先に敵を見つけて有利な位置取りをすれば」「島影に隠れて奇襲すれば」といった議論が交わされていく。
参加予定艦一覧を眺めながら考え込む。
「こっちが空母1隻、軽巡1隻、駆逐が3隻、あちらが軽巡2隻に駆逐艦3隻。」
「私たちの部隊の軽巡洋艦は最新鋭艦、あちらは天龍、龍田の2隻です。」
就航してから1年足らずだが、練度は十分だと聞いている。
「川内、だったか。随分と個性的な性格らしいな。」
「……明るく活発な方でしたよ?」
唯一会った事のある鳳翔が目をそらしながら発言する事に象徴されるように、川内が自分で記載した書類にはとある一文がでかでかと記載されている。
我が国では「艦娘」と呼ばれてはいる彼女たちの姿や性格は人のそれと変わらない。
彼女たちは普通に食事もすれば、娯楽に楽しさを見出し、人と共にある。
鳳翔は料理を作るのが好きなようで、よく厨房の手伝いをしているのを見かける。
軍艦の艦娘として生まれた彼女たちは全員が軍属であり、一応の階級も与えられ他の軍人と同じように給与の支給や余暇も与えられている。もっとも、自由とは言い難いが。
「そろそろ良い時間だ、いったん切り上げよう。」
昼からは洋上訓練の予定だ、ようやく届いた新型機の扱いもそうだが、操艦の精度も上げていかねば。
彼女たちの艦の扱いは感覚的なものらしく練習をすればどんどん最適化されていく。砲塔の制御、速力、針路設定、航空機の制御などなどをまさに身体で覚えていくらしい。
食堂に向かいながらも、作戦の議論をしている声を聞きながら勝つ為の方法を思案する。
「勝たないとな。」
彼女に続くであろう、航空母艦達の為にも。
「やったぁー!夜戦の時間だぁー! 大尉、夜戦だよ夜戦!早く、や・せ・ん!」
「お前はそれしか言えないのか……」
夕食後、日報などの雑務をこなしている自分の元に時報のように突撃してくるのが、我が帝国海軍が誇る最新鋭軽巡洋艦だとは思いたくない。
「今は直近に迫った演習に絞ってる。お前たちの機関部やら艤装のメンテナンスも必要なんだから過度の訓練は出来ない。」
何度目か解らない返答を返すも、どこ吹く風。
「じゃあ、夜間偵察任務!!」
「却下。」
一か月ほど前に合流した軽巡洋艦川内。
横須賀での夜間演習では巧みな操艦で肉薄雷撃し戦艦長門から撃沈判定をもぎ取り参加者を驚愕させた。
その成功から夜戦大好きの問題児になっているようなのだが、残念ながら今回は昼間の演習。
それに今回の目標は「航空母艦」の有用性をアピールする必要がある。
幾つか策は考えたが、何にせよこのじゃじゃ馬にも上手く連携をとってもらわなければならない。
「川内、艦載機は使ってるか?」
「夜戦じゃ使わないなぁ。」
「……いや、昼間の偵察とかに。」
「ん~たまに?」
彼女は水上機が使えるはずなのだがあまり使ってはいないようだ。補助的な装備でしかなく、優先度は低いのだろう。
「なんか、あれなんだよね。使うのが難しい。」
こちらの渋面に気付いたのか、仕方ないなぁ~と語り始める。
「右手で丸書きながら、左手で三角書けって言われたら大変でしょ?そんな感じで、集中できなくなるんだよね。」
「鳳翔は人間が乗り込んでいない状態で操っているが……」
「私は飛行機を操るのがメインじゃないからじゃない?水上機に人が乗って、それの補佐をしてるだけでもこう、頭痛くなってくる。」
「建造された目的の違い……そのせいなのか?」
「たぶん、そんな感じ!!」
伝わったと笑顔を浮かべる。
「そんなものなのか、鳳翔以外の艦娘とはあまり話したことが無かったから意外に感じるよ。」
彼女達については、まだ不明なことが多い。おそらく~だろうという文言が報告書には句読点のように溢れている。
なぜ彼女たちが生まれたのか、彼女たちのように艦娘を宿す艦と宿さない艦の違いはなんなのか。
「あはは、私たちの事を幽霊だとか、魔女だとか怖がる人も居るからね。大尉は気にせず接してくれるから好きだよ。」
彼女達の存在を快く思わない者の陰口や嫌がらせは今も根強く残っている。
中には暴力沙汰となり艦娘が消えてしまったという事例もある。
「売店にでも行くか、川内。」
雑務の処理が終わり、後は気ままに過ごすだけだ。
「やった、ごちそうになるね!」
連れ立って執務室を後にする。
随分と財布が軽くなりはしたが有意義な時間だったと思いたい。
天気晴朗なれど波高し。
演習の日の天気は、その一言で表せた。
あいにく、川内の艦橋に立つのは東郷元帥ではなく若造の大尉を筆頭とする若輩者ばかり。
艦の制御をすべて艦娘に任せることも出来るが、負担を減らし運用に集中してもらう為に人間が補佐をする。
見張りや、艦載機の運用などは特に人間の力量による部分が大きい様に思われる。
「時間だよ、大尉。」
川内の声に頷きを返し、無線機のスイッチを入れる。
「作戦通り鳳翔、川内は艦載機を発艦。」
伝えてしばらく後、艦隊の上空を横切っていく6機の艦載機を見送り、水平線を眺める。
川内、峯風、澤風、矢風、鳳翔の順で布陣し敵艦隊に備えている
演習海域の指定範囲を改めて頭に思い浮かべる。
相手艦隊との距離は、20~40kmは離れている筈だ。
「川内、水偵の準備完了。」
「手筈通り、頼むぞ。」
≪了解です。≫
無線から聞こえるのは、水偵のパイロット黒木少尉の声。
鳳翔のように無人で飛ばすのでは不十分と判断した結果の措置、とはいえ艦娘の補助があれば、母艦の方位を見失う事が少ない事や通信の安定性が向上する為、十分に役に立っている。
無人で複数機を操ることが出来る鳳翔が例外というのが正しいのだろう。
海上に置かれた水上機を確認し、机上に広げた海図に目を向ける。
先ほど、発艦させた6機分の線が扇状に海図に書き込まれている。
相手方、天龍、龍田には航空機が搭載されていない、この差を生かさなければこちらの勝利は難しい。
その為に、偵察飛行の訓練を何度も行った。
発見の報告はまだか、焦る内心を顔に出さないよう苦慮しながら平静を気取る。
見張りの為、双眼鏡を覗きこんでいる者達にも緊張が見える。
いっそ先に攻撃機を空に上げてしまうか?
発艦に必要な時間と新型機一三式艦上攻撃機の性能を思い出しながら、心が揺れる。
行動半径は300km程度、滞空時間は4時間ぐらいだったか。
「大尉、カステラ食べる?」
呑気な声が掛けられた。
「……あ~、貰おう。」
川内の声に気付いてみれば、座っていたはずの自分はうろうろと艦橋の中を歩き回っていた。
大きく深呼吸、艦を操っている川内の方が集中力を使っているだろうに、情けない話だ。
差し出されたカステラを受け取り一口。
ほっと、一息ついて見回せば、なるほど全員がガチガチに緊張している。
「君、艦橋の全員にこれを一切れずつ配ってくれ。」
御茶請けに出されたカステラを示して伝令員に指示を出す。
「総員、深呼吸を。その後、カステラを食べて職務に戻れ。」
配り終えた頃合いを見計らって声をかける。
怪訝な目を向けていた者が大半だったが、カステラの甘さにふっと頬が緩んだように思える。
適度に、力が抜けてくれると良いが……ふと、川内と目があった。茶目っ気たっぷりにウィンクをされ、赤くなったであろう顔を誤魔化すように海図に目を落とす。
≪敵艦、捕捉しました。≫
鳳翔の報告に、艦橋内で歓声が上がる。
喉まで出かかった歓声を飲み込み、冷静を装う。
「……まず第一条件クリアだな。距離は?」
海図に敵艦隊の位置を書き込み、針路や推定速力を書き加えていく。
「大尉、突撃しても良い!?」
川内の声に、艦橋に居る一同の視線がこちらに集中した。
「あぁ、お手並み拝見だ。交戦開始に合わせて鳳翔からも援護が来る。」
「了解、さぁ行くぞ~!!」
≪突撃!!≫≪暴れるよ~≫
自信に満ち溢れた川内の声に続くのは駆逐艦や艦橋の声。
速力を上げ一気に交戦予定地点を目指して突き進み始める。
接敵までの時間を考えながら、作戦を反芻する。
「川内達との交戦を確認してから、攻撃開始だ。」
≪はい。≫
鳳翔に搭載した一三式は全部で5機。それぞれ250kg爆弾を1発搭載している。この攻撃隊の使い方が勝負の分かれ目。
動かない目標物に対して30%前後と言われている爆撃命中率で、艦艇という動く目標に対しての攻撃、1発当たれば幸運だと笑われた。
だから必死に研究し考え訓練を積んだ。
≪必ず、当てますよ。≫
気遣うような声が聞こえた。
こちらの顔は見えていない筈だ、目があった艦橋員は慌てて目を逸らした。
よっぽど情けない表情をしていたのか、指揮官が不安を呷ってどうする?
口元に意識して笑みを張り付ける。
「鳳翔なら煙突の中に放り込むぐらいはしてくれるだろ?」
精一杯の強がりを、艦橋の全員に聞こえるように。
≪お任せを、大尉殿。≫
一瞬の間の後、艦橋は大きな歓声で沸き立った。
くすりと、笑い声を滲ませる鳳翔に、ようやく指揮官らしい姿を見せられたと嬉しく思う。
交戦予定地に向かうこちらの上空を、後方から発進した黒木機が追い越していく。
「敵艦視認、向こうもこっちに気付いてるね。」
報告に艦橋の空気が引き締まる。
「鳳翔、攻撃隊の到着は?」
≪後10分以内には。≫
「聞こえたな、距離を取りつつ砲撃戦に入ってくれ。」
鳳翔が居ないことに気付けば、策を警戒し距離を取っての砲撃を優先するはず。
「了解、了解。適当に突撃する素振りを見せつつで良い?」
「あぁ、川内の判断に任せる。」
一気に斬り込まれ近距離での殴り合いになれば、状況は悪化する。
最悪を想定しつつ、打てる手を考える。
土壇場での追加の一手、悪手になるか?
「鳳翔、偵察で使った艦載機、もう一回飛ばせ。」
≪え?≫
「攻撃の邪魔にならない程度での数で良い、飛ばして敵艦隊に向けておいてくれ。」
≪2機だけですが、出します。≫
無理を強いる事になるが、自分の直感を信じよう。
≪全艦、砲戦用意!!≫
「了解よ~」
のんびりと返しながらも、視線は鋭く相手艦隊の様子を見つめている。
「敵艦隊の数、少ないわねぇ。」
お互いが5隻ずつのはずが相手は4隻しかいない。単縦陣で誤魔化そうとしているようだけれど、あの特徴的な艦が居ないのにはすぐに気付ける。
≪大方、遠く離れて見てるんだろうよ。≫
上空で旋回を続けている水上機、こちらを発見した航空機と交代し無線での連絡を続けているのだろう。
≪……距離を取ながら砲戦。不用意に近づくなよ?≫
≪な、おい突撃だろ、水雷戦隊だぜ、俺達は!!≫
≪黙れ、突撃馬鹿!!≫
≪なんだと、石頭!!≫
旗艦である姉と指揮官である木山大佐が言い合いをしているのを聞き流しながら考える。
川内ちゃんの操船は相当のモノらしいけれど、距離を開けての砲戦は苦手だったはず。
「上を飛んでるので、砲撃修正をするのだと思うけれど。」
着弾位置を正確に見れる、大きな利点。
≪龍田、良いこと言った!!ほら突撃だろ!!≫
≪黙って回頭しろ、敵艦隊の頭を押さえるぞ!!≫
発砲炎が見えた。数秒後の着弾はかなり離れた所に水飛沫を上げた。
突撃を仕掛けてくる相手からやや離れるように天龍ちゃんが針路を変えていく。
≪川内を狙え、奴さえ叩けば後は一方的に叩ける!!≫
砲撃音、合わせるようにこちらも砲撃を始める。
着弾は全近。
姉妹で艦隊を組むことが多いから、砲撃の癖を知っている。天龍ちゃんは初弾を気持ち遠くに狙うハズ。
それが全部、相手の手前で落ちている。
≪にゃろう、上手いぜ!!≫
≪何を笑ってる、さっさと修正して当てろ!!≫
こちらの砲撃のタイミングを見計らって、速度を大胆に落としたのだろう。
「うふふふ~狩り甲斐がありそうね。」「ありがとうございます!!」
艦橋要員が何故か変な事を口走っているけど、気にしている場合じゃない。
砲塔の微調整をしている間に、敵の2射目が飛んでくる。
外れ。多少は修正をしたようだけど、大きくズレている。
次弾装填、速度を落とした以上大きくは動けないでしょう?
「天龍ちゃん、先に撃つね~?」
方位や仰角、艦速力を姉に伝えながらの砲撃。
やや遠い着弾を確認。
≪当てるぜ!≫
直後の姉の砲撃は夾差、一発ぐらいは当たったかしら?
同型艦で、ずっと一緒に訓練をしてきたからこその連携。
≪川内、直撃一発、小破相当。≫
審判員からの無線に艦橋が沸く。
≪いよっしゃ!!一気に畳み掛けようぜ!!≫≪勝ったな。≫
あらあら、油断しちゃって。
直撃を入れた姉の砲撃を参考に砲撃を放ちながら、姉の方を見る。
苦笑を浮かべた口元が、凍りついた。
低く飛んでいる航空機が天龍ちゃんの上を通過。
何か落とした?
反射的に大きく舵を切る。
回頭の勢いに何人かが転んだようだが、仕方ない。
べちゃりと、船体に模擬弾の塗料が着いた。
≪川内被弾、中破。第3、第4主砲の使用を禁止する。≫
「龍田、被弾1つ。中、いや小破相当。」
無情に響く審判員の声。
こちらの撃った砲撃が当たっていた事が救いか。
天龍ちゃんは?
≪天龍、大破沈没相当、停船させる、後続艦は回避せよ。≫
≪はぁ!?ざけんな、俺はまだ戦えんぞ!!≫
≪……天龍、無線の使用を中止せよ。≫
小破判定なら、まだ挽回できる。
「旗艦沈没につき指揮を代行するね~」
天龍ちゃんが速力を落としていくのを避ける為に隊列が崩れていく。
≪龍田さん、敵が!!≫
手際よく進路を変え、きっちりと間合いを詰められている。
「各艦、速度を上げて、一度距離を離し……」
砲弾が一気に降り注ぎ始める。
狙いが正確だ、さっきまでの雑な砲撃は、油断を誘う為?
≪羽風被弾多数、中破相当、第一主砲の使用を禁止。≫
≪秋風轟沈、魚雷誘爆と判定。≫
振り返ってみれば、一塊になって身動きが取れなくなっている駆逐艦たちに砲弾が集中している。
やられた。
艦首を川内に向けて、機関一杯まで回す。
衝突させる気はないけれど。
「まさかコレで勝ったつもりでいるの~? 肉を切らせて骨を断つ……。 うふふふふふっ♪」
突撃を敢行する。
≪羽風大破、戦闘中止。≫
≪灘風、轟沈判定。≫
≪島風、小破。≫
味方の被弾報告が連続するけれど、お蔭でこっちへの弾が飛んでこない。
慌てた砲撃が飛んでくるけど、狙いが甘いわねぇ~
一気に距離を詰め、咄嗟に回頭している川内の横腹に斉射。
≪川内、被弾。速力を10kn以下制限……魚雷被雷判定、轟沈。≫
接近ついでにばら撒いた魚雷の直撃でまず一隻。
さぁ、死にたい船はどこかしら?
川内の脇を擦り抜けるように駆け抜け、大きく回頭。
狙いを定めようとした時、上空を駈ける航空機が目に入った。
咄嗟に艦の進路を変更、ここで爆弾なんて喰らえない。
見渡してみれば、もう一機。
偵察用の下駄履きは無視して大丈夫だろうけど……
「あら?」
べちゃりと、被弾の感触が連続した。
「龍田、被弾多数……大破判定。」
演習の結果、こちらは旗艦である川内の轟沈判定と矢風が小破判定。
対して、相手方は全員沈没&大破判定。
大勝と言って過言ではない。いや、完全勝利と言っていいだろう。
演習終了の報が届いた瞬間、艦を揺らさんばかりの大歓声が上がったのは、仕方のない事だ。
意気揚々と佐世保に入港し桟橋を渡り終えた自分達を待っていたのは苦々しい顔をした木山大佐以下、相手艦隊の面々だった。
「……まぐれ当たりの爆弾で良い気になるなよ。」
開口一番、言い放たれた言葉に、言い返そうと思ったが、観戦に来ていたお歴々がこちらに歩いてきているので黙って整列をしておく。
笑いそうになる顔を必死に押さえつけながら。
「まずは演習ご苦労、しかし天龍が轟沈判定になったのが今一つ、腑に落ちんのだが?」
斉藤中将の問いに、随伴していた判定員が答えを返す。
「航空機より爆弾が投下され、煙突内部へ侵入、機関部が塗料まみれになっておりますので轟沈で間違いがないかと。」
「…煙突の中に?」
「はい、重ねて艦橋にも被弾、ご覧の有様であります。」
判定員の言葉に示されるように、天龍の艦橋に居た人員は何処かしら青の塗料で身体を汚している。
「これでは、文句のつけようがあるまい。」
中将の隣で佇んでいた男性が笑いを隠さずに声をあげる。
軍服を着ていないところを見ると、政府の役人だろうか?
その隣、こちらは何度か面会の機会があった山本大佐、喜色満面といった風情でこちらを見ている。
「し、しかし所詮はまぐれ当たりの爆弾です、もう一度やれば次は我々が!!」
「策を考え鍛錬を積んで出した結果を、まぐれで片づけて頂きたくはありません、大佐。」
言い返す言葉には自負があった、どうすれば勝てるのか。必死に考え悩んだ三か月だったのだ。
「そちらの大尉の言うとおり。負けは負け、潔く認めい。」
「な、聞いておればどこの役人か知らんが、無礼だぞ!!」
笑いを滲ませる男に激した木山大佐の言葉を聞いた瞬間、斉藤中将の鉄拳が飛んだ。
「無礼者は貴様だ、馬鹿者が!!」
は?
斉藤中将は深々と男性に対して頭を下げた。
「部下が失礼を致しました。」
ちょっと待ってくれ、どういう事だ。
中将が頭を下げるような相手は、大将ぐらいだぞ?
自身とさほど年齢も変わらないであろう男性が大将の訳がない。
「よいよい、お忍びの行幸じゃし、何より余の言い方がまずかった。」
余?
「まずは名乗らせてもらおうか、伏見宮博海、一応皇族という事になっておるよ。」
場が、凍りついた。
図上での各艦隊の動きを再現しつつ今回の演習についての報告を口頭で述べていく。
皇族の御前で。
「海野、爆撃の精度はどの程度じゃ?」
「は、はい。現状では4割程度と言ったところでしょうか、精度を上げる為に低い高度での運用になるので問題は多いのですが。」
「ほう、随分と薄氷の勝利という訳じゃな。」
たびたび宮様から質問が飛び、緊張で気が気では無かったがなんとか報告を終えた。
天龍の砲撃の巧みさや咄嗟に斬り込める龍田の度胸を大いに褒めながらも、やはり航空機を使った攻撃に対して興味を惹かれている様子で、私や鳳翔への問いが一番多かった。
「山本が言っておった急降下爆撃が出来れば改善できるか。」
今、宮様はなんと言った?急降下爆撃?
「そうでありますな、練度がモノをいう戦法ですから一概には言えませんが私は大いに期待しております。」
山本大佐の声は自信に溢れている。
「申し訳ありません山本大佐、その急降下爆撃というのは?」
三井大佐が質問を返す。
「字のごとく、航空機をある程度の高さから急降下させながら投弾する戦法だよ。」
「強度的にかなりの無茶になります、現に……」
「ふむ、海野がやろうとして失敗したのであったな。」
そう、命中率を上げる為に、降下させながら出来るか試してみた。結果は機体の重さで加速しすぎた機体が操縦不能で墜落。
喪失の始末書を提出した後に来た返事はわざわざ赤丸を付けた艦載機の性能表一覧だった。
過剰な速度を出せば機体は異常な振動を起こし、最悪空中分解を起こす。それを避ける為に角度を緩やかにしたりと調整はしてみたが結果は芳しくなかった。
「なに、強度を上げれば良いのじゃろうし今回の実績があれば航空機運用について多少は見直しがされよう、余も微力ながら口添えをしておこう。」
「ご英断感謝致します。」
「海野がこの結果を出したからこそ、じゃよ。例の件も含めて推進すべきであろう。」
この演習以降、我が国は、航空母艦と航空機にそれなりの評価を下し、軍備の拡充を図る事となった。
また、多くの人員が必要であったハズの軍艦の運用が艦娘の出現で人員に余裕があった事も研究、開発に良い影響を与え順調にノウハウの蓄積がなされていった。
1941年初夏
航空母艦の有用性を認めさせた演習から十数年。
若造と言われていた私も、相応に経験を積み、気付けば四十を目前としている。
我が国は、列強の仲間入りを必死に目指し半ば強引に大陸の権益を得るため争いを続けている。
戦争をしている事に思う所が無い訳ではないが仕方がない。
出来る事ならば、これから私が出向く先で、得られる助力が皆の助けになれば良いと思うばかりだ。
これから向かう先は、独逸第三帝国。
ある交渉を行う為、戦火の中に飛び込む事になった。
「すまないな、同行してもらって。」
「いえ、閣下の同行であれば喜んで。」
艦に乗り込んだ私を出迎えてくれたには今回の交渉の代表を務める山本大将。
演習以降、様々な部分で力を貸してくださった恩人でもあり、幾度も酒宴を共にした気心の知れた間柄でもある。
「まぁ、交渉はほぼ終わってるようなもんだ。お前は確認と把握だな。」
「そうですね、航空機一筋でやってきたせいで詳しくなりましたからね。」
十数年、空母運用について入れ替わりがあるとは言え2隻の空母を預かり指揮を執り続けてきた。気付けば、航空機の操縦や簡単な整備まで出来るようになった。
流石に設計までは出来なかったのだが、航空運用の権威として評価を受けている。
「そうだな、貴様のお蔭で正規空母6隻、軽空母8隻まで揃えることが出来た。改装中のモノも含めればかなりの戦力だ。」
赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴。
鳳翔、龍驤、飛燕、天燕、瑞鳳、祥鳳、大鷹、龍鳳。
他にも、建造中、改装中の空母が多数。
世界でも有数の航空戦力であり、大陸沿岸部での実践も経験をしている。
艦載機の生産量にやや不安を残しているが、陸軍との協調が取れれば問題はないと思われる。
……もっとも、それが一番の難点だと思っているのだが。
「開戦は、避けられそうにないからな。」
山本大将の声には苦々しさが滲んでいた。
自分は前線で指揮を執るだけで、中央がどういった状況なのかは詳しくはない。
とはいえ、こんな所でまで政治談議をするのは好ましくないだろう。
カバンに忍ばせておいたトランプを取り出し笑みを浮かべる。
「ポーカーでも如何ですか、閣下。」
「軍務中、と言いたい所だがこの艦は民間船だからな。」
「えぇ、私達が出来るのは到着まで英気を養う事ですよ。」
「だな、いっちょやるか。」
英気を養う所か、色々と献上する羽目となった。
「貴官が「グラーフツェッペリン」か。」
造船技官に連れられて、艦橋に現れたのは見慣れぬ男性だった。
「……そうだが、貴方は?見た所、我が軍の所属には見えないが。」
技官に向けていた敬礼を下げ、訝しげな眼を向ける。肌の色、目の色が彼が異国の人間であることを告げている。
第三帝国初の航空母艦として建造されていた私は、無用の長物とされたとはいえ軍事機密のはず。
それを異国の人間に見せる理由に見当が付けられず、どうしてもキツイ目を向けてしまっている。
それを気にした風もなく、彼は私の前に立った。
「大日本帝国海軍所属、海野大佐だ。」
そう答えると、我が国の敬礼とは違う形であれど、綺麗な答礼を返してくれた。
大佐と2、3言葉を交わすと技官は席を外した。
「まずは、初めましてだな。」
差し出された手を凝視していると、半ば強引に手を握られた。
「握手って、知らないのか?」
「いや、知識として知ってはいるが……私はゴーストだぞ、怖くないのか?」
そう、私は船に宿った霊。気味悪がられ、この船から出ることも許されてはいない。
人と触れ合うことなど数えるほどだった。
「ゴーストね、我が国では艦娘と呼んで、仲良くやってるんだがな。」
国が違えば、扱いも違う。しばらくはそんな雑談が続いた。
「興味深い話だったが、私と何の関係がある?」
「あぁ、グラーフ、我が国に来ないか?」
何でもないような口ぶりでとんでもない事を言い出した。
「待て、貴官は何を言っている?」
「我が大日本帝国海軍の艦娘として、戦線に加わって欲しいと言っている。」
「は、はははは。大佐殿は冗談が過ぎるぞ、仮に閣下の許可があったとしても、移動はどうする?貴国は参戦していないとは言え、我が国は戦争中だぞ?」
日本、幾度か聞いた国の名前。かなりの距離を移動することになる。Uボート達、潜水艦や大型の航空機なら、移動が出来るかもしれない。だが、私のような軍艦が、大手を振って移動など、沈めてくださいと宣伝しているようなものだ。
「あぁ、貴官には沈んでもらう。」
「……は?」
「幾箇所かに穴をあけ、廃船扱いで曳航し我が国へ来てもらう、ブレスト沖で座礁しているビスマルクや他数隻と共に。」
意味が解らない。この男は何を言っている?
「我が国は、欧米列強から見れば生意気な新興国だ。それが貴国のスクラップを高額で買う。列強はこう言うだろうな、馬鹿な新興国は金を無駄にしたとね。」
自信ありげに、笑う大佐。
「……当然だ、沈めた船をもって帰ってなんになる?」
「我が国の造船技術を舐めないでもらいたい、重要区画を避け、見事に列強を欺いて見せる。」
この男は、こういっているのだ。沈んだふりをしていろと。
「くっくっく、馬鹿馬鹿しい。ビスマルクは既に沈んでいる、それも持っていくと?」
「かの国の射撃の的の如き扱いをされている彼女を、放っておくのは気に喰わないんだよ。」
ビスマルク、沈められ座礁した船体は、未だに解体する事も出来ずブリテンの嫌がらせのような砲撃や爆撃の的にされている。
「英国には外交ルートで、我が国が買うから砲撃等を止めるよう要請した。」
「馬鹿な、そんな無駄な事を!?」
「ここで、戦わずに朽ちるか、異国の地で戦うか貴様が選べ。ビスマルク達は戦うと決めたぞ。」
「ふざけるな、ビスマルク達は既に!!」
「座礁したおかげだろうな、まだ艦娘としての姿を保っていたよ。」
意外な事実、沈んだと聞いていた。ならばゴーストとしての彼女達も消滅したと思っていた。
さぁどうすると、問いかけるように向けられた眼。
「私は、兵器だ。命令があればどこにでも行こう。」
「兵器ではなく、グラーフツェッペリンの意思を聞きたいんだ。」
目線を逸らした私に重ねられた言葉が、心の琴線に触れた。
この世界に顕れる事となった願い。
【世界に名を轟かす船になれ】
それが私の目的。
このまま、ここに留まれば海に出る事すら叶わないかもしれない。
建造を途中で止められ、艤装も中途半端の身体。
それでも、艦としての矜持があった。
「……貴様を信じよう。アドミラール、このグラーフツェッペリンを使いこなしてくれ。」
不格好ではあるだろうが、先ほどの大佐の敬礼を真似てみせる。
「あぁ、よろしく頼む。」
数週間後、私はビスマルク達と共に日本へと曳航されていた。
スクラップであるとの証拠の為に、英国海軍の前で自沈処理を受けこそしたがアドミラールが言う様に、完全に沈みはしないように調整された見事な手際であった。
沈みゆく艦に喝采を叫んでいた英国人を、私は艦橋から笑みをもって眺めていた。
「必ず、私の名前を刻みつけてやる。」
そう、心に決めながら。
1941年、冬
日本に連れ帰った艦娘達の修理、改修がようやく終わろうとしていた。
【もはや、開戦は避けられず。】
山本長官からの手紙を読み終えた私は、大きくため息をついた。
大博打が始まろうとしていた。
いや、既に始まっているのだろう。
「仏印か。」
第一艦隊所属付属海野艦隊と主力の一翼のような肩書きではあるが、実際はビスマルク達の改修待ちの予備隊。
実働の艦艇はグラーフ、プリンツ、飛燕の三隻のみ。
「仏印?」
「フランス領インドシナだよ、司令部要員とビスマルク達を呼んできてくれ。」
こちらの呟きに反応したグラーフに答えを返しながら、所属艦を呼び出してもらう。
「大佐、出撃でしょうか?」
不安そうな顔をしている副官に海図を広げるように指示を出す。
仏印、そしてさらに南方。
我が国にとっての生命線となるであろう資源輸送路。
周辺は英国、仏国、米国といった列強が支配し戦争が始まれば封鎖されることは確実。
防備強化が目的の移動であろうことは想像に容易い。
あちらには、誰が居たか。
記憶を探っている間に、執務室のドアがノックされた。
「戦艦ビスマルク以下、海野艦隊出頭したわよ。」
「入ってくれ。」
自身の前に整列するのは艦娘、人間合わせて10名ほど。
手早く山本長官の命令書の内容を説明し、出航に備えるよう指示を出していく。
「アドミラール、私やレーベ、マックスはまだ動けないわよ?」
「あぁ、解っている。」
不満げな顔をしているビスマルクに頷いて見せ、1枚の図面を机に広げる。
図面の上部にはビスマルク改修案と書かれ機密指定の印が押してある。
「……なによ、これ?」
「お前の改修案だ。」
図面を読み込んでいたビスマルクの眉がどんどん吊り上っていき、ついにはこちらを射殺さんばかりの鋭さになった。
「主砲を降ろせって馬鹿にしてるの!?」
ビスマルクの38cm主砲を全撤去の上、20cm連装主砲を積むという提案書。
「38cm主砲は弾薬の確保が至難、調達が可能な砲を乗せるしかない。」
35.6cm砲は余剰分が無く、かなりの時間が必要になる。結果として重巡洋艦用の主砲を乗せる案が出来上がっていた。
戦艦としてのプライドがあるのだろう、沈黙が流れる。
「38cm主砲が技術的に優れている事は認められている、弾薬も用意はできるだろうが時間がかかる。」
独逸から曳航する際に余剰分を購入したが、我が国では生産していないサイズの弾薬であり100発程度を使い切れば補充はない。
生産ラインを新しく作るとするならば、後3カ月は動けない。
「……一基だけでも残せないかしら。」
俯いたままのビスマルクが絞り出すようにして声を出す。
戦艦として高い自負を持っていたからこそ、座礁した後も艦娘として存在し続けていた。
その事を考えれば、最大限の譲歩なのだろう。
「提督、僕達の改修を後回しにすれば少しは、早くなるかい?」
レーベとマックスが視線をこちらに向ける。
プライド、軍として考えるのであれば捨ててしまえと言い切るべきだろう。
戦争である以上、合理的に動かなければ負ける。
グラーフはフォッケウルフやスツーカの搭載を諦め、零戦や九九式艦爆を搭載している。
「アド……提督、お願いします!!」
プリンツオイゲンが深々と頭を下げた。合わせるようにレーベやマックス、飛燕も頭を下げる。
「アドミラール、ここで断った場合の士気の低下は無視できないと思うが?」
沈黙する私に追い打ちをかけるようにグラーフまでがあちら側に立った。
「……意見として提出はしておく。期待はするなよ。」
意見書をまとめて、根回しをして、余分な手続きが増えることになるがやるしかない。
「出航予定は2週間後、各自用意に専念してくれ。」
集まった全員の顔を見渡しながら、そう締めくくった。
1941年12月10日
歴史的大勝利の帰路、無線で呼び出され私達は赤城の艦橋に集められていた。
「了解しました。」
集まった私達、第十八駆逐隊に下った命令は四国沖で輸送船団と合流し、インドシナ攻略へ。
到着後、海野艦隊へ編入、海野大佐の指揮下に入る。
細かな説明を終えて、命令書を渡された姉や僚艦と共に部屋を辞し内火艇の準備を待つ為、甲板に上がる。
「不知火、どうかした?」
海に視線を向けていた私に、声がかかる。
「いえ。」
視線を向け、短く端的に返す。
「不満そうに見えるけど?」
人懐っこい笑みを浮かべながら、姉は私が抱いている感情を言い当てた。
「…表情変わってないじゃない。いつもと同じに見えるけど。」
「え~解りやすいとおもうんだけどなぁ、霞の目が曇ってんじゃないの?」
「失礼ね、相変わらず。」
「あはは~でも、霞もちょっとは不満なんじゃないの?」
「別に、命令なら従うだけよ。」
水雷戦隊として訓練をしてきた。
もちろん、船団護衛が嫌というつもりはない。
ただ、私達を率いる事になる提督が、「海野大佐」であることに疑問がある。
「なぜ、海野大佐の指揮下になるのかと不思議に思っています。」
「・・・・・・航空運用の専門家。」
霰が言ったように、海野大佐は航空機に対してかなりの実戦経験を積んでおられる。
しかし、水雷戦隊の運用については未知数。
それどころか、「臆病者」と陰口を叩かれている始末。
臆病者に水雷戦隊の指揮が出来るわけがないと、正直な所不満である。
「それでも、此処よりは活躍できるかもよ?」
周囲を見渡せば、赤城を筆頭に、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴と巨艦が並ぶ。
その一方で、私達駆逐隊の射程範囲を遥かに超える航空機の攻撃範囲は私達の出番を奪い去っているように感じている。
「何処であろうと、全力で戦うだけです。」
そう言いながらも、敵艦隊に斬り込んで戦果を上げたいと思うのは、私が駆逐艦だからなのだろう。
「海野艦隊は海外艦が所属しているんですよね。」
「元海外艦でしょ、金剛さんみたいな感じなのかしら。」
出会ったことのない艦娘達。
どんな性格をしているのかと姉達は気にしているようだけれど、私はどの程度の練度なのかに興味があった。
「全員が金剛さんみたいな性格だったら、流石に辛いわね。」
「同感です」
霞さんの言葉に深く頷いた。
まったく、こう暑いと色々と嫌になりますわ。
周囲を警戒しながらも、12月の夜中だというのに真夏のような暑さにうんざりとする。
≪プリン・オイシイ・ウェーイだっけ、本当に居るのかな?≫
「プリンス・オブ・ウェールズですわよ、鈴谷。」
姉の無茶苦茶な覚え間違いに頭を抱えたくなるが、いつもの事。
この海域に英国の最新鋭戦艦が回航されたという情報が入り、鳥海、熊野、鈴谷、川内、吹雪、初雪の6隻が急遽派遣された。
追加で最上や三隈達も来るそうなので、久しぶりに姉妹が揃う。
≪気を抜かないで下さい。≫
旗艦である鳥海からお小言が飛んできた。まったく、ついてませんわ。
≪陸軍の報告が本当ならば、確実に撃滅せねばならん。≫
続いて聞こえてきたのは落ち着いた男性の声。
鳥海に乗り込んでいる提督、小沢少将。
砲火力に劣る可能性の高い私達で敵艦隊を叩く為の夜襲。
「夜更かしはお肌の大敵なんですけれど。」
≪……艦娘も肌荒れを気にするのか。≫
≪提督、作戦中なのですが。≫
≪い、いや単純な好奇心というか、な?≫
無線越しに、鳥海と少将がこちらの呟きに反応して言葉を交わしている。
そういえば、娘さんが年頃になったそうですわね。
殿方は大変ですわねぇ、と思わず頬が緩む。
月明かりの中を艦隊が進んでいく。
≪て、敵艦、敵艦です!!≫
気合を入れるように、両頬を軽く叩き意識を切り替える。
≪吹雪さん、報告は正確に。何処ですか!?≫
≪は、はい。左舷の島の傍に……≫
≪吹雪~あれ、ただの岩だと思うんだけど。≫
≪えぇ!?≫
≪……川内さん解りますか?≫
≪岩だよ、必要なら照らそうか?≫
吹雪さんの見間違いだったようですわね。
大きく息を吐き緊張をほぐす。
≪泊地に戻るぞ。残念だが今回は外れのようだ。≫
少将の声に、各艦の返事が重なった。
東の空が白み始めている。
雲も少ない、今日も暑い一日になりそうですわ。
台湾沖、周辺海域の警戒中の海野艦隊に雑音混じりの緊急無線が飛び込んできた。
「繋げるか?」
「少し待って下さい、……Wie heißen Sie?」
≪はぁ!?≫
咄嗟に出た母国語。
「あ、あ~っと、貴女は誰ですか?」
慌てて日本語で言い直して、反応を待つ。
≪……誰やあんた?≫
わわ、疑われてる。
「私、プリンツオイゲン。日本のナカーマ!!」
≪プリン??≫
無線機をひったくられた。
「龍驤だな?」
≪海野はんか?いよっしゃ、やったで!!援軍、はよ!!≫
全艦に通信を繋げて良いのか、と目で問いかけてみると素早くアドミラールは頷いた。
≪南遣隊が交戦中、座標は……≫
告げられる座標を手早く、海図に書き記していく。
「……通信は?」
≪ウチが中継する。中継機飛ばしとるから、もうすぐ繋げられるはずや。≫
「わかった、繋がったら教えてくれ。」
艦橋内が一気に慌ただしくなっていく。
「針路、210。速力30knまで上げるぞ。馬公に連絡、我これより救援の為警戒任務を離れる。」
提督の声に返事をしながら、針路、速力を変更、後方のグラーフさん達も速力を上げていく。
「グラーフ、航空隊緊急発艦。艦戦8、艦爆24。」
≪了解した、どっちを操れば良い?≫
「艦爆を頼む、艦戦は菅野隊を。第二次攻撃隊も用意。」
≪Ja、カタパルトで問題ないな?≫
「あぁ、急いで上げてくれ。飛燕はグラーフの第二次攻撃隊と合わせて出撃させろ。」
≪承知いたしました。≫
矢継ぎ早に出されていく指示、無線が飛び交う。
「提督、馬公より返信。ブウンヲイノル?です。」
「プリンツを先頭に白雪、叢雲、グラーフ、飛燕の単縦陣に移行。」
先頭を突き進む私の上空をグラーフさんの航空隊が追い抜いて行く。
「……この展開の早さは頼もしいな。」
日本ではまだ実用できていない、蒸気カタパルト。
技術者さん達が何度も何度も調査していたグラーフさん自慢の……、私達独逸艦自慢の装備。
次は、このアドミラルヒッパー級の凄い所を見せてあげるんだから。
気合十分、さぁ行くよ!!
「このタイミングで。」
思わず漏れた言葉。
南遣隊への合流、その航海中を狙われた。
視界に写るのは戦艦級が3隻、他10隻を超えている。
こちらは戦艦がお姉さまと私の2隻、駆逐艦が磯波、敷浪、綾波の3隻。
まともに撃ち合えば……
嫌な想像を振り払うように頭を振る。
戦う前から、負けを考えてどうする。
≪キリシマ、旗艦は貴女ネ。リラックスして指示をして下さいネ?≫
「は、はい、お姉さま。」
笑みすら浮かべていそうな声に励まされ、焦りが消える。
「お姉さま、敵艦の情報は解りますか?」
南遣艦隊へ敵発見の打電をしながら、敵の動向を探る。
あの艦影は……
≪オフコース、もちろんネ。あれはプリンスとレパルスそれから……≫
私の見立てと同じ、速力は同じ程度。
砲火力は、劣勢。
鳥海達は南、合流を急ぐなら敵艦隊の脇を抜ける事になる。
狙い撃ちされるわね、それなら。
「針路変更、10。全艦増速しつつ、私に続いて!!」
十分に距離があるうちに、大きく回頭、北へ向かう私達を敵艦隊が追いかける形。
「遠距離砲撃はそうそう当たらないわ、敵重巡や駆逐が突出してきたらそちらに集中砲火よ!!」
まずは、敵の数を減らす。
速力で優位に立つであろう、重巡洋艦や軽巡洋艦、駆逐艦が突っ込んで来るならそれを叩く。
敵戦艦からの砲撃が降り注ぐが予想通り、大きく外れている。
≪……敵艦隊、追いかけてきてますね。≫
「針路、350。…砲撃の精度は気にしなくて良い、撃て!!」
細かな変針を重ねる、そんな状況での曲芸染みた射撃は当たる訳もないけれど。
こちらの砲声と、あちらの第二射が重なる。
≪Wow、さっすがマイシスターね!!≫
誤差を修正したのだろう、敵の砲撃は私達が先ほどまで進んでいた針路の先周辺。
「計算通りね。」
≪霧島さん、意見具申します。≫
「何かしら、磯波?」
≪駆逐隊を分派、側面より雷撃に移りたいと思います。私達も頑張るときなのです!!≫
敢闘精神に溢れる提案ではあるし、逃げ回るより正面から撃ち合いたいのは解る。
私だって、そう。
でも、今じゃない。
「まだよ。南遣艦隊か陸軍の航空隊でも良い。援軍が来てから一気に動くわ。それまで闘志を絶やすな!!」
≪了解!!≫
援軍の見込みは十分にある、勝機を見逃すな。
数十分、なんとか被弾をせずに北上を続けているけど、こちらの砲撃も戦果を上げておらず全員が焦れ始めているのを感じ取る。
真珠湾で大戦果を挙げた部隊が凱旋したと聞いている、自分たちも武勲をと逸る気持ちが胸を焦がしていく。
≪こちら、南遣隊、霧島さん聞こえますか!?≫
そんな中、待ちに待った通信が入った。
「鳥海ね、現在地は?」
≪合流予定地点から、北上中……合流まで2時間ぐらいでしょうか。≫
2時間。
予想より、時間がかかる。
今から南に向かう?
「航空隊は?」
≪要請は正式に出しています、ただ……≫
≪あの石頭共は航行中の船に爆弾が効く訳ないとか言っておって……くそが!!≫
小沢長官の毒づく声が混じる。
…1隻、2隻の被害には目を瞑り、初手から南へ突っ切るべきだったでしょうか。
≪小沢っち、夜偵で時間稼ぎしようか?≫
今の声は、川内?
≪誰が、小沢っちだ!!大体、夜偵は……≫
≪60kgなら積めるよ、注意を逸らせれば霧島さんならやれるでしょ?≫
出来るなら、十分な援軍を待ちたかったけど。
「小沢長官、川内からの援護お願いします。全艦、川内の援護のタイミングで南に変針、機関最大。私とお姉さまは砲撃戦を、水雷戦隊は一気に駆け抜けて!!」
賭けに……
≪ちょっち待った~!!≫
そんな覚悟を決めたタイミングで。
≪聞こえとるね?予定海域よりえっらい北にいるから繋ぐのに苦労したで。≫
≪RJ?≫
≪せやで、お耳の恋人、リュージョーさんや!!≫
「艦載機、出せるんですか?」
龍驤は圧潰事故を起こしたせいで艦載機運用が出来ない筈だけど。
≪ふっふ~ん、当然や。ウチを舐めたらあかんで!!≫
海軍の飛行場はまだ未稼働状態。飛ばせるのは精々、水上機。
≪とっておきの騎兵隊の登場や、繋ぐで!!≫
≪…こちらは、海野艦隊所属グラーフツェッペリン。キリシマ艦隊聞こえているか?≫
龍驤の声ではない、聴き慣れない落ち着いた声が聞こえた。
「海野…?」
≪Oh、テートクですネ!!≫
≪聞こえているようだな、そちらに攻撃隊を派遣している。またこちらの艦隊もそちらと合流すべく全速で移動中だ。≫
援軍が来た。
「命令を訂正します、海野航空隊の攻撃まで凌ぐ、全員気合を入れ直しなさい!!」
応じる声は、心強く。
九九式艦爆。
爆弾の搭載量は、250kg一発のみ。
私に搭載するために、細部に改修を入れたとはいえ物足りなく感じてしまう。
Ju87が使えれば倍は搭載できるのにと、もやもやしたものが心にある。
確かに機動性や航続距離は凄まじいものがある事は認めている。
「ビスマルクのように、私にもこだわりはあるのだな。」
愛国心、と呼べるのかわからないが独逸の機体を使いたかったと思ってしまうのだ。
すでに船体に日の丸が描かれている身で、馬鹿な話だ。
胸元にある鉄十字の模様に無意識に手が伸びている。
外せと、命じられた。
それをアドミラールが突っぱねた。
兵器
そう考えるならば、自国の装飾を施すべきだろう。
私達が纏う制服も、当然そうあるべきだというのに。
……まもなく、接敵か。
意識を、艦載機に集中する。
雲は少なく、風も弱い。
先導するように飛んでいる菅野隊から報告が入る。
≪グラ子ちゃん、聞こえてっか?≫
「……カンノ、私はグラーフツェッペリンだ。」
≪おし、聞こえてんな。右下に艦隊を発見、我らこれより周囲警戒に移る。≫
指示された方向を注意してみれば、僅かに艦隊が見えた。
航空機の操縦技能に関して言えば、抜群のモノを持っているのだが……奇怪な愛称で呼ばれることに中々慣れることが出来ない。
「敵艦隊補足、戦艦……ふはは、はははははははは。」
思わず毀れた笑いを、誰が止められる?
報告は聞いていた。
戦艦、または重巡洋艦の大型艦が7隻と軽巡洋艦または駆逐艦が6隻。
見間違えるものか。
戦艦レパルス、プリンス・オブ・ウェールズ。
この2隻は確定していた。
そして、戦艦と思われる艦名不明の1隻。
デンマーク沖で沈んだはずの亡霊に誰が思い至るのか。
≪どうした、グラーフ?≫
≪グラーフ姉さま?≫
「敵艦隊、戦艦3隻、重巡洋艦4隻、軽巡洋艦または駆逐艦6隻だ。」
英国の大型艦の艦影は、何度も何度も頭に叩き込んだ。
「続けるぞ、敵戦艦はレパルス、プリンスオブウェールズ、フッド……あのマイティフッドだ!!」
貴様なのだろう、フッド?
笑みが深くなる。
「これより攻撃に移る。Angriff!」
24機の急降下爆撃機が、列を成して次々と突入していく。
低く、響く風切りのサイレンを鳴らしながら。
空から、聞き慣れた音が降ってくる。
こんな極東の地で聞くハズがない音だ。
「機銃手、叩き落せ!!」
私の各所に装備された機銃が、空に向かって弾幕を張る。
幻聴か?
ガツンと、殴られたような衝撃と自身の周囲にそびえ立つ多数の水柱。
被弾
「ちぃ、東洋人が!!」
「……当ててくるとは。」
30knを超える速度で海上を行く私に当てた。
その事実が、空を舞う航空機を強く認識させた。
投弾を終えた機体が海面スレスレを駆け抜けながら、距離を離していく。
後を追うように曳光弾の光が追いかけていくが、当たっている様子はない。
「損害軽微、副砲が一部破損。」
≪は、我が国の艦がそんなもんで沈むか!!≫
無線から聞こえるのは、プリンスに乗艦している艦長の声。
味方艦隊に視線を向ければ、被弾したのであろう黒煙が多数上がっている。
駆逐艦であれば、それなりにダメージを受けたであろう。
だが、私を始めとする戦艦を沈めるには威力が足りない。
航空機の攻撃などこんなモノ、海戦を制すのは砲火力。
「速力は落ちていないな?」
「はい、問題ありません。」
「主砲は狙いそのまま、ちょこまかと逃げ回っている奴らを叩きのめせ!!」
「了解、キャプテン。」
私は、主砲に集中する。
10を超える回数を避けられているが、狙いは定まってきている。
最後尾を走る戦艦。
コンゴウ
我が国で建造された戦艦だ。
改修を重ね性能も向上しているのだろうが……
水柱ではない、火柱が上がった。
「直撃、直撃です!!」
見張り員の声に、艦橋が沸き立つ。
「狙いそのまま、水底へ送ってやれ!!」
直撃に怯んだ様に、大きく敵艦が針路を変えていく。
次弾装填。
狙いは大きな黒煙を上げている艦。
船速が大きく落ちている。
ささやかな抵抗の砲撃が返ってくるが、その狙いは甘い。
「針路を変え続けていた艦からの砲撃など、当たる訳あるまい。」
艦長が笑い飛ばす。
同意するように、小さな笑い声が各所で起こる。
だから、直後の被弾に大きく動揺することになった。
先頭を走っていた戦艦から?
そうじゃない。
あぁ、そうじゃない。
「主砲1基で観測、2基目で直撃させたのか?」
ぞっとする練度だ。
もし、これが奴らの平均的な練度だとしたら?
「は、ははは!悪足掻きだ。さっさと沈めてしまえ!!」
被弾こそしたが、装甲に阻まれて大した損害はない。
キャプテンの言うとおり、悪足掻き。
これで終わりだ。
反撃に撃ち放った主砲の着弾位置が大きくズレた事で、ようやく被弾の重大さに気が付いた。
「誤差修正、再計算……急げ!!」
≪敵航空機、また来ます!!≫
被弾の衝撃で狂った主砲の狙い。
そして再び聞こえ始めたサイレンの音。
忌々しい、忌々しい!!
独逸の亡霊が!!
「なんでこんな極東でこのサイレンを聞かなきゃならない!!」
怒号に被せるように、無線が敵からの通信を受け取った。
≪Guten tag.私は元独逸海軍所属のグラーフツェッペリンだ、覚えておきたまえ。≫
≪お姉さま!?≫
「大丈夫、大丈夫!!」
自身の状況を確認しながら、妹の声に返事をする。
直撃一発、残りは至近弾。
盛大に煙を吹いてはいるけれど、沈むような損傷じゃない。
「少し、身体が重いネ。」
浸水しているのだろう、速力が思ったように上がらず隊列から離れてしまう。
迷いは、一瞬。
「Hey、皆さん。ちょっと無茶やりますヨ!」
周囲を見渡せば、青い顔をしながらも大きく頷いてくれる。
「こ、こここ怖くなんかないし?」
「やってやりましょう!」
「艦の側面を向けて第一、第三主砲で観測射撃用意、データを徹底的に取るのデス!!」
敵前で大きく舵を切る。
落ちていた速力が更に落ちていくが、全主砲を向けるため。
黒煙を吐く身体が敵の好目標となっているのだろう、降り注ぐ敵弾が増えている。
衝撃、追加で一撃貰っただろうか。
押し殺したような、悲鳴が聞こえる。
≪全艦、作戦通りに動いて!!お姉さま……いざとなれば北へ退避を。≫
通信で入る妹の声。
苦笑が浮かべ、少し声を大きく。
「霧島は心配性ネ~お姉ちゃんを甘く見ちゃNo、なんだからね?」
見渡し、一声。
「妹に笑われたら私の立場が危ないので、Follow me、OK?」
苦笑交じりに返ってくるたどたどしいOKに笑顔を返す。
そろそろ、回頭が終わる。
「目標、敵先頭艦……第一主砲斉発!!」
35.6cm砲が二門火を噴いた。
「着弾……今!!」
「続けて第三主砲、用意!!」
水柱の位置を正確に読み取り、第三主砲の角度を微調整、斉発。
着弾の水柱を睨み付け、報告を待つ。
十秒、二十秒、三十秒。
「……各種情報、計算終了しました!!」
「OK、それじゃあ私にお任せネ。」
目を閉じる。
揺れる船体を感じ取る。
敵弾の衝撃による揺れ、波の揺れ。
それらに合わせて、微細に砲の角度をこれまでの経験で修正していく。
「第二、第四主砲……Fire!!」
轟音
「いっよっし!!」「命中!!」
直撃の黒煙が上がっている。歓声に沸く艦橋に通るように、声を張る。
「Is a good job, everyone!!副砲も射撃用意、主砲は私がコントロールするから、操艦お願いネ!!」
この距離、おそらく貫通はしていない。
それでも、着弾の衝撃は十分。
演習弾の着弾でも、射撃は狂うのだから。
大きくズレた敵弾が海面を叩き、大きな水柱が上がる。
狙い通り。
一番大きな砲を抱えているのは、先頭を突き進んできている艦。
後続の砲は、自分と同程度。
致命傷になるのは、もっと近づいてから。
「第一主砲、装填よろし……第三主砲、よろし!!」
間を置かず、撃ち放つ。
とにかく、相手を怯ませる。
当たるかもしれない、そんな恐怖を抱けば……鈍る。
強気な笑顔の下に冷静な計算を隠して、鼓舞していく。
「勲功一等は私達で決まりデース、霧島達に負けないヨ!!」
「グラーフさん、貴女はフッドを狙ってください。」
航空攻撃第二陣。
眼下の状況を読み取りながら、通信を繋げる。
≪ふむ、了解した。≫
飛燕隊12機、グラーフ隊14機。
金剛さんが被弾しながらも、フッドに対しての砲撃を継続、合わせるように霧島さんもフッドを狙っている。
金剛さんが健在の内に、最低でも一隻は戦闘継続不能に持ち込みたい。
敵の士気を折る為に、どうすれば良いのか。
「金剛さん、霧島さん砲撃を止めてください。航空攻撃が行きます。」
≪No~~~横取りはズルいヨ!!≫
≪お姉さま、落ち着いてください。≫
≪ふふ、すまないが頂くとしよう。≫
響き始めるサイレン
単縦陣を組んで次々と急降下を開始したグラーフ隊の陰に隠れるように、自身が操る航空機は一斉に急降下を仕掛ける。
狙いはプリンス・オブ・ウェールズとレパルスの2艦。
航空母艦と艦載機という新兵器。
火力は戦艦の主砲に比べれば控えめ、連続しての使用にも向かず、運用には習熟が絶対に必要、その上脆い。
技術の進歩で、性能が向上した今も、その点は変わっていない。
しかし、それらの難点を無視できるほどの利点。
長大な攻撃距離、高速性、立体的な機動能力。
不足気味な火力は運用方法で補うことが出来る。
そう、こんな風に。
サイレンに怯え、錯乱したかのように撃ち上がる対空砲火。
音源となっているのはグラーフ航空隊。
狙いがそちらに集中してしまっているのは、申し訳ないと思いもする。
だから、手早く自身の仕事を確実に片づける。
狙いは敵主砲。
本来であれば、最も装甲が厚く避けるべき個所だ。
25番で破壊は不可能だろう。
撃沈は狙えない。
でも砲身を歪める事は可能。
練度は現在の一航戦や二航戦にだって劣らない自負がある。
操る機数が少ないからこその精密な機動。
投弾を終えた機を敵から離すように操りながら確認すれば、プリンス・オブ・ウェールズに4発、レパルスに3発の直撃。
敵主砲の砲身は赤い炎に包まれ歪み、折れて砲撃は出来ないであろう事は明白。
「目標の達成を確認、そちらは?」
≪……直撃5発といった所だが、くそ、2機、いや3機落とされた。≫
「航空隊、退避完了…霧島艦隊砲撃再開お願いします。」
≪第一次、第二次攻撃合わせて損害は4機。≫
「了解した、グラーフ、飛燕は艦列を離れて収容に移れ。」
≪了解。≫
収容が終わるまで、待機するべきか。
無防備な空母を残してプリンツ達三人で合流を目指すか。
当初の目的としていた敵艦隊の戦闘能力を削ぐ事は出来ている。
このまま、ここで航空攻撃を続ければこちらは安全だが砲戦距離に居る金剛たちは厳しいだろう。
「白雪、叢雲の二名は空母の護衛に。プリンツ、前に出るぞ。」
「了解、やっちゃうよ~」
戦艦部隊相手に重巡洋艦1艦で何が出来るか。
≪ちょっと、一隻で突っ込む気?≫
「金剛達と合流する、それに、策もある。」
≪……指揮官先頭ってヤツ?ま、精々がんばりなさい。≫
指揮官たるもの、常に先頭に立って指揮を執るべし
そんな格言に踊らされているつもりはない。
グラーフ達、空母に座上している時であれば、大人しく後方に居ただろう。
しかし今、座上しているのは重巡洋艦であり、前に出なければ戦力としての価値が低くなる。
プリンツを乗艦に選んだのには理由があった。
もう少し余裕のある戦場であれば良かったのだが。
「プリンツ、頼む。」
ビスマルクに搭載された38cm砲、グラーフに搭載された蒸気カタパルト。
独逸の技術力に我が国は驚かされることが多い、プリンツオイゲンに搭載されたこの装備も一部から非常に驚愕された。
「了解、FuMO25レーダー起動します。」
電波探信儀と我が国で呼ばれている機械。
重要性に気付いている者が少なく、研究はあまり進んではいない。
実際、我が国で試作されているレベルの機械であれば信頼性の面で熟練の人間の眼のほうが優秀だというのも事実なのだ。
「連動開始……Gut、いつでも行けます!!」
「最大船速、レーダー探知と同時に主砲戦開始せよ。」
「Ja!!」
だが、十分な精度を発揮できるのならば。
それは、戦場を変える……はず。
頑張らないと。
口の中で呟く言葉。
今まで、訓練は積んできた自負だってある。
身体に入れた力に呼応するように船速が上がっていく。
「機関一杯、敵艦隊の側面を抜けます!!」
≪了解。≫
≪やりますか。≫
うるさいほどに心臓が鳴っている。
顔も青ざめているかもしれない。
悪寒。
近くに落ちた敵弾が上げた水柱。
「っ……!!」
出そうになる悲鳴を噛み殺しながら敵艦を睨み付ける。
「主砲、砲撃開始……当たって!!」
慌てて撃った砲撃は、仰角が足りず見当違いの海面を叩く。
「あ、あ……」
焦らないように、焦らないように心で念じるのに、当たり前のことが、当たり前にできない。
「方位良し、仰角修正します!!」
弾着を確認した砲術員が声を上げる。
艤装を手足のように操る、といえば簡単に聞こえるかもしれない。
教えてもらわないでも、撃つだけなら出来る。
でも、狙った場所に当てるには技術が必要で。
技術が無い訳じゃない。
「磯波ちゃん、操舵と機関を頼みます。」
「ひぇ?」
「主砲は任せろっ!!」
「あ……あの。」
「全部一人でやられちゃ、俺ら怒られるしな。」
「応、やるぞ野郎ども!!」
≪姉さん普段通りで良いんですよ?≫
≪綾波は普段通りすぎるんじゃないの……ちょっとはこーなんかあるじゃっうわ!!冷た!!≫
「……真面目にやろうよ!!回頭、方位190雷撃戦用意!!」
敵艦隊の狙いはあくまで金剛さん。
私たちに対してはほとんど注意を払っていない。
非力だから。
たかが駆逐艦の主砲だから。
それを、ひっくり返す為の秘密兵器。
「水雷長さん、お願いします!!」
「よ~し、全門撃てぇー!!」
魚雷が投射され、水中を疾走していく。
三隻合わせ、9つの白い航跡を確認し敵艦から離れるように舵を切る。
3基9門、それが自分の最大火力。
次発装填装置のない、一度きり。
「副砲は何をやってる!!」
先ほどから、突っ込んできているのは確認できていた。
ちょこまかと、煩わしいが所詮は駆逐艦。
搭載された主砲は装甲で弾ける。
ただ、その衝撃までは無視できない。
それは先ほど思い知らされた。
「敵駆逐艦、変針離脱する模「雷跡、9!!」」
舌打ち一つ。
一発、二発で沈むとは思わないのだけど……
「次弾装填まであと20秒!!」
砲員の声に艦長に視線を向ける。
攻撃か、回避か。
一瞬の間。
直後に響いた轟音と、船体を揺らす衝撃。
「敵魚雷、爆発、暴発、暴発したぞ!!」
「残存魚雷、直撃コースは無し!!」
歓声が上がる。
口元に浮かぶのは笑み。
「東洋の三等国の魚雷なんぞ、こんなもんだ……次で決めろフッド!!」
「えぇ、これで!!」
そこで、私の意識は途切れた。
【英国恐レルニ足ラズ!!水雷戦隊猛撃ス!!】
基地に掲示された新聞を眺めながら大きく息を吐く。
本土でも、大々的に報道されているらしい。
英国艦隊との戦闘は、勝利と判断して良いだろう。
敵戦艦フッド撃沈、他4隻~6隻を大破、あるいは撃沈。
「難しい顔をしてるな、海野。」
慌てて立ち上がろうとしたのを制され、座ったまま頭を下げる。
「軽微な損害とは言えんから、な。」
「……お見通しですか。」
小沢長官の腕には白い包帯が巻かれ、わずかに血が滲んでいるように見える。
フッド撃沈のタイミングで撤退に移った敵艦隊。
鳥海以下、小沢艦隊が追撃に移り戦果を重ねたが、こちらも損害を被った。
金剛が大破、鳥海、熊野が中破、敷浪が小破といった状況。
死者も複数出ている。
「戦争をしているんだ、被害も出る。」
艦橋に被害を受けた鳥海。
船体への被害は軽微の一方で艦橋にいた要員から死傷者が出た。
戦力面で考えれば熟練者の欠員は補充が難しい。
人情で考えれば、きりがない。
「解っております。」
「戦力は当初に比べ増強された、後続も間もなく到着する。」
本土から物資の補充と数隻の艦が異動。
低下した分以上の増強は成っている。
それでも、怖いと感じるのは臆病だからなのだろうか。
自身の艦隊の損害は艦載機6機のみ。人員の被害はない。
「……長官、陸軍はなんと?」
「頭を下げに来た。」
「珍しいですね、それは。」
悪戯っぽい笑みを浮かべる長官、何か手を回したのだろう。
「白虎ぐらいは欲しいんじゃないか、陸さんは。」
そういって懐から新聞を取り出しこちらに見せてくる。
【護国の四神「朱雀」「青龍」「玄武」】
大きな見出しと其処に写る「赤城」「蒼龍」「金剛」。
真珠湾奇襲の先陣を切った赤城、蒼龍。
先の海戦で味方の盾となった金剛。
戦意高揚の為のプロパガンダ。
「これはまた、解りやすい。」
「効果的だぞ?特に面子を大事にする連中には。」
親睦の為、他の艦娘と交流するようにと言われてアドミラールから離れたものの、なんとも居場所がない。
プリンツのように社交性があれば、別なのだろうが。
幾つかの料理と酒瓶がテーブルには並び、祝勝会の煌びやかさに圧されるように、やや隅のほうで佇んでいると、一人の艦娘が近付いてきた。
「Youがグラーフツェッペリンですか?」
「あぁ、そうだが……貴官は?」
「金剛デース!!」
随分とテンションが高いが、酔っぱらっているのだろうか。
酔漢の相手なぞしたことはないが……
「援軍、本当に助かりましたネ、You達が来てくれなかったら中々大変でした。」
「いや、私は自分の職責を果たしただけに過ぎん。礼ならばアドミラールに。」
「………」
ふむ、礼が言いたかったのか。
礼節の国と言われているだけはある。
しかし……
「コンゴウ、貴官は洋行帰りなのか?」
「What?」
「いや、言葉が独特なのでな。」
「日本語で話すとそうなるのよ。」
独特な口調が消え、流暢な言葉が流れてくる。
「母国語はこっちなの。問題はないんだけど、速く馴染みたくて日本語で話せるように勉強したのよ。」
「そうか。」
「貴方も勉強するなら手伝うわよ?」
「……考えておこう。」
「他の子にも紹介するわ。」
「世話をかける。」
「No problem、どんどん頼ってくださいネ、グラーフ。」
元の口調に戻った金剛に笑みを向けられ、ぎこちなく笑みを返す。
アルカイックスマイルというのだそうだ。
戦火は遠く異国の地、多くの国民は平和を謳歌している。
そんな中にあって、多くの建造機械が慌ただしく動きまわるココ横須賀船渠は戦場と言っても過言ではないだろう。
改装中の自分に姉である扶桑が会いに来るのは日常的であったのだが、今回は珍しい人物を伴っていた。
平賀譲少将、軍艦建造の鬼才と名高い人物で、多くの軍艦の建造に関わってきた人物。
自身の改装にも関わっているとは知らなかった。
とはいえ、細かい話は後だと言われ、自身の改装責任者である三井少将の執務室に連れてこられた。
「まずはこれを見てほしい。」
三井少将は持っていた封筒から1枚の図面を取り出し机の上に広げた。
「扶桑型戦艦設計図」
そう書かれた図面には細かな注釈がされており、熟慮の跡が見える。
……自身の設計図に目を通していく。
赤字で書かれた「特に防御面に不安を感ず」の一文が胸に痛みを感じさせる。
欠陥戦艦、無用の長物、それからなんだったかしら、色々と言われ過ぎて忘れたわ。
多くの期待と、願いを背に生み出されたハズの私達姉妹。
「ふふ、わざわざ嫌がらせの為に呼び出される、不幸だわ。」
解っている、解っている。世界に名高いビックセブンが建造され私たちの使い道なんて無くなった。
「違うよ、まず何処が君たちの弱点なのかハッキリさせないと改装も出来ないから明確にするために見てもらったんだよ。それからこっちが改装案。」
もう一枚、図面を出して机に広げる。
「扶桑型戦艦改装案」と手書きで書かれた設計図はまだ清書されておらず、雑多な線が残っているような代物だった。
「見てもらいたいものはコレか。」
「そそ、僕は空母ばっかりだから、意見が欲しかったんだよ。」
平賀少将が難しい顔をしながら設計図に目を走らせる。
私も眺めてみるが、専門的な部分は解らない。
「これは、本当に出来るのでしょうか?」
隣にいた姉が小さく声を上げながら、設計図の右に書かれた想定速力を指さす。
【30kn~34kn】
「机上の計算だと出せるようになるはずなんだけど、平賀さんどうかな?」
「……実艦との差があるから、絶対とは言えないが、むぅ。」
「方向性としては、どうです?」
「現場で欲してるのは金剛型のような高速艦だ、そういう意味では、いやしかし。」
「艦隊決戦には長門達が居るって言えばいけると思うんですけどね。」
三井少将の言葉に平賀少将が腕を組んで黙考に入った。
どうだろうか、と視線で問うてくる三井少将に素直に頷けない、一点。
中央部から後部にかけての、大きな改装点。
「……私たちが戦えるように、なるのでしょうか?」
「なる、絶対に。」
「姉さま?」
「山城、私は受けるべきだと思うわ。その、貴女が良ければだけれど。」
姉の言葉。
それが決定の理由。
「解りました、姉さまがそういうのであれば!!」
「山城?ちゃんと自分で考えてね?」
「問題ありません、姉さまが言うのなら迷う訳、理由がありません、三井少将すぐに始めなさい、さぁ早く!!」
「もうちょっと詰めてからになるから、もう少し待ってくれる?」
「……ち、使えないわね。」
「平賀さん、いけそう?」
「細かい修正はこっちで何とかする。山本長官から捻じ込んで貰って……恨まれるぞ、たぶん。」
「ははは、慣れっこだよ冷や飯食いも白眼視されるのも。よし、じゃ次だ、呼んでくるから待っててくれる?」
通された待合室、ソファーに座ると大きなため息が零れた。
佐世保から横須賀へ。
呼び出された理由は、改修の拒否によるものだろう。
我儘だと自覚はしている。
独逸に居たころであれば、こんな風に拒否もしなかったはず。
……なんだっていうのよ。
自分の変化に苛立ちがある。それもこれも、この国のせいだ。
ゴーストではなく艦娘として。
兵器ではなく、人として。
そんな風に扱われるから。
思考に没入していたのだろう、扉の開く音に気付くのが遅れた。
「遅くなってごめんよ、こっち来てくれる?」
「わざわざ呼び出した要件は何、ミツイ。」
「……え、怒ってる?」
「暇じゃないの、提督は今頃、馬公なのよ。」
そう、自身が所属する艦隊は自分とレーベ、マックスの三人を置いて出港しているのだ。
こんなところで油を売っている暇なんかない。
戦艦たる自分が、後ろに引き籠っているなんて。
「撃てない砲を担いだまま、戦場に出てどうするのさ。」
「……それを何とかするのが貴方達、技術者の仕事でしょう?」
「そうなんだけど、少しは落ち着いてくれないかい。そう睨まれるとね。」
苦笑を浮かべる三井少将、海野大佐より年上のはずなのだが、威厳も何もありはしない。
私の視線が鋭くなったのに気付いたのか、気持ち顔を引き締めた。
他愛無い雑談に投げやりな返答しながら通された一室。
「お待たせ、平賀さん、扶桑、山城。」
艦娘が二人と、ややメガネをかけた軍人、彼が平賀か。
「戦艦ビスマルクよ。」
「あぁ、貴女が。扶桑と申します。妹の山城共々よろしくお願いしますね。」
「……よろしく。」
丁寧なオジギ?とともに挨拶をされ不機嫌になっていた自分を少しだけ恥じる。
隣にいるもう一人、山城はややそっけない印象。
「扶桑型って、確か同じ第一艦隊ね。」
「そうですね、直接会うのは初めてですけれど。」
簡単に自己紹介を済ませていると、三井が机の上に設計図を広げた。
また20cm砲を積めと言われるのだろうか。
「さて、ビスマルク。呼ばれた理由は解ってるだろうけど……」
「えぇ、主砲を降ろして重巡洋艦になれって言うんでしょう?」
「いや、その案は廃棄。」
「なに、今度は駆逐艦の主砲でも積むの?それとも空母にでもなれって?」
怒気を抑えようと、荒唐無稽なことを口走る。
それでも、抑えきれない苛立ちが端々に滲んでいる。
「う~ん、空母改装はありかもしれないけど、駆逐艦の主砲を積むのは流石に無いかなぁ。」
「改装案の説明。」
「あ、あぁ。え~っと35.6cm連装砲を搭載させるだけだから大きな変更はないんだけど。」
「……在庫がないって聞いたけど。」
「うん、だからこの二人、扶桑と山城から4基貰う。」
「は?」
「二人には了解をもらったよ。」
驚いて視線を二人に向ければ、肯定するように扶桑が頷きを返す。
「扶桑型の防御力不足は主砲が多過ぎだから、だったら取っちゃえば良い。」
何でもないことのように言い切る。
主砲を減らす。
「主砲塔の撤去で分散してた弾火薬庫も減らせる。さらに空いた空間に主機を入れたりと拡張性が一気に広がるからね、重い主砲塔が減れば速度も出せるようになるし。」
「実際には、船体のバランスの問題があるから、難しいんだが……」
「そのあたりは、僕たち技術士官の腕の見せ所だね。」
曲げても力瘤すらできないような細腕を叩きながら、自信満々に言い切る。
「……主砲の目途はついた。あとは君の了解だけなんだけどどうかな?」
「私の、主砲は?」
「一旦、陸揚げして保管。主砲弾の作成許可が取れなくてね。」
心底すまなさそうに頭を下げるミツイ。
その真剣な表情にほんの少しだけ、そう、本当にごくごくごく僅かにだけ。
心を動かされた。
「男がぺこぺこ頭下げるんじゃないわよ。貴方、それでも将校なんでしょう、少しは威厳とか出しなさいよ。改装、なるべく早くやって……違うわね、その………お願いします。」
口ごもりながらも、深々と頭を下げた。
……私は、戦う為に日本に来た。その為に必要だから、仕方なく主砲も換装する。
そう、それだけよ。
誰に対する弁解なのか解らないけれど。
≪もう少しで、到着しますね。≫
「えぇ、長かったけどようやく一息つけるかしら。」
≪気を抜いてるんじゃないわよ、陽炎。≫
「解ってるわよ~」
≪……お腹、空いた。≫
≪霰も、ちゃんとしなさいったら!!≫
無線からややキツめの突っ込みに苦笑交じりの返事を返す。
色々と予定は変わったけど、なんとか無事にパラオ泊地に辿り着いた。
周囲に浮かぶ艦隊群。
当初は、輸送船と海野艦隊の予定だったのが戦艦2、軽空母1隻、重巡洋艦2隻に駆逐艦6隻、輸送艦15隻。
途中で襲撃に会うこともなく、全艦無事。
≪こちらパラオ泊地、到着を歓迎する。≫
≪予定より遅くなってしまい申し訳ありません、小沢長官。≫
≪はっはっは、気にするな。無事に到着してくれただけで十分だ。≫
先の戦闘で損傷艦が出た分の補充も兼ねた船団、小沢長官も心待ちにしていたのかな。
割り振られた錨地に停泊させ、内火艇で移動する。
僚艦と合流し、挨拶の為に長官室へ通される。
「遠路はるばる、良く来てくれた。」
厳つい顔を緩めた小沢長官が口火をきり、自己紹介が始まる。
………件の海野大佐も列席しており簡単な挨拶をしていた。
妹の眼光が随分と鋭いけど、気付いているのか、いないのか。
私の第一印象としては、普通。
怖いって感じもしない、頼りないって気もしない。
う~ん、話してみないと解らなさそうね。
「改めて、海野だ。貴官らの指揮を預かる。」
それぞれの所属に分かれて挨拶。
「航空母艦、グラーフツェッペリンだ、よろしく頼む。」
紡がれる異国の言葉。
色素の薄い肌に、銀髪。
冷静沈着って言葉がぴったりな雰囲気。
「重巡洋艦、プリンツオイゲンです、ヨロシクオネーガイデス!!」
……日本語、頑張って覚えたんだろうな。
なんとなく、親近感が湧く。
「戦艦ビスマルク、顔を合わせるのは初めてね。」
無線では何度かやり取りをしていたけれど、姿を見るのは初めて。
所謂、カッコいいお姉さまって感じだろうか。
海野艦隊唯一の戦艦でもある訳で、頼りになりそう。
「Z1レーベレヒトマース、よろしくね。」
「Z3マックスシュルツよ。」
駆逐艦の二人。
うん、仲良くできるかな。
マックスがちょっととっつき難そうだけど、あれね初風みたいな感じっぽいわ。
伊達にお姉ちゃんやってない、頑張れ私。
泊地に到着して、数日。
私はある艦の砲撃訓練の補佐の為、海に出ていた。
≪Feuer!≫
盛大に上がる水柱。
≪だいたい癖は掴めてきたわ。次!!≫
砲の仰角を変えたのだろう、先ほどの着弾点よりやや遠くに着弾の水柱が上がる。
「ビスマルクさん、どうですか?」
≪正直に言うと、バランスが取り辛い。≫
「……そ、そう。」
現在、彼女の主砲は妹から移設された2基4門のみ。
残りの砲塔があった場所には鉄板が敷かれ、間に合わせで兵装が積まれている不格好な姿。
私の主砲が渡せれば良かったのだけれど、金剛さんの代理として移動が決まった為、改装をしている余裕がなかった。
山城の改装が終わり次第、私はココで主砲を彼女に預けて内地へ戻ることになっている。
≪扶桑、気にしなくていいからな?≫
「解っていま……緊急電!!」
≪っつ、どこからだ!?≫
「……航空機?もうすぐ視認距離です。」
泊地へ通信を飛ばしながら、空を睨む。
二式大艇……敵機に追われている。
≪こちら陸……至急救援を……くっそ、発動機が!!≫
なんとか拾った通信は雑音交じり。大きな爆発音の後、視線の先で黒煙が上がる。
≪泊地から戦闘機が上がってくる、もう少し粘れ!!≫
≪…だ!!……!!≫
追い立てられるように煙の量が増えていく。
このまま着水したら……
「第一主砲、発射用意。」
「はい。」
船橋要員の返答に頷きを返し、おおよそに方位を、慎重に仰角を定める。
「撃て!!」
聞きなれた轟音。
弾道を正確に覚える。
記憶よりやや下を通っている。
「0.2度上……かしら。第二主砲用意。」
「第二主砲、方位良し、仰角良し。」
≪扶桑!?≫≪ちょっと、いきなりなに!?≫
「航空機、急降下をしてください。」
≪は!?≫
こちらの通信が聞こえたのか解らないが、急降下に移った。
追いかける敵機。
「……そこね。」
再び響く轟音。
思い描いた通りの弾道を描いた主砲弾は、友軍機を追いかけて急降下に移ろうとしていた敵機の至近を通り、吹き散らした。
残っていた数機はしばらく上空を旋回していたが、引き上げていった。
≪……はぁ?≫
「ふぅ……これで安全に着水できますね。」
≪………ば、馬鹿か、海軍は!!≫
「??」
「内火艇、準備完了しました。」
「海野さん、搭乗員はそちらに送ればよろしいでしょうか?」
≪あ、あぁ。≫
≪……くそ、これだから海軍の連中は!!……!!≫
無線から飛び込んでくる罵詈雑言から意識を逸らしながら、空を見上げる。
あぁ、空はあんなに青いのに。
ふっと、残心を残していた身体が力を抜く。
放った矢は的に中っていた。
真冬の本土から、真夏のパラオ。
身体が馴染んでいないのだろうか、酷く熱く感じる。
心身の修養の為と軍では各種武道を奨励していた。
集中が途切れたのだろう、肌に張り付く汗が気持ち悪さを訴え始めた。
そろそろ、休憩を……
振り替えると、いつの間にか人だかりが出来ていた。
「あの何か?」
「いえ!!」
「何でもありません!!」
蜘蛛の子を散らすように、去っていく。
???
手拭いで汗を拭っていると、館内放送が流れてきた。
≪警戒任務中以外の艦娘、及び各艦の艦長は至急第3会議室へ集合せよ。繰り返す……」
緊急の呼び出し、近くにいた軍人に後片付けを頼み急ぎ会議室へ。
「軽空母祥鳳、出頭いたしました。」
「入れ。」
扉を開け、中に入る。
「……祥鳳、服。」
「え?」
「はよ直し。」
「あ……」
肌脱ぎになっていたのを、大慌てで整える。
とっさに長官達が目を逸らしてくれたのが余計に羞恥を煽った。
「も、申し訳ありません。」
「いや、眼福、眼福。」
「……おい、無駄話をしてる場合じゃないんだぞ!!」
「揃うまでは、仕方ないだろ。」
「ぐ、ぬ。」
陸軍の将官?
数分後。
全員が揃ったことを確認した小沢長官が口を開いた。
「海野、状況説明を。」
「泊地近海で敵機に友軍機が襲撃されました、敵艦隊に空母が居る、あるいは増援としてきた可能性が極めて高いです。」
「空母と判断できる根拠は?」
「敵機体は航続距離が短く、ここまで飛べません。新しく航空基地を造ったという可能性も否定はできませんが、可能性としてはかなり低いかと。」
「新型機、という可能性は?」
「撃墜した敵機を回収しておりますが、F2Aバッファローで間違いありません。」
「……対空警戒に注意する必要があるか。」
「はい、加えて周辺警戒に出る際には空母を伴うべきです。」
「航空攻撃の威力は見てるからな、留意しよう。」
私たちに周知させるためにといった風情で小沢長官と海野大佐が言葉を重ねていく。
「現状の認識はできたな。何か質問はあるか?」
「そちらの、陸軍の方がいる理由はなんでしょうか?」
やや躊躇いがちな問い。
視線が陸軍将校達に集まる。
よく見れば負傷をしている者もいるようだ。
「山下奉文だ、見てのとおり帝国陸軍に所属している。海軍との共同作戦を図るためにここに出向いた訳だが……」
「南雲機動部隊が受け持つ作戦だったんだが、我々がやる事になった。一応、南雲さんの所から増員も予定されてるが、神速をもって遂行せよとのお達しだ。」
敵艦隊撃滅並びに陸軍輸送艦隊護衛及び支援。
これを同時にこなせと言うのだから、大本営も無茶が過ぎる。
「まず、作戦目標の確認だが……」
「陸軍を指定地点へ上陸させること、これが今作戦の肝であり、勝利条件だ。」
山下中将が兵隊を模した模型を広げられた作戦地図に置く。
その地点を見て小沢長官がこちらに目配せを送る。
無謀。
その一言に尽きた。
英国は間違いなくこちらの攻撃に備えている。
その備えている基地の目と鼻の先に上陸せよと、言っている。
「……山下さん、本気ですか?」
「必勝の信念があれば可能だと言っていたな。」
自嘲気味に笑う声に、作戦の無謀さを自覚しているようで胸を撫で下ろす。
同席している数名の陸軍士官は不満げな顔をしているが、中将の手前、何も言えない様子。
「こんな所に上陸するとなるとこの基地を徹底して叩かねば無理だ。」
「……英国艦隊が怖いですな。」
先の海戦でかなりの打撃を与えたが、英国艦隊は未だ残っており輸送船団に襲い掛かられでもすれば大損害を被る。
護衛をつける事はできるが、守りながらでは攻勢に出るのは難しい。
「海野どう思う?」
「南雲機動部隊との連携が取れるのであれば……」
現状の戦力、南雲機動部隊の位置を勘案したうえでの一手。
自分が考えた作戦を説明していく。
陸軍からの好奇の視線が刺さるが、赤城や加賀が来る、そう思えば口は滑らかに自信をもって作戦を説明できた。
「………勝ったな。」
自身の艦橋、長官用の少し豪華な椅子に深々と腰を掛け重々しく呟く。
「何遊んでるんですか、真面目に仕事してください。」
「ちょ、キミ、空気読みや!!」
せっかくの雰囲気がぶち壊しや、と小さく毒づく自分に呆れたような顔を向けてくるのは、自分付きの補佐官。
単独で艦の全てを掌握できる存在として、艦娘の立場は「艦長」として扱われる。
その為、艦隊司令官が乗り込まない限り、艦の最高権力者になる。
とはいえ、艦娘の姿は千差万別。
幼い艦娘や経験の浅い艦娘に対しては人間が「艦長」として乗り込み「艦長補佐」として経験を積んでいくことになる。
「艦隊の防空ってかなり重要な任務だと思うんですが!?」
「せやから、気分を盛り上げていくんよ。」
「……はぁ。」
艦隊の上空を舞う零戦12機はすべて自分が操っている。
いつ来るか解らない敵機に気を張り続けるのは難しい、自分なりに考えて気を休めている訳で。
「まぁ、安心し。松ちゃんも控えとる。」
けらけらと気楽な笑顔を向ければ苦笑が返ってくる。
戦果を挙げてきた自負がある。
米国の機体相手も経験している、そうそう遅れは取らん。
と、視界の端を何かが掠めた。
「敵機、補足…偵察機!!」
即座に操っている機体を4機向かわせる。
こちらの声に弾かれたように補佐官が艦隊無線のスイッチを入れる。
「こちら龍驤、敵機に補足された模様。敵偵察機は……」
目でこちらを伺う補佐官に頷きを返し、下を指す。
「敵偵察機は撃墜完了しております。」
≪…了解した、全艦無線封鎖解除、見張りを厳に!!≫
無線から聞こえる小沢長官の声に、熱が入る。
上空の機体の残燃料を手早く確認。
「第二隊発艦用意、入れ替わりで第一を降ろす、補給頼むで。」
艦内放送を使って指示を出しつつ、直掩機の飛行進路を今までより広くとる。
眼下では再編された小沢艦隊が白い航跡を曳きながら威容を誇っている。
【一秒でも早く敵を見つけろ】
海でも空でも変わらない。
敵機からの接触を受けた数十分後、待ちに待った報告が来る。
≪敵艦隊補足したわ…Scheiße!!敵機発艦中、座標は……≫
≪進路、220。全艦陣形を維持しつつ増速せよ!!≫
機関を蹴っ飛ばすように最大へ。
ぐっと身体に感じる感覚に笑みを強くする。
「あちゃ~……しゃあない。松ちゃん、先陣任す、気張ってな!!」
≪この撃墜王に任せとけ!!お嬢は牛乳でも飲んで胸で「おぅ、帰って来たら格納庫で待っとけや!!」≫
言い切らせる前に割り込み、黙らせる。
……成長の余地はあるんや。
机上の牛乳が注がれたコップに視線を向け、やけくそ気味に飲み干す。
中国戦線での撃墜対被撃墜比率を鑑みれば、そう被害はないはず。
補給に回している第一を除いた第三隊の発艦までに何処まで近付かれるか。
アホばっかやけど赤松隊なら十分な迎撃が出来る、抜けてきた敵機を第三隊で迎撃すれば自分に任された仕事はひとまず完遂できる。
視線は遠く、空を駆けていく。
操る機体は第三隊、第四隊合わせて24機。
松ちゃんからの通信ならそろそろ接敵……ちりちりと胸を焦がす感情を楽しむように制御する。
艦載機の制御に全力を向けた自分。周囲から見れば紅い狩衣のような衣を纏い周りに形代を伴い虚空を見上げているらしい。
気合を入れると服装が変わるって、どうなっとるんやろ。
ふと浮かぶ余分な思考、毎度毎度、戦闘前にずいぶんと余裕あるなぁと我が事ながら笑う。
何処かの軽巡は現場入りまーすだとか言って、けったいなポーズ決め取ったな。
余計な思考を続けながらも、周囲を見渡していく。
「松ちゃん、どない?」
≪俺様達は無敵だぜって言いたいんだけどよ、弾が足んねー抜けてくのが結構出てる。≫
「左様か、ほならウチがシバキ回す分は残っとるんやね。」
見えた、ひの、ふの……28か。
機種特定は、ちょっち遠いな。
中々腕が良い、崩れた編隊を組み直し始めている。
「ま、させへんけど……な!!」
同時に多数の機体を操れる、それはつまり、複数の視点を持っているのと同じ。
前の見えない状況の機体が居ても、他の視点でフォローを入れれば、こんな事だって出来る。
雲の中から敵機へ急降下。
応射の機銃弾は少ない、食い荒らすように3機撃墜。
そのまま格闘戦を仕掛けていく。
「艦娘の優位、存分に使わせて貰うで。」
奇襲に慌てた敵編隊に正面から突っ込ます。
1機の敵機に2機で、3機で。
囲んで叩く。
武士道精神がないのか、と叱責もされた。
ウチを嫌って降りたパイロットもおった。
せやけどな?
「勝てば官軍、これは殺し合いなんよ?」
果敢に反撃を試みる敵機。
敵射線に入る直前、急激に機首を上に向けて空気抵抗を機体全体で受け止め急減速。
追加で虚空に向かって機銃を一射、二射。
不安定な姿勢での銃撃は機体を縦方向の錐揉みへと連れていく。
「そこ!!」
一瞬の交差。
操る機体の下を抜けていこうとした敵機に上から被せるように機銃弾を叩きこむ。
ぐるぐる回る視線を切り替えつつ、機の安定を取り戻す。
あ、なんか部品飛んでった。
知らん、知らん!!機体はまだ動くし飛んどる。
魚雷やら持っとる敵を優先……比率が変や。
なんや敵戦闘機多い。
「松ちゃん、戦闘機叩いとけや!!」
≪あ゛ぁ!?五十も六十も飛んでんだ。可愛い子ちゃんを選り好みなんかできっか!!来るもの拒まず、去る者追わずが俺の隊のモットーよ!!≫
「誰や、こんなアホ隊長にしたん!!」
「全機、撃墜……どやぁ!!」
≪はいはい、すごいすごい。≫
「ちょっとは敬わんか!!」
≪ち、ソンケイシテマース≫
「……松ちゃんの機体だけ今度抹茶色に塗ったる。」
≪龍驤、被害は?≫
「3機撃墜に……」
小沢長官からの通信に改めて全機体の様子をチェックする。
「廃棄になりそうなん合わせると9機喪失ぐらいやね。」
≪想定より消耗が多いな。≫
「…せやね。敵さんの腕が中国戦線より高い。」
≪赤松、どうだ?≫
≪へ、俺、あ、いや、自分も嬢ちゃん艦長と同じ感想であります!!≫
「なんや嬢ちゃん艦長って、初めて聞いたわ。」
お仕事完了。
損傷機も出とるし着艦、慎重にせんとなぁ。
航空攻撃。
良い思い出はない。
知らず握りしめていた手を開く。
「……ふん。」
視線の先、大きく旋回しながら空を駆け抜けていく白い機体。
似ても似つかない、機体。
≪敵攻撃隊の撃滅に成功、初手は取られたがここからはこちらの反撃だ。総員気合を入れろ!!≫
無線から小沢長官の声。
龍驤は見事に仕事をこなした様だ。
作戦を反芻する。
霧島、ビスマルク、最上、三隈、鈴谷、プリンツを主力とし敵との艦隊戦に備え、防空は龍驤の艦載機を全て戦闘機とする事。
陸軍の輸送部隊は扶桑、グラーフを主力とする護衛部隊を付け、敵艦隊との遭遇を避けるように上陸地点へ移動。
主に敵航空機による攻撃に備え、積極的な攻勢には出ない。
敵艦載機は撃滅済み、英国艦隊の増援がどれほどか解らないが小沢艦隊の戦力を考えれば極端な劣勢はありえない。
………
「龍驤、敵攻撃隊の機種は?」
違和感?
いや、違う。
≪ん?えーっとあの機体は……≫
「複葉機?単葉機?」
≪単葉機やったけど……≫
「翼のマークは?」
≪……星やったな。≫
杞憂ならそれで良い。
自身のレーダー、特に何も……写ってはいない。
証拠は何もない、勘でしかない。
「Herr小沢、哨戒を出すべきだわ。」
≪……偵察機が残っているのは、最上と鈴谷か。≫
≪ボクの出番かい?≫
≪頼む、艦隊の外縁を飛ぶような形でやって≪敵機!!4時方向!!≫≫
≪だ~!!第一隊、迎撃いくで!!≫
どうして、レーダーに写らなかった?
「プリンツ、そっちのレーダーは!?」
≪……ものすごく小さい反応が出てる、かも?≫
「あぁぁぁぁもう!!対空戦闘用意!!測距、急げ!!」
主砲、高角砲……よし、いける。
≪なんなんやこの機体!!機銃も当たっとるハズやのに!!とっとと落ちんかい!!≫
≪龍驤、状況は!?≫
≪ちょっち、キツイ!!落としきれん!!≫
舵を切る。
「極東までわざわざ追いかけてくるなんて。やるわよ、気合入れなさい!!」
「ビスマルクさん!?」
「突出すればこっちを狙うはずよ。」
≪ビスマルク、何をしている!!≫
「囮になるわ、文句ある!?」
≪誰がそんな命令を出した!!≫
「五月蠅いわね、龍驤、さっさと艦載機下げて撃てないわ!!」
≪貴様!!≪……っち、しゃーない、任すで!!≫≫
艦載機が下がった。
慣らしを終えた程度の主砲だ、扶桑ほどの精度は望めない。
それでも。
「乗り越えないと、気に食わないのよ!!」
主砲斉射。
「……ち、忌々しいわね相変わらず遅い!」
主砲弾は敵機の遥か前方で炸裂、効果的な迎撃になっていない。
以前もそうだった。
遅過ぎて目測が狂う。
「対空に注力するわ、主砲任せる!!」
「……了解!!」
時限信管調整。
仰角調整。
突入してくる機体は10機?
高度を落としている、すべて雷撃機ね。
≪ビスマルク射線に入らないで!!≫
「こっちで対応するわ、他に来てないか注意してなさい!!」
≪姉さま、ダメです!!≫
≪独断が過ぎるぞ!!≫
あぁ、もう!!五月蠅いのよ!!
無線のスイッチを落とす。
曳光弾の光で、じわりと敵機を誘導していく。
「そう、そうよ。そっちに行きなさい。」
主砲の代わりと言うには頼りない、試作品。
炸裂距離を列ごとに調整。
「噴進砲…撃て!!」
火箭が連続する。
燃焼する燃料が生み出す白煙が煩わしいが、直後に爆音と閃光が連続する。
直径10cmの涙滴型の弾体が前後合わせて100発。
炸裂後に飛び散る破片は数え切れないほど。
「Gut!!」
引き千切られボロボロになった敵機が海に落ちていく。
試作品と言っていたけど、中々使えるわね。
「ダメじゃない、惚けていたら。」
予想外の光景に気が逸れたのだろう、単調な機動をしていた残りを機銃で叩き落す。
抑えきれない歓喜が口元を歪めていく。
「あぁ……そう、そうよ、私は戦艦なの、10や20の航空機如きに負けはしないわ!!」
「む~……」
不満げに頬を脹らましながら、椅子の上で胡坐を搔いて外を睨む。
そんな私の様子を苦笑気味に見やっているのは海野提督。
「そう不満そうな顔をしないでほしいんだがな。」
「解ってるよ~だ。小沢っちの艦隊の陰でこそこそやるんでしょ。」
「……補佐だ、補佐。空母は損傷すれば即、攻撃力を喪失するんだよ。」
「むぅ。」
飛行甲板に被弾をすれば、発着艦が困難になり戦闘力を失う。
だから、なるべく敵艦隊に察知されないように目立つ戦力を置いておく。
「一応、こっちが敵の目標になる可能性もあった。その場合はこっちが小沢艦隊と合流するまで粘る事になっていた。」
海野艦隊の現在地は、小沢艦隊の後方、30kmほど。
小沢艦隊の後を追うような航路を取っている。
「前に出て撃ち合いたいって気持ちも汲んでやりたいんだが、な。」
海野艦隊の主力。
≪敵艦隊確認、これより攻撃に移ります。≫
「手筈通りに。」
≪制空確保を優先に、ですね。≫
「あぁ、まずは下準備だ。」
ビスマルクが発見した敵艦隊へ突入した飛燕航空隊。
この部隊の目標は、敵直掩機の撃滅。
航空機にとって一番の敵。
無数の対空砲火よりも、航空機。
だからこそ、護衛機を付ける。
しかし、海野艦隊の艦載機は軽空母二隻分であり、護衛機を十分に付けると火力が足りない。
それを埋めるための手段。
「祥鳳、陸攻の誘導はどうか。」
≪問題ありません、九七式重爆撃機56機、九六式陸攻50機、一式陸攻20機、順調に飛行中です。≫
そう、主力は軽巡川内どころか、私達艦隊ですらない。
陸・海の基地航空隊が牙。
私達は、洋上航法に慣れていない基地航空隊の先導役と露払い。
不満顔ぐらいは見逃してほしい。
「海野艦隊所属各員、特号戦闘糧食を口に放り込んで戦闘に備えよ。」
……特号食、海野艦隊所属になると全員に配布される丸薬。
別に怪しいお薬とかではない。
「格好つけてるけど、ただの飴玉だよね、これ。」
私の呟きに、何人かの咳払いや押し殺した笑い声が重なる。
「カステラは保存の関係で無理だったが……甘いものは緊張を解すのに有効だからな。」
わざわざ大本営に働きかけて認めさせる必要があったのかと、疑問もあるけど。
「ま、結構美味しいから文句は無いけどね。」
大型機、総数126機。
そこに自身が操る零戦が20機。
「……圧巻ですね。」
眼下を埋め尽くすような物量。
この航空機を敵艦隊へ導き、基地へと帰還させること。
とんでもない重責。
≪おう、陸さん、なるべく後ろにいた方が良いんじゃねぇの!?≫
≪あぁ!?新型だからって舐めんな!!97式重爆は最高なんだよ!!≫
≪はっは~96式こそ至高なんだよ!!≫
……パイロットは荒くれ者が多いとは聞いているけど。
≪野中一家の出入りの邪魔だけはすんじゃねぇぞ!!≫
≪はぁ!?偉そうに言ってんじゃねぇよ!!12.7ミリ叩き込むぞ!!≫
≪あ゛ぁ゛!?やってみろや!!爆弾で撃墜された初の機体って称号をくれてやんぞ!!≫
寄ると触ると喧嘩腰。
「あの、喧嘩はやめて……くれませんか?」
≪…ち、嬢ちゃんに言われちゃしかたねぇ。≫
≪は、偉そうに言っててその様かよ!!≫
≪おぅ、ごらぁ!!≫≪魚雷ぶつけんぞ!!≫
陸攻で幅寄せとかしないで!!翼が、翼が!!
≪左前方、航跡……敵艦隊!!≫
「周辺警戒を厳に、これより制空戦闘に入りま」≪一番槍貰ったぜ!!≫≪いぃぃやっっっほぉぉぉぉ!!≫≪突っ込めぇぇぇ!!≫
人の話を聞いて……
≪野中一家、左のデカブツを狙う!!右は陸さんにでもくれてやれ!!≫
≪水平爆撃じゃどうせ当たらん、適当にばら撒かせた後、陸攻で残りを食い荒らせ!!≫
≪投弾用意……爆撃進路ヨーソロー!!≫
散々、喧嘩してたくせに連携が取れているのが不思議過ぎる。
なんなんだろう、この人達。
≪祥鳳さん、制空頼みます。飛燕航空隊、残弾乏しく継戦が困難。≫
「はい、飛燕さんは撤退を!!」
≪一部、このまま攪乱に回ります。≫
そう答えると飛燕さんの零戦は対空砲火を分散させるために、敵艦隊へ突っ込んでいく。
空を覆うほどの大量の攻撃機に、敵艦隊は隊伍を崩し混乱している。
撃ち上がる対空砲火で空に黒い煙が咲いていく。
煙を吹きながらも爆弾を投下しながら駆け抜けていく大型機。
≪おぅおぅ、ビビってんじゃねぇぞ!!≫
≪ぶちかませーーーー!!≫
4つ、5つ、敵艦の周囲に水柱が立ち上る。
大型爆弾の直撃で竜骨が折れたのか、真っ二つになって沈んでいく。
「……すごい。」
残っている敵直掩機は味方の対空砲火に当たる事を恐れて近づけず。
一際大きな爆発。
≪うわああああああああ!!≫
衝撃波に機体が揺れる。
弾薬庫に直撃したのだろう、船体の欠片がバラバラと空から降ってくるが見える。
爆心地の傍にいた数機が、海に突っ込み炎を上げている。
「発、祥鳳。宛、小沢艦隊。敵戦艦プリンスオブウェールズ、並びにレパルス、轟沈を確認…他多数、大破炎上中。」
≪よくやった!!残りはこちらが受け持つ、攻撃隊は撤退、迷子になるなよ?≫
「先導役、心得ています。」
≪敵空母は?≫
「轟沈を確認しています。」
≪小沢長官、俺らも、陸さんも何機か落されてる。救助頼んますぜ!!≫
≪なるべく、急がせる。≫
≪うっし、聞いたなお前ら……要らねえモンぶん投げたら帰るぞ!!≫
敵艦隊から離れた所で折り返して戻ってきた攻撃機達が窓や扉から色々、海に投げ捨てながら飛んでいく。
「わざわざ敵艦隊の傍を飛ばないで!!落とされますよ!?」
≪浮き輪とか掴まるもんがいるだろうが。≫
「……そうですけど。」
≪んじゃ先導、頼むぜ嬢ちゃん!!≫
「あ~……もう、ちゃんとついてきてくださいね!!」
無線で交信を続けながら、攻撃隊を集め離脱を続けていく。
各小隊長からの返答、撃墜された機体や損傷状態の確認。
それらをまとめながら、新たな先導役の戦闘機の発艦し合流へ。
「損傷の激しい機体は進路96へ。味方艦隊の傍で不時着水してください。」
≪搭乗員全員に通達。無理に機体を持ち帰ろうとするな、無理だと判断したら不時着しろ。必ず、拾い上げてやる!!せっかくの大戦果を墓の下で聞きたくはないだろう?≫
≪俺、泳げねえんだけど!!≫
≪どこのアホだ、浮き輪でも抱えてろ!!≫
≪…了解した、全艦無線封鎖解除、見張りを厳に!!≫
受信のみに絞っていた無線機からの通信を確認。
皆は、戦場ですね。
ふぅ、と小さく息を吐く。
こちらも、集中しなければ。
艦隊内用の低出力無線を起動。
「そろそろ敵基地航空隊に発見される可能性がありますね。」
≪……了解した。直掩機を追加で上げるか?≫
「航空機の運用に関してはまだ、勉強中なのだけれど……21型なら全力で2時間前後でしたよね?」
≪あぁ、巡行に落とせばもっと伸ばせるが。≫
「敵偵察機の接触があれば、すぐに上げれる用意をしておいてください。」
ツェペリンさんの装備しているかたぱるとで40機は即座に上げられる。
出来れば、それは残しておきたい。
今回の彼女の編成割を思い出す。
艦戦20機
艦攻12機
艦爆18機
「菅野さんに繋いで頂けますか?」
≪少し待て……カンノ、至急無線機に。≫
彼女の航空隊の精鋭隊。
少数での航空戦なら艦娘が操る艦載機を凌駕していると報告にあった。
≪あ~あ~、こちら菅野直であります!!≫
「率直に聞きます、菅野さん。連続何時間戦闘できますか?」
≪は?≫
「6~7時間ぐらいは、戦闘機動できますよね?」
≪え?≫
「あ、小隊員の方も居るから……4時間ぐらいでしょうか。」
≪いや、あの零は全開でそんなに飛べないんっすけども。≫
「ですから、途中で乗り換えて。かたぱると?ならすぐ出れますよね?」
≪え、いやあの!?≫
随分と慌てている。何かまずい事でも聞いてしまったのかしら。
精鋭なのだから、24時間ぐらいは余裕なのかしら?
私も負けていられないわね。
とはいえ、菅野小隊は5人だったはず。
乗り換え分を合わせて10機、それとツェペリンさんの操る分でもう10機、数的に丁度良いかと思ったのだけど。
≪フソウ、直掩機が戦っている状況下なら艦隊は空襲を受けている可能性が高い。戦闘中の発着艦など、訓練でも私はした事がない。≫
「空からなら、航跡も判断も付き易いですし……できませんか?」
≪恥ずかしながら、私は出来る気がしない。≫
「そうですか、その空母の事は不勉強でして無理を言ったのなら謝罪を。」
≪……いや、期待に応えられず恥じ入るばかりだ。泊地に戻ったら訓練メニューに加えてみよう。≫
≪グラ子ちゃん、正気か!?≫
≪カンノ、私はグラーフツェッペリンだ。グラコチャンなどという名ではない。≫
ふふふ、と微笑を零しながら艦を視通す。
適度に緊張した、良い状態を維持できている。
視界の端、こちらへ帰還してくる偵察機が視える。
予定よりやや早い、何かあった?
「暗号電、扶桑艦載機より来ました!!」
「内容は?」
「敵艦隊補足セリ。軽空母二隻、他4隻。英国艦隊の別動隊と思われます!!」
「位置がばれるのは得策ではないのだけれど……山下中将にお繋ぎしてください。」
この扶桑艦隊の目的は陸軍の護衛。
出来る限り、敵から見つかる可能性は低く保つべき。
だから、艦載機もなるべく見つからないように打電を遅らせたのだろう。
「水偵のパイロットは、すぐに艦橋へ。」
≪山下だ。何かあったのか?≫
「敵別動隊を補足しました。攻撃目標はこちらではなく、小沢艦隊のようですが……」
≪打電すれば我々の居場所が敵に知られるか。≫
「はい、加えてグラーフツェペリン攻撃隊は敵基地攻撃用に温存しておきたい。」
≪分派するには火力が足りんか。≫
陸軍側で相談しているのだろう、途切れ途切れに音声が飛んできている。
駆け込んできた水偵のパイロットから、細かな報告を聞いていく。
攻撃隊はそれほど多くはなく、複葉機で低速だった事。
そして小沢艦隊には、プリンツさんやビスマルクさんといった精度の高い電探を装備した二人が居る。
「我が艦隊はこのまま、船団護衛に集中します。小沢艦隊には……独力での対応をして頂きましょう。」
≪……しかし。≫
「我々を気遣っていただき感謝致します。しかし、小沢艦隊は練度も高く十分に対応可能だと判断します。もし、なんらかの責めが来るならば、私が負いましょう。」
≪……いや、俺が船団護衛に注力しろと言ったことにしておけ。すでに貴様には借りがあるからな。≫
「承りました、一つだけ、よろしいでしょうか?」
≪なんだ?≫
「偵察機を別動隊に張り付けておきたいのです、交代を入れながらなので……少しだけですが我が艦隊を発見される可能性が。」
≪構わん、任せる。≫
「ありがとうございます。」
「……そろそろね。」
海図上で自身の位置を確認、目標地点への距離を計算。
大丈夫、十分に余裕のある距離。
航空隊出撃用意……
南雲機動部隊は一時、解散。
赤城さんと、青いのはトラック泊地で修理や改修、補給。
噂じゃ新鋭機の運用訓練も兼ねているんだとか。
蒼龍さん、飛龍さんはウェーク島攻略へ。
……激戦区らしく、大破した娘も出たと聞いた。
戦争だからって解っているけれど。
目標は英国軍の陸上基地。
長距離からの一方的な攻撃で、私達には攻撃が来る可能性は極めて低い。
「翔鶴姉、そろそろ、だよね?」
≪まだよ。≫
「十分届くと思うんだけど。」
≪攻撃を終えた機体はどうするの、焦らないで。≫
「あ゛」
≪もぅ、瑞鶴ったら緊張し過ぎよ?≫
むぅ~……そりゃ、ちょっとは緊張してるけど。
≪五航戦には荷が重いのかしら?≫
「なんで!?」
≪私達が出ないと、ダメかしらね。≫
「は?え、ちょっとあんたは待機中でしょうが!!」
≪……半人前なら半人前の仕事をしなさい。まぁ、それなりに期待はしているわ。≫
「ちょっと、聞いてんの!?」
基地からの通信?
わざわざ嫌味を言う為に……あんの青いの!!
≪ふふふ。≫
「翔鶴姉、笑ってる場合じゃないじゃん!!」
≪さっきのは録音。緊張は解けたみたいね。≫
「な、なんでそんなのがあるのよ!!」
≪コホン、「どうせ空回りするだろうから、これでも聞きなさい」って。≫
「似てない、似てないよ!!」
≪……とにかく、緊張は解けたでしょ。あ、あの笑わないでください!!ちょっと!!≫
通信機は翔鶴姉の艦橋からの笑い声を拾っている。
たぶん、似てない声真似の結果だ。
≪攻撃隊は1500に編隊を組み終えるように出撃、敵基地上空へは1700前。視界に不安があるから吊光弾投下後攻撃開始、良いわね?≫
「うん、大丈夫。」
大きく息を吸って吐く。
長時間航空機を操る事による負荷、それに夜間着艦。
元々、一航戦が受けるはずの作戦。
難易度が高いのは覚悟していたんだ。
時計を確認。
「航空隊に集中するわ、艦の事お願い。」
「「了解!!」」
力強い返事を耳に、艦載機に意識を集中させていく。
プロペラ回転、エンジン音、諸々問題なし。
「艦首風上、攻撃隊発艦、始…って、岩本さん!?なんで乗ってんの!!」
≪はっはっは、岩本発艦するぞ!!≫
≪了解、続きます!!≫
「待って!!」
≪戦闘機までじゃ、瑞鶴ちゃん疲れ果てるだろ。戦闘機隊は俺らが引き受けるよ。≫
「……ん、無理しないでよ!!」
攻撃隊が次々と空に舞い上がっていく。
見渡せば、翔鶴姉の攻撃隊も綺麗に編隊を組んでいるのも見える。
「さぁ、やってやるわよ!!」
夕闇が刻々と空を染めていく。
焦る胸中、夜間攻撃でどこまで正確に攻撃が出来るのか。
赤城さんや加賀さんから艦載機を譲り受けての強行作戦。
陸軍との協力作戦、成否に関わらず「海軍としては協力した」という建前が達成できるから……五航戦で。
旗艦として作戦説明を受けた際の、悔しさ。
瑞鶴には教えられない。
先行させた偵察機はちゃんと到着したかしら?
こちらの攻撃とタイミングを合わせる為に、グラーフツェッペリンへ向かわせた。
無線を飛ばせば、攻撃を察知される。
信じるしかない。
眼下、街の明かりがわずかに見え始めた。
……広い滑走路、あそこだ!!
響き始めた低い音、気付かれたけれど……行ける。
「目標補足、敵迎撃機無し瑞鶴……続いて!!」
≪うん、やろう翔鶴姉!!≫
対空砲がようやく撃ち上がり始めた最中を吊光弾が照らし始める。
艦載機の損傷より、攻撃の精度を。
「瑞鶴!!滑走路の南側は私がやるわ!!」
≪うん!!≫
水平爆撃隊。
集中力が、欠けて……照準器が上手く読み取れない。
≪こんの、当たりなさいよ!!≫
瑞鶴の声が爆発音と混じって聞こえてくる。
急がないと。
≪落ち着きなって、適当にばら撒いて終わりじゃないんだからな?≫
≪うぐ、そうは言っても!!≫
「……岩本さん!?来てたんですか?」
≪新米の補佐はベテランの仕事なんでな、敵機が上がってくるのは気にすんな、俺らがなんとかする。翔鶴の嬢ちゃんも予定より高度が高いぞ、落ち着け、な?≫
「っ、了解ありがとうございます。」
高度計すら、ちゃんと確認できていなかった。
一瞬、意識を艦載機から切り離す。
ぱぁん!!
艦橋に響いた肌を打つ音。
痛いけど、目は覚めた。
「第五航空戦隊旗艦翔鶴、参ります!!」
高度を誤った水平爆撃隊は一旦、退避。
急降下爆撃隊を突入させる。
気合は入れ直した、落ち着きも取り直した。
それでも、爆撃の精度が普段より低い。
破壊し切れない。
「瑞鶴、攻撃は要塞砲に絞って!!」
急降下爆撃を終えた機体を帰還させながら、水平爆撃隊を再び敵基地上空へ向ける。
瑞鶴はこちらの指示に上手く答えてくれている。
「扶桑さん、応答を!!」
無線封鎖中の扶桑艦隊への連絡。
彼女たちまで危険に晒す事になる……けれど。
≪中継が必要か?≫
「はい、お願いします!!」
聞きなれない声。
誰だろう、もし敵だったら?
≪翔鶴さん、どうしましたか?≫
「扶桑さん、作戦の変更を、私達では火力が足りず敵基地を壊滅には至っていません。グラーフツェッペリン攻撃隊を足しても…」
≪足りない可能性があると。≫
「ですので扶桑さんの艦砲射撃で追撃を。」
≪解りました、砲は抑えてくださいね?≫
「必ず!!」
土壇場での作戦変更。
それも提督でなく、艦娘の判断でとは……
通信を中継しながら、火色に焦がされている敵基地へ一直線に飛ぶ。
≪これより扶桑は単独行動に移ります、指揮は……叢雲さん、お願いします。≫
≪単独って、大丈夫?≫
≪これでも、戦艦ですから。≫
それならば。
「フソウ、私も同行しよう。」
≪艦載機出した後の空母がって……あぁ、あんたは別ね。≫
「あぁ、貴官らより砲火力はある。」
≪では、ツェペリンさん。続いてください。≫
「任せてくれたまえ。」
扶桑艦隊は私とフソウを除けば残りは駆逐艦ばかり。
砲火力で言えば、艦隊で2位。
なにより、折角積んだ主砲を使わないのは合理的ではない。
「さて、航空隊に集中する。諸君、操艦は任せるぞ。」
燃え盛る飛行場、吊光弾が必要ないほどだ。
ショウカク型の二人の艦載機は……ふむ、撤退を始める所か。
≪グラーフさん、ですね?≫
「あぁ、これより攻撃に移る。」
≪滑走路北側に攻撃を集中してください、南は……これで!!≫
直後に97式艦攻が数機要塞砲へ体当たりを敢行した。
爆炎が咲く。
人的損失は無い。しかし我々が操る艦載機が落とされれば、操る艦娘に反動が来る。
それが積み重なれば、精神が摩耗し抜け殻のようになるそうだ。
知らないはずはない。
覚悟の上であろう、ブシドーだったか。
≪あ……っが…!!≫
≪翔鶴姉!!≫
「残りは私達フソウ艦隊に任せてくれ、貴艦等の奮闘無駄にはせぬよ。」
北側の砲塔群、ヒエンほどの練度は無いが……動かない的だ。
陸上攻撃ならば、独逸に一日の長がある。
あるスツーカ乗りにコツは聞いた。
悪魔が来て笛を吹く。
空襲警報を上書きするように高らかにサイレンを響かせながら次々と急降下へ。
「彼女らの覚悟に応えねばな。」
≪上がり始めた戦闘機は俺らぶっ飛ばす、夜で見えねぇなんざ言い訳は聞かねえぞお前ら!!≫
≪一人十殺、菅野飛行隊は精強なり!!≫
「ふはははは、蹂躙せよ!!」
遠くから当てられないのなら、近付いて叩き込めばいい。
至極、合理的な話だ。
通信機から流れてくるのは祥鳳さんが案内してた部隊の戦果報告。
英国艦隊は虫の息。小沢艦隊の追撃で壊滅するのは時間の問題。
不時着する機体に備えて内火艇も準備済み。
視線の先、煙を吹いた陸攻が近付いてきている。
≪こちら霞、着水する機体への救援受け持つわ。周辺警戒しといてよ。≫
≪陽炎、了解。霰もフォローに回ってあげて。≫
≪ん、解った。≫
出番なしか。
口の中で飴玉を転がしながら、周辺に気を配る。
≪海野艦隊全艦へ小沢艦隊が敵別動隊に襲撃を受けた。我々はこれを撃滅すべく行動を開始する。川内は直ちに夜偵の発艦用意。≫
現在の時刻は17時過ぎ。
≪さぁ、やるよ!!水雷戦隊、前に!!≫
≪川内を先頭に、海風、江風、陽炎、不知火の順で単縦陣。霰、霞と祥鳳、飛燕はこの場で救助と艦載機の帰還に備えろ。≫
≪は、はい!!≫
≪待機組の指揮は、霞が取れ。≫
≪は、え、私!?≫
矢継ぎ早の指示。
ははは、いやぁ良いね。
やっぱり、駆逐艦の本懐は……
≪待ちに待った、夜戦だよ、夜戦!!≫
口元に笑みが浮かぶ。
「きひひ、聞いたね。総員兵装再確認!!全開でぶン回すぜ!!」
「「応!!」」
輪形陣の真ん中を突っ切るようにして川内さんの後ろに付ける。
≪お、江風やる気だね!≫
「そりゃ、やる気さ!!」
≪……陣形を無視するなよ、江風。≫
「ンだよ、良いじゃん良いじゃん!!」
≪江風…少し自重しないと…ほんとうに…お姉さんは心配です…≫
≪江風、提督の命令に従いなさい。≫
「うぐ……姉貴はともかく、ぬいぬい、砲まで向けンなよ~」
渋々、少し速力を落し海風の姉貴が入れる間を空ける。
≪不知火、味方に砲を向けるな!!演習ではなく実戦の最中だぞ!!≫
うぉ!?
提督が吼えた。
どっちかって言うと頼りなさそうな、おっさんだったのに。
甘いもん好きのへたれイメージが……
≪……不知火に何か落ち度でも?≫
≪この場で説教をする気は無いが……泊地に帰投したら補佐官と共に出頭するように。他にも、私が怒鳴った事に不満や不信を抱いたものが居るのならば、不知火達と共に来るように。≫
大きなため息と共に声のトーンを普段通りに戻した提督の通信が続く。
≪正確な敵艦隊の戦力、位置は不明だ。索敵機は龍驤が飛ばしているが、間もなく夜になる……小沢艦隊からの増援は現場での混乱を鑑み、断っている。≫
奇襲を仕掛ける為、無線封鎖で位置を隠す。
そして、増援がないって事は。
≪別動隊は私達だけの獲物!!味方の重巡やら戦艦の主砲に当たるなんて事も考えなくて良い、とにかく突っ込んで魚雷で食い荒らせば良い!!≫
陶酔しきった川内さんの声。
あぁ、滾るね。
これで滾ンなかったらそいつは水雷戦隊じゃない。
≪……旗艦の熱意は十分すぎるようだが、海風?≫
≪はい、行けます!!≫
≪江風?≫
「いつでもやってやンよ!!」
≪陽炎?≫
≪いよいよ、私達の出番ね!≫
≪不知火?≫
≪期待に応えてみせます。≫
≪水雷戦隊突撃せよ!!≫
何故、私が叱責を受けなければいけないのか。
やはり、あの大佐は苦手。
命令に従い、口に入れた特号食もわざわざ調達する必要のあるモノなのだろうか。
味は……まあまあ、まあまあですね、悪くはないかと思いますが。
「不知火さん。」
「……なにか?」
「良ければ自分の特号食もお持ちになられます?」
「不要です、それより兵装の確認は終わりましたか?」
「は、全て確認済みです。」
「すいらいせんたんの晴れ舞台です。総員奮起精励し……何か?」
「……いえ!!職務を全う致します!!」
夜戦。
臆病者大佐の指揮下という不満はある。
いざとなれば現場の判断による突撃も視野に入れておく必要がある。
命令に従う。
軍人なのだから、当然。
出来る限り命令に配慮しつつ、自己判断で動くしかない。
戦果を挙げれば、問題はない。
≪右舷前方、敵艦隊補足、大型3隻小型3隻。このまま右舷反航戦の形で行こう。≫
川内さんからの通信。
≪夜偵の吊光弾の投下と同時に最大戦速、雷撃入れたら全速で北へ離脱。≫
僅かに海上に浮かび上がる艦影。
私達の、獲物。
「主砲の射程圏内に入りました、この距離なら外しません。」
≪待て、命令を変更はない。吊光弾投下後、突入雷撃、良いね?≫
「……はい。」
焦らされる。
千載一遇の好機、どうして。
解らない。
いっそ、暴発したと……
薄い月明りだけだった暗闇を光が照らす。
弾かれるように機関を一杯まで回し、主砲を撃ち放つ。
≪っ!各艦砲戦開始、私に続け!!探照灯照射!!≫
敵艦からの応射、未だ混乱の極み。
狙いが甘い。
「沈め、沈め!!」
主砲第二射、直撃の爆炎が上がる。
駆逐艦の主砲では、重要区画を抜けない。
≪魚雷戦用意、海風、江風は敵2番艦、陽炎、不知火は敵3番艦を狙え!!≫
≪江風タイミング、合わせて!!≫
≪いっよっしゃ!!やるぜ姉貴!!≫
3番艦、遠い。
命令は、命令。
≪ちょっと遠いわね。回避軌道を予測して撃つわ!!≫
「了解したわ、魚雷1番から扇状に……水雷長。」
「針路そのまま、そのまま……今!!」
「総員転舵に備えて。」
雷跡はほとんど見えない。直撃まで……
≪全艦退避開始!!≫
≪戦果の確認がまだです!!≫
≪退避しつつで十分だ、川内探照灯を≪まだ、もう少し!!≫≫
砲撃音とは別のやや籠った爆音。
≪水柱確認、四…いや五!!≫
≪敵1番艦沈み始めてます、2番艦、3番艦炎上中!!≫
陽炎に続きながら、敵艦隊を睨み付ける。
浅い。
「取り舵一杯……左舷砲雷撃戦用意。」
「了解!!」
艦尾が右に流れ始める。
砲塔の旋回が終わるまでは撃てない。
敵弾が飛んできているけれど、先頭が潰され隊列が乱れた状況ではまともに狙えるとは思えない。
≪不知火?≫
姉からの通信。
……返信は保留。
「よろしいのですか?」
「攻撃に専念しなさい。」
砲塔旋回、完了。至近距離、狙うまでもない。
「沈め!!」
砲撃、直撃。
≪不知火!!何をしている!!≫
≪おいおい、人に偉そうに言って自分は命令無視かよ、ンだよそれ!!≫
「介錯をするだけです。」
吊光弾の光は既にない、炎上する敵艦が良い目印になっている。
行き脚無、敵艦からの砲撃も散発的。
「つまらないわね、もっと骨のある敵はいないの?」
十分に肉薄し魚雷を発射。
主舵一杯、このまま離脱……
「左舷後方より雷跡!!」
「回避、このまま主舵で抜け……」
「前方、発砲炎!!」
囲まれた?
逃げたと判断した敵駆逐艦が戻ってきていた。
「……ふふふ、良いでしょう徹底的に潰すわ!!」
口元に浮かぶは笑み。
3対1?
劣勢?
何処に怯む要素がある。
全砲火力をもって、一隻でも多く沈めてやる。
逃がしはしない。
「取り舵、南の敵艦2隻に火力を集中、主砲撃…く!!」
衝撃、直撃を貰ったらしい。
機関、主砲共に問題なし、継戦可能。
≪探照灯照射、衝角戦用意!!≫
≪なもん無い!!≫
≪駆逐艦相手なら、行ける行ける!!≫
直後に響く金属が引き千切られる音。
≪さぁ、お転婆ちゃんお迎えだよ?≫
敵駆逐艦の船首を抉り取りながら川内さんが抜けてくる。
おまけとばかりの爆発音。
船首を抉られた駆逐艦が炎上している。
「不要です、あちらの二隻を仕留め……」
≪残り、一隻だけどね。≫
目の前で滑るように転舵をしながら、私の前に出る川内さん。
轟音と発砲炎。
至近距離で15cm砲の斉射を喰らった敵艦は一瞬で火達磨になる。
「……な。」
≪二隻目も終わりっと。≫
水柱が4つ。
砲に魚雷……転舵をしながら撃った?
≪ふぅ、一発貰っちゃったか。≫
私を狙った砲撃が割り込んできた川内さんへ当たったようだ。
≪……不知火、撤退するぞ。≫
不機嫌な大佐の声。
「了解しました。」
久しぶりの本土。
出迎えの妹に頬が緩んだ。
「お姉さま、ご無事で何よりです!!」
「比叡は心配性ネー」
英国艦隊との撃ち合いで損傷した船体は入渠済み。
井上長官のご厚意で、比叡は休暇を頂けたそうだ。
自分は、しばらく動けない。
南方戦線は極めて優勢で推移している。
マレー半島の制圧による基地航空隊の進出がかなり効いているらしい。
しかし、一方でこちらにも被害が出ている。
如月が大破、辛うじて沈没は避けたものの、彼女の意識が戻らないらしい。
「お帰りなさい、金剛。」
比叡と雑談をしながら鎮守府へ向かっている自分に声がかけられる。
「Oh、貴女がなんでこんな所に?」
「何故って、船渠に来る理由に修理、改装以外にある?」
「そうですケド、山城も改装中じゃ?」
「明日には公試だから終わったようなものよ。」
「思いっきりモデルチェンジしてましたよ、もう凄いんですよ!!」
「Wow、それは頼もしいネ~」
戦力が強化されれば、余裕を持った戦いができる。
その中でも戦艦の強化は大きいはず。
航空戦力は確かに戦場を変えている。
時代が変わってきているのは、肌で感じ取った。
とはいえ、軍艦の役割は変わらない。
敵を討つ、それ以上でも、それ以下でもない。
「……騒がしいと思ったら。」
「あ、山城……って酷い顔。」
「試験前の最終点検をしてたから……昨日からほとんど寝てないのよ。」
「一緒にティータイムは無理そうネ。」
「寝るわ………………金剛さん、無事で良かったわ、姉様も無事だと良いけれど。」
軽く手を振りながら山城は自艦に向かって歩いて行った。
明日の公試、3人で見学に行きますかネ~
海原を行く一隻の軍艦。
目を引く艦橋の形から扶桑型である事は知る人であれば容易く判別がつく。
しかし、改装の結果さらに特異な外見となっていた。
前部主砲、艦橋、煙突、後部艦橋、後部主砲と一通りの設備が並ぶのだが、艦全体の前半分程度の部分に集中しているという奇妙な姿。
広く空いた後部は、いくつか機銃や高角砲らしき影があるが、基本は平坦。
航空戦艦と名付けられた理由が、その平坦な後部、飛行甲板にあった。
砲戦を行う戦艦に弱点となるような飛行甲板を積むなど愚の骨頂と異を唱える技術者や軍人が大勢居た。
それを黙らせたのは、建造中の装甲空母と、欠陥戦艦というレッテル。
横須賀を出港して、ようやく外洋。
「ようやく帰ってきたわ。」
数か月ぶりの海。
艦として、海にある事に高揚を覚える。
初の国産超弩級戦艦として、姉と共に進水した。
しかし妹となるはずだった伊勢、日向は設計が変更された。
設計に無理があり、実用上に大きな問題があると断定されたから。
後に赤城や加賀が三段式甲板で無用と言われたのと同じで、まだまだ経験が足りず手探りだった為に起こった悲劇。
早急に改装された彼女達とは違い、私達は実用には辛うじて耐えうると思われると微妙な評価の結果、時代に取り残されていった。
「もう、欠陥戦艦とは言わせない。」
敬愛する姉は、マレー半島で敵基地を艦砲で叩き戦果を挙げた。
官報の小さな、小さな記事であったけれど、切り抜いて大切に保管してある。
次は、私の番。
私がこの公試で良い結果を出せば、姉も同じ改装を受け最前線で胸を張れる。
≪あ~あ~山城、聞こえる?≫
「感度良好よ。」
≪それじゃ、始めようか。≫
「扶桑型航空戦艦二番艦山城、参ります!!」
十分に温まった機関に少しづつ力を籠める。
緩やかだった船速は確実に上がっていく。
かつての自分は24knが限界だった。
今の自分は?
「機関長、変な振動や異音は無いわね?」
運用実績のある機関、点検も十分過ぎるほどにやった。
それでも僅かな異常も見逃さないようにと声をかける。
「大丈夫機嫌良く動いてます!!」
「全開まで上げるわ……ふふ、どこまで行けるかしら?」
扶桑型航空戦艦二番艦山城、公試結果報告書
最大速力29.4kn
残念ながら30knには届かなかったが、金剛型に次ぐ快速を記録。
砲戦能力
運用実績の高い主砲であり、問題なし。
後方への射角が飛行甲板の関係で取り辛くやや難があるが、快速を生かすことで優位な位置取りをすることで対応が可能。
防御能力
弾薬庫の集積により十分な防御を施す事に成功している。
飛行甲板には装甲空母向けの装甲甲板を流用し、扶桑型従来の水平装甲も重なり相応の防御能力を発揮すると推測される。
艦載機運用
最大搭載機数18機
発艦について
飛行甲板が短く艦攻どころか艦爆さえ発艦が難しい事が設計段階で予測されていた。
戦闘機のみに運用を絞り一応の解決とする。
着艦について
上記同様の難点がある。
飛行甲板を着艦形態へ移行させ(油圧で飛行甲板を傾斜)これを緩和。
しかし依然として着艦難易度は高く熟練の搭乗員に限るべきである。
艦娘である山城であれば、運用は可能であると思われる。
他特記事項
山城及び乗員は高い練度と士気を維持しており最前線での活躍に期待される。
艦載機運用に関しては、蒸気カタパルトの実用化により艦爆、艦攻の運用が可能になると見込まれている。
総評
運用面で大きく幅を持たせることが出来るようになったものと判断する。
同型艦である扶桑に対しても同様の改装を行う事を強く推奨する。
俺たち艦娘が艦と密接に繋がっている事は解っている。
艦が損傷すれば疲弊し、沈没すれば消えていく。
如月は大破し、沈没寸前だったものを曳航用のワイヤーを幾重にも絡め、辛うじて泊地に帰ってきた。
艦の修復は今も継続中、もう少し修復が進めば内地に移送になる。
艦娘としての如月は、消えそうなほど薄かった姿は、艦の修復に合わせるように少しずつ濃さを取り戻している。
ウェーク島の攻略戦は南雲機動部隊から分派された蒼龍、飛龍によって完遂された。
「……なんとかなんねぇかなぁ。」
情けない話だ。
世界水準を超えていたのは過去の話。
今じゃオンボロ軽巡だ。
「折角のお休みなのに天龍ちゃんったら、真面目ねぇ。」
「退屈しのぎみたいなもんだ。」
声に視線を上げればいつものような笑みを浮かべた妹の姿。
「戦術教本に、性能表?」
眼前に散乱している資料に視線を這わせながら龍田は何が可笑しいのか、くすくすと声を零す。
「……もっと上手くやれてりゃ、航空機に爆撃されることも無かったんじゃねえかって。」
どうせ隠そうとしてもバレる。
観念したように本音を唇に乗せる。
「それで、何か思いついた?」
「思いつかねえから、こうやって唸ってんだろうが。」
「そうよねぇ……」
生憎、俺は単純でこういう頭を使う事は苦手。
演習で頭を使えとか言われて、川内に船首から体当たりかまして謹慎処分を貰ったのも、別に不名誉な事じゃない……演習には勝ったし。
そんな俺がまぁ、珍しく頭を使ってる訳だ。
「……天龍ちゃん、さっきなんて言った?」
「あ?思いつかねえから」「その前。」
「爆撃される事も無かった……」「それ。」
ん?
「爆撃をさせなければ良いのよ。」
「だから、機銃やらで落とすんだろ?」
「違う、違う。攻撃できる位置に来させなければ良いの。」
「???」
「空母じゃないから、確証はないけど……攻撃のしやすい場所ってあると思うの。」
「ふんふん。」
「じゃ、そこに来れないように道を塞いじゃえば?」
「道を塞ぐって、どうやって?」
「え~い♪」
咄嗟に上半身を逸らす。
可愛らしい声とは裏腹にかなりスナップの効いた平手打ちが顔の数センチ前の空間を通り過ぎていった。
「何すんだよ!!」
「当たると痛いって解ってるから避けようとするでしょ?」
「そりゃ……って、そうか、機銃で敵機を狙うんじゃなくて、ここは危ないって見せれば。」
「そ、好き好んで突っ込む子は稀。」
龍田の指摘が飲み込めた。
誰だって弾丸が目の前で飛んでりゃ、そこは避ける。
単純な事じゃねえか。
「いよっし、そうと解れば動くのみだ!!」
勢いよく立ち上がると、自室から飛び出す。
トラックには赤に青に、緑に黄色と空母は揃ってる。
やるぜ、やってやるぜ!!
「南雲のおっさんはどこだ~!!!」
「一航戦赤城、加賀出頭しました。」
「入れ。」
返答に執務室の扉を開け、中に入る。
そして、状況が解らず固まってしまった。
正面には南雲さん。
うん、いつも通り?
頬に赤い紅葉があるけど。
で、その隣にいつもよりおどおどしている榛名さんが付き添っている。
「あの……長官、榛名さんに?」
「違う、犯人はそっちだ。」
ものすごく、不機嫌そうな声といつもより厳しい視線。
その視線の先にはバケツを持って立っている天龍さん。
「……大方、そこの軽巡が暴走したのでしょう。」
「ですよね、榛名さんが南雲さんを叩くとは思えませんし。」
彼女は怒らせても決して叩くようなタイプではない。
どちらかというと、泣き出してしまうような気がする。
「軽巡、龍田出頭しました。」
「入れ。」
扉を開け、入ってきた龍田さんは南雲さんと天龍さんとの間で視線を往復させる。
「……あ~ぁ。」
全てを察したかのように小さく声を零す。
「龍田、お前の姉は一体何を考えて、俺の頬を張ったのか……説明してもらえるか?」
「さぁ~天龍ちゃん突拍子もない事するから私にも解らないなぁ。」
ビキっと、南雲さんの顔に青筋が増えたように見える。
「ははははは、そうか。」
「うふふふふふふ~」
うわぁ、帰りたい。
南雲さんの視線の先で天龍さんが涙を浮かべてる。
ここ、南の島なのに涼しいなぁ~……
「…………天龍、空母がどうのとか言っていたが、少しは頭の中でまとまったか?」
「お、おう。」
「説明を。」
眉間を揉みながら、天龍を促す。
相変わらず、纏う空気はピリピリしてるけど……
と、言うか龍田さん、絶対解ってやってるわね。
一通り、天龍の説明を聞き終えた。
要約すると実戦を踏まえて、対空訓練をしたいという事。
何故それが上官に手を挙げる結果となったのか、まったく理解できませんが……
「許可を取りに来た分、成長が見えると言えなくもないが……しかし、対空訓練ならこなしているはずだが?」
「いや、だからな?」「あ、天龍ちゃんはもう黙っててね。」
最初から彼女が説明すれば良いと思うのだけれど……まぁ、何か考えがあるのでしょう。彼女の洞察の深さは大いに認めている所ですし。
「今までの艦載機が曳航している標的を撃つんじゃなくて、「防空戦」がしたいの。だから、空母の方がやってる攻撃訓練に標的艦として参加させてほしいの、ただ逃げ回るだけじゃなくて、機銃で迎撃ありでね。」
「演習弾とはいえ、当たり方次第によっては艦載機が落ちるんだが……」
演習用のペイント弾でも、当たれば相応に衝撃がある。
外板が歪む程度ならともかく、プロペラに当たれば最悪、折れて墜落する。
平時であれば、多少の損害は目を瞑れるけれど今は戦時。
無駄にできるような艦載機は無い。
「存じています。現に曳航している標的を撃つ訓練ですら流れ弾で喪失機が出ている。」
龍田の言葉に深く長官が頷く。
……先のウェーク島で、疾風、如月の被弾に思う所があった?
それは間違いない。
「防空戦」と言い換えた所に本意があるわね。
「長官、発言しても?」
「構わん。」
「基地隊に回した機体を使えば主力機の損耗は避けられます。五航戦の子が何をしたのか知りませんが、陸軍機も50機こちらに回ってくる。戦力の低下は少ないと判断できます。」
「ふむ。」
「そもそも、私達が操る艦載機が対空訓練で落とされたのは昭和14年の総合演習以降0機。心配は不要よ。」
一発も当たらないとは言い切れない。
天龍型の二人の練度の高さは決して侮れるモノではない。
しかし、機銃のみで弾も演習弾。
落されるような無様は……無い。
「その鼻っ柱叩き折ってやる。なんてったって俺には秘策があるからな。」
随分と威勢が良い。
そこまで言うのなら、手心を加える必要は無いわね。
「なんだったら、一航戦だけじゃなく二航戦も「一緒に」相手してやんぜ!!」
「ほぅ、威勢が良いな天龍。一緒に、相手をしてくれるのか。」
「ぇ?」
……姉妹で良く声が似てるものね。
扉から入ってきたのは二航戦を任されている山口長官。
「山口、貴様は賛成という事か。」
「そうですな、最初の方は聞けておりませんが……無駄な経験にはならんでしょう。」
「……ふむ、やってみるか。」
しばらくの沈黙の後、南雲長官は意を決した様子。
「航空隊に関しては山口、貴様がまとめろ。天龍以下、標的艦組は俺がまとめる。」
「はぁ!?おっさんが?」
「水雷戦隊は散々扱ってきた。貴様の策を形にしてやる。」
「あらあら、変な所に火が付いたみたいねぇ。」
「ふん、山口、手加減なんぞしたら許さんからな?」
「はっはっは、面白くなりそうですな。」
演習をやる。
それ自体はいつもの事なんだけど、なんか色々話が大きくなった。
一航戦、二航戦の空母四隻VS水雷戦隊
水雷戦隊は合計150機を超す攻撃隊を凌ぐ事。
基地を制圧するような戦力なんだけどなぁ……
直前まで伏せられていた相手は合計6隻。
天龍、龍田、夕張
睦月、弥生、望月
ハッキリ言って、勝負にならないと思う。
榛名さんとか、重巡組とか居るのに。
加賀さんじゃないけど、鎧袖一触で終わる。
「やるからには、全艦撃沈判定を取れ。」
攻撃を仕掛ける順番、攻撃を仕掛ける方位、徹底した打ち合わせを重ねた。
それこそ、このまま実戦で使えるほどに。
先陣を切るのは私達二航戦。
爆、雷の同時攻撃。
意識を操る艦載機に集中させていく。
風を切る翼の感覚、エンジンの唸る音が心地良い。
敵艦隊補足。
統制制御開始……スイッチが切り替わるような感覚、完全に入った。
機体の高度を一気に下げる。
演習でここまで下げるのは、いつぶりだろう?
波の合間をすり抜けるように、波を這うように。
高度計の意味をなさない高度、感覚便りの極低空飛行。
プロペラが起こす風が海面を散らして飛沫を舞わす。
発砲炎、機銃弾が見当違いな所を……んん?
機体を横滑りさせ、再度突入態勢へ。
なんだろう?
蒼龍の爆撃隊が突入を開始、火線があちらに分化されていく。
機銃の数は減った、脅威は薄い。
なのに、突入が出来ない?
背筋を撫でるような嫌な感覚を無視して突入へ移る。
針路がズレる。
相手も回避運動をする、敵艦の進路が変わるのなんて織り込み済み。
それを補正しながら突入するなんて、散々やってきた事。
蒼龍の投下した演習弾の水柱が上がってる。
波の間隔が変わ……舌打ち、一つ。
意識が逸れた瞬間に機体に被弾。
その衝撃で1機、海面に落ちた。
咄嗟に操る機体を散開、距離に余裕は無い。
歪な形になるのを承知で、魚雷の投下態勢へ。
翼を少しだけ振り、海面を掠めさせる。
抵抗が機体を強引に回し、魚雷の投下コースを整える。
魚雷投下、後は魚雷任せ。
一目散に離脱させ、残りは一航戦の二人に任せる。
30機中、損傷18機、喪失4機。
魚雷命中で龍田さんを撃沈出来てるはず。
ま、まぁ損傷機の半分は海面を掠めさせた分だし……
「飛龍攻撃隊、軽巡龍田を撃破しました……残りは任せます!!」
≪蒼龍爆撃隊、夕張と望月に損傷を与えた…ハズ。≫
二航戦からの報告。
思った以上に少ない。
私達に獲物を残すなんて事をするような子達じゃありませんし、天龍さん達が予想以上に手ごわいのでしょう。
第二陣として、備えていた私達。
「夕張さん達はどうしましょうか?」
≪除外で、構わないと思うわ。≫
加賀さんの言葉に頷きを返す。
無線での会話なので見えてないんですけどね~
かろん、と口の中に入れた特号食が甘味と共に歯に当たって音を出す。
事に当たるならば、笑みを忘れないように。
鳳翔さんに叩き込まれた言葉。
加賀さんは結構、反発してましたけど……ふふふ、と口元に笑みを乗せる。
相手に見える訳じゃない。
操る技術が上がる訳じゃない。
絶対的な意味がある訳じゃない。
それでも薄い笑みを忘れずに、攻撃に移る。
「にゃしぃ……」
なんで睦月がこんな所でこんな目に合ってるのか。
元凶は天龍さんと龍田さん。
如月ちゃんが大怪我をしたし、疾風ちゃんは沈んでしまった。
泣きもした、悲しみもした。
正直に言って、まだまだ、泣き喚いていたいくらいに落ち込んでる。
軍人だから、って言うよりお姉ちゃんだから睦月は泣かないように我慢してる。
≪ぼさっとするな、一航戦が来るぞ、対空用意!!≫
≪あ~司令官、あたしは被弾したし退避でいいよね~≫
≪ちょ、ちょっと望月ちゃん!?≫
≪もっちー、ちょっとはやる気、出して。≫
落ち込んでる、暇もない。
≪龍田は離脱、夕張と望月は戦闘継続、良いな!?≫
≪うぇ~…ぃ≫
≪とにかく作戦通りに機銃を撃て!!≫
さっきの二航戦の攻撃もえげつなかったけど、今襲い掛かって来てる一航戦はもっと酷い。
動けない如月ちゃんの機銃も借りて、対空戦闘に備えたけど……
にゃんで艦載機の裏から艦載機が出てくるの!?
艦載機が艦載機の陰に隠れるってもう意味が解んない。
「にゃしいいいいいいいいいいいい!!」
急降下してきた艦載機が転舵した私の上から離れない。
回避軌道を読まれてる?
普通、急降下したら一直線でしょ!?
駆逐艦の転舵にきっちり付いてくるとか反則。
にゃ?
あの爆撃機、爆弾持ってない?
衝撃が二つ。
自分の船体に魚雷が突き刺さっていた。
「……はぁ?」
爆撃機から逃げ回っていたら雷撃機が寄って来て、魚雷をぶつけてきた。
魚雷って、海の中を走るモノだよね?
最低限の決まりくらいは守るべきだと思う。
喫水線より上に刺さる魚雷とか、聞いたことがない。
とは言っても、轟沈は間違いないので、轟沈判定の旗を上げておく。
「……魚雷って空飛んだっけ?」
≪睦月ちゃん、一航戦よ?≫
「にゃはははは……それで納得できるのが怖い。」
もう、あれだな笑うしかねぇ!!
ゲラゲラ笑いながら、機銃弾をばら撒く。
まともに残ってんの、誰だ?
「左舷、雷跡…おっさん!!」
「長官と呼べ、この馬鹿が!!」
「うっせ、舵、任せてんだ、避けろ!!」
二航戦の攻撃は龍田たちに集中したお陰で無傷だった、なんて言わすわけにもいかねえ。
一航戦の攻撃ぐらい、凌いで見せる。
右の一軸だけスクリューの接続を外す。
がくん、と推進力のバランスが崩れた船体は通常以上の角度で右へ旋回、波間を抜けてくる魚雷は船体を捉えられずに通り過ぎていく。
「速度を落とすな、アホが!」
「あぁ!?次、左転舵……今!!」
上から喰い付いて来る爆撃機が爆弾を投下したタイミングで、機関接続。一気に転舵が掛かる。
上手くタイミング合わせてくれる、ただの鉄仮面じゃねえって訳だ。
お陰でこっちは好き勝手に機関や機銃を操れる。
いよっし、抜けた。
至近弾に違いはねぇけど当たってなけりゃ……
「機関一杯、上がれ!!」
オンボロ軽巡?
は、上等じゃねぇか、古参の意地見せてやるよ。
横合いから雷撃機……
はは、甘ぇ!!見えてんだよ!!
主砲塔を旋回、直接ぶつけようと投下された魚雷に自身の旋回の速度と合わせて砲身を叩きつける。演習用の塗料が飛び散るが、濡らしたのは砲身の周囲のみ、直撃じゃなきゃ安い。
「かっはっは、楽しいなぁオイ!!」
「貴様に同意するのは業腹だが……悪くは無い!!」
怒鳴りあうように声を張り上げながら一つ、一つと攻撃を掻い潜っていく。
思えば、初めて空母に負けた艦なんて言われて……あの演習の後、ムキんなって海野や鳳翔に絡んだ。
どうやったら、勝てるのか。
散々考えて、勝手に艦を動かして。
そんでも、ダメだった。
手前一人で全部なんて、出来やしねぇ。
龍田が気付かせてくれた、道を塞ぐって考え方。
南雲のおっさんの腕前。
無茶してもちょっとやそっとじゃ音を上げない艤装。
水飛沫の中を踊るように、なんて綺麗にゃ抜けてない。
泥臭く、塗料でベタベタになりながら足掻いて足掻いて……抜け切った。
急激な転舵で転んで怪我した奴も出た。
つーか、俺も転んだ。
南雲のおっさんだけ操舵輪にしがみ付いてたから無事だっただけ。
床に無様に転がりながら、見上げた先で一航戦の機体が撤収してくのを見た。
「………ははははは、やったぜ、やったぜ!!」
立ち上がったら、思ってる以上に膝に力が入らずよろけた。
他の艦橋員も似たり寄ったり、酷い顔色しながら喝采を上げている。
「まぁ及第点といった所だな。」
「にやけ面で言っても説得力ねぇぞ、おっさん。」
「……ふ、くくくく。」
堪え切れなくなったように笑い声をあげる長官に、一瞬呆気にとられる。
「んだよ、鉄仮面も笑えんじゃねえか。」
いやぁ、まさかの大奮闘でしたね。青葉見ちゃいました!!
戦訓及び、士気高揚の為という訳で、頑張っちゃいました。
艦艇からの写真に、映像。おまけに偵察機からの空撮まで!!
公費?ナンデスカソレ?
アオバムヅカシイコトワカンナイ~
と、前振りはこれぐらいにしておいて。
演習の結果は、前評判をひっくり返した天龍さん生存。
他の皆さんは中破、沈没判定でした。
艦載機の喪失、損傷も……正確な数は言えませんけどちょっとだけ出ており南雲長官が渋い顔をされていました。
ちなみに艦艇への被害も少しですが出ています。
まず蒼龍さんや赤城さん、加賀さんの爆撃を貰った方々が船体に凹みとか、一部電探、機銃に破損、ここら辺は予想の範囲内ですね。
で、問題なのはここから。
睦月さんの横腹に刺さった魚雷……改めて思いますけど演習用の魚雷が刺さるって何ですかね。
演習弾って少量の火薬&圧搾空気で塗料をばら撒くので、弾頭とか柔らかいんですけどね、一航戦恐るべし。
あ、ちなみにこれが演習後の睦月さんの写真です、見事に刺さってます。内側の写真ですか?
あったかな……あぁ、これです、これ!!
一番被害が大きかったのが天龍さん。
魚雷に叩きつけた砲身が歪んで取り換え、この瞬間を捉えられたこの写真は表彰モノですね。
おっと、話が逸れました。
砲身の取り換え、それから機関部も結構ヤバいらしいです。
専門的な事は省きますが、動力を伝える軸が過負荷で…あ、機密事項ですね、すみません、機関関係の所はカットでお願いします。
まぁ、結構修理しないとダメって感じです。
一番損害の無かった妹の龍田さんとは対照的ですね。
戦訓ですか?
う~ん、まだまとめてる所らしいですけど、「防空戦闘要論」ってお堅いのが配布される事になってます。
内容については軍機なので。
お勧めの写真ですか?
ん~これとこれですかね、あの南雲長官が呵々大笑しながらがっしり握手、その後、天龍さんと抱き合ってるんですよ?
いやぁ、あの人も笑えたんですねぇ……って南雲長官!?え、あのインタビュー中、え、今度は青葉が標的艦!?
笠、た~す~け~て……
青葉さん主体で撮影された映像記録。
幾つかの映像を繋ぎ合わせて、様々な角度から見られるというのは画期的だと思う。
自分が艦爆を突入させたとき、飛龍は何をしてたか、自分の突入は相手から見るとどう見えるのか、勉強になる事が多い。
繰り返し見れるって言うのも、良いね。
……たぶん。
加賀さんが、もう三十回は見返してるんじゃないかってぐらい見てる。
「……お腹が空きました。」
ぼそっと呟くと食堂に向かっていった。
そりゃ、飲まず食わずで、一日中見てたらお腹も空きますよ。
「加賀さん結構ショック受けてるね。」
「そりゃ、そうでしょ。私もショックだったし……」
「赤城さんなんか、戻ってすぐ戦闘詳報まとめ始めてたし、図とかも書いてたよね。」
「……多聞さんも色々考えてたね。」
「うぐぐ、私達だけ不真面目みたいじゃん。」
飛龍の冗談交じりの言葉に苦笑を返す。
思う所が無い訳でもないし、不真面目って訳でもないのが解ってるからこその苦笑。
「攻撃が、何かやり難かったんだよね。」
「……そっちも?」
「うん、気付いたら予定のコースから外れてるっていうか。」
「ずーっと嫌な気配がしてるっていうのかな、無視して突っ込んだら異常なほどに撃墜判定出たんだよね。」
機銃で狙われているからだと思ったけど、どうも違う。
演習だったから?
「機銃は見当違いの所を飛んでるのに、じーっと見られてるみたいな。」
「うん、それ!!龍田さんだけなら解るんだけどね……もっちーとかゆうばりんからもそんな気配がしてさ。」
「映像を見なさい、答えがあるわ。」
お櫃と片手鍋を抱えて戻ってきた加賀さんと茶碗とお椀と、大量の資料を抱えた赤城さん。
……なんか、真面目な顔してるのが笑いを誘う。
ダメ、笑うな蒼龍。我慢、我慢~!!
必死に堪えてる横で飛龍が噴き出した。
「頭にきました。」
「もう、加賀さんそんな場合じゃないですよ?蒼龍も飛龍も真面目に、ね?」
「……貴女達二人が感じた嫌な気配と言うのは、恐らくコレの事。」
映像をあるシーンで止めた加賀さんがこちらを見据える。
上から撮られた映像には飛龍が操る艦載機と海原、そして曳光弾の光であろう線が走っていた。
「????」
「やっぱり、当たるような角度じゃないよねぇ。」
「それじゃあこっちの図。」
赤城さんが差し出してきたのは、肉筆で書かれた龍田さんと飛龍の艦載機の位置関係図。
そこに龍田さんの進路と機銃弾が走っている線が複数引かれている。
デフォルメされた龍田さんと飛龍が可愛らしい。
「映像から割り出した模式図だから正確さには欠けるけど。」
滅茶苦茶細かい計算式書いてありますけど!?
弾道計算の公式とか、久々に見たよ!!
「……どう?」
「これ、こっちに行けないようにしてます?」
「正解。」
視越し射撃じゃない、そちらへ行かせないための銃弾。
「映像見る限り、天龍達の演習弾は曳光弾の数が多い、恐らく2発か3発に1発は曳光弾。」
「最初は、撃墜する為の誘導かと思ったんですけど……これ、私達が攻撃できる位置に付けないようにしてるんですよ。」
飛龍が図に指を当て、指を動かしていく。
「ほんとだ。」
「……解らずに位置取りを変えられていた事の方が驚きだわ。」
「えぇ、だって嫌な気配するから避けてただけですよ?」
言葉に詰まったのか、加賀さんは何杯目かのおかわりを茶碗に盛った。
「艦爆に対しても同じ、解り易い映像が無いから記憶任せになるけど……」
出された図ではデフォルメされた赤城さんが弥生ちゃんに突撃してる。
見事に、攻撃開始地点に線が走っている。
「蒼龍さんの被弾率が高いのは、ここを狙われたから。」
嫌な気配を無視して突っ込んだら、かなりの数が弾を浴びていた。
それが、赤城さんの示した箇所という事だろうな。
「でも、攻撃する上ではそこを通らないと……」
「そう、それを踏まえて攻撃方法を考えなければいけない。」
「難易度高いなぁ。」
「幾つか思い付いた対応策は試しているわ、映像を見ておきなさい……ただ貴女達の感覚任せも否定できません。上手く組み合わせなさい。」
「ふふ、特に龍田さんは撃墜も狙いながらの射撃でしたからね、」
「…………そうね、当たらなかったのが不思議よ。」
「蒼龍、私、褒められてる?」
「たぶん。」
目が覚めたのは、何処かの救護室。
記憶を反芻していく、確か基地を爆撃して……
頭の奥がまだ痺れているような靄がある。
身体に力は入る、立ち上がって病室を後にする。
何処かに、誰か……居ないかしら?
「翔鶴姉!!」
確認する必要もないぐらいに聞き慣れた声。
振り返る間も無いほど、すぐに身体にぶつかる感触。
「瑞鶴、心配かけたみたいね。」
「翔鶴姉、翔鶴姉~!!!」
じゃれるように頭を擦りつけてくる。
声の大きさに人が集まってくる気配がある、少し恥ずかしいのだけれど……
私に抱き着いていた瑞鶴から、作戦が無事完遂された事を聞き胸を撫で下ろす。
「あ、後大佐さんが起きたら顔見せに来いって。」
「大佐、って海野大佐?」
「うん、私達はあの人の指揮下に移ってるから。」
鳳翔さんを始めとする軽空母の方々の大半が指揮下に入った事があり、軽空母運用について経験が豊富。
一方で、正規空母を預かったのは赤城さん、加賀さん以降、グラーフさんが来るまで無し。
どんな方なのだろうか。
瑞鶴に案内されながら、執務室へ辿り着く。
ノックの後、促されて中へ。
書類に埋もれ気味の大佐の姿があった。
「……無事、意識が戻ったようでなによりだ。」
「ご迷惑をおかけしました。」
頭を下げる私に、気にするなと安堵の笑みを向ける。
その横では不知火さんが書類作業を手伝っているけど、不満げな表情が望んで彼女がここにいる訳ではないのを雄弁に物語っている。
「翔鶴、任務遂行ご苦労だった。」
「ありがとうございます。」
「陸軍からも感状が出る事になっているが、そちらは少し時間がかかっている。」
「陸軍から、ですか?」
「あぁ、グラーフが山下中将にも直談判したらしい……彼女のブシドーを無視するな、とな。」
通信で会話をしただけ、顔すら見たことも無い相手の為に直談判をするなんて。
なんとも、面映い気持ちになる。
「あいつが勝手にやった事だ、会った際に軽く声をかけてやれば良いだろう。」
「はい。」
大佐は少し顔を険しくし、口を開いては閉じを何度か繰り返した。
「……病み上がりで聞くのは少々酷かもしれないが、なぜ機体で体当たりをした?」
「確実に砲台を破壊する為、です。」
「その結果、お前は意識を喪失したが……それは正解と考えているのか?」
じくり、と胸に痛みが生まれる。
私が操っていた艦載機は糸が切れた凧のように……墜落しただろう。
空母として、最悪の失態と言える。
「ちょっと、大佐!?」「大佐、今の言い様は悪意しか感じません、そもそ「俺は翔鶴と話をしている、二人には発言は許可していない。」」
瑞鶴達の言葉を断ち切るような強い語調。
瑞鶴と不知火さんの視線は大佐を睨み付けている。
上官に向けるべきでは、無い視線。大佐の判断次第では営倉入りもあり得る。
「申し訳ありません。」
深々と頭を下げる。
気付かずに握りこんだ拳が微かに震えているのは、なぜ?
「謝罪を要求したつもりはない。」
下げた頭に、厳しい声が降ってくる。
背後で瑞鶴の怒気が膨れ上がっているのが伝わってくる。
「申し訳ありません、私の練度不足です。」
頭を下げたまま、謝罪を重ねる。
一拍を置いて部屋の中に大きなため息が零れる……失望されたのだろうか。
「自身や瑞鶴の状況を考慮し扶桑達動かした事は非常に良い判断だった。」
「は、はい。」
「だが、体当たり、自爆という行為を俺は賞賛しない、したくない。」
大佐の声から厳しさが抜けている。
指揮官としてではなく、個人の声だからなのだろう。
「空母にとって操っている艦載機の体当たりは負担が極めて大きいのは、幾度かの実例から確定している、そしてその負担が重なり過ぎれば意識喪失し……眠り続ける。」
「……天燕さん、ですね?」
内地にて、練習艦扱いとなっている一隻の軽空母。
損傷はなく、人が操縦すれば動かすことも十分にできる。
しかし艦娘としての彼女は、意識を失ったまま。
消えていない事から、「死んではいない」と判断されているだけ。
「………そうだ、お前も同じように意識が戻らない可能性もあった訳だ。」
しかし、戦場で兵士が傷付き亡くなっているのに私達が傷付くことを恐れていて良いのだろうか?
あそこで砲台を破壊し切れていなければ、余分に他艦や軍人に死傷者が出たはず。
「……納得できないのなら、軍人らしく損得で考えてみろ、翔鶴型航空母艦を造るコスト、艦娘が宿る可能性がおよそ60%。練度を上げる手間に、お前を失った事による他艦娘なんかの士気低下……損失の方が大きいんだよ。」
大佐の声には、語った言葉以外の感情が滲み出ていて……
「取ってつけたような理屈ですね、もう少し本心を隠せるように努力されては?」
「不知火、お前俺のこと嫌いだろ。」
「……否定はしません。」
「お前、間宮羊羹抜き。」
「な……権力の濫用です、横暴です。」
「知らん、上官に歯向かうからだ。」
「く……」
「後、軍需品だから勝手に特号食を食べるのも禁止。」
「……不知火を怒らせたわね!?」
くすくす、と抑えきれない笑いが零れていく。
「とにかく、だ。俺はこうやって部下達と馬鹿をやれるのが一番なんだ、艦載機や補給物資なら俺が何とかしてやる……だから、無茶をするのは極力避けろ。」
この人は、私達も含めて部下を大切にしている。
損得じゃなく、ただ、ただ悲しませたくない、それだけなんだ。
「……甘ちゃん、臆病者と言われる理由はそれですか。」
「言いたい奴には言わせとけ、俺は、俺の信念をもって軍務に精励するだけだ。」
「そうですか、それでは海野大佐、五航戦翔鶴、現在より貴方の指揮下に復帰いたします。」
「短い間になるだろうが、よろしく頼む。」
「仕方がないとはいえ……」
思わず零れる愚痴。
他に比べ、自身の地位が低いのも理由なのだろう。
ジャワ島攻略戦への参加命令。
「すまん。が、やってくれるな?」
「……小沢長官、一つ我儘を聞いて頂いてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
先の海戦。
快勝ではあったが、長距離攻撃を仕掛けた五航戦の艦載機にかなりの損害が出た。
また、占領した地域の防空戦力として五航戦を筆頭にグラーフ、飛燕、祥鳳、龍驤航空隊は毎日のように出撃を繰り返している。
陽炎以下、数隻の駆逐艦は輸送船団護衛で内地に向かうことになっている。
陸軍の戦闘機隊も徐々に増えているが、破竹の勢いで進む陸軍についていくのが精一杯。
「龍驤、貸していただけませんか?」
「無理だな、角田君の指揮下に入る事になっている。」
「……グラーフ達、連れて行きますよ?」
「防空が疎かになる。陸軍からも文句が出るぞ?」
「内地から……」
「打診はしてみるが、間に合わんだろう。むしろ、早く五航戦を返せと言われているぐらいだぞ?」
「ビスマルクも改装の為動けず、プリンツとレーベ、マックス、叢雲だけでなんとかしろと……」
「技研からプリンツオイゲンの電探調査が来ている、動けんな。」
「長官、駆逐艦3隻で何をしろと。」
一応、水雷戦隊の指揮も取れなくはない。
だが、駆逐艦3隻で水雷戦隊と呼べるのか。
レーベ、マックスは防空に特化させた関係で魚雷も積んでいないというのに。
「……何処かに手の空いてる艦娘は居ませんか。」
「俺も知りたいところだ。」
攻略戦の主力は那智、羽黒の五戦隊。
流石の英海軍にも余力は無いはずだが、豪海軍に米海軍が出てくることが想定されている。
油断は出来ない。
一時的に何処かの水雷戦隊と合併するのが正解だろうが、生憎「臆病者」のレッテルは水雷戦隊からは嫌悪の対象になっている。
「川内は、借りれませんか?」
「……貴様なぁ。」
呆れたような長官の声。
まぁ、図々しいと思われるのは百も承知だ。
川内は先の海戦で損傷を受けており、万全とは言い難いのだが……個人的に親交があり、さらに今作戦で出撃する神通、那珂の姉でもあるので居れば非常に心強い。
「マレーで夜戦突撃したお陰で貴様の評判は多少マシになったんじゃないのか?」
「どうでしょうね、そもそも山本さんの腰巾着として嫌われていますし。」
そもそも、私は海軍の中では異色なのだ。
駆逐艦や軽巡洋艦の船員としての乗り込み経験はほとんどなく、士官学校卒業後、いきなり鳳翔の艦長から経歴が始まっている。
理由は航空機に関して論文を発表し、それがお偉方の目に留まったから。
成績もぱっとしない青年士官に、使えるのか解らない航空母艦の組み合わせなら将来出世の邪魔にもならないと思われていたらしい。
結果は、宮様や山本司令長官の秘蔵っ子扱いになった訳だが……諸々の影響で主力とは言えない、部隊を任されていた。
現状は戦艦1隻、重巡洋艦1隻、正規空母3隻、軽空母1隻、駆逐艦3隻と気付けば十二分に主力級になっているのだが……自由に動かせる訳でもない。
とにかく敵は米英だけじゃない、情けない話である。
「はぁ……四水戦の西村は知らん仲ではない。俺の名を出せば多少はマシだろう。後、工廠にも顔を出しておけ、修理が完了している手空きが居るかもしれん。」
長官に深々と頭を下げる。
「ご面倒をおかけします。」
「……本来であれば、グラーフと飛燕は貴様の指揮下だからな。その分ぐらいは、面倒を負ってやるよ。」
「ありがとうございます。」
「はぁ…はぁ…」
床に転がっているのは甚だ不本意だが、立ち上がろうにも身体を動かすことが億劫。
艦を動かす事、それは艦娘からすれば出来て当たり前。
それをどれだけ長く、正確に動かせるかは、個々の能力次第。
一にもニにも体力だと、馬鹿の一つ覚えの様に走った。
集中力や瞬発力を鍛える為に剣道も学び研鑽を続けている。
「ぬ~いぬ~い?」
「だれ、が……ぬい、ぬいですか。」
荒れた息を整える間もなく、なんとか抗議の声を上げる。
命令無視の懲罰として言い渡されたのは、海野提督の秘書として書類整理手伝いと川内さんの夜間鍛錬に付き合う事。
姉に言わせれば軽い処分で済んだ、らしいのだけれど提督の真意が解らないのが苛立ちを生んでいる
尚、同じように命令を無視したらしいビスマルクさんは、大量の反省文と官舎の清掃をやらされている。
なんとか呼吸を整え上半身を起こす。
視線の先では川内さんが竹刀を片手で弄んでいる。
息を乱し、汗塗れの自分とは対照的に涼やかな立ち姿。
「最初に比べれば、強くなったね。」
「…………」
早朝のランニングや鍛錬は欠かしていない。
剣の腕前が特別劣っているという事も無いはず。
それが、この様である。
「今日はこんな所にしておこうか。」
「明日こそ一本を……」
夜間鍛錬に付き合い始めて既に2週間。
一本すら取れない。
「……ぬいぬい、勝ちに拘るねぇ。」
「貴女が、それを言いますか。」
海軍一の夜戦馬鹿と有名な彼女に言われるとは、そんな思いが口から零れる。
「勝てる訳ないって諦める人多いよ?」
「軟弱者ですね、誰か知りませんが。」
何処かの臆病者の顔が思い浮かぶ。
きっとあの大佐は負けを認めてそれっきりなのだろう。
「あ、ちなみに海野さんは私に勝ったよ。」
「……は?」
耳を疑った。
「そんな、馬鹿な。」
「不知火、もう少し視野を広く持てるようにね。」
「…遠山の目付と言うやつですか?」
「違う、違う。」
そんなんじゃないよ、そう悪戯っぽい笑みを浮かべながら近寄ってくると、ぐしゃぐしゃと髪をかき乱すように撫でられた。
「……よく、解りません。」
「皆、当たり前に出来るのに見落としてるんだよ。私も見落としてたんだけど……とりあえず、お風呂、行こっか。」
妹の改装は上手くいった。
つい先ほど届いた手紙には、その事が溢れんばかりに詰め込まれていた。
機密事項を書いたのか検閲として塗りつぶされた箇所があるのが、よほど嬉しかったのだろう。
嬉々として書き綴っている姿が容易に想像ができる。
「良かったわね、私も頑張るわ。」
与えられた部屋で、山城からの手紙を改めて読み返しているとドアがノックされた。
「どなたかしら?」
「あ~…グラーフツェッペリンだ。扶桑、少し良いだろうか?」
「えぇ、どうぞ。」
作戦で一緒になってから、少しずつ話をするようになった異国生まれの彼女。
「すまない、プライベートな時間だというのに。」
「どうかしましたか?」
「うむ、その、だな。」
何やら言い辛そうに視線を彷徨わせている。
決断の速い彼女らしくない、珍しい姿のように思う。
手元を見れば手桶に着替え。
「……この国の人間は共にお風呂に入る事で親睦を深めるとプリンツから聞いて、だな。」
「お風呂ですか?」
「う、うむ。ハダーカノツツキアイ?だとか。」
「それで、私ですか。」
「いや、迷惑でなければで、構わない。その……流石にアドミラールと入るのは恥ずかしいのでな?」
あぁ、これはプリンツさんが色々勘違いして間違った認識が広まっているんですね。
「グラーフさん、殿方と公共の場で一緒にお風呂に入る事は、ほぼありえません。」
「……そ、そうか。」
「はい、後ツツキアイではなく、「裸の付き合い」です。色々と大変な誤解を生みかねないので…プリンツさんには後でお話をしましょうか。」
「……安心した。」
大きく息を吐いた彼女の様子が可笑しくて、口から笑いがこぼれていく。
「ふふふ、今までは部屋のお風呂で済ませていたんですか?」
「あぁ、あまり人に肌を晒すのは……扶桑は平気なのか。」
「そう、ですね……恥ずかしいと思うこともありますけど、なにより広いお風呂は心地良いので。」
手早く湯浴みの用意を整え、女性用の浴場へ向かう。
普段に比べると幾らか、遅い時間帯。
利用者は数人程度のようだ。
※若干のエロ(?)ありです。
といっても、少年誌以下なので期待はしないでください。
「この籠に着替えを入れて……えぇい、独逸軍人は狼狽えん。」
意を決したように衣服を脱いでいく。
独逸から来た彼女たちは、総じて肌が白い。
それのせいもあるのだろう、ほんのりと羞恥で赤くなった頬がよく目立つ。
まぁ、慣れるまでは大変ですよね。
そんな思いを抱きながら、こちらも衣服を脱いでいく。
「……ネックレスは着けていても良いのだろうか。」
髪を軽く束ねていると声が投げられる。
視線を向けると、素肌に銀色の鎖を乗せたまま小さな飾りを指で弄んでいる。
こちらの視線に気付くと、咄嗟に胸元を腕で隠しながらやや上気した顔を向けてくる。
「お湯で傷んでしまう事もありますよ?」
「……それは、解っている。」
「駄目、と言うことはありませんよ。」
そうか、と小さく頷くと大切そうに飾りを手で握り込み、額に当てるようにすると聞き取れないほど小さな声で何かを呟いた。
よほど、大切な物なのでしょう。
「よし、では行こうか。」
気を取り直すように、浴場へ向かっていく。
……言った方がいいのかしら?
自身は、手拭いで四肢を少なからず隠している。
女同士とはいえ、肌を晒しているのはやはり恥ずかしい部分はある。
湯船に浸かるまでは、肌を軽く隠すようにしているのが常で、特に彼女のように成熟した女性であれば尚のこと……
数瞬迷った後、手拭いを外して彼女の後を追う事にした。
「あれ、扶桑にグラーフ?」
浴場には川内さんと不知火さんが居た。
掛けられた声に軽い会釈を返すのだが……
「木だ、木で出来ている。」
グラーフさんは初めて入った大浴場に驚いているようだ。
誰の拘りなのか、ここパラオの浴場は檜を贅沢に使っており、私もここに着任した当初は驚いた。
…………しかし、グラーフさん。
驚いているのだろうけど、その、仁王立ちはどうかと。
正面で湯に浸かっている川内さんがそれとなく顔を逸らしているし、顔が赤いのは湯あたりだけではないと思う。
「入って、良いのか?」
「先に、身体を洗ってからです。」
ようやく驚きから帰ってきたのか、やや弾んだ声。
む、とやや残念そうな声を上げるといそいそと洗い場の方へ向かう。
「不知火、隣良いだろうか?」
「ぬい!?」「え?」
洗い場は10人が同時に使えるように広く取られているのに、何故か不知火さんの真横に陣取る。
声を掛けられて驚いたのか、慌ててこちらを向いた不知火さん。
「駄目か?」
「構いませんが……く。」
普段から鋭い視線が、グラーフさんと私の身体の一部を確認した後より厳しくなった気がする。
何処を見たのか、解るが確認する勇気はない。
「隣、失礼しますね。」
グラーフさんの隣に座り、まずは身体にお湯をかけていく
「ん……はぁ。」
日差しが強いからなのだろうか、こちらに来てからお湯がややヒリヒリと感じる。
手拭いの上で石鹸を泡立て……視線に気付いた。
「何か?」
「……いや、すまない。」
あぁ、なんとなく彼女が何を言いたいのか解った気がする。
「グラーフさん、もし良ければ背中を流して頂いても良いですか?」
彼女は、親睦を深めたいと言っていた。
プリンツさんからどんな話を聞いたのか、推測しかできないけれど。
「!!」
「終わったら、交代しましょう。」
「あ、あぁ。」
手拭いを渡すと、やや口元を綻ばせた彼女が後ろに回った。
「ふ……ふふ。」
ぎこちなく、恐る恐る肌に触れる手拭いの感触がくすぐったくて、思わず身体に震えが走る。
「す、すまない何か、失敗したか?」
「いえいえ、なんだか新鮮で。」
「そうか、私もこちらに来て以来、新鮮な事が多くて……ふふ、なるほど。共に風呂に入るのは良いものなのだな。」
冷静で落ち着いた風貌を崩すことの少ない戦友は、思った以上に日本の文化に翻弄されていたようで、日常の疑問が多い。
ゴボーという木の根っこらしき物体はなんだ。
なぜ腐った豆を食べるのだ。
生の魚を食べているのを見かけたが、度胸試しか何かなのだろうか。
雑談に華を咲かせながら、背を流して貰う。
「よし、背中はこれで良いな。」
「はい、ありがとうござ……あ…ん…や…!!」
するり、と手拭いを持った手が伸びてきて腹部に触れる。
驚いて身を縮めてしまったのが……良くなかった。
石鹸で滑りやすくなっていた彼女の腕が自身の敏感な部分を撫で上げ、声が零れてしまう。
かぁと、顔に血が上る。
動かないようにと、彼女の腕を掴むのだけれど……
「す、すまない!!」
「や、だ……だめ、動かさない…で…指…んん……」
慌てた彼女が腕を引こうと力を込めたせいで、指が強張り這うように肌を擦り上げながら背中側へと抜けて行った。
「……はぁ。」
吐息を整え、ゆっくりと振り返ると顔を真っ赤にしたグラーフさん。
「……前は自分で洗いますから。」
「すまなかった。」
なんとも気まずい空気になってしまったのだけど……どうしましょう。
手早く身体の前面を洗い終え、居心地が悪そうにしている彼女に声をかける。
「交代、ですね。」
「あ、あぁ。」
椅子に座った彼女の後ろに陣取る。
しかし、その、自分が変な声を出してしまったせいなのだけど……先ほどの和やかな空気が霧散している。
「……ひゃん!?」
突然、背後から腕が伸びてきた腕。
「いやぁ、こんだけ大きいと触りたくなるよね。」
けらけらと笑いを混じらせる声で犯人が解る。
「せ、川内さん!?」
「ひひひ~良いではないか、良いではないか~」
遠慮なく胸を揉みながら楽しげに笑っている。
「も、もう川内さん!!」
「別に良いでしょ?女同士なんだし、さ。」
騒ぎに振り返ったグラーフさんと目が合う。
もう、仕方ない。
背中に川内さんを引っ付けたまま、グラーフさんに抱き着く。
「これで、おあいこです。」
グラーフさんの顔は真っ赤。
きっと私も負けず劣らず真っ赤。
けれど、なんだか可笑しくて。
笑い声が零れていく。
散々騒いでいた、彼女たちが湯船に入ってきた。
巻き込まれる前に、身体を洗い終えていて本当に良かった。
……扶桑さんに川内さん、グラーフツェッペリンさん。
全員が自分を凌駕している、駆逐艦の身を呪う訳ではない、
「も~ぬいぬいってばいつの間にか湯船に退避してるんだもん。」
「……私は、あのような騒ぎは苦手です。」
返す言葉に向けられるのは苦笑。
「確かに、あまり褒められた事ではないのだろうな。」
「あはは……すみません、グラーフさん。」
先ほどの騒動を思い返しているのだろう、視線を泳がせながら二人は顔を赤くしている。
意外、と思う。
扶桑さんは、戦艦の中でも大人しい方であったハズ、グラーフツェッペリンさんも冷静で質実剛健とでも言えば良いのか、そんなイメージを持っていた。
「……グラーフツェッペリンさん、聞きたいことがあるのですが。」
そう切り出し、胸の中にある疑問を、ぶつけた。
先の海戦の出来事と、出頭した執務室での海野大佐とのやり取り。
私の判断は間違っていたのだろうか?
そして、姉である陽炎があんなにもキツイ視線を私に向けた理由はなんなのだろうか。
私はまだ彼を信頼できない。
グラーフツェッペリンさんは日本に来てからずっと、彼の指揮下にいる。
私と同じように疑問を抱いているのではないだろうか、そんな期待があった。
事の顛末を語り終えた私に向けられる視線は、少なからず理解の感情が滲んでいるように思えた。
「……捨身になるタイミングではなかったのではないか?」
「……そう、でしょうか。」
「魚雷は命中済みで戦闘力は削いでいた訳だろう?小沢艦隊への攻撃を防ぐという目的であれば十分に達成できているのではないか。」
「しかし、まだ……」
まだ、敵駆逐艦も残っていた。
敵の空母らしき艦も沈んではいなかった。
「……不知火、貴艦は何の為に生み出された?」
「敵を討つ為です。」
「ならば、より多くの敵を討てるように生き残るべきだ。」
「しかし!!」
「仮に単独での追撃に成功したとして…不知火は何隻沈められた?」
「……」
「沈みかけの2隻に、駆逐艦が1隻か2隻といった所か。」
「はい。」
「その程度、1隻沈める戦をたった四回こなせば達成できる。」
数の上では、でしかない。不満を読み取ったのだろう彼女は言葉を重ねていく。
「不知火、貴艦は敵に容易く沈められるつもりか?」
「馬鹿にしないでください、この不知火そう簡単に沈みはしません!!」
「そうだろう。アドミラールは貴艦1隻と敵艦4隻程度じゃ釣り合いが取れないと判断しただけ、そう思えばいい。」
翔鶴さんに言ったのと同じ、詭弁だ。
確かに、そうなのかもしれない。
でも、でも、それでは納得ができない、できなかった。
「今回は4隻相手に死を覚悟したが、今ならもっと上手くやれるのではないか?」
「……当然です。」
同じ失敗を繰り返しはしない。
敵駆逐艦の動きを読み違えた……いや、意識の外だった。目の前の艦を沈める事だけに集中し過ぎた結果、囲まれた。
それを叱責されるのであれば、納得ができる。
「どうやら理屈では無いのだろうな、その苛立ちは。」
私の顔をマジマジと見ていた彼女は小さく呟くと、話は変わるがと断りを入れた後言葉を続けた。
「指揮官を無能だと笑えるのは、指揮官が「死ね」と命じた戦で目的を達成し生き残った時だと、私は考えている。」
「……無能だとは、思っていません。」
「私の目標のようなものだ、あのアドミラールを笑い飛ばしてやる、きっと痛快だぞ?」
命懸けの戦場で得られるモノとしては、ひどくちっぽけで無駄なモノのように思える。
けれど………
「魅力的ですね、ふふふ。」
それはきっと、姉妹にも自慢できる快事。
彼を全面的に認めるのではない、彼の想定の上を行って自身の力を示す。
「やっていぇりゅまし……」「不知火!?」「不知火さん?」
上手く口が回らない、頭がぼーっとする。
意識が黒く染まっていく……
「あ~……のぼせたのね。」
誰かに受け止められた感触で、意識が飛んだ。
パラオ泊地、会議室。
「セレター港への異動と、ジャワ島攻略隊支援ですか。」
広げられた海図を確認しながら鳥海が声を上げる。
「セレター港へ異動しそこを根拠地とする事になるのだが、同時にジャワ島攻略支援の任務も入った。」
「根拠地設営及び防衛指揮の為、長官はセレターに行かねばならず……ジャワ島攻略支援隊の指揮は海野大佐が執られると。」
ここに集められたのはパラオ泊地で哨戒や防空支援などに出ていない、小沢艦隊の軽巡以上の艦娘達。
霧島、最上、三隈、鈴谷、熊野、鳥海、龍驤、川内。
向けられる視線は、かなり冷やかだ。
仕方がないと解ってはいるが、居心地はよろしくない。
「そうだ、そして海野艦隊は現状で動ける艦娘が叢雲、Z1、Z2の三隻のみ。」
「私達の中から、海野艦隊に出向せよという事ですわね?」
熊野の言葉に重々しく小沢長官が頷く。
「……私は、セレターの要ですから海野大佐の指揮下に行く訳にはいきませんね。」
「私も長官の秘書艦としての仕事上、お傍を離れる訳にはいきません。」
霧島と、鳥海は早々に離脱。
長官の顔が渋くなるのと同じように、自分の顔も引きつっているだろう。
「最上はどうか?」
「僕は……、いやぁほら僕はね?」
煮え切らない返答。
「みく「くまりんこ。」」
「み「くまりんこ!!」」
問答無用。
「鈴谷?」
「え~……鈴谷、ちょ~~~~~っと無理かなぁって。」
「熊野?」
「お断りいたしますわ。」
酷い有様である。
背筋に嫌な汗が滲む、長官も眉間に手を当て完全に固まった。
「……命令、というのでしたら従いますけれど、私、貴方の事を信用できませんわ。」
重苦しい空気を更に重くするように熊野は言葉を続けていく。
「先の海戦では不知火を囮にしたという噂もありましたし……そもそも勇猛果敢であるべき殿方が臆病者、卑劣漢と言われて反論もできないような有様、誰もついていきませんわ。」
「それは根も葉もない嘘だよ、不知火だって否定したはず。訂正して。」
「……訂正いたしますわ、そういった噂が立ってしまう下地がある、ですわね。」
「あのさ、喧嘩売ってるの?」
「少なくともそういった評価をされてしまっている事を自覚するべきですわ。」
川内の助け舟も空気は悪化するだけ。
長官や自分が「命令だ」と断じれば彼女たちは従う。
しかし、艦娘には厄介な部分がある。
任務に対するやる気とでも言えばいいのか、精神的なモノによって性能が変化してしまう。
関東での震災時、救援に向かった長門が40kn近くの速力を出した、演習時に物理法則を無視したかのような急角度での変針を見せた川内や神通達。
果ては、当たるはずのない魚雷が突如進路を変え目標に直撃をした事例もある。
そうかと思えば、彼女たちが望まない出撃では各種故障が頻発するといった事例もある。
それゆえ、こうして彼女たちに自発的に参加求める訳だが……
「ここまでとは。」
小沢長官が呻くように声を絞り出す。
「なっはっは、こら酷い。」
「笑い事じゃないんだがな、龍驤。」
「せやけど、まともに言うこと聞こかって娘、川内とウチだけやで。どないすんの?」
「貴様は角田君の艦隊行きだ。」
「そーですか、そしたら……海野艦隊に行きたいって奇特なんは川内だけか。」
「空母が居る海野艦隊なら信用もできる………できるような気がしないでもないような気がするんだけど。」
最上がなんとか空気をマシにしようと頑張ってくれている。
疑問形なのが悲しい。
そして、目は合わせてくれない。
そんな最悪な状況の中、ノックの音が響く。
改装後の簡易試験を終えたばかりの身で、戦場へ。
不安が残る。
何事も計画を立て、万全を期すことを是としてきた自分にとっては……
いや、私が考えるべきではないのでしょう。
気持ちを切り替え、自身に将旗を掲げる事となった提督を見やる。
良くも悪くも、今までの職務上で彼の噂は聞いている。
着任先の指揮官として、彼への評価は……芳しくはない。
そう、芳しくない。
しかし、鳳翔さん以下、歴戦の方々の一部は彼を強く慕っている。
「大佐、何食べてるのさ?」
「胃薬だよ、胃薬。」
「うわぁ……」
今作戦についての会議へ出る為、内火艇で第五戦隊旗艦、那智へ向かう道中。
川内さんと話す姿は、気迫に満ち溢れ肩で風切る帝国軍人の理想とは、かけ離れている。
まったく、情けない。
「提督、少し厳しい躾が必要のようですね?」
意識を集中すれば、手には黒い教鞭が現れる。
「小沢艦隊ですらあの扱いだったのは流石に堪えた。備えるに越したことはないだろう?」
「……ほほぅ?」
教導艦として、新兵未満の血気盛んな子達を指導してきている。
脅して、落第を取り消そうとしたやんちゃな子も少なからず居た。
それらを黙らせてきた視線を刺す様に向ける。
「……俺の方が先任だし階級も上なんだが。」
「確かに、提督の方が上位ではありますが……部下からの指摘に対して権力を盾にするのが海軍士官たる者のやり方ですか?」
「むむむ……」
「何がむむむ…ですか!五省、唱和!!」
「……は?」
「き、こ、え、ま、せ、ん、で、し、た、か?」
「ひ、一つ、至誠に悖る勿「声が小さい!!」」
先が思いやられます。
いや~壮観だね。
那智の船上から見回す視線の先、主要艦艇が揃い踏みしている。
自身が率いる四水戦だけじゃない、第五戦隊、二水戦……こっちの海域にいる人、勢揃いって感じ。
内火艇でこちらに向かっている姉を見つけて、頬が緩む。
ん?何か聞こえる。
「不精に亘る勿かりしか!!」
……発声練習かな?
恰好から察するにあの人、海軍士官なんだけど。
川内ちゃんと一緒にいるって事は、アレが噂の人だよね。
「想像してたのよりは、まともそうだけど。」
姉の手紙には何度も名前が出てきた人物。
海野大佐。
落ち着きのないヘタレチキンな上に甘いもの好きって聞いてたから、てっきり眼鏡の百貫デ…おっと、アイドルが使っちゃいけない言葉が出そうになっちゃった。
まぁ、特号食は喉が荒れた時とか重宝してるんだけど。
「あれが海野大佐ですか。」
「ひゃ!?」
「……どうかしましたか?」
「も、も~神通ちゃん、気配もなく後ろに立つの止めてよ~」
「そんな……その、ごめんね。」
申し訳なさそうに頭を下げる姉。
鬼教官、なんて呼ばれる二水戦の旗艦には見えない。
オフの時とオンの差が酷すぎるんだよね~
ちなみに、オンの時にちゃん付けで呼んだら半日はマラソンに付き合わされる。
川内ちゃんは隠れてやり過ごしたけど、そんなスキルは私には無いから……ははは、懐かしいなぁ。
「那珂?」
「あ、ごめん。」
「……そろそろ、会議室に戻りましょう。」
「うん、川内ちゃんも到着したみたいだからね……よっし、那珂ちゃん現場入ります!!」
「会議では真面目に、してね?」
「那珂ちゃんはいつでも真面目に真剣だよ!!」
会議室に入るまでは、オフ。
こんなじゃれあいにも、楽しそうに付き合ってくれる。
さてさて、それじゃ本気と書いてマジで会議に出撃だ~!!
「……海野艦隊、海野以下参りました。」
一斉に向けられる視線は、少なくない敵意が混じっている。
私個人として、彼に対して悪感情を持っているつもりはない。
戦の機微を見抜く力や作戦立案に関しては評価をしている。
「……あぁ、そこに座れ。」
「ありがとうございます。」
「なぜ艦娘を二人も伴っている?」
姉さんと、香取さんを確認して角田長官が声をかける。
こちらの視線に気付いた姉さんが手を振ってくるが、黙殺しておく。
「は、自分は水雷戦については経験が浅く助言役として川内に同行を命じました。」
「旗艦は川内ではないのか?」
「通信及び、探知能力の観点から香取の方が適正であると判断しております。」
小さく失笑が起こる。
「浅い?経験がないの間違いだろう。」
陰口と言うには随分と声が大きい。
聞こえているであろう海野大佐は、表情を崩さず席に座る。
旗艦が香取さん?
不審に思って、手元の資料を確認する。
彼の指揮下は軽巡2隻に駆逐艦3隻の水雷部隊……能力的にも経験的にも姉さんが旗艦になるべきではないだろうか。
「練習航海にでも出るつもりでありますか、海野大佐殿~?」
「新米士官には練習航海は必要かもな。」
議場にいる数人から揶揄するような、悪口が飛ぶ。
聞くに堪えず、視線を向ければ声の主は視線を逸らし黙り込む。
「諸君、会議を始めよう。」
高橋長官の声で会議が開始される。
敵軍の戦力予測、航行する予定航路や時刻。
陸軍との連携について。
そして、話が敵艦隊との遭遇時の対応に移った所で会議が紛糾する事になる。
「……やはり、米英の重巡洋艦が一番厄介だな。」
「そうですな、しかし肉薄雷撃をすれば一瞬で海の藻屑です。」
「うむ、あのフッドですら我が国の酸素魚雷で一撃だったのだからな。」
予想される敵最大戦力への対処。
妙高型の四隻が居る、砲戦でも勝ち目は十分あるのだが、斬り込んで魚雷戦に持ち込むつもりの人が多い。
「異議あり、肉薄すればこちらも相応に被害を被る。可能な限り安全策を取るべきではないでしょうか?」
「臆病者の意見など知ったことか!!」
「しかし、無為な損失は避けたいのも解る。」
「西村少将!?何を弱気な、敵弾など当たりはせん!!」
「損害を恐れて勝利などあり得ません!!」
地形を利用した待ち伏せや、広い海域への釣り出しといった方法で、先手を取り離脱をするといった撃退を主目的にしている海野大佐と、それを臆病者の策と嘲笑し正面から撃ち合い撃滅する事を主目的とする田中少将付きの島津大佐。
「怖いのなら後ろで隠れていたらどうだ、海野!!」
「島津、そのぐらいにしておけ。海野の言うことも一理あるんだが、我々は帝国軍人だ。正々堂々戦うべきではないか?」
「田中少将、勝つために策を練るのが臆病だというのでしょうか?」
「そうは言うつもりはない、だが……我々にも誇りや意地がある。」
「……そう、ですか。」
何事かを言いかけた口を噤み、渋々といったように頷く。
彼が口を噤んだ事により、積極的な敵との交戦を主軸に作戦が立案されていく。
高橋中将の宣言で会議が終わり、各々が会議室を出ていく。
「愚かだと思うか?」
声に視線を向ければ、高橋中将が苦い顔をしていた。
「……気持ちは解らなくもない。高潔である事は必要だろう。」
「そうか。」
戦いに対する美意識とでも言えばいいのだろうか。
正々堂々と戦う事を良しとする。
時代錯誤だと言われても、名乗りを上げての一騎打ちを所望する。
艦娘や軍人の中にはそれを否定する者もいる。
理屈ではそんな非効率的な事をする必要がないと解っていても、憧れとでも言えば良いのか、胸を焦がす感情がある。
「少なくとも、私は貴様達のような潔さや心構えには好意を抱いている。無論、海野大佐達の言う効率重視が絶対悪であると言うつもりはないのだが……な。」
「……まったく、効率よく敵を討つべき兵器が感情を語るとは変な世の中だ。」
「くっくっく、まったくだな。時に提督よ、今晩は達磨で一杯といかないか?」
「明日には出撃だぞ?」
「酔いを残すような無様はしないさ。」
グラスを傾ける仕草と共に送った誘いには、先程とは違う苦笑が返事代わり。
長官達を見送りに出ていた姉が聞き咎めて、頭を押さえていたが決戦前ぐらいは見逃してほしい。
「貴様、今なんといった!!」
つまみは何が良いか、そんな思考を中断させるには無粋すぎる怒声。
どうやら、穏やかに終わってはくれなかったようだ。
大きな溜息を一つ、資料をまとめていた手を止め、艦に意識を向けて場所や状況を把握。
「島津大佐と海野大佐……いや、川内か。あまりよろしくはなさそうだ。」
「那智、案内を頼む。」
「了解した、姉さんすまないが……」
「私も同行しましょう。」
「助かる。」
「やれやれ、手早く片付けて晩酌と洒落込むとしよう。折角だ、足柄に羽黒も誘って華やかに飲もう。」
「良い案だ。」
呟いた軽口。
それに返ってきたのは怒声。
やらかしたかな、と思いもするけど本音を言っただけ。
「……男の嫉妬は見苦しいって言ったんだけど?」
視線を向ければ肩を震わせ、顔を真っ赤にした島津大佐。
「わざわざぶつかってきて、海野大佐に頭を下げさせてご満悦って器小さいにもほどがあるでしょ?」
海野大佐と島津大佐。
軍歴で言えば、島津大佐の方が長く年齢も上。
ただ、大佐になったのは海野大佐の方が早く「先任」である海野大佐の方が扱いとしては上になる。
そして、海野大佐はすでに艦隊を任されているなどなど。
妬まれる要素は一杯ある。
「大体、臆病者なんて陰口叩いてる連中も戦場に出て撃ち合った経験があるのは何人いるの?海野大佐よりも戦果を挙げた奴がどんだけいるの?」
畳み掛ける様に、声を張る。
あぁ、どうやら私は海野大佐の扱いの悪さにかなり怒っていたらしい。
「何も解らん、艦娘風情が偉そうに、所詮女子供に解る話では……海野、貴様は部下の躾もできないのか!?」
「……失礼、後で川内には言って聞かせます。」
「部下の失態は上官の失態だろうが!!さっさと頭を下げんか!!」
拳が飛んだ。
白の制服に赤い斑点がつく。
ナニヲシテクレテルンダ、コイツ。
「申し訳ありませんでした、部下が出過ぎた事を言いました。」
何事もなかったかのように頭を下げる。
口元から垂れていく血が、ぽたり、ぽたりと……
香取がハンカチを取り出し、海野大佐に渡そうとしている。
もう一発、と拳を振り上げたのが見えた途端、身体が反応した。
滑り込むように、間に割って入り拳を受ける。
カウンターで投げ飛ばす、関節を極める。
条件反射で動きそうになるのを必死で留める。
これ以上、話をややこしくは出来ない。
そう、思ったのに。
「ふん、臆病者はそうやって女の影にでも隠れているんだな。」
口の中に広がる鉄錆の味と匂い。
そこに投げ捨てられる暴言。
まだ海野大佐を殴ろうとしている。
モウイイヤ
主砲装填、探照灯照射。
停泊中の艦から伸びて来た光に驚いたように島津大佐が動きを止める。
立ち上がって、海野大佐の前へ。
「……な、なんの真似だ!!」
裏返りかけの声。
先程までの威勢は何処に行ったのやら。
「あ~これで見える?」
探照灯を少しズラす。
これで、逆光で見えないなんて事はないはず。
「14㎝単装砲7門、ここを狙ってるから。」
見せつける様に手を挙げる。
「人間様は艦娘風情の操る艦砲ぐらい防げるんでしょう?ほら、臆病者じゃないなら立ち向かってみれば!?」
「川内、止めろ!!」
腰を抜かし、へたり込んだ島津大佐に凄む。
後ろから海野大佐に肩を掴まれたが、無視を通す。
上げていた手を振り下ろす。
重なるように、砲撃音が響く。
直後に、海野大佐に引き倒され覆い被さられたのだけは、想定外で少しだけ嬉しかった。
探照灯の光と、数秒後の発砲炎と砲撃音。
咄嗟に自分の横に居た高木長官を庇う様に前に出る。
それぞれが自艦隊へ戻る前にと雑談を交わしていた喧騒が嘘のように静まり返っている。
艦と感覚を繋げて周囲を見渡す。
何も、異常はなさそうだけど。
「敵影なし……羽黒?」
「こっちも、何も。」
姉の問いかけに簡潔に答える。
無線で飛んで来ている自艦や指揮下の漣の問い合わせに、確認中と返事を入れながらも即座に動けるようにと指示を出しておく。
「川内がなんかやったみたいね、さっきの怒鳴り合いが原因かしら?」
「弾着音は聞こえてない……空砲?」
「ふむ、危険はなさそうだな。」
高木長官が周囲を見渡した後、少し落ち込んだような声を出す。
≪全艦通達、先程の砲撃音は敵に非ず、繰り返す、先程の砲撃音は敵に非ず。≫
那智姉さんの落ち着いた声に周囲が落ち着きを取り戻していく。
放送は続けて、甲板に居る自分たちを含めた呼び出しが続いていく。
「……しかし、歳は取りたくないものだな。」
「は?」「えっと?」
長官がボソッと呟いた言葉、思わず聞き返せば、部下に庇われるとは……日本男児としてだな、と苦い声。
「な~に言ってんのよ、部下に庇ってもらえる程度に尊敬されてんのよ?胸を張りなさいな。」
快活に笑いながら、足柄姉さんが長官の肩をばしばし叩いて励ましている。
む、とも、ぐ、とも取れないような声で返事(?)をしている長官。
何か言いたげな視線に、あははは、と乾いた笑い声を返すだけで精一杯だった。
会議、会議で凝った肩を解す様に一回、二回と回し目的の部屋へ。
重巡那智の一室、歩哨に立っている何やら顔色の悪い船員に軽く挨拶をして中へ入れてもらう。
「やっほ~艦隊のアイドル那珂ちゃんだよ~☆」
扉を開けながら声を掛けてみるけど、うっわ、空気悪。
暗い、淀んでる、マネージャー、換気して、換気!!
窓、開けよう。窓って……ないじゃん!!
「部屋間違えちゃった~きゃはっ♪」
逃げようとしたけど、姉の眼力に負けてそ~っと部屋に入る。
え~っと、こんな場合は、扉を完全に閉めるのは死亡フラグだよね。
退避できるように、隙間を開けて……あ゛、ちょっと歩哨、閉めなくていいから!!
バタンと、音を立てて閉まるドア。
「何やってるのさ、那珂。」
「いや~なんていうか、お「それはこちらの台詞です姉さん。」」
神通ちゃんが凄まじい顔して睨んできた、那珂ちゃん悪くないのに。
「二人共とりあえず、血ぐらいは拭わない?」
無茶苦茶をやった川内ちゃん相手に神通ちゃんがぶっつん。
派手な喧嘩の結果は、荒れ放題の部屋に血塗れ無表情で睨み合ってる姉二人。
逃げたら……駄目だろうなぁ。
諦めて真面目に対応しよう。
ドアを開けて、歩哨の人に傷薬やら手拭いやらを頼む。
あ~も~那珂ちゃん、こんなのキャラじゃないのに。
転がっている中からとりあえず使えそうな椅子を見つけて腰かけ……あ、ダメだ歪んでる。
諦めて二人の中間ぐらいの床に座る。
「とりあえず、姉さんの解体は無し、細かい処分はまた後日って感じ。」
「あっそ。」
先程まで続いていた会議の決定を伝えていく。
結果だけ言えば姉さんへの処分は保留、明日まではここで謹慎処分っていう程度。
神通ちゃんの方がほっとしているように見えるのが、なんとも。
「海野大佐は?」
「そっちも謹慎ぐらいで、鮫の餌って事にはならなそう。」
「……あの馬鹿は?」
まだまだ怒りが残ってるのだろう、声が一段低い。確認をするように神通ちゃんに視線を投げれば、どうぞ、とでもいうかのように頷いた。
「え~……島津大佐は二水戦補佐から解任の上、セレター軍港へ出向、小沢少将の指示に従うようにだって。」
出撃間際の艦隊から、陸に帰れと言われた訳だ。
つまり、「お前が居なくても問題ない」と言われたようなもの。
「あっは、何それ。」
「……島津大佐が乗船されるのであれば、二水戦所属の艦娘は一切、力を貸さず黙っています、と進言しましたので。」
会議の最中、島津大佐が艦娘の発言に対して言い捨てた言葉。
「女子供が口を出すな」
口は出すな、力は貸せなんて都合の良い事を誰が聞くかと、神通ちゃんが怒った。
艦娘の特性、信頼ができない相手がいる事による性能の低下まで合わせて説明されてしまえば、人間は黙らざるを得ない。
とは言っても、要求の度が過ぎれば艦娘は「解体」という死を受け入れるしかないので一方的に私達艦娘が優位な訳じゃないんだけど……
神通ちゃんが言うだけ言って、出て行ったから、残りの追及私に来ちゃうし。
しかも出て行った先で、姉妹喧嘩(ガチ)とか……
「これで私も問題児扱いです、姉さんのせいですよ?」
大きな溜息と共に、無表情を崩した神通ちゃんは困ったような笑みを浮かべ、それを見た川内ちゃんは悪戯小僧のような笑みを浮かべて、「川内型だもん、今更だよ」なんて茶化した。
陸軍共同作戦である以上、決行日が動かせるわけもない。
作戦は予定通りに決行され、我々は波を蹴立てて一路ジャワ島を目指している。
接敵は時間の問題だが、幸か不幸か、海野艦隊はかなり後方に配置されており敵が後方から来ない限りは安全。
周囲の輸送船には大量の軍需物資に陸軍兵士、注意すべきは潜水艦だが……先行している主力艦隊に攻撃せずにこちらを狙うとは考え難い。
「しかし、陸軍も思い切ったもんだ。就航間もない艦を引っ張り出すとは。」
偵察ぐらいはと思っていたが、それも断られている。
その原因は視界の端に見える艦。
自分にとっては、馴染み深い平坦な船型。
≪自分の事でありますな?≫
「あぁ、まさか陸軍が空母を持っているとは思わなくてな。」
≪自分は、特殊船丙型であります。空母ではないであります。≫
聞こえてくる生真面目そうな声に苦笑を混ぜながら返せば、だみ声が飛んでくる。
≪おう、海軍さん。うちの娘を誑かそうっていってもそうはさせんぞ?≫
「虎の娘を攫うのは覚悟が要りそうですな。」
≪そうだろうとも、我ら山下閣下の精鋭が総力を持ってお相手しよう。≫
≪た、隊長殿、何を言ってるでありますか!!≫
ひとしきり、雑談をしていると香取が目で合図を送ってくる。
そろそろ制海権の及ばない範囲、無駄な通信は控えるべきだろう。
「さて名残惜しいがお喋りは帰ってからだ。各員周辺警戒を厳に、陸軍将兵並びにあきつ丸、協力頼みます。」
≪おう、任されてやるよ。≫≪承ったであります。≫
「偵察機発見、補足されましたね……」
見上げる視線の先。
豆粒ほどの黒点を正確に見極め、声を通す。
≪艦載機か?≫
「PBYカタリナ。飛行艇です。」
≪基地航空隊か、全艦に通報、我敵機からの接触を受く。≫
挨拶代わりに、主砲を一発。
当たるとは思わない、練度だけでどうにかなるようなモノでない事は解っている。
余分な力を使う訳にもいかない。
砲を撃ったことに気付いた敵機は逃げ腰、こちらから距離を取るように雲の中へ。
≪こちら那智、敵艦隊を補足。座標………主力部隊は集結せよ、これを撃滅するぞ!!繰り返す………≫
ふっと、口元に浮かぶ笑みを覆い隠すように手で口角を押し下げ、手元に顕れた緑色の鉢金を締める。
≪神通、聞こえたな?≫
「はい、田中少将。」
≪五戦隊と合流する、第一船速、二水戦出撃せよ!!」
≪≪「了解!!」≫≫
≪敵機、投弾!!≫
≪当たらないわ、機銃座、撃ち落として!!≫
先ほどのカタリナから誘導を受けたのだろう。
少数の敵攻撃機の襲来を受けつつ、戦場へ駆ける。
時折聞こえる遠雷のような響きは、先行している那智達が砲戦に入った事を嫌でも知らせてくる。
「損害は?」
≪大丈夫、良い風が吹いているもの!!≫
「被弾をしたら帰投後、再訓練です。死ぬ気で避けてください。」
≪再訓練は嫌だぁ~天津風当たっちゃダメだよ!?≫
≪気楽に言ってくれちゃって……きゃ!?≫
≪ちょっと、なんでこっち来るのよ!!ぶつかるじゃない!!≫
頼もしいと誇るべきか、緊張感が足りないと怒るべきか。
肌を撫でる潮風には、硝煙の匂い。
爆撃機が起こした水柱で霧の中のよう。
≪敵を前に怯え無し、良い事だ。≫
「ありがとうございます。」
≪とは言え、船首に仁王立ちでは危険ではないか?≫
「お気遣いなく。」
艦橋の中ではなく、船首に佇む自分を気遣われる。
艦娘の身体は腕が捥げようと、頭が吹き飛ぼうと、艦が無事ならば復帰が出来る。
逆に言えば、どれだけ身体が無事でも、艦が沈めば消えていく。
「戦場は間近、油断も慢心もなく、冷静冷酷に。」
砲炎を確認。
誰に言うでもなく、呟くように歌うように。
「第二水雷戦隊旗艦神通、これより鬼と相成りましょう。」
血はきっと争えない。
零れる吐息は灼ける様に熱く。
湿った風が肌を冷ましていくけれど、胸中の狂乱は醒ましてはくれない。
「敵艦隊、補足。」
砲弾が飛び交う中、今か、今かと待ち侘びる。
放つ火焔は十の爪、敵を引き千切らんと腕を伸ばす。
「あぁ、もう!!」
苛立ち?
いや、違う。
これは、この感情はそんなものじゃない。
愉しい。
待ち侘びる、想い焦がれる。
敵の身体に我が爪が突き立つその瞬間を、敵の爪が我が身を抉るその瞬間を。
戦場が、私を呼んでいる。
誘われるように突出しそうになる身を留める、命令は未だ変わらず。
二水戦合流までは、突撃せず
≪まだか、まだ二水戦は来ないのか!?≫
≪敵航空機の攻撃を受けているらしいが……≫
射程距離には入っている。
しかし、交戦距離としては遠く命中弾は未だゼロ。
無線のやり取りは、もう何度目か解らない突撃の許可を求める声とそれを留める声。
偶然、至近に落ちた敵弾が海を叩き飛沫を降らす。
熱された砲身が湯気を上げ、砲声に混じって水が爆ぜる音がする。
「四番砲塔、五番砲塔、射撃中止!!諸元再計測よ、精確にやりなさい!!」
敵艦を睨んだまま、声を投げる。
必中の一撃を狙うなんて、無理な事は承知。
弾道計算とか諸々、私は苦手だし……出来る乗員が居るのだから、任せるだけ。
≪このまま同航戦を継続、四水戦は脚を生かして敵の頭を押さえに行け!!≫
≪了解、那珂ちゃん一番の見せ場です!!両舷一杯、五戦隊の横を抜けつつ敵の前へ!!≫
同航戦の現状を変えていく。
四水戦が一杯まで上げれば、私達や敵艦隊より優速。
半包囲へ持って行き、囲んで叩く。
「再計算完了しました、報告!!」
「待ってたわ、四番五番照準!!一番、二番、三番射撃停止……」
一隻でも、足を鈍らせれば包囲の完成が早まる。
連続して撃ち続けている砲身は過熱され、撃ち出す砲弾の描く放物線は歪み始めている。
「前部主砲を冷却しろ、消火用のホースも使え!!オスタップに溜まった海水もぶっかけろ!!」
「主砲発射のブザーは聞き逃すなよ!!」
射撃を止めた意図に気付いた士官達が甲板に飛び出し、主砲に海水を浴びせていく。
「血気盛んね、まったく。やるじゃない!!至近弾で吹っ飛ばされるんじゃないわよ!!」
「海に落ちたら、戦闘終了まで海水浴と洒落込みます!!気にせずどうぞ!!」
射撃を止めていた四番、五番を再度射撃体勢へ。
警報ブザーを鳴らし、退避を確認。
「さぁ、第二幕よ!!」
高らかに宣言する声と、砲声が重なる。
空襲を凌ぎながら、疾走する。
「私達駆逐艦の方が速いハズだっていうのに。」
先陣を切る旗艦に置いて行かれないように続くのが精一杯。
敵弾を回避する為に切る舵が速度を落としている。
ジグザグで走るより真っ直ぐ走った方が速いなんて事ぐらい、知ってる。
「だからって、戦場でそれが出来るって……」
前を走る神通の航跡は揺るがない。
戦場へ、ただ一直線。
敵機の攻撃には目もくれず。
≪敵艦補足……四水戦が包囲の為、転舵中の模様!!≫
頭の中で状況を整理していく。
五戦隊、敵艦隊は北上中で同航戦、そこに快足を生かした四水戦が追い抜く形で北西方向へ変針、敵艦隊の頭を押さえ始めている。
このままの南進で行けば、私達は敵艦隊とは反航戦の形。転舵し四水戦と合流、砲火を厚くするのが常道だろうか。
≪これより二水戦は敵の横を、進路200で抜けます。雷撃用意。≫
進路200?
南南西方向って……
≪あの、神通さん?四水戦か五戦隊と衝突しませんか、その進路だと。≫
≪隙間を抜けます、行けますね?≫
≪ちょ、ちょ~っときびしいかなぁ~って時津風は思うんだけどな~?≫
≪行けますね?≫
あははは、知ってた。
≪五戦隊へ、これより前方より左舷方向を二水戦が突っ切ります。≫
≪へ?≫≪はぁ!?≫
あぁ、五戦隊からなんか滅茶苦茶通信が入ってる……
まとめると、「考え直せ馬鹿」
とは言っても、旗艦が行くと決めた以上続くしかないわ。
神通さんは四水戦後尾の春雨、夕立の間を危なげなく抜けていく。
こっちのタイミングだと…那智さんと羽黒さんの間?
あぁぁぁぁぁぁ、近い、近い!!
悲鳴を飲み込みながら、抜けていく。
艦尾、当たってないわよね!?
≪減速して…足柄、そっちは大丈夫ですね!?≫
≪妙高姉さん!?止まらないで、当たる、当たるからぁぁぁぁ!!」
≪もう、こんな無茶イ~ヤ~だ~!!≫
≪減速って…にゃ、にゃぁぁぁぁ!!≫
阿鼻叫喚。
味方の混乱もとんでもない事になってるけど、敵艦隊の驚愕も相当なのだろう。
≪進路220。このまま肉薄、すれ違いざまの一撃必滅…行きますよ?≫
「行くわよ!だ、大丈夫、良い風が吹いてるもの……」
≪声、震えてるわよ!?≫
「うっさい!!」
ある意味、一番の難所が此処だったんじゃ……
常識を無視するような方法で前に出た私達に対しての砲撃は、精度を欠いている。
≪四水戦突撃!!二水戦に遅れるな!!≫
≪えぇい、五戦隊は≪突撃よ、突撃!!≫馬鹿者!!命令を聞かんか!!≫
怒鳴るような声。
目の前で曲芸じみた操艦で肉薄する姿を見せられた事で燻っていたモノに火が付いた。
疲れを忘れたかのように生き生きと艦隊が一斉に動き始める。
≪山風のアネキ、どーすンだよ、行くのか、行かねえのか!?≫
なし崩し的に始まった突撃。
通信は混乱していて個々で判断するしかない、のかな。
副官に眼を向けても、困ったように首を振るだけ。
どう、しよう。
第二十四駆逐隊として自身と江風への指揮権はある。
だけど、五戦隊の直援の任務もあって。
「那智さん、二十四駆は突撃する、の?」
≪こうなっては、是非もない……その位置からなら、二水戦を追え。合流して一時的に二水戦指揮下へ。」
「え、えぇ!?」
≪状況は既に追撃戦の様相を呈している、我々の足に合わせていては無駄になる、行け!!≫
「わ、解った。江風、聞いてた?進路190、全速。」
≪応、やってやンぜ!!≫
敵艦隊は、変針後に右舷側に居るはず。
大きく息を吸い込む。
敵に近づく。
怖い、けど。
「みんな、行く、よ。突撃!!……用意して。」
艦内放送で声を飛ばす。
上がる雄叫びは、五月蠅いけど……嫌いじゃない、から。
≪四水戦突撃!!≫
その号令に、弾かれた様に舵を切る。
二水戦は既に突入中、陽炎型に後れを取るのは……少し?違うわ、大いに不満。
そりゃ陽炎型の方が新しい訳だし、性能が良いのは認めるしかないけど。
≪四水戦の晴れ舞台、遅れず華麗に可愛く突撃ファンサービス行っくよ~!!≫
まったく、那珂さ……ちゃんはいつも通りだし。
遠距離での砲戦に終始していた最中に予想外の箇所からの突撃は十分に敵の士気を挫いている。逃げ腰の相手は統率もなく無闇に煙幕を撒き散らしながら、狙いも定めず砲を撃ち放っている。
あぁ、こんなの……赤子の手を捻るようなモノ。
英米恐れるに足らず、その通りじゃない。
「二水戦、離脱する模様!!」
「もっと、前へ。」
肉薄する。
≪さぁ、那珂ちゃんオンステージ!!魚雷いっけぇ~!!≫
先行する那珂さんが魚雷を投射後、転舵。
続くように村雨達も……
≪はいは~い、第二駆逐隊、も~ちょっと前へ、やっちゃうからね!!≫
≪夕立突撃するっぽい!!≫
≪もうドジッ子なんて言わせませんから!!≫
≪ね、姉さん達!?あぁ、五月雨まで!!≫
負けられない。
「もっと、もっと前へ、峯雲良い?」
≪はい、行きましょう、朝雲!!≫
もっと、もっと、もっと前へ。
煙幕の残滓を振り払って、一心に前へ。
気付けば突出する形になり、敵艦からの砲撃が集中し始めている。
「まだよ、もっともっと肉薄するの。」
言い様の無い、熱に浮かされながら。
「やるわ、魚雷戦用意。」
轟音の狭間の一瞬の静寂。するりと唇から零れた言葉を集音器が拾い艦内へ飛ばす。
転舵からの雷撃、極限まで研ぎ澄まされた集中力が艦の乗員と見事に噛み合った会心の、今までで一番の、全身全霊の一撃だった。
だから、よく見えた。
自分の撃った魚雷が、何もない場所で……
無様に自爆する様が。
「な……んで?」
自失しそうになる自分を悔しさで奮い立たせる。
まだよ、まだ砲は健在、戦える。
「前へ、もっと前へ!!」
叫んだ声に、被弾の衝撃が重なる。
走る痛みは、悔しさと興奮で無視できる。
けれど、落ちていく船速は上がらない。
「機関室被弾、炎上中!!」
電源を失った砲塔が自身の操作から剥がれていく。
「第一、第二砲塔……人力操作で!!ごめん動かせない。」
意気軒昂であることは戦闘において重要な要素であることは論じるまでもないが、過ぎた熱狂は時として不利となる。
我先にと突撃をした戦場は混迷を極め、さらには敵艦隊が焚いた煙幕が視界を奪う。放たれる砲火は有効打とならず、ただ砲煙は視界を遮っていく。
必殺の魚雷はどこへやら。
多数の撃沈報告が上がってはいるが、どこまで信じられるのか。
頭を抱えるのも無理がない事だろう。
「……報告は以上だ。」
「そうか、唯一の救いは喪失艦が出なかった事ぐらいか。」
眼前で大きくため息を吐く高橋中将の顔には深い皺が刻まれたまま。
二水戦の突撃自体は悪いタイミングでは無かった、ただ周囲が引っ張られ包囲を崩してしまったのが原因。
夜を徹して索敵機が飛んでいるが、果たして見つけられるかどうか。
「西村に繋いでもらえるか?」
「了解した。」
通信機を操り、神通に通信を飛ばす。
「那智、すまないが席を外してもらえるか?」
繋がった事を確認した中将の言葉に頷き、艦長室から外へ出る。
意識を向ければ通信内容まで全て把握できる艦娘にとって、外に出る事に意味はないが……気持ちの問題だろう。
艦の各所では、昼間の戦闘の後処理で慌ただしさを残している。
残弾の確認や、砲身の清掃、機関部の点検などなど。
手伝う事が出来ない訳ではないが、諸々を考えると邪魔になってしまう。
≪あ~……那智姉さん?≫
「なんだ、足柄。」
≪え~……っとその、ごめんね?≫
妹からの個人通信、珍しい事に随分と弱気のようだ。
「止めきれなかった私にも責任はある。気にするなとは言わないが……」
≪……うん。≫
「次で戦果を挙げればいいさ。命令を守った上で、だがな。」
≪妙高姉さんにも謝らなきゃいけないんだけど……怒ってるよねぇ。≫
「………断る。」
≪な、何でよ!?≫
「私にだって苦手なモノぐらいあるんだ。」
≪うぅぅ……羽黒~~~≫
≪へ?な、何、足柄姉さん。≫
「お前なぁ、もう少し姉としての威厳を。」
≪な、那智姉さんも居たんですね、こんばんは。≫
「あぁ、こんばんは……というのも変な気がするが。」
多くの艦隊は知覚範囲に居る、感覚的には同じ部屋で違う作業をしているだけであり、わざわざ挨拶をするのも不思議な感じがする。
足柄は羽黒にあれやこれやと絡んでいるが……ん?
≪……だからね、羽黒、妙高姉さんに謝るのに手を貸してほしい訳なのよ。≫
≪えっと、その足柄姉さん。≫
≪大丈夫、羽黒は通信繋いで軽~く妙高姉さんに挨拶してくれれば良いの。≫
≪………≫
≪妙高姉さん、羽黒には甘いから。一緒に居れば怒られにくいのよ。私達なんかやれ、身嗜みとか休日の過ごし方とかでも怒られるのよ?≫
「昼過ぎまで寝ていた方に問題があった訳で、私も人の事は言えんが……」
≪何よ、那智姉さんはあんな小姑みたいな姉さんの肩を持つの?≫
「………足柄はそう言っているが、決して私や羽黒の総意ではないということを考慮してほしい。」
≪今回の事も含めて少し姉妹で話し合いを持つ必要があるようですね。≫
≪へぁ!?みょ、妙高姉さん聞いてたの!?≫
≪えぇ、羽黒から相談を受けていまして。そこに貴方達からの通信が繋がったものでして。≫
足柄が何やら喚いているが、飛び火する可能性を考慮し静観を選択。
索敵に出ていた機が帰ってきたようで低いエンジン音とプロペラが空を叩く音が聞こえてくる。
念の為、視線をやりながら所属を確認しておく。
夜闇で正確には読み取れないが、艦娘としての感覚を向ければ判別は容易い。
「神通の機体か。」
泊地に帰投した後に一杯誘うとしよう。
そう心に決め、小さく口元に笑みを乗せる。
戦果を挙げられていない事に悔いはあっても艦隊の士気は高く、継戦は可能。
ならば、今回のミスは次の戦場に生かす。
「偵察機、戻ってきました!!」
射出した偵察機が途中で通信を絶って数時間。
撃墜されたと判断する直前であったが、とにかく戻ってきたことにほっと息を吐く。
被弾しているのか、飛行が安定していない。
……発光信号?
テ・キ・カ・ン・セ・ツ・キ・ン………
血の気が引いた。
「……全艦通達、敵艦隊接近中。総員迎撃態勢に。方位180、南から接近中。」
偵察機からの発光信号を読み取りながら、情報を追加。
艦内が騒がしくなっていく。
身体が重い。
疲弊しているのは敵も同じはず。
撃った砲弾の数は?
魚雷の残数は?
至近弾で歪んだ箇所は?
艦首に身を飛ばし、近くにあった手桶の海水を頭からかぶる。
一切の不安を振り払うように大きく首を振る。
濡れた髪を掻き揚げ、視線を先へ。
≪神通、状況は?≫
「敵艦隊接近……吊光弾を投下の指示を出しています。」
偵察機には無茶をさせている。
だが、やらなければいけない。
艦隊の動きが鈍い。
何をやっているのか、一喝したくなるのを必死に飲み下す。
「那智さん、羽黒さん!?」
≪ごめんなさい、缶が温まっていなくて艦隊行動に支障が……≫
≪水偵の収容に手間取っている、急げ!!≫
重巡二人は動けない。
「田中少将、単独での突撃を具申いたします。」
≪……危険ではないか?≫
「五戦隊が動けません、四水戦は損傷艦の護衛の為後退しており間に合いません。」
≪じゃあ、行くしかないか。≫
どこかのんびりとした声。
少しの沈黙の後、大きく息を吸う音が聞こえた。
≪総員、これより本艦は敵艦隊への突撃を敢行す。之は囮の如き極めて危険な行動となるが二水戦の看板を背負っている諸君ならば歓喜勇躍し敢闘すると確信している……さぁ、突撃せよ!!突撃せよ!!敵艦隊を蹴散らし夜は我ら帝国海軍のモノと知らしめよ!!≫
一転して裂帛の声。
信頼に足る指揮官が居る。
そして、信頼を得ている自分が居る。
耳朶がら染み込んだ声は、思う様に私の心を揺さぶった。
身体が火照り、血が滾る。
口元に浮かぶのは、狂喜を孕んだ笑み。
姉は口元にマフラーを巻いて隠し、妹は笑顔を貼り付けることで誤魔化している。
私は夜闇に隠し、月下に晒す。
「……くふ、くふふふふふふふふふ。」
抑えきれない声が零れていく。
「雪風、天津風、初風、時津風、山風、江風、貴女達は私の突撃に乗じて転舵、射点を確保し攻撃を。」
≪≪≪はい!!≫≫≫
返事を聞くと同時に、転舵。
艦隊から離れつつ、敵艦隊へ近づく針路へ。
後は吊光弾の投下を待ち、突入する。
我が国の誇りが海の藻屑と消えた。
その事実は本国では秘匿され、東洋艦隊はこの地で日本を撃退している事となっている。
最低でも、敵艦を複数撃沈した上でなければ我々は本国へ帰れない。
「最悪な戦場だな、ココは。」
「まったくです、キャプテン。」
イギリス、オランダ、アメリカ、オーストラリアで結成された連合艦隊。
一か月前であれば、日本海軍の相手は我々イギリス海軍だけで十分だと胸を張れていた。
その慢心が招いた悲劇だ。
意思疎通するので精一杯であり、連携して攻撃をするなど夢のまた夢。
結果、消極的な砲撃戦に終始し、相手の突撃に怯えて好き勝手に逃げ回ったのがつい数時間前。
何とか隊列を整え、反撃をと気炎を上げられたのは……私のプライドが許さなかったからだ。
イギリスの一軍人として、逃げ回っていただけなど断じて、断じて許せなかった。
かの国は、我がロイヤルネイビーを手本に海軍を築いたという。
そう、異国の者たちですら憧れ、手本とするロイヤルネイビーが、世界の海を制したこの、ロイヤルネイビーが!!
無様に逃げ惑っていたなどと、言わせてなるものか。
単艦でも突撃をしてやると言い切った私に、多くの者が賛同してくれた。
命令も突撃、あの艦を狙え、撤退と徹底した簡略化により迷うことなどないようにした。
「敵艦隊、発見!!」
見張り員の声に艦橋の空気が変わる。
今度はこちらが攻める番だ。
胸の内に闘志を轟々と猛らせ、夜の海を睨みつける。
夜の海に光が降ってくる。
「敵だ!!!敵が気付いたぞ!!」
吊光弾だと気付いた時には、知らず叫び声を上げていた。
直後に目を焼く発砲炎。
伝声管からは怒鳴るような声で攻撃開始と命令が飛んでいる。
見張り員でしかない自分はとにかく敵の動きを伝える。
「逃げてる!!逃げてるぞ!!」
味方が撃ち始めた轟音で聞こえているのか分からない、それでも必死になって声を張り上げる。
直後に、光が奔る。
一隻、こちらに突っ込んできている。煌々と探照灯を照らしながら一直線に。
「あいつを、あいつを狙え!!突っ込んできてるぞ!!」
他の艦は逃げているのに……単艦で砲を撃ちながら。
悲鳴にも似た声が上がる。
怯えからだろう、機銃が主砲の轟音に比べればささやかな音と光を散らしながら弾丸を放ち始めている。
≪落ち着け、敵の思う壺だぞ!!見張り員は敵が逃げた方位を記録しろ!!照明弾発射!!≫
夜空を照らす照明弾。
敵艦隊は……
「くっそ!!」
光の下でも、なお黒く海上を漂っている煙幕が敵艦隊の居たであろう場所を広く覆っている。
唯一、残っているのは探照灯を振りかざし縦横無尽に走り回っている一隻。
≪あの艦だけでいい、何としても沈めろ!!何をしている、逃げるな!!≫
艦長の怒声に振り返ってみれば、続行しているハズの友軍が針路を大きく変えている。
何が起こっているのだろうか。
不安に飲み込まれながら視線を前に戻せば、好き勝手に逃げ回っていた敵艦に火の手が上がっていた。
「命中、命中したぞ!!ははは、撃ちまくれ!!やれやっちまえ!!」
だが、その熱狂はすぐに冷めていく。
近過ぎる。
体当たりでもする気かと言いたくなるような距離まで近付かれている。
燃え上がる主砲を背景に、船首に人が立っている。
視線が釘付けになる。
双眼鏡で覗き込んだのは、なぜだろうか。
髪の長い、整った顔立ちの女性。
ゴースト(船霊)だ。
彼女は手にしていたサーベルを抜き放つと大きく振りかぶった。
腕が霞むように動き、振りぬかれた手からはサーベルが消えていた。
直後に、大量の煙幕を撒き散らしながらこちらの艦の脇を抜けていく。
すれ違い際に、敵艦が見当違いの方向へ撃った砲炎が強く印象に残った。
≪……撤退する。≫
艦長の絞り出すような声が響いた。
椅子の上、胡坐をかいて視線を先に向けている。
夜だとテンションを上げたのも束の間、輸送船に合わせた鈍足では虚しいばかり。
神通も那珂も戦場で暴れている。
「怒られたばっかりだしなぁ……」
先の件を考えれば、提督に絡むのも憚られる。
輸送任務を軽んじる訳じゃないんだけど、向き不向きはある訳で。
少し、休もうかな。
3日ぐらいなら不眠不休で艦を動かすことはできるとはいえ、集中力は落ちるし適度に休息を取る事は認められている。
時計を見れば日付も変わろうかという頃合い、一眠りしてくるのもいいかもしれない。
≪姉さん、聞こえます?≫
そんな風に考えていると前線にいる妹から通信が来た。
≪頼みたいことがあります。≫
「どしたの?」
≪……一時的に二水戦の旗艦をお願いしたいのだけど。≫
「了解って言ってやりたいけど、私の独断じゃ無理……提督の説得をしろって事?」
≪はい、実は………≫
一通り説明を聞いて、大きくため息をつく。
「な~に楽しそうな、じゃなくて、羨まし、でもなくて無茶してるのさ。」
≪……緊急事態でしたので。≫
「そういう事にしといてあげる。そっちはそっちで田中さんの説得しといてよ?ウチの提督が変に睨まれるの嫌だしさ。」
≪提督、お休みの所、申し訳ありませんが艦橋へ来て頂けますか?≫
艦長室で一息ついていた所、香取から呼び出しが入る。
呼び出しの後ろに聞きなれた声を拾っている所を考えると、どこぞの夜戦好きかららしい。
脱ぎ捨てていた上着を羽織り、焦らずゆっくりとした足取りで部屋を出る。
(指揮官は悠然と歩くべし、また五省を唱和させられるのは勘弁だぞ)
途中ですれ違う船員に敬礼を返しながら艦橋に辿り着くと、香取の視線が鋭い。
士官服はきっちりと着込んでいるし、問題はないはずだが。
「提督、川内さんより通信です。」
「あぁ。」
通信機を受け取り、焦れているであろう川内に声をかける。
「何事だ?」
≪神通から頼まれ事でね、一時的に私を二水戦旗艦へ出来ないかってさ。≫
「……緊急か?香取、海図を。」
海図に示された自分たちの位置と、主力艦隊が居るであろう位置までの距離を大雑把に把握する。
自身が休んでいる間の戦況は香取達が書き込んでくれている。
予定の進路よりやや北に進んでいるが、主力艦隊がかなりこちらに近づいている。
「艦隊全体にへ通信を繋いでくれ。」
川内からの説明を聞きながらこれからの動きを構築していく。
通信が繋がったのを確認し、即座に命令を出していく。
「川内、叢雲は直ちに二水戦と合流を目指せ。その後、叢雲は神通と共に二水戦を離脱、輸送艦隊に復帰せよ。なお神通は損傷を受けている可能性が高い。叢雲は周辺警戒を厳にし必ず支援任務に復帰せよ。」
≪了解!!≫
≪田中さんからの要請を待たなくて良いの?≫
「時間が惜しい、もし田中少将が不要だといった場合は戻れよ。」
まず不要と言われはしないだろうが……問題があるとすれば、陸軍の了承が取れるかどうか、だろう。
「あきつ丸及び陸軍の方々、聞いての通りです。一時的に周辺警戒から二隻抜ける形になります。現状、海軍主力が動き回っている事を鑑みれば奇襲される可能性は薄いと見ますが……」
≪陸軍としては海軍の提案に反対である、と上の方では言うのでありましょうが、現場でまでそんなごちゃごちゃ言いやせんよ。海の上では船頭に任せるに限ります。≫
「ありがとうございます、レーベ、マックス負担が増えるが……踏ん張れるな?」
≪うん、大丈夫。≫
≪Ja、問題ないわ。≫
≪溺水者発見、救援ノ必要ヲ認ム。≫
戦闘が終わって間もなくそんな通信が入った。
終わった、と言っても周囲に見えないだけ。
見落としているだけかもしれない、潜水艦が潜んでいるかもしれない。
戦場なのだ。
気付かなかったと言えば、無駄な危険は避けられる。
「総員、救助用意!ほら、急いで急いで!!」
そんな自分の悩みを吹っ飛ばすように快活に、幼い声が響く。
艦娘と呼ばれる超常の存在は、厄介だ。
年功序列が意味をなさず、それこそ親子ほど年の離れた子供を艦長と呼び従う必要があるの為、それを厭う軍人が多い。特に駆逐艦は幼い容姿が多い為……極めて不名誉な呼び方をされる場合がある。
駆逐艦幼年学校、お遊戯会、子供のお守りなどなど、枚挙に暇がない。
「何よ、工藤さん元気ないわね、そんなんじゃ駄目よ!!」
「あ~……いや、大丈夫だ。もうひと頑張りしないとな。」
思案に沈んでいた私の背中をばしばしと叩きながら急いで急いでと指示を出す彼女の姿に、艦橋に笑い声が零れる。
戦場という異常な世界で、ほっと笑える一瞬。
副官という立場ではあるが、出来る事をやるとしよう。幼年学校の教師だ子供のお守り?
上等だろう、この子の笑顔が見れるなら安いもんだ。
「主計課、白湯を用意しろ!!助けた相手に風邪をひかれちゃ困る!!」
夜の海、いくら南の海でも寒いだろう。
敵兵救助を、総員にお願いをしておいて自分はとにかく周囲に気を配る。
敵は来てないか。
近くにいる電に確認を取りながら艦の状態にも気を配る。
ん?何か揉めてる。
「失礼します!!」
救助に当たっていた海兵が艦橋に駆け込んでくる。
「何事だ!!」
「はっ!英国士官らしき人物が、指揮官と話したいと……後、武装をしておりまして。」
「武装解除は徹底しろバカモン!!モノによっては後日返還するなりと言っておけ。」
「…………」
「返事!!」
「その、英語は不得手でして……」
「ぬ、ぐ……誰か得意なものは!?」
「あ、私が行くわ!!艦娘ってこういうとき便利よね。」
「はぁ!?雷、お前は自分の立場が解っているのか?」
「私は撃たれても平気だし、艦が沈まない限り大丈夫。私に任せて。」
工藤さんの心配はもっともだけど、今この艦に乗っている人の中で一番頑丈なのが私。
敵艦の魚雷や砲撃は怖いけど……人が持てる拳銃ぐらいなら、へっちゃら。
「………自分も同行します。」
「解ったわ、急ぎましょ。」
まだまだ危ない海域であることは確実だから、言い合いしている時間ももったいない。
駆け込んできた海兵と一緒に英国士官の元へ。
『だから、これを彼女投げた彼女にと言っているんだ。』
「あ~アーユーノウ……ノットウェポン?」
武装解除に応じない?
むしろ、こっちに押し付ける様に渡してきてるけど。
『く、英語ぐらい話せるようにしろ!!』
「プリーズ、テイクオフ……オフ、ウエポン?」
『離陸しろ?いや、包みを外せか?』
あ、ダメだ。話が通じてない。
士官が手に持っていた細長い包みを解き始めた所で場が騒然となる。
「早く床に置け!!」「刀!?気をつけろ!!」
「はいはい、は~い!!みんな落ち着いて!!」
声を張り上げると、なんとか気付いてもらえた。
「雷ちゃん、危ない!!」
「はいはい、大丈夫だから!!えっと、士官さん、解る?」
『子供……いや、ゴーストか?』
「それ、彼女にってどういうこと?」
『…先日の戦闘で、我が艦にこのサーベルを投げつけてきたゴーストにこの短剣を渡して欲しいのだ。』
「投げつけた…ってこれを?」
差し出されたのは、一振りの日本刀と装飾のされた短剣。
『……決闘の証だ。彼女に伝えてくれ、英国紳士としてこのトムフィール、貴官と戦えてことを誇りに思うと。』
……どうしよう、と隣に立つ工藤さんに眼を向ける。
『フィール卿、確約はできないが努力しよう。』
『む、英語が話せるのか。貴官が艦長か?』
『いや、自分は彼女の補佐官だ。どちらも武器である事に変わりはない以上、こちらとしては預かる必要がある。解ってくれるだろうか。』
『もちろんだ、だが……』
『刀……サーベルに関しては捕虜収容所預かりになるか、中立国経由で母国へ送る事になるだろう。短剣については、全力を尽くそう。』
『礼を言う、名を聞いても良いだろうか?』
『駆逐艦雷補佐官、工藤だ。』
う~ん、とりあえず丸く収まったのかな。
でも、刀を投げるなんて……誰かしら?
「さてと……ほら、皆!!ちゃちゃっと残りを片付けたら泊地に帰れるわよ、港に帰るまでがお仕事なんだから油断しちゃだめよ?」
≪首都ラングーン解放セリ≫
先の海戦によって当該地域の制海権を掌握したと判断した海、陸は作戦の前倒しを決定。
一気呵成に攻め立て、今や帝国の旗は広く南方に掲げられている。
一方で度重なる戦闘で前線では多数の物資不足や南方資源の輸送に護衛が不足するといった問題が表面化し始めることになった。
中央が言うには「勝っているのに損害が出る訳がない」だそうだ。
「……これは酷いですね。」
「だろう、現場を軽視しているとしか言えん。」
スラバヤでの任務を終え、セレター港へ戻ってきた自分に小沢長官から見せられたのは現在南方に展開している戦力のリストだ。
轟沈艦こそ出してはいないが、損傷を受けた艦は修理能力を持ったトラックや本土へ回航している為、戦力は目減りしている。
更に本土へ送り修理が済んだ艦は輸送艦護衛任務の為に接収され、こちらに戻ってくる予定は未定だ。
頼みの綱の航空戦力は、艦載機の数が不足気味で旧式機が回ってくる始末。
更に五航戦はセイロン島攻略の為に南雲機動部隊へ指揮権が移動、その際に搭載機数を満たすために両艦に艦載機の移譲。
唯一、良い知らせは当該地域での陸軍との軋轢が無い事ぐらいだ。
「悪い事は重なるもんだ、貴様には海軍省から呼び出しが来ている。次の資源輸送部隊に同行して本土へ戻れ。」
「はっ。」
「貴様には悪いが、ビスマルク以下主力艦艇は手放す訳にはいかん。」
「海野艦隊は解散と言う事でしょうか?」
現状を考慮すれば、仕方がない事だ。
そもそも大佐が預かる艦隊としては大規模過ぎたのが正常に戻るだけ。
そう理解している、だが握り込んだ拳が納得できないと震えている。
今までも鳳翔や川内といった馴染みが指揮下から離れた事はあったのだ、にも関わらず納得が出来ない。
「いや、所属艦をZ1とZ3の二隻に縮小する。」
震えている拳に気付かない振りをしてくれている上官に感謝を。
「……了解致しました。海野艦隊は、所属艦をZ1・Z3に変更の上次回資源輸送隊を護衛しつつ本土へ向かいます。」
「よろしい、あ~……そういえば、良い豆が手に入ったのだったな、鳥海すまないが私の分と海野の分を用意してくれ。」
鷹揚に頷くと、副官にコーヒーを淹れてくるように告げる。
「……解りました、10分ほどお時間を頂きますがよろしいですか?」
「あぁ、じっくりと良い味のモノを用意してくれ。」
「でしたら、20分ほど頂きます。」
「海野、言いたいことがあるなら聞こう。本当なら酒でも飲みながら腹を割って話が出来れば良いんだが……」
「いえ、そのご配慮だけで十分です。」
「戦場だ、人死にが出るのと同じように艦娘も喪失する可能性がある。お前はそのあたり甘いからな。」
「……はい。」
「ましてや、ビスマルクやグラーフ達は欧州からお前が指揮してきた子達だからな、情が移るのも無理はない。」
「……自分の自覚が足りなかっただけです。」
戦争をしている自覚が足りなかった。
……あぁ、くそ。
彼女たちは兵器なのだ。
そして軍人である自分達は、それを使って戦争に勝たなければならない。
必要とあらば、損失も許容して。
「人間としては好ましいんだがな、貴様の考え方や感じ方は。」
「……ありがとうございます、少し頭を冷やしてきてもよろしいでしょうか。」
「あぁ、構わんよ。どのみち輸送隊の護衛まで特に貴様に仕事はない。久しぶりの休暇とのんびりしておけ。」
続編できました。
お読み頂きありがとうございます。
キリが良い所までと言う事で……こちらに少し書き足しました。
続編出来ました!!
あきつ丸
強襲揚陸艦の元祖、「陸軍」の艦艇です。
対潜&哨戒用にカ号や三式指揮連絡機、防空用に九七式戦闘機を搭載。
どう見ても空母です、ありがとうございます。
烈風拳や紫電掌は(まだ)使えません。
川内
夜戦、夜戦と騒いでるだけじゃない川内型の長女。
海野提督とは悪友的な関係。
なんだかんだ、良く本編に出て来てます……キャラクター的に動かしやすいのもあります。
実績だけでなく、身近でその実力を見てるので不知火からの評価はかなり高くなっています。
神通
川内型二番艦、第二水雷戦隊旗艦。
職務中は優しく厳しい鬼教官、休息中はやや引っ込み思案な優しい女性。
訓練が終われば、駆逐艦達と食堂行ったり、相談に乗ったりしているであろう常識人枠(?)。
肉弾戦の実力は川内に勝らずとも劣らず。
海戦時は船首で仁王立ち、軍刀を杖代わりに威風堂々。
川内型の血筋は戦闘狂。
那珂ちゃん
艦隊のアイドル那珂ちゃんだよ~☆
姉二人が問題児なので苦労人(?)
メタ発言してもたぶん許される子。
彼女と漣辺りは、平気で現代用語使います。時代考証とか全力無視です。
足柄
飢えた狼と評された精悍な重巡洋艦。
気風の良いお姉さんというイメージで書いています。
また彼女に乗船している士官もその雰囲気に乗せられて、勢いのある感じ。
那智
妙高型の次女。
艦娘イケメンコンテストがあったら上位に来ると思っている。
武人肌であり正々堂々と戦う事を好む反面、戦闘行為として策を練る事に対しても十分に理解しており海野提督に対して一定の評価はしている。
酒好きで様々なタイミングで酒盛りに人を誘う。
休日は昼過ぎまで寝ていることも……
主砲に海水云々
現代の砲だと、連射力が高いので冷却システムがセットになっているようです。
また、戦艦三笠には帆布製の筒で覆って海水をかけるような装置があったようです。
ですが、第二次大戦の軍艦だと砲塔内や弾火薬庫なんかを冷房で冷やしていたって話はありましたが、砲身を冷やすっていうのは・・・見当たらず。
金剛だったと思うのですが、砲身の加熱で倒れた人がいるらしいので、まぁ火傷したりするぐらいには熱かったはず。
なので、砲身云々は想像です。
天津風
二水戦所属として神通の信頼(無茶ぶり)に答える健気な子。
大丈夫、良い風が吹いているもの……
史実では島風に搭載予定の機関を搭載していたので、陽炎型とはちょっと違う。
まぁ、雲龍型の三女も姉妹と搭載機関が違ったりしていますが……
山風
先のイベントで実装された白露型の子。
何この子、可愛い、え、天使?
誠に不本意の極みでは御座いますが、当鎮守府にはシスターサラもコマちゃんも、山風も未着任でございます。(イベント未参加の為)
動画で見て、Wiki見て衝動的に登場させました。(史実でもスラバヤ沖海戦に参加してます)
いや、本当に白露型は最高だぜ!!もう一番艦の白露からして(略)……何と言っても夕立の(略)……
史実でも、スラバヤ沖海戦で第24駆逐隊は二水戦の指揮下に移っており、神通指揮の元、肉薄雷撃を敢行しています。
実際はどういった判断で移譲されたのか解りませんが、本作では重巡より快足である事から、預けたという判断をしております。
朝雲
朝潮型5番艦
あまり特徴が掴めていな・・・・他の姉妹が特徴的すぎるんだと思うんです。
外見相応に女の子って感じでしょうかね?
史実同様、スラバヤ沖での勇戦を書かせて頂きました。二水戦、四水戦と錚々たるメンバーが肉薄雷撃を敢行する中、最も敵陣奥深くに斬り込んだと言えば、その勇猛さが解るかと。
工藤さん
はい、雷艦長工藤俊作さんモデルです。
艦での鉄拳制裁を禁止したり、大仏なんて呼ばれていたことから優しい方だったようです。
雷の世話焼きっぷりもひょっとすると彼の優しい性格を反映しているのかも。
雷
かみなりじゃないわ!!
ダメ提督製造機の名を欲しいままにする、おかん。
彼女に癒されている方は大勢いるのでは?
某城ゲーでも彼女や良妻空母の空母のお艦と見間違うお城が居ますが……
雷のエピソードとしてはこのスラバヤ沖での敵兵救助が一番大きいのではないでしょうか。
一方でその最後は、心が痛むものですが。
トムフィール
エンカウンターに乗り組んでいた砲術士官。
サミュエル・フォールさんがモデルではありますが、短剣やら日本刀を渡したなんてエピソードはありません、創作です。
サミュエルさんは戦後、助けられた工藤艦長にお礼を言うために来日し、亡くなっていた事を知るとお墓参りまでされたほど立派な方。
私の作中では、神通さんに刀を投げつけられた=手袋を投げつけられた(決闘を申し込まれた)と解釈している人。
再戦が叶わないかもしれないので、せめて自分の短剣を送って健闘を讃えたいと思い行動した形。
駆逐艦エンカウンター
英国海軍の駆逐艦
艦娘(ゴースト)を宿していない艦です。
海野さんが「艦娘が宿る確率が云々」と言っているように、宿っていない艦も登場します。
イメージ的には日英は艦娘を宿す率高め、米独は低めを想定しています。
史実では、スラバヤ沖海戦(2月27日~3月1日)の3月1日にエクセクターやホープと共に撃沈。
その後、とある駆逐艦に救助されるのですが……そこでの小ネタの為に今回主観で登場。
あ、決して神通さんの見せ場を作りたかった訳じゃないよ?
ウソジャナイヨ、ホントダヨ?(ちなみに、夜戦初期に那智&羽黒が動けなかったのと、二水戦が突撃したのは史実です)
艦の性能について
信頼してる提督(キラキラ状態、能力以上の力を発揮
普通の提督(普通、性能表通りの能力
嫌いな提督(赤疲労、故障とか頻発
別に彼女たちが、サボってる訳ではなく、そうなってしまうという感じ。
もちろん、彼女たちもそれが解ってるので、自分が提督をどう思っているかは、かなり正直に言う。
※後書きで書いていた補足やキャラ紹介は別に「備忘録」を作りましたのでそちらをご覧ください。
順次そっちへ補足や紹介は移行予定です。
各種、有名海戦やエピソードは拾っていこうと思っています。
登場済みの艦娘で「物語の語り手」にして欲しい子が居ればリクエスト下さい。
技術レベルが限界突破したり、そんだけ資材あったら戦争しなくていいだろ、とかならないように注意しながら書きます。
ご意見、ご感想、誹謗中傷、出して欲しい艦娘などコメント頂ければニヤニヤしながら頑張ります。
すごいです!自分史実には弱いんですけど・・・そんな僕でもわかりました!前のやつも本当に面白かったです!自分が史実を知ってる数少ない艦娘、比叡か不知火をお願いします。今出しにくいと思うので、できたらお願いします♪
万屋頼さん
コメントありがとうございます。
史実のネタを挟むと艦娘が何でこんな性格になったのかって解るような気がして組み込んでます。
比叡、不知火了解です。
南方へ進出予定だったので、ぴったりです。
文章が安定してない?
なんとなく読みにくい。
ただ、こういう雰囲気の作品は好きです。
イベント&更新頑張れ〜
楽しみにしてます。
リクエストは上でも出てるし、比叡で!
不知火、なんとか出せました。
不知火だと北方の話も出したいですが、ひとまずは南へ派遣といった形で。
SS好きの名無しさん
コメントありがとうございます。
読みにくい……なんとか工夫してみます。
影響受けやすいので、文章が安定してないのかもしれません。
イベントはプリンの堀で止まってます。祈るしかない。
霧島の主観の内容が書けているので、もうしばらくお待ちを。
史実では南に最初派遣されたのは金剛&榛名でしたが、IFなので!!
ソロモン海戦は、まだまだ先ですがひとまず、物語に参加という形で。
どうも!楽しく読ませていただきました。早速ですが、リクを・・・扶桑型姉妹と翔鶴型姉妹、お願いします!!更新頑張ってください!!!
コメント&リクエストありがとうございます。
まずは扶桑型から登場という事で。
内地で改装して、戦線へ移動。
IF改装の理由付けも結構固まってるので、無理が無いように書ける……ハズ。
鶴姉妹は現時点だとハワイから帰って来てる所。
瑞鶴がキャラ的に動かしやすそうなので、それほどお待たせせずに出せるかな。
おおっ!!!有り難い!まさか昨日の今日で出して頂けるとは!!感謝感激です!!!
コメント貰ってテンション上がって、睡眠時間とか蹴り飛ばして書きました。
いや、本当にコメント頂けるのはモチベーションを上げる最大の要因です。
更新お疲れ様です!!毎日楽しみにしてます!!!頑張ってください!!!
が、頑張ります。
楽しませられるように!!
嬉しいもんですね~
Wow!!姉様すげぇ!!山城がゾッコンなのも分かる気がするゼ・・・そして更新、お疲れ様です!次も楽しみにしてます。
扶桑姉様
負い目がある分、技術を徹底的に磨く。
でも、自分ができる程度だからってループ。
長門とかに称賛されても「気を使われてる」と思ってる感じです。
戦艦版鳳翔さん的な立ち位置です。
年代的には金剛型の方がアレなんですが……
戦闘入りますが、上手く書けるかな・・・
お久しぶりです。待ってました!!次の展開にむけていよいよ目が離せなくなってきました!!期待しています!!!
ははは、戦闘が始まらない・・・
次こそ戦闘回に・・・
行けるとイイナ。
すみません。昨日はPCが拗ねて見れませんでした。何とか今日は来れましたが・・・PCの機嫌を取りつつ楽しみに待ってます。
戦闘に入れない(ぁ
再編小沢艦隊に陣容の説明とかどうすればいいのやら。
一応、小沢艦隊にビスマルクが異動中です。
何処かで説明が出来れば良いな。
おひさです!更新ご苦労様です。龍驤隊大奮闘!!松ちゃんとRJとの掛け合いがGJですね!にしても・・・松ちゃんだから抹茶色?
もっと臨場感が出せれば良いんですけど。
航空機の機動とか、勉強しないと……(奇襲ばっかりだし
格闘戦より一撃離脱になってるとか、日本軍じゃ無……
色についてはなんとなく思い浮かんだだけなんです。
赤とか黒とかだとなんか違う気がして、微妙に嫌な色って考えたら黄土色とかそっち系に。
しばらくの間更新がないようで寂しいです。頑張ってください。待ってます。
ナント・・・・・・ビス子がパワーUPしている・・・・・・!!(歓喜)
更新お疲れ様です。
諸事情で更新が遅くなりました。
試験、ホントキライ。
ビス子
その内、主砲に換装予定。
対艦能力は主砲がない分、下がってます。
間に合わせで何か積んどけっていう無茶振りの結果なので・・・
機銃満載より、ビスマルクぽいかなと思って噴進砲に。
更新お疲れ様です。これは次の更新で戦闘が始まるのかな?にしても特号戦闘糧食・・・・・・ここまでかっこいい飴玉の別名は初めて見た・・・・・・!
青年期で川内から貰ったカステラ(甘味)で勝てたので、験担ぎ的な意味で決戦前には、何かしら甘味を口に入れるようになったって感じです。
たぶん、鳳翔さんと相談しながら作った。
戦闘シーンなんてなかった。(ぁ
視点を敵艦隊(英国or米国)にすればまた別なのかもしれませんが……完全に物量で押し潰しているので。
基地航空隊が居なかった場合は、大型爆弾&魚雷持ちがほとんど居ないので艦隊戦になりますが……まぁ、マレー沖ですので、基地航空隊に出張って貰いました。
お疲れ様です。「浮輪とか・・・」のくだりは敵艦隊の乗組員へわたそうとしたってことで合ってますか?
短期間での更新お疲れ様です。今回は扶桑姉さまサイドからの話でしたね。山城はさぞ悔しがっているでしょう(笑)
コメントありがとうございます。
浮き輪とか~のくだりは、敵に対しての意識まではなかったです。
撃墜された攻撃機の乗員救助目的で一緒に戦場に出たから陸軍だろうと気にせず助けるってイメージで書いてました。
雷や電のエピソードもその内挿入したいですが、まだまだ先になりそう。
まだ、出せてない子も居ますし。(何でか霧島と比叡を見間違えてたなんていえない)
大丈夫、山城も活躍させる。(ゲームだと山城改二、姉さま改・・・)
設計図が、足りないの。
扶桑姉さま、航空機運用について勉強中。
まずはカタログスペックの暗記とかしてそう。
更新お疲れ様です。鶴姉妹ktkr!!!いいですねぇ~二人の性格がしっかり出てます。・・・・・・岩本さん?あんた帰って来たら海にどつき落されまっせ・・・・
鶴姉妹、出せました。
姉妹共々、未熟ながら頑張ってる感じが出ていれば何より。
岩本さん、実戦経験で言えば鶴姉妹の搭乗員の中でもずば抜けてる扱い。最先任下士官なので自由気ままでも怒られない。
一応、提督クラスには怒られる。(松ちゃんが小沢さんに恐縮してたように)
お疲れ様です。鶴姉妹の出番はここから!ガンバ!!
更新お疲れ様です。次は夜戦だー!!
続きに苦戦中です。
戦闘描写がぜんぜん出来ないので、勉強中といいつつ他の人のSS読んだりしております。
戦闘描写の上手いSSでお勧めあれば教えて頂きたい所存であります。
個人的な意見ですと、さとうきびさんの血河の決壊は、戦闘の細かさや、リアリティの意味では凄く丁寧に書かれていると思います。
雰囲気や生々しさでは、重巡加古はのらりくらり、が上手いなぁと思いました。、
更新頑張ってください。
くたくたさん
コメントありがとうございます。
さとうきびさんの作品、良いですよね!!
あの人の作品に触発されてSS書き始めたんですよ。
地の文の迫力とか、本当にカッコいい。
いつか、追いつけたらなぁ。
重巡加古はのらりくらり!!
あの重い空気の中を、必死に生きてるって感じがしてたまりませんでした。
あんまり言うとネタバレになってしまうので、あれですけど。
カッコいい加古が見れる良作です。
久しぶりに、読み返して来ます!!
お勧め、ありがとうございます。
更新お疲れ様です。不知火はこの後どういった方向に向かっていくのか・・・次の更新も待ってます!!
P.S.残念ながらあまり多くの作品は読んでいないもので、お勧めできそうなものはあまり・・・別サイトでよければ、ハーメルンというサイトをのぞいて見ると何か掘り出し物が見つかるかもしれません。
不知火は自分1隻で敵艦2隻を沈められれば十分。
捨て身とまではいかないけど、かなり冷淡な視点で考えている設定です。
提督万歳な娘ばっかりというのも面白くないので。
ハーメルンですね、覗いてみます。
更新ご苦労様です。四日ぶりにのぞいて見たら山城がすごいことになっていて、びっくりしました。これから姉様とどんな活躍をしてくれるのか、期待しながら待ってます。
コメント、ありがとうございます。
航空戦艦山城、上手く活躍させられるように頑張ります。
扶桑姉様とセットで動けるようになるのはまだ先……
一旦、視点がトラック泊地に。
一航戦、二航戦他、新キャラ登場予定です。
更新お疲れ様です。如月は大丈夫なんですかねぇ?そして天龍型コンビの策は実るのか?楽しみにしてます。あと、龍田はあれでいいと思いますヨ?
更新ご苦労様です。・・・・・・さすが作者さん。俺の予想をはるかに超えてきやがる!!そこにしびれる!憧れるゥ!!
コメントありがとうございます。
お盆休みの先取りのお陰で更新が進んでおります。
良い意味で予想を超えられているとしたら、嬉しいです。
飛龍の超低空飛行は結構、有名な一式陸攻の雷撃写真から……
イメージ的には水上を滑るぐらいの想像。
その高度で、雷撃できるのかとか、翼を波に掠らせて平気なのかとか突っ込み処はありますが。
夏イベ、完走できるかねぇ。お盆休み終わるし……
笠たすk・・・・・・・・・になってますよ?これからも更新頑張ってください。体調にもお気をつけて。
若干修正しました。
・・・夏イベやりたい。
仕事なんかうっちゃって夏イベやりたい。
海野ちゃんカッケー!!提督の鏡だネ。そして、甘味で丸め込まれる不知火wwちょろすぎ、でもそこがいい。これからも更新頑張ってください!
軍人としては、「ズレている」というイメージで書いています。
不知火の考え方「戦果至上主義」が主流と思って頂けたら。
(主流の方が本音としてそう思っているのかって問題はありますが。)
戦争の体験談とか読むとなんとな~く現代とは感覚や思想が違っているのが解るような気がしますが……それを表現することが出来れば良いんですけどね。
海野ちゃん頑張れ!臆病ものと呼ぶ奴らを見返すんだ!!作者さんも更新頑張ってください。
更新お疲れ様です。次回も期待してます!!
P.S 海野ちゃん?ああた、艦娘に勝つとかどんだけ?
更新お疲れ様です!アンケートのことですが・・・がっつり書いちゃってください!!!お願いします!!
お風呂回期待してます!
タグにR18付ければイケるイケる。
更新頑張って下さい。
お風呂回、書くことにします。
ただ、R18は勘弁してください。
書ける気がしない……
くっそ、エロなんて書いたことないよ!!
いいですね!!GJです!!和気あいあいとした感じが出てていいと思いました。これからも更新頑張ってください。
POW「あああああもおやだああああ!!!!!出番なしって何だよ!!」
レパルス「何で毎回毎回沈められなきゃならねえんだよ!!!!」
コメントありがとうございます。
お風呂回、もうちょっとだけ続きそうです。
ビスマルクか龍驤、どっちを風呂場に突撃させようか・・・
グラーフが大きい時雨みたいになってきた。
なんか犬っぽい。
懐いたら一直線みたいな……
POW&レパルス
すまん……
活躍させたくても、マレー沖海戦のイメージが強いんです。
一応、金剛達と砲戦して、金剛大破&鳥海、熊野が中破、敷浪が小破と戦果あり。
次の戦闘では陸攻隊の撃墜と翔鶴航空隊壊滅の一因(POW達が居なければ陸攻だけで基地破壊は出来るだろうし)にもなってる訳ですし……ダメ?
それに、フッドさんなんて、復活したのにフルボッコ……
更新お疲れ様です!大丈夫!エロく思えなくても風呂と女の子の組み合わせは最強です!!
良かった……
とりあえず作者的には長かったお風呂回と不知火のもやもやが晴れた(?)所で次の戦闘へ。
五戦隊に神通、那珂ちゃん登場ということで予想はされてると思いますが……
海野艦隊(現在駆逐艦三隻)に川内と新戦力を1隻加えて、という事になります。
川内型の暴れっぷり、どこまで書けるやら。
更新お疲れ様です。さーて、次は誰が出てくるのかな?とても楽しみです。海野ちゃんの評判がこの作戦で上がりますように・・・・・・・・・・・
コメントありがとうございます。
貴方のお蔭で今日も更新頑張れる。
お待たせしました、新艦です。(またしてもIF改装してますが)
水雷戦隊に低速艦を入れるとか死にたいのかって話になりますので……
それでも、水雷戦隊に追従するには遅めの設定ですけどね。
海野さんの評判は、どうなるんでしょうね。
……那智&神通&那珂にフルボッコされる予定なので、かなりキツイ。
連日の更新本当にお疲れ様です。新艦は香取でしたか・・・・これからどうなっていくのか楽しみにしてます。頑張ってください。
那珂ちゃん!
那珂ちゃんの見せ場はまだなのか!
一心不乱に那珂ちゃんを所望する!
コメント&オススメありがとうございます。
天一号作戦も、さとうきびさんにオススメして頂いたようで、この場を借りてお礼申し上げます。
那珂ちゃん推し、了解しました。
日曜日までには……なんとか。
那珂ちゃん、出しました。
金、土、日と予定があるので更新できるか微妙だったので……
顔見せぐらいのショートですが。
次は会議で海野さんフルボッコ回(予定)(主観は神通さん予定)
那珂ちゃんは、フォロー役に回すべきだろうか。
更新お疲れ様です。予定があるのなら月曜まで更新しなくてもいいと思います。あと、那珂ちゃんはフォロー役にしてほしいです。
那珂ちゃんありがとう〜
無理を言ったみたいでごめんなさい。
更新は出来る時で良いと思います。
気長に待つから、楽しめるの頼みます!
更新お疲れ様です!いや~待ってました!!今後も頑張ってください。
遅くなりました。
更新、しましたが・・・あんまり盛り上がりもしない感じに。
とりあえず次回への布石になれば。
更新来てたー
那智が飲兵衛&漢らしい。
更新お疲れ様です!・・・にしてもセンダイ=サン?あなたなぁにやってんのさ・・・・・・・
コメントありがとうございます。
那智のイメージってそんな感じなんですが……どうでしょう?
センダイ=サンは自由人ですから。
鉄拳制裁とか、現代だと普通にアウトですけど、当時は当たり前にありましたので一応、川内も我慢はしようとした訳ですが……
更新お疲れ様です。小ネタは本編の最新の状況に関係するものだけここに入れ、それ以外の過去話などは『外伝』として別にしたらいいと思います。ただ、結局は作者さんのなさりたいように筆を進めるのがベターだと思います。
コメントありがとうございます。
魅力的な艦娘ばっかりなのでつい、「あの娘も出したい、あの娘も!!」と欲張ってしまっているのが原因なんですよね・・・
外伝形式、なるほど。
その考え方、お借りします。
あくまで主軸を海野さん近辺にしてるのが本編、それ以外は外伝ぐらいの感覚で……出来るかな。
鳳翔さんとか、鳳翔さんとか、鳳翔さんとか書きたいのでそっちは外伝行かな。
更新お疲れ様です。まさかこの不肖の身の考えを採用いただけるとは・・・・・!!有り難いことです。外伝、楽しみにしてます。♪
いつもコメントありがとうございます。
外伝書きたい!!
けど、とにかくスラバヤ沖海戦を優先。
久々の戦闘に頭から煙出そうですが……
楽しんで頂けるような描写が出来るように、稚拙ながら筆を重ねて推敲を進めて参ります。
更新お疲れ様です。川内型と書いてバトルジャンキーと読むというwww本人たちに聞かれたらどうなることやらwとにもかくにもこれからも更新頑張ってください!
更新お待たせしました。
大丈夫です、きっと神通さんもオフの時なら困ったような笑顔で許してくれます。
史実考慮しつつなので、スラバヤ沖海戦だと遠距離砲撃戦に終始するのが悩み所、二水&三水が突入まであと少し、今しばらくお待ちください。
更新お疲れ様です!足柄姐さん気合入ってますね。次も気合入れてお願いします!頑張ってください!
明けましておめでとうございます。
待っててよかった~!これからも無理せず自分のペースで頑張ってください。
明けましておめでとうございます。
続きが気になっていたので、更新頑張って下さい。
コメント、ありがとうございます。
大変長らくお待たせしてすみませんでした。
更新したその日にコメント返ってくるとは思わず、驚いております。
忙しさに負けて投げ出さずに続きを書いて良かった・・・・・・
拙い作品ではありますが、これからも楽しみにして頂けるよう頑張らせて頂きます。
更新お疲れ様です。最近なかなか感想を書く暇が見つからず、申し訳ありませんでした。これからも更新頑張ってください。
コメントありがとうございます。
いえいえ、暇な時に気が向いたら読んで貰えれば十分です!!