2016-11-17 22:45:34 更新

概要

長くなりそうなので前後編に分けました


五章


ガンツのミッションは基本的に人の少ない場所で夜に行われる

一般人への被害を最小限に抑えるためだが

星人の行動によっては夕方から始まったり夜でも人が多い街中になったりもする


時刻は夜8時、平日とはいえ秋葉原には多くの人が往来していた

そんな中、大量の星人出現

千歌達が転送された時にはすでに多数の死者が出ていた

警察や自衛隊も出動しているが事態は未だ終息していない





――

――――

――――――



千歌「こいつら! 一体ずつがかなり強い!!」キンッ! キンッ!



二人の前には四体の星人が立ちはだかっていた

大きさが3m弱で金棒を持っているのが二体

何も持っていないのが一体

その後ろに4mを超える星人があぐらをかいて座っている


全員鬼のような見た目であった



鬼の一体が雄叫びをあげながら千歌目がけて金棒を振り下ろす


――バックステップで回避

振り下ろされた場所には大穴が空いた



追撃を加えようとした鬼だが、曜の放ったYガンにより拘束された




ガンツの武器にはXガン、ガンツソードのような殺傷武器の他に

捕獲用の武器であるYガンが配備されている

3つの砲身がYの字に配置された外観をしているこの銃は

上下のトリガーを引くことで銃口から実弾式のアンカーボルトを発射する

目標付近でワイヤーを実体化させ対象を束縛

アンカーは地面や建物に固定することで拘束する

その後、上トリガーを引くことで星人を上へ転送する事ができる


曜はこのYガンを多用している




曜「よし捕らえた! これで……」



上トリガーを引こうとするが側方からの鬼の攻撃により妨害される

その隙に武器を持っているもう一体の鬼がアンカーを破壊し

拘束が解除される



千歌「この星人……沼津港で戦ったのに似てる。ちゃんと連携がとれている」


曜「だったらこっちも連携して戦うまで! 幼馴染の力の見せどころだね」ニヤ



千歌「――よし、曜ちゃんはその銃で動きを止めて! すぐに私が仕留める!!」


曜「任せて!!」カチャ





~~~~~~



鞠莉「――ったく、しつけのなってないワンちゃんね!」バキッ!


善子「速いなもう!」ギョーン!ギョーン!



神田明神の境内には数十匹のオオカミ型の星人が出現

全方位から絶妙なタイミングで襲ってくるので

決定的なダメージを与えられないでいた


二人は背中合わせで対峙している



鞠莉「善子! 何匹倒した!?」


善子「まだ一体も! 速すぎて当たんないのよ」ギョーン!ギョーン!ギョーン!




一匹一匹はそれほど強くは無い

一対一なら戦闘力の劣る花丸でも容易に倒せる


だが基本的に戦いは数が多い方が有利

徐々に二人を追い詰める



――不意に星人が善子の手首に噛みついた

弱いとはいえスーツを着ていなければ噛み千切られていただろう




――パキン!




何かが割れる音がした




――スーツの耐久性能には限界がある

一定量以上のダメージを受けるとスーツ各部にあるレンズ状のメーターから

ゲル状の物質が漏出し、全ての機能を失う


しかし、メーター自体を破壊された場合

受けたダメージに関係なくその部位のスーツの機能が無くなる



星人の牙は偶然にも手首にあるメーターを貫き

善子の手首を噛み砕いた





善子「―――っ!? がああああぁぁぁああ!!!?」ギョーン!ギョーン!


反射的に撃ったX ガンは星人に直撃

爆発四散した



善子の手首の骨は完全に砕かれ

辛うじて一部の皮膚だけで繋がっていた


当然、女子高生が耐えられる痛みのハズが無いが

一度腕を切り落とされた善子は何とか意識を保っていた



善子「ふー……ふー……」ドバドバ


鞠莉「無事なの!? 善子!!?」



うずくまっている善子のケガを見て鞠莉は絶句する




鞠莉(出血がひどすぎる…このまま戦わせれば失血死しちゃう)



考えている間も星人は攻撃を仕掛けようとしている

迷っている場合ではない



鞠莉「――ごめん! 善子!」バキッ




鞠莉は善子を本殿まで蹴り飛ばした

一旦引かせるためとはいえ、今の一撃で今度こそ手首が千切れてしまった事に

罪悪感を覚える鞠莉




鞠莉「さて……正念場ってやつかな?」




善子によりやっと一匹倒したが

まだまだ数は多い



再び全方位から襲い掛かってくる――





~~~~~~



梨子「ハァー……ハァー…」ポタッ ポタッ



四体いた星人も梨子により半分に減っていた

ただ、その代償に左ひじを骨折していた


指先から血が滴る




花丸「さ…桜内さん……」ブルブル


梨子「ハァー……国木田さん、ちょっと一人でこの二体を倒すのは厳しそう。何とかして退路を作るから助けを呼んで欲しい」



花丸「え!? そんなケガなのに一人で戦うなんて無理だよ!」


梨子「…大丈夫、時間稼ぎなら……できる」ハァーハァー




実際には二人で戦っていない

花丸には下がるように命令し、梨子一人で戦っていた


花丸では相手にならないことを直感で分かっていたからだ




花丸「私だって…私だって戦えます! だから――」



梨子「黙って指示に従いなさい!! あなたじゃ無理なの、一瞬で殺されるの!!」


花丸「っ!?」ビクッ



梨子「…もう国木田さんを死なせるわけにはいかない。あなたをこの地獄から守り切る事が巻き込んでしまった私の責任であり使命なの」


梨子「その為なら……私の命だって賭ける覚悟よ」ハァーハァー




梨子は脅されていたとはいえ、自分の手で殺めてしまったメンバーに対し

強い罪悪感を持っていた

彼女達が生き残る為なら危険な囮役でも即死級の攻撃でも身を挺して庇うことも

命を捨てる覚悟があった


特に花丸は一度死なせてしまっている

これ以上繰り返すわけにはいかなかった





――星人が鎌を振りおろす


ガンツソードで防ぐが片手ではパワー不足だ

刀ごと近くの手すりに叩きつけられる



花丸「梨子さん!!」


梨子「――早く行きなさい……国木田 花丸!!!」グワッ






~~~~~~



ルビィ「――しっかりして!! 目を覚ましておねぇちゃん!!」



アルパカ小屋の裏側に二人は身を隠していた

頭から血を流し、意識は朦朧としているのはダイヤだった

スーツはすでに壊れている



退路を確保しつつ逃げながら戦っていた二人だったが

校舎に生徒が残っているのを見つけてしまったのだ


救出に向かったダイヤ

しかしその生徒は星人が化けていた偽物であった

不意の攻撃に受け、ダイヤは頭部に大きなダメージを受けたのだ


ルビィにより何とかその星人を撃破、ダイヤを救出し

今の場所まで逃げてきた




ダイヤ「……申し訳…ありません……完全に…油断しました……」ハァーハァー


ルビィ「おねぇちゃんは悪くない! 誰でも助けに行った、星人が卑怯だっただけだよ!」ポロポロ



ダイヤ「どうですかね……キチンとレーダーを見ていれば…」




星人はまだまだ残っている

頭をケガしている以上この場を動かすわけにはいかない


残された選択肢は

助けが来るまでここで待つ

ここの星人を全て倒す

後は……



ダイヤ「ルビィ……逃げなさい」


ルビィ「……え?」


ダイヤ「わたくしも…少し休んだら追います……ここに二人でいても仕方ありません」




ダイヤは分かっていた

この量の星人ではここが見つかるのも時間の問題


ここにいたら二人とも助からない

今のダイヤがルビィを守るために出来ることは

一刻も早くこの場から逃がす事だけであった




ダイヤ「心配しないで……必ず追いつきますから…」ニコッ



ルビィ「―――嫌だ、絶対に置いていかないよ」


ダイヤ「!? ル……ビィ?」



ルビィ「私だって見れば分かるよ…今のおねぇちゃんのケガは休んだくらいじゃ良くならない事くらい」


ダイヤ「っ!! でしたら、どうしてこんな事を言っているかも…理解しているでしょ!?」


ルビィ「うん……おねぇちゃんはルビィを逃がす為に自分を犠牲にしようとしてるんだよね?」



ダイヤ「なら―――」


ルビィ「でも、そんな事されて生き残っても嬉しくないよ」




ダイヤ「…仮にここで死んでも……100点を取れば生き返る」ハァーハァー


ルビィ「このミッションで全滅したら? それにおねぇちゃんを生き返らせてくれる人がこの先必ずしも生き残るとは限らない」


ルビィ「それに……もうおねぇちゃんが死ぬのはもう二度と見たくない」




ルビィの目がいつもとは違う事にダイヤは気が付いた

自信が無くおどおどとした目つきでは無く

戦う覚悟を決めた…あの時の鞠莉と同じ目をしていたのだ




ルビィ「――『黒澤家にふさわしいのは常に勝利のみ』」


ダイヤ「!?」


ルビィ「私だって黒澤家の人間だよ。いつまでも負け続けるわけにも、守られるだけの自分でいるわけにもいかない……」


ダイヤ「………」



ルビィ「――今度は私がおねぇちゃんを守る番。おねぇちゃんはここで待っててね」ニコッ




――ダメだ

このままルビィを行かせるわけにはいかない


ダイヤは引き留めようとするが

もう声を出すだけの気力は残っていなかった


意識を失う前に見たものは

戦場へ向かう大切な妹の後ろ姿だった






~~~~~~


辺り一面穴だらけになっていた

道も壁も止まっていたトラックも


千歌と曜が戦っている大型の星人によって開けられた穴である



二人のコンビネーションにより

三体の鬼星人の討伐、捕獲が完了済みである


最後に残った後ろの星人との戦闘に入っているが……



ガンツソードで切り付けるが余りの硬さに折れてしまう

Yガンでの拘束を試みるも、自力でワイヤーを引きちぎる

Xガンによる攻撃もダメージが薄い




千歌「まずいよ…攻撃が全然通じない」ゾワッ


曜「動きはそこまで早くない! とにかく手足を攻撃して逃げられないようにしよう!」




このタイプの星人は捕獲し転送するのが一番良いのは分かっていた

しかし撃っても撃っても

手足が落ちる事は無い




――ドゴ!




星人の拳が曜の腹部に直撃し後方へ吹き飛ばされる

建物を突き破り、かなり遠くまで飛ばされたようだ

曜の安否が確認できない


しかし、そんな事を星人は許さない

続けて千歌へ腕を薙ぎ払う


刀を盾にして防ぎ、踏ん張るが――



千歌「っ!!? 重い!?」グググ



スーツのパワーではこの星人と渡り合う事は出来なかった

側方の壁に叩きつけられる




千歌「――かはっ…」バタン



うつ伏せに倒れる千歌のもとへ

星人はゆっくりと近づく


早く逃げなくては……

しかし、想像以上のダメージにより思うように動かない




千歌(このっ! 動け! 動いてよ!!!)グググ



千歌は星人を睨み付けるが

その背後の景色が目に入り絶望する…


先ほど倒した星人と同じ姿をしたものが

続々と現れていたのだ





千歌(何で…何で今回に限ってバラバラに転送したの……? こんなの……無理だよぉ)ポロポロ




泣くなというのが

絶望するなというのが無理な話である


いくら戦いに慣れ始めたとはいえ、彼女達はまだ高校生だ

死の恐怖には抗えない


千歌にはもう立ち上がる気力は残っていなかった




千歌(ごめんね…みんな……もう疲れちゃったよ……)グタッ




星人はもう千歌の目の前まで近づいていた

あと数歩で拳が届く




――ズドン! ――ズドン!




圧倒的な――――――が

―――――を上から押しつぶした






――

――――

――――――



人生は普通で満ち溢れている


朝寝坊した日、曲がり角で運命の人とぶつかる事は無い

強敵を前にして突然新しい力が目覚める事は無い

正義が悪に負けることなんてざらにあるし

主人公補正なんてものも無ければ

絶体絶命のピンチにライバルが助けに来るなんて事も無い


どんなに良い人間も

どんなに良い仲間に恵まれていても

死ぬときは案外あっさり死んでしまうものだ


私は少年漫画のような王道展開より

こういう現実味を帯びた邪道な展開の方が好みだ





――でも、彼女たちの人生は普通だろうか?

死んだと思ったら勝手に再生されて

訳のわからない宇宙人と殺し合いを強いられる


いくらなんでも可哀想だとは思わない?



そんな彼女たちをもし手を伸ばせば助けられるなら

こんな捻くれた私だって迷わず助けるよ





ああ、ちなみに王道な展開が嫌いなわけじゃないよ?

正義の味方には今でも憧れているし

あの熱い展開はやっぱり癖になるもんね!




――ねえ知ってる?

ヒーローは遅れてやってくるんだよ――









――圧倒的な見えない何かが

星人の全てを上から押しつぶした





千歌には何が起きたのか分からなかった


星人がいた場所は大きな円柱状に削り取られた穴が二つ出来ていて

底に血の海が出来ていた



――目の前に黒いモノホイールバイクが止まった


千歌達の部屋にもあったバイクだったが

誰も運転できないので今まで使用しなかった



千歌(今回は誰かが持ってきたの……?)




バイクには二人、運転席と後ろに乗っており

どちらも千歌達と同じ黒いスーツを着ていた


後ろに乗っている人物が倒したようだが

持っている大きな黒い武器に見覚えが無いが


その持ち主の顔は確かに知っている

あの時とは違い、いつものサイドテールをしていた




???「ふー…何とか間に合ったみたいだね……」


穂乃果「……私が倒してくる。ことりちゃんはここで待ててね」ガチャ



千歌「ほ……穂乃果さん………」ポロポロ




千歌は涙する

だが今回は絶望したからではない


音の女神のリーダーは千歌の無事を確認し微笑んだ





穂乃果「―――もう大丈夫。後は任せて」ニコッ







~~~~~~



鞠莉はボロボロだった


二人でギリギリ対処していた敵だ

いくら格闘に優れた鞠莉といえども相手にならなかった



スーツの耐久にはまだ余裕を残しているが

体力の限界が近かった



鞠莉(きっつ!? こいつら手首のレンズを狙ってくるから油断できない!)




疲労による一瞬の隙を付き星人は鞠莉の手足に噛みつく

じりじりとスーツにダメージが入る




鞠莉「このっ! 放しなさい!!」ブンブン



必死に振りほどこうとするが

噛みつく力は相当なもので銃以外では対処出来ない

急がないと鞠莉も、出血中の善子も危ない




――ダン! ダン!




――空から黒スーツを着た二人組が舞い降りた



???「うげ!? 数が多すぎでしょ!? こんなの一人で相手するのは無理ね」


???「あーあ……本堂も境内も滅茶苦茶やん。こりゃ、星人にはた~ぷりお仕置きせなあかなぁ?」




鞠莉(誰!? Xガンの二丁持ちに……あの武器は何?)



にこ「私はあの子に噛みついてる奴を撃つ! 希は周りをお願い!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!


希「了解や!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!



鞠莉に噛みつく星人は爆破

周囲30cmの星人は全て圧死した



鞠莉「うお!? 私ごと巻き込むつもり!?」ゾワッ





~~~~~~


ルビィ「―――まだ増えるの?」




出来るだけダイヤから遠ざける為に戦場を校庭に移し

大小様々な星人の相手をしていた


それなりに訓練や実践を積んできたルビィではあるが

その戦闘力は花丸とほぼ同じ

恐怖を克服したとはいえ劇的に強くなった訳では無い


やっとの思いで倒しても次から次へと新手が現れる

強敵がいないのは不幸中の幸いだが

終わりの見えない戦いはルビィの精神力をごっそりと削り取る



倒した星人は七体

本来なら十分過ぎる成果だが今回に限ってはまだ足りない



ルビィ「まだ…まだ倒れるにはいかない……負けるわけには…」




大型の星人が棍棒は横に薙ぎ払う

予備動作もハッキリあり、速度も速くない




――ドゴッ!




避けるのが容易い攻撃でさえ彼女の脇腹に直撃する


……もう限界だった

誰が見てもルビィはよく戦ったと評価するだろう

倒した星人も普段の実力では倒せない強さだった

諦めても誰も文句は言わないだろう……




ルビィ「――うううぅぅぅ!!!!」グググ




――それでもルビィは立ち上がる




ルビィ「私は…負けない!! おねぇちゃんは……私が守るんだ!!!!」



ルビィの死はそのままダイヤの死に直結する

大好きな姉とこの戦いから解放されるまで

絶対に諦めるわけにはいかない


しかし、もう立っているだけで精一杯


武器を構える事も出来ないルビィに対し

星人は容赦なく襲い掛かる



ルビィ「っ!! うわあああああ!!!」




――スパッ!




無残にも肩から腰にかけて切断される

だがそれはルビィでは無い


ルビィに襲い掛かった星人の一体が何者かに切られた



そのまま後ろに倒れそうになるルビィを誰かが抱える

増援は二人いたのだ

目の前にいる金髪の女性と抱えてくれた女性は

ルビィに優しい声で話しかける




???「…ハラショーよ。貴方の覚悟は痛いほど伝わったわ」


???「たった一人でこの数を……私があなたと同じ年齢の頃だったら逃げ出していたよ」



ルビィ「……え? この声は?? え?」



どちらの声も聞き覚えがあった


聞き間違えだと思ったがそんな事は無い



毎日彼女たちの歌声を聴いているし

姉とライブのDVDも数えきれないほど繰り返し観ていた


今、目の前にはダイヤが憧れていた人物が

後ろにはルビィが憧れていた人物がいるのだ




絵里「花陽、その子は任せたわよ? こいつらは私が始末する」チャキ



花陽「うん! 頼んだよ絵里ちゃん!」






~~~~~~


壁に寄りかかっている梨子の意識は朦朧としていた

スーツはとっくに機能を停止しており戦闘不能になっていた



梨子(どうなったんだっけ? スーツが壊れるギリギリで一匹倒した事まで覚えてる……そうだ…花丸さんは上手く逃げたかな……)



意識が徐々にハッキリとしてくる

頭も段々回るようになってきたところで

一つの疑問が浮かんだ




梨子(――なんで私は生き残ってるの?)



星人は最初四匹いた

少なくとも一匹は確実に残っている

花丸が命令通り逃げてくれたのならとっくに自分は星人に止めを刺されているハズ


生き残っているということは……



完全に意識が覚醒した梨子の目の前では

花丸が残りの星人の攻撃を紙一重でかわし続けていた




梨子「んな!? どうして逃げてないの!!?」ゾワッ



梨子の声に気付いた花丸は一旦星人から離れ

梨子の近くまで来た




花丸「――よかった! 意識が戻ったずらね!!」ハァーハァー


梨子「そんな事はどうでもいいの!! 何でここにいるのか答えなさい!!」



花丸「……梨子さんの命令だったからだよ」


梨子「は?」


花丸「私は梨子さんが大嫌いずら。ルビィちゃんやマルをこんな地獄に突き落とした張本人なんだもん。今でも許せないし、仲良くなるつもりもない」



梨子「だったら、なおさら私なんか置いて逃げるべきでしょ!?」


花丸「……でも、梨子さんも責任を感じている事は伝わった。本当に命がけで守ってくれることも分かった」



花丸「――ただね、命を懸けるのは今じゃない。こんな敵、マル一人でも倒せる」




梨子はどうして花丸が守ろうとしているか理解できなかった

殺したくなるほど憎いはずの自分を何故見捨てないのか


今まで一度も目も合わせた事も無い

訓練中に殺意を感じた事も一回や二回ではなかった



そんな花丸が何故……



梨子(―――そんな事はどうでもいい!! 早く行かなくちゃ!)ググッ




立ち上がろうとするが

足に力が入らない


その間にも花丸は再び星人の方へ向かっていく




梨子「ダメお願い!! お願いだから逃げて!!!」



梨子の叫びは花丸に届く事は無く――








???「―――うにゃああああ!!」バキッ



突如、奇声を上げながら星人の側方から飛び蹴りを食らわせる

謎の少女が現れた



花丸「ずら!?」ビクンッ


梨子(ガンツのスーツを着てる!? 誰なの!?)




茶色い髪でショートカットのその少女も

梨子たちと同様の格好をしていた



???「ヤレヤレ…昔は一人でガンガン点数稼いでた梨子さんもこんなにボロボロになっちゃって……私が死んでた間に弱くなったんじゃない?」クルクル




一人の女性が赤い髪を指で巻きつけながら梨子に近づいてきた




梨子「ま……真姫さん!? どうして……!?」


真姫「久しぶりね梨子さん。まさか、あなたがまたこの戦場にいるなんてね?」



真姫「色々と話したい事はあるけど手当が先ね……凛! 一人で大丈夫そう!?」




凛「うん! サクッと倒すから大丈夫にゃ!!」パシッ!



凛「さて……まずはその鎌から引き千切ろうかな」ニヤリ






~~~~~~


果南「ふー……さすがに疲れたよ~」




一人敵の大群のど真ん中に転送された果南だが

完全に無双状態だった


決して星人が弱かった訳では無い

千歌達が相手をしていた鬼

鞠莉達のオオカミ

ルビィ達の大型妖怪

梨子達のヘビ


それらの個体より若干劣ってはいたものの

ほぼ同等の力と姿をした星人が入り乱れていたのだが

本気を出した果南の相手にはならなかった



大量にいた星人も今や残るは一体だけ

般若面を付けた人型の星人だ

腰には日本刀を携えている




果南(こいつだけ他の星人とは違う……放っているオーラが別格だね)ゾクゾク



ガンツソードを構える果南だが

彼女の直感が警告している


――こいつには勝てないかもしれない




だが逃げるわけにはいかない

こいつを倒さねば仲間に合流出来ないしミッションも成功しない




――覚悟を決める






???「――おや? もうあの星人しか残っていないのですね?」



果南の背後から誰か話しかけてくる

振り向くとそこには綺麗な長い黒髪の女性…

そう、まさしく大和撫子がそこにいた


彼女の両手にはそれぞれガンツソードが握られていた




???「貴方……かなりの実力者ですね。あれだけの星人をたった一人で…穂乃果と同じ強さかもしれませんね?」クスクス


果南「えっと……あなたは私の味方って判断していいの?」


???「ええもちろん。その為に私はここに来たのですから」




海未「――私の名前は園田 海未です。僭越ながら助太刀に参りました」カチャ







~~~~~~


穂乃果「ことりちゃん、千歌ちゃんをお願い」



バイクの運転席に座っていたことりに穂乃果は指示を出す



ことり「千歌ちゃん! 穂乃果ちゃんから聞いてたけど……大きくなったね」ニコ


千歌「ことりさん!? どうして!?」


ことり「驚くよね? あの後、穂乃果ちゃんが“全員”再生してくれたの」




千歌は絶句した

昔、東京チームと合同で参加した新宿でのミッションの際

東京チームは穂乃果と梨子以外は全滅していたのだ


それから約三年

彼女は少なくとも八回は100点を取ったことになる




ことり「…よかった、スーツは壊れていないみたい」



曜「――千歌ちゃん!!」ガラ




建物の穴から吹き飛ばされた曜が戻って来た



千歌「曜ちゃん!! 無事だったんだね!」グスッ


曜「あれ!? その二人は誰なの?」



ことり「はじめまして♪ あなた達の味方だから安心してね」ニコニコ


曜「味方? あ…ここ東京だもんね。東京チームも来てたんだ……ってあの人、一人で戦ってるよ!? 加勢しなきゃ!!」ゾワッ



ことり「大丈夫、今はここで休んでいて」



多数の星人からの攻撃を余裕を持ってかわす

隙を見ては撃つ


穂乃果は未知の武器を使用していた

グリップを間に挟んだ形状の双銃身の黒い大きな銃

Xガン同様タイムラグの後

円柱状に押しつぶす


威力は絶大で

Xガンやガンツソードで倒せなかった星人も一撃、多くとも三撃で仕留める




千歌「あれって…100点の武器なの?」


ことり「そうだよ。新宿のときから持ってたけど、狙いが定まらなくて使えなかったの…そのことで穂乃果ちゃん凄く後悔していたな」


千歌「確かに…あれだけの武器があったなら……」




――ズドン!




最後の一体を倒す

ダメージは一切食らっていない




穂乃果「――この武器で一撃で倒せない敵がいるなんてね……二人はよくこの星人と戦って生き残ったね?」



千歌「いえ…完全にお手上げでした。穂乃果さんが来てくれなければ今頃――」




千歌「……あっ!? 他のみんなは!? バラバラに転送されたんです!! 早く向かわなくちゃ!!」


ことり「慌てなくても大丈夫。そっちにも増援は向かっているよ! みんな強いから問題ないはずだよ」






~~~~~~



希「――よし、ひとまずこれで大丈夫や」キュッ




神田明神に出現した星人を殲滅した三人は本殿に蹴りこまれた善子のもとへ

善子が自身である程度の止血はしていたが希がキチンと手当てする



善子「……ありがとう…助かったわ……」ハァーハァー


にこ「かなり衰弱しているわね…もう少し早く来ていればっ!」ギリッ


善子「いいんです……痛いのは慣れています…から……」




鞠莉「でもまあ、驚きました…まさかあなた方が生きているなんて……」


にこ「何? 私達のこと知ってたの?」


鞠莉「はい。あの部屋について調べていたときに知りました。その…穂乃果さん以外は三年前に……」



にこ「…穂乃果には悪い事をしたと思っているわ……先輩である私達が弱かったせいであの子に負担をかけてしまった…」


希「だから再生してもらったからには、穂乃果ちゃんを守れるくらい強くなる覚悟で今まで戦ってきたんや!」


鞠莉「ふふ……見た所何回か100点を取ったみたいですね」




にこ「―よし、一休みしたら他のメンバーの増援に向かうわよ! まだ鞠莉にも戦ってもらうからね?」



鞠莉「――ええ! もちろん!!」パシンッ






~~~~~~



ダイヤ(……体が…動かない………ルビィは…どうなりましたの?)



「頭――血が!? ―丈夫な――すか!?」アワアワ


「まず――ね……意識がハッ――して――いわ」


「しっ―り―て!! お――ちゃん!!」




ダイヤ(誰…ですの? うまく……聞き取れない)




ダイヤ「……ル…ビィ………?」


ルビィ「おねぇちゃん! 良かった……気が付いた!!」グスッ



ダイヤ「一人で……倒したん……ですか?」


ルビィ「うんうん、絵里さんが助けに来てくれたの!! おねぇちゃんの大好きなエリーチカだよ!!」


絵里「あなたがダイヤさんね? ルビィちゃんから話は聞いたわ。妹にとっても愛されている素敵なお姉さんね?」



ダイヤ「絵里……さん…? あなたが……ルビィを…?」


絵里「私は少し手伝っただけよ。ほとんどの星人はルビィちゃんが倒していたわ。

あなたを守る為に」



ダイヤ「……そう……ですか……」




ダイヤ「ルビィ……気が付かないうちに…ずいぶん強く……なりましたね………安心…しました……」



ルビィ「………」


ダイヤ「…ふぅ……お姉ちゃん……少し……眠いん…です……ちょっとだけ……休んでも………よろしい……ですか……?」


ルビィ「……うん、大丈夫だよ。少し休んでね。しばらくしたらちゃんと起こすから安心して?」



ダイヤ「…少し……目を閉じるだけ…ですから………頼み……ま…し………たよ……」





ダイヤはそう告げて目を閉じた

その寝顔はとても安心しきった

安らかな表情であった





ルビィ「………」


花陽「ルビィちゃん………」



絵里「――レーダーに反応があるわ。こっちに近づいて来る」



ルビィ「……行きましょう。おねぇちゃんが休んでいる間に終わらせます」


絵里「……ええ、そうね。花陽はそこでダイヤさんを守っていてくれる?」



花陽「…はい! 任せてください」ウルッ




ルビィは再び戦場へ向かう


もう涙は流さなかった

覚悟は……とっくに出来ていた







~~~~~~


真姫「見事に折れているわね。一応吊ってあげるから少し我慢しなさい」グイ


梨子「~~~っ!!?ズキンッ あ……ありがとうございます」



真姫「頭もケガをしているみたいだけど、意識もハッキリしているし問題は無さそうね。ただスーツは壊れているから大人しくしている事ね」



梨子「……穂乃果さんはミューズのメンバーを全員再生したんですね?」


真姫「…ええ、最初の方に再生したメンバーも途中で100点を取ったけど…結局は穂乃果が全員再生させたわね」


梨子「穂乃果さん……本当に一人で…」





凛「――真姫ちゃーん! 終わったよ!!」




話している間に凛はもう星人を片付けていた

星人は四肢を千切られており見るも無残な姿となっていた




真姫「……凛、素手で戦うのは構わないけど…もう少しその倒し方は何とかならないの?」


凛「えぇ!? だって鎌は危なかったし…そもそも仕留めるなら首から上を壊せばいいって言ったのは真姫ちゃんだよ?」


真姫「そうだけど……引き千切るってのはどうなの? 正直ドン引き…」


凛「武器で破裂させたり切り落としたりするのとどう違うのさ!?」



花丸「凄くどうでもいいずらぁ……」ヤレヤレ





凛「――…それで、これからどうするにゃ?」


真姫「そうね…私はここで梨子さんと待機してる。レーダーを見て危なそうな場所に増援に向かう。二人はまだ星人が残っている花陽達の場所に向かって」


凛「了解!」ビシッ



梨子「わ…私の事はいいです! 真姫さんも…」


凛「大ケガしてスーツも壊れた人を一人にしておくと思う? いいからここで真姫ちゃんと待っててよ」


真姫「そうね…ここで昔話でもしながら待機している」



凛「そうそう! じゃあ行くよ花丸ちゃん!!」ダッ


花丸「ちょっ!? 待ってほしいずらぁ!!」ダッ




梨子「二人とも行っちゃいましたけど…凛さんは大丈夫なんですか?」


真姫「まあ…頭はそこまで良くないけど、私よりよっぽど強いから問題ないわ……多分」


梨子「あはは…」






――

――――

――――――


ミューズの参戦により戦況は大きく変わった

星人の数も激減している

ミッションももう少しで終わると誰もが思っていた


ただ、増援があるのは千歌達だけではない

本ミッションにおける最重要ターゲットの二体が

秋葉原の街に舞い降りようとしていた――





~~~~~~



穂乃果「――さて、そろそろ二人とも体力も回復したよね?」



千歌「はい! 大丈夫です!!」


曜「同じく!」グッ



穂乃果「さっきは『任せて』って格好つけたけど、あなた達がここに来たって事は今回のミッション、東京チームだけでは足りないってガンツが判断したから。ここからは二人にも手伝ってもらうからね?」




ことり「――敵が近づいて来る! 構えて!!」





――ズシン!





空から星人が落ちてきた

ガンツに表示されていた奴と同じ顔

今回のボスである




天狗「ほほーう……この鬼どもを蹴散らすとはな。中々はやるではないか」ニヤリ




千歌「!? しゃべった!!?」


穂乃果「…中には私達の言葉を理解している星人もいる……そんな星人は例外なくかなり強いよ」




右手に長い棒を持つこの天狗は先ほど倒した鬼とは異なり

やや細身の体つきであった

身長も2m程であり見た目はそれほど強そうでは無い





―――ギョーン! ギョーン!





穂乃果は引き金を引く

今まで多くの星人を倒したこの武器だ

当たればこの天狗も間違いなく死ぬ



――天狗は後ろに下がり攻撃をかわす




天狗「…その武器はもう知っている。隙を作らねば当たらんぞ?」



ことり「そうみたいだね? なら作るまでだよ!!」ダン!




ことりは天狗に向かって一気に距離を詰める

同時にホルスターに収めていた刀を展開、斬り付ける



キン! と金属がぶつかり合う高い音がした

天狗は右手の武器でことりの攻撃を防ぐ


タイミングをずらし千歌も斬りかかるが

それも容易く捌く



曜もYガンで拘束を試みるが当たらない




天狗「“その”武器も、もう知っているぞ! 見える分避けやすい!」




――瞬間

背後にことり、正面に千歌がまわる



ことり 千歌「「―――っ!!!」」シュッ



――同時に斬りつける




天狗「―――甘い」



千歌の斬撃を武器で

ことりの斬撃は素手で受け止めた



――バキッ! ドゴッ!!




そのまま千歌を蹴り飛ばし

ことりの頭を鷲掴みにして地面に叩きつける




千歌「ことりさん!!」



しかし、ことりは抵抗する素振りは見せない

それどころか天狗の足を両手で力いっぱい掴む





―――ギョーン! ギョーン! ギョーン!





穂乃果は再び引き金を引く

近くに、ことりがいるにも関わらず――



千歌「――何やってるんですか!!!??」ゾワッ



千歌は穂乃果の行動に絶句した

あろう事か、ことりごと天狗を始末しようとしたのだ




千歌(ダメ! もう間に合わな……)



曜「―――ギリッ!!」ダンッ!




穂乃果が発砲した瞬間

曜は動きだしていた


天狗を完全に無視し

ことりを強引に引きはがす




――ズドドドン!!




――刹那、天狗は見えない円盤に三度押しつぶされる

曜は直撃を避けられたものの

ことりの左足首は巻き込まれ、削り取られた




曜「っ!? 大丈夫ですかことりさん!?」


ことり「う……うん、大丈夫…」ズキッズキッ




千歌「穂乃果さんどうして!? もう少しで二人とも巻き込まれて死んでたんですよ!?」



穂乃果「――だからどうしたの? ことりちゃんを助けてっていつ頼んだ?」キョトン


千歌「……は?」



穂乃果「ことりちゃんが隙を作ってくれたから私が攻撃した。何か間違っている?」


千歌「…本気で言っているんですか?」



穂乃果「仮に巻き込んで殺しても、私が“再生”すれば問題ないでしょ? あなた達は自分の仲間だけを助ければいい。巻き込んでもそっちメンバーは私が再生できないからね」




曜「このっ!? あんたは自分の仲間を何だと……!!?」



激情し穂乃果に向かおうとする曜をことりは引き留める




ことり「いいの! 私は気にしてないから……」


曜「気にしてない!? あいつはことりさんを“モノ”と同じ扱いをしたんだよ!? なんでそんなに平気な顔をしていられるの!!」



ことり「それは……」




――グググッ





潰されたはずの天狗が再び立ち上がる



天狗「ハアアアア……こりゃ効くな! まさか仲間ごと撃つとは…やるな、女ぁ!!」



千歌「死んでない!? なんてタフなの!?」


穂乃果「………」



天狗「いいや? 確かに死んだぞ? だが一回殺したぐらいで、わしはくたばらん!!」




穂乃果は持っていた武器を放り投げ

手首に装着したコントローラーを操作した




穂乃果「……なら二度と立ち上がらなくなるまで殺してあげるよ」ピッピッピッ



コントローラーに入力したその直後

穂乃果の体に身の丈程の高さで大木のような太さの腕と

フルフェイスのマスクが転送・装備された




曜「あれは……スーツなの?」



穂乃果「千歌ちゃん…天狗の動きを止める事だけ考えて。決定打は私が与える」


千歌「……はい」



天狗「――楽しませてもらおうか!!さあ、 かかって来なぁ!!!」グワッ!






―――後編へ


後書き

五章前編を読んで頂きありがとうございます
テンポ重視でここまで書いてきましたが、いかがだったでしょうか?

沼津チームは果南、東京チームは穂乃果の強さが抜き出てますね
やっぱり穂乃果は強い

秋葉原での戦いも後半戦に入りますが頑張って盛り上げたいですね!

次回も読んで頂けると幸いです!


p.s コメントありがとうございます! とても励みになっています


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2016-11-18 04:11:09

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