2017-02-09 22:21:06 更新

秋の夕暮れ

少しひんやりとした風が少女のいる病室に流れ込み、

カーテンとともに少女の綺麗な赤髪が靡く。


「綺麗ね」


少女は誰もいない病室で、

ただ一人、沈んでいく夕日を眺めていた。


「......そんなことないってー」「いやいや、---ちゃん本当にすごいもん」

「そういえばこの前オープンしたあのお店....」「えーもう行ったのー?いいなー」


空いた窓からは自分と同い年ほどの高校生たちが

楽しそうに話しながら下校している様子が見える。


当たり前のように生きたい。あの人たちと同じように

学校が終わったら、寄り道をしてどこかの喫茶店で

友達と他愛のない会話をしながら、日々をすごしていく

そんな風に生きられたら、

どれだけ幸せだろう。


叶うことのない幸せな日常を

いつもこの病室で思い描いていた。


7歳の頃、少女は病に侵され、

今に至るまで両親が経営する病院でずっと闘病生活を続けている


たった一つの楽しみといえば、ピアノを弾くことくらい


小さな頃から邦楽、洋楽、クラシック、様々なジャンルの曲を聴いては

両親が買ってきてくれたキーボードを使って弾いた。


彼女の病室にはいつも綺麗なピアノの音色が響いた。

不思議なことに彼女には絶対音感と呼べる才能があった


もし病気がなかったら両親は医者になって病院を継いでほしいと言うかもしれないけど、

もしかしたらピアニストや作曲家になっていたのかなと少女はよく想像した。


そして15歳になる頃には自らの作った曲を病院内で披露していた

彼女の作った曲は、病院内ですぐに有名になった。

いっぱいの人が自分の作った曲を聴きにきてくれる。喜んでくれている

それは彼女にとって幸福とも呼べる一時だった。


そんなある日のこと


少女は余命が長くはないという両親の会話を聞いた。


当然受け入れらないことは分かっていた


でも、いつかこんな日がくるということは

心のどこかで分かっていた。


その日を境に


少女は毎日続けていたピアノの練習や作曲を止めた。


そして、残りの人生をただ何もせずに、過ごしていこうと決めた。


どうせ、もう死ぬのだからーー


その日を境にして

少女の病室からはあの綺麗な音色が消えた。


それからというもの何をするでもない。

ただ時間が早送りされているように過ぎていった。

演奏を聴きに来てくれていた人たちも、

気づいた時にはいなくなっていた


絶望を通りすぎて諦めに変わった

そんなある日のことだった。


少女がテレビを見ていると、

特集でアライズというスクールアイドルが出ていた。


アライズは3人ユニットでラブライブというスクールアイドルの大会に優勝して以来、

よく地元のテレビ番組にとり上げられていた


曲が始まると観客は一つになったように盛り上がる。


その人々を引きつけるダンスや歌


誰もがアライズに引きつけられていた


多くの人に夢や感動を与える


けれどその姿はこれから死ぬ自分には眩し過ぎて、


少女にとっては苦痛でしかなかった


少女はテレビを消して

ベッドに寝転がり、布団を被って耳を塞いだ。


テレビを消しても、しばらく彼女達の歌が脳内で鳴り響いた。


「やめてよ」


少女は呟く。受け入れようとしたはずの死が急に怖くなっていた。



ーーーー



微かに冷えた風が吹き、少女は目を覚ました。


いつの間にか眠りについていた。


もう、夕方だった。


少女は開いた窓を閉めようと立ち上がり、窓際まで足を運んだ


綺麗な夕日が見え、木々が揺らぐ音が聞こえた


まだ、起きたばかりだからか、微睡む


ゆっくりと目を閉じて、木々の音色をあらためて感じる。


サァーと柔らかな葉に風が触れる音が聞こえる。


このまま眠れそうね


少女は思った。


しばらく、このままでいたい。


「らららーららーらーん。ららーらーららーららららーらー」


作曲は止めていたけれど自然とメロディーを口ずさむ


「らーらーららららーらららー」

「×€¥&a*.;@〜ー」


しばらく歌っていると、ふっと少女の歌に紛れ、メロディーもリズムも聞いていられないような歌が聞こえてくる


目を開け少女は歌うのを中断した。


「もう、なによこの歌は。リズムもメロディもバラバラ。素人が作ってもこんな風にはならないわよ」


少女はイライラしながら音のする方を見た。


そこには、テレビで見たアライズが歌って、踊っているステージとは比べものにならないような

手作り感満載のステージで歌っている8人の姿があった。


自分と同い年くらいだろうか。


その少女達は病院前の道沿いに構えて歌っていたが、誰一人寄り付く様子はない。


それどころか歩いてる人達に迷惑そうな顔をされている。


「あれは何なの?」


ダンスはまあまあまともだけど、


「2人か3人ほど少しまともに歌える人がいるみたいだから、

辛うじて歌になってる?のかしら」


でも元の曲自体がまともに作れていないから、

お世辞にも聞けるってほどではないし、それに何より


「それに何より、真ん中の茶髪のあんた、自分勝手に歌いすぎよ。台無しじゃない。」


「えっ?」


少女が心の中で叫んだ言葉は、

どうやらその本人にはっきりと聞こえていたようだった。



ーーーー



「まったく、病院の近くであんな騒音止めてほしいわ」


少女は腕を組み、不機嫌そうになぜか病室に入ってきた8人を睨む。


「いやー少しでもこの病院の患者さんが元気になるとおもって」


先ほどの真ん中の茶髪の少女が照れくさそうに、えへへと笑う


「元気?馬鹿言わないで。悪化の間違いでしょ」


「すいません。彼女には迷惑になると言ったんですが、どうしてもと」


紺色の長髪の少女が頭を下げて、申し訳なさそうに言う


「あなたの声。そう。あなたはまともに歌えるみたいね」


「え?どうしてそのようなことがわかるのですか?」


紺色の髪の少女は不思議そうに首を傾げる


「ああ、私、耳がいいの。絶対音感ってパパが言っていたわ。

一度聴いた音の再現や複数の音の聞き分けくらいは簡単にできるわ」


「ふん。何自慢してんのよ」


黒髪のツインテールの少女がプスっとする


「何よ」


「べつに」


「ふんまあいいわ」


少女は目の前にあるキーボードで、先ほど8人が歌っていた歌を彼女なりにアレンジして歌ってみせた


「わ〜すごーい」


茶髪の少女が手をパチパチと叩きながら、そう言う


「す、すごい。ちゃんと歌になってる」


金髪の少女も驚いたように呟く。


「あなたは少し走り過ぎね。もう少しテンポを合わせたほうがいいわ。」

「あなたはちょっと声量が足りないわね。いい?私に合わせて発声練習してみて」


少女は一人一人にそれぞれ違ったアドバイスをした


一通りアドバイスをし終え、

「ほら、歌ってみなさいよ。私がリズムをつけてあげるから、」

「じゃあ、いくわよ。せーの」


「あ、ちょっと待って」

そういうと茶髪の少女はポケットから何かを取り出す仕草を見せた。


「?、何よ」


「あった!はいこれ歌詞ね」


少女がポケットから取り出しのはその歌の歌詞が書かれた小さな紙切れだった


「えっ?えっ?」


戸惑う赤髪の少女。


「穂乃果、まだ歌詞を覚えていなかったのですか?」


「えへへ」


穂乃果と呼ばれた茶髪の少女は恥ずかしそうに笑う。そして戸惑う少女の方を向く。


「あなたも一緒に歌おう?」


茶髪の少女はにこりと微笑む


「え?でも・・・」


「いいから。じゃあ行くよー。せーの」


ってあなたが言うの?


仕方なく少女はピアノを弾きながら、歌を歌った。


少女の指示のおかげかぎこちなさは残るが歌は形を成し、

この小さな病室に少女たち9人の美しい歌声が響く。


「ふう」


少女は歌い終わると小さく息を吐く。


「すごいよ。あなた」


「きゃあ、」


いきなり、手を握り閉めてきた茶髪の少女に思わず、声が漏れる。


「ま、まあ当然よ。この私にかかればね」


同年代の友達と話したことがなかった少女は素直にありがとうと言えず、

つい高飛車な態度をとる。


「ねえあなた。私達と一緒に歌ってみない?私達スクールアイドルやってるんだ」



「スクール....アイドル?」

茶髪の少女の言葉に赤髪の少女の表情が変わる。


「どうしてもかなえたいことがあって。あなたがいっしょにうたってくれたら・・・」


「遠慮しとくわ」


少女は茶髪の少女の言葉を遮る。


「え?どうして、そんなに歌上手いのに」


「私ね。もう長くないの」


「え?」


「病気でずっとここにいる。趣味でずっとピアノをやってたけど

ある日パパが長くないって言ってたのを聞いたの」


先ほどまで笑顔だった茶髪の少女の顔が雲る。


他の7人も似たような顔をしていた。


いつもの奴だ。

お見舞いに来てくれていた人はこれを言うと、いつも同じ表情をする


哀れんでいるのか。まるでかわいそうな人を見るようなその目。


やめてよね。同情なんて


「分かった?私はいつ死ぬかも分からないの。ピアノだっていつまで弾けるか・・・」

少女はキーボードを優しくなぞる。


8人の少女は言葉を完全に失っていた。


「帰って」


赤髪の少女は呟く。


「で、でも」


茶髪の少女は心配したように何かを言おうとした


けれどーー


「いいから、帰ってよ」


少女はうつむきながら、今度は強い口調で言う。



「ーーーーーー」



茶髪の少女が部屋を出ていくとき何かを言っていたが、

少女には何も聞こえていなかった。



少女達が帰った後、病室は静寂に包まれる。


どれだけ願っても私は彼女達と共に歌うことはできない。


少女は自分の人生を深く嘆いた


落ちた涙がゆっくりと布団に染み込んでいく


病室の中には彼女達と歌った感触が僅かに残っていた。


ーーーーーー


昨日の出来事から1日が経ち、少女は今まで通りの何でもない生活に戻る。


時折、キーボードを気にする素振りを見ながらーーー。


夕方になって、昨日と同じように少女は窓際に座って夕日を眺めていた。


変わらない景色ーーー


「綺麗ね」


自然とそういっていた。この景色に浸れるのも後どれくらいなのだろうか。


少女はうつむく。


「あーここだ301号室。」


外から声がして、少女はドアの方に振り向く。


ガラガラと勢いよく扉が開く。


「おっじゃましまーす。」


聞き覚えのある声だったから、なんとなく分かっていたが、


「また、あなた?いったい何の用よ?」


少女はため息をつく。


「いやー昨日は大勢で押しかけたから緊張したのかなって。だから今日は私一人で来てみたよ」


そういう意味で帰ってと言ったわけじゃないのに


「あ、これ差し入れのおまんじゅう。穂むら名物のほむまん。食べてね。」


もう、放っておいてほしいのに


「後で、食べるわ。それより何の」


「うわー。ここから見える夕日ってこんなに綺麗なんだー」


いつの間にか茶髪の少女は窓際まで移動していた


「まったく、世話しない人」


少女は呆れたように言う。

茶髪の少女は夕日をしばらく眺めていたが、ふっと話しを始めた。


「私達の学校ね。今年廃校になることになったの。」


「ふーん。そう」


「だから私達はその廃校になるのをどうしても止めたくて、スクールアイドルをしていたんだ」


少女は笑みを浮かべながらもどこか切なげに話す


「どうしてスクールアイドルをすることが廃校を阻止することに繋がるのよ」


茶髪の少女は振り返り、ニッと無邪気に微笑む


「それは決まってるよ。私達の姿を見て、

スクールアイドルを目指したいって人がいっぱい入ってくれないかなって」


「はぁ?、あ、あなた本気でいってるの?」


「もちろん!」


茶髪の少女は自信に満ち溢れた笑みを浮かべる


「あきれた...」


バカなのかしら


「それで?あまりに歌がひどいから、私に作曲でもお願いしに来たの?」


「あはは...。それもあったんだけど、今日来たのはそれとは違うの」


「はぁ?何よそれ」


「えへへ。昨日は言いそびれちゃったから、今度はちゃんと伝えようと思って」


笑顔だった茶髪の少女が少し真剣な顔になる


「私達、あの後話しあったんだ。」


「話し合う?何をよ?。」


「やっぱりあなたと一緒に歌いたいって」


茶髪の少女は手を差し伸べた。


赤髪の少女は呆れるよりも、どこか怒りのような感情が溢れる


「しつこいわね。あなた昨日の私の話を聞いてたの。私はもう長くないの」


どうしてだろう。


「私を哀れんで言ってるんだったら本当に止めてよね。」


私はすべてを捨てたはずなのに


「もしかしたら明日までの命かもしれない。


歌うことも大好きな音楽を聴くこともできなくなるかもしれない。」


それなのに


「どうして?どうしてあなたはそんなことが言えるの?」


「簡単だよ」


茶髪の少女は微笑む


「あなた、歌ってるときすごく楽しそうだった。」


「はぁ?な、なにを言って」


「本当に楽しそうで、

一緒に歌ってる私たちも笑顔になれたの。」


茶髪の少女は胸に手を当てて「うん」と小さくうなずく


「私達しばらくこの感覚を忘れてたみたい。」

「学校のためにって、躍起になって本当に大切なことを忘れてた。

私たちはこういうアイドルになりたかったんだって。

歌ってるほうも、聴いてくれるほうも、みんな楽しく過ごせるような

こんな時間がずっと続けばいいのにって思ってもらえるような

そんな素敵な存在に」

「あなたが思い出させてくれたんだ」


「私...が...?」


「うん!」


「私は....そんな...」


茶髪の少女は優しく微笑み

視線を外へと向ける

そしてすぅと深く息を吸い込む

「愛してばんざーい。ここでよかった。私たちの今がここにある。

愛してるばんざーい。始まったばかり明日もよろしくね

まだゴールじゃない」


「その曲は....」


「あなたが私たちにくれた最初の曲」

「少しは上達してるでしょ?あの後いっぱい練習したんだ」

茶髪の少女は自慢げに笑みを浮かべる。


「まだあなたほど歌はうまくないけど、どうしても聞いてほしかったんだ」


そのまっすぐな瞳には一点の憐れみや同情もなく、

ただただ暖かく、そして輝いていた。


ずっと昔、私が小さかった頃、

両親に買ってもらったピアノを練習して

不器用なりに一生懸命演奏して、

みんなが笑顔になってくれてたように


「また聴きに来るね」


そういってもらえるのがうれしくて、ただただがむしゃらに練習していた


あの頃のように


忘れていたのは私の方だったのかもしれない。


本当は私、音楽が...


「ねえ。あなたの名前、なんていうの?」

茶髪の少女が問いかける。


「・・・まき」


「え?」


茶髪の少女は聞こえなかったというように耳を傾ける


「真姫よ、西木野真姫!!」


「真姫ちゃんっていうんだ。素敵な名前だね。

 私は穂乃果。高坂穂乃果。音乃木坂学院高校2年でスクールアイドル。

 真姫ちゃん。もう一度だけ言わせてもらうね。

 私達と一緒にスクールアイドルを始めない?」

茶髪の少女は手を差し伸べる。


「お断りよ!」


「えぇ!?そこはオッケーしてくれるところじゃ」


「スクールアイドルにはなれない。でも...」


「でも?」


「あなたたちの壊滅的な作曲力には同情したわ。

だから、私に歌詞を渡しなさい。みんなが驚くほどの名曲を作ってあげるわ」


「真姫ちゃん,,,」

茶髪の少女は嬉しそうに赤髪の少女を見つめる。


「な、なによ」

赤髪の少女は照れくさそうに頬赤らめる。


「ありがとう。これからいっぱいよろしくね」





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