観艦式はじめました
「観艦式?」
「そう、観艦式」
提督に呼び出されて執務室に行ってみれば、いきなり遠征艦隊旗艦に任命された。
私は軽巡だし、水雷戦隊旗艦として遠征艦隊を率いることもよくあるけど観艦式は初めてなんだ。
でもなんで観艦式?
「海外艦からのリクエストなんだよ。あちらと日本じゃ様式が違うから興味あるんだってさ」
私の疑問に、提督が答えてくれる。たしかに、海外の観艦式は観閲艦も受閲艦隊も両方動くのに
日本じゃ受閲艦隊は停止したままだって言ってたっけ?
「でも、それなら戦艦が旗艦になった方がいいんじゃない?その方が観艦式っぽくていいじゃん」
「そりゃあ軍艦として考えたらそうだろうね。でも艦娘として考えたらその限りじゃないんだ」
どういうことだろ?艦娘として考えたって大和さんとかの方が大きくて威容があると思うんだけどな。
私が考えてるのを見てだろう。提督が苦笑しながら答えを教えてくれた。
「実戦を潜り抜けたことで得られた経験、練度だよ。演習ばかり頼んでしまっている大和より、
限定海域なんかで大活躍の川内は練度も最大だからね。たぶん、全員に聞いてもキミを推挙すると思うよ」
「そ、そうなの?」
まあ、そうまで言われちゃ悪い気はしない。私も観艦式なんて初めてだし、気楽にやらせてもらおうかな?
「成功したら、俺にできる範囲でなんでもしてあげるからさ、頼むよ」
…訂正、全力で頑張らなきゃ!
「それで観艦式の旗艦を務めることになったんですね」
「すっごいよ川内ちゃん!!観艦式だよ観艦式!」
川内型に与えられた部屋。
その日の夜、みんな揃ったところで昼間の話をすると二人とも自分のことみたいに喜んでくれた。
全く、いい妹を持ったもんだよ。
ひとしきりその話題で盛り上がっていると、ふいに那珂が聞いてきたんだ。
成功したらなにもらうの?
それなんだよ。そこで悩んでるんだ。
旗艦は引き受けたもののご褒美については考えさせてもらったんだよね。
そんなの急に思いつかないし。
強い装備?もう軽巡で最強の武器をもらってる
間宮チケット?遠征成功したら必ずくれる
夜戦し放題?とっても魅力的だけどさ…
「あ、悩んでるんだったら提督に直接なにかしてもらう系のことにしたらいいんじゃないかな?」
「直接…?」
提督に直接なにかをしてもらうか…そういうのいいかも!
提督と一緒に艤装のお手入れしたり
提督と一緒に買い物行ったり
提督と一緒にごはん食べたり
提督と……提督と…………っ
「おやおや~、川内ちゃんお顔が真っ赤だよ~?」
「姉さんがそんな顔するなんて初めて見ました」
「提督と一緒にナニしようと考えたのかな~?」
「姉さん…妹しかいないからといってそういうのは…」
う、うるさいっ!姉をからかうんじゃないよこの子たちは
提督と色々するって考えたら、なんかしらないけど顔が熱くなっちゃうんだよ
「まあ、それについては無事任務を成功させてから考えればいいのではないでしょうか
報酬に目がくらんで足元を掬われてはいけませんし…」
「そんなの当然、わかってるって。今から一生懸命考えて獲らぬたぬきの皮算用になっても
つまんないしね」
「…………」
あれ?なんか那珂が難しい顔してるけどどうしたんだろ?
私の視線に気づいた那珂が慌てて手をバタバタと振ってから、こう宣った。
「川内ちゃんがことわざ知ってるなんて意外だなって思って…」
那珂、あんたお団子ぐりぐりの刑ね
それからしばらくの間、観艦式特別編成艦隊は本番に向け訓練を行った。
海外艦の子たちに日本の観艦式を披露するということで、メンバーの士気は高かった。
観艦式特別編成艦隊のメンバーは以下の通りだ。
まず、旗艦であり観閲艦となるのが軽巡、川内。
観閲艦隊の先導艦に神通、後続となる供奉艦に那珂、球磨、そして駆逐艦、皐月と江風だ。
艦隊メンバーは川内本人の希望と立候補。
5,500t級軽巡の一番艦として随伴したいと申し出があった球磨が、川内型姉妹の後ろに位置する
配置となっている。
観艦式という点だけ考えれば威容さが足りないかもしれないが、川内が旗艦であることを考えれば
大型艦を配置するわけにもいかずこの編成となった。
それでも鎮守府の誰からも異論がでないあたり、川内の実力と人望の賜物であろう。
そして、観艦式当日を迎える
昨日の夜、最後の訓練を終えた私たちの前にやってきた提督は、労いの言葉と一緒にこんなことを言ってた。
『明日はちょっとゲストも来るけど、気にしないで訓練通りにやってくれればいいから頑張ってね!』
たしかに聞いた。
それを踏まえて、状況を整理しよう。
待機場所である大型テントからそっと首だけだして外を見る。
まずは海側…っていうか海上。
訓練では絶対にいなかった、ウチの鎮守府所属のほぼ全ての艦娘が整列している。
パッと見だけど大型艦は艦種ごと、軽巡以下は水雷戦隊単位にみえる。
その全員が直立不動で整列している姿はなかなか壮観なんだけどさ…
続いて陸側、広場になっている方を見る。
これから私が行く登壇台があり、正面には先導してくれる神通、その後ろに残りのメンバーが
横一列になって待機してる。ここまではいいんだ。
問題はその後ろ。
特別艦隊の後ろにいる、どう見ても200人くらいいる大勢の人たちはいったいどういうことなのさ!
多分、昨日言ってたゲストってことなんだろうけど絶対ちょっとじゃないし!
しかもほとんどがヨーロッパ系な顔だちってことはドイツとかイタリアの軍人さんてことじゃん!
なんにも聞いてないよ!!
…なんて、当日になって言っても仕方ないか。
張本人である提督はもう放送テントに行ってるから文句も言えないし…終わったら問い詰めてやるんだから!
そんなことを考えていたらスピーカーからわずかなノイズが聞こえてくる。提督がマイクのスイッチを入れたんだ。
とりあえず、まずは目の前の状況を確実にクリアしてしまおう。
『本日は、第二回観艦式にご来場いただきありがとうございます。ただ今より観艦式を挙行いたします。
観閲艦、登壇!』
提督の声に合わせて、私も登壇台へ向かう。せいぜい20メートルほどなのに刺さる視線が半端じゃない!
大体400人くらいに見られてるわけだしね…でもダメだ、意識したら緊張しちゃうし
深く考えないでいつも通りにやろう。
台に上ると、少し低い位置にいる神通と目線があう。
こっちの緊張を見てとったのかな?目だけで笑ってくれた。
…ありがとね神通。おかげでちょっと楽に『栄誉礼!』
刹那、神通の目が恐ろしいほどの殺気を帯びて私を睨み付ける。
事前に聞かされてたとはいえ、不意打ちだとちょっとビビるよ…
『栄誉礼では、礼を送る側が「視線だけでも相手を沈められる」と意図を込めて観閲艦をにらみつけます
往時、我が国最強を誇った第二水雷戦隊旗艦、神通の眼光を、旗艦である川内はどのような思いで
受け止めるのでしょうか』
…テートク、ノリノリでアドリブ振らないでほしいな……
まあ、どんな思いかって言われれば…
こんな頼もしい妹を持って幸せだけど、まだまだ妹には負けないよ!
私が浮かべた不敵な笑みに観客が静かにざわめく。
こんな気持ちになったの久しぶりだもん!
ほんの数十秒だけど、夜戦よりワクワクしたよ
観艦式自体は基本的にあっさりとしている。
整列した受閲艦隊の前を、観閲艦隊が微速で航過するだけなのだ。
ただそれでも、歴戦の戦艦や空母部隊の前を航過するにはそれなりの時間をかける。
演出の都合といえばそれまでだが、そもそも栄誉礼で観客の方を向いていた時点で
演出過剰なくらいなのだ。このくらい些細なものだろう。
長門型戦艦や航空母艦赤城といった錚々たる面子の前をゆっくりと通り過ぎる川内もさすがに緊張の面持ちだったが
優秀な先導艦と供奉艦に囲まれて航行する姿は実に堂々としていた。
そして観閲艦隊が受閲艦隊最後列・・・つまり海外艦の前を通過しきったとき、再び提督のアナウンスが入った。
『これにて、わが国における観艦式の全ての演目は終了となりますが、当鎮守府所属のドイツ艦、ならびに
イタリア艦たちの希望で、来場の方々に艦隊運動をご覧頂きたいと思います。
艦隊の準備が整うまでの間、しばし私の話を聞いていただけたらと思います』
『・・・聞いていただけたらと思います』
ん?そんな内容聞いてないけど・・・なんだろ
この後はこの艦隊を中心にした艦隊運動して終わりのはずじゃないの?
まあ、その時間で他の艦が移動できるからいいんだけどさ。
私たちは移動もないし、ゆっくり聞かせてもらおうかな
我が鎮守府が開設されて2年が過ぎました。初期艦である吹雪しかいなかった我が鎮守府も、
今では180余隻の艦娘が集う大規模な物になりました。
今回観艦式を挙行したのは海外から来てくれた艦娘たちからのリクエストに応えたものであります。
それに先立ち、臨時編成の観艦式特別艦隊を編成することとなりました。
通常であれば大型艦を選定するのでしょうが、私があえて軽巡洋艦である川内を選定したのにはいくつか
理由があります。
まず一つは、彼女が軽巡として初めて着任してくれた艦娘であるということ。
弱小であった我が鎮守府は彼女の着任を以て水雷戦隊を編成することができたのです。
次に、彼女の練度が我が鎮守府最大であること。
艦隊演習において、彼女の艦隊は戦艦長門率いる艦隊を相手に勝利を収めるほどのツワモノ。
彼女を推薦した際、所属する誰からも異論が出なかった実力者なのです
そして、最後になりますが、本日10月30日は軽巡洋艦川内の進水日、いわば誕生日にあたります。
最大の戦果をあげ、最高の練度を誇る・・・最愛の女性の晴れ姿を皆さまとともに見たかったというのが、
艦隊旗艦任命の……ひいては、観艦式を挙行した理由であります。
…最愛とは申しましたが、彼女とは恋仲でもなんでもなく、ただ自分が一方的に恋慕の情を抱いているだけの
有様です。それでも、彼女と歩んできた2年間を振り返ったとき、この先も共に歩んで生きたいと強く願い、
来賓の方々を前に恐縮ではありますが我が本懐を遂げさせていただきます。
川内、私は君を愛している
この身が朽ち果てるまで、君と共にありたい
以上で、私の申し上げたいことは終わりであります。
『…申し上げたいことは終わりであります』
「うっひゃ~、こんな大観衆の前で公開プロポーズたぁ~、提督もやるもんだね!」
「ボク、すっごくドキドキしちゃったよ!あんな告白されてみたいなぁ・・・」
「ちょっと芝居がかってた気もするクマ。でも、これだけの人の前で告白した
提督の覚悟はしっかりと伝わってきたクマ」
…………(ぷるぷる)
「あ、那珂ちゃん。姉さんが顔を真っ赤にして震えてますよ?」
「ホントだねぇ~。嬉しかったのか恥ずかしかったのか怒ってるのか…もしくは全部?」
那珂……大正解だよ………!
ていうか……もう…………っ!
「川内」
なによ球磨姉…っ!?
「川内。提督は、あれだけ大勢の前で男を見せたんだクマ。受け入れるにしろ断るにしろ、
ちゃんと応えてあげるのがいい女クマ」
「そうそう、川内ちゃんが提督をどう思ってるかハッキリ言っちゃって!」
「姉さん、島風ちゃんがマイク持ってきてくれましたから、これでどうぞ」
みんな……ありがとう
少し、落ち着いたかな
「頑張ってね、川内さん!」
「提督にガツンと言ってやってくれよ!」
うん、頑張るよ!
まず、いきなりこんな大舞台を私利私欲で作らない!
下手したら軍法会議モノでしょ!?
それに、こんなに大勢の前で……プロポーズなんて恥ずかしいし……
私だって提督に言いたいことの一つや二つあるんだからちゃんと聞いてね
私がこの鎮守府に着任したとき、提督はすごく喜んでくれて、そのまま間宮さんに連れてってくれたよね?
この体になって初めて、アイスを食べさせてもらって・・・すごく美味しかった。
そのまま早々に私たち三人を一緒にしてくれて、私たちは姉妹が揃ったときも自分のことみたいに喜んでくれたでしょ?
あの時は私も泣きそうなくらい嬉しかったんだ
改二改装したときはウチで一番いい装備を私に使わせてくれし、
それで調子乗って大破した私を本気で叱ってくれた。
君は兵器じゃなく、一人の女性なんだから絶対に無茶しないでくれって……艦娘は兵器なんだよ?
それなのに、本当に大事にしてくれて・・・
休みの日に私を連れて街に買い物にも行ってくれたし、眺めがいいからお気に入りだって言ってた場所も
教えてくれた。
この体で生まれた私を提督は大事にしてくれて……私も、提督のことが大切になってったんだ。
だから……そう………
提督……私と、一緒になってください
私と一緒に静かな海を取り戻して、いつまでも、一緒にいてください!
その後のことは、正直あんまり覚えてないんだ。
物凄い歓声があがって、戦艦のみんなが祝砲を撃ってたのはなんとなく覚えてるんだけど…
みんながくれたお祝いの言葉にもなんて返したのかおぼろげなんだよね
ただ、その後のパーティーでは……恥ずかしくて提督の顔が見れなかったかな
でも、提督も同じだったでしょ?、真っ赤だったし
まあ、あれだけ派手なことやったんだし、一気に鎮守府全体の公認夫婦になれたのは…まあ、嬉しかったかな
提督のことが大好きだった金剛さんとか潜水艦の伊19、軽空母の千歳さんとかは潰れるまで呑んだらしいけど…
あと、神通かな。
あの子も提督のこと、好きだったらしいんだよね。
神通は優しいから祝ってくれたけど目が赤くなってたからね
途中で那珂が連れ出してくれなかったら…
でも、私もこればっかりは譲れないんだ。
あそこで提督が言ってくれなかったら…一番強いライバルになってたかも
あ、ううん。提督の気持ちを疑ってる訳じゃないよ。
まだ、実感がわかないだけ……え?……んっ…………
……不意打ちはズルイんじゃないかな?
うん、信じるよ。
だって、私が大好きになった人だもん!
て、もうこんな時間じゃん!
せっかく…ふ、夫婦になれたんだしさ。
今夜は一緒に夜戦、しよっ!
やりたいように書いてみた結果こうなってしまいました。
後悔はしていない。
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