あなたのことが
これは、私の中では罪。
ゆびをきってしまった、私の────
初グリモアワンドロですね!
お久しぶりです…
差し伸べられた手を取ってしまった。
手を差し伸べさせてしまった。
気付くことができなかった。
守ることができなかった。
守られることしかできなかった。
これが、私の罪。
私は、私は。
貴女のことを。貴女のことが。
空洞を叩く鈍いノックの音は、静かなこの部屋によく響く。そして、透き通った女性の声は、少女の心に響く。
「楠木、入るぞ」
ギギィッ、と。魔女の笑うような音で、扉が開かれた。黒髪の女性と、薄浅葱色の髪をした少女の目が合う。しかし、それは薄浅葱色の少女が伏せたせいで終わってしまった。それでも、たった一瞬、瞳を合わせただけで黒髪の女性は気付いてくれる。
「…泣いて、いるのか…?」
少女の瞳に溜まる雫を。それは消えてしまいそうなほど透き通っていた。まるで、今の彼女のように。
黒髪の女性は、扉を閉める。廊下から差し込 む光だけがこの部屋の明かりだったが、それも消えるから、部屋は暗くなる。何も見えない、ただの闇。2人がいるという事実も、シュレディンガーの猫のように、わからなくなる。
ここで、幽かな嗚咽が漏れだした。子猫が縋るそれは、薄浅葱色の少女のもの。
黒髪の女性は、すぐに駆けつけようと電気スイッチを探す。が、今部屋が明るくなるのは、彼女に酷だ。だから豆電球のちいさな明かりだけをつけた。
部屋がほんのり明るくなる。暖かいオレンジの光が、今だけは恨めしい。でも、ベットまでのルートは照らされた。途中、慣れず机に足をぶつけたが、女性にとってそんなことどうでもよかった。
だって、今はもう、少女が目の前にいるから。
少女は顔を上げない。重力に吸い寄せられ、涙が落ちる。嗚咽も比例して漏れる。そんな少女を気にせず、女性は口を開く。少女を気にかけて。
「楠木。約束するよ。私が楠木を、守ると。」
少女は、そのまま。女性も、そのまま。
「…指切り、しようか。ほら、手を出してくれ」
女性が少女の手をとろうとするが、間隔がとれずすかす。それがまた、少女の心を締め付ける。そして、ついに。少女は我慢出来ず、吐き出すように…絞り出すように。
「…どぅ、して…ぇすか…?ぁんで…かんなぎ、さん…ぁ。」
女性の目が細まる。
「かんなぎ、さんは…」
「もぅ…かためが…みぇ…ぁぃ、の…に…!」
少女が、顔をあげて、目を合わせてそう言う。しかし合う瞳は、片方だけ。片方は、真っ黒な眼帯に覆われている。
「…そう、だな」
女性は、そう呟きながら、今度はしっかりと少女の手を掴んだ。
「確かに私は、もう片目が見えない」
なら、と、少女が口開く暇もなく、女性は次の言葉を綴った。
「でも、な。楠木から見たらただの、綺麗事に聞こえてしまうかもしれないが…私にとってそんなことどうでもいいんだ。あともう一つ、私には目が残っている。ちゃんと楠木達を、現実を、やつらを…見ることが出来る。それに…」
やつらを、の言葉を強調して、顔を顰めながら綴る。
「私は…この目で夢を見ることができる。皆を守る、という大きくて無謀な夢だ。だから、私は楠木のことも守る。この目で、平和な世界を見るまで、私は死なないよ」
ぎゅっと、少女の手を握る力を強くする。そして、もう1度。
「楠木。指切りしよう。私が楠木を守ると、そんな約束」
顔をあげた少女を、女性は真っ直ぐ見つめる。少女はまた泣いてしまいそうだ。でも、それでも。
「…ぅそ…ついちゃ…め、です…ょ…?」
女性は微笑む。
「あぁ。ずっと、好み滅びるまで皆を、楠木を、守るよ」
ゆーびきーりげーんまん、うそついたら…はりせんぼんのーます、ゆびきった。
────これが、私の罪だ。
燦々たる太陽の下で、ありすと怜は御弁当を食べていた。ついでに、クレプリも。
「ふぅ…平和、だなぁ」
「…ぁい」
水筒の茶を啜りながらつぶやく怜。ふと、怜はこう呟く。
「なぁ、楠木。指切りしようか」
「ふぇ?」
「こんな平和な日が続くように、私が楠木を守る約束だ」
うーん、と、ありすは唸る。そして、首を横に振り
「だめ、ぇす」
と。怜は驚いたように聞く。
「それは…どうしてだ?」
ありすは、顔を逸らしながら、怜に顔が赤くなっているのがばれないように、それに答えた。
「ゎた、し…だけ、じゃなぃ…ぇす。わたし、ぁ…かんなぎさ、ん…まもり、ぁす…!」
クレプリが、にしし、と笑う。怜は、顔を少しずつ赤らめて、「ならそうしよう」とゆびを差し出した。
ありすが、それに指を絡ませる。
ゆーびきーりげーんまん、うそついたら…はりせんぼんのーます、ゆびきった。
もう1人の私へ。
私の過去は、もう白くできないから。どうかあなたはこうならないで。気付いて、手を差し伸べて、守って。
あの人が、好きならば。
「かんなぎ、ぁん」
「なんだ?」
「ぇっ…と…その…ぁぃ、すき…えすょ」
「!そ、そうか…私もだ」
私の大切なあなた。
わたしは、わたしは。
あなたのことが大好きです。
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