2014-07-31 00:19:56 更新

07話


「計佑がっ、こんなに早く約束叶えてくれるなんて思わなかったよ!!」

夏休みに入って数日。

計佑はまくらを連れて駅へと向かっていた。

終業式の日に話が決まった、白井先輩の実家に行くためだ。

「いいかまくら。特に電車の中では大人しくしとけよ?」

「わかってるってばー!!」

ふわふわと飛び跳ねながら答えるまくらにまた不安が湧いてくる。

遊びに連れていく約束はしたが、友人たちも一緒になんて考えてはいなかった。

赤の他人になら、多少ヘンな事を見られても逃げてしまえばそれで済む。

しかし茂武市や硝子に『モノを触れる』霊まくらの不思議現象を見られたら──逃げてごまかせるものではない。


──とはいってもこんな状態のコイツを、何日もほっとくなんて訳にはいかないもんな……


予定では、二泊はする事になっている。

そんなに長い間、寂しがりのまくらを一人きりには出来なかった。


「……お前の事を調べにいくのが一番の目的なんだぞ? あんまりハシャギすぎんじゃねーぞ」

もう一度念を押すが、まくらは「はいはーい」と軽い返事を返してくるだけだ。

ため息でもつきたくなってきたが、一方でほっとしているのも確かだった。


──なんだかんだで凹んでたもんな、まくら。コイツがこんなにゴキゲンなのは霊になってからは初めてだし。

白井先輩にはホント感謝しないとな……


……後ですぐにまくらが落ち込むなんて事は、この時の計佑には思いもよらない事だった。


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待ち合わせ場所にはもう全員がそろっていた。

そこで皆と顔を合わせた計佑とまくらは、しばらく呆然としてしまった。

……二人共に、同じ人物のことを見つめて。

ただし、計佑とまくらではその理由は全く違うものだったけれど。

その相手、雪姫が皆に指示を出している──

「みんな! 切符もった? 忘れ物ない?

他の人の迷惑になるから、無闇に奇声を発したりしちゃ駄目よ? カリナ」

「アタシかーい」

──途中からは、カリナ限定の指示になっていたけれど。

ぼーっと雪姫に見とれていた計佑に、雪姫が歩み寄ってきた。

「……楽しみにしてたよ。迷子になっちゃダメだよ?」

「……あ。はい……」

なんだかちょっと近すぎる気がする距離に、顔を赤くしながら頷く計佑だった。


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<b>「わーーーーっ!!」</b>

意外なことに、車内で一番はしゃいでいたのは硝子だった。

うろついたり、写真をとりまくったりしている。

カリナと茂武市はカードゲームに興じていて、雪姫は疲れているのか眠っているようだった。

そんな中、まくらは床に座り込んでいた。

計佑の隣は空いていて、そこなら雪姫の真正面にもなるのだが……

「……なんかお前さ、急に機嫌悪くなってねぇか?」

「……別に」

計佑が差し出したスナック菓子に直接かぶりつくまくら。


──こいつ白井先輩に憧れてたよな……? せっかくその先輩がいるってのに一体どうした……?


てっきりきゃいきゃい喜ぶだろうと思っていたのに。

驚かせてやろうと思って、白井先輩の話などは隠していたのだけれど。

まくらの頭に手をおいて、わしゃわしゃとかき混ぜてやっても無反応。

いつものまくらなら、これをやるとギャーギャーと喚き出すのが常なのだが、

さっきまでご機嫌だったまくらの急変に、どうしたものかと悩んでいると、

「目覚くーん、この風景まくらにも写メしてあげようよー」

「え……あー、うん頼むよー」


──まあそんな必要はないんだけど……まくらも直接見れるんで。


勿論そんなことは口に出せないけれど、

委員長の気遣いを聞いても、まくらは特にリアクションを起こさない。


──こりゃ本格的に機嫌わるいなー……?

ちょっと場所を移して、ちゃんと話したほうがいいかもしれない。


そう考えたところで突然、計佑の荷物から着メロが流れだした。

そのメロディは当然計佑にも覚えがある。

──とはいっても計佑のケータイのものではなくて……


──まさかっ!?


「……あれ? その着メロまくらと一緒じゃない?」

タイミングのよさがひっかかったのか、硝子が近づいてきた。

<b>「そっそんなワケねーよ!! ……ちょっとトイレ行ってくる!!」</b>

慌てて大声を出してしまったせいで、向かいの雪姫が目を覚ました。

しかし余裕のない計佑は謝罪もそこそこに、バッグとまくらをひっぱって席を離れた。


───ピシャン!


貫通扉を閉め、貫通路にしゃがみこんでバッグをあらためる。

「このバカっ!! いつのまにケータイなんか放りこんでやがったっ!!」

「あああ!! ちょっと! 勝手に人のバッグ開けないでよっ!!」

「これは俺のバッグだろーが!!」

絡み付いてくるまくらを無視して中身を確認すると、


──ぶっ!!??


水着がでてきた──女物の。

つまみあげた計佑に、

「さわるなーっ!!」

まくらが首を絞めてくるが、計佑も黙ってはいられない。

「オマエ……せめて前もって──」

そこで貫通扉が開く音が聞こえて、はっとして振り返る。

「どうしたの?」

そこにいたのは雪姫だった。

「なっ何でもありません!!」

慌ててズボンのポケットに水着をつっこんだが、

「……ん?」

そんな不審な行動を、見逃してくれる雪姫ではなかった。

「……今なにか隠さなかった?」

ジト目になった雪姫が尋ねてくる。

「いえいえ別に……!?」

ブンブン首を振るしかない計佑だが、

「私の水着とるなよ!!」

まくらが絡み付いて、ポケットに手を伸ばしてくる。


──ふざけんなっっ!!! 今ここで女物の水着なんかポケットから出てきたら……!?


「ちょっと大人しくしてろっ」

雪姫の前だが、流石に無視できず小声でまくらの耳元に叱りつける。

そんな怪しげな行動にますます訝しげな雪姫。

「…………」

無言で、すっと近づいてくる。

ギクリとするも、ヒュッと伸びてくる雪姫の手が、

あっと思う間もなく水着を突っ込んだポケットのほうに──


──おあああああぁ!!??


ポケットに手をかけられたところで、ギリギリその手をつかまえた。

至近距離で見つめ合い──雪姫の顔がニヤリとする。

「んー? 何も隠してないにしては随分な反応だねー?」

何度も見惚れてしまった美貌が至近距離にあるが、今の計佑は焦りからのドキドキしか感じない。


──先輩にばれたら……っ!!


「えいっ!」

雪姫が反対の手まで使ってポケットの中身をさぐりにきた。


──!!!!


<b>「やめてくださいっ!!!」</b>

思わず本気で怒鳴ってしまっていた。空気が一瞬で凍り付く。

「……あ」

我に返る。

雪姫も目を見開いていて、

「……ご、ごめんなさい……」

そして、急に悄然としてしまった。

俯いて、計佑から離れる。なんだか身体が小さくなったかのように、縮こまってもいる。

「……本当にごめんね? ちょっと無神経だったね……」

俯いたまま、計佑と視線を合わせようとしない。

公園でも一瞬見た、悲しそうな表情。

あの時はなんでそんな顔をするのかよくわからなかったが、今は間違いなく自分のせいなんだ──

そう思ったらいてもたってもいられずに、ポケットから水着を引っ張りだして雪姫の前に差し出していた。

「すいませんっ!! これを見られるのはどうしても恥ずかしかったからっ……」

「……え?」

「なんか間違って妹みたいなやつの荷物が紛れ込んでてっ……あのっ、こんなの見られたらそのっ……」

──変態とか思われるだろうから……という言葉は流石に続けられなかった。


──にしたって、怒鳴ってまで隠そうとするなんて。なんで俺……


委員長や森野先輩が相手だったとしても、勿論隠そうとはしただろう。

でも、なんで白井先輩だとここまで極端に抵抗があったのか……自分の事なのに分からなかった。

「……ぷっ……」

「……え?」

恥ずかしさで俯けていた熱い顔を上げると、雪姫が笑っていた。

「……それだけなの? 荷物を間違うくらい普通なことじゃない」

笑顔で雪姫が続けてくれる。

その笑顔に、計佑は、顔がさっきとは何か違う理由で熱くなるのを感じた。

軽蔑されるのも覚悟していたのに、そんな風に笑ってもらえたりしたら──

「ほら! 早く戻ろっ!!」

雪姫が手を握ってくる。また一段と熱が上がる気がした。

「みんなでUNOやるんだって」


手を引かれるままに戻っていく少年。

──まくらの機嫌のことなど、すっかり忘れてしまったままで。


─────────────────────────────────


──本当によかった……怒らせたんじゃなくて。


せっかく計佑の向かいに座っていたのに、疲れからかいつの間にか眠ってしまっていた。

──男のコの目の前で眠っていられるというのも、彼相手だったからかもしれないけれど。

それでも、彼と色んな話をしてみたかった雪姫としては悔しいことだった。

別にそれを取り戻そうとした訳ではないけれど、

また彼をからかえるチャンスかと思っての今のやり取りだったのだが……正直、本当にびっくりした。

計佑に本気で拒絶された──そのショックは意外なほど大きくて。

もし彼がすぐにネタバラシをしてくれなかったら、涙まで零していたかもしれない。

だから彼が訳を打ち明けてくれた時には、心底ほっとした。


──でもそんなに恥ずかしいものかな? 服を間違えるくらい……


自分も結構うっかりなところがあるので、そんな風に考えてしまう。


──もしかして、変態とかとそういう事思われそうとか考えたのかな……?


しかし、雪姫は計佑がそんな類の人間だとは全く思っていなかった。

結構色々とやらかされてしまってはいるが、

彼が下心からやってきている訳じゃないのはわかるからだ。

いやらしい目でジロジロ見てきたり、言い寄ってくる人たちとは確かに違う──そう信じられる人だ。

(それに彼になら、今までそういう事をされてきてもイヤだと感じた事もない)

だから妹だかの水着がまぎれてしまったというのも、全く疑ってはいなかった。


──それにしても。


先ほどの、水着をつきだしてプルプル震えていた少年の姿を思い出して。


──やっぱりカワイイなぁ……


時々大胆な迫り方? をしてくる時には大いに焦らされてしまうのだけど、

狼狽えている時の姿は一転、とても可愛らしい。

そんな姿を見たから、今も安心して計佑の手を握ることが出来たのだった。


─────────────────────────────────


「じゃーん!着いたぞーっ!!」

ドカンと広い屋敷を前に、カリナの元気な声が通る。

「どーだお前らっ! 圧巻のデカさだろうがっ!!」

「貴方の家じゃないのに自慢しないで……?」

雪姫が苦笑して窘めたがが、勿論カリナは聞いていない。

「おおー……マ、マジでけー……」

茂武市はポカンと、硝子が『ほわー』と感激顔を晒している。

ヒャッホーと駆けていくカリナに、

雪姫は「荷物は奥の座敷にねー!」と声をかけたが、多分また聞いていないだろう。


「代々医者の家系らしーぞ、白井先輩」

茂武市が、同じくポカンとしてた計佑に話しかけた。

「本人はTVCMに出ていて、女優へのウワサもある……」

「……住む世界が違うってやつだな」

答える計佑の声はちょっと沈んでいるのだが、本人にはその自覚はなかった。

「いやしかしな計佑……」

意味深に言葉を区切って、茂武市が計佑に耳打ちするように続けた。

「白井先輩ってもしかしてお前のこと好きなんじゃね?」

<b>「はぁっ!?」</b>

思ってもみない内容に思わず大声を出してしまう。

「さっき電車の中で思ってたけどさ……なんか態度がオレの時とは全然違うだろ?

そもそもオマエの事は先輩自身が旅行に誘ったくらいだし。これはもうそうとしか思えなくなってきたんだが……」

「バッ……バカ言え!! んなことあるワケねーよ!!」

一瞬落ち込んだ気持ちは吹き飛び、なんだか気分が高揚するのを感じるが、それでも否定はしてしまう。

「そうかなぁ……うーん」

頭を捻る茂武市をよそに、


──たしかに茂武市よりは距離感近い気はするけど……そんなの、

オレのほうが先に先輩と知り合ってるからってだけの話だろう。

なんか親しげにしてくれるのだって、大抵はからかってくるコトばっかりだし……


計佑にしてみれば、あれだけキレイな人が自分になんて……という思いがあるし、

やたらとからかうような態度ばかりとられる事もあって、とても茂武市が言うようには思えなかった。

……なんとも思ってない相手を、からかう為だけにあんなに近づいてくる訳はないのだが

鈍い少年には、それはちょっと気付けない事だった。

──まあ、そんな女心の機微がわかるほど『慣れた』男だったら

雪姫が好感を覚えるようなことはなかった訳で、これはもう良し悪しというしかないのかもしれない。


─────────────────────────────────


「泳ぐぞ~~~ッ!!!」

カリナが硝子をひきずるように海へと走っていく。

茂武市も一緒で、三人とも水着姿だった。


それを尻目に、計佑は未だ着替えずにキョロキョロしていた。

「どこいったんだまくらは……」

屋敷に着いてからまくらを見かけなかった。

そして今ようやく、ぽつんと大木のそばに座り込んでいるまくらを見つけて、

「あ! いたいた。おー──」

「あら? 着替えないの?」

まくらに呼びかけようとしたのを遮ったのは、水着姿の雪姫だった。

「みんな、もう行ってるよ?」


──う……うお……!!


雪姫の水着姿に思わず見惚れてしまう。

二度ほど触れてしまったせいでよくわかっていた事だが……

……やっぱり雪姫の胸はすごいボリュームだった。目線は特にそこへといってしまう。

ふと、茂武市の言葉が思い出される。


──『先輩ってもしかしてお前のこと好きなんじゃね?』


「いやっ、おっ俺は遊ばなくてもいいかな……って。

それよりも、この前の写真の事とか詳しく聞きたいんですけど……」


──なに意識してんだよ俺……

こんな先輩が、俺のコトなんて好きなわけないじゃんっ……!!


熱い顔で、必死に今浮かんだ考えを否定する。

「えー? そういう話は夜でもできるでしょ? 今はとりあえず遊ぼうよ」

雪姫がにこりと笑うと、前かがみになって下から計佑を見上げてきた。

すごい谷間に思わず目が引きつけられる。

「ねっ行こ?」

思わず頷きそうになったが、

<b>「何見とれてんだよいやらしいっ!!」</b>

いつの間にかまくらがそばに来ていた。


──うおおお!! いつの間にっ、てか、なんだよいきなり!?


人がいる所でまくらと会話をする訳にはいかない。

とりあえず一人になるためにも、雪姫へと返事をする。

「わっわかりました、俺も着替えてすぐに行きますから。先に行ってください」

「ん、わかった。待ってるからねー!」

手を大きく振ってから、駆けていく雪姫。

計佑も手を振り返したが、まくらからのプレッシャーになんだか冷や汗が流れていた──


─────────────────────────────────


──ふしぎ。他の男の人に見られる時には、すごくイヤだったのに……


雪姫はご機嫌だった。今のやり取りの中での、計佑の視線が気持ちよかった。

少年が自分(の身体の特に一部だけど)に夢中になってくれるのが恥ずかしくも嬉しくて、

調子に乗って見せつけるようにすら振る舞ってしまった。

ぶくぶくと膨れ上がってしまった胸。

重いし、男の視線は集めるしで嫌悪感ばかりが募ってたそれが、今日初めて少し好きになれた。


─────────────────────────────────


計佑はまくらを連れ立って、屋敷のほうへ向かっていた。

──なんだかいたたまれなくて、黙り込んだまま。

「……さっきどこ見てたの計佑。

計佑とは随分一緒にいたけど、あんな情けない顔初めて見たよ……なんか気持ち悪い」

カチンときた。

……図星だろうだけに、尚更だった。

<b>「悪かったな、気持ち悪くてっ!! どーせ元からそーゆー顔なんだろーよ!!」</b>

もう逆切れしてみせるしかなかった。

「何だよいきなりつっかかって来て……オマエには関係ないだろっ!!」

<b>「かっ……」</b>

一瞬まくらが大きな声で反論してきそうになったが、

「……そうだね関係ないかも。計佑と先輩の話なんだから、私がどうこう言うコトじゃないよね……」

「……あ、いやその……」

急に萎れてしまうまくらに、逆切れしてみせた計佑も申し訳なくなった。

「……多分、せっかく海に遊びに来たのに水着も着れないのが面白くなかったんだと思う。

……八つ当たりしちゃってごめん」

今のまくらが水着に着替えてしまうと、計佑以外には水着だけが宙を動きまわってる様に見えてしまう。

だから確かにまくらを着替えさせる訳にはいかないのだが──

沈むまくらを見ていられなくて、あまり考えずにとりあえず口を開こうとして、

──パッ──

突然、まくらが水着姿になった。


──へ……?いきなり……何……?


しばし呆然として二人だったが、やがて感極まったらしいまくらが飛びはねた。

「やった~~~っっ!!! 何だかわかんないけどやったーーーっ!!」

まだ呆然としたままだった計佑に、女中さんらしき女性が声をかけてきた。

「どうされました? 皆さんもう海に行かれたと思いますが……」


──ヤバイ!! 前みたいに服だけが浮いて見えるんじゃ……!?


咄嗟に立ち位置を変えてまくらと女性の間に割り入るが、

慌てて一歩だけ動いた計佑を、女性は不思議そうに見つめてくるだけだ。


──アレ……? 見えてない……のか?


今度はそっと身体をずらしてみるが、やはり特に女性からのリアクションはない。


「あっ、すいません何でもないんです。忘れ物とったら、またすぐに俺も行きますので……」

「さようでございますか。……それでは失礼致します」

お辞儀をして去っていく女性。

ほっとため息をつく計佑だったが、


──なんだよホント……都合良すぎんじゃないのか、この幽霊状態って……


あらためてまくらの状態に疑問を抱くのだった。


─────────────────────────────────


その後。

計佑も水着に着替え、皆と海で遊んでいた。

出来るだけまくらと一緒にいるようにして──

そして夕方になる今は、まくらと二人きりで砂の城など作っていた。

「誰かが私の願い叶えてくれたのかもね。

──例えば、私をこんな風にしちゃった原因の誰かがいて、せめてものお詫びにー……とかさ」

まくらが水着現象について、そんなお人好しな発言をしている。

「けーすけ……ごめんね。今日の私ちょっと態度悪かったかも……

せっかく遊びに連れてきてくれたのに、変にすねちゃってさ」

そんな風に謝ってくるまくらは、夕日のせいなのかいつもより小さく見える気がした。


──やっぱりコイツ、この状態に弱ってるんだよな……

わかってるつもりなのに、つい俺はいつもみたいにしちまうけど。今は俺がちゃんと支えてやらなきゃ……


改めてまくらの心配をしていると、

「ねえ計佑……先輩のこと……わたし応援してあげよっか?」

<i>「はっハァ!?」</i>

まくらからの思いがけないセリフが飛んできて。つい声が裏返った。

「まあ……今の私に出来ることはあんまりないんだろうけどねー。

でもさっ、女心のアドバイスくらいはしてあげられるヨ」

しなをつくって、『大人のワタシが世話してあげるワ』みたいなわざとらしい笑顔でおどけてくるまくら。

「なっ何言ってんだよ……俺は別に先輩の事なんて──」

──その先は続けられなかった。

何とも思ってない……とは言い切れなかったからだ。

正直とても気になる人なのは確かだった。

でもそれじゃあ、恋人同士になりたいとかそんな風に考えてるのか? というと、それも違うような気もして。

改めて考えてみると、雪姫の存在が自分の中で随分大きくなってる事には気づいたが、

でもそれがどういう意味なのかは、考えても答えが出せなかった。

「お、俺は……」

それでも今、まくらの前で黙りこんでしまうのにも何故か抵抗があって、何かしら口にしようとしたが、

「さみしーなぁ、ひとりで砂遊びなんて」

たった今考えていた人からの声に、バッと振り返った。

……振り返ってしまった計佑には、その瞬間のまくらの表情は見えなかった。

「私も一緒に遊ぼっかな」

雪姫がすぐそこまで来ていた。

未だ見慣れない先輩の水着姿に、また計佑の顔が赤くなっていく。

たちまち余裕がなくなっていく計佑には、

ついさっきまくらに感じた抵抗も忘れて、やはり雪姫に見とれる事しか出来ないのだった。



─────────────────────────────────


&lt;7話のあとがき&gt;


水着を必死に隠す計佑くん。

この人にだけは知られたくない。なぜなら──みたいなつもりでした。

まあこの時点でも計佑には自覚はないんですけど……

あとこんなんでも、自分の中では計佑をカッコよく書いてみたつもり……だったりします。

雪姫を凹ましてしまうくらいなら、

自分の恥くらい──って思いきれるのは、やっぱりスゴイことなんじゃないかなあという。


あと、計佑の鈍感ぶりをちょっとはフォローできたんじゃないかな……?

色恋モノの典型的主人公なドンカンキングで、読んでてイライラさせられるタイプですけど、

そういうキャラなお陰で雪姫が安心して近寄れてる一面もあるってトコを明言してみました。


雪姫先輩のいたずらっこな面を追加するのが楽しいです。

以前レンジマンを薦めた事あったと思うんですが、

芸能人、仮面生活に疲れてる、主人公の前でだけ素になれる……とかの

共通点から雪姫がレンジマンの風香と被って見えたりしたんですよね。

そんなもんだから、こちらの雪姫にも反映させてみたり。

やりすぎて、あとで反省(しかもめそ泣き)がレンジマンヒロインのお約束でしたからね。


計佑にイヂワルするようなのはどんどん入れていきたいんですよね。

先輩は前半の小悪魔っぷりがあってこそ、デレてからの破壊力が凄かったですから!!

という訳で今回は電車の中でのやり取りと、

水着の披露のとこにも小悪魔ぶりを盛ることが出来ました(^^)

前かがみになるというのは、勿論先輩の計算なんで。


最初の頃は、かなり極端に計佑→まくらの気持ちを制限して改変してきましたが、

なんか少しは計佑×まくらも含められるようになってきた気がしてます。

あまりにまくらを蔑ろにしすぎてると、せっかくの計佑の魅力が削がれてしまうかもって思いますしね。


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