川内をバイクに乗せて無双させたかっただけ
川内にバイクに乗って欲しい欲と無双して欲しいという感情をぶつけました。
色々と独自の設定があるのでご了承いただけると幸いです。
一通りの買い物が終わり、さてりんごでも齧りながら帰るかと思案しながら八百屋の店先に足を踏みいれようとした矢先、酷く人工的な地響きが聞こえる。この後の展開は自ずと予想できるが、それを待たずして走り出すことにした。流し目気味に鎮守府が展開されている湾をチラリと視界に入れ、立ち込める黒煙と大空を駆ける無数の艦載機を確認しつつミリタリージャケットの左ポケットに入れてある携帯電話が跳ねて大淀の怒号が耳に突き刺さるより先に買い物袋を同行していた朝潮に放り投げる。
「朝潮、私は先に行くよ!」
「え、ちょ…私はどうすればいいのでしょうか!?」
「多分迎えに来てくれると思う!」
確か近くのブロックまで阿武隈たちが生活必需品の類を買いに来ていたはずなので、一概に嘘だとは言えまい。そんなぁ〜…と情けなく叫ぶ朝潮の声を他所にバイクを回す。今さらヘルメットなぞ付けるだけ邪魔になるだろう。いくら艦娘と言えど流石に100kmを超えるバイクから身を投げ出されたら無事とは行かないだろうが、非常事態にそんな余裕はない。
「ゲェ…」
鎮守府に続く大通りの封鎖看板を跳ね飛ばしながら爆走していると予想通り携帯電話が不気味に振動し始める。
『今すぐ帰港してください!!!!』
これもまた予想通りと言えばよいのか、出来ることならそうなって欲しくはなかったが大淀からの怒号が耳に突き刺さることとなった。
「今飛ばしてるよ!そっちに向かってる。ところでそっちは大丈夫なの?」
流石に長時間片腕で走り続けるバイクを制御するのは不可能なので手短に済ませようとする。大丈夫?と聞いて大丈夫だと返ってくるなどとは到底思っていないので無駄な会話であったと後に反省した
『第3ドック以外が潰されました。幸い鎮守府内に残っていた艦娘に被害はありませんが航空母艦組が出払っているので鳳翔さんと瑞鳳さん達が出てくれています』
「うわぁ…というかたった今敵の第二艦隊を発見したよ…出来ることなら42番ブロックの運送ルートに私の艤装出しといてくれるとありがたいんだけど…」
『はぁ…今回限りですからね。用意しておきますから早めにお願いしま…』
爆音と共に通話が途切れるが、恐らく執務室付近に着弾でもしたのだろう。仮にも鎮守府と言うだけあって重要区画の装甲は心配するほど薄くはないことは日頃から重々承知しているので追って連絡するのは無駄だと判断し、邪魔な携帯電話を走行中のバイクから放り投げるようにして処分する。
どうせロストしても惜しいデータの類などは一切入っていない。
「信じてるわよ…これでなかったら私の足が完全に無くなる…」
とはいえ不安と言えば不安だが致し方あるまい。鳳翔さんと瑞鳳が待機組の中でトップクラスの実力艦だとしても流石に続々と増える艦載機を全て捌き切れるわけではないのだから。
「…!」
峠のガードレールが不自然に一部分だけ外され、海への一本道がごとく口を開けている。射出区画のゲートが開いていることは視認した。これで手札は揃ったと言っていい。
過去何度か交換しているとはいえ一番長く乗っていた愛車を潰すのに一瞬躊躇いが生まれたのは嘘ではないが、何より自分の家をこれ以上荒らされるのは我慢ならない。
「ごめぇえええええええん」
最高速度で鎮守府の管理区画へダイブ。下手なジェットコースターよりスリリングだな、などとぼんやり考えながら束の間の浮遊感を楽しみつつ自らの愛車がスクラップされる映像をスローモーションで眺める。受け身を取り損ねて4、5回ほどコンクリートの地面を転がってようやく解放されたゲート前に辿り着く。
「さて、と。来てるね」
物資運搬用のカートに載せられた木箱を叩き割って見慣れた艤装を取り出す。マフラーを巻き、制服の上から羽織っていたボロボロのミリタリージャケットを代わりに放り込んで魚雷発射管の安全装置を素早く解除し、背中に下げて準備は完了。
軽巡洋艦 川内としての役割を果たすために海へ飛び出す。それと同時に両腕の単装砲が神経接続を完了したことを知らせるように仰角を調整し、砲身がロックされる。
海面に立つ瞬間、わずかに身体が沈み込むがすぐに反発力を感じる。腰を落とし、前傾姿勢を取ると同時に最大船速で軽母ヌ級へ一直線に突き進む。
「甘いッ…!」
護衛と思われる駆逐イ級からの魚雷を単装砲で起爆させ、返す刀でこちらも魚雷を発射。派手な爆音と共に駆逐イ級が海底へ沈み、崩れた陣形を突破して行く。
ヌ級を守るようにこちら側へ口を開けて倒れかかってくるイ級の頭部を踏み越えて無尽蔵に生み出される艦載機の放出口へ酸素魚雷を叩き込む。
「やっべ…」
再び最大船速で離れようとした次の瞬間には爆散した軽母の肉片と爆風を直で食らい、みっともなく海面を転がされることなった。
「うへぇ…一人で一艦隊相手にしたのにこの仕打ちか…」
鎮守府に攻撃を仕掛けて来た艦隊は待機していた軽空母の二人が片付けたのだろう。周囲に敵影は無い。
「結局りんご買い損ねたな…置いてった手前朝潮には頼めないしなぁ…トホホ…」
非生産的な独り言をぶつぶつと呟きながら帰路に着く。帰ったら大淀からスクラップにしたバイクと放り捨てた携帯電話について叱責されるだろうし、提督からは痛いほうのデコピンを食らうことは確定なので気が重くなる。
「何よりこの格好は嫁入り前の娘としてどうなのかね…」
青黒い体液を被り、濡れ鼠の様になった自分の全身に想いを馳せて悲しくなる。帰ったら愛車の選び直しとお風呂の時間だけを心の支えとするしかないな…
ふわっとした頭で書きました。映像にしたら2分くらいかな〜なんて考えつつ、好きな要素を詰め込んでみました。超短編なのでオチも前後もなくこれで終わりです。
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